説明

ロータリ式シリンダ装置

【課題】シャフトを中心に回転する第1クランク軸に偏芯して連繋するピストン複合体に組み付けられて直線往復運動するピストンにシリンダから作用する反力の影響を軽減することで、摩擦損失が少なく、省エネルギー化を実現した小型のロータリ式シリンダ装置を提供する。
【解決手段】シャフト4を中心に第1クランク軸5が回転し、当該第1クランク軸5を中心にピストン複合体Pが回転することで、偏心筒体6に組み付けられた第1,第2ピストン組7,8がシャフト4を中心とする転がり円の径方向に沿った直線往復運動を行うが、これをガイドするためにガイド軸受1cを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフトの回転運動とシリンダ内のピストンの直線往復運動を相互に変換可能なロータリ式シリンダ装置、より具体的には圧縮機、真空ポンプ、流体回転機、内燃機関など様々な駆動装置に適用可能なロータリ式シリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機、真空ポンプ、流体回転機などの原動機においては、クランクシャフトに連繋した揺動ピストンによるピストンの往復動で流体の吸込みと送出しを繰り返す揺動ピストン方式、固定スクロールに対して旋回スクロールを回転させて流体の吸込みと送出しを繰り返すスクロール駆動方式、ローラーの回転運動で流体の吸込みと送出しを繰り返すロータリ駆動方式(特許文献1参照)、その他スクリュー方式、ベーン方式など用途に応じた各種駆動方式が採用されている。
【0003】
中でも、シャフトとクランクピンを連結する第1アームとクランクピンとピストンを連結する第2アームとの長さを揃えることで、クランクアームの長さを1/2にしてピストンのストロークを2倍にした2ピストン4ヘッドの流体ポンプが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−190613号公報
【特許文献2】特開昭56−141079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献2の流体ポンプについて、図12及び図13に示す模式図を参照して説明する。図12に示すロータリ式シリンダ装置は、クランクシャフト51を中心に半径rの第1仮想クランクアーム52を介して回転する第1クランク軸53、第1クランク軸53を中心に半径rの第2仮想クランクアーム59を介して回転する第2仮想クランク軸54、第2仮想クランク軸54を中心に回転可能に連繋する第1ピストン組55,第2ピストン組56が4つのシリンダ57内にピストン本体55a,56aの両端に設けられたピストンヘッド部55b,56bが挿入されたまま内サイクロイドの軌跡を描いて直線往復運動するようになっている。第1ピストン組55,第2ピストン組56は、第1クランク軸53を中心に回転する偏芯スライダに各々滑合して直線往復移動するようになっている。
【0006】
上記第1ピストン組55を取り出して、構造原理を等価的に置き換えたのが図13である。クランクシャフト51の回転に伴って第1仮想クランクアーム52を介して第1クランク軸53が回転し、第1クランク軸53を中心として第2クランクアーム59を介して第2仮想クランク軸54が回転して、第1ピストン組55が内サイクロイドの軌跡を描いて直線往復運動する。図13は、クランクシャフト51を中心に360度回転する第1仮想クランクアーム52と第1クランク軸53を中心に360度回転する第2仮想クランクアーム59が、第1ピストン組55のピストン本体55aに対して各々45°に交差した状態を例示している。
【0007】
このとき、第1ピストン組55(一方のピストンヘッド部55b)に流体圧Pが作用したとする。このとき、駆動軸であるクランクシャフト51を中心とする回転方向に、流体圧Pに相当する反力Pが作用する。この反力Pが第1クランク軸53に作用していると仮定すると、この外力Pに対する反作用がクランクシャフト51と第2仮想クランク軸54にP/2ずつ作用する。ここで、クランクシャフト51に直交して作用する反力P/2は、第1ピストン本体55aの往復運動に影響を与えない(回転中心であるクランクシャフト51はボールベアリング等により軸支されている)ため、両側のピストンヘッド部55bに対してシリンダ57からにP/4ずつ反力が作用することになる。ピストンヘッド部55bの外周面とシリンダ57の摺動面(内壁面)57aとの摩擦係数をμとすると、摺動抵抗は両側で(P/4)×μ×2となる。
【0008】
上記ピストンヘッド部55bと摺動面57aとの摺動抵抗により、ピストンヘッド部55bに設けられるシールカップ61が破損したり、シリンダ57の摺動面57aが偏摩耗したりするうえに、摩擦損失により駆動源のエネルギー損失が増大して消費電力が嵩むおそれがあった。
【0009】
本発明の目的は、シャフトを中心に回転する第1クランク軸に偏芯して連繋するピストン複合体に組み付けられて直線往復運動するピストン組のピストンヘッド部がシリンダの摺動面から受ける反力の影響を軽減することで、摩擦損失が少なく、省エネルギー化を実現した小型のロータリ式シリンダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明は次の構成を有する。
シリンダ内を往復運動するピストンとシャフトの回転運動を相互に変換可能なロータリ式シリンダ装置であって、前記シャフトの軸芯に対して偏芯して組み付けられ、当該シャフトを中心に半径rの第1仮想クランクアームを介して回転可能に組み付けられた第1クランク軸と、前記第1クランク軸に同芯状に嵌め込まれた第1筒体と該第1筒体の軸芯に対して偏芯した複数の第2仮想クランク軸を軸芯とする第2筒体が連続して形成された偏芯筒体を備え、前記第2筒体に複数のピストン組が互いに交差したまま前記第1クランク軸を中心に半径rの第2仮想クランクアームを介して回転可能に嵌め込まれたピストン複合体と、前記ピストン複合体が嵌め込まれた前記第1クランク軸の両端部に各々組み付けられ、前記シャフトを中心とする回転部品間の回転バランスをとる第1,第2バランスウェイトと、前記シャフトを回転可能に軸支し、当該シャフトを中心に回転する前記第1クランク軸及び前記第1,第2バランスウェイト、前記第1クランク軸を中心に回転する前記ピストン複合体を回転可能に収容する本体ケースと、前記本体ケースに設けられ、前記シャフトを中心に前記第1クランク軸が回転し、当該第1クランク軸を中心に前記ピストン複合体が回転することで、前記第2筒体に組み付けられた前記複数のピストン組が前記シャフトを中心とする前記第2仮想クランク軸の半径2rの転がり円の径方向に沿った直線往復運動をガイドするガイド軸受と、を具備したことを特徴とする。
ここで、第1仮想クランクアームとは、シャフトと第1クランク軸の軸芯間を連結する部位を言い、部品単体でクランクアームが存在しなくても構造上クランクアームの存在が認められるものを言う。また、第2仮想クランクアームとは、第1クランク軸と第2仮想クランク軸の軸芯間を連結する部位をいい、クランクアームが省略されていても機構上クランクアームの存在が認められるものを言う。また、第2仮想クランク軸とは、機構上のクランク軸が存在しなくとも回転中心となる軸芯の存在が仮想上認められるクランク軸を言う。また、ピストン組とは、ピストン単体のピストンヘッド部にシールカップ及びシールカップ押さえ部材やピストンリングなどのシール材が一体に組み付けられたものを言う。
【0011】
また、前記ガイド軸受は、前記第2筒体に複数交差して組み付けられた各ピストン組のピストン本体の移動方向に沿って両側に配置されて各ピストン組の直線往復運動をガイドすることを特徴とする。
【0012】
また、前記第2筒体に複数交差して組み付けられた各ピストン組のピストン本体にはその長手方向に沿ってガイド孔が各々穿設されており、前記ガイド軸受は各ガイド孔の対向する孔壁面に当接して各ピストン組の直線往復運動をガイドすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るロータリ式シリンダ装置を用いれば、本体ケースに設けられるガイド軸受は、シャフトを中心に第1クランク軸が回転し、該第1クランク軸を中心にピストン複合体が回転する際の第2筒体に連繋する複数のピストン組の直線往復運動をガイドする。
よって、シリンダ内を直線往復運動する複数のピストン組のピストンヘッド部がシリンダ摺動面から受ける反力をガイド軸受で受け止めて軽減するため、ピストンヘッド部とシリンダとの摺動抵抗を減らして摩擦損失、特に駆動源の消費電力を低減することができる。
【0014】
また、ガイド軸受は、第2筒体に複数交差して組み付けられた各ピストン組のピストン本体の移動方向に沿って両側に配置されて各ピストン組の直線往復運動をガイドするので、各ピストン組のピストンヘッド部がシリンダ摺動面から受ける反力をいずれか一方側のガイド軸受で受け止めてピストンヘッド部とシリンダとの摺動抵抗を軽減することができる。
【0015】
また、第2筒体に複数交差して組み付けられた各ピストン組のピストン本体にはその長手方向に沿ってガイド孔が各々穿設されており、ガイド軸受は各ガイド孔の対向する孔壁面に当接して各ピストン組の直線往復運動をガイドする場合には、各ピストン組のピストンヘッド部がシリンダ摺動面から受ける反力を少ないガイド軸受で受け止めてピストンヘッド部とシリンダとの摺動抵抗を軽減することができる。よって、ピストン組とシリンダ間の摩擦損失を低減して駆動源の消費電力を低減することができる。また、本体ケース内の部品点数が減るので組み立てが容易になり、本体ケース内のスペースを有効に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ロータリ式シリンダ装置の一部切欠き分解斜視図である。
【図2】図1のロータリ式シリンダ装置の第2本体ケースを取り外した一部破断斜視図である。
【図3】ロータリ式シリンダ装置の第2本体ケースを取り外した斜視図である。
【図4】図3のロータリ式シリンダ装置の軸方向からみた平面図である。
【図5】図4の左側面図である。
【図6】図4の矢印A−A方向断面図である。
【図7】偏芯筒体の軸方向から見た平面図及び軸方向断面図である。
【図8】シャフトを中心とする第1クランク軸の回転軌道、第1クランク軸を中心とする第2仮想クランク軸の回転軌道と複数のピストン組の直線往復運動の関係を示す模式図である。
【図9】他例にかかるロータリ式シリンダ装置の第2本体ケースを取り外した斜視図である。
【図10】図9のロータリ式シリンダ装置の軸方向からみた平面図である。
【図11】図9の矢印A−A方向断面図である。
【図12】第1,第2ピストン組とシリンダの配置を示す説明図である。
【図13】直線往復運動するピストン組とシリンダとの間に作用する外力の模式説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明を実施するための一実施形態について添付図面に基づいて詳細に説明する。先ず、図1乃至図8を参照して一例として圧縮機に用いられるロータリ式シリンダ装置を中心として説明する。ロータリ式シリンダ装置は、シリンダに対するピストンの直線往復運動とシャフトの回転運動とが相互に変換されて出力される装置を想定している。
【0018】
図1において、第1本体ケース1と第2本体ケース2とで構成される本体ケース3にシャフト4(入出力軸)が回転可能に軸支されている。第1本体ケース1と第2本体ケース2とは、図示しないボルトにより四隅をねじ嵌合させて一体に組み付けられる。この本体ケース3内には、図2に示すように第1クランク軸5を中心に回転可能な偏芯筒体6と該偏芯筒体6に軸受を介して組み付けられた第1ピストン組7及び第2ピストン組8(以下、これらを「ピストン複合体P」という)が回転可能に収容されている。以下、具体的に説明する。
【0019】
図6において、第1クランク軸5は、シャフト4の軸芯に対して偏芯して連結される。本実施形態では、シャフト4は、第1バランスウェイト9と一体に形成されている。尚、第2バランスウェイト10側にもシャフトが形成されていてもよい。第1,第2バランスウェイト9,10は第1クランク軸5の両軸端部に各々嵌め込まれてボルト12a,12b(図6参照)により固定される。
【0020】
図6において、第1バランスウェイト9に連結されたシャフト4は第1軸受13aにより回転可能に軸支されており、第2バランスウェイト10に形成された軸部は第2軸受13bにより回転可能に軸支されている。第1,第2バランスウェイト9,10は、例えばブロック形状をしており(図1参照)、シャフト4の周りに組み付けられ、後述するように第1クランク軸5及びピストン複合体Pを含むシャフト4を中心とした回転部品間の質量バランスをとるために設けられている。
【0021】
また、図7(a)(b)に示すように、偏芯筒体6は、第1クランク軸5の軸芯に対して偏芯した複数の第2仮想クランク軸14a,14bを有する。本実施形態では、交差するピストン組が2本であるため、第2仮想クランク軸14a,14bは第1クランク軸5を中心として180度位相がずれた位置に形成されている。
【0022】
第1,第2ピストン組7,8は第2仮想クランク軸14a,14bの軸直角方向に互いに交差して偏芯筒体6に組み付けられている。具体的には、図7(b)において、偏芯筒体6は、回転中心となる第1クランク軸5が挿通する第1筒体6aと、該第1筒体6aに連続して第2筒体6bが軸芯方向両側に各々連続して形成されている。第1筒体6aには第1クランク軸5が同芯状に嵌め込まれ、偏芯筒体6の回転中心となる。また、第2筒体6bの軸芯は、第1クランク軸5(第1筒体6a)の軸芯に対して偏芯した第2仮想クランク軸14a,14bと一致するようになっている。図7(a)(b)において、第2筒体6bの内外周部には、軸受保持部6c,6dが各々凹設されている。
【0023】
図7(b)に示すように、内周側の軸受保持部6cには、内側軸受15a,15bが保持されており、図6に示すように外周側の軸受保持部6dには外側軸受16a,16bが各々保持されている。内側軸受15a,15bは第1のクランク軸5を回転可能に支持している。また、外側軸受16a,16bは、第1,第2ピストン組7,8が第2円筒部6bに交差して嵌め込まれたまま回転可能に支持している。
【0024】
以上の構成により、第1クランク軸5と第2仮想クランク軸14a,14bを結ぶ第2仮想クランクアームの長さを第2円筒体6bの回転半径rにより設定する(図8参照)ことで、第1クランク軸5を中心として偏芯筒体6を含むピストン複合体Pを軸方向及び径方向にコンパクトに組み付けることができる。
【0025】
また、図6において、第1,第2ピストン本体7a,8aの長手方向両端部には、第1ピストンヘッド部7b,第2ピストンヘッド部8b(図示せず)が形成されている。第1ピストンヘッド部7b,第2ピストンヘッド部8b(図示せず)には、リング状のシールカップ7c,8c、シールカップ押さえ部材7d,8d(図示せず)が各々ボルト19により組み付けられている。シールカップ7c,8c(図示せず)は、オイルフリーのシール材(例えばPEEK(ポリエーテエーテルケトン)樹脂材等)が用いられる。
【0026】
また、図4において、本体ケース3(第1本体ケース1及び第2本体ケース2)の側面部(4面)に設けられた開口部20には、シリンダ21が組み付けられている。第1ピストンヘッド部7b,第2ピストンヘッド部8bは、シールカップ7c,8c(図示せず)によって、シリンダ21の内壁面21aとのシール性を保ちながら摺動するようになっている。シールカップ7c,8cの外周縁部には起立部7e(図6参照),8e(図1参照)が設けられている。圧縮機の場合には、起立部7e,8eは、ピストン摺動方向外側に向けて組み付けられている(図6参照)。
【0027】
図1に示すように、第1ピストン本体7a,第2ピストン本体8aの第1ピストンヘッド部7b(図6参照),第2ピストンヘッド部8bは、シリンダ21の内壁面21aに沿って摺動するように組み付けられる。
【0028】
また、図1において、第1本体ケース1の内底部1aにはシリンダ21に近傍にボス部1bが8か所に設けられている。このボス部1bの軸端にはガイド軸受1cが2個ずつ重ね合わせ、ガイド軸受1cはボス部1bの軸孔にピン1dが嵌め込まれて組み付けられている。図3に示すように、ガイド軸受1cは、第1,第2ピストン組7,8の第1,第2ピストン本体7a,8aの移動方向に沿って両側に配置されて直線往復運動をガイドするために設けられている。
【0029】
ここで、シャフト4を中心とする第1クランク軸5、第2仮想クランク軸14a,14bの回転運動と複数のピストンの直線往復運動の関係(内サイクロイド運動方式)を図8(a)〜(l)に示す模式構造原理図を参照して説明する。図8(a)〜(l)において、転がり円23の中心Oはシャフト4の軸芯と一致する。また、中心Oより偏芯した位置に第1クランク軸5が存在し、第1クランク軸5の回転に伴い第2仮想クランク軸14a,14bが回転するものとする。第2仮想クランク軸14a,14bの数は、ピストンの数に対応している。
【0030】
シャフト4(中心O)と第1クランク軸5との軸芯間距離rを第1仮想クランクアーム及び第2仮想クランクアームのアーム長(回転半径)とする。また、シャフト4の軸芯(中心O)周りに第1仮想クランクアームのアーム長rを回転半径とする回転軌道30上を第1クランク軸5が回転する。更には、第1クランク軸5を中心とする第2仮想クランクアームのアーム長rを回転半径とする回転軌道(仮想円24)上を第2仮想クランク軸14a,14bが見かけ上回転する。これにより、中心Oの周りに仮想円24の直径R(2r)を半径とする転がり円23の径方向に第1,第2ピストン組7,8が各々往復動するようになっている。
【0031】
本実施例では、互いに直交する第1、第2ピストン組7,8が連繋する第2筒体6bの第2仮想クランク軸を14a,14bとして例示するものとする。図8(a)において、第2仮想クランク軸14aは転がり円23と直径R1の交点(下端位置)にあり、第2仮想クランク軸14bは、転がり円23の中心O(シャフト4の軸芯位置)にある。第1クランク軸5は転がり円23の中心Oから半径rの位置にあるものとする。
【0032】
第1クランク軸5が転がり円23の中心Oの周りに反時計回り方向に1回転する場合について説明する。仮想円24は時計回り方向に転がり円23の内周に沿って滑らずに回転するものとする。図8(a)〜(l)は第1クランク軸5が30度ずつ変位した状態を示している。
【0033】
第1クランク軸5が図8(a)の位置から反時計回り方向に90度回転すると図8(d)の位置となる。このとき、第2仮想クランク軸14aは転がり円23の直径R1上を中心Oへ移動し、第2仮想クランク軸14bは直径R1と直交する直径R2と転がり円23との交点(右端位置)まで移動する。
【0034】
第1クランク軸5が図8(d)の位置から反時計回り方向にさらに90度回転すると図8(g)の位置となる。このとき、第2仮想クランク軸14aは転がり円23と直径R1との交点(上端位置)へ移動し、第2仮想クランク軸14bは転がり円23の中心Oへ移動する。
【0035】
第1クランク軸5が図8(g)の位置から反時計回り方向にさらに90度回転すると図8(j)の位置となる。このとき、第2仮想クランク軸14aは転がり円23の中心Oへ移動し、第2仮想クランク軸14bは転がり円23と直径R2との交点(左端位置)へ移動する。
【0036】
第1クランク軸5が図8(j)の位置から反時計回り方向にさらに90度回転すると図8(a)の位置となる。このとき、第2仮想クランク軸14aは転がり円23と直径R1との交点(下端位置)へ移動し、第2仮想クランク軸14bは転がり円23の中心Oへ移動する。
【0037】
以上のように、第1クランク軸5が中心O(シャフト4)の周りに回転すると、第2仮想クランク軸14aは仮想円24の転がり軌跡である転がり円23の直径R1上を往復移動し、第2仮想クランク軸14bは転がり円23の直径R2上を往復移動する。
【0038】
即ち、シャフト4の軸芯(中心O)を中心とした半径rの回転軌道30に沿った第1クランク軸5及びピストン複合体P(図2参照)の回転移動に伴い、第2仮想クランク軸14a,14bを軸芯に有する第2円筒部6bにおいて偏芯筒体6と連繋する第1ピストン組7が半径2rの転がり円23(シャフト4の軸芯を中心とする同心円)の直径R1上で往復動を繰り返し、第2ピストン組8が半径2rの転がり円23(シャフト4の軸芯を中心とする同心円)の直径R2上で往復運動を繰り返すことになる。
【0039】
図6において、ロータリ式シリンダ装置の組立構成の一例を示す。
偏芯筒体6の軸受保持部6cに内側軸受15a,15bを組み付ける(図7(b)参照)。また、偏芯筒体6の内側軸受15a,15b、第1円筒体6aの中心孔に第1クランク軸5を嵌め込む。また、第1,第2ピストン本体7a,8aの第1、第2ピストンヘッド部7b,8bに、シールカップ7c,8c及びシールカップ押さえ部材7d,8dをボルト19にて一体に組み付ける。更に、第1,第2ピストン組7,8を外側軸受16a,16bが嵌まり込むように組み付ける。そして、上記第1,第2ピストン組7,8を第2円筒部6bに外側軸受16a,16bを介して交差するように嵌め込む。
【0040】
また、第1クランク軸5の両端部に第1,第2バランスウェイト9,10を嵌め込んで、ピン11a,11bをピン孔に嵌め込み、ボルト12a,12bをねじ嵌合させて第1,第2バランスウェイト9,10を第1クランク軸5に一体に組み付ける。また、第1本体ケース1に第1軸受13a、第2本体ケース2に第2軸受13bを各々嵌め込む。また第1本体ケース1の内底部1aに突設されたボス部1bに軸受1cを組み付ける。そして、第1軸受13aにシャフト4を嵌め込み、第2軸受13bにバランスウェイト10の軸部を嵌め込むようにして、第1本体ケース1と第2本体ケース2をボルト締めして組み合わせる。これにより、偏芯筒体6とこれに交差して組み付けられた第1,第2ピストン7,8組(ピストン複合体P;図1参照)が本体ケース3内に収容される。最後に、本体ケース3の側面(4面)に形成される開口部20にシリンダ21を嵌め込んで、第1ピストンヘッド部7b,第2ピストンヘッド部8bがシリンダ21の開口部21a内に各々摺動可能に嵌め込まれて(図1参照)、ロータリ式シリンダ装置が組み立てられる。
【0041】
図5において、第1ピストン組7の軸芯と第2ピストン組8の軸芯は、シャフト4の軸方向で僅かにずれた状態で偏芯筒体6に組み付けられている。しかしながら、第1ピストン本体7aと外側軸受16aの軸芯、第2ピストン本体8aと外側軸受16bの軸芯は一致して組み付けられているため(図6参照)、偏芯筒体6が第1クランク軸5を中心として回転しても当該回転による振動を抑えることができる。また、構成部品の加工誤差等によって第1,第2ピストンヘッド部7b,8bとシリンダ21の内壁面21aとの間に発生するガタ(概ね30μm〜50μm程度)は、第1,第2ピストンヘッド部7b,8bとシリンダ21の内壁面21aとの間に挿入されるシールカップ7c,8cの起立部7e,8e(図6参照)によって振動が吸収されるため、騒音が発生することはない。
【0042】
上述のように組み立てられたロータリ式シリンダ装置は、第1,第2ピストン組7,8の第2仮想クランク軸14a,14bを中心とした第1の回転バランス、ピストン複合体Pの第1クランク軸5を中心とする第2の回転バランス及び第1クランク軸5及びピストン複合体Pのシャフト4を中心とする第3の回転バランスが第1,第2バランスウェイト9,10によりバランス取りされて組み立てられている。
【0043】
これにより、後述するようにシャフト4を中心とする第1クランク軸5の回転運動と、第1クランク軸5を中心とするピストン複合体Pの回転運動により、第2筒体6bに組み付けられた第1,第2ピストン組7,8がシャフト4を中心とする第2仮想クランク軸14a,14bの半径2rの転がり円23(図8(a)参照)の径方向に沿って直線往復運動を行なっても、回転による振動を抑えて静音化を図ることができ、シャフト4を中心とした回転による振動を低減することで機械的な損失が少なくエネルギー変換効率を高めることができる。
【0044】
図4において、第1本体ケース1のガイド軸受1cは、シャフト4を中心に第1クランク軸5が回転し、当該第1クランク軸5を中心にピストン複合体Pが回転することで、第2筒体6bに組み付けられた第1,第2ピストン組7,8がシャフト4を中心とする第2仮想クランク軸14a,14bの半径2rの転がり円の径方向に沿った直線往復運動をガイドする。
【0045】
このとき、第1,第2ピストン組7,8の第1,第2ピストンヘッド部7b,8bがシリンダ摺動面から受ける反力(図13の(P/4)参照)をいずれか一方側のガイド軸受1cで受け止めて第1,第2ピストンヘッド部7b,8bとシリンダ21との摺動抵抗を軽減することができる。よって、第1,第2ピストン組7,8とシリンダ21間の摩擦損失を低減して、駆動源の消費電力を低減することができる。
【0046】
尚、第1,第2ピストン本体7a,8aとその側圧を受けるガイド軸受1cとの隙間は構成部品の加工誤差や温度上昇による寸法変化を考慮して機械的な干渉が生じないように最小となるように設定される。
また、本実施形態では、第1,第2ピストン7,8は直交するように配置したが、これに限定されるものではなく、第1クランク軸5を中心として例えば位相差が60度等に配置することも可能である。
【0047】
次に、ガイド軸受の他の構成例について図9乃至図11を参照して説明する。
図9に示すように、第1,第2ピストン組7,8において、第1ピストン本体7a,第2ピストン本体8aにはその長手方向に沿ってガイド孔(長孔)31,32が両側に各々穿設されている。また、図11に示すように、第1本体ケース1の内底部1aには、ガイド孔31,32に対応する位置にボス部1bが4か所に突設されている。このボス部1bの軸端にはガイド軸受1cが例えば2個ずつ重ね合わせ、該ガイド軸受1cはボス部1bの軸孔にピン1dが嵌め込まれてボス部1bに組み付けられている。図10において、各ガイド軸受1cは、ガイド孔31,32に嵌め込まれて、第2筒体6bに組み付けられた第1,第2ピストン組7,8の直線往復運動を第1ピストン本体7a,第2ピストン本体8aと重なり合う位置でガイドする。
【0048】
図10に示すように、ガイド軸受1cは各ガイド孔31,32の対向する孔壁面31a,32aに当接して第1、第2ピストン組7,8の直線往復運動をガイドする。この構成によれば、第1、第2ピストン組7,8の第1,第2ピストンヘッド部7b,8bがシリンダ摺動面から受ける反力を少ないガイド軸受1c(本実施例では4か所)で受け止めて第1,第2ピストンヘッド部7b,8bとシリンダ21との摺動抵抗を軽減することができる。よって、ピストン組とシリンダ間の摩擦損失(図13の(P/4)参照)を低減して駆動源の消費電力を低減することができる。また、本体ケース3内の部品点数が減るので組み立てが容易になり、本体ケース3内のスペースを有効に活用することができる。
【0049】
尚、ガイド軸受1cは転がり軸受、滑り軸受、メタル軸受など様々な軸受を使用することができる。
また、ガイド軸受1cは第1本体ケース1に設けられているが、第2本体ケース2に設けられていてもよく、第1,第2本体ケース1,2の双方に各々設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0050】
P ピストン複合体
1 第1本体ケース
1a 内底部
1b ボス部
1c ガイド軸受
1d ピン
2 第2本体ケース
3 本体ケース
4 シャフト
5 第1クランク軸
6 偏芯筒体
6a 第1筒体
6b 第2筒体
6c,6d 軸受保持部
7 第1ピストン組
7a 第1ピストン本体
7b 第1ピストンヘッド部
7c,8c シールカップ
7d,8d シールカップ押さえ部材
7e,8e 起立部
8 第2ピストン組
8a 第2ピストン本体
8b 第2ピストンヘッド部
9 第1バランスウェイト
10 第2バランスウェイト
11a,11b ピン
12a,12b,19 ボルト
13a 第1軸受
13b 第2軸受
14a,14b 第2仮想クランク軸
15a,15b 内側軸受
16a,16b 外側軸受
20 開口部
21 シリンダ
21a 内壁面
23 転がり円
24 仮想円
30 回転軌道
31,32 ガイド孔
31a,32a 孔壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を往復運動するピストンとシャフトの回転運動を相互に変換可能なロータリ式シリンダ装置であって、
前記シャフトの軸芯に対して偏芯して組み付けられ、当該シャフトを中心に半径rの第1仮想クランクアームを介して回転可能に組み付けられた第1クランク軸と、
前記第1クランク軸に同芯状に嵌め込まれた第1筒体と該第1筒体の軸芯に対して偏芯した複数の第2仮想クランク軸を軸芯とする第2筒体が連続して形成された偏芯筒体を備え、前記第2筒体に複数のピストン組が互いに交差したまま前記第1クランク軸を中心に半径rの第2仮想クランクアームを介して回転可能に嵌め込まれたピストン複合体と、
前記ピストン複合体が嵌め込まれた前記第1クランク軸の両端部に各々組み付けられ、前記シャフトを中心とする回転部品間の回転バランスをとる第1,第2バランスウェイトと、
前記シャフトを回転可能に軸支し、当該シャフトを中心に回転する前記第1クランク軸及び前記第1,第2バランスウェイト、前記第1クランク軸を中心に回転する前記ピストン複合体を回転可能に収容する本体ケースと、
前記本体ケースに設けられ、前記シャフトを中心に前記第1クランク軸が回転し、当該第1クランク軸を中心に前記ピストン複合体が回転することで、前記第2筒体に組み付けられた前記複数のピストン組が前記シャフトを中心とする前記第2仮想クランク軸の半径2rの転がり円の径方向に沿った直線往復運動をガイドするガイド軸受と、を具備したことを特徴とするロータリ式シリンダ装置。
【請求項2】
前記ガイド軸受は、前記第2筒体に複数交差して組み付けられた各ピストン組のピストン本体の移動方向両側に配置されて各ピストン組の直線往復運動をガイドする請求項1記載のロータリ式シリンダ装置。
【請求項3】
前記第2筒体に複数交差して組み付けられた各ピストン組のピストン本体にはその長手方向に沿ってガイド孔が各々穿設されており、前記ガイド軸受は各ガイド孔の対向する孔壁面に当接して各ピストン組の直線往復運動をガイドする請求項1記載のロータリ式シリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−190780(P2011−190780A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59901(P2010−59901)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(396007694)株式会社医器研 (57)
【出願人】(504272408)有限会社ケイ・アールアンドデイ (9)
【Fターム(参考)】