説明

三酸化硫黄の捕捉システム

【課題】 従来の技術は面構造の磁器充填物であるため吸収塔の塔径が大きく、酸霧の捕捉を吸収塔で行っていたため充填高も高く、従って充填容積が大きくまたレンガ張りの塔を用いていたために充填物重量および塔重量が大きく、基礎の負荷も大きいとう問題があった。
【解決手段】 本発明では線構造のフッ素樹脂充填物を用いたため吸収塔塔径の低減を可能とし、三酸化硫黄酸霧の捕捉を酸霧除去設備で別途行う組み合わせをしたために、充填高の低減を可能にした。従って充填容積の低減を実現し、さらに従来の磁器充填物では傷つけるために用いられなかったフッ素樹脂ライニングを施工することで塔重量の低減、基礎の負荷の低減を可能とした。それにより、従来の大型で重量のある三酸化硫黄の捕捉システムの軽量化を図った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硫酸製造におけるSOガス、以下三酸化硫黄という、吸収塔およびSO酸霧、以下酸霧という、の捕捉システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術は圧力損失の大きい面構造の磁器充填物であるため吸収塔の塔径が大きく、さらに当該吸収塔で酸霧の捕捉をも行っていたため充填高も高く、従って充填容積が大きくまたレンガ張りの塔を用いていたために充填物重量および塔重量が大きく、基礎の負荷も大きかった。
【0003】
本発明では線構造のフッ素樹脂充填物を用いたため吸収塔塔径の低減を可能とし、三酸化硫黄酸霧の捕捉を酸霧除去設備で別途行うような「組み合わせ」をしたために、充填高の低減を可能とし、従って充填容積の低減を可能とし、さらに従来の磁器充填物では傷つけるために用いられなかったフッ素樹脂ライニングを施工することで塔重量の低減を可能とし、基礎の負荷の低減を可能としたものである。
【0004】
以下、図3、図4により、従来の三酸化硫黄の捕捉システムについて説明する。
【0005】
三酸化硫黄を含むガスは図3の13から入り、14の面構造磁器充填物−図4−を充填した、15ゴムライニングおよびレンガ張りした吸収塔に入り、三酸化硫黄は 10 硫酸入口から入った硫酸により捕捉され、高濃度になった硫酸は11硫酸出口から系外へ出ていき、一方、三酸化硫黄を殆ど含まないガスは、16デミスターでミストを除去された後、12排ガス出口より系外へ出て行く。デミスターは本発明のキャンドル型でもよいし、そうでなくてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】 特開平8−337406号公報
【特許文献2】 特開平9−30803号 公報
【特許文献3】 特開 2006−169106
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】 「株式会社ハイポテック 製品カタログ」
【非特許文献2】 硫酸協会編「硫酸ハンドブック」硫酸協会出版 昭和52年P406、407
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
銅、亜鉛、鉛などの非鉄金属を精錬する場合、原料となる各硫化鉱から亜硫酸ガスが発生するが二酸化硫黄は五酸化バナジウム触媒で三酸化硫黄に酸化され、三酸化硫黄は吸収塔で、濃硫酸により吸収され、さらに三酸化硫黄で濃縮された硫酸は当量分の水で希釈され、通常98%硫酸として製品になる。非鉄金属精錬以外に石油精製から得られる単体硫黄を原料として用いた場合や、生産量は少ないものの、硫化鉄鉱石を原料とする場合も同様である。従来の技術は、充填物が面構造の磁器充填物であるため吸収塔の塔径が大きく、酸霧の捕捉を吸収塔で行っていたため充填高も高く、従って充填容積が大きくまたレンガ張りの塔を用いていたために充填物重量および塔重量が大きく、基礎の負荷も大きかった。
【0009】
第1の課題
吸収塔充填物の軽量化
従来法では磁器充填物を用いていたために、重量があった。
【0010】
第2の課題
吸収塔塔径の低減
三酸化硫黄吸収塔は高温度、高濃度硫酸という厳しい環境下で運転されるために、材質的に厳しく、このため充填物材質には硫酸工業創業以来、磁器−セラミック−が用いられてきた。しかし磁器は重量があるばかりではなく、材質の性質上で成型される充填物の形状は面構造に限られ、吸収塔には面構造充填物である円筒型充填物−図4の17−やサドル型充填物−図4の18−が用いられてきた。面構造充填物はガス圧力損失が大きく、充填塔塔径は大きくなる。
【0011】
第3の課題
吸収塔充填高の低減
吸収塔内には三酸化硫黄分子、概略径が10−10m、酸霧、エアゾール状の細かい酸霧で概略径が10−7m、および飛沫同伴ミスト、概略径が10−3mの大きさの異なる3類の形で三酸化硫黄が混在する。三酸化硫黄分子の分子運動は激しく、吸収塔塔内ガス速度が2乃至3m/秒と速くても、三酸化硫黄分子はガス相から硫酸液相に到達できる十分の分子速度を有するために吸収が行われる。このように、吸収塔内で捕捉されるのは主に三酸化硫黄分子である。また飛沫同伴ミストは言わば雨粒と同様の粒子径を持ち、仮に吸収塔内で発生しても、慣性力で硫酸液あるいは吸収塔の出口側に設置された慣性衝突の効果を利用してミスト補修するデミスターに衝突して容易に捕捉される。しかし酸霧はブラウン運動速度で動くため、分子運動のような高速度も持たず、さらに慣性力を持つほどの質量もなく、ガスの流れに沿って、充填物表面をすり抜けやすく、吸収塔を捕捉されないまま、素通りしてしまう傾向が強い。
従来法では、三酸化硫黄分子と酸霧を厳密に区別して処理することは行われなかった。その最大の原因は、紫外可視スペクトル法や酸露点法などの分析法では三酸化硫黄分子と酸霧が厳密に区別して分析できないことにあった。例えば三酸化硫黄は90%しか吸収できていない場合、それは見かけ上三酸化硫黄分子と酸霧の合計量の吸収率であって、三酸化硫黄分子のみに着目すると99%吸収されていた、というような場合があった。すなわち充填塔は酸霧捕捉には不適切な装置であり、見かけの吸収率を例えば99%にするために充填高を徒に高くしている場合が多かった。また図3に示すように酸霧除去設備を充填塔の後工程に設置する例はあったが、充填物が磁器であり、フッ素樹脂ではないこと、また必ずしもキャンドル型ではないためガス速度が高く、酸霧除去が必ずしも満足のいくものではなかったし、また三酸化硫黄分子と三酸化硫黄酸霧を区別して処理するという設計思想がなく、充填塔の充填高が徒に高かった。
【0012】
第4の課題
吸収塔全体の軽量化
従来の充填塔は鉄製円筒にゴムをライニングしてさらにその上に耐酸レンガを貼り付けた構造であり、重量があった。また充填物を支持する構造物も磁器であり、これをさらに何本ものレンガ柱で支えなくてはならない。充填物のみならず塔全体も重量物であった。
【0013】
第5の課題
吸収塔を支える基礎の軽量化
第4の課題に記載したとおり吸収塔を支える基礎は従来大変高負荷であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
PFAのようなフッ素樹脂充填物を用いることにより、従来の磁器充填物に比較して、充填物重量を軽量化でき、さらに次のような理由から充填物の充填容量も減らすことができる。
上記第1の課題解決手段による作用は次の通りである。
PFAのような射出成型可能なフッ素樹脂を用いると図2のような線構造充填物を成型することが可能である。線構造充填物は圧力損失が小さく、吸収塔塔径を小さくできる。面構造はA面とB面つまり表裏を有する充填物であり、円筒形、サドル型−図4の17および18−などがある。面に切れ目を入れて線とし、これを湾曲させると線構造になり、面構造に比べて、圧力損失が減少してくる。
線構造充填物および面構造充填物の定義について以下に説明する。
【0015】
線構造充填物の定義を行う。
線構造充填物を非面構造充填物として定義することも可能であり、円筒面構造充填物に開口部を設けた充填物、商品名としてポールリング、カスケードミニリングや、サドル型面構造充填物に開口部を設けた充填物、商品名としてハイレックス、IMTPなどがあげられる。またリングを環状即ちドーナッツ状に配列した充填物も線構造充填物であり、商品名としてテラレットおよびロゼットがある。
板を上下に曲げ、開口させた充填物も線構造充填物であり、商品名としてラシヒスーパーリングがある。
しかしこれを定量化して定義するならば次のようになる。
2インチの充填物は表面積に換算して100平米/立米であるが、液量がゼロの条件で、常温、常圧の空気が1メートル毎秒の速度で充填層を通過する場合、充填高1m当たりの圧力損失が150Pa以上の充填物が面構造であり、また60Pa以下の充填物が線構造である。150乃至60Paの場合は遷域であり、面構造と線構造の中間の性質を有するものである。またサイズと液量ゼロにおける圧量損失は反比例するため、nインチの充填物では圧力損失を1/n倍すればよい。例えば1インチサイズでは表面積は200平米/立米となり、同一条件での圧損が2×150=300Pa以上が面構造、2×60=120Pa以下が線構造となり、他のサイズでも同様である。充計算ではPFA充填物を用いると磁器充填物の場合の塔径を1/1.5、塔断面積で1/2にすることが分かった。
【0016】
上記第2の課題解決手段による作用は次の通りである。磁器充填物、例えば2インチ円筒型充填物の重量は539kg/立米であり、一方例えば2インチ相当のPFA線構造充填物の重量は120kg/立米であり、磁器2インチ円筒型充填物の重量の1/15にできることが分かった。
【0017】
上記第3の課題解決手段による作用は次の通りである。顕微鏡下で花粉を観測すると、周りの高速分子が花粉に衝突して、いわゆるブラウン運動を起こすことが観測される。酸霧の速度はこのブラウン運動速度で動く。従ってガス速度の速い吸収塔では捕捉できず、酸霧除去装置のファイバー上を吸収塔内速度よりも遅い、0.03乃至0.2m/秒程度にゆっくりした速度でガスを流すとほぼ100%捕捉が可能である。吸収塔の後工程に酸霧除去装置を設置すれば、吸収塔充填高は三酸化硫黄分子吸収のみに着目できるために、吸収塔充填高さを低くすることができる。このように吸収塔と酸霧除去装置を直列につなぐシステムにより、吸収塔充填高を従来法の1/2にすることができた。吸収塔の後工程に酸霧除去装置を直列につなぐシステムを図1に表示する。
【0018】
上記第4の課題解決手段による作用は次の通りである。従来法では充填物が磁器であり、これがフッ素樹脂ライニングを傷つける恐れもあって、塔内ライニングは耐酸レンガ張りであった。本発明の例えばPFA線構造充填物−図2−はフッ素樹脂特有の性質である、低摩擦係数−スベスベした性質−であるため、充填作業の際に傷つけにくいこと、また充填塔が小さくなり、フッ素樹脂ライニングの使用量が減少し、施工しやすくなった。
また充填物の支持グリッドもこれまでは磁器であり、グリッドを支えるためにもさらに多くのレンガ支柱を必要とした。本発明のフッ素樹脂充填物の使用は、副次的な効果として、従来のレンガ張りをフッ素樹脂ライニングにすること、また充填物を支える磁器グリッドをフッ素樹脂グリッドにすることが可能となり、塔全体の軽量化が可能となった。
【0019】
上記第5の課題解決手段による作用は次の通りである。従来法では重量のある塔を支えるために大きな基礎を必要としたが、本発明により基礎を大幅に小さくすることが可能となった。
【発明の効果】
【0020】
充填物体積を従来法の約1/3に軽量化。
【0021】
充填物重量を従来法の約1/15に軽量化。
【0022】
充填塔重量を従来法の約1/12軽量化。
【0023】
充填塔総重量を従来法の約1/13軽量化。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明では線構造のフッ素樹脂充填物を用いたため吸収塔塔径の低減を可能とし、三酸化硫黄酸霧の捕捉を酸霧除去設備で別途行う組み合わせをしたために、充填高の低減を可能とし、従って充填容積の低減、さらに従来の磁器充填物では傷つけるために用いられなかったフッ素樹脂ライニングを施工することで塔重量の低減、基礎の負荷の低減を可能とした。
従来法と本発明の比較について以下に説明する。
【0025】
以下に硫酸工業での実際の運転データを示す。
無水硫酸を含むガス量が33400 立米/時間、三酸化硫黄ガス組成が8.1%、ガス温度が174℃、硫酸液量が210立米/時間、硫酸濃度が98%、硫酸温度が85℃の条件下において三酸化硫黄吸収率が99.8%の場合、従来の充填物である2インチ磁製円筒型充填物と本発明の一部であるフッ素樹脂線構造充填物で塔径と充填高の比較を行った。
【0026】
塔径計算は化学工学の通常法を用いる。即ち充填物1m当たりの圧力損失ΔPが300Pa/mとなるような、夫々のガス速度を図5から求めて夫々の塔径を決定した。
【0027】
図5の説明を行う。
図5の横軸は液ガス比、LΦ/Gであり、縦軸はガス質量速度G/Φであり、与えられた条件から液ガス比を計算し、それに該当するガス速度を縦軸から求める。液量L、ガス量Gの単位はkg/平米/時間であり、Φ値はガス密度による補正係数である。図5のパラメターとして、線構造充填物や面構造充填物を記載した。パラメター中のロゼットとラシヒスーパリングは商品名であり、これらは本発明の一部を構成する線構造充填物であり、ラシヒリングとインタロックサドルは商品名であり、これらは従来の面構造充填物である。
【0028】
2インチ磁製円筒型充填物の塔径計算を以下のように行った。
ガス容積からガス質量に換算する場合、ガス密度0.912kg/立米の補正をして、33400立米/時間のガス量は30461kg/時間となり、Φは0.872となる。ここでΦは運動エネルギーの法則から求められる補正係数である。
液量が210立米/時間の98%硫酸の密度1772kg/立米であるから、液量は372120kg/時間となる。
従って図5の横軸LΦ/Gは10.65となり、ΔPは300Pa/mにおける2インチ磁製円筒型充填物即ち2インチラシヒリングのガス質量速度はG/Φが3700 kg/平米/時間となる。Φ値、0.872を乗じてGは3226 kg/平米/時間となる。従ってガス速度は0.98m/秒、塔断面積は9.44平米となり、塔径は3.47mとなる。
【0029】
2インチフッ素樹脂線構造充填物の塔径計算を以下のように行った。
LΦ/Gが10.6、ΔPが300Pa/mの条件下において、図5より2インチフッ素樹脂線構造充填物即ちロゼットの場合、 G/Φが8000 kg/平米/時間、即ちGが6976 kg/平米/時間となるから、塔断面積は4.37平米、塔径は2.36mとなる。
この時、液量は85153kg/平米/時間である。
【0030】
NTUは吸収率99.8%から次のように計算できる。NTUは分母に100から99.8を差し引いた値を、分子に100をおき、全体を自然対数1nで括ると、NTU、6.2を得る。NTUにHTUを乗じると充填高となる。
【0031】
次に充填高を計算するが、2インチ磁器製面構造充填物即ち2インチラシヒリングの充填高は硫酸業界HTUの経験値、即ち、1.097m、から計算し、本発明である2インチフッ素樹脂線構造充填物即ちロゼットの充填高は実験により求めた。
【0032】
図6の説明の説明を以下に行う。
発明者らが2インチフッ素樹脂線構造充填物の充填高を計算するために行った亜硫酸ガス吸収実験データを図6に示す。
用いられた実験塔の塔径は600Φ、塔材質はステンレス、これに充填高が1.5mになるように、2インチフッ素樹脂線構造充填物を充填した。
無水硫酸分子のみを抽出して分析することは不可能であるか、例え分析できても精度が極めて低い。
そこで発明者らは亜硫酸ガスの苛性ソーダ水溶液による吸収実験を行い、これを物質移動の指標である、HTUで表し、拡散係数補正により、無水硫酸のHTUを求めた。亜硫酸ガスのHTUから無水硫酸のHTUを求めるには、亜硫酸ガスのガス側拡散係数と無水硫酸ガスのガス側拡散係数を知れば容易に計算ができる。
即ちHTUが拡散係数の0.5乗に反比例することを利用するわけであるが、これは多くの化学工学データで高精度に確認されている真実である。
【0033】
2インチフッ素樹脂線構造充填物のHTU、充填高の計算を以下のように行った。
亜硫酸ガスの25℃空気中の拡散係数、DGは0.150 cm/秒 であり、無水硫酸ガスの85℃における窒素ガス中の拡散係数、DGは0.1118 cm/秒である。
2インチフッ素樹脂線構造充填物におけるガス質量速度、Gは6976 kg/平米/時間、液質量量速度、Lは85153 kg/平米/時間である。
図6、亜硫酸ガスの苛性ソーダ水溶液による吸収実験から同ガス量、同液量のHTUは0.49mである。
HTUは拡散係数の0.5乗に反比例するから、無水硫酸ガスの98%硫酸によるHTUは0.57mになる。従って充填高はHTUにNTU値、6.2を乗じ、さらにスケールアップファクター1.3を乗じて4.6mとなる。
亜硫酸ガスの苛性ソーダ水溶液による吸収も無水硫酸ガスの98%硫酸による吸収も分圧ゼロの系であるから、液側拡散係数補正は無視できる。
吸収塔で無水硫酸ガスは99.8%除去できているが、出口ガスには未だ多くの酸霧が残存しており、酸霧は後工程の酸霧除去設備で捕捉されることになる。
【0034】
2インチ磁器面構造充填物の充填高の計算を以下のように行った。
HTUの硫酸業界にあける経験値は1.097mであり、これにNTU値、6.2を乗じ、充填高は6.8mとなる。
これは現場のデータであるから、スケールアップファクターは1である。
【0035】
二つの充填物の結果を表1にまとめた。
【表1】

【0036】
比較の考察を行う。
本来、二つの充填物の充填高はほぼ同一でなくてはならず、むしろ磁器とフッ素樹脂の撥水性の違いを考慮するならば、従来法の磁器充填物のほうがHTUは小さくなるべきであり、充填高も低くなるべきである。
しかし結果は反対になり、撥水性のある2インチフッ素樹脂線構造充填物の充填高が低くなった。これは従来法が酸霧まで吸収塔で除去しているために、充填高が高くなったためである。
【0037】
さらに発明者らはこれらを実施例で確認すべく次のような実験を行った。
実施例の共通条件は次の通りである。
【0038】
材質および塔径はステンレス製の250Φの塔、
充填物1はフッ素樹脂製1インチ線構造充填物、
充填物2は磁製1インチ面構造充填物である。
充填高は1.5m、入口ガス組成は三酸化硫黄が8%であり、残りは窒素ガスである。
ガス分子量は30、ガス温度は150℃、圧力は1 atm、ガス密度は0.86kg/立米である。
酸霧を含む全三酸化硫黄の分析方法には紫外可視スペクトル法を用いた。
【実施例】
【0039】
塔径250Φのステンレス製テスト塔を用いてフッ素樹脂1インチ線構造充填物、この時表面積は190平米/立米、を充填高が1.5mになるように充填した。
図1に示すように、充填塔の後工程にガス速度が0.05m/秒になるようなろ過面積、1.7平米、を有するキャンドル型酸霧除去設備を直列に設置し、本発明のシステムのパイロット設備を構成した。実施例1は充填物1による水吸収実験、実施例2は充填物1による硫酸吸収実験、実施例3は充填物2による硫酸吸収実験である。
【実施例1】
【0040】
充填物1を用いた。
全ガス量は300 立米/時間即ち8.66kmol/時間。
入口三酸化硫黄量は0.693kmol/時間、即ち67.6kg/時間。
ガス質量速度、G/Φは5250 kg/平米/時間
吸収水は水であり、吸収水温は80℃であった。
入口水量は10立米/時間であり、充填物1の圧力損失は230 Pa/1.5m であった。
実験結果は次の通りである。
充填塔出口ガスは三酸化硫黄酸霧で白煙がもうもうと立ちこめ、出口水硫酸濃度は0.01%であった。即ち物質収支から充填塔の三酸化硫黄の吸収効率は1.5%であった。充填塔では殆どの三酸化硫黄が酸霧に転化し、僅かな三酸化硫黄しか吸収できなかったことが分かる。またキャンドル型酸霧除去設備後の三酸化硫黄を測定し、システム入口/出口の全三酸化硫黄除去率を計算すると91%となった。
【実施例2】
【0041】
充填物1を用いた。
吸収液は98%硫酸、硫酸温度は80℃、入口硫酸量は52500kg/平米/時間、即ち2575kg/時間、充填物1の圧力損失は242 Pa/1.5mであった。
実験結果は次の通りである。
充填塔出口三酸化硫黄の吸収効率は96.3%であった。
これは通常の吸収効率である99.8%に対して極めて性能は悪く見えるが、三酸化硫黄分子のみに着目すると、99%以上、吸収されているものと推測される。
キャンドル型酸霧除去設備後の三酸化硫黄を測定し、システム入口から出口に至る全三酸化硫黄除去率を計算すると99.82%となった。
【実施例3】
【0042】
充填物2を用いた。
実験結果は次の通りである。
実施例2と同一条件で磁製1インチ面構造充填物で実験したところ、システム全体の吸収率は99.83%と実施例2より僅かに向上したが、同一圧力損失におけるガス量は液ガス比が同一で、155立米/時間しか流せなかった。
即ち従来の面構造充填物では本発明の線構造充填物の約半分のガス量しか処理できないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
硫酸工業には多くの既設の無水硫酸吸収塔がある。これらは全て第2次大戦前の技術で建設されており、非常に重量が有り、維持管理にも人と経費が掛かっている。
無水硫酸ガスと酸霧の挙動を解析して、吸収塔と酸霧除去装置を合理的に組み合わせ、吸収塔をフッ素樹脂充填物とフッ素樹脂ライニングに置き換え、軽量化することは長らく硫酸業界で期待されていたシステムであった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態を示す三酸化硫黄の捕捉システム
【図2】本発明を構成するフッ素樹脂製線構造充填物AおよびB
【図3】従来の三酸化硫黄−三酸化硫黄−の捕捉システム
【図4】従来の磁器製面構造充填物 円筒型充填物およびサドル型充填物
【図5】線構造充填物、面構造充填物のフラッディングチャート−300Pa/m−
【図6】2インチフッ素樹脂線構造充填物の亜硫酸ガスの苛性ソーダ水溶液吸収HTU実験データ
【符号の説明】
【0045】
1 硫酸入口
2 硫酸出口
3 排ガス出口
4 三酸化硫黄ガス入口
5 キャンドル型酸霧除去装置
6 線構造のフッ素樹脂充填物
7 フッ素樹脂ライニングした吸収塔
8 フッ素樹脂製線構造充填物A
9 フッ素樹脂製線構造充填物B
10 硫酸入口
11 硫酸出口
12 排ガス出口
13 三酸化硫黄ガス入口
14 面構造の磁器充填物
15 ゴムライニング+レンガ張りした吸収塔
16 デミスター
17 磁器製面構造充填物A 円筒型充填物
18 磁器製面構造充填物B サドル型充填物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロアルコシキ樹脂即ちPFA、4フッ化樹脂、4フッ化エチレン−エチレン共重合樹脂即ちETFE、2フッ化樹脂であるフッ化ビニリデン樹脂即ちPVDF、2フッ化共重合樹脂などの射出成型可能なフッ素樹脂で成型された図2の8および9に示すような線構造充填物を充填することを特徴とする三酸化硫黄吸収塔。
【請求項2】
請求項1に記載された三酸化硫黄吸収塔と三酸化硫黄吸収塔の後工程に直列になるように配備されたフィルタ面に垂直な通過ガス速度が0.03乃至0.2m/秒の範囲でガスが流される、ファイバーを有するキャンドル型酸霧除去装置と組み合わせることを特徴とする三酸化硫黄の捕捉システム。
【請求項3】
請求項1に記載された三酸化硫黄吸収塔内面に従来法で施工されていたゴムライニングおよび耐酸レンガの代わりにフッ素樹脂ライニングを施工したことを特徴とする三酸化硫黄吸収塔。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−264431(P2010−264431A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134472(P2009−134472)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(508184538)第一エンジニアリング株式会社 (2)
【Fターム(参考)】