説明

ワイパ装置およびその作動角調整方法

【課題】ワイパアームの作動角を調整する構成部品の部品点数を削減しつつ、ワイパアームの作動角を微調整できるようにする。
【解決手段】駆動プレートの他端側に設けられるジョイントボール50を、連結部材を形成するボール受け部に回動自在に保持されるボール部51と、ボール部51の軸芯C2から所定距離L2の分、オフセットした軸芯C3を備え、駆動プレートの貫通孔にカシメ固定される固定部52とから形成した。これにより、駆動プレートに対してジョイントボール50を回転させることでピボット軸の軸芯とボール部51の軸芯C2との距離(軸芯間距離)を調整し、その後、固定部52を駆動プレートにカシメ固定してジョイントボール50を駆動プレートに強固に固定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイパアームを揺動駆動してウィンドシールドに付着した付着物を払拭するワイパ装置およびその作動角調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両には、ウィンドシールドに付着した付着物(雨水や埃等)を払拭して運転者の視界を確保するワイパ装置が搭載されている。ワイパ装置は、出力軸を有する電動モータと、出力軸の回転運動を揺動運動に変換するリンク部材と、先端側にワイパアームが固定されたピボット軸とを備え、さらにピボット軸の基端側とリンク部材との間には駆動プレートが設けられている。そして、電動モータに駆動電流を供給することで出力軸が回転し、これに伴いリンク部材を介して駆動プレートおよびピボット軸が揺動する。これにより、ピボット軸に固定したワイパアームがウィンドシールド上の所定の払拭範囲を往復動し、ウィンドシールド上の付着物を払拭するようになっている。
【0003】
ところで、ワイパアームのウィンドシールドに対する作動角(払拭範囲の広狭)は、駆動プレートに固定したピボット軸の軸芯と、駆動プレートとリンク部材との連結部(ジョイントボール)の軸芯との距離(軸芯間距離)により決定される。つまり、駆動プレートに対する連結部の取り付け誤差等が生じた場合には、同じワイパ装置であっても作動角に差が生じることがある。作動角が大きくなってしまった場合には、ワイパアームがピラーに干渉するような事が起こり、作動角が小さくなってしまった場合には、運転者の視界を狭くするような事が起こり得る。
【0004】
そこで、駆動プレートおよび連結部の取り付け誤差等を無くすために、駆動プレートおよび連結部を高精度で加工することが考えられるが、この方法においては構成部品の製造コストが上昇するという別の問題が生じ得る。このようなことを背景に、高精度で加工しなくても駆動プレートおよび連結部の取り付け誤差を吸収し得る作動角調整構造を備えたワイパ装置が開発され、例えば、特許文献1に記載されている。
【0005】
特許文献1に記載された作動角調整構造を備えたワイパ装置は、取付け孔を有するリンク本体(駆動プレート)を備え、取付け孔には当該取付け孔に対して偏心可能なジョイントボールが設けられている。ジョイントボールは板状の調整部材に固定され、ジョイントボールおよび調整部材は、螺子ピンを介してリンク本体に固定されている。ジョイントボールは螺子ピンに対して偏心しており、これにより螺子ピンを軸芯として調整部材を回転させることで、ワイパ軸(ピボット軸)の軸芯とジョイントボールの軸芯との距離が調整される。ここで、軸芯間距離の調整は、調整部材に設けた複数の突起とリンク本体に設けた複数の凹溝との凹凸係合により段階的に調整され、かつこれらの凹凸係合によって回り止めを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−011680号公報(図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の特許文献1に記載されたワイパ装置によれば、ワイパアームの作動角を所定の角度範囲とするために、ジョイントボールの他に調整部材や螺子ピンを必要とする。したがって部品点数が多くなり、ワイパ装置のさらなるコスト削減のニーズに対応するのが困難という問題があった。また、調整部材とリンク本体との凹凸係合により回り止めを行い、軸芯間距離の調整が段階的であるため、軸芯間距離の微調整、つまり作動角の微調整が困難という問題もあった。
【0008】
本発明の目的は、ワイパアームの作動角を調整する構成部品の部品点数を削減しつつ、ワイパアームの作動角を微調整することができるワイパ装置およびその作動角調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のワイパ装置は、ワイパアームを揺動駆動してウィンドシールドに付着した付着物を払拭するワイパ装置であって、出力軸を有する電動モータと、先端側に前記ワイパアームが固定され、基端側に駆動プレートの一端側が固定されるピボット軸と、前記出力軸と前記駆動プレートの他端側との間に設けられ、前記出力軸の回転運動を揺動運動に変換するリンク部材と、前記リンク部材と前記駆動プレートとの間に設けられ、前記リンク部材と前記駆動プレートとを連結する連結部材と、前記連結部材を形成し、前記リンク部材の他端側に設けられるボール受け部と、前記連結部材を形成し、前記駆動プレートの他端側に設けられるジョイントボールと、前記ジョイントボールを形成し、前記ボール受け部に回動自在に保持されるボール部と、前記ジョイントボールを形成し、前記ボール部の軸芯から所定距離オフセットした軸芯を備え、前記駆動プレートの貫通孔にカシメ固定される固定部とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明のワイパ装置の作動角調整方法は、前記ワイパ装置を、出力軸を有する電動モータと、先端側に前記ワイパアームが固定され、基端側に駆動プレートの一端側が固定されるピボット軸と、前記出力軸と前記駆動プレートの他端側との間に設けられ、前記出力軸の回転運動を揺動運動に変換するリンク部材と、前記リンク部材と前記駆動プレートとの間に設けられ、前記リンク部材と前記駆動プレートとを連結する連結部材と、前記連結部材を形成し、前記リンク部材の他端側に設けられるボール受け部と、前記連結部材を形成し、前記駆動プレートの他端側に設けられるジョイントボールと、前記ジョイントボールを形成し、前記ボール受け部に回動自在に保持されるボール部と、前記ジョイントボールを形成し、前記ボール部の軸芯から所定距離オフセットした軸芯を備え、前記駆動プレートの貫通孔にカシメ固定される固定部とから形成し、前記固定部を中心に前記ボール部を回転させ、前記ボール部および前記ピボット軸の軸芯間距離を調整して作動角を調整した後、前記固定部を前記貫通孔にカシメ固定することを特徴とする。
【0011】
本発明のワイパ装置の作動角調整方法は、前記ボール部に非円形形状の治具装着孔を設け、前記治具装着孔に治具を差し込んで前記作動角を調整することを特徴とする。
【0012】
本発明のワイパ装置の作動角調整方法は、前記固定部の外周部または前記貫通孔の内周部にローレット加工を施し、前記固定部を前記貫通孔に軽圧入した状態のもとで前記作動角を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のワイパ装置によれば、駆動プレートの他端側に設けられるジョイントボールを、連結部材のボール受け部に回動自在に保持されるボール部と、ボール部の軸芯から所定距離オフセットした軸芯を備え、駆動プレートの貫通孔にカシメ固定される固定部とから形成する。これにより、ジョイントボールを回転させることでピボット軸の軸芯とボール部の軸芯との距離を調整し、その後、固定部を駆動プレートにカシメ固定してジョイントボールを駆動プレートに強固に固定できる。したがって、ワイパアームの作動角を調整する構成部品の部品点数を削減することができる。さらには、軸芯間距離を調整した後にジョイントボールを駆動プレートにカシメ固定するため、回り止めのための凹凸係合構造が不要となる。したがって、軸芯間距離を無段階で調整することができ、ワイパアームの作動角を微調整することができる。
【0014】
本発明のワイパ装置の作動角調整方法によれば、固定部を中心にボール部を回転させ、ボール部およびピボット軸の軸芯間距離を調整して作動角を調整した後、固定部を貫通孔にカシメ固定する。これにより、ワイパアームの作動角を調整する構成部品の部品点数を削減することができる。さらには、回り止めのための凹凸係合構造が不要となるので、無段階で軸芯間距離を調整することができ、ワイパアームの作動角を微調整することができる。
【0015】
本発明のワイパ装置の作動角調整方法によれば、ボール部に非円形形状の治具装着孔を設け、治具装着孔に治具を差し込んで作動角を調整するので、作動角の調整を手で行う場合に比して、容易に作動角を調整することができる。
【0016】
本発明のワイパ装置の作動角調整方法によれば、固定部の外周部または貫通孔の内周部にローレット加工を施し、固定部を貫通孔に軽圧入した状態のもとで作動角を調整するので、作動角を調整した後に調整状態がずれるのを確実に防止し、正確な調整状態でカシメ固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】車両に搭載されたワイパ装置を説明する説明図である。
【図2】図1のワイパ装置を拡大して示す斜視図である。
【図3】ピボット軸,駆動プレートおよび連結部材の詳細構造を示す斜視図である。
【図4】(a)はジョイントボールをボール部側から見た平面図,(b)は図4(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図5】(a)は駆動プレートにジョイントボールを軽圧入する圧入工程図,(b)は調整治具により軸芯間距離を調整する調整工程図である。
【図6】(a)は軸芯間距離を長く調整する場合の説明図,(b)は軸芯間距離を短く調整する場合の説明図である。
【図7】駆動プレートにジョイントボールをカシメ固定するカシメ工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0019】
図1は車両に搭載されたワイパ装置を説明する説明図を、図2は図1のワイパ装置を拡大して示す斜視図を、図3はピボット軸,駆動プレートおよび連結部材の詳細構造を示す斜視図を、図4(a)はジョイントボールをボール部側から見た平面図,(b)は図4(a)のA−A線に沿う断面図をそれぞれ表している。
【0020】
図1に示すように、自動車等の車両10の前方側には、ウィンドシールドとしてのフロントガラス11が設けられ、フロントガラス11の前方側には、フロントガラス11に付着した雨水や埃等(付着物)を払拭して、運転者の視界を確保するためのワイパ装置12が設けられている。ワイパ装置12は、車両10のエンジンルームを形成するバルクヘッドの内部等(図示せず)に搭載されている。
【0021】
ワイパ装置12は、車室内等に設けられたワイパスイッチ(図示せず)を操作することで回転駆動される電動モータとしてのワイパモータ13と、車両10に回動自在に設けられた運転席側(DR側)および助手席側(AS側)ピボット軸14a,14bと、各ピボット軸14a,14bの先端側に基端側が固定され、先端側がフロントガラス11上で揺動運動するDR側およびAS側ワイパアーム15a,15bと、ワイパモータ13の回転運動を各ワイパアーム15a,15bの揺動運動に変換するリンク機構16とを備えている。
【0022】
各ワイパアーム15a,15bの先端側には、それぞれ同様に形成されたDR側およびAS側ワイパブレード17a,17bがフロントガラス11の垂直方向に向けて回動自在に装着され、各ワイパブレード17a,17bは、各ワイパアーム15a,15bに設けたスプリング(図示せず)によりフロントガラス11に向けて弾性接触するようになっている。そして、ワイパモータ13を回転駆動することにより、フロントガラス11上の図中二点鎖線で示す各払拭範囲18a,18bにおいて、各ワイパアーム15a,15bが揺動運動する。これにより、各ワイパブレード17a,17bが、下反転位置(停止位置)LRPと上反転位置URPとの間で往復払拭動作する。
【0023】
ここで、ワイパ装置12は対向払拭型のワイパ装置を採用しており、各ワイパブレード17a,17bが下反転位置LRPにある場合に、フロントガラス11の図中左右方向に沿う略中央部分で重なるようになっている。つまり、ワイパ装置12は、各ワイパブレード17a,17bが下反転位置LRPでそれぞれ接触しないような部品精度や組み立て精度等が要求される。
【0024】
図2に示すように、ワイパ装置12は、ワイパモータ13を支持するとともに、ワイパモータ13を車両10に固定するためのモータブラケット20を備えている。ワイパモータ13は、モータブラケット20の裏面に固定され、モータブラケット20の表面には、ワイパモータ13の出力軸13aが突出している。出力軸13aの突出端には、リンク機構16を形成するクランクアーム13bの一端側が固定されている。これにより、出力軸13aとともにクランクアーム13bが回転し、クランクアーム13bの他端側は出力軸13aの周囲を回転するようになっている。
【0025】
モータブラケット20のDR側(図中右側)には、DR側ピボットホルダ21aが設けられている。DR側ピボットホルダ21aは、車両10のDR側に固定され、DR側ピボット軸14aを回動自在に支持するようになっている。モータブラケット20とDR側ピボットホルダ21aとの間には、リンク機構16を形成する中間リンク25cの中央部分を回動自在に支持するリンクホルダ22が設けられ、リンクホルダ22においても車両10に固定されるようになっている。
【0026】
モータブラケット20とリンクホルダ22との間、およびリンクホルダ22とDR側ピボットホルダ21aとの間には、それぞれパイプフレーム23a,23bが設けられ、各パイプフレーム23a,23bによりモータブラケット20,リンクホルダ22およびDR側ピボットホルダ21aは一体化されている。このようにワイパ装置12は、当該ワイパ装置12の搬送効率や組み付け性を向上させるべくモジュール化されている。
【0027】
モータブラケット20のAS側(図中左側)には、AS側ピボットホルダ21bが設けられている。AS側ピボットホルダ21bは車両10のAS側に固定され、AS側ピボット軸14bを回動自在に支持するようになっている。
【0028】
各ピボット軸14a,14bの基端側には、DR側駆動プレート24aおよびAS側駆動プレート24bの一端側が固定されている。出力軸13aに固定したクランクアーム13bの他端側とDR側駆動プレート24aの他端側との間には、リンク機構16を形成するDR側リンク部材(リンク部材)25が設けられている。DR側リンク部材25は、一対の駆動ロッド25a,25bと、各駆動ロッド25a,25bを動力伝達可能に連結する中間リンク25cとを備えている。
【0029】
駆動ロッド25aの一端側はクランクアーム13bの他端側に回動自在に連結され、駆動ロッド25aの他端側は中間リンク25cの一端側に回動自在に連結されている。また、駆動ロッド25bの一端側は中間リンク25cの他端側に回動自在に連結され、駆動ロッド25bの他端側はDR側駆動プレート24aの他端側に回動自在に連結されている。つまり、DR側リンク部材25は、出力軸13aとDR側駆動プレート24aとの間に設けられ、これにより、出力軸13a(クランクアーム13b)の回転運動を揺動運動に変換し、当該揺動運動をDR側駆動プレート24aおよびDR側ピボット軸14aに伝達するようになっている。
【0030】
クランクアーム13bの他端側とAS側駆動プレート24bの他端側との間には、リンク機構16を形成するAS側リンク部材(リンク部材)26が設けられている。AS側リンク部材26は、DR側リンク部材25の各駆動ロッド25a,25bと同じ形状の駆動ロッドにより形成されている。
【0031】
AS側リンク部材26の一端側はクランクアーム13bの他端側に回動自在に連結され、AS側リンク部材26の他端側はAS側駆動プレート24bの他端側に回動自在に連結されている。つまり、AS側リンク部材26は、出力軸13aとAS側駆動プレート24bとの間に設けられ、これにより、出力軸13a(クランクアーム13b)の回転運動を揺動運動に変換し、当該揺動運動をAS側駆動プレート24bおよびAS側ピボット軸14bに伝達するようになっている。
【0032】
駆動ロッド25bの他端側とDR側駆動プレート24aの他端側との間には、両者を回動自在に連結するDR側連結部材30が設けられ、AS側リンク部材26の他端側とAS側駆動プレート24bの他端側との間には、両者を回動自在に連結するAS側連結部材40が設けられている。
【0033】
以下、図3および図4を用いて各連結部材30,40の詳細構造を説明するが、各連結部材30,40は何れも同じ構造であるため、DR側連結部材のみについて説明する。また、DR側連結部材を説明するに当たって「DR側」を付さずに、単に「連結部材」等と称することとし、DR側およびAS側で区別した符号末尾の「a,b」を省略する。
【0034】
図3に示すように、連結部材30は、駆動プレート24の他端側(図中右側)にカシメ固定されたジョイントボール50と、リンク部材25を形成する駆動ロッド25bの他端側に設けられたボール受け部31(図中破線部分)とから形成されている。ボール受け部31は、中空パイプよりなる駆動ロッド25bの他端側をプレス加工することにより扁平形状とされ、当該部分には保持孔31aが設けられている。保持孔31aは、ジョイントボール50のボール部51を回動自在に保持するようになっている。
【0035】
駆動プレート24の一端側(図中左側)にカシメ固定されたピボット軸14の軸芯C1と、ボール部51の軸芯C2との距離(軸芯間距離)はL1に設定されている。軸芯間距離L1は、ワイパ装置12を搭載する車両10の各払拭範囲18a,18bの大きさ、つまり各ワイパアーム15a,15b(図1参照)の作動角に応じて設定される。なお、軸芯間距離L1を長く設定すると作動角が狭くなり、軸芯間距離L1を短く設定すると作動角が広くなる。
【0036】
また、駆動プレート24の長さ寸法に比して各ワイパアーム15a,15bの長さ寸法が長いため、軸芯間距離L1の長さが製品毎にばらつくと、同じワイパ装置であっても作動角が大きくばらついてしまう。よって、軸芯間距離L1を精度良く設定できるようにし、製品毎に軸芯間距離L1の誤差が生じることを防止するのが望ましい。
【0037】
ジョイントボール50は、図4に示すように、ボール部51と固定部52とを備えている。ボール部51は球状に形成され、ボール受け部31の保持孔31aに回動自在に保持されるようになっている。ボール部51の固定部52側とは反対側には、有底の治具装着孔51aが形成されている。治具装着孔51aは、断面が略D字形状(非円形形状)に形成され、治具装着孔51aには断面が同じ形状に形成された装着部G1を有する治具としての調整治具G(図5(b)参照)が差し込まれるようになっている。ここで、治具装着孔51aの断面形状は、調整治具Gが空転しない非円形形状であれば良く、例えば、断面が正六角形形状の治具装着孔としても良い。この場合、調整治具として汎用の六角レンチ等を用いることが可能となる。
【0038】
治具装着孔51aの開口側には、治具装着孔51aの開口部分を囲うようテーパ部51bが形成されている。図4(b)に示すように、テーパ部51bは、図中上側に行くにしたがって治具装着孔51aの開口面積が大きくなるよう傾斜しており、これにより調整治具Gの装着部G1を、治具装着孔51aに容易に差し込めるようにしている。
【0039】
固定部52は円柱状に形成され、駆動プレート24の他端側に設けた貫通孔32(図5(a)参照)にカシメ固定されるようになっている。図4(b)に示すように、固定部52の軸方向に沿うボール部51側とは反対側には、図中下側に行くにしたがって先細りとなったテーパ部52aが形成されており、これにより固定部52(ジョイントボール50)の貫通孔32への装着を容易に行えるようにしている。
【0040】
固定部52の外周部には、その周方向に沿って凹凸形状となるようローレット加工を施したローレット加工部52bが設けられ、当該ローレット加工部52bは、固定部52を貫通孔32に軽圧入した際の抜け止め機能を発揮するようになっている。ただし、ローレット加工部は、固定部52の外周部に設けずに、貫通孔32の内周部に設けるようにしても良い。
【0041】
ここで、軽圧入とは、ローレット加工部52bが貫通孔32の内周部分によって若干変形し、この状態のもとで固定部52が貫通孔32に装着された状態(嵌合状態)であって、固定部52が貫通孔32から容易に脱落することが無く、かつ調整治具Gによりジョイントボール50を駆動プレート24に対して回転し得る状態のことを言う。
【0042】
図4に示すように、固定部52の軸芯C3は、ボール部51の軸芯C2に対して所定距離L2の分、オフセットされており、これにより固定部52の軸芯C3を中心にボール部51を駆動プレート24に対して回転させることで、軸芯間距離L1を調整可能としている。
【0043】
次に、以上のように形成したワイパ装置12の作動角調整方法について、図面を用いて詳細に説明する。
【0044】
図5(a)は駆動プレートにジョイントボールを軽圧入する圧入工程図,(b)は調整治具により軸芯間距離を調整する調整工程図を、図6(a)は軸芯間距離を長く調整する場合の説明図,(b)は軸芯間距離を短く調整する場合の説明図を、図7は駆動プレートにジョイントボールをカシメ固定するカシメ工程図をそれぞれ表している。
【0045】
[圧入工程]
図5(a)に示すように、まず、ピボット軸14の基端側に駆動プレート24の一端側をカシメ固定したもの、つまりピボット軸−駆動プレート組立体SAを準備する。次いで、駆動プレート24のピボット軸14が延びる側とは反対側(図中上側)から、ジョイントボール50の固定部52を臨ませる。そして、図中矢印(1)に示すように、固定部52を貫通孔32に装着させていく。このとき、固定部52のテーパ部52a(図4参照)により、固定部52を貫通孔32に容易に装着することができる。その後、固定部52を貫通孔32に継続して装着させることで、ローレット加工部52bが変形しつつ軽圧入されていく。そして、固定部52を貫通孔32に完全に装着することで、ジョイントボール50の駆動プレート24に対する圧入工程(仮固定工程)が完了する。
【0046】
[調整工程]
次に、図3に示すように、軸芯間距離L1を計測機器等(図示せず)により計測する。軸芯間距離L1の計測結果が各ワイパアーム15a,15bの作動角の許容範囲内であれば調整工程は不要である。一方、ジョイントボール50や駆動プレート24の製造誤差等により、軸芯間距離L1の計測結果が各ワイパアーム15a,15bの作動角の許容範囲外であれば、各ワイパアーム15a,15bが接触する等の虞があるとして調整工程を行う。
【0047】
軸芯間距離L1を調整するには、まず、固定部52を貫通孔32に装着した状態(仮固定状態)のもとで、図5(b)の矢印(2)に示すように、調整治具Gの装着部G1をボール部51の治具装着孔51aに嵌合させる。次いで、図6(a)に示すように、実際の軸芯間距離L1(b)が規定の軸芯間距離L1(a)よりも短い場合には、調整治具Gを矢印(3)の方向へ回転させて軸芯間距離L1(b)をL1(a)に調整する。つまり、調整治具Gを矢印(3)の方向へ回転させると、固定部52の軸芯C3を中心にボール部51が駆動プレート24に対して回転し、ひいてはボール部51の軸芯C2が円弧を描くようにC2(b)からC2(a)に移動する。これにより、ボール部51の軸芯C2がピボット軸14の軸芯C1から離間して規定の軸芯間距離L1(a)に調整され、ひいては各ワイパアーム15a,15b(図1参照)の作動角が許容範囲内に調整される。
【0048】
一方、図6(b)に示すように、実際の軸芯間距離L1(b)が規定の軸芯間距離L1(a)よりも長い場合には、調整治具Gを矢印(4)の方向へ回転させて軸芯間距離L1(b)をL1(a)に調整する。つまり、調整治具Gを矢印(4)の方向へ回転させると、固定部52の軸芯C3を中心にボール部51が駆動プレート24に対して回転し、ひいてはボール部51の軸芯C2が円弧を描くようにC2(b)からC2(a)に移動する。これにより、ボール部51の軸芯C2がピボット軸14の軸芯C1に近接して規定の軸芯間距離L1(a)に調整され、ひいては各ワイパアーム15a,15b(図1参照)の作動角が許容範囲内に調整される。
【0049】
このようにして軸芯間距離L1を規定の軸芯間距離L1(a)に調整して調整工程が完了する。ここで、固定部52は貫通孔32に軽圧入の状態で装着(嵌合)されているため、ジョイントボール50が駆動プレート24に対して容易に回転するようなことは無く、調整後の規定の軸芯間距離L1(a)が変化するようなことも無い。
【0050】
[カシメ工程]
軸芯間距離L1を規定の軸芯間距離L1(a)に調整した後、図示しないカシメ装置によりカシメ固定を行い、ジョイントボール50を駆動プレート24に本固定する。図7に示すように、ジョイントボール50の軸方向から、カシメ装置の第1ポンチP1および第2ポンチP2を臨ませて、各ポンチP1,P2を互いに近接するよう駆動させる。すると、各ポンチP1,P2が矢印(5)の方向に移動して、ジョイントボール50がカシメ固定される。このとき、駆動プレート24のピボット軸14側に突出した固定部52の先端部分が塑性変形して、固定部52の先端部分にはカシメ部52cが形成される。これにより、ジョイントボール50は駆動プレート24に強固に固定される。その後、矢印(6)の方向に各ポンチP1,P2を互いに離間させるよう駆動し、カシメ装置からピボット軸−駆動プレート組立体SAを取り出すことにより、カシメ工程が完了する。ここで、各ポンチP1,P2のうちのいずれか一方を固定ポンチとし、いずれか他方を移動ポンチとすることもできる。
【0051】
以上詳述したように、本実施の形態に係るワイパ装置12によれば、駆動プレート24の他端側に設けられるジョイントボール50を、連結部材30を形成するボール受け部31に回動自在に保持されるボール部51と、ボール部51の軸芯C2から所定距離L2の分、オフセットした軸芯C3を備え、駆動プレート24の貫通孔32にカシメ固定される固定部52とから形成した。これにより、駆動プレート24に対してジョイントボール50を回転させることでピボット軸14の軸芯C1とボール部51の軸芯C2との距離(軸芯間距離L1)を調整し、その後、固定部52を駆動プレート24にカシメ固定してジョイントボール50を駆動プレート24に強固に固定できる。したがって、各ワイパアーム15a,15bの作動角を調整する構成部品の部品点数を、従前に比して削減することができる。さらには、軸芯間距離L1を調整した後にジョイントボール50を駆動プレート24にカシメ固定するため、従前に比して回り止めのための凹凸係合構造が不要となる。したがって、軸芯間距離L1を無段階で調整することができ、各ワイパアーム15a,15bの作動角を微調整することができる。
【0052】
また、本実施の形態に係るワイパ装置12の作動角調整方法によれば、固定部52を貫通孔32に装着した状態のもとで、固定部52を中心にボール部51を駆動プレート24に対して回転させ、ボール部51およびピボット軸14の軸芯間距離L1を調整して作動角を調整した後、固定部52を貫通孔32にカシメ固定する。これにより、各ワイパアーム15a,15bの作動角を調整する構成部品の部品点数を、従前に比して削減することができる。さらには、従前に比して回り止めのための凹凸係合構造が不要となるので、無段階で軸芯間距離L1を調整することができ、各ワイパアーム15a,15bの作動角を微調整することができる。
【0053】
さらに、本実施の形態に係るワイパ装置12の作動角調整方法によれば、ボール部51に非円形形状の治具装着孔51aを設け、治具装着孔51aに調整治具Gを差し込んで作動角を調整するので、作動角の調整を手で行う場合に比して、容易に作動角を調整することができる。
【0054】
また、本実施の形態に係るワイパ装置12の作動角調整方法によれば、固定部52の外周部にローレット加工を施してローレット加工部52bを設け、固定部52を貫通孔32に軽圧入した状態のもとで作動角を調整するので、作動角を調整した後に調整状態がずれるのを確実に防止し、正確な調整状態でカシメ固定することができる。
【0055】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施の形態においては、ジョイントボール50の固定部52にローレット加工部52bを設けたものを示したが、本発明はこれに限らず、例えばローレット加工部52bを無くして、固定部52を貫通孔32に手で回せるよう装着しても良い。この場合、ローレット加工の作業工程および軸芯間距離L1を調整する調整治具Gを省略でき、よりコスト削減を図ることができる。
【0056】
また、上記実施の形態においては、ワイパ装置12として対向払拭型のワイパ装置としたものを示したが、本発明はこれに限らず、各ワイパアーム15a,15bを同一の方向に揺動駆動する、所謂タンデム型のワイパ装置に適用することもできる。
【0057】
さらに、上記実施の形態においては、ワイパ装置12を、ウィンドシールドとしてのフロントガラス11を払拭するワイパ装置としたものを示したが、本発明はこれに限らず、ウィンドシールドとしてのリヤガラスを払拭するワイパ装置に適用することもできる。
【0058】
また、上記実施の形態においては、ワイパ装置12を、自動車等の車両10に搭載したものを示したが、本発明はこれに限らず、鉄道車両や航空機等に搭載されるワイパ装置に適用することもできる。
【0059】
さらに、上記実施の形態に記載した作動角調整方法の他に、ボール部51とピボット軸14との軸芯間距離に予め設定された治具等を用い、固定部52を中心にボール部51を回転させ、ボール部51とピボット軸14との軸芯間距離を調整して作動角を調整した後に、固定部52を貫通孔32に圧入し、その後、貫通孔32から突出した固定部52をカシメ固定するようにしても良い。つまり、固定部52を貫通孔32に圧入する前に、ボール部51の回転角度等を決めてリンクピッチを調整しておき、その後、圧入およびカシメ固定の作業を経るようにしても同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0060】
10 車両
11 フロントガラス(ウィンドシールド)
12 ワイパ装置
13 ワイパモータ(電動モータ)
13a 出力軸
13b クランクアーム
14 ピボット軸
14a DR側ピボット軸
14b AS側ピボット軸
15a DR側ワイパアーム
15b AS側ワイパアーム
16 リンク機構
17a DR側ワイパブレード
17b AS側ワイパブレード
18a,18b 払拭範囲
20 モータブラケット
21a DR側ピボットホルダ
21b AS側ピボットホルダ
22 リンクホルダ
23a,23b パイプフレーム
24 駆動プレート
24a DR側駆動プレート
24b AS側駆動プレート
25 DR側リンク部材(リンク部材)
25a,25b 駆動ロッド
25c 中間リンク
26 AS側リンク部材(リンク部材)
30 DR側連結部材(連結部材)
31 ボール受け部
31a 保持孔
32 貫通孔
40 AS側連結部材(連結部材)
50 ジョイントボール
51 ボール部
51a 治具装着孔
51b テーパ部
52 固定部
52a テーパ部
52b ローレット加工部
52c カシメ部
C1〜C3 軸芯
G 調整治具(治具)
G1 装着部
L1 軸芯間距離
L2 所定距離
LRP 下反転位置
URP 上反転位置
P1 第1ポンチ
P2 第2ポンチ
SA ピボット軸−駆動プレート組立体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイパアームを揺動駆動してウィンドシールドに付着した付着物を払拭するワイパ装置であって、
出力軸を有する電動モータと、
先端側に前記ワイパアームが固定され、基端側に駆動プレートの一端側が固定されるピボット軸と、
前記出力軸と前記駆動プレートの他端側との間に設けられ、前記出力軸の回転運動を揺動運動に変換するリンク部材と、
前記リンク部材と前記駆動プレートとの間に設けられ、前記リンク部材と前記駆動プレートとを連結する連結部材と、
前記連結部材を形成し、前記リンク部材の他端側に設けられるボール受け部と、
前記連結部材を形成し、前記駆動プレートの他端側に設けられるジョイントボールと、
前記ジョイントボールを形成し、前記ボール受け部に回動自在に保持されるボール部と、
前記ジョイントボールを形成し、前記ボール部の軸芯から所定距離オフセットした軸芯を備え、前記駆動プレートの貫通孔にカシメ固定される固定部とを有することを特徴とするワイパ装置。
【請求項2】
ワイパアームを揺動駆動してウィンドシールドに付着した付着物を払拭するワイパ装置の作動角調整方法であって、
前記ワイパ装置を、
出力軸を有する電動モータと、
先端側に前記ワイパアームが固定され、基端側に駆動プレートの一端側が固定されるピボット軸と、
前記出力軸と前記駆動プレートの他端側との間に設けられ、前記出力軸の回転運動を揺動運動に変換するリンク部材と、
前記リンク部材と前記駆動プレートとの間に設けられ、前記リンク部材と前記駆動プレートとを連結する連結部材と、
前記連結部材を形成し、前記リンク部材の他端側に設けられるボール受け部と、
前記連結部材を形成し、前記駆動プレートの他端側に設けられるジョイントボールと、
前記ジョイントボールを形成し、前記ボール受け部に回動自在に保持されるボール部と、
前記ジョイントボールを形成し、前記ボール部の軸芯から所定距離オフセットした軸芯を備え、前記駆動プレートの貫通孔にカシメ固定される固定部とから形成し、
前記固定部を中心に前記ボール部を回転させ、前記ボール部および前記ピボット軸の軸芯間距離を調整して作動角を調整した後、前記固定部を前記貫通孔にカシメ固定することを特徴とするワイパ装置の作動角調整方法。
【請求項3】
請求項2記載のワイパ装置の作動角調整方法において、前記ボール部に非円形形状の治具装着孔を設け、前記治具装着孔に治具を差し込んで前記作動角を調整することを特徴とするワイパ装置の作動角調整方法。
【請求項4】
請求項2または3記載のワイパ装置の作動角調整方法において、前記固定部の外周部または前記貫通孔の内周部にローレット加工を施し、前記固定部を前記貫通孔に軽圧入した状態のもとで前記作動角を調整することを特徴とするワイパ装置の作動角調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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