説明

一酸化窒素ガスの回収方法及び一酸化窒素ガスの回収装置

【課題】 充填塔内での局所的な温度上昇の発生を防止することが可能なNOガスの回収方法及びその回収装置を提供する。
【解決手段】 充填塔11からなる回収装置10により、一酸化窒素ガスを酸化して得られた二酸化窒素ガスを水で吸収し硝酸水溶液として回収する一酸化窒素ガスの回収方法において、二酸化窒素ガスを吸収するための水とともに、その水の流量の30〜70%に相当する流量で、充填塔11から回収された硝酸水溶液を充填塔11の上部から供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば一酸化窒素と硝酸との化学交換法により重窒素15Nを濃縮製造する装置等から発生する一酸化窒素ガスの回収方法に関し、特に充填塔形式の回収装置により回収する一酸化窒素ガスの回収方法及びその回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化窒素(NO)ガスと硝酸(HNO)水溶液との化学交換法により重窒素15Nを濃縮製造する重窒素濃縮製造装置からは、化学交換反応終了後にNOガスが排出されるが、この排出されたNOガスにおける窒素中の15N濃度は、天然の窒素中の15N濃度0.366%より極わずかに低くなる程度である。したがって、この排出されたNOガスを酸化して水に吸収させ、HNO水溶液として回収すれば、回収したHNO水溶液の大部分を、再度、重窒素濃縮の原料として利用することができ、排出されたNOガスは廃棄物とされることなく再利用されることとなり、環境保全の面からも好ましい。
【0003】
NOガスをHNOとして回収する方法としては、現在、工業的な硝酸製造法として行われているようにNOガスを酸化して二酸化窒素(NO)ガスにし、これを若干の加圧下で水に吸収させる方法がある(例えば、特許文献1参照。)。具体的には、下記の式(I)及び(II)の反応により、NOガスをHNO水溶液として回収する。
2NO+O → 2NO ・・・(I)
3NO+HO → 2HNO+NO ・・・(II)
【0004】
しかしながら、上述した重窒素濃縮製造装置に硝酸製造設備を付帯させる場合には、重窒素濃縮製造装置は常圧での運転が基本となっているため、その硝酸製造設備の装置構成が複雑になったり、装置の規模が大きくなったりしてしまい、また設備コスト面でも負担が大きくなるといった問題が生じる。
【0005】
このため、重窒素濃縮製造装置に付帯させる設備としては、重窒素濃縮製造装置の化学交換反応塔と同様の充填塔形式の装置が用いられ、常圧下において充填塔下部からNOガス及びNO酸化用の空気を導入し、塔上部からNOガス吸収用の水を供給してHNO水溶液として回収し、インラインで再利用する方法が行われている。
【0006】
このとき、上記式(I)及び(II)に示したNOガスの吸収反応は、発熱を伴うため、充填塔には外部ジャケットを設けて外部ジャケットに適当な温度の水を流すことにより、発生した熱を吸収・除去することが行われている。
【0007】
しかしながら、時折、充填塔内の一部でNOガスの吸収反応が激しく起こり、局所的に温度上昇が激しくなる場合がある。その場合、通常の温度条件であればHNOに対して耐食性があるステンレス製部材(充填塔や充填塔内充填物等)の金属成分が、発生した熱により少量溶け出し、充填塔の底部から流出するHNO水溶液を着色させてしまう。
【0008】
この局所的に起こる温度上昇に備えて、温度の低い冷却水を流して冷却を強化する方法が考えられるが、この充填塔形式の回収方法においては、冷却が過ぎた場合にはNOガスをHNO水溶液として回収できる回収率が低くなってしまう。また、充填塔内で局所的に温度上昇が起こる箇所が必ずしも一定ではないため、特定の箇所のみに対して冷却を強化するということも困難となる。その他、NOガス吸収用の水を大量に供給することにより温度上昇を抑えることが考えられるが、回収したHNO水溶液をそのままインラインで再利用する場合においては、必要なHNO濃度よりも低い濃度のHNO水溶液ができてしまい、濃度調整の機構を新たに追加する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−029809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、充填塔形式によるNOガスの回収において、充填塔内での局所的な温度上昇の発生を防止することが可能なNOガスの回収方法及びその回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、充填塔により得られたHNO水溶液の一部を充填塔上部に環流し、NOガス吸収用の水とともに、所定の流量で充填塔上部から供給することにより、充填塔内での局所的な温度上昇を抑制できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、充填塔からなる回収装置により、一酸化窒素ガスを酸化して得られた二酸化窒素ガスを水で吸収し硝酸水溶液として回収する一酸化窒素ガスの回収方法であって、上記二酸化窒素ガスを吸収するための水とともに、該水の流量の30〜70%に相当する流量で、上記充填塔から回収された硝酸水溶液を該充填塔の上部から供給する。
【0013】
また、本発明は、充填塔からなり、一酸化窒素ガスを酸化して得られた二酸化窒素ガスを水で吸収し硝酸水溶液として回収する一酸化窒素ガスの回収装置であって、上記充填塔にて生成され該充填塔下部から流出した硝酸水溶液を、ポンプにより該充填塔上部に環流し、上記充填塔内に供給する環流管と、上記環流管を介して上記充填塔内に供給する硝酸水溶液の供給量を制御する制御部とを備え、上記制御部は、上記二酸化窒素ガスを吸収する水の流量の30〜70%に相当する流量で、上記硝酸水溶液を上記充填塔内に供給するように制御する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、充填塔により構成される一酸化窒素ガスの回収装置において、充填塔の上部からNOガス吸収用の水に加えて、所定の流量でHNO水溶液を供給することにより、充填塔内の一部でNOガスの吸収反応による発熱が生じた場合でも、充填塔内の温度上昇を抑制することができる。
【0015】
また、充填塔の所定の箇所の冷却を強化するものではなく、NOガス吸収用の水を大量に供給するというものでもないため、NOガスをHNO水溶液として回収する回収率を低下させることなく、また回収したHNO水溶液の濃度を変動させることなく、効果的かつ効率的にNOガスを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】NO回収装置に重窒素濃縮製造装置を付帯した状態を示す概略断面図である。
【図2】重窒素濃縮製造装置の概略断面図である。
【図3】NO回収装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る一酸化窒素(NO)ガスの回収方法及びその回収装置を適用した具体的な実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
(概要)
本実施の形態に係るNOガスの回収方法は、充填塔からなる回収装置により、NOガスを酸化して得られた二酸化窒素(NO)ガスを水で吸収し硝酸(HNO)水溶液として回収する方法であって、充填塔内の一部でNOガスの吸収反応による発熱が生じた場合でも、充填塔内の温度上昇を抑制するものである。
【0019】
具体的には、一酸化窒素(NO)ガスの回収方法は、NOガスを酸化して得られたNOガスを吸収するための水とともに、その水の流量の30〜70%に相当する流量で、既に充填塔から回収されたHNO水溶液を、充填塔の上部から供給することを特徴とする。
【0020】
本実施の形態に係るNOガスの回収方法は、例えば図1に示すように、NOガスとHNO水溶液との化学交換法により重窒素(15N)を濃縮製造する重窒素濃縮製造装置20を付帯し、その重窒素濃縮製造装置20と同様の充填塔形式のNO回収装置10を用いて行われる。以下では、重窒素濃縮製造装置20を付帯したNO回収装置10を一例として示しながら、本実施の形態に係るNOガスの回収方法について説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施の形態に係るNOガスの回収方法に用いられるNO回収装置10は、重窒素濃縮製造装置20から発生するNOガスを取り込み、取り込んだNOガスをHNO水溶液として回収する。また、図1に示すように、回収したHNO水溶液は、その大部分が再度15N濃縮の原料として重窒素濃縮製造装置20に供給され、15Nの製造に利用されることが可能となる。
【0022】
このNOガスの回収方法に用いられるNO回収装置10は、上述したように、重窒素濃縮製造装置20と同様の充填塔形式の装置を用いて行われる。そこで先ず、NO回収装置10の説明に先立ち、NO回収装置10にNOガスを供給する(送り出す)重窒素濃縮製造装置20について、NO回収装置10に供給するNOガスの発生プロセスを含めて説明する。
【0023】
(重窒素濃縮製造方法及び装置)
図2は、NOガスとHNO水溶液との化学交換法により重窒素15Nを濃縮製造する重窒素濃縮製造装置20の概略断面図である。この図2に示す重窒素濃縮製造装置20は、HNO水溶液と二酸化硫黄(SO)ガスからNOガスを生成する還流塔20bと、還流塔20bで生成したNOガスとHNO水溶液との窒素同位体化学交換反応により重窒素15NをHNOに濃縮する交換塔20aとを備えている。
【0024】
重窒素濃縮製造装置20を構成する交換塔20aは、その塔頂部にHNO供給口を備え、また塔底部にHNO流出口を備えている。交換塔20aでは、HNO供給口からHNO水溶液が供給され、供給されたHNO水溶液は交換塔20a内を下降し、HNO流出口を通って交換塔20aから流出する。交換塔20aから流出したHNO水溶液は、交換塔20aの下方に設けられた還流塔20b内に流入する。
【0025】
なお、上述したように、重窒素濃縮製造装置20の交換塔20aに供給するHNO水溶液として、後述するNO回収装置10においてNOガスを回収して生成されたHNO水溶液を再利用することができる。
【0026】
交換塔20aの内部には、充填材として、例えばヘリパック等が充填されており、供給されたHNO水溶液は充填材の間隙を通って還流塔20b内に流入する。
【0027】
また、交換塔20aには、その塔底部にHNO水溶液の一部が取り出される15N取出口が設けられている。15N取出口では、HNO水溶液と後述する還流塔20b内で生成されるNOガスとの化学交換反応によって交換塔20a内において濃縮製造され、所定の15N濃度となったHNOが還流比に従って抜き取られる。
【0028】
上述した構成の交換塔20aでは、具体的には、下記の式(III)の反応が生じる。すなわち、交換塔20aでは、交換塔20aのHNO供給口より供給されたHNO水溶液と、後述する還流塔20b内において生成されたNOガスとが接触し、HNO−NO化学交換反応が起こる。そして、この式(III)の化学交換反応が重畳されることにより、HNO中に15Nが濃縮製造される。
15NO+H14NO14NO+H15NO ・・・(III)
(分離係数α=1.055)
【0029】
なお、交換塔20aを構成する材質は、特に限定されるものではなく、HNO等に対して耐食性のあるものであればよい。
【0030】
このように、交換塔20aにおいては、上記式(III)の反応によってHNO中に15Nが濃縮製造されるが、それとともに、14NOガスが発生する。この重窒素濃縮製造装置20において発生したNOガスは、後述するNO回収装置10に取り込まれる(供給される)。そして、NO回収装置10は、この重窒素濃縮製造装置20より供給されたNOガスをHNO水溶液として回収する。詳しくは後述する。
【0031】
次に、重窒素濃縮製造装置20の還流塔20bについて説明する。還流塔20bは、図2に示したように、交換塔20aの下方に設けられている。この還流塔20b内に、交換塔20a内を下降してその塔底部から流出したHNO水溶液が流入し、還流塔20bの下部から供給されたSOガスと気液接触することによってNOガスとHSOが生成される。
【0032】
なお、還流塔20bを構成する材質は特に制限されるものではなく、還流塔20b内に存在するHSO、HNO、SOに対して耐食性を有するものであればよく、例えばガラス製とすることができる。
【0033】
還流塔20bの内部には、充填材として、例えばガラス製のヘリックス等が充填されており、還流塔20b内の下部には充填材の落下を防止するための目皿等が設けられている。
【0034】
また、還流塔20bは、その上端部にHNO供給口を備えるとともに、その下端部にSO供給口を備えている。還流塔20bでは、交換塔20a内を下降して交換塔20aのHNO流出口を通って流出されたHNO水溶液が、還流塔20bのHNO供給口から供給される。そして、供給されたHNO水溶液の下降流は、SO供給口から供給されたSOガスの上昇流と気液接触して、NOガスが生成される。また、この気液接触反応においては、HSOが副生され、副生されたHSOは還流塔20bの塔底部に接続されたHSO流出口を介して排出される。
【0035】
上述した構成の還流塔20bでは、具体的には、下記の式(IV)の反応が生じる。
2HNO+3SO+2HO → 3HSO+2NO ・・・(IV)
【0036】
このように、還流塔20bにおいては、上記式(IV)のHNO水溶液とSOガスとの気液接触反応により、NOガスが生成され、またHSOが副生される。そして、生成されたNOガスは、上昇流となって交換塔20aに戻り、上記式(III)のHNO−NO化学交換反応に用いられる。
【0037】
以上のような構成を有する交換塔20aと還流塔20bとからなる重窒素濃縮製造装置20では、上述のように、交換塔20a内においてNOガスとHNO水溶液との化学交換反応により15Nが濃縮製造される。そして一方で、上記式(III)に示されるように、15N濃度の低いNOガスが発生する。本実施の形態に係るNOガスの回収方法において用いられるNO回収装置10には、上述した重窒素濃縮製造装置20が付帯されており、この重窒素濃縮製造装置20から発生したNOガスを取り込んで、HNO水溶液として回収する。
【0038】
(NO回収方法及び装置)
次に、本実施の形態に係るNOガスの回収方法及びこの方法において用いられるNO回収装置10について説明する。図1に示したように、NO回収装置10は、付帯する重窒素濃縮製造装置20の上方に設けられている。このNO回収装置10内に、重窒素濃縮製造装置20の交換塔20aにおいて発生したNOガスが取り込まれ、そのNOガスがNO回収装置10の下部より供給されるNOガス酸化用空気によって酸化された後、NO回収装置10の上部より供給される水(HO)に吸収されることによって、HNO水溶液が生成される。
【0039】
図3は、本実施の形態に係るNOガスの回収方法に用いられるNO回収装置10の概略断面図である。この図3に示すように、NO回収装置10は充填塔11で構成されており、その充填塔11の内部には、例えばマクマホンパッキング等の充填材12が充填されている。NO回収装置10を構成する充填塔11の材質は特に制限されるものではなく、NO回収装置10内に存在するHNO、NO、NO等に対して耐食性を有するものであればよく、例えばステンレス製やガラス製とすることができる。
【0040】
NO回収装置10は、その下端部にNO供給口(NO取込口)13を備えるとともに、下端部にNO酸化用の空気を供給する空気供給口14を備えている。NO回収装置10では、NO供給口13を介して、付帯されている重窒素濃縮製造装置20において発生したNOガスを取り込む。そして、取り込まれたNOガスは、空気供給口14から供給された空気によって酸化され、二酸化窒素(NO)ガスとなる。
【0041】
また、NO回収装置10は、その上端部にNOガス吸収用の水(HO)を供給するHO供給管15を備えている。NO回収装置10では、発生したNOガスの上昇流がHO供給管15から供給されたNOガス吸収用の水と気液接触し、HNO水溶液が生成される。
【0042】
具体的には、上述した構成のNO回収装置10内において、下記式(I)及び(II)の反応が生じる。
2NO+O → 2NO ・・・(I)
3NO+HO → 2HNO+NO ・・・(II)
【0043】
このようにして、本実施の形態に係るNOガスの回収方法は、充填塔形式のNO回収装置10を用いて、取り込んだNOガスをHNO水溶液として回収する。そして、このように充填塔形式のNO回収装置10を用いることによって、装置を複雑化させることなく、常圧で運転される重窒素濃縮製造装置20等を付帯させることができる。そして、NO回収装置10において生成されたHNO水溶液は、HNO排出管16を介して重窒素濃縮製造装置20に供給することが可能となる。
【0044】
ここで、上記式(I)及び(II)で示されるNOガスの吸収反応は発熱を伴う反応となる。したがって、NO回収装置10における充填塔11内を所定の温度とするため、外部ジャケット等の温度制御機構を設け、適当な温度の水を流すことにより発生した熱を吸収・除去している。これにより、所定の温度条件下で、充填塔11内において上記式(I)及び(II)の反応を生じさせ、NOガスを高い回収率で回収することが可能となる。
【0045】
具体的には、図3に示すように温度制御手段として外部ジャケット17を設けた場合では、例えば約30℃以下の水を温度制御水供給口17inから供給して下部から上部の方向に流すことによって、発生した熱を吸収・除去して充填塔11内の温度を制御する。供給された冷水等は、外部ジャケット17の内部を上昇した後、その上端部に設けられた温度制御水排出口17outから排出される。なお、外部ジャケット17等の温度制御手段による充填塔11内の温度制御は、例えば熱電対等の温度検出手段を充填塔11内に設け、温度検出手段によって検出された温度に基づいて、外部ジャケット17内に流す水の流量や温度等を調整して行えばよい。
【0046】
ところで、上述のように、外部ジャケット17等の温度制御手段を設けて充填塔11内の発熱を吸収・除去しているものの、時折、充填塔11内の一部でNOガスの吸収反応が激しく起こり、局所的に温度上昇が激しくなる場合がある。このとき、通常の温度条件であればHNOに対して耐食性があるステンレス製部材(充填塔11、充填塔内の充填材12等)の金属成分が少量溶け出し、その金属成分により充填塔11の底部から回収されるHNO水溶液が着色するという問題がある。
【0047】
そこで、本実施の形態に係るNOガスの回収方法では、NO回収装置10を構成する充填塔11の上部から、NOガス吸収用の水を供給するとともに、充填塔11の底部からHNO排出管16を介して回収されるHNO水溶液の一部を充填塔11の上部に環流させて供給する。このとき、充填塔11の上部から供給するHNO水溶液は、NOガス吸収用として供給する水の流量の30〜70%に相当する流量で供給する。
【0048】
本実施の形態に係るNOガスの回収方法では、このように、NOガス吸収用の水に加えて、充填塔11の底部から回収されるHNO水溶液を所定の割合で充填塔11の上部から供給することにより、充填塔11内の一部でNOガスの吸収反応が激しく起こり、局所的に発熱が激しくなった場合でも、この現象による温度上昇を抑制、緩和することができる。
【0049】
ここで、供給するHNO水溶液の流量がNOガス吸収用の水の流量の30%より少ない場合には、充填塔11内の一部でNOガスの吸収反応が激しく起こった際の局所的な温度上昇を十分に抑制、緩和することができない。
【0050】
一方で、供給するHNO水溶液の流量がNOガス吸収用の水の流量の70%より多い場合には、NOガスが完全に吸収されないまま充填塔11の底部からHNO水溶液が流出し、黄色く着色したHNO水溶液が回収されてしまう。この黄色く着色したHNO水溶液を原料として重窒素濃縮製造装置に再利用した場合には、装置内の随所でNOガスが発生し、装置内でのHNO水溶液の流れを不安定にしてしまう。また、NOガスとHNO水溶液との窒素同位体化学交換反応により重窒素15NをHNOに濃縮する交換塔20a内においては、発生したNOガスが窒素同位体化学交換反応を撹乱させてしまう。
【0051】
したがって、本実施の形態に係るNOガスの回収方法では、HNO水溶液を、NOガス吸収用として供給する水の流量に対して30〜70%の割合に相当する流量で供給する。これにより、充填塔11内での局所的な温度上昇を抑制することができ、金属成分等の溶出によるHNO水溶液の着色を防止するとともに、NOガスの水への吸収を阻害することなく所望とする量及び濃度のHNO水溶液としてNOガスを回収することができる。
【0052】
具体的に、NO回収装置10の構成としては、HNO排出管16から分岐したHNO環流管18が設けられている。HNO環流管18は、HNO排出管16からの分岐直後にHNO水溶液供給用のポンプ19が設けられ、また充填塔11の上部に設けられたHO供給管15に接続されている。また、HNO環流管18に設けられたポンプ19は、図示しない制御部に接続されている。
【0053】
このような構成からなるNO回収装置10では、充填塔11内において生成しHNO排出管16を介して回収されるHNO水溶液が、ポンプ19によりHNO環流管18を介して充填塔11の上部に環流され、HO供給管15からの水とともに充填塔11内に供給される。また、HNO水溶液は、ポンプ19に接続された制御部により、HO供給管15から供給されるNOガス吸収用の水の流量に対して30〜70%となるように供給流量が制御され、充填塔11内に供給される。
【0054】
以上のように、本実施の形態に係るNOガスの回収方法によれば、NOガス吸収用の水に加えて、充填塔11の底部から回収されるHNO水溶液を所定の割合で供給することにより、NOガスの吸収反応により局所的に発熱が激しくなった場合でも、その発熱により充填塔11の温度上昇を抑制、緩和することができる。これにより、充填塔11や充填材12を構成する金属成分等が発熱によって溶出し、生成されるHNO水溶液を着色させることを防止することができる。
【0055】
また、本実施の形態に係るNOガスの回収方法は、局所的な冷却を強化することによって温度上昇を抑制するというものではないため、過度な冷却によるNOガスのHNO水溶液としての回収率の低減を防止し、効果的にNOガスを回収することができる。さらに、充填塔11における発熱箇所を特定することや、各箇所の温度を検出して特定の箇所の冷却を強化するために温度制御手段等により逐一制御するといったことを行うことなく、効率的にNOガスを回収することができる。
【0056】
さらに、NOガス吸収用の水の供給量を増加させて冷却する必要もないため、所望とするHNO濃度よりも低い濃度のHNO水溶液が生成されてしまうことを防止することができ、濃度調整の機構を新たに追加する必要もなく、効果的かつ効率的にNOガスを回収することができる。
【0057】
なお、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0058】
例えば、上述した実施の形態において説明したNO回収装置10に付帯させる装置としては重窒素濃縮製造装置20に限られるものではなく、NOガスを発生する装置であれば本発明に係るNOガスの回収方法を適用することができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【0060】
本実施例においては、充填塔11の上部から、二酸化窒素(NO)ガス回収用の水とともに、その水の流量に対して所定割合の流量で、充填塔11底部より流出したHNO水溶液を供給し、回収されたHNO水溶液の性質について調べた。
【0061】
具体的には、本実施例では、内径57mm×長さ4000mmで外部ジャケットを備えたステンレス管(SUS304)を充填塔11として用いた。この充填塔11の内部には、充填材12として6mmマクマホンパッキング(SUS304)を充填した。
【0062】
上述した充填塔11の下部には、NO供給口13を設け、このNO供給口13からNOガスを6.0L/minで供給し、充填塔11下部に設けた空気供給口14からNO酸化用の空気を23.0L/minで供給した。また、充填塔11の塔頂部に設けたHO供給管15から、NOガス吸収用の水を20.5ml/minで供給した。
【0063】
また、NOガス吸収用の水を供給するとともに、充填塔11底部よりHNO排出管16から得られたHNO水溶液を、HNO排出管16から分岐したHNO環流管18を介して充填塔11の塔頂部に環流させ、その塔頂部から下記のサンプル1〜6に示す所定の割合で供給した。
【0064】
また、充填塔11に設けた温度制御手段である外部ジャケット17には、温度30℃の水を供給した。
【0065】
以上の操作により、回収したHNO水溶液について、着色状態のほか、ステンレスの成分である鉄(Fe)の分析を行った。この分析結果より、HNO水溶液に着色やFeの検出が確認されない場合、HNO水溶液の生成反応に伴う局所的な発熱が生じた場合でも、充填塔11や充填材12を構成する金属成分が溶出しなかったものと評価できる。すなわち、充填塔11内において局所的な発熱が生じた場合でも、その発熱による充填塔11内の温度上昇を効果的に抑制、緩和できたものを評価することができる。
【0066】
(サンプル1)
サンプル1として、充填塔11底部より得られたHNO水溶液の供給量を6.5ml/minとしてNOガスの回収を行った。なお、このHNO水溶液の供給量は、水の供給量に対して32%に相当する。
【0067】
(サンプル2)
サンプル2として、充填塔11底部より得られたHNO水溶液の供給量を10.0ml/minとしてNOガスの回収を行った。なお、このHNO水溶液の供給量は、水の供給量に対して49%に相当する。
【0068】
(サンプル3)
サンプル3として、充填塔11底部より得られたHNO水溶液の供給量を14.0ml/minとしてNOガスの回収を行った。なお、このHNO水溶液の供給量は、水の供給量に対して68%に相当する。
【0069】
(サンプル4)
サンプル4として、充填塔11底部より得られたHNO水溶液を供給しない状態でNOガスの回収を行った。
【0070】
(サンプル5)
サンプル5として、充填塔11底部より得られたHNO水溶液の供給量を5.0ml/minとしてNOガスの回収を行った。なお、このHNO水溶液の供給量は、水の供給量に対して24%に相当する。
【0071】
(サンプル6)
サンプル6として、充填塔11底部より得られたHNO水溶液の供給量を15.0ml/minとしてNOガスの回収を行った。なお、このHNO水溶液の供給量は、水の供給量に対して73%に相当する。
【0072】
下記の表1に、上述した各サンプルの測定結果を示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1の結果から判るように、充填塔11底部より得られたHNO水溶液の一部をNOガス吸収用に供給する水の流量に対して、32%、49%、68%に相当する流量でそれぞれ供給したサンプル1〜3では、充填塔11により回収したHNO水溶液に着色は見られなかった。また、HNO水溶液中におけるFeの検出値は、検出下限(5ppm)未満であった。
【0075】
これらサンプル1〜3では、生成したHNO水溶液を所定の割合でNOガス吸収用の水とともに供給したことにより、充填塔11内における局所的な温度上昇を効果的に抑制することができたため、金属成分であるFeの溶出を防ぐことができたと考えられる。
【0076】
一方で、充填塔11底部より流出するHNO水溶液を供給しなかったサンプル4、並びに充填塔11底部より得られたHNO水溶液の一部をNOガス吸収用に供給する水の流量に対して24%に相当する流量で供給したサンプル5では、充填塔11により回収したHNO水溶液に充填塔11を構成する部材の金属成分の溶出による着色(青色)が見られた。HNO水溶液中におけるFeの検出値は、サンプル4では1800ppmにも及び、サンプル5では650ppmにも及んだ。
【0077】
また、充填塔11底部より得られたHNO水溶液の一部をNOガス吸収用に供給する水の流量に対して73%に相当する流量で供給したサンプル6では、回収したHNO水溶液に充填塔11を構成する部材の金属成分の溶出による着色はなかったものの、NOガスが十分に吸収されずに充填塔11の底部から流出したために黄色い着色が見られた。
【0078】
以上のことから、充填塔11の上部から、NOガス吸収用の水とともに、その水の流量の30〜70%の割合に相当する流量で充填塔11の底部から回収して得られたHNO水溶液の一部を充填塔11の上部から供給することにより、充填塔11内の一部でNOガスの吸収反応が激しく起こり、局所的に発熱が激しくなった場合でも、この現象による温度上昇を抑制、緩和することができ、充填塔11を構成する部材の金属成分の溶出によって回収するHNO水溶液の着色を防止できることが判った。
【符号の説明】
【0079】
10 NO回収装置、11 充填塔、12 充填材、13 NO供給口(NO取込口)、14 空気供給口、15 HO供給管、16 HNO排出管、17 外部ジャケット、17in 外部ジャケット水供給口、17out 外部ジャケット水排出口、18 HNO環流管、19 ポンプ、20 重窒素濃縮製造装置、20a 交換塔、20b 還流塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填塔からなる回収装置により、一酸化窒素ガスを酸化して得られた二酸化窒素ガスを水で吸収し硝酸水溶液として回収する一酸化窒素ガスの回収方法において、
上記二酸化窒素ガスを吸収するための水とともに、該水の流量の30〜70%に相当する流量で、上記充填塔から回収された硝酸水溶液を該充填塔の上部から供給することを特徴とする一酸化窒素ガスの回収方法。
【請求項2】
上記充填塔には、外部ジャケットが設けられていることを特徴とする請求項1記載の一酸化窒素ガスの回収方法。
【請求項3】
充填塔からなり、一酸化窒素ガスを酸化して得られた二酸化窒素ガスを水で吸収し硝酸水溶液として回収する一酸化窒素ガスの回収装置において、
上記充填塔にて生成され該充填塔下部から流出した硝酸水溶液を、ポンプにより該充填塔上部に環流し、該充填塔内に供給する環流管と、
上記環流管を介して上記充填塔内に供給する硝酸水溶液の供給量を制御する制御部とを備え、
上記制御部は、上記二酸化窒素ガスを吸収する水の流量の30〜70%に相当する流量で、上記硝酸水溶液を上記充填塔内に供給するように制御することを特徴とする一酸化窒素ガスの回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−121745(P2012−121745A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272203(P2010−272203)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】