説明

ワッシャ

【解決手段】 鉄系材料からなるワッシャ1は、スラスト面1A(端面)に、潤滑油供給溝2を備えている。潤滑油給油溝2は、内方の端部3B’が内周部1Bに開口する複数の内方給油溝3と、外方の端部4B’が外周部1Cに開口し、かつ、上記各内方給油溝3と互い違いに配置された外方給油溝4とから構成されている。内方給油溝3の貯溜部3Aおよび外方給油溝4の貯溜部4Aは、スラスト面1Aの放射方向の中央部分1Dに位置しており、各貯溜部3A、4Aに潤滑油が貯溜されるようになっている。
【効果】 ワッシャ1のスラスト面1Aに十分な潤滑油の油膜を形成できるので、耐摩耗性および耐焼付性に優れたワッシャを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワッシャに関し、より詳しくは、スラスト面(端面)に潤滑油給油溝を備えて例えば差動歯車機構に用いて好適なワッシャに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の差動歯車機構は周知であり、差動歯車機構はケーシング内にサイドギヤを備えるとともに、それらサイドギヤの端面とケーシングとの間にワッシャが配置されている。そして、この差動歯車機構用のワッシャは鉄系材料からなり、かつ薄肉の環状に形成されており、スラスト方向の荷重を受けながら相前後する部材に対して円周方向に正逆に摺動するようになっている。
従来の差動歯車機構用のワッシャは、図8に示すように円周方向複数箇所に潤滑油を保持するための8個の貫通孔が穿設されている。また、差動歯車機構用のワッシャは、図8に示すように、相手材と摺動する際の回転速度は通常数十rpm、片輪空転時に最大1000rpm程度と低速であるため、スラスト面に十分な油膜を形成しにくいという欠点があった。
なお、差動歯車機構用のワッシャではないけれども、スラスト方向の荷重を受けるワッシャ部材およびそのスラスト面の改良として例えば特許文献1〜特許文献3が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63−141323号公報
【特許文献2】特開2005−098324号公報
【特許文献3】特開2002−349550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述したように、従来の差動歯車機構用のワッシャは潤滑油を保持するために複数の貫通孔を備えているが、スラスト面に十分な油膜を形成するのが困難であった。そのため、従来では、ワッシャのスラスト面の耐摩耗性と耐焼付性を向上させるために、スラスト面の表面に特殊なコーティングを施す等の加工が必要であった。そのため、従来のワッシャは、表面加工処理の費用が高くなり、ひいては製造コストが高くなるという欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した事情に鑑み、本発明は、相手材と摺動するスラスト面を備えた環状のワッシャにおいて、
潤滑油を貯溜するための潤滑油供給溝を上記スラスト面に形成し、上記潤滑油供給溝は、一端がワッシャの内周部に開口するとともに他端がスラスト面の放射方向の中央部分に位置し、かつ円周方向複数箇所に形成された内方給油溝と、一端がワッシャの外周部に開口するとともに他端がスラスト面の放射方向の中央部分に位置し、かつ上記内方給油溝と円周方向において交互に形成された外方給油溝とを備えるものである。
【発明の効果】
【0006】
上述した構成によれば、上記潤滑油供給溝がスラスト面に形成されているので、潤滑油は上記潤滑油供給溝に貯溜されることになり、従ってスラスト面に十分な油膜を形成することができる。そして、上記スラスト面に上記潤滑油供給溝が形成されているので、耐摩耗性等の摺動特性を向上させるためにスラスト面に特別なコーティング処理を施す必要がない。
したがって、製造コストの増加を抑制して摺動性能が良好なワッシャを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施例を示す正面図。
【図2】図1のII方向からの要部の正面図。
【図3】図1のワッシャと潤滑油供給溝に対する潤滑油の導入方向を示す図。
【図4】本発明の第2実施例を示す正面図。
【図5】本発明の第3実施例を示す正面図。
【図6】本発明の第4実施例を示す正面図。
【図7】本発明の第5実施例を示す正面図。
【図8】従来技術のワッシャの正面図と関連データを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図示実施例について本発明を説明すると、図1ないし図3において、ワッシャ1は差動歯車機構の構成部材の1つであって、このワッシャ1は図示しないケーシングの端面とサイドギヤの端面との間に介在されるようになっている。ワッシャ1が上記ケーシングの端面とサイドギヤの端面との間に介在された状態において差動歯車機構が作動されると、上記サイドギヤが正逆いずれかに回転される。その際には、上記サイドギヤの端面とワッシャ1の一方の端面であるスラスト面1Aが摺動し、ワッシャ1も円周方向において正逆に相対回転されるようになっている。つまり、差動歯車機構が作動された際には、ワッシャ1も正逆方向に回転して相手材と摺動するようになっている。
【0009】
ワッシャ1は鉄系の材料からなり、全体として肉薄の環状に形成されている。より詳細には、ワッシャ1の外径は約50〜100mmに設定されており、内径は約30〜80mm、肉厚は約1.5〜2.0mmに設定されている。
しかして、本実施例のワッシャ1は、スラスト面1Aとなる両端面に潤滑油供給溝2を形成したことが特徴である。すなわち、スラスト面1Aにおける内周部1B側に円周方向において等ピッチで複数の内方給油溝3が形成されており、スラスト面1Aにおける外周部1C側に円周方向において等ピッチで、かつ上記各内方給油溝3と交互に外方給油溝4が形成されている。これら複数の内方給油溝3と外方給油溝4とによって潤滑油供給溝2が構成されている。
【0010】
各内方給油溝3は、スラスト面1Aの放射方向の中央部分1Dに配置された貯溜部3Aと、この貯溜部3Aに対して90°の角度をなして形成されるとともに、内方側の端部3B’を内周部1Bに開口させた導入部3Bとから構成されている。導入部3Bと貯溜部3Aはスラスト面1Aの放射方向に対して相互に逆方向に45°傾斜して配置されている。
他方、各外方給油溝4は、スラスト面1Aの放射方向の中央部分1Dに配置されて放射方向に対して45°傾斜した貯溜部4Aと、この貯溜部4Aに対して90°の角度をなして形成されるとともに、外方側の端部4B’を外周部1Cに開口させた導入部4Bとから構成されている。導入部4Bと貯溜部4Aは90°の角度をなして配置されている。
内方給油溝3と外方給油溝4は、円周方向において交互に形成されており、それにより、内方給油溝3の貯溜部3Aと外方給油溝4の貯溜部4Aは、スラスト面1Aの放射方向の中央部分1Dに実質的に同じ配置方向で形成されている。
他方、内方給油溝3の導入部3Aは、差動歯車機構の図示しないサイドギヤとシャフトが図3において右回転される際に、潤滑油が端部3B’から導入されやすい方向に形成されている。これに対して、外方給油溝4の導入部4Bは、差動歯車機構のサイドギヤとシャフトが図3において左回転される際に、潤滑油が端部4B’から導入されやすい方向に形成されている。
このように、ワッシャ1のスラスト面1Aに形成された潤滑油供給溝2は、スラスト面1Aが正逆いずれの方向に摺動して回転される場合であっても、スラスト面1Aの中央部分1Dにある内方給油溝3の貯溜部3Aあるいは外方給油溝4の貯溜部4Aに潤滑油を確実に貯溜できるように構成されている。
なお、本実施例において上記内方給油溝3と外方給油溝4とが放射方向においてオーバラップする範囲は、スラスト面1Aにおける内周部1Bから外周部1Cまでの放射方向の範囲の10%〜80%となっている。
また、図2に示すように、上記内方給油溝3の断面形状は、底が浅いV字形となっており、内方給油溝3の幅Wは、約0.5〜3mmに設定されており、深さdは約0.1〜1mmに設定されている。また、外方給油溝4の断面形状、幅および深さは、内方給油溝のものと同じである。さらに、前述したようにワッシャ1は鉄系の材料からなるが、スラスト面1Aの表面にはコーティング材等の被膜は施していない。
【0011】
以上のように構成された本実施例のワッシャ1においては、スラスト面1Aに上述した潤滑油供給溝2が形成されているので、スラスト面1Aが正逆いずれの方向に摺動して回転される場合であっても、スラスト面1Aの中央部分1Dにある内方給油溝3の貯溜部3Aあるいは外方給油溝4の貯溜部4Aに潤滑油を確実に貯溜することができる。それにより、ワッシャ1のスラスト面1Aに十分な量の潤滑油を保持することができ、したがって、スラスト面1Aの全域にわたって潤滑油の油膜を形成することができる。
そのため、本実施例においては、安価な鉄系材料によってワッシャ1を製造することができ、しかも、スラスト面1Aに形成された潤滑油供給溝2により耐摩耗性および耐焼付性を向上させることができる。
【0012】
次に、図4は本発明の第2実施例のワッシャ1を示したものである。上述した第1実施例においては、内方給油溝3の貯溜部3Aと導入部3Bとが直角をなすように配置するとともに、外方給油溝4の貯溜部4Aと導入部4Bを直角をなすように配置しているが、この第2実施例では、内方給油溝3の貯溜部3Aと導入部3Bのなす角度を鋭角(約60°)とするとともに、外方給油溝4の貯溜部4Aと導入部4Bのなす角度も鋭角(約60°)にしたものである。その他の構成は上記第1実施例と同じであり、この第2実施例では上記第1実施例と対応する各部材に同一番号を付している。
このような第2実施例であっても、上述した第1実施例と同様の作用・効果を得ることができる。
【0013】
次に、図5は本発明の第3実施例となるワッシャ1を示したものである。上述した第1実施例においては、内方給油溝3の貯溜部3Aと導入部3Bとを直角をなすように配置するとともに、外方給油溝4の貯溜部4Aと導入部4Bを直角をなすように配置しているが、この第3実施例では、内方給油溝3の貯溜部3Aと導入部3Bのなす角度を鈍角(約120°)とするとともに、外方給油溝4の貯溜部4Aと導入部4Bのなす角度も鈍角(約120°)にしたものである。このように構成したことで、内方給油溝3の貯溜部3Aおよび外方給油溝4の貯溜部4Aは、ワッシャ1の放射方向と同一方向に配置されている。その他の構成は上記第1実施例と同じであり、この第3実施例では上記第1実施例と対応する各部材に同一番号を付している。
このような第3実施例であっても、上述した各実施例と同様の作用・効果を得ることができる。
【0014】
次に図6は本発明の第4実施例となるワッシャ101を示したものであり、この第4実施例においては、各内方給油溝103および各外方給油溝104をワッシャ101の放射方向と同一方向の直線状溝としたものである。この第4実施例においては、上記第1実施例と対応する各部材に100を加算した部材番号を付している。
このような構成の第4実施例であっても、上述した各実施例と同様の作用・効果を得ることができる。
【0015】
次に図7は本発明の第5実施例となるワッシャ201を示したものであり、端的にいえば、この第5実施例は上記第4実施例における各内方給油溝103および各外方給油溝104をワッシャ101の放射方向に対して約45°傾斜させて配置したものである。その他の構成は上記第4実施例と同じであり、この図7の第5実施例においては、上記第4実施例と対応する各部材に100を加算した部材番号を付している。
このような構成の第5実施例であっても、上述した各実施例と同様の作用・効果を得ることができる。
【0016】
なお、上述した各実施例は、ワッシャ1、101、201における両方の各スラスト面1A(端面)に上述した潤滑油供給溝2を設けた場合について説明しているが、ワッシャ1、101、201のいずれか一方だけの端面に潤滑油供給溝2を設けても良い。
また、ワッシャ1、101、201の摺動特性を向上させるために、スラスト面1A、101A、102Aに所要の材料をコーティングしても良い。
また、上記実施例においては、内方給油溝3と外方給油溝4を円周方向において1個ずつ交互に配置しているが、内方給油溝3と外方給油溝4を円周方向において2個ずつ交互に配置しても良いし、或いは内方給油溝3を隣接させて2個配置し、その隣に外方給油溝4を1個配置するように交互に配置しても良い。
また、内方給油溝3および外方給油溝4の断面形状は、矩形状、円弧状や、隅にRのついた矩形状などの他に、V字形の頂点を溝幅方向にずらした断面三角形状や、溝底面の中央部が浅くなった形状などでも良い。
なお、上記の各実施例においては内方給油溝3の貯溜部3Aおよび外方給油溝4の貯溜部4Aの端部溝形状は矩形状としているが、三角形状、円弧状や隅にRのついた矩形状などでも良い。
さらに、上述した各実施例は、本発明を差動歯車機構用のワッシャに適用した場合について説明しているが、差動歯車機構用のだけでなくその他のスラストワッシャにも本発明を適用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0017】
1‥ワッシャ 1A‥スラスト面
1B‥内周部 1B‥外周部
1D‥中央部分 2‥潤滑油供給溝
3‥内方給油溝 4‥外方給油溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手材と摺動するスラスト面を備えた環状のワッシャにおいて、
潤滑油を貯溜するための潤滑油供給溝を上記スラスト面に形成し、上記潤滑油供給溝は、一端がワッシャの内周部に開口するとともに他端がスラスト面の放射方向の中央部分に位置し、かつ円周方向複数箇所に形成された内方給油溝と、一端がワッシャの外周部に開口するとともに他端がスラスト面の放射方向の中央部分に位置し、かつ上記内方給油溝と円周方向において交互に形成された外方給油溝とを備えることを特徴とするワッシャ。
【請求項2】
上記各内方給油溝は、内方側の端部が上記内周部に開口する導入部と、この導入部に対して所要の角度をなして上記スラスト面の中央部分に形成された貯溜部とを備えており、
また、上記各外方給油溝は、外方側の端部が上記外周部に開口する導入部と、この導入部に対して所要の角度をなしてスラスト面の中央部分に形成された貯溜部とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のワッシャ。
【請求項3】
上記スラスト面は相手材に対して正逆両方に回転して摺動できるようになっており、上記各内方給油溝の導入部および各外方給油溝の導入部は、そのいずれか一方が正回転方向に開口し、他方が逆回転方向に開口していることを特徴とする請求項2に記載のワッシャ。
【請求項4】
上記各内方給油溝は、スラスト面の放射方向と同一方向の直線状の溝からなり、また、上記各外方給油溝は、スラスト面の放射方向と同一方向の直線状の溝からなることを特徴とする請求項1に記載のワッシャ。
【請求項5】
上記各内方給油溝は、スラスト面の放射方向に対して傾斜させた直線状の溝からなり、また、上記各外方給油溝は、スラスト面の放射方向に対して上記内方給油溝と同様に傾斜させた直線状の溝からなることを特徴とする請求項1に記載の差動歯車機構のワッシャ。
【請求項6】
上記各内方給油溝および各外方給油溝は、上記ワッシャの両スラスト面に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のワッシャ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−50191(P2013−50191A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189215(P2011−189215)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000207791)大豊工業株式会社 (152)
【Fターム(参考)】