説明

ワイピング装置およびこれを用いた溶融めっき装置

【課題】鋼板のエッジ部のワイピングガスの流れを改善することにより、エッジオーバーコートおよびスプラッシュを防止することが可能なワイピング装置およびこれを用いた溶融めっき装置の提供。
【解決手段】溶融めっき槽から引き上げる鋼板Pを挟んで両側に、鋼板Pの板面に向かってそれぞれ配置された一対のワイピングノズル2a,2bから鋼板Pにワイピングガスを吹き付けるワイピング装置1において、一対のワイピングノズル2a,2bの片側もしくは両側の鋼板Pの幅方向の両外側に位置する部分を覆うマスク3を備えることにより、一対のワイピングノズル2a,2bから吹き付けられたワイピングガスが、これらのワイピングノズル2a,2b間の鋼板Pの幅方向の両外側の部分で衝突することを防止し、乱流の発生を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイピング装置およびこれを用いた溶融めっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は連続式溶融めっき装置の概要を示す断面図である。図6に示すように、連続式の溶融めっき装置11では、酸洗された鋼板Pを溶融めっき浴12に浸漬することで、鋼板Pに溶融金属をめっきし、シンクロール13を介して引き上げ、ワイピングノズル14によるガスワイピングの後、合金化炉15に導入して急速加熱、保定、冷却することにより、めっきを行う。
【0003】
ワイピングノズル14によるガスワイピングは、鋼板P表面に付着した溶融金属が板幅方向および板長手方向に均一なめっき厚となるように、鋼板Pを挟んで両側に配置されたワイピングノズル14からワイピングガスを吹き付けることにより、過剰な溶融金属を払拭し、溶融金属の付着量を制御するものである。ワイピングノズル14は、鋼板Pの幅方向に延設されたスリットからワイピングガスを噴出するものであり、このスリットは、多様な鋼板Pの幅に対応するため、鋼板Pの幅よりも長く、すなわち鋼板Pのエッジ部より外側まで延びている。
【0004】
このようなワイピングノズル14から吹き付けられたワイピングガスは、高速噴流として鋼板Pに衝突した後に上下方向に分離されることで、過剰な溶融金属が上下方向に払拭され、板幅方向の圧力分布が均一化されることにより均一なめっき厚を実現する。ところが、鋼板Pのエッジ部については、このエッジ部に衝突する噴流が横方向に逃げてしまうため、噴流の衝突力が減少してエッジ部のめっき厚がセンター部に比べて厚くなる、いわゆるエッジオーバーコートが発生したり、エッジ部に衝突した噴流の乱れによって溶融金属が周囲に飛び散る、いわゆるスプラッシュが発生したりして、鋼板Pの表面品質の低下を招く。
【0005】
このような問題を解決する試みとして、例えば特許文献1には、鋼板のエッジ部近傍のワイピングガスの衝突圧を補填する目的で、ワイピングノズルの上に補助ノズルを設けることが記載されている。また、特許文献2には、鋼板に吹き付けるワイピングガスの鋼板エッジ部の外側のガス同士の衝突によりエッジ部のワイピング力の低下に伴うエッジオーバーコートを防止するために、エッジ部の近傍にプレートを設置し、ワイピングガス同士の衝突を解消することが記載されている。また、特許文献3に記載のように、鋼板の側端面に対向して吸引用ノズルを設け、エアー圧を利用することにより溶融金属を除去する装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−265930号公報
【特許文献2】特開2005−248243号公報
【特許文献3】特開平9−143663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のようにワイピングノズルの上に補助ノズルを配置した場合、鋼板の位置ずれに伴い、ワイピングノズルと補助ノズルからの吐出ガスが鋼板上の1点で合わなくなり、相互のガス同士の緩衝が発生し、鋼板のエッジ部のワイピング力が低下して、エッジオーバーコートが発生する。また、特許文献2に記載のようにプレートを設置すると、鋼板のエッジ部へのワイピングガスの衝突圧が増加するため、溶融金属のスプラッシュが増加し、鋼板とプレートとの間に付着してエッジの品質不良を引き起こす。また、特許文献3に記載の装置では、吸引用ノズルにより溶融金属を吸引するため、吸引した溶融金属がノズルに付着し、ノズルを閉塞してしまい、結果的に鋼板のエッジ部のワイピング力が低下して、エッジオーバーコートが発生するという問題がある。
【0008】
そこで、本発明においては、鋼板のエッジ部のワイピングガスの流れを改善することにより、エッジオーバーコートおよびスプラッシュを防止することが可能なワイピング装置およびこれを用いた溶融めっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のワイピング装置は、溶融めっき槽から引き上げる鋼板を挟んで両側に、鋼板の板面に向かってそれぞれ配置された一対のワイピングノズルから鋼板にワイピングガスを吹き付けるワイピング装置において、一対のワイピングノズルの片側もしくは両側の鋼板の幅方向の両外側に位置する部分を覆うマスクを備えたものである。
【0010】
本発明のワイピング装置によれば、一対のワイピングノズルの片側もしくは両側の鋼板の幅方向の両外側に位置する部分がマスクにより覆われることで、一対のワイピングノズルから吹き付けられたワイピングガスが、これらのワイピングノズル間の鋼板の幅方向の両外側の部分で衝突することを防止し、乱流の発生を防止することができる。
【0011】
ここで、マスクの外形は、一対のワイピングノズルの対面側のワイピングノズルに向かって凸状であることが望ましい。これにより、一対のワイピングノズルの片側にのみマスクを備えている場合に、対面側のワイピングノズルから吹き付けられたワイピングガスをワイピングノズルの後方に導き、ワイピングノズル間の鋼板の幅方向の両外側の部分で衝突することを防止し、乱流の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
(1)一対のワイピングノズルの片側もしくは両側の鋼板の幅方向の両外側に位置する部分を覆うマスクを備えたことにより、一対のワイピングノズルから吹き付けられたワイピングガスが、これらのワイピングノズル間の鋼板の幅方向の両外側の部分で衝突することを防止し、乱流の発生を防止することができる。これにより、ワイピングノズル間の鋼板のばたつきや振動による板位置の変動に伴う鋼板へのワイピングガスの衝突圧の低下やスプラッシュの付着が防止でき、エッジオーバーコートを防止して均一なめっき厚を実現できる。
【0013】
(2)マスクの外形が一対のワイピングノズルの対面側のワイピングノズルに向かって凸状であることにより、一対のワイピングノズルの片側にのみマスクを備えている場合に、対面側のワイピングノズルから吹き付けられたワイピングガスをワイピングノズルの後方に導き、ワイピングノズル間の鋼板の幅方向の両外側の部分で衝突することを防止し、乱流の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態におけるワイピング装置の縦断面図である。
【図2】図1のワイピング装置の斜視図である。
【図3】ワイピングガス量とオーバーコートのコイル形状不良の有無との関係を示す図である。
【図4】マスクと鋼板エッジとのギャップとオーバーコートのコイル形状不良の有無との関係を示す図である。
【図5】マスクの幅とオーバーコートのコイル形状不良の有無との関係を示す図である。
【図6】連続式溶融めっき装置の概要を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明の実施の形態におけるワイピング装置の縦断面図、図2は図1のワイピング装置の斜視図である。
【0016】
図1および図2に示すように、本発明の実施の形態におけるワイピング装置1は、前述の図6に示すような連続式の溶融めっき装置11に備えられるものであり、溶融めっき槽12から引き上げる鋼板Pを挟んで両側にそれぞれ配置された一対のワイピングノズル2a,2bと、一対のワイピングノズル2aの鋼板Pの幅方向の両外側に位置する部分を覆うマスク3とを備えたものである。
【0017】
ワイピングノズル2a,2bは、鋼板Pの板面に向かって鋼板Pの幅方向に延設された直線状のスリット4a,4bからそれぞれワイピングガスを噴出するノズルである。このスリット4a,4bは、多様な鋼板Pの幅に対応するため、図2に示すように、鋼板Pの幅よりも長く形成されており、鋼板Pのエッジ部Eより外側まで延びている。ワイピングノズル2a,2bから鋼板Pの板面に吹き付けられたワイピングガスは、高速噴流として鋼板Pに衝突した後に上下方向に分離され、過剰な溶融金属を払拭する。
【0018】
マスク3は、ボールスクリュー5によって鋼板Pの幅方向に移動可能に設けられている移動架台6に対して、マスク支持棒7により支持されている。また、移動架台6には、鋼板Pのエッジ位置を検知するエッジポジショニングセンサー8が設けられている。マスク3は、このエッジポジショニングセンサー8によって検知された鋼板Pのエッジ位置に基づき、鋼板Pのエッジ位置から所定の距離に配置されるように制御される。なお、図2では鋼板Pの幅方向の一方の外側のみ図示しているが、他方の外側にも鋼板中心で対称にマスク3等が配置されている。
【0019】
また、マスク3は、ワイピングノズル2aの鋼板の幅方向の両外側に位置する部分を覆うことにより、ワイピングノズル2aから吐出するワイピングガスが対面側のワイピングノズル2bから吐出するワイピングガスと衝突しないようにするものであるが、このマスク3の外形は、対面側のワイピングノズル2bに向かって凸状となっている。なお、図示例では、対面側のワイピングノズル2bに向かって尖頭状となっており、ワイピングノズル2bから吹き付けられたワイピングガスは、このマスク3の先端で上下に分離されて、ワイピングノズル2aの後方に導かれる。
【0020】
上記構成のワイピング装置1によれば、ワイピングノズル2aの鋼板Pの幅方向の両外側に位置する部分がマスク3により覆われることで、ワイピングノズル2a,2bから吹き付けられたワイピングガスが、これらのワイピングノズル2a,2b間の鋼板Pの幅方向の両外側の部分で衝突することを防止し、乱流の発生を防止することができる。これにより、ワイピングノズル2a,2b間の鋼板Pのばたつきや振動による板位置の変動に伴う鋼板Pへのワイピングガスの衝突圧の低下やスプラッシュの付着が防止でき、エッジオーバーコートを防止して均一なめっき厚を実現できる。
【0021】
なお、本実施形態においては、マスク3を一対のワイピングノズル2a,2bの片方のワイピングノズル2aにのみ設けているが、他方のワイピングノズル2bのみに設けた構成や、ワイピングノズル2a,2bの両方に設けた構成とすることも可能である。この場合、ワイピングノズル2b側には、ワイピングノズル2a側に設けたものと対称に設ければ良い。
【0022】
また、本実施形態においては、マスク3の外形が、対面側のワイピングノズル2bに向かって凸状となっているため、一対のワイピングノズル2a,2bの片方にのみマスク3を備えている場合であっても、対面側のワイピングノズル2a,2bから吹き付けられたワイピングガスをワイピングノズル2a,2bの後方に導き、ワイピングノズル2a,2b間の鋼板Pの幅方向の両外側の部分で衝突することを防止し、乱流の発生を防止することができる。
【実施例】
【0023】
上記実施形態におけるマスク3の配置位置とオーバーコートとの関係について試験を行った。試験は、幅1200mmの鋼板Pを120mpmの速度で引き上げ、幅方向の鋼板中心と鋼板エッジEから20〜100mm位置とのめっき厚みの差と、コイルにしたときのエッジオーバーコートによるコイル端部の盛り上がりによるコイル形状崩れを、溶融めっき種ごとに調査した。溶融めっき種は、温度650〜670℃の溶融アルミニウム、温度450〜480℃の溶融亜鉛、温度270〜300℃の錫−亜鉛の合金溶融メタルを使用した。
【0024】
図3〜図5に試験結果を示す。図3はワイピングガス量とオーバーコートのコイル形状不良の有無との関係を、図4はマスク3の鋼板中心側のエッジと鋼板エッジEとのギャップとオーバーコートのコイル形状不良の有無との関係を、図5はマスク3のワイピングノズル2aの延設方向の幅とオーバーコートのコイル形状不良の有無との関係を、それぞれ示している。
【0025】
図3から分かるように、ワイピングガス量については、ワイピングノズル2a,2bの幅当たり180Nm3/Hr・m以上であればオーバーコートのコイル形状不良は発生していない。
【0026】
また、図4から分かるように、マスク3の鋼板中心側のエッジと鋼板エッジEとのギャップは−3mm〜15mm、すなわち鋼板エッジEから鋼板中心側に3mmから鋼板Pの外側に15mmまでの範囲内であれば、マスク3による鋼板エッジEの外側のワイピングガス同士の衝突にともなうガス乱れが抑制され、鋼板エッジEのワイピング力が確保されて、鋼板幅方向のめっき厚み差も軽減され、コイル形状不良も解消されている。
【0027】
一方、マスク3の鋼板中心側のエッジと鋼板エッジEとのギャップを−5mmとすると、ワイピングガスの鋼板Pへの衝突ガス圧が下がり、ワイピング力が低下し、オーバーコートによるコイル形状不良が発生した。また、マスク3の鋼板中心側のエッジと鋼板エッジEとのギャップを20mmとすると、ワイピングノズル2aのマスク効果がなくなり、ワイピングガス同士の衝突にともなうガス乱れの影響により、鋼板エッジEのワイピング力が低下し、オーバーコートによるコイル形状不良が発生した。
【0028】
また、図5から分かるように、マスク3の幅が50mm以上であれば、鋼板エッジEの外側のワイピングガス同士の衝突に伴うガス乱れの影響を受けることなく、鋼板エッジEのワイピング力が確保され、鋼板幅方向のめっき厚み差も軽減され、コイル形状不良も解消されている。一方、マスク3の幅が25mmの場合、ガス乱れの影響を受け、鋼板エッジEのワイピング力が低下し、オーバーコートによるコイル形状不良が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のワイピング装置は、溶融めっき工程において鋼板のエッジ部のエッジオーバーコートおよびスプラッシュを防止するための装置およびこれを用いた溶融めっき装置に有用である。
【符号の説明】
【0030】
1 ワイピング装置
2a,2b ワイピングノズル
3 マスク
4a,4b スリット
5 ボールスクリュー
6 移動架台
7 マスク支持棒
8 エッジポジショニングセンサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融めっき槽から引き上げる鋼板を挟んで両側に、前記鋼板の板面に向かってそれぞれ配置された一対のワイピングノズルから前記鋼板にワイピングガスを吹き付けるワイピング装置において、
前記一対のワイピングノズルの片側もしくは両側の前記鋼板の幅方向の両外側に位置する部分を覆うマスクを備えたワイピング装置。
【請求項2】
前記マスクの外形は、前記一対のワイピングノズルの対面側のワイピングノズルに向かって凸状である請求項1記載のワイピング装置。
【請求項3】
前記マスクは、前記ワイピングノズルの延設方向の幅が50mm以上であり、
前記マスクの前記鋼板中心側のエッジの位置は、前記鋼板のエッジから前記鋼板の中心側に3mmから前記鋼板の外側に15mmまでの範囲内である請求項1または2に記載のワイピング装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のワイピング装置を備えた溶融めっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−219356(P2012−219356A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88519(P2011−88519)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】