説明

ワイヤーハーネス用被覆電線

【課題】ポリプロピレン系樹脂50重量部以上75重量部以下、プロピレン−α−オレフィン共重合体20重量部以上40重量部以下、及び、残部の低密度ポリエチレンからなるベース樹脂組成物100重量部に対して、金属水和物50重量部以上100重量部以下、及び、外部滑剤1重量以上5重量部以下を配合してなる被覆樹脂組成物から構成されている最外層を備えたワイヤーハーネス用被覆電線。
【解決手段】自動車用電線としても充分な難燃性や機械的特性を維持し、充分な耐摩耗性を確保しながら、ワイヤーハーネスを構成した場合に充分な柔軟性が得られるワイヤーハーネス用被覆電線、及び、柔軟なワイヤーハーネスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などのワイヤーハーネス用被覆電線、及び、ワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の電線から構成されたワイヤーハーネスは例えば自動車の各部に設けられた機器に対して電力を供給したり、あるいは、各機器の間で信号をやりとりしたりするために配索される。
【0003】
この配索作業やそれまでの取り扱いにおいて、ワイヤーハーネスに柔軟性が求められるが、現状、充分な柔軟性は得られていない。特に、電線数が増えるに従って、その取り扱い性は低下し、柔軟性は低下する。
【0004】
さらに、燃焼時にも塩素系化合物が生成しない、難燃化被覆電線である、ノンハロゲン被覆電線(特許文献1等)の場合、従来の塩化ビニル樹脂組成物からなる被覆層を有する被覆電線に比べ、同じように柔軟性を有する樹脂組成物を用いた場合であっても、柔軟性が得られにくい。
【0005】
ここで、本発明者等は、当初、本来は自動車用電線としては必要な、耐摩耗性を下げることによって、柔軟性を向上させようと検討を行ったが、電線それぞれでは柔軟性は向上したものの、ワイヤーハーネスとしては充分な柔軟性は得られなかった。
【特許文献1】特開2003−313377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、自動車用電線としても充分な難燃性や機械的特性を維持し、充分な耐摩耗性を確保しながら、ワイヤーハーネスを構成した場合に充分な柔軟性が得られるワイヤーハーネス用被覆電線、及び、柔軟なワイヤーハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意検討の結果、ワイヤーハーネスとしての柔軟性は、被覆層を構成する樹脂組成物の柔軟性に依存するよりも、電線の被覆層同士の摩擦に依存することを見出して、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明のワイヤーハーネス用被覆電線は、上記課題を解決するために、請求項1に記載の通り、ポリプロピレン系樹脂50重量部以上75重量部以下、プロピレン−α−オレフィン共重合体20重量部以上40重量部以下、及び、残部の低密度ポリエチレン5重量部以上10重量部からなるベース樹脂組成物100重量部に対して、金属水和物50重量部以上100重量部以下、及び、外部滑剤1重量以上5重量部以下を配合してなる被覆樹脂組成物から構成されている最外層を備えたことを特徴とするワイヤーハーネス用被覆電線である。
【0009】
また、本発明のワイヤーハーネス用被覆電線は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載のワイヤーハーネス用被覆電線において、前記外部滑剤がポリエチレンワックス、シリコーンオイル、及び、ヒドロキシステアリン酸から選ばれた1種以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明のワイヤーハーネス用被覆電線は、請求項3に記載の通り、前記ワイヤーハーネス用被覆電線から構成されていることを特徴とするワイヤーハーネス用被覆電線あることを特徴とするワイヤーハーネス用被覆電線である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のワイヤーハーネス用被覆電線は、燃焼時にも有害な塩素系化合物が発生せず、自動車用電線としても充分な機械的特性(引張伸び、柔軟性)を維持し、充分な耐摩耗性を確保しながら、ワイヤーハーネスを構成した場合に充分な柔軟性が得られる優れたワイヤーハーネス用被覆電線である。
【0012】
本発明のワイヤーハーネスは、柔軟であるために、取り扱いや配索作業が容易な、優れたワイヤーハーネスである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のワイヤーハーネス用被覆電線は、上述のようにポリプロピレン系樹脂50重量部以上75重量部以下、プロピレン−α−オレフィン共重合体20重量部以上40重量部以下、及び、残部の低密度ポリエチレンからなるベース樹脂組成物100重量部に対して、金属水和物50重量部以上100重量部以下、及び、外部滑剤1重量以上5重量部以下を配合してなる被覆樹脂組成物から構成されている最外層を備えているワイヤーハーネス用被覆電線である。
【0014】
ここで、プロピレン−α−オレフィン共重合体としては、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体やプロピレン−エチレン−ブテンランダム共重合などが挙げられ、これらを単体、あるいは、2種以上を選択して混合して用いることができる。
【0015】
また、ポリエチレンとしては低密度ポリエチレンであることが必要であり、中密度ポリエチレンや高密度ポリエチレンを用いると自動車用低圧電線として用いた場合に必要な耐摩耗性を得ることができなくなる。
【0016】
ベース樹脂組成物としては、100重量部中ポリプロピレン系樹脂50重量部以上75重量部以下、プロピレン−α−オレフィン共重合体20重量部以上40重量部以下、及び、残部の低密度ポリエチレンから構成することが必要であり、この範囲外であると、充分な耐摩耗性と柔軟性とを得ることができない。
【0017】
このようなベース樹脂組成物100重量部に対して、金属水和物を50重量部以上100重量部以下となるように配合する。金属水和物が50重量部未満であると充分な難燃性が得られず、また100重量部であると、充分な機械的性質(引張伸び、柔軟性、耐摩耗性)が得られない。
【0018】
本発明における金属水和物とは、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられ、これらのうち1種類以上を選択するが、難燃性付与特性が良好であるために水酸化マグネシウムであることが好ましい。
【0019】
また、前記ベース樹脂組成物100重量部に対して、外部滑剤を1重量以上5重量部以下となるように配合する。このような配合範囲で外部滑剤を添加することで、電線の被覆層同士の摩擦を減少させ、その結果、ワイヤーハーネスを構成したときに、柔軟なワイヤーハーネスとすることができる。とくに好ましい外部滑剤の配合量は1重量部以上5重量部以下である。
【0020】
このような外部滑剤としてはポリエチレンワックス、シリコーンオイル、及び、ヒドロキシステアリン酸などが挙げられ、このうち1種以上を選択し用いるが、ポリエチレンワックスであるとベース樹脂組成物との親和性が高いので好ましい。
【0021】
このような原料を、例えば、二軸押出機、加圧ニーダー、バンバリ−ミキサー、あるいは、オープンロールなどを用いて均一に混練して、電線被覆用樹脂組成物を得る。このとき、予め作製したベース樹脂組成物に対して金属水和物及び外部滑剤を加えてもよく、あるいは、全部同時に配合・混合しても良い。
【0022】
このようにして得た電線被覆用樹脂組成物は、そのまま、電線被覆に用いても、また、一旦、押出成形によってペレット化してから電線被覆に用いても良い。
【0023】
また、電線被覆層全体を上記電線被覆用樹脂組成物から形成してもよく、あるいは電線被覆層を複数層から形成し上記電線被覆用樹脂組成物によってその最外層を形成しても良い。
【0024】
この電線被覆用樹脂組成物は通常の樹脂組成物と同様に、押出成形によって電線被覆に用いることができ、得られた本発明にかかるワイヤーハーネス用被覆電線は通常の被覆電線同様にワイヤーハーネス製造に用いることができる。
【0025】
このとき、必ずしも、すべて本発明に係るワイヤーハーネス用被覆電線を用いる必要はなく、その場合も、本発明に含まれる。ここで、用いる電線の本数、種類(太さ等)により異なるが、例えば、使用される電線のうちの50%以上であれば、柔軟なワイヤーハーネスを得ることができる。
【0026】
ここで、実施例にかかる被覆電線のモデル断面図を図1に示す。図1中符号1は芯線でその周囲に被覆樹脂層2が配されている。
【実施例】
【0027】
以下に本発明のワイヤーハーネス用被覆電線の実施例について具体的に説明する。
【0028】
表1に示した配合物1〜5を用い、表2及び表3に示すような配合比(重量部)となるよう調製して二軸押出機によって均一になるよう混練して実施例にかかる電線被覆用樹脂組成物1〜10、比較例にかかる電線被覆用樹脂組成物1〜7を得た。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
これら17種類の電線被覆用樹脂組成物について、引張伸び、及び、柔軟性を評価した。
【0033】
具体的には、引張伸びに関しては、JIS K7161に準拠した試験方法にて測定を実施し、その時の結果が500%以上のときを充分であるとして”○”、500%未満のときを不充分として”×”として、評価した。
【0034】
柔軟性に関しては、サンプルを間隔を50mmに調整した2点支持の治具上に保持させて、そのサンプルの中央部をプッシュプルゲージにて、一定速度で押し、そのときの最大荷重を測定した。この荷重が0.5N未満のときを充分であるとして”○”、0.5N以上のときを不充分として”×”として、評価した。
【0035】
また、これら17種類の電線被覆用樹脂組成物、すなわち、実施例にかかる電線被覆用樹脂組成物1〜10、比較例にかかる電線被覆用樹脂組成物1〜7を用いて被覆電線の製造を行った。すなわち、素線7本からなる直径0.7mmの芯線の周囲に押出成形によりこれら樹脂組成物からなる被覆層を有する太さ1.2mmの17種類の被覆電線、実施例にかかる被覆電線1〜10、比較例にかかる被覆電線1〜7をそれぞれ得た。
【0036】
次いで、これら被覆電線について、耐摩耗性、難燃性、及び、表面摩擦抵抗力をそれぞれ評価した。
【0037】
耐摩耗性についてはISO6722に準拠したスクレープ摩耗試験器を用いて評価を行った。このとき、100回以上のときを充分であるとして”○”、100回未満のときを不充分として”×”として、評価した。
【0038】
難燃性に関しては、ISO6722に準拠した試験方法にて測定を実施し、その結果が70秒未満で消炎したときを充分であるとして”○”、70秒以上延焼した場合を不充分として”×”として、評価した。
【0039】
表面摩擦抵抗力については、同一の樹脂により成形した被覆電線2本を互いに90度となるように、十字状に交差させ、交差点に300gf(2.94N)の荷重を加えながら、試験片同士で摩擦させたときの抵抗力をプッシュプルゲージによって測定し、その結果が15N未満のときを充分であるとして”○”、15N以上のときを不充分として”×”として、評価した。
【0040】
さらに、上記被覆電線それぞれからワイヤーハーネスを作製したときを想定して、集束時の柔軟性を評価した。具体的には30本の被覆電線を一束として、粘着テープで仮止めしてサンプルとした。サンプルを間隔を100mmに調整した2点支持の治具上に保持させて、その中央をプッシュプルゲージにて一定速度で押し、そのときの最大荷重を測定した。このときの荷重が10N未満のときを充分であるとして”○”、10N以上のときを不充分として”×”として、評価した。ここで、10Nはワイヤーハーネスを実際に自動車などに配索したときにコネクタに接続された付近の電線束を屈曲することができる上限と考えられる。これらの評価結果を併せて表2及び表3に示す。
【0041】
これら表2及び表3より、本発明に係るワイヤーハーネス用被覆電線は自動車用電線としても充分な難燃性や機械的特性を維持し、充分な耐摩耗性を確保しながら、ワイヤーハーネスを構成した場合に充分な柔軟性が得られるスフレ他ワイヤーハーネス用被覆電線であることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係るワイヤーハーネス用被覆電線の一例モデル断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 芯線
2 被覆樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂50重量部以上75重量部以下、プロピレン−α−オレフィン共重合体20重量部以上40重量部以下、及び、残部の低密度ポリエチレンからなるベース樹脂組成物100重量部に対して、金属水和物50重量部以上100重量部以下、及び、外部滑剤1重量以上5重量部以下を配合してなる被覆樹脂組成物から構成されている最外層を備えたことを特徴とするワイヤーハーネス用被覆電線。
【請求項2】
前記外部滑剤がポリエチレンワックス、シリコーンオイル、及び、ヒドロキシステアリン酸から選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のワイヤーハーネス用被覆電線。
【請求項3】
前記ワイヤーハーネス用被覆電線から構成されていることを特徴とするワイヤーハーネス用被覆電線。

【図1】
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【公開番号】特開2009−295540(P2009−295540A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150579(P2008−150579)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】