説明

三次元造形物の製造方法

【課題】均一な表面層を有し、耐キズ性や衝撃強度が高く、生産性の高い三次元造形物の製造方法、及び、この製造方法に使用する光硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】下記(i)〜(v)の工程を含むことを特徴とする、表面層を有する三次元造形物の製造方法。(i)支持体上に粉末材料を所定の厚さを有する層に形成する層形成工程、(ii)造形対象物を平行な断面で切断した断面形状になるように前記層における粉末材料を結合剤により結合させる結合工程、(iii)(i)及び(ii)の工程を順次繰り返すことによって三次元造形物を作製する作製工程、(iv)作成された三次元造形物の表面を、(1)エチレン性不飽和化合物、及び、(2)光重合開始剤、を含有する含有する光硬化性組成物により被覆する被覆工程、及び、(v)被覆した組成物を光硬化する硬化工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形物の製造方法及びこの製造方法に使用する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、立体的な造形対象物を平行な複数の面で切断した断面形状とし、各断面形状に対応させて粉末材料の薄層を結合剤により結合し、この結合された薄層よりなる断面形状を順次積層させることによって、造形対象物の三次元モデルとなる造形物を作製する技術が知られている。
このような技術は、ラピッドプロトタイピングと呼ばれ、部品試作及びデザイン確認用途などに利用することができる。
近年、安価かつ高速、さらにはカラーモデリング作製に適するインクジェットを利用する方式のものが提案されており、例えば、特許文献1〜3に開示されたものがある。この立体造形の具体的な手順を以下に説明する。
まず、ブレード機構により粉末材料を平らな表面上に均一な厚さを有する薄層に拡げ、この粉末材料の薄層表面に、インクジェットノズルヘッドを走査させて、造形対象物を平行な断面により切断した断面形状に対応させて、結合剤を吐出する。結合剤が吐出された領域の粉末材料は、必要な操作を施すことにより、粉末材料を接合状態にするとともに、既に形成済の下層の断面形状とも結合する。そして、造形物全体が完成するまで、粉末材料の薄層を上部に順次積層しながら、結合剤を吐出する工程を繰り返す。最終的に、結合剤が吐出されなかった領域は、粉末材料が個々に独立して互いに接合しない状態であるため、造形物を装置から取り出す際に、粉末材料は容易に除去することができ、目的とする造形物が分離できる。以上の操作により、所望の三次元造形物が製造できる。
【0003】
特許文献2には、三次元物体を形成する方法であって、粒子材料を含むフィラー層を形成するステップと、化学組成物を前記フィラー層の特定の位置に塗布して、そのフィラーを特定の位置で結合させるステップとを包み、前記化学組成物が非水性有機モノマー化合物を含む、方法が開示されている。
また、特許文献3には、屈折率n1を有する粉末材料を支持体上に所定の厚さを有する層に形成する層形成工程、及び上記の粉末材料の層を屈折率n2を有する結着剤により所定の断面形状に結合させる断面形状形成工程(ただし、−0.1≦n1−n2≦0.1である。)、を順次繰り返すことを特徴とする三次元造形物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2729110号公報
【特許文献2】特表2003−531220号公報
【特許文献3】特開2004−351907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、均一な表面層を有し、耐キズ性や衝撃強度が高く、生産性の高い三次元造形物の製造方法、及び、この製造方法に使用する光硬化性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は、下記の手段<1>、<6>及び<7>によって達成された。好ましい実施形態である<2>〜<5>と共に以下に記す。
<1>下記(i)〜(v)の工程を含むことを特徴とする、表面層を有する三次元造形物の製造方法。
(i)支持体上に粉末材料を所定の厚さを有する層に形成する層形成工程、
(ii)造形対象物を平行な断面で切断した断面形状になるように前記層における粉末材料を結合剤により結合させる結合工程、
(iii)(i)及び(ii)の工程を順次繰り返すことによって三次元造形物を作製する作製工程、
(iv)作製された三次元造形物の表面を、(1)エチレン性不飽和化合物、及び、(2)光重合開始剤、を含有する含有する光硬化性組成物により被覆する被覆工程、及び、
(v)被覆した組成物を光硬化する硬化工程
<2>(1)エチレン性不飽和化合物の全量の50重量%以上が単官能モノマーである、<1>に記載の三次元造形物の製造方法、
<3>エチレン性不飽和基を有する含フッ素ポリマーを含有する、<1>又は<2>に記載の三次元造形物の製造方法、
<4>前記(1)エチレン性不飽和化合物が脂環炭化水素基を有する、<1>〜<3>いずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法、
<5>前記粉末材料が有機粉末である、<1>〜<4>いずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法、
<6><1>〜<5>いずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法に用いられ、(1)エチレン性不飽和化合物、及び、(2)光重合開始剤、を含有する、表面層形成用光硬化性組成物、
<7><1>〜<5>いずれか1項に記載の製造方法により製造された表面層を有する三次元造形物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、均一な表面層を有し、耐キズ性が高く、密着良好な表面層を有し、生産性の高い三次元造形物の製造方法、及び、この製造方法に使用するための光硬化性組成物を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の三次元造形物の製造方法は、表面層を有する三次元造形物の製造方法であり、下記(i)〜(v)の工程を含むことを特徴とする。
(i)支持体上に粉末材料を所定の厚さを有する層に形成する層形成工程、
(ii)造形対象物を平行な断面で切断した断面形状になるように前記層における粉末材料を結合剤により結合させる結合工程、
(iii)(i)及び(ii)の工程を順次繰り返すことによって三次元造形物を作製する作製工程、
(iv)作製された三次元造形物の表面を、(1)エチレン性不飽和化合物、及び、(2)光重合開始剤、を含有する光硬化性組成物により被覆する被覆工程、及び、
(v)被覆した組成物を光硬化する硬化工程
【0009】
上記の(i)及び(ii)の工程を順次繰り返すことによって三次元造形物を作製する作製工程は、公知であり、例えば前記特許文献1〜3に記載されており、また、特開2005−74824号公報の図1及び図2も参照することができる。
本発明の特徴は、こうして作製された三次元造形物の表面に表面層を形成することにあり、具体的には、上記(iv)の被覆工程、及び(v)の硬化工程を含む工程により表面層が形成される。
【0010】
上記(I)において使用する粉末材料について簡単に説明する。
本発明に使用する粉末材料は、平均粒子径が100μm以下の微粉末であることが好ましく、平均粒子径が0.8〜50μmの微粉末であることがより好ましい。平均粒子径が上記範囲であると、得られる三次元造形物の表面光沢度が向上するので好ましい。
粉末の形状としては、無定型、球形、平板状、針状、多孔質状等どのようなものでも使用可能である。
粉末材料は有機粉末、無機粉末、無機・有機複合粉末のいずれも使用することができるが、有機粉末を用いることが好ましい。
【0011】
有機粉末としては、例えば合成樹脂粒子、天然高分子粒子等が挙げられる。合成樹脂粒子を用いることが好ましい。具体的にはアクリル樹脂、オレフィン樹脂、フェノール樹脂、スチレン樹脂、ジビニルベンゼン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアクリロニトリル、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、メラミンホルムアルデヒド、ポリカーボネート、スルホン重合体、ビニル重合体、カルボキシメチルセルロールス、ゼラチン、デンプン、キチン、キトサン等が挙げられる。この中で、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、フェノール樹脂、スチレン樹脂、ジビニルベンゼン樹脂、及び、フッ素樹脂を好ましく用いることができる。
また、前記樹脂は、単独で使用しても、又は、2種類以上を併用してもよい。
【0012】
無機粉末として、例えば、金属、酸化物、複合酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、窒化物、炭化物硫化物及びこれらの少なくとも2種以上の複合化物等を挙げることができる。具体的には、水酸化マグネシウム、シリカゲル、アルミナ、水酸化アルミニウム、硝子、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコン、酸化錫、チタン酸カリウム、硼酸アルミニウム、酸化マグネシウム、硼酸マグネシウム、水酸化カルシウム、塩基性硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム、窒化珪素、窒化チタン、窒化アルミ、炭化珪素、炭化チタン、硫化亜鉛及びこれらの少なくとも2種以上の複合化物等が挙げられる。好ましくは、水酸化マグネシウム、シリカゲル、アルミナ、水酸化アルミニウム、硝子、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
【0013】
上記(ii)において使用する結合剤について説明する。
本発明の三次元造形用材料は、前記粉末材料を結合する結合剤を含む。
前記結合剤は、前記粉末材料の薄層に付与して、適当な操作を施すことにより、粉末材料を接合状態にすると共に、既に形成済みの下層の断面形状とも結合することのできる材料である。
結合剤は、好ましくは液体であり、水、水性溶剤、又は、高分子溶液、紫外線硬化性のエチレン性不飽和化合物を含む組成物、など多岐にわたる。いずれも、インクジェット法により噴射可能な粘度、表面張力等を有した単一成分又は組成物であることが好ましい。
【0014】
本発明に用いる結合剤は、所望の三次元造形物の色に応じ、着色剤を含有することが好ましい。本発明に用いることができる着色剤は染料と顔料とに大別され、染料を好ましく使用することができる。
染料としては、減色法の3原色であるイエロー(Y)、マゼンタ(M)及びシアン(C)の染料を使用することにより広い範囲の色相を異なる彩度で再現することができる。
【0015】
染料としては、印刷の技術分野(例えば印刷インキ、感熱インクジェット記録、静電写真記録等のコピー用色材又は色校正版など)で一般に用いられるものを使用することができる。
例えば、有機合成化学協会編「染料便覧」(丸善(株)(1970年刊))、安部田貞治、今田邦彦「解説 染料化学」((株)色染社(1988年刊))、大河原信編「色素ハンドブック」(株)講談社(1986年刊)、「インクジェットプリンタ用ケミカルズ−材料の開発動向・展望調査−」((株)シーエムシー出版(1997年刊))、甘利武司「インクジェットプリンタ−技術と材料」等に記載の染料類が挙げられる。
【0016】
結合剤に、CMY染料の替わりにCMY顔料を使用することもできる。
顔料としては、特に限定されるものではなく、一般に市販されているすべての有機顔料及び無機顔料のいずれか1以上を、分散媒としての不溶性の樹脂等に分散させたもの、あるいは顔料表面に樹脂をグラフト化したもの等を用いることができる。また、樹脂粒子を染料で染色したもの等も用いることができる。
【0017】
本発明に好ましく使用できる結合剤は、複素芳香環基を有する単量体単位を有する高分子(ポリマー)の溶液であり、水とメタノールなどの水性溶剤の混合液に溶解した溶液が好ましい。複素芳香環基を有する付加重合体を用いることにより、水溶性ポリマー特有の物理結合力による粘度の向上を抑え、吐出安定性・液浸透性を維持しながら、水溶媒を含むことでノズル乾燥を防ぎ、高強度の三次元造形物を得ることができる。
【0018】
前記複素芳香環基を有する単量体単位が、下記式(1)で表される高分子が好ましく使用できる。
【0019】
【化1】

(式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を表し、Yは単結合又は炭素数1〜6のアルキレン基、エステル結合、エーテル結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、及び、これらの組み合わせよりなる群から選択された二価の連結基を表し、R2は、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子よりなる群から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を有する5員環又は6員環の複素芳香環基を表す。)
【0020】
複素芳香環基を有する単量体単位を有する高分子(ポリマー)として、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリ(3−ビニルフラン)、ポリ(ピリジン−4−アクリルアミド)が例示できる。また、これらのホモポリマーを、複素芳香環基を有しない単量単位(アクリルアミドなど)とのコポリマーとしてもよい。
【0021】
本発明において、表面層の形成に使用される光硬化性組成物は、(1)エチレン性不飽和化合物、及び、(2)光重合開始剤、を含有する。
(1)光硬化性組成物に使用するエチレン性不飽和化合物
工程(i)及び(ii)を順次繰り返して三次元造形物を形成した後に、その表面に表面層形成用の光硬化性組成物を被覆してこれを硬化することにより表面層を形成する。
この光硬化性組成物に必須成分として配合するエチレン性不飽和化合物としては、公知の単官能又は多官能エチレン性不飽和化合物を使用することができ、アクリレート化合物、メタクリレート化合物、N−ビニル化合物、アリル化合物、ビニル化合物等が好ましく例示できる。
エチレン性不飽和化合物は、エチレン性不飽和基を有する化合物であり、ラジカル重合可能な化合物であれば、特に限定されない。エチレン性不飽和化合物は、1種のみ用いてもよく、また、目的とする特性を向上するために、任意の比率で2種以上を併用してもよい。
エチレン性不飽和化合物は、1種のみ用いてもよく、また目的とする特性を向上するために任意の比率で2種以上を併用してもよい。
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらの塩、エチレン性不飽和基を有する無水物、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、アクリロニトリル、スチレン、さらに種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等のラジカル重合性化合物が挙げられる。
なお、前記(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを表し、(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミド又はメタアクリルアミドを表す。また、本発明において、例えば、単官能(メタ)アクリレート化合物とは、(メタ)アクリロキシ基を1つのみ有する化合物を表し、(メタ)アクリロキシ基以外のエチレン性不飽和結合をさらに有していてもよい。
【0022】
さらに具体的には、山下晋三編、「架橋剤ハンドブック」、(1981年、大成社);加藤清視編、「UV・EB硬化ハンドブック(原料編)」(1985年、高分子刊行会);ラドテック研究会編、「UV・EB硬化技術の応用と市場」、79頁、(1989年、シーエムシー社);滝山栄一郎著、「ポリエステル樹脂ハンドブック」、(1988年、日刊工業新聞社)等に記載の市販品若しくは業界で公知のラジカル重合性又は架橋性のモノマー、オリゴマー、及び、ポリマーを用いることができる。
また、エチレン性不飽和化合物としては、例えば、特開平7−159983号、特公平7−31399号、特開平8−224982号、特開平10−863号、特開平9−134011号等の各公報に記載されている化合物も、光硬化性組成物に適用することができる。
【0023】
本発明に使用する光硬化性組成物に用いることができるエチレン性不飽和化合物としては、(メタ)アクリル系モノマー若しくはプレポリマー、エポキシ系モノマー若しくはプレポリマー、又は、ウレタン系モノマー若しくはプレポリマー等の(メタ)アクリル酸エステルが好ましく用いられる。さらに好ましくは、下記化合物である。
【0024】
すなわち、2−エチルヘキシルジグリコールアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、エトキシ化フェニルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、ノニルフェノールエチレンオキサイド(EO)付加物アクリレート、変性グリセリントリアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、変性ビスフェノールAジアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド(PO)付加物ジアクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートトリレンジイソシアナートウレタンプレポリマー、ラクトン変性可撓性アクリレート、ブトキシエチルアクリレート、プロピレングリコールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアナートウレタンプレポリマー、2−ヒドロキシエチルアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリ
レート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアナートウレタンプレポリマー、ステアリルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ラクトン変性アクリレート等が挙げられる。
【0025】
光硬化性組成物に使用するエチレン性不飽和化合物としては、脂環炭化水素基を有するエチレン性不飽和化合物が好ましい。
脂環炭化水素基を有するエチレン性不飽和化合物としては、分子内に、1つ以上のエチレン性不飽和基、及び、1つ以上の脂環炭化水素基を有する化合物であれば、特に制限はなく、すなわち、単官能でも多官能でもよい。
脂環炭化水素基としては、脂肪族環状炭化水素構造(脂環炭化水素構造、又は、脂環構造)から1以上の水素原子を除いた基であればよい。
また、脂環炭化水素構造は、その中に1以上の不飽和結合を有してもよい。
前記脂環炭化水素構造は、導入可能な炭素に置換基を有していてもよい。
【0026】
導入し得る置換基としては、アルキル基、ヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アミノ基、カルボキシル基、アシル基、アルコキシ基、ニトロ基等が例示でき、炭素数1〜4の短鎖のアルキル基であることが好ましく、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。
また、脂環炭化水素基が有する環構造の炭素数は、6〜18であることが好ましく、6〜12であることがより好ましい。
脂環炭化水素基としては、複数の環が縮環した脂肪族縮合多環炭化水素基、又は、橋状の炭素鎖を有する橋かけ環炭化水素基であることが好ましく、橋かけ環炭化水素基であることがより好ましい。
【0027】
また、前記橋かけ環炭化水素基は、ビシクロ環炭化水素基、又は、トリシクロ環炭化水素基であることがさらに好ましく、前記ビシクロ環又はトリシクロ環の環内に二重結合を有するものが特に好ましい。
なお、本発明におけるビシクロ環又はトリシクロ環とは、鎖式構造まで開くのに必要な環原子間結合の切断の数が3回の場合をトリシクロ環、2回の場合をビシクロ環という。
また、脂環炭化水素基において、その環構造を構成する環は、3〜7員環であることが好ましく、4〜7員環であることがより好ましく、5又は6員環であることが最も好ましい。なお、橋かけ環の場合は、橋によって環の内部が区切られていない環を、前記環構造を構成する環とする。
【0028】
前記の脂環炭化水素構造としては、以下に示す(R−1)〜(R−8)の構造であることが好ましい。また、脂環炭化水素基を有するエチレン性不飽和化合物をb−1〜38及びB−30に例示する。なお、本発明において、化合物やその部分構造の炭化水素鎖を炭素(C)及び水素(H)の記号を省略した簡略構造式で記載する。
【0029】
【化2】

【0030】
【化3】

【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
【化6】

【0034】
コーティングムラ抑制、耐キズ性、衝撃強度、生産性両立の観点から、光硬化性組成物に配合する全エチレン性不飽和化合物の50重量%以上が単官能エチレン性不飽和化合物(単官能モノマー)であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。
また、光硬化性組成物における全エチレン性不飽和化合物に対して、脂環炭化水素基を有するエチレン性不飽和化合物の含有量が5〜95重量%の範囲であることが好ましく、10〜80重量%の範囲であることがより好ましく、30〜60重量%の範囲であることが特に好ましい。
また、脂環炭化水素基を有するエチレン性不飽和化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、脂環炭化水素基を有するエチレン性不飽和化合物は、前記脂環炭化水素基を1つ有していても、2つ以上有していてもよい。
光硬化性組成物におけるエチレン性不飽和化合物の含有量は、光硬化性組成物全体の重量に対して、50〜98重量%であることが好ましく、55〜95重量%であることがより好ましく、60〜90重量%であることがさらに好ましい。エチレン性不飽和化合物の含有量が50重量%以上であると、硬化後の光硬化性コーティング組成物の硬化性、皮膜性に優れ、95重量%以下である場合には、感度が良好であり、非タック性に優れる。
本発明の光硬化性組成物は、エチレン性不飽和化合物として、多官能エチレン性不飽和化合物を含むことが好ましく、単官能エチレン性不飽和化合物及び多官能エチレン性不飽和化合物を含むことがより好ましい。
多官能エチレン性不飽和化合物を使用する場合、多官能エチレン性不飽和化合物の含有量としては、光硬化性組成物の全重量に対し、1〜50重量%であることが好ましい。多官能エチレン性不飽和化合物の含有量が1重量%以上であると非タック性に優れ、50重量%以下であると、光硬化性組成物の粘度が適切であるため、表面平滑性に優れる。
【0035】
(2)光硬化性組成物に使用する光重合開始剤
本発明に使用する光硬化性組成物は、必須成分として(2)光重合開始剤を含有する。
光重合開始剤としては、公知のラジカル光重合開始剤を使用することができる。
このラジカル光重合開始剤は、活性放射線を吸収して重合開始種を生成する化合物である。重合を開始するために使用される活性放射線には、γ線、β線、電子線、紫外線、可視光線、赤外線が例示できる。使用する光波長は特に限定されないが、好ましくは200〜500nmの波長領域であり、より好ましくは200〜450nmの波長領域である。
【0036】
<ラジカル光重合開始剤>
本発明で使用され得る好ましいラジカル光重合開始剤としては、(a)芳香族ケトン類、(b)アシルフォスフィン化合物、(c)芳香族オニウム塩化合物、(d)有機過酸化物、(e)チオ化合物、(f)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(g)ケトオキシムエステル化合物、(h)ボレート化合物、(i)アジニウム化合物、(j)メタロセン化合物、(k)活性エステル化合物、(l)炭素ハロゲン結合を有する化合物、並びに(m)アルキルアミン化合物等が挙げられる。
上述したラジカル光重合開始剤の例としては、例えば、特開2006−085049号公報の明細書の段落番号0135〜0208に記載されたラジカル光重合開始剤を挙げることができる。
透明性の観点から好ましい光重合開始剤としては、光重合開始剤を3g/cm2の厚み
でコーティングした際に、400nmの波長の吸光度が0.3以下の化合物が好ましく、より好ましくは、0.2以下の化合物がより好ましく、0.1以下の化合物がさらに好ましい。
ラジカル光重合開始剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
光重合開始剤としては、芳香族ケトン化合物及び/又はアシルフォスフィンオキシド系化合物を用いることが好ましい。
芳香族ケトン化合物の好適な例としては、α−アミノケトン系化合物が挙げられる。
【0037】
前記α−アミノケトン系化合物の具体例としては、2−メチル−1−フェニル−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(ヘキシル)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−エチル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1等が挙げられる。また、チバスペシャルティケミカルズ社製のイルガキュア(IRGACURE)シリーズ、例えば、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379等の如き市販品としても入手可能であり、これらもα−アミノケトン系化合物に包含される化合物であり、本発明に好適に使用し得る。
【0038】
アシルフォスフィンオキシド系化合物としては、例えば、特公昭63−40799号公報、特公平5−29234号公報、特開平10−95788号公報、特開平10−29997号公報等に記載の化合物を挙げることができる。
【0039】
光硬化性組成物における前記光重合開始剤の含有量は、固形分換算で、0.1〜30重量%の範囲であることが好ましく、0.2〜20重量%の範囲であることがより好ましい。
【0040】
(3)光硬化性組成物に併用するエチレン性不飽和基を有する含フッ素ポリマー
また、光硬化性組成物は、任意成分として、エチレン性不飽和基を有する含フッ素ポリマーを含有することが好ましい。以下にエチレン性不飽和基を有する含フッ素ポリマーについて詳細に説明する。
「含フッ素ポリマー」とは、ポリマー中にフッ素原子を含むものをいう。また、「エチレン性不飽和基を有する含フッ素ポリマー」とは、含フッ素ポリマー中のいずれかに少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有するものをいう。
本発明において、特定含フッ素ポリマーとしては、分子中にフッ素原子を含有するものであれば用いることができ限定されるものではないが、フッ素原子を含む基を側鎖に有するポリマーであることが好ましい。
前記フッ素原子を含む基としては、炭素数2〜15個のパーフルオロアルキル基又はフルオロアルキル基であることが好ましく、パーフルオロアルキル基であることがより好ましい。
また、フッ素原子を有する基は、特定含フッ素ポリマーのポリマー鎖に直接結合して側鎖を形成していてもよいが、多価の連結基を介して特定含フッ素ポリマーのポリマー鎖に結合していることが好ましく、アルキレン基及びカルボン酸エステル基を介して特定含フッ素ポリマーのポリマー鎖に結合していることがより好ましい。
【0041】
前記特定含フッ素ポリマーとしては、エチレン性不飽和基を有する含フッ素ポリマーであれば、制限なく使用することができる。
前記エチレン性不飽和基としては、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する基であればよく、限定されるものではないが、具体的には(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルアミド基、スチリル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、及び、クロトニル基等が挙げられ、中でも(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルアミド基及びアリル基が好ましく、(メタ)アクリロイル基及びアリル基がより好ましい。
前記エチレン性不飽和基は、特定含フッ素ポリマーのポリマー鎖に直接結合していてもよいが、後述する多価の連結基を介して結合していることが好ましい。
特定含フッ素ポリマーは、フッ素原子を含む基を側鎖に有する単量体単位(「含フッ素単量体単位」ともいう)と、エチレン性不飽和基を側鎖に有する単量体単位とを含むことが好ましい。
【0042】
特定含フッ素ポリマーに含まれる含フッ素単量体単位は、式(F1)で表される単量体単位であることが好ましい。
【0043】
【化7】

【0044】
式(F1)中、Rfはフッ素原子を5個以上含むフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキル基を表し、nは1又は2を表し、R1は水素原子又はメチル基を表す。
式(F1)において、Rfとしてフッ素原子の数が5以上のものを用いることによって、光硬化性組成物の表面エネルギーが低下し、表面平滑性の向上に寄与することができる。
Rfは式(F2)に示すフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキル基であることがより好ましい。
Rf=Cxyz (F2)
式(F2)において、xは2〜15の整数を表し、yは5〜2x+1の整数を表し、y+zは2x+1である。
xはRfに含まれる炭素数を表し、xは2〜12であることが好ましく、2〜8であることがより好ましい。
フッ素原子の数yは5〜30が好ましく、より好ましくは9〜25であり、さらに好ましくは9〜17である。この範囲のフッ素原子を有する特定含フッ素ポリマーを用いることによって優れた表面平滑性が得られる。また、フッ素原子の撥油性に起因する溶解性の低下が生じることがない。
【0045】
Rfがパーフルオロアルキル基Cx2x+1である場合には、Rfは直鎖状又は分岐を有していてもよく、直鎖状、すなわち(CF2xFであることが好ましい。xの範囲は先に述べた範囲と同様であり、好ましい範囲についても同様である。
Rfがフルオロアルキル基である場合は、Rfは直鎖状又は分岐を有していてもよく、直鎖状(CF2xHであることが好ましい。xの範囲は先に述べた範囲と同様であり、好ましい範囲についても同様である。
【0046】
Rfは、直鎖状のパーフルオロアルキル基であることが好ましく、具体的には、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、及び、パーフルオロオクチル基等が挙げられ、中でもパーフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基がより好ましい。
【0047】
また、特定含フッ素ポリマーに含まれる全単量体単位に対する、前記含フッ素単量体単位の割合は、1〜60モル%が好ましく、3〜50モル%がより好ましく、5〜40モル%が更に好ましく、10〜20モル%が特に好ましい。上記範囲であると、所望の表面平滑性効果が得られ、また、特定含フッ素ポリマーの結合剤への溶解性が優れる。
【0048】
特定含フッ素ポリマーにおけるエチレン性不飽和基を側鎖に有する単量体単位としては式(F3)で表されるモノマー単位が好ましい。
【0049】
【化8】

【0050】
式(F3)において、R2は水素原子又はメチル基を表し、R3は−O−又は−NH−を表し、R4はエチレン性不飽和基を有する基を表す。
4はエチレン性不飽和基を少なくとも1つ有する基を表す。エチレン性不飽和基は1つ又は2つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。
前記エチレン性不飽和基としては、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する基であれば特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルアミド基、スチリル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、及び、クロトニル基等が挙げられ、中でも、好ましくは(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルアミド基、アリル基であり、より好ましくは(メタ)アクリロイル基、アリル基である。
前記エチレン性不飽和基とR3とは、二価以上の多価の連結基を介して結合されていてもよく、連結基としては下記の部分構造、又は、これらが組合わされて構成される連結基が挙げられる。
【0051】
【化9】

【0052】
中でも、R−5、R−8、及び、R−10のいずれか1つ以上を含む連結基が好ましい。
【0053】
3及びR4はさらに置換基を有していてもよい。前記置換基としては、炭素数1〜4個のアルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アシル基、アシロキシ基、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基等を挙げることができる。中でも、ヒドロキシ基が好ましい。
【0054】
特定含フッ素ポリマーに含まれる全単量体単位に対する、前記エチレン性不飽和基を側鎖に有する単量体単位の割合は40〜99モル%が好ましく、50〜95モル%がより好ましく、60〜90モル%が更に好ましい。上記範囲であると、硬化後の硬化物表面の非タック性に優れる。
【0055】
また、特定含フッ素ポリマーは、含フッ素モノマー単位及びエチレン性不飽和基を側鎖に有するモノマー単位以外のその他のモノマー単位を含んでいてもよい。
共重合可能なその他のモノマーとしては、エチレン性不飽和結合を1つのみ有する単官能モノマーであれば特に限定されないが、具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらの塩、エチレン性不飽和基を有する無水物、アクリロニトリル、スチレン、さらに種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等のラジカル重合性化合物が挙げられる。
具体的には、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、カルビトール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸誘導体、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等のN−ビニル化合物類、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート等のアリル化合物の誘導体が挙げられ、さらに具体的には、山下晋三編、「架橋剤ハンドブック」、(1981年、大成社);加藤清視編、「UV・EB硬化ハンドブック(原料編)」(1985年、高分子刊行会);ラドテック研究会編、「UV・EB硬化技術の応用と市場」、79頁、(1989年、シーエムシー);滝山栄一郎著、「ポリエステル樹脂ハンドブック」、(1988年、日刊工業新聞社)等に記載の市販品若しくは業界で公知の単官能ラジカル重合性モノマーを用いることができる。
【0056】
また、エチレン性不飽和結合を有する含フッ素ポリマーにおけるエチレン性不飽和結合の導入量としては、0.1〜100mmol/gの範囲が好ましく、0.2〜80mmol/gの範囲がより好ましい。導入量が0.1mmol/g以上であると、表面ベトツキ抑制の性能(非タック性)に優れ、また、100mmol/g以下であると、保存安定性に優れる。
【0057】
特定含フッ素ポリマーの重量平均分子量は5,000〜200,000であることが好ましく、30,000〜150,000であることがより好ましく、50,000〜120,000であることが更に好ましい。特定含フッ素ポリマーの重量平均分子量が5,000以上であると、表面の硬化性に優れ、非タック性に優れる。一方、特定含フッ素ポリマーの重量平均分子量が200,000以下であると、特定含フッ素ポリマーの結合剤への溶解性に優れる。
【0058】
特定含フッ素ポリマーの含有量は、表面ベトツキ抑制(非タック性)、表面平滑性の観点から、結合剤(光硬化性組成物)全体の重量に対して、0.001〜40重量%の範囲であることが好ましく、0.01〜30重量%の範囲がより好ましく、0.1〜20重量%の範囲であることが更に好ましく、0.5〜5重量%の範囲であることが特に好ましい。
【0059】
本発明において使用できる、エチレン性不飽和結合を有する含フッ素ポリマーの具体例〔例示化合物P−1〜P−14〕を以下に示す。下記具体例において、各モノマー単位の括弧に付記されている数字は、ポリマー中の各モノマー単位のモル比を表す。
【0060】
【化10】

【0061】
【化11】

【0062】
(界面活性剤)
光硬化性組成物は、界面活性剤を含有していてもよい。
界面活性剤としては、特開昭62−173463号、同62−183457号の各公報に記載されたものが挙げられる。例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。また、前記界面活性剤として有機フルオロ化合物やポリシロキサン化合物を用いてもよい。前記有機フルオロ化合物は、疎水性であることが好ましい。前記有機フルオロ化合物としては、例えば、フッ素系界面活性剤、オイル状フッ素系化合物(例、フッ素油)及び固体状フッ素化合物樹脂(例、四フッ化エチレン樹脂)が含まれ、特公昭57−9053号(第8〜17欄)、特開昭62−135826号の各公報に記載されたものが挙げられる。これらの中でも、界面活性剤としては、ポリジメチルシロキサンが好ましく例示できる。
これらの界面活性剤は、1種単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
界面活性剤の含有量は、インクジェットヘッドの吐出に適した表面張力に適合させるように適宜調整されるが、0〜6重量%が好ましい。
【0063】
(その他の成分)
結合剤には、必要に応じて、他の成分を添加することができる。その他の成分としては、増感剤、重合禁止剤、溶剤等が挙げられる。
増感剤は、前記光重合開始剤の活性放射線の照射による分解を促進させるための添加剤である。
重合禁止剤は、保存性を高める観点から添加することができる。重合禁止剤は、結合剤全量に対し、200〜20,000ppm添加することが好ましい。
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ベンゾキノン、p−メトキシフェノール、TEMPO、TEMPOL、クペロンAl等が挙げられる。
【0064】
塗布後に速やかに反応しかつ硬化し得るよう、表面層形成用光硬化性組成物は溶剤を含まないことが好ましい。しかし、結合剤の硬化速度等に影響がない限り、所定の溶剤を含むことができる。有機溶剤を使用する場合も、その量は少ないほど好ましく、結合剤全体の重量に対し、0.1〜5重量%であることが好ましく、0.1〜3重量%であることがより好ましい。
【0065】
(iv)作製された三次元造形物の表面を、前記の光硬化性組成物により被覆する被覆工程は、三次元造形物を組成物中に浸漬してもよく、また、スプレイ塗布等によってもよい。
(v)被覆した組成物を光硬化する硬化工程には、公知の各種紫外光源が使用できる。
表面層の厚さは適宜選択することができるが、1μm〜3mmが好ましく、1μm〜2mmがより好ましく、1μm〜1mmが更に好ましく、1〜500μmが特に好ましい。
【0066】
三次元造形に用いる材料や方法としては、特開2004−351907号、特開2004−330679号、特開2004−330694号、特開2004−330702号、特開2004−330730号、特開2004−330773号、特開2005−7572号、特開2005−67138号、特開2005−74665号、特開2005−74824号、特開2005−74831号、特開2005−74904号、特開2005−88392号、特開2005−88429号、特開2005−88432号、特開2005−96128号、特開2005−96199号、特開2005−254521号、特開2005−254523号、特開2005−25453号、特開2005−254583号、特表2002−528375号、特表2003−515465号、特表2003−531220号、特表2006−504813号、特開2002−292750号、特開2002−307562号、特開2002−307562号等の各公報に開示されている素材や方法を用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下に示す実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例における形態に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を示す。
(三次元造形物モデル作製)
表面が平坦なステンレス支持体上に、粉末材料を約100μmの厚さになるようロッドにより1層分の粉末材料層を形成した後、予めPCに記憶させたデータにもとづいて吐出ノズルから結合剤を断面形状になるように供給した。
結合剤はインクジェット方式により、600dpiの解像度(約42μmのドット間隔)で、各ドットが連続した線になるように液滴を吐出した。
再び約100μmの厚さになるよう粉末材料層を形成して、結合剤を次の断面形状になるように供給することを繰り返すことにより三次元造形物を作製した。
結合剤及び粉末材料として、下記に示す組み合わせの両材料を用いて、直径10cm、厚さ2mmのプレートを作製した。
【0068】
三次元造形物モデル(1)
粉末材料:焼石膏
結合剤:水
【0069】
三次元造形物モデル(2)
粉末材料:ポリメタクリル酸メチル粒子(平均粒径50μm)
結合剤:以下に示す配合(各成分を撹拌機により撹拌して製造した)
・メタノール 30重量%
・水 20重量%
・エチレングリコール 22重量%
・イソプロパノール 20重量%
・ポリビニルピリジン(アルドリッチ社製) 8重量%
【0070】
三次元造形物モデル(3)
粉末材料:ポリメタクリル酸メチル粒子(平均粒径50μm)
結合剤:以下に示す配合(各成分を撹拌機により撹拌して製造した)
・トリプロピレングリコールジアクリレート(アルドリッチ社製) 45重量%
・トリロキシエチルアクリレート(綜研化学(株)製) 45重量%
・2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン
(チバスペシャルティーケミカルズ社製) 10重量%
【0071】
(光硬化性組成物)
(実施例1)
以下の成分を撹拌機により撹拌し、被覆用の光硬化性組成物1を得た。
・表1記載の化合物X 40重量%
・2−フェノキシエチルアクリレート(東京化成工業(株)製) 30重量%
・トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業(株)製) 15重量%
・イルガキュアー907(チバスペシャルティーケミカルズ社製) 6重量%
・イルガキュアー819(チバスペシャルティーケミカルズ社製) 7重量%
・表1記載の特定フッ素ポリマーである化合物Y 2重量%
実施例2〜4も、表1に示す配合とする以外は、実施例1と同様にして光硬化性組成物を作製した。
上記の光硬化性組成物中に三次元造形物を浸漬し引き上げた後、被覆した組成物に紫外線を照射して光硬化した。ここで形成された表面層の厚さは約500μmであった。
なお、以下の実施例及び比較例においても、ほぼ同じ厚さの表面層を形成した。
【0072】
(実施例5)
以下の成分を撹拌機により撹拌し、光硬化性組成物5を得た。
・表1記載の化合物X 10重量%
・2−フェノキシエチルアクリレート(東京化成工業(株)製) 30重量%
・アクリル酸ドデシル(アルドリッチ(株)製) 30重量%
・トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業(株)製) 15重量%
・イルガキュアー907(チバスペシャルティーケミカルズ社製) 6重量%
・イルガキュアー819(チバスペシャルティーケミカルズ社製) 7重量%
・表1記載の特定フッ素ポリマーである化合物Y 2重量%
実施例6〜8も、表1に示す配合とする以外は、実施例5と同様にして作製した。
【0073】
(実施例9)
以下の成分を撹拌機により撹拌し、光硬化性組成物9を得た。
・2−フェノキシエチルアクリレート(東京化成工業(株)製) 30重量%
・トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業(株)製) 55重量%
・イルガキュアー907(チバスペシャルティーケミカルズ社製) 6重量%
・イルガキュアー819(チバスペシャルティーケミカルズ社製) 7重量%
・表1記載の特定フッ素ポリマーである化合物Y 2重量%
実施例10も、表1に示す配合とする以外は、実施例9と同様にして作製した。
【0074】
(実施例11)
以下の成分を撹拌機により撹拌し、光硬化性組成物11を得た。
・表1記載の化合物X 40重量%
・2−フェノキシエチルアクリレート(東京化成工業(株)製) 30重量%
・トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業(株)製) 17重量%
・イルガキュアー907(チバスペシャルティーケミカルズ社製) 6重量%
・イルガキュアー819(チバスペシャルティーケミカルズ社製) 7重量%
実施例12〜14も、表1に示す配合とする以外は、実施例11と同様にして作製した。
【0075】
(実施例15)
以下の成分を撹拌機により撹拌し、光硬化性組成物15を得た。
・表1記載の化合物X 10重量%
・2−フェノキシエチルアクリレート(東京化成工業(株)製) 30重量%
・アクリル酸ドデシル(アルドリッチ社製) 30重量%
・トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業(株)製) 17重量%
・イルガキュアー907(チバスペシャルティーケミカルズ社製) 6重量%
・イルガキュアー819(チバスペシャルティーケミカルズ社製) 7重量%
実施例16〜18も、表1に示す配合とする以外は、実施例15と同様にして作製した。
【0076】
(実施例19)
以下の成分を撹拌機により撹拌し、光硬化性組成物19を得た。
・2−フェノキシエチルアクリレート(東京化成工業(株)製) 32重量%
・トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業(株)製) 55重量%
・イルガキュアー907(チバスペシャルティーケミカルズ社製) 6重量%
・イルガキュアー819(チバスペシャルティーケミカルズ社製) 7重量%
実施例20も、表1に示す配合とする以外は、実施例19と同様にして作製した。
【0077】
(実施例21)
以下の成分を撹拌機により撹拌し、光硬化性組成物21を得た。
・アクリル酸ドデシル(アルドリッチ社製) 45重量%
・Kayarad-60(日本化薬(株)製) 45重量%
・イルガキュアー819(チバスペシャルティーケミカルズ社製) 10重量%
実施例22〜23も、表1に示す配合とする以外は、実施例21と同様にして作製した。
【0078】
(比較例1)
以下の成分を撹拌機により撹拌し、比較組成物1を得た。
・ポリメタクリル酸メチル 30重量%
・1−メトキシ−2‐プロパノール 40重量%
・N−メチルピロリドン 30重量%
【0079】
(比較例2)
以下の成分を撹拌機により撹拌し、比較組成物2を得た。
・ポリメタクリル酸メチル 5重量%
・1−メトキシ−2−プロパノール 50重量%
・N−メチルピロリドン 45重量%
【0080】
(比較例3)
以下の成分を撹拌機により撹拌し、比較組成物3を得た。
・ポリメタクリル2−ヒドロキシエチル 30重量%
・1−メトキシ−2−プロパノール 40重量%
・N−メチルピロリドン 30重量%
【0081】
(比較例4)
以下の成分を撹拌機により撹拌し、比較組成物4を得た。
・ポリメタクリル2−ヒドロキシエチル 5重量%
・1−メトキシ−2−プロパノール 50重量%
・N−メチルピロリドン 45重量%
【0082】
(比較例5)
以下の成分を撹拌機により撹拌し、比較組成物5を得た。
・ポリメタクリル2−ヒドロキシエチル 100重量%
上記の素材を180℃で加熱溶融して用いた。
【0083】
(評価方法)
以下の各項目を評価した。
*耐キズ評価
作製した三次元造形物モデルを表1に記載の光硬化性組成物に10秒間、完全に浸漬し、取り出したものをLC8(浜松ホトニクス(株)製UVランプ)で500mJ/cm2露光した。得られたサンプルに対して鉛筆引掻き試験(JIS5400-8.4)を実施した。
【0084】
*生産性(非タック性)
作製した三次元造形物モデルを表1に記載の光硬化性組成物に10秒間、完全に浸漬し、取り出したものをLC8(浜松ホトニクス(株)製UVランプ)で200mJ/cm2露光した。露光後の非タック性を触感で評価した。評価基準を以下に示す。本評価で非タック性の良好な素材ほど硬化が速く、生産性が高いと言える。
◎:ベトツキなし
○:ほぼベトツキなし
△:若干のベトツキあり
×:表面が未硬化
【0085】
*レベリング性(表面層均一性)
作製した三次元造形物モデルを30度の角度に傾けた状態で、傾斜の上側の平面に表1に記載の光硬化性組成物を1mL静かに置き、組成物の流動速度を計測した。得られた計測値に関して実施例1の速度を1とした相対値を表1に示す。本評価は数値が大きい程、レベリング性が良好である(より好ましい性能である)と言える。
なお、レベリング性が良いほど、硬化した皮膜層の均一性がよいという相関関係があることが判明している。
【0086】
*界面密着強度
作製した三次元造形物モデルを表1に記載の光硬化性組成物に10秒間、造形物の片面だけを浸漬し、取り出したものをLC8(浜松ホトニクス(株)製UVランプ)で200mJ/cm2露光した。得られた片面のみに表面層を有する造形物から表面層を手で剥離した場合の剥離のし易さを評価した。剥離がし難いほど密着強度が高く、耐衝撃性を有するので、好ましい。
◎:手では剥離できなかった。
○:力を強く加える事によって剥離できた。
×:力を強く加えなくても容易に剥離できた。
使用した配合処方及び得られた結果を表1に示す。
【0087】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)〜(v)の工程を含むことを特徴とする、表面層を有する三次元造形物の製造方法。
(i)支持体上に粉末材料を所定の厚さを有する層に形成する層形成工程、
(ii)造形対象物を平行な断面で切断した断面形状になるように前記層における粉末材料を結合剤により結合させる結合工程、
(iii)(i)及び(ii)の工程を順次繰り返すことによって三次元造形物を作製する作製工程、
(iv)作製された三次元造形物の表面を、(1)エチレン性不飽和化合物、及び、(2)光重合開始剤、を含有する光硬化性組成物により被覆する被覆工程、及び、
(v)被覆した光硬化性組成物を光硬化する硬化工程
【請求項2】
(1)エチレン性不飽和化合物の全量の50重量%以上が単官能エチレン性不飽和化合物である、請求項1に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項3】
エチレン性不飽和基を有する含フッ素ポリマーを含有する、請求項1又は2に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項4】
前記(1)エチレン性不飽和化合物が脂環炭化水素基を有する、請求項1〜3いずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項5】
前記粉末材料が有機粉末である、請求項1〜4いずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法に用いられ、(1)エチレン性不飽和化合物、及び、(2)光重合開始剤、を含有する、表面層形成用光硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1〜5いずれか1項に記載の製造方法により製造された表面層を有する三次元造形物。

【公開番号】特開2010−228316(P2010−228316A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78962(P2009−78962)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】