説明

下水処理方法

【課題】
下水処理場における排水含有有機物の腐敗を防止して、臭気の発生を抑え、余剰汚泥を減量化して処理負担を軽減化できる下水処理方法を提供する。
【解決手段】
排水を、管渠と中継ポンプ場とを介して下水処理場に送って生物処理する下水処理方法であって、前記管渠内に前記排水中の有機物を分解する機能を有する微生物を含む微生物製剤を前記中継ポンプ場から投入し、前記中継ポンプ場から前記下水処理場までの前記管渠内において、前記微生物製剤から生じた微生物により、前記有機物の少なくとも一部を分解することを特徴とする下水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般家庭の生活排水や一部事業所の事業所排水等の下水に対する下水処理場を用いた下水処理方法に関し、特に、下水処理場等で発生する腐敗臭気等を改善でき、かつ下水処理場の処理負荷を低減できる下水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般の家庭排水や、一部事業所の有機物を含む事業排水等の排水(いわゆる下水)は、管渠を経由して下水処理場等に集められ、微生物による好気的酸化処理をされて浄化放流されるのが通常である。また一般の家庭が分散している農村や漁村の集落の家庭排水も、やはり管渠を経由して同様な処理設備に集められて、微生物による好気的酸化処理で浄化されることが多い。
【0003】
この下水処理場等では、嫌気性雰囲気である沈砂池や最初の沈殿槽(初沈槽)や重力濃縮槽での、下水含有物の腐敗による生物化学的酸素要求量(BOD)の増加や臭気の発生等の問題が知られており、さらに、初沈槽等における沈殿物の腐敗に起因する重力沈降効率の悪化や、返流水による初沈槽の水質悪化等の問題点もある。
【0004】
しかしながら、現在の下水処理場の管理においては、これらの問題点は下水というものの性質上やむを得ないものと考えられており、腐敗や臭気の発生原因等にメスが入れられることもなく、何らかの根本的な改善を行おうとする観点はほとんど持たれていないのが実情である。そのため、臭気に対する対策として、臭気用ダクト施設の強化、密閉用め張りの強化や消臭剤の使用等がなされているに過ぎない。
【0005】
現状の流入下水のBOD値と初沈槽の入口または出口のBOD値とを比べれば、初沈槽入口や出口のBOD値がしばしば高くなっており、このBOD値の増加が、下水入り口から初沈槽出口間のプロセスで腐敗が起ったり、沈降した懸濁成分(SS)が可溶化したりした結果であることは明らかである。また、腐敗した返流水によってもBODが増加するため、これらのBOD増加分に対応する曝気量の増加が必要になり、曝気槽の負荷増加を招いている。また、初沈汚泥の腐敗進行の結果、凝集剤の多用や消臭剤の使用が必要となっている。ちなみに、沈砂池や初沈槽は当該物を沈降させる設備であるから、好気的に腐敗防止対策を打つことは困難である。
【0006】
ところで、従来より活性汚泥法における浄化促進のための種々の方法が提案されている。例えば、汚泥中のバチルス菌以外の微生物群を選択的に死滅させることで、生物処理槽内でバチルス菌を優占化させる有機性排水の処理方法が開示されている(特許文献1参照)。また、あらかじめ有機性廃水にバチルス菌などの内生胞子形成細菌を含む汚泥を混合し、内生胞子形成細菌の胞子を発芽させて栄養細胞に転換し、その栄養細胞を含む混合液を曝気槽に投入する方法が開示されている(特許文献2参照)。また、複数の微生物反応槽を設け、微生物栄養源含有液が、複数の反応槽の間を交互に移動する微生物反応方法等が開示されている(特許文献3参照)。
【0007】
しかし、これら従来の方法はいずれも、好気性雰囲気である曝気槽以降の工程で有効に作用する方法にすぎず、その前段に設けられている嫌気性雰囲気の沈砂池や初沈槽あるいは重力濃縮槽等で生じる上述の問題点を解決しようとする視点は、先行文献には開示されていない。
【特許文献1】特開2004−275960号公報
【特許文献2】特開2001−162297号公報
【特許文献3】特開2003−71479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、下水処理場の沈砂池から重力濃縮槽までの、曝気槽の前段に位置する処理工程における排水含有有機物の腐敗を防止して、硫化水素等の臭気の発生を抑え、さらに余剰汚泥を減量化して処理負担を軽減化できる下水処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のために本発明者らは鋭意検討した結果、以下の方法に到達した。即ち、本発明は、排水を、管渠と中継ポンプ場とを介して下水処理場に送って生物処理する下水処理方法であって、前記管渠内に前記排水中の有機物を分解する機能を有する微生物を含む微生物製剤を前記中継ポンプ場から投入し、前記中継ポンプ場から前記下水処理場までの前記管渠内において、前記微生物製剤から生じた微生物により、前記有機物の少なくとも一部を分解することを特徴とする下水処理方法である。
【0010】
ここで、前記中継ポンプ場から前記下水処理場までの前記管渠の長さが、5km以上あることは好ましい。また、前記の微生物が、前記有機物の分解能を持ち芽胞を形成するグラム陽性菌であることは好ましい。また、前記微生物製剤を前記管渠内に投入するにあたり、前記微生物製剤をあらかじめ水に分散してから、もしくはあらかじめ水に分散して曝気し栄養細胞としてから、投入することは好ましい。また、前記微生物が、前記有機物の分解能を持ち芽胞を形成しないグラム陰性菌であり、前記微生物製剤は、前記グラム陰性菌が米ぬかまたは麦ぬかを用いて固形化された固体微生物剤であることは好ましい。また、前記微生物製剤が、グラム陽性菌とグラム陰性菌とを含んだ固体微生物製剤であることは好ましい。また、前記の微生物が、バチルス属であることは好ましい。また、前記の微生物が、バチルス・トヨイ菌であることは好ましい。また、前記の投入にあたり、前記排水1ml中の前記微生物の菌数が、前記排水中に元々存在する1mlあたりの菌数の1/1000以上となるように、前記の微生物製剤を投入することは好ましい。
【発明の効果】
【0011】
中継ポンプ場から管渠内に投入された微生物が、意外にも管渠内で有機物の分解作用を発揮することができ、下水処理場内の沈砂池、初沈槽、重力濃縮槽における腐敗が抑制される。その結果、硫化水素等の臭気が押さえられる。また、沈砂池への返流水の腐敗も押さえられ、その結果、沈砂池の下流に位置する初沈槽の水質も改善され、BODの低下した生物排水が曝気槽へ流入するから、曝気槽の処理負担が軽減される。さらに、曝気槽では管渠に投入され流下してきた微生物が増殖できるため、安定な水処理が可能となり、余剰汚泥も減量化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態例を図面も引用しながら説明する。図1は、本発明の方法を現在用いられている一般的な下水処理フロー全体を用いて実施する場合を説明する概念図である。住宅やマンションの生活排水1や食品製造工場のごとき事業所からの事業排水2が含まれる排水は、管渠3を経て集水され、中継ポンプ場5、6に集まる。続いて中継ポンプ場5、6から口径の比較的大きな管渠7、8を経由して下水処理場9の沈砂池10へ流入し、下水処理される。
【0013】
ここにいう管渠とは、下水道の一部で、下水を住宅、工場などから排除して、中継ポンプ場を経由して下水処理場等に送るための通路であり、暗渠とされるのが通常である。管渠は、断面が円形(特に下水管と呼ばれる)、半円形、卵形、馬蹄形、長方形等のものであり、管径が15cm程度以上のものをいう。また、雨水を合流させる合流式の管渠を含めても良いが、菌の環境を一定に保つためには、雨水を合流させない分流式の管渠とするのが好ましい。
【0014】
中でも、中継ポンプ場から下水処理場までつながる管渠では、管渠は下水量の7〜5倍程度の管径となるように設計されるのが通常であり、管体積の2割程度に下水が流れ、残りの8割程度は空気となる。このような管渠内では、管渠内に十分な空気量があるため、管渠内が好気性雰囲気となる。
【0015】
また、中継ポンプ場とは、ある下水の排水区の下水を、下水処理場が有る排水区に送入するためや、管渠の埋設深さや勾配の関係で下水を中継するために、専用用地内に設けられたポンプ場を言う。中継ポンプ場は、市街地に設けられることが多い。
【0016】
この中継ポンプ場において、排水中の有機物を分解する機能を有する微生物を含む微生物製剤を管渠内に投入する。これにより、排水が管渠内を流下する間に、管渠内の好気性雰囲気を利用して微生物製剤から発生する微生物を増殖せしめ、下水処理場における腐敗の原因となる有機物をできるだけ分解することが可能であることを見出した。
【0017】
微生物製剤の投入は、住宅等の生物排水の発生現場で行ったり、道路の地下に設けられているマンホールポンプ場で行ったりすることも考えられるが、比較的高価なバチルス属の菌等を含む微生物製剤を効率よく投入するには、投入量や投入頻度の管理がしやすく、かつその後の管渠の管径が比較的大きくて、微生物の増殖に好適な環境となりやすい中継ポンプ場で投入するのがよい。排水の発生現場から下水処理場までの間に複数の中継ポンプ場が有る場合は、全部の中継ポンプ場で投入するようにしても良いが、微生物の増殖にとってもっとも好ましいと思われる中継ポンプ場を少なくとも一ヶ所選択して、投入するのが効率的で低コストとなり好ましい。
【0018】
ところで、元々多くの菌が存在する管渠内に、有機物分解機能に優れる後述のバチルス属の菌のような微生物を投入しても、菌濃度が低下することによって菌の活力が低下し、微生物本来の分解性能を発揮することが難しいと予想された。さらに、微生物は水温や溶存酸素などの適した環境、好む餌などが満たされないと増殖・優占化しないため、バチルス属の菌が優占化していない条件の管渠に菌を投入しても、増殖・優占化させることは難しいと考えるのが常識で、目的とする効果が発揮できないと考えられた。しかし、意外にも微生物の投入により管渠内で微生物の増殖が見られ、下水処理場での臭気の低減化等の効果が得られる結果となった。
【0019】
このような結果が得られた理由は不明であるが、管渠内は、酸素の溶解作用と流れによる攪拌作用とが生じる一種の好気性生物反応槽と考えることができること、また、管渠の比較的長い流下距離が、生物反応時間(HRT)を稼ぐところとなったことも一因と考えられる。この結果、投入された微生物が管渠内の有機物を食べながら増殖しつつ流下する過程において、腐敗の原因となる易分解性有機物が処理され、下流にある下水処理場の沈砂槽、初沈槽及び重力沈殿槽における、易分解性有機物の腐敗を防止する効果が得られた。また、これらの槽内においても、先に投入された微生物が増殖することができ、続く活性汚泥槽での有力な有機物分解微生物種となり、ひいては余剰汚泥も減容される効果が得られる。
【0020】
中継ポンプ場から下水処理場までの管渠の流下長さは、5km以上あることが好ましい。このように距離を持たせることにより、排水が管渠内を流下するのに短くとも5〜7時間程度を要するようになり、この間に排水内の有機物が分解される時間をより稼ぐことができる。中継ポンプ場から下水処理場までの流下長さは、下水処理場の設置場所にもよるが通常およそ5〜40kmはあり、排水は数時間から半日の時間を要して下水処理場へ達する。この時間は下水処理場の曝気槽における滞留時間(HRT)にほぼ対応するかそれ以上の管渠内滞留時間であるから、管渠を生物反応槽として利用するのに十分な時間となる。より好ましくは7km以上あることであり、さらに好ましくは10km以上である。
【0021】
管渠内に投入する微生物製剤としては、製剤から得られる微生物が、管渠内で排水内に含まれる有機物を有効に分解できる微生物であればよいが、管渠内で増殖できて優占種となり得る微生物であることはより好ましい。
【0022】
微生物製剤の形状は管理上、長期安定に保存できる芽胞が好ましい。例えば、芽胞をつくるグラム陽性菌が取り扱いやすく好適である。菌自身が芽胞で安定であり、固体の混合物の状態で1年以上安定に生育できる。一方、芽胞にならない栄養細胞であるグラム陰性菌は麦ぬかや米ぬかと混合し固体化すると良い。グラム陰性菌の栄養細胞は麦ぬかや米ぬか等での混合物で乾燥させ固体の微生物製剤とすることができ、製剤としての保存期間が短いものの有効に使用できる。
【0023】
芽胞菌としては、バチルス属が有機物分解能が高く、また嫌気性菌の活動も押さえ臭気を少なくすることが出来、好適である。芽胞菌は長い下水管渠を流下して行く間に周囲の下水成分から栄養を得て、栄養細胞となり管渠内流下や管渠内壁に付着して、下水中の有機物分解を行い、また自らは分裂し増殖をしていく。
【0024】
中でもバチルス・トヨイ菌は、家畜の腸内で整腸効果をもたらす微生物として動物製薬としても使用されており、有機物の分解能が高く、しかも嫌気性状態でも活性が高く、増殖もし、管渠中は活動のための酸素濃度が必ずしも十分ではないが、動物腸内の状況に比較的類似した条件でも活性を保ち、活性汚泥菌としての活性が高くてもっとも好適な微生物である。
【0025】
ところで、排水中に元々存在する微生物の一般的な菌数は、105〜106個/ml程度であるが、管渠内に投入すべき微生物の量としては、排水中の投入微生物の菌数が1mlあたり103個以上となるように設定することが好ましい。つまり、一般的な排水中に元々存在していた微生物数の約1000分の1以上とするのが好ましい。この範囲となる微生物製剤の量比であれば、投入された微生物は、管渠内で十分に活動できて増殖を続けることができる。微生物製剤の投入量が多い程その効果は確実であるが、製剤の費用と得られる汚泥減量や電気代削減の効果のバランスから、適切な投入量には自ずと上限がある。管渠流下中での投入微生物の増殖の結果、さらには沈砂池、初沈槽を経て、1mlあたり108から109個程度の微生物が存在する曝気槽内でも、投入微生物が水処理性能を発揮できる活動を示すことができる。より好ましくは500分の1以上である。
【0026】
微生物等の投入法は、中継ポンプ場の管理状態に合った投入法を、投入箇所と管理の状況により適宜決めればよい。規定量の粉体をそのまま投入しても、粉体をあらかじめ水に分散させてからポンプ注入してもよいが、水に分散してからポンプ注入するのが簡便で好ましい。芽胞を形成するグラム陽性菌を用いる場合は、グラム陽性菌を含む微生物製剤をあらかじめ水に分散させ、さらに曝気して栄養細胞としてから投入するのが、有機物の分解効果が高くなり好ましい。
【0027】
また、排水は常時流下していくので、微生物製剤は連続して管渠内に投入するのが好ましいが、毎日一回や三日に一回のごときペースで間欠的に投入するなどの投入方法でも良い。管渠内にある期間投入され続けた微生物が、十分管渠内で馴養され管渠壁等に増殖するようになれば、投入間隔を広げるようにしてもよい。例えば、中継ポンプ場の管理者のいない休日等は、休日前に通常の量より多い量を投入するなどの方法を採ってもよい。
【0028】
管渠中で有機物の少なくとも一部が分解された排水は、下水処理場9の沈砂池10に流入し、一定時間、沈砂池に滞留する。この間に、排水中に含まれる大きなゴミや砂などが沈降除去される。砂などが除去された排水は、沈砂池10から配管12を経て初沈槽13に移動する。初沈槽13では、排水をさらにゆっくり流し、沈砂池10で取り除けなかったゴミや泥等を沈降・除去する。
【0029】
初沈槽13で泥などを除かれた排水は、配管18を経由して曝気槽20に移動する。また、初沈槽13で沈降した汚泥14は、初沈槽13から引き抜かれて配管15で重力濃縮槽16に移送される。重力濃縮槽16では、引き抜かれた汚泥を貯めてさらに汚泥成分を沈澱させて濃縮する。重力濃縮槽16で濃縮された初沈汚泥28は、汚泥貯留槽30に送られる。一方、重力濃縮槽16で汚泥を除かれた残りの排水は、返流水17として沈砂池10に返される。返流水17の量は、下水処理場に流入する排水の約5〜10%である。
【0030】
上記の沈砂池10、初沈槽13、重力濃縮槽16で構成される一連の処理工程は、曝気槽20の前段に位置し、沈降により汚泥などを除去する機能を発揮させるため、曝気や攪拌などの処理を行うことができない。そのため、好気性処理ができない嫌気性雰囲気となっており、従来、排水に含有される有機物の腐敗が生じやすかった。そのうえ、腐敗した有機物を含有する排水が返流水17として沈砂池10に戻り、以下、初沈槽13〜重力濃縮槽16〜沈砂池10を循環するため、さらに腐敗が進みやすかった。なお、後述する脱水機32からの返流水33も量は少ないがBOD値が高く、沈砂池10の水質悪化に輪をかけていた。
【0031】
しかし、中継ポンプ場から管渠内に微生物製剤が投入されることで、沈砂池10に流入する排水中の有機物量が減少し、沈砂池10での腐敗が生じにくくなる。そのため、初沈槽13や重力濃縮槽16でも腐敗が生じにくくなり、返流水17もBOD値が上昇しにくくなる。すなわち、沈砂池10〜初沈槽13〜重力濃縮槽16で構成される循環サイクル全体で腐敗が生じにくくなり、臭気の発生も抑えられることになる。さらに、返流水33のBOD値も改善されるから、循環サイクル全体でかなりの改善が生じる。
【0032】
なお、沈砂池10から初沈槽13を経て最も腐敗の進行する重力濃縮槽16に至る工程は、いずれもSS成分を沈降させるための設備であり、かつ水中の酸素は全て消費されて酸化還元電位(ORP)はマイナスの状態である。従って、従来のこの状態で有機物の腐敗を抑えることは常識的に不可能である。ちなみに、沈砂池10に腐敗防止用の好気性微生物製剤を投入して初沈槽13以降の腐敗抑制を行うことも考えられるが、ORPがマイナスの状況で好気性菌を投入しても、腐敗防止の効果はないのが実情である。
【0033】
初沈槽13から曝気槽20に移動した排水は、曝気槽20の好気性雰囲気下で活性汚泥により生物処理され、活性汚泥が排水中に溶け込んだ汚れを栄養として吸収または吸着して分解または沈降しやすい汚泥に変化させる。この際、曝気槽20に流入する排水内の有機物含量が減少しているから、曝気槽20における空気量が減少し、また処理に必要な活性汚泥量も減容する。
【0034】
曝気槽20で処理された排水は、配管21を経由して終沈槽22に移動し、活性汚泥23が沈降処理される。活性汚泥が沈降除去された上澄み液は、配管40を経由して塩素消毒された後、河川や湖などの公共水域に放流される。一方、終沈槽22で沈降除去された活性汚泥23は、配管24を介して一部が曝気槽20に返送汚泥25として戻され、残りは、余剰汚泥として余剰汚泥機械濃縮槽26に送られる。あらかじめ管渠内に微生物製剤が投入されることで、曝気槽20の負担が減少した結果、余剰汚泥機械濃縮槽26に移動する余剰汚泥の量も減少し、曝気槽20以降の汚泥処理の負荷が全体的に軽減される効果が得られる。
【0035】
余剰汚泥機械濃縮槽26では、機械で遠心力が加えられ汚泥濃度が上昇し、汚泥はさらに汚泥貯留槽30に送られる。汚泥貯留槽30では、重力濃縮槽16から送られた初沈汚泥28と合わせて貯留する。あらかじめ管渠内に微生物製剤を投入することにより、初沈汚泥28、余剰汚泥27のいずれも減少する。これらの汚泥は、一定量が貯まると汚泥貯留槽30から配管31を介して脱水機32に送られ、必要により凝集剤を添加して、遠心力により脱水されて脱水ケーキ35となる。脱水ケーキは場外に搬出され、焼却処分等の最終処分がなされる。
【0036】
一方、脱水機32で汚泥から分離された絞り水は、量は少ないものの返流水33として沈砂池10に戻される。あらかじめ管渠内に微生物製剤が投入されているため、この返流水33でも腐敗が生じた状態になりにくく、比較的良好な水質の返流水33が沈砂池10に返されることになる。これにより、さらに沈砂池10における腐敗が防止され、臭気の発生も生じにくくなる。
【0037】
なお、腐敗により発生する臭気の程度の測定は、下水処理場に従来から設けられている脱臭設備の臭気ダクトの測定口で行えばよい。また、排水などの水質の測定は、通常のサンプリングにより随時行えばよい。例えば、沈砂池10の排水の流入口や、返流水34や初沈槽出口の配管18等で測定し管理すればよい。さらに、微生物製剤を投入することによる効果の程度は、各測定値の前年同月比などで確認することができる。
【0038】
以上説明したように、投入された微生物製剤が、従来考えられてきた常識に反して管渠内で増殖して排水内の有機物を分解するように機能でき、その結果として下水処理場における腐敗が減少し、臭気の発生が減少し、さらに後工程で処理すべき汚泥の減容が生じるという画期的な効果が得られる。このような生物処理プロセスは、上記したようなBODを分解するための好気性処理を用いる場合だけではなく、脱窒のための嫌気−好気法または嫌気−無酸素−好気などの、嫌気性処理を組み合わせた処理法のプロセスにおいても有効である。また、汚泥処理工程などの曝気槽以降の処理工程を変型することもできる。以下、実施例をもって本発明をより具体的に説明する。
【実施例1】
【0039】
図1に示したものと同じ処理工程を有するA下水処理場を用いて試験を行った。A下水処理場の排水の処理能力は13,500m3/日であり、現流入量は12,000m3/日であり、活性汚泥の処理方法は機械濃縮方式であり、汚泥濃縮槽から脱水機に掛けられた脱水ケーキは場外搬出されている。微生物製剤を投入する予定の中継ポンプ場から下水処理場までは約15kmの距離であり、これが管渠の流下長さにほぼ等しい。
【0040】
微生物製剤として、バチルス・トヨイ菌と、グルコース、炭酸マグネシウム、アミノ酸とが均一分散された粉体を用意し、この製剤を投入直前に水に分散させて、バチルス・トヨイ菌の濃度が6×109個/mlとなるように調整し、投入用の本液とした。
【0041】
投入方法は以下の通りとした。まず初日に本液を60L、中継ポンプ場に設けられた投入孔から投入する。2日目には同様にして12Lの本液を投入する。以降、毎日本液を12Lずつ投入する。排水12,000m3に対して本液12Lの投入で、本液の生物排水中の比率は約1ppmとなるから、バチルス・トヨイ菌の排水中の定常的な菌体濃度は、計算上6×103個/mlとなる。
【0042】
水質の効果判定用の分析項目は、沈砂池入り口の排水の性状としてのSS濃度及びBOD値と、重力濃縮槽からの返流水を循環して均質化された初沈槽出口水の透視度、pH、SS濃度及びBOD値とし、微生物製剤投入後のこれらの測定値の月毎の平均値を求めた。そして、これらと前年、前々年の各測定値の月毎の平均値とをそれぞれ対比して、効果を判定した。また下水処理後の水質は、終沈槽の出口水の透視度、SS濃度及びBOD値を測定して、微生物製剤投入前と対比した。
【0043】
曝気槽入り口前までの排水の腐敗に関しては、曝気槽入り口前に設けられている脱臭設備のサンプリング孔から気体サンプルを採取し、これの硫化水素とメチルメルカプタンとの濃度を測定することで判定した。また、重力濃縮槽に貯留される汚泥の高さを、汚泥と上澄みとの界面の位置で測定して対比した。
【0044】
曝気槽における評価は、曝気槽中のSS成分、MLSS濃度、及びVSS率、曝気量及び曝気倍率、返送汚泥濃度、返送汚泥のドライスラッジ(DS)量及び返送汚泥量をそれぞれ測定し、これらの経時変化を観察して行った。余剰汚泥の評価に関しては、微生物製剤の投入後の余剰汚泥の終沈槽からの引抜き量、余剰汚泥の濃度及びDS量を測定し、微生物製剤投入前の測定値と対比した。
【0045】
A下水処理場における、平成15年から微生物製剤の投入評価を行った平成17年までの実績排水の流入水量を表1に示す。微生物製剤の投入は、平成17年3月20日にスタートし、9月20日までの6ヶ月間、毎日投入を実行した。3月、4月を管渠内及び下水処理場内の沈砂池、初沈槽、初沈重力濃縮槽及び曝気槽での馴養期間とした。
【0046】
【表1】

【0047】
平成14年から17年までの3月、4月の下水処理場への流入水のSS濃度及びBOD値と、各年の4月から8月までのSS濃度及びBOD値の平均値とをそれぞれ測定し、表2に示した。表2から、微生物製剤の投入前後でSS濃度の変化はほぼないが、BOD値は平成17年の4月から8月までの平均が115ppmであり、それ以前の3年間と比較して明らかに低下しているのが確認できる。念のため、平成17年の投入開始前の3月と開始後の4月から9月までの流入水性状の詳しい評価結果を表3に示す。投入後はいずれの月においてもBOD値が平均して低下していることがわかる。このことから、微生物製剤の投入により管渠中で排水に含まれる有機物の一部が分解されて、浄化が行われていることがわかる。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
管渠から下水処理場に流入した排水は、まず沈砂池10に流入する。沈砂池10には下水処理場内の循環水であるところの、重力濃縮槽16からの返流水17と、脱水機32からの絞り水である返流水33とが合わさった合計の返流水34が流入する。ちなみに合計の返流水34の量は、下水処理場へ流入した排水量の5〜10%程度となる。
【0051】
沈砂池10を出た排水は、配管12を介して初沈槽13に移り、ここでSS成分が沈降し、その上澄水が初沈槽13から配管18を介して曝気槽20に流入し、ここで活性汚泥処理を受ける。初沈槽出口水のSS濃度やBOD値についての、馴養前の平成17年3月と4月の測定結果と、馴養後の同年5月から9月までの測定結果と平均値とを表4に示した。この表4から明らかなように、馴養前後でSS値には明確な差異は見られないが、BOD値の平均値は馴養後に平均88ppmとなり、それ以前と比較して明らかに低下しており、微生物製剤の投入による初沈槽での効果が読み取れる。
【0052】
【表4】

【0053】
次に、初沈槽13から汚泥が移動する重力濃縮槽16の、脱臭設備の排気ダクトにおける臭気ガス濃度を測定した結果を表5に示した。測定対象ガスは硫化水素とメチルメルカプタンとした。馴養期間の3月から4月中は、硫化水素濃度は10〜15ppmの濃度であり、メチルメルカプタンは定量下限値以下の濃度ではあるが、定性的には存在することがガス検知管法で確認できた。一方、馴養後の5月から9月の間は、硫化水素は0〜2ppm程度まで下がり、メチルメルカプタンは定性的にも検出できなかった。管渠への微生物製剤の投入により、重力濃縮槽16における腐敗進行が抑制されていることがわかる。
【0054】
【表5】

【0055】
さらに重力濃縮槽16の汚泥界面の高さを測定して、汚泥量を評価した。結果を表6に示した。微生物製剤投入当初は汚泥界面はおよそ1mと高く、かつ表5のガス測定結果に示したように硫化水素が10ppm以上有り腐敗発酵している状況であった。投入微生物の馴養が進んだ5月から汚泥界面は降下して、40cm弱で安定した。同時に硫化水素の発生が抑えられた。微生物製剤の投入により、沈砂池10、初沈槽13、重力濃縮槽16において発生する汚泥の量が減少していることがわかる。
【0056】
【表6】

【0057】
次に、初沈槽13から曝気槽15に流入した排水は、ここで活性汚泥処理を受けるので、この曝気槽15における処理条件と活性汚泥槽の改善効果及び生物処理された水質を表7に示した。あらかじめ定めた所定の水質を得るために、曝気空気量を変化させて運転するのであるが、生物排水の流入量に対する曝気空気量の体積倍率を意味する各月の曝気倍率は、3月、4月に比較して5月から下がりはじめ、9月では4.6倍まで低下している。
【0058】
また、曝気槽15のMLSSは、3月、4月は1700から1800程度であったが、馴養が十分に終了した時点では1500から1400台へと徐々に低下してきた。これは曝気倍率が馴養の進行と共に低下することとも整合する。さらに、活性汚泥槽のVSS率も約2%低下しており、汚泥中の有機物量(活性汚泥菌の量)も減っていることがわかる。以上のことから、明らかに曝気槽15における処理負荷が減少していることがわかる。このことは、表7に併わせて記載した、曝気槽15に続く終沈槽22の出口から得られた放流水の透視度、SS濃度及びBOD値が、馴養前の3月と比較して、馴養後の5〜9月ではかなり改善されていることからもわかる。このように曝気槽20においても、投入微生物製剤の効果により、低いMLSS値で所定の水質を保持でき、しかも曝気量が少なくなって曝気倍率が低下することがわかる。この結果、曝気槽15の運転電気代が約20%削減できた。
【0059】
【表7】

【0060】
次に、微生物製剤の投入による汚泥の減容について説明する。重力濃縮槽16及び機械濃縮槽26で処理される各月の汚泥量を表8に示す。重力濃縮槽16の汚泥量の馴養前後における変化は特に見られないが、機械濃縮槽26で処理される余剰汚泥に関しては事情が異なる。余剰汚泥の濃度は4.1から4.5%とほぼ一定であるが、各月の汚泥量は漸次低下傾向にある。そのため、汚泥をドライスラッジ化した量の月毎量は、馴養前の3月は36トン/月程度であったが、馴養後は約15%減の31トン/月前後で安定している。この結果は、管渠内に投入されたバチルス・トヨイ菌が管渠内で増殖を始め、初沈槽等を経て曝気槽20内まで達し、曝気槽20で有効な生物処理機能を発揮した結果であると考えられる。
【0061】
【表8】

【0062】
さらに余剰汚泥の削減効果を微生物製剤の投入を行っていない平成15年及び16年の6月から9月の4ヶ月間と、投入を行った平成17年の同期間とで比較した結果を表9に示す。生物排水の下水処理場への流入量は年々増加しており、余剰汚泥量も流入量に比例して増加するはずであるが、平成17年の余剰汚泥量の実績値は、それ以前の流入水量と余剰汚泥量とから推定された余剰汚泥量よりも低く、しかも前年の値さえ下回る値であった。
【0063】
【表9】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の方法を実施する際の全体処理フローを示した概念図である。
【符号の説明】
【0065】
1 生活排水
2 事業排水
3 排水発生点から中継ポンプ場までの管渠
5、6 中継ポンプ場
7、8 中継ポンプ場から下水処理場までの管渠
9 下水処理場
10 沈砂池
12 沈砂池から初沈槽までの送液配管
13 初沈槽
14 初沈汚泥
15 初沈槽から重力濃縮槽までの汚泥送液配管
16 重力濃縮槽
17 返流水
18 初沈槽から曝気槽までの送液配管
20 曝気槽
21 曝気槽から終沈槽までの送液配管
22 終沈槽
23 沈降汚泥
24 汚泥送液配管
25 返送汚泥
26 余剰汚泥機械濃縮槽
27 余剰濃縮汚泥
28 初沈濃縮汚泥
30 濃縮汚泥貯留槽
31 汚泥送液配管
32 脱水機
33 返流水
34 返流水
35 脱水ケーキ
36 凝集剤
40 下水処理水
41 消毒放流
50、51 微生物製剤投入

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水を、管渠と中継ポンプ場とを介して下水処理場に送って生物処理する下水処理方法であって、前記管渠内に前記排水中の有機物を分解する機能を有する微生物を含む微生物製剤を前記中継ポンプ場から投入し、前記中継ポンプ場から前記下水処理場までの前記管渠内において、前記微生物製剤から生じた微生物により、前記有機物の少なくとも一部を分解することを特徴とする下水処理方法。
【請求項2】
前記中継ポンプ場から前記下水処理場までの前記管渠の長さが、5km以上あることを特徴とする請求項1に記載の下水処理方法。
【請求項3】
前記の微生物が、前記有機物の分解能を持ち芽胞を形成するグラム陽性菌であることを特徴とする請求項1または2に記載の下水処理方法。
【請求項4】
前記微生物製剤を前記管渠内に投入するにあたり、前記微生物製剤をあらかじめ水に分散してから、もしくはあらかじめ水に分散して曝気し栄養細胞としてから、投入することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の下水処理方法。
【請求項5】
前記微生物が、前記有機物の分解能を持ち芽胞を形成しないグラム陰性菌であり、前記微生物製剤は、前記グラム陰性菌が米ぬかまたは麦ぬかを用いて固形化された固体微生物剤であることを特徴とする請求項1または2に記載の下水処理方法。
【請求項6】
前記微生物製剤が、グラム陽性菌とグラム陰性菌とを含んだ固体微生物製剤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の下水処理方法。
【請求項7】
前記の微生物が、バチルス属であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の下水処理方法。
【請求項8】
前記の微生物が、バチルス・トヨイ菌であることを特徴とする請求項7に記載の下水処理方法。
【請求項9】
前記の投入にあたり、前記生物排水1ml中の前記微生物の菌数が、前記生物排水中に元々存在する1mlあたりの菌数の1/1000以上となるように、前記の微生物製剤を投入することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の下水処理方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−126169(P2008−126169A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315604(P2006−315604)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(592008859)旭化成クリーン化学株式会社 (8)
【Fターム(参考)】