説明

ローヤルゼリーペプチドおよびこれを含有する組成物

この出願の発明は、女王蜂の誘導補助因子としての機能を有し、また動物の生体防御系の向上(免疫力の賦活効果)を実現することのできるローヤルゼリーペプチドおよびこれを含有する組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この出願の発明は、ローヤルゼリーペプチドおよびこれを含有する組成物に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、女王蜂の誘導補助因子としての機能を有し、また動物の生体防御系の向上(免疫力の賦活効果)を実現することのできるローヤルゼリーペプチドおよびこれを含有する組成物に関するものである。
【背景技術】
ミツバチの生産物として、蜂蜜やローヤルゼリーがよく知られている。特にローヤルゼリーは、そのほとんどが糖質である蜂蜜とは異なり、三大栄養素であるタンパク質、糖質、脂質をはじめ、各種ビタミン、ミネラル等をバランスよく、しかも豊富に含んでいる。ローヤルゼリーは、女王蜂への誘導効果だけでなく、ヒトを含む動物に対して、疲労回復、アレルギー、感染症や癌等に有効であるといったさまざまな効果を有しているとされている。
そのため、ローヤルゼリーをミツバチの幼虫に人為的に与え、この幼虫を女王蜂へ分化誘導させることが考慮されている。これにより、女王蜂の室内人工飼育が可能となり、計画的にミツバチ生産することが期待できるが、このような女王蜂の室内人工飼育は困難であることが実情である。
また、一方、ヒトにおいては、多くの食品分野等で注目されているため、健康食品の一種として活用されている。しかしながら、上記のようなローヤルゼリーの幅広い効果は、明確に科学的な立証がなされているとはいえないのが実情である。
そこで、係る問題を解決するため、ローヤルゼリーに関する研究が盛んに行なわれている。第1には、女王蜂の室内人工飼育を実現するために、女王蜂への分化導方法が提案されている(特開平5−76253号公報)。上記のとおりミツバチにおけるローヤルゼリーの効果として、ミツバチの幼虫を女王蜂へ分化誘導する作用を有することが知られているが、この作用を有する蛋白性物質を抽出および精製し、ミツバチの幼虫に与えることにより、効率よく幼虫を女王蜂に分化誘導することができる。この提案の方法により、ミツバチの女王蜂の室内人工飼育が可能となり、計画的にミツバチ生産を行うことができるとしている。
一方、第2には、ローヤルゼリーが有する幅広い効能を解明するための研究も多くなされている。たとえば、ローヤルゼリーを構成する成分であるタンパク質やペプチド等を同定し、それぞれを機能解析することが行なわれている。たとえば、主要タンパク質1〜5(MJR1〜5)の報告がなされており、特にMJR3は、免疫応答を促進することが開示されている(Okamoto,I.,et al.,Life Sciences,73,p2029−2045,2003)。また、アピシンが細胞の成長を促進する等の可能性を示唆している報告もあり(米倉正実、ミツバチ科学、19巻、1号、15−22頁、1998年およびYonekura,M.,New Food Ind.,41(1),p1−8,1999)、ロイヤリシンが抗菌性を有することが開示されている報告(Fujiwara,S.,et al.,J.Biol.Chem.,265(19),p11333−7,1990)等もある。また、最近では、ローヤルゼリーの構成成分の一つとしてアピシミンが同定された(Bilikova,K,et al.,FEBS Letters,528,p125−129,2002)。
しかしながら、女王蜂への分化誘導方法として例示した、上記特許文献1提案の方法の場合では、この提案で用いられている分化誘導因子をローヤルゼリーから抽出することは、有機溶媒や限外濾過等の煩雑な手順を行う必要があるという問題があった。
また、現在、同定されているローヤルゼリーに含まれる機能性物質は、上記のMJR1〜5、アピシン、ロイヤリシンおよびアピシミンのみであり、その機能性について詳細に解明されていないのが現状である。特に、最近発見されたアピシミンについては、どのような生理作用等の機能を有しているのか、その機能性については全く解明されていない。
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、従来の問題点を解消し、女王蜂への分化誘導補助因子としての機能を有し、また動物の生体防御系の向上(免疫力の賦活効果)を実現することのできるローヤルゼリーペプチドおよびこれを含有する組成物を提供することを課題としている。
【発明の開示】
この出願の発明は、上記の課題を解決する手段として、以下の(1)から(11)の発明を提供する。
(1)女王蜂分化誘導補助因子としての機能および動物の免疫力賦活因子としての機能の少なくともいずれかの機能活性を有することを特徴とするローヤルゼリーペプチド。
(2)上記(1)のローヤルゼリーペプチドをコードする遺伝子配列を有する発現カセットを備えた発現ベクター。
(3)上記(2)の発現ベクターによって、形質転換された形質転換細胞。
(4)上記(3)の形質転換細胞から産生されるローヤルゼリーペプチド。
(5)上記(1)または(4)のローヤルゼリーペプチドを有効成分として含有する組成物であって、ミツバチの女王蜂誘導補助効果を向上させる機能および動物の免疫力賦活効果を向上させる機能の少なくともいずれかの機能を有することを特徴とする組成物。
(6)上記(5)の組成物をミツバチの幼虫に投与することにより、幼虫の成長を促進し、女王蜂への分化を誘導させることを特徴とするミツバチの女王蜂への誘導方法。
(7)上記(5)の組成物を動物に投与することにより、動物の免疫力賦活効果を向上させることを特徴とする動物の免疫力賦活方法。
(8)上記(1)のローヤルゼリーペプチドをコードする遺伝子配列を導入した非ヒト生物の初期胚、受精卵および胚幹細胞いずれかを個体発生して得られる非ヒト生物およびその子孫生物であって、体細胞染色体中に上記遺伝子を保有し、ローヤルゼリーペプチドを発現することを特徴とするトランスジェニック生物。
(9)非ヒト生物が、植物または動物のいずれかであることを特徴とする(8)の非ヒト生物。
(10)動物が、昆虫類であることを特徴とする(9)の非ヒト生物。
(11)昆虫類が、カイコであることを特徴とする(10)の非ヒト生物。
そして、以上のとおりのこの出願の発明によって、次の効果を得ることができる。
上記(1)記載の発明のローヤルゼリーペプチドによれば、ミツバチの幼虫を女王蜂へ人為的に誘導補助することができ、また動物の免疫力を賦活することができる。
上記(2)記載の発明の発現ベクターによれば、ローヤルゼリーペプチドをコードする遺伝子配列を有する発現ベクターとすることにより、保存性および取り扱い性が向上する。
上記(3)記載の発明の形質転換細胞によれば、安定、かつ、簡便にローヤルゼリーペプチドを発現させることができる。
上記(4)記載の発明のローヤルゼリーペプチドによれば、上記(1)記載の発明と同様の効果が得られ、しかも、このローヤルゼリーペプチドは、投与対象の動物と同じ由来とする形質転換細胞から産生させることができるため、免疫原生を抑制することができる。
上記(5)記載の発明の組成物によれば、上記(1)または(4)記載の発明の効果に加え、各種の薬理成分等と混合、また糖衣加工やカプセル封入体等の加工等を施すことにより、ローヤルゼリーペプチドを有効成分として含有する組成物を摂取しやすくすることができる。
上記(6)記載の発明の女王蜂への誘導方法によれば、女王蜂の室内人工飼育が可能となり、計画的にミツバチ生産を行うことを実現することができる。
上記(7)記載の発明の動物の免疫力賦活方法によれば、投与されたヒトを含む動物の免疫防御系の働きを向上させることが可能となる。
上記(8)記載の発明のトランスジェニック生物によれば、高生産性、耐病性、耐熱性、耐寒性等の多くの生理機能がより活性化および増強化された生物を得ることができる。
上記(9)記載の発明の非ヒト生物によれば、上記(8)記載の発明と同様の効果が得られ、より高い効果が得られることを可能とする。
上記(10)記載の発明の非ヒト生物によれば、上記(8)および(9)記載の発明と同様の効果が得られ、さらに高い効果が得られることを可能とする。
上記(11)記載の発明の非ヒト生物によれば、カイコは、飼育方法をはじめとする知見が豊富なため、より効果的にローヤルゼリーペプチドの効果を有するトランスジェニック生物として得ることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、ローヤルゼリー粉末からローヤルゼリーペプチドを抽出するプロトコールの概略を例示した図である。
図2は、この出願の発明のローヤルゼリーペプチドの高速液体クロマトグラフィー溶出パターンとそのピーク時(矢印箇所)におけるSDS−PAGEによる解析をそれぞれ例示した図である。
図3は、この出願の発明のローヤルゼリーペプチドのN末端におけるアミノ酸を例示した図である。
図4は、この出願の発明のローヤルゼリーペプチドの塩基配列とそのアミノ酸を例示した図である。
図5は、セイヨウミツバチのゲノムDNAをサザンブロット法により解析した結果を示した写真図である。
図6は、働きバチのtotal RNAをノーザンブロット法により解析した結果を示した写真図である。
図7は、この出願の発明のローヤルゼリーペプチド遺伝子の構築の際に使用したフラグメント1から8の塩基配列を例示した図である。
図8は、組換えローヤルゼリーペプチドの高速液体クロマトグラフィー溶出パターンとそのピーク時(水平バー)におけるSDS−PAGEによる解析結果をそれぞれ例示した図である。
図9は、マウス脾臓由来のリンパ球細胞の増殖に及ぼす組換えローヤルゼリーペプチドの効果を例示した図である。
図10は、抗ローヤルゼリーペプチド抗体を用いて、ローヤルゼリーペプチドの合成器官が下咽頭腺であることを示した写真図である。
発明の実施のための最良の形態
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
この出願のローヤルゼリーペプチドは、ミツバチが生産するローヤルゼリーの成分の一つであり、「アピシミン」として報告され(Bilikova,K,et al.,FEBS Letters,528,p125−129,2002)、これをコードする遺伝子の配列についても開示されている(GenBankAccession No.AAQ16586、GenBank Accession No.AY340960)。しかしながら、その機能に関しては解明されていないため、この出願の発明は、発明者らの鋭意研究の結果に基づいてなされたものである。すなわち、この出願の発明のローヤルゼリーペプチドは、ミツバチの幼虫に投与することにより、その幼虫を女王蜂へと分化誘導する女王蜂分化誘導補助因子としての機能を有し、また、ヒトを含む動物に投与することにより、その動物の免疫力を向上させる免疫力賦活因子としての機能をも有することを解明したことに基づいていてなされたものである。これにより、ミツバチの幼虫を女王蜂へ人為的に誘導することもでき、また動物の免疫力を簡便に向上させ、感染症等の病気に対する抵抗力および回復力を強くすることも可能となる。
従来のようにローヤルゼリーから、有機溶媒を用いた抽出や限外濾過等の公知の抽出方法や精製方法によって、この出願の発明のローヤルゼリーペプチドを製造することもできるが、この出願の発明のローヤルゼリーペプチドは、遺伝子工学的な方法を用いて製造することができるため、好ましい。具体的には、たとえば、ローヤルゼリーペプチドをコードする遺伝子配列(たとえば、GenBankAccession No.AAQ16586、GenBank Accession No.AY340960等)を有した発現カセットを備えた発現ベクターを大腸菌や酵母、植物細胞、動物細胞等に公知の方法である、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法等に従い導入することによって、大量、かつ、簡便に製造することができる。しかも、この形質転換された大腸菌や酵母、植物細胞、動物細胞等の菌体・細胞から回収したローヤルゼリーペプチドは高純度で収率良く、精製することができる。さらに、この発現カセットに、たとえば、6×ヒスチジン−タグ(His)、FLAG、β−ガラクトシターゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、c−myc、マルトース結合タンパク質(MBP)等をコードする配列をタグ配列として含ませることにより、精製しやすくなる。
この出願の発明における「発現ベクター」は、ローヤルゼリーペプチドをコードする遺伝子配列を有する発現カセットをベースベクター内に挿入結合することによって作製することができる。したがって、発現カセットは、ベースベクターの任意のクローニングサイトに対応した制限酵素配列を有することが好ましい。「ベースベクター」は、たとえば動物細胞用ベクター、昆虫細胞用ベクター、酵母用ベクター、大腸菌用ベクター、また酵母・大腸菌等といった複数種用のシャトルベクター等の種々のベースベクターがあるが、これらベースベクターは宿主細胞や目的に応じて適宜に選択することができる。また、適当な宿主細胞で外来タンパク質を発現させるための既存のベクターDNAを一部改変して使用することもできる。たとえば、宿主細胞として大腸菌等の微生物を利用する場合には、オリジン、プロモータ、ターミネータ等を有するpUC系、pBluescriptIIやpET系システム等が使用することができる。
この発現ベクターを導入する際に利用する細菌や細胞(受容体)は、ローヤルゼリーペプチドを安定に発現することのできるものであれば、特に限定されるものではなく、たとえば、大腸菌や酵母類、各種植物細胞、各種動物細胞等を使用することができる。このように形質転換の対象とする細胞の種類を任意に選択および使用することができるため、ローヤルゼリーペプチドの投与の対象となるヒトを含めた動物の由来に合わせて、形質転換する細胞の由来や種類を適宜に選択することにより、免疫原生を抑制することができる。
また、この出願の発明は、上記の特徴を有するローヤルゼリーペプチドを有効成分として含有する組成物を提供する。すなわち、この組成物は、ミツバチの幼虫を女王蜂へと分化誘導する機能を有し、また、ヒトを含む動物の免疫力を向上させる機能を有している。この組成物は、薬理成分あるいは食品成分等と混合、加工することにより、投与あるいは摂取しやすい、製剤や機能性食品とすることができる。食品成分の一種である各種ビタミン類や各種ミネラル分等の生体にとって有益、かつ、この出願のローヤルゼリーペプチドの効果を維持することのできる物質であれば、特に限定されずに混合、加工することができる。
なお、「薬理成分」とは、一般に薬剤製造に利用される各種の担体であり、担体は薬剤の種類や注射や経口等の投与形態等に応じて、適宜に選択できる。たとえば、懸濁剤やシロップ剤等のような経口液体状の薬剤は、水、シュクロース等の糖類、ポリエチレングリコール等のグリコール類、ごま油や大豆油等の油類、その他、防腐剤、ペパーミント等の各種フレーバー類等を使用して製造することができる。また、散剤や丸剤、カプセル剤および錠剤は、ラクトース、グルコース、シュクロース等の賦形剤、デンプン等の崩壊剤、マグネシウムステアレート等の潤沢剤、また各種結合剤や表面活性剤、可塑剤等を用いて製剤化することができる。
上記組成物を、ミツバチの幼虫に餌等として、摂取させることにより、人為的に女王蜂へと分化誘導することができる。その結果、従来困難であった、女王蜂の室内人工飼育が可能となり、計画的にミツバチを生産し、ローヤルゼリーや蜂蜜等を効率よく取得することを実現することができる。また、ヒトを含む動物に上記組成物を投与、あるいは、摂取させることにより、免疫力が活性および増強させることができ、その結果、各種病気に対する抵抗力および回復力が高まり、健康を維持することを期待することができる。
さらにこの出願の発明は、ローヤルゼリーペプチドをコードする遺伝子配列を導入した非ヒトのトランスジェニック生物を提供する。このトランスジェニック生物は、生物の初期胚、受精卵および胚幹細胞(ES細胞)いずれかを個体発生させて得られる非ヒト生物およびその子孫生物であり、体細胞染色体中に上記のローヤルゼリーペプチドをコードする遺伝子配列を保有し、ローヤルゼリーペプチドを発現することを特徴としている。このトランスジェニック生物は、まず動物の場合は、たとえば、公知のトランスジェニック動物作製法(たとえば、Gordon,JW.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77,p7380−7384,1980)に従って作製することができる。すなわち、機能遺伝子(この出願におけるローヤルゼリーペプチドをコードする遺伝子)を初期胚、受精卵および胚幹細胞等の分化全能性細胞に導入して、この細胞を個体へと発生させ、体細胞のゲノム中に外来性の機能遺伝子が組み込まれた個体を選別して、目的とするトランスジェニック動物を作製することができる。
この「機能遺伝子の導入」とは、外来性の機能遺伝子を上記の形質転換動物作製法により、機能遺伝子を染色体ゲノム中に導入する。また、公知である標的遺伝子組換え法(ジーンターゲティング法)(Capecchi,MR.,et al.,Science,244,p1288−1292,1989)を利用すれば、内在性の機能遺伝子と置換させることによって外来性の機能遺伝子を導入することもできる。なお、外来性の機能遺伝子は、その生物の染色体ゲノムに元来存在しない遺伝子であり、他の生物種由来の遺伝子やPCR等で作製した合成遺伝子等である。
なお、ES細胞は、マウス、ラット、ウサギ、サル等にて確立されており、また、ブタ等においては、EG(embryonic germ)細胞が確立されているため、対象の動物種とすることができる。
植物の場合は、アグロバクテリウムツメファシエンスの感染時に起こるTiプラスミド中のt−DNAの植物細胞への移行と染色体組込みをを利用した方法(特に、双子葉植物において好適)やプロトプラストへのエレクトロポレーション法等によるDNAの直接導入法(特にイネ等の単子葉植物に好適)等を利用することにより、機能遺伝子(ローヤルゼリーペプチドをコードする遺伝子)を導入することができる。
上記のようなトランスジェニック動物、あるいは植物により、耐病性、耐候性、耐寒性、耐熱性等、種々の機能が増強された生物を得ることができ、さらにイネ等の作物である植物においては、その生産性の向上を期待することができ、家畜や農作物に活用することができる。
さらにまた、トランスジェニック動物における動物が、昆虫類であることが好ましく、昆虫類が、飼育方法等の知見が豊富に蓄積されているカイコであることが、効率性の高さや扱い易さ等の観点からさらに好ましい。
以下に実施例を示し、さらに詳しく、この出願の発明について説明する。もちろん、以下の例によってこの出願の発明が限定されることはない。
【実施例】
[実施例1]:ローヤルゼリーペプチドの抽出
乾燥粉末状のローヤルゼリーから、図1に例示した抽出手段により、目的とするローヤルゼリーペプチドを含む粗画分を抽出した。すなわち、乾燥粉末状のローヤルゼリーを冷却したアセトンにて洗浄し、その溶液を2500×gにて30分間遠心処理を行なった。沈殿物を回収し、80%エタノールで洗浄し、10000×gにて20分間の遠心処理を行なった。再び、沈殿物を回収し、2%のNaClを用いて抽出操作を行ない、10000×gにて20分間の遠心処理を行ない、結晶化操作(MWCO:500)を行なうことにより、目的とするローヤルゼリーペプチドを含んだ粗画分を得た。
[実施例2]:ローヤルゼリーペプチドの単離
実施例1で得たアピシミンの粗画分を、高速液体クロマトグラフィーにより、アセトニトリル濃度96%を用いて溶出するピークが、単一のローヤルゼリーペプチドとして単離した。
図2は、ローヤルゼリーペプチドの高速液体クロマトグラフィーにおける溶出パターンを示したものである。図2に示したとおり、ローヤルゼリーペプチドを含んだ粗画分をTSK−gel ODS−80Tsによる逆相高速液体クロマトグラフィーで示している矢印箇所(ピーク)を、トリシンSDS−PAGEにより、分析した結果、単一のローヤルゼリーペプチドとして単離(6.2kDa)することができた。
[実施例3]:ローヤルゼリーペプチドの部分的なアミノ酸配列の決定
実施例2で単離したローヤルゼリーペプチドの一次構造を全自動タンパク質一次構造分析装置(プロテインシークエンサー)(G−1000A、Hewlett Packrd社製)にて分析し、公知技術のエドマン分解法によるN−末端側からのアミノ酸配列の決定を行なった。その結果、図3に例示したとおり、N末端側から第47番目のアミノ酸が不明の54アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を決定することができた(配列番号14および配列番号15)。
なお、ローヤルゼリーペプチドの分子質量を測定も行った(図示せず)。この測定には、質量分析計であるMALDI−TOF MSシステムVoyager RP(登録商標)(PerSeptive Biosystem社製)を用いた。測定は、50%アセトアニトリルに飽和させたα−cynao−4−hydroxycinnamic acid(α−CHCA)を陽イオン化マトリックスとして用い、分子量マーカーであるCalbration Mixture2(ACTH(7−38clip)、insulin(bovine))と0.1%TFAに溶解したペプチドをプレート上で混合して、風乾させた後レーザー照射を行なって、分子質量を得た。
[実施例4]:ローヤルゼリーペプチドをコードするcDNA全長の決定
<1>ミツバチの飼育方法
セイヨウミツバチ(Apis mellifela)(盛岡市、藤原養蜂場から供与)の下咽頭腺(ローヤルゼリーのタンパク質産生器官)から、公知の方法(たとえば、Sambrook J.,et al.,Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989等)に従い、ポリA+RNAを抽出した。
なお、このセイヨウミツバチは、セイヨウミツバチ用巣箱(可動式巣枠)を用いて、岩手大学農学部付属植物園内で野外飼育した。秋期の花密が不足する時期には、食用の砂糖と水(1:1の割合)とを混合した餌を与えた。また、害敵であるミツバチヘギイタダニ(Varrora jacobsoni)の対策に、防ダニ剤のアピスタン(三菱化学社製)を用いた。冬期は、群生維持のため巣箱を発泡スチロールで囲った。さらに、羽化直後の働きバチの胸部にエナメル塗料でマーキングして、これを指標として下咽頭腺の発達が盛んである6から10日齢の働きバチ(育児蜂)を採集して用いた。
<2>下咽頭腺の摘出
働きバチを氷上で冷麻酔し頭部を集め、頭部から全蜂用生理食塩水(0.02%(w/v)のKCl、2.02%(w/v)のCaCl、0.4%(w/v)のサッカロース、0.9%(w/v)のNaCl)中で、下咽頭腺を摘出した。
<3>Total RNAの調整
(a)Total RNAの抽出
Total RNAの抽出は、QuickPrep(登録商標)Total RNA Extraction Kit(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用い、添付されているプロトコールに従い下咽頭腺53mgからTotal RNAを抽出し、エタノール沈殿後に滅菌水200μlに溶解した。そして、その一部を分光光度計で波長A260を測定し濃度を算出した。
(b)poly ARNAの単離
得られたTotal RNAの500μgから、Oligotex−dt30<Super>(宝酒造社製)を使用して、添付されているプロトコールに従いPolyARNAを単離した。このPoly ARNAの濃度測定には、上記(a)と同様の方法で行なった。
<4>Rapid Amplification of cDNA Ends(RACE)を利用したローヤルゼリーペプチドのクローニング
(a)cDNAの合成
Marathon(登録商標)cDNA amplification Kit(CLONTECH社製)を用い、添付のプロトコールに従いRACE法を実施した。上記<3>(a)および(b)により得られたpoly ARNA 1μgを、Marathon cDNA Synthesis Primer(TTCTAGAATCAGAGGAAGAT(30)−1N)とともに滅菌水中で70℃、10分間反応させた後、氷上で急冷した。この反応液を10nmolのdNTP、100unitsのMMLV Reverse Transcriptase(Superscript(登録商標)II、Gibco BRL社製)を含むFirst−strand Buffer 10μl中で72℃、1時間反応させ、1本鎖cDNAを合成した。
さらに、反応液を10nmolのdNTP、Second−strand Enzyme Cocktail(24units E.coli DNA Polymerase I、0.8units E.coli DNA Ligase、1unit E.coli RNaseH)を含むSecond−strand Buffer(100mM KCl、10mM Ammonium Sulfate、5mM MgCl2、0.15mM β−NAD、20mM Tris(pH7.5)、0.05mg/ml BSA)80μl中で16℃、1.5時間反応させた。反応後、10unitsのT4 DNA Polymeraseを加え、16℃で45分間反応させて2本鎖cDNAを合成した。
この2本鎖cDNAをフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(25:24:1)にて抽出し、さらにクロロホルム/イソアミルアルコール(24:1)で抽出した。この抽出液を、1/2量の4M酢酸ナトリウムおよび2.5倍量のエタノールにて、cDNAを沈殿させ、80%エタノールで洗浄した。
(b)アダプター結合
2本鎖cDNAの沈殿物を滅菌水に溶解し、Marathon cDNA Adaptorおよび1unitのT4 DNA Ligaseを含むDNA Ligation Buffer(50mM Tris−HCl(ph7.8)、10mM MgCl、1mM DTT、1mM ATP、5% Polyethylene Glycol(MW:8000))10μl中で16℃、終夜反応させた。このアダプターを結合させたcDNAをTE buffer(40mM Tris−HCl(pH8.0)、1mM EDTA(pH8.0))で50倍希釈したものを鋳型として3’RACEおよび5’RACEを行なった。
(c)3’RACE
ローヤルゼリーペプチドのアミノ酸配列のN末端部分に対応する塩基配列を推定し、これを基に配列番号1に示した、3’RACEに用いるdegenerateセンスプライマー(AARACNWSNATHWSNGTNAARGGNGARWSNAAYGTNGの37塩基であり、以下プライマー1とする)を設計し、日本遺伝子研究所にて合成した。なお、このプライマー中の「A」はアデニン、「C」はシトシン、「G」はグアニン、「T」はチミンおよび「I」はイノシンをそれぞれ示している。また、「R」はアデニンまたはグアニン、「W」はアデニンまたはチミン、「S」はシトシンまたはグアニン、「H」はアデニンまたはシトシンまたはチミン、「Y」はシトシンまたはチミンを示している。
このプライマー1は、TE bufferで100pmol/μlの濃度となるように希釈して使用した。3’RACE反応は、上記の(IV)(b)でアダプター結合したcDNAを鋳型として、プライマー1、Marathon cDNA Adaptorと特異的に結合するAP1 primerおよびAmpliTaqGold(登録商標)(PERKIN ELMER社製)を用いた。10nmol dNTP、10pmol AP1 primer、100pmolプライマー1および2.5unitsのAmpliTaq Gold(登録商標)を含むPCR buffer 50μl中にアダプター結合
したcDNAを加えて、サーマルサイクラー(Gene Amp PCR SYSTEM 9700、PERKIN ELMER社製)を用いて、次の条件のもとでPCR反応を行なった。すなわち、(1)95℃、10分間(熱処理)、(2)94℃、1分間(熱変性)、(3)72℃、1分間(アニーリング)、(4)72℃、1分間(伸長)を3サイクル行い、以降ステップ(3)のアニーリング温度を68℃、64℃、60℃、56℃と下げ、各3サイクル行なった。そして、最後にアニーリング温度を52℃にし、25サイクル反応させ、72℃で7分間の伸長反応を加えた。
なお、図には示していないが、アガロース電気泳動を行なうことにより、このPCR産物の確認も行なっている。
(d)PCR産物のサブクローニング
上記<4>(c)により得られたPCR産物の塩基配列を決定するため、Original TA Cloning Kit(Invitrogen社製)を用いて、添付のプロトコールに従い、PCR産物のサブクローニングを行なった。概要としては、Taqポリメラーゼの活性を利用して、PCR産物の3’末端にアデニンを付加させ、このPCR産物を、1個のチミンが突出しているプラスミドベクターpCR2.1に挿入結合した。
PCR産物は、既存の方法であるアガロースゲル電気泳動を行なった後、UVトランスイルミネーター(AE−6991CX、ATTO社製)上で波長312nmにて、可視化され、目的のPCR産物のバンド部分を切り出して、DNA回収用フィルター付き遠心チューブであるSUPREC−01(登録商標)(宝酒造社製)を用いて、PCR産物を回収した。
回収されたPCR産物の一部(3.5μl)を、6mM Tris−HCl(pH7.5)、6mM MgCl、5mM NaCl、100μg//ml BSA、7mM β−mercaptoethanol、100μM ATP、2mM DTT、1mM spermide、4.0 weiss units T4 DNA Ligaseおよび50ngのpCR2.1プラスミドベクターを含む溶液10μl中で、14℃で一晩反応させ、PCR産物をpCR2.1プラスミドベクターに連結させた。このベクターをOriginal TA Cloning Kitに添付のコンピテントセル(INV−αF’One Shot Cell)を形質転換させた後、X−Galとカナマイシンを塗布したLBアガープレートに接種・塗布し、37℃、一晩培養して、カラーセレクションを行なった。
そして、白いコロニーを選択して、インサートチェックを行なった。すなわち、コロニーを爪楊枝等で突き、4nmol dNTP、4pmol AP1 primer、40pmolプライマー1および1unitのAmpliTaq Gold(登録商標)を含むPCR反応液20μl中に挿入して爪楊枝先端に付着したコロニーを洗浄した。そして、上記<4>(c)と同様の条件でPCR反応を行い、電気泳動にて泳動パターンを確認した。
この結果から、予想される分子量のPCR産物が含まれていることが確認できたコロニーを、2×YT Broth(1%(W/V)NaCl、1.6%(W/V)トリプトン、1%(W/V)yeastextract)中に植菌し、37℃、205rpmで8時間振盪培養を行った。
(e)プラスミド抽出
2×YT Brothで培養した大腸菌から、1MagExtractor−Plasmid−kit(東洋紡社製)を用いて、添付のプロトコールに準じて、磁性ビーズにDNAを吸着させることでプラスミドを抽出した。
(f)DNAシークエンス
上記<4>(e)によって得られたプラスミド1.5μgとTexas−Redで標識されたM13(−20)リバースプライマー(Thermo Sequenase pre−mixed cycle sequencing kit:Amersham Pharmacia Biotech社製)と滅菌水を混合し、A、C、G、Tの各塩基を含む溶液(Thermo Sequenase fluorescent labeled cycle sequencing kit:Amersham Pharmacia Biotech社製)に加え、次の条件の下でシークエンス反応を25サイクル行なった。すなわち、(1)95℃、3分間(熱処理)、(2)95℃、1分間(熱変性)、(3)50℃、45秒間(アニーリング)、(4)72℃、1分30秒間(伸長)、(5)72℃、1分間(伸長反応)、で反応を行なった。この反応液に2×ローディングダイを添加してアスピレーターで濃縮したものを、3μlづつDNAオートシークエンサー(SQ−5500、日立製作所社製)にロードして、塩基配列の解析を行なった。
(g)5’RACE
3’RACEにより得られたローヤルゼリーペプチドの塩基配列情報を基にして、5’RACE用のGeneSpecificアンチセンスプライマーを2種類設計し、作製した。すなわち、この2種類のプライマーは、3’RACEにより得られた配列と一部重複領域を有するように設計したプライマー2(配列番号2)および3’末端側の塩基配列を基にcDNA全長の塩基配列の取得を意図したプライマー3(配列番号3)である。
なお、5’RACEの方法および条件は、上記(IV)(c)の例示の3’RACEと同一の方法および条件で行なった。ただし、プライマー1をプライマー2、または、プライマー3に換えて、5’RACEの反応を行なった。得られたPCR産物は、上記<4>(d)から(f)と同一の方法で、サブクローニングおよび塩基配列の解析を行なった。
上記<4>(c)および(g)に示した3’RACEおよび5’RACEにより、図4に例示したように、ローヤルゼリーペプチドの全長cDNAの塩基配列を決定した(配列番号16および配列番号17)。これに伴い、実施例3の時点では未同定だった第47番目のアミノ酸が、ロイシンであることが判明した。なお、図中において、イタリック体は「シグナル配列」、矢印は「開始点」、*印は「終止コドン」、下線は「図3のN末端アミノ酸配列と同一箇所」、□は「ポリアデニレーションシグナル」をそれぞれ示している。
上記の結果から、この出願の発明のローヤルゼリーペプチドは、アピシミン(Bilikova,K,et al.,FEBS Letters,528,p125−129,2002)であることが確認された。
(h)La Taqポリメラーゼを使用したPCR反応に塩基配列の確認
3’RACEおよび5’RACEに用いたTaqポリメラーゼのAmpliTaqGold(登録商標)は、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性がないため、440塩基に1回の割合で、読み誤りが生じる可能性がる。そのため、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を有するLA−Taq(宝酒造社製)を用いたPCR反応を行い、読み謝りの可能性を極力減らし、この出願の発明のローヤルゼリーペプチドの塩基配列を確認した(図示せず)。
なお、反応は、20nmol dNTP、125nmol MgCl、10pmol AP1 primer、100pmol プライマー3および2.5units LA−Taqを含む反応掖50μl中に、アダプター結合cDNAを鋳型として加えたものを、(1)94℃、30秒間(熱変性)、(2)50℃、30秒間(アニーリング)、(3)72℃、1分30秒間(伸長)、(5)72℃、1分間(伸長反応)を25サイクル行ない、上記<4>(f)と同様にDNAシークエンサーを用いて塩基配列の確認を行なった。
(i)コンピュータによる解析
相同性の検索は、BLASTを利用した。開始コドンの位置の推定は、ORF Finderを利用した。
[実施例5]:ローヤルゼリーペプチド(アピシミン)遺伝子の解析
<1>サザンブロット法
セイヨウミツバチのゲノムDNAを用いて、公知の方法であるサザンブロット法を利用して、ローヤルゼリーペプチドの遺伝子の解析を行なった。
その結果、図5に例示したように、ローヤルゼリーペプチド(アピシミン)の遺伝子は、2つのイントロンを有するclass II遺伝子の特徴を示し、ハプロイドゲノムあたり1コピーであることを判断することができた。
なお、図中のレーン「BamH I」は制限酵素BamH I処理したサンプル、レーン「Hind III」は制限酵素Hind III処理したサンプル、「Pst I」は制限酵素Pst I処理したサンプル、「Xho I」は制限酵素XhoI処理したサンプルをそれぞれ示している。
<2>ノーザンブロット法
また、ノーザンブロット法により、セイヨウミツバチの日齢(ステージ)および器官とローヤルゼリーペプチドの遺伝子発現との関係を解析した。その結果、図6に例示したように、働きバチにおいても育児蜂から採餌蜂へと分化した下咽頭腺で強く発現していることを確認した。
なお、レーン1から6は、羽化後7日の働きバチ(育児蜂)から10μgのtotal RNAを抽出したものであり、それぞれ頭部、胸部、腹部、脳、下咽頭腺および大顎腺を示している。また、レーン7は羽化後0日の下咽頭腺、レーン8は羽化後7日の下咽頭腺、レーン9は羽化後30日の働きバチ(採餌蜂)の下咽頭腺からそれぞれ抽出した10μgのtotal RNAである。
[実施例6]:ローヤルゼリーペプチド(アピシミン)の発現システム
公知の方法(たとえば、Sambrook,J.,et al.,Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989等)に従い、この出願のローヤルゼリーペプチドの遺伝子を大腸菌に導入して、大量発現系を構築し、組換えローヤルゼリーペプチドとして発現を行った。
<1>ローヤルゼリーペプチド遺伝子の構築
本実施例に用いたローヤルゼリーペプチド遺伝子は、大腸菌の使用頻度の高いコドンを参考に塩基配列を設計し、これを基に図7に例示したとおりのオリゴヌクレオチド(フラグメント1から8)を作製し、PCR反応によって得られたものである。作製した上記オリゴヌクレオチドは、センス側およびアンチセンス側の各4種類(計8種類)であり、アニーリングする部分10塩基分をオーバーラップするよう設計したものである。
なお、フラグメント1は配列番号4、フラグメント2は配列番号5、フラグメント3は配列番号6、フラグメント4は配列番号7、フラグメント5は配列番号8、フラグメント6は配列番号9、フラグメント7は配列番号10、フラグメント8は配列番号11としてそれぞれ例示した。
具体的な方法としては、フラグメント2から7(それぞれ50pmol)とT4 polynucleotide Kinase(10U/20μl)を含む反応液(50mM Tris−HCl(pH8.0)、10mM MgCl、5mM DTT、0.5mM ATP)とを37℃、30分間反応させることにより、5’末端のリン酸化を行なった。反応後のサンプルを、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(PCI)で抽出し、エタノール沈殿にて回収した。次に、各フラグメントを混合し、アニーリング反応を行なった。アニーリングには、フラグメント1および8(それぞれ10pmol)と上記リン酸化処理を行なったフラグメント2から7(それぞれ10pmol)とを含む反応液(10mM Tris−HCl(pH7.5)、10mM MgCl 1mM DTT、50mM NaCl)を混合し、このサンプルをサーマルサイクラーにセットし反応を行なった。この反応の条件プログラムは、95℃で5分間の熱変性を行ない、次に90分間で25℃に下がるようにプログラム設定してアニーリング反応を行なった。この反応により2本鎖DNAが作製され、これを鋳型DNAとして、PCR反応を行なった。PCR反応は、前記の鋳型DNA(1μl)、センスプライマーとアンチセンスプライマー(各0.4μM)を含む反応液(10mM Tris−HCl(pH8.3)、50mM KCl、1.5mM MgCl、0.001% gelatin、200μM dNTP、1.25U/50μl Ampli Taq Gold)で行なった。なお、センスプライマーとしては、LIC−forward primer(配列番号12)を、アンチセンスプライマーとしては、LIC−reverse primer(配列番号13)をそれぞれ使用し、これらプライマーそれぞれには、発現ベクターに特異的な配列を付加している。
上記のPCR反応によって、得られたPCR産物は、TA Cloning Kitを用いてサブクローニングを行ない、得られたプラスミドの塩基配列にミスセンスがないことをDNAシークエンサーを用いて確認した(図示せず)。
<2>発現ベクターの作製
本実施例における発現ベクターは、S−Tag、His−Tagを含むチオレドキシンの融合タンパク質を発現するLigation−independent clonig(LIC)VectorのpET32Xa/LIC(Novagen社製)を使用し、添付のプロトコールに従って作製したものである。上記(I)にて得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で分離し、Suprec−01(登録商標)で精製してエタノール沈殿で回収した。PCR産物のLICサイトの形成は、T4 DNA Polymeraseの3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を利用して、PCR産物の3’末端からグアニン塩基(G)の直前まで削った。すなわち、PCR産物(0.2pmol)とT4 DNA Polymerase(1U/20μl)を含む反応液(50mM Tris−HC1(pH7.5)、101mM MgCl、10mM β−ME、5mM DTT、2.5mM dGTP)を混合し、22℃で1時間アニーリング反応を行なった。この反応液1μlをコンピテントセル(E.coliBL21(DE3)、Novagen社製)に公知の方法で形質転換し、形質転換した大腸菌株に目的とするローヤルゼリーペプチドをコードする遺伝子の有無を、コロニーPCRで確認した。
<3>組換えタンパク質の発現および精製
上記<2>によって得られた、ローヤルゼリーペプチド遺伝子が導入された大腸菌株をLB Broth 3mlに植菌し、37℃で一晩の前培養を行なった。前培養後、この培養液2mlを前培養で用いた培養液と同一の培養液LB Broth 200mlに加え、37℃で2時間の培養を行なった。そして、最終濃度1mMのIPTGを加えてさらに37℃で3時間培養し、遺伝子発現の誘導を行なった。その後、菌体はPMSF(最終濃度0.625μg/ml)を含むPBS中でポリトロン型ホモジナイザー(ultra−turrax T8、IKA)を用いて抽出し、25000×g、20分間で遠心分離を行なって上清を回収し抽出画分を得た。この抽出画分から融合タンパク質(すなわち、ローヤルゼリーペプチドを含む)の精製は、この融合タンパク質に付加されているHis−Tagを利用して行なった。具体的には、His−Tagと結合するNiイオンを固定化された樹脂による金属キレートアフィニティークロマトグラフィーで精製を行なった。アフィニティー樹脂は、Ni−NTA Agarose(Qiagen社製)を使用し、バッチ法で精製した。PBSで平衡化したNi−NTA Agaroseに抽出画分を加え、低温条件下で穏やかに混合して樹脂に結合させた。次に、700×g、3分間で遠心分離を行なって上清を除去しPBSで樹脂を洗浄し、さらに樹脂と非特異的に結合しているタンパク質を溶出するため、0.05M Imidazoleを含むPBSを加えて樹脂を洗浄した。続いて、0.5M Imidazoleを含むPBSを加えて低温条件下で穏やかに混合し、目的とする融合タンパク質を溶出した。そして、溶出した融合タンパク質を700×gで3分間の遠心分離を行って上清を回収し、この上清を限外濾過(Ultrafree−4 centrifugal filter unit、MWCO 10000、Millipore社製)で酵素処理用バッファー(50mM Tris−HCl(pH8.0)、100mM NaCl、1mM CaCl)に置換した。そして、融合タンパク質1mg当たり、Factor Xa(Protein Engineering Technology Aps)5μgを加え、37℃で24時間の消化反応させた。
上記のとおり消化させた反応液は、逆相クロマトグラフィー用カラム(RESOURCR RPC 3ml、Pharmacia Biotech社製)を接続した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムで精製した。0.1%TFAで平衡化したカラムにサンプルを注入し、流速1ml/min.で0.1%TFAを含むアセトニトリルの濃度勾配で溶出させた。検出には、紫外分光光度計検出器で波長215nmにおける吸光度を測定し、その吸光度の変化をレコーダーに記録した。
結果は、図8に例示したとおりであった。また、図中の水平バーのピークを、トリシンSDS−PAGEで分析し、目的とするローヤルゼリーペプチドが単離されたことを確認した。
[実施例7]:ローヤルゼリーペプチド(アピシミン)の機能解析
<1>女王蜂への分化誘導効果
実施例6で得られたローヤルゼリーペプチドを用いて、機能解析を行なった。具体的には、既存のミツバチ人工飼育方法に従って、ミツバチを飼育した。その際に、人工餌料中に1頭あたり500ngの前記のローヤルゼリーペプチドを添加して与えた。一方、対照区としてはローヤルゼリーペプチドの代わりに、ウシ血清アルブミンを使用した。
結果は、表1に示したとおりである。幼虫から成虫化率は20%程であったが、ローヤルゼリーペプチドを摂取させた幼虫の内、中間体を出現させることができた。このことから、この出願の発明のローヤルゼリーペプチドは、女王蜂への分化誘導における補助的な機能を有する因子であることが考えられる。

<2>免疫賦活試験
(a)実験動物と培地組成
実験動物は、ICR系マウス(雌、日本SLC)を用いた。
また、培地は、10%ウシ胎児血清(FCS)、2mM L−グルタミン、50μM2−メルカプトエタノール、100Units/ml ペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを含むRPMI培地(日水製薬社製)を使用し、5%CO、37℃、湿潤の条件下で培養した。
(b)細胞浮遊液の調整
細胞浮遊液の調整は、以下のステップで行なった。
すなわち、ジエチルエーテルで麻酔したマウスを頚椎脱臼して固定した後、解剖用ハサミとピンセットを用いて脾臓を摘出して、PBS(−)(137mM NaCl、2.7mM KCl、2mM NaHPO・12HO、1.5mM KHPO)を10ml入れたディッシュへ移した。ディッシュ内で、脾臓をホモゲナイズし、これを金属メッシュを用いて50mlチューブ(FALCON社製)内へろ過して細胞液として調整した。これを1100rpm、10分間で遠心分離を行い、トリス塩化アンモニウム溶液(0.14M 塩化アンモニウム、1.7mMTris−HCl(pH7.65))を5ml加えて、5分間のインキュベーをした。この操作を2回繰り返して、赤血球を除去した。
次いで、洗浄のためのPBS(−)を30ml加えて、1100rpm、10分間で遠心分離を2回繰り返し、上清を取り除いた。そして、上記(a)のRPMI培地40mlを加え、フラスコに移して、COインキュベーター(和研薬社製)内で、37℃、2時間でインキュベートし、フラスコ内の上清を新しいチューブに移したものをリンパ細胞浮遊液とした。
調整した上記のリンパ細胞浮遊液は、0.4%トリパンブルー溶液で染色し、プルケルチュク血球計算板を用いて細胞数を計測し、細胞数が1×10細胞/mlとなるよう培地で調整したものを、免疫の活性試験に用いた。
(c)免疫賦活試験
上記<2>(b)で調整したリンパ細胞浮遊液を96穴マイクロプレート(IWAKI社製)に100μlづつ入れ、リンパ細胞浮遊液の最終濃度が1%となるようにジメチルスルホキシド(DMSO)で細胞液を溶解し、各ウェルに11μl添加した。これと同時に、免疫細胞(本実施例の場合は、リンパ球細胞)の代謝活性による還元量を測定することができるalamar blue(登録商標)(和光純薬工業社製)を10μlづつ各ウェルに添加し、12時間ごとに4日間、波長590−620nmに設定したマイクロプレートリーダー(ナルジュヌンクインターナショナル社製)で吸光度の変化を測定し、リンパ球に対する各画分および単離化合物の影響を解析した。
結果は、図9に示したとおりである。ローヤルゼリーペプチドを添加していない場合と添加した場合とを比較することにより、この出願の発明のローヤルゼリーペプチドの効果が顕著に現れていることが確認することができた。
図中の黒菱形は無添加のコントロール、黒丸はポジティブコントロールのリポポリサッカライド(LPS)を3μg/ml添加したもの、黒四角は組換えローヤルゼリーペプチドを3μg/ml添加したもの、黒三角は組換えローヤルゼリーペプチドを6μg/ml添加したものをそれぞれ示している。
[実施例8]:抗ローヤルゼリーペプチド抗体を用いた女王蜂への分化誘導の阻止
<1>抗ローヤルゼリーペプチド抗体の作製
図3および図4に例示した、ローヤルゼリーペプチドのアミノ酸配列(配列番号14〜配列番号17)に基づいて、24番から35番のアミノ酸配列を利用し、抗原となり得るペプチド「CSIVSGANVSAVL」を合成した。この合成ペプチドを抗原として、通常の方法で抗体作製をするため、ウサギ2羽(品種:JWクリーン)に1mg/回を投与して、免疫感作実験を行なった。この免疫感作実験開始5週から7週間に、追加免疫を実施しながら試料採血し、ELISAで抗体価を調査しながら最終的に全血採血し、この血清を次の実験に供した。
<2>抗原ペプチドを用いたAffinity精製法
20mlの血清の40%硫安沈殿物を、20mMリン酸と150mMNaCl Buffer(pH7・4)で透析し、0.45μmのフィルターでろ過し、精製用サンプルとした。
HNS−activated Sepharose 4FF 担体約2mlに抗原ペプチド約10mgを結合させて、Affinityカラムを作製した。平衡化Buffer(20mMリン酸、150mMNaCl Buffer(PH7.4))を流し、サンプルをアプライして、カラム内を2時間平衡化Bufferで循環し、その後ベースラインに戻るまで平衡化Bufferを流した。溶出Buffer(100mlクエン酸−NaOH、(pH3.0))で血清中の抗体を溶出した。
吸光度280nmで溶出ピークを回収し、PBS(−)で透析して0・45μmのフィルターでろ過し後に、6mlの精製物を得ることができた。総タンパク質量は355μgであった。
<3>精製抗体を用いたウェスタンブロツティング
内勤働きバチから下咽頭線を摘出し、そのタンパク質試料をトリシンSDS−PAGEで分離して、分離後のゲルは、セミドライ式プロティング法でPVDF膜に転写した。転写後のPVDF膜は、ブロッキング剤として5%スキムミルクを含むTBS−Tに一晩浸漬してブロッキング処理を行なった。次に、TBS−Tで洗浄後、上記<2>にて得られた精製抗体を抗体希釈液(1% gelatin/TBS−T)で100倍希釈して、一次抗体反応としてこの抗体溶液にPVDF膜を浸漬し、室温で1時間反応させた。その後、TBS−Tで再度洗浄し、二次抗体反応として、抗体希釈液で2000倍希釈した2次抗体(Horseradish peroxidase 標識抗ウサギIgGヤギIgG)と室温で1時間反応させた。検出は、ECL(登録商標)を用いて化学発光させ、シグナルをX線フィルムに露光させた。
結果は、図10に示したとおりであった。この図10に示したように、内勤働きバチからの下咽頭腺におけるタンパク質試料と、作製した抗体(抗ローヤルゼリーペプチド抗体)におけるシグナルバンドが、分子量5500付近で観察された。すなわち、ローヤルゼリーペプチドの合成器官が、下咽頭腺であることが確認でき、またこの結果は、作製した抗体がローヤルゼリーペプチドに反応するものであることを明らかにすることができた。
<4>女王蜂への分化誘導効果を阻止するローヤルゼリーペプチド精製抗体一
上記<1>〜<3>で得られた精製抗体を用いて、既存のミツバチ人工飼育法に従って、ミツバチを飼育した。ここでは、人工飼料中のローヤルゼリー抽出画分区(ローヤルゼリーから分子量100〜10000の抽出画分を50mg/7mlに調整したもの)をポジティプコントロールとし、対照区には牛血清アルブミン(50mg/7ml)を使用した。ローヤルゼリーペプチドの抗体区としては、ポジティブコントロールとしたローヤルゼリーから分子量100〜10000の抽出画分50mgを7mlに調整し、これに抗体20μg添加したものを使用した。結果は、表2に示した。

この表2に示したように、対照区では幼虫からの成虫化率は13%程度、ローヤルゼリー抽出画分区では17%程度、ローヤルゼリーペプチド抗体区では29%であった。それぞれの成虫化したものの内、対照区では、中間体と働きバチの出現は50%であった。ポジティブコントロールのローヤルゼリー抽出画分区では、25%が女王蜂で、75%が中間体となり働きバチはまったく出現しなかった。ローヤルゼリーペプチド抗体区では、女王蜂の出現は観察されず、中間体が86%で働きバチの出現も14%となった。
この結果は、ローヤルゼリー抽出画分の0.04%(20μg÷50mg)のような低濃度のローヤルゼリーペプチド抗体を人工飼料中に添加することで、女王蜂誘導を阻止する効果があることを示している。したがって、この結果によって、ローヤルゼリーペプチドが女王蜂への分化誘導における補助的な機能を有する因子であることを改めて確認できた。
【産業上の利用可能性】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、女王蜂の誘導補助因子としての機能を有し、また動物の生体防御系の向上(免疫力の賦活効果)を実現することのできるローヤルゼリーペプチドおよびこれを含有する組成物が提供される。
【配列表】











【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
女王蜂分化誘導補助因子としての機能および動物の免疫力賦活因子としての機能の少なくともいずれかの機能活性を有することを特徴とするローヤルゼリーペプチド。
【請求項2】
請求項1のローヤルゼリーペプチドをコードする遺伝子配列を有する発現カセットを備えた発現ベクター。
【請求項3】
請求項2の発現ベクターによって、形質転換された形質転換細胞。
【請求項4】
請求項3の形質転換細胞から産生されるローヤルゼリーペプチド。
【請求項5】
請求項1または4のローヤルゼリーペプチドを有効成分として含有する組成物であって、ミツバチの女王蜂分化誘導補助効果を向上させる機能および動物の免疫力賦活効果を向上させる機能の少なくともいずれかの機能を有することを特徴とする組成物。
【請求項6】
請求項5の組成物をミツバチの幼虫に投与することにより、幼虫の成長を促進し、女王蜂への分化を誘導させることを特徴とするミツバチの女王蜂への誘導方法。
【請求項7】
請求項5の組成物を動物に投与することにより、動物の免疫力賦活効果を向上させることを特徴とする動物の免疫力賦活方法。
【請求項8】
請求項1のローヤルゼリーペプチドをコードする遺伝子配列を導入した非ヒト生物の初期胚、受精卵および胚幹細胞いずれかを個体発生して得られる非ヒト生物およびその子孫生物であって、体細胞染色体中に上記遺伝子を保有し、ローヤルゼリーペプチドを発現することを特徴とするトランスジェニック生物。
【請求項9】
非ヒト生物が、植物または動物のいずれかであることを特徴とする請求項8の非ヒト生物。
【請求項10】
動物が、昆虫類であることを特徴とする請求項9の非ヒト生物。
【請求項11】
昆虫類が、カイコであることを特徴とする請求項10の非ヒト生物。

【国際公開番号】WO2005/030951
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514301(P2005−514301)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014544
【国際出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】