説明

ワイヤソー及びその切断方法

【目的】本発明は、半導体インゴット等の被加工物を切断してウエーハを形成するワイヤソー及びその切断方法に関し、ウエーハのうねりを低減することを目的とする。
【構成】ワイヤに対し被加工物を押し当てる方向へ被加工物を直線移動させる速度(切断速度)を、周期的に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、半導体インゴット等の被加工物を切断してウエーハを形成するワイヤソー及びその切断方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ワイヤソーは、互いに平行な一定ピッチのワイヤ列に半導体インゴット等の被加工物を押し当て、ワイヤをその線方向に送りながら、被加工物とワイヤの間に砥粒を含む加工液を供給することにより、ラッピング作用で被加工物を切断してウエーハを形成するものであり、一定の厚さのウエーハを多数枚同時に得ることができる。一回の切断に要する時間は例えば、直径5インチのシリコン半導体インゴットで6時間である。この間、切断条件を一定に保つことにより、ウエーハの面精度を高くする必要がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、この切断条件を一定に保つことは容易でなく、ウエーハ表面にうねりが生じる。回路の微細化が進んでいる今日、ウエーハ表面のうねりは、半導体装置の歩留まりを大きく低下させる。
【0004】本発明の目的は、このような問題点に鑑み、切断されて形成されたウエーハのうねりを低減することができるワイヤソー及びその切断方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段及びその作用】本発明に係るワイヤソー及びその切断方法を、実施例図中の対応する構成要素の符号を引用して説明する。
【0006】このワイヤソー切断方法は、例えば図1及び図4に示す如く、互いに平行なワイヤ12の列に被加工物40を押し当て、ワイヤ12をその線方向に送りながら、被加工物40とワイヤ12との間に砥粒を含む加工液を供給することにより、ラッピング作用で被加工物40を切断するものであって、ワイヤ12に対し被加工物40を押し当てる方向へ被加工物40を直線移動させる速度、すなわち切断速度を、例えば図2、図5又は図6R>6に示す如く周期的に変化させる。
【0007】この方法を実施するためのワイヤソーは、モータ54と、モータ54の回転により、ワイヤ12に対し被加工物40を押し当てる方向へ被加工物40を直線移動させる直線移動装置42〜52と、設定パターンに基づいてモータ54の回転速度を周期的に変化させる制御装置56及び58とを備えている。
【0008】切断速度を従来のように一定にしても、切断時間が例えば6時間と長いので、温度等の切断条件が変化して、切断されたウエーハの表面にうねりが生ずる。これに対し、上記本発明のように切断速度を例えば1時間の周期で変化させると、図3(A)に示す如く、切断されたウエーハ40aの表面Sには、この周期でうねりが生ずる。このうねりの振幅は、従来よりも小さい。これは、切断時間が1周期、例えば1時間のときにできるうねりが複数回繰り返されると考えることができる。
【0009】本発明の第1態様では、上記設定パターンは、例えば図2又は図5に示す如く、同一基本パターンの繰り返しである。
【0010】この構成の場合、パターンの設定が容易となる。
【0011】本発明の第2態様では、上記設定パターンは、同一基本パターンの繰り返しに対し、ワイヤ12が被加工物40に同時に接触している長さが長くなるほどモータ回転速度が遅くなるように修正したものである。
【0012】この構成の場合、切断抵抗のパターンが各周期でほぼ同一になり、切断されたウエーハの表面に形成されるうねりの振幅を各周期でほぼ同一にすることができるので、うねりをより小さくすることができる。
【0013】本発明の第3態様では、上記繰り返し回数は4〜8である。
【0014】繰り返し回数が小さ過ぎると本案の効果も小さくなり、繰り返し回数が大き過ぎると平均切断速度が小さくなって切断に要する時間が長くなる。繰り返し回数の好ましい範囲は、4〜8程度である。
【0015】
【実施例】以下、図面に基づいて本発明の実施例を説明する。
【0016】[第1実施例]図3は、ワイヤソーの概略構成を示す。
【0017】互いに同一構成のローリング装置10A、10B及び10Cは、軸を互いに平行にして配置され、これらのローラ表面に一定ピッチで形成されたリング状溝に、ワイヤ12が巻掛けられている。ローリング装置10A、10B及び10Cは、不図示の機構で連動回転される。
【0018】ワイヤ12の始端側は、張力調節機構20を介してワイヤ巻取りドラム22に巻掛けられている。ワイヤ巻取りドラム22は、トルクモータ24で回転駆動される。張力調節機構20とワイヤ巻取りドラム22との間のワイヤ12の張力は、トルクモータ24に印加する電圧により調節され、張力調節機構20とローリング装置10Cとの間のワイヤ12の張力は、張力調節機構20により一定に調節される。
【0019】同様に、ワイヤ12の終端側は、張力調節機構30を介してワイヤ巻取りドラム32に巻掛けられている。ワイヤ巻取りドラム32は、トルクモータ34で回転駆動される。ローリング装置10Cと張力調節機構30の間のワイヤ12の張力は、張力調節機構30により一定に調節され、張力調節機構30とワイヤ巻取りドラム32との間のワイヤ12の張力は、トルクモータ34に印加する電圧により調節される。
【0020】被加工物40は、例えば半導体インゴットであり、そのオリエンテーションフラット面がワークホルダ12に接着されている。ワークホルダ12は、図1に示す装置で昇降駆動される。
【0021】ワークホルダ42の一端部には、ワークホルダ42の上面に垂直に軸44Aの一端部が固着されている。軸44Aは、軸方向を垂直にして固設されたガイドシリンダ46Aに貫通して、上下方向に案内される。同様に、ワークホルダ42の他端部には、ワークホルダ42の上面に垂直に軸44Bの一端部が固着されている。軸44Bは、軸方向を垂直にして固設されたガイドシリンダ46Bに貫通して、上下方向に案内される。ワークホルダ42の中央部には、ワークホルダ42の上面に垂直に送りねじ48の一端部が固着されている。送りねじ48は、固定側に軸支されたギア50の螺孔に螺入されている。ギア50は、減速器52を介してモータ54で回転駆動される。
【0022】スピードコントローラ56は、プログラム設定器58に設定された回転速度パターンに従ってモータ54の回転速度を制御する。
【0023】次に、上記の如く構成されたワイヤソーの動作を説明する。
【0024】被加工物40が下降され、被加工物40がワイヤ12に接触され、溝付きローラ張力調節機構20が回転されてワイヤ12がその線方向に走行され、また、砥粒を含む加工液がワイヤ12に流し当てられる。この状態で被加工物40を下降させると、ラッピング作用により被加工物40が切断され、多数枚のウエーハが同時に形成される。
【0025】図2は、切断開始後の時間tに対する切断速度、すなわち被加工物40の加工速度のパターンを示す。プログラム設定器58には、このパターンに対応したモータ回転速度パターンが設定されている。この例では、切断速度は、1時間の周期で、0μ/mから600μ/mまで上昇した後、この速度が一定時間保持され、600μ/mから0μ/mまで下降する。このような基本パターンが、1つの被加工物40の切断に対し6回繰り返される。
【0026】切断速度を従来のように一定にしても、切断時間が長いので、温度等の切断条件が変化して、切断されたウエーハの表面にうねりが生ずる。これに対し、上記のように切断速度を1時間の周期で変化させると、図3(A)に示す如く、切断されたウエーハ40aの表面Sには、1時間の周期でうねりが生ずる。このうねりの振幅は、従来よりも小さい。これは、切断時間が1時間のときにできるうねりが6回繰り返されると考えることができる。
【0027】次工程で遊離砥粒を用いてウエーハ40aにラップ処理を施すと、定盤にウエーハ40aの表面Sの凸部が当たってこの部分が除去され、図3(B)に示す如く、表面が平らなウエーハ40bが得られる。次に、混酸液等のエッチング液中にウエーハ40bを所定時間浸漬させると、ウエーハ40bの表面近傍の加工歪層が除去される。
【0028】従来法で切断されたウエーハと本実施例で切断されたウエーハとに対し同一条件でラップ処理及びエッチング処理を施した場合、最終的なうねりの大きさは、従来40〜60μmであったのが、20μm以下となった。ただし、うねりの大きさの定義は、ウエーハの直径線の一端から他端までの表面高さ曲線を測定し、該一端と該他端を結ぶ直線を基線とし、表面高さ曲線の基線に対する凸側最大高さaと凹側最大高さb(a>0、b>0)の和a+bとする。うねりの測定には、Perthen社のPertometer型式S6Pを用いた。
【0029】図2では基本パターンが6回繰り返されているが、繰り返し回数が小さ過ぎると本案の効果も小さくなり、繰り返し回数が大き過ぎると平均切断速度が小さくなって切断に要する時間が長くなる。繰り返し回数の好ましい範囲は、4〜8程度であることがわかった。
【0030】[第2実施例]図5は、第2実施例の、切断開始後の時間tに対する切断速度のパターンを示す。この例では、切断速度を200〜540μm/minの範囲で周期的に変化させており、平均切断速度は第1実施例よりも速くなっている。
【0031】他の点は、上記第1実施例と同一である。
【0032】[第3実施例]図6は、第3実施例の、切断開始後の時間tに対する切断速度のパターンを示す。この例では、各周期での最大切断速度を、切断直径d(ワイヤ12が被加工物40に同時に接触している長さd)が長くなるほど遅くすることにより、切断抵抗のパターンを各周期でほぼ同一にしている。
【0033】このようにすれば、ウエーハ40aの表面Sに形成されるうねりの振幅を各周期でほぼ同一にすることができるので、上記第1及び第2実施例よりもうねりを小さくすることができる。
【0034】他の点は、上記第1実施例と同一である。
【0035】なお、f(t)=f(t+T)なる周期Tのパターンに、切断直径dが長くなるほど値が小さくなる関数g(d)を乗じたパターンf(t)g(d)を、モータ回転速度のパターンとしてプログラム設定器58に設定してもよい。
【0036】
【発明の効果】以上説明した如く、本発明に係るワイヤソー及びその切断方法では、ワイヤに対し被加工物を押し当てる方向へ被加工物を直線移動させる速度を、周期的に変化させるので、切断されたウエーハの表面にはこの周期でうねりが形成され、うねりの振幅を従来よりも低減することができるという効果を奏し、半導体装置の歩留まり向上に寄与するところが大きい。
【0037】本発明の上記第1態様では、設定パターンが同一基本パターンの繰り返しであるので、パターンの設定が容易であるという効果を奏する。
【0038】本発明の上記第2態様では、設定パターンが、同一基本パターンの繰り返しに対し、ワイヤが被加工物に同時に接触している長さが長くなるほどモータ回転速度が遅くなるように修正したものであるので、切断抵抗のパターンが各周期でほぼ同一になり、切断されたウエーハの表面に形成されるうねりの振幅を各周期でほぼ同一にすることができ、うねりをより小さくすることができるという効果を奏する。
【0039】本発明の上記第3態様では、上記繰り返し回数が4〜8であるので、本案の効果が充分得られ、かつ、平均切断速度が小さくなって切断に要する時間が長くなり過ぎるのを避けることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例のワイヤソーの被加工物昇降装置構成図である。
【図2】本発明の第1実施例の、切断開始後の時間に対する切断速度の変化を示す線図である。
【図3】切断後及びラップ処理後のウエーハ表面形状を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例のワイヤソーの概略構成図である。
【図5】本発明の第2実施例の、切断開始後の時間に対する切断速度のパターンを示す線図である。
【図6】本発明の第3実施例の、切断開始後の時間に対する切断速度のパターンを示す線図である。
【符号の説明】
10、10A、10B、10C ローリング装置
10 ワイヤ
20、30 張力調節機構
22、32 ワイヤ巻取りドラム
24、34 トルクモータ
40 被加工物
40a、40b ウエーハ
42 ワークホルダ
44A、44B 軸
46A、46B ガイドシリンダ
48 送りねじ
50 ギア
52 減速器
54 モータ
56 スピードコントローラ
58 プログラム設定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 互いに平行なワイヤ(12)の列に被加工物(40)を押し当て、該ワイヤをその線方向に送りながら、該被加工物と該ワイヤとの間に砥粒を含む加工液を供給することにより、ラッピング作用で被加工物を切断するワイヤソー切断方法において、 該ワイヤに対し該被加工物を押し当てる方向へ該被加工物を直線移動させる速度を周期的に変化させることを特徴とするワイヤソー切断方法。
【請求項2】 互いに平行なワイヤ(12)の列に被加工物(40)を押し当て、該ワイヤをその線方向に送りながら、該被加工物と該ワイヤとの間に砥粒を含む加工液を供給することにより、ラッピング作用で被加工物を切断するワイヤソーにおいて、モータ(54)と、該モータの回転により、該ワイヤに対し該被加工物を押し当てる方向へ該被加工物を直線移動させる直線移動装置(42〜52)と、設定パターンに基づいて該モータの回転速度を周期的に変化させる制御装置(56、58)と、を有することを特徴とするワイヤソー。
【請求項3】 前記設定パターンは、同一基本パターンの繰り返しであることを特徴とする請求項2記載のワイヤソー。
【請求項4】 前記設定パターンは、同一基本パターンの繰り返しに対し、前記ワイヤ(12)が前記被加工物(40)に同時に接触している長さが長くなるほどモータ(54)回転速度が遅くなるように修正したものであることを特徴とする請求項2記載のワイヤソー。
【請求項5】 前記繰り返し回数は、4〜8であることを特徴とする請求項3又は4記載のワイヤソー。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開平6−8234
【公開日】平成6年(1994)1月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−4447
【出願日】平成4年(1992)1月14日
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)