説明

三次元造形方法

【課題】表面に孔及び/又は溝が形成されている造形対象物に対する三次元造形において、孔及び/又は溝の周辺における切削表面の破壊を伴わずに、効率的な切削加工を可能とする構成を提供すること。
【解決手段】表面に孔及び/又は溝が形成されている造形対象物2に対する回転工具3による三次元造形において、工具3が移動する二次元平面に孔及び/又は溝の形成領域4が存在する場合に、当該領域4における軌跡1を当該領域4の両外側に位置している軌跡1と同一の高さレベルを維持した状態にて連続して設定する一方、CADシステム又はCAMシステムによって、前記軌跡1を設定することに基づき、前記課題を達成し得る三次元造形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に孔及び/又は溝が形成されている造形対象物の各高さ位置に応じて、二次元平面における閉ループを形成している工具の回転中心部又は工具の当該造形対象物に対する接触位置が移動する複数個の軌跡を外側から内側に向けて設定し、当該複数個の軌跡に沿って工具の回転中心を移動しながら切削を行うことによる三次元造形において、前記孔及び/又は溝が形成されている領域における軌跡の設定に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面に孔及び/又は溝が形成されている造形対象物に対する三次元造形においては、必然的に造形の対象となる表面に孔及び/又は溝形成領域が出現することになる。
【0003】
従来においては、孔及び/又は溝の形成領域4は本来切削の対象ではないために、図6に示すように、前記領域4外から当該領域4内に突入した段階において前記工具3の高さ位置を変更することによって造形対象物2に対する切削状態から離脱させたうえで、当該領域4を跨る状態にて工具3を移動させた後、前記領域4内から再び当該領域4外に突入する段階において、回転状態にある工具3を再び移動の基準となる軌跡1の位置に戻したうえで切削を継続するという作業を余議なくされている(尚、図6は溝ではなく孔の場合を示す。)。
【0004】
しかしながら、前記のような工具3の高さ位置を変更することによる離脱状態を設定する作業は極めて煩雑であり、しかも、切削効率を著しく減殺させている。
【0005】
従来技術においては、このような孔及び/又は溝の存在による切削効率の減殺を解決しようとする基本的発想が全く見当たらない。
【0006】
因みに、立体成形方法及びその装置を対象としている特許文献1においては、造形表面に孔及び/又は溝を設けた場合には、その後更なる加工を要しないような成形方法を提唱しているが、工具3による切削を前提とする三次元造形において特許文献1のようなプロセスを採用した場合には、常に切削の後に孔及び/又は溝の加工を行うことにならざるを得ない。
【0007】
しかしながら、切削によって表面加工を行った後に孔及び/又は溝を成形することによって当該孔及び/又は溝の周辺において切削によって形成された円滑な表面が破壊されるという弊害を免れることができない。
【0008】
このように、従前の技術の状況及び特許文献1のような提唱内容からも明らかなように、表面に孔及び/又は溝が形成されている造形対象物に対する切削加工を伴う三次元造形において、孔及び/又は溝の周辺における切削表面の破壊を伴わずに、効率的な切削加工を可能とする造形方法はこれまで提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−127251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、表面に孔及び/又は溝が形成されている造形対象物に対する三次元造形において、孔及び/又は溝の周辺における切削表面の破壊を伴わずに、効率的な切削加工を可能とする構成を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明の基本構成は、
(1)表面に孔及び/又は溝が形成されている造形対象物の各高さ位置に応じて、二次元平面における閉ループを形成している工具の回転中心部又は工具の当該造形対象物に対する接触位置が移動する複数個の軌跡を外側から内側に向けて設定し、当該複数個の軌跡に沿って工具の移動によって切削を行うことによる三次元造形において、当該二次元平面に前記孔及び/又は溝が形成されている領域が存在する場合に、当該領域における軌跡を当該領域の両外側における軌跡と同一の高さレベルを維持した状態にて連続して設定している三次元造形方法、
(2)CADシステムによって予め造形対象物の二次元平面における孔及び/又は溝の形成領域を設定したうえで、CADシステム又はCAMシステムによって、前記(1)記載の軌跡を設定することによる三次元造形方法、
からなる。
【発明の効果】
【0012】
前記基本構成(1)、(2)に基づいて、本発明においては、表面に孔及び/又は溝が形成されている造形対象物に対する三次元造形において、孔及び/又は溝の周辺における切削加工表面の破壊を伴わずに、効率的な切削加工を実現可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1を説明する平面図である(尚、軌跡による矢印の方向は、工具の移動方向を示しており、かつこの点は図2、3、4においても同様である。)。
【図2】実施例2を説明する平面図である。
【図3】実施例3を説明する平面図である。
【図4】本発明の基本原理を説明しており、(a)は平面図であり、(b)は側面図である。
【図5】CAMシステムにおいて、二次元平面における孔及び/又は溝の形成領域に対応する軌跡を設定するソフトウエアの作成を説明しており、(a)は前記ソフトウエアのベースとなるフローチャートを示しており、(b)は前記フローチャートに対応する平面図である。
【図6】従来技術において、工具が移動する高さ位置を変更することによって、切削状態から離脱し、再び切削状態に戻る状態を説明している側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前記基本構成(1)においては、更に効率的に三次元造形を実現する切削に際し、図4(a)、(b)に示すように、回転している工具3の移動軌跡1を孔及び/又は溝の形成領域4と当該領域4以外の領域における高さ位置を同一レベルに維持したうえで、前記領域4外に設定されている軌跡1と連続した軌跡1を作成し、従来技術のように、当該領域4から離脱し、全く異なる高さレベルに変更したうえで、前記領域4を跨った状態にて移動させ、再び移動の基準となる軌跡1に戻るような煩雑な作業をしないで済む点において基本的特色を有している(尚、図4は孔ではなく溝の場合を示す。)。
【0015】
即ち、孔及び/又は溝の形成領域4という履歴の有無に拘らず、当該領域4の両外側に位置している軌跡1と同一高さレベルを維持した状態にて接続した軌跡1を設定することによって、本発明は、作業の効率化を実現している。
尚、前記領域4内の軌跡1においては、必然的に工具3は切削を伴わない空転を行うことになる。
【0016】
孔及び/又は溝の形成領域4外の両側の軌跡1と接続する当該領域4内の軌跡1の典型例は、各実施例において後述するとおりである。
但し、孔及び/又は溝の形成領域4は本来切削が行われていない以上、当該領域4における軌跡1の形態は特に限定されている訳ではなく、しかも加工製品20にその表面に対応する最終段階の移動に際しても、加工表面の形状に拘束される必要はない。
【0017】
したがって、孔及び/又は溝の形成領域4内における軌跡1は、本来任意の形状に設定することができる。
【0018】
しかしながら、全体の作業効率を考慮するならば、孔及び/又は溝の形成領域4内における軌跡1は、当該領域4の両外側に位置している軌跡1の方向を大幅に変更せず、しかも前記領域4内における軌跡1の長さを不用に大きく設定しないことが好ましいことは言うまでもない。
【0019】
前記基本構成(2)は、造形対象物2において、CADシステムが設定した二次元平面における孔及び/又は溝の形成領域4の存在を前提としたうえで、前記基本構成(1)の軌跡1をCADシステム又はCAMシステムによって設定することによって、更に効率的に三次元造形を行うことに基本的特色を有している。
【0020】
即ち、孔及び/又は溝の形成領域4の有無に拘らず、工具3が移動する基本構成(1)の軌跡1をCADシステム又はCAMシステムが設定することによって三次元造形の自動化を一層促進していることを基本的特徴としている。
【0021】
孔及び/又は溝の形成領域4の軌跡1については実施例1、2、3において後述するように、特定の形態を選択する場合がある。
【0022】
前記のような特定の形態を選択する場合には、図5(a)のフローチャート及び当該フローチャートに対応する図5(b)の平面図に示すように、
(イ).二次元平面における孔及び/又は溝の形成領域4の表面における入口から当該表面から内部に食い込んだ底部に至るまでの両側の境界線に関する2個の直線方程式の設定(コンピュータメモリに設けられている(x、y)座標におけるy=ax+b、y=ax+bにおける各係数のa、a、並びにb、bの設定)、
(ロ).孔及び/又は溝の形成領域4外の両側に位置しかつ既に設定されている軌跡1の座標のうち、上記(イ)によって設定された2個の直線方程式に最も近い位置にある2個の座標の選択(両側に位置している軌跡1上の座標(x、y)のうち、yとa+bとの差、及びyとa+bとの差がそれぞれ所定の精度範囲となるような2個の座標(x、y)及び(x、y)の選択(図5(a)のフローチャートにおいては、i、jの初期値をそれぞれI、Jとしたうえで、前記精度範囲を充足するようなi、jにつきi=0とし、j=mと設定している。軌跡1が所定の微細な距離による座標単位によって構成されていることを前提とした場合、フローチャートにおけるI→i−1、J→j−1の変化は既に設定されている軌跡1において個別の座標単位毎に直線方程式y=ax+b及びy=ax+bに近付いて行くことを意味している。前記初期値Iは直線方程式y=a1x+b上の位置又はその近傍から所定の距離だけ離れた位置において、当該距離を形成するために必要な座標単位の数を選択しており、前記初期値Jは直線方程式y=ax+b上の位置又はその近傍から所定の距離だけ離れた位置において、当該距離を形成するために必要な座標単位の数にxを加えた数値を選択している。尚、mに基づく座標(x、y)は、次の(ニ)において後述する座標(x、y)に隣接する位置にあるが、当該mはあくまで座標を表示するための符号の数値である以上、任意の数を選択することができる。)、
(ハ).孔及び/又は溝の形成領域4内における軌跡1の基本的形状を規定する函数f(x)を選択すると共に、y=Af(x)+Bという各係数A、及びBを設定し、前記(ロ)によって選択された2個の座標位置(x、y)、及び(x、y)に基づく前記係数A、Bの特定(y=Af(x)+B、及びy=Af(x)+Bを充足するようなA、Bを設定)、
(ニ).2個の座標(x、y)、及び(x、y)の間にあるn個の座標(x、y)、・・・(x、y)、・・・(x、y)についてそれぞれy=Af(x)+Bの算出によって、各座標(x、y)の設定(図5(a)のフローチャートにおいては、孔及び/又は溝の形成領域4内における軌跡1につき、x軸を基準とする座標単位を設定しており、k→k+1は1個の座標単位だけy=Af(x)+Bの方程式の軌跡1によって、個別の座標単位毎に順次位置が移動していることを意味している。)、
という作動順序によって孔及び/又は溝の形成領域4内の軌跡1を設定することができる。
【0023】
前記函数f(x)は、一般式によって表現され得る場合と一般式によって表現され
得ず、個別の値xに対し個別の値yをデータとして記録している場合の双方が存在する。
【0024】
前記(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)のような作動命令をCAMシステムが有しているコンピュータに対し作動命令データとして入力することによって前記フローチャートに基づくプログラムを作成することができる。
【0025】
そして、前記プログラムを作成した場合には、二次元平面において孔及び/又は溝の形成領域4外の軌跡1の設定のプログラムを前記(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)に基づくフローチャートのプログラムを連動させることによって、孔及び/又は溝の形成領域4内外における軌跡1を一体として設定することができる。
【0026】
前記(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)のフローチャートに基づくプログラムの使用を前提としたうえで、孔及び/又は溝の形成領域4内における各軌跡1の選択につき、実施例に即して説明する。
【実施例1】
【0027】
実施例1は、前記基本構成(1)として図1に示すように、孔及び/又は溝の形成領域4内外における両側に位置している境界40における軌跡1に対する接線の角度方向を境界外から境界内にそれぞれ延長し、各延長した直線同士を接合するか、又は他の直線又は曲線を介して接合することによって、当該領域4内の軌跡1を設定することを特徴としており、前記フローチャートに基づくソフトウエアによって、当該特徴に基づく軌跡1を設定している(尚図1は、延長した直線同士が接合している場合を示す。)。
【0028】
そして前記ソフトウエアは、図1に示すように、孔及び/又は溝の形成領域4の両側の境界40における軌跡1の接線による角度方向を両側の領域外から領域内に延長すると共に、両側からの延長した直線同士を接合するか、又は他の直線又は曲線を介して接合することによる形状に適合する函数f(x)を選択し、更に前記(ハ)の座標位置(x、y)及び(x、y)によってy=Af(x)+Bという一般式を設定している。
【実施例2】
【0029】
実施例2は、前記基本構成(1)として図2に示すように、孔及び/又は溝の形成領域4内外における両側に位置している境界40における軌跡1が形成している曲率半径に基づく円弧を領域外から領域内にそれぞれ延長し、各延長した円弧同士を接合するか、又は他の直線又は曲線を介して接合することによって、当該領域4内の軌跡1を設定することを特徴としており、前記フローチャートに基づくソフトウエアによって、当該特徴に基づく軌跡1を設定している(尚図2は、同一の径による円弧同士が接合している場合を示す。)。
【0030】
そして前記ソフトウエアは、図2に示すように、両側の孔及び/又は溝の形成領域4の境界40位置における軌跡1が形成している曲率半径に基づく円弧を、両側の領域以外から境界内にそれぞれ延長した円弧を相互に接合するか、又は他の直線又は曲線を介して接合することによる形状に適合するような函数f(x)を選択し、更に前記(ハ)の座標位置(x、y)及び(x、y)によってy=Af(x)+Bという一般式を設定している。
【実施例3】
【0031】
実施例3は、前記基本構成(1)として図3に示すように、孔及び/又は溝の形成領域4内外における両側に位置している境界40における軌跡1との交点を接合する直線によって、当該領域4内の軌跡1を設定することを特徴としており、前記フローチャートに基づくソフトウエアによって、当該特徴に基づく軌跡1を設定している。
【0032】
そして前記ソフトウエアは、図3に示すように両側の孔及び/又は溝の形成領域4の境界40において、当該領域4外の軌跡1を直線によって接合しており、当該直線に対応する函数f(x)を選択し、更に前記(ハ)のように座標位置(x、y)及び(x、y)によってy=Ax+Bの一般式を設定している。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、表面に孔及び/又は溝が形成されている造形対象物に対する切削を介した三次元造形の全分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 軌跡
2 造形対象物
20 加工製品
3 工具
4 二次元平面における孔及び/又は溝の形成領域
40 孔及び/又は溝の形成領域の境界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に孔及び/又は溝が形成されている造形対象物の各高さ位置に応じて、二次元平面における閉ループを形成している工具の回転中心部又は工具の当該造形対象物に対する接触位置が移動する複数個の軌跡を外側から内側に向けて設定し、当該複数個の軌跡に沿って工具の移動によって切削を行うことによる三次元造形において、当該二次元平面に前記孔及び/又は溝が形成されている領域が存在する場合に、当該領域における軌跡を当該領域の両外側における軌跡と同一の高さレベルを維持した状態にて連続して設定している三次元造形方法。
【請求項2】
孔及び/又は溝の形成領域内外における両側に位置している境界における軌跡に対する接線の角度方向を境界外から境界内にそれぞれ延長し、各延長した直線同士を接合するか、又は他の直線又は曲線を介して接合することによって、当該領域内の軌跡を設定することを特徴とする請求項1記載の三次元造形方法。
【請求項3】
孔及び/又は溝の形成領域内外における両側に位置している境界における軌跡が形成している曲率半径に基づく円弧を領域外から領域内にそれぞれ延長し、各延長した円弧同士を接合するか、又は他の直線又は曲線を介して接合することによって、当該領域内の軌跡を設定することを特徴とする請求項1記載の三次元造形方法。
【請求項4】
孔及び/又は溝の形成領域内外における両側に位置している境界における軌跡との交点を接合する直線によって、当該領域内の軌跡を設定することを特徴とする請求項1記載の三次元造形方法。
【請求項5】
CADシステムによって予め造形対象物の二次元平面における孔及び/又は溝の形成領域を設定したうえで、CADシステム又はCAMシステムによって、請求項1記載の軌跡を設定することによる三次元造形方法。
【請求項6】
CADシステム又はCAMシステムによって、孔及び/又は溝の領域以外の軌跡を予め設定すると共に、孔及び/又は溝の領域における軌跡をCAMシステムが作成したソフトウエアによって設定することを特徴とする請求項5記載の三次元造形方法。
【請求項7】
CAMシステム作成のソフトウエアによって、孔及び/又は溝の領域内における請求項2、3、4の何れか一項に記載の軌跡を設定することを特徴とする請求項6記載の三次元造形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−235401(P2011−235401A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109381(P2010−109381)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000146087)株式会社松浦機械製作所 (40)
【Fターム(参考)】