説明

ロール状フィルムおよびロール状フィルムの製造方法

【課題】傾斜構造を有し、ロール形状で保管した際の傾斜構造の経時変化を改善したロール状フィルムの提供。
【解決手段】熱可塑性樹脂から構成され、傾斜構造を有し、下記条件(A)を満たす表面を外側にして巻き取られていることを特徴とするロール状フィルム。
条件(A):フィルムの厚み方向を面内に含む切片を切り出し、該切片の厚み方向を等間隔に10分割して各層の複屈折を測定し、一方のフィルム表面から1層目から5層目までの複屈折の絶対値の和Σnx(i)と6層目から10層目までの複屈折の絶対値の和Σnx(ii)を求め、Σnx(i)>Σnx(ii)のときは前記一方のフィルム表面を条件(A)を満たすフィルム表面とし、Σnx(i)<Σnx(ii)の場合は他方のフィルム表面を条件(A)を満たすフィルム表面とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロール状フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ市場の隆盛に伴い、様々なフィルムが開発されている。また、さまざまなフィルムの製造方法が開発されており、熱可塑性樹脂を含有する組成物を挟圧装置に挟んで圧縮力および/またはせん断力を付与して光学フィルムを製造する方法が知られている。
【0003】
まず、挟圧装置間に熱可塑性樹脂を挟圧し、圧縮してフィルムを製造する方法が知られている。この場合、挟圧圧力を上げると、厚み方向に大きな圧縮力が働き、分子鎖が選択的に厚み方向に配向したフィルムが作成できることが知られている。しかしながら、例えば特許文献1には、ロール圧力を上げることで大きな残留歪みを生じさせたフィルムは、光の乱反射や複屈折現象を起こすため、光学的用途や液晶表示装置に使用できないことが開示されている。すなわち、残留歪みを生じさせたフィルムは光学均一性が不十分であるとしている。
【0004】
一方、特許文献2〜4には、せん断力を付与して傾斜型位相差フィルムを製造する方法が開示されている。例えば、特許文献1には、周速度の異なる二つのロール間にフィルムを通すことで、該フィルムにせん断力を付与し、光軸が傾斜したフィルムを作成する方法と、TN型液晶ディスプレイへの応用が記載されている。しかし、前記文献2に記載の方法では、フィルムの光学特性のバラツキが大きいこと、フィルム表面に接触傷が付き易い等の問題があった。これに対し、特許文献3および4では、ゴムロールと周速の異なってもよい金属ロールの2つのロールを用いて溶融物を挟み、せん断力を付与することで、上記問題点を解決し、均一性が向上した光学フィルムが得られることが記載されている。また、せん断力を付与して製造したフィルムは、特許文献1に記載の圧縮力のみを付与して製造したフィルムに比べると、例えばTNモードの液晶表示装置の光学補償能が高まるものであった。
【0005】
しかし、液晶表示装置に単に光軸が傾斜した光学フィルムを使用しただけでは、光学補償の効果は十分ではない上、液晶表示装置に組み込んだ際のその他の性能も十分ではない。例えば、特許文献4ではその実施例で光軸が11.5〜18.2°傾斜した光学フィルムが開示されているが、光軸傾斜角度と液晶表示装置の光学補償との関係については何ら記載されていない。また、実際に、透過型のTNやECB液晶表示装置や、半透過型のTNやECB液晶表示装置の光学補償を行うには、光軸が11.5〜18.2°傾斜した光学フィルムでは液晶セルのリタデーションを補償するには不十分であった。また、このように溶融物にせん断力を付与して製造した光学フィルムであっても、実際に液晶表示装置に組み込んだ際の光学均一性についてはいまだ不十分であった。
【0006】
このように、傾斜構造を有し、実際に液晶表示装置に組み込んだ際の均一性がより良好であり、光学用途に好適なフィルムを製造する方法は従来知られていなかった。
また、近年、液晶表示装置に求められる画質の要求は年々高まってきており、特に液晶表示装置に組み込んだ際に画像のにじみを起こさないような光学補償フィルムの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3194904号公報
【特許文献2】特開平6−222213号公報
【特許文献3】特開2003−25414号公報
【特許文献4】特開2007−38646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者が特許文献3および4に記載された方法を検討したところ、これらの方法にしたがって製膜した時点の未延伸のフィルムでは確かに傾斜構造が形成されていたものの、傾斜構造が経時で変化し、改良が望まれるものであることが判明した。特に、このような傾斜構造の変化は液晶表示装置に組み込まれたときに液晶表示装置の画像がにじむ原因となることがわかった。
さらに、本発明者がこれらの文献に記載のフィルムをロール形状で保管したところ、特にロール形状で保管した際の物性の変化が顕著であり、さらなる改良が望まれるものであることを見出した。しかしながら、このようなロール形状で保管した際のフィルムの物性、特に傾斜構造の変化については、従来公知の傾斜構造を有する光学フィルムでは全く検討されていないのが実情であり、液晶表示装置の画質向上の新たな課題となることはこれまで知られていなかった。
【0009】
本発明は上記の課題を考慮してなされたものであり、本発明の第一の目的は、傾斜構造を有し、ロール状で保管した際の傾斜構造の経時変化の少ないロール状フィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、傾斜構造を有するフィルムの製膜後の巻取り方法を改良することで、上記課題を解決できることを見出し、以下に記載する本発明を完成するに至った。
【0011】
[1] 熱可塑性樹脂から構成され、傾斜構造を有し、下記条件(A)を満たす表面を外側にして巻き取られていることを特徴とするロール状フィルム。
条件(A):フィルムの厚み方向を面内に含む切片を切り出し、該切片の厚み方向を等間隔に10分割して各層の複屈折を測定し、一方のフィルム表面から1層目から5層目までの複屈折の絶対値の和Σnx(i)と6層目から10層目までの複屈折の絶対値の和Σnx(ii)を求め、Σnx(i)>Σnx(ii)のときは前記一方のフィルム表面を条件(A)を満たすフィルム表面とし、Σnx(i)<Σnx(ii)の場合は他方のフィルム表面を条件(A)を満たすフィルム表面とする。
[2] フィルムの両端に、減少率1%〜50%の厚み出し加工が施されていることを特徴とする[1]に記載のロール状フィルム。
[3] 巻き径が直径20cm〜200cmであることを特徴とする[1]または[2]に記載のロール状フィルム。
[4] フィルム法線と傾斜方位を含む面内において該法線に対して傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定したレターデーションRe[+40°]と、該法線に対して傾斜方位側へ−40°傾いた方向から測定したレターデーションRe[−40°]が、下記式(I)を満たすことを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のロール状フィルム。
10nm≦γ≦300nm 式(I)
γ=|Re[+40°]−Re[−40°]| 式(I)’
[4−2] フィルム法線方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[0°]が下記式(II)を満たすことを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のロール状フィルム。
50nm≦Re[0°]≦300nm 式(II)
[5] 前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂およびポリエステル系樹脂から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]〜[4−2]のいずれか一項に記載のロール状フィルム。
[6] 挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間に熱可塑性樹脂を含有する組成物の溶融物または半流体(固化する前の流動性を保持した状態のことを言う)膜を通過させて、連続的に挟圧してフィルム状に成形する挟圧工程(挟圧工程では、前記第一挟圧面の移動速度を前記第二挟圧面の移動速度よりも速くする)と、前記第一挟圧面で挟圧されたフィルム表面を内側にしてフィルムをロール状に巻き取る工程とを含むことを特徴とするロール状フィルムの製造方法。
[7] 前記フィルムをロール状に巻き取る工程の前に、厚み出しに用いる一対の型押しロールに0.01%〜1%の周速差を付与して厚み出し加工することを特徴とする[6]に記載のロール状フィルムの製造方法。
[8] 前記フィルムをロール状に巻き取る工程において、該フィルムを2kg/m〜70kg/mの張力で巻き取り、該張力に0.1%〜5%の変動を与えることを特徴とする[6]または[7]に記載のロール状フィルムの製造方法。
[9] 前記熱可塑性樹脂を含有する組成物をダイから溶融押出しする工程をさらに含み、溶融押出しされた溶融物を前記第一挟圧面と前記第二挟圧面の間を通過させることを特徴とする[6]〜[8]のいずれか一項に記載のロール状フィルムの製造方法。
[10] 下記式(III)で定義される前記挟圧装置の第一挟圧面と第二挟圧面の移動速度比が0.60〜0.99となるように制御することを特徴とする[6]〜[9]のいずれか一項に記載のロール状フィルムの製造方法。
式(III)
移動速度比=第二挟圧面の速度/第一挟圧面の速度
[11] 前記挟圧装置によって前記溶融物を10〜300MPaの圧力で挟圧することを特徴とする[6]〜[10]のいずれか一項に記載のロール状フィルムの製造方法。
[12] 前記挟圧装置が互いに周速が異なる2つのロールを含んでおり、周速度の早いロールの表面を第一挟圧面とし、周速度が遅いロールの表面を第二挟圧面とすることを特徴とする[6]〜[11]のいずれか一項に記載のロール状フィルムの製造方法。
[13] 前記挟圧装置を構成する2つのロールの少なくとも一方に、金属外筒厚み6〜45mmのロールを用いることを特徴とする[12]に記載のロール状フィルムの製造方法。
[14] 前記フィルムを少なくとも1方向に延伸する工程を含むことを特徴とする[6]〜[13]のいずれか1項に記載のロール状フィルムの製造方法。
[15] [6]〜[14]のいずれか一項に記載のロール状フィルムの製造方法で製膜したことを特徴とするロール状フィルム。
[16] [1]〜[5]および[15]のいずれか一項に記載のロール状フィルムから提供されるフィルムを少なくとも1枚使用したことを特徴とする偏光板。
[17] [1]〜[5]および[15]のいずれか一項に記載のロール状フィルムから提供されるフィルム、または[16]に記載の偏光板を少なくとも1枚使用したことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、傾斜構造を有し、ロール保管での経時での傾斜構造変化が少ないロール状フィルムおよびその製造方法を提供することができる。また、本発明のフィルムの製造方法により、本発明のフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ECBモードの液晶表示装置の層構成を表す概略図である。
【図2】TNモードの液晶表示装置の層構成を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本明細書において、「フィルム長手方向」とは、MD(マシン・ダイレクション)方向を意味する。また、「縦延伸」とは、MD方向への延伸を意味する。
本明細書中、傾斜構造とは、厚み方向から見た配向特性が傾斜している構造を指し、具体的にはフィルム面に対し左右に傾斜させて測定したレターデーション値が異なるものを指す。即ち傾斜構造を有するとは、γ=|Re[+40°]−Re[−40°]|が0でないフィルムを指す(Re[+40°]とRe[−40°]の両者が異なることが傾斜構造を持つことを示す)。本明細書中、(位相差の)傾斜構造の大きさとは、後述する|Re[+40°]−Re[−40°]|(=γ)の大きさを意味する。
なお、本発明では挟圧工程時および縦延伸時に、それぞれ溶融したメルトと挟圧工程後に固化したフィルムを挟圧装置間で挟むが、該挟圧装置が2つのロールである場合、挟圧工程時に挟む2つのロールを「タッチロール」あるいは「タッチロールとチル(冷却)ロール」と言い、縦延伸工程時にフィルムを挟む1対の(2本の)ロールをまとめて「ニップロール」と言い区別する。
本明細書中、半流体膜とは、押出しから乾燥までの間の液体と固体フィルムの間の膜のことを言う。
【0015】
[ロール状フィルム]
本発明のロール状フィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は、熱可塑性樹脂から構成され、傾斜構造を有し、下記条件(A)を満たす表面を外側にして巻き取られていることを特徴とする。
条件(A):フィルムの厚み方向を面内に含む切片を切り出し、該切片の厚み方向を等間隔に10分割して各層の複屈折を測定し、一方のフィルム表面から1層目から5層目までの複屈折の絶対値の和Σnx(i)と6層目から10層目までの複屈折の絶対値の和Σnx(ii)を求め、Σnx(i)>Σnx(ii)のときは前記一方のフィルム表面を条件(A)を満たすフィルム表面とし、Σnx(i)<Σnx(ii)の場合は他方のフィルム表面を条件(A)を満たすフィルム表面とする。
【0016】
(1)フィルムの厚み方向を面内に含む切片を切り出し、これを偏光顕微鏡を用いて観察する。
(2)切片の厚み方向を等間隔に10分割して、各層の複屈折を干渉色図表と照らし合わせ測定する。
(3)一方のフィルム表面から1層目から5層目までの複屈折の絶対値の和Σnx(i)と6層目から10層目までの複屈折の絶対値の和Σnx(ii)を求め、Σnx(i)>Σnx(ii)のときは前記一方のフィルム表面を条件(A)を満たすフィルム表面とし、Σnx(i)<Σnx(ii)の場合は他方のフィルム表面を条件(A)を満たすフィルム表面とする。
【0017】
なお、本発明のフィルムはTNモードの液晶表示装置に好ましく用いることができるが、TNモードに類似する内部構造を有するモードの液晶表示装置にも本発明の光学フィルムは好ましく用いることができる。
また、本発明によれば、十分に大きい傾斜構造を有し、液晶ディスプレイに使用した場合に十分な光学補償を実現できるロール状フィルムおよびその製造方法を提供することができる。このようなフィルムは液晶表示装置に組み込んだ際に十分に広く視野角補償ができる。そのため、液晶表示装置の画質が良好となる。詳しくは、上記光学特性を有するフィルムは、TNモード、ECBモード、OCBモードの液晶ディスプレイに使用した場合に、十分な光学補償を実現できる。
以下、本発明のフィルムについて、説明する。
【0018】
(巻き姿)
本発明のフィルムは、前記条件(A)を満たす表面、すなわち複屈折の絶対値の和の大きな側の断片に含まれるフィルム表面を、外側にして巻き取られていることを特徴とする。
まず、このような巻き姿であることによる効果について説明する。
【0019】
本発明では、複屈折の絶対値の和の大きな側の断片に含まれるフィルム表面を外側にして巻き取られている(以下、巻き外にするとも言う)ことで、傾斜構造の経時変化を小さくできる。いかなる理由に拘泥するものでもないが、これは以下の理由によると考えられる。
まず、一般的に移動速度の異なる2つの挟圧面の間に、熱可塑性樹脂を含む組成物を通過させて挟圧すると、2つの挟圧面間の隙間の中央部分を通過した熱可塑性樹脂の複屈折(フィルム断面膜厚方向の中央部に相当する)が、2つの挟圧面間の挟圧面の近傍を通過した熱可塑性樹脂の複屈折(フィルム断面膜厚方向のフィルム表面近傍部に相当する)よりも大きくなる傾向にある。さらに、2つの挟圧面間の挟圧面の近傍を通過した熱可塑性樹脂の間では、移動速度の速い挟圧面の近傍を通過した熱可塑性樹脂の方が、移動速度の遅い挟圧面の近傍を通過した熱可塑性樹脂よりも複屈折が大きくなる傾向にある。このことから、一般的に移動速度の速い挟圧面によって挟圧された側のフィルムの表面に近い方が、前記条件(A)を満たす表面側(もう一方の表面側よりも複屈折が大きく、すなわち熱可塑性樹脂の配向が大きい表面側)となる。すなわち、複屈折が大きな側の断片に含まれるフィルム表面のほうが熱可塑性樹脂の配向が強く、より大きな傾斜構造を発現している。つまり、具体的には、本発明のロール状フィルムは、熱可塑性樹脂の配向が大きく、傾斜構造の大きい表面側が巻き外となるように巻き取られている。そのため、下記理由から傾斜構造の経時変化を抑制することができると推定する。
一般的に、ロール状フィルムを保管すると、巻き外側は配向方向と平行な方向に伸張応力が加わるため、巻き外側は配向の変化、すなわち傾斜構造の変化が少ない。また、一般的に、ロール状フィルムを保管すると、巻き内側は配向方向と逆方向に圧縮応力が働き、熱可塑性樹脂の配向が変化し易い。
しかし、本発明のロール状フィルムでは、まず、巻き内側の配向は巻き外側の配向に比べて小さく、圧縮応力で熱可塑性樹脂の配向が変化しても、フィルム全体への影響は少ない。これにより、配向変化の絶対値への影響を小さくすることができる。次に、傾斜構造は各層の屈折率が異なることで形成しているが、複屈折(配向)は圧縮応力を受けるとより低減しやすい。配向の大きな(複屈折の大きな)層を外側にして巻き取られている(巻き外にする)ことで、フィルム全体への影響が大きい、配向が大きな部分については圧縮応力を受けないようにし、配向変化の絶対値への影響を小さくすることができる。すなわち、本発明のロール状フィルムの巻き姿とすることで、傾斜構造を有するフィルムについて、フィルム全体における傾斜構造の経時変化を抑制することができる。
【0020】
さらに本発明のフィルムは複屈折の絶対値の和の大きな側の断片に含まれるフィルム表面を、外側にして巻き取られている態様であることで、さらに下記のような効果も発現することが好ましい。
【0021】
第1に、熱膨張係数の低減ができる。上記のような向きで傾斜構造を有するフィルムを巻き付けてロール状フィルムとし、ある程度経時させることで巻き外側の分子がより配向する。これに伴い分子の運動の自由度が低減し、熱膨張係数が低減する。一方、巻内側は配向が緩むため熱膨張係数は増加するが、フィルム中のより大きな部分を占める(複屈折の和の大きな)巻き外側の特性がフィルム全体としては支配的であり、フィルム全体としては、熱膨張係数が低減する。
【0022】
第2に、密着性の改良ができる。上記のような向きで傾斜構造を有するフィルムを巻き付けてロール状フィルムとし、ある程度経時させることで巻き内側の分子の配向が弱まる。密着性は分子配向が低いほど(分子が構造を形成していないほど)増加するため、本発明のロール状フィルムの巻き取られていた態様における巻き内側上にその他の層を形成することで、ロール状フィルムの一方の面のみの密着性を高めたい場合に好ましく巻き内側の表面の密着性だけを増加させることができる。具体的には、密着性は、フィルム上に設けた層の上に粘着テープを貼り付け、これを引き上げることで評価することができる。この際、フィルム表面が分子配向していないと分子が伸張し易なり、粘着テープを引き上げた際の応力(引き剥がし応力)を吸収する。この結果、フィルムと、その上の層の界面にかかる引き剥がし応力を緩和することができる。
【0023】
このように、巻き外側の特性がフィルム全体としては支配的であることを用いてフィルム全体の熱膨張係数を低減し、かつ、フィルム表面のみの特性が影響する密着力を巻き内側で効率的に向上させることで、分子配向が必要な熱膨張係数の低減と、分子配向を緩めたい密着力の向上の両立を1枚のフィルムで実現することができる。
【0024】
(厚み出し加工)
さらに本発明のロール状フィルムは、フィルム両端に減少率1%〜50%、より好ましくは2%〜40%、さらに好ましくは3%〜30%の厚み出し加工が施されていることが好ましい。なお、本発明でいう前記厚み出し加工とは、フィルムの凹凸を付与するものを指す。
本発明では厚み出し加工の減少率を上記範囲にすることにより、フィルムを巻きつけた際にフィルムが引っ張られる伸張応力を弱めることができ、これにより巻き外側の配向変化も抑えられより好ましい。
減少率が本発明の好ましい範囲の下限値以上であると、上記の伸張応力を緩和でき、傾斜構造が経時で変化し難くなるため好ましい(通常の厚み出し加工は経時変化し難くするため、本発明の範囲以下である)。
減少率が本発明の好ましい範囲の上限値以下であると、厚み出し加工の本来の役目(巻いた際のフィル面どうしの接触を弱め、傷の発生を防ぐ)が十分機能するため好ましい。
なお、本発明の厚み出し加工の減少率は以下の方法で計測される。
(1)厚み出し加工して製造されたロール状フィルムから、フィルムの厚み出し加工部を切り出し、その凹凸高さを厚み計で測定し、これをh1とする。
(2)厚み出し加工部を5cm角に10枚切り出し、これを重ね合わせ、この上に10kgの荷重を置き、50℃で100時間放置する。この後、厚み出し加工の凹凸高さを厚み計で測定し、これをh2とする。下記式に従い減少率を求める。
減少率(%)=100×(h1−h2)/h1
【0025】
前記厚み出し加工がされているフィルム両端の部分は、フィルム端部からフィルム幅の0%〜10%の領域であることが好ましく、より好ましくは0.1%〜7%、さらに好ましくは0.3%〜3%の領域である。
前記厚み出し加工の好ましい幅は3mm〜40mm、より好ましくは5mm〜30mm、さらに好ましくは10mm〜20mmである。
【0026】
前記厚み出し加工の好ましい凹凸の高さはフィルム厚みの5%〜50%、より好ましくは10%〜40%、さらに好ましくは15%〜35%である。
【0027】
(巻き径)
本発明のロール状フィルムは、巻き径は直径20cm〜200cmが好ましく、より好ましくは30cm〜150cm、さらに好ましくは40cm〜120cmである。この範囲の上限値以下であれば、曲率半径が大きくなり過ぎず、周長がある程度短いため、周長の増加に伴う伸張応力の増加が少なくなり、経時で傾斜構造が減少し難く好ましい。一方、この範囲の下限値以上であれば、曲率半径が小さくなり過ぎず、巻き内側に働く圧縮応力が増大し過ぎず、これにより傾斜構造が低減し難く好ましい。
なお、巻き径の直径には、フィルム状ロールが巻き芯を有する場合には巻き芯の直径も含まれるものであり、フィルム状ロール全体の幅としての直径を表す。したがって、本発明のロール状フィルムは、直径が20cm以上200cm未満である巻き芯に巻き取られていて、最外層の巻きフィルムが形成する円の直径が20cm超200cm以下であることが好ましい。
【0028】
本発明のフィルムの膜厚は、10μm〜500μmであることが好ましく、20μm〜300μmであることがより好ましく、30μm〜100μmがさらに好ましい。液晶表示装置等に用いる場合は、薄型化の観点からは、80μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることが特に好ましい。本発明のフィルムの製造方法では、このような薄手のフィルムを作成でき、従来技術との差異点の一つである。
【0029】
(傾斜構造)
本発明のフィルムは傾斜構造を有する。
本発明でいう傾斜構造とは、上記のようにγ=|Re[+40°]−Re[−40°]|が0でないフィルムを指す。
以下、本発明のフィルムの光学特性について説明する。
【0030】
(消光位)
本発明では、ロール状フィルムが傾斜構造を有する場合、γが0でないことに加え、フィルム断面を偏光顕微鏡観察した際に観察される消光角が複数観察され、その消光角のフィルム面に対し1度〜89度あるいは91度〜179度(−89度〜−1度)傾斜している構造が好ましい。
まず、本発明のフィルムは、厚み方向の複屈折の角度(消光位)は厚み方向で変化する。この角度(フィルム表面の法線からの角度)はフィルム表面側を大きく、フィルム内部(厚み方向の内部)を小さくもでき、その逆でもよい。このうちフィルム内部の角を小さく(フィルム面に平行に近く)、フィルム表面近傍の角を大きく(フィルム法線方向に近く)することが好ましい。
本発明のフィルムは前記フィルム切片を直交ニコルに固定配置された2枚の偏光板の間に配置し、前記偏光板の面に対して垂直方向から光を照射しながら前記切片を0°〜90°の範囲で回転させた時に観測される消光位が前記フィルム切片の一端からの厚み方向への距離によって変化し、かつ、1°〜90°の範囲内に複数の消光位が異なる角度に観測されることが、TNモードの液晶表示装置に組み込んだ場合の視野角をより改善できる観点から好ましい。このように消光位が変化することは、分子配向の角度が変化することを意味する。ここで、本明細書中、消光位とは、前記フィルム切片を直交ニコル下で0°〜90°の範囲で回転させて輝度の変化を観測した際に、最も暗くなる状態の角度のことを言う。
また、本発明のフィルムは前記フィルム切片の一端からの厚み方向への距離によって、5°以上90°未満の範囲内の異なる角度に消光位が複数観測されることがより好ましく、5°以上85°未満の範囲内の異なる角度に消光位が複数観測されることが特に好ましい。
【0031】
本発明のフィルムは、直交ニコル配置された2枚の偏光板を0°〜90°の範囲で回転させた時に、フィルム切片の一端から他端まで厚み方向へ向けて順に観測した場合に、最初に観測される消光位と最後に観測される消光位が5°を越えて異なることがTNモードの液晶表示装置に組み込んだ場合の視野角をより改善できる観点からより好ましく、10°を越えて異なることが特に好ましい。
【0032】
また、本発明のフィルムは上記の条件で観測した場合に観測される消光位が、膜厚方向の距離に対して急激に変化することも好ましい。例えば、膜厚1μm当たりに、消光位が0.2°以上変化することも好ましく、より好ましくは膜厚1μm当たりに、消光位が1°以上変化することも好ましく、特に好ましくは膜厚1μm当たりに、消光位が5°以上変化することが好ましい。
【0033】
本発明のフィルムは、フィルム切片の複屈折が実質的に0でない部分で、前記消光位の変化が観測されるため、液晶表示装置に用いた時に優れた視野角補償能を有する。本明細書中、複屈折が実質的に0でないとは、フィルム切片を偏光顕微鏡によって観察し、干渉色図表と照らし合わせて複屈折の大きさを測定した際のフィルムの配向度が2×10-5以上であることを意味する。
【0034】
このような厚み方向の複屈折角の制御は、後述するように製膜中にダイから押出したメルトを挟圧することで達成できる。
【0035】
本発明のフィルムの断面方向の複屈折、消光位(消光角)は、具体的には、例えば以下の方法で測定することができる。
(1)フィルムを5mm(傾斜方位と平行)×10mm(傾斜方位と直交)にサンプリングする。
(2)上記サンプルフィルムについて、傾斜方位と平行な一方の端部の面をミクロトーム(ライカ社製RM2265)にて平滑化を行う。
(3)平滑化を行った面から500μm離れた面を、傾斜方位と平行にカミソリ(日新EM社製片刃トリミング用カミソリ)にて切り、フィルムの傾斜方位と厚み方向を面内に含むフィルム切片を作成する。
(4)該フィルム切片を用いて、フィルム厚み方向に目視で色相の異なる領域(色相の差は厚み方向の複屈折の差に由来)のそれぞれについての消光の変化(直交ニコル下で最も暗くなる状態)を、2つの偏光板が直交ニコルに配置された偏光顕微鏡(NIKON社製エクリプスE600POL)にて観察する。具体的には、該フィルム切片を前記2枚の偏光板と平行になるように配置し、該2つの偏光板を直交ニコルに配置された状態に固定し、位相差板としてλ/2板を一方の吸収軸に平行にサンプルフィルムと偏光板の間に挿入する。その後、直交ニコル配置された2枚の偏光板を0°〜90°の範囲で任意の角度ごと(例えば1°)ごとに回転させ、消光の変化を観察する。この際、消光は、上側の偏光子の吸収軸と平行の時にも、下側の偏光子の吸収軸と平行の時にも発生する。このためどちらの方向に消光位が存在するかを検証するために、位相差板(例えばλ/2板)を2枚の偏光子の吸収軸に平行に切片と偏光子の間に挿入する。このとき位相差が増加する方向にサンプル切片の色が変化(複屈折が増加)した方向に消光位が存在する。
さらに、この際にコンペンセーターを用いることで後述する複屈折を測定することができる。
なお、偏光顕微鏡による観察に用いる光源は特に制限はないが、白色光源を用いることが好ましい。また、消光位の観測は直交ニコルで行われる限り特に制限ないか、直交ニコルで偏光顕微鏡によって観測した画像を基に、消光位を決定することが好ましい。また、前記フィルム切片は、前記2枚の偏光板のそれぞれの吸収軸を含む面と、平行に配置される。
【0036】
実際に観察される偏光顕微鏡画像は、明確な複数層構成になっているわけではなく、連続的な層を形成している。顕微鏡の分解能を超えて層構成を測定することが出来ないため、本発明では上記(1)〜(4)で観察された厚み方向の消光の変化を下記(i)および(ii)のように決定してもよい。
(i) 0°〜90°まで1°刻みに観察された偏光顕微鏡画像を厚み方向に20分割(例えば、100μmの膜厚であれば5μm)で分割を行い、片側の表面から順に層に分ける。
(ii) 0°〜90°の観察された画像を、前記各層ごとに輝度の変化を測定し、0°〜90°の範囲で、最も暗くなるときの角度、すなわち消光位を決定する。
なお、−90°〜0°の範囲にある場合と、0°を超えて90°までの範囲にある場合は、上記の位相差板を挿入する方法により判定でき、位相差が増加する方向に消光軸が向いており区別される。
【0037】
(厚み方向の複屈折の大きさの変化)
本発明のフィルムは、傾斜方位と厚み方向を面内に含む切片の複屈折の大きさが変化する。即ち、液晶表示板(LCD)の中では、液晶分子が2つの電極間で配列し、光を遮断させたり通過させたりすることで画像を表示する。この液晶分子が電極間で傾斜し、液晶分子の配向が変化しているため、これを補償するために、厚み方向の複屈折の大きさが変化するフィルムを用いることが有効である。特に、このような微妙な補償を行うためには、LCDの液晶分子全部に対し補償する必要があるが、本発明のフィルムの内部構造は、厚み方向の複屈折の大きさが変化する態様であるため、TNモードの液晶表示装置に組み込んだ際の「周辺ムラ」を良好に補償できる。
【0038】
(厚み方向の複屈折の差)
上述のフィルム断面の上側と下側の複屈折の差、すなわち、厚み方向を面内に含むフィルム切片を、フィルムの一方の表面を含む側の断片(i)ともう一方の表面含む側の断片(ii)に厚みの中心線で2分割し、それぞれの前記断片の厚み方向を等間隔で5等分した各層で測定した複屈折の絶対値の和Σnx(i)とΣnx(ii)を求めたときの両者の差|Σnx(i)−Σnx(ii)|の値は、0.0001〜0.01が好ましく、より好ましくは0.0005〜0.008、さらに好ましくは0.001〜0.005である。この上限値以下であると、フィルムの上面と片面の配向の差に起因する残留歪が発生し難く、γの経時変化が大きくなり難くなる。一方この範囲の下限値以上であると傾斜構造が十分大きく、光学補償能を発現でき、液晶表示板に組み込んだ際の画像のむらを抑制することができる。
【0039】
(複屈折の最大値の位置)
また、本発明のフィルムは前記フィルム切片を一端から他端まで厚み方向へ向けて順に観測した場合に、複屈折が厚み方向で変化し、複屈折の大きさが最大となる部分が厚み方向の10%〜90%の範囲に存在することが、液晶表示装置に組み込んだ際の周辺ムラを改善し、さらにγの経時変化率を改善する観点から好ましい。本発明では、傾斜方位と厚み方向を面内に含む切片の複屈折の大きさの最大値が厚み方向の15%〜85%の範囲に存在することがより好ましく、20%〜80%の範囲に存在することがさらに好ましい。最大複屈折がフィルムの厚み方向の内部に存在することで、熱や応力に対する光学特性の経時安定性を良くすることができる。なお、本明細書中では、便宜上、後述する本発明の光学フィルムの製造方法で移動速度の速い側の挟圧面に接していた面を厚み方向の距離を測定するときの基準面とした。すなわち、移動速度の速い側の挟圧面に接していた面の位置の水準は0%であり、フィルム他端の位置の水準は100%である。
【0040】
(複屈折の大きさ)
前記フィルム切片の複屈折の大きさは、0〜0.05であることが好ましく、より好ましくは0.001〜0.048、さらに好ましくは0.002〜0.045である。
前記フィルム切片の複屈折の大きさの最大値と最小値の差は、0.0005〜0.05であることが好ましく、より好ましくは0.001〜0.04、さらに好ましくは0.002〜0.04である。
【0041】
(面内方向のレターデーションRe、γ)
本発明のフィルムは、フィルム法線と傾斜方位を含む面内において該法線に対して傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定したレターデーションRe[+40°]と、該法線に対して傾斜方位側へ−40°傾いた方向から測定したレターデーションRe[−40°]が、下記式(I)を満たすことが好ましい。
10nm≦γ≦300nm 式(I)
γ=|Re[+40°]−Re[−40°]| 式(I)’
本発明のフィルムは、前記γが、下記式(I’’)を満たすことが、TNモードの液晶表示装置に組み込んだ際の視野角を改善する観点から好ましい。
10nm≦γ≦210nm (I’’)
前記γは50〜210nmであることがより好ましく、60〜250nmであることが特に好ましく、60〜200nmであることがより特に好ましく、さらに好ましくは80〜180nmである。
【0042】
本明細書において、「フィルム法線からθ°傾いた方向」とは、法線方向から傾斜方位にθ°だけフィルム面方向に傾斜させた方向と定義する。即ち、フィルム面の法線方向は、傾斜角度0°の方向であり、フィルム面内の任意の方向は、傾斜角度(θ)の符号の正負を考慮しない場合、傾斜角度90°の方向である。傾斜角度(θ)の符号の正負を考慮する場合、Re[+40°]を測定する方向とRe[−40°]を測定する方向は、フィルム法線に対して、線対称な位置となる。
【0043】
本発明のフィルムにおいて、面内方向のレターデーションRe[0°]は、20〜300nmであルことが好ましい。
さらに、本発明のフィルムは、フィルム法線方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[0°]が下記式(II)を満たすことがより好ましい。
50nm≦Re[0°]≦300nm 式(II)
前記Re[0°]は60〜300nmであることが好ましく、60〜250nmであることがより好ましく、60〜200nmであることが特に好ましく、さらに好ましくは、80〜180nmである。
【0044】
γ、Re[0°]が前記好ましい範囲のフィルムは、後述する本発明の製造方法によって作製することができる。また、上記好ましい光学特性の光学フィルムを、TNモード、ECBモード、OCBモード等の液晶表示装置の光学補償に利用した場合に、視野角特性の改善に寄与し、広視野角化を達成することができる。
【0045】
本発明のフィルムは、フィルム膜厚方向のレターデーションRthが下記式(V)を満たすことが好ましい。
40nm≦Rth≦500nm 式(V)
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(V)'
(式(VI)中、nxは、面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表し、dはフィルム厚みを表す。)
さらに、本発明のフィルムは、厚み方向のレターデーションRthが、より好ましくは40〜350nm、さらに好ましくは40〜300nmである。
【0046】
Re[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキは、液晶表示装置に利用した場合に、表示ムラとなって現れるので、そのバラツキは小さいほど好ましく、具体的には、±3nm以内であることが好ましく、±1nm以内であることがさらに好ましい。また、同様に遅相軸の角度のバラツキも、表示ムラの原因となるので、そのバラツキは小さいほど好ましく、具体的には±1°以内であることが好ましく、±0.5°以内であることがさらに好ましく、±0.25°以内であることが特に好ましい。
【0047】
本明細書において、Re[θ]およびRthは、光学異方性層、フィルム、積層体等の、フィルム状の測定対象物の、面内のレターデーション(nm)、及び厚み方向のレターデーション(nm)を表す。
Re[0°]は、KOBRA 21ADH又はWR(王子計測機器(株)製)において、波長550nmの光を、フィルム状の測定対象物の法線方向に入射させて測定される。測定波長λnmの選択にあたっては、波長選択フィルターをマニュアルで交換するか、または測定値をプログラム等で変換して測定することができる。
測定されるフィルム状の測定対象物が1軸又は2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合、以下の方法によりRthが算出される。
Rthは、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合には、フィルム状の測定対象物の、面内の任意の方向を回転軸とする)、フィルム状の測定対象物の法線方向に対して、法線方向から−50°から+50°まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長550nmの光を入射させて、レターデーション値を11点測定し、そのレターデーション値と、平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値とを基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値は、その符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH又はWRが算出する。
なお、遅相軸を回転軸として(遅相軸がない場合には、フィルム状の測定対象物の、面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値、及び入力された膜厚値を基に、以下の数式(A)及び式(B)より、ReおよびRthを算出することもできる。
【0048】
【数1】

なお、式中、Re[θ]は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。
また、数式(A)において、nxは、面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表し、dは膜厚を表す。
【0049】
測定されるフィルム状の測定対象物が1軸、又は2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がない測定対象物の場合には、以下の方法により、Rthが算出される。
Rthは、前記Reを面内の任意に設定した方位(KOBRA 21ADH又はWRに設定できる)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50°から+50°まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長550nmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と、平均屈折率の仮定値、及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS、INC)、各種光学補償フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについては、アッベ屈折計で測定できる。主な光学補償フィルムの平均屈折率の値を以下に例示すると、セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADH又はWRは、nx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
なお、Re[θ°]及び屈折率の測定波長は特別な記述がない限り、測定波長550nmでの値である。
【0050】
本明細書において、フィルムのRe[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]は、フィルム法線方向から測定した(傾斜角度0°での)波長550nmにおけるレターデーション値、該法線に対して傾斜方位側又は仮傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定した(傾斜角度40度での)レターデーション値および該法線に対して傾斜方位又は仮傾斜方位側へ−40°傾いた方向から測定した(傾斜角度−40度での)レターデーション値を表す。
ここで、傾斜方位は、以下の方法で決定した。
(1)フィルム面内の遅相軸方位を0°、フィルム面内の進相軸方位を90°とし、0°〜90°の間で0.1°刻みで仮傾斜方位を設定する。
(2)フィルム法線に対して各仮傾斜方位側へ40°又は−40°傾いた方向からRe[+40°]とRe[−40°]を測定し、各仮傾斜方位の|Re[+40°]−Re[−40°]|を求める。
(3)|Re[+40°]−Re[−40°]|が最大となる方位を傾斜方位と決定する。
すなわち、本明細書において、「傾斜方位を有する」とは、|Re[+40°]−Re[−40°]|が最大となる方位が存在することを言う。
本明細書において、フィルムのRthは傾斜方位において、KOBRA21ADH、又は、WRが算出したものである。
【0051】
また、Re[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキは、以下の方法により測定することができる。フィルム中央部の互いに2mm以上離れた任意の10点以上の位置でサンプリングを行い、上記方法でRe[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]を測定し、その最大値と最小値の差を、Re[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキとする。また、本発明では上記10点の平均値をRe[0°]、Re[+40°]、Re[−40°]とする。
さらに、遅相軸およびRthのバラツキも同様に測定される。
【0052】
(γの経時変化率)
本発明のフィルムは、ロール状で保管中の前記γの経時変化率が小さい。
TNモードの液晶表示装置に組み込んだ後、経時した後の視野角や周辺ムラの悪化を抑制することができる。ここで、本明細書中、γの経時変化率とは、以下の方法で測定し、計算した値のことを言う。
(γの経時変化率)=100%×(経時前後のγの差の絶対値)/(経時前のγ)
前記γの経時変化率は、30%未満であることが好ましく、20%未満であることがより好ましく、15%未満であることが特に好ましく、10%未満であることがより特に好ましい。
【0053】
(カール)
本発明のフィルムはカールが小さいことが、TNモードの液晶表示装置に組み込んだ際の周辺ムラを改善する観点から好ましい。特に、本発明のロール状フィルムは複屈折の絶対値の和の大きな側の断片に含まれるフィルム表面が外側になるように巻き取られているが、このように巻き取られているフィルムは一般的にカールしやすい。本発明のフィルムのカールは、30m-1未満であることが好ましく、20m-1以下であることがより好ましい。
【0054】
(熱可塑性樹脂)
本発明のロール状フィルムは、熱可塑性樹脂から構成される。
ここで、本明細書中において、「熱可塑性樹脂から構成される」フィルムとは、熱可塑性樹脂を50%以上含有することを意味する。また、前記熱可塑性樹脂は、溶融製膜可能であることが好ましい。
また、「熱可塑性樹脂を含有する組成物」については、熱可塑性樹脂を50%以上含有することが好ましく、該熱可塑性樹脂は溶融製膜可能であることが好ましい。
【0055】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、上記光学特性を有する限り特に限定されないが、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度(以下、Tgとも言う)が、−30〜230℃であることが好ましく、50〜200℃であることがより好ましく、60〜170℃であることが特に好ましい。
なお、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、走査型示差熱量計(DSC)を用いて、測定パンに樹脂をいれ、これを窒素気流中で、10℃/分で30℃から300℃まで昇温した後(1st−run)、30℃まで−10℃/分で冷却し、再度10℃/分で30℃から300℃まで昇温した(2nd−run)。2nd−runでベースラインが低温側から偏奇し始める温度をガラス転移温度(Tg)として、求めることができる。
前記熱可塑性樹脂の熱分解温度(Td)は300℃以上であることが好ましく、260℃以上であることがより好ましく、220℃以上であることが特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂のTg〜(Tg+100)℃における複屈折の緩和時間は、0.5秒以上であることが好ましく、1秒以上であることがより好ましく、2秒以上であることが特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂の屈折率は、1.35〜1.77であることが好ましく、1.40〜1.65であることがより好ましく、1.45〜1.60であることが特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂に含まれる直径50μm以上の異物は200個/cm2以下であることが好ましく、100個/cm2以下であることがより好ましく、50個/cm2以下であることが特に好ましい。
溶融押出し法を利用して作製する場合は、該樹脂の融点Tmと熱分解温度Tdが、Tm<Tdを満たす熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、溶融押出し成形性が良好な材料を利用するのがより好ましく、その観点では、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル類、透明ポリエチレン、透明ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリアリレート類、ポリスルホン類、ポリエーテルスルホン類、マレイミド系共重合体類、透明ナイロン類、透明フッ素樹脂類、透明フェノキシ類、ポリエーテルイミド類、ポリスチレン類、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂を選択するのが好ましい。1種の当該樹脂を含有していてもよいし、互いに異なる2種以上の当該樹脂を含有していてもよい。
一方、溶液製膜を利用して熱可塑性樹脂を半流体の状態で本発明の製造方法を実施する場合は、該熱可塑性樹脂は溶媒に溶解すれば特に制限は無く、溶融製膜に用いられる熱可塑性樹脂と同様の樹脂を用いてよい。
【0056】
本発明のフィルムでは、前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂(スチレン−アクリル系樹脂も含む)およびポリエステル系樹脂から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、前記環状オレフィン類は、付加重合によって得られた環状オレフィン類であることが好ましい。
【0057】
特に、正の固有複屈折性を示す、セルロースアシレート系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂は、2つのロールでせん断変形を付加した場合、遅相軸が傾斜方位を向き、γ>0のフィルムを作成することができ、例えば、2つのロールをダイ出口と平行に配置した場合、傾斜方位はフィルム長手方向と同じである。
また、負の固有複屈折性を示す、アクリル系樹脂およびスチレン系樹脂は、上記加工を行った場合、進相軸が傾斜方位を向き、γ>0のフィルムを作成することができる。
【0058】
本発明のフィルムを、視野角補償フィルムとして液晶表示装置に応用する場合には、液晶表示装置の特性や偏光板加工の利便性を考慮にいれて、上記正または負の固有複屈折樹脂を適宜選択して用いることが出来る。
【0059】
本発明に使用可能な環状オレフィン系樹脂の例には、ノルボルネン系化合物の重合により得られたノルボルネン系樹脂が含まれる。また、開環重合および付加重合のいずれの重合方法によって得られる樹脂であってもよい。
付加重合およびそれにより得られる環状オレフィン系樹脂としては、例えば、特許3517471号公報、特許3559360号公報、特許3867178号公報、特許3871721号公報、特許3907908号公報、特許3945598号公報、特表2005−527696号公報、特開2006−28993号公報、特開2006−11361公報、国際公開WO2006/004376号公報、国際公開WO2006/030797号公報パンフレットに記載されているものが挙げられる。中でも、特許3517471号公報に記載のものが特に好ましい。
開環重合およびそれにより得られる環状オレフィン系樹脂としては、国際公開WO98/14499号公報パンフレット、特許3060532号公報、特許3220478号公報、特許3273046号公報、特許3404027号公報、特許3428176号公報、特許3687231号公報、特許3873934号公報、特許3912159号公報に記載のものが挙げられる。中でも、国際公開WO98/14499号公報パンフレット、特許3060532号公報に記載のものが特に好ましい。
これらの環状オレフィン系樹脂の中でも付加重合によって得られるものが、複屈折の発現性、溶融粘度の観点から好ましく、例えば、「TOPAS #6013」(Polyplastics社製)を用いることができる。
【0060】
本発明に使用可能なセルロースアシレート系樹脂の例には、セルロース単位中の3個の水酸基が、少なくとも一部がアシル基で置換されたいずれのセルロースアシレートも含まれる。当該アシル基(好ましくは炭素数3〜22のアシル基)は、脂肪族アシル基および芳香族アシル基のいずれであってもよい。中でも、脂肪族アシル基を有するセルロースアシレートが好ましく、炭素数3〜7の脂肪族アシル基を有するものがより好ましく、炭素数3〜6の脂肪族アシル基を有するものがさらに好ましく、炭素数は3〜5の脂肪族アシル基を有するものがよりさらに好ましい。これらのアシル基は複数種が1分子中に存在していてもよい。好ましいアシル基の例には、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基などが含まれる。これらの中でも、さらに好ましいものは、アセチル基、プロピオニル基およびブチリル基から選択される1種または2種以上を有するセルロースアシレートであり、よりさらに好ましいものは、アセチル基およびプロピオニル基の双方を有するセルロースアシレート(CAP)である。前記CAPは、樹脂の合成が容易であること、押し出し成形の安定性が高いこと、の点で好ましい。
【0061】
本発明の製造方法を含む溶融押出し法によりフィルムを作製する場合は、用いるセルロースアシレートは、以下の式(S−1)および(S−2)を満足することが好ましい。以下の式を満足するセルロースアシレートは、融解温度が低く、融解性が改善されているので、溶融押出し製膜性に優れる。
式(S−1) 2.0≦X+Y≦3.0
式(S−2) 0.25≦Y≦3.0
前記式(S−1)および(S−2)中、Xはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Yはセルロースの水酸基に対するアシル基の置換度の総和を表す。本明細書でいう「置換度」とは、セルロースの2位、3位および6位のぞれぞれの水酸基の水素原子が置換されている割合の合計を意味する。2位、3位および6位全ての水酸基の水素がアシル基で置換された場合は置換度が3となる。
さらに、下記式(S−3)および(S−4)を満足するセルロースアシレートを用いるのがより好ましい。
式(S−3)2.3≦X+Y≦2.95
式(S−4)1.0≦Y≦2.95
下記式(S−5)および(S−6)を満足するセルロースアシレートを用いるのがさらに好ましい。
式(S−5)2.7≦X+Y≦2.95
式(S−6)2.0≦Y≦2.9
【0062】
セルロースアシレート系樹脂の質量平均重合度および数平均分子量については特に制限はない。一般的には、質量平均重合度が350〜800程度、および数平均分子量が70000〜230000程度である。前記セルロースアシレート系樹脂は、アシル化剤として酸無水物や酸塩化物を用いて合成できる。工業的に最も一般的な合成方法では、綿花リンタや木材パルプなどから得たセルロースをアセチル基および他のアシル基に対応する有機酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)またはそれらの酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)を含む混合有機酸成分でエステル化してセルロースエステルを合成する。前記式(S−1)および(S−2)を満足するセルロースアシレートの合成方法としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁の記載や、特開2006−45500号公報、特開2006−241433号公報、特開2007−138141号公報、特開2001−188128号公報、特開2006−142800号公報、特開2007−98917号公報記載の方法を参照することができる。
【0063】
本発明に使用可能なポリカーボネート系樹脂として、ビスフェノールA骨格を有するポリカーボネート樹脂が挙げられ、ジヒドロキシ成分とカーボネート前駆体とを界面重合法または溶融重合法で反応させて得られるものであり、例えば、特開2006−277914号公報、特開2006−106386号公報、特開2006−284703号公報記載のものが好ましく用いることができる。例えば、市販品として、「タフロンMD1500」(出光興産社製)を用いることができる。
【0064】
本発明に使用可能なスチレン系樹脂とは、主成分としてスチレン及びそれらの誘導体を重合して得られる樹脂及び、その他の樹脂の共重合体を指し、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知のスチレン系熱可塑性樹脂等を用いることができ、特に複屈折、フィルム強度、耐熱性を改良できる、共重合体樹脂が好ましい。
共重合体樹脂としては、例えば、スチレン−アクリロニトリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン−無水マレイン酸系樹脂、あるいはこれらの多元(二元、三元等)共重合ポリマーなどが挙げられる。これらの中でも、スチレン−アクリル系樹脂やスチレン−無水マレイン酸系樹脂が耐熱性・フィルム強度の観点から好ましい。
前記スチレン−無水マレイン酸系樹脂は、スチレンと無水マレイン酸との質量組成比が、スチレン:無水マレイン酸=95:5〜50:50であることが好ましく、スチレン:無水マレイン酸=90:10〜70:30であることがより好ましい。また、固有複屈折を調整するため、スチレン系樹脂の水素添加を行うことも好ましく利用できる。
前記スチレン−無水マレイン酸系樹脂としては、例えば、ノバケミカル社製の「Daylark D332」などが挙げられる。
また、スチレン−アクリル系樹脂としては、後述する、旭化成ケミカル社製の「デルペット980N」などを用いることができる。
【0065】
本発明に使用可能なアクリル系樹脂とは、主成分として、アクリル酸、メタクリル酸およびそれらの誘導体を重合して得られる樹脂、およびさらにその誘導体のことをいい、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知のメタクリル酸系熱可塑性樹脂等を用いることできる。
アクリル酸、メタクリル酸およびそれらの誘導体を重合して得られる樹脂としては、例えば、下記一般式(1)で表される構造のものを挙げることができる。
【0066】
【化1】

前記一般式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を示す。有機残基とは、具体的には、炭素数1〜20の直鎖状、分枝鎖状、もしくは環状のアルキル基を示す。
【0067】
前記アクリル酸、メタクリル酸およびそれらの誘導体を重合して得られる樹脂の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2、3、4、5、6−ペンタヒドロキシエキシルおよび(メタ)アクリル酸2、3、4、5−テトラヒドロキシペンチルが好ましく、熱安定性に優れる点で(メタ)アクリル酸メチル(以下MMAともいう)がより好ましい。これらのうち一種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらのうち一種の単重合体であっても、2種以上の共重合体であっても、その他の樹脂の共重合体であってもよいが、ガラス転移温度を高める観点からその他の樹脂との共重合体であることが特に好ましい。
前記アクリル系共重合体樹脂の中でも、樹脂を構成する全モノマー中、MMA単位(モノマー)を30モル%以上含むものが好ましく、MMA以外に、ラクトン環単位、無水マレイン酸単位、グルタル酸無水物単位の少なくとも1種の単位を含むことがより好ましく、例えば下記のものを使用できる。
【0068】
(1)ラクトン環単位を含むアクリル樹脂
特開2007−297615号、特開2007−63541号、特開2007−70607号、特開2007−100044号、特開2007−254726号、特開2007−254727号、特開2007−261265号、特開2007−293272号、特開2007−297619号、特開2007−316366号、特開2008−9378号、特開2008−76764号の各公報に記載のものを使用できる。この中でより好ましいのが特開2008−9378号公報に記載の樹脂である。
(2)無水マレイン酸単位を含むアクリル樹脂
特開2007−113109号、特開2003−292714号、特開平6−279546号、特開2007−51233号(ここに記載の酸変性ビニル)、特開2001−270905号、特開2002−167694号、特開2000−302988号、特開2007−113110号、特開2007−11565号各公報に記載のものを使用できる。この中でより好ましいのが、特開2007−113109号公報に記載のものである。また市販のマレイン酸変性MAS樹脂(例えば旭化成ケミカルズ(株)製デルペット980N)も好ましく使用できる。
(3)グルタル酸無水物単位を含むアクリル樹脂
特開2006−241263号、特開2004−70290号、特開2004−70296号、特開2004−126546号、特開2004−163924号、特開2004−291302号、特開2004−292812号、特開2005−314534号、特開2005−326613号、特開2005−331728号、特開2006−131898号、特開2006−134872号、特開2006−206881号、特開2006−241197号、特開2006−283013号、特開2007−118266号、特開2007−176982号、特開2007−178504号、特開2007−197703号、特開2008−74918号、国際公開WO2005/105918等各公報に記載のものを使用できる。この中でより好ましいのが特開2008−74918号公報に記載のものである。
これらの樹脂のガラス転移温度(Tg)は106℃〜170℃が好ましく、より好ましくは110℃〜160℃、さらに好ましくは115℃〜150℃である。
【0069】
これらの中でも、前記熱可塑性樹脂としては、環状オレフィン系樹脂であることが好ましく、高透明性、複屈折発現性および耐熱性の観点からノルボルネン系樹脂であることがより好ましく、付加重合系のノルボルネン系樹脂であることが特に好ましい。
その他、前述したスチレン−アクリル系樹脂も、アクリル樹脂に含めてもよく、特に前記スチレン系樹脂と区別されるものではない。
また、前記熱可塑性樹脂が共重合体である場合は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもかまわない。
さらにこれらの樹脂は単独で用いても良く、混合してもちいてもよい。例えば特開2009−244734号、特開2009−208476号、特開2009−126128号、特開2007−231157号、特開2005−274595号、特開2004−325523号、特開2009−271510号、特開2009−249394号、特開2009−210777号、特開2009−179731号、国際公開WO07/102340号等の各公報に記載の樹脂混合物を使用することもできる。
さらに、これらの樹脂を積層して使用することも好ましく、例えば特開2009−237533号、特開2009−192844号、特開2009−126162号、特開2009−125984号、特開2008−152118号、特開2008−766000号、特開2007−326334号、特開2007−248975号、特開2006−220731号、特開2006−220731号、特開2006−212988号、特開2006−76212号、特開2005−219330号、特開2004−224047号、特開2004−163684号、特開2004−50405号、特開2003−240953号、特開2003−161833号、特開2002−207119号、特開2002−166459号、特開2002−156525号、特開2000−135760号、特開平9−111208号の各公報に記載の多層体にも適用できる。
【0070】
本発明に使用可能なポリエステル類としては、ジカルボン酸成分とグリコ−ル成分からなるポリマーを挙げることができる。前記ジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマ−酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸等を挙げることができる。なかでもこれらのジカルボン酸成分のうち、テレフタル酸、イソフタル酸が耐熱性、成形性の点から好ましい。一方、前記グリコ−ル成分としては例えばエチレングリコ−ル、プロパンジオ−ル、ブタンジオ−ル、ペンタンジオ−ル、ヘキサンジオ−ル、ネオペンチルグリコ−ル等の脂肪族グリコ−ル、シクロヘキサンジメタノ−ル等の脂環族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族グリコール等が挙げられる。中でもこれらのグリコール成分のうちエチレングリコールが好ましい。なお、これらのジカルボン酸成分、グリコ−ル成分は2種以上を併用してもよい。
【0071】
また、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、トリメリット酸、トリメシン酸、トリメチロ−ルプロパン等の多官能化合物を共重合してもよい。
【0072】
本発明において好ましいポリエステル類としては、例えばPET、PEN、PBTおよびその他の樹脂との共重合体を挙げることができ、その中でもPET、PEN、PBTがより好ましく、PETまたはPENであることが原材料のコストおよび汎用性の観点から、特に好ましい。
前記共重合体としては、例えば、PETとPBTの共重合体を挙げることができる。また、共重合体である場合、結晶性が損なわれない限りランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。さらに、共重合成分は、結晶性であっても非結晶性であってもよく、前記結晶性熱可塑性樹脂の例で挙げた樹脂であることも好ましい。
【0073】
前記ポリエステル類の質量平均重合度および数平均分子量については特に制限はないが、例えば、質量平均分子量50000〜300000のポリエステル類を用いることが得られるフィルムの成形性を改善する観点から好ましい。
前記ポリエステル類の結晶化度については、ある程度高い結晶性であれば特に制限はなく、いわゆる非晶性ポリエステル(例えば、いわゆるA−PET等)以外を好ましく用いることができる。
【0074】
本発明に用いられるポリエステル類は市販品であっても合成したものでもよい。
前記ポリエステル類の製造には、従来公知の任意の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えばポリエチレンテレフタレ−トに、ゲルマニウム化合物として二酸化ゲルマニウムを添加する場合で説明する。テレフタル酸成分、イソフタル酸成分とエチレングリコ−ルをエステル交換またはエステル化反応せしめ、次いで二酸化ゲルマニウム、リン化合物を添加し、引き続き高温、減圧下で一定のジエチレングリコール含有量になるまで重縮合反応せしめ、ゲルマニウム元素含有重合体を得る。次いで得られた重合体をその融点以下の温度において減圧下または不活性ガス雰囲気下で固相重合反応せしめ、アセトアデルヒドの含有量を減少させ、所定の固有粘度、カルボキシル末端基を得る方法等を挙げることができる。
【0075】
また、本発明のポリエステルを製造する際には、従来公知の反応触媒、着色防止剤を使用することができ、反応触媒としては例えばアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物等、着色防止剤としては例えばリン化合物等挙げることができる。
【0076】
(添加剤)
本発明のフィルムは、上記熱可塑性樹脂以外の材料を含有していてもよいが、上記熱可塑性樹脂の1種または2種以上を主成分(組成物中の全材料中、最も含有割合の高い材料を意味し、当該樹脂を2種以上含有する態様では、それらの合計の含有割合が、他の材料それぞれの含有割合より高いことを意味する)として含有しているのが好ましい。上記熱可塑性樹脂以外の材料としては、種々の添加剤が挙げられ、その例には、安定化剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、可塑剤、微粒子、および光学調整剤が含まれる。
【0077】
安定化剤:
本発明のフィルムは、安定化剤の少なくとも一種を含有していてもよい。安定化剤は、前記熱可塑性樹脂を加熱溶融する前にまたは加熱溶融時に添加することが好ましい。安定化剤は、フィルム構成材料の酸化防止、分解して発生した酸の捕捉、光または熱によるラジカル種基因の分解反応を抑制または禁止する等の作用がある。安定化剤は、解明されていない分解反応などを含む種々の分解反応によって、着色や分子量低下等の変質および揮発成分の生成等が引き起こされるのを抑制するのに有用である。樹脂を製膜するための溶融温度においても安定化剤自身が分解せずに機能することが求められる。安定化剤の代表的な例には、フェノール系安定化剤、亜リン酸系安定化剤(フォスファイト系)、チオエーテル系安定化剤、アミン系安定化剤、エポキシ系安定化剤、ラクトン系安定化剤、アミン系安定化剤、金属不活性化剤(スズ系安定化剤)などが含まれる。これらは、特開平3−199201号公報、特開平5−1907073号公報、特開平5−194789号公報、特開平5−271471号公報、特開平6−107854号公報などに記載があり、本発明ではフェノール系や亜リン酸系安定化剤の少なくとも一方以上を用いることが好ましい。フェノール系安定化剤の中でも、特に分子量500以上のフェノール系安定化剤を添加することが好ましい。好ましいフェノール系安定化剤としては、ヒンダードフェノール系安定化剤が挙げられる。
【0078】
これらの素材は、市販品として容易に入手可能であり、下記のメーカーから販売されている。チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社から、Irganox 1076、Irganox 1010、Irganox 3113、Irganox 245、Irganox 1135、Irganox 1330、Irganox 259、Irganox 565、Irganox 1035、Irganox 1098、Irganox 1425WL、として入手することができる。また、旭電化工業株式会社から、アデカスタブ AO−50、アデカスタブ AO−60、アデカスタブ AO−20、アデカスタブ AO−70、アデカスタブ AO−80として入手できる。さらに、住友化学株式会社から、スミライザーBP−76、スミライザーBP−101、スミライザーGA−80、として入手できる。また、シプロ化成株式会社からシーノックス326M、シーノックス336B、としても入手することが可能である。
【0079】
また、上記の亜リン酸系安定化剤としては、特開2004−182979号公報の[0023]〜[0039]に記載の化合物をより好ましく用いることができる。亜リン酸エステル系安定化剤の具体例としては、特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物を挙げることができる。さらに、その他の安定化剤としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている素材を好ましく用いることができる。
【0080】
上記亜リン酸エステル系安定化剤は、高温での安定性を保つために高分子量であることが有用であり、分子量500以上であり、より好ましくは分子量550以上であり、特には分子量600以上が好ましい。さらに、少なくとも一置換基は芳香族性エステル基であることが好ましい。また、亜リン酸エステル系安定化剤は、トリエステルであることが好ましく、リン酸、モノエステルやジエステルの不純物の混入がないことが望ましい。これらの不純物が存在する場合は、その含有量が5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下であり、特には2質量%以下である。これらは、特開2004−182979号公報の[0023]〜[0039]に記載の化合物などを挙げることが、さらに特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物も挙げることができる。亜リン酸エステル系安定化剤の好ましい具体例として下記の化合物を挙げることができるが、本発明で用いることができる亜リン酸エステル系安定化剤はこれらに限定されるものではない。
【0081】
これらは、旭電化工業株式会社からアデカスタブ1178、同2112、同PEP−8、同PEP−24G、PEP−36G、同HP−10として、またクラリアント社からSandostab P−EPQとして市販されており、入手可能である。さらに、フェノールと亜リン酸エステルを同一分子内に有する安定化剤も好ましく用いられる。これらの化合物については、さらに特開平10−273494号公報に詳細に記載されており、その化合物例は、前記安定化剤の例に含まれるが、これらに限定されるものではない。代表的な市販品として、住友化学株式会社から、スミライザーGPがある。これらは、住友化学株式会社から、スミライザーTPL、同TPM、同TPS、同TDPとして市販されている。旭電化工業株式会社から、アデカスタブAO-412Sとしても入手可能である。
【0082】
前記安定化剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。好ましくは、熱可塑性樹脂の質量に対して、安定化剤の添加量は0.001〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.005〜3質量%であり、さらに好ましくは0.01〜0.8質量%である。
【0083】
紫外線吸収剤:
本発明のフィルムは、1種または2種以上の紫外線吸収剤を含有していてもよい。紫外線吸収剤は、劣化防止の観点から、波長380nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ、透明性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。特に好ましい紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロース混合エステルに対する不要な着色が少ないことから好ましい。これらは、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載がある。
紫外線吸収剤の添加量は、熱可塑性樹脂の0.01〜2質量%であることが好ましく、0.01〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0084】
光安定化剤:
本発明のフィルムは、1種または2種以上の光安定化剤を含有していてもよい。光安定化剤としては、ヒンダードアミン光安定化剤(HALS)化合物が挙げられ、より具体的には、米国特許第4、619、956号明細書の第5〜11欄および米国特許第4、839、405号明細書の第3〜5欄に記載されているように、2、2、6、6−テトラアルキルピペリジン化合物、またはそれらの酸付加塩もしくはそれらと金属化合物との錯体が含まれる。これらは、旭電化からアデカスタブLA−57、同LA−52、同LA−67、同LA−62、同LA−77として、またチバ・スペシャリティーケミカルズ社からTINUVIN 765、同144として市販されている。
【0085】
これらのヒンダードアミン系光安定化剤は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらヒンダードアミン系光安定化剤は、勿論、可塑剤、安定化剤、紫外線吸収剤等の添加剤と併用してもよいし、これら添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。その配合量は、本発明の効果を損なわない範囲で決定され、一般的には、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.01〜20質量部程度であり、好ましくは0.02〜15質量部程度、特に好ましくは0.05〜10質量部程度である。光安定化剤は、熱可塑性樹脂組成物の溶融物を調製するいずれの段階で添加してもよく、例えば、溶融物調製工程の最後に添加してもよい。
【0086】
可塑剤:
本発明のフィルムは、可塑剤を含有していてもよい。可塑剤の添加は、機械的性質向上、柔軟性を付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点において好ましい。また、本発明のフィルムを溶融製膜法で製造する場合は、用いる熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも、可塑剤の添加によりフィルム構成材料の溶融温度を低下させることを目的として、または無添加の熱可塑性樹脂よりも同じ加熱温度において粘度を低下させることを目的として、添加されるであろう。本発明のフィルムには、例えばリン酸エステル誘導体、カルボン酸エステル誘導体から選択される可塑剤が好ましく用いられる。また、特開2003−12859号公報に記載の重量平均分子量が500〜10000であるエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー、芳香環を側鎖に有するアクリル系ポリマーまたはシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系ポリマーなども好ましく用いられる。
また、特開2001−151902号、特開2003−33998号、特開2004−137460号、特開2005−40999号、特開2005−43401号、特開2006−58825号、特開2006−71876号、特開2006−91035号、特開2006−111796号、特開2006−113175号、特開2007−84962号、特開2007−216600号、特開2007−216601号、特開2007−223056号、国際公開WO07/26524号、国際公開WO07/7565号、特開2009−251018号、国際公開WO07/108243号、国際公開WO07/69420号、国際公開WO09/107405号等の各公報に記載のものも使用できる。
【0087】
液晶ポリマー:
本発明において、減粘剤として、液晶ポリマー等を追加してもよい。例えば、特公昭56−18016号公報および特開昭64−26632号公報に開示されているp−ヒドロキシ安息香酸残基単位とエチレンテレフタレート単位とからなる共重合ポリエステル、特開昭54−77691号公報に開示されている6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸残基単位とp−ヒドロキシ安息香酸残基とからなる共重合ポリエステル、特公昭47−47870号公報に開示されているテレフタル酸残基単位とp−ヒドロキシ安息香酸残基単位とからなる共重合ポリエステル、特開昭53−65421号公報に開示されているテレフタル酸残基単位とフェニルハイドロキノン残基単位とからなる共重合ポリエステル、米国特許第4,600,765号明細書に開示されているテレフタル酸残基単位、フェニルハイドロキノン残基単位及びスチロイルハイドロキノン残基単位からなる共重合ポリエステル等が挙げられる。
【0088】
本発明において、ポリエステルと液晶ポリマーのブレンド比率は、目的とする繊維の性能に応じて決定されるが、液晶ポリマーの比率は0.1〜10質量%であることが好ましく、さらに好ましくは3〜8質量%である。液晶ポリマーの比率が0.1質量%以上であれば、ポリエステルのみからなる繊維と比べて配向抑制の効果を十分に得ることができる。一方、液晶ポリマーの比率を大きくすることによって配向抑制効果の高い繊維が得られるが、液晶ポリマーの比率が10質量%以下であれば、液晶ポリマーの凝集物が欠陥となって糸切れを招く問題や、強度の低下の問題がともに起こりにくい傾向があり、また、液晶ポリマーのフィブリル化が発生するといった問題も生じ難い傾向にある。
【0089】
微粒子:
本発明のフィルムは、微粒子を含有していてもよい。微粒子としては、無機化合物の微粒子や有機化合物の微粒子が挙げられ、いずれでもよい。本発明における熱可塑性樹脂に含まれる微粒子の平均一次粒子サイズは、ヘイズを低く抑えるという観点から5nm〜3μmであることが好ましく、5nm〜2.5μmであることがより好ましく、10nm〜2.0μmであることがさらに好ましい。ここで、微粒子の平均一次粒子サイズは、熱可塑性樹脂を透過型電子顕微鏡(倍率50万〜100万倍)で観察し、粒子100個の一次粒子サイズの平均値を求めることにより決定する。微粒子の添加量は、熱可塑性樹脂に対して0.005〜1.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.8質量%であり、さらに好ましくは0.02〜0.4質量%である。
【0090】
光学調整剤:
本発明のフィルムは、光学調整剤を含有していてもよい。光学調整剤としてはレターデーション調整剤を挙げることができ、例えば、特開2001−166144号、特開2003−344655号、特開2003−248117号、特開2003−66230号各公報記載のものを使用することができる。光学調整剤を添加することによって、面内のレターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)を制御することができる。好ましい添加量は0〜10質量%であり、より好ましくは0〜8質量%、さらに好ましくは0〜6質量%である。
【0091】
一方、本発明のフィルムは、熱可塑性樹脂から構成され、かつ、単層で光学補償能を発現するため、塗布型フィルムに用いられる重合性液晶化合物を実質的に含まないことが好ましい。本発明において、重合性液晶化合物とは、特開2001−328973号公報、特開2006−227630号公報、特開2006−323069号公報、特開2007−248780号公報に記載されているような、支持体に塗布し、配向させたのち、重合させることにより、配向状態を固化することができる液晶化合物を指す。このような重合性液晶化合物は、10質量%未満であることが好ましく、より特に好ましくは5質量%未満である。
このような重合性液晶化合物としては、例えば、特開2001−328973号公報の[0008]〜[0034]、特開2006−227630号公報の[0017]、特開2007−248780号公報の[0014]〜[0097]に記載のものを挙げることができる。
【0092】
[ロール状フィルムの製造方法]
本発明のロール状フィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法とも言う)は、挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間に熱可塑性樹脂を含有する組成物の溶融物または半流体膜を通過させて、連続的に挟圧してフィルム状に成形する挟圧工程(挟圧工程では、前記第一挟圧面の移動速度を前記第二挟圧面の移動速度よりも速くする)と、前記第一挟圧面で挟圧されたフィルム表面を内側にしてフィルムをロール状に巻き取る工程とを含むことを特徴とする。
その中でも本発明の製造方法は、溶融物を用いて溶融製膜することが好ましい。
【0093】
(挟圧装置)
前記第一挟圧面と第二挟圧面とで速度の異なる挟圧装置としては、例えば互いに移動速度(周速度)が異なる2つのロールの組合せや、特開2000−219752号公報に記載の互いに速度の異なるロールとタッチベルトの組合せ(片面ベルト方式)や、ベルトとベルトの組合せ(両面ベルト方式)等が挙げられる。この中でも、5〜500MPaの高圧を均一にかけられることから、互いに移動速度(周速度)が異なる2つのロールであることが好ましい。すなわち、前記挟圧装置が互いに周速が異なる2つのロールを含んでおり、周速度の早いロールの表面を第一挟圧面とし、周速度が遅いロールの表面を第二挟圧面とすることが好ましい。
ロール圧力は、圧力測定フィルム(富士フイルム社製 中圧用プレスケール等)を2つのロールに通すことで測定することができる。
【0094】
<熱可塑性樹脂組成物の溶融物または半流体膜の供給>
本発明の製造方法では、まず、熱可塑性樹脂を含有する組成物(「熱可塑性樹脂組成物」という場合がある)の溶融物(以下、メルトとも言う)または半流体膜を供給(好ましくは溶融押出し)し、挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間を通過させて連続的に挟圧して挟圧フィルムを成形する工程(以下、挟圧工程とも言う)を含む。前記挟圧工程において、熱可塑性樹脂を含有する組成物の溶融物または半流体膜を供給する手段に特に制限はない。例えば、具体的な供給手段として、熱可塑性樹脂組成物を溶融または溶媒に溶解したドープとしてフィルム状に押出す押出機を用いる態様でもよく、押出機およびダイを用いる態様でもよく、熱可塑性樹脂を一度固化してフィルム状とした後に加熱手段により溶融してメルトを形成し、製膜工程に供給する態様でもよい。
【0095】
溶融製膜法を用いる場合、本発明の趣旨に反しない限り、公知の溶液製膜方法を用いることができる。例えば、本発明の製造方法では、樹脂を乾燥した後、溶媒に混合し、好ましくは10〜35質量%の濃厚溶液(ドープ)を作ることが好ましい。樹脂以外に上記添加物を加えることも好ましい。これを好ましくは濾過、脱泡した後ドラム、バンド等の支持体上に流延することが好ましい。このとき、共流延ダイなどを用い、複数層のフィルムを調製することも好ましい。このとき、上述のように支持体上から乾燥ゾーンまでの間に挟圧処理を行うのが好ましく、より好ましくは支持体から剥ぎ取った後から乾燥までの間である。
具体的には特開2000−84960号、特開2003−53749号、特開2004−66683号、特開2004−322535号、特開2006−283013号、特開2007−79561号、特開2007−178504号、特開2005−104148号、特開昭61−94724号、特開昭62−46625号、特開平3−193316号、特公平6−27206号、特公平7−106603号、特許2554553号、特許2630535号、特許2950709号、特許3220478号、特許3295238号、特許3326607号、特許3329154号、特許3355986号、特許3403882号、特許3531007号、特許3531835号、特許3537918号、特許3628933号、特許3637494号、特許3674284号、特許3742025号、特許3765765号、特許3815912号、特許3830559号、特許3879920号、特許3893862号、特許3903100号、特許3931514号、特許3935755号、特許3941860号、特許3946533号、特許3970022号、特許3974422号、特許3978862号、特許3994244号、特許4013568号、特許4017139号、特許4019855号、特許4032771号、特許4048944号、特許4059730号、特許4084431号、特許4088119号、特許4088128号、特許4109824号、特許4114232号、特許4128327号、特許4169183号、特許4175992号、特開2005−96474号、特開2005−103815号、特開2005−156682号、特開2005−181683号、特開2005−181747号、特開2005−186289号、特開2005−231185号、特開2005−271233号、特開2006−95971号、特開2006−116788号、特開2006−160863号、特開2006−199029号、特開2006−208516号、特開2006−256184号、特開2006−315417号、特開2007−15395号、特開2007−42594号、特開2007−45071号、特開2007−62064号、特開2007−93897号、特開2007−99855号、特開2007−125896号、特開2007−126571号、特開2007−249094号、特開2007−253499号、特開2008−80552号、特開2008−88221号、特開2008−111084号、特開2008−194928号、特開2008−201140号、特開2008−265271号、特開2008−268918号、特開平11216732号、特開2001−113544号、特開2002−79534号、特開2002−103357号、特開2002−103358号、特開2002−144357号、特開2002−316331号、特開2003−53750号、特開2003−20045号、特開2003−200478号、特開2003−236862号、特開2004−66613号、特開2004−107629号各公報等の製膜法を好ましく利用できる。
【0096】
まず、前記熱可塑性樹脂を前記溶媒に溶解してドープを調製するが、その際昇温してもよく冷却してもよくこれらを組み合わせて実施してもよい。熱可塑性樹脂は未使用のものを用いてもよく、一度使用したものを再使用してもよく、これらを混合して使用してもよい。この時の混合比率は再使用樹脂を5重量%〜50重量%、より好ましくは10重量%〜40重量%にするのが好ましい。さらに上記の添加剤を加えることも好ましい。
【0097】
本発明の製造方法では、調製時のドープ粘度を調整することで、挟圧工程における半流体膜の粘度を挟圧に適した範囲に制御することができる。前記調製時のドープ粘度は、ドープに添加する熱可塑性樹脂や添加剤の濃度、熱可塑性樹脂の分子量等により調整できる。前記調製時のドープ粘度は、全ドープ量に対して熱可塑性樹脂の量が5〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜35質量%である。
【0098】
具体的な溶融製膜の好ましい態様としては、熱可塑性樹脂と溶媒とを含むドープを供給手段から半流体膜として押出す工程と、押出された半流体膜を支持体上に流延する工程と、流延された半流体膜を支持体から剥離する工程と、剥離した半流体膜を乾燥する工程と、挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間に1Pa・s〜10万Pa・sの粘度の前記半流体膜を20MPa〜500MPaの挟圧を加えながら通過させて連続的に挟圧する工程を含む態様を挙げることができる。固形分に対する溶媒量が30質量%〜1000質量%である前記半流体膜を挟圧することが好ましく、前記支持体がドラムまたはバンドであることも好ましい。
その他、溶液製膜を行う態様については、特願2009−216705号公報に記載の方法を好ましく用いることができる。
以下、溶融製膜を行う態様について主として説明する。
【0099】
本発明のフィルムの製造方法は、前記熱可塑性樹脂を含有する組成物(以下、熱可塑性樹脂組成物とも言う)をダイから溶融押出しする工程と、溶融押出しされた溶融物を前記第一挟圧面と前記第二挟圧面の間を通過させる工程と、を含むことが、より得られるフィルムの光学特性のムラを抑える観点から好ましい。
前記熱可塑性樹脂組成物を溶融押出しする場合、溶融押出しをする前に、熱可塑性樹脂組成物をペレット化するのが好ましい。市販品の熱可塑性樹脂(例えば、TOPAS#6013、タフロンMD1500、デルペット980N、DayLark D332等)は、ペレット化されている場合もあるが、ペレット化されていない場合は以下の方法を用いることができる。前記熱可塑性樹脂としては本発明のフィルムに含まれる熱可塑性樹脂として説明したものを用いることができ、好ましい範囲も同様である。
前記熱可塑性樹脂組成物を乾燥した後、2軸混練押出機を用い150℃〜300℃で溶融後、ヌードル状に押出したものを空気中あるいは水中で固化し裁断することにより作製できる。乾燥は50℃以上、樹脂の融点以下、より好ましくは70℃以上、樹脂の融点−30℃以下において0.1時間〜100時間、より好ましくは0.3時間〜10時間、さらに好ましくは0.5時間〜5時間、気流中(例えば乾燥空気、窒素)あるいは真空中で乾燥させる。乾燥にはヘンシェルミキサーやパドルミキサー等を用いて撹拌しながら乾燥しても良く、加熱したサイロやオーブン中で乾燥しても良い。また、押出機による溶融後、水中に口金より直接押出しながらカットするアンダーウオーターカット法等によりペレット化することもできる。ペレット化に利用される押出機としては、単軸スクリュー押出機、非かみ合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、かみ合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、かみ合い型同方向回転二軸スクリュー押出機などを用いることができる。押出機の回転数は10rpm〜1000rpmが好ましく、より好ましくは20rpm〜700rpmである。押出滞留時間は10秒〜10分、より好ましくは20秒〜5分である。
ペレットの大きさについては特に制限はないが、一般的には10mm3〜1000mm3程度であり、より好ましくは30mm3〜500mm3程度である。
さらに本発明では製膜前に固相重合を行っても良い。好ましい固相重合条件は、100℃〜300℃、より好ましくは150℃〜250℃、さらに好ましくは170℃〜230℃であり、好ましい固相重合時間は1時間〜100時間、より好ましくは2時間〜50時間、さらに好ましくは5時間〜35時間である。固相重合は気流中(空気中、窒素中等)で行っても良く、真空中でおこなっても良い。たとえば、特開2008−189939号、特表2008−505209号、国際公開WO04/76527号、特開2005−281481号、特開2005−247957号、特表2005−508419号、特開2004−331789号、特開2004−285247号、特開2004−224913号、特開2003−313281号、特開2003−252987号、特表2003−525959号、特開2001−270940号、特開2001−192444号等の各公報に記載の方法を利用できる。固相重合に特に好ましい樹脂はポリエステル、ポリアミド系樹脂である。
【0100】
熱可塑性樹脂組成物の溶融物の供給前に、ペレット中の水分を減少させることが好ましい。好ましい乾燥温度は40〜200℃、さらに好ましくは60〜150℃である。これにより含水率を1.0質量%以下にすることが好ましく、0.1質量%以下にすることがさらに好ましい。さらに、ペレット中の溶剤量を減少させることが好ましい。好ましい乾燥温度は、水分の好ましい乾燥温度と同様である。これにより、本発明のフィルム中の残留溶媒量を好ましい範囲に制御することができる。乾燥は空気中で行ってもよく、窒素中で行ってもよく、真空中で行ってもよい。
さらに本発明では、添加剤を濃厚化したペレットにして使用できる(マスターペレット)。好ましい添加剤量は0.1質量%〜50質量%であり、より好ましくは1質量%〜40質量%、さらに好ましくは3質量%〜35質量%である。このようなマスターペレットと、無添加のペレットの配合比により、添加剤量を自由に制御できる。マスターペレットは、例えば特公昭62−23013号、特公昭55−124656号、特公平5−38789号、特公平4−56052号、特許3565836号、特許3599195号、特許3641237号、特許3751548号、特開昭54−14461号、特開昭56−104012号、特開昭61−98515号、特開昭62−201935号、特開2000−127152号、特開2001−81200号、特開2002−12676号、特開2002−146209号、特開2003−82112号、特開2004−346314号等の各公報に記載の方法を使用できる。
【0101】
押出機を用いて溶融押出しを行う場合、次に、乾燥したペレットを、押出機の供給口を介してシリンダー内に供給し、混練および溶融させる。シリンダー内は、例えば、供給口側から順に、供給部、圧縮部、計量部とで構成されることが好ましい。押出機のスクリュー圧縮比は1.5〜4.5が好ましく、シリンダー内径に対するシリンダー長さの比(L/D)は20〜70が好ましく、シリンダー内径は30mm〜150mmが好ましい。前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)の押出し温度(以下、吐出温度とも言う)は、熱可塑性樹脂の溶融温度に応じて決定されるが、一般的には、190〜300℃程度が好ましい。さらに残存酸素による溶融樹脂の酸化を防止するため、押出機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出機を用い真空排気しながら実施するのも好ましい。
押出機は1軸、多軸いずれも好ましく用いることができる。好ましいL/D(スクリュー長/スクリュー径)は3〜100が好ましく、より好ましくは5〜50、さらに好ましくは7〜30である。好ましいスクリュー径は10mm〜100mmが好ましく、より好ましくは20mm〜80mm、さらに好ましくは30mm〜60mmである。好ましい圧縮比は1.5〜10であり、より好ましくは2〜8、さらに好ましくは2.5〜5である。好ましい押出し温度は、樹脂粘度は100Pa・s〜10万Pa・sになるように温調すれば良く、より好ましくは300Pa・s〜1万Pa・sがより好ましく、さらに好ましくは500Pa・s〜5000Pa・sである。
このような押出しは、例えば特開平7−276471号、特開平9−85805号、特開平9−262895号、特開平10−251342号、特開平11−84127号、特開平11−229645号、特開2000−193822号、特開2000−219752号、特開2001−139678号、特開2002−301756号、特開2003−131036号、特開2003−245966号、特開2003−241675号、特開2003−279741号、特開2004−144941号、特開2004−160819号、特開2005−280217号、特開2006−21459号、特開2006−119182号、特開2006−142774号、特開2006−327106号、特開2007−144707号、特開2007−253364号、特開2007−268871号、特開2008−137328号、特開2009−39935号、特開2009−78359号、特開2009−83307号、特開2009−96070号、特開2009−202547号、特開2009−229845号、特開2009−242752号、特開2009−279787号等の各公報に記載のものを使用できる。
【0102】
熱可塑性樹脂組成物中の異物濾過のためブレーカープレート式の濾過やリーフ型ディスクフィルターを組み込んだ濾過装置を設けることが好ましい。濾過は1段で行ってもよく、多段濾過で行ってもよい。濾過精度は30μm〜3μmが好ましく、より好ましくは20μm〜3μmが好ましく、さらに好ましくは10μm〜3μmである。濾材としてはステンレス鋼を用いることが望ましい。濾材の構成は、線材を編んだもの、金属繊維もしくは金属粉末を焼結したもの(焼結濾材)が使用でき、中でも焼結濾材が好ましい。
【0103】
吐出量の変動を減少させ厚み精度を向上させるために、押出機と前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)の間にギアポンプを設けることが好ましい。これにより前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)内の樹脂圧力変動巾を±1%以内にすることができる。ギアポンプによる定量供給性能を向上させるために、スクリューの回転数を変化させて、ギアポンプ前の圧力を一定に制御する方法も用いることができる。
【0104】
前記の如く構成された押出機によって溶融され、必要に応じ濾過機、ギアポンプを経由して溶融樹脂が前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)に連続的に送られる。前記ダイはTダイ、フィッシュテールダイ、ハンガーコートダイの何れのタイプでも構わない。また前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)の直前に樹脂温度の均一性アップのためスタティックミキサーを入れることも好ましい。
【0105】
前記供給手段がダイである場合、ダイ出口部分のクリアランス(以下、リップギャップとも言う)は一般的にフィルム厚みの1.0〜30倍がよく、好ましくは5.0〜20倍である。具体的には、0.04〜3mmであることが好ましく、0.2〜2mmであることがより好ましく、0.4〜1.5mmであることが特に好ましい。
本発明の製造方法において、ダイリップの先端の曲率半径は特に制限はなく、公知のダイを用いることができる。
【0106】
線状凸部および線状凹部を有しない表面層は、例えば、Tダイ式の押出成形法においては、ダイのリップ部の表面粗さを小さくする、リップ先端部にクロム、ニッケル、チタンなどのメッキを施す、リップ先端部にセラミックスを溶射する、リップの内面にPVD(Phisical Vapor Deposition)法などによりTiN、TiAlN、TiC、CrN、DLC(ダイアモンド状カーボン)などの被膜を形成する、ダイから押し出された直後の溶融樹脂周りの温度分布、空気流れなどを均一に調整する、熱可塑性樹脂層を形成する樹脂としてメルトフローレート値が同程度のものを選択するなどの手段を行うことによって、得ることができる。
【0107】
ダイラインの線状凹部や線状凸部の大きさを前記記載の範囲にするための、その他の手段としては、Tダイ式の押出成形法においては、ダイリップに付着しているもの(例えば、ヤケやごみ)を取り除く、ダイリップの離型性をあげる、ダイリップのぬれ性を全面にわたり均一にする、樹脂粉を減らす、樹脂ペレットの溶存酸素量を少なくする、溶融押出し機内にポリマーフィルターを設置するなどの方法が挙げられる。
【0108】
本発明の製造方法では、前記フィルム状溶融物の全幅に対して中央部80%の領域におけるダイリップの平均クリアランスdcと、前記フィルム状溶融物の全幅に対して両端部から10%幅の領域におけるダイリップの平均クリアランスdsが、ds/dc=0.5〜0.95を満たすことが好ましい。このようなダイリップのクリアランスとすることで、前記Ps/Pcを達成しやすいため好ましい。詳しくは、ダイ中央部のリップクリアランスを、ダイ両端部より厚くすることにより、吐出されたメルトも中央部が厚く、両端部が薄くなる。これにより、メルトが挟圧装置間に到着した際に、ネックイン現象が発生しても、両端部の膜厚が大きくならず、本発明のタッチ圧力分布をできる。
一般的な溶融製膜分野において、このような構成のダイを用いることは、従来好ましくないとも考えられていた。すなわち、ダイから吐出されたメルト両端部が薄い場合、メルト両端部のねじれによる波うち(以下、耳揺れとも言う)が発生し、耳揺れがメルト中央部に伝播すると、メルトに波状しわが発生し易くなる。そのため挟圧装置間に挟んで固化すると、フィルム上に斜めしわが形成されると考えられてきた。これに対し、本発明の製造方法では、上記メルトが挟圧装置間に挟まれる直前にバンクと呼ばれる樹脂だまりを形成した状態で強いずりせん断を加えることにより、バンクをつぶし、メルトのレベリング性を促進させ、優れた面状のフィルムを得ることが好ましい。
前記ds/dcは、より好ましくはds/dc=0.6〜0.9であり、さらに好ましくはds/dc=0.6〜0.8である。
【0109】
前記ダイは5〜50mm間隔で厚み調整可能であることが好ましい。また下流のフィルム厚み、厚み偏差を計算し、その結果をダイの厚み調整にフィードバックさせる自動厚み調整ダイも有効である。
単層製膜装置以外にも、多層製膜装置を用いて製造も可能である。
すなわち、共押出法を採用することもできる。
共押出法の中でも、製造効率や、フィルム中に溶剤などの揮発性成分を残留させないという観点から、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等を用いることができるが、共押出成形法の中でも、共押出Tダイ法が厚み精度を高くすることができる観点から好ましい。すなわち、本発明の製造方法は、熱可塑性樹脂を含有する組成物をダイから溶融押出しする工程をさらに含み、溶融押出しされた熱可塑性樹脂の溶融物を前記第一挟圧面と前記第二挟圧面の間を通過させることも好ましい。
また、本発明の製造方法では、正の複屈折性樹脂の溶融物および負の複屈折性樹脂の溶融物を共押出しすることも好ましい。
【0110】
前記共押出Tダイ法にはフィードブロック方式、マルチマニホールド方式が挙げられるが、中間層の厚さのばらつきを少なくできる点でマルチマニホールド方式がさらに好ましい。
【0111】
共押出Tダイ法を採用する場合、熱可塑性樹脂の溶融温度は、この熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)よりも50〜180℃高い温度にすることが好ましく、より好ましくはガラス転移温度よりも80〜150℃高い温度にする。押出機での溶融温度が過度に低いと、熱可塑性樹脂の流動性が不足するおそれがあり、逆に溶融温度が過度に高いと、樹脂が劣化する可能性がある。
【0112】
また、共押出しするときは、2層以上の熱可塑性樹脂の溶融物の間に10Pa・s〜500Pa・sの溶融粘度差を与えることが好ましい。特に共押Tダイの出口での各熱可塑性樹脂溶融物の粘度の差を10Pa・S〜500Pa・Sにすることが好ましく、より好ましくは15Pa・S〜400Pa・S、さらに好ましくは20Pa・S〜300Pa・Sにすることが特徴である。通常、共押出しする際は、各層の溶融粘度を一致させて行うが、粘度差を付与してもよい。これにより、各層間の流動性に差が発現し、層間の界面が混合することで残留歪が吸収され、Reの経時変化が低減する。これに対し、従来から行われているように層間の粘度を一致させると、完全に層流となりこのような混合効果は得られない。このような界面混合は、高圧タッチロール製膜(後述)との組み合わせでさらに顕著となる。即ちタッチロールに高圧を掛けることでメルトの流路が狭くなりメルトの流れが乱れ、層間混合を促すためである。さらにこのような混合効果は各層間の密着力を上昇させる効果も有する。
【0113】
共押出しするときは、2層以上の熱可塑性樹脂の溶融物の間に1℃〜30℃の温度差を与えることが好ましく、より好ましくは2℃〜27℃、さらに好ましくは4℃〜25℃の温度差を付与することが好ましい。このように熱可塑性樹脂の溶融物の層間に温度差を付与することで、層の界面で対流を起こさせ、上記の混合を促す働きを有する。
このような温度差は隣接する層の温度差である。
このような溶融物の層間温度の差は、各樹脂の押出し温度を変えてもよく、ダイリップ近傍を温度調節して外層の温度を昇温または降温してもよい。ダイリップヒーターはダイ出口に設置した数mm〜数cm(長手方向)の短いヒーターであり、メルトが接触する時間が短いため、メルトの内部まで伝熱されず、表面層のみが加熱され、本発明のような温度差を付与できる。また、ダイ出口から挟圧装置の挟圧面の間(エアーギャップ)に加熱ヒーターを設置することでも達成できる。加熱ヒーターは表面だけ加熱されるように波長の長い赤外線を用いることが好ましく、中赤外線〜遠赤外線ヒーターを用いることが好ましい(例えばHeraeus(株)、NGK(株)、坂口電熱(株)等の赤外線ヒーター、遠赤外線ヒーターなどを使用できる)。これにより表面のみを加熱し、内部との間に温度差を付与できる。さらに、エアーギャップ間に温調された風を送ることでメルトの最外層の温度を下げることができる。これらの方法を単独あるいは組み合せることで、メルトの厚み方向に温度差を付与できる。
このようにして、樹脂が供給口から押出機に入ってから前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)から出るまでの滞留時間は3分〜40分が好ましく、さらに好ましくは4分〜30分である。
【0114】
<挟圧工程>
次に、挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間に、供給された熱可塑性樹脂組成物の溶融物を通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形し、冷却固化して、フィルムを得る。この際、第一挟圧面と第二挟圧面のうち、いずれか一方の面と溶融物が先に剥離し、その後もう一方の面と溶融物が剥離することが生産性の安定化の観点から好ましい。本発明の製造方法において第一挟圧面の移動速度は前記第二挟圧面の移動速度よりも速いが、先に剥離する側の面は、第一挟圧面であっても第二挟圧面であってもよいが、剥離ダンを抑制する観点から、先に剥離する側の面は、第一挟圧面(移動速度が速い挟圧面)であることが好ましい。
【0115】
本発明の製造方法では、前記挟圧装置によって前記溶融物に圧力を5〜500MPaの圧力で挟圧することが、得られるフィルムの得られるフィルムの傾斜構造の大きさを大きくし、γをより大きくし、前記複屈折の大きさが最大となる部分を厚み方向の10〜90%の範囲に制御し、さらに該フィルムをTNモードの液晶表示装置に組み込んだ際の視野角および周辺ムラを改善する観点から、好ましい。
本発明の製造方法では、前記挟圧装置によって前記溶融物を10〜300MPaの圧力で挟圧することがより好ましく、10〜150MPaであることが特に好ましく、より特に好ましくは20〜150MPaであり、さらに好ましくは30〜150MPaであり、さらに特に好ましくは40〜100MPaである。
【0116】
本発明の製造方法では、下記式(III)で定義される前記挟圧装置の第一挟圧面と第二挟圧面の移動速度比が0.60〜0.99となるように制御することが好ましい。
式(III)
移動速度比=第二挟圧面の速度/第一挟圧面の速度
前記複屈折の変化は、挟圧面の移動速度差によっても、ある程度制御することができる。即ち一対の挟圧面間に移動速度差があると、断面方向中央部と端部でのメルト流束の速度差が大きくなり、この結果挟圧装置を通過した後のメルト中の分子配向の差が強くなり、複屈折の変化が大きくなる。
挟圧装置の移動速度比は、0.90〜0.99に制御することが好ましく、より好ましくは0.75〜0.98、特に好ましくは0.92〜0.98、さらに好ましくは0.93〜0.97である。これにより傾斜構造を発現し易くできる。
2つの挟圧面の移動速度差が大きくなるに従いγは大きくなる。上記好ましい範囲であれば、得られるフィルムの表面に傷が付きにくく、光学特性の均一性が改善するため好ましい。前記2つの挟圧面の移動速度比を上記好ましい範囲にすると、前記式(I’)の上限値を超えない程度にγを制御することができ、得られたフィルムをTNモードの液晶表示装置に組み込んだ際の視野角がさらに改善するため、より好ましい。
【0117】
(吐出温度)
本発明の製造方法では、吐出温度(供給手段の出口での熱可塑性樹脂組成物の溶融物温度)は、熱可塑性樹脂組成物の溶融物の成形性向上と劣化抑制の観点から、Tg+50〜Tg+200℃であることが好ましく、Tg+70〜Tg+180℃であることがより好ましく、Tg+90〜Tg+150℃であることが特に好ましい。すなわち、Tg+50℃以上であれば、熱可塑性樹脂組成物の溶融物の粘度が十分低くなるため成形性が良好となり、Tg+200℃以下であれば、熱可塑性樹脂組成物の溶融物が劣化しにくい。
【0118】
(エアーギャップ)
本発明の製造方法では、例えばダイなどの供給手段から熱可塑性樹脂組成物を挟圧装置に供給する場合、エアーギャップ(供給手段の出口から挟圧装置の溶融物着地点までの距離)は、エアーギャップ間におけるメルトの保温の観点から、可能な限り近接することが好ましく、具体的には10〜300mmであることが好ましく、より好ましくは、20〜250mm、特に好ましくは、30〜200mmである。
【0119】
(ライン速度)
本発明の製造方法では、エアーギャップでのメルトの保温の観点から、ライン速度(製膜速度)が2m/分以上であることが好ましく、5m/分以上であることがより好ましく、10m/分以上であることが特に好ましい。ライン速度が速くなると、エアーギャップ中でのメルトの冷却を抑制でき、メルトの温度が高い状態で、挟圧装置によって、より均一なせん断変形を付与できる。得られるフィルムのReを45nm以上にする場合は、搬送速度(ライン速度)を10〜100m/分とすることがさらに好ましい。このようにフィルムの搬送速度を制御し、挟圧装置間に本発明の範囲の圧力を加えて挟圧することで、顕著にフィルムのReの発現量を増加させることができる。また、前記搬送速度は、10〜80m/分であることがよりさらに好ましく、15〜60m/分であることがさらに特に好ましく、20〜40m/分であることがよりさらに特に好ましい。ライン速度が速くなると、エアーギャップ中でのメルトの冷却を抑制でき、メルトの温度が高い状態で、挟圧装置によって、よりメルトにせん断変形を付与できる。具体的には、挟圧装置によって溶融物にかける圧力を10〜150MPa程度とした場合に、得られるフィルムのReを45nm以上にするには、搬送速度(ライン速度)を10〜100m/分とすることが好ましい。
なお、前記ライン速度とは、挟圧装置間を溶融物が通過する速度、および搬送装置におけるフィルム搬送速度を表す。なお、後述の2つのロールを用いて製膜する態様の場合、フィルムがチルロールによって搬送される速度を表す。
【0120】
(挟圧面の温度)
本発明の製造方法では、前記第一挟圧面および前記第二挟圧面の温度は、狭圧される溶融樹脂のガラス転移温度Tgを用いてTg−70℃〜Tg+10℃に設定することが好ましく、より好ましくはTg−50℃〜Tg+5℃、さらに好ましくはTg−40℃〜Tg℃に設定する。また、狭圧される溶融樹脂に比べて、20℃〜200℃低く設定することが好ましく、20℃〜150℃に設定することがより好ましく、20℃〜100℃に設定することが特に好ましい。このような温度制御は、前記挟圧面内部に温調した液体、気体を通すことで達成することができる。さらに、Re[40°]とRe[−40°]の差を制御するために、前記第一挟圧面および前記第二挟圧面の表面温度に差をつけてもよい。好ましい温度差は5℃〜80℃であり、より好ましくは20℃〜80℃、さらに好ましくは20℃〜60℃である。
【0121】
(挟圧面の構造)
また、前記挟圧面としては、剛性の挟圧面を用いることが高線圧および高いせん断応力を溶融物に与える観点から好ましく、金属製かつ剛性の挟圧面を用いることがより好ましい。なお、本明細書において挟圧面が「剛性」であるとは、挟圧面の材質のみによって判断されるものではなく、挟圧面表面部分に用いられる剛性素材の厚みと挟圧面を支持する構造の厚みとの比率を勘案して決定されるものであり、たとえば挟圧面が球形の支持ロールによって駆動されている場合、剛性素材外筒厚み/支持ロール直径の比が1/35以上であることを表す。また、挟圧面がその他の機構によって支持および駆動されている場合も、挟圧面が球形の支持ロールによって駆動されている場合と同程度である。さらに、本明細書において、挟圧装置の挟圧面(またはロール)が「金属製かつ剛性」であるとは、少なくとも全ての挟圧面の表面が金属であり、かつ、挟圧装置の挟圧面(またはロール)が「剛性」であることを表す。
【0122】
本発明の製造方法では、前記挟圧フィルムが、フィルム端部のRe[0°]/フィルム中央部のRe[0°]の比が0.5〜0.99を満たすことが好ましい。すなわち、本発明の製造方法の好ましい態様では、溶融物を挟圧して得られた前記挟圧フィルム(すなわち、延伸工程に供する前のフィルム)の端部のRe[0°]/中央部のRe[0°]の比を0.5〜0.99に制御することによって、後述する横延伸工程後のフィルムのカールを小さくでき、γの経時変化率を改善でき、さらにTNモードの液晶表示装置に組み込んだ際の視野角および周辺ムラを改善する観点から好ましい。前記フィルム端部のRe[0°]/フィルム中央部のRe[0°]の比を、0.7〜0.99に制御することが、さらに横延伸後のフィルムのカールを小さくし、さらにTNモードの液晶表示装置に組み込んだ際の周辺ムラを改善する観点から好ましく、さらに好ましくは0.9〜0.99である。
【0123】
本発明では、前記挟圧フィルムを製膜する時に、下記の方法を用いて任意の好ましい挟圧面を用いることができる。(i)挟圧装置の挟圧面の少なくとも一方にクラウンを有する挟圧面を用いる方法。(ii)該挟圧装置の挟圧面の少なくとも一方に段付構造を有する挟圧面を用いる方法。(iii) 熱可塑性樹脂を含有する組成物の供給手段から吐出されたメルトを、挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間を耳外しして通過させる方法。(iv)挟圧フィルムの端部を、スリットする方法。本発明の製造方法の好ましい態様において、前記フィルム幅方向のRe分布を有するフィルムは、これらの製造方法のいずれかの一つを用いて調製しても、二つ以上を組合せて用いて調製してもよい。
【0124】
(耳外し)
本発明の製造方法では、溶融物の幅は特に制限はなく、例えば200〜3000mmとすることができる。
一方、本発明の製造方法では、前記挟圧フィルムを製膜する時に溶融物の端部を、前記挟圧装置を構成する第一挟圧面および第二挟圧面と接触しない状態で(以下、耳外しとも言う)通過させて挟圧を行うことで、前記フィルム幅方向のRe分布を有する挟圧フィルムを形成することができる。このような耳外しの方法としては、特に制限はなく、挟圧面の幅にあわせて溶融物の幅を変更してもよく、溶融物の幅にあわせて用いる挟圧面を変更してもよい。挟圧面を変更する場合、フィルム状溶融物の両端部から50〜500mmの部分が接触しない程度の全幅である挟圧面を用いてもよく、溶融物端部の膜厚部分を外すことができる形状の挟圧面などを用いてもよい。耳外しによってフィルム幅方向のRe分布を有する挟圧フィルムを形成する場合、溶融物の両端部から50〜500mmの部分が接触しないことが好ましく、80〜400mmの部分が接触しないことがより好ましい。なお、接触しない溶融物の両端部の幅については、製造するフィルムの膜厚に応じて、本発明の製造方法の趣旨に反しないように設定することができる。
【0125】
本発明の製造方法において耳外しができるような挟圧面を用いる場合、前記挟圧面の形状としては、溶融物の両方の端部と接触しないような形状でも、片方の端部のみと接触しない形状でもよいが、両方の端部と接触しないような形状であることがフィルム中央の圧力を高め、フィルム端部の圧力を低減する観点から好ましい。
【0126】
(段付構造)
本発明の製造方法では、第一挟圧面または前記第二挟圧面のうち少なくとも一方が、段付構造を有することが、メルトのネックイン現象により生じた溶融物端部膜厚部にかかる圧力を低下させる観点から好ましい。前記「段」の形状としては特に制限はないが、例えば挟圧面の両端部から10〜150mmの部分に「段」が形成されてあることが好ましく、前記「段」の深さは、0.03〜1mmであることが好ましい。これにより、挟圧工程で形成された挟圧フィルムの端部のタッチ線圧が中央部と比べ、低くできり、延伸に供する熱可塑性樹脂フィルムの端部のRe[0°]/中央部のRe[0°]の比を前記好ましい範囲に制御することができる。
【0127】
(クラウン量)
本発明の製造方法では、前記第一挟圧面または前記第二挟圧面の少なくとも一方がクラウンを有することが好ましい。
このようにクラウンを有する挟圧面を少なくとも一方の挟圧面として用いることで、メルトを挟圧する前にネックイン現象により生じたメルト端部膜厚部にかかる圧力を低下させる効果や、メルトに高い圧力をかけた時に生じる挟圧面のたわみによって挟圧面の中央部の線圧が低下する現象を改善する効果を得ることができる。なお、前記ネックイン現象とは、前記供給手段から供給された溶融膜(メルト)の幅が、前記供給手段から挟圧装置に達するまでの間に狭くなる現象のことを言い、挟圧装置を用いて溶融製膜を行う場合はメルトの両端が厚くなることが一般的に知られている。
前記クラウンの量は前記挟圧面の幅や厚み、押さえ圧力により適正値が大きく変化するため、特に制限はないが、0.005〜10mmであることが好ましく、0.01〜5mmであることがより好ましく、0.02〜2mmであることが特に好ましい。
前記第一挟圧面または前記第二挟圧面(例えばタッチロールまたはチルロール)の少なくとも一方がクラウンを有している場合、前記挟圧面の幅方向中央部に、ある程度集中させて圧力を加えることができ、メルトに高い圧力を加える場合であっても前記第一挟圧面および前記第二挟圧面(例えば、タッチロールおよびチルロール)を均一にたわませることができる。これにより、幅方向の均一性をさらに高めることができる。
本発明の製造方法では、前記第一挟圧面または前記第二挟圧面の少なくとも一方がクラウンを有し、前記第一挟圧面および前記第二挟圧面がともに金属製且つ剛性であることが好ましい。
【0128】
(バックアップロール)
本発明の製造方法で挟圧面としてクラウンを有する挟圧面を採用する場合は、前記第一挟圧面または前記第二挟圧面のうち、クラウンを有する挟圧面のたわみ量が、バックアップロールにより調整可能であることが好ましい。
前記挟圧装置によって前記溶融物を挟圧する際に、ショアA硬さが70HS以上のゴムで覆われたバックアップロールによって、前記第一挟圧面または前記第二挟圧面の一方を他方へ押す工程を含むことが、得られるフィルムの光学特性を均一化する観点から好ましい。
このようにバックアップロールを用いることで、第一挟圧面または前記第二挟圧面が金属製剛性ロールであったとしても均一にたわませることができ、その結果メルトにかかる圧力を均一化することができる。特に、2つの金属製かつ剛性の挟圧面を用いて挟圧面間を通過する溶融物を挟圧する際、高い圧力を溶融物にかけると挟圧面が不均一にたわむことがあり、前記第一挟圧面または前記第二挟圧面間のすき間が一定距離に保つことが難しい。その場合、溶融物にかかる圧力に幅方向のむらが生じてしまう。これに対し、バックアップロールを用いて前記第一挟圧面または前記第二挟圧面の一方を他方の方向へ押すことで、前記第一挟圧面および前記第二挟圧面を、両者のたわみ量が等しくなるように変形させることができる。特に、本発明の製造方法において、前記第一挟圧面または前記第二挟圧面の少なくとも一方がクラウンを有している場合は、クラウンを有する挟圧面の幅方向の中央部にある程度集中させて圧力を加えることができ、高線圧を加える場合であっても前記第一挟圧面および前記第二挟圧面を均一にたわませることができる。
【0129】
前記バックアップロールが、ゴムで覆われていることが、前記バックアップロールとクラウンを有する挟圧面とが接する面積を、好ましい程度に調整できる観点から好ましい。詳しくは、バックアップロールがゴムで覆われていると、バックアップロール表面が金属の場合よりも、均一な圧力を溶融物に付与できることとなり好ましい。また、前記バックアップロールがショアA硬さ70HS以上のゴムで覆われていると、ショアA硬さ70HS未満のゴムで覆われていない場合よりも、高い圧力を溶融物にかけるときのゴムロール変形発熱が抑制できるため、ロール寿命が長くなり好ましい。
前記バックアップロールに用いることができるゴムの種類としては特に制限はないが、例えば、フッ素系ゴム、耐熱NBR系ゴム、シリコン系ゴムが好ましく、その中でも耐久性と添加剤の滲み出し点からフッ素系ゴムがより好ましい。
【0130】
前記バックアップロールによって前記第一挟圧面または前記第二挟圧面の一方を他方の方向へ押す手段としては、特に制限はない。特にバックアップロールの軸を保持する部材がバックアップロールの両端にある場合、該両端のバックアップロールの軸を保持する部材を同時且つ同じ大きさの力で押すことが、挟圧面の幅方向中央部に加圧して、該挟圧面を均一にたわませられる観点から好ましい。
【0131】
また、前記バックアップロールによって前記挟圧面を押す際に加える圧力は、特に制限はないが、前記挟圧装置によってメルトに加える好ましい圧力が前記好ましい範囲を満たすことが好ましく、例えば、5〜500MPaとすることが好ましく、25〜400MPaとすることがより好ましく、30〜250MPaとすることが特に好ましい。このような圧力で前記挟圧面を押すことで、十分に該挟圧面を均一にたわませることができ、さらに両方の挟圧面を同じように均一にたわませることができる。
【0132】
(せん断応力)
本発明の製造方法では、前記挟圧装置によってフィルム(メルト)1m幅あたり3000〜30000Nのせん断応力を与えることが好ましい。このような範囲のせん断応力を溶融物に与えると、光学特性の発現性がよく、面状や光学特性のフィルムMD方向のムラも良好な本発明のフィルムを得ることができる。前記せん断応力は、フィルム(メルト)1m幅あたり5000〜28000Nであることがより好ましく、フィルム(メルト)1m幅あたり8000〜25000Nであることが特に好ましい。
【0133】
前記フィルム1m幅あたりのせん断応力は、挟圧装置を構成する各挟圧面を駆動するときにおけるメカロスを考慮して計算により求める。具体的な計算方法を、例としてある熱可塑性樹脂のメルトを、周速度比0.962のタッチロールとチルロール間を通過させ、圧力50MPaで挟圧して製膜する場合を挙げて説明する。
(1)まず、等周速度でタッチロールとチルロールを駆動して50MPaを両ロール間に加えてメルトを製膜し、そのときのタッチロール側駆動モーターの出力を測定した値T0[(%):モーター定格トルク出力に対する%]をメカロスとする。なお、T0の値は、経時変化を測定する際も常に製膜開始直後の値を採用する。
(2)次に、チルロールのタッチロールに対する周速度比を0.962に設定してタッチロールとチルロールを駆動し、50MPaを両ロール間に加えてメルトを製膜する。このとき、周速度の速いタッチロール側の駆動モーターの出力は、さらに上昇することとなり、このときのタッチロール側の駆動モーターの出力をT1(%)とする。
(3)上記(1)および(2)で得られたT0、T1の値を用いて、下記式からある熱可塑性樹脂のメルトを周速度比0.962、圧力50MPaとして製膜する際のせん断応力を計算する。
式:
せん断応力(N)=
{モーターの定格トルク出力(N・m)×(T1−T0)×減速比}/ロール半径(m)
(4)フィルム1m幅あたりのせん断応力は、前記モーター出力合計の値を用いて、下式の条件に基づいて換算して求めた。
せん断応力(N)/フィルム幅(m)=フィルム1m幅あたりのせん断応力(N/m)
【0134】
(挟圧面の駆動)
前記好ましい範囲の圧力およびせん断応力を得るために、本発明の製造方法では、前記第一挟圧面および前記第二挟圧面をそれぞれ遊星タイプの減速機を介して連結される駆動モーターによって駆動(移動)させることが好ましい。遊星タイプ以外の一般的な減速機としては、ウォーム減速機や、超精密ウォーム減速機などを挙げることができるが、本発明では遊星タイプの減速機を用いることで、せん断応力の変動を顕著に改善することができる。本発明の製造方法におけるフィルム1m幅あたりに付与されるせん断応力の変動は、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2%以下であることが特に好ましい。なお、前記せん断応力の変動とは、モータートルクを製膜開始直後から24時間連続計測し、下記式(a)および(b)でそれぞれ計算される値AまたはBのうち、大きい値のことを言う。
式(a):
A=|{(モーター出力合計の瞬間最大値/モーター出力合計の平均値)−1}×100|
式(b):
B=|{(モーター出力合計の瞬間最小値/モーター出力合計の平均値)−1}×100|
【0135】
(遊星タイプの減速機)
前記遊星タイプの減速機としては、例えば、遊星ローラー減速機や遊星歯車減速機を挙げることができるが、本発明の製造方法では前記減速機が遊星ローラー減速機であることが、せん断応力の変動が小さい観点から、好ましい。このような遊星ローラー減速機としては、出力やトルクが継時的に変化しても減速比が変動せず、本発明の趣旨に反しない限りにおいて特に制限はなく、公知の遊星ローラー減速機を用いることができる。具体的な遊星ローラー減速機としては、例えば、三菱重工社製、三菱遊星ローラー減・増速機(商品名)を挙げることができる。また、減速機とロール回転軸はトルクの変動を小さくする点から直結させることが好ましいが、装置の干渉の問題からシュミットカップリング等による連結を行なうことも出来る。
【0136】
本発明の製造方法では、前記減速機が遊星ローラー減速機であり、かつ、該遊星ローラー減速機をメカロス変動防止制御することがせん断応力の変動が小さい観点から好ましい。
前記メカロス変動防止制御の方法としては特に制限はなく、この分野における公知の方法を採用することができるが、±5℃以内の温度調節設備によりメカロス変動防止制御を行うことが経時的なせん断応力の変動が小さい観点から、好ましい。前記温度調節設備は、±3℃以内の温度調節が可能であることがより好ましく、±2℃以内の温度調節が可能であるであることが特に好ましい。
前記温度調節設備としては、例えば、ファンによる空冷あるいは、温度制御された媒体の循環による温度制御などを挙げることができ、その中でも、減速機内部の潤滑脂の温度を測定し、一定温度に制御する方法を用いることが好ましい。
【0137】
なお、前記駆動モーターとしては特に制限はなく、公知のタッチロール製膜用のロールを駆動する駆動モーターなどを用いることができる。
本発明の製造方法では、前記駆動モーターを定格出力の20%〜80%で駆動させることによって、本発明の製造方法で規定する範囲のせん断応力を付与することが、せん断応力変動を小さくする観点から好ましい。前記駆動モーターは、定格出力の25〜75%で駆動させることがより好ましく、定格出力の30〜70%で駆動させることが特に好ましい。
【0138】
また、前記挟圧面の移動速度の継時的な変動は、1%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましく、0.6%以下であることが特に好ましい。なお、前記挟圧面の移動速度の継時的な変動は、フィルムのMD方向40cm以上上記範囲であることが好ましく、100cm以上上記範囲であることがより好ましく、1000cm以上上記範囲であることが特に好ましい。
【0139】
(2つのロールを用いたキャスト)
前記挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間に熱可塑性樹脂の溶融物または半流体膜を通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形する方法の中でも、2つのロール(例えば、タッチロール(第1ロール)およびチルロール(第2ロール))間を通過させることが好ましい。前記挟圧装置が互いに移動速度(周速度)が異なる2つのロールを含んでいる場合、周速度の速いロールの表面を第一挟圧面とし、周速度が遅いロールの表面を第二挟圧面とする。なお、本明細書では、前記熱可塑性樹脂の溶融物または半流体膜を搬送するキャスティングロールを複数有している場合、最上流の前記熱可塑性樹脂組成物供給手段(例えば、ダイ)に最も近いキャスティングロールのことをチルロールともいう。以下、2つのロールを用いた本発明の製造方法の好ましい態様を溶融製膜の態様について主として説明する。
【0140】
本発明のフィルムの製造方法では、前記供給手段から押し出された溶融物の着地点に特に制限はなく、該供給手段から押出されたメルトの着地点と、該タッチロールと該キャストロールとが最も接近する部分における隙間の中点を通る鉛直線との距離がゼロであっても、ずれていてもよい。
前記メルトの着地点とは、供給手段から押し出されたメルトが初めてタッチロールあるいはチルロールに接触(着地)する地点を指す。また前記タッチロールとキャストロールの隙間の中点とは、タッチロールとキャストロールの隙間が最も狭くなった所のタッチロール表面とキャストロール表面の中点を指す。
【0141】
前記2つのロール(例えば、タッチロールやキャスティングロール)の表面は、算術平均高さRaが100nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは25nm以下である。
【0142】
本発明の製造方法では、前記2つのロールのそれぞれの横幅は特に制限はなく、フィルム状の溶融物の幅に対応して、自由に変更して採用することができる。
【0143】
本発明の製造方法では、前記範囲のロール圧力を加圧するために、シリンダー設定値を適宜変更することとなる。前記シリンダー設定値は、用いる樹脂材料や2つのロールの材質によっても異なるが、例えば、フィルム状の溶融物の実効幅が200mmの場合、3〜100KNであることが好ましく、3〜50KNであることがより好ましく、3〜25KNであることが特に好ましい。
【0144】
本発明の製造方法では、前記範囲のロール圧力を加圧するために、ロールのショア硬さは30HS以上が好ましく、より好ましくは45HS以上のロールを使用する。また、本発明では、ロール圧力を高い状態で、連続製膜するため、ロール間に、フィルム中の異物や、空気中のホコリ等が挟まれると、ロールが凹んだり、傷ついたりする場合がある。そのため、特に好ましい前記2つのロールのショア硬さは50HS以上であり、さらに好ましくは60〜90HSである。
ショア硬さは、JIS Z 2246の方法を用いて、ロール幅方向に5点および周方向に5点測定した値の平均値から求めることができる。
【0145】
前記2つのロールの材質は、金属であることが前記ショア硬さを達成する観点から好ましく、より好ましくはステンレスであり、表面をメッキ処理されたロールも好ましい。ロールのショア硬さは、金属データブック(日本金属学会編)の第3章に記載されている様な、焼入れ、焼もどしの方法で達成することができる。また、2つのロールの材質は金属であれば、表面の凹凸が小さく、フィルムの表面に傷が付きにくいため、好ましい。一方、ゴムロールやゴムでライニングした金属ロールは、前記ロール圧力を達成できれば特に制限なく用いることができる。
【0146】
本発明の製造方法では、前記挟圧装置を構成する2つのロールの少なくとも一方に、金属外筒厚み6〜45mmのロールを用いることが好ましくい。前記金属外筒の厚みは、10〜45mmであることがより好ましく、15〜35mmであることが特に好ましい。
前記タッチロールについては、例えば特開平11−314263号公報、特開2002−36332号公報、特開平11−235747号公報、国際公開WO97/28950号パンフレット、特開2004−216717号公報、特開2003−145609号公報記載のものを利用できる。
【0147】
さらに、本発明の製造方法では、フィルム状の溶融物を通過させる2つのロールの移動速度比(周速比)を調整することで、溶融樹脂が2つのロールを通過する際にせん断応力を付与し、本発明のフィルムを製造する。
本発明のフィルムを得るためには、前記2つのロールの速度はどちらが速くても構わないが、タッチロールが遅い場合、タッチロール側にバンク(溶融物の余剰分がロール上へ滞留し、形成された滞留物)が形成される。タッチロールは、溶融物が接触している時間が短いため、タッチロール側に形成されたバンクは、十分に冷却することができず、剥離ダンが発生し、面状故障の原因となり易い。よって、遅いロールがチルロール(第2ロール)であり、速いロールがタッチロール(第1ロール)であることが好ましい。
【0148】
さらに、本発明の製造方法では、前記2つのロールとして、それぞれ直径の大きなロールを用いるのが好ましく、具体的には、直径200〜1500mm、より好ましくは、300mm〜1000mm、特に好ましくは350mm〜800mm、より特に好ましくは350〜600mm、さらに好ましくは350〜500mmの2つのロールを使用するのが好ましい。直径の大きなロールを用いると、フィルム状の溶融物とロールの接触面積が広くなり、せん断がかかる時間がより長くなるため、Re[+40°]とRe[−40°]の差が大きなフィルムを、しかもRe[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキを抑制しつつ製造することができる。また、ロールのたわみも低減できるため好ましい。なお、本発明の製造方法では、前記2つのロールの直径は等しくても、異なっていてもよい。
【0149】
本発明の製造方法では、前記2つのロールが、互いに異なる移動速度(周速度)で駆動される。前記2つのロールは、連れ周り駆動でも独立駆動でもよいが、Re[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキを抑制するためには、独立駆動であることが好ましい。
【0150】
前記挟圧装置が2つのロールである場合について、バックアップロールを用いる態様について説明する。
本発明の製造方法において前記2つのロールがタッチロールとチルロールである場合、前記挟圧装置によって前記溶融物を挟圧する際に、ショアA硬さが70HS以上のゴムで覆われたバックアップロールによって、前記タッチロールを前記チルロールの方向へ押す工程を含むことが、得られるフィルムの光学特性を均一化する観点から好ましい。
このようにバックアップロールを用いることで、タッチロールが金属製剛性ロールであったとしても均一にたわませることができ、さらにはチルロールが金属製剛性ロールであったとしても均一にたわませることができ、その結果メルトにかかる圧力を均一化することができる。特に、2つの金属製かつ剛性のロールを用いてロール間を通過する溶融物を挟圧する際、高い圧力を溶融物にかけるとタッチロールとチルロールが不均一にたわむことがあり、タッチロールとチルロール間のすき間が一定距離に保つことが難しい。これに対し、バックアップロールを用いてタッチロールをチルロールの方向へ押すことで、タッチロールおよびチルロールを、両者のたわみ量が等しくなるように変形させることができる。特に、本発明の製造方法において、タッチロールまたはチルロールの少なくとも一方がクラウンを有している場合は、タッチロール幅方向の中央部にある程度集中させて圧力を加えることができ、高線圧を加える場合であってもタッチロールおよびチルロールを均一にたわませることができる。
【0151】
前記バックアップロールによって前記タッチロールを前記チルロールの方向へ押す手段としては、特に制限はない。特にバックアップロールの軸を保持する部材がバックアップロールの両端にある場合、該両端のバックアップロールの軸を保持する部材を同時且つ同じ大きさの力で押すことが、タッチロールの幅方向中央部に加圧して、該タッチロールを均一にたわませられる観点から好ましい。
【0152】
また、前記バックアップロールによって前記タッチロールを押す際に加える圧力は、一般的な挟圧面の場合と同様である。このような圧力で前記タッチロールを押すことで、十分に該タッチロールを均一にたわませることができ、さらに前記チルロールもタッチロールと同じように均一にたわませることができる。
【0153】
本発明の製造方法では、前記バックアップロールの横幅が、前記タッチロールの横幅よりも短いことが、タッチロールのたわみ量の調整の観点から好ましい。
【0154】
(ケーシング装置)
本発明の製造方法では、溶融押出しされた溶融物を、排気手段を有する遮風部材(以下、ケーシング装置とも言う)内を鉛直下方向に通過させて挟圧装置に供給することが好ましい。特に、前記ケーシング装置が前記帯状の溶融物に対する法線方向から鉛直上方向までの間のいずれかの方向、または、前記帯状の溶融物に対する法線方向から鉛直下方向までの間のいずれかの方向に開口する排気口を有することが好ましい。
【0155】
前記排気手段としては特に制限はなく、公知の排気手段を用いることができ、例えば排気ファンなどが挙げられる。
前記排気口の開口方向は前記ケーシング装置が前記帯状の溶融物に対する法線方向から鉛直上方向までの間のいずれかの方向、または、前記帯状の溶融物に対する法線方向から鉛直下方向までの間のいずれかの方向に開口する排気口を有する限り特に制限はないが、前記帯状の溶融物に対する法線方向から鉛直上方向までの間のいずれかの方向に開口していることが、揮散物の排出効果を高める観点や、幅方向の厚みムラを低減する観点や、ケーシング装置の構成を簡略化する観点からより好ましく、鉛直上方向に開口していることがさらに揮散物の排出効果を高める観点や、さらにメルト流れ方向の厚みムラを低減する観点から最も好ましい。より詳しくは、ケーシングの排気口の開口方向は、前記帯状の溶融物の法線方向を基準として、鉛直下90°〜鉛直上90°であり、鉛直下30°〜鉛直上90°が好ましく、鉛直上0°〜鉛直上90°がより好ましく、鉛直上45°〜鉛直上90°が特に好ましく、鉛直上90°が最も好ましい。
【0156】
前記ケーシング装置の形状としては本発明の趣旨に反しない限り特に制限はないが、例えば直方体状にすることができる。ケーシング装置の形状を直方体とすると、ケーシング内のガスの流れをメルト近傍において鉛直上方向にしつつ、前記帯状の溶融物に対する法線方向から鉛直上方向までの間のいずれかの方向に開口する排気口からスムーズに排気できるため好ましい。一方、ケーシング装置は直方体以外の形状、例えば球体状とすると、ケーシング内のガスの流れをメルト近傍において鉛直上方向にしつつ、排気口からの排気方向を前記帯状の溶融物に対する法線方向から鉛直下方向までの間のいずれかの方向に開口する排気口からスムーズに排気できるため好ましい。更に、ケーシング装置内部の角部にはガスが滞留し、樹脂劣化物や添加剤の揮発成分が付着やすい場所であるため、ケーシング装置内部は角部が少ない形状とすることが好ましい。
また、前記排気口の数も特に制限はないが、挟圧装置を鉛直下方向に通過しているメルトを基準として、挟圧装置の第一挟圧面側に少なくとも1つ以上、挟圧装置の第二挟圧面側に少なくとも1つ以上設けることがケーシング内におけるガスの循環の関係上好ましい。前記排気口は挟圧装置の第一挟圧面側に二つ以上、挟圧装置の第二挟圧面側に二つ以上設けることがより好ましい。
【0157】
本発明の製造方法は、前記排気手段によって前記排気口からケーシング装置に囲われた内部のガスを前記帯状の溶融物に対する法線方向か鉛直上方向の少なくとも一方向の速度成分、または前記帯状の溶融物に対する法線方向か鉛直下方向の少なくとも一方向の速度成分を持たせて排気する工程を有することも好ましい。このような排気口から排気された気体を排気ガスともいう。前記排気ガスの排気方向は、前記帯状の溶融物に対する法線方向か鉛直上方向の少なくとも一方向の速度成分を有することが好ましく、前記帯状の溶融物に対する法線方向および鉛直上方向以外の速度成分を有してもよい。前記排気ガスの排気方向は、法線方向か鉛直上方向の少なくとも一方向の速度成分のみを有することがより好ましく、鉛直上方向であることが最も好ましい。より詳しくは、前記排気ガスの排気方向は、前記帯状の溶融物の法線方向を基準として、鉛直下90°〜鉛直上90°であり、鉛直下30°〜鉛直上90°が好ましく、鉛直上0°〜鉛直上90°がより好ましく、鉛直上45°〜鉛直上90°が特に好ましく、鉛直上90°が最も好ましい。
【0158】
本発明の製造方法では、前記ケーシング装置の排気手段による排気量が、ケーシングの体積に対し1〜50%/分であることが、ロングランの製膜適性を改善する観点から好ましい。前記排気量は5〜40%/分であることがより好ましく、8〜35%/分であることが特に好ましく、10〜30%/分であることが最も好ましい。
なお、本明細書中、「ケーシングの体積」とは、ケーシング装置外壁、挟圧装置の挟圧面、ダイ等とによって囲われる空間内の空間の体積のことをいい、ケーシング装置内に囲われているダイの体積部分は、除外することとなる。また、ケーシング装置の体積は、挟圧装置間を鉛直下方向に向けて通過しているメルトを基準として便宜上挟圧装置の第一挟圧面側と第二挟圧面側との2つに分けて考えることができ、それぞれの挟圧面の大きさに応じて、それぞれ挟圧装置の第一挟圧面側と第二挟圧面側のケーシング体積を調節することが好ましい。
【0159】
前記排気口におけるガスの排気温度は135〜240℃とすることが好ましく、140〜230℃とすることがより好ましく、150〜220℃とすることが特に好ましい。
【0160】
本発明の製造方法では、前記ケーシング装置が給気手段を備えた給気口を有し、該給気手段によって供給される給気ガスの相対湿度が0%以上30%未満であることが好ましい。給気ガスの相対湿度が0%以上30%未満であれば湿度が十分少ないため、メルト近傍に存在する樹脂劣化物の熱揮散物や添加剤の熱揮散成分が給気風の湿度を受けて凝集し難くなる。その結果、凝集物のフィルム上もしくは挟圧面への落下を抑制することができ、ロングラン製膜適性が得られる。
前記給気ガスの相対湿度は0〜20%であることが好ましく、0〜10%であることがより好ましく、0〜5%であることが特に好ましい。
前記給気手段としては特に制限はなく、公知の給気手段を用いることができる。
前記給気口の開口方向は特に制限はない。また、前記給気口の数も特に制限はないが、挟圧装置を鉛直下方向に通過している帯状のメルトを基準としてケーシング装置内部を2つに便宜的に分けた場合に、挟圧装置の第一挟圧面側に少なくとも1つ以上、挟圧装置の第二挟圧面側に少なくとも1つ以上設けることがケーシング装置内におけるガスの循環の関係上好ましい。前記給気口は挟圧装置の第一挟圧面側に二つ以上、挟圧装置の第二挟圧面側に二つ以上設けることがより好ましい。
【0161】
本発明の製造方法では、前記給気ガスの温度が60〜240℃であることが好ましい。給気ガスの温度を前記範囲とすることで、メルト近傍に存在する添加剤の熱揮散物や樹脂劣化物の熱揮散物がメルト近傍のガスによって冷やされ難くなり、これらが凝集することを防ぐことができる。すなわち、揮散物の排出効果を高めることができ、挟圧装置の挟圧面等に凝集物が付着し難くなる。
前記給気ガスの温度は110〜220℃であることがより好ましく、150〜230℃であることが特に好ましく、180〜230℃であることが最も好ましい。
【0162】
本発明の製造方法では、前記給気口に整流手段を備えることが、給気ガスの流れムラを無くす観点から好ましい。前記整流手段としては特に制限はなく、公知の整流手段を用いることができる。
【0163】
本発明の製造方法では、前記ケーシング装置の少なくとも内壁が断熱部材を含み、前記ケーシング装置内ガスの酸素濃度が0〜15%であることが好ましい。このような構成とすることで、メルトの熱可塑性樹脂を劣化し難くすることができ、熱可塑性樹脂の熱劣化揮散物が挟圧装置の挟圧面等に付着し難くなる。その結果、ロングランの製膜適性を向上できる。
前記前記ケーシング装置内ガスの酸素濃度は0〜10%であることがより好ましく、0〜5%であることが特に好ましく、0〜3%であることが最も好ましい。
【0164】
また、ダイから溶融押出しされ、挟圧装置の少なくとも一方の挟圧面に接触する直前まで、溶融物を保温し、幅方向の温度分布を軽減するのが好ましく、具体的には、幅方向の温度分布を5℃以内にするのが好ましい。温度分布を軽減するためには、溶融物のダイと挟圧面との間のエアーギャップの少なくとも一部に本発明に用いられるケーシングを配置し、該溶融物を外気から遮蔽するのが好ましい。この様に、ケーシングをエアーギャップに配置して、外気から遮蔽することで、外部環境、例えば風、の影響を抑えることができ、フィルムの幅方向の温度分布を抑制することができる。帯状の溶融物の幅方向の温度分布は、±3℃以内がより好ましく、±1℃以内がよりさらに好ましい。
さらに、本発明のケーシングを用いると、帯状の溶融物の温度が高い状態、すなわち、溶融粘度が低い状態で、挟圧装置間を通過させることができるため、本発明のフィルムを作成しやすい効果もある。
なお、帯状のメルトの温度分布は、接触式温度計や非接触式温度計によって測定することができる。
【0165】
(ケーシング装置の構成)
前記遮蔽部材は、例えば、2つのロールの両端部よりも内側で、且つ熱可塑性樹脂組成物の供給手段(例えば、ダイ)の幅方向側面と隙間を介して設けられる。遮蔽板は、供給手段の側面に直接固定されてもよいし、支持部材によって支持固定されてもよい。遮蔽部材の幅は、供給手段の放熱による上昇気流を効率的に遮断できるように、例えば、供給手段側面の幅と同等かそれ以上であるのが好ましい。
遮蔽部材とフィルム状の溶融物の幅方向端部との隙間は、ロールの表面に沿って流れ込む上昇気流を効率よく遮蔽する上で狭く形成されることが好ましく、フィルム状溶融物の幅方向端部から50mm程度であることがより好ましい。なお、供給手段の側面と遮蔽部材との隙間は、必ずしも設ける必要はないが、遮蔽部材に囲まれた空間内の気流を排出できる程度、例えば10mm以下に形成されることが好ましい。
また、断熱機能および/または熱反射機能を持つ材料として、遮風性や保温性に優れたものが好ましく、例えば、ステンレス等の金属板が好ましく使用できる。
このようなケーシング装置としては、特開2009−154518号公報、特願2008−231746号および特願2008−248031号に記載の装置を好ましく用いることができる。
【0166】
よりRe[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキをなくす方法として、フィルム状の溶融物がキャスティングロールに接触する際の密着性を上げる方法がある。具体的には、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法などの方法を組み合わせて、密着性を向上させることができる。このような密着向上法は、フィルム状の溶融物の全面に実施してもよく、一部に実施してもよい。
【0167】
このようにして製膜した後、フィルム状の溶融物を通過させる2つのロール(例えばキャスティングロールとタッチロール)以外に、キャスティングロールを1本以上使用して、フィルムを冷却するのが好ましい。タッチロールは、通常は最上流側(熱可塑性樹脂組成物の供給手段、例えばダイ、に近い方)の最初のキャスティングロールにタッチさせるように配置する。一般的には3本の冷却ロールを用いることが比較的よく行われているが、この限りではない。複数本あるキャスティングロールの間隔は、面間で0.3mm〜300mmが好ましく、より好ましくは、1mm〜100mm、さらに好ましくは3mm〜30mmである。
【0168】
その他複数本あるキャスティングロール間の温度パターン、速度パターンについては、特に制限はなく、公知の方法を特に制限なく採用することができる。例えば、応力による複屈折を生じさせないことを目的とする場合は、特開2003−236914号公報に記載の方法を用いて、溶融状態の熱可塑性樹脂を押出機からシート状に押し出して第1ロール、第2ロール及び第3ロールの3本のロールに順に外接させてフィルムとする際、前記第3ロールの周速度R3の、前記第2ロールの周速度R2に対する比R3/R2を0.999未満、0.990以上となるようにしてもよい。また、国際公開WO05/2280号、特許3846566号、および特開2007−301821号に記載の態様を用いてもよい。
【0169】
<巻き取り>
(型押しロール周速差)
本発明の製造方法では、前記フィルムをロール状に巻き取る工程の前に、フィルムの縁部の厚みを厚くすることにより、巻きズレやスリップによるフィルムの傷付きを防止する厚み出し加工を行うことが好ましい。厚み出し加工には、フィルムの両縁部を型押しロールによって凹凸をつけることが好ましい。さらに、厚み出しに用いる一対の型押しロールに0.01%〜1%の周速差を付与して厚み出し加工することが好ましい。
前記厚み出し加工は、回転する上下の型ロール(凹凸を有するロール)にフィルムを挟んで行うが、この時に上下の型ロールに0.01%〜1%、より好ましくは0.05%〜0.8%、さらに好ましくは0.1%〜0.5%の周速差を付与することが好ましい。このように周速差を付与することで、厚み出し加工の際フィルムは斜め方向に引っ張られ、残留歪が発生し易い。この残留歪が回復しようとして、厚み出し加工によって形成された凹凸の高さが経時で減少する。
周速差が上記範囲の下限値以上であれば、厚み出し加工によって形成された凹凸の高さの減少率が好ましい範囲の下限値を超え好ましい。周速差が上記範囲の上限値以下であれば、加工によって形成された凹凸の高さの減少率が好ましい範囲の上限値を超えず好ましい。
厚み出し加工は室温〜300℃で実施できるが、より好ましくは室温から200℃以下、さらに好ましくは室温から150℃以下である。
さらに、型ロールの押し付け力は1kgf〜1000kgfが好ましく、より好ましくは5kgf以上500kgfさらに好ましくは10kgf〜100kgfである。
【0170】
(巻き張力)
本発明の製造方法では、前記フィルムをロール状に巻き取る工程において、該フィルムを2kg/m〜70kg/mの張力で巻き取ることが好ましい。前記巻き張力はより好ましくは5〜50kg/mであり、さらに好ましくは10〜35kg/mである。
この範囲にすることで、厚みだし加工によって形成された凹凸の高さの減少率を好ましい範囲に調整できる。これは、巻き張力により伸ばされたフィルムが収縮しようとし、この結果巻芯中央部に向かって締め付けるため、厚み出し加工が減少し易いためである。
上記巻き張力の上限値以下であれば、厚みだし加工によって形成された凹凸の高さの減少率を抑えることができることに加え、傾斜構造の一部が張力により変化して発生する光学むらが起こり難く、好ましい。
さらに本発明の範囲の下限値以上の巻き張力であれば、厚みだし加工の減少率が前記好ましい範囲の下限値を以上となること以外に、ロール状フィルムの巻き内側で発生する圧縮応力による傾斜構造の形成を促す効果が十分に得られ、傾斜構造の経時変化が抑制できるため好ましい。
なお、本発明でいう張力とは、フィルム100μm換算の張力であり、下記式で求めたものである。
張力=(実際に加えた1mあたりの張力(kg/m))/(フィルム厚み(μm)/100μm)
【0171】
(巻き張力の変動)
本発明の製造方法では、前記フィルムをロール状に巻き取る工程において張力に0.1%〜5%の変動を与えることが好ましい。前記巻き張力はより好ましくは0.2%〜4%、さらに好ましくは0.3%〜3%である。
ここで言う変動とは、張力を1分間測定した際の最大張力と最小張力の差を、平均張力で割り、百分率で示したものである。本発明の範囲で張力変動を与えることで、局所的な傾斜構造の経時変化むらを低減できる。これは、フィルムに存在する厚みむらが存在すると、巻きつけた際に厚い部分がその内巻き側、外巻き側のフィルムと強く接触し、摩擦力が強くなる。これが上記巻き外側の伸張応力を増大しやすく、傾斜構造の経時変化に局所的なむらを発生し易い。このような厚みむらはダイ等に起因することが多く、幅方向に同じ位置に発生し易く、厚い部分同士が接触し上記むらを一層発現し易くしている。これに対し張力に上記変動を与えることで、一時的に張力が弱まり、厚みむらの部分がずれ、厚い部分同士の接触を抑制する効果がある。
変動率が上記範囲の下限値以上であれば、このような効果を十分に得ることができ、一方上記範囲の上限値以下であれば、張力変動に伴う巻き方向への張力むらが発生し難くなり、傾斜構造の経時変化むらも発生し難くなり好ましい。このような張力変動は、巻き付け機に張力パターンをあらかじめ記憶させることで達成できる。
【0172】
本発明の製造方法では、さらに形成した挟圧フィルムの両端部をスリット(トリミング)することも好ましい。挟圧フィルムの端部をスリットすることで、挟圧フィルム端部のReとスリットで端部の低下し過ぎる部分を切り落として、本発明の端部のRe(0°)/中央部のRe(0°)の比を0.5以上に制御することができる。
前記挟圧フィルムの両端部のスリット幅は挟圧したフィルムの端部から10〜300mmが好ましく、挟圧したフィルムの端部から20〜200mmがより好ましい。なお、両端部のスリット幅については、製造したフィルムの幅方向のRe[0°]の分布に応じて、本発明の製造方法の趣旨に反しないように設定することができる。スリットで切り落とした部分は破砕し、再度原料として使用してもよい。
【0173】
巻き取る前に、片面もしくは両面に、ラミフィルムを付けることも好ましい。ラミフィルムの厚みは5μm〜100μmが好ましく、10μm〜50μmがより好ましい。材質はポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン等、特に限定されない。なお、片面にラミフィルムを貼り付けるのは、フィルムのタッチ面、チル面どちらでも構わないが、本発明の方法で作成されたフィルムの表裏を区別するのに、利用することもできる。すなわち、本発明のフィルムは、後述する工程で偏光板と張り合わせるが、その張り合わせる面に、ラミフィルムを張ることで、後工程での張り合わせ面の識別を容易に行うことができる。なお、逆に、偏光板と張り合わせる面と逆の面にラミフィルムを張り合わせ、フィルム表裏の識別を行うことも可能である。
なお、上記識別を行うには、ラミフィルムを用いずに、矢印等を直接フィルムに表示したり、上述の厚み出し加工のマークを用いたりすることも可能である。また、矢印等の方向を示す表示をすることで、フィルム表裏の識別ばかりでなく、光学的な傾斜方向の表示も可能となる。
【0174】
このようにして製膜した未延伸フィルムを上記のように厚み出し加工し、上記の巻取り張力で、上記の巻き径となるように巻き取る。巻き取られたフィルムは、オレフィン系等のシートで梱包し、温度0〜70℃、湿度:10〜90%の状態で保管することで、配向緩和を抑制でき、好ましい。
【0175】
本発明の製造方法で得られるフィルムの未延伸時の膜厚は、300μm以下であることが好ましい。液晶表示装置等に用いる場合は、薄型化の観点からは、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることが特に好ましい。また未延伸時の幅は200mm〜3000mmが好ましく、より好ましくは500mm〜2500mm、さらに好ましくは700mm〜2000mmである。
【0176】
<延伸>
本発明の製造方法は、上記方法により挟圧フィルムを製膜した後、前記フィルムを少なくとも1方向に延伸する工程を含むことが好ましい。なお、本発明の製造方法では、前記挟圧フィルムを一度巻き取った後に延伸を行っても、巻き取らずに延伸を行ってもよい。本発明の製造方法では、その他に延伸および/または緩和処理を行ってもよい。例えば、以下の(a)〜(g)の組合せで各工程を実施することができる。
(a) 横延伸
(b) 横延伸→緩和処理
(c) 縦延伸
(d) 縦延伸→緩和処理
(e) 縦(横)延伸→横(縦)延伸
(f) 縦(横)延伸→横(縦)延伸→緩和処理
(g) 横延伸→緩和処理→縦延伸→緩和処理
これらの中で特に好ましいのは、(a)、横延伸の工程である。
なお、本明細書中、各延伸工程において、延伸温度はフィルムの膜面温度のことを言う。
【0177】
(縦延伸)
縦延伸は、2対のロール間を加熱しながら出口側の周速を入口側の周速より速くすることで達成できる。この際、間の間隔(L)と延伸前のフィルム幅(W)を変えることで厚み方向のレターデーションの発現性を変えることができる。L/W(縦横比と称する)が2〜50以下(長スパン延伸)ではRthを小さいフィルムを作成し易く、L/Wが0.01〜0.3(短スパン)ではRthが大きいフィルムを作成できる。本実施の形態では長スパン延伸、短スパン延伸、これらの間の領域(中間延伸=L/Wが0.3を超え2以下)のどれを使用してもよいが、配向角を小さくできる長スパン延伸、短スパン延伸が好ましい。さらに高Rthを狙う場合は短スパン延伸、低Rthを狙う場合は長スパン延伸と区別して使用することがより好ましい。
延伸温度は、Tg−15℃〜Tg+45℃が好ましく、Tg−10℃〜Tg+40℃がより好ましく、Tg−5℃〜Tg+35℃以下がさらに好ましい。また、好ましい縦延伸倍率は1.2〜6倍、より好ましく1.2〜4倍、さらに好ましくは1.2〜3.5倍である。
【0178】
(横延伸)
本発明の製造方法において、横延伸はテンターを用い実施することが好ましい。即ち前記挟圧フィルムの両端を把持しながらフィルム搬送方向とは異なる方向に拡幅することで延伸することができる。この時、テンター内に所望の温度の風を送ることで延伸温度を制御できる。横延伸の温度はTg−40℃〜Tg+5℃であることが好ましく、Tg−30℃〜Tg℃であることがより好ましく、Tg−30℃〜Tg−5℃であることが特に好ましい。横延伸の温度をTg−30℃〜Tg℃とすることで、横延伸後に得られるフィルムのγの発現量を高めることができ、且つ、複屈折の大きさが最大となる部分の位置をフィルム厚み方向の15%〜85%の範囲に制御することができ、その結果横延伸後に得られる光学フィルムをTNモードの液晶表示装置に組み込んだ際の視野角および周辺ムラを改善することができる。
横延伸の延伸倍率は1.05倍〜6倍であることが好ましく、より好ましくは1.1倍〜4倍、さらに好ましくは1.2倍〜3倍である。
【0179】
(横延伸の延伸方式)
本発明の製造方法では、いわゆるフィルム搬送方向に対し90°の方向に延伸する通常の横延伸のほか、ななめ方向に延伸する方法(以下、斜め延伸とも言う)を用いてもよい。斜め延伸を行う場合、通常の横延伸と同様、一対のチャックで把持したフィルムを加熱しながら横方向に拡幅し延伸するが、左右のチャックの搬送速度を変えたり、テンターを「く」の字状に屈曲させたり、左右のチャックの長さを変える(例えば、一方のテンター内のチャックの搬送経路を長くする)ことにより、斜め方向に延伸できる。これによりMD方向から30°〜150°、より好ましくは40°〜140°、さらに好ましくは45°〜135°にすることができる。具体的には下記のような方法で斜め延伸を行うことができる。
特開2002−22944号、特開2002−86554号、特開2004−325561号、特開2008−23775号、特開2008−110573号各公報。特開2000−9912号、特開2003−342384号、特開2004−20701号、特開2004−258508号、特開2006−224618号、特開2006−255892号、特開2008−221834号、特開2003−342384号、国際公開WO2003/102639号、特開2008−23775号各公報。
【0180】
本発明の製造方法では、前記フィルム搬送方向とは異なる方向に延伸する工程の前に、前記挟圧フィルムをTg−40℃〜Tg+3℃で加熱する予熱工程を有すること、すなわち予熱ゾーンを通すことが横延伸の均一性を向上する観点から好ましい。好ましい予熱温度はTg−40℃〜Tg+3℃、より好ましくはTg−40℃〜Tg℃、さらに好ましくはTg−30℃〜Tg−7℃である。
【0181】
延伸に引き続き熱固定ゾーンを通すことも好ましく、この熱固定温度は延伸温度より1℃〜50℃低い温度で行うことができ、より好ましく2℃〜40℃、さらに好ましくは3℃〜30℃低くすることが好ましい。さらに好ましくは延伸温度以下でかつTg以下にするのが好ましい。
【0182】
予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび固定ゾーンの長さは適宜選択でき、延伸ゾーンの長さに対して、予熱ゾーンの長さが100〜150%、固定ゾーンの長さが50〜100%である。好ましい予熱時間は1秒〜10分であり、より好ましくは2秒〜5分、さらに好ましくは5秒〜1分である。好ましい延伸時間は1秒〜5分であり、より好ましくは2秒〜3分、さらに好ましくは5秒〜1分である。好ましい熱固定時間は1秒〜5分であり、より好ましくは2秒〜3分、さらに好ましくは5秒〜1分である。予熱の際、テンターの幅はほぼ一定に保つことが好ましい。ここで「ほぼ」とは未延伸フィルムの幅の±10%を指す。これらの予熱、熱固定はクリップで把持して行うのが好ましく、即ち延伸と連続して行うのが好ましい。
【0183】
本発明の製造方法では、フィルム搬送方向に対し90°±1°の方向に前記挟圧フィルムを延伸する通常の横延伸を行うことが、横延伸製造装置の簡略化および軸ズレ低減の観点から好ましい。
なお、本発明では延伸後に得られる光学フィルムの遅相軸のズレは、±5°が好ましく、より好ましくは±3°、さらに好ましく±1°、最も好ましくは±0.5°である。
【0184】
(緩和処理)
さらに、これらの延伸の後に緩和処理を行うことで寸法安定性を改良できる。熱緩和は製膜後、縦延伸後、横延伸後のいずれか、あるいは両方で行ってもよいい。緩和処理は延伸後に連続してオンラインで行ってもよく、延伸後巻き取った後、オフラインで行ってもよい。
熱緩和は(Tg−30)℃〜(Tg+30)℃、より好ましく(Tg−30)℃〜(Tg+20)℃、さらに好ましくは(Tg−15)℃〜(Tg+10)℃で、1秒〜10分、より好ましくは5秒〜4分、さらに好ましくは10秒〜2分、0.1kg/m〜20kg/m、より好ましく1kg/m〜16kg/m、さらに好ましくは2kg/m〜12kg/mの張力で搬送しながら実施するのが好ましい。
【0185】
このようにして傾斜構造を有するフィルムを延伸したフィルム(縦延伸フィルム、横延伸フィルム、両方を行ったフィルム)に対しても本発明を実施でき、上記の厚み出し加工し、上記の巻取り張力で、上記の巻き径となるように巻き取ることが好ましい。
【0186】
本発明の製造方法で得られるフィルムの延伸後の膜厚は、300μm以下であることが好ましい。液晶表示装置等に用いる場合は、薄型化の観点からは、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることが特に好ましい。また延伸後の幅は500mm〜5000mmが好ましく、より好ましくは800mm〜3000mm、さらに好ましくは1200mm〜2000mmである。
【0187】
[偏光板]
本発明のフィルムに、少なくとも偏光子(以下、偏光膜ともいう)を積層することで、偏光板を得ることができる。以下において、前記偏光板を説明する。前記偏光板の例は、偏光膜の一面に、保護フィルムと視野角補償の2つの機能を目的として作成されたものや、TACなどの保護フィルムの上に積層された複合型偏光板が挙げられる。
【0188】
前記偏光板は、本発明のフィルムと偏光子を用いたものであれば、特に構成に制限はない。例えば、前記偏光板が、偏光子とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルム(透明ポリマーフィルム)からなる場合において、本発明のフィルムを少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして用いることができる。また、前記偏光板は、その少なくとも一方の面に、他の部材との貼着のための粘着剤層を有してもよい。また、前記偏光板において、本発明のフィルムの表面が凹凸構造であれば、アンチグレア性(防眩性)の機能を有することになる。さらに、前記偏光板には、本発明のフィルムの表面にさらに反射防止層(低屈折率層)を積層した本発明の反射防止フィルムや、本発明のフィルムの表面にさらに光学異方性層を積層した本発明の光学補償フィルムを用いることも好ましい。
【0189】
一般に液晶表示装置は二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられるため、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明のフィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いてもよいが、本発明のフィルムは、液晶表示装置における液晶セルと偏光板との間に配置される保護フィルムとして、特に有利に用いることができる。
【0190】
前記偏光板は、セルロースアシレートフィルム、偏光子および本発明のフィルムがこの順に積層している構成であることがより好ましい。また、セルロースアシレートフィルム、偏光子、本発明のフィルムおよび粘着剤層がこの順に積層している構成もより好ましい。
【0191】
(光学フィルム)
前記偏光板の光学フィルムには、本発明のフィルムが用いられる。また、前記フィルムには表面処理をしておくこともできる。表面処理方法としては、例えば、コロナ放電、グロー放電、UV照射、火炎処理等の方法が挙げられる。
【0192】
(セルロースアシレートフィルム)
前記偏光板のセルロースアシレートフィルムには、公知の偏光板用のセルロースアシレートフィルムが用いられる。例えば、公知のトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(例えば、富士フイルム(株)製フジタックT−60)などを好ましく用いることができる。また、前記セルロースアシレートフィルムには表面処理をしておくこともできる。表面処理方法としては、例えば、けん化処理などが挙げられる。
【0193】
(偏光子)
前記偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。
【0194】
本発明に用いられる偏光子は、本発明の目的を達成し得るものであれば、任意の適切なものが選択され得る。前記偏光子としては、例えば、親水性高分子フィルムにヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。前記親水性高分子フィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等が挙げられる。本発明において、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を吸着させた偏光子が好ましい。
【0195】
前記偏光子は、好ましくは、さらにカリウムおよびホウ素の少なくとも一方を含有する。前記偏光子が、カリウムおよびホウ素を含有することによって、好ましい範囲の複合弾性率(Er)を有し、且つ、偏光度が高い偏光子(偏光板)を得ることができる。カリウムおよびホウ素の少なくとも一方を含む偏光子の製造は、例えば、偏光子の形成材料であるフィルムを、カリウムおよびホウ素の少なくとも一方の溶液に浸漬すればよい。前記溶液は、ヨウ素を含む溶液を兼ねてもよい。
【0196】
前記ポリビニルアルコール系フィルムを得る方法としては、任意の適切な成形加工法が採用され得る。前記成形加工法としては、従来公知の方法が適用できる。また、前記ポリビニルアルコール系フィルムには、市販のフィルムをそのまま用いることもできる。市販のポリビニルアルコール系フィルムとしては、例えば、(株)クラレ製の商品名「クラレビニロンフィルム」、東セロ(株)製の商品名「トーセロビニロンフィルム」、日本合成化学工業(株)製の商品名「日合ビニロンフィルム」等が挙げられる。
【0197】
偏光子の製造方法の一例について、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする高分子フィルム(原反フィルム)は、純水を含む膨潤浴、およびヨウ素水溶液を含む染色浴に浸漬され、速比の異なるロールでフィルム長手方向に張力を付与されながら、膨潤処理および染色処理が施される。つぎに、膨潤処理および染色処理されたフィルムは、ヨウ化カリウムを含む架橋浴中に浸漬され、速比の異なるロールでフィルムの長手方向に張力を付与されながら、架橋処理および最終的な延伸処理が施される。架橋処理されたフィルムは、ロールによって、純水を含む水洗浴中に浸漬され、水洗処理が施される。水洗処理されたフィルムは、乾燥して水分率を調節した後で巻き取られる。このように、偏光子は、原反フィルムを、例えば、元の長さの5倍〜7倍に延伸することで得ることができる。
【0198】
前記偏光子は、接着剤との密着性を向上させるために、任意の表面改質処理が施されていてもよい。前記表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、グロー放電処理、火炎処理、オゾン処理、UVオゾン処理、紫外線処理等が挙げられる。これらの処理は、単独で、または2つ以上を組み合せて用いてもよい。
【0199】
(粘着剤層)
前記偏光板は、最外層の少なくとも一方として粘着剤層を有していても良い(このような偏光板を粘着型偏光板と称することがある)。特に好ましい形態として、前記光学フィルムの偏光子が接着されていない側に、他の光学フィルムや液晶セル等の他部材と接着するための粘着剤層を設けることができる。
【0200】
(偏光板の製造方法)
前記偏光板の製造方法を説明する。
前記偏光板は、接着剤を用いて前記偏光子の少なくとも片面に本発明のフィルムの片面(表面処理をしてある場合は表面処理面)を貼り合わせることで製造できる。また、セルロースアシレートフィルム、偏光子および本発明のフィルムの順に貼り合わせる場合は、前記偏光板は偏光子の両面に接着剤を用いて偏光子とその他のフィルムを張り合わせることで製造できる。
前記偏光板の製造方法においては、本発明のフィルムが偏光子と直接貼合されていることが好ましい。
【0201】
前記接着剤としては、公知の偏光板製造用接着剤を用いることができる。また、前記偏光子と各フィルムの間に接着剤層を有する態様も好ましい。前記接着剤の具体例としては、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタール(例、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。前記ポリビニルアルコール系接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂と架橋剤を含有することが好ましい。
【0202】
前記偏光板の製造方法は、上記の方法に限定されず、他の方法を用いることもできる。例えば、特開2000−171635号、特開2003−215563号、特開2004−70296号、特開2005−189437号、特開2006−199788号、特開2006−215463号、特開2006−227090号、特開2006−243216号、特開2006−243681号、特開2006−259313号、特開2006−276574号、特開2006−316181号、特開2007−10756号、特開2007−128025号、特開2007−140092号、特開2007−171943号、特開2007−197703号、特開2007−316366号、特開2007−334307号、特開2008−20891号各公報などに記載の方法を使用できる。これらの中でもより好ましくは特開2007−316366号、特開2008−20891号各公報に記載の方法である。
【0203】
偏光膜の他方の表面にも保護フィルムが貼り付けられているのが好ましく、かかる保護フィルムは、本発明のフィルムであってもよい。また、セルロースアシレートフィルム、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルム等、従来偏光板の保護フィルムとして用いられている種々のフィルムを利用することができる。
【0204】
このようにして得た前記偏光板は、液晶表示装置内で使用するのが好ましく、液晶セルの視認側、バックライト側のどちらか片側に設けても、両側に設けてもよく、限定されない。前記偏光板が適用可能な画像表示装置の具体例としては、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)のような自発光型表示装置が挙げられる。液晶表示装置は透過型液晶表示装置、反射型液晶表示装置等に適用される。
【0205】
[液晶表示装置]
本発明のフィルムおよび偏光板は、種々のモードの液晶表示装置に用いることができる。好ましくは、TN(Twisted Nematic)、OCB(Optically Compensatory Bend)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)モードの液晶表示装置、中でも、より好ましくはTNモードの液晶表示装置に用いることができる。
【0206】
[光学補償フィルム]
本発明のフィルムは、光学用途用フィルムとして好ましく用いることができ、光学補償フィルムとして特に好ましく用いることができる。
【0207】
<積層フィルム>
本発明のフィルムは単層フィルムであることが、フィルムの張り合わせ工程の削減や積層界面での光の反射を抑制する観点から好ましいが、本発明のフィルムにさらに機能層を積層することで、積層フィルムとすることもできる。本発明のフィルムが2以上の層からなる積層フィルムである場合、すべての層が前記液晶性重合化合物を含まないことが、低消偏光度化の観点から好ましい。
本発明のフィルムにさらに光学異方性層を付与した積層フィルムとすることもできる。本発明に用いることができる光学異方性層については特に制限はないが、例えば、特開2001−328973号公報の[0008]〜[0034]、特開2006−227630号公報の[0017]、特開2007−248780号公報の[0014]〜[0097]に記載のものを挙げることができる。
【実施例】
【0208】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0209】
<測定法>
(複屈折の大きい断片側の表面)
フィルムの傾斜構造を以下の方法で測定した。
厚み方向を面内に有するフィルム断面を偏光顕微鏡観察し、厚み方向の複屈折の変化を測定した。偏光顕微鏡(NIKON社製エクリプスE600POL)にて観測し、得られた偏光顕微鏡画像を厚み方向に10分割した。厚み方向に10分割した偏光顕微鏡画像の各断面を干渉色図表と照らし合わせ、それぞれ複屈折の大きさを測定した。上側5層(断片(i))の複屈折の絶対値の和ΣNx(i)(単位:nm)と、下側5層(断片(ii))の複屈折の絶対値の和ΣNx(ii)(単位:nm)を求め、複屈折の大きい断片側の表面を求めた。その結果を表1および表2に記載した。
【0210】
(複屈折の差)
複屈折の大きい断片側の表面を求めるときに求めた上記ΣNx(i)とΣNx(ii)をもとに、{ΣNx(i)}/5の値と{ΣNx(ii)}/5の値の差を求め、これをフィルムの厚みで割り、複屈折の差を求めた。
得られた値を、0.0001未満を極小、0.0001以上0.0005未満を小、0.0005以上0.001未満を中〜小、0.001以上0.005未満を中、0.005以上0.008未満を中〜大、0.008〜0.01を大、0.01を超えるものを極大として評価した結果を表1および表2に表した。
【0211】
(遅相軸方位、傾斜方位、Re[0°]、γ、Rth)
自動複屈折計(KOBRA-21ADH:王子計測器(株)製)を用い、幅方向に10等分し
た点でフィルム法線方向、フィルム法線から傾斜方位側へ40°傾いた方位、フィルム法線から−40°傾いた方位からレターデーションを測定した。また、測定したRe[40°]およびRe[−40°]の値から、γの値を上述の定義にしたがって計算し、Re[0°]、およびγの値の平均値を求めた。さらに、上述の方法により、Rthを求めた。その結果を、それぞれ表1および表2に記載した。
【0212】
(γの経時変化率)
以下の方法にしたがって、作成したフィルムを直径30cmの樹脂巻芯に3000m、表1および表2にそれぞれ記載の巻き取り時の張力で巻きつけ、50℃、100時間前後のγを測定した。得られたγの値を経時後のγとし、下式よりロール経時でのγの経時変化率を求めた。
(γの経時変化率)=100%×(経時前後のγの差の絶対値)/(経時前のγ)
得られたγの経時変化率の値を下記表1および表2に示した。
【0213】
(熱膨張係数)
下記方法で熱膨張係数を求めた。
(1)サンプルフィルムを長手方向に35mm、幅方向に3mmに切り出す
(2)TMAを用い、チャック間25mmで5gの荷重をかけながら5℃/分で昇温しながら、長手方向の寸法変化を測定。
(3)横軸に温度を取り、縦軸に寸法変化をとり、40℃〜60℃の間の傾きから熱膨張係数を求めた。
【0214】
[製造例1] 付加重合型ノルボルネン樹脂(COC)のペレットの製造
付加重合型ノルボルネン樹脂(COC)として、Polyplastics社製の「TOPAS#6013」のペレットを用いた。なお、「TOPAS#6013」は、正の固有複屈折性を示す。また、当該樹脂のガラス転移点は130℃であった。
【0215】
[製造例2] 開環重合型ノルボルネン樹脂(COP)のペレットの製造
開環重合型ノルボルネン樹脂(COP)を国際公開WO98/14499号公報の実施例1に記載の方法に従って製造し、これを常法に従ってペレット化した。当該樹脂のガラス転移点は136℃であった。
【0216】
[製造例3] ポリカーボネート(PC)のペレットの製造
ポリカーボネートとして、出光興産社製の「タフロンMD1500」のペレットを用いた。なお、「タフロンMD1500」は、正の固有複屈折性を示す。また、当該樹脂のガラス転移点は142℃であった。
【0217】
[製造例4] アクリル系樹脂のペレットの製造
アクリル系を特開2008−9378号公報[0222]〜[0224]の製造例1に従いメタクリル酸メチル=7500g、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル2500gから合成し、ラクトン化率98%、ガラス転移点134℃のアクリル系化合物を得た。
【0218】
[製造例5] セルロースアシレート系樹脂(CAP−1)のペレットの製造
セルロース・アセテート・プロピオネート(CAP−1)を特開2008−87398号公報の実施例1に記載の方法に従って製造し、熱安定剤としてIRGANOX1010(チバ・ジャパン社製)0.25質量部、SumilizerGS(住友化学社製)0.25質量部、GSY−P101(堺化学工業株式会社製)0.20質量部、紫外線吸収剤として、TINUVIN928(チバ・ジャパン社製)1.0質量部、可塑剤としてトリメチロールプロパントリス(3,4,5−トリメトキシベンゾエート)1.0質量部を加え、これを常法に従ってペレット化した。なお使用したCAP−1の組成は、アセチル化度1.95、プロピオニル化度0.7、全アシル置換度2.65であった。また、当該樹脂のガラス転移点は174℃であった。
【0219】
[製造例6] セルロースアシレート系樹脂(CAP−2)のペレットの製造
セルロース・アセテート・プロピオネート(CAP−2)を特開2008−50562号公報の実施例101に記載の方法に従って製造し、熱安定剤としてIRGANOX1010(チバ・ジャパン社製)0.25質量部、SumilizerGS(住友化学社製)0.25質量部、GSY−P101(堺化学工業株式会社製)0.20質量部、紫外線吸収剤として、TINUVIN928(チバ・ジャパン社製)1.0質量部、可塑剤としてトリメチロールプロパントリス(3,4,5−トリメトキシベンゾエート)1.0質量部を加え、これを常法に従ってペレット化した。なお使用したCAP−2の組成は、アセチル化度0.15、プロピオニル化度2.55、全アシル置換度2.70であった。また、当該樹脂のガラス転移点は137℃であった。
【0220】
[実施例1]
(フィルムの作製)
(製膜)
熱可塑性樹脂として下記表1に記載の環状オレフィン共重合体TOPAS#6013(COC)のペレットを用いて、100℃において2時間以上乾燥し、260℃で溶融し、1軸混練押出し機を用い混練し押出した。このとき押し出し機とダイの間にスクリーンフィルター、ギアポンプ、リーフディスクフィルターをこの順に配置し、これらをメルト配管で連結した。これを260℃で幅1300mm、リップギャップ0.8mmのダイから押出した。
この後、キャストロールとタッチロールで挟まれる中央部分にメルト(溶融樹脂)を押出した。この時、最上流側の幅1500mm、直径300mmのハードクロムメッキしたステンレス製キャストロール(チルロール)に下記表1に記載のタッチ圧力となるようにシリンダーを設定し、幅1500mm、直径200mmのハードクロムメッキしたステンレス製の段付き剛性クラウンロールであるタッチロールを接触させた。段付き剛性クラウンロールは、詳しくは、段が両端から200mmの部分に、0.3mmの深さで設けられている形状のものを用いた。すなわち、メルトの片方の端部の200mmが非接触幅であった。また、用いたタッチロールには、ロールたわみを考慮したクラウン加工を施し、タッチロールのクラウン量を下記表1に記載した。
さらに、バックアップロールとして、幅1300mm、直径350mmの材質が鋼鉄製芯金+耐熱NBRゴム(ゴム肉厚10mm)製、ショアA硬度70のロールを用いて、感圧紙を用いてロール線圧が均一となるように調整しながら、指圧を調整してタッチロールを押した。
なお、タッチ圧力は、中圧用プレスケール(富士フィルム社製)を、メルトのない状態で等周速度(5m/分)、ともに25℃に制御した二つのロールに挟みこむことで測定し、その値を製膜時の圧力として、表1に記載した。
タッチロールおよびチルロールはショア硬度70HSのものを用いた。また、メルトはキャストロールとタッチロールで挟まれる中央部分に落とした。これらのロールを用い、タッチロール移動速度(周速度)またはチルロール移動速度(周速度)を速くし〔表1に記載〕、これらの移動速度比を上記の式に従い求め表1に示した。なおチルロールの速度は10m/分で製膜した。また、ダイとメルト着地点の距離は50mmに設定して製膜した。なお、タッチロールの温度をTg−5℃、チルロールの温度をTg−10℃とした。また、製膜の雰囲気は25℃、60%であったが、ダイとタッチロール(またはチルロール)間に遮風板を配置し、溶融物の保温をしながら製膜した。
この後、巻き取り直前に1.5m幅でスリット(トリミング)した後、両端を表1に記載の条件で厚みだし加工(ナーリング)をつけた。なお、厚みだし加工は、両端から15mmのところに幅10mm、型押しロールの押し圧を変えて厚みの15%の高さとなるように付与した。なお、厚み出しは40℃に型押しロールを加熱して実施した。これを表1記載の条件で、移動速度の速い側の挟圧面で挟圧されたフィルム表面が外側になるように巻取り、実施例1の未延伸フィルム(挟圧フィルム)を作製した。
このようにして得た実施例1の未延伸のロール状フィルムを、ロール形態で経時させる前に、ただちに巻戻し、フィルムの断面を上記方法で偏光顕微鏡観察し、厚み方向の屈折率を測定し、屈折率の絶対値の和の大きい断片に含まれる表面を決定した。これがチルロールに接触していた面に近いか、タッチロールに接していた面に近いかを表1に記載した。
また、ロール形態で経時前にRe[0°]、γ(経時前のγ)、Rthを上記の方法で測定した。
その後ロール形態で50℃100時間経時し、経時後ロール最外周とロール最内周のγの平均値(経時後のγ)を測定し、上述の式に従いγの経時変化率を求めた。
さらに、経時後のフィルムについて、熱膨張係数を求めた。
【0221】
[実施例2〜34、比較例1および2]
用いた樹脂と溶融製膜工程、挟圧工程、延伸工程の条件を下記表1に記載したように変更した以外は実施例1と同様にして、各実施例および比較例のフィルムを得た。各実施例および比較例の未延伸フィルムの特性を下記表1に示す。
【0222】
(偏光板の作製)
作成した各実施例及び比較例の未延伸フィルムをロール状で50℃100時間経時させたサンプルを用いて偏光板を作製した。具体的には、まず、厚さ80μmのポリビニルアルコール(PVA)フィルムを、ヨウ素濃度0.05質量%、KI濃度3質量%のヨウ素水溶液(30℃)中に60秒浸漬して染色し、次にホウ酸濃度4質量%、KI濃度3.5質量%の水溶液(55℃)中に60秒浸漬している間に元の長さの5.5倍に縦延伸した後、50℃で4分間乾燥させて、厚さ20μmの偏光子を得た。
これとは別に、60μmのTACフィルム(富士フィルム社製)を偏光子の保護フィルムBとして用いた。濃度2.0モル/Lで55℃の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬ケン化処理した後、水で十分に水酸化ナトリウムを洗い流した。その後、0.005モル/Lで35℃の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流し、105℃で乾燥した。
本発明の各実施例および比較例の未延伸、延伸フィルムの表面に接触角を30°以下になるようにコロナ放電処理を行い、偏光子の保護フィルムAとして使用した。
表面にコロナ放電処理した上記未延伸、延伸フィルムと、上記ケン化処理した60μmのTACフィルムを、上記染色延伸した偏光子フィルムの両側にそれぞれ配置し、ポリビニルアルコール系接着剤を用い、直接オンラインで、ロールtoロールで偏光子と貼り付け、乾燥後、ロール状の偏光板を得た。
これを用い、下記の方法で密着性を比較した。なお、このテストに用いたサンプルにいついては、巻内側が偏光子側になるようにして作成した。
【0223】
(密着性)
(1)偏光板のTACフィルム側に剃刀を用い縦、横に5ミリ間隔の切れ込みを10本入れた(これにより100の升目ができる)。なお、切れ込みはTACフィルムが貫通するようにした(これにより偏光子と、本発明、比較例フィルム間の密着を評価できる)
(2)この上にポリエステル粘着テープ(日東電工(株)社製、商品名No.31Bハイ)を貼り付け、これを勢い良く引き剥がす。偏光子が粘着テープ側にはがれた升目の数を数え、それを表1の「密着性」の欄に示した。
【0224】
(TNモード液晶表示装置の作製)
TN型液晶セルを使用した22インチの液晶表示装置(ACER製 AL2216W)に設けられている一対の偏光板(上側偏光板、及び下側偏光板)を剥がし、代わりに上記にて作製した偏光板を、実施例、及び比較例のフィルムが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側及びバックライト側に一枚ずつ貼り付けて、それぞれ図2に示すような液晶表示装置を作製した。このとき、観察者側の偏光板(上側偏光板)の透過軸と、バックライト側の偏光板(下側偏光板)の透過軸とが直交するように各偏光板を配置した。
【0225】
(表示むら)
上記のように傾斜構造フィルムをロール経時したものを用いた液晶表示装置を、全面白表示とし白色から色ずれの発生個所を目視で評価、その面積を表示装置の全面積で割り表示むらを百分率で表し、表1に示した。
【0226】

【表1】

【0227】
表1より、本発明の実施例の光学フィルムを用いると、TNモードのロール経時後のフィルムを使用しても液晶表示装置の表示むらが改善できることが分かった。また、上記実施例1〜41、比較例1および2の巻き取りにおいて、チルロール面に厚さ40μm、特殊ポリオレフィン系のラミフィルム(東レフィルム加工社製)を貼り付け、巻き取ったところ、本発明の効果を確認することができた。
【0228】
[実施例101]
(延伸)
上記実施例1の未延伸フィルムの製造工程において、ナーリング加工、スリット加工せずに、直接(製膜後巻き取らずに)表2記載の条件で縦延伸、横延伸を実施した。
縦延伸はTgで予熱後、Tg+5℃で表2記載の倍率で実施した。この後、Tg−5℃で予熱した後、Tg−3℃で表2記載の倍率でテンターを用いて特開平10−249934号公報に記載の方法に従い横延伸した。このとき、上記未延伸(挟圧)フィルムの作製において、タッチロール側のフィルム表面を下側にし、クリップでフィルム両端を把持するようにした。横延伸は、フィルムの搬送速度を12m/分、延伸速度を200%/分に設定して行った。
この後、巻き取り直前に1.5m幅でスリット(トリミング)した後、両端を表2に記載の条件で厚みだし加工(ナーリング)をつけた。なお、厚みだし加工は、両端から10mmのところに幅20mm、型押しロールの押し圧を変えて厚みの30%の高さとなるように付与した。なお、厚み出しは60℃に型押しロールを加熱して実施した。
これを表2記載の条件で巻取り、実施例2の延伸フィルムを作製した。併せて上記方法に従い、厚み方向の複屈折を計測し上記のように複屈折の大きな面を表2に示した。
このγを上記の方法で測定した(経時前のγ)。その後ロール形態で50℃100時間経時し、経時後ロール最外周とロール最内周のγの平均値(経時後のγ)を測定し、上述の式に従いγの経時変化率を求め表2に示した。併せて熱膨張係数も上記に従い測定し表2に記載した。
【0229】
また、実施例1と同様にして、実施例101の偏光板および液晶表示装置を製造した。また、そのときの実施例101のフィルムの密着性および表示むらを実施例1と同様にして測定し、その結果を下記表2に記載した。
【0230】
[実施例102〜112、比較例101]
用いた未延伸フィルムと溶融製膜工程、挟圧工程、延伸工程の条件を下記表2に記載したように変更した以外は実施例1と同様にして、各実施例および比較例のフィルム、偏光板および液晶表示装置を得た。各実施例および比較例の延伸フィルムの特性を下記表2に示す。
【0231】

【表2】

【0232】
表2より、本発明の実施例の光学フィルムを用いると、TNモードのロール経時後のフィルムを使用しても液晶表示装置の表示むらが改善できることが分かった。また、上記実施例101〜112、比較例101の巻き取りにおいて、チルロール面に厚さ40μm、特殊ポリオレフィン系のラミフィルム(東レフィルム加工社製)を貼り付け、巻き取ったところ、本発明の効果を確認することができた。
【0233】
<半透過型ECB液晶パネルへの装着と評価>
(ECBモード用偏光板の作製)
作成した実施例1のフィルムを用いて偏光板を作製した。具体的には、まず、延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光フィルムを作製した。この偏光フィルムを用いて、図1に示すような配置で、80μmのTACフィルム(富士フイルム社製)、一軸延伸したノルボルネン系高分子フィルムからなる、Re=270nmのλ/2板、実施例1のフィルムのチル面からラミフィルムを剥がした本発明のフィルムを、実施例1のフィルムのチルロール面(ラミフィルムが張り合わされた面)がλ/2板と接するように貼合わせた。この様にして、実施例1のフィルムを用いた偏光板PL1を2枚ずつ作製した。また、特開2002−311426号公報の実施例1の方法に従って、液晶塗布型のフィルム比較例401を作成し、上記実施例1の変わりに偏光板と貼り合せ、偏光板PL2を作成した。
【0234】
(半透過型ECBモード液晶表示装置の作製と評価)
次に、上記偏光板を用いてECB型の半透過型液晶表示装置を作製した。使用した液晶セルは、液晶材料としてZLI−1695(Merck社製)を用い、液晶層厚は反射電極領域(反射表示部)で2.4μm、透過電極領域(透過表示部)で4.9μmとした。液晶層の基板両界面のプレチルト角は2度であり、液晶セルのΔndは、反射表示部で略150nm、透過表示部で略320nmであった。
この液晶セルの上下に、上記作製した2種の偏光板を、図1に示すように配置した。偏光板P1およびP2中の矢印はそれぞれの吸収軸を、位相差フィルム中の矢印はそれぞれの遅相軸を、ECBセルの矢印はそれぞれの対向面に施されたラビング処理のラビング方向を示す。ここで、12時方向が0°、時計回りが+である。
【0235】
本発明の実施例である液晶表示装置LCD1について、白黒表示時のコントラスト(以下、CRとも言う)比が10以上の視野角度を求めたところ、LCD1は左右上下の視野角の和が280°を達成していた。また正面CRが250を達成した。一方、比較例401のフィルムは、LCD3は左右上下の視野角の和が280°を達成していたが、正面CRが180と低かった。
このように、本発明のフィルムを用いると、液晶表示装置に組み込んだ場合、大きな十分な視野角補償が行え、かつ従来のECB用の視野角補償フィルムに比べて正面CRが上昇することが分かった。
【符号の説明】
【0236】
1a、1b 偏光子
2a 偏光子の吸収軸
2b 偏光子の吸収軸(MD方向)
3a、3b 各実施例のフィルム
4 各実施例のフィルムの面内遅相軸方向(TD方向)
5 各実施例のフィルムの傾斜方位(MD方向)
6 液晶セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂から構成され、
傾斜構造を有し、
下記条件(A)を満たす表面を外側にして巻き取られていることを特徴とするロール状フィルム。
条件(A):フィルムの厚み方向を面内に含む切片を切り出し、該切片の厚み方向を等間隔に10分割して各層の複屈折を測定し、一方のフィルム表面から1層目から5層目までの複屈折の絶対値の和Σnx(i)と6層目から10層目までの複屈折の絶対値の和Σnx(ii)を求め、Σnx(i)>Σnx(ii)のときは前記一方のフィルム表面を条件(A)を満たすフィルム表面とし、Σnx(i)<Σnx(ii)の場合は他方のフィルム表面を条件(A)を満たすフィルム表面とする。
【請求項2】
フィルムの両端に、減少率1%〜50%の厚み出し加工が施されていることを特徴とする請求項1に記載のロール状フィルム。
【請求項3】
巻き径が直径20cm〜200cmであることを特徴とする請求項1または2に記載のロール状フィルム。
【請求項4】
フィルム法線と傾斜方位を含む面内において該法線に対して傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定したレターデーションRe[+40°]と、該法線に対して傾斜方位側へ−40°傾いた方向から測定したレターデーションRe[−40°]が、下記式(I)を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のロール状フィルム。
10nm≦γ≦300nm 式(I)
γ=|Re[+40°]−Re[−40°]| 式(I)’
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂およびポリエステル系樹脂から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のロール状フィルム。
【請求項6】
挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間に熱可塑性樹脂を含有する組成物の溶融物または半流体膜を通過させて、連続的に挟圧してフィルム状に成形する挟圧工程(挟圧工程では、前記第一挟圧面の移動速度を前記第二挟圧面の移動速度よりも速くする)と、
前記第一挟圧面で挟圧されたフィルム表面を内側にしてフィルムをロール状に巻き取る工程とを含むことを特徴とするロール状フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記フィルムをロール状に巻き取る工程の前に、厚み出しに用いる一対の型押しロールに0.01%〜1%の周速差を付与して厚み出し加工することを特徴とする請求項6に記載のロール状フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記フィルムをロール状に巻き取る工程において、該フィルムを2kg/m〜70kg/mの張力で巻き取り、該張力に0.1%〜5%の変動を与えることを特徴とする請求項6または7に記載のロール状フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂を含有する組成物をダイから溶融押出しする工程をさらに含み、溶融押出しされた溶融物を前記第一挟圧面と前記第二挟圧面の間を通過させることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載のロール状フィルムの製造方法。
【請求項10】
下記式(III)で定義される前記挟圧装置の第一挟圧面と第二挟圧面の移動速度比が0.60〜0.99となるように制御することを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載のロール状フィルムの製造方法。
式(III)
移動速度比=第二挟圧面の速度/第一挟圧面の速度
【請求項11】
前記挟圧装置によって前記溶融物を10〜300MPaの圧力で挟圧することを特徴とする請求項6〜10のいずれか一項に記載のロール状フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記挟圧装置が互いに周速が異なる2つのロールを含んでおり、周速度の早いロールの表面を第一挟圧面とし、周速度が遅いロールの表面を第二挟圧面とすることを特徴とする請求項6〜11のいずれか一項に記載のロール状フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記挟圧装置を構成する2つのロールの少なくとも一方に、金属外筒厚み6〜45mmのロールを用いることを特徴とする請求項12に記載のロール状フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記フィルムを少なくとも1方向に延伸する工程を含むことを特徴とする請求項6〜13のいずれか1項に記載のロール状フィルムの製造方法。
【請求項15】
請求項6〜14のいずれか一項に記載のロール状フィルムの製造方法で製膜したことを特徴とするロール状フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−162588(P2011−162588A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23609(P2010−23609)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】