説明

一酸化炭素変成触媒組成物

一酸化炭素を水蒸気と反応させる変成反応により、水素と二酸化炭素に変換する触媒として銅、マグネシウム及びクロムを含むことを特徴とする一酸化炭素変成触媒組成物である。さらに鉄を含有させることにより、触媒活性を向上させることができる。銅に対するマグネシウムの原子比は0.75〜1.2が好ましく、銅に対するクロムの原子比は、0.67〜1が好ましい。さらに、銅に対する鉄の原子比は0.67〜1が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、一酸化炭素を水蒸気と反応させる変成反応により、水素と二酸化炭素に変換する一酸化炭素変成触媒組成物に関する。
【背景技術】
一酸化炭素(CO)と水蒸気(HO)を反応させて水素(H)を製造するいわゆる一酸化炭素変成反応CO+HO⇔CO+Hは、炭化水素の水蒸気改質によるアンモニア合成ガスまたは水素を製造するプロセスとして工業的に古くから実用されている。この反応は350〜550℃の温度範囲では鉄−クロム系の触媒が用いられ、さらに平衡的に有利な低温変成触媒として銅−亜鉛系触媒が200〜250℃付近の温度で用いられている。
さらに、燃料電池用として炭化水素の改質等により得られた水素中の一酸化炭素の濃度を低減する方法としても、一酸化炭素変成反応が利用されている(例えば、特開2002−224570号公報参照)。燃料電池は家庭用コジェネーレーションシステムや自動車などの移動体に設置されることから、反応装置の大きさに制約があるため、できるだけ触媒量を少なくして、小さい反応器を用いた高い空間速度の条件下で、高い一酸化炭素転化率を有する高活性な一酸化炭素変成触媒が求められている。しかしながら、従来の鉄−クロム系触媒では使用温度が高いという問題があり、銅−亜鉛系触媒では空間速度が大きいと充分な一酸化炭素の転化率が得られないという問題があった。すなわち、一酸化炭素変成反応は発熱反応であることから、低温ほど平衡的には有利になるが、反応温度が低くなることにより、反応速度が遅くなる問題があった。
【発明の開示】
本発明は、低温度域において、一酸化炭素を水蒸気と反応させる変成反応により、高転化率で水素と二酸化炭素に変換する一酸化炭素変成触媒組成物を提供することを目的とする。
この目的を達成するために、本発明の一酸化炭素変成触媒組成物は、一酸化炭素を水蒸気と反応させる変成反応により、水素と二酸化炭素に変換する触媒として銅、マグネシウム及びクロムを含むことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、本発明に係る一酸化炭素変成触媒組成物の合成方法および実施の形態について説明する。
本発明の一酸化炭素変成触媒組成物は、銅、マグネシウム、クロムを含有することを必須とし、さらに鉄を含有することにより、触媒活性を向上することができる。銅に対するマグネシウムの原子比は0.75〜1.2が好ましく、銅に対するクロムの原子比は、0.67〜1が好ましい。さらに、銅に対する鉄の原子比は0.67〜1であることが好ましく、原子比がこの範囲から外れると活性が低くなってしまう。
本発明の一酸化炭素変成触媒組成物は以下の4工程を有する製造方法により製造することができる。
(1)銅化合物、マグネシウム化合物及びクロム化合物を溶解させた水溶液の調製工程
(2)アルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属の水酸化物を溶解させた水溶液の調製工程
(3)(1)の水溶液を(2)の水溶液に加え、熟成することにより沈殿物を形成させる工程
(4)得られた沈殿物を洗浄、乾燥した後、酸化雰囲気中で加熱する工程
工程(1)で溶解させる銅化合物は、水溶液中でCu2+を解離させる化合物であれば何でもよく、例えば、硝酸銅、硫酸銅、塩化銅、酢酸銅などを用いることができる。マグネシウム化合物も水溶液中でMg2+を解離させる化合物であれば何でもよく、例えば、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウムなどを用いることができる。クロム化合物も水溶液中でCr3+を解離させる化合物であれば何でもよく、例えば、硝酸クロム、硫酸クロム、塩化クロム、酢酸クロムなどを用いることができる。
工程(1)では、必要に応じて鉄化合物を添加してもよく、それは水溶液中でFe3+を解離する化合物であれば何でもよく、例えば、硝酸鉄、硫酸鉄、塩化鉄、酢酸鉄などを用いることができる。
工程(2)は水などの溶媒に、アルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属の水酸化物を溶解させることにより調製することができる。アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどを用いることができる。アルカリ金属の水酸化物としては例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることができる。
工程(3)においては、工程(1)で調製した水溶液を工程(2)で調製した水溶液に徐々に加える。このとき、混合液のpHが9〜11となるように制御する必要がある。
混合液中には各金属塩が複合化した沈殿物が形成される。この混合液を長時間熟成させることにより沈殿物を結晶化させる。このとき、温度は通常20〜100℃、好ましくは40〜80℃である。熟成時間は10〜30時間が好ましい。
工程(4)においては、得られた沈殿物を水洗、乾燥した後、空気などの酸素雰囲気下で加熱焼成することにより触媒とする。加熱温度は通常200〜500℃、加熱時間は0.5〜10時間程度である。
得られた焼成体は粉のまま変成反応に供することも出来るが、圧力損失を低くするために打錠成形ペレット、押し出し成形ペレットさらにはハニカム形状として反応に供することができる。
以下、本発明の実施例を示すが本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
硝酸銅(Cu(NO・3HO)0.05mol、硝酸マグネシウム(Mg(NO・6HO)0.05mol、硝酸クロム(Cr(NO・9HO)0.05molを水103mlに溶解させた水溶液を、炭酸ナトリウム(NaCO)0.1mol、水酸化ナトリウム(NaOH)0.33molを水102mlに溶解後、65℃に保持した水溶液にpH9〜11に保ちながら徐々に加えた後、65℃で18時間熟成して沈殿物を生成させた。
得られた結晶性沈殿物をろ過、水洗、乾燥した後、400℃で2時間焼成することによりCu、Mg、Crを含有する複合酸化物触媒の粉末を得た。これを油圧プレス機を用いて加圧成型した後、約2〜3mmの粒子にカットして、以下の条件で一酸化炭素反応試験を行った。
触媒量 :1.5ml
空間速度:20000h−1
反応温度:250℃
反応ガス:5%CO−10%CO−30%HO−55%H
但し、反応試験前に250℃、水素気流中で2時間の還元処理を行った。
得られた試験結果を表1に示す。一酸化炭素転化率は55.9%となった。
【実施例2】
Cu(NO・3HO 0.03mol、Mg(NO・6HO 0.036mol、Cr(NO・HO 0.024molを水62mlに溶解させ、NaCO 0.048mol、NaOH 0.198molを水63mlに溶解させた以外は実施例1と同様に調製した。
表1に示すように、一酸化炭素転化率は64.8%となった。
【実施例3】
Cu(NO・3HO 0.025mol、Mg(NO・6HO 0.020mol、Cr(NO・9HO 0.030molを水52mlに溶解させ、NaCO 0.060mol、NaOH 0.165molを溶解させた以外は実施例1と同様に調製した。
表1に示すように、一酸化炭素転化率は62.2%となった。
【実施例4】
Cu(NO・3HO 0.02mol、Mg(NO・6HO 0.02mol、Fe(NO・9HO 0.02mol、Cr(NO・9HO 0.02molを水55mlに溶解、NaCO 0.08mol、NaOH 0.176mlを水55mlに溶解させた以外は実施例1と同様に調製した。
表1に示すように、一酸化炭素転化率は74.5%となった。
【実施例5】
Cu(NO・3HO 0.02mol、Mg(NO・6HO 0.024ml、Fe(NO・9HO 0.02mol、Cr(NO・9HO 0.016molを水55mlに溶解、NaCO 0.072mol、NaOH 0.176molを水54mlに溶解させた以外は実施例1と同様に調製した。
表1に示すように、一酸化炭素転化率は85.4%となった。
【実施例6】
Cu(NO・3HO 0.024mol、Mg(NO・6HO 0.024mol、Fe(NO・9HO 0.016mol、Cr(NO・9HO 0.016molを水55mlに溶解させ、NaCO 0.064mol、NaOH 0.176molを水57mlに溶解させた以外は実施例1と同様に調製した。
表1に示すように、一酸化炭素転化率は60.1%となった。
(比較例1)
Cu(NO・3HO 0.030mol、Mg(NO・6HO 0.060molを水163mlに溶解、NaCO 0.108molを水136mlに溶解させた以外は実施例1と同様に調製した。
表1に示すように、一酸化炭素転化率は42.3%となった。
(比較例2)
Cu(NO・3HO 0.03mol、Mg(NO・6HO 0.03mol、Fe(NO・9HO 0.03molを水62mlに溶解させ、NaCO 0.06mol、NaOH 0.198molを水61mlに溶解させた以外は実施例1と同様に調製した。
表1に示すように、一酸化炭素転化率は44.9%となった。
(比較例3)
市販の一酸化炭素変成用Cu−Zn系触媒(東洋シーシーアイ製)について、同様に2〜3mmにカットした。表1に示すように、一酸化炭素転化率は53.9%となった。

以上のように、本発明の一酸化炭素変成触媒組成物は、低温度域において、一酸化炭素を水蒸気と反応させる変成反応により、高転化率で水素と二酸化炭素に変換することができる。
【産業上の利用可能性】
本発明に係る一酸化炭素変成触媒組成物は、炭化水素の改質等により得られた水素中の一酸化炭素の濃度を低減するために利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素を水蒸気と反応させる変成反応により水素と二酸化炭素に変換する触媒として、銅、マグネシウム及びクロムを含むことを特徴とする一酸化炭素変成触媒組成物。
【請求項2】
銅に対するマグネシウム、クロムの原子比がそれぞれ0.75〜1.2、0.67〜1であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の一酸化炭素変成触媒組成物。
【請求項3】
更に鉄が含まれていることを特徴とする請求の範囲第2項に記載の一酸化炭素変成触媒組成物。
【請求項4】
銅に対する鉄の原子比が0.67〜1であることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の一酸化炭素変成触媒組成物。

【国際公開番号】WO2004/085056
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−569938(P2004−569938)
【国際出願番号】PCT/JP2003/009619
【国際出願日】平成15年7月29日(2003.7.29)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【Fターム(参考)】