説明

ワイヤーソーの製造方法および製造装置

【課題】生産性や生産コストの改善された固定砥粒式のワイヤーソーの製造方法および製造装置を提供すること。
【解決手段】砥粒を含有するメッキ液にワイヤーを通過させて、その外周に砥粒を電気メッキにより固着させてなる固定砥粒式のワイヤーソーの製造方法であって、メッキ液の外部に配され、電流供給手段により電流が供給される液外の回転ローラーと、前記メッキ液の内部に配される液内の回転ローラーとの間に、前記ワイヤーを複数回架け渡して前記メッキ液の内外を複数回往復させることを特徴とするワイヤーソーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンの単結晶などに代表される各種電子材料のスライス工程などで使用される固定砥粒式のワイヤーソーの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子材料のスライス工程で使用される固定砥粒式ワイヤーソーは、ワイヤーの外周にダイヤモンド、CBN等の砥粒を固着したものであり、ダイヤモンドの固着法としてレジンボンド法や電着法がある。しかしながら、レジンボンド法はレジンによる砥粒の保持力が弱いたいめに寿命が短く、また電着法は、寿命は長いものの生産性が悪いといった欠陥を持っている。
【0003】
この改善策としては、ワイヤーに砥粒の粒径の5〜35%の厚さのロー材、半田等による金属層を形成し、その金属層の溶融状態において砥粒を付着固化させる方法(特許文献1)や、金属材の溶融温度以下の温度で乾燥する仮付け用の液状接着材により砥粒をワイヤー表面に仮止めした後に金属材の加熱溶融によるろう付けを行う方法(特許文献2)などが提案されている。
【0004】
ところで、一般に、ワイヤーなどの部材の表面に形成されるメッキの析出量は、部材がメッキ液と接触する表面積(浸漬表面積)、電流密度(単位面積を通過する電流)、メッキ液との接触時間(浸漬時間)の積により決せられる。そして、生産速度の向上を図るためには、浸漬時間を短縮する必要があり、そのためには、電流密度か浸漬表面積を増加させる必要があるが、電流密度と浸漬表面積とは密接に関連しており、浸漬表面積を増加させると電流密度が低下する。そこで、メッキの析出量を維持するためには、浸漬表面積を増加さるとともに、電流密度を維持するために、部材へ負荷する電流値を増加させる必要が生じる。ところが、電流値の増加は、部材の発熱を伴うため、部材が破損する可能性がある。特に部材がワイヤーの場合は、断線の可能性が高くなるという問題がある。また、現在一般的に行われている電着法では、一つのメッキ槽に収容されたメッキ液にワイヤーを通過させる際、ワイヤーはメッキ液に常時浸漬されており、その浸漬部分の両端のメッキ液の外側において1対の電極を設けて電流を負荷する方法が採用されている。この方法の場合、メッキ液に浸漬している部分には別途電極を設けていないため、ワイヤーの浸漬表面積を増加させる、即ち、浸漬距離を長くすると、上記の1対の電極間の距離が非常に長くなるため、電気抵抗が大きくなり、電流を流すことが困難になるという問題もある。さらに、浸漬表面積を増加させるためには、メッキ液(メッキ槽)の容量を大きくする必要があり、使用するメッキ液の量が増加するという生産コスト上の問題もある。
【0005】
一方、超長尺素材の送致路上の2箇所に配置した主可動電極により、ワイヤーなどの超長尺素材に電流を供給しつつ超長尺素材を送致してメッキ液中を通過させ、かつ一対の主可動電極の間に配置した補助可動電極により、超長尺素材に電流を供給しつつ超長尺素材の長手方向への送致を補助して、遊離砥粒を超長尺素材に電着する方法が提案されている(特許文献3)。特許文献3に記載の方法によれば、一対の主可動電極の間に補助可動電極を配することなどにより、超長尺工具の走行速度を向上させ、メッキ工程における超長尺工具の製造時間を短縮することが可能とされている。
【0006】
しかしながら、特許文献3に記載の方法でも、メッキ液とワイヤーとの接触面積(浸漬表面積)を確保するためには、メッキ液は大きなメッキ槽内に収容される必要があるうえ、補助電極を主電極とは別に設ける必要があり、生産性や生産コストの面で、さらなる改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−123024号公報
【特許文献2】特開2010−583号公報
【特許文献3】特開2006−55952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の問題点に鑑みて、本願発明の目的とするところは、生産性や生産コストの改善された固定砥粒式のワイヤーソーの製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、メッキ液の外部に配される液外の回転ローラーと、前記メッキ液の内部に配される液内の回転ローラーとの間に前記ワイヤーを複数回架け渡して前記メッキ液の内外を複数回往復させること等により、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
(1)本発明は、砥粒を含有するメッキ液にワイヤーを通過させて、その外周に砥粒を電気メッキにより固着させてなる固定砥粒式のワイヤーソーの製造方法であって、メッキ液の外部に配され、電流供給手段により電流が供給される液外の回転ローラーと、前記メッキ液の内部に配される液内の回転ローラーとの間に、前記ワイヤーを複数回架け渡して前記メッキ液の内外を複数回往復させることを特徴とするワイヤーソーの製造方法に関する。
(2)本発明は、前記ワイヤーが、前記メッキ液内に少なくとも2つ配した前記液内の回転ローラーに架け渡される前記(1)記載のワイヤーソーの製造方法に関する。
(3)本発明は、前記液外の回転ローラー及び/又は前記液内の回転ローラーの外周表面上に、ローラー円周方向に前記ワイヤーを複数回案内するガイド溝を設けた前記(1)または(2)記載のワイヤーソーの製造方法に関する。
(4)本発明は、前記メッキ液内に配される撹拌手段により、メッキ液を撹拌する前記(1)〜(3)のいずれかに記載のワイヤーソーの製造方法に関する。
(5)本発明は、前記ワイヤーを、前記の砥粒を含有するメッキ液に通過させた後に砥粒を含有しないメッキ液に通過させる前記(1)〜(4)のいずれかに記載のワイヤーソーの製造方法に関する。
(6)本発明は、砥粒を含有するメッキ液にワイヤーを通過させて、その外周に砥粒を電気メッキにより固着させてなる固定砥粒式のワイヤーソーの製造装置であって、メッキ液の外部に配される液外の回転ローラーと、前記メッキ液の内部に配される液内の回転ローラーと、前記液外の回転ローラーに電流を供給する電流供給手段とを備え、前記液外の回転ローラーと前記液内の回転ローラーとの間に前記ワイヤーを複数回架け渡して前記メッキ液の内外を複数回往復させることを特徴とするワイヤーソーの製造装置に関する。
【発明の効果】
【0011】
以上にしてなる本願発明に係るワイヤーソーの製造方法および製造装置は、従来の方法に比べ、固定砥粒式のワイヤーソーの生産性(生産速度)や生産コストが飛躍的に改善されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態の特徴部分を模式的に示した斜視図である。
【図2】本発明の第2実施形態の特徴部分を模式的に示した側面図である。
【図3】本発明の第3実施形態の特徴部分を模式的に示した側面図である。
【図4】図3に示す実施形態の斜視図である。
【図5】本発明の第4実施形態の特徴部分を模式的に示した側面図である。
【図6】メッキ液の外部に配される液外の回転ローラーの一例を示す図である。
【図7】本発明の砥粒固定式のワイヤーソーの製造装置の概略構成を示す図である。
【図8】図7におけるメッキ槽の実施形態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【0014】
図1は、本発明に係るワイヤーソーの製造方法および製造装置の第1実施形態の特徴部分を模式的に示した斜視図である。図1に示すように、砥粒(図示せず)を含有するメッキ液1の外部には1つの液外の回転ローラー2が配され、メッキ液1の内部には1つの液内の回転ローラー3が配されており、各回転ローラー2、3は、それらの軸方向が平行で、メッキ液1の液面と平行になるようになるように配されている。また、液外の回転ローラー2には電流供給手段4から配線5を介して電流が供給され、液外の回転ローラー2とワイヤー6が電気的に接続されるように構成されている。そして、ワイヤー6は、液外の回転ローラー2と液内の回転ローラー3との間に複数回架け渡されてメッキ液1の内外を複数回往復するように走行する。図1に示す実施形態では、ワイヤー6が2つの回転ローラー2、3を螺旋状に巻き回すようにして(ワイヤー6により形成される螺旋の内側に2つの回転ローラー2、3が配される)、メッキ液1の内外を複数回往復するように構成されている。
【0015】
そして、ワイヤー6には、液外の回転ローラー2と液内の回転ローラー3との間を1往復しているそれぞれの状態において、電流供給手段4から配線5および液外の回転ローラー2を介して所定値の電流が供給され、電流はワイヤー6中を液内の回転ローラー3から液外の回転ローラー2の方向に流れるため、電流量を過大に増加させることなく電流密度を維持することが可能であり、しかも浸漬表面積を飛躍的に増加させることが可能なため、生産速度を著しく増加させることができる。例えば、従来の方法のように1本のワイヤーのメッキ液浸漬部分の両端にのみ1対の電極を設けて負荷する電流値を基準とすれば、それと同じ電流値の電流を、回転ローラー2、3間で並列して配される各ワイヤー6の列ごとに負荷可能となり、その往復回数の2倍の電流値を負荷することが可能となる。また、ワイヤー6を回転ローラー2、3間に架け渡して複数回往復させるものであるため、主電極と補助電極を別々に設ける必要がなく、メッキ液(メッキ槽)の容量を大幅に小さくすることも可能である。そのため、生産スペースが確保されるとともに、メッキ液の使用量が大幅に低減され、生産コストを大幅に低減することが可能となる。
【0016】
図1に示す例では、ワイヤー6がメッキ液1内外2つの回転ローラー2、3を螺旋状に巻き回すようにして走行するものであるが、ワイヤー6が回転ローラー2と回転ローラー3との間を横切るように走行させるものであっても良い。即ち、ワイヤーが「8」の字を描くようにして回転ローラー2と回転ローラー3との間に複数回架け渡されるように構成しても良い。
【0017】
また、液外の回転ローラー2の形状としては、特に限定はなく、本発明の効果が得られる範囲で適宜変更可能である。但し、ワイヤー6の走行安定性、電流供給の安定性の観点からは、液外の回転ローラー2及び/又は前記液内の回転ローラー3の外周表面上に、ローラー円周方向に前記ワイヤーを複数回案内するガイド溝を設けるのが好ましい。ガイド溝の構造は、ワイヤー6の走行を妨げなければ特に限定はなく、円周方向に螺旋状の連続した凹部からなるもの、回転ローラー2の円周方向に1周の凹部が軸方向に複数形成されたもの(図6参照。符号7。)、などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、ワイヤー6との接触部には電流供給手段4より供給される電流が供給可能なように、電気的に接続可能に構成される。例えば、液外の回転ローラー2全体を導電性材料としたり、液外の回転ローラー2のうち、ワイヤー6との接触部分に導電性材料を配したりすることなどが挙げられる。また、導電性材料としては、金属、導電性高分子等が挙げられるが、ワイヤー6との耐摩擦性や耐摩耗性の観点からは、金属が好ましい。
【0018】
また、液内の回転ローラー3の形状、回転ローラー2と3の配置(位置関係)は、本発明の効果が得られる範囲で適宜変更可能である。例えば、液内の回転ローラー3の外周にも、回転ローラー2と同様のガイド溝を設けても良い。さらに、ワイヤー6を架け渡す回数(以下、往復回数とも称する。)は複数回即ち2回以上であれば特に限定はなく、ワイヤーの外周に固着させる砥粒の付着量などにより適宜選択すれば良い。
【0019】
図2は、本発明の第2実施形態の特徴部分を模式的に示した側面図である。本実施形態は、砥粒(図示せず)を含有するメッキ液1の内部に少なくとも2つの液内の回転ローラーを配する場合の例である。
このように、メッキ液内に少なくとも2つ液内の回転ローラーを配することで、ワイヤー6に負荷される応力が分散され、より安定したワイヤー走行が可能となる。
【0020】
図2に示すように、本実施形態では、砥粒(図示せず)を含有するメッキ液1の外部には1つの液外の回転ローラー2が配され、メッキ液1の内部には1つの液内の回転ローラー3a、3bが配されており、側面から見て、回転ローラー2は、その回転軸中心が回転ローラー3aと3bの回転軸中心を結ぶ線の垂直2等分線上に位置するように配されている。図2に示す実施形態では、各回転ローラー2、3a、3bは、それらの軸方向が平行で、メッキ液1の液面と平行になるようになるように配されている。また、液外の回転ローラー2には図示しない電流供給手段から配線を介して電流が供給され、液外の回転ローラー2とワイヤー6が電気的に接続されように構成されている。そして、ワイヤー6は、液外の回転ローラー2と液内の回転ローラー3a、3bとの間に複数回架け渡されてメッキ液1の内外を複数回往復するように走行する。図2に示す実施形態では、ワイヤー6が回転ローラー2、3a、3bを螺旋状に巻き回すようにして(ワイヤー6により形成される螺旋の内側に3つの回転ローラー2、3a、3bが配される)、メッキ液1の内外を複数回往復するように構成されている。
【0021】
そして、図2に示す実施形態においても、図1に示す実施形態の場合と同様に、生産速度を著しく増加させることができ、生産スペースが確保されるとともに、メッキ液の使用量が大幅に低減され、生産コストを大幅に低減することが可能となる。本実施形態では、少なくとも2つの液内の回転ローラーを用いるため、ワイヤーの走行安定性が向上する。その結果、ワイヤーの走行速度を速くすることが可能となるため、往復回数などを適宜調整することで、より生産速度を向上することができる
【0022】
尚、図2に示す例では、上記のように各回転ローラー2、3a、3bを配したが、本発明の効果が得られる範囲で、それらの配置を適宜選択すれば良い。また、液内の回転ローラーの数を3つにして、側面から見た配置がひし形などの四角形の各頂点となるように配しても良いし、必要に応じて適宜増加させても良い。
また、回転ローラー2、3a、3bの形状は、本発明の効果が得られる範囲で適宜変更可能である。例えば、上記の第1実施形態の例の場合と同様に、回転ローラー2、3a、3bの外表面にその円周方向にガイド溝を形成しても良い。
さらに、ワイヤー6の往復回数は複数回即ち2回以上であれば特に限定はなく、ワイヤーの外周に固着させる砥粒の付着量などにより適宜選択すれば良い。
【0023】
図3は、本発明の第3実施形態の特徴部分を模式的に示した側面図であり、図4はその斜視図である。本実施形態も、各回転ローラー2、3a、3bの配置自体は、図2に示す実施形態と同じであるが、ワイヤー6の走行のさせ方を、先ず液外の回転ローラー2と液内の回転ローラー3bとの間で1回往復させ、次に、液外の回転ローラー2と液内の回転ローラー3aとの間で一往復させる、という走行を順次繰り返して、液外の回転ローラー2と、液内の回転ローラー3a、3bと間にワイヤー6を複数回架け渡してメッキ液1の内外を複数回往復させるように構成した点で、図2に示す実施形態とは異なる。本構成においても、上述した各実施形態と同様の効果が期待できる。また、ワイヤー6がメッキ液内部では回転ローラー3a、3bとに交互に走行することになるため(図4参照)、各回転ローラーの軸方向に対して交差する方向(略垂直に交差)で隣接するワイヤー6の列同士の距離が大きくなり、ワイヤーと砥粒との接触機会の向上、ひいては砥粒の電着効率の向上が期待できる。
【0024】
尚、図4に示す例では、ワイヤー6の走行のさせ方として、先ず液外の回転ローラー2と液内の回転ローラー3bとの間で1回往復させ、次いで、液外の回転ローラー2と液内の回転ローラー3aとの間で一往復させる、という走行を順次繰り返す例を示したが、本発明の効果が得られる範囲で、適宜変更可能である。また、回転ローラー2、3a、3bの形状や配置は、本発明の効果が得られる範囲で適宜変更可能である。例えば、上記の第1、2実施形態の例の場合と同様に、回転ローラー2、3a、3bの外表面にその円周方向にガイド溝を形成しても良い。さらに、ワイヤー6の往復回数は複数回即ち2回以上であれば特に限定はなく、ワイヤーの外周に固着させる砥粒の付着量などにより適宜選択すれば良い。
【0025】
図5は、本発明の第4実施形態の特徴部分を模式的に示した側面図である。本実施形態は、砥粒(図示せず)を含有するメッキ液1の外部に2つの液外の回転ローラーを配し、メッキ液1の内部に1つの液内の回転ローラーを配する場合の例である。本実施形態の場合も、メッキ液1の外部に2つの液外の回転ローラーを配することで、走行中のワイヤー6に負荷される応力が分散され、より安定したワイヤー走行が可能となる。
【0026】
図5に示すように、メッキ液1の外部には、ワイヤー6の走行方向に対して上流側に近い方には液外の回転ローラー2aが、同じく下流側に近い方には液外の回転ローラー2bが配されている。本実施形態では、液外の回転ローラー2aには、電流供給手段(図示せず)から配線(図示せず)を介して電流が供給され、液外の回転ローラー2aとワイヤー6が電気的に接続されるように構成されている。また、液外の回転ローラー2bには、必要に応じて、同じく電流が供給され、液外の回転ローラー2bとワイヤー6が電気的に接続されるように構成してもよい。但し、ワイヤー6に負荷される電流量を増加させ、電流密度を維持する観点からは、回転ローラー2aおよび2bに電流が供給されるのが好ましい。
【0027】
本実施形態では、ワイヤー6の走行のさせ方としては、例えば、先ず、液外の回転ローラー2aと液内の回転ローラー3との間で一往復させ、次いで、液外の回転ローラー2bと液内の回転ローラー3との間で一往復させる、という走行を順次繰り返す方法が挙げられるが、これに限定されない。尚、この例の場合は、ワイヤー6に適切に電流が供給されるように、回転ローラー2aおよび2bに供給される電流値が電流供給手段(図示せず)により制御される。
【0028】
また、回転ローラー2a、2b、3の形状や配置は、本発明の効果が得られる範囲で適宜変更可能である。例えば、上記の第1〜3実施形態の例の場合と同様に、回転ローラー2a、2b、3の外表面にその円周方向にガイド溝を形成しても良い。さらに、ワイヤー6の往復回数は複数回即ち2回以上であれば特に限定はなく、ワイヤーの外周に固着させる砥粒の付着量などにより適宜選択すれば良い。
【0029】
本発明では、上述した各実施形態において、砥粒を含有するメッキ液1の内部に撹拌手段を配しても良い。このように撹拌手段を配することにより、メッキ液1内に存在する砥粒の分散性を向上させ、メッキ液内外の回転ロール間で往復して通過するワイヤー6の表面への砥粒の付着を均一にすることが可能となる。このような撹拌手段としては特に限定はなく、一般的な撹拌翼を用いることができる。撹拌翼の形状、配置位置、撹拌速度等は、メッキ液の性状、メッキ液内の回転ローラーの配置、数量、ワイヤー6の走行形態、往復回数などにより適宜選択すれば良い。
【0030】
また、本発明では、上記の砥粒を含有するメッキ液にワイヤーを通過させ、洗浄したものを固定砥粒式のワイヤーソーとして使用することが可能であるが、必要により、砥粒を含有するメッキ液にワイヤーを通過させた後に、砥粒を含有しないメッキ液にワイヤーを通過させてもよい。これにより、ワイヤーへの砥粒の固着をより確実なものとすることができる。このような構成は、例えば、砥粒をワイヤーに仮固定する目的で、砥粒を含有するメッキ液にワイヤーを通過させた後に、砥粒を確実に固着する目的で、砥粒を含有しないメッキ液にワイヤーを通過させる場合に有効である。
【0031】
本発明で用いる砥粒を含有するメッキ液の組成としては、特に限定はなく、砥粒を電気メッキにより固着させる際に用いられる一般的な成分組成のものを採用することができ、例えば、ニッケル含有有機酸、ニッケル含有無機酸などを含有するものが挙げられるが、これに限定されない。また、必要により、光沢剤、pH緩衝剤、などを適宜添加しても良い。
【0032】
本発明で用いる砥粒としては、例えばダイヤモンド、CBN等の超砥粒が挙げられるが、これらに限定されない。砥粒の粒径としても、ワイヤーソーとして用いることができる程度であれば特に限定はないが、例えば、ダイヤモンド砥粒であれば、5〜100μmであるとよい。
【0033】
本発明で用いるワイヤーとしては、特に限定はなく、金属、非金属、各種のものを用いることができる。金属としては、従来と同様、タングステンワイヤーやピアノ線、焼きもどし温度400℃以上のダイス鋼、ハイス、ステンレス鋼等を用いることができる。非金属としては、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維などを用いることができる。また、非金属性のものを用いる場合は、その表面に導電性を付与するための一般的なメッキ処理を施しておくとよい。
【0034】
以下に、本発明に係るワイヤーソーの製造装置の一例を、図をもとに説明する。
【0035】
図7は、本発明のワイヤーソーの製造装置の概略構成を示す図である。この製造装置11は、ワイヤー6が送り出される送り出し機12から、ワイヤー6の走行方向に沿って順に、アルカリ槽13、水洗槽14、酸槽15、水洗槽16、活性化槽17、メッキ槽8、水洗槽18、巻取り機19とから構成される。このような製造装置11により、送り出し機12からワイヤー6を送り出し、アルカリ槽13にてアルカリ脱脂し、水洗槽14にて水洗し、酸槽15にて酸洗し、水洗槽16にて水洗し、活性化槽17にて活性化処理して、メッキ槽8において砥粒をワイヤーの外周に固着し、水洗槽18にて水洗し、巻取り機19により巻き取られて、固定砥粒式のワイヤーソーが得られる。そして、得られたワイヤーソーは、各種の用途に供される。
【0036】
図8は、図7におけるメッキ槽8をより詳細に示したものであり、上記の図1に示される第1実施形態の例におけるメッキ液1が収容されたメッキ槽8の具体例を示した側面図である。図8に示すように、メッキ槽8には、砥粒(図示せず)を含有するメッキ液1が収容され、メッキ液1の外部には液外の回転ローラー2が、内部には液内の回転ローラー3が配されており、メッキ槽8の底部には撹拌翼10が配されている。また、ワイヤー6は、回転ローラー2と回転ローラー3の間に、複数回架け渡されメッキ液1の内外を複数回往復して走行している。そして、メッキ液1内に、ワイヤー6と平行して陽極9a、9bが配されている。このように、底部に配された撹拌翼10によりメッキ液1が適度に撹拌されて、砥粒の分散状態が保持され、陽極9a、9bの近傍部において、ワイヤー6の外周にメッキ被膜が形成されるとともに、砥粒が付着し、固着する。
【0037】
なお、図7、図8に示した構成は、本発明の実施形態の一例を示したものであり、他の構成を採用することができる。例えば、アルカリ槽13から活性化槽17に至る構成を、定法に従って他の構成にしても良いし(例えば、これらの各槽から必要に応じて適宜選択して配する構成など)、メッキ槽8の次に砥粒を含有しないメッキ液を収容するメッキ槽を配する構成を採用しても良いし、メッキ槽8の構成として、図1に示す実施形態以外の実施形態の液内外の回転ローラーの配置やワイヤーの走行方法を採用しても良い。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0039】
1 砥粒を含有するメッキ液
2、2a、2b 液外の回転ローラー
3、3a、3b 液内の回転ローラー
4 電流供給手段
5 配線
6 ワイヤー
7 ガイド溝
8 メッキ槽
9a、9b 陽極
10 撹拌翼
11 固定砥粒式のワイヤーソーの製造装置
12 送り出し機
13 アルカリ槽
14 水洗槽
15 酸槽
16 水洗槽
17 活性化槽
18 水洗槽
19 巻取り機


【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒を含有するメッキ液にワイヤーを通過させて、その外周に砥粒を電気メッキにより固着させてなる固定砥粒式のワイヤーソーの製造方法であって、
メッキ液の外部に配され、電流供給手段により電流が供給される液外の回転ローラーと、前記メッキ液の内部に配される液内の回転ローラーとの間に、前記ワイヤーを複数回架け渡して前記メッキ液の内外を複数回往復させることを特徴とするワイヤーソーの製造方法。
【請求項2】
前記ワイヤーが、前記メッキ液内に少なくとも2つ配した前記液内の回転ローラーに架け渡される請求項1記載のワイヤーソーの製造方法。
【請求項3】
前記液外の回転ローラー及び/又は前記液内の回転ローラーの外周表面上に、ローラー円周方向に前記ワイヤーを複数回案内するガイド溝を設けた請求項1または2記載のワイヤーソーの製造方法。
【請求項4】
前記メッキ液内に配される撹拌手段により、メッキ液を撹拌する請求項1〜3のいずれかに記載のワイヤーソーの製造方法。
【請求項5】
前記ワイヤーを、前記の砥粒を含有するメッキ液に通過させた後に砥粒を含有しないメッキ液に通過させる請求項1〜4のいずれかに記載のワイヤーソーの製造方法。
【請求項6】
砥粒を含有するメッキ液にワイヤーを通過させて、その外周に砥粒を電気メッキにより固着させてなる固定砥粒式のワイヤーソーの製造装置であって、
メッキ液の外部に配される液外の回転ローラーと、前記メッキ液の内部に配される液内の回転ローラーと、前記液外の回転ローラーに電流を供給する電流供給手段とを備え、
前記液外の回転ローラーと前記液内の回転ローラーとの間に前記ワイヤーを複数回架け渡して前記メッキ液の内外を複数回往復させることを特徴とするワイヤーソーの製造装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−192465(P2012−192465A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56547(P2011−56547)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(302018053)株式会社中村超硬 (16)
【Fターム(参考)】