説明

ローラレベラーによる厚鋼板の矯正方法

【課題】表面疵の発生を有効に防止できるローラレベラーによる厚鋼板の矯正方法を提供する。
【解決手段】熱間圧延後の厚鋼板Sを、デスケーリング装置2が備えられた側からローラレベラ1に通板するパスを矯正パスとし、デスケーリング装置の備えがない側から通板するパスを矯正を行わない非矯正パスとして、矯正パスを少なくとも3回行う。これにより、平坦度等の形状不良が改善され、さらに、内部応力の開放が十分になされ、かつ表面疵の発生がない厚鋼板とすることができる。また、ローラレベラ内に水スプレー噴射手段4を配設し、ローラレベラのレベリングロール1aおよび通板する厚鋼板に、水スプレーを吹き付けることにより、表面疵の発生をさらに抑制できる。また、デスケーリング装置の備えがない側に、水噴射装置3を設けて、通板前の厚鋼板に水を噴射してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラレベラーによる、熱間圧延後の厚鋼板の矯正方法に係り、とくに押し込み疵の発生防止に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延後の厚鋼板には、平坦度不良や内部応力が残留するという不具合が発生する場合があり、これらの不具合を解消するために、通常、熱間圧延後に熱間で、ローラレベラーによる矯正が行われている。熱間で行うローラレベラーによる矯正により、所望の平坦度を有し、内部応力(残留応力)が開放された歪なしの厚鋼板を得ることができるといわれている。しかし、1回の矯正パスでは、十分な平坦度を得ることができるとは限らず、また十分に内部応力(残留応力)を開放することができるとも限らないため、複数回の矯正パスを施すことが要求されている。
【0003】
このような問題に対し、例えば特許文献1には、ローラレベラーによる複数パス矯正方法が記載されている。特許文献1に記載された技術は、ローラレベラーに被矯正材を複数回(複数パス)、通板して矯正する方法で、(n−1)パス目の矯正を行った後の、被矯正材内部の残留モーメント分布M(n−1)を予め計算により予測し、更にnパス目の矯正を行った後の被矯正材内部の残留モーメント分布M(n)を、残留モーメント分布M(n−1)とnパス目における圧下設定目標値から予測し、残留モーメント分布M(n)の最大値、最小値が、残留モーメント分布M(n−1)の最大値、最小値より小さくなるように、圧下設定目標値を決定し、nパス目の矯正を行う複数パス矯正方法である。
【0004】
また、特許文献2には、ローラレベラーによる金属板の矯正方法が記載されている。特許文献2に記載された技術は、矯正荷重を目標値にしつつ、矯正後の鋼板の平坦度が目標値となるように入側および出側の押し込み量を設定して矯正するに際し、最初の矯正で得られる矯正荷重、鋼板平坦度の実績値が目標値と相違する場合、次回の矯正では入側および出側の押し込み量を等しく増減させる補正を行い、矯正荷重、鋼板平坦度の実績値が目標値となるまで、前記補正による新たな押し込み量で矯正を繰り返す、ローラレベラーによる鋼板の矯正方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−288510公報
【特許文献2】特開2007−118024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載された技術にしたがって、ローラレベラーでの複数回の矯正パスを施すことにより、平坦度等の形状不良の改善や、内部応力の開放は十分に達成できると考えられる。しかし、特許文献1、2に記載された技術によっても、厚鋼板の表面には、表面疵が多発する場合があるという問題がある。
本発明は、かかる従来技術の問題を有利に解決し、表面疵の発生を防止できる、ローラレベラーによる厚鋼板の矯正方法を提供することを目的とする。なお、ここでいう「厚鋼板」とは、板厚:4.5〜100mmの鋼板をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる目的を達成するため、ローラレベラーによる厚鋼板の矯正に際して発生する、表面疵に及ぼす各種要因について、鋭意研究した。この結果、ローラレベラーによる矯正時に発生する表面疵は、圧延中または圧延終了後に生成するスケール(酸化層)が矯正時の圧下により剥がれ、ローラに噛み込まれて厚鋼板の表面に押し込まれ、発生することを知見した。ローラレベラーによる矯正時に発生する表面疵は、矯正時の圧下量を小さくすることにより、十分に低減することができるが、しかし、矯正時の圧下量を小さくすると、内部応力の開放が十分でなくなるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明者らは、矯正時の圧下に際してスケールが剥がれないように、矯正圧下を行う前に予め、厚鋼板表面から、スケールを剥離させることが必要であるとの考えから、まず、ローラレベラーに付設されたデスケーリング装置を活用することにした。デスケーリング装置により、厚鋼板の表面に高圧水を吹き付けて、スケールを剥離除去し、しかる後に、厚鋼板に矯正圧下を施す矯正パスを行う。このような矯正パスであれば、そのパスでのスケールの押し込みによる表面疵の発生は抑制できる。
【0009】
そして、本発明者らは、さらに表面疵の発生を防止するために、デスケーリング装置が付設されていない側からの通板を、圧下を行わない、非矯正パス(ダミーパス)とすることに思い至った。スケールを除去しなくても、圧下を行わなければ、スケールの押し込みによる表面疵の発生はない。
さらに、本発明者らは、剥離したスケールの押し込みによる表面疵の更なる低減、防止のためには、スケール生成を抑制する、すなわち厚鋼板の温度を低下させることが有効であることに思い至った。
【0010】
そこで、このような厚鋼板の温度を低下させ、スケールの生成を抑制するためには、デスケーリング装置が付設されていない側に、さらに水噴射装置を設けることが有効であることに思い至った。これにより、ローラレベラに通板する厚鋼板に水を噴射し、付着しているスケールを除去するとともに、厚鋼板温度を低下させ、これを介して矯正中のスケール生成を低減することができるとの知見を得た。またさらに、ローラレベラ内に水スプレー噴射手段を配設して、厚鋼板、ローラ(レベリングロール)に付着したスケール等を除去するとともに、厚鋼板を冷却することができ、表面疵防止に有効に作用するとの知見も得た。
【0011】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)熱間圧延後の厚鋼板を、入側または出側にデスケーリング装置を備えたローラレベラに通板し複数の矯正パスを行って矯正するにあたり、前記複数の矯正パスを少なくとも3回の矯正パスとし、前記厚鋼板を、前記デスケーリング装置が備えられた側から前記ローラレベラに通板するパスを矯正パスとし、前記デスケーリング装置の備えがない側から通板するパスを矯正を行わない非矯正パスとして、合計で少なくとも5回、前記厚鋼板をローラレベラに通板することを特徴とするローラレベラによる厚鋼板の矯正方法。
(2)(1)において、前記ローラレベラ内に水スプレー噴射手段を配設し、前記ローラレベラのレベリングロールおよび通板する厚鋼板に、水スプレーを吹き付けることを特徴とする厚鋼板の矯正方法。
(3)(1)または(2)において、前記デスケーリング装置の備えがない側に、水噴射装置を設けて、前記ローラレベラに通板する前記厚鋼板に水を噴射することを特徴とする厚鋼板の矯正方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱間圧延(厚板圧延)後の熱間矯正により、平坦度等の形状不良が改善され、さらに、内部応力の開放が十分になされた厚鋼板を、表面疵の発生がなく製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明になる熱間圧延(厚板圧延)後の熱間矯正により、それ以降の剪断・精製ラインにおける再矯正工程が不要となるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明で使用するローラレベラの概要を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の厚鋼板の矯正方法で好適に使用するローラレベラの概要を図1に示す。
ローラレベラ1は、複数のワークロール1aと、それらを支える複数のバックアップロール1bとで構成されている。通常、ワークロールは、上側に8個、下側に7個が配置され、上側ロールと下側ロールとが千鳥状に配置されている。そして、本発明で使用するローラレベラ1には、入側又は出側の一方に、デスケーリング装置2が付設されている(図1では入側に付設されている例を示す)。デスケーリング装置2は、高圧水が吹付け可能に構成され、鋼板表面のスケールを剥離除去する機能を有する。さらに、本発明で使用するローラレベラ1には、デスケーリング装置2の反対側(図1では出側)に、水噴射装置3を配設することが好ましい。水噴射装置3は、ローラレベラー1に通板する厚鋼板に水噴射が可能に構成され、該厚鋼板の鋼板温度を下げて、スケール生成を抑制するとともに、厚鋼板に付着しているスケール等を除去する機能を有する。なお、ここでいう水噴射装置3では、1.5〜15MPa程度の圧力を有する水が噴射可能であればよい。
【0015】
さらに、本発明で使用するローラレベラ1内には、水スプレー噴射手段4を複数基配設することが好ましい。水スプレー噴射手段4は、ローラレベラのワークロール1aおよび通板する厚鋼板Sに、水スプレーを吹付け可能に構成され、ローラ(ワークロール1a)および通板する厚鋼板Sに付着したスケール等を除去するとともに、厚鋼板を冷却する機能を有する。ここでいう水スプレー噴射手段4は、付着したスケール等を除去することができる程度の水量(1.5m3以下程度)の噴霧が可能であればよく、とくにその性能は限定する必要はない。なお、本発明では、上記した水噴射装置3、水スプレー噴射手段4をすべて使用することは必要はなく、必要に応じて、それぞれを単独又は組み合わせて使用することが好ましい。
【0016】
本発明では、上記したような入側または出側にデスケーリング装置を備えたローラレベラに、熱間圧延(厚板圧延)後の厚鋼板を通板し、少なくとも3回の矯正パスを行って矯正する。熱間圧延後の厚鋼板は、とくに制御冷却等の温度調節を行わないかぎり、通常、950℃以上程度の鋼板温度を有しており、矯正前にスケールが付着している。また、さらに矯正中にもスケールが生成する。なお、熱間圧延(厚板圧延)が、制御圧延、制御冷却を行った場合には、矯正時の厚鋼板温度は前記950℃より低温の400〜800℃程度となるが、鋼板表面に表面疵発生の原因となるレベルのスケールが発生する温度域である。
【0017】
このため、本発明では、矯正パスは、デスケーリング装置が備えられた側を通板の入側とし、デスケーリング装置2を作動させ、高圧水を吹き付けて鋼板表面のスケールを剥離除去したのち、行うこととする。デスケーリング装置の高圧水の吹付け圧は、鋼板表面のスケールが剥離除去できればよく、とくに限定する必要はないが、通常、圧力:1.5〜15 MPa程度である。なお、矯正パスでの圧下量は、平坦度改善の観点からは、(板厚−2mm)程度とすることが、残留応力除去の観点から好ましい。また、30mm以上の厚鋼板では、矯正パスの圧下量は、(板厚−1mm)〜(板厚−0.5mm)程度とすることが好ましい。
【0018】
本発明では、矯正パスは、少なくとも3回とする。矯正パス数が3回未満では、十分な平坦度を付与することができないうえ、内部応力の開放も不十分となる。このようなことから、本発明では矯正パスは少なくとも3回とした。なお、矯正パスの回数の上限は、平坦度の要求の程度や表面疵の要求の程度に応じ、被矯正鋼板の種類、板厚、矯正時の温度を基に、予め定めた、3回を超える回数としてもよい。
【0019】
矯正パス後の戻りのパスは、デスケーリング装置のない側からのパスであり、本発明では、矯正のための圧下を行わない、非矯正パスとする。非矯正パスでは、ローラレベラの開度を(鋼板板厚+規定値)として、鋼板の圧下を行わない空パスとする。これにより、スケールの押し込みによる表面疵生成の心配はなくなる。
また、非矯正パスのパス回数は、矯正パスが少なくとも3回としていることから、少なくとも2回であり、したがって、本発明におけるパス数は、合計で少なくとも5回となる。
【0020】
また、本発明では、デスケーリング装置2が備えられていない側(図1では出側)に配設された水噴射装置3により、厚鋼板に水を噴射して、非矯正パスを行うことが好ましい。これにより、厚鋼板の鋼板温度が低下し、矯正工程中のスケール生成が抑制されるとともに、厚鋼板に付着しているスケールが除去され、押し込みによる表面疵の発生をさらに抑制することが可能となる。
【0021】
また、本発明では、ローラレベラ1内に配設された複数基の水スプレー噴射手段4を利用して、矯正中にレベリングロール(ローラ)1aおよび厚鋼板Sに、厚鋼板を通板していないときには、ローラ(レベリングロール)に、水スプレーを吹付けることが好ましい。これにより、厚鋼板の鋼板温度が低下し、矯正工程中のスケール生成が抑制されるとともに、ローラに付着したスケール等の除去が可能となり、押し込みによる表面疵の発生をさらに抑制することが可能となる。なお、水スプレー噴射手段4では、水スプレー噴射手段(ノズル)の噴射方向を可動とし、噴射方向を必要に応じて変更可能とすることが好ましい。
【0022】
ついで、実施例に基いて、さらに本発明について説明する。
【実施例】
【0023】
熱間圧延(厚板圧延)後の厚鋼板(板厚:20mm)に、図1に示すローラレベラを用いて、次に示す条件で矯正処理(熱間矯正)を実施した。同一条件での矯正処理は100枚以上とした。矯正条件はつぎの通りとした。
矯正条件1:1パス目をデスケーリング装置を使用した矯正パス(圧下量:2.0mm)、
2パス目を非矯正パス、
3パス目をデスケーリング装置を使用した矯正パス(圧下量:1.5mm)、
4パス目を非矯正パス、
5パス目をデスケーリング装置を使用した矯正パス(圧下量:1.0mm)
合計5パス。(本発明例)
矯正条件2:1パス目をデスケーリング装置を使用した矯正パス(圧下量:2.0mm)、
2パス目を水噴射装置を使用した非矯正パス、
3パス目をデスケーリング装置を使用した矯正パス(圧下量:1.5mm)、
4パス目を水噴射装置を使用した非矯正パス、
5パス目をデスケーリング装置を使用した矯正パス(圧下量:1.0mm)、
(各パス中および各パス間で、水スプレー噴射手段を稼動させて、ロールお よび厚鋼板に水スプレーを噴射した。)合計5パス。(本発明例)
矯正条件3:1パス目をデスケーリング装置を使用した矯正パス(圧下量:2.0mm)、
2パス目をデスケーリングなしの矯正パス(圧下量:1.5mm)、
3パス目をデスケーリング装置を使用した矯正パス(圧下量:1.0mm)、
合計3パス。(従来例)
矯正処理後、平坦度計により、矯正後の鋼板平坦度を測定し、再矯正の要否を判定した。そして、得られた結果から、再矯正発生率,{(再矯正枚数)/(矯正処理した全枚数)}×100(%)を算出した。
【0024】
また、矯正処理後、厚鋼板表面を目視観察し、表面疵の有無を調査し、所定以上のスケール疵が発生した厚鋼板を不合格とした。そして、得られた結果から、再矯正発生率、{(再矯正枚数)/(矯正処理した全枚数)}×100(%)、不合格比率、{(不合格品の重量)/(矯正処理した全重量)}×100(%)を算出した。
得られた結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
本発明例はいずれも、従来例に比べて、再矯正発生率、不合格率ともに向上している。
【符号の説明】
【0027】
1 ローラレベラ
1a レベリングロール
1b バックアップロール
2 デスケーリング装置
3 水噴射装置
4 水スプレー噴射手段
S 厚鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延後の厚鋼板を、入側または出側にデスケーリング装置を備えたローラレベラに通板し複数の矯正パスを行って矯正するにあたり、前記複数の矯正パスを少なくとも3回の矯正パスとし、前記厚鋼板を、前記デスケーリング装置が備えられた側から前記ローラレベラに通板するパスを矯正パスとし、前記デスケーリング装置の備えがない側から通板するパスを矯正を行わない非矯正パスとして、合計で少なくとも5回、前記厚鋼板をローラレベラに通板することを特徴とするローラレベラによる厚鋼板の矯正方法。
【請求項2】
前記ローラレベラ内に水スプレー噴射手段を配設し、前記ローラレベラのレベリングロールおよび通板する厚鋼板に、水スプレーを吹き付けることを特徴とする請求項1に記載の厚鋼板の矯正方法。
【請求項3】
前記デスケーリング装置の備えがない側に、水噴射装置を設けて、前記ローラレベラに通板する前記厚鋼板に水を噴射することを特徴とする請求項1または2に記載の厚鋼板の矯正方法。

【図1】
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