説明

一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒

【課題】一酸化炭素センサ、燃料電池のアノード等における使用に適した、一酸化炭素の電気化学的酸化反応に有効な新規な触媒を提供する。
【解決手段】ロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリンを有効成分とする一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒。該触媒は、ロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリンと白金または白金合金の粒子を、カーボンブラック等の導電性担体に担持して用いてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、作動温度が低いために取り扱いが容易であり、起動時間が速い等、起動性、運転操作性にも優れ、更に、電流密度が高く、小型軽量化が可能であること等から、小容量電源や移動電源として注目されている。固体高分子形燃料電池では、アノード触媒としては主としてPt触媒が用いられているが、天然ガス、メタノール、ガソリンなどを改質して得られる水素を燃料とする場合には、改質によって生じた一酸化炭素が、Ptに強く吸着して、触媒機能を大きく低下させるという問題がある。
【0003】
この様な一酸化炭素による触媒被毒を受けやすい低温型燃料電池の燃料極として、遷移金属又はその合金と、特定の有機金属錯体を組み合わせて用いた耐一酸化炭素被毒性を有する燃料極用触媒等が報告されている(例えば、特許文献1等)。しかしながら、一酸化炭素を積極的に酸化除去するために有効な触媒は報告されていない。
【0004】
それに対して、PtRu触媒等のPt系触媒が、一酸化炭素の酸化に高い活性を示すことは知られているが、それでも高濃度の一酸化炭素に耐えることは難しい。
【0005】
また、特許文献2には、一酸化炭素を酸化除去可能な触媒として、フェニル基によってメソ位が置換され、そのフェニル基のパラ位が特定の置換基で置換されたロジウムポルフィリン錯体が報告されている。しかしながら、特許文献2では、ベンゼン環のパラ位に置換基を導入することしか検討されておらず、メタ位に置換基を導入することは考慮されていない。
【0006】
一方、一酸化炭素を電気的に検出するガスセンサとして、プロトン導電体にイオン化電極と参照電極とを接続し、イオン化電極における一酸化炭素の酸化反応によって生じるプロトン電流を検出して、一酸化ガス濃度を測定する構造のセンサが知られている(特許文献3)。
【0007】
このガスセンサでは、イオン化電極として、Pt等の貴金属触媒が多量に用いられているためにコストが高く、しかも一酸化炭素酸化の過電圧が高いために、検出感度が劣るという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−329500号公報
【特許文献2】特開2008−36539号公報
【特許文献3】特開平5−39509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した様な従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、一酸化ガスセンサ、燃料電池のアノード等における使用に適した、一酸化炭素の電気化学的酸化反応に有効な新規な触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、ロジウムポルフィリン錯体の内で、フェニル基によってメソ位が置換され、そのフェニル基のメタ位が特定の置換基で置換されたロジウムポルフィリン錯体が、反応式:
CO+HO→CO+2H+2e
で示される電気化学的一酸化炭素酸化反応に対する触媒能を有することを見出した。しかも、該ロジウムポルフィリン錯体は、メソ位が化学的に保護されているために安定性が高いと考えられる。
【0011】
さらに、該ロジウムポルフィリン錯体を、Pt系触媒(特にPtRu触媒)とともに導電性担体(特にカーボンブラック)に担持させると、Pt系触媒の耐一酸化炭素被毒性を向上させられることを見出した。つまり、該ロジウムポルフィリン錯体は、Pt系触媒と組み合せて耐一酸化炭素被毒性を向上させるのに適していることを見出した。
【0012】
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒及びその用途を提供するものである。
【0014】
項1.化学式(1):
【0015】
【化1】

【0016】
[式中、8個のRは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子又は分子量が15〜100の置換基(ただし、少なくとも1つは分子量が15〜100の置換基である)であり;4個のR及び8個のRは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、ハロゲン、アミノ基、炭素数1〜5のアルキル基、−COOM(Mは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基もしくはアルカリ金属である)、−(CH−COOM(Mは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基もしくはアルカリ金属、nは1〜5である)、又は−SO(Mは水素原子、又はアルカリ金属である)]
で表されるロジウムポルフィリンを有効成分とする一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒。
【0017】
項2.4個のR及び8個のRが、いずれも水素原子である、項1のいずれかに記載
の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒。
【0018】
項3.Rにおける置換基が、−COOM(Mは水素原子、炭素数1〜2のアルキル基、もしくはアルカリ金属である)又は−OM(Mは水素原子、炭素数1〜2のアルキル基である)で表される基である、項1又は2に記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒。
【0019】
項4.置換基が、−COOH又は−OCHである、項1〜3のいずれかに記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒。
【0020】
項5.化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンが導電性担体に担持されたものである、項1〜4のいずれかに記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒。
【0021】
項6.導電性担体がカーボンブラックである、項5に記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒。
【0022】
項7.化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンと、白金又は白金合金の粒子とが、導電性担体に担持されたものである、項1〜6のいずれかに記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒。
【0023】
項8.白金又は白金合金の粒子が、白金ルテニウム合金の粒子である、項7に記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒。
【0024】
項9.項1〜6のいずれかに記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒、及びアノード触媒物質を含む、固体高分子形燃料電池用アノード極。
【0025】
項10.項1〜8のいずれかに記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒を、一酸化炭素検出部における一酸化炭素の酸化用触媒成分として含む、一酸化炭素センサ。
【0026】
項11.電解液、作用極、対極及び電源装置を含む、固体高分子形燃料電池用アノードガス中の一酸化炭素酸化除去装置において、作用極における一酸化炭素の酸化用触媒として、項1〜8のいずれかに記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒を含む、アノードガス中の一酸化炭素酸化除去装置。
【0027】
項12.項1〜8のいずれかに記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒をアノード触媒物質として含む、一酸化炭素を燃料とする固体高分子形燃料電池用アノード極。
【0028】
項13.項12に記載のアノード極を構成要素として含む、一酸化炭素を燃料とする固体高分子形燃料電池。
【0029】
本発明の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒は、化学式(1):
【0030】
【化2】

【0031】
[式中、8個のRは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子又は分子量が15〜100の置換基(ただし、少なくとも1つは分子量が15〜100の置換基である)であり;4個のR及び8個のRは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、ハロゲン、アミノ基、炭素数1〜5のアルキル基、−COOM(Mは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基もしくはアルカリ金属である)、−(CH−COOM(Mは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基もしくはアルカリ金属、nは1〜5である)、又は−SO(Mは水素原子もしくはアルカリ金属である)]
で表されるロジウムポルフィリンを有効成分とするものである。
【0032】
上記化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンは、反応式:
CO+HO→CO+2H+2e
で示される一酸化炭素の電気化学的酸化反応に対して優れた活性を有するものである。よって、該ロジウムポルフィリンの存在下に一酸化炭素を電気化学的に酸化することによって、低い過電圧で効率よく一酸化炭素を酸化することが可能となる。
【0033】
更に、上記化学式(1)で示されるロジウムポルフィリンは、メソ位が化学的に保護されているために、酸化反応などに対する安定性が高い。
【0034】
上記の化学式(1)において、8個のRは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子又は分子量が15〜100の置換基(ただし、少なくとも1つは分子量が15〜100の置換基である)である。
【0035】
8個のRがいずれも水素原子の場合、つまり、4つのベンゼン環のいずれのメタ位にも置換基が結合していない場合には、Pt系触媒とともに担体に担持させた際に、Pt系触媒がロジウムポルフィリン錯体により被覆されてしまう。その結果、Pt系触媒の水素酸化反応の活性サイトが被覆され水素酸化活性が低下し、そればかりでなく、より一酸化炭素に対して被毒されやすくなるおそれがある。
【0036】
それに対して、Rの少なくとも1つを置換基とすると、その立体障害により、ロジウムポルフィリン錯体がPt系触媒を被覆した際に、Pt系触媒との距離が広いため、水素
酸化反応の活性サイトが被覆されにくく水素酸化活性が低下しにくい。一方で、ロジウムポルフィリン錯体が一酸化炭素を酸化除去できるので、白金触媒の耐一酸化炭素被毒性を改善することが出来る。
【0037】
このような観点から、8個のRのうち、置換基の数は、2〜8個が特に好ましい。
【0038】
なお、ベンゼン環のパラ位に置換基を結合させても、Pt系触媒との距離を広げることができないため、ベンゼン環のメタ位に置換基を結合させることが必要である。
【0039】
また、8個のRの少なくとも1つに結合させる置換基としては、分子量が15〜100、好ましくは15〜60のものである。置換基の分子量が15未満では、Pt系触媒とともに担体に担持させた際に、Pt系触媒がロジウムポルフィリン錯体により被覆されてしまう。
【0040】
上記のような条件を満たす置換基としては、例えば、−COOM(Mは水素原子、炭素数1〜2のアルキル基、もしくはアルカリ金属(特にKおよびNa)である)又は−OM(Mは水素原子、炭素数1〜2のアルキル基である)で表される基等が挙げられる。具体的には、−COOH、−COOCH、−OH、−OCH等が挙げられる。これらのなかでも、一酸化炭素の酸化に対する触媒活性及び耐一酸化炭素被毒性向上の観点からは−COOHが、コストの観点からは−OCHが、それぞれ好ましい。
【0041】
上記の化学式(1)において、4個のR及び8個のRは、特に制限されることはなく、どのようなものでもよいが、例えば、水素原子、ハロゲン、アミノ基、炭素数1〜5のアルキル基、−COOM(Mは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、アルカリ金属(特にKもしくはNa)である)、−(CH−COOM(Mは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基もしくはアルカリ金属(特にKもしくはNa)、nは1〜5である)、−SO(Mは水素原子もしくはアルカリ金属(特にKもしくはNa)である)、−OM(Mは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基である)等が挙げられるが、低コストである点から、すべて水素原子であることが好ましい。
【0042】
上記のような条件を満たすロジウムポルフィリンとしては、例えば、
【0043】
【化3】

【0044】
【化4】

【0045】
等が挙げられる。
【0046】
上記化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンは、化学式(2):
【0047】
【化5】

【0048】
(式中、8個のR、4個のR及び8個のRは、化学式(1)と同じである)
で表されるポルフィリン化合物と、ロジウム原子とでキレートを形成することによって得ることができる。
【0049】
具体的には、例えば、Inorganica Chimica Acta 25 (1977) 215-218に記載されている
方法等により合成することが出来る。即ち、化学式(2)で表されるポルフィリン化合物をトルエン等の溶媒に充分に溶解させた後、これにロジウムの塩、錯体等を添加する。その後、加熱還流し、反応混合物を通常の方法により精製することにより目的とするロジウムポルフィリンを得ることができる。
【0050】
ロジウムの塩、錯体としてはテトラカルボニルジ−μ−クロロ二ロジウム等が望ましい。
【0051】
用いる溶媒はポルフィリン化合物とロジウムの塩が両方溶解しさえすれば特に制限はないが、トルエン、エタノール等が好ましい。加熱還流温度は溶媒の沸点より低ければ特に制限はないが、トルエンを用いた場合には、80〜100℃程度が望ましい。
【0052】
本発明で使用する化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンは、導電性担体に担持させることにより、二量化反応、不均化反応等の分子間反応を抑制して、ロジウムポルフィリンを安定化させることができる。その結果、化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンを、一酸化炭素の電気化学的酸化反応に対して高い触媒活性を有するものとすることができる。これは、該ロジウムポルフィリンが、導電性担体との相互作用によって該担体に強固に吸着担持されることによるものと思われる。
【0053】
導電性担体としては、特に限定はなく、例えば、従来から固体高分子形燃料電池用の触媒担体として用いられている各種の担体を用いることができる。この様な担体の具体例としては、例えば、カーボンブラック、活性炭、黒鉛等の炭素質材料を挙げることができる。これらの内で、カーボンブラックは、上記化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンとの相互作用が大きくロジウムポルフィリンを安定化させる働きが強く、更に、導電性に優れ、比表面積も大きいために、導電性担体として特に好ましい物質である。
【0054】
導電性担体の形状等については特に限定はないが、例えば、平均粒径が0.1〜100μm程度、好ましくは1〜10μm程度のものを用いることができる。なお、カーボンブラックを用いる場合には、例えば、BET法による比表面積が50〜1600m/g程度の範囲内にあるものが好ましく、100〜1200m/g程度の範囲内にあるものがより好ましい。この様なカーボンブラックの具体例としては、例えば、Vulcan XC-72R(Cabot社製)の商標名で市販されているものを用いることができる。
【0055】
導電性担体に担持させる方法としては、例えば、溶解乾燥法、気相法などの公知の方法を適用できる。
【0056】
例えば、溶解乾燥法では、ロジウムポルフィリンを有機溶媒に溶解させ、この溶液に導電性担体を加えて、例えば、数時間撹拌して、該担体にロジウムポルフィリンを吸着させた後、有機溶媒を乾燥させればよい。また、有機溶媒中にロジウムポルフィリンが多量に含まれる場合には、平衡に達するまでロジウムポルフィリンを導電性担体に吸着させた後、濾過することによって、導電性担体に吸着していないロジウムポルフィリンを除去して、該担体と相互作用しているロジウムポルフィリンのみを該担体の表面に残すことができる。
【0057】
この方法では、有機溶媒としては、ロジウムポルフィリンを溶解できるものであれば、特に限定なく使用できる。例えば、エタノール等の低級アルコール、ジクロロメタン等のハロゲン系の溶媒等を好適に用いることができる。
【0058】
濾過によって得られた分散物を、さらに有機溶媒を用いて洗浄液が透明になるまで洗浄すれば、導電性担体との相互作用の弱いロジウムポルフィリンを洗い流すことができ、導電性担体に強固に吸着しているロジウムポルフィリンのみを含む高活性な触媒を得ることができる。
【0059】
気相法で担持させる場合には、例えば、プラズマ蒸着法、CVD法、加熱蒸着法等公知の方法を採用できる。
【0060】
導電性担体上に担持させるロジウムポルフィリンの量については、特に限定はないが、例えば、導電性担体1gに対して、ロジウムポルフィリンを20〜80μmol程度担持させればよく、20〜30μmol程度担持させることが好ましい。
【0061】
なお、化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンは、白金又は白金合金の粒子とともに、導電性担体に担持されていてもよい。このように、化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンを白金又は白金合金の粒子とともに導電性担体に担持した場合には、Pt系触媒の耐一酸化炭素被毒性を向上させることができ、特開2008−36539号公報に記載のロジウムポルフィリンを白金又は白金合金の粒子とともに導電性担体に担持した場合に比べ、耐一酸化炭素被毒性を向上させることができる。
【0062】
白金又は白金合金の粒子の大きさは限定的ではないが、1〜10nm程度が望ましい。特に、単味白金粒子の場合は1〜5nm程度が、白金合金粒子の場合は1〜7nm程度が望ましい。また、白金もしくは白金合金粒子が本発明の触媒全体に占める重量は、5〜75%が望ましく、10〜60%がより望ましい。
【0063】
また、白金又は白金合金の粒子として、白金合金の粒子を使用する場合には、白金と合金化する金属はルテニウムが望ましい。白金とルテニウムとを合金化する際には、白金に対するルテニウムの割合は、モル比で0.5〜3であることが望ましく、特に1〜1.5
であることが望ましい。
【0064】
化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンと白金又は白金合金の粒子とを導電性担体上に担持させる場合には、化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンのみを導電性担体上に担持させる場合と同様の方法で担持させることができる。ただし、アルコール系の溶媒は白金と反応して発火するおそれがあるので、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系の溶媒、アセトン等が望ましい。
【0065】
この際には、導電性担体上に化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンを担持させてから白金又は白金合金の粒子を担持させてもよいし、導電性担体上に白金又は白金合金の粒子を担持させてから化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンを担持させてもよい。後者の場合は、市販の白金担持カーボン又は白金合金担持カーボン上に、化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンを担持させてもよい。
【0066】
なお、白金又は白金合金の粒子に対する化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンの割合は、白金又は白金合金の粒子1gに対して5〜50μmolが望ましく、特に10〜40μmolが望ましい。
【0067】
また、その他に、本発明の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒は、例えば、電極反応を利用して一酸化炭素を検出するためのセンサとして用いることができる。この場合には、本発明の触媒を一酸化炭素の酸化用触媒として含むセンサを用い、検出方法としては、一酸化炭素の酸化反応によって生じる電流を検出する方法、電位差を検出する方法、プロトンを検出する方法等を採用できる。例えば、特公平5−39509号に記載されているガス検出装置におけるセンサと同様に、一酸化炭素を電極反応によって酸化させてプロトンを生成させるためのイオン化電極と、プロトン導電体と、プロトン導電体からプロトンを収受し、雰囲気中の酸素と反応させて水として排出するための参照電極とを有する、プロトン導電体ガスセンサとすることができる。この様な構造のガスセンサにおいて、イオン化電極における一酸化炭素の酸化用触媒として本発明の触媒を用いることができる。
【0068】
また、その他に、本発明の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒は、例えば、天然ガス、メタノール、ガソリン等を改質して得られる改質ガスをアノードガスとする固体高分子形燃料電池において、アノードガスを燃料電池に供給する前に、該アノードガスに含まれる一酸化炭素を電解によって酸化除去するための一酸化炭素酸化除去装置における一酸化炭素酸化用触媒として用いることができる。この様な一酸化炭素酸化除去装置は、例えば、電解液、作用極、対極及び電源装置を基本的な構成要素とするものである。
【0069】
該一酸化炭素酸化除去装置の概略図を図1に示す。該一酸化炭素酸化除去装置は、基本的には、通常の各種電解装置と同様の構造とすることができる。電解液としては、例えば、0.1〜1M程度の硫酸溶液等を用いることができる。本発明の触媒は、作用極における一酸化炭素の酸化用触媒として用いる。作用極では、炭素電極等の導電体を基材として用い、導電性を有するバインダにより本発明の触媒を該基材に固定すればよい。対極については特に限定はなく、通常の電解装置で用いられる各種電極を使用できる。例えば、炭素電極等を用いることができる。電源装置としては、例えば、定電圧電源(ポテンショスタット)等を用いることができる。更に、作用極を所定の電位に設定するために、通常、電解質溶液中に参照電極を設置する。参照電極としても、通常の電解装置において用いられている各種の電極を用いることができる。例えば、銀/塩化銀電極等を用いることができる。
【0070】
該一酸化炭素酸化除去装置では、例えば、電解液にアノードガスをバブリング等の方法で通気し、通気中に定電圧電源(ポテンショスタット)を使って参照極に対して作用極に
正の電圧を印加することによって、アノードガス中に含まれる一酸化炭素を選択性よく電気化学的に酸化することができる。この際、作用極の触媒として本発明の触媒を用いることによって、低い過電圧で、燃料ガスを酸化することなく、一酸化炭素を電気化学的に酸化することができ、アノードガスの純化が可能となる。該一酸化炭素酸化除去装置からの排出ガスを固体高分子形燃料電池に供給することによって、純度の高い水素ガスを燃料電池に供給することが可能となる。
【0071】
更に、本発明の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒は、一酸化炭素を燃料として用いる固体高分子形燃料電池のアノード触媒として用いることができる。通常、一酸化炭素が燃料ガスに少しでも含まれていると、触媒被毒の原因となることが知られているが、本発明の触媒を用いれば、被毒種である一酸化炭素自身を燃料として利用することが可能となる。
【0072】
本発明の触媒をアノード触媒とする場合には、本発明の触媒をアノード触媒物質として用いること以外は、アノード極の構造、及びこのアノード極を用いる固体高分子形燃料電池の構造については、特に限定はなく、公知の燃料電池と同様とすればよい。即ち、高分子電解質膜、電極触媒、膜−電極接合体、セル構造等については、公知の固体高分子形燃料電池と同様とすればよい。
【0073】
例えば、カソード極の触媒金属としては、従来から知られている種々の金属、金属合金などを使用することができる。具体例としては、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、白金−ルテニウムをはじめとする各種金属触媒、またはこれらの触媒微粒子をカーボンなどの担体上に分散させた担持触媒などが挙げられる。
【0074】
高分子電解質膜としては、パーフルオロカーボン系、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体系、ポリベンズイミダゾール系をはじめとする各種イオン交換樹脂膜、無機高分子イオン交換膜、有機−無機複合体高分子イオン交換膜等を使用することができる。
【0075】
固体高分子電解質膜と電極触媒との接合体は、公知の方法により作製することができる。例えば、触媒粉末と電解質溶液とを混合して作製した触媒インクを薄膜化させた後、電解質膜上にホットプレスする方法、あるいは直接高分子膜上に塗布・乾燥する方法等が適用される。
【0076】
得られた膜−電極接合体の両面をカーボンペーパー、カーボンクロス等の集電体で挟んでセルに組み込むことによって、燃料電池セルを作製することができる。
【0077】
本発明の触媒をアノード触媒とする燃料電池では、一酸化炭素を燃料としてアノードに供給し、カソード側には、空気又は酸素を供給又は自然拡散させればよい。
【0078】
本発明の燃料電池の作動温度は、使用する電解質膜によって異なるが、通常0〜100℃程度であり、好ましくは10〜80℃程度である。
【発明の効果】
【0079】
本発明の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒によれば、一酸化炭素を低い過電圧で効率よく酸化させることができる。更に、本発明の触媒は、酸化反応などに対する安定性が高い。
【0080】
また、本発明で使用するロジウムポルフィリンを導電性担体に担持させる場合には、分子間反応を抑制して、該ロジウムポルフィリンを安定化させることができ、一酸化炭素の電気化学的酸化反応に対して高い触媒活性を有するものとなる。
【0081】
導電性担体がカーボンブラックである場合には、該ロジウムポルフィリンを原子単位に近い状態で分散担持させることができるので、触媒金属の使用量を大幅に減少することができ、安価で高活性の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒とすることができる。
【0082】
さらに、該ロジウムポルフィリン錯体を、Pt系触媒(特にPtRu触媒)とともに導電性担体(特にカーボンブラック)に担持させると、Pt系触媒の耐一酸化炭素被毒性を向上させられる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】一酸化炭素酸化除去装置の概略図である。
【図2】製造例1におけるテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリン(曲線A)及びロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリン(曲線B)の紫外・可視分光スペクトルの吸光度曲線である。
【図3】製造例2におけるテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリン(曲線A)及びロジウムテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリン(曲線B)の紫外・可視分光スペクトルの吸光度曲線である。
【図4】製造例3におけるテトラキス(3−カルボキシメチル)フェニルポルフィリン(曲線A)及びロジウムテトラキス(3−カルボキシメチル)フェニルポルフィリン(曲線B)の紫外・可視分光スペクトルの吸光度曲線である。
【図5】製造例4におけるテトラキス(3,5−ジヒドロキシ)フェニルポルフィリン(曲線A)及びロジウムテトラキス(3,5−ジヒドロキシ)フェニルポルフィリン(曲線B)の紫外・可視分光スペクトルの吸光度曲線である。
【図6】実施例1で得たロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒のアルゴン飽和条件下でのサイクリックボルタモグラム(曲線A)及び一酸化炭素飽和条件下でのリニアスイープボルタモグラム(曲線B)である。
【図7】実施例2で得たロジウムテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒のアルゴン飽和条件下でのサイクリックボルタモグラム(曲線A)及び一酸化炭素飽和条件下でのリニアスイープボルタモグラム(曲線B)である。
【図8】実施例3で得たロジウムテトラキス(3−カルボキシメチル)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒のアルゴン飽和条件下でのサイクリックボルタモグラム(曲線A)及び一酸化炭素飽和条件下でのリニアスイープボルタモグラム(曲線B)である。
【図9】実施例4で得たロジウムテトラキス(3,5−ジヒドロキシ)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒のアルゴン飽和条件下でのサイクリックボルタモグラム(曲線A)及び一酸化炭素飽和条件下でのリニアスイープボルタモグラム(曲線B)である。
【図10】実施例5で得た白金ルテニウム担持カーボンのボルタンメトリーの結果(曲線A)及びロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボンのボルタンメトリーの結果(曲線B)である。
【図11】実施例6で得た白金ルテニウム担持カーボンのボルタンメトリーの結果(曲線A)及びロジウムテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボンのボルタンメトリーの結果(曲線B)である。
【図12】実施例7で得た白金ルテニウム担持カーボンのボルタンメトリーの結果(曲線A)及びロジウムテトラキス(3−カルボキシメチル)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボンのボルタンメトリーの結果(曲線B)である。
【図13】実施例8で得た白金ルテニウム担持カーボンのボルタンメトリーの結果(曲線A)及びロジウムテトラキス(3,5−ジヒドロキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボンのボルタンメトリーの結果(曲線B)である。
【図14】比較例1で得た白金ルテニウム担持カーボンのボルタンメトリーの結果(曲線A)及びロジウムテトラキス(4−メトキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボンのボルタンメトリーの結果(曲線B)である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
以下、製造例及び実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0085】
製造例1
ロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリンの合成
【0086】
【化6】

【0087】
で表される市販のテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリンを42.9mg秤量し、150mLのエタノールに懸濁した。この懸濁液に10.9mgの[RhCl(CO)]を加えて加熱還流した。還流後の溶液をロータリーエバポレーターで濃縮し、エタノールに溶解させ、紫外・可視分光スペクトル(UV−visスペクトル)を測定し、
【0088】
【化7】

【0089】
の合成を確認した。
【0090】
図2に紫外・可視分光スペクトル(UV−visスペクトル)の吸光度曲線を示す。図2において、曲線Aが原料として用いたテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリンに対応し、曲線Bが目的物であるロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリンに対応する分光曲線である。
【0091】
製造例2
ロジウムテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリンの合成
【0092】
【化8】

【0093】
で表されるテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリンを10.3mg秤量し、33mLのエタノールに懸濁した。この懸濁液に3.0mgの[RhCl(CO)]を加えて加熱還流した。還流後の溶液をロータリーエバポレーターで濃縮し、エタノールに溶解させ、紫外・可視分光スペクトル(UV−visスペクトル)を測定し、
【0094】
【化9】

【0095】
の合成を確認した。
【0096】
図3に紫外・可視分光スペクトル(UV−visスペクトル)の吸光度曲線を示す。図3において、曲線Aが原料として用いたテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリンに対応し、曲線Bが目的物であるロジウムテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリンに対応する分光曲線である。
【0097】
製造例3
ロジウムテトラキス(3−カルボキシメチル)フェニルポルフィリンの合成
【0098】
【化10】

【0099】
で表されるテトラキス(3−カルボキシメチル)フェニルポルフィリンを10.3mg秤量し、33mLのトルエンに懸濁した。この懸濁液に2.8mgの[RhCl(CO)]を加えて加熱還流した。還流後の溶液をロータリーエバポレーターで濃縮し、トルエンに溶解させ、紫外・可視分光スペクトル(UV−visスペクトル)を測定し、
【0100】
【化11】

【0101】
の合成を確認した。
【0102】
図4に紫外・可視分光スペクトル(UV−visスペクトル)の吸光度曲線を示す。図4において、曲線Aが原料として用いたテトラキス(3−カルボキシメチル)フェニルポルフィリンに対応し、曲線Bが目的物であるロジウムテトラキス(3−カルボキシメチル)フェニルポルフィリンに対応する分光曲線である。
【0103】
製造例4
ロジウムテトラキス(3,5−ジヒドロキシ)フェニルポルフィリンの合成
【0104】
【化12】

【0105】
で表されるテトラキス(3,5−ジヒドロキシ)フェニルポルフィリンを50.0mg秤量し、170mLのエタノールに懸濁した。この懸濁液に14.2mgの[RhCl(CO)]を加えて加熱還流した。還流後の溶液をロータリーエバポレーターで濃縮し、エタノールに溶解させ、紫外・可視分光スペクトル(UV−visスペクトル)を測定し、
【0106】
【化13】

【0107】
の合成を確認した。
【0108】
図5に紫外・可視分光スペクトル(UV−visスペクトル)の吸光度曲線を示す。図5において、曲線Aが原料として用いたテトラキス(3,5−ジヒドロキシ)フェニルポルフィリンに対応し、曲線Bが目的物であるロジウムテトラキス(3,5−ジヒドロキシ)フェニルポルフィリンに対応する分光曲線である。
【0109】
実施例1
ロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒の調製
製造例1で合成したロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリンを0.7mMになるように11mLのジクロロメタンに溶解させた。この溶液にカーボンブラック(Cabot社製、Vulcan XC 72R)を30mg加えて超音波分散機で分散させた後、2時間30分撹拌した。撹拌後、濾過して溶液を取り除き、粉末を回収した。この粉末をロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒として使用した。
【0110】
ロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒の
電気化学的一酸化炭素酸化活性の評価
調製したロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリン担持カーボンの触媒粉末を5mg秤量し、水:エタノール混合溶媒(水0.25mL:エタノール0.25mL)に懸濁し、5μLのAldrich社製の5%Nafion溶液を加えた。この懸濁液を
2μL、BAS社製のグラッシーカーボン電極(表面積:0.0707cm)に滴下して乾燥させた。
【0111】
ロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒の電気化学的一酸化炭素酸化活性の測定は、上記の修飾電極を作用電極、銀−塩化銀電極を参照電極、白金電極を対極とした三電極式で行った。電解液としては、0.1MのHSOを用いた。
【0112】
図6に、一酸化炭素がない条件(アルゴン飽和条件)でのロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒のサイクリックボルタモグラムを曲線Aとして、一酸化炭素ガスを電解セル中に7分間吹き込んだ後、電極を6400rpmで回転させながら測定したリニアスイープボルタモグラムを曲線Bとして示す。一酸化炭素ガスを吹き込んだ曲線Bでは、0V付近から酸化電流の上昇が観測されており、一酸化炭素がロジウムポルフィリン錯体の触媒作用で電気化学的に酸化されていることがわかる。
【0113】
実施例2
ロジウムテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒の電気化学的一酸化炭素酸化活性の評価
実施例1と同様に、ロジウムテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒を調製し、その電気化学的一酸化炭素酸化活性を評価した。結果を図7に示す。図7では、一酸化炭素がない条件(アルゴン飽和条件)でのロジウムテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒のサイクリックボルタモグラムを曲線Aとして、一酸化炭素ガスを電解セル中に7分間吹き込んだ後、電極を6400rpmで回転させながら測定したリニアスイープボルタモグラムを曲線Bとして示す。一酸化炭素ガスを吹き込んだ曲線Bでは、0V付近から酸化電流の上昇が観測されており、一酸化炭素がロジウムポルフィリン錯体の触媒作用で電気化学的に酸化されていることがわかる。
【0114】
実施例3
ロジウムテトラキス(3−カルボキシメチル)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒の電気化学的一酸化炭素酸化活性の評価
実施例1と同様に、ロジウムテトラキス(3−カルボキシメチル)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒を調製し、その電気化学的一酸化炭素酸化活性を評価した。結果を図8に示す。図8では、一酸化炭素がない条件(アルゴン飽和条件)でのロジウムテトラキス(3−カルボキシメチル)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒のサイクリックボルタモグラムを曲線Aとして、一酸化炭素ガスを電解セル中に7分間吹き込んだ後、電極を6400rpmで回転させながら測定したリニアスイープボルタモグラムを曲線Bとして示す。一酸化炭素ガスを吹き込んだ曲線Bでは、−0.1V付近から酸化電流の上昇が観測されており、一酸化炭素がロジウムポルフィリン錯体の触媒作用で電気化学的に酸化されていることがわかる。
【0115】
実施例4
ロジウムテトラキス(3,5−ジヒドロキシ)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒の電気化学的一酸化炭素酸化活性の評価
実施例1と同様に、ロジウムテトラキス(3,5−ジヒドロキシ)フェニルポルフィリ
ン担持カーボン触媒を調製し、その電気化学的一酸化炭素酸化活性を評価した。結果を図9に示す。図9では、一酸化炭素がない条件(アルゴン飽和条件)でのロジウムテトラキス(3,5−ジヒドロキシ)フェニルポルフィリン担持カーボン触媒のサイクリックボルタモグラムを曲線Aとして、一酸化炭素ガスを電解セル中に7分間吹き込んだ後、電極を6400rpmで回転させながら測定したリニアスイープボルタモグラムを曲線Bとして示す。一酸化炭素ガスを吹き込んだ曲線Bでは、−0.1V付近から酸化電流の上昇が観測されており、一酸化炭素がロジウムポルフィリン錯体の触媒作用で電気化学的に酸化されていることがわかる。
【0116】
実施例5
ロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボン触媒の調製
製造例1で合成したロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリンを0.3mMになるように30mLのジクロロメタンに溶解させた。この溶液に(株)田中貴金属製の市販の白金ルテニウム担持カーボン(白金・ルテニウム担持量54%、モル比(白金:ルテニウム)=1:1.5)を100mg懸濁した。5分間超音波分散機で粉末を分散させ、3時間撹拌した後、濾過して溶液を取り除き、粉末を回収した。この粉末をロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボン触媒として使用した。
【0117】
ロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボン触媒の耐一酸化炭素被毒性の評価
調製したロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボン触媒を2.0mg秤量し、水5.7mL及びエタノール3.8mLからなる混合溶媒に懸濁した。この懸濁液を、BAS社製のグラッシーカーボン電極(表面積:0.0707cm)に3.6μL滴下して乾燥させた。この上に、Aldrich社製のNafion5%溶液を1/100に希釈した溶液を1.6μL滴下して乾燥させた。
【0118】
このようにして作製した修飾電極を作用電極とし、可逆水素電極を参照電極、白金電極を対極として三電極式で一酸化炭素を2%含んだ水素の電気化学的酸化活性を評価した。
【0119】
まず、電気化学測定セルを60℃に保った条件で、作用電極の電圧を0.05Vに保持し、作用電極を3600rpmで回転させながら、一酸化炭素を2%含んだ水素雰囲気下でアンペロメトリーを行った。一酸化炭素によって触媒が被毒され、電流値が10μA以下になったのを確認した後、ボルタンメトリーを行った。電解液は0.1Mの過塩素酸を用いた。
【0120】
図10にその結果を示す。ロジウムポルフィリン錯体を担持していない白金−ルテニウム触媒(曲線A)は0.4V以上の電圧をかけないと明瞭な水素酸化電流が観測されなかった。これに対し、ロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボン触媒の場合は、0.2Vの電圧をかけるだけで水素酸化電流が流れ始め、触媒被毒種の一酸化炭素が高濃度に存在している条件でも低過電圧で水素酸化電流が観測されることがわかった。このことから、ロジウムテトラキス(3,5−ジメトキシ)フェニルポルフィリン錯体を担持することによって、白金ルテニウム触媒が一酸化炭素によって被毒されにくくなることがわかる。
【0121】
実施例6
ロジウムテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボン触媒の耐一酸化炭素被毒性の評価
実施例5と同様に、ロジウムテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリン−白
金ルテニウム担持カーボン触媒を調製し、その耐一酸化炭素被毒性を評価した。結果を図11に示す。ロジウムポルフィリン錯体を担持していない白金−ルテニウム触媒(曲線A)は0.4V以上の電圧をかけないと明瞭な水素酸化電流が観測されなかった。これに対し、ロジウムテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボン触媒の場合は、0.2Vの電圧をかけるだけで水素酸化電流が流れ始め、触媒被毒種の一酸化炭素が高濃度に存在している条件でも低過電圧で水素酸化電流が観測されることがわかった。このことから、ロジウムテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリン錯体を担持することによって、白金ルテニウム触媒が一酸化炭素によって被毒されにくくなることがわかる。
【0122】
実施例7
ロジウムテトラキス(3−カルボキシメチル)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボン触媒の耐一酸化炭素被毒性の評価
実施例5と同様に、ロジウムテトラキス(3−カルボキシメチル)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボン触媒を調製し、その耐一酸化炭素被毒性を評価した。結果を図12に示す。ロジウムポルフィリン錯体を担持していない白金−ルテニウム触媒(曲線A)は0.4V以上の電圧をかけないと明瞭な水素酸化電流が観測されなかった。これに対し、ロジウムテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボン触媒の場合は、0.2Vの電圧をかけるだけで水素酸化電流が流れ始め、触媒被毒種の一酸化炭素が高濃度に存在している条件でも低過電圧で水素酸化電流が観測されることがわかった。このことから、ロジウムテトラキス(3−カルボキシ)フェニルポルフィリン錯体を担持することによって、白金ルテニウム触媒が一酸化炭素によって被毒されにくくなることがわかる。
【0123】
実施例8
ロジウムテトラキス(3,5−ジヒドロキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボン触媒の耐一酸化炭素被毒性の評価
実施例5と同様に、ロジウムテトラキス(3,5−ジヒドロキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボン触媒を調製し、その耐一酸化炭素被毒性を評価した。結果を図13に示す。ロジウムポルフィリン錯体を担持していない白金−ルテニウム触媒(曲線A)は0.4V以上の電圧をかけないと明瞭な水素酸化電流が観測されなかった。これに対し、ロジウムテトラキス(3,5−ジヒドロキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボン触媒の場合は、0.2Vの電圧をかけるだけで水素酸化電流が流れ始め、触媒被毒種の一酸化炭素が高濃度に存在している条件でも低過電圧で水素酸化電流が観測されることがわかった。このことから、ロジウムテトラキス(3,5−ジヒドロキシ)フェニルポルフィリン錯体を担持することによって、白金ルテニウム触媒が一酸化炭素によって被毒されにくくなることがわかる。
【0124】
比較例1
ロジウムテトラキス(4−メトキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボン触媒の耐一酸化炭素被毒性の評価
実施例5と同様に、ロジウムテトラキス(4−メトキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボン触媒を調製し、その耐一酸化炭素被毒性を評価した。結果を図14に示す。ロジウムポルフィリン錯体を担持していない白金−ルテニウム触媒(曲線A)は0.4V以上の電圧をかけないと明瞭な水素酸化電流が観測されなかった。ロジウムテトラキス(4−メトキシ)フェニルポルフィリン−白金ルテニウム担持カーボン触媒の場合も、0.4V以上の電圧をかけないと水素酸化電流が観測されなかった。
このことから、ロジウムテトラキス(4−メトキシ)フェニルポルフィリン錯体を担持しても、白金ルテニウム触媒の耐一酸化炭素被毒性はほとんど改善されなかった。パラ位がメトキシ基で置換されたものより、メタ位が置換されている錯体の方が、白金ルテニウム
触媒の耐一酸化炭素被毒性を改善する働きが強いことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1):
【化1】

[式中、8個のRは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子又は分子量が15〜100の置換基(ただし、少なくとも1つは分子量が15〜100の置換基である)であり;4個のR及び8個のRは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、ハロゲン、アミノ基、炭素数1〜5のアルキル基、−COOM(Mは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基もしくはアルカリ金属である)、−(CH−COOM(Mは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基もしくはアルカリ金属、nは1〜5である)、又は−SO(Mは水素原子もしくはアルカリ金属である)]
で表されるロジウムポルフィリンを有効成分とする一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒。
【請求項2】
4個のR及び8個のRが、いずれも水素原子である、請求項1のいずれかに記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒。
【請求項3】
における置換基が、−COOM(Mは水素原子、炭素数1〜2のアルキル基、もしくはアルカリ金属である)又は−OM(Mは水素原子、炭素数1〜2のアルキル基である)で表される基である、請求項1又は2に記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒。
【請求項4】
置換基が、−COOH又は−OCHである、請求項1〜3のいずれかに記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒。
【請求項5】
化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンが導電性担体に担持されたものである、請求項1〜4のいずれかに記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒。
【請求項6】
導電性担体がカーボンブラックである、請求項5に記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒。
【請求項7】
化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンと、白金又は白金合金の粒子とが、導電性担体に担持されたものである、請求項1〜6のいずれかに記載の一酸化炭素の電気化学的
酸化用触媒。
【請求項8】
白金又は白金合金の粒子が、白金ルテニウム合金の粒子である、請求項7に記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒、及びアノード触媒物質を含む、固体高分子形燃料電池用アノード極。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒を、一酸化炭素検出部における一酸化炭素の酸化用触媒成分として含む、一酸化炭素センサ。
【請求項11】
電解液、作用極、対極及び電源装置を含む、固体高分子形燃料電池用アノードガス中の一酸化炭素酸化除去装置において、作用極における一酸化炭素の酸化用触媒として、請求項1〜8のいずれかに記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒を含む、アノードガス中の一酸化炭素酸化除去装置。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載の一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒をアノード触媒物質として含む、一酸化炭素を燃料とする固体高分子形燃料電池用アノード極。
【請求項13】
請求項12に記載のアノード極を構成要素として含む、一酸化炭素を燃料とする固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−284614(P2010−284614A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142018(P2009−142018)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/要素技術開発/高濃度CO耐性アノード触媒」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】