説明

ワイヤーハーネス

【課題】部品点数を抑制でき、かつ、枝線の基端部分を迂回させることなくプロテクタに固定できる構造を提供する。
【解決手段】プロテクタ20の蓋部22に、下箱部21の内部へ向けて撓む可撓部221が設けられている。可撓部221を下方へ押し込み、下箱部21の貫通孔61に突起62を係止させると、可撓部221は、撓んだ状態に維持される。枝線12の基端部分は、可撓部221に押圧されることにより、プロテクタに固定される。このようにすれば、プロテクタ20の蓋部22を利用して、枝線12の基端部分を、固定できる。このため、プロテクタ20とは別に、枝線12の基端部分を固定するための部材(例えば、テープやバンド)を用いる必要はない。したがって、部品点数を抑制できる。また、枝線12の基端部分を固定するために、枝線12を迂回させる必要もない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載されるワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の各部に配置された電子部品や電装品を、電気的に接続するワイヤーハーネスが知られている。ワイヤーハーネスは、幹線から複数の枝線が延びる分岐構造を有している。また、ワイヤーハーネスには、周辺の部材から電線を保護したり、車体への組付性を向上させるためのプロテクタを、有するものがある。プロテクタの内部において、幹線から枝線が延びている場合には、枝線の寸法保証等の要求から、枝線の基端部分がプロテクタに固定される。
【0003】
プロテクタへの枝線の固定に関して、特許文献1には、分岐線を通した丸チューブを、プロテクタの固定片に、テープ巻きで固定することが、記載されている。また、特許文献2には、プロテクタの出口において、外装チューブ付き電線を、結束バンドで締め付けて固定することが、記載されている。また、特許文献2には、プロテクタ内に設けられた中壁の先端に、外装チューブ付き電線を回り込ませることにより、外装チューブ付き電線を固定する構造も、記載されている。また、特許文献3には、プロテクタに設けられたリブにワイヤーハーネスを蛇行挿通させて、ワイヤーハーネスを位置決め保持する構造が、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−162262号公報
【特許文献2】特開2007−330005号公報
【特許文献3】特開2004−166454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、テープや結束バンドを利用する場合、プロテクタ側にテープや結束バンドを巻回させる部位を設ける必要がある。また、テープや結束バンドを巻き付ける作業に時間が掛かるとともに、部品点数も増加する。一方、プロテクタ内の中壁やリブを利用して枝線を固定しようとすると、枝線を迂回させる必要がある。このため、プロテクタへの枝線の収納作業が困難となる。
【0006】
そこで、本発明は、部品点数を抑制でき、かつ、枝線の基端部分を迂回させることなくプロテクタに固定できる構造を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第1発明は、自動車に搭載されるワイヤーハーネスであって、幹線と、前記幹線から分岐した枝線と、を有する電線束と、前記電線束を部分的に保護するプロテクタと、を備え、前記プロテクタは、前記幹線の被保護部分を収容する樋状の幹線収容部と、前記被保護部分から分岐した前記枝線の基端部分を収容する樋状の枝線収容部と、前記幹線収容部および前記枝線収容部の上部を閉塞する蓋部と、を有し、前記蓋部は、前記枝線収容部の内部へ向けて撓む可撓部を有し、前記枝線収容部は、前記可撓部を撓んだ状態で係止するロック部を有し、前記ロック部に係止された前記可撓部が、前記枝線の前記基端部分を、押圧固定している。
【0008】
本願の第2発明は、第1発明のワイヤーハーネスであって、前記枝線を被覆するチューブをさらに有し、前記可撓部は、前記チューブを介して、前記枝線の前記基端部分を、押圧固定している。
【0009】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明のワイヤーハーネスであって、前記可撓部の先端に設けられた角部が、前記枝線の前記基端部分を、押圧固定している。
【0010】
本願の第4発明は、第1発明から第3発明までのいずれかのワイヤーハーネスであって、前記可撓部の先端部の板厚が、先端に向かうにつれて漸次に薄くなっている。
【0011】
本願の第5発明は、第1発明から第4発明までのいずれかのワイヤーハーネスであって、前記蓋部は、前記ロック部に係止される突起を有し、前記枝線収容部は、前記突起の前記ロック部への移動を案内するガイド部を、さらに有する。
【0012】
本願の第6発明は、第1発明から第5発明までのいずれかのワイヤーハーネスであって、前記ロック部は、前記可撓部を、第1角度で撓んだ状態に維持する第1ロック部と、前記可撓部を、前記第1角度より大きい第2角度で撓んだ状態に維持する第2ロック部と、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本願の第1発明〜第6発明によれば、プロテクタの蓋部を利用して、枝線の基端部分を固定できる。このため、部品点数を抑制できる。また、枝線を迂回させることなく、枝線の基端部分をプロテクタに固定できる。
【0014】
特に、本願の第2発明によれば、枝線収容部の底面と可撓部との間に、チューブをしっかりと保持できる。このため、チューブおよび枝線のずれを、高い確実性をもって防止できる。また、可撓部の押圧による枝線の損傷も、抑制できる。
【0015】
特に、本願の第3発明によれば、角部が当接する部位に、集中的に押圧力が加わる。したがって、枝線の基端部分が、より強固に固定される。
【0016】
特に、本願の第4発明によれば、可撓部の先端部の柔軟性が向上する。このため、可撓部の押圧による枝線の損傷を、抑制できる。
【0017】
特に、本願の第5発明によれば、爪部をロック部に容易に係止させることができる。
【0018】
特に、本願の第6発明によれば、枝線の太さに応じて、可撓部の角度を選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ワイヤーハーネスの斜視図である。
【図2】枝線収容部の縦断面図である。
【図3】変形例に係る枝線収容部の縦断面図である。
【図4】変形例に係る枝線収容部の斜視図である。
【図5】変形例に係る枝線収容部の斜視図である。
【図6】変形例に係るワイヤーハーネスの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下では、プロテクタの下箱部に対して蓋部側を上とする上下方向を仮に定義して、各部の形状や位置関係を説明する。ただし、これは、本発明に係るワイヤーハーネスの使用時の設置姿勢を限定するものではない。
【0021】
<1.一実施形態に係るワイヤーハーネス>
図1は、本発明の一実施形態に係るワイヤーハーネス1の斜視図である。このワイヤーハーネス1は、自動車に搭載され、自動車の各部に配置された電子部品や電装品を、電気的に接続するためのものである。図1に示すように、本実施形態のワイヤーハーネス1は、電線束10と、電線束10を部分的に保護するプロテクタ20と、を備えている。
【0022】
電線束10は、電力の供給や信号の通信を行う複数の電線の束である。電線束10は、複数の電線のみで構成されたものであってもよく、光ファイバを含むものであってもよい。電線束10は、幹線11と、幹線11から分岐した枝線12と、を有している。
【0023】
本実施形態では、幹線11から引き出された3本の電線121〜123が、枝線12を構成している。これらの電線121〜123は、略円筒状のチューブ124により、被覆されている。チューブ124の材料には、例えば、ポリ塩化ビニルが使用される。また、枝線12の先端には、電子機器に接続されるコネクタ125が、設けられている。
【0024】
プロテクタ20は、幹線11の被保護部分および枝線12の基端部分を収容して、これらの部位を周辺部材から保護するための筐体である。プロテクタ20は、幹線11および枝線12を収容する下箱部21と、下箱部21の上部を閉塞する蓋部22と、を有している。
【0025】
本実施形態では、下箱部21と蓋部22とが、樹脂成型により一体に形成されている。下箱部21と蓋部22は、薄肉ヒンジ23を介して接続されている。このため、蓋部22は、薄肉ヒンジ23により、下箱部21に対して開閉可能となっている。ただし、下箱部21と蓋部22とは、別体の部材で構成されていてもよい。
【0026】
プロテクタ20の下箱部21は、樋状の幹線収容部211と、幹線収容部211の途中から他方向へ延びる樋状の枝線収容部212と、を有している。幹線収容部211および枝線収容部212により、下箱部21の内部には、略T字状の収容空間が、形成されている。幹線収容部211には、幹線11の被保護部分が収容される。また、枝線収容部212には、枝線12の基端部分が収容される。
【0027】
幹線収容部211の一方の側壁(薄肉ヒンジ23の反対側の側壁)には、一対の係止受け部41が、設けられている。また、枝線収容部212の両側壁にも、一対の係止受け部51が設けられている。蓋部22を閉じたときには、蓋部22に設けられた爪部42,52が、これらの係止受け部41,51に、それぞれ係止される。これにより、下箱部21と蓋部22とが、閉鎖状態に固定される。
【0028】
蓋部22のうち、枝線収容部212の出口付近を覆う部分には、可撓部221が設けられている。可撓部221の幅は、枝線収容部212の内寸の幅と同等またはそれより小さくなっている。このため、可撓部221は、枝線収容部212の内部へ向けて、撓むことができる。本実施形態では、一対の爪部52より先端側の部分が、幅狭の可撓部221となっている。このため、一対の爪部52を結ぶ線を境として、可撓部221が下方へ曲折される。
【0029】
枝線収容部212の両側壁には、一対の貫通孔61が、設けられている。一方、可撓部221の両側縁部には、貫通孔61に対応する一対の突起62が設けられている。枝線12の基端部分を固定するときには、可撓部221を下方へ押し込んで撓ませ、一対の貫通孔61に一対の突起62を、それぞれ係止させる。これにより、可撓部221を、撓んだ状態に維持する。すなわち、一対の貫通孔61は、可撓部221を撓んだ状態で係止するロック部を、構成している。
【0030】
図2は、枝線収容部212の縦断面図である。貫通孔61に突起62が係止されると、図2に示すように、可撓部221が、枝線12の基端部分を押圧する。これにより、枝線収容部212の底面と可撓部221との間に、枝線12の基端部分が、挟持固定される。
【0031】
このように、本実施形態のワイヤーハーネス1では、プロテクタ20の蓋部22を利用して、枝線12の基端部分を、固定している。このため、プロテクタ20とは別に、枝線12の基端部分を固定するための部材(例えば、テープやバンド)を用いる必要はない。したがって、部品点数を抑制できる。また、枝線12の基端部分を固定するために、枝線12を迂回させる必要もない。
【0032】
特に、本実施形態では、蓋部22のうち、一対の爪部52より先端側の部分の全体が、可撓部221となっている。そして、可撓部221は、枝線収容部212の内寸と、ほぼ同等の幅を有している。このため、仮に、枝線収容部212内の幅いっぱいに枝線12が収容された場合にも、枝線12の基端部分の幅全体を、可撓部221で押圧することができる。したがって、枝線12の基端部分を、より安定的に固定することができる。
【0033】
また、本実施形態の可撓部221は、チューブ124の表面に当接し、チューブ124を介して、枝線12の基端部分を押圧固定している。このようにすれば、枝線収容部212の底面と可撓部221との間に、チューブ124をしっかりと保持できる。その結果、チューブ124および枝線12のずれが、高い確実性をもって防止される。また、可撓部221の押圧による枝線12の損傷も、抑制される。
【0034】
また、図2に示すように、本実施形態では、可撓部221の先端に設けられた角部222が、チューブ124および枝線12の基端部分を、押圧固定している。このようにすれば、角部222が当接する部位に、集中的に押圧力が加わる。したがって、枝線12の基端部分が、より強固に固定される。
【0035】
<2.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0036】
図3は、一変形例に係るワイヤーハーネスの枝線収容部212Aの縦断面図である。図3の例では、可撓部221Aの先端部の板厚が、先端に向かうにつれて漸次に薄くなっている。このようにすれば、可撓部221Aの先端部の柔軟性が向上する。このため、枝線12Aまたはチューブ124Aに対して、可撓部221Aを面接触させることができる。したがって、可撓部221Aの押圧による枝線12Aの損傷を、さらに抑制できる。
【0037】
図4は、他の変形例に係る枝線収容部212Bの斜視図である。図4の例では、枝線収容部212Bの両側壁の内側面に、円弧状のガイド部63Bが、設けられている。そして、ガイド部63Bの下端部付近に、貫通孔61Bが配置されている。このようにすれば、可撓部の側縁部に設けられた突起を、ガイド部63Bに沿って移動させて、貫通孔61Bに係止させることができる。すなわち、可撓部の突起を、貫通孔61Bまで容易に誘導できる。なお、ガイド部63Bは、図4のような円弧状の突起であってもよく、円弧状の溝や段差であってもよい。
【0038】
図5は、他の変形例に係る枝線収容部212Cの斜視図である。図5の例では、可撓部221Cの両側縁部に、突起が設けられていない。そして、枝線収容部212Cの両側壁の内側面に設けられた突起状のロック部61Cに、可撓部221Cの側縁部が係止されている。このような形態であっても、可撓部221Cを、下方へ撓んだ状態に維持することができる。
【0039】
また、図5のロック部61Cは、第1ロック部611Cと、第2ロック部612Cとを、有している。第1ロック部611Cは、可撓部221Cを、第1角度で撓んだ状態に維持する。また、第2ロック部611Cは、可撓部221Cを、第1角度より大きい第2角度で撓んだ状態に維持する。このように、ロック部を多段階に設ければ、枝線やチューブの太さに応じて、可撓部の撓む角度を選択できる。
【0040】
図6は、他の変形例に係るワイヤーハーネス1Dの斜視図である。図6の例では、プロテクタ20Dの内部において、幹線11Dから2本の枝線12D,13Dが、分岐している。そして、プロテクタ20Dの蓋部22Dに、各枝線12D,13Dの基端部分を押圧する可撓部221D,223Dが、設けられている。この例のように、プロテクタの蓋部は、複数の可撓部を有していてもよい。また、複数の可撓部は、互いに異なる向きに設けられていてもよい。
【0041】
また、上記の実施形態では、可撓部221が、チューブ124を介して枝線12を押圧していた。しかしながら、可撓部は、チューブを介することなく、枝線に直接的に当接していてもよい。
【0042】
また、上記の実施形態では、枝線12は、3本の電線121〜123により構成されていた。しかしながら、枝線を構成する電線の数は、1〜2本であってもよく、4本以上であってもよい。
【0043】
また、プロテクタの形状は、上記の例に限定されるものではない。プロテクタの形状は、保護対象となる電線束の形状や、車両内の空間に応じて、適宜に変形されてもよい。
【0044】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 ワイヤーハーネス
1D ワイヤーハーネス
10 電線束
11,11D 幹線
12,12A,12D,13D 枝線
20,20D プロテクタ
21 下箱部
22,22D 蓋部
23 薄肉ヒンジ
41,51 係止受け部
42,52 爪部
61,61B 貫通孔
61C ロック部
62,62B 突起
63B ガイド部
121〜123 電線
124 チューブ
125 コネクタ
211 幹線収容部
212,212A,212B,212C 枝線収容部
221,221A,221B,221C,221D,223D 可撓部
222 角部
611C 第1ロック部
612C 第2ロック部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に搭載されるワイヤーハーネスであって、
幹線と、前記幹線から分岐した枝線と、を有する電線束と、
前記電線束を部分的に保護するプロテクタと、
を備え、
前記プロテクタは、
前記幹線の被保護部分を収容する樋状の幹線収容部と、
前記被保護部分から分岐した前記枝線の基端部分を収容する樋状の枝線収容部と、
前記幹線収容部および前記枝線収容部の上部を閉塞する蓋部と、
を有し、
前記蓋部は、前記枝線収容部の内部へ向けて撓む可撓部を有し、
前記枝線収容部は、前記可撓部を撓んだ状態で係止するロック部を有し、
前記ロック部に係止された前記可撓部が、前記枝線の前記基端部分を、押圧固定しているワイヤーハーネス。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤーハーネスであって、
前記枝線を被覆するチューブをさらに有し、
前記可撓部は、前記チューブを介して、前記枝線の前記基端部分を、押圧固定しているワイヤーハーネス。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のワイヤーハーネスであって、
前記可撓部の先端に設けられた角部が、前記枝線の前記基端部分を、押圧固定しているワイヤーハーネス。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載のワイヤーハーネスであって、
前記可撓部の先端部の板厚が、先端に向かうにつれて漸次に薄くなっているワイヤーハーネス。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載のワイヤーハーネスであって、
前記蓋部は、前記ロック部に係止される突起を有し、
前記枝線収容部は、前記突起の前記ロック部への移動を案内するガイド部を、さらに有するワイヤーハーネス。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載のワイヤーハーネスであって、
前記ロック部は、
前記可撓部を、第1角度で撓んだ状態に維持する第1ロック部と、
前記可撓部を、前記第1角度より大きい第2角度で撓んだ状態に維持する第2ロック部と、
を含むワイヤーハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−105495(P2012−105495A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253603(P2010−253603)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】