説明

一酸化珪素の製造装置及び製造方法

【解決手段】少なくとも二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末を不活性ガスもしくは減圧下1,100〜1,600℃の温度範囲で加熱し、一酸化珪素ガスを発生させ、該一酸化珪素ガスを1,000℃以下の基体表面に析出させる一酸化珪素の製造方法に用いられる一酸化珪素の製造装置において、1,100〜1,600℃の一酸化珪素ガスが接触する構成部材(但し、該析出基体を除く)をC/Cコンポジット材で構成したことを特徴とする一酸化珪素の製造装置。
【効果】本発明の一酸化珪素の製造装置によれば、高純度な一酸化珪素を効率的かつ安定的に製造することができ、かつ、大型化も容易であり、工業的規模の生産にも十分に応えられるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装フィルム蒸着用及びリチウムイオン二次電池負極活物質等として好適に用いられている一酸化珪素の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一酸化珪素の製造方法としては、珪素と石英粉末を真空中で1,300℃で加熱保持し、一酸化珪素の気体を発生させ、この一酸化珪素の気体を450〜950℃へ加熱保持した蒸着管に析出させる方法(特許文献1:特公昭40−22050号公報)、二酸化珪素系酸化物粉末からなる原料混合物を減圧非酸化性雰囲気中で熱処理し、一酸化珪素蒸気を発生させ、この一酸化珪素蒸気を気相中で凝縮させて、0.1μm以下の微細アモルファス状の一酸化珪素粉末を連続的に製造する方法(特許文献2:特開昭63−103815号公報)、及び原料珪素を加熱蒸発させて、表面組織を粗とした基体の表面に蒸着させる方法(特許文献3:特開平9−110412号公報)が知られており、いずれも一酸化珪素蒸気を蒸着する方法にて製造されている。この場合、発生した一酸化珪素蒸気は非常に活性が高く、反応性が高いものであり、この一酸化珪素蒸気と接触する炉構成部材の選定は困難にもかかわらず、上記従来技術においては、構成部材の材質にふれているものは無かった。
【0003】
そこで、本発明者らは、この問題点に着目し、少なくとも二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末を不活性ガスもしくは減圧下1,100〜1,600℃の温度範囲で加熱し、一酸化珪素ガスを発生させ、該一酸化珪素ガスを冷却した基体表面に析出させる一酸化珪素粉末の製造方法において、炉構成部材である反応室,搬送管及びヒーターの少なくとも1つがMo,W及び/又はそれらの化合物といった高融点金属あるいは炭化珪素膜で黒鉛を被覆した黒鉛材によって形成した発明を提案し(特許文献4:特開2001−220124号公報)、安定的な一酸化珪素製造を可能とした。
【0004】
しかしながら、上記特開2001−220124号公報に記載された方法は、従来の炉構成部材として黒鉛材を用いた方法に比べると、格段に損傷が少なくなるものの、Mo,Wといった高融点金属を使用した場合は高価であったり、所定形状の加工が困難といった問題があった。また、炭化珪素膜で黒鉛を被覆した黒鉛材の使用においても、偶発的に炭化珪素膜が剥離した場合に、晒された黒鉛材を起点として、損傷が起こる場合があるなど、必ずしも完全に満足のいく方法ではなかった。
【0005】
一方で、一般的な一酸化珪素の製造装置では、炉構成部材として黒鉛が用いられており、発生した一酸化珪素蒸気と、構成されている黒鉛部材が下記反応式による反応が起こってしまう。
【0006】
C(s)+SiO(g) → SiC(s)+CO(g)
このような反応の結果、上記一酸化珪素の製造装置では、黒鉛材の消耗による強度劣化や、黒鉛材内部に不均質に形成された炭化珪素と黒鉛材の熱膨張差による内部での残留歪みが原因となって、黒鉛部材、即ち原料容器及びマッフルで構成される反応室,搬送管及びヒーターに破損が生じ、長時間の運転に耐えられないといった問題があった。
【0007】
【特許文献1】特公昭40−22050号公報
【特許文献2】特開昭63−103815号公報
【特許文献3】特開平9−110412号公報
【特許文献4】特開2001−220124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、一酸化珪素蒸気雰囲気で使用しても安定的かつ効率的に一酸化珪素を製造することができ、かつ大型化が可能な一酸化珪素の製造装置及び製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために種々の高温部材をテストピースを用いた一酸化珪素蒸気雰囲気での高温テストを行った結果、C/Cコンポジット材を用いることで、一酸化珪素蒸気中での使用に十分耐えられるとの知見を得ることができ、C/Cコンポジット材を一酸化珪素の製造装置の構成部材として用いることで、安定して一酸化珪素が製造できることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記の一酸化珪素の製造装置及び製造方法を提供する。
(1)少なくとも二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末を不活性ガスもしくは減圧下1,100〜1,600℃の温度範囲で加熱し、一酸化珪素ガスを発生させ、該一酸化珪素ガスを1,000℃以下の基体表面に析出させる一酸化珪素の製造方法に用いられる一酸化珪素の製造装置において、1,100〜1,600℃の一酸化珪素ガスが接触する構成部材(但し、該析出基体を除く)をC/Cコンポジット材で構成したことを特徴とする一酸化珪素の製造装置。
(2)C/Cコンポジット材が黒鉛粉末と黒鉛繊維との混合物であり、黒鉛繊維の混合割合が20〜70質量%であることを特徴とする(1)の一酸化珪素の製造装置。
(3)少なくとも二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末を不活性ガスもしくは減圧下1,100〜1,600℃の温度範囲で加熱し、一酸化珪素ガスを発生させ、該一酸化珪素ガスを1,000℃以下の基体表面に析出させる一酸化珪素の製造方法において、(1)又は(2)の製造装置を用いて製造することを特徴とする一酸化珪素の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一酸化珪素の製造装置によれば、高純度な一酸化珪素を効率的かつ安定的に製造することができ、かつ、大型化も容易であり、工業的規模の生産にも十分に応えられるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の一実施例に係る一酸化珪素の製造装置を示すもので、図中1は、反応装置であり、この反応装置1内にマッフル(保護容器)2が配設されており、このマッフル2内が反応室2aとして構成され、更にこのマッフル2内に(即ち、反応室2aに)原料容器3が配設され、この容器3内に原料4として二酸化珪素粉末とこれを還元する粉末との混合物が収容される。この場合、還元粉末としては金属珪素粉末、炭素粉末等が挙げられるが、特に金属珪素粉末を用いたものが、<1>反応性を高める、<2>収率を高めるといった点で効果的であり、好ましく用いられる。二酸化珪素粉末と還元粉末との混合割合は特に制限されないが、通常、二酸化珪素粉末に対する還元粉末のモル比で、1<(還元粉末/二酸化珪素粉末)<1.3(モル比)、特に1.05≦(還元粉末/二酸化珪素粉末)≦1.2(モル比)、更には、1.05<(還元粉末/二酸化珪素粉末)<1.2(モル比)程度であることが好ましい。
【0013】
上記マッフル2の外側方には、上記反応装置1内に存して、マッフル2を取り囲んでヒーター5が配設され、更にヒーター5を取り囲んで、断熱材6が配設されており、ヒーター5に通電し、反応室2aを1,100〜1,600℃、好ましくは1,200〜1,500℃の温度に加熱・保持する。反応温度が1,100℃未満では反応が進行し難く、生産性が低下してしまうし、逆に1,600℃を超えると、混合原料粉末が溶融して、逆に反応性が低下したり、炉材の選定が困難になるおそれがある。
上記加熱により、原料混合物中の二酸化珪素が還元粉末により還元されて1,100〜1,600℃、好ましくは1,200〜1,500℃の一酸化珪素ガスが生成する。
【0014】
なお、炉内雰囲気は不活性ガスもしくは減圧下であるが、熱力学的に減圧下の方が反応性が高く、低温反応が可能となるため、減圧下で行うことが望ましい。なお、減圧度は、1〜3,000Pa、特に5〜1,000Paの範囲が好ましい。減圧度を1Paより小さくするには真空ポンプの能力を大きく増大させねばならず、設備コストが増大する反面、反応性向上の効果は軽微であり、また逆に3,000Paより大きいと反応性が著しく低下する。
【0015】
上記マッフル2は、その上端が開口し、この開口部にガス搬送管7が連結され、更にこのガス搬送管7に一酸化珪素析出容器(析出基体)8が連結され、この析出基体8内が一酸化珪素析出ゾーン8aとして構成され、上記析出基体8の内壁面が一酸化珪素析出部9とされている。
【0016】
上記反応室2a内で発生した一酸化珪素ガスは、ガス搬送管7を通過し、析出ゾーン8a内に流入し、1,000℃以下の温度域に設置された析出ゾーン8a内の析出基体8の析出部9上に冷却、析出される。ここで、析出基体8の種類、材質は特に限定されず、1,000℃の温度に耐え得るものであれば特に問題ないが、加工性の面でSUSやモリブデン、タングステンといった高融点金属が好ましく用いられる。なお、析出ゾーン8aは1,000℃以下の温度範囲、通常、700〜1,000℃、特に800〜950℃の温度範囲に設定されていることが好ましく、析出ゾーン8aの温度が700℃未満では生成する固体状一酸化珪素(粒子)のBET比表面積が高くなり、取り出す際に酸化が生じて一酸化珪素としての純度が低下する(即ち、SiO2成分が混入する)場合があり、一方、析出ゾーン8aの温度が1,000℃を超える場合にはC/Cコンポジット材を除いて析出基体8の材質の選定が困難になる。
【0017】
なお、10は真空ポンプであり、この真空ポンプ10に連結された排気管11が上記析出ゾーン8aに連通されていることにより、上記真空ポンプ10の作動で、析出ゾーン8a、ガス搬送管7内及び反応室2aがそれぞれ所定の減圧度となるように減圧されるものである。
【0018】
ここで、本発明においては、少なくとも上記原料容器3、マッフル2、ガス搬送管7、及び、マッフルを設置しない場合のヒーターといった1,100〜1,600℃の一酸化珪素ガスと接触する可能性のある炉構成部材をC/Cコンポジット材とするものである。なお、上記図1の実施例では、ヒーター5及び断熱材6は、マッフル2により一酸化珪素蒸気から遮断、保護されているため、これらの部材をC/Cコンポジット材にて形成する必要はない。また、1,000℃以下の温度範囲にある析出基体8も必ずしもC/Cコンポジット材にて形成する必要もない。
ここで、C/Cコンポジット材は特に限定されず、黒鉛粉と黒鉛繊維で形成されたものが使用される。
【0019】
上記したような炉構成部材をC/Cコンポジット材とすることで、黒鉛材と同じく、発生した一酸化珪素ガスと下記反応が起こる。
C(s)+SiO(g) → SiC(s)+CO(g)
即ち、C/Cコンポジット材がSiC/SiCコンポジット材と転化するわけであるが、黒鉛材の炭化珪素化と異なり、黒鉛繊維が混在していることによって、脆性が改良され、黒鉛と炭化珪素の熱膨張差による応力が緩和されるため、上記反応が起こった場合でも形状を維持することができる。
【0020】
ここで、黒鉛粉と黒鉛繊維の混合割合は特に限定されるものではないが、黒鉛繊維の混合割合が20〜70質量%、特に35〜60質量%が好ましい。黒鉛繊維の混合割合が20質量%より少ないと一酸化珪素ガスとの反応で生成した炭化珪素と基材の黒鉛との熱膨張係数の違いによる応力により破壊される場合があるし、逆に黒鉛繊維の混合割合が70質量%より多いとC/Cコンポジット材の形状を保持できなくなる場合があり、結果として損傷の原因となり得る。
【実施例】
【0021】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0022】
[実施例]
図1に示す装置を用いて、一酸化珪素を製造した。ここで、原料容器3、マッフル2、ガス搬送管7はC/Cコンポジット材(黒鉛粉/黒鉛繊維=45/55(質量比))を用いた。原料は、二酸化珪素粉末と金属珪素粉末の等量モル混合粉末を用い、マッフル2の容積が0.5m3の反応炉内に20kg仕込んだ。次に真空ポンプ10を用いて炉内を100Pa以下に減圧した後、ヒーター5を通電し、1,400℃の温度に昇温・保持した。発生した一酸化珪素ガスは上部に設置され、850℃に設定した析出ゾーン8aにて析出される。なお、析出ゾーン8aの内面が析出基体8そのものとなり、材質はSUS製である。上記運転を5時間行った後、冷却を開始した。冷却終了後に、析出ゾーン8a内面の析出基体表面に析出した析出物を回収、炉内の状態観察を行った。得られた一酸化珪素は、BET=5m2/g,純度=99.9%以上の非晶質粉末であり、約16kg回収された。また、装置内観察においてもC/Cコンポジット材が若干緑色に変色しているものの、特に破損等問題が無いことが確認され、以降30バッチ以上の運転を行ったが、変化は見られなかった。
【0023】
[比較例]
原料容器、マッフル、ガス搬送管を黒鉛とした他は、実施例と同じ条件で一酸化珪素を製造した。得られた一酸化珪素は、実施例と同様、BET=5m2/g,純度=99.9%以上の非晶質粉末であり、約16kg回収された。一方、炉内観察では、黒鉛表面が一部緑色に変色しており、その後、15バッチ目にマッフルが破損し、運転を中止せざる得なかった。以降、マッフルを交換し、何度か運転を行ったが、いずれも10〜30バッチ目に、原料容器、マッフル、ガス搬送管のいずれかが破損し、以降の運転に耐えられるものではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施例に係る一酸化珪素の製造装置を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 反応装置
2 マッフル
2a 反応室
3 原料容器
4 原料
5 ヒーター
6 断熱材
7 ガス搬送管
8 析出容器(析出基体)
8a 析出ゾーン
9 析出部
10 真空ポンプ
11 排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末を不活性ガスもしくは減圧下1,100〜1,600℃の温度範囲で加熱し、一酸化珪素ガスを発生させ、該一酸化珪素ガスを1,000℃以下の基体表面に析出させる一酸化珪素の製造方法に用いられる一酸化珪素の製造装置において、1,100〜1,600℃の一酸化珪素ガスが接触する構成部材(但し、該析出基体を除く)をC/Cコンポジット材で構成したことを特徴とする一酸化珪素の製造装置。
【請求項2】
C/Cコンポジット材が黒鉛粉末と黒鉛繊維との混合物であり、黒鉛繊維の混合割合が20〜70質量%であることを特徴とする請求項1記載の一酸化珪素の製造装置。
【請求項3】
少なくとも二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末を不活性ガスもしくは減圧下1,100〜1,600℃の温度範囲で加熱し、一酸化珪素ガスを発生させ、該一酸化珪素ガスを1,000℃以下の基体表面に析出させる一酸化珪素の製造方法において、請求項1又は2記載の製造装置を用いて製造することを特徴とする一酸化珪素の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−91195(P2009−91195A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263368(P2007−263368)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】