説明

ワイヤ放電加工機におけるワイヤ送り方法

【課題】 このワイヤ送り方法は,ワイヤ電極が障害物に当接した状態でワイヤ電極送りローラのワイヤ電極の挟持状態を解放してワイヤ電極の弾性力でワイヤ電極を真直にし,ワイヤ自動供給を繰り返し実行して供給時間の短縮を図る。
【解決手段】 このワイヤ送り方法は,ワイヤ電極1の先端が上ヘッド3,工作物2及び下ヘッド4のいずれかの障害物に当接したことを当接センサ20が検出することに応答して,ワイヤ電極送りローラ10のワイヤ電極1の挟持を解放してワイヤ電極1の障害物への当接状態を開放し,引き続いてワイヤ電極送りローラ10でワイヤ電極1を挟持してワイヤ電極送りローラ10を駆動してワイヤ電極1のワイヤ自動供給を行い,この処理を予め決められた回数だけ実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,ワイヤ電極と工作物との間に加工電圧を印加して発生する放電エネルギによって工作物を放電加工するワイヤ放電加工機におけるワイヤ電極を少なくとも上ヘッド,工作物,次いで下ヘッドへとワイヤ自動供給するワイヤ送り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,ワイヤ放電加工機は,例えば,機械本体におけるヘッドには上ヘッドが設けられ,機械本体における下アームには下ヘッドが設けられており,上ヘッドは,ワイヤ電極を工作物へ供給する機能を果たし,下ヘッドは,上ヘッドの下方に対向して工作物を加工した後のワイヤ電極を受け取る機能を果たす。また,ワイヤ放電加工機は,下ヘッドから繰り出される放電加工を行った消耗したワイヤ電極を案内するため,下ヘッドの下方に設置されたガイドローラ,ガイドローラからのワイヤ電極を送り出すため設けられたワイヤガイドパイプ,及びワイヤガイドパイプの出口に近接して設けられたワイヤ電極を引き出す引出しローラを有している。また,ワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給装置は,ワイヤ電極が巻き上げられているソースボビン,該ソースボビンから送り出されるワイヤ送り系でのワイヤ電極の方向を転換する方向転換ローラ,送り出されるワイヤ電極にテンションを付与するテンションローラ,及びテンションが付与されたワイヤ電極に良好に繰り出されるようにブレーキをかけるブレーキローラを備えている。ワイヤ供給系における方向転換ローラを通過したワイヤ電極は,ヘッドに設けられた一対のワイヤ電極送りローラであるアニールローラと一対のコモンローラとを通過し,そこで,それらの間で給電子を通じて加工電源からの電流が与えられ,ワイヤ電極がアニールされ,次いで上ヘッドへ送り込まれる。また,アニールローラとコモンローラとの間には,ワイヤ電極の先端を良好にしたり,ワイヤ電極の断線時にワイヤ電極を切断するカッタが設けられている。上ヘッドを通過したワイヤ電極は,工作物との間で加工電圧が印加され,工作物を加工した後に,上ヘッドの下方に対向した下ヘッドに受け取られ,次いで,下ヘッドから繰り出された消耗したワイヤ電極は,ガイドローラを経てワイヤガイドパイプへと送り込まれる。更に,ワイヤ電極は,ワイヤガイドパイプの後流に設けた引出しローラ及び該引出しローラの後流に設けた吸引装置等によって吸引され,最後に廃ワイヤホッパに回収される。
【0003】
また,ワイヤカット放電加工装置におけるワイヤ電極挿通方法として,ワイヤ電極の加工開始への挿通不能状態と挿通不能状態の解消とを正確に検知,判別し,挿通不能状態に対するより的確な,確実な解消,及び挿通動作に移行させて挿通を実現するものが知られている。該ワイヤ電極挿通方法は,ワイヤ電極を送り出すローラ装置とワイヤ電極案内体の入口端に座屈センサによりワイヤ電極の座屈の有無を検出し,座屈が検出されないときはワイヤ電極先端が捕捉回収機構に至るまで送出し,座屈が検出されたときはローラを停止してワイヤ電極案内体と被加工体間に挿通孔サーチの所定パターンの相対移動を座屈解消までの間所定回数繰返し,座屈が解消したときは,ローラによるワイヤ電極の再送出に移行させ,他方座屈するか座屈が解消しないときは,ワイヤ電極を巻き戻して,以上の所定回数の再挿通操作に移行させる(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,ワイヤ電極の挿通方法として,ワイヤ電極が引っ掛かったときにワイヤ電極を初期に位置まで巻き戻すことなく,短い時間でワイヤ電極を確実に下穴に挿通するものが知られている。該ワイヤ電極の挿通方法は,ワイヤ電極が座屈したとき,送出ローラとガイドパイプとの間でワイヤ電極が弛む状態を保持して,ガイドパイプ内にジェットを供給しながらワイヤ電極を僅かに持ち上げ,ワイヤ電極を偏心ローラと従動ローラにより開放する動作を繰り返し行って,ワイヤ電極をジェット流と共に送り出すものである(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,ワイヤ放電加工機の自動ワイヤ供給方法として,供給側のワイヤ電極に対してアニール動作を行ってワイヤ電極を伸長させる工程が開示されているものが知られている。該自動ワイヤ供給方法は,給電ピンよりワイヤ電極に電流を流して供給側ワイヤ電極に対してアニール動作を行ってワイヤ電極を伸長させたので,ワイヤ電極の供給パイプを上ワイヤヘッドまで降下させ、ワイヤ供給ローラを駆動して工作物のワイヤ断線点における加工形状の加工孔にワイヤ電極を貫通させることができ,しかも,ワイヤ電極が真直に伸長しているので,工作物の断線点における加工スリット即ち加工孔が小さくても,該加工孔にワイヤ電極を確実に且つ迅速に貫通させることができる。また、上記自動ワイヤ供給方法は,ワイヤヘッドのワイヤ送出口をワイヤ断線点の加工孔から加工軌跡に沿って僅かに後退させ、上記のようにワイヤ供給ローラを駆動して加工形状の加工孔にワイヤ電極を貫通させたので,ワイヤ電極の先端が断線点縁部の工作物に障害されることなく,ワイヤ電極を加工孔即ち加工スリットにスムースに挿入することができ,ワイヤ供給或いは結線の成功率を大幅に向上させることができる(例えば,特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平9−108950号公報
【特許文献2】特開2006−231417号公報
【特許文献3】特開平2−145215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで,従来のワイヤ放電加工機は,ワイヤ電極の先端が上ヘッド,工作物,或いは下ヘッドに当接すると,その当接を検出して,ワイヤ電極送りローラの駆動を停止させ,ワイヤ電極の先端から予め決められた所定の長さのワイヤ電極を切断排除し,新たなワイヤ電極により所定の挿通パターンを繰り返して再度ワイヤ自動供給を再開していた。ワイヤ電極の先端が上ヘッド,工作物,或いは下ヘッドに当接した後,ワイヤ自動供給の再トライに時間を要した。上記のワイヤ放電加工機では,ワイヤ電極のワイヤ自動供給を再トライを繰り返す回数が増す度に,ワイヤ自動供給によるワイヤ電極の自動結線動作に更なる時間を要するという問題が有った。
【0007】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,ワイヤ電極の先端が上ヘッド,工作物,或いは下ヘッドの障害物に当接した時に,該当接をセンサで検出してワイヤ電極送りローラのワイヤ電極の挟持を解放してワイヤ電極送りローラの駆動を停止し,ワイヤ電極送りローラによるワイヤ電極の挟持解放で発生するワイヤ電極の弾性力によって上方に逃げて当接による座屈即ち曲がりを解消させ,直ちにワイヤ電極送りローラでワイヤ電極を挟持して駆動し,ワイヤ電極の挿通孔へのワイヤ自動供給を再トライさせ,それによって再トライまでの時間を短縮させ,自動結線動作を短縮することを特徴とするワイヤ放電加工機におけるワイヤ送り方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は,ソースボビンから送り出されるワイヤ電極をワイヤ電極送りローラで挟持し,前記ワイヤ電極送りローラを駆動して前記ワイヤ電極を上ヘッド,該上ヘッドの下方に設置された工作物,及び該工作物の下方で前記上ヘッドに対向して配置された下ヘッドへ供給し,次いで前記ワイヤ電極を前記下ヘッドの下方に配置されたガイド部材を経てワイヤ巻取ローラ及び廃ワイヤホッパへとワイヤ自動供給するワイヤ放電加工機におけるワイヤ送り方法において,
前記ワイヤ電極の先端が前記上ヘッド,前記工作物及び前記下ヘッドのいずれかの障害物に当接したことを当接センサが検出することに応答して,前記ワイヤ電極送りローラによる前記ワイヤ電極の挟持を解放して前記ワイヤ電極の前記障害物への当接状態を解除し,引き続いて前記ワイヤ電極送りローラで前記ワイヤ電極を挟持して前記ワイヤ電極送りローラを駆動して前記ワイヤ電極のワイヤ自動供給を行うことを特徴とするワイヤ送り方法に関する。
【0009】
このワイヤ送り方法において,前記当接センサは前記ワイヤ電極送りローラの下方に位置する前記供給パイプを保持する供給パイプホルダのホルダ上部に設置されており,前記当接センサによる前記ワイヤ電極の前記障害物への当接の検出は,前記ワイヤ電極送りローラと前記ホルダ上部とに電圧が印加されて所定の電位であるのに対して,前記ワイヤ電極の当接によって前記ワイヤ電極が前記ホルダ上部に接触すると,前記ワイヤ電極送りローラと前記ホルダ上部との間の前記所定の電位に変化が発生して検知されるものである。
【0010】
また,このワイヤ送り方法は,前記ワイヤ電極の前記先端の前記障害物への当接状態を予め決められた回数だけ,前記ワイヤ電極送りローラによる前記ワイヤ電極のワイヤ自動供給を繰り返すものである。更に,このワイヤ送り方法は,前記予め決められた回数以上の前記当接状態の発生に応答して前記ワイヤ電極の前記先端から予め決められた所定の長さを切断排除する処理を行い,次いで,新たな先端を持つ前記ワイヤ電極によりワイヤ自動供給を繰り返すものである。
【0011】
また,このワイヤ送り方法は,前記ワイヤ電極の前記障害物への前記当接状態に応答して前記ワイヤ電極を切断排除して前記新たな先端を持つ前記ワイヤ電極によるワイヤ自動供給を予め決められた所定の回数だけ行っても前記ワイヤ電極の前記先端の前記障害物への当接状態を回避できないことに応答して,前記工作物の所定の加工形状へのワイヤ自動供給をスキップして,前記工作物の次の加工形状又は別の新たな工作物に対して前記ワイヤ電極のワイヤ自動供給を行うものである。
【0012】
或いは,このワイヤ送り方法は,前記ワイヤ電極の前記障害物への前記当接状態に応答して前記ワイヤ電極を切断排除して前記新たな先端を持つ前記ワイヤ電極によるワイヤ自動供給を予め決められた所定の回数だけ行っても前記ワイヤ電極の前記先端の前記障害物への当接状態を回避できないことに応答して,前記ワイヤ電極のワイヤ自動供給を停止し,アラームを出力するものである。更に,前記アラームは,前記ワイヤ放電加工機のコンピュータからパソコン及び/又は携帯電話に発信できるものである。
【0013】
また,このワイヤ送り方法において,前記ワイヤ電極のワイヤ自動供給は,前記ワイヤ電極の前記先端を含めた予め決められた所定の長さの前記ワイヤ電極をアニール処理した後に,前記ワイヤ電極送りローラを駆動して前記ワイヤ電極のワイヤ自動供給を行うものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によるワイヤ放電加工機におけるワイヤ送り方法は,上記のように,ワイヤ電極の先端が上ヘッド,工作物又は下ヘッドの障害物に当接状態になってワイヤ電極のワイヤ自動供給が失敗した時に,ワイヤ電極送りローラによるワイヤ電極の挟持を解放してワイヤ電極をその弾性力で上方へ逃がして真直にさせて座屈即ち曲がりを無くし,引き続きワイヤ自動供給の再トライの動作に移行するので,ワイヤ自動供給の再トライまでの時間を短縮でき,ワイヤ電極のワイヤ自動供給の工作物加工前の段取り時間が大幅に短縮できる。このワイヤ送り方法は,特に,工作物の1mm以下のスタートホール,ワイヤ放電加工された加工スリット,又はワイヤ電極の断線地点の加工形成スリット即ち加工形状等へのワイヤ電極を自動供給により挿通するときに,スタートホールや加工スリットの僅かなズレ,及びワイヤ電極の巻き癖によるワイヤ電極の先端と挿通位置の相関位置ズレがある場合,及びワイヤ電極の挿通孔に不純物がある場合に,上記のワイヤ自動供給の動作を繰り返すことによってワイヤ電極の挿通孔への挿通確率を大幅に改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下,図1〜図4を参照して,この発明によるワイヤ放電加工機におけるワイヤ送り方法の実施例を説明する。このワイヤ送り方法は,ワイヤ放電加工機に適用できるものであり,ワイヤ放電加工機は,例えば,少なくともソースボビン(図示せず)から繰り出されるワイヤ電極1をガイドローラ5やブレーキローラ15を通って上ヘッド3,上ヘッド3の下方に取り付けられた工作物2,工作物2の下方で上ヘッド3に対向し且つ工作物2を加工した後のワイヤ電極1を受け取る下ヘッド4,工作物2とワイヤ電極1との間に加工電圧をかけるため工作物2の上下流に配置され且つワイヤ電極1に加工電源(図示せず)からの放電電流を供給する給電ブラシである給電子17,18,及び下ヘッド4から繰り出されたワイヤ電極1を収容する絶縁状態になっている廃ワイヤホッパ(図示せず)を有する。また,給電子17,18は,ワイヤ電極送りユニット30と本体ヘッド12に設けられたワイヤ電極切断ユニット31とにそれぞれ設けられている。ワイヤ放電加工機のワイヤ供給系におけるワイヤ電極1は,床,本体ヘッド12等の物体に対して絶縁されているものであり,例えば,合成樹脂等の絶縁材料で作られている。
【0016】
ワイヤ放電加工機におけるワイヤ電極送りユニット30は,本体ヘッド12に設けられた供給パイプ駆動シリンダ14の作動によって軌道レール(図示せず)に沿って上下に往復移動できるように構成されている。ワイヤ電極送りユニット30には,ワイヤ電極1を挟持して供給する一対の開閉自在なワイヤ電極送りローラ10,ワイヤ電極送りローラ10を駆動する駆動モータ19,ワイヤ電極1の挿通を助ける糸道サポート21,供給パイプ8を支持する供給パイプホルダ23,供給パイプ8にエアを吹き込むエア給入口22,ワイヤ電極送りローラ10に給電する給電ブラシでなる給電子17,ワイヤ電極送りローラ10を開閉させてワイヤ電極1を挟持したり解放する開閉シリンダ16,及び供給パイプホルダ23のホルダ上部32に設置されたワイヤ電極先端当接センサ20が設けられている。即ち,当接センサ20は,ワイヤ電極送りローラ10の下方に位置する供給パイプ8を保持する供給パイプホルダ23のホルダ上部32に設置されている。ワイヤ電極先端当接センサ20は,ワイヤ電極1の先端が上ヘッド3,工作物2又は下ヘッド4の障害物に当接した時のワイヤ電極1の曲がりをキャッチしてワイヤ電極1の障害物への当接状態を検出するものである。また,ワイヤ電極切断ユニット31は,本体ヘッド12の下端に設けられており,ワイヤ電極送りユニット30の上下往復移動に伴って供給パイプ8が挿通自在になるように構成されている。ワイヤ電極切断ユニット31には,ワイヤ電極1を挟持する一対の開閉自在なコモンローラ11,コモンローラ11の上方に設置されたカッタ13,コモンローラ11に給電する給電子18,及び下端部に設けられたワイヤ端検知センサ24が設けられている。
【0017】
このワイヤ放電加工機では,供給パイプ8を通ったワイヤ電極1は,ワイヤ電極送りローラ10の低速回転によって,まず,上ヘッド3に供給され,上ヘッド3から工作物2,次いで下ヘッド4へと供給される。ワイヤ電極1が下ヘッド4を通過した後には,ワイヤ電極送りローラ10は高速回転に切り換えられ,下ヘッド4から繰り出されたワイヤ電極1は,方向転換部25に設けた方向転換ローラ26から噴流ガイドパイプ6,噴流ガイドパイプ6の出口に設けた水分離部29,及び水分離部29の下流に設置されたワイヤ巻取ローラ7を順次通過して,ワイヤ巻取ローラ7で引き出されて廃ワイヤホッパに回収される。方向転換部25には,噴流ガイドパイプ6へ液体である水を送り込むため,ポンプ等から送り込まれた噴流を取り込むための噴流入口27,及び噴流入口27から流入した水を噴流ガイドパイプ6へ供給する供給口28が設けられている。
【0018】
このワイヤ放電加工機におけるワイヤ送り方法は,特に,ワイヤ電極1のワイヤ自動供給方法に特徴を有するものであり,ワイヤ電極1が上ヘッド3の挿通孔,工作物2のスタートホール等の孔33,下ヘッド4の挿通孔の順で挿通する過程で,ワイヤ電極1の先端が上ヘッド3,工作物2又は下ヘッド4のいずれかに当接して孔に挿通しない当接状態が発生すると,駆動しているワイヤ電極送りローラ10と供給パイプホルダ23のホルダ上部32との間で,ワイヤ電極1が座屈即ち曲がって供給パイプホルダ23のホルダ上部32に接触することになり,ワイヤ電極1がホルダ上部32で接触すると,ワイヤ電極送りローラ10がワイヤ電極1の挟持を解放し,ワイヤ電極送りローラ10によるワイヤ電極1の供給が停止する。ワイヤ電極送りローラ10とワイヤ電極1は所定の電位,即ち,ほぼ同電位又は僅かな電位差の状態にあり,ワイヤ電極1の座屈によりワイヤ電極1が供給パイプホルダ23のホルダ上部32と接触すると,ワイヤ電極送りローラ10とホルダ上部32との間の所定の電位に変化,即ち,ほぼ同電位に電位差が発生又は僅かな電位差に変化が発生することになり,ワイヤ電極1がホルダ上部32に接触したこと即ちワイヤ電極1が障害物に当接したことを検出できる。ワイヤ電極送りローラ10がワイヤ電極1を解放することで,上ヘッド3,工作物2又は下ヘッド4のいずれかに当接し屈折されたワイヤ電極1の先端の当接が開放される。ワイヤ電極送りローラ10が開いたことによって,当接し屈折したワイヤ電極1がワイヤ電極1の弾性力により上方に逃げ,ワイヤ電極1の先端の当接が開放される。ワイヤ電極1の上ヘッド3,工作物2又は下ヘッド4への当接が開放されると,供給パイプ内を供給パイプ上部から下部にエアブローを行う。その後,ワイヤ電極送りローラ10が閉じてワイヤ電極1を挟持し,再びワイヤ電極送りローラ10を駆動させ,ワイヤ電極1のワイヤ自動供給を実行する。
【0019】
次に,この発明によるワイヤ放電加工機におけるワイヤ送り方法について,図5の処理フロー図を参照して,ワイヤ電極1をアニール処理する場合のワイヤ電極供給動作を説明する。
【0020】
このワイヤ放電加工機は,ソースボビンからのワイヤ電極1の供給指令を発して動作させられる。まず,ステップS1として,ワイヤ電極送りローラ10の開閉シリンダ16を作動して,ワイヤ電極送りローラ10によってワイヤ電極1を挟持すると共に,コモンローラ11の開閉シリンダを作動して,コモンローラ11によってワイヤ電極1を挟持する。ワイヤ電極送りローラ10とコモンローラ11との間で挟持されている供給パイプ8内のワイヤ電極1に電流を流し,ワイヤ電極1をアニールする。ワイヤ電極1のアニール時には,ワイヤ電極送りローラ10をワイヤ電極送りとは逆方向に回転させてワイヤ電極1にテンションを与えながらワイヤ電極1をアニールする。ワイヤ電極1をアニールした後に,供給パイプ8内にエア給入口22からエアブローしてワイヤ電極1を冷却する。ワイヤ電極1は適正なアニール電流値,アニール時間及びエアブローによって,ワイヤ電極1の巻き癖を矯正してワイヤ電極1の真直性を確保する。ワイヤ電極1の径に応じてアニール電流値,アニール時間及びエアブロー時間はそれぞれ適正に設定されている。ワイヤ電極1のアニール及びエアブローの回数は,所定回数,例えば,2回行われる。ワイヤ電極1のアニール時には,ワイヤ電極送りローラ10には給電子17を通じて,また,コモンローラ11には給電子18を通じて電流が給電される(ステップS1)。
【0021】
次いで,ワイヤ電極送りローラ10の開閉シリンダ16を作動して,ワイヤ電極送りローラ10によってワイヤ電極1を挟持し,ワイヤ電極1をワイヤ電極送りローラ10で挟持した状態で,供給パイプ8と共に供給パイプ8の先端を上ヘッド3まで下降させる(ステップS2)。ワイヤ電極送りローラ10を低速回転させ,ワイヤ電極1を供給し,ワイヤ電極1を上ヘッド3から工作物2のスタートホール等の孔33を通して下ヘッド4へと挿通させる(ステップS3)。この処理工程において,ワイヤ電極1の先端が上ヘッド3から工作物2を通って下ヘッド4へと順次挿通する途中で,ワイヤ電極1の先端が上ヘッド3,工作物2,下ヘッド4等の何らかの障害物に当接し,ワイヤ電極1が撓んだり屈折して曲がると,ワイヤ電極先端当接センサ20がワイヤ電極1の撓みを検出する。ワイヤ電極1の撓みの検出は,ワイヤ電極送りローラ10と供給パイプホルダ23のホルダ上部32,即ち,ワイヤ電極先端当接センサ20との間に電圧が印加されているので,ワイヤ電極1の撓みはワイヤ電極先端当接センサ20に接触することによって検出される。ワイヤ電極送りローラ10には,給電子17を通して給電され,ワイヤ電極送りローラ10が閉じてワイヤ電極1を挟持した状態で,ワイヤ電極1に電圧が印加されるので,ワイヤ電極先端当接センサ20によってワイヤ電極1の当接状態が検出されることになる(ステップS4)。
【0022】
ステップS4において,ワイヤ電極1の撓みがワイヤ電極先端当接センサ20で検出されない時には,ワイヤ電極1が上ヘッド3から工作物2のスタートホール等の孔を通して下ヘッド4へと順調に挿通された状態であり,そこで,ワイヤ電極送りローラ10でワイヤ電極1を挟持した状態でワイヤ電極送りローラ10を作動し,ワイヤ電極1を予め決められた所定の長さ供給し,ワイヤ電極1を方向転換部25の方向転換ローラ26を通って噴流ガイドパイプ6へ送り込み(ステップS5),水分離部29からワイヤ巻取ローラ7へと供給し,ワイヤ電極1はワイヤ巻取ローラ7へと受け渡され,ワイヤ巻取ローラ7がワイヤ電極1を挟持し,ワイヤ電極送りローラ10を開放してワイヤ電極1の挟持を解放し,その後,ワイヤ電極1はワイヤ巻取ローラ7で引き出されることになる。そこで,ワイヤ放電加工機においてワイヤ電極1が所定の状態に供給され,ワイヤ電極1にテンションを掛けた状態でワイヤ電極1が結線されたことを確認する(ステップS6)。ステップS6において,ワイヤ電極1が上ヘッド3,工作物2,下ヘッド4,次いでワイヤ巻取ローラ7へと供給されない状態を確認すると,ステップS13のワイヤ電極1の切断処理へと進み,また,ワイヤ電極1の所定の長さを供給し,ワイヤ電極1の結線が確認されると,ワイヤ電極1のワイヤ電極送りローラ10の回転速度をアップして高速回転し,ワイヤ巻取ローラ7へと供給し,ワイヤ電極1の送り動作が完了する(ステップS7)。次いで,このワイヤ放電加工機は,通常どうりに作動されて,工作物2をワイヤ電極1で放電加工することになる(ステップS7)。
【0023】
また,このワイヤ放電加工機において,上ヘッド3,工作物2,下ヘッド4に形成されている挿通部は,ワイヤ電極1の径に対して小さ過ぎるクリアランスであるため,僅かな障害物でもワイヤ電極1の挿通に影響を受けることになる。そこで,ワイヤ電極1のスムーズな挿通を達成するため,上ヘッド3から下ヘッド4までのワイヤ電極1の供給を低速で行って,ワイヤ電極1の送りを確実に行い,ワイヤ電極1の先端が障害物に当接した時にワイヤ電極1が屈曲し,ワイヤ電極1の供給が続行できなくなる状態を避けるようにされている。ワイヤ電極1の低速送りは,ワイヤ電極1の径に応じて適正に決められている。また,ワイヤ電極1が下ヘッド4を挿通した後には,障害物の影響を受け難いので,ワイヤ電極送りローラ10の回転をアップし,ワイヤ電極1の送りを高速送りに切り換え,ワイヤ電極1の供給時間を短縮し,ワイヤ放電加工機のサイクルタイムを短縮し,段取り時間を短縮して効率を上げる。
【0024】
また,ステップS4において,ワイヤ電極1の撓みがワイヤ電極先端当接センサ20で検出されると,開閉シリンダ16を作動してワイヤ電極送りローラ10を開き,ワイヤ電極1の挟持状態を解放し,ワイヤ電極送りローラ10の回転を停止させる。ワイヤ電極送りローラ10がワイヤ電極1を解放すると,ワイヤ電極1は,その弾性によりワイヤ電極1が撓んでいた部分とワイヤ電極1の先端の障害物との当接部がばねとなってワイヤ電極1が跳ね上がり,ワイヤ電極1の先端の当接状態が解消し,ワイヤ電極1とワイヤ電極先端当接センサ20との接触も解除する。次いで,供給パイプ8の上部側から下部側へとエア給入口22を通じてエアブローを行って供給パイプ8内のワイヤ電極1を揺振動させる。ワイヤ電極1を揺振動させると,ワイヤ電極1の先端が障害物との当接を確実に解除できるようになる(ステップS8)。
【0025】
ステップS9の処理は,予め決められた回数だけ繰り返し行うことにし,予め決められた回数以下であってワイヤ電極1の障害物への当接状態が解消しないのであれば,ステップS10に進み,また,予め決められた回数以上であれば,ワイヤ電極1の障害物への当接状態は,例えば,ワイヤ電極1の先端状態が曲がってしまって上ヘッド3の挿通孔,工作物2のスタートホール33等の孔或いは下ヘッド4の挿通孔に挿通できる状態でないとしてステップS11に進む(ステップS9)。ステップS10において,ワイヤ電極1が上ヘッド3,工作物2,下ヘッド4等の何らかの障害物に当接状態が解消しないので,ワイヤ電極1の障害物への当接状態の解消のため,再度ワイヤ電極1をワイヤ電極送りローラ10で挟持して,ステップS3に進んで処理を繰り返す。ステップS9において,当接状態解消操作の繰り返し作動が予め決められた回数以上であれば,例えば,ワイヤ電極1の先端状態の悪化が予想されるので,ワイヤ電極1の先端から所定の長さのワイヤ電極1を切除する指令を発する(ステップS11)。ワイヤ電極1の先端からの所定の長さの切除回数が予め決められた回数以下であれば,ステップS13に進み,また,予め決められた回数以上であれば,工作物2に形成されているスタートホール等の孔が不十分であったり,別の障害物が詰まっている状況である恐れがあるので,その時にはアラームを発したり,或いは工作物2の所定の孔へのワイヤ電極1の挿通を停止し,工作物2の別の加工形状,別の箇所のスタートホール等の孔,或いは工作物2を交換する操作を行うことにする(ステップS12)。
【0026】
このワイヤ送り方法において,ワイヤ電極1を供給する作動の途中で,ステップS4におけるワイヤ電極1の当接状態がワイヤ電極先端当接センサ20で検出された時には,予め決められたパラメータに所定の回数,例えば,5回が設定され,5回繰り返されることになるが,その回数を繰り返してもワイヤ電極1がワイヤ電極送りローラ10の低速回転で所定の長さを送り込むことができなければ,ワイヤ電極1の供給動作を中断し,ワイヤ電極1の先端から所定の長さの切断処理の指令を発する(ステップS13)。
【0027】
ワイヤ電極1の先端から所定の長さの切断指令により,供給パイプ8を上昇端まで上昇させ,ワイヤ電極1の先端がワイヤ端センサで検出される位置まで,ソースボビンをワイヤ電極送りとは逆の方向に回転させてワイヤ電極1を巻き上げる(ステップS14)。ワイヤ端センサがワイヤ電極1の先端を検出すると,ソースボビンによるワイヤ電極1の巻き上げを停止する。次いで,ワイヤ電極送りローラ10の開閉シリンダ16を作動してワイヤ電極送りローラ10を閉じてワイヤ電極1を挟持する。次いで,ワイヤ電極1をワイヤ電極送りローラ10で挟持した状態でワイヤ電極1と共に供給パイプ8を所定の距離だけ下降させ,次いで,ワイヤ電極送りローラ10を開放してワイヤ電極1を解放し,供給パイプ8を上昇端まで上昇させと,供給パイプ8の上昇によって供給パイプ8の下端より下方には,下降した状態のワイヤ電極1が露出状態になり,剥き出しのワイヤ電極1の長さは,略下降した距離に相当している(ステップS15)。次に,露出したワイヤ電極1は,ワイヤ電極1の先端の当接状態の繰り返しの検出のため,ワイヤ電極1の先端が損傷しているので,カッタ13を作動して切断して排除する。この時,ワイヤ電極送りローラ10の開閉シリンダ16を作動してワイヤ電極送りローラ10を閉じてワイヤ電極1を挟持すると共に,コモンローラ11の開閉シリンダを作動してコモンローラ11を閉じてワイヤ電極1を挟持する。そこで,ワイヤ電極送りローラ10とコモンローラ11とで挟持されたワイヤ電極1は,コモンローラ11より少し上方の位置でカッタ13を作動して切断し,切断されたワイヤ電極1は排ワイヤクランプで排除される(ステップS16)。排ワイヤクランプで把持されたワイヤ電極1は,排ワイヤ回収箱に回収されワイヤ電極切断処理が完了することになる(ステップS17)。次いで,このワイヤ送り方法は,ステップS1の処理が繰り返されることになる。
【0028】
次に,この発明によるワイヤ放電加工機におけるワイヤ送り方法について,図6の処理フロー図を参照して,ワイヤ電極1をアニール処理しない場合のワイヤ電極供給動作を説明する。ワイヤ電極1をアニールしない場合には,上記の処理において,ステップS1の処理工程が無いのみであり,ワイヤ電極供給動作は,ステップS2〜ステップS17が行われることになり,これらの処理は同様であるので,ここではその説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0029】
このワイヤ送り方法は,ワイヤ電極と工作物との間に加工電圧を印加して発生する放電エネルギで工作物を放電加工するワイヤ放電加工機に適用して使用される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明によるワイヤ送り方法を備えたワイヤ放電加工機の実施例を示し,供給パイプが上昇端に位置する状態を示す説明図である。
【図2】図1のワイヤ放電加工機の要部を示す拡大説明図である。
【図3】図1のワイヤ放電加工機を示し,供給パイプが下降端に位置する状態を示す説明図である。
【図4】図3のワイヤ放電加工機の要部を示す拡大説明図である。
【図5】この発明によるワイヤ放電加工機におけるワイヤ送り方法の一実施例の作動であってワイヤ電極をアニール処理する場合の処理フロー図である。
【図6】この発明によるワイヤ放電加工機におけるワイヤ送り方法の別の実施例の作動であってワイヤ電極をアニール処理しない場合の処理フロー図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ワイヤ電極
2 工作物
3 上ヘッド
4 下ヘッド
5 ガイドローラ
8 供給パイプ
10 ワイヤ電極送りローラ
11 コモンローラ
20 ワイヤ電極先端当接センサ
24 ワイヤ先端検知センサ
33 スタートホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソースボビンから送り出されるワイヤ電極をワイヤ電極送りローラで挟持し,前記ワイヤ電極送りローラを駆動して前記ワイヤ電極を供給パイプを通じて上ヘッド,該上ヘッドの下方に設置された工作物,及び該工作物の下方で前記上ヘッドに対向して配置された下ヘッドへ供給し,次いで前記ワイヤ電極を前記下ヘッドの下方に配置されたガイド部材を経てワイヤ巻取ローラ及び廃ワイヤホッパへとワイヤ自動供給するワイヤ放電加工機におけるワイヤ送り方法において,
前記ワイヤ電極の先端が前記上ヘッド,前記工作物及び前記下ヘッドのいずれかの障害物に当接したことを当接センサが検出することに応答して,前記ワイヤ電極送りローラによる前記ワイヤ電極の挟持を解放して前記ワイヤ電極の前記障害物への当接状態を解除し,引き続いて前記ワイヤ電極送りローラで前記ワイヤ電極を挟持して前記ワイヤ電極送りローラを駆動して前記ワイヤ電極のワイヤ自動供給を行うことを特徴とするワイヤ送り方法。
【請求項2】
前記当接センサは前記ワイヤ電極送りローラの下方に位置する前記供給パイプを保持する供給パイプホルダのホルダ上部に設置されており,前記当接センサによる前記ワイヤ電極の前記障害物への当接の検出は,前記ワイヤ電極送りローラと前記ホルダ上部とに電圧が印加されて所定の電位であるのに対して,前記ワイヤ電極の当接によって前記ワイヤ電極が前記ホルダ上部に接触すると,前記ワイヤ電極送りローラと前記ホルダ上部との間の前記所定の電位に変化が発生して検知されることを特徴とする請求項1に記載のワイヤ送り方法。
【請求項3】
前記ワイヤ電極の前記先端の前記障害物への当接状態を予め決められた回数だけ,前記ワイヤ電極送りローラによる前記ワイヤ電極のワイヤ自動供給を繰り返すことを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤ送り方法。
【請求項4】
前記予め決められた回数以上の前記当接状態の発生に応答して前記ワイヤ電極の前記先端から予め決められた所定の長さを切断排除する処理を行い,次いで,新たな先端を持つ前記ワイヤ電極によりワイヤ自動供給を繰り返すことを特徴とする請求項3に記載のワイヤ送り方法。
【請求項5】
前記ワイヤ電極の前記障害物への前記当接状態に応答して前記ワイヤ電極を切断排除して前記新たな先端を持つ前記ワイヤ電極によるワイヤ自動供給を予め決められた所定の回数だけ行っても前記ワイヤ電極の前記先端の前記障害物への当接状態を回避できないことに応答して,前記工作物の所定の加工形状へのワイヤ自動供給をスキップして,前記工作物の次の加工形状又は別の新たな工作物に対して前記ワイヤ電極のワイヤ自動供給を行うことを特徴とする請求項4に記載のワイヤ送り方法。
【請求項6】
前記ワイヤ電極の前記障害物への前記当接状態に応答して前記ワイヤ電極を切断排除して前記新たな先端を持つ前記ワイヤ電極によるワイヤ自動供給を予め決められた所定の回数だけ行っても前記ワイヤ電極の前記先端の前記障害物への当接状態を回避できないことに応答して,前記ワイヤ電極のワイヤ自動供給を停止し,アラームを出力することを特徴とする請求項4に記載のワイヤ送り方法。
【請求項7】
前記アラームは,前記ワイヤ放電加工機のコンピュータからパソコン及び/又は携帯電話に発信できることを特徴とする請求項6に記載のワイヤ送り方法。
【請求項8】
前記ワイヤ電極のワイヤ自動供給は,前記ワイヤ電極の前記先端を含めた予め決められた所定の長さの前記ワイヤ電極をアニール処理した後に,前記ワイヤ電極送りローラを駆動して前記ワイヤ電極のワイヤ自動供給を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のワイヤ送り方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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