説明

ワーク切断方法およびワイヤソー

【課題】厚み精度の高いウエハを効率的に切り出す。
【解決手段】一方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10Aから繰り出されたワイヤWがガイドローラ24A,24B等に巻回されて他方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10Aに巻き取られるワイヤソーを用いワーク28を切断する方法であって、一方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10AからワイヤWを繰出し、かつこのワイヤWを他方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10Bにより巻取ることによりワイヤWを一方向に一定速度で駆動し、この一方向駆動状態でワーク28の切断を進める本工程に加え、この本工程の途中に実行される工程であって、ワイヤ同士が引っ付くリンキング現象の解消を促すための振動をワイヤWに付与すべくワイヤWの駆動状態を前記一方向駆動状態とは異なる状態に一時的に切り替えるリンキング解消用工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断用ワイヤにより構成されたワイヤ群に対して半導体インゴット等のワークを切り込み送りすることにより当該ワークを切断するワイヤソーを用いたワーク切断方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ワークをウエハ状に切り出す手段としてワイヤソーが知られている。ワイヤソーは、複数のガイドローラ間に切断用ワイヤが巻き掛けられることにより該ワイヤが多数本並んだ状態で張設され、このワイヤ群をその軸方向に高速駆動しながら該ワイヤ群に遊離砥粒を含むスラリーを供給し、この状態で、ワーク保持部に保持されたワークWを切断用ワイヤの軸方向と直交する方向に、前記ワイヤ群に対して切断込み送りすることにより、ワークをウエハ状に多数毎同時に切り出すように構成されている(特許文献1)。
【0003】
この種のワイヤソーを用いた作業として、例えば太陽電池用のシリコンウエハの切断では、切断用ワイヤを一方向にのみ駆動しながらインゴットをワイヤ群に対して切り込み送りすることにより多数枚のシリコンウエハを切り出すことが行われている。つまり、切断用ワイヤを一方向にのみ駆動しながら作業を進めることにより切断用ワイヤの摩耗による劣化を抑え、これにより切断用ワイヤの切れ味を保つことにより切断面の精度が高いシリコンウエハを効率良く切り出すようにしている。
【特許文献1】特開平11−10511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような太陽電池用のシリコンウエハの切り出し作業においては、近年、より薄厚のシリコンウエハを切り出すことが求められており、これに伴い当該作業に使用されるワイヤソーにおいはワイヤ群の狭ピッチ化が進められている。
【0005】
ところが、このようなワイヤ群の狭ピッチ化が進むに伴い、ワイヤ群の隣り合うワイヤ同士がスラリーを媒介として互いに引っ付くいわゆるリンキング現象が発生し易くなっており、例えば、リンキング現象が発生したままでシリコンウエハの切断作業が進められる結果、シリコンウエハの厚み精度が損なわれるといった不具合を招くことが考えられる。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、薄厚のウエハをより精度良く、かつ効率的に切り出すことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、ワイヤ繰出し装置から繰り出された切断用ワイヤが複数のガイドローラの周囲に巻回されてワイヤ巻取り装置に巻き取られることにより前記ガイドローラ間に複数本のワイヤが並ぶワイヤ群が形成されたワイヤソーを用いてワークを切断する方法であって、前記ワイヤ繰出し装置から前記ワイヤを繰出し、かつ、このワイヤを前記ワイヤ巻取り装置により巻取ることにより前記ワイヤを一方向に一定速度で駆動し、この一方向駆動状態のワイヤに対してワイヤ軸方向と直交する方向にワークを相対的に切断送りすることによりワークの切断を進める本工程に加え、この本工程の前又は途中に実行される工程であって、前記ワイヤ群においてワイヤ同士が引っ付くリンキング現象の解消を促すための振動を前記ワイヤに付与すべく前記ワイヤの駆動状態を前記一方向駆動状態とは異なる状態に一時的に切り替えるリンキング解消用工程を有するものである(請求項1)。
【0008】
この方法によると、基本的にはワイヤ群を一方向に駆動するワイヤ駆動状態でワークの切断が進められるため(本工程)、切断用ワイヤの摩耗による劣化を抑え、高い切れ味を保ちつつワークの切断を進めることができる。しかも、この本工程に加え、この本工程の前又は途中でリンキング解消用工程を実施するため、ワイヤ群に所謂リンキング現象が発生している場合にはその解消を促進することが可能となる。そのため、ワイヤの切れ味を維持するという上記の作用を享受しつつ、リンキング現象を伴わない適正なワイヤ群を使って切断作業を進めることが可能となる。
【0009】
より具体的に、前記リンキング解消用工程では、前記ワイヤの駆動状態を、前記一方向駆動状態と、前記ワイヤ巻取り装置により巻き取られた前記ワイヤを逆に当該ワイヤ巻取り装置から繰出してこのワイヤを前記ワイヤ繰出し装置により巻取る逆方向駆動状態とに交互に切り替えることにより前記ワイヤを進退駆動させるのが好適である(請求項2)。
【0010】
このように一時的にワイヤ群を進退駆動させると、ワイヤ群の進退駆動の切り替わり時にワイヤに軽い衝撃(振動)が生じ、また、進退切替えに伴うワイヤ群の加減速時にワイヤの振動状態が変化することによりリンキング現象の解消が効果的に促進される。つまり、軽い衝撃(振動)等によりワイヤに付着したスラリーが脱落し、これによってスラリーを媒介として互いに引っ付いたワイヤ同士の分離が促進される。
【0011】
また、前記リンキング解消用工程では、前記一方向駆動状態におけるワイヤ駆動方向を維持したままその駆動速度を一時的に低下させ、又は駆動を停止させるようにしてもよい(請求項3)。
【0012】
この方法によると、ワイヤ群の駆動速度が変化することによりワイヤの振動状態に変化が生じる等して、これによってリンキング現象の解消が促進される。また、切断用ワイヤは固有振動数との関係で、ワーク切断時の高速駆動状態よりも低い速度で駆動されているときの方が振動(共振)し易い傾向があり、上記のように駆動速度を一時的に低速度で駆動することにより、ワイヤ群の振動が適度に増幅され、その結果、リンキング現象の解消が促進されることとなる。
【0013】
なお、上記の各方法においては、前記ワイヤに対してワークの切り込みを開始する位置から所定期間だけ前記リンキング解消用工程を実行し、その後に本工程を開始するのが好適である(請求項4)。
【0014】
この方法によれば、ワークに対するワイヤ群の切り込み段階でリンキング現象を解消することが可能となる。なお、「所定期間」とは、ワークの切断送り量、あるいは時間のいずれであってもよい。
【0015】
また、上記の各方法においては、前記本工程中に、前記ワイヤ群に対するワークの切断送り位置を検知する工程を含み、その検知される送り位置が特定の送り位置に到達したときに前記本工程を中断して前記リンキング解消用工程を実行するようにしてもよい(請求項5)。
【0016】
この方法によれば、ワークの特定の送り位置においてリンキング解消用工程を実行することが可能となる。
【0017】
また、上記の各方法においては、前記本工程中に、前記リンキング解消用工程を複数回、間欠的に実行するようにしてもよい(請求項6)。
【0018】
この方法によれば、より確実にリンキング現象を解消することが可能となる。
【0019】
一方、本発明に係るワイヤソーは、複数のガイドローラと、切断用ワイヤを前記ガイドローラに繰出すワイヤ繰出し装置と、前記ワイヤを前記ガイドローラから巻取るワイヤ巻取り装置とを備え、前記ワイヤ繰出し装置から繰り出された前記ワイヤが前記ガイドローラの周囲に巻回されてワイヤ巻取り装置に巻き取られることによりガイドローラ間に複数本のワイヤが並ぶワイヤ群が形成され、かつ前記各作動により前記ワイヤ群が軸方向に駆動され、このワイヤ駆動状態で前記ワイヤ群に対してワークを切断送りすることにより前記ワークを切断するワイヤソーにおいて、前記ワイヤ群に対してその軸方向と直交する方向に前記ワークを相対的に切断送りする切断送り手段と、この切断送り手段によるワークの送り位置であって予め設定された特定の送り位置を記憶する記憶手段と、前記切断送り手段による送り位置を検出する送り位置検出手段と、前記ワイヤ群を駆動すべく前記繰り出し装置およびワイヤ巻取り装置の作動を制御する駆動制御手段と、を備え、前記駆動制御手段は、前記送り位置検出手段によるワークの送り位置の検出に応じて、前記特定の送り位置以外の送り位置では、ワイヤの駆動状態を、前記ワイヤ繰出し装置から前記ワイヤを繰出しながらこのワイヤを前記ワイヤ巻取り装置により巻取ることにより前記ワイヤを一方向に一定速度で駆動する一方向駆動状態とするとともに、前記特定の送り位置では、ワイヤの駆動状態を、当該送り位置以外の駆動状態と異なる所定の駆動状態であって、前記ワイヤ群においてワイヤ同士が引っ付くリンキング現象の解消を促すための振動を前記ワイヤに付与する駆動状態とすべく前記ワイヤ繰り出し装置およびワイヤ巻き取り装置の作動を制御するものである(請求項7)。
【0020】
この構成によると、ワイヤソーにおいて請求項1に係るワーク切断方法の自動化を図ることが可能となる。
【0021】
より具体的に、前記特定の送り位置では、前記駆動制御手段は、前記ワイヤの駆動状態を、前記一方向駆動状態と、前記ワイヤ巻取り装置により巻き取られた前記ワイヤを逆に当該ワイヤ巻取り装置から繰出してこのワイヤを前記ワイヤ繰出し装置により巻取る逆方向駆動状態とに交互に切り替えることにより前記ワイヤを進退駆動させる(請求項8)。
【0022】
この構成によると、ワイヤソーにおいて請求項2に係るワーク切断方法の自動化を好適に図ることが可能となる。
【0023】
なお、前記特定の送り位置では、前記駆動制御手段は、前記一方向駆動状態におけるワイヤ駆動方向を維持したままその駆動速度を一時的に低下させ、又は駆動を停止させるものであってもよい(請求項9)。
【0024】
この構成によると、ワイヤソーにおいて請求項3に係るワーク切断方法の自動化を好適に図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のワイヤソーによる切断方法によれば、本工程においてワイヤ群を一方向に駆動(一方向駆動状態)することによりワークの切断を進めるとともに、この本工程に加えて、所謂リンキング現象の解消を促すための振動をワイヤに付与すべくワイヤ駆動状態を前記一方向駆動状態とは異なる状態に一時的に切り替えるリンキング解消用工程を実行するようにしたので、ワイヤ群の切れ味を維持するという作用効果を享受しつつ、リンキング現象を伴わないより適正なワイヤ群を使って切断作業を進めることが可能となる。従って、太陽電池用のシリコンウエハ等の薄厚のウエハをより精度良く、かつ効率的に切り出すことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の好ましい実施の形態(第1の実施形態)について図面を用いて説明する。
【0027】
図1は、本発明に係るワイヤソーの全体構成図である。この図に示すワイヤソーは、一対のワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10B、ガイドプーリ12A,12B、ガイドプーリ14A,14B、ガイドプーリ16A,16B、ワイヤ張力調節装置18A,18B、ガイドプーリ22A,22B、及び4つのガイドローラ24A,24B,26A,26Bを備えている。
【0028】
ガイドローラ24A,24Bは互いに同じ高さ位置に配され、ガイドローラ26A,26Bはそれぞれガイドローラ24A,24Bの下方の位置に配されており、ガイドローラ26Aが駆動モータ25によって回転駆動されるようになっている。
【0029】
各ワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10Bは、切断用のワイヤWが巻かれるボビン9A,9Bと、これを回転駆動するボビン駆動モータ11A,11Bと、を備えている。一方のワイヤ繰出し・巻取り装置10Aのボビン9Aから繰出されたワイヤWは、ガイドプーリ12A,14A,16A、ワイヤ張力調節装置18Aのプーリ20A、及びガイドプーリ22Aの順に掛けられ、さらにガイドローラ24A,24B,26B,26Aの外周面のガイド溝(図示省略)に嵌め込まれながらこれらガイドローラの外側に多数回螺旋状に巻回された(巻き掛けられた)後、ガイドプーリ22B、ワイヤ張力調節装置18Bのプーリ20B、ガイドプーリ16B,14B,12Bの順に掛けられ、他方のワイヤ繰出し・巻取り装置10Bのボビン9Bに巻き取られており、両ワイヤ張力調節装置18A,18BによってワイヤWに適当な張力が与えられている。そして、駆動モータ25によるガイドローラ26Aの回転駆動方向と、各ボビン駆動モータ11A,11Bによるボビン9A,9Bの回転駆動方向が正逆に切換えられることにより、ワイヤWがボビン9Aから繰出されてボビン9Bに巻き取られる状態と、ワイヤWがボビン9Bから繰出されてボビン9Aに巻き取られる状態とに切換え可能となっている。
【0030】
すなわち、このワイヤソーにおいては、ガイドローラ24A,24Bの間に多数本のワイヤWが互いに平行な状態で張られたワイヤ群を形成しながら、これらワイヤ群がその軸方向に進退駆動可能となっている。なお、この実施形態では、駆動モータ25およびボビン駆動モータ11A,11Bはサーボモータから構成されている。
【0031】
前記ガイドローラ24A,24B間に張られたワイヤWの上方には、円柱状のワーク(インゴット)28を移動させるワーク送り装置30(本発明に係る切断送り手段に相当する)が設けられている。このワーク送り装置30は、ワーク保持部32と、ワーク送りモータ34とを備えている。ワーク保持部32は、前記ワーク28をその結晶軸に基づいて目的の結晶方位が得られる向きに保持するものであり、ワーク送りモータ34は、図略のボールネジとの組み合わせにより、前記ワーク保持部32とワーク28とを一体に昇降させる(すなわち切断送りする)ものである。なお、この実施の形態では、ワーク送りモータ34は駆動モータ25等と同様にサーボモータで構成されており、ワーク28の切断送り位置を検出する本発明に係る送り位置検出手段を兼ねている。
【0032】
前記ガイドローラ24A,24B間に張られたワイヤWの上方において、ワーク28の左右両側の位置には、スラリー供給装置36A,36Bが設けられている。これらのスラリー供給装置36A,36Bは、高速駆動される各ワイヤWに対し、砥粒が混合された加工液(スラリー)を同時供給し、これをワイヤW表面に付着させるものである。
【0033】
従って、このワイヤソーでは、ガイドローラ24A,24B間に張られた多数本のワイヤWがその長手方向に同時高速駆動され、かつこれらのワイヤWにスラリー供給装置36A,36Bから加工液が供給されながら、これらのワイヤWに対してワーク28が下方に切断送りされることにより、このワーク28から一度に多数枚のウエハ(薄片)が同時に切り出される。
【0034】
上記のワイヤソーは、図2に示すようなコントローラ40を有している。このコントローラは、CPUからなる主制御部41(本発明に係る駆動制御手段に相当する)、各種メモリからなる記憶部42(本発明に係る記憶手段に相当する)およびサーボアンプからなるモータ制御部43を含んでいる。
【0035】
主制御部41は、ワイヤソーの駆動を統括的に制御するもので、記憶部42に記憶されている加工プログラムに従って、すなわち予めプログラムされた駆動速度および駆動方向でワイヤWを駆動するとともに、予めプログラムされた切断送り速度でワーク28を切断送りすべくモータ制御部43に制御信号を出力する。
【0036】
以下、この主制御部41によるワーク28の切断動作制御について図3のフローチャートに従ってその作用と共に説明する。
【0037】
ワーク保持部32にワーク28が保持され、ワーク送りモータ34の駆動によりワーク28(ワーク保持部32)が初期位置、例えば図1に示すようにワイヤW(ワイヤ群)から離間した位置にセットされると当フローチャートがスタートする。
【0038】
主制御部41は、まず、駆動モータ25およびボビン駆動モータ11A,11Bを低速で駆動するとともに一定の時間間隔でその駆動方向の切替えを行い、これによりワイヤWを進退駆動させる(ステップS1)。つまり、一方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10AからワイヤWを繰り出しながらこのワイヤWを他方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10Bにより巻き取る状態(ワイヤWの前進駆動状態という)と、これとは逆に他方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10BからワイヤWを繰り出しながらこのワイヤWを上記一方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10Aにより巻き取る状態(ワイヤWの後退駆動状態という)とを交互に切替える。なお、この際のワイヤWの駆動速度は、後述するワイヤWの前進駆動状態に比べて十分に低い速度とする。
【0039】
次いで、スラリー供給装置36A,36Bを駆動してスラリーの供給を開始するとともに、ワーク送りモータ34を駆動して一定速度でワーク28の切断送りを開始し(ステップS2)、これによりワイヤWに対してワーク28の切り込みを開始する。このようにワイヤWを低速で進退駆動しながらワーク28に切り込ませると、例えばスラリーを媒介として隣接するワイヤW同士が引っ付く所謂リンキング現象が発生している場合でも、当該現象が速やかに解消され、ワーク28に対する各ワイヤWの切り込みが適切、かつ安定的に行われることとなる。すなわち、上記のようにワイヤWを進退駆動させると、進退駆動の切替え時にワイヤWに軽い衝撃が作用することに加え、この進退切替えに伴うワイヤWの速度変化に伴いワイヤWの振動状態が変化し、これら衝撃等によりワイヤに付着したスラリーが脱落し、スラリーを媒介として互いに引っ付いていたワイヤW同士の分離が促進される。また、上記のようにワイヤWが低速駆動されることにより、ワーク28に対するワイヤWの切り込みが安定的に行われることとなる。
【0040】
ワーク28へのワイヤWの切り込み後、ワーク28が所定の切断送り位置に到達すると(ステップS3でYES)、すなわち、ワーク送りモータ34からの出力信号に基づき所定の切断送り位置にワーク28が到達したことを検知すると、上記の進退駆動状態から前進駆動状態にワイヤWの駆動状態を切替えるとともにワイヤWの駆動速度を所定速度まで加速し(ステップS4)、切断送り位置のカウンタ位置に「1」をセットする(ステップS5)。
【0041】
そして、ワイヤWの駆動速度を前記所定速度に保った状態でワーク送り装置30により一定の送り速度でワーク28を送ることにより切断作業を進め、特定の切断送り位置にワーク28が到達すると(ステップS6でYES)、設定回数だけワイヤWを進退駆動させる(ステップS7)。当実施形態では、ワイヤWの駆動状態を前進駆動に切替えた時点(ステップS4の切替え時点)から例えば5mmだけ切断送りが進行した位置にワーク28が到達するとワイヤWを1〜数回進退駆動させる。つまり、このようにワイヤWを前進駆動しながらワーク28の切断を進める途中で、一時的にワイヤWを1〜数回進退駆動させることにより、リンキング現象が未だ解消していない場合にはその解消が促進されることとなる。
【0042】
その後、再びワイヤWを前進駆動状態に切替え、この前進駆動状態でワイヤWを駆動しつつワーク28の切断を進めるとともに、上記カウンタ値が設定値「N」に達したか否かを判断し(ステップS9)、ここで、NOと判断した場合には、当該カウンタ値を「1」だけインクリメントしてステップS6にリターンする(ステップS11)。すなわち、ワイヤWを前進駆動状態で駆動してワーク28の切断を進めながら、ワーク28の切断送りが5mm進行する毎に一時的にワイヤWを進退駆動状態に切替え、これによってリンキング現象の解消を促すようになっている。
【0043】
こうしてステップS9でYESと判断すると、さらにワーク送りモータ34からの出力信号に基づき、ワーク28が所定の切断終了位置に到達したか否かを判断し、ここでYESと判断すると、ワイヤWの駆動を停止して一連のワーク28の切断作業を終了する。
【0044】
以上説明したように、このワイヤソー(ワーク切断方法)では、ワイヤWを前進(一方向)駆動状態で駆動しながらワーク28を切断送りすることにより当該ワーク28の切断作業を進め(本発明に係る本工程)、その作業前および途中に一時的に、ワイヤWを進退駆動させることによって上記の通りワイヤWのリンキング現象の解消を促すようにしているので(本発明に係るリンキング解消用工程の実施)、ウエハの切り出しを効率的に行う一方で、ウエハの厚み精度を向上させることができという効果がある。すなわち、ワーク28の大部分の切断は、ワイヤW(ワイヤ群)を一方向に駆動(前進駆動)しながら進めるため、ワイヤWの摩耗を抑えて高い切れ味を保ちつつワーク28の切断を進めることができ、しかも、一時的にワイヤWを進退駆動することによって、ワイヤWの摩耗劣化を殆ど伴うことなくリンキング現象を解消することができる。特に、このワイヤソーでは、ワーク28に対するワイヤWの切り込み開始位置を含む所定の範囲内でワイヤWを進退駆動させるようにしているので、切り込み開始前に事前にリンキング現象を解消することが可能となり、そのため、切断開始段階からワーク28に対して各ワイヤWを個別に、かつ適切に切り込ませることができる。
【0045】
従って、太陽電池用のシリコンウエハ等の極薄厚のウエハの切り出しを行うためにワイヤWの間隔が極接近した配置とされるような場合でも、リンキング現象を伴うことなく、極薄厚のウエハを精度良く、かつ効率的に切り出すことができるようになる。
【0046】
次に、本発明に係るワイヤソーの第2の実施形態について説明する。
【0047】
第2の実施形態に係るワイヤソーの基本的な構成は、図1および図2に示したものと基本的に共通しており、主制御部41による切断動作制御のみが図4のフローチャートに示す通り第1の実施形態の動作制御と相違している。
【0048】
具体的には、第2の実施形態では、図4に示すように、第1の実施形態のステップS1、S4,S7,S8の処理に代えて、それぞれ以下に説明するステップS1′,S4′,S7′,S8′の処理を実行することにより、ワーク28の切断作業中には、ワイヤWの駆動方向の切替えを行うことなくその駆動速度のみを切替えるようにしている。
【0049】
すなわち、主制御部41は、まずステップS1′で、ワイヤWを前進駆動状態で駆動する。この際、主制御部41は、ワーク28を切断する際の設定速度(基準速度という)よりも十分に遅い速度(以下、単に低速度という)でワイヤWを駆動する。例えば、当実施形態では、基準速度は800m/minに設定され、ステップS1′でのワイヤWの駆動速度は400m/minに設定されている。
【0050】
そして、ワーク28へのワイヤWの切り込み開始後、ワーク28が所定の切断送り位置に到達すると(ステップS3でYES)、ワイヤWの駆動速度を低速度から基準速度まで加速させ、この速度に保ちながらワーク28の切断を進める(ステップS4′)。
【0051】
次いで、ワーク28が特定の切断送り位置に到達すると(ステップS6でYES)、ワイヤWの駆動速度を減速して設定時間だけワイヤWを低速度で駆動し(ステップS7′)、その後、再びワイヤWの駆動速度を加速して基準速度に戻す(ステップS8′)。
【0052】
そして、以降、ワイヤWの駆動速度を基準速度に保ちながらワーク28の切断を進め、特定の切断送り位置にワーク28が到達すると(ステップS6でYES)、設定時間だけワイヤWを減速して低速度で駆動する。これにより当実施形態では、ステップS4′の切替え時点から例えば5mmだけ切断送りが進行した位置にワーク28が到達する毎にワイヤWを設定時間だけ低速度で駆動するようにしている。
【0053】
このような第2の実施形態によると、全工程を通じてワイヤWを前進(一方向)駆動状態で駆動するが、上記のようにワイヤWの駆動速度を一時的に低速度に低下させることによりワイヤWのリンキング現象の解消が促進される(リンキング解消用工程)。すなわち、上記のようにワイヤWの駆動速度が変化することによりワイヤWの振動状態に変化が生じる等し、これによってリンキング現象の解消が促進される。特に、ワイヤWは、その固有振動数との関係でワーク切断時の駆動速度よりも低い速度で駆動されているときの方が振動(共振)し易い傾向がある。そのため、上記のように駆動速度を一時的に基準速度から低速度に低下させることによりワイヤWの振動が適度に増幅され、その結果、ワイヤWに付着したスラリーが脱落して互いに引っ付いていたワイヤW同士の分離が促進されることとなる。
【0054】
従って、このような第2の実施形態においても第1の実施形態と同様に、リンキング現象を効果的に解消することができ、その結果、極薄厚のウエハを精度良く、かつ効率的に切り出すことができるという利点がある。また、この第2の実施形態では、全工程を通じてワイヤW(ワイヤ群)を一方向にのみ駆動するので、ワイヤWの摩耗劣化を回避する観点からは第1の実施形態よりも有利なものとなる。
【0055】
なお、以上説明したワイヤソーおよびワーク28の切断の方法は、本発明に係るワイヤソーおよびワーク切断方法の好ましい実施の形態の一例であって、ワイヤソーの具体的な構成や具体的なワークの切断方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0056】
例えば、第1の実施形態では切断送りが5mm進行する毎にワイヤWを進退駆動させるようにしているが、このようにワイヤWを進退駆動させる位置(切断送りの位置)は、これに限定されるものではなく適宜設定すればよい。また、実施形態のように一定の送り量毎にワイヤWを進退駆動する必要は必ずしもなく、特定の切断送り位置においてのみ一度だけワイヤWを進退駆動させるようにしてもよい。この点は、第2の実施形態についても同様である。但し、実施形態のように、全工程を通じてワイヤWの進退駆動等を複数回、間欠的に実行するようにすれば、より確実にリンギング現象を解消することが可能になるという利点がある。
【0057】
また、リンキングを解消するためのワイヤWの駆動状態(リンキング解消用工程)としては、上記実施形態のようにワイヤWを進退駆動、あるいは低速駆動する以外に、ワイヤWの駆動を停止させるようにしてもよい。この場合も、ワイヤWの振動状態に変化が生じる等し、これによってリンキング現象の解消が促進されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係るワイヤソーの全体構成図である。
【図2】ワイヤソーのコントローラを示すブロック図である。
【図3】コントローラによる制御(第1の実施形態)の一例を示すフローチャートである。
【図4】コントローラによる制御(第2の実施形態)の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
W ワイヤ
10A,10B ワイヤ繰出し・巻取り装置
11A,11B ボビン駆動モータ
24A,24B,26A,26B ガイドローラ
25 駆動モータ
28 ワーク
30 ワーク送り装置
34 ワーク送りモータ
36A,36B スラリー供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ繰出し装置から繰り出された切断用ワイヤが複数のガイドローラの周囲に巻回されてワイヤ巻取り装置に巻き取られることにより前記ガイドローラ間に複数本のワイヤが並ぶワイヤ群が形成されたワイヤソーを用いてワークを切断する方法であって、
前記ワイヤ繰出し装置から前記ワイヤを繰出し、かつ、このワイヤを前記ワイヤ巻取り装置により巻取ることにより前記ワイヤを一方向に一定速度で駆動し、この一方向駆動状態のワイヤに対してワイヤ軸方向と直交する方向にワークを相対的に切断送りすることによりワークの切断を進める本工程に加え、この本工程の前又は途中に実行される工程であって、前記ワイヤ群においてワイヤ同士が引っ付くリンキング現象の解消を促すための振動を前記ワイヤに付与すべく前記ワイヤの駆動状態を前記一方向駆動状態とは異なる状態に一時的に切り替えるリンキング解消用工程を有することを特徴とするワイヤソーによるワーク切断方法。
【請求項2】
請求項1に記載のワーク切断方法において、
前記リンキング解消用工程では、前記ワイヤの駆動状態を、前記一方向駆動状態と、前記ワイヤ巻取り装置により巻き取られた前記ワイヤを逆に当該ワイヤ巻取り装置から繰出してこのワイヤを前記ワイヤ繰出し装置により巻取る逆方向駆動状態とに交互に切り替えることにより前記ワイヤを進退駆動させることを特徴とするワイヤソーによるワーク切断方法。
【請求項3】
請求項1に記載のワーク切断方法において、
前記リンキング解消用工程では、前記一方向駆動状態におけるワイヤ駆動方向を維持したままその駆動速度を一時的に低下させ、又は駆動を停止させることを特徴とするワイヤソーによるワーク切断方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のワーク切断方法において、
前記ワイヤに対してワークの切り込みを開始する位置から所定期間だけ前記リンキング解消用工程を実行し、その後に本工程を開始することを特徴とするワイヤソーによるワーク切断方法。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかに記載のワーク切断方法において、
前記本工程中に、前記ワイヤ群に対するワークの切断送り位置を検知する工程を含み、その検知される送り位置が特定の送り位置に到達したときに前記本工程を中断して前記リンキング解消用工程を実行することを特徴とするワイヤソーによるワーク切断方法。
【請求項6】
請求項1乃至3の何れかに記載のワーク切断方法において、
前記本工程中に、前記リンキング解消用工程を複数回、間欠的に実行することを特徴とするワイヤソーによるワーク切断方法。
【請求項7】
複数のガイドローラと、切断用ワイヤを前記ガイドローラに繰出すワイヤ繰出し装置と、前記ワイヤを前記ガイドローラから巻取るワイヤ巻取り装置とを備え、前記ワイヤ繰出し装置から繰り出された前記ワイヤが前記ガイドローラの周囲に巻回されてワイヤ巻取り装置に巻き取られることによりガイドローラ間に複数本のワイヤが並ぶワイヤ群が形成され、かつ前記各作動により前記ワイヤ群が軸方向に駆動され、このワイヤ駆動状態で前記ワイヤ群に対してワークを切断送りすることにより前記ワークを切断するワイヤソーにおいて、
前記ワイヤ群に対してその軸方向と直交する方向に前記ワークを相対的に切断送りする切断送り手段と、
この切断送り手段によるワークの送り位置であって予め設定された特定の送り位置を記憶する記憶手段と、
前記切断送り手段による送り位置を検出する送り位置検出手段と、
前記ワイヤ群を駆動すべく前記繰り出し装置およびワイヤ巻取り装置の作動を制御する駆動制御手段と、を備え、
前記駆動制御手段は、前記送り位置検出手段によるワークの送り位置の検出に応じて、前記特定の送り位置以外の送り位置では、ワイヤの駆動状態を、前記ワイヤ繰出し装置から前記ワイヤを繰出しながらこのワイヤを前記ワイヤ巻取り装置により巻取ることにより前記ワイヤを一方向に一定速度で駆動する一方向駆動状態とするとともに、前記特定の送り位置では、ワイヤの駆動状態を、当該送り位置以外の駆動状態と異なる所定の駆動状態であって、前記ワイヤ群においてワイヤ同士が引っ付くリンキング現象の解消を促すための振動を前記ワイヤに付与する駆動状態とすべく前記ワイヤ繰り出し装置およびワイヤ巻き取り装置の作動を制御する
ことを特徴とするワイヤソー。
【請求項8】
請求項7に記載のワイヤソーにおいて、
前記特定の送り位置では、前記駆動制御手段は、前記ワイヤの駆動状態を、前記一方向駆動状態と、前記ワイヤ巻取り装置により巻き取られた前記ワイヤを逆に当該ワイヤ巻取り装置から繰出してこのワイヤを前記ワイヤ繰出し装置により巻取る逆方向駆動状態とに交互に切り替えることにより前記ワイヤを進退駆動させる
ことを特徴とするワイヤソー。
【請求項9】
請求項7に記載のワイヤソーにおいて、
前記特定の送り位置では、前記駆動制御手段は、前記一方向駆動状態におけるワイヤ駆動方向を維持したままその駆動速度を一時的に低下させ、又は駆動を停止させる
ことを特徴とするワイヤソー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−307687(P2007−307687A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141882(P2006−141882)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】