説明

ワックスパターン又はレジンパターンを用いた鋳型製造方法及びこれに用いられる遠心埋没装置

【課題】埋没材のスラリーを調製する際の混水比の管理を容易化し且つ鋳肌を平滑化する。
【解決手段】鋳造リング16の中に埋没材のスラリー18を充填(II)し、また、鋳造リング16にキャップ22を装着する(III)。円錐台14と鋳造リング16との組立体26は、未だに硬化していないスラリー18を収容した状態で遠心埋没装置に装着される。遠心埋没装置が動作すると、組立体26が真横の姿勢になり、キャップ22側から円錐台14側に向けて遠心力が付与され、この遠心力によってスラリー18から余剰の練和液が分離される(IV)。余剰練和液の分離が完了したら、遠心埋没装置から取り外した組立体26からキャップ22を外して余剰練和液を排出する(V)。この後の工程は、従来と同様に、スラリー18が硬化した後に脱ロウ工程に移行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に歯科修復物の鋳造や貴金属の装飾品の鋳造に採用されているワックスパターン又はレジンパターンを用いた鋳型製造方法及びこれに用いられる遠心埋没装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワックスパターンを使った精密鋳造法は、歯科修復物や貴金属の装飾品の製造に一般的に用いられている。また、ワックスの代わりにレジンでパターンを形成して、これを焼却することでキャビティを作る技法も開発されている。図12を参照して従来のロストワックス鋳造法を説明する。図12に示す参照符号10は、例示として歯科用鋳造品の原型となるワックスパターンを示す。ワックスパターン10はスプール線12を介して円錐台14の上に設置される(図12の(I))。スプール線12は湯道を形成するための材料である。ワックスパターン10が設置された円錐台14には、その後、円筒状の鋳造リング16が設置され、鋳造リング16によってワックスパターン10の周囲が包囲される(図12の(II))。
【0003】
これとは別に、埋没材が用意される。埋没材の種類は石膏系埋没材と非石膏系埋没材とに分類することができ、また、非石膏系埋没材はリン酸塩系埋没材とシリカゾル系埋没材とに分類することができる。シリカゾル系埋没材は、エチルシリケート埋没材、コロイダルシリカ埋没材を例示することができる。特許文献1には石膏系、リン酸塩系の埋没材が開示されている。特許文献2〜4には石膏系埋没材が開示されている。特許文献5にはリン酸塩系埋没材が開示されている。
【0004】
埋没材は、典型的には耐火材(シリカ)を主成分とし、これに結合材が配合された粉末埋没材料として入手可能である。入手した粉末埋没材料は、これに練和液を添加して練和することで泥状に調製したスラリー18の状態で使用される。
【0005】
ワックスパターン法に従って説明すると、予め用意したスラリー18は鋳造リング16の中に充填される(図12の(III))。スラリー18を鋳造リング16の中に充填することにより、ワックスパターン10及びスプール線12の周囲がスラリー18で包囲された状態となる(図12の(IV))。スラリー18が硬化したら、鋳造リング16で包囲された状態の硬化した埋没材20から円錐台14及びスプール線12を除去し、そして、鋳造リング16の中の埋没材20を電気炉やガス炉などの加熱炉の中に入れて脱ロウが行われる(脱ロウ工程)。スプール線12がワックスで作られているときには、ワックスパターン10及びスプール線12を残して円錐台14だけが除去される。脱ロウ工程によって、埋没材20の中のワックスパターン10が除去され、これにより、埋没材20は、湯道及びキャビティを備えた鋳型になる。この鋳型のキャビティの中に溶融金属を充填する鋳込みによって歯科鋳造品が形成される。ワックスパターン法の代わりにレジンパターンを用いたときには、脱ロウの代わりにレジンパターンが加熱炉で消失する。
【0006】
埋没材の使用に際して幾つかの注意事項が知られている。例えば鋳造物の鋳肌を平滑にするのに、粉末埋没材料は粉末粒度が細かいほど良いと言われている。また、スラリー18を調製する際に、及び/又はスラリー18を鋳造リング16の中に充填する際に、バイブレータを用いて十分に脱泡処理するのが好ましいと言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−286121号公報
【特許文献2】特開平10−113745号公報
【特許文献3】特開平11−226695号公報
【特許文献4】特開2001−353166号公報
【特許文献5】特開平10−296386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
金属材料は、周知のように、溶融状態から雰囲気温度に低下する過程で熱収縮する。例えば金合金の鋳造収縮率は1.4〜1.6%、金銀パラジウム合金の鋳造収縮率は1.5〜1.7%、銀合金の鋳造収縮率は1.1〜1.3%、コバルトクロム合金の鋳造収縮率は2.1〜2.3%、ニッケルクロム合金の鋳造収縮率は1.9〜2.3%であると言われている。この合金の鋳造収縮に対応するために埋没材の膨張を利用することが知られている。埋没材の膨張率は、粉末埋没材料と練和液との混水比によって影響を受けるため混水比の管理が重要であり、作業者は混水比に注意してスラリーを調製する必要がある。
【0009】
本発明の目的は、埋没材のスラリーを調製する際の混水比の管理を容易化することのできるワックスパターン又はレジンパターンを用いた鋳型製造方法及びこれに用いる遠心埋没装置を提供することにある。
【0010】
本発明の更なる目的は、埋没材のスラリーを調製する際の混水比の管理がラフであったとしても、好ましい混水比に調整することのできるワックスパターン又はレジンパターンを用いた鋳型製造方法及びこれに用いる遠心埋没装置を提供することにある。
【0011】
本発明の更なる目的は、作業者の熟練に依存することなく鋳肌が平滑な鋳造品を作製することのできるワックスパターン又はレジンパターンを用いた鋳型製造方法及びこれに用いる遠心埋没装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の技術的課題は、本発明の第1の観点によれば、基本的には、
埋没材の粉末埋没材料に練和液を添加して練和することにより調製したスラリーを鋳造リングの中に充填してワックスパターン又はレジンパターンの周りをスラリーで包囲し、該スラリーが硬化した後に前記ワックスパターン又はレジンパターンを除去するパターン除去処理を行うことにより前記埋没材の鋳型を製造する鋳型製造方法において、
円周軌道に沿って前記スラリーを充填した前記鋳造リングを真横の姿勢で回転させることにより前記鋳造リングの中のスラリーに遠心力を付与して前記スラリーから余剰の練和液を分離させる余剰練和液分離工程と、
該余剰練和液分離工程の後に、前記鋳造リングの中の前記余剰練和液を前記鋳造リングから排出する余剰練和液排出工程と、
該余剰練和液排出工程の後に、前記スラリーを硬化させるスラリー硬化工程とを有し、
該スラリー硬化工程の後に前記パターン除去処理を実行することを特徴とするワックスパターン又はレジンパターンを用いた鋳型製造方法を提供することにより達成される。
【0013】
すなわち、第1の観点の本発明は粉末埋没材料と練和液とを練和してスラリーを調製して、このスラリーを鋳造リングの中に充填してワックスパターン又はレジンパターンをスラリーで包囲するまでの工程は、従前と同じであるが、スラリーを充填した鋳造リングを真横にしながら公転させて、該鋳造リングの中のスラリーに遠心力を付与することで、スラリーに含まれる余剰の練和液をスラリーから分離させ、分離した練和液を鋳造リングから排出することを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、埋没材のスラリーを調製する際に過剰に練和液を添加したとしても、遠心力の付与による余剰練和液の分離によって混水比を適切に調整することができる。したがって、埋没材のスラリーを調製する際の混水比の管理を容易化することができる。換言すれば、埋没材のスラリーを調製する際の混水比の管理がラフであったとしても、好ましい混水比に調整することができる。また、遠心力によってスラリーが押し固められるためワックスパターン又はレジンパターンの表面を忠実に転写することができ、これによりスラリーが硬化した後の埋没材からなる鋳型から作られる鋳造品の鋳肌を平滑化することができる。
【0015】
上記の技術的課題は、本発明の他の観点によれば、
埋没材の粉末埋没材料に練和液を混入して練和したスラリーを鋳造リングの中に充填して、該鋳造リングの中に設置されているワックスパターン又はレジンパターンを前記スラリーで包囲した前記鋳造リングの中の前記スラリーに遠心力を作用させて該スラリーから余剰練和液を分離させるための遠心埋没装置であって、
電動モータに連係された中心軸を中心に回転駆動される回転体と、
該回転体に揺動自在に設けられた保持具とを有し、
前記スラリーを充填した鋳造リングを前記保持具に装着したときに、該スラリーを充填した鋳造リングの重心が前記保持具の揺動中心軸よりも低位に位置し、
前記電動モータを起動して前記回転体を回転駆動させたときに、前記鋳造リングが真横の姿勢で前記水平軸を中心に公転して、前記鋳造リングの中のスラリーに遠心力を付与することを特徴とする遠心埋没装置を提供することにより達成される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例の鋳型製造方法の手順を説明するための図である。
【図2】エチレンシリケート埋没材を使った鋳型製造方法の手順を説明するための図である。
【図3】図2に続いて、エチレンシリケート埋没材を使った鋳型製造方法の手順を説明するための図である。
【図4】図3に続いて、エチレンシリケート埋没材を使った鋳型製造方法の手順を説明するための図である。
【図5】図4に続いて、エチレンシリケート埋没材を使った鋳型製造方法の手順を説明するための図である。
【図6】図5に続いて、エチレンシリケート埋没材を使った鋳型製造方法の手順を説明するための図である。
【図7】実施例の鋳型製造方法に使用した遠心埋没装置の概要を説明するための図である。
【図8】図7の遠心埋没装置に設けられている保持具が水平軸を中心に揺動自在であることを説明するための図である。
【図9】図6に続いて、エチレンシリケート埋没材を使った鋳型製造方法の手順を説明するための図である。
【図10】遠心埋没装置の回転体に設置される保持具の変形例を示し、鋳造リングを設置する過程を説明するために空の鋳造リングを保持具に装着する直前の状態を示す図である。
【図11】図10に対応する図であり、鋳造リングを設置する過程を説明するために空の鋳造リングを保持具に装着した状態を示す図である。
【図12】従来の鋳型製造方法の手順を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0017】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0018】
図1は、実施例のワックスパターンを用いた鋳型製造方法の手順を説明するための図である。図1においては、先に従来例として図12を参照して説明した部材と同じ部材には同一の参照符号を付してある。実施例の鋳型製造方法は、従来と同様に、ワックスパターン10をスプール線12を介して円錐台14の上に設置した後に鋳造リング16を取り付けて、この鋳造リング16の中に泥状の埋没材つまりスラリー18を充填する(図1の(I)、(II))。スラリー18は、石膏系埋没材、非石膏系埋没材(リン酸塩系埋没材、シリカゾル系埋没材)のいずれの埋没材であってもよい。次いで、鋳造リング16の上端開口にキャップ22を装着する(図1の(III))。キャップ22の装着は必ずしも必須ではない。キャップ22は、好ましくは、中心部に開口22aを備えているのがよく、この開口22aを通じて、鋳造リング16の中にスラリーを充填することができる。
【0019】
キャップ22を装着した後、円錐台14と鋳造リング16との組立体26は、未だに硬化していないスラリー18を収容した状態で遠心埋没装置に装着され、この遠心埋没装置によって、組立体26を真横にした状態で且つキャップ22側から円錐台14側に向けて遠心力が付与される(図1の(IV))。適当な時間(例えば10分間)、遠心埋没装置を動作させて組立体26の中のスラリー18に遠心力を作用させてスラリー18から余剰の練和液を分離させる。スラリー18から分離した余剰の練和液は、スラリー18の固形成分との比重の相違によって遠心力の作用方向後方に位置した、つまり横になった組立体26のキャップ22側に偏在した状態となる。
【0020】
任意であるが、スラリー18を収容した組立体26を遠心埋没装置に装着する前に、図1に仮想線で示すように、錘Wtをスラリー18の上に載置してもよい(図1の(II))。
【0021】
遠心埋没装置を使った余剰の練和液の分離が完了したら、組立体26を遠心埋没装置から取り外し、そしてキャップ22を鋳造リング16から取り外して、組立体26を横に傾けることで、鋳造リング16の上端部に存在する分離した余剰練和液(スラリー18から分離してスラリー18の上に浮き出した余剰練和液)が組立体26から排液される(図1の(V))。この後の工程は、従来と同様に、スラリー18が硬化するまで静置される(図1の(VI))。次いで、鋳造リング16で包囲された状態の硬化した埋没材20から円錐台14及びスプール線12を除去し、そして、鋳造リング16付き埋没材20を加熱炉の中に入れて脱ロウが行われる(脱ロウ工程)。この脱ロウ工程に使用する加熱炉として、従来のように電気炉やガス炉であってもよいが、加圧蒸気を使用して脱ロウを行う蒸気釜を使用してもよい。蒸気釜を使用することにより、従来の電気炉やガス炉を使ってワックスパターン10を焼却したときに発生する臭気の問題を解消することができる。なお、スプール線12がロウ材で作られているときには、スプール線12はワックスパターン10と一緒に脱ロウ工程で除去される。脱ロウ工程を経ることにより、埋没材20は、湯道及びキャビティを備えた鋳型になり、この鋳型を使って鋳込みが行われる。
【0022】
スラリー18の上に錘Wtを載置してあるときには、遠心埋没装置から組立体26を取り外した後に、錘Wtが取り除かれる(図1の(V))。
【0023】
図2〜図9を参照して、エチルシリケート埋没材を使った実施例を説明する。図2に示す参照符号30はフォーマであり、前述した円錐台14(図1、図12)に相当する部材である。フォーマ30はその中央部分に切頭円錐形の突出部30aを有し(図2の(I))、この突出部30aの上に、ロウ材で略円錐状に形作った湯だまり形成材料32を設置した後に鋳造リング34をフォーマ30の上に設置する(図2の(II))。勿論、フォーマ30に鋳造リング34を設置した後に、鋳造リング34の上端開口から指を差し入れて湯だまり形成材料32をフォーマ30の突出部30aの上に設置してもよい。鋳造リング34は、特に限定するものではないが、下部の小径部34aと、上部の大径部34bとを備えた、直径の異なる上下2段の段付き形状を有していてもよい(図2の(II))。
【0024】
図3を参照して、この図3は、エチルシリケート埋没材を鋳造リング34の中に一次充填する工程を説明する図である。エチルシリケート埋没材は、ラバーカップ36の中で粉末埋没材料と専用の練和液とを練和することにより調製された泥状のスラリー38の状態で使用される。スラリー38を鋳造リング34の中に充填する工程では、フォーマ30と鋳造リング34とからなる組立体40にバイブレータ(図示せず)で振動を加えるのがよい(図3の(III)〜(IV))。
【0025】
スラリー38の一次充填は、鋳造リング34の底部、好ましくは湯だまり形成材料32の頂部が露出する高さ位置で停止される(図3の(IV))。一次充填したスラリー38が凝固した状態になって土台(一次埋没材)ができたら、この一次埋没材の上にワックスパターン42を設置すると共に、ロウ材料からなるスプール線44でワックスパターン42と湯だまり形成材料32とを連結する(図4の(V))。なお、スプール線44がワックスでない部材(例えば針金)で構成されているときには、このスプール線44を湯だまり形成材料32に差し込むことでスプール線44と湯だまり形成部材32とを連結する。これにより一次埋没作業が終了する。
【0026】
一次埋没作業に続く二次埋没作業は、ワックスパターン42及びスプール線44の周りに、一次埋没と同じスラリー38を充填することにより行われる(図4の(VI)、図5の(VII))。スラリーの、この二次充填では、フォーマ30と鋳造リング34とからなる組立体40にバイブレータ(図示せず)で振動を加えるのがよい。この二次充填つまり二次埋設工程が終了したら鋳造リング34の上端にキャップ46を設置する(図5の(VIII))。なお、二次充填の前にキャップ46を鋳造リング34に設置し、キャップ46の中心開口46aを通じてスラリー38を鋳造リング34の中に充填するようにしてもよい。二次埋設工程が完了したら、スラリー38が硬化する前に、キャップ46を装着した組立体40を遠心埋没装置50に装着する(図6の(IX))。なお、一次埋没作業を行った部位は既に凝固状態であることから、遠心埋没装置50に装着する前に、組立体40からフォーマ30及びスプール線44(ワックスでない材料の場合)を除去してもよい。また、図1を参照して説明したように、組立体40を遠心埋没装置50に装着する前に、スラリー38の上に錘Wtを載置してもよい。
【0027】
エチルシリケート埋没材においても、図1を参照して前述したように、組立体40の中に一回の作業でスラリー38を充填して、このスラリー38が硬化する前に遠心埋没装置50を使って遠心力による固液分離によって余剰練和液をスラリー38から分離させるようにしてもよい。このように一回のスラリーの充填作業で埋没を終わらせる手法は、好ましくは、ワックスでない部材(例えば針金)でスプール線44を構成する場合に採用される。
【0028】
図7、図8は遠心埋没装置50の概要を説明するための図である。図7を参照して、遠心埋没装置50は、垂直中心軸52を中心として回転する回転体54を有し、この回転体54には保持具56が設置されている。回転体54は、回転体54の回転バランスを保つのに、好ましくは径方向に対抗した位置に一対の保持具56を備えているのがよく、例えば保持具56を二対設けるのであれば、合計4つの保持具56を90度間隔で配設するのがよい。
【0029】
各保持具56は、図8にも示すように、径方向外方に延びる左右の水平軸58、58を有し、各水平軸58は、回転体54のブラケット60(図7)に揺動自在に支持されている。遠心埋没装置50は、電動モータ62が駆動することにより、回転体54がその中心軸52を中心に回転駆動される。この実施例では、保持具56は円形リングで構成され、この円形リング状の保持具56には、組立体40の鋳造リング34が上から挿入され、鋳造リング34の上端の径方向外方に突出した円周フランジ34cが保持具56の上端と係合した状態で、キャップ46付きの組立体40又は鋳造リング34が、ブランコのように揺動可能に保持される。保持具56の水平軸58を受けるブラケット60の大きさによるが、仮に遠心力によって真横の姿勢になる組立体40又は鋳造リング34が回転体54と干渉するときには、この回転体54の干渉する部位に開口つまり窓64(図7)を設ければよい。
【0030】
図7に示すように、遠心埋没装置50はタイマ66及びマニュアルスイッチ68を有し、タイマ66で時間をセットすることによりモータ62の動作時間を規定することができる。また、マニュアルスイッチ68でモータ62のオン/オフを制御することができ、電動モータ62に供給される電源がOFFされたときには、ブレーキ70(図6)によって回転体54の回転が制動される。ブレーキ70は自動制御であってもよいし、マニュアル制御であってもよい。
【0031】
保持具56は、鋳造リング34の中に埋没材(スラリー38)を充填したキャップ46付き組立体40を保持したときに、又は、この組立体40からフォーマ30を取り外した後のキャップ46付き鋳造リング34を補治具56で保持したときに、スラリー38を充填した起立状態の組立体40又は鋳造リング34の重心位置が水平軸58よりも下方に位置するように設定されている。これにより、遠心埋没装置50が駆動して回転体54が回転したときに、この回転による遠心力によって、組立体40又は鋳造リング34が真横の姿勢になり、鋳造リング34の底部(凝固状態の一次埋没側)が径方向外方に位置し、他方、鋳造リング34の上部(ワックスパターン10を包囲している二次埋没側)が径方向内方に位置した状態になる。
【0032】
遠心埋没装置50を約5〜10分間動作させて、組立体40又は鋳造リング34の中のスラリー38に遠心力を付与し、余剰の練和液をスラリー38から分離させる(図6の(X))。この余剰の練和液はスラリー38との比重の相違によって前述したように径方向内方に偏在した状態となる。そして、遠心埋没装置50の動作が停止すると、保持具56によって保持されているキャップ46付き組立体40又は鋳造リング34は直立姿勢に戻り、キャップ46(ワックスパターン10を包囲している二次埋没側)が上に位置し、鋳造リング34の底部(一次埋没側)が下に位置した状態になる。保持具56からキャップ46付き組立体40又は鋳造リング34を取り外した後に、キャップ46を組立体40(鋳造リング34)から外し、そして組立体40又は鋳造リング34を斜めに傾けて鋳造リング34の中で浮き出している余剰練和液72を捨てる(図9の(XI))。その後、組立体40又はこの組立体40からフォーマ30を取り外した鋳造リング34の中でスラリー38が硬化するのを待つ。
【0033】
エチレンシリケート埋没材が硬化したら、次の脱ロウ工程(図9の(XII))に移行する。脱ロウ工程では例えば圧力釜を用いてロウ材料からなる湯だまり形成材料32、スプール線44並びにワックスパターンの除去が行われる。すなわち、圧力釜で加圧蒸気に15〜30分間、エチレンシリケート埋没材74を晒すことによりワックスパターン42、スプール線44、湯だまり形成材料32のロウが溶けてエチレンシリケート埋没材74から流出し、これにより鋳型76が完成する(図9の(XII))。次いで、鋳造工程(図9の(XIII))に移行して鋳型76のキャビティ76aに溶融金属を鋳込むことにより歯科鋳造品が成形される。
【0034】
脱ロウ工程(図9の(XII))から鋳造工程(図9の(XIII))までの過程で下記の第1〜第3のやり方が存在するので、この第1〜第3のやり方のなかから任意の方法を採用すればよい。第1の方法は、加圧蒸気のよる脱ロウ工程を経てキャビティ76aが作られた鋳型76を乾燥させた後に鋳込みを行う方法である。第2の方法は、加圧蒸気による脱ロウ工程を経てキャビティ76aが作られた鋳型76を電気炉やガス炉で少し焼き込んで完全に水分を除去した後に、鋳込みを行う方法である。第3の方法は、電気炉やガス炉で加熱することで脱ロウを行って、この脱ロウによりキャビティ76aが作られた鋳型76に鋳込みを行う方法である。
【0035】
以上、埋没材としてエチレンシリケート埋没材を例に実施例を説明したが、石膏系埋没材、非石膏系埋没材(典型例としてリン酸塩系埋没材)であっても同様に実施することができる。例えば石膏系埋没材を採用する場合、練和液として水が使用されるが、スラリーに含まれる余剰の水分は遠心力によって分離することができる。また、上述した実施例では、ワックスパターンを使った鋳型製造方法を例示的に挙げて説明したが、ワックスパターンの代わりにレジンパターンを用いても本発明を同様に適用できるのは言うまでもない。レジンパターンを用いたときには脱ロウ工程でレジンパターンを焼失させる。
【0036】
如上の説明から分かるように、埋没材は、粉末埋没材料と練和液とを練和することにより調製されるスラリーの状態で使用されるが、その混水比を厳格に管理しなくても遠心力で余剰練和液を分離することができるため、作業者が混水比をラフに管理したとしてもスラリーが硬化する段階では最適な混水比に調整することができる。したがって、作業者による混水比の管理のバラツキを遠心埋没装置によって低減することができるため、埋没材の膨張率を一定にすることができる。また、遠心力をスラリーに付与することで、この遠心力でスラリーを押し固めることができるため、ワックスパターン42の表面を緻密に転写した平滑な鋳肌の鋳型を作ることができる。
【0037】
図10、図11は、上述した保持具56の変形例を示す。この変形例の保持具80は、ステンレス鋼のプレートからなる台座81を有し、この水平面に沿って広がる平らな台座81の上に、上述した組立体40又は一次、二次埋没した鋳造リング34が載置される(図10)。鋳造リング34を台座81に載置するときには、台座81の上に先ずリング状の枕部材82が載置される。枕部材82は、鋳造リング34の下端部を構成する小径部分34aを受け入れることができる(図11)。
【0038】
前記台座81の左右の端には、上方に延びる左右一対のアーム85を有し、このアーム85の上端部から水平方向外方に延びる揺動軸つまり水平軸86が一体に形成されている。この左右の水平軸86は、回転体54の矩形窓64の左右の側縁に沿って起立している支柱87の傾斜溝87aに回転自在に受け入れられる。支柱87は回転体54の内壁に固着されている。
【0039】
台座81の上に組立体40又は鋳造リング34を載置した後に、回転体54を回転させることで、遠心力により保持具80の台座81がブランコのように径方向外方に揺動し、回転体54の回転速度が上がると、台座81は垂直面に沿って起立した状態となる。つまり、上述した保持具56と同様に、この台座81に載置した組立体40又は鋳造リング34が真横の状態になり(図6参照)、鋳造リング34の中のスラリー(図10、図11では図示を省いてある)に遠心力が作用する。なお、図10、図11は、鋳造リング34を保持具80に設置する手順を説明するための図であり、空の鋳造リング34を図示してある。
【符号の説明】
【0040】
10 ワックスパターン
12 スプール線
14 円錐台
16 鋳造リング
18 埋没材のスラリー
20 硬化した埋没材
22 キャップ
26 組立体(円錐台と鋳造リング)
30 フォーマ
34 段付き鋳造リング
34c 鋳造リングの上端フランジ
36 ラバーカップ
38 エチレンシリケート埋没材のスラリー
40 組立体(フォーマ、鋳造リング)
42 ワックスパターン
44 ロウ材料で出来ているスプール線
46 キャップ
50 遠心埋没装置
52 中心軸
54 回転体
56 保持具
58 保持具の水平軸
60 ブラケット(水平軸を受ける)
62 電動モータ
72 余剰練和液
74 エチレンシリケート埋没材
76 エチレンシリケート埋没材から作られた鋳型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋没材の粉末埋没材料に練和液を添加して練和することにより調製したスラリーを鋳造リングの中に充填してワックスパターン又はレジンパターンの周りをスラリーで包囲し、該スラリーが硬化した後に前記ワックスパターン又はレジンパターンを除去するパターン除去処理を行うことにより前記埋没材の鋳型を製造する鋳型製造方法において、
円周軌道に沿って前記スラリーを充填した前記鋳造リングを真横の姿勢で回転させることにより前記鋳造リングの中のスラリーに遠心力を付与して前記スラリーから余剰の練和液を分離させる余剰練和液分離工程と、
該余剰練和液分離工程の後に、前記鋳造リングの中の前記余剰練和液を前記鋳造リングから排出する余剰練和液排出工程と、
該余剰練和液排出工程の後に、前記スラリーを硬化させるスラリー硬化工程とを有し、
該スラリー硬化工程の後に前記パターン除去処理を実行することを特徴とするワックスパターン又はレジンパターンを用いた鋳型製造方法。
【請求項2】
前記余剰練和液分離工程の前に、前記鋳造リングの中のスラリーの上に錘を載置する錘載置工程を更に有する、請求項1に記載のワックスパターン又はレジンパターンを用いた鋳型製造方法。
【請求項3】
埋没材の粉末埋没材料に練和液を混入して練和したスラリーを用意し、
円錐台と鋳造リングとの組立体の中に前記スラリーを充填して、該組立体の中に設置されているワックスパターン又はレジンパターンを前記スラリーで包囲するスラリー充填工程と、
前記スラリーを充填した前記組立体の前記円錐台が径方向外方に位置した真横の状態で且つ円周軌道に沿って前記組立体を回転させることにより前記組立体の中のスラリーに遠心力を付与して前記スラリーから余剰の練和液を分離させる遠心力付与工程と、
該遠心力付与工程の後に、前記スラリーから分離した余剰の練和液を前記組立体から排出させる余剰練和液排出工程と、
該余剰練和液排出工程の後に、前記スラリーを硬化させるスラリー硬化工程と、
該スラリー硬化工程の後に、前記組立体の中の前記ワックスパターン又は前記レジンパターンを除去して前記埋没材の鋳型を作るパターン除去処理工程とを有するワックスパターン又はレジンパターンを用いた鋳型製造方法。
【請求項4】
埋没材の粉末埋没材料に練和液を混入して練和したスラリーを用意し、
円錐台と鋳造リングとの組立体の前記鋳造リングの上端に脱着可能なキャップを用意し、
前記組立体の中に設置したワックスパターン又はレジンパターンの周りを前記スラリーで包囲し且つ前記キャップを装着したキャップ付き組立体を遠心埋没装置に装着して、水平面上の円周軌道に沿って前記組立体の前記円錐台が径方向外方に位置した真横の状態で前記組立体を回転させることにより前記組立体の中のスラリーに遠心力を付与して前記スラリーから余剰練和液を分離させる遠心力付与工程と、
前記遠心埋没装置から前記キャップ付きの組立体を取り出し、次いで、前記組立体から前記キャップを取り外して該組立体の中の余剰練和液を排出させる余剰練和液排出工程と、
該余剰練和液排出工程の後に、前記鋳造リングの中で硬化させることにより作られた前記埋没材から前記ワックスパターン又は前記レジンパターンを除去して鋳型を作るワックスパターン除去処理工程とを有することを特徴とするワックスパターン又はレジンパターンを用いた鋳型製造方法。
【請求項5】
前記キャップが中心開口を有し、
前記遠心力付与工程に先だって、前記キャップの前記中心開口を通じて前記鋳造リングの中に前記スラリーを充填するスラリー充填工程を更に有する、請求項4に記載のワックスパターン又はレジンパターンを用いた鋳型製造方法。
【請求項6】
埋没材の粉末埋没材料に練和液を混入して練和したスラリーを用意し、
円錐台にスプール線を設置するスプール線設置工程と、
前記円錐台に鋳造リングを設置する鋳造リング設置工程と、
前記鋳造リングの底部に前記スラリーを充填して、該スラリーが凝固するまで該スラリーを硬化させる一次埋没工程と、
該一次埋没工程の後に、前記スプール線に連結した状態でワックスパターン又はレジンパターンを設置するパターン設置工程と、
該パターン設置工程の後に、前記鋳造リングの中に前記スラリーを充填して、該スラリーで前記ワックスパターンを包囲する二次充填工程と、
前記スラリーで前記ワックスパターンを包囲した前記鋳造リングと前記円錐台との組立体から前記円錐台を取り除く円錐台除去工程と、
前記スラリーで前記ワックスパターン又はレジンパターンを包囲した前記鋳造リングを遠心埋没装置に装着し、該遠心埋没装置を動作させて前記鋳造リングの一次埋没側が径方向外方に位置する真横の姿勢で前記鋳造リングを水平面上で公転させて前記鋳造リングの中のスラリーに遠心力を付与することにより前記スラリーから余剰練和液を分離させる遠心力付与工程と、
前記遠心埋没装置から前記鋳造リングを取り出して、前記鋳造リングの中の余剰練和液を排出させる余剰練和液排出工程と、
前記鋳造リングの中でスラリーを硬化させることにより作られた埋没材から前記ワックスパターン又はレジンパターンを除去するパターン除去処理工程とを有するワックスパターン又はレジンパターンを用いた鋳型製造方法。
【請求項7】
埋没材の粉末埋没材料に練和液を混入して練和したスラリーを鋳造リングの中に充填して、該鋳造リングの中に設置されているワックスパターン又はレジンパターンを前記スラリーで包囲した前記鋳造リングの中の前記スラリーに遠心力を作用させて該スラリーから余剰練和液を分離させるための遠心埋没装置であって、
電動モータに連係された中心軸を中心に回転駆動される回転体と、
該回転体に揺動自在に設けられた保持具とを有し、
前記スラリーを充填した鋳造リングを前記保持具に装着したときに、該スラリーを充填した鋳造リングの重心が前記保持具の揺動中心軸よりも低位に位置し、
前記電動モータを起動して前記回転体を回転駆動させたときに、前記鋳造リングが真横の姿勢で前記水平軸を中心に公転して、前記鋳造リングの中のスラリーに遠心力を付与することを特徴とする遠心埋没装置。
【請求項8】
前記保持具が、前記鋳造リングを受ける台座を有する、請求項7に記載の遠心埋没装置。
【請求項9】
前記鋳造リングが、その上端に径方向外方に突出したフランジを有し、
前記保持具が、前記鋳造リングの前記フランジと係合するリング状の形状を有する、請求項6に記載の遠心埋没装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−82698(P2010−82698A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204945(P2009−204945)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(593193767)株式会社キャスティングオカモト (6)
【Fターム(参考)】