説明

ワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法

【課題】 このワイヤ自動供給方法は,コモンローラを用いずに,その機能を廃ワイヤクランプに持たせ,装置を簡素化して,ワイヤ電極の自動供給時間を短縮する。
【解決手段】 このワイヤ自動供給方法は,ソースボビン7からのワイヤ電極5の先端側を切断するためのカッタ14とその下方に出入可能に配設されたワイヤ電極5を廃棄するための廃ワイヤクランプ15を有し,アニールローラであるワイヤ供給ローラ10と廃ワイヤクランプ15の挟持部30とを絶縁して本体ヘッド1にそれぞれ支持すると共に通電可能にそれぞれ結線する。ワイヤ電極5をワイヤ供給ローラ10と廃ワイヤクランプ15で挟持し,ワイヤ供給ローラ10,ワイヤ電極5,及び廃ワイヤクランプ15に通電してワイヤ電極5をアニールし,ワイヤ電極5のくせ取りをして真直状態にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,ワイヤ電極と工作物との間に加工電圧を印加して発生する放電エネルギによって工作物を放電加工するワイヤ放電加工機におけるワイヤ電極を工作物に自動的に挿通するワイヤ自動供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に,ワイヤ放電加工機は,例えば,機械本体3における本体ヘッド1には,図1を参照すると,上ヘッド2が設けられ,機械本体における下アーム(図示せず)には下ヘッド4が設けられており,上ヘッド2は,ワイヤ電極5を工作物6へ供給する機能を果たし,下ヘッド4は,上ヘッド2の下方に対向して工作物6を加工した後の消耗したワイヤ電極5を受け取る機能を果たす。また,ワイヤ放電加工機は,下ヘッド4から繰り出される放電加工を行った消耗したワイヤ電極5を案内するため,図示していないが,下ヘッド4の下方に設置された複数のガイドローラ等のガイド部材からのワイヤ電極5を送り出すため設けられたワイヤガイドパイプ,及び該ワイヤガイドパイプの出口に近接して設けられたワイヤ電極5を引き出す引出しローラを有している。
【0003】
従来,ワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給装置は,図6に示すように,機械本体3に取り付けられ且つワイヤ電極5を巻き上げているソースボビン7,ソースボビン7から送り出されるワイヤ送り系でのワイヤ電極5の方向を転換する複数の方向転換ローラ8,ワイヤ電極5が良好に繰り出されるようにワイヤ電極5にブレーキをかけるブレーキローラ9,送り出されるワイヤ電極5にテンションを付与するテンションローラ12,ワイヤ電極5を供給パイプ13へとガイドするガイドローラ32等を備えている。ワイヤ供給系における方向転換ローラ8を通過したワイヤ電極5は,ヘッド1に設けられた一対のアニールローラであるワイヤ供給ローラ10,供給パイプホルダ19に支持された供給パイプ13内を通って一対のコモンローラ11を通過し,そこで,ワイヤ電極5は一対のワイヤ供給ローラ10と一対のコモンローラ11とで挟持され,それらの間で給電子20を通じて加工電源からの電流がワイヤ供給ローラ10,ワイヤ電極5,及びコモンローラ11に通電され,そこで,ワイヤ供給ローラ10とコモンローラ11との間のワイヤ電極5がアニールされ,次いで,アニールされたワイヤ電極5は,ワイヤ供給ローラ10の送り出しに従って供給パイプホルダ19に支持された供給パイプ13の降下に従って供給パイプ13にガイドされて上ヘッド2へと達して挿通される。
【0004】
また,アニールローラ10とコモンローラ11との間には,ワイヤ電極5の先端を良好にする時,ワイヤ電極5の断線時,アニール処理時等に,ワイヤ電極5の先端部を切断するためのカッタ14が設けられていると共に,カッタ14で切断されたワイヤ電極5を廃棄するための廃ワイヤクランプ15が設けられている。カッタ14は,カッタユニット22を作動することでワイヤ電極5を切断するように構成されている。ワイヤ電極5の結線時は,ワイヤ電極5は,上ヘッド2を通過し,工作物6の孔26を通った後に,上ヘッド2の下方に対向した下ヘッド3に受け取られ,次いで,下ヘッド3から繰り出されたワイヤ電極5は,図示していないが,ガイドローラを経てワイヤガイドパイプへと送り込まれる。更に,ワイヤ電極5は,ワイヤガイドパイプの後流に設けた引出しローラ及び該引出しローラの後流に設けた吸引装置等によって吸引され,最後に廃ワイヤホッパに回収される。
【0005】
また,ワイヤカット放電加工装置におけるワイヤ電極挿通方法として,ワイヤ電極の加工開始への挿通不能状態と挿通不能状態の解消とを正確に検知,判別し,挿通不能状態に対するより的確な,確実な解消,及び挿通動作に移行させて挿通を実現するものが知られている。該ワイヤ電極挿通方法は,ワイヤ電極を送り出すローラ装置とワイヤ電極案内体の入口端に座屈センサによりワイヤ電極の座屈の有無を検出し,座屈が検出されないときはワイヤ電極先端が捕捉回収機構に至るまで送出し,座屈が検出されたときはローラを停止してワイヤ電極案内体と被加工体間に挿通孔サーチの所定パターンの相対移動を座屈解消までの間所定回数繰返し,座屈が解消したときは,ローラによるワイヤ電極の再送出に移行させ,他方座屈するか座屈が解消しないときは,ワイヤ電極を巻き戻して,以上の所定回数の再挿通操作に移行させる(例えば,特許文献1参照)。
【0006】
また,ワイヤ送り方法として,ワイヤ電極が障害物に当接した状態でワイヤ電極送りローラのワイヤ電極の挟持状態を解放してワイヤ電極の弾性力でワイヤ電極を真直にし,ワイヤ自動供給を繰り返し実行して供給時間の短縮を図るものが知られている。該ワイヤ送り方法は,ワイヤ電極の先端が上ヘッド,工作物及び下ヘッドのいずれかの障害物に当接したことを当接センサが検出することに応答して,ワイヤ電極送りローラのワイヤ電極の挟持を解放してワイヤ電極の障害物への当接状態を開放し,引き続いてワイヤ電極送りローラでワイヤ電極を挟持してワイヤ電極送りローラを駆動してワイヤ電極のワイヤ自動供給を行い,この処理を予め決められた回数だけ実行する(例えば,特許文献2参照)。
【0007】
また,ワイヤ放電加工機の自動ワイヤ供給方法として,供給側のワイヤ電極に対してアニール動作を行ってワイヤ電極を伸長させる工程が開示されているものが知られている。該自動ワイヤ供給方法は,給電ピンよりワイヤ電極に電流を流して供給側ワイヤ電極に対してアニール動作を行ってワイヤ電極を伸長させたので,ワイヤ電極の供給パイプを上ワイヤヘッドまで降下させ,ワイヤ供給ローラを駆動して工作物のワイヤ断線点における加工形状の加工孔にワイヤ電極を貫通させることができ,しかも,ワイヤ電極が真直に伸長しているので,工作物の断線点における加工スリット即ち加工孔が小さくても,該加工孔にワイヤ電極を確実に且つ迅速に貫通させることができる。また,上記自動ワイヤ供給方法は,ワイヤヘッドのワイヤ送出口をワイヤ断線点の加工孔から加工軌跡に沿って僅かに後退させ,上記のようにワイヤ供給ローラを駆動して加工形状の加工孔にワイヤ電極を貫通させたので,ワイヤ電極の先端が断線点縁部の工作物に障害されることなく,ワイヤ電極を加工孔即ち加工スリットにスムースに挿入することができ,ワイヤ供給或いは結線の成功率を大幅に向上させることができる(例えば,特許文献3参照)。
【0008】
また,ワイヤ電極の断線時に排除するワイヤ電極の長さを最小限に止めることができ,ワイヤ電極の切断排除部分を確実に廃ワイヤ収容ケースに収容できるワイヤ放電加工機における自動ワイヤ供給方法が知られている。該自動ワイヤ供給方法は,ワイヤ電極が断線した時に,ワイヤ先端検出センサーがワイヤ電極の先端部を検出するまでワイヤ電極を巻き上げ,次いで,巻き上げたワイヤ電極を設定した所定の長さだけ繰り出し,ワイヤ電極の所定部位をカッタによって切断し,ワイヤ電極の損傷した先端部分を排除する。従って,ワイヤ電極の切断排除される部分の長さを予め設定した所定の長さにすることができる(例えば,特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−108950号公報
【特許文献2】特開2009−50926号公報
【特許文献3】特開平2−145215号公報
【特許文献4】特開平7−276145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで,従来のワイヤ放電加工機については,金型コストの低下が要求される中,ワイヤ放電加工機での加工時間,段取り時間を含む総加工時間の短縮が要求されているのが現状である。また,最近では,金型は,小形化し,複雑化し,高精度になり,それに伴って,ワイヤ放電加工機での加工時間について,ワイヤ供給時間の占める相対的な割合も大きくなり,ワイヤ電極のワイヤ自動供給について時間の短縮を求められるようになった。また,ワイヤ放電加工機におけるワイヤ電極をアニールして,ワイヤ電極の巻き上がり,曲がり,残留応力,内部歪等のくせをとってワイヤ電極を真直状態にして,ワイヤ電極を上ヘッドから工作物,下ヘッド等を通って引出しローラまで挿通するというアニール方式では,ワイヤ電極の自動供給についての確実性,正確性等の評価は高く,アニール方式で更なるワイヤ電極の自動供給時間の短縮が要求されてきた。
【0011】
しかしながら,従来のワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法では,アニール処理がアニールローラのワイヤ供給ローラ10とコモンローラ11とを用いているため,コモンローラ11の作動時間を必要としていた。即ち,従来のワイヤ自動供給方法では,ワイヤ放電加工機をスタートさせると,本体ヘッド1は,工作物6のスタートホール等の孔26の加工すべき位置へ相対移動し,ワイヤ自動供給装置が作動してワイヤ電極5が供給される。この時,廃ワイヤクランプ15はワイヤ電極5が通過できるように開放している。そこで,アニールローラであるワイヤ供給ローラ10は,作動してワイヤ電極5を供給すると,ワイヤ電極5は,ワイヤ供給ローラ10から供給パイプ13を通ってコモンローラ11へと挿通され,コモンローラ11で挟持される。そこで,ワイヤ供給ローラ10,ワイヤ電極5,及びコモンローラ11に通電し,ワイヤ供給ローラ10とコモンローラ11との間のワイヤ電極5をアニール処理する。次いで,アニールされたワイヤ電極5を廃ワイヤクランプ15で挟持してカッタユニット22を作動してカッタ14によってアニールされたワイヤ電極5の先端部を切断し,そこでコモンローラ11がワイヤ電極5を開放して切断されたワイヤ電極5を外し,切断されたワイヤ電極5を廃ワイヤクランプ15でAWF(Auto Wire Feeder)廃ワイヤホッパへ移動させ,切断されたワイヤ電極5をAWF廃ワイヤホッパに廃棄される。上記のように,従来のワイヤ自動供給装置では,コモンローラ11の作動時間を必要とし,コモンローラ11の作動分だけワイヤ自動供給時間が長くかかっていた。
【0012】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,従来のワイヤ自動供給方法ではワイヤ電極をアニールするのにコモンローラを用いていたが,ワイヤ電極のアニール処理の後に,ワイヤ電極の先端部を切断して廃棄するのにワイヤ電極を廃ワイヤクランプで挟持して廃棄していたことに着目し,従来のコモンローラを装置から無くして,装置そのものを簡素に構成すると共に,コモンローラの機能を廃ワイヤクランプに持たせ,ワイヤ電極の自動供給時間の短縮したことを特徴とするワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は,本体ヘッドに設けられたワイヤ供給ローラで機械本体に設けられたソースボビンから送り出されるワイヤ電極を挟持し,前記ワイヤ供給ローラを駆動して前記ワイヤ電極を供給パイプを通じて上ヘッド,前記上ヘッドの下方に設置された工作物,及び前記工作物の下方で前記上ヘッドに対向して配置された下ヘッドへ供給し,次いで前記ワイヤ電極を前記下ヘッドの下方に配設されたガイド部材を経て引出しローラで引き出して廃棄するように構成されているワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法において,
前記ソースボビンから送り出された前記ワイヤ電極の先端側を切断するための前記本体ヘッドに設けられたカッタ,及び前記ワイヤ電極を挟持してAWF廃ワイヤホッパへと廃棄するための前記カッタの下方に出入可能に配設された廃ワイヤクランプを備えており,前記ワイヤ供給ローラと前記廃ワイヤクランプのワイヤ挟持部とは前記本体ヘッドにそれぞれ絶縁して支持すると共に通電可能にそれぞれ構成されており,
前記ソースボビンから送り出される前記ワイヤ電極を上端側を前記ワイヤ供給ローラで挟持し且つ前記ワイヤ電極の下端側を前記廃ワイヤクランプで挟持し,前記ワイヤ供給ローラ,前記ワイヤ電極,及び前記廃ワイヤクランプの前記ワイヤ挟持部に通電して前記ワイヤ供給ローラと前記廃ワイヤクランプとの間の前記ワイヤ電極をアニール処理して前記ワイヤ電極のくせ取りをして前記ワイヤ電極を真直状態にすることを特徴とするワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法に関する。
【0014】
また,このワイヤ自動供給方法において,前記ワイヤ電極の前記アニール処理は,前記工作物の加工位置へ前記ワイヤ電極を相対的に移動させると共に前記ワイヤ供給ローラを作動して前記ワイヤ電極を送り出し,前記ワイヤ電極を挟持する位置へ前記廃ワイヤクランプを移動させ,前記ワイヤ供給ローラによる前記ワイヤ電極の送りを停止して前記廃ワイヤクランプで前記ワイヤ電極を挟持し,前記ワイヤ供給ローラ,前記ワイヤ電極,及び前記廃ワイヤクランプに通電して前記ワイヤ供給ローラと前記廃ワイヤクランプとの間の前記ワイヤ電極をアニールし,前記アニールされた前記ワイヤ電極の予め決められた所定の位置を前記カッタで切断し,切断された前記ワイヤ電極を前記廃ワイヤクランプを移動させて前記AWF廃ワイヤホッパへ廃棄し,真直状態の前記ワイヤ電極を前記上ヘッド,前記工作物,及び前記下ヘッドへ供給するものである。
【0015】
また,前記廃ワイヤクランプは,前記機械本体に固定されたガイドレールに沿って移動するスライダ,前記スライダに固定されたクランプ支持体,前記クランプ支持体で揺動可能に取り付けられた一対の揺動レバー,前記揺動レバーにそれぞれ絶縁材で絶縁して固定されてアースラインに接続され且つ前記ワイヤ電極を挟持するワイヤ挟持部を有しているものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明によるワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法は,上記のように構成したので,ワイヤ電極のアニール処理を,ワイヤ電極をアニールローラであるワイヤ供給ローラと廃ワイヤクランプのワイヤ挟持部とで挟持して行うことができ,次いで廃ワイヤクランプのワイヤ挟持部でワイヤ電極を挟持したままでカッタで切断し,廃ワイヤクランプのワイヤ挟持部で挟持した状態の切断されたワイヤ電極の先端部を廃ワイヤクランプでAWF廃ワイヤホッパに廃棄でき,従来のコモンローラの作動工程を無くすことができ,それによってワイヤ電極の自動供給時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明によるワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法を達成するためのワイヤ自動供給装置の要部を示す概略斜視図である。
【図2】この発明によるワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法を達成するためのワイヤ自動供給装置の要部を示す概略正面図である。
【図3】図2のワイヤ放電加工機を示す概略側面図である。
【図4】図2のワイヤ放電加工機に組み込まれている廃ワイヤクランプを示す概略平面図である。
【図5】図4の廃ワイヤクランプの要部の一部を示す概略平面図である。
【図6】従来のワイヤ放電加工機電加工機におけるワイヤ自動供給装置の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下,図1〜図5を参照して,この発明によるワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法を達成するためのワイヤ放電加工機を説明する。このワイヤ放電加工機は,例えば,機械本体3に取り付けられたソースボビン7から繰り出されるワイヤ電極5を,ワイヤ電極5の走行速度を調整するブレーキローラ9,ワイヤ電極5にテンションを付与するテンションローラ12,ワイヤ電極5を方向転換してガイドするガイドローラ8,32等の案内手段を通って上ヘッド2,上ヘッド2の下方に取り付けられた工作物6,工作物6の下方で上ヘッド2に対向し且つ工作物6を加工した後のワイヤ電極5を受け取る下ヘッド4,工作物6とワイヤ電極5との間に加工電圧をかけるため工作物6の上下流に配置され且つワイヤ電極5に加工電源からの放電電流を供給する給電ブラシである給電子20,及び下ヘッド4から繰り出されたワイヤ電極5を収容する絶縁状態に構成されている廃ワイヤホッパ(図示せず)を有する。また,給電子20は,ワイヤ供給ローラ10等を設けたワイヤ電極送りユニット24に設けられている。ワイヤ放電加工機のワイヤ送り系におけるワイヤ電極5は,床,本体,例えば,ワイヤ電極5を絶縁する物体は,合成樹脂,ガイシ等の絶縁材料で作られている。このワイヤ自動供給装置では,ソースボビン7から送り出されるワイヤ送り系でのワイヤ電極5にブレーキをかけるブレーキローラ9には,そのれ設けられている。ワイヤ放電加工機のワイヤ供給│回転数を検出するためのエンコーダヘッド1等の物体に対して絶縁されているものであ│16が設けられている。
【0019】
ワイヤ放電加工機におけるワイヤ電極送りユニット24には,ワイヤ電極5を挟持して供給する一対の開閉自在なアニールローラ機能を持つワイヤ供給ローラ10で,ワイヤ供給ローラ10を駆動する駆動モータ,ワイヤ電極5の挿通を助ける糸道サポート,供給パイプ13を支持する供給パイプホルダ19,供給パイプ13にエアを吹き込むエア給入口,ワイヤ供給ローラ10に給電する給電子20,ワイヤ供給ローラ10を開閉させてワイヤ電極5を挟持したり解放する開閉シリンダ等が設けられている。また,このワイヤ放電加工機では,供給パイプ13を通ったワイヤ電極5は,ワイヤ供給ローラ10の低速回転によって,まず,上ヘッド2に供給され,上ヘッド2から工作物6,次いで下ヘッド4へと供給される。ワイヤ電極5が下ヘッド4を通過した後には,ワイヤ供給ローラ10は高速回転に切り換えられ,下ヘッド4から繰り出されたワイヤ電極5は,方向転換部に設けた方向転換ローラから噴流ガイドパイプ,噴流ガイドパイプの出口に設けた水分離部,及び水分離部の下流に設置された引出しローラを順次通過して,引出しローラで引き出されて廃ワイヤホッパに回収される。本体ヘッド1の下端に設けた支持体31には,ワイヤ電極5を切断するカッタ14を備えたカッタユニット22,及びカッタユニット22の下方には廃ワイヤクランプ15が出入可能なスペース33が形成されている。アニールローラであるワイヤ供給ローラ10は,本体ヘッド1に固定されたロールホルダ(図示せず)に回転可能に支持され,ワイヤ供給ローラ10に給電子20が当接しており,その給電子20がワイヤ供給ローラ10に電流を供給する機能を有している。
【0020】
このワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法は,特に,ソースボビン7から送り出されたワイヤ電極5の先端側を廃棄するため切断するカッタ14,及びカッタ14の下方の支持体31のスペース33に出入可能に配設されたワイヤ電極5をAWF廃ワイヤホッパへと廃棄するための廃ワイヤクランプ15を備えており,アニールローラであるワイヤ供給ローラ10を絶縁すると共に,廃ワイヤクランプ15のワイヤ挟持部30とを絶縁材23で絶縁して本体ヘッド1にそれぞれ支持すると共に給電子20をワイヤ供給ローラ10に接触させて通電可能に構成されている。廃ワイヤクランプ15は,ワイヤ供給ローラ10から供給パイプ13を通って送り出されるワイヤ電極5を挟持する位置と,消耗したワイヤ電極5をAWF廃ワイヤホッパに廃棄する位置との間を機械本体3に取り付けられたガイドレール18に沿って移動可能に構成されている。また,廃ワイヤクランプ15は,主として,機械本体3に取り付けられたガイドレール18に沿って移動するスライダ28,スライダ28に固定されたクランプ支持体29,クランプ支持体29で揺動可能に取り付けられた一対の揺動レバー27,揺動レバー27にそれぞれ絶縁材23で絶縁してねじ34等で固定され且つワイヤ電極5を挟持するワイヤ挟持部30から構成されている。また,廃ワイヤクランプ15のワイヤ電極5の挟持部を構成するワイヤ挟持部30は,アースライン25に結線されてアースされている。
【0021】
更に,このワイヤ自動供給方法は,ソースボビン7から送り出されるワイヤ電極5を上端側をワイヤ供給ローラ10で挟持し且つワイヤ電極5の下端側を廃ワイヤクランプ15で挟持し,ワイヤ供給ローラ10,ワイヤ電極5及び廃ワイヤクランプ15のワイヤ挟持部30に通電して,ワイヤ供給ローラ10と廃ワイヤクランプ15のワイヤ挟持部30との間のワイヤ電極5をアニールし,ワイヤ電極5の曲がり,撓み.残留応力,内部歪等のくせを取って真直状態にするものである。上記のように,廃ワイヤクランプ15は,ワイヤ電極5のアニール処理における従来のコモンローラの機能を果たすことができ,コモンローラを作動する必要が無いので,アニール処理時間を短縮することができる。
【0022】
また,このワイヤ自動供給方法において,ワイヤ電極5のアニール処理は,工作物6の加工位置へワイヤ電極5を相対的に移動させると共に,ワイヤ供給ローラ10を作動してワイヤ電極5を送り出し,ワイヤ電極5を挟持する位置へ廃ワイヤクランプ15のワイヤ挟持部30を移動させ,ワイヤ挟持部30でワイヤ電極5を挟持し,ワイヤ供給ローラ10,ワイヤ電極5及び廃ワイヤクランプ15のワイヤ挟持部30に通電して,ワイヤ供給ローラ10と廃ワイヤクランプ15のワイヤ挟持部30との間のワイヤ電極5に対してテンションを与えた状態でアニールし,アニールされ且つテンションが開放された状態のワイヤ電極5を予め決められた所定の位置でカッタ14によって切断し,切断されたワイヤ電極5を廃ワイヤクランプ15で挟持して廃ワイヤホッパへ廃棄し,次いで,廃ワイヤクランプ15を開放してワイヤ電極5を解放し,次いで廃ワイヤクランプ15を収容部へと戻し,ワイヤ供給ローラ10を作動してワイヤ電極5を下降させると共に供給パイプ13を下降させ,真直状態のワイヤ電極5を上ヘッド2,工作物6,及び下ヘッド4へ供給してワイヤ電極5を挿通するものである。
【0023】
また,このワイヤ放電加工機は,ワイヤ電極5が上ヘッド2の挿通孔,工作物6のスタートホール等の孔26,下ヘッド4の挿通孔の順で挿通する過程で,ワイヤ電極5の先端が上ヘッド2,工作物6又は下ヘッド4のいずれかに当接して孔に挿通しない当接状態が発生すると,駆動しているワイヤ供給ローラ10と供給パイプホルダ19のホルダ上部との間で,ワイヤ電極5が座屈即ち曲がって供給パイプホルダ19のホルダ上部に接触することになり,ワイヤ電極5がホルダ上部で接触すると,ワイヤ供給ローラ10がワイヤ電極5の挟持を解放し,ワイヤ供給ローラ10によるワイヤ電極5の供給が停止する。ワイヤ供給ローラ10とワイヤ電極5は所定の電位,即ち,ほぼ同電位又は僅かな電位差の状態にあり,ワイヤ電極5の座屈によりワイヤ電極5が供給パイプホルダ19のホルダ上部と接触すると,ワイヤ供給ローラ10とホルダ上部との間の所定の電位に変化,即ち,ほぼ同電位に電位差が発生又は僅かな電位差に変化が発生することになり,ワイヤ電極5がホルダ上部に接触したこと即ちワイヤ電極5が障害物に当接したことを検出できる。ワイヤ供給ローラ10がワイヤ電極5を解放することで,上ヘッド2,工作物6又は下ヘッド4のいずれかに当接し屈折されたワイヤ電極5の先端の当接が開放される。ワイヤ供給ローラ10が開いたことによって,当接し屈折したワイヤ電極5がワイヤ電極5の弾性力により上方に逃げ,ワイヤ電極5の先端の当接が開放される。ワイヤ電極5の上ヘッド2,工作物6又は下ヘッド4への当接が開放されると,供給パイプ13内を供給パイプ13の上部から下部にエアブローを行う。その後,ワイヤ供給ローラ10が閉じてワイヤ電極5を挟持し,再びワイヤ供給ローラ10を駆動させ,ワイヤ電極5のワイヤ自動供給を実行する。
【0024】
このワイヤ放電加工機は,ソースボビン7からのワイヤ電極5の供給指令を発して動作させられる。まず,ワイヤ供給ローラ10の開閉シリンダを作動して,ワイヤ供給ローラ10によってワイヤ電極5を挟持すると共に,廃ワイヤクランプ15の開閉シリンダを作動して,廃ワイヤクランプ15によってワイヤ電極5を挟持する。ワイヤ供給ローラ10と廃ワイヤクランプ15との間で挟持されている供給パイプ13内のワイヤ電極5に電流を流し,ワイヤ電極5をアニールする。ワイヤ電極5のアニール時には,ワイヤ供給ローラ10をワイヤ電極送りとは逆方向に回転させてワイヤ電極5にテンションを与えながらワイヤ電極5をアニールする。ワイヤ電極5をアニールした後に,供給パイプ13内にエア給入口からエアブローしてワイヤ電極5を冷却する。ワイヤ電極5は適正なアニール電流値,アニール時間及びエアブローによって,ワイヤ電極5の巻き癖を矯正してワイヤ電極5の真直性を確保する。ワイヤ電極5の径に応じてアニール電流値,アニール時間及びエアブロー時間はそれぞれ適正に設定されている。ワイヤ電極5のアニール及びエアブローの回数は,所定回数,例えば,2回行われる。
【0025】
次いで,ワイヤ供給ローラ10の開閉シリンダを作動して,ワイヤ供給ローラ10によってワイヤ電極5を挟持し,ワイヤ電極5をワイヤ供給ローラ10で挟持した状態で,供給パイプ13と共に供給パイプ13の先端を上ヘッド2まで下降させる。ワイヤ供給ローラ10を低速回転させ,ワイヤ電極5を供給し,ワイヤ電極5を上ヘッド2から工作物6のスタートホール等の孔26を通して下ヘッド4へと挿通させる。センサ17は,本体ヘッド1の下部の支持体31に取り付けられ,ワイヤ電極5の撓み,曲がり,挿通状態等を検出することができる。また,ワイヤ電極5の先端が上ヘッド2から工作物6を通って下ヘッド4へと順次挿通する途中で,ワイヤ電極5の先端が上ヘッド2,工作物6,下ヘッド4等の何らかの障害物に当接し,ワイヤ電極5が撓んだり屈折して曲がると,センサ17がその状態を検出することができる。ワイヤ電極5の撓みの検出は,ワイヤ供給ローラ10と供給パイプホルダ19のホルダ上部,即ち,センサ17との間に電圧が印加されているので,ワイヤ電極5の撓みはセンサ17に接触することによって検出される。ワイヤ供給ローラ10には,給電子20を通して給電され,ワイヤ供給ローラ10が閉じてワイヤ電極5を挟持した状態で,ワイヤ電極5に電圧が印加されるので,センサ17によってワイヤ電極5の当接状態が検出されることになる。
【0026】
この発明によるワイヤ自動供給装置におけるワイヤ自動供給方法は,次のようにして行うことができる。このワイヤ自動供給装置は,従来のコモンローラの機能を廃ワイヤクランプ15に持たして,ワイヤ電極5のアニール処理を行う際に,アニールローラであるワイヤ供給ローラ10と廃ワイヤクランプ15の絶縁されているワイヤ挟持部30とでワイヤ電極5を挟持し,ワイヤ供給ローラ10と廃ワイヤクランプ15のアースライン25に接続されたワイヤ挟持部30との間に通電してワイヤ電極5をアニール処理することに特徴を有している。即ち,このワイヤ自動供給方法では,ワイヤ放電加工機をスタートさせると,本体ヘッド1は,工作物6のスタートホール等の孔26の加工すべき位置へ相対移動し,ワイヤ自動供給装置が作動してワイヤ電極5が供給される。そこで,アニールローラであるワイヤ供給ローラ10は,作動してワイヤ電極5を供給すると,ワイヤ電極5は.ワイヤ供給ローラ10から供給パイプ13を通って廃ワイヤクランプ15のワイヤ挟持部30に挟持される。そこで,ワイヤ供給ローラ10,ワイヤ電極5及びワイヤ挟持部30に通電し,ワイヤ供給ローラ10とワイヤ挟持部30との間のワイヤ電極5をアニールする。次いで,アニールされたワイヤ電極5を廃ワイヤクランプ15が挟持している状態であるので,カッタユニット22を作動してカッタ14によってワイヤ電極5の先端部を切断し,切断されたワイヤ電極5を廃ワイヤクランプ15が廃ワイヤホッパへ移動させ,切断されたワイヤ電極5を廃ワイヤホッパに廃棄される。次いで,ワイヤ供給ローラ10のワイヤ電極5の送り出しに従って供給パイプ13が下降し,ワイヤ電極5が上ヘッド2,工作物6の孔26,次いで下ヘッド4に挿通され,更に,下ヘッド4から繰り出された消耗したワイヤ電極5は,図示していないが,ガイドローラを経てワイヤガイドパイプへと送り込まれ,ワイヤガイドパイプの後流に設けた引出しローラ,及び該引出しローラの後流に設けた吸引装置等によって吸引され,最後に廃ワイヤホッパに回収される。このワイヤ自動供給装置は,上記のように,従来のワイヤ自動供給装置ではコモンローラの作動時間を必要としたが,従来のようなコモンローラ11を不要にしたからその分だけワイヤ自動供給時間を短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
このワイヤ自動供給方法は,例えば,ワイヤ電極と工作物との間に加工電圧を印加して発生する放電エネルギで工作物を放電加工するワイヤ放電加工機に適用して使用される。
【符号の説明】
【0028】
1 本体ヘッド
2 上ヘッド
3 機械本体
4 下ヘッド
5 ワイヤ電極
6 工作物
7 ソースボビン
9 ブレーキローラ
10 ワイヤ供給ローラ
13 供給パイプ
14 カッタ
15 廃ワイヤクランプ
20 給電子
22 カッタユニット
23 絶縁材
24 ワイヤ電極送りユニット
25 アースライン
26 孔
27 揺動レバー
28 スライダ
29 クランプ支持体
30 ワイヤ挟持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体ヘッドに設けられたワイヤ供給ローラで機械本体に設けられたソースボビンから送り出されるワイヤ電極を挟持し,前記ワイヤ供給ローラを駆動して前記ワイヤ電極を供給パイプを通じて上ヘッド,前記上ヘッドの下方に設置された工作物,及び前記工作物の下方で前記上ヘッドに対向して配置された下ヘッドへ供給し,次いで前記ワイヤ電極を前記下ヘッドの下方に配設されたガイド部材を経て引出しローラで引き出して廃棄するように構成されているワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法において,
前記ソースボビンから送り出された前記ワイヤ電極の先端側を切断するための前記本体ヘッドに設けられたカッタ,及び前記ワイヤ電極を挟持してAWF廃ワイヤホッパへと廃棄するための前記カッタの下方に出入可能に配設された廃ワイヤクランプを備えており,前記ワイヤ供給ローラと前記廃ワイヤクランプのワイヤ挟持部とは前記本体ヘッドにそれぞれ絶縁して支持すると共に通電可能にそれぞれ構成されており,
前記ソースボビンから送り出される前記ワイヤ電極を上端側を前記ワイヤ供給ローラで挟持し且つ前記ワイヤ電極の下端側を前記廃ワイヤクランプで挟持し,前記ワイヤ供給ローラ,前記ワイヤ電極,及び前記廃ワイヤクランプの前記ワイヤ挟持部に通電して前記ワイヤ供給ローラと前記廃ワイヤクランプとの間の前記ワイヤ電極をアニール処理して前記ワイヤ電極のくせ取りをして前記ワイヤ電極を真直状態にすることを特徴とするワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法。
【請求項2】
前記ワイヤ電極の前記アニール処理は,前記工作物の加工位置へ前記ワイヤ電極を相対的に移動させると共に前記ワイヤ供給ローラを作動して前記ワイヤ電極を送り出し,前記ワイヤ電極を挟持する位置へ前記廃ワイヤクランプを移動させ,前記ワイヤ供給ローラによる前記ワイヤ電極の送りを停止して前記廃ワイヤクランプで前記ワイヤ電極を挟持し,前記ワイヤ供給ローラ,前記ワイヤ電極,及び前記廃ワイヤクランプに通電して前記ワイヤ供給ローラと前記廃ワイヤクランプとの間の前記ワイヤ電極をアニールし,前記アニールされた前記ワイヤ電極の予め決められた所定の位置を前記カッタで切断し,切断された前記ワイヤ電極を前記廃ワイヤクランプを移動させて前記AWF廃ワイヤホッパへ廃棄し,真直状態の前記ワイヤ電極を前記上ヘッド,前記工作物,及び前記下ヘッドへ供給することを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法。
【請求項3】
前記廃ワイヤクランプは,前記機械本体に固定されたガイドレールに沿って移動するスライダ,前記スライダに固定されたクランプ支持体,前記クランプ支持体で揺動可能に取り付けられた一対の揺動レバー,前記揺動レバーにそれぞれ絶縁材で絶縁して固定されてアースラインに接続され且つ前記ワイヤ電極を挟持するワイヤ挟持部を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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