説明

ワクチン

【課題】薬剤をヒトの皮膚を通して投与するための効率的なデバイスに関し、皮膚を通してワクチンを接種するためのデバイスを提供する。
【解決手段】皮膚を貫通する部分を有する薬剤送達デバイスを提供し、皮膚穿刺部材がリザーバー媒体でコーティングされている、薬剤含有固体リザーバー媒体を含んでなる。あるいはまた、皮膚穿刺部材が固体薬剤リザーバー媒体からなるものであってもよい。該薬剤送達デバイスは薬剤が皮膚の特定の層の中へ送達されるように調整されており、好ましい送達デバイスは薬剤を上皮もしくは真皮へ送達する皮膚穿刺部材を含んでなる。好ましいリザーバー媒体は糖類を含有し、特に、ガラス(非晶質の固体物質)を形成するラクトース、ラフィノース、トレハロースもしくはスクロースのような安定化用糖類を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤をヒトの皮膚を通して投与するための効率的なデバイスに関する。特に本発明は、皮膚を通してワクチンを投与するためのデバイスを提供する。本発明は、皮膚穿刺部を有する薬剤送達デバイスを提供し、皮膚穿刺部上にリザーバー媒体がコーティングされた薬剤含有固体リザーバー媒体を含んでなる。あるいはまた、皮膚穿刺部が固体薬剤リザーバー媒体からなるものであってもよい。本発明のデバイスは保存中安定であり、皮膚内に皮膚穿刺部が侵入した後にのみ、実質的に薬剤を放出する。好ましい1実施形態においては、角質層を貫通後に皮膚内へ直接薬剤を放出する、固体のリザーバー媒体で外側がコーティングされた、マイクロニードル(microneedle)型のデバイスが提供される。該薬剤送達デバイスは、薬剤が皮膚の特定の層の中へ送達されるように調整されており、好ましい送達デバイスは薬剤を上皮もしくは真皮へ送達する皮膚穿刺部を含んでなる。好ましいリザーバー媒体は糖類を含有し、特に、ガラス状態(非晶質の固体物質)を形成するラクトース、ラフィノース、トレハロースもしくはスクロースのような安定化用糖類を含む。さらに、皮膚の中へワクチンを投与するためののワクチン送達デバイス、それらの製造方法、および医薬分野におけるそれらの用途が本発明により提供される。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、外的な薬物・要因に対し重要なバリアの役割を果たしている。ヒトの皮膚に関しまとめられた知見が、Dorland's Illustrated Medical Dictionary、第28版の中で提供されている。外部層から始まり内側へ、皮膚は、角質層を含む上皮、成長性(viable)上皮、および上皮の下層にある真皮からなる。上皮は5層: 角質層、淡明層、顆粒層、有棘層および基底層からなる。上皮(5つの層をすべて含む)は皮膚の最も外側の無血管層であり、厚さが0.07〜0.12mm(70〜120μm)である。上皮は、ケラチノサイト(ケラチンを生産する専門の、表皮細胞の95%を構成する細胞)で占められる。その他5%の細胞はメラノサイトである。下層の真皮は通常、角質層表面の下0.3〜約3mmの範囲内にあり、汗腺、毛包、神経終末および血管を含んでいる。
【0003】
角質層は皮膚浸透性バリアを支配し、数ダースのケラチン化された上皮の層から構成される。この領域の死滅したもしくは死滅しかけたケラチノサイトの間の狭い隙間は、結晶性の脂質のマルチラメラ(multilamellae)で満たされている。これらは、親水性分子による侵入に対する疎水性バリアを提供することにより、皮膚もしくは身体内部と周辺環境との隙間を効果的に密閉する。この角質層の厚さは30〜70μmの範囲である。
【0004】
ランゲルハンス細胞は、上皮の基底顆粒層(有棘層および顆粒層;Small Animal Dermatology、第3版、Muller-Kirk-Scott 編: Saunders (1983))の全体にわたって見られ、侵入生物に対する免疫系の初期防御において重要な役割を果たすと考えられている。したがって、皮膚のこの層は、あるタイプのワクチンのための適切なターゲット・ゾーンとなる。
【0005】
皮膚の中へ、あるいは皮膚を通して薬剤を投与する従来の様式、最も一般的には皮下注射針と注射器による投与様式には、多大な不便が伴っている。このような不便としては、苦痛、薬物投与に対し熟練した専門技術者を必要とすること、さらには、血液に由来する疾病の感染リスクを伴う投与者に対する針刺し創傷の危険、などがある。したがって、皮膚内への、あるいは皮膚を通してのあらゆるタイプの薬剤投与方法の改善が必要とされている。
【0006】
角質層を貫通して薬剤を投与することの問題を克服するため、様々なデザインの皮膚パッチを含む多くの代替的なアプローチが記載されている。物理的に角質層を貫通せずに皮膚を通して薬剤を送達する皮膚パッチの例には、WO 98/20734およびWO 99/43350に記載されたものが含まれる。皮膚を物理的に突き刺さないその他のアプローチには電気的輸送や、また皮膚内へ電流を流すことで薬剤の通過が促進されるイオン導入型デバイスが含まれる。そのようなデバイスの多くは、例えば米国特許第6,083,190号; 同6.057,374号; 同5,995,869号; 同5,622,530号等の文献中に記載されている。上記のタイプの非貫通性パッチの潜在的な不便には、薬剤投与中に誘発される著しい過敏性および不快感、角質層を通過する抗原の取り込み量が非常に少ないことが含まれる。
【0007】
皮膚の物理的開裂、もしくは貫通を含むその他のパッチが記載されている。薬剤を含む液体もしくは固体のリザーバーと金属製のマイクロブレード(microblade)パッチを含んでなるデバイスが記載されており、そのデバイスでは薬剤が上皮に侵入できる経路を作るために、マイクロブレードが角質層を物理的に切る。そのようなデバイスは、WO 97/48440、WO 97/48442、WO 98/28037、WO 99/29298、WO 99/29364、WO 99/29365、WO 00/05339、WO 00/05166およびWO 00/16833に記載されている。皮膚を突き刺すことを含むその他のデバイスには米国特許第5,279,544号、同5,250,023号および同3,964,482号に記載のものが含まれる。これらのタイプのデバイスが有する不便のうちのいくつかは、角質層を貫通するマイクロブレードの存在にもかかわらず、投与時間における薬剤の取り込み速度が一般的に遅いということから生じる。取り込み速度の遅さは、マイクロブレードが皮膚に接している長い「接種時間(dwell time)」をもたらす。従来のワクチン接種の目的に対し、約15分から30分よりも長い接種時間はあまり望ましくない。というのは、アナフィラキシーショックのような起こりうる副作用をチェックするため、ワクチン接種を受けた人を観察するために必要な時間が長くなるからである。さらに、上記記載の製品の多くは冷蔵状態で輸送および/または保存される必要がある。バイアル瓶と比べてこれらの製品は大きいので、エンドユーザーの冷蔵庫内に保存できる数量はより少なくなり、また物流はより複雑かつ高額になる。
【0008】
剤形が粉末およびトロカールの形態であり、薬剤および安定化用多価アルコール(例えば糖類)を含有する固体の剤形が、WO 96/03978に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO 98/20734
【特許文献2】WO 99/43350
【特許文献3】米国特許第6,083,190号
【特許文献4】米国特許第6.057,374号
【特許文献5】米国特許第5,995,869号
【特許文献6】米国特許第5,622,530号
【特許文献7】WO 97/48440
【特許文献8】WO 97/48442
【特許文献9】WO 98/28037
【特許文献10】WO 99/29298
【特許文献11】WO 99/29364
【特許文献12】WO 99/29365
【特許文献13】WO 00/05339
【特許文献14】WO 00/05166
【特許文献15】WO 00/16833
【特許文献16】米国特許第5,279,544号
【特許文献17】米国特許第5,250,023号
【特許文献18】米国特許第3,964,482号
【特許文献19】WO 96/03978
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Dorland's Illustrated Medical Dictionary、第28版
【非特許文献2】Small Animal Dermatology、第3版、Muller-Kirk-Scott 編: Saunders (1983)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、保存中安定で、皮膚内へ、あるいは皮膚を通して薬剤を効率的に投与・放出することができる、改善されたデバイスを提供する。本発明は、少なくとも1つの皮膚穿刺部材を有する薬剤送達デバイスの提供により達成され、その皮膚穿刺部材には送達しようとする薬剤を含有する生分解性のリザーバー媒体が装着され、この装着された皮膚穿刺部材(例えば針)は皮膚の角質層を貫通することができるよう十分に長くて鋭いものである。ひとたび薬剤送達デバイスが皮膚の表面へ適用され、コーティングを施された皮膚穿刺部材もしくはマイクロニードル(microneedle)が角質層を貫通して孔をあけると、リザーバー媒体は生分解し、それにより角質層の下層にある皮膚の中へ薬剤を放出する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、マイクロニードル型パッチ部材の一部を示す図である。
【図2】図2は、リザーバー媒体でコーティングされた、図1に記載したマイクロニードル型パッチ部材の一部の断面図である。
【図3】図3は、湾曲したブレードを有するマイクロブレードを示す図である。
【図4】図4は、ブレードへのリザーバーの固着を助けるための孔を有するマイクロブレードを示す図である。
【図5】図5は、円形あるいは多角形の断面を有する微小突出部を示す図である。Aは微小突出部を側面からの断面で示す図であり、Bはその内部にリザーバー媒体を固着させた状態を示す図である。点描を施した部分がリザーバー媒体を示す。
【図6】図6は、V字型の切断面を生じる溝型の微小突出部を示す図である。
【図7】図7は、5つの頂点をもつ星型のような複雑な形状を有する微小突出部を示す図である。
【図8】図8は、各種の糖を含む組成液におけるHep B(凍結乾燥前)のSDS-PAGEの結果である。
【図9】図9は、各種の糖を含む組成液でコーティングされたHep B(凍結乾燥後)のSDS-PAGEの結果である。
【図10】図10は、コーティング針をゲルに挿入後、直ちに針を抜き取ったものと1分間アプライしたものとを比較して、薬剤放出の状態を試験したSDS-PAGEの結果である。
【図11】図11は、5回の浸漬処理によりコーティングされた針(凍結乾燥後)のSDS-PAGEの結果である。
【図12】図12は、1回の浸漬処理によりコーティングされた針(凍結乾燥後)のSDS-PAGEの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好ましい1実施形態においては、少なくとも1つの皮膚穿刺部および薬剤含有固体リザーバー媒体を有し、皮膚穿刺部の外面上に該リザーバー媒体がコーティングされている送達デバイスが提供される。あるいはまた、皮膚穿刺部が、固体の薬剤リザーバー媒体から成るものであってもよい。
【0014】
本発明のデバイスは、従来の針やデバイスにしばしば伴う危険および恐怖感のない、無痛の方法での短時間投与が望まれる患者への任意の薬剤を投与するために使用することができる。そのような薬剤の例には、インシュリンのように毎日投与される必要がある薬剤が含まれるが、その他にもまた、ワクチンもしくは遺伝的疾患治療用の遺伝子のように、さほど頻繁な投与が要求されない薬剤も含まれる。
【0015】
ワクチン送達デバイスは、本発明の好ましい態様である。このような態様において送達される薬剤は、単一抗原もしくは複数の抗原であり、また微生物もしくはウイルス(生きているもの、弱毒化されたもの、もしくは死滅させたもの)、または遺伝子ベクターまたは核酸ベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)、病原体由来の抗原(例えば、サブユニット、粒子、ウイルス様粒子、蛋白質、ペプチド、多糖もしくは核酸)を含んでいてもよく、あるいは癌ワクチンの場合の自己抗原またはアレルギーなど非感染性で癌でない、慢性の疾患に関連する自己抗原であってもよい。薬剤は抗原や核酸単独であっても、あるいは免疫応答を向上および/または指令するアジュバントまたはその他の刺激物質を含んでもよく、またさらに薬学的に許容される賦形剤を含んでもよい。ワクチンをコーティングしたデバイスは、予防的または治療的なワクチン接種のために、ならびに免疫応答を開始させるために、および/または増強させるために使用することができる。寛容を破壊することが必要とされる治療的ワクチン接種の場合には、ワクチンをコーティングしたパッチは、初回の追加免疫のような特定の処方計画の一部として使用することができる。本明細書中に記載されたデバイスの特定の実施形態はさらに、室温保存でき、したがって物流コストの縮小ができ、また冷蔵庫内の貴重なスペースをその他の製品のために開放できるという重要な長所を有する。
【0016】
本発明の送達デバイスは、(親水性分子などの)浸透促進剤が存在しない状態での従来の非貫通性パッチの使用によっては容易に投与ができなかった、多種多様な薬剤に対して使用することができる。
【0017】
本発明の好ましい送達デバイスを形成するためにリザーバー媒体でコーティングされ得る皮膚穿刺突出部は、角質層を貫通するのに十分に強い突出部を作製するために使用することができる目的に対し安全なほとんどあらゆる素材を用いて作製することができる。例えば突出部は医薬用グレードのステンレス鋼、金もしくはチタン、または人工器官において使用されているその他の金属、これらの金属の合金またはその他の金属の合金;セラミックス、半導体、シリコン、ポリマー、プラスチック、ガラスもしくは複合材を用いて作製することができる。
【0018】
パッチは通常、マイクロニードルまたはマイクロブレードのような、複数の穿刺突出部を設ける背板(backing plate)を有する。穿刺突出部自体は多様な形状をとることができ、中実(solid)であることも中空(hollow)であることもできる。またそのような突出物としては、中実の針(ニードル)や刃(ブレード)のような形状をとることができる(例えば、マイクロブレードの形状やデザインに関する記載は、McAllister et al., Annu. Rev. Biomed. Eng., 2000, 2, 289-313; Henry et al., Journal of Pharmaceutical Sciences, 1998, 87, 8, 922-925; Kaushik et al., Anesth. Analg., 2001, 92, 502-504; McAllister et al., Proceed. Int'l. Symp. Control. Rel. Bioact. Mater., 26, (1999), Controlled Release Society, Inc., 192-193; WO 99/64580; WO 97/48440; WO 97/48442; WO 98/28037; WO 99/29364; WO 99/29365; 米国特許第5,879,326号等を参照されたい。これらに記載の全てのデザイン、およびマイクロブレードアレイの製造方法は、参照により本明細書に組み入れるものとする)。あるいはまた、穿刺突出部は、中央に穴が開いている中空の微小な針(すなわちマイクロニードル)の形状であることができる。この最後に挙げた実施形態においては、中央の穴が針を貫通して延びていて、マイクロニードル部材の両面を連通するチャネルを形成しているものであってもよい(EP 0 796 128 B1)。中実のマイクロニードルおよびマイクロブレードが好ましい。
【0019】
皮膚穿刺部材の長さは、典型的には1μm〜1mm、好ましくは50μm〜600μm、さらに好ましくは100μm〜400μmである。皮膚穿刺部材の長さは、薬剤送達の標的として選択される部位(すなわち、好ましくは真皮、そして最も好ましくは表皮)に応じて選択することができる。本発明のデバイスの皮膚穿刺部材は、米国特許第5,879,326号、WO 97/48440、WO 97/48442、WO 98/28037、WO 99/29298、WO 99/29364、WO 99/29365、WO 99/64580、WO 00/05339、WO 00/05166、もしくはWO 00/16833; またはMcAllister et al., Annu. Rev. Biomed. Eng., 2000, 2, 289-313; Henry et al., Journal of Pharmaceutical Sciences, 1998, 87, 8, 922-925; Kaushik et al., Anesth. Analg., 2001, 92, 502-504; McAllister et al., Proceed. Int'l. Symp. Control. Rel. Bioact. Mater., 26, (1999)、Controlled Release Society, Inc., 192-193.に記載された形態を取り、またそれらに記載された方法によって製造することができる。
【0020】
本発明のデバイスを形成する、薬剤リザーバー媒体でコーティングされた最も好ましいマイクロブレード型のデバイスは、WO 99/48440、およびHenry et al., Journal of Pharmaceutical Sciences, 1998, 87, 8, 922-925に記載されており、これら文献はその全文を参照により本明細書に組み入れるものとする。
【0021】
本発明のデバイスは、好ましくは複数の皮膚穿刺部材を有し、好ましくは1つのデバイスあたり1000個まで、より好ましくは1つのデバイスあたり500個までの皮膚穿刺部材を有する。
【0022】
穿刺突出部が中実である場合、それは平面状であってもよいし(マイクロブレードと称する、図1を参照)、または円形もしくは多角形の断面(図5を参照)を有することもできる。突出部は直線的な、もしくは先細りの軸を有することができ、また平面状または円形または多角形の断面を有しても良い。例えばこのマイクロブレードは湾曲したブレード(図3参照)を有するものや、あるいはV字型の切断面を生じる溝型(図6参照)に形成されたものでもよい。またあるいは、突出部は図7に示すような5つの頂点をもつ星型のように、付着性および流体力学的効果を増強するために、より複雑な形状をとることができる。
【0023】
皮膚穿刺部材は、背板と一体になったものであっても、あるいは背板に取り付けられたものであってもよい。突出部を背板に取り付ける場合、穿刺突出部をリザーバー媒体で形成することができる。そのようなデバイスは、薬剤を含有する溶融したリザーバー媒体を複数の細い先端に引き伸ばすかまたは押し出すことにより形成することができる。例えば、溶融したリザーバー媒体を、多孔ヘッドを通して直接背板にキャストすることができ、その後熱い押出物が冷えて背板に固着する。押出物を引き戻すと、一連の先の尖った末端が形成される。
【0024】
あらゆる穿刺突出部の形状における一般的特徴として、コーティング後のリザーバーの付着を向上させるために、突出部の表面はざらざらしたものでありうる。例えば表面は、粗い粒状や、さざ波状、もしくはうねのある状態であってもよい。さらに、中実のマイクロブレードは、リザーバーがそのブレードにより確実に固着するよう、リザーバーがその場所で乾燥して固着するような孔(図4参照)を有してもよい。非常に溶けやすく砕けやすい凍結乾燥組成物を含むある種の実施形態においては、砕けやすいリザーバーはそのような孔の内部に完全に保持されて、そのことによって皮膚穿孔時の破損から保護されるのが好ましい。
【0025】
また別の実施形態においては、穿刺突出部は、基板部材から分離することができる。例えば、穿刺突出部(または少なくともその先端部)それ自体がリザーバーである実施形態においては、皮膚侵入後に、穿刺突出部は基板支持体から分離することにより、リザーバーを皮膚内に残したままでパッチを皮膚から取り除くことができる。背板からのリザーバーの分離は、物理的な剪断またはそのニードルの背板に隣接する部分の生分解により行うことができる。
【0026】
この1実施形態は、比較的水に溶けにくい二糖類のリザーバー媒体(送達されるべき薬剤が分散している)から微小な突出部の先端部をキャスティングにより作製した後に、微小な突出部の残りの部分および背板を比較的水に溶け易い素材からキャスティングにより作製することであり得る。ひとたび皮膚に挿入されると、比較的容易に溶ける微小な突出部軸部は分解消失し、それによって皮膚内に先端部を残したままパッチが皮膚から取り除かれることを可能にする。皮膚内に残った先端部は、よりゆっくりと生分解されることにより、ゆっくりと薬剤を放出する。
【0027】
したがって、本発明の好ましい1実施形態においては、薬剤もしくはワクチン送達のための皮膚パッチが提供され、該パッチは薬剤もしくはワクチンを含有する固体の生分解性リザーバー媒体でコーティングされたマイクロブレードもしくはマイクロニードルのアレイを含んでなる。
【0028】
生分解性の薬剤リザーバーは、本発明のために必要とされる機能を満足するあらゆる媒体から作製することができる。該リザーバーは、リザーバーが長期保存中も物理的に安定で付着し続け、さらに、その投与手順中コーティングされた微小突出部が角質層を貫通する時に実質的に損傷せずに保持されるのに充分な程度に、微小突出部に付着することができる必要がある。リザーバーはさらに、リザーバー媒体の生分解中に皮膚内へ放出される、乾燥したもしくは部分的に乾燥した任意の形態で送達される薬剤の懸濁液もしくは溶液を保持する、または含有することもできる必要がある。
【0029】
本発明において、リザーバー媒体の生分解とは、その媒体が非放出状態から放出状態に変化することにより薬剤が皮膚内へ入るように、リザーバー媒体の状態が変化することを意味する。この活性薬剤の放出には、水和、拡散、相転移、結晶化、溶解、酵素反応および/または化学反応などの1以上の物理的および/または化学的プロセスが含まれ得る。リザーバー媒体の選択に応じて、生分解は、水、体液、湿度、体温、酵素、触媒および/または反応物質などの1以上により誘発され得る。したがって、リザーバー媒体の変化は水和、ならびに皮膚の比較的高い湿度および温度に伴う加温により誘発され得る。そしてリザーバー媒体は、溶解および/または膨潤、および/または相変化(結晶質もしくは非晶質)により分解することができ、それによりリザーバー媒体は崩壊するか、あるいは媒体の浸透性をわずかに増加させたりする。
【0030】
好ましくは、媒体は、溶解して、代謝されるか、または体内から排出されるか、または排泄されるが、あるいはまた、リザーバーは、デバイスを取り除く際に皮膚から除去される皮膚穿刺部材に取り付けられた状態で維持されていてもよい。リザーバー媒体の溶解による薬剤の放出が好ましい。
【0031】
好適なリザーバー媒体の例には、限定されるものではないが、糖類、多糖類、置換された多価アルコール(例えば疎水的誘導体化された炭水化物)などの多価アルコール類、アミノ酸、ポリヒドロキシ酸やポリ無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリウレタン、ポリ(酪酸)、ポリ(吉草酸)およびポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)、あるいはポリラクチド-コ-グリコライドのような生分解性のポリマーもしくはコポリマーが含まれる。マイクロブレードのコーティングは非晶質または結晶の状態であることができ、また部分的に非晶質および部分的に結晶の状態で存在し得る。
【0032】
特に好ましいリザーバー媒体は、保存期間中、送達すべき薬剤を安定化するものである。例えば、抗原または薬剤は、多価アルコールガラス中に溶解もしくは分散させ、または単に多価アルコールの中で乾燥させることにより長期保存期間中に渡り安定である (米国特許第5,098,893号、同6,071,428号; WO 98/16205; WO 96/05809; WO 96/03978; 米国特許第4,891,319号; 同5,621,094号; WO 96/33744)。このような多価アルコールは、好ましいリザーバー媒体を形成する。
【0033】
好ましい多価アルコールは、単糖、二糖、三糖もしくはオリゴ糖類を含む糖類、およびそれらに相当する糖アルコールを含む。本発明で使用するのに好適な糖類は、当技術分野において周知であり、そのような糖類の例としては、トレハロース、スクロース、ラクトース、果糖、ガラクトース、マンノース、マルツロース、イソマルツロース、ラクチュロース、マルトース、またはブドウ糖や、マンニトール、ラクチトールおよびマルチトールなどの前述した糖の糖アルコールが含まれる。スクロース、ラクトース、ラフィノースおよびトレハロースが好ましい。
【0034】
リザーバー媒体が乾燥時に非晶質のガラスを形成することが好ましい。このようなガラスリザーバーは任意のガラス転移温度を有し得るが、保存中に薬剤を安定化させ、皮膚へリザーバーを挿入した後に薬剤の迅速な放出を促進するようなガラス転移温度を有していることが好ましい。したがって、ガラス転移温度は30〜40℃を越える温度であるが、最も好ましくは体温付近の温度(例えば37〜50℃、限定されるものではない)である。
【0035】
デバイスの皮膚穿刺部材を作製するために使用される好ましいリザーバー媒体は、短時間で薬剤を放出するものである。好ましいリザーバー媒体組成物は、皮膚の中へ挿入後5分以内、好ましくは2分以内、より好ましくは1分以内、そして最も好ましくは30秒以内に、実質的にすべての薬剤を放出する。このような高速放出型のリザーバーは、例えば非晶質のガラスリザーバー(特に、低いガラス転移温度を有し、速い溶解/膨潤をおこすガラス質のリザーバー)を薄くコーティングすることにより達成できる。適切なガラス形成性糖類の選択、および/またはガラスの湿度および/またはイオン強度の増大によって低いガラス転移温度を達成できることは当業者にとっては明らかであろう。さらに、ガラスリザーバーの分解速度を速めるには、皮膚へ適用する前にまたは適用しながら該デバイスを温めてもよい。
【0036】
組成物中に含むことができるその他の好適な賦形剤には、緩衝液、アミノ酸、加工中もしくは保存中のコーティングの相変化を抑制する相変化抑制剤「結晶毒(crystal poisoners)」、あるいは加工中もしくは保存中の有害な化学反応を防ぐ抑制剤、またはアミノ酸のようなメイラード反応抑制剤が含まれ得る。
【0037】
したがって、本発明の好ましい実施形態においては、ワクチンを含有するガラス質の糖類リザーバー媒体でコーティングされた多数のマイクロブレードもしくはマイクロニードルのアレイを有する、ワクチン送達用の皮膚パッチが提供される。
【0038】
リザーバー媒体は、好ましくは固体もしくは非常に粘度の高い溶液であり、それ自体は滑らかであっても、またはざらざらしたものであってもよい。例えば該媒体は、固体、結晶、非晶質/ガラス質、固溶体、固体懸濁液、多孔質、滑らかなもの、粗いもの、またはしわの寄ったものなどであり得る。
【0039】
送達しようとする薬剤および生分解性のリザーバー媒体を含有する組成物は、好ましくは水溶液中で混合され、次いで微小突出物部材上で乾燥させるか、または該組成物を溶融して微小突出物部材に塗布することができる。皮膚穿刺部材をコーティングする好ましい方法は、ワクチン抗原および水溶性多価アルコール(例えばトレハロース)の水溶液の調製、次にその部材を該溶液に1回以上浸すことによるマイクロブレードのコーティング、さらに次に、大気温度で乾燥させるかまたは凍結乾燥して多孔性のコーティングを得る(必要なコーティングの厚さを得るためには一部もしくは全部の工程を繰り返す。図2のコーティングされたマイクロブレードの図を参照(点描された領域はリザーバー媒体であり、点線はリザーバー媒体がマイクロブレード部材の下面全体を覆い得ることを示す))。この方法では、水溶性の多価アルコールまたは糖類の初期溶液は、40% 糖類溶液の粘度同様に粘性が高いことが好ましい。
【0040】
マイクロニードルが中空で中央に孔を有する(図5A)か、マイクロブレードが湾曲しているかもしくはV字型断面を有する(図3および6)1実施形態においては、ひとたびそのブレードを液状の媒体に浸せば、該溶液はその孔部もしくは内部の空間を毛細管現象によって上昇して満たす(リザーバー媒体を充填した後の中央に孔を有するマイクロニードルについて図5Bを参照)。
【0041】
あるいはまた、ごく微量なピコリットル量の溶液もしくは溶融した組成物を、バブルジェットプリンター技術において一般的に使用される技術を用いて個々のブレードの上に噴霧し、次いで乾燥させることができる。その他の別の方法としては、スプレードライ法やスプレー凍結乾燥法あるいは乾燥・粉砕法等の当技術分野で公知の技術を使用し、また比較的低いガラス転移温度(例えば30℃)を達成するために湿度を調整することにより、糖類のような多価アルコールを含有する非晶質組成物の微小球もしくは微粒子または粉末を調製し、続いてスプレーもしくは浸漬により、該微小球もしくは微粒子または粉末と、それらのガラス転移温度以上の温度(例えば45℃)に加熱された微小突出部材とを接触させる。すると、コーティングされた粒子は溶融して微小突出部材に付着する。さらに乾燥させるか、またはコーティングされたマイクロブレード部材を(残る湿気を除去するために)さらに乾燥させることにより、保存に適したリザーバー媒体のガラス転移温度が上昇する。
【0042】
あるいはまた、マイクロニードル部材は凍結コーティング技術を使用してコーティングすることができる。例えば、マイクロニードル部材の温度を水の凝固点以下に下げ(例えば液体窒素に浸漬することによる)、次にリザーバー媒体および薬剤の水溶液を冷たいマイクロニードルの上に噴霧するか、またはマイクロブレードを薬剤溶液に浸漬することができる。この方法で、薬剤およびリザーバー媒体は、マイクロニードル部材の上に迅速に付着し、リザーバーコーティングを乾燥させるために、次に、凍結乾燥により昇華させるか、またはより高い温度で蒸発させることができる。
【0043】
マイクロニードル部材をコーティングする別の方法には、マイクロニードルを水などの溶媒(良好な接触を確保するために界面活性剤を適宜含有させてもよい)に浸して、その後湿ったブレードを粉末形態のリザーバー媒体(該溶媒中に可溶である)中に入れ、次に乾燥させて溶媒を除去する方法がある。
【0044】
本発明の好ましい1実施形態では、220nmの孔を有する膜による滅菌濾過が可能な程十分な流動性を有するリザーバー形成用媒体の粘性溶液にてマイクロブレードをコーティングする方法が提供される。これにより、濾過可能な粘性の糖類溶液組成物中に抗原を含有するワクチン組成物が提供される。そのような濾過可能な粘性の糖類溶液の好ましい例としては、糖約20〜約50%(乾燥前の最終的なワクチン組成物の重量/体積)の溶液が挙げられる。より好ましくは、粘性の濾過可能な糖類溶液は糖が約30〜約45%の範囲であり、さらに最も好ましくは約40%(糖類重量/乾燥前の最終的なワクチン組成物の体積)である。このような情況において、最も好ましい糖類溶液にはスクロース、ラフィノース、トレハロースまたはラクトースが含まれる。
【0045】
マイクロブレードが投与のための一体化された孔部を有するような実施形態においては、図4に示されるもののような個々のブレードを含むマイクロブレードの連なり(弓のこ刃のような)を、パッチに組み立てる前にリザーバーで満たし、乾燥させることができる。多くのブレードの連なりから組み立てられたそのようなデバイスのひとつは、WO 99/29364に記載されている。あるいはまた、WO 97/48440に記載されたもののようなデバイスは一体化された孔部を有し、その孔部はブレードがまだ刻まれた基板の平面内にある間に満たすことができ、次いでこのブレードを、その場所でリザーバー媒体と垂直に整列された状態へと型打ちすることができる。
【0046】
これらの技術を使用して、各々の皮膚穿刺部材に比較的多量の薬剤を付けることができる。各穿刺部材には、好ましくは500ngまで、より好ましくは1μgまで、さらに好ましくは5μgまでの薬剤もしくは抗原を付着させる。
【0047】
本発明のワクチン組成物は、ヒト病原体に対する免疫応答を誘発することができる抗原もしくは抗原組成物を含んでいることが好ましい。そのような抗原もしくは抗原組成物には、HIV-1由来のもの(例えば、tat、nef、gp120もしくはgp160)、ヒトヘルペスウイルス由来のもの(例えば、gDもしくはその類縁体)、またはHSV1もしくはHSV2由来のICP27のような前初期蛋白質(Immediate Early protein)、サイトメガロウイルス(特にヒト)由来のもの(例えば、gBもしくはその類縁体)、ロタウイルス(生きた弱毒化ウイルスを含む)由来のもの、エプスタインバーウイルス由来のもの(例えば、gp350もしくはその類縁体)、水疱瘡ウイルス由来のもの(例えば、gpI、IIおよびIE63)、またはB型肝炎ウイルス由来のもの(例えば、B型肝炎表面抗原もしくはその類縁体)、A型肝炎ウイルス由来のもの、C型肝炎ウイルス由来のもの、およびE型肝炎ウイルス由来のものなどの肝炎ウイルス由来のもの、またはパラミクソウイルスなどその他のウイルス性病原体由来のもの(例えば、RSウイルス由来のもの(例えば、FおよびG蛋白質もしくはその類縁体)、パラインフルエンザウイルス由来のもの、麻疹ウイルス由来のもの、おたふくかぜウイルス由来のもの、ヒトパピローマウイルス(例えば、HPV6、11、16、18等)由来のもの、フラビウイルス(例えば、黄熱病ウイルス、デング熱ウイルス、ダニ媒介脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス)由来のもの、または、インフルエンザウイルス(完全生存もしくは不活化ウイルス、分割したインフルエンザウイルス、卵もしくはMDCK細胞もしくはVero細胞において成長させたもの、または完全なインフルエンザウイルス体由来のもの(R.Gluck, Vaccine, 1992, 10, 915-920に記載)、またはHA、NP、NAもしくはM蛋白質などの精製蛋白質もしくは組換え蛋白質もしくはそれらの混合物)由来のもの、またはNeisseria spp.(N.gonorrheaおよびN.meningitidisを含む)のような細菌病原体由来のもの(例えば、莢膜多糖類、またそれらの接合体、トランスフェリン結合性蛋白質、ラクトフェリン結合性蛋白質、PilC、アドヘシン); S. pyogenes由来のもの(例えば、M蛋白質もしくはその断片、C5Aプロテアーゼ、リポテイコイン酸)、S. agalactiae由来のもの、S. mutans由来のもの; H. ducreyi由来のもの; Moraxella spp (Branhamella catarrhalisとして知られるM catarrhalisを含む)由来のもの(例えば、高分子量および低分子量のアドヘシンおよびインベイシン); Bordetella spp(B.pertussisを含む)由来のもの(例えば、ペルタクチン、百日咳毒素およびそれらの類縁体、線維状赤血球凝集素、アデニル酸シクラーゼ、フィンブリエ(fimbriae))、B.parapertussis由来のものおよびB.bronchiseptica由来のもの; Micobacterium spp.(M. tuberculosisを含む)由来のもの(例えば、ESAT6、抗原85A、85Bもしくは85C)、M.bovis由来のもの、M.leprae由来のもの、M.avium由来のもの、M. paratuberculosis由来のもの、M.smegmatis由来のもの; Legionella spp(L.pneumophilaを含む)由来のもの;腸管毒原性大腸菌由来のもの(例えば、コロニー形成因子、熱失活性毒素もしくはそれらの類縁体、または熱耐性の毒素もしくはそれらの類縁体)、腸内出血性大腸菌由来のもの、腸内病原性大腸菌由来のもの(例えば、志賀毒素様毒素もしくはそれらの類縁体)などのEscherichia spp.由来のもの;Vibrio spp(コレラ菌を含む)由来のもの(例えばコレラ毒素もしくはそれらの類縁体); Shifella spp (S.sonnei、S.dysenteriae、S.flexneriiを含む)由来のもの; Yersinia spp(Y.enterocoliticaを含む)由来のもの(例えばYop蛋白質)、Y.pestis由来のもの、Y.pseudotuberculosis由来のものを含む); Campylobacter spp 由来のもの(C.jejuni由来のもの(例えば毒素、アドヘシンおよびインベイシン)、およびC.coli由来のものを含む); Salmonella spp (S.typhi、S.paratyphi、S.choleraesuis、S.enteritidisを含む)由来のもの; Listeria spp (L. monocytogenesを含む)由来のもの; Helicobacter spp (H. pyloriを含む)由来のもの(例えば、ウレアーゼ、カタラーゼ、空胞形成毒素); Pseudomonas spp (P.aeruginosaを含む)由来のもの; Staphylococcus spp (S.aureus、 S.epidermidisを含む)由来のもの; Enterococcus spp (E.faecalis、E.faeciumを含む)由来のもの; Clostridium spp (C.tetaniを含む)由来のもの(例えば、破傷風毒素およびその類縁体)、C.botulinum由来のもの(例えば、ボツリヌス菌毒素およびその類縁体)、C. difficile由来のもの(例えば、クロストリディウム毒素AもしくはBおよびそれらの類縁体)を含む); Bacillus spp (B.anthracisを含む)由来のもの(例えば、ボツリヌス菌毒素およびその類縁体); Corynebacterium spp (C.diphtheriaeを含む)由来のもの(例えば、ジフテリア毒素その類縁体); Borrelia spp (B.burgdorferiを含む)由来のもの(例えば、OspA、OspC、DbpA、DbpB)、B.garinii由来のもの(例えば、OspA、OspC、DbpA、DbpB)、B.afzelii由来のもの(例えば、OspA、OspC、DbpA、DbpB)、B.andersonii由来のもの(例えば、OspA、OspC、DbpA、DbpB)、B.hermsiiを含む); Ehrlichia spp 由来のもの(E.equi由来のものおよびヒト顆粒球性エールリヒア症の媒介菌由来のものを含む); Rickettsia spp (R.rickettsiiを含む)由来のもの; Chlamydia spp (Ch.trachomatisを含む)由来のもの(例えばMOMP、ヘパリン結合性蛋白質)、C.pneumoniae由来のもの(例えばMOMP、ヘパリン結合性蛋白質)、C.psittaci由来のものを含む); Leptospira spp (L. interrogansを含む)由来のもの; Treponema spp (T. pallidumを含む)由来のもの(例えばまれな外膜蛋白質)、T. denticola由来のもの、T. hyodysenteriae由来のものを含む); あるいは、Plasmodium spp (P. falciparumを含む)のような寄生生物に由来するもの; Toxoplasma spp (T. gondiiを含む)由来のもの(例えばSAG2、SAG3、Tg34); Entamoeba spp (E. histolyticaを含む)由来のもの; Babesia spp (B. microtiを含む)由来のもの; Trypanosoma spp (T.cruziを含む)由来のもの; Giardia spp (G. lambliaを含む)由来のもの; Leshmania (L. majorを含む)由来のもの; Pneumocystis spp (P.cariniiを含む)由来のもの; Trichomonas spp (T. vaginalisを含む)由来のもの; Schisostoma spp (S. mansoniを含む)由来のもの、あるいはCandida spp (C. albicansを含む)のような酵母由来のもの; Cryptococcus spp (C. neoformansを含む)由来のものが挙げられる。
【0048】
好ましい細菌ワクチンは、S.pneumoniaeを含むStreptococcus spp由来の抗原(例えば、莢膜多糖類およびそれらの接合体、PsaA、PspA、ストレプトリシン、コリン結合性蛋白質)、および蛋白質抗原ニューモリシン(Biochem Biophys Acta, 1989, 67, 1007; Rubins et al., Microbial Pathogenesis, 25, 337-342)、およびそれらを突然変異的に解毒化した類縁体を含んでなる。その他の好ましい細菌ワクチンは、Haemophilus spp (H. influenzae B型(例えばPRPおよびその接合体)を含む)、非タイプ分類型H.influenzae(例えば、OMP26、高分子量アドヘシン、P5、P6、蛋白質D、およびリポタンパク質D、さらにフィンブリンおよびフィンブリン由来ペプチド(米国特許第5,843,464号)もしくは多コピーの変異体またはそれらの融合蛋白質)由来の抗原を含んでなる。その他の好ましい細菌ワクチンは、Morexella Catarrhalis(その外膜小胞を含む、およびOMP106(WO97/41731))、ならびにNeisseria mengitidis B(その外膜小胞を含む、およびNspA(WO 96/29412))由来の抗原を含んでなる。
【0049】
B型肝炎表面抗原の類縁体は、当技術分野において周知であり、特に、欧州特許出願EPA-414 374、 EPA-0304 578、およびEP 198-474に記載のPreS1、PreS2 S抗原を含む。好ましい1態様では、本発明のワクチン組成物はHIV-1抗原(gp120)、特にCHO細胞において発現されたHIV-1抗原(gp120)を含んでなる。さらなる実施形態において、本発明のワクチン組成物は上記に定義されるようなgD2tを含んでなる。
【0050】
本発明の好ましい実施形態において、請求項に記載のアジュバントを含むワクチンは、陰部のいぼに関与すると考えられるヒトパピローマウイルス(HPV)(例えば、HPV 6、HPV 11等)、および子宮頸癌に関与すると考えられるHPVウイルス(例えば、HPV16、HPV18等)由来の抗原を含んでなる。
【0051】
特に好ましい形態の、陰部のいぼの予防用または治療用ワクチンは、L1粒子もしくはキャプソメア、さらにHPV 6およびHPV 11由来の蛋白質E6、E7、L1およびL2から選択される1以上の抗原を含む融合蛋白質を含んでなる。
【0052】
最も好ましい形態の融合蛋白質は、WO 96/26277に開示されているようなL2E7、およびGB 9717953.5(PCT/EP98/05285)に開示されているような蛋白質D(1/3)- E7である。
【0053】
好ましいHPVの子宮頸部感染もしくは癌の予防的もしくは治療的なワクチン組成物はHPV 16もしくは18抗原を含み得る。例えばL1、L2抗原モノマー、あるいはウイルス様粒子(VLP)のように共存するL1もしくはL2抗原、またはVLPもしくはキャプソメアの構造において単独で示されるL1単独蛋白質がある。そのような抗原、ウイルス様粒子およびキャプソメアはそれ自身知られている。例えばWO94/00152、WO94/20137、WO94/05792およびWO93/02184を参照されたい。
【0054】
追加の初期蛋白質は、例えば好ましくはE7、E2もしくはE5のように、単独でもしくは融合蛋白質として含まれることができ、特にこの好ましい実施形態には、L1E7融合蛋白質(WO 96/11272)を含むVLPが含まれる。
【0055】
特に好ましいHPV 16抗原は、蛋白質D(Protein D)- E6もしくはE7(HPV 16由来)融合蛋白質を形成するための、蛋白質Dキャリアーと融合した初期蛋白質E6もしくはE7、またはそれらの組合せを含んでなる。あるいはE6もしくはE7とL2との組合せ(WO 96/26277)を含んでなる。
【0056】
あるいはまた、HPV 16もしくは18の初期蛋白質E6およびE7は、単一分子の形で、好ましくは蛋白質D-E6/E7融合蛋白質の形で示され得る。そのようなワクチンは任意に、HPV 18由来のE6およびE7蛋白質のどちらか、もしくは両方を含むことができ、好ましくは蛋白質D-E6もしくは蛋白質D-E7プロテインDの形で含むことができる。本発明のワクチンは、さらに、その他のHPV株、好ましくはHPV 6、11、31、33あるいは45株由来の抗原を付加的に含んでなることができる。
【0057】
本発明のワクチンはさらに、マラリアを引き起こす寄生動物に由来した抗原を含んでなる。例えば、Plasmodia falciparum由来の好ましい抗原はRTS、SおよびTRAPを含む。RTSは、B型肝炎の表面抗原のpreS2部分の4残基のアミノ酸を介して、B型肝炎ウイルスの表面抗原(S)と連結したP. falciparumのスポロゾイト周辺(CS)蛋白質のC-末端部分を実質的に全て含んでなるハイブリッド蛋白質である。その全構造は国際特許出願PCT/EP92/02591に開示され、英国特許出願No.9124390.7に基づく優先権を主張するWO93/10152において公表されている。酵母において発現された時、RTSはリポタンパク質粒子として生産され、またそれが生産するHBV由来のS抗原と共発現される場合、RTS、Sとして知られた混合粒子を生産する。TRAP抗原は、国際特許出願PCT/GB89/00895に記載され、WO 90/01496により公表されている。本発明の好ましい実施形態は、そこで抗原調製物がRTS、SおよびTRAP抗原の組合せを含んでなるマラリアワクチンである。多段式マラリアワクチンの構成要素の有望な候補であるその他のマラリア原虫抗原は、P. faciparum MSP1、AMA1、MSP3、EBA、GLURP、RAP1、RAP2、セケストリン、PfEMP1、Pf332、LSA1、LSA3、STARP、SALSA、PfEXP1、Pfs25、Pfs28、PFS27/25、Pfs16、Pfs48/45、Pfs230およびPlasmodium sppにおけるそれらの類縁体がある。
【0058】
本発明の組成物はさらに抗腫瘍抗原を含み、癌の免疫療法に有用となり得る。
【0059】
例えば、アジュバント製剤は、前立腺癌、乳癌、直腸癌、肺癌、膵臓癌、腎臓癌もしくは悪性黒色腫などに対する腫瘍拒絶抗原と併用して有効である。典型的な抗原は悪性黒色腫の治療に対するMAGE 1およびMAGE 3、PRAME、BAGEあるいはGAGE(Robbins and Kawakami, 1996, Current Opinions in Immunology, 8, pps 628-636;Van den Eynde et al., International Journal of Clinical&Laboratory Research (1997年公表); Correale et al., (1997), Journal of the National Cancer Institute 89, p293)を含む。確かにこれらの抗原は、悪性黒色腫、肺癌、肉腫および膀胱癌のような広範囲の腫瘍タイプにおいて発現される。その他の腫瘍特異的抗原は、本発明のアジュバント製剤を併用した使用に好適であり、前立腺特異的抗原(PSA)もしくはHer-2/neu、KSA(GA733)、MUC-1および腫瘍胚性抗原(CEA)を含むが、それに限定されるものではない。したがって本発明の1つの態様においては、本発明によるアジュバント製剤および腫瘍拒絶抗原を含んでなるワクチンが提供される。
【0060】
さらに上述の抗原は、多くの癌の治療もしくは免疫去勢における、全長よりなる性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH、WO 95/20600)、短い10アミノ酸長のペプチドなどの自己ペプチドホルモンであり得る。
【0061】
Borrelia sp由来の抗原を含むワクチンを製剤化するために、本発明の組成物が使用されるであろうことが予測される。例えば、抗原には核酸、病原体由来抗原もしくは抗原調製物、組換え的に生産された蛋白質かペプチド、およびキメラ融合蛋白質を含む。特に抗原はOspAである。OspAは、Lipo-OspAと名付けられた宿主細胞(E.Coli)の脂質化されたすぐれた形態、もしくは脂質化されていない誘導体において完全な成熟蛋白質であり得る。そのような脂質化されていない誘導体には、インフルエンザウイルスの非構成蛋白質(NS1)の最初のN末端の81アミノ酸を有する脂質化されていないNS1-OspA融合蛋白質、および完全長OspA蛋白質を含み、そして他には、MDP-OspAは3残基の付加的なN-末端アミノ酸を有するOspAの脂質化されてない形態である。
【0062】
本発明のワクチンはアレルギーの予防もしくは治療のために使用することができる。そのようなワクチンは特異的アレルゲン(例えばDer p1)および非特異的抗原(例えば、ヒト免疫グロブリンE由来のペプチドを挙げることができるが、stanworthデカペプチド(EP 0 477 231 B1)に限定されるものではない)を含んでなることができる。
【0063】
多種多様な起源に由来する抗原を含むワクチンを製剤化するために、本発明の組成物が使用されるであろうことが予測される。例えば、抗原にはヒト、細菌、もしくはウイルス、核酸、病原体由来抗原もしくは抗原調製物、腫瘍由来抗原もしくは抗原調製物、GnRHおよび免疫グロブリンEペプチドを含む宿主由来抗原、組換え的に生産された蛋白質、もしくはペプチド、およびキメラ融合蛋白質を含むことができる。
【0064】
さらに、本発明の組成物は、むき出しの形の核酸、もしくは投与後の皮膚細胞への核酸の取り込みを助けるためのアデノウイルスもしくはレトロウイルスのような適切なベクターに取り込ませた状態の核酸を含むことができる。この実施形態の適用は、DNAワクチンおよび遺伝子治療用の製品を含む。
【0065】
プラスミドに基づく遺伝子の送達、特に免疫化もしくは遺伝子治療目的のものが知られている。例えば、マウス筋肉内への注射による裸のDNAの投与はWO90/11092の中で概説されている。JohnstonらによるWO 91/07487には、任意の遺伝子をコードしたポリヌクレオチドでコーティングした微小突出物(microprojectiles)を使用して脊椎動物細胞へ遺伝子を送達し、微粒子が標的細胞に浸透することができるよう促す方法について記載されている。
【0066】
DNAワクチンは通常、強力なウイルスプロモーターが挿入された細菌のプラスミドベクター、抗原ペプチドをコードする任意の遺伝子、および1つのポリアデニル化/転写の停止配列から構成される。任意の遺伝子は、全体の蛋白質、もしくは単純に、病原体、腫瘍あるいはその他の物質に関係し、それらに対し防御されることが意図された抗原ペプチド配列をコードすることができる。こうしたプラスミドは、例えばE. coliのような細菌において増殖させることができ、次いで宿主に投与される前に単離され、意図した投与経路に依存した適切な媒体中に調製することができる。次なる投与でプラスミドは、コードされた蛋白質もしくはペプチドが生産される場所である宿主の細胞によって取り込まれる。プラスミドベクターは、哺乳類宿主中でのプラスミド複製を防ぎ、またその動物の染色体DNA内に取り込まれることを防ぐために、真核細胞中で機能を示す複製オリジンを取り除いた状態で作製されることが好ましい。DNAワクチン接種に関する情報は、Donnellyらにより提供されている("DNAvaccines" Ann. Rev Immunol. 1997, 15:617-648、その開示は、参照によりその全文を本明細書に組み入れるものとする。
【0067】
本発明の実施形態においては、「むき出しの」DNAとしてポリヌクレオチドが投与/送達される(例えば、Ulmerら、Science 259:1745-1749, 1993、およびCohen, Science 259:1691-1692, 1993による記載)。むき出しのDNAの取り込みは、細胞へ効率的に送達される金などの不活性な金属のビーズ、もしくは生分解性のビーズ上にDNAをコーティングすることにより増加させることが可能である; あるいはリン酸カルシウムのような周知の形質導入促進剤の使用によって、増加させることが可能である。
【0068】
DNAは、例えばリポソームのようなキャリアー、およびリザーバー媒体の中に捕捉されるあらゆるものと共に投与することができる。典型的に、そのようなリポソームはカチオン性であり、例えばイミダゾリウム誘導体(WO95/14380)、グアニジン誘導体(WO95/14381)、ホスファチジルコリン誘導体(WO95/35301)、ピペラジン誘導体(WO95/14651)およびビグアナイド誘導体である。
【0069】
本発明のワクチンは、有利にはさらにアジュバントを含むことができる。本発明のワクチン用の好適なアジュバントは、免疫グロブリンEペプチド免疫原に対する抗体応答を増強できるアジュバントを含んでなる。アジュバントは当技術分野において周知である(Vaccine Design-The Subunit and Adjuvant Approach, 1995, Pharmaceutical Biotechnology, Volume 6, Eds. Powell, M. F., and Newman, M. J., Plenum Press, New York and London, ISBN 0-306-44867-X)。本発明の、免疫原と共に使用するための好ましいアジュバントは、アルミニウムもしくはカルシウム塩類(水酸化物またはリン酸塩)を含む。
【0070】
本発明の、免疫原と共に使用するための好ましいアジュバントには、アルミニウムあるいはカルシウム塩類(水酸化物またはリン酸塩)、水中油型エマルジョン(WO 95/17210、EP 0 399 843)、もしくはリポソームのような微粒子のキャリアー(WO 96/33739)が含まれる。南アメリカの樹木Quillaja Saponaria Molinaの樹皮由来のアジュバント活性を有する免疫学的に活性なサポニン分画(例えばQuil A)は、特に好ましい。 Quil Aの誘導体、例えばQS21 (Quil A誘導体のHPLCによる精製画分)、およびその生産の方法が、米国特許第5,057,540号に開示されている。QS21(QA21として知られている)の中で、QA17のような他の画分も開示されている。3 De-Oアシル化されたモノホスホリル脂質AはRibi Immunochem, Montana社により製造されている周知のアジュバントである。それはGB 2122204Bの中で教示される方法により調製できる。3 De-Oアシル化されたモノホスホリル脂質Aの好ましい形態は、直径0.2μm未満の小さな粒子サイズを有するエマルジョンの形態である(EP 0 689 454 B1)。
【0071】
アジュバントはまた、Quil Aのようなムラミルジペプチドおよびサポニン、3D-MPL(3-O脱アシル化されたモノホスホリル脂質A)のような細菌のリポ多糖類、もしくはTDMを含むが、限定されるものではない。さらに典型的な代案として、蛋白質は、リポソームのような微粒子内、もしくは一般式(I) HO(CH2CH2O)n-A-R(ここでnは1〜50であり、Aは結合もしくは -C(O)-、RはC1-50アルキルもしくはフェニルC1-50アルキル (WO 99/52549)である)のポリオキシエチレンエーテルの非微粒子懸濁液もしくは水溶液中にカプセル化することができる。
【0072】
特に好ましいアジュバントは、3D-MPLおよびQS21(EP 0 671 948 B1)の組合せ、3D-MPLおよびQS21を含む水中油型エマルジョン(WO 95/17210、PCT/EP98/05714)、3D-MPLをその他のキャリアーと共に製剤化したもの(EP 0 689 454 B1)、もしくはQS21をコレステロール含有リポソーム中で製剤化したもの(WO 96/33739)、あるいは免疫刺激性オリゴヌクレオチド(WO 96/02555)である。
【0073】
好適な、薬学的に許容できる賦形剤の例には、水、リン酸緩衝化生理食塩水、等張の緩衝液を含む。
【0074】
またポリオキシエチレンヒマシ油もしくはカプリル酸/カプリン酸グリセリドとポリオキシエチレンソルビタンモノエステルとの混合物および抗原を含んでなるアジュバント調製物は、粘膜への局所的投与後に全身性免疫応答を引き起こすことができる(WO 9417827)。この特許出願は、TWEEN20TM(ポリオキシエチレンソルビタンモノエステル)およびImwitor742TM(カプリル酸/カプリン酸グリセリド)の組合せか、もしくはTWEEN20TMとポリオキシエチレンヒマシ油の組合せが、鼻腔内免疫化の後に全身性免疫応答を増強することができることを開示している。Novasomes(米国特許第5,147,725)は、抗原を内包するポリオキシエチレンエーテルおよびコレステロールを含んでなる小薄膜(paucilamenar)小胞の構造体であり、全身投与の後に抗原への免疫応答を補助することができる。
【0075】
界面活性剤もまた、非イオン性界面活性剤小胞(一般にneosomeとして知られている、WO 95/09651)を形成するような方法により製剤化されている。
【0076】
粘膜の免疫応答および全身性免疫応答の両方を増強することが知られているその他のアジュバントには、Vivrio choleraeおよびEschericia coli由来の細菌の腸毒素(すなわちそれぞれ、コレラ毒素(CT)、および熱失活性エンテロトキシン(LT))を含む。CTおよびLTは、有毒なAサブユニットを内部に抱え込んだβ−サブユニットの五環から成るヘテロダイマーである。それらの構造および生物学的活性はClements and Finklestein, 1979, Infection and Immunity, 24:760-769; Clements et al., 1980, Infection and Immunity, 24: 91-97に開示されている。最近、ひとたび細胞から放出されるとLTの非毒性型を毒性型に「スイッチオンにする」ために必要な蛋白質分解部位を欠損した、非毒性のLT誘導体が開発された。LT(mLT(R192G)と称する)のこの形態は、192番目の位置でアミノ酸アルギニンをグリシンに置換することにより蛋白質分解的な開裂を受けなくなり、強いアジュバント活性を保持しながら顕著に毒性が減少していることが示されている。mLT(R192G)は、したがって、蛋白質分解部位変異体と称される。mLT(R192G)の製造方法は特許出願WO 96/06627に開示されている。その他のLTの変異した形態には、LTA配列の69番目の位置におけるアラニンのグリシンへの置換を含むmLT(A69G)などの活性部位突然変異体が含まれる。粘膜のワクチンとしてのmLT(R192G)の使用は、特許出願WO 96/06627に記載されている。そのようなアジュバントは、有利なことに、本発明の非イオン性界面活性剤と組み合わせることができる。
【0077】
その他のアジュバントもしくは免疫刺激物質は、メチル化されていないCpGジヌクレオチド(WO 96/02555に記載されている)を含むオリゴヌクレオチドアジュバント系を含む。特に好ましい免疫刺激物質はCpG免疫刺激オリゴヌクレオチドであり、その組成物はより大型の動物における免疫応答の誘発および増強において強力である。好ましいオリゴヌクレオチドは以下の配列を有する:この配列は好ましくは全てのホスホロチオエート修飾されたヌクレオチド間の結合を含んでいる。
【0078】
オリゴ 1:TCC ATG ACG TTC CTG ACG TT(配列番号1)
オリゴ 2:TCT CCC AGC GTG CGC CAT(配列番号2)
オリゴ 3:ACC GAT GAC GTC GCC GGT GAC GGC ACC ACG(配列番号3)。
【0079】
本発明において利用されるCpGオリゴヌクレオチドは、当業者に知られた任意の方法(例えば、EP 468520記載の方法)を用いて合成することができる。便利なことに、そのようなオリゴヌクレオチドは自動合成機を利用して、合成することができる。
【0080】
あるいはまた、ポリオキシエチレンエーテルもしくはエステルは、キトサンもしくは他のポリカチオン性のポリマー、ポリラクチドおよびポリラクチド-コ-グリコライド粒子、多糖もしくは化学的修飾多糖から構成される粒子、コレステロール非含有リポソームおよび脂質をベースとする粒子、水中油型エマルジョン(WO 95/17210)、グリセリンモノエステルから構成された粒子等から構成されるワクチン送達体と組合せることができる。
【0081】
本発明の目的は、皮膚へ薬剤もしくはワクチンを迅速かつ高い投与効率で投与することである。これは、リザーバー媒体として高い可溶性を有する炭水化物類の使用を含んでなる多くの手段によって、および投与の間にマイクロニードル部材を撹拌させるおよび/または加温することによってさらに増強させることができる。
【0082】
各ワクチン投与における蛋白質の量は、典型的なワクチン接種において、接種を受けた人に著しい負の副作用を引き起こすことなく免疫防御応答をもたらす量として選択されている。そのような量はどのような特異的免疫原を使用し、どのようにそれを示すかに依存して変化し得るであろう。一般的に、各投与量は1〜1000μg、好ましくは1〜500μg、より好ましくは1〜100μgの蛋白質を含んでなり、最も好ましくは1〜50μgの範囲である。特定のワクチンにとっての最適の量は、被験者における適切な免疫応答の観察を含む標準的な研究により確認することができる。初回のワクチン接種に続いて被験者は、適切に間隔を置いて1回もしくは数回のいくつかの追加免疫を受けることができるだろう。
【0083】
本発明の組成物は、予防目的および治療目的のために使用することができる。
【0084】
したがって本発明は、感染症もしくは癌、あるいはアレルギー、または自己免疫疾患に罹患性を有する、もしくはそれらにかかった哺乳動物の治療方法を提供する。本発明のさらなる一態様においては、医学分野に使用するための、本明細書に記載のワクチンが提供される。ワクチン調製方法は、一般的にはNew Trends and Development in Vaccines, edited by Voller et al., University Park Press, Baltimore, Maryland, U.S.A 1978に記載されている。
【0085】
本発明の組成物は予防目的および治療目的の両方のために使用され得る。本発明のさらなる一態様においては、薬剤として使用するための、本明細書に記載のワクチンが提供される。
【0086】
本発明は以下の実施例によりさらに説明されるが、これにより限定されるものではない。
【実施例】
【0087】
実施例1 ワクチン用糖コーティングの組成物
B型肝炎ワクチンを調製し、金属針上にコーティングするに先立ち4種類の異なる糖類を用いて配合した。肝炎ワクチン(HepB)は、組換えB型肝炎表面抗原粒子(Harford et al, 1983, Develop. Biol. Standard, 54, 125; Gregg et al, 1987, Biotechnology, 5, 479; 欧州特許出願第0 266 846および0 299 108に記載)である。簡潔に述べれば、金属針をHepBと糖類の溶液中に浸し、次いで凍結乾燥した。針上へのHepBのコーティングは、コーティングし乾燥した針をゲルに適用することにより確認した。
【0088】
材料
ラクトース溶液 15.75%
スクロース溶液 15.75%
スクロースから調製した80%スクロース水溶液
ラフィノース溶液 15.75%(D(+)-ラフィノース5水和物、Fluka 411308/1 12900)
トレハロース溶液 15.75%
EPI 2001B60CB096
HepB、精製バルク品
針:no.8針、品番121 292(Prym社、52220 Stolberg、ドイツ)
ゲル: Novexプレキャストゲル 4〜20% トリス−グリシンゲル(1.0mm× 15ウエル)
4種の異なる糖中での、178μg/ml Hep Bによる針のコーティングおよび凍結乾燥 178μg/mlのHep Bを3.15%(w/v)の4種の異なる糖類の中で配合した。針は、凍結乾燥用ガラスバイアルに使用される通常のゴム栓の上に固定される。針は、液状のHep B組成液の中に一度漬け込む(深さ2.5cm)により、コーティングされる。
【0089】
針およびゴム栓は通常の凍結乾燥ガラスバイアル中に置かれ、標準の凍結乾燥サイクルに供した。凍結乾燥後、ガラスバイアルに栓を完全に押し込んでバイアルを密閉した。それにより、コーティングされた針は、保存中密閉されたバイアルの中に保持される。
【表1】

【0090】
製剤化されたHep B(凍結乾燥前)の分析およびSDS-PAGE条件
各組成のサンプルはいかなる還元処理も行うことなくコントロールとしてゲル上にアプライされる。各溶液 (蛋白質として0.5μg)3μlを4〜20% トリス-グリシンNovexゲルにのせた。電気泳動後、銀染色を行う。結果を図8に示す。ゲルのレーンは次のものに相当する:
1. 分子量マーカー(Biolabs社製);
2. 精製バルクHepB;
3. 分子量マーカー(Biolabs社製);
4および5. ラクトースでコーティングしたHep B;
6および7 スクロースでコーティングしたHep B;
8および9. ラフィノ−スでコーティングしたHep B;
10および11. トレハロースでコーティングしたHepB。
【0091】
コーティングされた針(凍結乾燥後)の分析およびSDS-PAGE条件
各組成の乾燥させたコーティング針を、ゲルの内部に短時間(深さ2cm)挿入することで直接ゲルにアプライした。還元処理は行わない。電気泳動後、銀染色を行う。結果を図9に示す。ゲルのレーンは次のものに相当する:
1. 分子量マーカー(Biolabs社製);
2. 精製バルクHepB;
3, 4および5. ラクトース組成による凍結乾燥針;
6, 7および8. スクロース組成による凍結乾燥針;
9, 10および11. ラフィノ−ス組成による凍結乾燥針;
12, 13および14. トレハロース組成による凍結乾燥針。
【0092】
結果
針の上における液状の組成物(図2参照)と凍結乾燥された組成物(図3参照)で分解は見られない。液状および凍結乾燥されたサンプルは、共にゲル上で類似した泳動像を与える。ラクトース、スクロース、ラフィノースあるいはトレハロースで違いはない。各針の上に蛋白質が存在する。
【0093】
実施例2 放出の動力学的テスト
実施例1に記載のコーティング針をゲルに挿入後、直ちに針を抜き取り、4〜20% トリス-グリシンNovexゲルへ1分間アプライしたものと比較した。ここでも、電気泳動の後に銀染色を実施し、HepB蛋白質を染色した。結果を図10に示す。各レーンは次のものに相当する:
1. 挿入1分後に抜き取った、ラクトース組成液におけるHepBコーティング針;
2. 挿入後直ちに抜き取った、ラクトース組成液におけるHepBコーティング針;
3. 空のレーン;
4. 挿入1分後に抜き取った、スクロース組成液におけるHepBコーティング針;
5. 挿入後直ちに抜き取った、スクロース組成液におけるHepBコーティング針;
6. 空のレーン;
7. 挿入1分後に抜き取った、ラフィノース組成液におけるHepBコーティング針;
8. 挿入後直ちに抜き取った、ラフィノース組成液におけるHepBコーティング針;
9. 空のレーン;
10. 挿入1分後に抜き取った、トレハロース組成液におけるHepBコーティング針;
11. 挿入後直ちに抜き取った、トレハロース組成液におけるHepBコーティング針;
12, 13, 14. 空のレーン;
15. 分子量マーカー(Biolabs社製)。
【0094】
実施例3 高濃度スクロース組成における444μg/ml HepBコーティング針の凍結乾燥
Hep B(888μg/ml)およびスクロース溶液(60% w/v)の出発溶液から、444μg/ml Hep B、40%スクロース(PBS溶液中)のコーティング調製物を得た。実施例1同様、針は、凍結乾燥に使用される通常のゴム栓の上に固定される。それらの針は、液状のHep B組成液の中に一度もしくは5度漬け込む(深さ2.5cm)ことよりコーティングした(針は毎回のコーティング工程間で乾燥させた)。針およびゴム栓を通常の凍結乾燥ガラスバイアル中に入れ、標準の凍結乾燥サイクルに供した。凍結乾燥後、ガラスバイアルに栓を完全に押し込んでバイアルを閉めた。それにより、コーティングされた針は、保存中密閉されたバイアルの中に保持される。
【表2】

【0095】
コーティングされた針(凍結乾燥後)の分析およびSDS-PAGE条件
各組成の乾燥させたコーティング針を、ゲル内部に短時間(深さ2cm)挿入することで直接ゲルにアプライした。還元処理は行わない。ゲルは4〜20% トリス-グリシンNovexである。電気泳動後、銀染色を行う。5回浸した結果を、図11に示す。各レーンは次のものに相当する:
1. 精製バルクHepB 1μg;
2. 精製バルクHepB 0.5μg;
3. 精製バルクHepB 0.3μg;
4. 精製バルクHepB 0.2μg;
5. 精製バルクHepB 0.1μg;
6. 精製バルクHepB 0.05μg;
7. 精製バルクHepB 0.01μg;
8/9/10/11. 空のレーン;
12/13/14/15. 40%スクロース組成液による5層のコーティング凍結乾燥針。
【0096】
1回浸した結果を、図12に示す。各レーンは次のものに相当する:
1. 精製バルクHepB 1μg;
2. 精製バルクHepB 0.5μg;
3. 精製バルクHepB 0.3μg;
4. 精製バルクHepB 0.2μg;
5. 精製バルクHepB 0.1μg;
6. 精製バルクHepB 0.05μg;
7. 精製バルクHepB 0.01μg;
8/9/10/11. 空のレーン;
12/13/14/15. 40%スクロース組成液による1層のコーティング凍結乾燥針。
【0097】
このように、444μg/mlのHep B、および40%溶液のスクロースを使用して、1本の針当たり1μg以上、および5回の浸漬操作後には約5μgの量をコーティングすることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を含有する固体の生分解性リザーバー媒体を含んでなる少なくとも1つの皮膚穿刺部材を有する、薬剤送達デバイス。
【請求項2】
薬剤を含有する固体の生分解性リザーバー媒体が、少なくとも1つの皮膚穿刺部材上においてその外側にコーティングされている、請求項1に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項3】
固体の生分解性リザーバー媒体が多価アルコールである、請求項1または2に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項4】
多価アルコールが安定化用の多価アルコールである、請求項3に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項5】
固体の生分解性リザーバー媒体が糖である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項6】
糖がラクトース、スクロース、ラフィノースまたはトレハロースから選択される、請求項5に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項7】
固体の生分解性リザーバー媒体がガラス質を形成する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項8】
固体の生分解性リザーバー媒体が、その皮膚穿刺部材および固体の生分解性リザーバー媒体を皮膚内に挿入後5分以内に薬剤を放出する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項9】
皮膚穿刺部材が真皮へ薬剤を送達するような寸法である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項10】
皮膚穿刺部材が表皮へ薬剤を送達するような寸法である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項11】
皮膚穿刺部材がマイクロニードルまたはマイクロブレードである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項12】
薬剤がワクチンである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項13】
ワクチンが抗原を含有する、請求項12に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項14】
ワクチンが抗原をコードした核酸を含有する、請求項12に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項15】
薬剤およびリザーバー媒体の溶液を調製し、少なくとも1つの皮膚穿刺部材をこの溶液に浸し、その後乾燥させて該皮膚穿刺部材上に薬剤を含有する固体の生分解性リザーバー媒体を形成させることを含んでなる、薬剤送達デバイスの製造方法。
【請求項16】
ワクチンを含有するガラス質の糖のリザーバー媒体でコーティングされたマイクロブレードもしくはマイクロニードルのアレイを含んでなる、ワクチン送達用皮膚パッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−156370(P2011−156370A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59971(P2011−59971)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【分割の表示】特願2002−513544(P2002−513544)の分割
【原出願日】平成13年7月18日(2001.7.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(305060279)グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム (169)
【出願人】(595047190)スミスクライン ビーチャム ピー エル シー (34)
【Fターム(参考)】