説明

ワイヤ放電加工方法

【課題】 このワイヤ放電加工方法は,工作物に対した揺動加工を行って,工作物の板厚方向の真直度を向上させる。
【解決手段】 このワイヤ放電加工方法は,工作物2を予め決められた所定の加工形状に放電加工する加工進行方向に対して,ワイヤ電極1又は工作物2を加工進行方向に所定の幅で斜めに揺動進行させて工作物2を揺動加工し,工作物2の厚み方向の真直度の加工精度をアップさせる。このワイヤ放電加工方法によれば,適正な揺動加工を行うのみで,加工条件を変化させないので,加工速度を低下させることなく,安定した高精度に放電加工を達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,ワイヤ電極と工作物との間に加工電圧を印加して発生する放電エネルギーによって工作物を放電加工するワイヤ放電加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,ワイヤ放電加工機は,図1及び図2に示すように,ベースであるベッド17上にY軸テーブル30がY軸方向に移動可能に設けられ,Y軸テーブル30上にX軸テーブル31がX軸方向に移動可能に設けられている。機械本体におけるヘッド33には上ワイヤヘッド3が設けられ,機械本体における下アーム28には下ワイヤヘッド4が設けられており,上ワイヤヘッド3は,ワイヤ電極1を工作物2に形成されたスタートホール24や加工スリット36へ供給する機能を果たし,下ワイヤヘッド4は,上ワイヤヘッド3の下方に対向して工作物2を加工した後のワイヤ電極1を受け取る機能を果たす。また,ワイヤ放電加工機は,下ワイヤヘッド4から繰り出される放電加工を行った消耗したワイヤ電極1を案内するため,下ワイヤヘッド4の下方に設置されたガイドローラ5,ガイドローラ5からのワイヤ電極1を送り出すため設けられたワイヤガイドパイプ6,及びワイヤガイドパイプ6の出口に近接して設けられたワイヤ電極1を引き出す引出しローラ7を有している。また,ワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給装置9は,ワイヤ電極1が巻き上げられているソースボビン37,ソースボビン37から送り出されるワイヤ送り系でのワイヤ電極の方向を転換するガイドローラ20,方向転換ローラ22,送り出されるワイヤ電極1にテンションを付与するテンションローラ19,及びテンションが付与されたワイヤ電極1に良好に繰り出されるようにブレーキをかけるブレーキローラ29を備えている。ワイヤ供給系における方向転換ローラ22を通過したワイヤ電極1は,ヘッド33に設けられた一対のガイドローラ,ワイヤ電極送りローラである一対のアニールローラ10と一対のコモンローラ11とを通過し,そこで,それらの間で給電子を通じて加工電源からの電流が与えられ,ワイヤ電極1がアニールされ,次いで上ワイヤヘッド3へ送り込まれる。また,アニールローラ10とコモンローラ11との間には,ワイヤ電極1の先端を良好にしたり,ワイヤ電極1の断線時にワイヤ電極1を切断するカッタ13が設けられている。上ワイヤヘッド3を通過したワイヤ電極1は,工作物2との間で加工電圧が印加され,工作物2を加工した後に,上ワイヤヘッド3の下方に対向した下ワイヤヘッド4に受け取られ,次いで,下ワイヤヘッド4から繰り出された消耗したワイヤ電極1は,ガイドローラ5を経て,出口に噴流を排出する排出口23を設けた噴流ガイドパイプ6へと送り込まれる。ワイヤ電極1は,噴流ガイドパイプ6の後流に設けた引出しローラ7及び該引出しローラ7の後流に設けた吸引装置等によって吸引され,最後に廃ワイヤホッパに回収される。
【0003】
また,ワイヤ放電加工装置として,ワイヤ放電加工に特有の太鼓形状の発生を防止し,真直方向の加工精度,コーナー部における加工精度を向上させるものが知られている。該ワイヤ放電加工装置は,放電電流を供給する加工電源と,加工中の放電電極間の平均電圧を検出する電圧検出回路と,平均電流を検出する電流検出回路と,放電電圧及び放電電流を制御する制御装置を備え,平均電圧値が一定となるように加工送り速度を制御する場合は,制御装置は加工送り速度に反比例して平均電流が変化するように放電電流のオフタイム又はパルス周期等を制御し,平均電流値は一定となるように加工送り速度を制御する場合は,制御装置は加工送り速度に比例して平均電圧が変化するように放電電圧又はパルス周期等オフタイムを制御するものである。また,特許文献1には,従来,ワイヤ放電加工には,被加工物の真直方向が太鼓形状及び湾曲量は加工板厚,加工条件により変化し,また,被加工物の真直方向の真直精度を向上させるために,一般的に荒加工(ファーストカット)では被加工物が太鼓形状になっているので,荒加工を行った後に,高精度の仕上加工(セカンドカット)が行われていることが記載されている。それらの課題を解決するため,上記ワイヤ放電加工装置は,送り速度,平均電流,平均電圧等を制御することによって,放電により発生する放電反発力とワイヤ電極と被加工物間の静電吸引力とを相殺させて加工中のワイヤ電極を真直状態に保ち,太鼓形状の発生を抑制するものである(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,被加工物を切断する際に,ワイヤと被加工物を相対移動させる切断方法が知られている。該切断方法は,所定の切断経路と,該切断経路と直角の方向の振動運動とに従って,一方の電極となるワイヤ及び他方の電極となる被加工物の相対移動を行わせ,ワイヤにより被加工物を侵食放電加工することにより,被加工物を切断するものであって,切断経路と直角の変異の瞬時振幅を制御することと,瞬時振幅が最大値まで増大したときは放電エネルギーを最小値に減少させ,瞬時振幅が最小値まで減少したときは放電エネルギーを最大値に増大させるものである。また,上記切断方法は,ワイヤと被加工物を相対移動させる際に,振幅の大きさと放電エネルギーの強弱とを制御して,切断工程と同時に仕上げ工程を行うことにより,被加工物の全加工時間を短縮するものである(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,ワイヤ放電加工方法として,任意の間隙の2面を同時加工し得るようにしたものが知られている。該ワイヤ放電加工方法は,加工液中でワイヤ電極と被加工物との間に間欠放電を発生させて加工する際に,各被加工物の形状を示す軌跡にオフセット量を加えて設定された2つの加工軌跡を揺動端として,加工位置を周期的に移動させる揺動軌跡を設定し,揺動軌跡に沿ってワイヤ電極を移動させて加工するものであって,揺動軌跡をワイヤ電極の軸心が各加工軌跡上を交互に移動する区間と,各被加工面の形状を示す軌跡と交差する方向に,一方の加工軌跡上から他方の加工軌跡上の既加工区間における軸心の最後の到達位置へ移動させる区間で設定したものである。即ち,上記ワイヤ放電加工方法は,揺動加工することで,加工拡大代寸法をワイヤ電極の直径寸法に比して格段に大きくすることができるものである(例えば,特許文献3参照)。
【0006】
また,従来のワイヤ放電加工方法は,ワイヤ電極と被加工物との極間に放電を発生させて被加工物を加工するものであって,加工液中で放電加工を行う第1の工程と,ミスト中で放電加工を行う第2の工程と,気体中で放電加工を行う第3の工程からなり,被加工物の真直度が所定の値となった場合に前記工程間の切り換えを行うものである(例えば,特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平5−8122号公報
【特許文献2】特開昭58−186533号公報
【特許文献3】特許第2912416号公報
【特許文献4】WO02/000383公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで,従来のワイヤ放電加工機について,工作物に対する荒加工即ちファーストカットでは,真直精度を向上させるためにはワイヤ電極が受ける放電反発力,静電引力,或いは噴流等を低減させるため,加工速度を極端に遅くする必要があった。また,従来の特許文献1のように,ワイヤ電極と工作物の極間状態を検出して,送り速度,平均電流,平均電圧を変化させて制御することで寸法差を少なくする方法では,工作物に対する加工条件の変化により,制御結果が変わり,安定して寸法差を得ることは困難であると思料され,問題があった。そこで,ワイヤ放電加工方法として,工作物に対する放電加工で真直精度を向上させつつ,加工速度を落とす必要がないようにするには如何に構成すればよいかの課題があった。
【0008】
本出願人は,ワイヤ放電加工機において放電加工を行う際に,進行方向に対し直角方向に一定の振幅を与えながら放電加工を行う方法,ワイヤ電極に一定の円運動を与えながら放電加工を行う方法,或いは工作物又はワイヤ電極に与える相対振幅は上下同位相の場合と上下反転位相での加工を行う方法に着眼し,ファーストカットにおける真直精度を低減させることを行った。
【0009】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,ワイヤ放電加工機において,工作物を放電加工する際に,荒加工即ちファーストカットに際して加工速度を極端に低下させることなく,真直精度を向上させることができることを特徴とするワイヤ放電加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は,ソースボビンから送り出されるワイヤ電極をワイヤ電極送りローラを駆動して供給パイプを通じて上ワイヤヘッド,該上ワイヤヘッドの下方に設置された工作物,及び該工作物の下方で前記上ワイヤヘッドに対向して配置された下ワイヤヘッドへ供給し,前記工作物を前記ワイヤ電極に対して相対移動させて前記工作物を放電加工するワイヤ放電加工方法において,
前記工作物を予め決められた所定の加工形状に放電加工する加工進行方向に対して,前記ワイヤ電極又は前記工作物を前記加工進行方向に所定の幅で揺動進行させて前記工作物を揺動加工し,前記工作物の板厚方向の真直度の加工精度をアップさせることを特徴とするワイヤ放電加工方法に関する。
【0011】
このワイヤ放電加工方法において,前記ワイヤ電極又は前記工作物を加工進行方向に揺動させる前記所定の幅は,進行方向中心から片側寸法で0.1±0.02mmの揺動幅であることが好ましい。また,前記ワイヤ電極又は前記工作物を加工進行方向に進む予め決められたピッチは,1μm〜10μmであることが好ましい。更に,前記加工進行方向に所定の幅での前記揺動加工は,前記加工進行方向に対して前記工作物を斜め状,円形状又は角形状に揺動進行させることで達成できる。
【0012】
また,このワイヤ放電加工方法において,前記工作物に対する前記揺動加工は,前記ワイヤ電極に対して前記加工進行方向に対し直角方向に上下同位相振動を前記工作物に与えて行われる。又は,前記工作物に対する前記揺動加工は,前記ワイヤ電極に対して加工進行方向に対し直角方向に上下逆位相振動を前記工作物に与えて行われる。
【0013】
また,このワイヤ放電加工方法は,前記工作物に対する前記揺動加工における前記ワイヤ電極に対して前記加工進行方向に対し直角方向に前記工作物に与える上側位相振動はU軸とV軸を作動し,下側位相振動はX軸とY軸を作動して行われるものである。
【0014】
また,このワイヤ放電加工方法において,前記工作物に対する前記揺動加工を行うワイヤ放電加工機におけるX軸スライドユニット,Y軸スライドユニット,及びUV軸ユニットを作動する駆動装置は,振動速度を速くするためリニアモータがあることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
このワイヤ放電加工方法は,上記のように,工作物を予め決められた所定の加工形状に放電加工する加工進行方向に対して,ワイヤ電極又は工作物を加工進行方向に所定の幅で揺動させて揺動加工するので,工作物の板厚方向の真直度の加工精度をアップさせることができる。また,従来のワイヤ放電加工機では,真直度を向上させるため,送り速度,平均電流,平均電圧を制御して加工条件を変化させているが,本願発明のワイヤ放電加工方法は,適正な揺動加工を行うのみで,加工条件を変化させないので,安定した高精度に放電加工を達成できる。また,従来のワイヤ放電加工機では,一般的に,工作物に対する荒加工(ファーストカット)の後に,仕上げ加工即ちセカンドカットによって寸法差を低減させているが,本願発明によるワイヤ放電加工方法は,揺動加工によって真直精度をアップさせるものであり,セカンドカットをする必要がなく,工作物に対する放電加工の全加工時間を短縮することができる。更に,工作物に対してセカンドカットするとしても,真直精度の寸法差が小さいので,セカンドカットの加工時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下,図面を参照して,この発明によるワイヤ放電加工方法を達成するためのワイヤ放電加工機について説明する。このワイヤ放電加工機では,加工液の飛散を防止するための加工槽18は,例えば,ボルト及びナットのような固着具によってX軸スライド31に取り付けられている。このワイヤ放電加工機は,工場の床面,土台等のベースに機台等のベッド17が設置されている。このワイヤ放電加工機は,X軸スライド31と一体的な加工槽18,加工槽18が載置され且つ加工槽18の移動方向(X軸方向)に対して直角方向(Y軸方向)に移動可能なクロスサドルであるY軸スライド30,加工槽18の相対移動に対して下アーム28が貫通するため長孔に対向する孔が形成された遮蔽板を備えている。このワイヤ放電加工機は,工作物2に対して所定の加工形状にワイヤ放電加工を行うため,ワイヤ電極1がワイヤ電極供給源のソースボビンから加工機本体を構成するコラム16に設けられているガイドローラ20等を備えた自動ワイヤ供給装置9によって工作物2の加工領域に供給される。ワイヤ電極1は,工作物2との間に極間電圧を印加されて工作物2を加工するものであり,工作物2を加工した後には下アーム28の廃ワイヤ通路を通って回収される。
【0017】
クロスサドルに組み込まれたY軸スライド30は,ベッド17との間に設けられたY軸スライドユニットを介してベッド17に対してY軸方向に往復移動するように構成されている。また,加工槽18と一体のX軸スライド31は,クロスサドルであるY軸スライド30との間に設けられたX軸スライドユニットを介してクロスサドルのY軸スライド30に対してX軸方向に往復移動するように構成されている。X軸スライドユニットは,X軸スライド31に固定された複数のスライダがY軸スライド30に固定された一対の軌道レール34上を相対移動することによって,加工槽18がY軸スライド30に対してX軸方向に往復移動するものである。また,Y軸スライドユニットは,Y軸スライド30に固定された複数のスライダがベッド17に固定された一対の軌道レール35上を相対移動することによって,Y軸スライド30がベッド17に対してY軸方向に往復移動するものである。
【0018】
この放電加工機は,床や土台に設置されているベースを構成するベッド17,ベッド17から立設した加工機本体を構成するコラム16,ベッド17上にY軸方向に往復移動するY軸スライドユニットのY軸スライド30,Y軸スライド30上でX軸方向に往復移動するX軸スライド31と一体構造に構成された加工槽18,コラム16の上部に設けられたUV軸ユニット32,UV軸ユニット32に設けられたZ軸ユニット12,Z軸ユニット12に設けられた上ワイヤヘッド3,コラム16から延びる下アーム28に設けられた下ワイヤヘッド4,及び上ワイヤヘッド3と下ワイヤヘッド4との間で加工槽18内に設置された工作物2を備えている。このワイヤ放電加工機は,加工槽18内に設置された工作物2をコラム16に設けたワイヤ電極供給源(図示せず)から供給されるワイヤ電極1によって加工するため,工作物2とワイヤ電極1との間に加工電圧を印加して発生させた放電エネルギーによって放電加工するものである。更に,このワイヤ放電加工機は,コラム16の上部に設けられたUV軸ユニット32,及びコラム16の上部でUV軸ユニット32に設けられたZ軸ユニット12を備えており,更に工作物2に対して広範囲の加工領域を確保して高精度の加工を行うことができるものである。
【0019】
このワイヤ放電加工機では,ワイヤ電極1は,コラム16に取り付けられたUV軸ユニット32に支持された上ワイヤヘッド3と,コラム32から加工槽18の長孔を貫通して横方向に延びた下アーム28に支持された下ワイヤヘッド4とによって案内される。上ワイヤヘッド3には,従来と同様に,ワイヤ送出口,ダイスガイド,噴流ノズル,給電子,及び給電子押え等が組み込まれており,ワイヤ電極1を工作物2の放電加工部位に送り出す。給電子が組み込まれた下ワイヤヘッド4は,上ワイヤヘッド3と同様の構造を有しており,上ワイヤヘッド3に対向した位置に設けられており,上ワイヤヘッド3から繰り出されたワイヤ電極1を受け入れる。上ワイヤヘッド3の給電子と下ワイヤヘッド4の給電子とをリード線が結んでおり,リード線には,リード線に接続された極とは反対の極が与えられている。工作物2に対して放電加工を行なったワイヤ電極1は,下ワイヤヘッド4に受け入れられた後,ガイドローラを通じて加工槽18から下アーム28の内部の廃ワイヤ通路を通って引出しローラ7で引き出されて外部へ排出される。
【0020】
このワイヤ放電加工方法は,上記のワイヤ放電加工機を用いて達成できるものであり,特に,ワイヤ電極1と工作物2とを相対移動させて放電加工を行うものであり,工作物2に予め決められた所定の形状を放電加工する進行方向に対して,工作物2又はワイヤ電極1が相対的に加工進行方向に所定の幅で斜めに揺動進行させて揺動加工することによって,工作物2の板厚方向の真直度の加工精度を向上させたものである。この実施例では,工作物2をワイヤ電極1に対してX軸スライドユニットのX軸スライド31とY軸スライドユニットのY軸スライド30とを用いて揺動させ,また,ワイヤ電極1を工作物2に対してUV軸ユニット32を用いて揺動させるものである。
【0021】
このワイヤ放電加工方法において,ワイヤ電極1又は工作物2を加工進行方向に揺動させる所定の幅は,進行方向中心から片側寸法で0.1±0.02mmの揺動幅であることが真直度をアップさせることができ,好ましいものである。更に,このワイヤ放電加工方法は,ワイヤ電極1に対して工作物2を加工進行方向に斜めジグザグに揺動進行させて工作物2を放電加工するものである。この時,ワイヤ電極1又は工作物2を加工進行方向に進む予め決められたピッチは,1μmであることが,真直度をアップさせることができ,好ましいものである。
【0022】
また,このワイヤ放電加工方法において,工作物2に対する放電揺動加工は,ワイヤ電極1に対して加工進行方向に対し直角方向に上下同位相振動を工作物2に与えて行われる。又は,工作物2に対する放電揺動加工は,ワイヤ電極1に対して加工進行方向に対し直角方向に上下逆位相振動を工作物2に与えて行われるものである。更に,このワイヤ放電加工方法は,工作物2に対する放電揺動加工におけるワイヤ電極1に対して加工進行方向に対し直角方向に工作物2に与える上側位相振動はUV軸ユニット32を作動し,下側位相振動はX軸スライドユニットのX軸スライド31とY軸スライドユニットのY軸スライド30を作動して行われるものである。
【0023】
次に,図3〜図7を参照して,このワイヤ放電加工方法によって工作物2をワイヤ電極1で放電加工した状態を説明する。このワイヤ放電加工方法において,図3には,加工進行方向に揺動無しの放電加工を行う状態が示されている。また,図4には,加工進行方向に相対揺動する放電加工を行う状態が示されている。揺動加工テストにおいて,揺動無しは,一般的に,ワイヤ放電加工の荒加工即ちファーストカット時の工作物2の真直精度を示している。ワイヤ放電加工方法における真直精度は,加工条件,工作物2の板厚によって数値が異なる。
【0024】
このワイヤ放電加工方法について,ワイヤ電極1に対して工作物2をX軸とY軸の移動による揺動加工を行った。揺動条件は,図4にも示すように次のとおりである。
揺動幅片側寸法Wは0.1mmであり,進行方向に沿うピッチPは1μmである。
また,進行方向への斜めジグザグの揺動進行は,符号a→b→c→d→eの順にX軸とY軸への移動による揺動加工である。その結果を図5,図6,及び図7に示す。
【0025】
この実施例では,工作物2の板厚が50mm,100mm,200mmのものに対して揺動無しと揺動加工とを行った。
図5には,50mmの工作物2を放電加工した状態を示しており,(a)が揺動加工をしない状態の加工軌跡25Aを示し,(b)が揺動加工を行った状態の加工軌跡25Bを示している。
図6には,100mmの工作物2を放電加工した状態を示しており,(a)が揺動加工をしない状態の加工軌跡26Aを示し,(b)が揺動加工を行った状態の加工軌跡26Bを示している。
図7には,200mmの工作物2を放電加工した状態を示しており,揺動加工をしない状態の加工軌跡27Aを示している。
【0026】
次に,このワイヤ放電加工方法について,次の加工条件で,(1)板厚50mm,
(2)板厚100mm,及び(3)板厚200mmの工作物2の揺動加工を行った。
工作物2に対する放電加工は,進行方向に対し,直角方向に一定の幅で揺動しながら行った。ワイヤ電極1は,黄銅製材料であり,直径がφ0.2mmであり,また,工作物2は,鋼(SKD11)製材料である。
【0027】
(1)工作物2の板厚50mmに対して揺動幅Wは,揺動幅片側寸法0.07mm,
0.10mm,0.12mm,及び0.2mmで行い,ピッチPは全て1 μmで行った。 加工条件は,次のとおりである。
放電パルス(IP)−ON:0.9μsec
放電パルス(IP)−OFF:6μsec
ワイヤ電極1の送り速度:11m/min
ワイヤ電極1の張力:1.1kg
工作物2のワイヤ放電加工後の工作物2の左右の寸法を7箇所で測定した。
その結果を,表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
(2)工作物2の板厚100mmに対して揺動幅Wは,揺動幅片側寸法0.07mm,0.10mm,0.12mm,及び0.2mmで行い,ピッチPは全て1 μmで行った。 加工条件は,次のとおりである。
放電パルス(IP)−ON:0.8μsec
放電パルス(IP)−OFF:8μsec
ワイヤ電極1の送り速度:12m/min
ワイヤ電極1の張力:1.1kg
工作物2のワイヤ放電加工後の工作物2の左右の寸法を9箇所で測定した。
その結果を,表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
(3)工作物2の板厚200mmに対して,揺動幅Wは,揺動幅片側寸法0.1mm,及び0.2mmで行い,ピッチPは全て1 μmで行った。
加工条件は,次のとおりである。
放電パルス(IP)−ON:0.7μsec
放電パルス(IP)−OFF:10μsec
ワイヤ電極1の送り速度:14m/min
ワイヤ電極1の張力:1.1kg
工作物2のワイヤ放電加工後の工作物2の左右の寸法を9箇所で測定した。
その結果を,表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
このワイヤ放電加工方法では,上記の揺動加工テスト結果から工作物2の板厚50mm,板厚100mm,及び板厚200mmの板厚に関係なく,揺動幅片側寸法0.1±0.02mmの揺動幅の範囲が真直度をアップさせることが分かった。また,工作物2の板厚事に加工条件が異なっていることは,揺動加工することによって加工条件が変化しても真直精度に影響が少ないことが確認できた。それ故に,本願発明によるワイヤ放電加工方法によれば,工作物2の揺動加工によって真直精度をアップさせることができ,セカンドカットをする必要がなく,放電加工を工作物2の全加工時間を短縮することができる。更に,工作物2に対してセカンドカットするとしても,真直精度の寸法差が小さいので,セカンドカットの加工時間を短縮することができる。
【0034】
この発明によるワイヤ放電加工方法は,上記実施例では,工作物2の揺動進行についてピッチPを1 μmで行ったが,その他,ピッチPを5μm及び10μmでテストを行ったがピッチPを1 μmの場合と同様に板厚方向の真直精度を向上させることが確認できた。従って,ピッチPは,1μm〜10μmの範囲であれば,板厚方向の真直精度を向上させることができる。また,上記実施例では,加工進行方向に所定の幅での揺動加工において,加工進行方向に対して工作物2を斜め状に揺動進行させるたが,揺動加工は,加工進行方向に対して工作物2を円形状又は角形状に揺動進行させても,同様に板厚方向の真直精度を得ることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
このワイヤ放電加工方法は,ワイヤ電極と工作物との間に加工電圧を印加して発生する放電エネルギで工作物を放電加工するワイヤ放電加工機に適用して使用される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明によるワイヤ放電加工方法を達成するワイヤ放電加工機を説明する斜視図である。
【図2】図1のワイヤ放電加工機の要部を示す拡大説明図である。
【図3】図1のワイヤ放電加工機で工作物をワイヤ電極で放電加工する状態を示す説明図である。
【図4】このワイヤ放電加工方法で工作物を放電加工する状態を示す拡大説明図である。
【図5】50mmの工作物を放電加工した状態を示し,(a)が揺動加工をしない状態の加工軌跡を示し,(b)が揺動加工を行った状態の加工軌跡を示す説明図である。
【図6】100mmの工作物を放電加工した状態を示し,(a)が揺動加工をしない状態の加工軌跡を示し,(b)が揺動加工を行った状態の加工軌跡を示す説明図である。
【図7】200mmの工作物を放電加工した状態を示し,揺動加工をしない状態の加工軌跡を示す説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ワイヤ電極
2 工作物
3 上ワイヤヘッド
4 下ワイヤヘッド
28 下アーム
30 Y軸スライドユニット
31 X軸スライドユニット
32 UV軸ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソースボビンから送り出されるワイヤ電極をワイヤ電極送りローラを駆動して供給パイプを通じて上ワイヤヘッド,該上ワイヤヘッドの下方に設置された工作物,及び該工作物の下方で前記上ワイヤヘッドに対向して配置された下ワイヤヘッドへ供給し,前記工作物を前記ワイヤ電極に対して相対移動させて前記工作物を放電加工するワイヤ放電加工方法において,
前記工作物を予め決められた所定の加工形状に放電加工する加工進行方向に対して,前記ワイヤ電極又は前記工作物を前記加工進行方向に所定の幅で揺動進行させて前記工作物を揺動加工を行い,前記工作物の板厚方向の真直度の加工精度をアップさせることを特徴とするワイヤ放電加工方法。
【請求項2】
前記ワイヤ電極又は前記工作物を加工進行方向に揺動させる前記所定の幅は,進行方向中心から片側寸法で0.1±0.02mmの揺動幅であることを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工方法。
【請求項3】
前記ワイヤ電極又は前記工作物を加工進行方向に進む予め決められたピッチは,1μm〜10μmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤ放電加工方法。
【請求項4】
前記加工進行方向に所定の幅での前記揺動加工は,前記加工進行方向に対して前記工作物を斜め状,円形状又は角形状に揺動進行させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工方法。
【請求項5】
前記工作物に対する前記揺動加工は,前記ワイヤ電極に対して前記加工進行方向に対し直角方向に上下同位相振動を前記工作物に与えて行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工方法。
【請求項6】
前記工作物に対する前記揺動加工は,前記ワイヤ電極に対して加工進行方向に対し直角方向に上下逆位相振動を前記工作物に与えて行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工方法。
【請求項7】
前記工作物に対する前記揺動加工における前記ワイヤ電極に対して前記加工進行方向に対し直角方向に前記工作物に与える上側位相振動はU軸とV軸を作動し,下側位相振動はX軸とY軸を作動して行われることを特徴とする請求項5又は6に記載のワイヤ放電加工方法。
【請求項8】
前記工作物に対する前記揺動加工を行うワイヤ放電加工機におけるX軸スライドユニット,Y軸スライドユニット,及びUV軸ユニットを作動する駆動装置は,振動速度を速くするためリニアモータであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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