説明

三級アルキル置換酸によるポリオールのエステル化方法

ポリオールのホモ重合を低減しつつ、三級アルキル酸からポリオールエステルを調製する方法。該エステルポリオールは、コーティングもしくは構造物/複合物または潤滑油用途のためのさらなるポリエステル樹脂の合成に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオールのホモ重合を低減しつつ、三級アルキル酸からポリオールエステルを調製する方法に関する。トリアルキル酢酸のエステルは、高い耐加水分解性を有し、および隣接するエステルの加水分解安定性を高めることが、公知である。従って、これらのエステルは、加水分解に対する抵抗性が必要となるコーティングおよび/または構造を利用する用途のための価値がある。この特性は、酸のトリアルキル基により提供される立体障害に起因する。従って、トリアルキル酢酸で部分的にエステル化されたポリオールは、コーティングまたは構造的用途のための樹脂合成における構成単位として価値が高い。
【背景技術】
【0002】
トリアルキル酢酸によるアルコールのエステル化は困難であり、そのためこのような酸は、立体障害のより少ない酸とアルコールとのエステル化反応を促進するための触媒としてさえ用いられている(WO0144156)。
【0003】
立体障害のある酸とアルコールまたはポリオールとのエステル化に従来のエステル化触媒を使用することは、Jour.Am.Oil.Chem Soc.,Vol45,5−10,1968年1月から公知である。使用される条件は、著者の意見では、立体障害のない酸またはアルコールの場合よりも厳しい条件であり、およびポリオールの場合、アルコール官能基の完全なエステル化するために過剰量の酸を用いて反応させている。
【0004】
高度に分枝した(立体障害のある)酸のエステル化に、従来のエステル化触媒でない触媒を使用することも公知であった。クロロシランの使用(Bull.Chem.Soc.Jpn,54,1267−1268)は、モノアルコールの場合、活性種としてアルコキシシランを形成するので効果的である。しかしながら、この方法をポリオールの部分的エステル化のために使用する技術はなんら与えられていない。
【0005】
前記の引用文献から、従来技術の解決法には高価な触媒を使用するという欠点があること、または従来技術の条件を使用してポリオールの部分エステル化を促進し、それによりエーテル化の副反応から生じるより高い分子量の化合物がほんの少量しか生成しないようにしながら、優先的にポリオールのモノエステルを生成させることができないこと、が引き出される。
従来のエステル化触媒を用いてポリオールのモノエステルを優先的に製造することのできる方法は、産業界で非常に必要とされている。それは、このようなモノマーがさらなる樹脂合成において使用するために価値が高い構成単位とみられるからである。
【発明の開示】
【0006】
(発明の概要)
広範囲に及ぶ研究および実験の結果、この度、驚くべきことに、特定の触媒と組み合わせた特定の方法条件の選択は、三級アルキルカルボン酸とポリオールとから、低粘度のヒドロキシル官能基を有するモノエステルの優先的な生成を可能にすることが、見出された。
【0007】
驚くべきことにこの度、温和な熱条件下でのスルホン酸誘導体の使用が、ポリエーテルをほとんど生成することなくポリオールのモノエステルを製造するための、有効な組み合わせであることが見出された。前記ポリエーテルは望ましくないホモポリマー副生成物であるとみなされ、およびアルコール官能基間の反応生成物であると考えられる。この反応は、エステル化が遅い場合またはアルコールを酸官能基に対し過剰に使用した場合の、競争反応である。本発明は、遭遇する問題の解決法、すなわち、ポリオールおよび立体障害のあるカルボン酸からの、モノエステルの改良された選択的調製法を提供する。
【0008】
上記の選択的エステル化反応のための方法は、酸触媒の存在下、180℃より低い温度で行なわれる。
【0009】
適したポリオールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリコールのオリゴマー(nは2から10)、グリセロール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、およびそれらの組み合わせから選択される。好ましいポリオールは、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールから選択される。最も好ましくはネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンである。
【0010】
酸誘導体は、一般式(I)
【0011】
【化2】

[式中、R、Rは、独立して、1から10個の炭素原子を有する脂肪族アルキル基であり、3つの基(CH+R+R)の炭素原子の合計は、3から20個、好ましくは3から13個である。]
で表される酸から選択される。
【0012】
酸触媒は、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸などのスルホン酸誘導体から選択され、および好ましい酸触媒は、メタンスルホン酸またはパラトルエンスルホン酸である。これらの酸は、酸およびポリオールの重量に対し0.05から4重量%の範囲において使用される。最も好ましい範囲は、酸およびポリオールに対し0.10から2.5重量%である。最も好ましい酸触媒は、メタンスルホン酸である。
【0013】
上記ポリオールおよび式(I)のアルキル酸から誘導されるヒドロキシルエステルは、さらに、改良された耐薬品性を有するポリエステル樹脂の調製において、構成単位として使用することができる。
【0014】
このようにして得られた樹脂は、コーティング組成物、繊維含浸用および潤滑油用途のための組成物において有利に使用可能なオリゴマーである。
【0015】
試験の説明および分析法
衝撃試験:ISO 6272−93(E)
振り子減衰試験(Koenig硬度):ISO 1522−73(E)またはDIN 53 157に準拠
耐メチルエチルケトン(MEK)性 方法の概要:
MEKに浸した綿片を、コーティングの上からこする(ほぼ2kgの圧力を使用)。コーティング表面を100回上下にこすり、傷が見られなければ、このコーティングは完全に硬化していると考えられる。x回の「MEK往復摩擦」の後、コーティングがパネルの上部から下部まで完全に線状に破壊されていれば、このコーティングはx回の「MEK往復摩擦」に耐えられなかったと考えられる。耐MEK性を、硬化コーティングで測定した。
【0016】
Brookfield粘度計を用いたニュートン系粘度:ISO 2555−89。
【0017】
本発明は、以下の実施例でさらに詳細に説明されるが、本発明の範囲はこれら特定の実施形態に制限されるものではない。別に明示的に規定がない限り、全てのパーセントは重量%であり、全ての部は重量部である。
【実施例】
【0018】
製造手順:
1L丸底ガラス製反応器にステンレス鋼いかり型攪拌棒、熱電対、Dean Stark装置を備えた還流コンデンサー、およびN導入口を取り付けて使用する。酸/アルコールのモル比が1:1の三級アルキル酸およびポリアルコール(組成については表1および表2を参照)をこの反応器に入れる。N下、攪拌を続けながら徐々に加熱して反応を行う。130℃で、溶媒(キシレン)および触媒を加える。温度を
・ピバル酸(V5)を用いる場合、150℃
・ネオデカン酸(V10)を用いる場合、170℃
(バーサティック10酸、Resolution Performance Products製)
まで上げる。酸価が一定値に達するまで温度を一定に維持する。一定値になれば、反応を停止させ冷却する。
【0019】
以下の模式図は、トリメチロールプロパン(TMP)をポリオールとして用いた実施例について、GC−MS分析(イオン化検出、モードPOS−Cl)により同定された生成物の構造を示す。分析サンプルにおいて、ポリエーテルは検出されなかった。
【0020】
【化3】

【0021】
使用触媒:
パラトルエンスルホン酸(pTSA)
メタンスルホン酸(MSA 70%水溶液)
以下の表に記録されたMSAの重量%は、供給された溶液の重量である。
固体として供給されたpTSA 97.5% Acros製
溶液として供給されたMSA(水中70%) Atofina製
供給されたポリオールをそのまま使用した:
トリメチロールプロパン(TMP) 97%、Aldrich製
ネオペンチルグリコール(NPG) 99%、Aldrich製
ペンタエリスリトール 98%、Aldrich製
【0022】
(ピバル酸(V5)の実施例)
【0023】
【表1】

【0024】
(バーサティック10酸(V10)の実施例)
【0025】
【表2】

【0026】
(実施例12)
実施例6より調製したエステル−ポリオールから調製したポリエステル樹脂
1L丸底ガラス製反応器にステンレス鋼いかり型攪拌棒、熱電対、還流コンデンサーおよびN注入口を取り付けて使用する。実施例6の生成物(177.8g)を、無水コハク酸(153.6g)とともにこの反応器中に1:1モル比(理想的な付加構造がモノエステルであるとみなす)で入れる。この混合物を攪拌しながら105℃になるまで加熱すると、この温度付近で発熱が起こり温度は160℃まで上昇した。反応条件を、酸価が一定値に到達するまで維持する。次いで、反応混合物を約140℃まで冷却した後、Cardura E10(401g)を添加し、温度を1時間一定に保つ。
【0027】
ポリエステル樹脂の特性:
色(Pt/Co):130
粘度:12690 mPa・s
コーティング調合
架橋剤:Cymel 301 CYTEC製
硬化触媒:40%pTSAブタノール溶液、全体の1重量%の濃度で使用
比率:ポリエステル12/Cymel=80/20
コーティングされたQパネルの硬化条件:140℃で30分
塗布層:60から65ミクロン
コーティングの特性:
直接/裏面衝撃強度 >160インチ・ポンド
低速度浸透 9mm
耐MEK性 >100回往復摩擦
(MEK=メチルエチルケトン)
【0028】
(実施例13および14)
ピバル酸、ポリオールおよび他の酸または無水物から調製したポリエステル
表3に示す組成のポリエステルを、攪拌棒、ヒーター/クーラーおよびDean stark装置を取り付けたガラス製反応器で調製した。所望の酸価が得られるまで、全成分を160から200℃に加熱した。キシレンを使用し、共沸蒸留により反応生成水を除去した。
【0029】
【表3】

【0030】
(実施例15)
ポリエステル14ベースのコーティング
ポリエステル14を、イソシアネートで硬化したコーティングの反応性希釈剤として次に評価した。最初に、ポリエステル14を40重量%で、アクリル酸ポリオールと混合した。Desmodur N3600(Bayer製の脂肪族イソシアネート)を硬化剤として使用し、触媒はジブチルスズジラウレートおよび1,4−ジアザビシクロ−2,2,2−オクタンの混合物であり、この系を、酢酸ブチルにより100mPa・sになるまで希釈した。
【0031】
この系を、ポリエステルを含まないアクリル酸ポリオールで調製した、同様のコーティング調合物と比較した。40%含有混合物は、基準物質よりもはるかに低いVOCを有していた(458g/lに対し、400g/l)にもかかわらず、優れた硬化速度および外観を示した。60℃で30分たたないうちに、この系は非粘着となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三級アルキル酸からポリオールエステルを調製する方法であり、−2から+2のpKaを有する酸触媒存在下においておよび180℃未満の温度で実行され、ならびに場合により不活性有機溶媒の存在下において実施される、該ポリオールおよび該アルキルカルボン酸の変換を含む、方法。
【請求項2】
酸触媒がスルホン酸誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸触媒が、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸から選択される、請求項1から2に記載の方法。
【請求項4】
酸触媒が、メタンスルホン酸またはパラトルエンスルホン酸である、請求項1から3に記載の方法。
【請求項5】
酸触媒が、酸およびポリオールの重量に対し0.05から4重量%の範囲、ならびに好ましくは0.10から2.5重量%の範囲で使用される、請求項1から4に記載の方法。
【請求項6】
酸誘導体が、一般式(I)
【化1】

[式中、R、Rは、独立して、1から10個の炭素原子を有する脂肪族アルキル基であり、3つの基(CH+R+R)の炭素原子の合計は、3から20個、好ましくは3から13個である。]
で表される酸から選択される、請求項1から5に記載の方法。
【請求項7】
ポリオールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリコールのオリゴマー(nは2から10)、グリセロール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、およびそれらの組み合わせから、ならびに好ましくはネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールから選択され得ることを特徴とする、請求項1から6に記載の方法。
【請求項8】
任意の請求項1から7に従って製造されるエステルを含有する、樹脂組成物。
【請求項9】
硬化組成物を請求項8に記載の樹脂と共に含有する、コーティング調合物。
【請求項10】
硬化組成物を請求項8に記載の樹脂と共に含有する、成形品。

【公表番号】特表2009−501142(P2009−501142A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517340(P2008−517340)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【国際出願番号】PCT/EP2006/004070
【国際公開番号】WO2006/136230
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(596174400)ヘキソン スペシャルティ ケミカルズ インコーポレーテッド (20)
【住所又は居所原語表記】180 East Broad Street,Columbus,Ohio 43215,United States of America
【Fターム(参考)】