説明

ワイヤハーネスの電線束の止水処理方法、ワイヤハーネスの電線束の止水処理装置、およびワイヤハーネス

【課題】電線間の隙間を確実に封じ、高い止水性能を発揮することができて、ワイヤハーネスの製造効率の向上を図ることのできる止水処理を施したワイヤハーネスの電線束の止水処理方法、当該止水処理方法を実施するために使用される止水処理装置、および、当該止水処理装置により止水処理された電線束を備えるワイヤハーネスを提供すること。
【解決手段】複数の電線Wを束ねた電線束WHの外周に液状の止水材Sを付着させ、止水材Sが流動性を持つ段階で、電線束WHに押圧機構を押し付けて、電線束WHの止水材Sが付着した部分に外部から圧力を加えることで、止水材Sを複数の電線W間の隙間に行き渡らせ、止水材Sを複数の電線W間の隙間に行き渡らせた後、該止水材Sを固化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスの電線束の止水処理方法、当該止水処理方法を実施するために使用される止水処理装置、および、当該止水処理装置により止水処理された電線束を備えるワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のエンジンルームと車室内を仕切るパネルにワイヤハーネスを貫通して配索するような場合、パネルに対するワイヤハーネスの貫通部分にはグロメットが装着される。このグロメットは、パネルの取付孔に嵌め込むことにより、パネルとワイヤハーネスの隙間を封じるものであり、グロメットのワイヤハーネス貫通部には、通常、止水処理が施されている。
【0003】
特許文献1には、この止水処理方法の一例が記載されている。図5(a)〜(e)は、従来のワイヤハーネスの止水処理方法を示す工程説明図である。図6は、ワイヤハーネスをグロメットに装着した状態を示す断面図である。特許文献1の止水処理方法では、まず図5(a)に示すように、ワイヤハーネスとなる電線Wを束ねた電線束WHを、車両上での配索状態に癖付け成形するための止水部形成治具500に支持させる。止水部形成治具500は、電線束WHを支持するために、該止水部形成治具500上に立設された複数の支持部501を備えている。次に、特許文献1の止水処理方法では、支持部501に電線束WHが支持されている状態で、該電線束WHの表面に、図5(b)に示すように、止水材塗布ノズル505によって、未固化状態の止水材Sを塗布する。その後、特許文献1の止水処理方法では、図5(c)に示すように、電線束WHの止水材Sを塗布した部分を止水シート510でくるむ。
【0004】
次いで、特許文献1の止水処理方法では、電線束WHを支持部501から外した状態にし、止水シート510を巻き締めて、電線束WHを円形断面の電線束の形に結束する。さらに、特許文献1の止水処理方法では、図5(d)、(e)に示すように、止水シート510の両端にテープ512を巻き付けて、電線束WHの断面形状を、図6に示すグロメット600のワイヤハーネス貫通部602に挿通可能な断面形状に整形し、グロメット600に挿通させる。これにて、止水構造が完成する。なお、601はグロメットのパネル嵌合部である。
【0005】
また、他の止水処理方法として、グロメットに電線束を通した状態で止水材を注入する方法もある。即ち、その方法では、電線束をグロメットのワイヤハーネス貫通部に予め挿通させ、その状態で、ワイヤハーネス貫通部の内部に止水材を充填することにより、グロメットとワイヤハーネスの隙間やワイヤハーネスを構成する電線間の隙間を止水する。
【特許文献1】特開2005−71790号公報(図4、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図5(a)〜(e)に示した従来の方法では、外部から止水材Sを塗布したあと、その部分を止水シート510で巻き締めるだけであるから、止水材Sが電線W間に存在する微細な隙間に十分に行き渡らず、そのために止水処理が不十分になる可能性がある。また、グロメットに電線束を挿通させた後に止水材を充填する方法の場合も、同様な可能性がある。そのため、従来のワイヤハーネス製造方法では、止水処理が十分でない可能性のあるワイヤハーネスが製造され得ることから、ワイヤハーネスの止水状態を確認するテストをしなければならず、ワイヤハーネスの製造効率が下がってしまう問題があった。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電線間の隙間を確実に封じ、高い止水性能を発揮することができて、ワイヤハーネスの製造効率の向上を図ることのできるワイヤハーネスの電線束の止水処理方法、当該止水処理方法を実施するために使用される止水処理装置、および、当該止水処理装置により止水処理された電線束を備えるワイヤハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明に係るワイヤハーネスの電線束の止水処理方法は、下記(1)〜(3)を特徴としている。
(1) 複数の電線を束ねた電線束の外周に液状の止水材を付着させる止水材付着工程と、
該止水材付着工程後、前記止水材が流動性を持つ段階で、前記電線束に押圧機構を押し付けて、前記電線束の前記止水材が付着した部分に外部から圧力を加えることで、前記止水材を前記複数の電線間の隙間に行き渡らせる加圧工程と、
前記止水材を前記複数の電線間の隙間に行き渡らせた後、該止水材を固化させる固化工程と、
を有すること。
(2) 上記(1)の止水処理方法において、
前記押圧機構は複数の成形型であり、
前記電線束を構成する前記複数の電線をばらけた状態にしてから前記止水材付着工程を行ない、前記加圧工程にて、前記ばらけた状態の電線束を前記複数の成形型により所定の収束形状に成形すること。
(3) 上記(1)または(2)の止水処理方法において、
前記押圧機構は互いに開閉可能な複数の成形型であり、
型開き状態に保った前記複数の成形型の間に前記電線束を配置した状態で該成形型から前記止水材を吐出することで前記止水材付着工程を実施し、引き続いて前記複数の成形型を型閉じ状態にすることで、前記加圧工程を実施すること。
【0009】
上記(1)の止水処理方法によれば、止水材付着工程の後に、止水材が流動性を持つ段階で加圧工程を実施するので、外部からの圧力によって、電線束の外周に付着させた止水材を、電線間の隙間に確実に行き渡らせることができる。従って、電線間の隙間を確実に封じることができ、高い止水性能を発揮することができる。そのため、事後の止水テストを省略することも可能となり、ワイヤハーネスの製造効率の向上を図ることができる。
上記(2)の止水処理方法によれば、電線束をばらけた状態にしてから止水材付着工程を実施するので、よりムラ無く止水材を各電線の外周に付着させることができ、次の加圧工程を経ることにより、電線間の隙間により確実に止水材を行き渡らせることができる。また、ばらけた状態の電線束を複数の成形型で所定の収束形状に成形するので、グロメット等に収納しやい形にすることができる。
上記(3)の構成のワイヤハーネスの製造方法によれば、型開き状態の成形型から止水材を電線束に向けて吐出し、その後で、型閉じすることで外部から圧力をかけるので、成形型とは別に、止水材を吐出するための吐出装置を独立して設ける必要がなく、同じ位置での一連の操作により、止水材付着工程から加圧工程までを行なうことができ、生産効率の向上が図れる。
【0010】
また、上述した目的を達成するために、本発明に係るワイヤハーネスの電線束の止水処理装置は、下記(4)〜(6)を特徴としている。
(4) 複数の電線を束ねた電線束の外周に液状の止水材を付着させる止水材付着装置と、
前記電線束の外周に付着した前記止水材が流動性を持つ段階で前記電線束の前記止水材が付着した部分に押し付けられて当該部分に圧力を加え、それにより前記止水材を前記複数の電線間の隙間に行き渡らせる押圧機構と、
を備えること。
(5) 上記(4)の構成の止水処理装置において、
前記押圧機構が、互いに開閉可能な複数の成形型で構成され、
型開き状態の前記複数の成形型間に配置された前記電線束の外周に向けて前記液状の止水材を吐出する前記止水材付着装置の吐出口が前記複数の成形型に設けられており、
前記複数の成形型は、前記電線束の外周に付着した前記止水材が前記複数の電線間の隙間に行き渡るように、前記電線束の前記止水材が付着した部分を間に配置した状態で型閉じ状態にされ、これにより前記電線束の前記止水材が付着した部分が成形されること。
(6) 上記(5)の構成の止水処理装置において、
前記複数の成形型の、前記電線束の前記止水材が付着した部分に対する押圧面に、当該電線束の前記止水材が付着した部分を所定形状に成形するための凹部が設けられていること。
【0011】
上記(4)の構成の止水処理装置では、止水材付着装置によって電線束の外周に止水材を付着させ、該止水材が付着した部分に押圧機構によって圧力を加える。このとき、押圧機構が、電線束の外周に付着した止水材が流動性を持つ段階で圧力を加えるため、電線束に付着した止水材が圧力によって、電線間の隙間に入り込むため、電線間の隙間を確実に封じることができて、高い止水性能を発揮することができる。また、事後の止水テストを省略することが可能となり、ワイヤハーネスの製造効率の向上を図ることができる。
上記(5)の構成の止水処理装置によれば、押圧機構を構成する成形型自体に、止水材の吐出口が設けられている。こうすれば、複数の成形型を開いた状態で、該複数の成形型間に配置された電線束に向けて吐出口から止水材を吐出し、その後、型閉じすることにより、外部から圧力をかけることができる。つまり、同一の型を使用し、同じ位置での一連の操作により、止水材付着工程から加圧工程までを行なうことができ、生産効率の向上を図ることができる。
上記(6)の構成の止水処理装置によれば、複数の成形型の押圧面に電線束の止水材が付着した部分を所定形状に成形するための凹部が設けられているので、電線束に圧力を加えることで電線束の止水材が付着した部分を凹部により所定形状に成形することができる。
【0012】
また、上述した目的を達成するために、本発明に係るワイヤハーネスは、下記(7)を特徴としている。
(7) 上記(4)〜(6)のいずれかのワイヤハーネスの電線束の止水処理装置により止水処理され、前記止水材が前記複数の電線間の隙間に行き渡った前記電線束を備えたこと。
【0013】
上記(7)の構成のワイヤハーネスによれば、その止水処理部分において電線間の隙間が確実に封じられており、高い止水性能を発揮することができる。そのため、事後の止水テストを省略することも可能となり、製造効率の向上が図られたワイヤハーネスを提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、止水処理部分での電線間の隙間を確実に封じることができ、高い止水性能を発揮することができる。従って、事後の止水テストを省略することも可能であり、ワイヤハーネスの製造効率の向上を図ることができる。
【0015】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
<第1実施形態>
図1(a)〜(c)および図2(a)〜(d)は、本発明にかかる止水処理方法および止水処理装置の第1実施形態の説明図であって、図1(a)〜(c)はその工程を説明するための概略斜視図(システムブロックを含む。)、そして図2(a)〜(d)は同様の工程を説明するための正面図である。
【0018】
図1(a)〜(c)および図2(a)〜(d)において、符号10で示すものは、止水処理装置を構成する一対の成形型である。これら一対の成形型10は、押圧面10a間を開閉可能に構成されている。より詳細には、一対の成形型10は、駆動機構70により型開き状態あるいは型閉じ状態となるように駆動される。また、当該駆動機構70を制御して一対の成形型10を型開き状態あるいは型閉じ状態にする制御機構80も設けられている。
【0019】
各成形型10の互いに対向する押圧面10aには、電線束WHの成形形状を決めるための断面矩形の凹部11が設けられており、その各内面には、成形型10間に配置された電線束WHに向けて止水材Sを吐出する適当数の吐出口12が設けられている。これら吐出口12は、電線束WHの外周に液状の止水材Sを付着させる止水材付着装置を構成する。
【0020】
制御機構80は、止水材Sの吐出制御と成形型10の開閉制御とを行なう。開閉制御としては、止水材Sの吐出後に駆動機構70を制御して成形型10を閉じ、その所定時間経過後に成形型10を開く。一対の成形型10は、型閉じ状態になることで、成形型10間に配置された電線束WHに押圧力を及ぼし、それにより、凹部11内に充満した止水材Sに外部から圧力を加えて、止水材Sを電線W間の隙間に行き渡らせる。このように、成形型10は、押圧機構を構成している。
【0021】
成形型10に設けられた凹部11の形状は断面矩形に特に限定されず、電線束WHを保持し、吐出口12から吐出された止水材Sを内部に充満させることができる範囲で適宜変更可能である。例えば、複数の成形型10それぞれを型閉じ状態したときに、各成形型10の凹部11によって区画される形状が、断面視で円形や楕円形であってもよい。
【0022】
止水材Sとしては、経時硬化性や熱可塑性の止水材を用いることができる。この場合の止水材は、成形時及び成形後に自然放置されることで固化(硬化)する。また、他の止水材として、加熱溶融性の止水材を用いてもよい。加熱溶融性の止水材は、加熱されることで溶融し液状になったときに止水材付着工程で用いられ、成形時及び成形後に常温で再び固化(硬化)する。
【0023】
次に、上記構成の止水処理装置を用いて行なうワイヤハーネスの電線束の止水処理方法について説明する。
一般に、ワイヤハーネスを組み立てる場合、例えば、作業員が所定の組立作業台上に、設計図等を参照しながら、複数本の電線を取り付けていき、これらを所定形状に配索していく。更に作業員は、例えば、電線の所定箇所にプロテクタや樹脂チューブあるいはクリップ等の部品を組み付けたり、テープを巻き付けたりして、所定形状のワイヤハーネスを形成していく。
【0024】
このワイヤハーネスの電線束に対してさらに止水処理を施す止水処理方法の手順を以下に説明する。
まず、電線束WHを構成する複数の電線Wを適度にばらけた状態にして、図1(a)に示すように、開放状態にした一対の成形型10の押圧面10a間に配置する。ここで、一対の成形型10によって複数の電線Wを適度にばらけた状態にしてもよく、または、別途整列冶具等を用いて複数の電線Wをばらけた状態にしてもよい。このように複数の電線Wを適度にばらけた状態にしておくことで、後工程で吐出される止水材Sが、電線W間の隙間により行き渡りやすくなる。次に、図2(a)、(b)に示すように、成形型10の吐出口12から液状の止水材Sが吐出されることにより、電線束WHの外周に止水材Sが付着する(止水材付着工程)。
【0025】
次に、引き続いて、付着させた止水材Sが流動性を持つ段階で、図1(b)および図2(c)に示すように、成形型10を閉じる。このとき、型閉じ状態の成形型10が電線束WHに押し付けられるので、止水材Sを付着させた部分に外部から矢印F1のように圧力が作用し、これにより止水材Sが電線W間の隙間に行き渡る(加圧工程)。止水材Sを電線W間の隙間に行き渡らせた後、止水材Sを固化させる(固化工程)。固化工程はその一部又は全部を、加圧工程中に同時に行なってもよい。止水材Sとして経時硬化性や熱可塑性の止水材を用いる場合には、自然放置することで固化するため、加圧工程と同時に固化工程も実行することができる。また、加熱溶融性の止水材を固化させる場合には、加圧工程後に常温で固化する工程を行なってもよい。こうすることで、ばらけた状態の電線束WHを成形型10により所定の収束形状に成形する。成形したら、図2(d)の矢印F2で示すように、成形型10を開き、中の電線束WHを取り出す。これにより、図1(c)に示すように、止水処理部SHを有するワイヤハーネスが出来上がる。ここで、止水材Sが流動性を持つ段階とは、止水材Sが液状のままの状態、または、止水材Sが一部固化しているものの、押圧機構から受ける圧力によって変形可能な状態である段階を意味する。
【0026】
以上のように、本実施形態では、止水材付着工程の後に、止水材Sが流動性を持つ段階で加圧工程を実施するので、外部からの圧力によって、電線束WHの外周に付着させた止水材を、電線W間の隙間に確実に行き渡らせることができる。従って、電線W間の隙間を確実に封じることができ、高い止水性能を発揮することができる。そのため、事後の止水テストを省略することも可能となり、ワイヤハーネスの製造効率の向上を図ることができる。
【0027】
特に、本実施形態では、電線束WHをばらけた状態にしてから止水材付着工程を実施するので、よりムラ無く止水材Sを各電線Wの外周に付着させることができ、次の加圧工程を経ることにより、電線W間の隙間により確実に止水材Sを行き渡らせることができる。また、ばらけた状態の電線束WHを成形型10の凹部11で所定の収束形状に成形するので、グロメット等に収納しやい形にすることができる。
【0028】
また、本実施形態では、開いた状態の成形型10の吐出口12から止水材Sを電線束WHに向けて吐出し、その後、成形型10を閉じることで外部から圧力をかけるので、同じ位置での一連の操作により、止水材付着工程から加圧工程までを行なうことができ、生産効率の向上が図れる。
【0029】
<第2実施形態>
図3(a)〜(d)は、本発明にかかる止水処理方法および止水処理装置の第2実施形態を説明するための図である。なお、以下に説明する実施形態において、すでに説明した部材などと同等な構成・作用を有する部材等については、図中に同一符号又は相当符号を付すことにより、説明を簡略化或いは省略する。
【0030】
上記第1実施形態では、押圧面に凹部11を設けた成形型10を使用した場合を示したが、図3(a)〜(d)に示す第2実施形態のように、凹部を有しない成形型110を用いて止水材付着工程や加圧工程を実施してもよい。
【0031】
本実施形態の止水処理装置は、互いに開閉可能な一対の成形型110を備え、一対の成形型110の互いに対向する押圧面110a同士が、型閉じ状態の際に近づき、型開き状態で互いに離間するように、図示しない制御機構により制御される図示しない駆動機構によって駆動される。
【0032】
本実施形態の止水処理装置を用いた止水処理方法の手順を以下に説明する。
先ず、図3(a)に示すように、型開き状態の一対の成形型110の押圧面110a間に電線束WHを配置し、成形型110の吐出口112から液状の止水材Sを吐出し、図3(b)に示すように電線束WHの外周に止水材Sを付着させる(止水材付着工程)。
【0033】
次に、付着させた止水材Sが流動性を持つ段階で、図3(c)に示すように、成形型110を閉じる。そして、電線束WHに一対の成形型110の押圧面110aを互いの面が略平行となる状態で押し付け、止水材Sを付着させた部分に外部から矢印F1のように圧力を作用させる。こうするとこで、押圧面110aの圧力によって、電線束WHに付着した止水材Sを電線W間の隙間に行き渡らせる(加圧工程)。その後、止水材Sを電線W間の隙間に行き渡らせた後、止水材を固化させる(固化工程)。なお、固化工程は、加圧工程の間に実行することもできる。加圧工程後、図3(d)の矢印F2で示す方向に成形型110を駆動して型開き状態とし、電線束WHを取り出す。これにより、成形された止水処理部SHを有するワイヤハーネスが出来上がる。
【0034】
<第3実施形態>
図4は、本発明にかかる止水処理方法および止水処理装置の第3実施形態を説明するための図である。
図4に示すように、本実施形態の製造装置は、互いに開閉可能な一対の成形型210を備え、一対の成形型210の互いに対向する押圧面210a同士が、型閉じ状態の際に近づき、型開き状態で互いに離間するように、図示しない制御機構により制御される図示しない駆動機構によって駆動され、押圧面210aに断面半円状の凹部211が設けられている。一対の成形型210を型閉じ状態とすることで、各押圧面210aに設けられた凹部211によって、断面視略円形の空間が区画される。このように断面半円状の凹部211を有する成形型210を用いた場合、電線束WHを断面円形に近い形に成形でき、グロメットのワイヤハーネス貫通部に挿通させるのに都合がよい。
【0035】
本実施形態の止水処理装置を用いた止水処理方法の手順を以下に説明する。
先ず、型開き状態の一対の成形型210の押圧面210aに電線束WHを配置し、成形型210の吐出口212から液状の止水材Sを吐出し、電線束WHの外周に止水材Sを付着させる(止水材付着工程)。
【0036】
次に、付着させた止水材Sが流動性を持つ段階で、駆動機構によって一対の成形型210をそれぞれ駆動し、型閉じ状態とする。一対の成形型210の押圧面210aに設けられた凹部211によって、電線束WHの止水材Sが付着された部分を押し付け、該止水材Sに圧力を作用させる。こうするとこで、電線束WHに付着した止水材Sを電線W間の隙間に行き渡らせる(加圧工程)。止水材Sを電線W間の隙間に行き渡らせた後、止水材を固化させる(固化工程)。なお、固化工程は、加圧工程中に同時に行ってもよい。固化工程後、成形型210を駆動して型開き状態とし、電線束WHを取り出す。これにより、断面視略円形となるように成形された止水処理部SHを有するワイヤハーネスが出来上がる。
【0037】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0038】
押圧機構は、上述したような一対の成形型に限定されず、適宜変更することが可能である。例えば、押圧機構は少なくとも3つの成形型を備えた構成としてもよい。このとき、これら複数の成形型それぞれを型閉じ状態或いは型開き状態にするように駆動機構で駆動する。
【0039】
また、他の押圧機構として、空気を充填することで外形を膨張させることができる膨張体を例として挙げることができる。このような膨張体としては、例えば、血圧計における人体の腕に巻きつけ、空気を送り込むことで膨張させることができる袋状のベルトと同じ構成とすることができる。膨張体を電線束WHの止水材Sが付着した部分の外周に装着させ、成形する際に、空気を送り込むことで、膨張体から電線束WHにおける止水材Sが付着した部分に圧力を加えることで、止水材Sを複数の電線W間の隙間に行き渡らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(a)〜(c)は、本発明にかかる止水処理方法および止水処理装置の第1実施形態の説明図であって、止水処理の工程それぞれを説明するための概略斜視図である。
【図2】(a)〜(d)は、本発明にかかる止水処理方法および止水処理装置の第1実施形態の説明図であって、図1(a)〜(c)と同様に止水処理の工程それぞれを説明するための正面図である。
【図3】(a)〜(d)は、本発明にかかる止水処理方法および止水処理装置の第2実施形態の説明図であって、止水処理の工程それぞれを説明するための正面図である。
【図4】本発明にかかる止水処理方法および止水処理装置の第3実施形態の説明用の正面図である。
【図5】(a)〜(e)は従来のワイヤハーネスの止水処理方法の工程説明図である。
【図6】図5の止水処理方法により処理したワイヤハーネスをグロメットに装着した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0041】
W 電線
WH 電線束
S 止水材
10,110,210 金型
10a,110a,210a 押圧面
11,211 凹部
12,112,212 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電線を束ねた電線束の外周に液状の止水材を付着させる止水材付着工程と、
該止水材付着工程後、前記止水材が流動性を持つ段階で、前記電線束に押圧機構を押し付けて、前記電線束の前記止水材が付着した部分に外部から圧力を加えることで、前記止水材を前記複数の電線間の隙間に行き渡らせる加圧工程と、
前記止水材を前記複数の電線間の隙間に行き渡らせた後、該止水材を固化させる固化工程と、
を有することを特徴とするワイヤハーネスの電線束の止水処理方法。
【請求項2】
前記押圧機構は複数の成形型であり、
前記電線束を構成する前記複数の電線をばらけた状態にしてから前記止水材付着工程を行ない、前記加圧工程にて、前記ばらけた状態の電線束を前記複数の成形型により所定の収束形状に成形することを特徴とする請求項1に記載のワイヤハーネスの電線束の止水処理方法。
【請求項3】
前記押圧機構は互いに開閉可能な複数の成形型であり、
型開き状態に保った前記複数の成形型の間に前記電線束を配置した状態で該成形型から前記止水材を吐出することで前記止水材付着工程を実施し、引き続いて前記複数の成形型を型閉じ状態にすることで、前記加圧工程を実施することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネスの電線束の止水処理方法。
【請求項4】
複数の電線を束ねた電線束の外周に液状の止水材を付着させる止水材付着装置と、
前記電線束の外周に付着した前記止水材が流動性を持つ段階で前記電線束の前記止水材が付着した部分に押し付けられて当該部分に圧力を加え、それにより前記止水材を前記複数の電線間の隙間に行き渡らせる押圧機構と、
を備えることを特徴とするワイヤハーネスの電線束の止水処理装置。
【請求項5】
前記押圧機構が、互いに開閉可能な複数の成形型で構成され、
型開き状態の前記複数の成形型間に配置された前記電線束の外周に向けて前記液状の止水材を吐出する前記止水材付着装置の吐出口が前記複数の成形型に設けられており、
前記複数の成形型は、前記電線束の外周に付着した前記止水材が前記複数の電線間の隙間に行き渡るように、前記電線束の前記止水材が付着した部分を間に配置した状態で型閉じ状態にされ、これにより前記電線束の前記止水材が付着した部分が成形されることを特徴とする請求項4に記載のワイヤハーネスの電線束の止水処理装置。
【請求項6】
前記複数の成形型の、前記電線束の前記止水材が付着した部分に対する押圧面に、当該電線束の前記止水材が付着した部分を所定形状に成形するための凹部が設けられていることを特徴とする請求項5に記載のワイヤハーネスの電線束の止水処理装置。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか一項に記載のワイヤハーネスの電線束の止水処理装置により止水処理され、前記止水材が前記複数の電線間の隙間に行き渡った前記電線束を備えたことを特徴とするワイヤハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−289603(P2009−289603A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141234(P2008−141234)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】