説明

三次元空間搬送装置及び三次元空間搬送方法

【課題】少ない操作ボタンでオペレータに東西南北上下の6方向を意識させないで搬送装置を操作することができる三次元搬送装置を提供する。
【解決手段】本発明は、搬送対象物を保持して三次元空間において搬送する保持搬送部を有する装置本体部を備え、操作部からの命令に基づいて保持搬送部を三次元空間内において移動させる三次元空間搬送装置である。装置本体部に、保持搬送部をそれぞれ独立してX、Y、Z軸方向へ移動させるための三つのモータ21〜23が設けられるとともに、操作ペンダント9に、操作部本体の位置情報及び傾斜情報を検出するための3軸式の電子コンパスセンサー回路11と、装置本体部の三つのモータ21〜23を動作させるための少なくとも一つの操作スイッチとが設けられ、電子コンパスセンサー回路11にて検出された情報に基づいて三つのモータ21〜23を動作させるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば天井走行クレーンのような三次元空間搬送装置を用いて搬送対象物を搬送する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、代表的な三次元空間搬送装置として天井走行クレーンが用いられている。
例えば、図10に示すように、従来の天井走行クレーン101は、建物の内部に平行に敷設された走行レール102上を車輪103を介して走行する一対のサドル104間に直線状のクレーンガーダ105を架け渡し、このクレーンガーダ105に移動可能な巻上機106を移動可能に装着して構成されている。
【0003】
この巻上機106には、巻上用支持体107としてワイヤロープを用いた電気ホイストやロードチェーンを用いた電気チェーンブロック等が使用され、巻上機106から垂下されたフック108に、搬送物(図示せず)に掛回した玉掛用具を掛けて吊り上げ、操作ペンダント109からの指令によって、巻上機106を建物の任意の位置に移動させて搬送作業を行う。
【0004】
このようなクレーンの操作は、一般的には、図11(a)又は図11(b)に示すような有線式又は無線式の操作ペンダント109A、109Bに、東・西・南・北・上・下の6個の押しボタン110〜115を配置し、各押しボタン110〜115を順次押すことにより行われているが、不慣れなオペレータにとっては、クレーンの動作方向と操作ペンダント109A、109Bの東・西・南・北の押しボタン110〜113がどのように対応しているのか非常に分かりづらい。
【0005】
従来技術において、操作ペンダント109の押しボタン110〜115とクレーン動作方向との対応が不明の場合は、東・西・南・北何れかの押しボタン110〜113を試し押して、まず各ボタン押下によってクレーンの動作方向を確認した後、本作業に入るため、迅速な作業ができないという問題があった。
【0006】
また、クレーン等を長期にわたって使用した場合、このような操作用のボタンに油等の汚れが付着したり、ボタン本体に刻印してある文字が掠れて判別しづらくなるという問題もあった。
これらの問題点を解決するため、下記特許文献1及び特許文献2に示すような技術も提案されている。
【0007】
特許文献1及び特許文献2に記載されたものでは、共にオペレータに東西南北の方向を意識させないでクレーンを使用できるようにしているが、次のような問題点がある。
特許文献1では、有線式の操作ペンダントが提案されている。この有線式の操作ペンダントを使用した装置は、水平方向の検出にアブソリュート式エンコーダを用いて、現在操作ペンダントの方向を検出するようにしているが、有線式であるため、操作ペンダントの接続ケーブルが搬送物に干渉し煩わしい。
【0008】
さらに、この特許文献1に係る装置では、磁気センサーと圧電ジャイロを使って水平方向の方位角を検出する制御方式を採用している。この方式では、磁気センサーで検出した方位を基準とし、その基準方位角に、圧電ジャイロからの角速度値を時間積分して、加算し方位角を算出していると考えられる。しかし、この制御方式では、次のような問題が考えられる。
【0009】
(1)圧電ジャイロからのアナログ角速度値をアナログ/デジタル(A/D)変換して、マイコン等によって読み込み、積分(加算)処理した場合、使用時間と共にA/D変換時の量子化誤差による累積誤差が大きくなるため、正確な方位を検出することができなくなる。また、圧電ジャイロの角速度値は熱によって大きな温度ドリフトが発生するため、積分計算によって算出した方位角の精度はさらに悪化する。
【0010】
(2)上記の累積誤差をクリアするためには、定期的に基準方位位置で基準方位の再設定操作が必要になる。このようなクリア操作を頻繁に行う必要がある装置は、オペレータにとっては極端に使い勝手が悪くなるため、運用面を考えた場合実用的ではない。このような装置であれば、既存の「東」「西」「南」「北」と記された従来の操作ペンダントの方が、基準位置の設定は不要で、しかも操作も単純で分かりやすいため、使い勝手は優れていると言える。
【0011】
一方、特許文献2には、磁気方位センサーを使って水平回転方向を検出することが記載されているが、磁気センサーをクレーンフック部、即ち搬送物の近くに実装しているため、フック部又は搬送物が磁性体の場合、磁性体の外乱磁気によって磁気センサーが影響を受けてしまい、この取付け状態では正確に水平方向を検出することができない場合があると考えられる。
【0012】
さらに上記各文献に記載の装置は、共に水平方向についてセンサーによってオペレータにクレーンの方角を意識させないようにしてはいるものの、上下方向については従来の操作ペンダントとほぼ同じ構成で、操作ペンダントの操作パネルのボタン又はスイッチ等の数もそれほど少なくなっていない。
【特許文献1】特開2007−39232号公報
【特許文献2】特開2004−67277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記問題点を解消するためになされたもので、少ない操作ボタンでオペレータに東西南北上下の6方向を意識させないで搬送装置を操作することができる三次元空間搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するためになされた請求項1記載の発明は、搬送対象物を保持して三次元空間において搬送する保持搬送部を有する装置本体部を備え、操作部からの命令に基づいて前記保持搬送部を三次元空間内において移動させる三次元空間搬送装置であって、前記装置本体部に、前記保持搬送部をそれぞれ独立して異なる3軸方向へ移動させるための三つの駆動機構が設けられるとともに、前記操作部に、当該操作部本体の位置情報及び傾斜情報を検出するための方位角・仰角センサーと、前記装置本体部の前記三つの駆動機構を動作させるための少なくとも一つの操作スイッチとが設けられ、前記方位角・仰角センサーにて検出された情報に基づいて前記三つの駆動機構を動作させるように構成されているものである。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記操作スイッチとして、前記保持搬送部を前方向へ移動させるための前進スイッチを備えるものである。
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記操作スイッチとして、前記保持搬送部を後方向へ移動させるための後進スイッチを更に備えるものである。
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項記載の発明において、前記装置本体部と、前記操作部とが、無線送受信によって情報の伝達を行うように構成されているものである。
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項記載の三次元空間搬送装置を用いて搬送対象物を搬送する方法であって、前記操作部の操作スイッチをオンすることにより、当該操作部本体の現在の方位角情報及び仰角情報を前記方位角・仰角センサーによって読み取るステップと、予め記憶した基準方位角情報と、読み取られた前記現在の方位角情報とに基づいて当該操作部本体の回転角情報を算出するステップと、前記仰角情報と前記回転角情報とに基づいて前記三つの駆動機構をそれぞれ動作させ、当該操作部本体の向けられた方向に前記保持搬送部を移動させるステップとを有するものである。
【0015】
本発明の場合、操作部の動作スイッチ(例えば前進スイッチ)をオンすることにより、当該操作部本体の現在の方位角情報及び仰角情報を前記方位角・仰角センサーによって読み取り、予め記憶した基準方位角情報と、読み取られた現在の方位角情報に基づいて操作部本体の回転角情報を算出し、得られた仰角情報と回転角情報とに基づいて三つの駆動機構をそれぞれ動作させ、操作部本体の向けられた方向に保持搬送部を移動させる。
このように、本発明によれば、操作部を操作しているオペレータは、保持搬送部を東西南方上下どの方向に動かしているのか全く意識することなく、操作部本体が向けられた方向に保持搬送部を移動させることができる。
また、本発明によれば、保持搬送部を東西南北上下の6方向に動かすのに、少なくとも操作部に1ヶの操作スイッチが装備されていれば三次元空間搬送装置を動かすことができるようになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、三次元空間搬送装置のオペレータは、三次元空間搬送装置を移動させる場合、手に持っている操作部(操作ペンダント)を三次元空間搬送装置の移動方向に向けて例えば前進ボタン(又は後進ボタン)を押すだけでよい。これにより、従来の三次元空間搬送装置のように、操作ペンダントに配置された複数のモータ駆動ボタンと、装置が設置されている東西南北上下の6方向を対応させてボタン操作をする必要がなくなるため、ボタン操作に不慣れなオペレータでも操作ボタン表示を見て確認することなく、作業を容易かつ迅速に行うことができる。
【0017】
また、本発明によれば、操作部の操作ボタンを見ることなく三次元空間搬送装置を操作することができるため、作業を安全に行うことができる。
さらに、操作部に配置するスイッチ数を少なくすることができるため、操作ペンダントを安価に、さらに軽く、また小さく製作することができる。その結果、従来の操作ペンダントと比較すると、本発明による操作ペンダントを長時間持って作業を行っても、作業者の疲労度が少なくなるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る三次元空間搬送装置の実施の形態の外観構成を示す斜視図である。
図1に示すように、本実施の形態の天井走行クレーン(三次元空間搬送装置)1は、建物の内部に平行に敷設された走行レール2上を車輪3を介して走行する一対のサドル4間に直線状のクレーンガーダ5を架け渡し、このクレーンガーダ5に移動可能な巻上機6を移動可能に装着して構成されている。
この巻上機6には、巻上用支持体7としてワイヤロープを用いた電気ホイストやロードチェーンを用いた電気チェーンブロック等が使用される。
【0019】
そして、操作ペンダント9(操作部)からの無線による指令によって、巻上機6から垂下されたフック(保持搬送部)8に、搬送物(図示せず)に掛回した玉掛用具を掛けて吊り上げ、この状態で巻上機6を三次元空間の任意の位置に移動させるようになっている。
【0020】
図2(a)は、本実施の形態の無線操作ペンダントの回路構成を示すブロック図である。
図2(a)に示すように、本実施の形態における無線操作ペンダントの回路部10は、操作ペンダント9の向けられた方向(方位角、仰角)を検出する電子コンパスセンサー回路11と、設置した三次元空間搬送装置の磁北に対する方位角データを格納しておく基準座標記憶回路12と、後述する各種ボタン操作情報を管理するボタン操作管理回路13と、モータ駆動命令を無線送信出力する無線送信回路14と、上述の各回路全体を制御する操作ペンダント制御回路15とを有している。
【0021】
ここで、電子コンパスセンサー回路11は、図示しない方位角・仰角センサーを有し、この方位角・仰角センサーにて検出された操作ペンダント9の方位角データ及び仰角データを操作ペンダント制御回路15に対して送出するようになっている。
【0022】
基準座標記憶回路12は、設置した三次元空間搬送装置の磁北に対する方位角データ、即ち基準方位角データを操作ペンダント制御回路15から受け取り、また操作ペンダント制御回路15に対して送出する。
無線送信回路14は、モータ駆動命令を受け取り、これを送信アンテナ16から三次元空間搬送装置の装置本体側の回路部20に対して無線送信出力する。
【0023】
図2(b)は、本実施の形態の三次元空間搬送装置本体の回路構成を示すブロック図である。
図2(b)に示すように、本実施の形態の搬送装置本体側の回路部20は、走行(X)軸、横行(Y)軸、上下(Z)軸毎に取り付けられたX軸モータ21、Y軸モータ22及びZ軸モータ23と、これら各モータ21〜23を駆動するX軸モータ駆動回路24、Y軸モータ駆動回路25、Z軸モータ駆動回路26とを有している。
【0024】
また、搬送装置本体側の回路部20は、操作ペンダント9から無線送信されたモータ駆動命令データを受信する無線受信回路27と、無線受信回路27から入力されたモータ駆動命令に基づいてX軸〜Z軸駆動回路24〜26を制御するモータ制御回路28とを有している。
【0025】
図3(a)〜(c)は、本発明における操作ペンダントの例を示す外観構成図である。
図3(a)に示す操作ペンダント9Aにおいては、ペンダント本体31に、電源入ボタン32、電源切ボタン33、前進ボタン34、座標教示ボタン35が設けられている。
これら電源入ボタン32、電源切ボタン33、前進ボタン34、座標教示ボタン35は、それぞれ上記ボタン操作管理回路13に接続されている。
【0026】
本実施の形態の場合、電源入ボタン32を押すと、操作ペンダント9Aの電源がオンする。また、電源切ボタン33を押すと、操作ペンダント9Aの電源がオフする。さらに、前進ボタン34を押すと、後述するように、操作ペンダント9A(ペンダント本体31)の向けられた方向に保持搬送部であるフック8が動作する。
【0027】
一方、座標教示ボタン35は、三次元空間搬送装置の設置方向と、操作ペンダント9Aによる操作方向を一致させるときに使用する。座標教示ボタン35は通常の操作では使用しないため、座標教示を行わない場合は、ボタンカバー36等を被せておくと誤操作を防止することができる。
【0028】
図3(b)に示す操作ペンダント9Bにおいては、ペンダント本体31に、上述した機能を有する電源入ボタン32、電源切ボタン33、前進ボタン34、座標教示ボタン35に加えて後進ボタン37が設けられている。
【0029】
これら電源入ボタン32、電源切ボタン33、前進ボタン34、後進ボタン37、座標教示ボタン35は、上述したボタン操作管理回路13に接続されている。
ここで、後進ボタン37を押すと、操作ペンダント9B(ペンダント本体31)の向けられた方向と反対方向に保持搬送部であるフック8が動作する。
【0030】
図3(c)に示す操作ペンダント9Cにおいては、ペンダント本体31に、上述した機能を有する電源入ボタン32、電源切ボタン33、前進ボタン34、後進ボタン37が設けられており、図3(b)に示す操作ペンダントから座標教示ボタン35が省略されている。
【0031】
本実施の形態においては、例えば、前進ボタン34と後進ボタン37を同時に押すことにより、図3(a)(b)に示す操作ペンダント9Bの座標教示ボタン35と同等の機能を実行するように構成されている。
【0032】
図4は、本発明における、操作ペンダントと、磁北と走行(X)軸基準方位角θbの関係と基準座標の教示方法についての説明図である。
ここでは、図3(a)に示す操作ペンダント9Aを例にとって説明する。
【0033】
図4において、三次元空間搬送装置の操作ペンダント9Aを、設置した同装置の走行(X)軸の+方向に向ける。
この状態で操作ペンダント9Aの座標教示ボタン35を押すと、操作ペンダント9Aの制御回路15が、ボタン操作管理回路13によって座標教示ボタン35が押下されたことを確認し、この時点における操作ペンダント9Aの基準方位角データθb(θbは磁北に対する走行(X)軸の方位角)を電子コンパスセンサー回路11から読み出し、このデータを基準座標記憶回路12に格納する。
【0034】
図5は、本発明における、操作ペンダントのX軸方位角θb、現在方位角θm、方向角θc、仰角φmの関係を示す説明図、図6は、操作ペンダントの回転角θcとXY軸方向のモータ駆動命令発行エリアの設定を示す説明図である。
また、図7は、操作ペンダントの仰角φmとZ軸方向のモータ駆動命令発行エリアの設定を示す説明図、図8は、操作ペンダントにおける前進ボタンを押した場合の各軸モータ駆動命令発行時の制御フロー図である。
【0035】
以下、図5〜図8を用い、例えば、操作ペンダント9A〜9Cの前進ボタン34が押下されたときの回路動作について説明する(説明の都合上操作ペンダント9とする)。
操作ペンダント9の前進ボタン34が押されると(ステップS1)、制御回路15は、このときの操作ペンダント9の方位角θmと仰角φmを電子コンパスセンサー回路11から読み出す(ステップS2)。
【0036】
この場合、操作ペンダント9が走行(X)軸に対してどの程度回転しているのかを示す方向角θc(方向角は、X軸に対して反時計回り方向の角度)を、基準座標記憶回路12に格納された基準方位角データθbと、前記方位角θmを用いて次式で算出する(ステップS3)。
【0037】
θc = θb−θm・・・式(1)
そして、式(1)で算出した方向角θcと、電子コンパスセンサー回路11から読み込んだ仰角φmに基づいて、以下に説明するように、XYZ軸についてのモータ駆動命令を発行する。
【0038】
本実施の形態では、上述した仰角φm(−90°〜+90°)が+45°以上の場合は、図7に従い、Z(上下)軸モータ23に対する+方向への駆動命令を発行し(ステップS4、S5)、逆に仰角φmが−45°以下の場合は、Z(上下)軸モータ23に対する−方向への駆動命令を発行する(ステップS6、S7)。
【0039】
次に、仰角φm(検出範囲−90°〜+90°)が+45°より小さく、かつ、−45°より大きい場合は、図6に従い、X軸モータ駆動回路24又はY軸モータ駆動回路25に対して駆動命令を発行する。
【0040】
ここで、方向角θcがX(走行)軸に対して−45°〜+45°の範囲にある場合には、X軸モータ駆動回路24に対する+方向への駆動命令を発行し(ステップS8、S9)、方向角θcが+135°〜+225°の範囲にある場合は、X軸モータ駆動回路24に対する−方向への駆動命令を発行する(ステップS10、S11)。
【0041】
さらに、方向角θcが+45°より大きく、かつ、+135°より小さい場合は、Y軸モータ駆動回路25に対する+方向への駆動命令を発行し(ステップS12、S13)、また、方向角θcが+225°より大きく、かつ、+315°より小さい場合は、Y軸モータ駆動回路25に対する−方向への駆動命令を発行する(ステップS14、S15)。
【0042】
図9は、操作ペンダントにおける後進ボタンを押した場合の各軸モータ駆動命令発行時の制御フロー図である。
この場合は、前進ボタン34を押した場合と仰角φm及び方向角θcを用いた判断方法は同じであるが、各モータ21〜23への駆動命令は、前進ボタン34を押した場合と逆方向へのモータ駆動命令を発行している。
【0043】
なお、操作ペンダント9に後進ボタン37を装備した場合、操作ペンダント9のボタン数は増えるが、操作ペンダント9の向きを変えなくても逆方向へ動かすことが可能になり、作業によっては操作し易くなる場合がある。
【0044】
本例において、操作ペンダント9の後進ボタン37が押されると(ステップS1)、制御回路15は、このときの操作ペンダント9の方位角θmと仰角φmを電子コンパスセンサー回路11から読み出す(ステップS2)。
【0045】
そして、上記基準座標記憶回路12に格納された基準方位角データθbと、上記方位角θmを用い、上記式(1)によって方向角θcを算出する(ステップS3)。
そして、式(1)で算出した方向角θcと、電子コンパスセンサー回路11から読み込んだ仰角φmに基づいて、以下に説明するように、XYZ軸についてのモータ駆動命令を発行する。
【0046】
本実施の形態では、上述した仰角φm(−90°〜+90°)が+45°以上の場合は、図7に従い、Z(上下)軸モータ23に対する−方向への駆動命令を発行し(ステップS4、S5)、逆に仰角φmが−45°以下の場合は、Z(上下)軸モータ23に対する+方向への駆動命令を発行する(ステップS6、S7)。
【0047】
次に、仰角φm(検出範囲−90°〜+90°)が+45°以下で、かつ、−45°以下の場合は、図6に従い、X軸モータ駆動回路24又はY軸モータ駆動回路25に対して駆動命令を発行する。
【0048】
ここで、方向角θcがX(走行)軸に対して−45°以上で、かつ、+45°以下の場合には、X軸モータ駆動回路24に対する−方向への駆動命令を発行し(ステップS8、S9)、方向角θcが+135°以上で、かつ、+225°以下の場合は、X軸モータ駆動回路24に対する+方向への駆動命令を発行する(ステップS10、S11)。
【0049】
さらに、方向角θcが+45°より大きく、かつ、+135°より小さい場合は、Y軸モータ駆動回路25に対する−方向への駆動命令を発行し(ステップS12、S13)、また、方向角θcが+225°より大きく、かつ、+315°より小さい場合は、Y軸モータ駆動回路25に対する+方向への駆動命令を発行する(ステップS14、S15)。
【0050】
以上述べたように本実施の形態によれば、三次元空間搬送装置のオペレータは、三次元空間搬送装置を動作させる場合、手に持っている操作ペンダント9を三次元空間搬送装置の保持搬送部の移動方向に向けて例えば前進ボタン34(又は後進ボタン37)を押すだけでよい。
【0051】
これにより、従来の三次元空間搬送装置のように、操作ペンダントに配置された複数のモータ駆動ボタンと、装置が設置されている東西南北上下の6方向を対応させてボタン操作をする必要がなくなるため、ボタン操作に不慣れなオペレータでも操作ボタン表示を見て確認することなく、作業を容易かつ迅速に行うことができる。
【0052】
また、本実施の形態によれば、操作ペンダント9の操作ボタンを見ることなく三次元空間搬送装置を操作することができるため、作業を安全に行うことができる。
さらに、操作ペンダント9に配置するボタン数を少なくすることができるため、操作ペンダントを安価に、さらに軽く、また小さく製作することができる。その結果、従来の操作ペンダントと比べ、操作ペンダント9を長時間持って作業を行っても、作業者の疲労度が少なくなるという利点もある。
【0053】
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、上述の実施の形態においては、無線式操作ペンダントを用いて本発明の説明を行ったが、有線式ペンダントを使用した三次元空間搬送装置においても、本発明を適用することができる。
【0054】
本説明では、同時に駆動できる軸(モータ)を1ヶとして説明したが、複数のモータを同時に動かすようにすれば、三次元空間において直線補間制御を行うことができる。このように三次元空間を直線補間制御することにより、三次元空間搬送装置を操作ペンダントによって指示されている方向に、電子コンパスセンサー回路からの方位角、仰角情報を使って、正確に動かすことが可能になる。
【0055】
また、本発明は、天井走行クレーンのみならず、種々の三次元空間搬送装置に適用することができるものである。
さらに、上述の実施の形態では、直交軸系の三次元空間搬送装置を例にとって説明したが、本発明はこれに限られず、例えば産業用ロボットのような多関節型空間搬送装置や、円筒座標型空間搬送装置にも適用することができる。
【0056】
さらにまた、上述の実施の形態では、電子コンパスセンサーを用いて操作ペンダントの方位角情報及び仰角情報を検出するようにしたが、本発明はこれに限られず、当該操作ペンダントの位置情報を検出する位置センサーと、重力加速度を検出する加速度センサーを別々に設けることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る三次元空間搬送装置の実施の形態の外観構成を示す斜視図
【図2】(a):同実施の形態の無線操作ペンダントの回路構成を示すブロック図(b):同実施の形態の三次元空間搬送装置本体の回路構成を示すブロック図
【図3】(a)〜(c):本発明における操作ペンダントの例を示す外観構成図
【図4】磁北と走行(X)軸基準方位角θbの関係を示す説明図
【図5】操作ペンダントの基準方位角θb、現在方位角θm、方向角θc、仰角φmの関係を示す説明図
【図6】操作ペンダントの回転角θcとXY軸方向のモータ駆動命令発行エリアの設定を示す説明図
【図7】操作ペンダントの仰角φmとZ軸方向のモータ駆動命令発行エリアの設定を示す説明図
【図8】操作ペンダントにおける前進ボタンを押した場合の各軸モータ駆動命令発行時の制御フロー図
【図9】操作ペンダントにおける後進ボタンを押した場合の各軸モータ駆動命令発行時の制御フロー図
【図10】従来の三次元空間搬送装置として天井走行クレーンの外観構成を示す斜視図
【図11】(a)(b):従来技術における操作ペンダントの例を示す外観構成図
【符号の説明】
【0058】
1…天井走行クレーン(三次元空間搬送装置)
2…走行レール
5…クレーンガーダ
6…巻上機
8…フック(保持搬送部)
9…操作ペンダント(操作部)
10…無線操作ペンダントの回路部
20…搬送装置本体側の回路部
31…ペンダント本体(操作部本体)
34…前進ボタン(操作スイッチ)
37…後進ボタン(操作スイッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送対象物を保持して三次元空間において搬送する保持搬送部を有する装置本体部を備え、操作部からの命令に基づいて前記保持搬送部を三次元空間内において移動させる三次元空間搬送装置であって、
前記装置本体部に、前記保持搬送部をそれぞれ独立して異なる3軸方向へ移動させるための三つの駆動機構が設けられるとともに、
前記操作部に、当該操作部本体の方位角情報及び仰角情報を検出するための方位角・仰角センサーと、前記装置本体部の前記三つの駆動機構を動作させるための少なくとも一つの操作スイッチとが設けられ、
前記方位角・仰角センサーにて検出された情報に基づいて前記三つの駆動機構を動作させるように構成されている三次元空間搬送装置。
【請求項2】
前記操作スイッチとして、前記保持搬送部を前方向へ移動させるための前進スイッチを備える請求項1記載の三次元空間搬送装置。
【請求項3】
前記操作スイッチとして、前記保持搬送部を後方向へ移動させるための後進スイッチを更に備える請求項2記載の三次元空間搬送装置。
【請求項4】
前記装置本体部と、前記操作部とが、無線送受信によって情報の伝達を行うように構成されている請求項1乃至3のいずれか1項記載の三次元空間搬送装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の三次元空間搬送装置を用いて搬送対象物を搬送する方法であって、
前記操作部の操作スイッチをオンすることにより、当該操作部本体の現在の方位角情報及び仰角情報を前記方位角・仰角センサーによって読み取るステップと、
予め記憶した基準方位角情報と、読み取られた前記現在の方位角情報とに基づいて当該操作部本体の回転角情報を算出するステップと、
前記仰角情報と前記回転角情報とに基づいて前記三つの駆動機構をそれぞれ動作させ、当該操作部本体の向けられた方向に前記保持搬送部を移動させるステップとを有する三次元空間搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−23753(P2009−23753A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186484(P2007−186484)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000110022)トーヨーコーケン株式会社 (19)
【Fターム(参考)】