説明

ロール塗布装置およびロール塗布方法

【課題】コーターパン内のピックアップロール周辺で発生する気泡を効率的に除去することができ、外観特性に優れた塗膜を有する基材を得ることができるロール塗布装置、および、ロール塗布方法を提供する。
【解決手段】コーターパン7内の塗布液を汲み上げるロール4を備え、連続的に走行する基材に対して塗布液を塗布するロール塗布装置100において、コーターパン7中の塗布液面付近の所定の位置に、塗布液と気体とを同時に吸引する吸引口を設け、コーターパン7内の気泡を効率的に除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールを用いて鋼帯等の長尺基材に連続して塗布液を塗布するロール塗布装置およびロール塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、連続して走行する基材(例えば、鋼板)に、耐食性、加工性、美観性、絶縁性等の性能を付与するために各種の塗膜を基材表面上に形成させる処理が行われている。この処理方法としてはロールコーター(ロール塗布装置)が一般的に用いられており、2本のロールを用いる2ロールコーター、または、3本のロールを用いる3ロールコーターが広く使用されている。
【0003】
この方式は、主に、塗布液が満たされているコーターパンより塗布液を汲み上げるピックアップロールと、基材に塗布液を転写するアプリケーターロール、また、必要に応じてピックアップロールにより汲み上げられた塗布液量を調整するロールやブレードから構成されている。各ロールの回転方向は、各ロール間の近接点、あるいは密接点において同方向に回転するナチュラル回転の場合と、逆方向に回転するリバース回転の場合とがあるが、いずれの場合においても、ロール間や、ブレードでかき落とされた余剰の塗布液がコーターパンに流れ落ちる際に、しばしば気泡が発生し、塗布液が界面活性剤等を含有している場合は、気泡がなかなか消えずに塗布液面上に残留する問題が発生する(図6参照)。
【0004】
このように、塗布液面上に気泡が大量に残留すると、コーターパンから気泡がオーバーフローして塗布液で周囲を汚染する場合も発生し、また、オーバーフローしない程度の場合でも、気泡がロールコーター間をすり抜けて被塗布材である基材表面に転写され、ピンホール状の塗膜欠陥となる場合も発生する。このようなピンホール状の塗膜欠陥部は、未塗装や薄膜である場合が多く、最終製品の外観を悪化させるだけでなく、局所的に耐食性等の塗膜性能を悪化させる要因となり得る。
これらの問題を解決する方法として、超音波脱泡手段と遠心分離式脱泡手段とを順次連設した脱泡装置が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−253702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、ロールなどの構造物周辺において気泡は滞留しやすく、塗布液を汲み上げるロール周辺部での気泡を除去することが重要である。
しかしながら、特許文献1の方法では、脱気装置によりある程度コーターパン内の気泡を除去することは可能であるが、生産性を上げるためにロール回転速度を高速とした場合や、高速塗布時の高剪断力に耐えるために界面活性剤等、気泡の原因となる成分を塗布液中で増量した場合では、気泡の発生量が増加して気泡の除去が間に合わない問題も発生する。
また、近年、消費者の美観に対する意識の向上に伴い、塗膜外観に関する要求が格段に高まっており、より塗布欠陥の少ない塗膜を得るためのロール塗布装置およびロール塗布方法の開発が望まれていた。
【0007】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みて、コーターパン内のピックアップロール周辺で発生する気泡を効率的に除去することができ、外観特性に優れた塗膜を有する基材を得ることができるロール塗布装置、および、ロール塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の手段は以下の通りである。
【0009】
[1] コーターパン内の塗布液を汲み上げるロールを備え、連続的に走行する基材に対して塗布液を塗布するロール塗布装置であって、
前記コーターパン内の塗布液面上と液面下にまたがって配置された吸引口を介して、前記塗布液と気体とを同時に吸引して排出する排出装置を備え、
前記吸引口の全開口面積(S1)を前記吸引口の水平方向の最大幅で除して得られる平均開口高さ(H1)が1mm以上であり、
気体が通過する前記吸引口の開口面積(S2)を塗布液面位置における前記吸引口の水平方向の幅で除して得られる平均開口高さ(H2)が0.5mm以上であり、
前記全開口面積(S1)と前記開口面積(S2)との比率(S2/S1)が0.8以下であることを特徴とする、ロール塗布装置。
【0010】
[2] 前記吸引口が、前記ロールの軸方向に塗布液の流れが発生するように、前記ロールの軸方向の一端部側に配置される、[1]に記載のロール塗布装置。
【0011】
[3] 前記ロールの軸方向の他端部側に配置され、塗布液面に対して気体を噴射して、前記吸引口側に塗布液を流すための気体噴射装置を備える、[1]または[2]に記載のロール塗布装置。
【0012】
[4] 前記吸引口の開口形状がスリット状であり、吸引口の長手方向と塗布液面とが平行になるように吸引口が設けられる、[1]〜[3]のいずれかに記載のロール塗布装置。
【0013】
[5] 前記吸引口から前記コーターパン外に排出された塗布液を脱気装置に送液して、脱気した後、脱気された塗布液を前記コーターパン内に供給することで塗布液を循環させる塗布液循環手段を備える、[1]〜[4]のいずれかに記載のロール塗布装置。
【0014】
[6] [1]〜[5]のいずれかに記載のロール塗布装置を使用して、連続的に走行する基材に対して塗布液を塗布するロール塗布方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、所定の位置に塗布液と気体とを吸引する吸引口を設けることにより、塗布液面上に存在する気泡を効率よく除去することができ、高速操業時においても塗布欠陥のない薄膜塗布を生産性よく行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のロール塗布装置の一実施態様の要部構成例を示す側面図である。
【図2】本発明のロール塗布装置の一実施態様の要部構成例を示す上面図である。
【図3】本発明のロール塗布装置の吸引口付近の構成例を示す図(図3(A)20の気泡はイメージ図であり、実際のサイズとは異なる)であり、(A)は断面図、(B)は正面図である。
【図4】本発明のロール塗布装置の他の実施態様の要部構成例を示す側面図である。
【図5】本発明のロール塗布装置の他の実施態様の要部構成例を示す上面図である。
【図6】従来技術のロール塗布装置による塗布液の気泡発生状況を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明のロール塗布装置、およびロール塗布方法について、図面を参照して説明する。
【0018】
(実施の形態1)
図1および図2は、それぞれ本発明のロール塗布装置の一実施態様の要部構成例を示す側面図および平面図である。図1に示されるロール塗布装置100は、バックアップロール2に巻き付きながら連続的に通板する基材1の片面に塗布液を塗布する形式の3ロールコーター(3本ロールコーター)である。
なお、基材1としては、種々の基材を使用することができ、例えば、冷延鋼板、亜鉛等のめっきや化成処理等が施された表面処理鋼板、電磁鋼板などの鋼板や、アルミ板、紙、フィルムなどを用いることができる。
【0019】
ロール塗布装置100は、コーターパン7から塗布液8を汲み上げるピックアップロール4と、ピックアップロール4上の塗布液8の液量を調整するミタリングロール5と、調整されたピックアップロール4上の塗布液8を基材1に転写するアプリケーターロール3を備える。
各ロールのロール径およびロール胴長は使用される基材に応じて適宜最適な径および胴長が選択されるが、薄鋼板への塗布の場合、通常、ロール径は70〜400mmφ程度が好ましい。ロール径が70mmφより小さい場合は、たわみが発生しやすくなり、ロール径が400mmφより大きい場合は、各ロール間の接触面積が大きくなり、外観欠陥が発生しやすくなるためである。ロール胴長は、塗布したい幅と同等以上になるように適宜選択すればよい。
【0020】
なお、ピックアップロール4の表面は、塗布液の性状や目標付着量、塗布条件にあわせて適宜選択すればよく、例えば、胴部表面に多数の凹部が形成されたグラビアロールや、表面が鏡面加工されたフラットロールなどがあげられる。
アプリケーターロール3の表面も塗布液の性状や目標付着量、塗布条件によって適宜選択すればよいが、被塗布材である鋼板等に傷を付けたくない場合は、ゴムがライニングされたゴムロールを用いることが好ましい。
そして、図1中の矢印はロールの回転方向または基材の走行方向を示す。各ロールの回転方向は、各ロール間およびアプリケーターロール3と基材1間において逆方向であり、ミタリングロール5上には塗布液をかきとるブレード6が設置されている。なお、ロールの回転方向は特に限定されない。
【0021】
使用される塗布液8としては、公知の各種の塗布液を使用することができる。なかでも、気泡が発生して消えにくいような塗布液に効果的に適用できる。例えば、水系塗料に樹脂を含有させるために、界面活性剤を多く含むエマルション樹脂を含有させた塗布液は、ロール塗布による剪断力によって気泡が発生しやすく、このような場合の気泡対策として本発明が非常に効果的である。
【0022】
図2において、コーターパン7は矩形状であるがその形状は特に制限されない。
また、コーターパン7の大きさも特に制限されず、少なくともピックアップロール4が塗布液に浸漬した部分の断面積より大きければよい。なお、コーターパン7が矩形状である場合、図2に示されるように、コーターパン7の長手辺がロールの軸方向と平行になるように、コーターパン7を配置することが多い。
【0023】
図2で示されるように、ロール塗布装置100は、ピックアップロール4の軸方向に塗布液8の流れを発生させるように、ピックアップロール4の軸方向の一端部側に配置される吸引口を有する吸引ノズル9を備える排出装置を備える。また、図2には、好ましい形態として、ピックアップロール4の軸方向の他端部側に配置され、塗布液面に対して気体を噴射して、吸引口側に塗布液を流すための気体噴射ノズル10を有する気体噴射装置とを備える形態を示したが、気体噴射ノズル10は設置しなくてもよい。気体噴射ノズル10を設置する場合は、図2に示すように、吸引ノズル9の吸引口と気体噴射ノズル10の噴射口とは、ピックアップロール4を挟んで、対向する位置(コーターパン7の周縁部上)に配置されることが好ましい。
【0024】
排出装置は、塗布液および気体を吸引して、排出する吸引口を有していれば、その構成は特に制限されないが、通常、図2に示すように、吸引口を有する吸引ノズル9と、該ノズルが接続された吸引装置11とを備えることが好ましい。吸引ノズル9と吸引装置11とは、図2に示すように、必要に応じて配管で接続されていてもよい。
【0025】
図3に示すように、排出装置は、吸引口9aを介して、塗布液8および気体を吸引する。図3に示されるように、吸引口9aに気泡20が浮遊している塗布液が吸い込まれることにより、コーターパン7内から気泡20が除去される。吸引口9aは、コーターパン7内の塗布液面付近で、塗布液面位置と後述する所定の関係を満たす位置に配置される。
【0026】
図2および図3においては、吸引口9aの形状はスリット状であるが、特に制限されない。例えば、略円状、略楕円状、これらが複数並べられた形状なども挙げられる。気泡の量や広がり状態にあわせて吸引口の幅は適宜選択すればよい。なお、できるだけ多くの気泡をできるだけ少量の塗布液とともに効率よく吸引するために、吸引口はスリット状であることが好ましく、図3のようにその長手方向が塗布液8の液面と平行になるように、設置されることが好ましい。また、図3のようにその短手方向が塗布液8の液面と略直交になるように、配置されることが好ましい。
図2においては、吸引口9aは1つだけ記載されているが、複数個使用されてもよい。
【0027】
吸引口9aの全開口面積(S1)を、吸引口9aの水平方向の最大幅で除して得られる平均開口高さ(H1)は、1mm以上である(図3参照)。平均開口高さ(H1)は、吸引口9aの水平方向(幅方向)における開口高さの平均値を示している。できるだけ多くの気泡をできるだけ少量の塗布液とともに効率よく吸引するために、平均開口高さ(H1)は、2〜10mmであることが好ましく、5〜8mmであることがより好ましい。
平均開口高さ(H1)が1mm未満であると、液面上と液面下の位置関係を所定の関係に維持するのが難しく、塗布液を吸い込む流れが弱まり、気泡の吸引効率が悪くなり、所望の効果を得にくいため、平均開口高さ(H1)は1mm以上とする。
なお、例えば、スリット状の吸引口9aの長手方向が塗布液8の液面と平行で、短手方向が塗布液8の液面に対して所定の角度有して傾斜している場合、全開口面積(S1)は吸引口9aを水平方向から見た際の吸引口9aの面積を意図する。
【0028】
また、吸引口9aの気体が通過する開口面積(S2)を塗布液面位置における吸引口9aの水平方向の幅で除して得られる平均開口高さ(H2)は、0.5mm以上である(図3参照)。塗布液面位置における吸引口の水平方向の幅は、図3(B)においてWで表される幅に該当する。なお、開口面積(S2)は、塗布液面よりも上部に位置する吸引口9の開口面積に該当する。
平均開口高さ(H2)は、吸引口9aの気体が通過する部分の水平方向(幅方向)における開口高さの平均値を示している。言い換えれば、塗布液面から吸引口9aまでの高さの水平方向における平均値である。平均開口高さ(H2)は、1〜8mmであることが好ましく、2〜5mmであることがより好ましい。
平均開口高さ(H2)が0.5mm未満であると、塗布液の表面張力の効果により、塗布液が吸引口を塞いでしまい、結果として塗布液のみを吸引してしまい所望の効果が得られない。
【0029】
さらに、全開口面積(S1)と開口面積(S2)との比率(S2/S1)が0.8以下となるように、吸引口9aが配置される。
比率(S2/S1)が0.8超であると、塗布液を吸い込む流れが弱まり、気泡の吸引効率が悪くなり、所望の効果が得られない。また、比率(S2/S1)を小さくしすぎると気泡の吸引量に比して塗布液の吸引量が多くなりすぎて効率が低下するため、0.2以上が好ましい。比率(S2/S1)は、0.2〜0.6であることが好ましく、0.3〜0.5であることがより好ましい。
全開口面積(S1)の面積は特に制限されず、使用されるコーターパンなどの大きさにより適宜最適な大きさが採用されるが、通常、400〜2000mm2程度が好ましく、600〜1600mm2程度がより好ましい。
【0030】
図2に示すように、ピックアップロール4の中心軸を通る鉛直面で分けられたコーターパン7の2つの領域のうち、ピックアップロール4が塗布液8を汲み上げる側の領域に気泡が発生しやすく、また、気泡があった場合に、ロールに巻き付いて塗布される基材まで到達する恐れがある。そのため、吸引口9aを有する吸引ノズル9は、ピックアップロール4が塗布液8を汲み上げる側の領域に設けられることが好ましい。
また、図2に示すように、吸引ノズル9の吸引口9aは、ピックアップロール4の軸方向に塗布液の流れが発生するように、ピックアップロール4の軸方向の一端部側(付近)に配置されることが好ましい。
【0031】
さらに、吸引ノズル9の吸引口9aは、ピックアップロール4の軸に平行な位置で、ピックアップロール4の外周面と対向する位置に配置されてもよい。この場合、ピックアップロール4が塗布液8を汲み上げる側にある塗布液8が、ピックアップロール4の外周面から遠ざかるように流れる。
コーターパン7中の塗布液8の流速は特に制限されないが、本発明の効果がより得られるようにするために、ピックアップロールの塗布液かきあげ部から1cm離れた位置の液面の流速が0.05〜0.5m/sであることが好ましく、0.1〜0.3m/sがより好ましい。
【0032】
吸引口9aからの塗布液8の吸引量は特に制限されないが、10〜60L/minが好ましく、20〜50L/minがより好ましい。
【0033】
吸引口9aを有する吸引ノズル9は、気液吸引ポンプ、真空ポンプ、脱泡ポンプなどの吸引装置11と接続しており、図2に示すように、配管を介して接続していてもよい。
【0034】
気体噴射装置は、必要に応じて設けられる任意の構成要素である。気体噴射装置を使用することにより、より効率よく塗布液8中の気泡を除去することができる。
気体噴射装置は、塗布液面に対して気体を噴射できれば、その構成は特に制限されないが、通常、図2に示すように、気体を噴射する噴射口を有する気体噴射ノズル10と、気体噴射ノズル10に接続された気体供給装置12とを備える。気体噴射ノズル10と気体供給装置12とは、図2に示すように、必要に応じて配管などを介して接続されていてもよい。
【0035】
気体噴射ノズル10は、塗布液8の液面に対して気体を噴射するノズルである。該ノズルから気体を噴射することにより、塗布液8の流れをより効率的に発生させ、塗布液8の液面上に浮かぶ気泡をピックアップロール4により汲み上げられる危険のないロールエッジ外側付近までより効率的に移動させることができる。
気体噴射ノズル10は、コンプレッサー、ブロア、ファンなどの気体供給装置12と配管を介して接続しており、供給される気体としては空気などが挙げられる。
【0036】
なお、図2において、気体噴射ノズル10は、その噴射口がピックアップロール4の軸方向を向いて、コーターパン7の周縁部に配置されているが、その配置位置は特に制限されない。図2に示すように、通常、気体噴射ノズル10は、ピックアップロール4の軸方向の他端部側であって、吸引ノズル9とピックアップロール4を挟んで対向する位置に配置される。
【0037】
気体噴射ノズル10の設置高さは特に制限されないが、通常、塗布液面付近に配置される。通常、気体噴射ノズル10の噴射口の位置は、塗布液面から10〜100mmの高さに位置することが好ましい。
気体噴射ノズル10の塗布液面に対する傾斜角度は、気体の噴射による気泡の発生を抑制する点から、30°以下が好ましく、5〜15°がより好ましい。
気体噴射ノズル10より噴射される気体量は特に制限されないが、気泡の発生を抑えつつ、塗布液の流れを発生させやすいノズル噴射口のガス速度としては、30〜100m/s、より好ましくは、40〜60m/sが好ましい。
【0038】
気体噴射ノズル10の噴射口の形状は特に制限されず、スリット状、円形状などが挙げられるが、広範囲に均一に気体を噴射する観点から、スリット状であることが好ましい。
気体噴射ノズル10の噴射口の大きさは特に制限されず、ロールの大きさやコーターパンの大きさによって適宜最適な大きさが選択される。
なお、図2において、気体噴射ノズル10は1つだけ記載されているが、複数個使用されてもよい。複数個使用する場合は、並列して使用してもよいし、上下に配置してもよい。
【0039】
コーターパン7中の塗布液8の液面の高さは、ピックアップロール4による塗布液の汲み上げ量の変化がないように、一定であることが好ましい。
吸引口9aから塗布液8が吸引、排出されると同時に、塗布液8の液面の高さを一定に保つように、コーターパン7に塗布液8を適宜供給してもよい。
なかでも、ロール塗布装置100は、吸引口9aからコーターパン7外に排出された塗布液を脱気装置に送液して、脱気装置にて脱気した後、脱気された塗布液をコーターパン7内に供給することで塗液を循環させる塗布液循環手段を有していることが好ましい。なお、図2において、塗布液循環手段は省略されている。
塗布液循環手段は、吸引口9aからコーターパン7外に排出された塗布液を脱気装置に送液する第1の送液装置と、塗布液を脱気する脱気装置と、脱気された塗布液をコーターパン7に供給する第2の送液装置とを備えることが好ましい。
第1の送液装置および第2の送液装置としては、定量ポンプなどの送液装置が使用される。
【0040】
脱気装置は特に制限されないが、例えば、遠心分離機などが挙げられる。なお、遠心分離機により遠心分離を行う場合、減圧下で行ってもよい。
また、塗布液循環手段は、脱気装置の後に、脱気された塗布液を貯留する塗布液タンクを備えていてもよい。
【0041】
脱気装置で脱気された塗布液をコーターパン7内に戻す際には、コーターパン7に接続された塗布液供給口を通って、流し込む位置で泡を発生させないためスロープなどを利用してゆっくりと戻すことが好ましい。
また、塗布液タンクで貯留した塗布液を吸引して塗布液供給口からコーターパン7内に送液する送液用ポンプを使用して、塗布液をコーターパン7に戻してもよい。
【0042】
なお、吸引口9aと脱気装置との間、脱気装置と塗布液タンクの間、および、塗布液タンクと塗布液供給口の間などは、適宜、配管で接続されていてもよい。
【0043】
次に、図1および図2で表される、この実施の形態1に係るロール塗布装置を用いた塗布方法について説明する。
まず、コーターパン7内の塗布液8をピックアップロール4で汲み上げ、汲み上げた塗布液8の液量をミタリングロール5で調整した後、アプリケーターロール3に転写し、アプリケーターロール3を連続的に走行する基材1に接触させ、アプリケーターロール3表面の塗布液8を基材1表面に転写することで、基材1表面に塗布液8を塗布する。表面に塗布液8が塗布された基材1は、次いで図示されていない加熱設備または乾燥設備に通板されて、加熱乾燥され、基材1表面に所要の塗膜が形成される。ミタリングロール5表面に付着した塗布液8は、その一端をミタリングロール5表面に押し付けて配置されたブレード6で掻き取られ、コーターパン7に戻る。
【0044】
コーターパン7内で発生する気泡の量は、かき落とされる塗布液の量に比例する。つまり、汲み上げる塗布液の量、言い換えればピックアップロール4の回転速度に比例する。また、生産性を上げるために基材速度を速くした際には、それに伴ってピックアップロール4の回転速度も大きくすることが多く、界面活性剤等で安定化した樹脂等が添加されている塗布液では、気泡が発生しやすくなる。また、その場合、ロール間、ロール/基材間等で剪断力もあがるため、塗布液8中の界面活性剤等の配合量も増量する場合が多く、界面活性剤が多量に添加されていると、表面張力も低下している状態となり、ますます気泡ができやすくなる。結果として、コーターパン7内で発生した気泡はピックアップロール4により巻き上げられる。
上記のロール塗布装置100によれば、ピックアップロール4周辺で発生した気泡を十分に取り除くことができ、気泡の基材への付着や、ロール間への咬みこみを防止することができる。
【0045】
(他の実施形態)
上記実施形態は3ロール方式によるコーティング方式について述べているが、本発明では、3ロール方式に限定されず、1ロール方式、2ロール方式であってもよい。
図4および図5に、それぞれに2ロール方式の実施形態の側面図および平面図を示す。2ロール方式の場合についても、上述した吸引口を設けることにより、塗布液8の液面上に存在する気泡を除去することができる。
【0046】
図4のロール塗布装置200は、コーターパン7から塗布液8を汲み上げるピックアップロール4と、ピックアップロール4上の塗布液8の液量を調整すると共に、ピックアップロール4上の塗布液8を基材1に転写するアプリケーターロール3を備える。図中の矢印は、ロールの回転方向または基材の走行方向を示す。ピックアップロール4が汲み上げた塗布液8がアプリケーターロール3に転写される際にその液量が調整される。
【0047】
図5で示されるように、ロール塗布装置200は、ピックアップロール4の軸方向に塗布液8の流れを発生させるように、ピックアップロール4の軸方向の一端部側に配置される吸引口を有する吸引ノズル9を備える排出装置と、ピックアップロール4の軸方向の他端部側に配置され、塗布液面に対して気体を噴射して、吸引口9a側に塗布液を流すための、気体噴射ノズル10を有する気体噴射装置とを備える。図5のように、吸引ノズル9の吸引口と気体噴射ノズル10の噴射口とは、ピックアップロール4を挟んで、対向する位置(コーターパン7の周縁部上)に配置されることが好ましい。
上述したように、気体噴射装置は必要に応じて設けられる任意の構成要素である。
また、図5に示すように、吸引ノズル9は、ピックアップロール4の中心軸を通る鉛直面で分けられたコーターパン7の2つの領域のうち、ピックアップロール4が塗布液8を汲み上げる側の領域に設けられることが好ましい。
【0048】
上述した本発明においては、ピックアップロール周辺で発生した、塗布液面上に存在する気泡を容易に取り除くことができ、気泡による外観欠陥、性能低下のない製品を高効率で製造することが可能となった。
【実施例】
【0049】
本発明を、以下の実施例および比較例により詳細に説明する。
【0050】
板厚0.8mm、板幅1100mmの亜鉛メッキ鋼板のコイルに対して、図1および2で示したロール塗布装置を用いて、表1に記載した塗布条件で塗布を行い、得られた鋼板の外観特性を評価した。
各ロールとして、アプリケーターロール3には金属ロールにゴムをライニングしたゴムライニングロールを、ピックアップロール4とミタリングロール5には表面がフラットな金属ロールを使用した。各ロールのロール径としては、アプリケーターロール3とピックアップロール4が300mmφ、ミタリングロール5が200mmφである。各ロールのロール胴長は1.6mであり、ピックアップロール4とミタリングロール5間のギャップは90μmであった。コーターパン7の面積は、1000mm×1900mmであった。
また、基材の速度(ライン速度)を100m/min、アプリケーターロール3、ピックアップロール4、ミタリングロール5のそれぞれの回転速度を、100m/min、70m/min、30m/minとした。
【0051】
使用した塗布液は、液温度20℃において粘度が0.003[Pa・s]、表面張力が0.035[N/m]、固形分濃度8%の水系塗布液を用いた。
気体噴射ノズル10としては、表1に示した形状のノズルを用い、噴射口を塗布液8の液面から高さ20mmの位置で、液面に対して5°傾けて配置した。
図3のように配置された吸引口9aから吸い込んだ塗布液は脱気装置に送液された。脱気装置としては、真空ポンプにより減圧した雰囲気で遠心分離を行う装置を使用した。吸引口9aからの塗布液8の吸引量は、30L/minであった。なお、上記脱気装置の真空ポンプの作用により吸引口9aから吸引した塗布液は、配管を介して上記脱気装置に送られ、脱気された後、配管を介して塗布液タンクに送られ、その後、送液用ポンプにより塗布液タンクから配管を介して、図示しない塗布液供給口よりコーターパン内7に戻された。
上記方法により得られた塗膜を有する鋼板表面を、目視により観察し、以下の基準に従って、評価した。結果を表1にまとめて示す。
「◎」:得られた塗膜表面(2000mm×1100mm)において、気泡ブツ欠陥が観察されない。
「○」:得られた塗膜表面(2000mm×1100mm)において、気泡ブツ欠陥が1個以上3個以下観察される。
「△」:得られた塗膜表面(2000mm×1100mm)において、気泡ブツ欠陥が3個超10個以下観察される。
「×」:得られた塗膜表面(2000mm×1100mm)において、気泡ブツ欠陥が10個超または、スジ状欠陥が観察される。
【0052】
【表1】

【0053】
表1の結果から分かるように、本発明のロール塗布装置を使用すると、ロール回転速度が速く、気泡が発生しやすい条件においても、気泡を巻き上げることによる欠陥の発生がなく、美麗かつ均一な塗膜を有する鋼板を製造することが可能であった。
一方、吸引口が所定の条件を満たさない比較例1〜3においては、気泡ブツ欠陥が増加する傾向であった。
さらに、吸引ノズルを設けていない比較例4においては、ロール間への泡のかみこみにより、スジ状欠陥が発生した。
【符号の説明】
【0054】
1 基材
2 バックアップロール
3 アプリケーターロール
4 ピックアップロール
5 ミタリングロール
6 ブレード
7 コーターパン
8 塗布液
9 吸引ノズル
9a 吸引口
10 気体噴射ノズル
11 吸引装置
12 気体供給装置
20 気泡
100、200 ロール塗布装置
H1 平均開口高さ
H2 平均開口高さ
W 塗布液面位置における吸引口の幅


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーターパン内の塗布液を汲み上げるロールを備え、連続的に走行する基材に対して塗布液を塗布するロール塗布装置であって、
前記コーターパン内の塗布液面上と液面下にまたがって配置された吸引口を介して、前記塗布液と気体とを同時に吸引して排出する排出装置を備え、
前記吸引口の全開口面積(S1)を前記吸引口の水平方向の最大幅で除して得られる平均開口高さ(H1)が1mm以上であり、
気体が通過する前記吸引口の開口面積(S2)を塗布液面位置における前記吸引口の水平方向の幅で除して得られる平均開口高さ(H2)が0.5mm以上であり、
前記全開口面積(S1)と前記開口面積(S2)との比率(S2/S1)が0.8以下であることを特徴とする、ロール塗布装置。
【請求項2】
前記吸引口が、前記ロールの軸方向に塗布液の流れが発生するように、前記ロールの軸方向の一端部側に配置される、請求項1に記載のロール塗布装置。
【請求項3】
前記ロールの軸方向の他端部側に配置され、塗布液面に対して気体を噴射して、前記吸引口側に塗布液を流すための気体噴射装置を備える、請求項2に記載のロール塗布装置。
【請求項4】
前記吸引口の開口形状がスリット状であり、吸引口の長手方向と塗布液面とが平行になるように吸引口が設けられる、請求項1〜3のいずれかに記載のロール塗布装置。
【請求項5】
前記吸引口から前記コーターパン外に排出された塗布液を脱気装置に送液して、脱気した後、脱気された塗布液を前記コーターパン内に供給することで塗布液を循環させる塗布液循環手段を備える、請求項1〜4のいずれかに記載のロール塗布装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のロール塗布装置を使用して、連続的に走行する基材に対して塗布液を塗布するロール塗布方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−148260(P2012−148260A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11002(P2011−11002)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】