説明

ローラおよびその製造方法

【課題】真円度の高いローラと、このローラを容易に製造し得る方法を提供することを目的とする。
【解決手段】芯金12を挿通したスポンジ状弾性体14を、ピーリング加工により円筒状に成形したローラであって、得るべき目標外径より半径方向外方へ所定距離だけ離間させた位置からピーリング加工を開始し、前記芯金12を回転軸とする回転運動に連動して、ピーリング位置を該芯金12の方向へ連続的に移動させて目標外径に到達させた後、このピーリング位置を維持することでスポンジ状弾性体14を目標外径を有する円筒形状となし、ピーリング位置が目標外径に至った部位近傍でローラ外周面の軸方向に沿って形成される線状部の突出高さが低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ローラおよびその製造方法に関し、更に詳細には、真円度が高く安定した画像を形成するのに適したトナー供給に好適に採用されるローラと、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のローラは、バイトによる研磨または発熱ニクロム線による溶融切断により外面を加工して円筒体、すなわちローラ状に成形した発泡ウレタンや発泡シリコン等のスポンジ状弾性体に芯金を挿通させることで製造されている。このようなローラは、帯電によって形成される静電潜像をトナーを用いて反転現像することで可視化するものであるため、該ローラの外周面は該トナーの層が均質に付与できる状態となっていることが望まれる。
【0003】
しかしニクロム線の溶融切断加工を密度の比較的高いスポンジ状弾性体に施すと、その表面の溶融度合が大きく表面に薄膜が形成されて、ローラのトナーの搬送性が低下したり、溶融物がニクロム線に付着してその切断能力の低下や切断抵抗の増大を招来し、外径の寸法精度を著しく悪化させる問題が生じる。一方、研磨加工によるローラの場合、加工に際して吸引や吹き付けによる研磨粉除去が必要であるが、これはローラ内部に入り易いため、完全な除去が難しく該ローラの外周上に意図しない凹凸が形成され、その結果、現像した画像に縦方向の白いスジが現れてしまう問題があった。またスポンジ状弾性体の表面に、セルの切り残しがケバ状に逆立って残留し、これが現像画像を悪化させたり、ローラ外径の不均質化を招く。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような問題を解決すべく、以下の[特許文献1]に記載する発明「ローラ、その製造方法及び現像装置」が案出されている。この発明は、芯金の表面に担持させたスポンジ状弾性体をピーリングにより加工して円筒体に成形するものであり、高速で回転するバンドナイフを用いてスポンジ状弾性体を切削するピーリング加工により、弾性体の外径加工をするので、得られたローラの表面にはケバが発生することがなく、千切れたケバが現像スリーブと弾性ブレードの間に挟まって、現像スリーブへの一成分現像剤の非磁性トナーの塗布を妨げるというようなことがなく、従って、現像した画像上に縦方向の白スジを発生することがない利点を有する。
【特許文献1】特開平10−104937号公報
【0005】
この発明における装置構造は省略するが、芯金12の表面に担持させたスポンジ状弾性体14にピーリング加工を施す製造工程を図7を用いて以下に説明する。すなわちピーリング加工すべきスポンジ状弾性体14に対して、得るべき目標外径TDに向かってナイフ42を、目標外径TDの位置における接線方向Lに沿うように切り込ませる(図7(a)参照)。これと同時に回転自在に軸支されているスポンジ状弾性体14をナイフ42に向かうように、一定速度で回転させ始める(図7(b)参照)。そしてスポンジ状弾性体14の回転は進行し(図7(c)および図7(d)参照)、最終的にナイフ42が目標外径TDに沿ってスポンジ状弾性体14を一周して、目標外径TDに切り込まれた位置近傍に至ると共に、スポンジ状弾性体14からピーリングされたピーリング片18がその回転に伴って順次排出される(図7(e)参照)。なお図7において、2点鎖線は得るべきローラ50の外形状(すなわちピーリング加工する目標外径TD)を表している。
【0006】
ここで図7(a)および図7(b)から明らかなように、スポンジ状弾性体14に対するナイフ42の切り口、すなわち切込位置SPは、スポンジ状弾性体14の外周面から一定の角度を持って目標外径TDに至っているため、ピーリング片18の終端部18aは徐々にその厚みが小さくなる形状を呈する。また同時に、ピーリング加工が完了に近づいた時点では、ピーリング片18のピーリング前の円弧形状や排出方向等に関連して、終端部18a近傍に矢印Aで示す弾性回復によって円弧形状に戻ろうとする復元応力に起因する不要な力が掛かる(図7(e)参照)。このような状態においては、終端部18aがナイフ42によって切断される前に、当該部位に掛かる復元応力に対抗しきれず千切れてしまうことになる(図7(f)参照)。このようにして千切れた部分には、図7(f)、図8および図9に示す如く、目標外径TDまでピーリングしきれなかった突起が形成されることになる。
【0007】
この突起は、ピーリング加工に供されるスポンジ状弾性体14のにおいてナイフ42に沿って、すなわち芯金12の方向に沿った線状部14aとして形成される(図9参照)。このとき図7および図8に示す突出高さHは、終端部18aにおける千切れ位置BP(図7参照)におけるピーリング片18の厚みに依存し、この千切れ位置BPはスポンジ状弾性体14の物性を決定する材質にもよるが、基本的には終端部18aがなす角度、すなわちナイフ42のスポンジ状弾性体14への切込位置SP(図7参照)における接線とナイフ42とが形成する角度θにより大きな影響を受ける(図7(a)参照)。ピーリング片18は、前述の如く、ピーリング加工に際して形状回復しようと自ら発生させた復元応力に対抗し切れなくなって千切れるが、この角度θが大きい程、終端部18aにおけるピーリング片18の厚みは急速に小さくなり、言い換えれば切込位置SPに充分近づかなければピーリング片18の厚みも大きい部分を巻き込んで千切れるため、線状部14aの目標外径TDからの突出高さ(段差)Hが大きく発現してしまう。
【0008】
ローラ50の外周面50aに、線状部14aの如き突起が存在すると、静電潜像を可視化するトナーが部位によって不均質な状態となり。その結果、現像した画像に濃淡が発生する印刷不良が現れる致命的な問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を克服するため本発明に係るローラは、芯金を挿通したスポンジ状弾性体を、ピーリング加工により円筒状に成形したローラであって、
得るべき目標外径より半径方向外方へ所定距離だけ離間させた位置からピーリング加工を開始し、前記芯金を回転軸とする回転運動に連動して、ピーリング位置を該芯金の方向へ連続的に移動させて目標外径に到達させた後、このピーリング位置を維持することでスポンジ状弾性体を目標外径を有する円筒形状となし、
ピーリング位置が目標外径に至った部位近傍でローラ外周面の軸方向に沿って形成される線状部の突出高さ(段差)が低減されていることを特徴とする。
【0010】
前記課題を克服するため本発明に係るローラの製造方法は、芯金を挿通したスポンジ状弾性体を、ピーリング加工により円筒状に成形するローラの製造方法において、
得るべき目標外径より半径方向外方へ所定距離だけ離間させた位置からピーリング加工を開始し、
前記芯金を回転軸とする回転運動に連動して、ピーリング位置を該芯金の方向へ連続的に移動させることで最終的に目標外径に到達させ、
この到達したピーリング位置を維持することで、目標外径を有するローラを製造するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るローラおよびその製造方法によれば、ピーリング加工を施すに際して、得るべき目標外径より半径方向外方へ所定距離だけ離間させた位置からピーリング加工を開始した後、次第に目標外径に到達させるようにしてローラを製造するようにしたので、ピーリング加工に伴って発生するローラ外周面の線状の突出高さ(段差)が大きく低減され、真円度が高く安定した画像を形成するのに適したローラを製造し得る。殊にその外周面の凹凸が画像の出力に多大な影響を与えるトナー供給ローラ等の場合、その効果は非常に大きなものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の好適な実施例に係るローラおよびその製造方法につき以下に説明する。本発明に係るローラは、所要のスポンジ状弾性体に対して芯金を挿通させ、この芯金を回転軸として回転状態にあるスポンジ状弾性体の外表面にナイフをあて、その外周部を回転に合わせて順次ピーリング片として剥いでいく、所謂ピーリング加工を施こすに際して、得るべき目標外径より半径方向外方へ所定距離だけ離間させた位置からピーリング加工を開始して、回転運動に連動してピーリング位置を芯金の方向へ連続的に移動させて目標外径に到達させた後、このピーリング位置を維持することで真円度の高いローラを製造し得ることを知見したものである。またスポンジ状弾性体の芯金の直径方向に沿った断面形状によらず、一度の加工で真円度の高いローラが製造できることもあわせて知見した。なお図7〜図9で示した参照番号と同一の部材については、必要に応じてその記載を省略する。
【0013】
実施例に係るローラの製造工程は、図1に示す如く、所要の断面形状を有するスポンジ状弾性体(本実施例においては円筒形)に対して芯金を挿通して、ピーリング加工をなし得る形状とするスポンジ状弾性体準備工程S1と、スポンジ状弾性体に対してナイフを用いてピーリング加工を施すピーリング加工工程S2と、最終工程S3とから構成される。ここでスポンジ状弾性体準備工程S1は、例えばポリウレタンフォームからなるスポンジ状弾性体と、これに挿通する芯金とを準備して、該芯金をスポンジ状弾性体に挿通させてローラの元となる準備体とし、これを後述する製造装置40にセットする工程である。ここで使用されるスポンジ状弾性体の種類としては、ポリウレタンフォーム等の発泡体を形成し得る素材であれば如何なるものでも採用可能であり、公知の方法によってスポンジ状弾性体とされる。また最終工程S3はピーリング加工によって得られたローラに対して、各種後処理および検査等が実施する工程であり、従来のローラの製造方法と略同様であるため、詳細については省略する。
【0014】
本実施例で使用する製造装置40は、図2に示すように、得るべきローラ10の軸方向に沿った長手方向の長さ以上に設定されたナイフ42と、このナイフ42に対して上下方向の任意位置に制御下に移動自在で、かつ進退自在に設置された支持台44とから基本的に構成される。そして支持台44は、ピーリング加工することでローラ10となる準備体20を、挿通された芯金12の両端を両側から把持することで水平かつ回転可能に軸支する支持部46と、準備体20を制御下に回転等させるモーター49や、当該制御並びにナイフ42に対する進退駆動および上下駆動を制御する図示しない制御装置とから構成されている。また本実施例においては、支持台44に対して準備体20を供給する機構や、ピーリング加工の完了したローラ10を支持台44から取り外す機構として、公知のNC制御マニュピレータを採用し、本製造装置40に併設するようにして、製造工程の自動化がなされている。
【0015】
そしてナイフ42において、その刃先が指向する方向の反対方向には、ピーリング加工により準備体20から連続的に排出される薄皮状のピーリング片18に所要の張力を付勢して、効率のよいピーリング加工をなし得る張力機構48が配設されている。本実施例においてこの張力機構48としては、上方からピーリング片18をナイフ42に押圧しつつ、ピーリング加工の回転運動に連動し、ピーリング片18を排出するように所定速度で回転する押圧可能なニップローラ48aが採用されている。そしてピーリング片18に所要の張力を付勢するために、上下方向に対する位置決め移動および回転速度について任意に制御可能となっている。またピーリング片18に付勢される張力は、ナイフ42と、ピーリング片18をナイフ42に対して押圧するニップローラ48aとの間隔によって設定されている。具体的にはピーリング加工されるスポンジ状弾性体14の物性および目標外径TDを考慮して、ニップローラ48aがピーリング片18に対して食い込む量、すなわち押圧量を経験的に導出し、ここからナイフ42とニップローラ48aとの間隔を算出している。この他本実施例においては、ナイフ42の刃先が指向する方向の反対方向に0.5mm離れた部位に位置決めされている。この位置決めによって、ピーリング片18のピーリング加工前の円弧形状への形状回復を効率的に抑制し得る。
【0016】
ピーリング加工工程S2は、図3に示す第1段階S21、第2段階S22および図4に示す第3段階S23の三段階からなっている。そして本ピーリング加工工程S2を実施するために回転される芯金12の回転速度は、等速度として30〜60°/秒の範囲に設定されている。この速度が30°/秒未満となると、実際の製造に用いるには時間が掛かり過ぎ、一方60°/秒を超えると、ナイフ42に対するピーリング加工対象であるスポンジ状弾性体14の移動速度が相対的に高過ぎて、スポンジ状弾性体14の材質にもよるが、ナイフ42の刃先が安定せずに目標とする軌跡(ピーリング加工の跡)Tを維持できなくなる、すなわちローラ10の外周形状の真円度が低下する問題が生じる。またこの回転速度については、後述する第2段階S22だけ高い値として、他の支持台44が移動してナイフ42の位置がふらつき易い第1段階S21および第3段階S23だけは前述の30〜60°/秒の範囲に設定するようにしてもよい。
【0017】
第1段階S21は、得るべき目標外径TDより半径方向外方へ所定距離も離間した位置(切込位置SP)からピーリング加工を開始し(図3(a)参照)、芯金12を回転軸とする回転運動に連動して、ピーリング位置を芯金12の方向(半径方向内方)へ連続的に移動させて目標外径TDに到達させる(図3(b)〜(d)参照)段階である。本第1段階S21においてピーリング加工の開始位置(切込位置SP)は、目標外径TDより半径方向外方へ最も離間した外周面に設定されており、この切込位置SPを芯金12回転の基準、すなわち0°とし、芯金12が90°回転する間に徐々に支持台44が上昇して、ナイフ42が目標外径TDに至るように設定されている。そしてピーリング加工の開始位置については、目標外径TDからの離間距離が0.5mm以下となるよう設定されている。これは前述([0016])の回転速度および後述([0018])の上昇速度から算出される値であり、この値を超えるとスポンジ状弾性体14の材質にもよるが、ナイフ42に対するピーリング加工対象であるスポンジ状弾性体14の相対的に移動速度が高過ぎて、ナイフ42がふらついて目標とする軌跡Tを維持できなくなったり、背景技術([0007])で述べたθが大きくなるに従って突出高さHが大きくなり、ローラ10の外周形状の真円度が低下する問題が生じる。なお本実施例では、スポンジ状弾性体14におけるピーリング加工位置、すなわちナイフ42の高さ位置を変化させるために支持台44(スポンジ状弾性体14)を上昇させているが、こちらを固定してナイフ42を下降させるようにしてもよい。
【0018】
そして90°に至るまでは等速的に上昇し、30°毎にスポンジ状弾性体14の外周面から目標外径TDまでの距離の1/3ずつ移動するように設定されている。この目標外径TDに至るまでの角度については、90〜180°の範囲に設定される。この角度が90°未満であると、背景技術([0007])で述べたθが大きくなるに伴って突出高さHが大きくなり、ローラ10の外周形状の真円度が低下する問題が生じ、一方180°を超えると、後述する第3段階S23完了に必要とされる時間が大きくなり、製造効率が悪化する。また支持台44の上昇速度、すなわちスポンジ状弾性体14(準備体20)の上昇速度は、0.2mm/秒以下に設定されている。この上昇速度が0.2mm/秒を超えると、スポンジ状弾性体14の材質にもよるが、ナイフ42に対するピーリング加工対象であるスポンジ状弾性体14の相対的に移動速度が高過ぎて、ナイフ42がふらついて目標とする軌跡Tを維持できなったり、背景技術([0007])で述べたθが大きくなるに従って突出高さHが大きくなり、ローラ10の外周形状の真円度が低下する問題が生じる。
【0019】
第2段階S22は、スポンジ状弾性体14においてナイフ42が目標外径TDに到達した後、回転運動に従って一周して至る切込位置SPまでの間に目標外径TDにナイフ42の位置、すなわちピーリング位置を維持してピーリング加工を持続する段階である。なお本実施例においては、本第2段階S22における芯金12の回転速度は、前述([0016])の如く、30〜60°/秒の範囲に設定されている。
【0020】
そして第3段階S23は、第2段階S22に引き続き、目標外径TDにナイフ42の位置を維持してピーリング加工を持続し、切込位置SPから切り込んだナイフ42が既に形成したピーリング加工の軌跡Tに合致させるようにして、目標外径TDを備えるローラ10を得るピーリング加工を完了する段階である(図4参照)。一般的には、ピーリング加工開始(切込位置SP)から、340〜450°の角度でピーリング加工が終了するように設定されている。時系列に従って詳細に説明すると、ピーリング加工開始(切込位置SP)から360°、すなわち芯金12が一周した時点でナイフ42は、芯金12から同一角度方向にピーリング加工に伴う軌跡Tを2つ形成し始め(図4(a)参照)、ピーリング加工の進行に従って第1段階S21で形成された軌跡Tが徐々に芯金12に近づいてくるため、排出されるピーリング片18の厚みが小さくなっていき、ピーリング位置が終端部18aに近づく(図4(b)および(c)参照)。そして第1段階S21で形成された軌跡Tと、本第3段階S23で形成される軌跡Tとが重なり合うことになり、この時点でピーリング片18の終端部18aが千切れて、ピーリング加工前のスポンジ状弾性体14から目標外径TDを備えるローラ10と加工する際に不要とされる外周部分が全てピーリング片18として排出される(図4(d)参照)。そして最終的に、ローラ10を支持台44から脱着させてナイフ42から離間させてピーリング加工を完了する。
【0021】
そしてこの第1段階S21で形成された軌跡Tと、第3段階S23で形成される軌跡Tとが重なり合っている重複部位CP近傍に千切れ位置BPが形成されることになるが、この場合、終端部18aがなす角度θは、90°の回転運動を利用してピーリング位置を徐々に目標外径TDに近接させているため非常に小さな値となっているため、千切れ位置BPにおけるピーリング片18の厚みは薄く非常に小さな値となる。従ってこの厚みによって決定される線状部14aのローラ10のローラ外周面10aからの突出高さHも小さくなり、線状部14aによって発生する印刷不良も大きく抑制されることになる。
【0022】
また張力機構48は、ナイフ42に対してピーリング片18を押圧しつつ、かつ芯金12の回転速度によって決定されるピーリング片18の排出速度より少し速い速度をピーリング片18に与えるように回転速度を制御されて、ナイフ42の切込方向の反対方向に向かってピーリング片18を送り出している。そしてこのような送り出しの機構とすることで、ピーリング片18のピーリング加工前の円弧形状への形状回復に由来する復元応力を抑制し、かつピーリング加工をなすナイフ42の切込もより良好になし得るため、千切れ位置BPを、より重複部位CPに近接させることが可能となる。ピーリング加工をなすナイフ42の切込がより良好となるのは、ピーリング加工により排出されるピーリング片18が切り出されて排出される前の円弧形状を保持しようとするのに対し、ピーリング片18をニップロール48aによって上方から押圧することで、平面シート状態に規制して排出しているためである。すなわちピーリング片18が平面シート状態で排出されることにより、ナイフ42の刃先部分では常にピーリング加工元のスポンジ状弾性体14の外周面と、ピーリング片18とが略密着した状態下でピーリング加工が進行することになるためである。本実施例においてナイフ42と、ニップローラ48aとの間隔は、ピーリング片18に対して常に略同等の力を付勢するため、厚さが変動するピーリング片18(第3段階S23:図4参照)に対応して変動しているが、このためナイフ42とニップローラ48aとの間隔はこの変動分を考慮しつつ前述([0015])した内容によって決定している。
【0023】
また張力機構48は、第3段階S23に至った時点に製造装置40の上方の待機位置から制御下に下降し、ピーリング片18を押圧することで所定の張力を付勢するようにされているが、第1段階S21のピーリング開始した直後のピーリング片18が排出された時点から張力を付勢するように制御してもよい。この場合、第1段階S21においては、ピーリング片18の長さが短く、ピーリング加工前の円弧形状へ回復しようとする復元応力が殆ど働かないため(図3(c)参照)、張力機構48によるピーリング片18への力の付勢によりスポンジ状弾性体14の外周面がナイフ42の刃先が指向する切込方向の反対に引っ張られて、図5に示す如く、スポンジ状弾性体14に力Fが加わることでその形状が変形し、これに伴って力Fが付勢される前の軌跡Tが力が付勢された後の軌跡Tに変位することになる。この状態でナイフ42が、これまでと同様にピーリング加工を続行する場合、ナイフ42の切込方向がよりスポンジ状弾性体14の中心に向いた状態での加工となるため、その結果、ローラ外周面10aに芯金12の方向に沿って線状に凹んだ部分が形成される虞がある。従って、第1段階S21からピーリング片18に対して張力機構48によって力を付勢する場合、その力が過大なものとならないように注意する必要がある。
【0024】
本実施例では、図6(a)に示す如く、加工前のスポンジ状弾性体14の芯金12の直径方向に沿った断面形状(以下、単に断面形状と云う)として、円筒形であるものを採用した例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち加工前のスポンジ状弾性体14の断面形状として、図6(b)に示す如く、例えば矩形のような形状としてもよい。従って、本発明に係るローラの製造方法は、一方で様々な断面形状のスポンジ状弾性体14を一度の加工によって、真円度の高いローラとし得るだけでなく、既に予備的に略円筒状に加工されたローラの真円度向上の加工方法としても有用である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明に係るローラおよびその製造方法の採用により、真円度の高いローラを容易に製造し得る。殊にトナー供給ローラに適用した場合、現像スリーブへのトナーの供給不良による白スジ状の画像不良や、現像スリーブの傷つきによる印字品質の低下を防止することができるローラと、その製造方法を提供する。
【0026】
(実験例)
本発明に係るローラの製造方法よって製造されたトナー供給ローラと、従来技術によって製造されたトナー供給ローラとを、その線状部の突出高さによって比較した実験例につき、以下に説明するが、本発明に係るローラはこれに限定されるものではない。
【0027】
φ21の円筒状のスポンジ状弾性体に、φ6の芯金を挿通・接着剤で固定した準備体を用意し、本願発明の製造装置および方法(ピーリング加工条件は以下に記す)によって製造した実施例に係るφ16のトナー供給ローラと、ナイフを準備体に対して、φ16となる位置に切り込ませてピーリング加工開始して製造した比較例に係るφ16のトナー供給ローラとについて、夫々30本ずつ製造し、夫々の外周面に形成された線状部の該外表面からの突出高さを、レーザー測定装置(商品名 レザースキャンマイクロメータ LSM−6000;ミツトヨ製)により振れ寸法で計測してその平均値を実施例および比較例毎に算出した。
【0028】
(ピーリング加工条件)
・回転速度:30°/秒(実施例および比較例)
・目標外径に至るまでの角度:90°(実施例)
・準備体の上昇速度:0.2mm/秒(実施例)
【0029】
(実験の結果)
実験の結果、実施例に係るローラにおいては、線状部の突出高さ(段差)の平均値を0.2mm以下、上限公差を0.05mm以下と安定的であった。一方、比較例に係るローラにおいては、線状部の突出高さの平均値は0.25mmであり、更に1本のロール内にあっても上限公差を超える突出高さの部位が多く、また上限公差を越える突出高さを示す不良の率も高かった。これらのことから実施例に係るローラの方が真円度が高く、好適かつ安定した印刷が可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の好適な実施例に係るローラの製造工程を示す工程図である。
【図2】実施例に係るローラを好適に製造する装置の一例である。
【図3】実施例に係るローラのピーリング加工工程における第1段階を示す説明図である。
【図4】実施例に係るローラのピーリング加工工程における第3段階を示す説明図である。
【図5】スポンジ状弾性体の外周面がナイフの刃先が指向する切込方向の反対に引っ張られることに伴う軌跡の変位を示す説明図である。
【図6】スポンジ状弾性体の断面形状が異なる場合のピーリング加工による軌跡を示す説明図である。
【図7】従来技術に係るローラの製造工程を示す説明図である。
【図8】従来技術に係る製造方法によって製造されたローラの表面状態を拡大して示す縦断断面図である。
【図9】従来技術に係る製造方法によって製造されたローラの外観を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
10a ローラ外周面
12 芯金
14 スポンジ状弾性体
14a 線状部
18 ピーリング片
42 ナイフ
H 突出高さ
TD 目標外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金(12)を挿通したスポンジ状弾性体(14)を、ピーリング加工により円筒状に成形したローラであって、
得るべき目標外径(TD)より半径方向外方へ所定距離だけ離間させた位置からピーリング加工を開始し、前記芯金(12)を回転軸とする回転運動に連動して、ピーリング位置を該芯金(12)の方向へ連続的に移動させて目標外径(TD)に到達させた後、このピーリング位置を維持することでスポンジ状弾性体(14)を目標外径(TD)を有する円筒形状となし、
ピーリング位置が目標外径(TD)に至った部位近傍でローラ外周面(10a)の軸方向に沿って形成される線状部(14a)の突出高さ(H)が低減されている
ことを特徴とするローラ。
【請求項2】
前記線状部(14a)の突出高さは、0.2mm以下となっている請求項1記載のローラ。
【請求項3】
芯金(12)を挿通したスポンジ状弾性体(14)を、ピーリング加工により円筒状に成形するローラの製造方法において、
得るべき目標外径(TD)より半径方向外方へ所定距離だけ離間させた位置からピーリング加工を開始し、
前記芯金(12)を回転軸とする回転運動に連動して、ピーリング位置を該芯金(12)の方向へ連続的に移動させることで最終的に目標外径(TD)に到達させ、
この到達したピーリング位置を維持することで、目標外径(TD)を有するローラ(10)を製造するようにした
ことを特徴とするローラの製造方法。
【請求項4】
前記ピーリング加工の開始される位置が目標外径(TD)から離間している距離は、0.5mm以下に、前記回転運動は30〜60°/秒に、前記ピーリング位置は前記芯金(12)を回転軸として90〜180°回転した位置に至るまでに等速的に該目標外径(TD)に到達するように夫々設定される請求項3記載のローラの製造方法。
【請求項5】
前記ピーリング位置の芯金(12)の方向への連続的な移動は、固定されたナイフ(42)に対して、前記スポンジ状弾性体(14)を0.2mm/秒以下の速度で上昇させることでなされる請求項3または4記載のローラの製造方法。
【請求項6】
前記スポンジ状弾性体(14)のピーリング加工は、該加工によって排出されるピーリング片(18)を、ナイフ(42)の刃先が指向する方向の反対方向に、所要の張力を付勢した状態下で実施される請求項3〜5の何れかに記載のローラの製造方法。
【請求項7】
前記ピーリング片(18)に付勢される張力は、前記ナイフ(42)と、該ピーリング片(18)を該ナイフ(42)に対して押圧するニップローラ(48a)との間隔によって設定される請求項6記載のローラの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−112494(P2006−112494A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299353(P2004−299353)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】