説明

ワイヤ放電加工機

【課題】 このワイヤ放電加工機は,極細線のワイヤ電極を供給から回収までスムーズに且つ確実に行い,ワイヤ電極の供給によって発生するトラブルを防止する。
【解決手段】 消耗したワイヤ電極1を送り出す送りパイプ10は,ガイドローラ7に接続し且つ水切り部20を備えた固定パイプ11,及び固定パイプ11に接続した伸縮パイプ12から構成されている。伸縮パイプ12は,水切り部20を往復移動する第1パイプ13と第1パイプ13に嵌合して巻取りローラ17の手前と隔置した巻取りローラ17間を挿通した位置とを往復移動する第2パイプ14から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,極細のワイヤ電極を構成するワイヤをワイヤ送り系に供給するワイヤ自動供給装置を備え,ワイヤ電極とワークとの間に極間電圧を印加して発生する放電エネルギでワークを放電加工するワイヤ放電加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,浸漬形のワイヤ放電加工機は,図7又は図8に示すように,機台15上に載置されたYテーブル18,Yテーブル18上に載置されたXテーブル19には加工槽3が設置されている。また,ワイヤ放電加工機は,ワイヤ電極1となるワイヤを巻き上げたソースボビン46からワーク2の加工領域へ送り込み,ワーク2を放電加工した後に,加工済みのワイヤ電極1を廃ワイヤホッパ(図示せず)へ廃棄するものである。加工槽3には加工液8が入れられ,加工槽3内に設置されたワーク2を放電加工するため,ソースボビン46から供給されたワイヤ電極1を上ヘッド4を通じてワーク2の加工領域に供給し,ワーク2を放電加工して消耗したワイヤ電極1は,下ヘッド5の下方に設けた水流ノズル16から噴出される水流によってガイドローラ7,送りパイプ9及び巻取りローラ17によって巻き取られるものであり,ワイヤ電極1の下ヘッド5から巻取りローラ17までのワーク送り系において水流を利用している。下ヘッド5は,機台15に設けられた下アーム6に配置されている。送りパイプ9は,下アーム6を貫通して配設されている。
【0003】
また,ワイヤ放電加工機は,図7に示すように,巻取りローラ17を水で濡らさないように,巻取りローラ17の直前に水切り部29を設けたものが知られている。このようなワイヤ放電加工機は,ガイドローラ7の近傍に水噴出ノズル16が設けられ,水流ノズル16から噴出される水流によって送りパイプ9内をワイヤ電極1と共に送り出された水を水切り部29で水切りしてドレーン28を通じて濾過装置(図示せず)へと排水している。上記ワイヤ放電加工機では,水噴出ノズル16からの水流はガイドローラ7の接線方向に下面側を通って送りパイプ9に侵入し,その時,水流がワイヤ電極1を同伴して送りパイプ9内を進行し,次いで,水は水切り部29においてドレーン28を通って排水され,ワイヤ電極1は巻取りローラ17へと送り込まれて巻取りローラ17で挟持されて送り出され,廃ワイヤホッパ(図示せず)へ廃棄される。
【0004】
また,従来の浸漬形ワイヤ放電加工機におけるワイヤ送り装置は,図7に示すように,細線のワイヤ電極1とワーク2との間に極間電圧を印加して発生する放電エネルギでワーク2を放電加工するため,ワイヤ電極1をワーク2に形成されたスタートホールや加工スリット39に貫通させる。機台15に設けられた下アーム6は,加工液8を入れた加工槽3の長孔38を貫通し,ローラハウジング37内に下ヘッド5を支持している。加工槽3は,Xテーブル19に設置され,ワーク2は加工槽3内でXテーブル19上にクランプ等で固定される。上ヘッド4は,機台15に対して上下動可能に取り付けられている。ワーク2は,上ヘッド4と下ヘッド5との間に配設される。下ヘッド5の下流側には,ローラハウジング37に回転自在に支持されたガイドローラ7,及び下アーム6内を貫通する送りパイプ9が設けられている。ワーク2を放電加工した後の廃ワイヤであるワイヤ電極1は,ガイドローラ7及び送りパイプ9を通って巻取りローラ17によって引き出され,加工槽3に隣接したワイヤホッパ等にガイド板等にガイドされて廃棄される。ローラハウジング37内に位置する送りパイプ9の入口36にワイヤ電極1を挿通するため,送りパイプ9内へ水流を噴き込む水流ノズル16が設けられている。巻取りローラ17は,送りパイプ9の下流側に水切り部29が設けられ,機台15の外側に位置する送りパイプ9の出口35に近接して設けられ,機台15に設けたブラケット等に取り付けられている。
【0005】
従来,ワイヤ放電加工機について,キャプスタンローラとピンチローラとに液体が接触することを防ぎ,ワイヤ電極がこれらのローラに絡み付くのを防止するタイプが知られている。該ワイヤ放電加工機は,被加工物との間に放電を発生させるワイヤ電極と,ワイヤ電極を挟持して送る第1ローラと第2ローラとが対向している対向部に液体を流すことによってローラ間にワイヤ電極を挿通させるワイヤ搬送手段と,ワイヤ搬送手段の先端を対向部の近傍に移動させると共にワイヤ電極がローラ間に完了した後に,ワイヤ搬送手段の先端を対向部から所定距離遠ざける駆動手段とを備えている。ワイヤ搬送手段は,案内部材と該案内部材上を摺動するノズル部材とを備えており,ノズル部材は,ローラの対向部に対して近傍への移動と遠ざかり位置との間を案内部材上を摺動して移動するものである(例えば,特許文献1参照)。
【0006】
また,ワイヤ放電加工機において,ワイヤ電極を巻き取るための一対の巻取りローラが開閉するワイヤ電極回収機構を備えたものが知られている。該ワイヤ放電加工装置は,ワイヤ電極を回収するため,ガイドブロックに設けたパイプブロックに接続した案内パイプ,及び案内パイプの下流に一対のピンチローラを備えている。一方のピンチローラは,梃子によって押し上げられ,ワイヤ回収スイッチが投入される前に,バネの力によって他方のピンチローラに押圧されていた一方のピンチローラが他方のピンチローラから離隔し,次いでモータが駆動してポンプが起動し,水がガイドブロックに設けた液体導入路を通じて案内パイプから噴出し,それと共にワイヤ電極が回収箱へ回収される(例えば,特許文献2参照)。
【0007】
また,ワイヤ放電加工機が高精度を要求されるに伴い,ワイヤ電極が細径になったが,極細線はバネ性が小さいため,水に濡れると送給ローラに巻き付いたりして運転が出来なくなることがあるが,その現象が発生するのを防止するものも開発されている。該ワイヤ放電加工機は,送給ローラより送り出されたワイヤ電極をワイヤ案内装置を通して箱内にランダムに収容する。ワイヤ案内装置は圧力ポンプより両サイドから水を圧入し,ガイド内の溝部より水と共にワイヤ電極を箱内に排出したものである。ワイヤ電極は,送給ローラに巻き付くことなく,安定して排出され箱内に収納されるため,ワイヤ放電加工機の可動時間を長くすることができる(例えば,特許文献3参照)。
【0008】
従来,ワイヤ放電加工機にワイヤ自動供給装置を設けたものが知られている。該ワイヤ自動供給装置は,ワイヤ径が小さい極細のワイヤでワイヤ電極が構成されていても,ワイヤを下ヘッド,ガイドローラ,及びワイヤガイドパイプをスムーズに通って供給されるように,ガイドローラのワイヤ通路を密封状にして巻取りローラの後流に設けた吸引装置によってワイヤを水及びエアと共に吸引し,ワイヤを巻取りローラにスムースに送り込んで挟持し,加工中にワイヤがスムースに供給されるように,加工中にも吸引装置を働かせ,壁面への付着やワイヤの絡みつき等を防止することができるものである。上記ワイヤ自動供給装置は,特に,巻取りローラから送り出されるワイヤを吸引するため,巻取りローラのワイヤの送り出し側に吸引装置が設けられているものである(例えば,特許文献4参照)。
【0009】
また,線状部材や棒状部材の表面に付着した液体を気体噴射により除去する液切りノズルが知られている。該液切りノズルは,外側壁と内側壁とで環状隙間を形成し,該隙間が中心軸線に直角な所定の平面に沿うように開口している。該液切りノズルは,該開口から気体を噴き出させる気体噴出口と,内側壁の内側に液切りされる部材が通過可能に形成された内側空洞とを有し,内側壁の外周面端が外側壁の内周面端よりも気体噴出方向に突出するように構成されている(例えば,特許文献5参照)。
【特許文献1】WO99/32252号公報(第1頁,第1図参照)
【特許文献2】特開昭64−20929号公報(第1,4頁,第2図参照)
【特許文献3】実開平5−2830号公報
【特許文献4】特開2004−17187号公報
【特許文献5】特許第3399903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで,近年のワイヤ放電加工機について,ワイヤ電極を用いてワークを加工する加工分野,特に,微細加工分野において,φ0.1以下の細線のワイヤ電極,例えば,φ0.07,φ0.05,φ0.03,φ0.02のように細いワイヤ電極を使用するものが多くなっている。しかしながら,ワークを加工するワイヤ電極として細線のワイヤを使用する場合に,細線はこし即ちばね力が弱いため,水切り部において細線が水流によってドレーン方向に進路が曲げられたり,又は送りパイプ等の壁面に付着したり,絡み付いたりしてワイヤが巻取りローラに到達できなかったり,ワイヤが巻取りローラの周面に巻きついたり,巻取りローラの出口側に設けられたワイヤホッパの壁面に付着したり,或いは部材間の隙間に入り込んだりし,ワイヤをスムーズに回収することができない現象が発生していた。そのため,従来のワイヤ放電加工機では,ワイヤ電極の送りのトラブルによってワイヤ放電加工を開始したり,放電加工を続行することができない状態があった。特に,ワイヤ電極のワイヤ径が0.05mm以下の極細線になると,ワイヤ電極が巻取りローラにキャッチすることができず,ワイヤ電極は水と一緒に流されたり,巻取りローラの入口側の近傍に滞留したり,隙間に入り込んだりする現象が現れ,ワイヤ電極が断線したり,ワイヤ電極の送りができなくなっていた。
【0011】
また,ワイヤ放電加工機について,上記の問題を解消するため送りパイプに設けた水切り部を排除した場合に,ワイヤ送りはほぼ確実に達成できるが,ワークの加工の際に,巻取りローラに付着した水によってワイヤ電極が巻取りローラ又は付近の機器に絡み付き,ワイヤ電極の送りのトラブルによって放電加工を停止させたり,放電加工を続行することができなくなることがあった。
【0012】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,ワイヤ径が小さい極細線のワイヤ電極を使用したとしても,放電加工で消耗したワイヤ電極を下ヘッド,ガイドローラ及び送りパイプを通ってスムーズに供給でき,巻取りローラの後流に設けたエジェクタによってワイヤ電極を水及びエアと共に吸引し,ワイヤ電極を巻取りローラにスムーズに送り込んで巻取りローラで確実に挟持し,ワーク加工前の供給時及び加工時においてワイヤ電極をスムーズに供給し回収し,ワイヤ電極の機器の壁面への付着やワイヤ電極の絡みつき等を防止することができるワイヤ放電加工機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は,ワイヤ電極をワークの加工領域へと送り込む上ヘッド,前記上ヘッドに対向して配置され且つ前記ワークを加工した後の前記ワイヤ電極が通過する下ヘッド,前記下ヘッドを通過した前記ワイヤ電極をガイドするためのガイドローラ,前記ガイドローラにガイドされた前記ワイヤ電極を送り出すための送りパイプ,及び前記送りパイプから送り出された前記ワイヤ電極を引き出して廃棄する一対の巻取りローラを有するワイヤ放電加工機において,
前記送りパイプは前記ガイドローラに接続し且つ水切り部を備えた固定パイプ及び前記固定パイプに接続した伸縮可能な伸縮パイプから構成され,前記伸縮パイプは前記固定パイプに接続した第1パイプ及び前記第1パイプに抜き差し可能に嵌合した第2パイプから構成されていることを特徴とするワイヤ放電加工機に関する。
【0014】
このワイヤ放電加工機では,前記固定パイプは入口端部が前記ガイドローラに近接して位置し且つ出口端部に前記水切り部を設けており,前記第1パイプは前記水切り部の入口と出口との間を移動可能に貫通して配置され,前記第2パイプは前記巻取りローラに近接した位置と前記巻取りローラの隔置状態の間を挿通した位置との間を移動可能に配置されている。
【0015】
このワイヤ放電加工機は,前記ワークの加工時又は停止時には,前記第1パイプの入口端部が前記水切り部の前記出口に移動し,前記第2パイプの出口端部が前記巻取りローラに近接した位置に移動するようになっている。
【0016】
このワイヤ放電加工機は,前記ガイドローラに近接して水流ノズルが設けられており,前記ワークの加工時には,前記水流ノズルから噴出された水流は,前記ガイドローラの下面接線方向から前記固定パイプを通って前記水切り部から排出され,前記ワイヤ電極を前記ガイドローラから同伴して進行させて前記固定パイプへとガイドし,前記ワイヤ電極は前記固定パイプから前記伸縮パイプを通って前記巻取りローラによって引き出され,前記巻取りローラの後流に設けたエジェクタに連絡し,前記エジェクタから排出される。
【0017】
このワイヤ放電加工機は,前記ワークの加工前の前記ワイヤ電極の供給時には,前記第1パイプの入口端部が前記水切り部の前記入口に移動し,前記第2パイプの前記出口端部が前記巻取りローラの隔置状態の間を挿通して前記巻取りローラの後流に設けたエジェクタに連絡し,前記水流ノズルから噴出された水流は,前記ガイドローラの下面接線方向から前記送りパイプを通って前記巻取りローラの後流に設けられた前記エジェクタから排出され,前記ワイヤ電極を前記ガイドローラから同伴して進行させて前記固定パイプへとガイドし,前記ワイヤ電極は前記固定パイプから前記伸縮パイプを通って前記エジェクタから排出される。
【0018】
このワイヤ放電加工機は,前記ワイヤ電極が前記エジェクタから排出される状態に前記ワイヤ電極の供給が達成した時には,前記第1パイプの入口端部を前記水切り部の前記出口に移動させ,前記固定パイプを通った前記水流を前記水切り部から排出させる。
【0019】
このワイヤ放電加工機は,前記伸縮パイプがシリンダ装置によって移動自在に支持され,前記シリンダ装置が前記第1パイプを移動させる第1エア駆動装置と前記第2パイプを移動させる第2エア駆動装置とを備えており,前記第1パイプと前記第2パイプとはそれぞれ独立して移動するものである。
【0020】
このワイヤ放電加工機は,前記巻取りローラの後流にエジェクタが設けられ,前記エジェクタは,少なくとも前記ワイヤ電極の供給時に,水切りを行うと共に前記ワイヤ電極を排出方向へ進行させる。
【発明の効果】
【0021】
このワイヤ放電加工機は,上記のように構成されているので,ワイヤ径が小さい極細線のワイヤ電極であっても,ワイヤ電極が送りパイプから巻取りローラへとスムーズに挿入され,巻取りローラの後流にエジェクタによって送りパイプにおける水とエアと共にワイヤ電極を吸引することができ,ワイヤ電極を良好に巻取りローラに挟持させることができ,しかも,ワイヤ電極によるワークの加工中にもエジェクタを作動してワイヤ電極を水と一緒にワイヤホッパへと確実に排出することができ,ワイヤ電極が各種の機器壁面やローラに付着したり絡みついたりすることがなく,ワイヤ電極の自動供給確率を向上させ,加工中にワイヤ電極の絡まりによる断線等が発生しない。また,このワイヤ放電加工機は,エジェクタによって,ワイヤ供給時は勿論のこと,ワイヤ電極によるワークの加工中にも常時作動して,ワイヤ電極をスムーズにワイヤホッパへと排出し,更に,下ヘッドの後流のガイドローラや送りパイプで断線したとしても,常にワイヤ電極をスムーズにワイヤホッパへ導くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下,図面を参照して,この発明によるワイヤ放電加工機の実施例を説明する。このワイヤ放電加工機は,ガイドローラ,送りパイプ及び巻取りローラの近傍の構成を除いて,概して図7に示す従来の浸漬形のワイヤ自動供給装置と同一の機能を有するので,従来のワイヤ自動供給装置の部品と同様の機能を持つ部品には同一の符号を付して説明する。
【0023】
図1に示すように,このワイヤ放電加工機は,例えば,φ0.07,φ0.05,φ0.03,φ0.02のような極細線のワイヤ電極1をワーク2の加工領域へ供給する上ヘッド5,上ヘッド5の下方に対向して下アーム6に設けられ且つワーク2を加工した後のワイヤ電極1が通過する下ヘッド5,下ヘッド5から繰り出されるワイヤ電極1を案内するため,下ヘッド5の下方に設置されたガイドローラ7,ガイドローラ7からのワイヤ電極1を送り出すため設けられた送りパイプ10,送りパイプ10の出口31に近接して設けられたワイヤ電極1を引き出す一対の巻取りローラ17,及び巻取りローラ17の後流に設けられたエジェクタ21等の吸引装置を有している。このワイヤ放電加工機は,特に,送りパイプ10が,ガイドローラ7に接続し且つ水切り部20を備えた固定パイプ11及び固定パイプ11に接続した伸縮可能な伸縮パイプ12から構成され,また,伸縮パイプ12が固定パイプ11に接続した第1パイプ13及び第1パイプ13に抜き差し可能に嵌合した第2パイプ14から構成されていることを特徴としている。水切り部20には,下部にドレーン28が設けられ,上部に大気連通口42が設けられている。
【0024】
このワイヤ放電加工機は,図2及び図4に示すように,伸縮パイプ12がシリンダ装置32によって移動自在に支持され,シリンダ装置32が第1パイプ13を移動させるエア駆動装置22(第1エア駆動装置)と,第2パイプ14を移動させるエア駆動装置23(第2エア駆動装置)とを備えており,第1パイプ13と第2パイプ14とはそれぞれ独立して移動するように駆動される。シリンダ装置32は,図4に示すように,第1パイプ13を摺動自在に支持するため中央に位置する支持ブロック50,第1パイプ13を摺動自在に支持するため固定パイプ11側に位置する支持ブロック51,及び第2パイプ14を摺動自在に支持するため巻取りローラ17側に位置する支持ブロック52を有する。支持ブロック50には,第1パイプ13用のエア通孔33と第2パイプ14用のエア通孔40が形成されている。また,支持ブロック51には,第1パイプ13用のエア通孔34が形成され,支持ブロック52には,第2パイプ14用のエア通孔41が形成されている。シリンダ装置32は,支持ブロック50と支持ブロック51とに跨がって固定された第1シリンダ53と,支持ブロック50と支持ブロック52とに跨がって固定された第2シリンダ54とを有している。シリンダ装置32は,第1パイプ13と第1シリンダ53とで形成される環状空所には第1パイプ13の外周に固定されたピストン48が摺動自在に配置され,また,第2パイプ14と第2シリンダ54とで形成される環状空所には第2パイプ14の外周に固定されたピストン49が摺動自在に配置されている。
【0025】
このワイヤ放電加工機では,エア駆動装置22,23が上記のように構成されているので,エア駆動装置22は,第1パイプ13用のエア通孔33を通じて圧縮エアを吹き込んでピストン48を図5の左側に移動させれば,第1パイプ13はその入口端部30が水切り部20の入口26へ移動し,また,第1パイプ13用のエア通孔34を通じて圧縮エアを吹き込んでピストン48を図6の右側に移動させれば,第1パイプ13はその入口端部30が水切り部20の出口27へ移動するように駆動される。更に,エア駆動装置23は,第2パイプ14用のエア通孔41を通じて圧縮エアを吹き込んでピストン49を図4の左側に移動させれば,第2パイプ14はその出口端部31が巻取りローラ17の上流側に移動し,また,第2パイプ14用のエア通孔40を通じて圧縮エアを吹き込んでピストン49を図の右側に移動させれば,第2パイプ14はその出口端部31が開放した隔置状態の巻取りローラ17間を挿通してエジェクタ21に接続する状態に移動するように駆動される。エジェクタ21は,ワイヤ電極1の保持即ちスムーズな送りを可能にし,巻取りローラ17等の機器に付着している水を除去することができ,ワイヤ電極1が濡れた状態の機器に付着するのを防止することができる。
【0026】
このワイヤ放電加工機では,固定パイプ11は入口端部24がガイドローラ7に近接して位置し,出口端部25には水切り部20が設けられている。第1パイプ13は,水切り部20の入口26と出口27との間を移動可能に貫通して配置され,また,第2パイプ14は,巻取りローラ17に近接した位置と巻取りローラ17の隔置状態の間を挿通した位置との間を移動可能に配置されている。一対の巻取りローラ17は,例えば,第2パイプ14を挿通させる互いに離間した状態,又はワイヤ電極1を挟持する互いに近接した状態にするには,従来と同様な機構,即ち,一方の巻取りローラ17をリンク機構や梃子機構を使用すれば達成できるものである。このワイヤ放電加工機は,ガイドローラ7に近接して水流ノズル16を備えている。このワイヤ放電加工機には,巻取りローラ17の後流にはエジェクタ21が設けられ,エジェクタ21は,少なくともワーク2の加工前のワイヤ供給時に,水切りを行うと共にワイヤ電極1を排出方向へ進行させる。エジェクタ21は,図3に示すように,ノズルホルダ45によって機台15に取り付けられており,ノズルホルダ45にはエア供給口47を備えたノズルガイド44が取り付けられている。ノズルガイド44には,吸引ノズル43がセットされている。エア供給口47から吹き込まれた圧縮エアは,ノズルガイド44と吸引ノズル43との間をガイドされて吸引ノズル43の内壁面に沿って後方へ噴出され,この時,伸縮パイプ12の第2パイプ14にガイドされて送り込まれたワイヤ電極1を吸引して排出する。
【0027】
このワイヤ放電加工機は,ワーク2の加工時又は停止時には,図1に示すように,第1パイプ13の入口端部30が水切り部20の出口27に移動し,また,第2パイプ14の出口端部31が巻取りローラ17に近接した位置に移動するように駆動される。ワーク2の加工時には,水流ノズル16から噴出された水流は,ガイドローラ7の下面接線方向から固定パイプ11を通って水切り部20から排出され,ワイヤ電極1をガイドローラ7から同伴して進行させて固定パイプ11へとガイドし,ワイヤ電極1は固定パイプ11から伸縮パイプ12を通って巻取りローラ17に送り込まれ,巻取りローラ17によって引き出されて巻取りローラ17の後流に設けたエジェクタ21に連絡し,エジェクタ21から廃ワイヤホッパ等の外部へと排出される。
【0028】
このワイヤ放電加工機は,ワイヤ電極1のワーク加工前の供給時には,図5に示すように,第1パイプ13の入口端部30が水切り部20の入口26に移動し,また,第2パイプ14の出口端部31が一対の巻取りローラ17の隔置状態の間を挿通して巻取りローラ17の後流に設けたエジェクタ21に連絡するように接続する。
【0029】
このワイヤ放電加工機は,ワイヤ電極1がエジェクタ21から排出される状態にワイヤ電極1の供給が達成した時には,図6に示すように,第1パイプ13の入口端部30を水切り部20の出口27に移動させ,固定パイプ11を通った水流を水切り部20から排出させる。次いで,図1に示すように,第2パイプ14を第1パイプ13側に移動させ,第2パイプ14の出口端部31を巻取りローラ17の上流側に位置させ,次いで,巻取りローラ17を互いに近接させてワイヤ電極1を挟持し,加工可能な状態にセットする。
【0030】
このワイヤ放電加工機には,ワーク2の加工前のワイヤ電極1の供給時には,水流ノズル16から噴出された水流は,ガイドローラ7の下面接線方向から送りパイプ10を通って巻取りローラ17の後流に設けられたエジェクタ21から排出され,ワイヤ電極1をガイドローラ7から同伴して進行させて固定パイプ11へとガイドし,ワイヤ電極1は固定パイプ11から伸縮パイプ12を通ってエジェクタ21から排出される。
【0031】
このワイヤ放電加工機は,上記のように構成されているものであり,ワイヤ供給時に,伸縮パイプ12の一方の第1パイプ13がエア駆動装置22の駆動によって水切り部20の入口26端面まで伸びて固定パイプ11の出口端部25に接続され,他方の第2パイプ14はエア駆動装置23の駆動によって開放している巻取りローラ17間を挿通して吸引装置のエジェクタ21直前まで伸び,これにより,下ヘッド5の下方に設置されたガイドローラ7に接続した固定パイプ11,第1パイプ13及び第2パイプ14から成る送りパイプ10によってガイドローラ7の下面とエジェクタ21との間が全体的に1本のパイプで連結された状態になる。従って,このワイヤ放電加工機で極細線のワイヤ電極1を使用したとしても,下ヘッド5から送り出されたワイヤ電極1が水流ノズル16からの水流でガイドローラ7にガイドされ,1本の長く伸びた送りパイプ10を通ってエジェクタ21まで確実にスムーズに送り込まれる。送り込まれたワイヤ電極1は,エジェクタ21に到達した後,水流ノズル16からの水流の送りを停止し,エジェクタ21を動作させ,エジェクタ21にワイヤ電極1を保持する推力を与える。その後,エア駆動装置22を駆動して第1パイプ13を水切り部20の出口27側へと収縮移動させ,水切り部20からエジェクタ21までに付着している水をエジェクタ21の推力を利用し,ワイヤ電極1を保持したままで除去する。次いで,エア駆動装置23を駆動して第2パイプ14を巻取りローラ17の手前へと収縮移動させ,そこで,巻取りローラ17を開放状態からワイヤ電極1の挟持状態へ閉じ,巻取りローラ17によるワイヤ電極1の巻き取りの確認をし,それからエジェクタ21の作動を停止し,或いはエジェクタ21の作動を継続し,ワイヤ電極1を送り状態としてワーク2に対するワイヤ電極1の放電加工を開始する。ワイヤ電極1によるワーク2の加工時には,下ヘッド5の水流ノズル16から固定パイプ11へ流れ込む水は水切り部20で集められてドレーン28を通って濾過装置等に回収され,この状態では,送りパイプ10における伸縮パイプ12には水が既に除去されているため,ワイヤ電極1が巻取りローラ17,その付近の機器に付着したり絡んだりすることが回避され,ワーク2に対する放電加工がスムーズに進行することになる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この発明によるワイヤ放電加工機は,例えば,加工槽に供給された加工液にワークを浸漬或いは加工液をワークに噴射して,ワイヤ電極とワークとの間に極間電圧を印加し,発生する放電エネルギでワークを加工するワイヤ放電加工機に使用して好ましいものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明によるワイヤ放電加工機の実施例を示し,加工時又は停止時の伸縮パイプの状態を示す説明図である。
【図2】図1のワイヤ放電加工機における伸縮パイプと巻取りローラとの関係を説明する正面図である。
【図3】図2の伸縮パイプと巻取りローラとの関係を示す説明図である。
【図4】図のワイヤ放電加工機における伸縮パイプのエア駆動装置を示す断面図である。
【図5】この発明によるワイヤ放電加工機の実施例を示し,ワイヤ供給時の伸縮パイプの状態を示す説明図である。
【図6】この発明によるワイヤ放電加工機の実施例を示し,水切り部での水切り時の伸縮パイプの状態を示す説明図である。
【図7】従来の水切り部を備えたワイヤ放電加工機の一例を示す概略図である。
【図8】従来のワイヤ放電加工機の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0034】
1 ワイヤ電極
2 ワーク
4 上ヘッド
5 下ヘッド
7 ガイドローラ
10 送りパイプ
11 固定パイプ
12 伸縮パイプ
13 第1パイプ
14 第2パイプ
16 水流ノズル
17 巻取りローラ
20 水切り部
21 エジェクタ
22 エア駆動装置(第1エア駆動装置)
23 エア駆動装置(第2エア駆動装置)
24,30 入口端部
25,31 出口端部
26 入口
27 出口
32 シリンダ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ電極をワークの加工領域へと送り込む上ヘッド,前記上ヘッドに対向して配置され且つ前記ワークを加工した後の前記ワイヤ電極が通過する下ヘッド,前記下ヘッドを通過した前記ワイヤ電極をガイドするためのガイドローラ,前記ガイドローラにガイドされた前記ワイヤ電極を送り出すための送りパイプ,及び前記送りパイプから送り出された前記ワイヤ電極を引き出して廃棄する一対の巻取りローラを有するワイヤ放電加工機において,
前記送りパイプは,前記ガイドローラに接続し且つ水切り部を備えた固定パイプ及び前記固定パイプに接続した伸縮可能な伸縮パイプから構成され,
前記伸縮パイプは,前記固定パイプに接続した第1パイプ及び前記第1パイプに抜き差し可能に嵌合した第2パイプから構成されていることを特徴とするワイヤ放電加工機。
【請求項2】
前記固定パイプは入口端部が前記ガイドローラに近接して位置し且つ出口端部に前記水切り部を設けており,前記第1パイプは前記水切り部の入口と出口との間を移動可能に貫通して配置され,前記第2パイプは前記巻取りローラに近接した位置と前記巻取りローラの隔置状態の間を挿通した位置との間を移動可能に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工機。
【請求項3】
前記ワークの加工時又は停止時には,前記第1パイプの入口端部が前記水切り部の前記出口に移動し,前記第2パイプの出口端部が前記巻取りローラに近接した位置に移動することを特徴とする請求項2に記載のワイヤ放電加工機。
【請求項4】
前記ガイドローラに近接して水流ノズルが設けられており,前記ワークの加工時には,前記水流ノズルから噴出された水流は,前記ガイドローラの下面接線方向から前記固定パイプを通って前記水切り部から排出され,前記ワイヤ電極を前記ガイドローラから同伴して進行させて前記固定パイプへとガイドし,前記ワイヤ電極は前記固定パイプから前記伸縮パイプを通って前記巻取りローラによって引き出され,前記巻取りローラの後流に設けたエジェクタに連絡し,前記エジェクタから排出されることを特徴とする請求項3に記載のワイヤ放電加工機。
【請求項5】
前記ワークの加工前の前記ワイヤ電極の供給時には,前記第1パイプの入口端部が前記水切り部の前記入口に移動し,前記第2パイプの前記出口端部が前記巻取りローラの隔置状態の間を挿通して前記巻取りローラの後流に設けたエジェクタに連絡し,前記水流ノズルから噴出された水流は,前記ガイドローラの下面接線方向から前記送りパイプを通って前記巻取りローラの後流に設けられた前記エジェクタから排出され,前記ワイヤ電極を前記ガイドローラから同伴して進行させて前記固定パイプへとガイドし,前記ワイヤ電極は前記固定パイプから前記伸縮パイプを通って前記エジェクタから排出されることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機。
【請求項6】
前記ワイヤ電極が前記エジェクタから排出される状態に前記ワイヤ電極の供給が達成した時には,前記第1パイプの入口端部を前記水切り部の前記出口に移動させ,前記固定パイプを通った前記水流を前記水切り部から排出させることを特徴とする請求項5に記載のワイヤ放電加工機。
【請求項7】
前記伸縮パイプがシリンダ装置によって移動自在に支持され,前記シリンダ装置が前記第1パイプを移動させる第1エア駆動装置と前記第2パイプを移動させる第2エア駆動装置とを備えており,前記第1パイプと前記第2パイプとはそれぞれ独立して移動することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機。
【請求項8】
前記巻取りローラの後流にエジェクタが設けられ,前記エジェクタは,少なくとも前記ワイヤ電極の供給時に,水切りを行うと共に前記ワイヤ電極を排出方向へ進行させることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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