説明

ワーククランパ及びワーク搬送用治具

【課題】製造コストがそれほど嵩むことなく、簡単な構成で、ワークを容易に装着させることができ、しかも、搬送中に外力が作用しても脱落しないようにする。
【解決手段】可撓性板3の片端側が剛性板2に重ねられて熔接固定され、剛性板と可撓性板の間にその自由端3a側から差し込まれるワークWを前記可撓性板3の弾撥力により挟持させるワーククランパCは、可撓性板3の自由端3a側が内側に鋭角的に折り曲げられ、その頂点3bから固定端3c側が自由端3aを剛性板2側に付勢する板バネ部3dとなり、その頂点3bから自由端3aまでがその先端エッジ3eをワークWに喰い込ませる折返部3fとなったフック状カンチレバーに形成され、剛性板2には、可撓性板3の上からその板バネ部3dを剛性板2側に付勢する補強用平板カンチレバー4を熔接固定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの背面側に形成されたリブを挟持して該ワークを搬送するワーク搬送用治具及びこれにワークを固定させるためのワーククランパに関する。
【背景技術】
【0002】
水圧転写は、印刷模様が施された水溶性フィルムを浮かべた水面にワークを水没させることにより、ワーク表面にその印刷模様を転写する表面装飾技術であり、樹脂製品に木目、皮革、天然石等の模様を施して高級感を付与することが行われている。
【0003】
この場合、ワークは、水圧転写槽上を走行するコンベアや、所定の軌跡でアームを動かすロボットにより搬送されながら水没される。しかし、ワークをコンベアに直接固定したり、ロボットのアームに固定することはできないので、搬送用治具に固定して、その治具をコンベアやロボットで搬送しながら水圧転写を行っている。
【0004】
樹脂製品には、成型加工上、装飾を施さない裏面側にリブが形成されているので、搬送用治具は、そのリブを挟持するクリップをリブの位置に対応させて所定間隔で設けて形成してある。
そして、水圧転写槽まで搬送されてきたワークを作業者が水圧転写用の搬送用治具に取り付けた後、着荷位置でコンベアやロボットに着荷され、脱荷位置でコンベアやロボットから脱荷された搬送用治具から作業者がワークを外しているのが実情である。
この場合に、作業者の負担を軽減するためにワークを装着し易く、しかも、水圧転写中に脱落し難いクランパが要求されるが、最も重要視されるのは後者である。
【0005】
図3はこのような従来の搬送用治具51を示し、コンベアやロボットで搬送されるベース52にワークWの背面に形成されるリブRを挟持するワーククランパ53が所定間隔で取り付けられている。
ワーククランパ53は、ベース52に固定される剛性板54に可撓性板55の片端側が重ねられて熔接固定され、剛性板54と可撓性板55の間にその自由端側55bから差し込まれるワークWを可撓性板55の弾撥力により挟持させるようになっている。
可撓性板55は折り曲げ形成されて、剛性板54に当接される先端側部分がワークWをクランプする挟持部53aに形成されている。
ワークWを挟持部53aにスムースに差し込めることができるように、剛性板54及び可撓性板55は、挟持部53aの先端側が外側に広がって互いに離れるように形成されている。
【0006】
また、挟持部53aに差し込まれたワークWに対し、可撓性板55の先願側でワークWを挟持することができるように、可撓性板55は、固定端55aから外側に広がるように折り曲げられた後、内側に折り曲げられて懐部56を形成している。
これにより、その懐部56の入る厚さまでならワークWの厚さに関係なく、可撓性板55の先端側がワークWに当接されて、ワークWは挟持される。
【0007】
しかしながら、最近では、水圧転写槽内に水流を生じさせ、その下流側から上流側に向ってワークを移動させながら水圧転写することが行われ、水圧転写を行うときのワークWの相対速度が速くなっていることから、その水流抵抗も大きくなり、実験では、ワークWが水圧転写槽内で脱落することもあった。
このため、可撓性板55として、より厚いものを用いてバネ強度(剛性)を高くしたワーククランプを試作してみたが、治具51へのワークWの着脱が困難になり、その割にはクランプ強度にそれほど大きな変化はないことが判明した。
しかも、厚い板バネを複数回折り曲げて形成しなければ成らないことから製造コストも嵩むという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、製造コストがそれほど嵩むことなく、簡単な構成で、ワークを容易に装着させることができ、しかも、搬送中に外力が作用しても脱落しないようにすることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明は、可撓性板の片端側が剛性板に重ねられて熔接固定され、剛性板と可撓性板の間にその自由端側から差し込まれるワークを前記可撓性板の弾撥力により挟持させるワーククランパであって、前記可撓性板は、その自由端側が内側に鋭角的に折り曲げられ、その頂点から固定端側が自由端を剛性板側に付勢する板バネ部となり、その頂点から自由端までがその先端エッジをワークに喰い込ませる折返部となったフック状カンチレバーに形成され、前記剛性板には、可撓性板の上から前記板バネ部を剛性板側に付勢する補強用平板カンチレバーが熔接固定されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のワーククランパによれば、可撓性板の自由端側が内側に鋭角的に折り曲げられてフック状カンチレバーに形成されているので、可撓性板と剛性板の隙間にワークWを差し込んでいけば、ワークは頂点から自由端に至る折返部のテーパ面に案内されて、可撓性板をその弾撥力に抗して押し広げながら侵入し、先端エッジが当接されて挟持される。
ここで、ワークを抜き取る方向に外力が作用すると、先端エッジが引っ掛かって可撓性板を押し広げる方向に力が作用するので、先端エッジがさらにワークに喰い込んでワークが脱落するのを阻止する。
しかも、補強用カンチレバーにより可撓性板の上から板バネ部が剛性板側に付勢されているので、先端エッジはより強固に喰い込むことになる。
また、可撓性板は先端側を折り曲げるだけで足り、補強用カンチレバーも平板で足り、加工が極めて簡単であるので、熔接回数が多少増えることはあっても製造コストが大幅に嵩むこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本例では、製造コストがそれほど嵩むことなく、簡単な構成で、ワークを容易に装着させることができ、しかも、水圧転写中に脱落しないようにするという目的を、可撓性板の形状を改良し、且つ、補強材を設けることにより達成した。
【0012】
図1は本発明に係るワーク搬送用治具を示す説明図、図2は本発明に係るワーククランパを示す説明図である。
【実施例1】
【0013】
図1に示すワーク搬送用治具1は、ワークWの背面側に形成されたリブRを挟持して該ワークWを搬送するもので、コンベアやロボット(図示せず)で搬送されるベースBに、前記リブRを挟持するワーククランパCがそのリブRと対応する位置に所定間隔で取り付けられて成る。
【0014】
ワーククランパCは、ベースBに固定される剛性板2に可撓性板3の片端側が重ねられて熔接固定され、剛性板2と可撓性板3の間にその自由端3a側から差し込まれるワークWを可撓性板3の弾撥力により挟持させるようになっている。
剛性板2は可撓性板3より曲げ剛性(EI値)の高い金属材料が使用され、同質材料でも厚さ×幅が大きなものを選定することにより剛性を高くしている。
なお、剛性板2の大きさはワークWによって様々であるが、例えば幅7cm×高さ15cm×厚さ4mmのステンレス板が用いられている。
【0015】
また、可撓性板3は、剛性板2より曲げ剛性(EI値)の低い金属材料が使用され、例えば幅5cm×高さ10cm×厚さ1.5mmのステンレス板が用いられている。
そして、自由端3a側が内側に鋭角的に折り曲げられ、その頂点3bから固定端3c側が自由端3aを剛性板2側に付勢する板バネ部3dとなり、その頂点3bから自由端3aまでがその先端エッジ3eをワークWに喰い込ませる折返部3fとなる二つ折りのフック状カンチレバーに形成されている。
【0016】
可撓性板3がフック状に折曲形成されていることから、自由端3aの先端エッジ3eは頂点3bよりも固定端3c側に位置し、自由端3aから頂点3bに至る折返部3fが自由端3a側から見て外側に広がるテーパ面となっており、剛性板2もその先端部2aが外側に広るテーパ面となっている。
したがって、剛性板2の先端部2aと可撓性板3の折返部3fが互いに離れる方向に広がって形成され、この部分がワークWを剛性板2と可撓性板3の間にスムースに導く案内部となっている。
また、折返部3fがテーパ面となっていることから、ワークWを差し込んだ状態で自由端3aを拡大してみると、可撓性板3の板厚部分の角部である先端エッジ3eがリブRに喰い込むように当接されることがわかる。
【0017】
さらに、剛性板2には、可撓性板3の上からその板バネ部3dを剛性板2側に付勢する補強用カンチレバー4が熔接固定されている。本例では、このは可撓性板3と同じ材質、同じ板厚のものが用いられている。
そして、板バネ部3dを剛性板2側に付勢していることから、頂点3bが剛性板2側に付勢され、その結果、先端エッジ3eが剛性板2に強固に押し当てられ、ワークWが差し込まれたときに、先端エッジ3eをワークWに確実に喰い込ませることができるようになっている。
【0018】
このように、ワーククランパCは、先端のみ外側に広げられた平板状の剛性板2と、フック状に二つ折りされた可撓性板3と、平板状の補強用平板カンチレバー4を順に熔接すればたり、製造コストを押えることができる。
また、可撓性板3は二つ折に形成するだけで足り、補強用カンチレバー4も平板で足り、加工が極めて簡単であるので、熔接回数が多少増えることはあっても製造コストが大幅に嵩むこともない。
さらに、これらを金属板等で製造する場合に、その大きさから廃材等を利用して製造することができ、より製造コストを低減することができる。
【0019】
以上が本発明の一例構成であって、次にその作用について説明する。
ワークWを装着するときは、図2(a)に示すように、剛性板2の先端部2aと可撓性板3の折返部3fのテーパ面に沿ってリブRをワーククランパCの剛性板2と可撓性板3の間に差し込んで行く。
このとき、リブRは剛性板2の先端部2aと可撓性板3の折返部3fのテーパ面に案内されるので、その間にスムースに差し込むことができる。
そして、図2(b)に示すように、リブR先端が可撓性板3の折返部3fを押し広げることにより、板バネ部3dが固定端3cを中心として外側に撓み、折返部3fが頂点3bを中心として折り畳まれるように撓み、その弾撥力により先端エッジ3eがリブRに食い込むように挟持される。
【0020】
次いで、搬送用治具1に取り付けられている全てのワーククランパCにリブRを挟持させた状態で、その治具1をロボットアームに持たせて水圧転写槽(図示せず)内にワークWを水没させてこれを引き上げる。
この間、ワークWが水流などによる抵抗を受けて、クランパCに挟持されているリブRが抜ける方向に外力が作用すると、リブRに喰い込むように当接されている先端エッジ3eが抜取方向に移動させられ、その結果、折返部3fの頂点3dにおける折畳角が広げられて、頂点3dが外側に移動することとなる。
【0021】
即ち、リブRを抜こうとすると、図2(b)鎖線で示すように、板バネ部3dと補強用平板カンチレバー4の弾撥力に抗してこれらを撓ませながら頂点3bを外側に移動させなければならないだけでなく、二つ折りされた可撓性板3の弾撥力に抗して折返部3fの折畳角を押し広げていかなければならない。
そして、これらが撓めば撓むほどその弾撥力が強くなって、先端エッジ3eはより強固にリブRに喰い込むので、リブRを容易に抜き取ることはできない。
したがって、ワークWが水流などの抵抗を受けてリブRがクランパCから抜ける方向に外力が作用しても、先端エッジ3eがリブRに喰い込むので、ワークWが簡単に脱落することはない。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上述べたように、本発明は、コンベアやロボットに直接取り付けられたないワークを搬送したり、搬送しながら何らかの処理を施す場合に、そのワークを比較的簡単に且つ確実にクランプする用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る搬送用治具を示す説明図。
【図2】。
【図3】従来装置を示す説明図。。
【符号の説明】
【0024】
1 ワーク搬送用治具
W ワーク
R リブ
B ベース
C ワーククランパ
2 剛性板
3 可撓性板
3a 自由端
3b 頂点
3c 固定端
3d 板バネ部
3e 先端エッジ
3f 折返部
4 補強用カンチレバー



【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性板の片端側が剛性板に重ねられて熔接固定され、剛性板と可撓性板の間にその自由端側から差し込まれるワークを前記可撓性板の弾撥力により挟持させるワーククランパであって、
前記可撓性板は、その自由端側が内側に鋭角的に折り曲げられ、その頂点から固定端側が自由端を剛性板側に付勢する板バネ部となり、その頂点から自由端までがその先端エッジをワークに喰い込ませる折返部となったフック状カンチレバーに形成され、
前記剛性板には、可撓性板の上から前記板バネ部を剛性板側に付勢する補強用平板カンチレバーが熔接固定されたことを特徴とするワーククランパ。
【請求項2】
ワークの背面側に形成されたリブを挟持して該ワークを搬送するワーク搬送用治具であって、
コンベアやロボットで搬送されるベースに、前記リブを挟持するワーククランパがそのリブと対応する位置に所定間隔で取り付けられ、
前記ワーククランパは、ベースに固定される剛性板に可撓性板の片端側が剛性板に重ねられて熔接固定され、剛性板と可撓性板の間にその自由端側から差し込まれるワークを前記可撓性板の弾撥力により挟持させるように成され、
前記可撓性板は、その自由端側が内側に鋭角的に折り曲げられ、その頂点から固定端側が自由端を剛性板側に付勢する板バネ部となり、その頂点から自由端までがその先端エッジをワークに喰い込ませる折返部となったフック状カンチレバーに形成され、
前記剛性板には、可撓性板の上から前記板バネ部を剛性板側に付勢する補強用平板カンチレバーが熔接固定されたことを特徴とするワーク搬送用治具。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−225149(P2006−225149A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44336(P2005−44336)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】