説明

不安処置のための(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノール

本発明は、(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノール・塩酸塩またはその塩もしくは溶媒和物の新規使用、特に、不安障害の処置または混合性不安抑うつ障害の処置におけるその使用に関連付けられる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(技術分野)
本発明は、(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールの新規使用、特に、不安障害の処置におけるその使用または混合性不安抑うつ障害の処置におけるその使用に関連付けられる。
【0002】
(背景技術)
塩酸ブプロピオン、(±)−1−(3−クロロフェニル)−2−[(1,1−ジメチルエチル)−アミノ]−1−プロパノン・塩酸塩は、鬱病の処置のために米国において市販されているWellbutrin(登録商標)の活性成分である。それは、禁煙補助剤として米国において市販されているZyban(登録商標)の活性成分でもある。ブプロピオンは、ノルアドレナリン(NA)およびドーパミン(DA)のニューロン取り込み阻害剤であるが、モノアミンオキシダーゼを阻害せず、そして、セレトニンのニューロン取り込みへは僅かな効果しか有さない。他の抗鬱剤と同様に、ブプロピオンの作用機序は十分には理解されていないが、この作用はノルアドレナリン作動性および/またはドーパミン作動性機序により介されると推定される。初期の臨床的証拠は、Wellbutrin(登録商標)が動物実験において抗鬱活性と考えられる用量でノルアドレナリン(NA)の選択的阻害剤であることを示唆した(Ascher,J.A.,ら.,Journal of Clinical Psychiatry,56:p.395−401,1995)。ごく最近の分析(Stahl,S.M.ら.,Prim.Care Companion,Journal of Clinical Psychiatry,6(4),p159−166,2004)は、ブプロピオンが、ノルエピネフリンおよびドーパミン再取り込みの二重阻害を介して作用し、ドーパミントランスポーターにおいて僅かに高い機能的効力を有することを結論付けた。
【0003】
【化1】

【0004】
ブプロピオンはヒトおよび実験動物において広範に代謝される。尿および血漿代謝産物は、ブプロピオンのtert−ブチル基のヒドロキシル化および/またはカルボニル基の還元を介して形成された生体内変換産物を含む。4つの基本的な代謝産物が同定されている。それらは、ブプロピオンのエリトロ−およびトレオ−アミノアルコール、ブプロピオンのエリトロ−アミノジオール(尿において見出されるが、血漿においては見出されない)およびモルホリノール代謝産物である。
【0005】
モルホリノール代謝産物である(+/−)−(2R,3R)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールは、ブプロピオンのtert−ブチル基のヒドロキシル化から形成されると考えられる。
【化2】

【0006】
ヒト血漿試料中、著しく多く見られるのはモルホリノール代謝産物の(−)形態であるにも関わらず、最適なモノアミン再取り込み阻害活性が存在するのは、(+)エナンチオマー、(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールであることが見出され、以下、式(I):
【化3】


の化合物と言う。
【0007】
式(I)の化合物およびその塩および溶媒和物は、鬱病(大鬱病(MDD)、双極性鬱病(I型およびII型)、大(単極性)鬱病および非定型特徴(例えば、嗜眠、過食/肥満、過眠症)を伴う鬱病を含む)、注意欠損多動性障害(ADHD)、肥満、偏頭痛、疼痛(神経因性疼痛、例えば、糖尿病性神経障害、坐骨神経症、非特異的背下部痛、多発性硬化症疼痛、線維筋痛、HIV関連神経障害、神経痛、例えば、ヘルペス後神経痛および三叉神経痛、ならびに身体的外傷、切断術、癌、毒素または慢性炎症状態に起因する疼痛を含む)、性機能障害(性的関心欠損症(性欲減退)、性的興奮障害、オルガスム障害、女性オルガスム障害、男性オルガスム障害、性的欲求低下障害(HSDD)、女性性的関心障害(FSDD)およびSSRI類の抗鬱剤を用いた処置により引き起こされる性機能障害の副作用を含む)、パーキンソン病(意図した動作における障害が徐々に増大することを含む歩行障害および/または運動機能障害、振戦、動作緩慢、運動亢進症(中程度および重度)、無動症、硬直、バランスおよび協調障害ならびに姿勢障害を含むがこれらに限定されないパーキンソン病の徴候からの緩和を包含する)、アルツハイマー病またはコカインもしくはニコチン含有(特にタバコ)製品への中毒の処置において使用されるものとして開示されている(WO 99/37305およびUS2003−0064988;共に、Glaxo Group Limited)。
【0008】
US2003−0032643(Glaxo Group Limited)は、季節性情動障害、慢性疲労、ナルコレプシーおよび認知障害の処置における、式(I)の化合物およびその塩および溶媒和物の使用を開示している。
【0009】
US2003−0083330(Glaxo Group Limited)は、アルコール中毒の処置における、式(I)の化合物およびその塩および溶媒和物の使用を開示している。
【0010】
WO 00/51546およびWO 01/62257(共に、Separacor Inc)は、ニューロンのモノアミン再取り込みの阻害により改善される障害、性機能障害(勃起不全を含む)、情動障害(鬱病、不安障害、注意欠損多動性障害、双極性および躁状態、性機能障害、精神的な性機能障害、食欲亢進、肥満または体重増加、ナルコレプシー、慢性疲労症候群、季節性情動障害、月経前症候群および薬物中毒または乱用を含む)、ニコチン中毒、脳機能障害(老年痴呆、アルツハイマー型痴呆、記憶喪失、健忘症/健忘症候群、癲癇、意識障害、昏睡、注意力低下、言語障害、パーキンソン病、レンノックス症候群、自閉性障害、自閉症、多動症候群、総合失調症、脳梗塞、脳出血、脳動脈硬化症、脳静脈血栓症および頭部損傷を含む)、癲癇、禁煙および失禁の処置におけるブプロピオン代謝産物の使用を開示している。
【0011】
(発明の概要)
本発明は、不安障害の処置のための医薬の製造における、(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールまたはその塩もしくは溶媒和物またはそれらの医薬組成物の使用を提供する。
【0012】
本発明のさらなる一の態様は、混合性不安抑うつ障害の処置のための医薬の製造における、(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールまたはその塩もしくは溶媒和物またはそれらの医薬組成物の使用を提供する。
【0013】
本発明のさらなる一の態様は、哺乳類(ヒトまたは動物)対象において不安障害を処置する方法であって、該対象へ有効量の(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールまたはその塩もしくは溶媒和物またはそれらの医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0014】
本発明のさらなる一の態様は、哺乳類(ヒトまたは動物)対象において混合性不安抑うつ障害を処置する方法であって、該対象へ有効量の(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールまたはその塩もしくは溶媒和物またはそれらの医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0015】
本発明のさらなる一の態様は、不安障害の処置のための医薬の製造において、エナンチオマー的に純粋である(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールまたはその塩もしくは溶媒和物またはそれらの医薬組成物の使用を提供する。
【0016】
本発明のさらなる一の態様は、混合性不安抑うつ障害の処置のための医薬の製造において、エナンチオマー的に純粋である(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールまたはその塩もしくは溶媒和物またはそれらの医薬組成物の使用を提供する。
【0017】
本発明のさらなる一の態様は、哺乳類(ヒトまたは動物)対象において不安障害を処置する方法であって、該対象へ有効量のエナンチオマー的に純粋である(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールまたはその塩もしくは溶媒和物またはそれらの医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0018】
本発明のさらなる一の態様は、哺乳類(ヒトまたは動物)対象において混合性不安抑うつ障害を処置する方法であって、該対象へ有効量のエナンチオマー的に純粋である(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールまたはその塩もしくは溶媒和物またはそれらの医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0019】
(発明の詳細な記載)
本明細書中、「処置」への言及は、徴候(軽度、中程度または重度に関わらず)の予防、再発の予防および抑制または改善ならびに確立した状態の処置にまで及ぶことが理解されよう。
【0020】
本明細書中用いるように、用語「不安障害の処置」は、全般性不安障害、広場恐怖症を伴うパニック障害、広場恐怖症を伴わないパニック障害、パニック障害の病歴を伴わない広場恐怖症、対人恐怖症(例えば、社会不安障害)および特定恐怖症(単一恐怖症としても知られている)を含む恐怖症、強迫性障害、ストレス障害(急性ストレス障害および外傷後ストレス障害を含む)、分離不安、不安の特徴を伴う適応障害、一般的な病状に起因する不安障害および薬物乱用に起因する不安障害の処置を含む。
【0021】
全般性不安障害、パニック障害(広場恐怖症を伴うまたは伴わない)、対人恐怖症(例えば、社会不安障害)またはストレス障害(急性ストレス障害および外傷後ストレス障害を含む)の処置が好ましい。全般性不安障害(GAD)、パニック障害、社会不安障害(SAD)または外傷後ストレス障害(PTSD)の処置が最も好ましい。本発明に関連して特に注目すべきものは、全般性不安障害(GAD)の処置または社会不安障害(SAD)の処置である。
【0022】
本明細書中用いるように、用語「混合性不安抑うつ障害の処置」は、the appendix of the Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,Fourth Edition,1994(DSM−IV)にて定義されているような障害の処置を言う。一般的に、この障害についての診断基準は、以下の徴候:集中または記憶困難、睡眠障害、疲労もしくはエネルギー低下、短気、心配、涙もろい、過度の警戒心、最悪の事態を予想する、将来を絶望もしくは悲観する、または自尊心低下または無気力の4つ以上を伴い、かつ4週間以上にわたって持続性または反復性の不快な気分が存在することを含む。該診断は、抑うつ障害または不安障害のいずれかについての診断基準を満たしていないが、非特異的な不安および鬱症状の組み合わせを示す対象を包含する。
【0023】
本明細書中用いるように、「エナンチオマー的に純粋である」は、組成物が約90重量%より高い所望の立体異性体、好ましくは約95重量%より高い所望の立体異性体、より好ましくは、約99重量%より高い所望のエナンチオマー、最も好ましくは、99.5重量%より高い所望のエナンチオマーを含むことを意味し、該重量%は、式(I)の化合物の総重量に基づく。
【0024】
本発明に記載の使用のために好ましいものは、式(I)の化合物の医薬上許容される塩または溶媒和物であり、特に、米国特許第6,342,496号B1、米国特許第6,337,328号B1、米国特許第6,391,875号B1、米国特許第6,274,579号B1、米国特許出願番号2002/0052340 A1、2002/0052341 A1および2003/0027827 A1ならびにWO 01/62257、WO 99/37305、WO 00/51546およびWO 01/62257において開示されているものである。適当な医薬上許容される塩は、塩酸塩、硫酸水素塩および他の硫酸塩、リン酸水素塩および他のリン酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、洒石酸塩などを含み得るが、これらに限定されない。これらの中でも、(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノール・塩酸塩が特に好ましい。
【0025】
現在臨床使用されている抗不安薬は、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRIs)およびベンゾジアゼピンを含む。ノルアドレナリンまたはドーパミン再取り込み阻害剤のいずれかである化合物は、不安障害の処置のために一切認可されていない。以下の研究結果は、式(I)の化合物が独特の抗不安特性を有するかもしれないことを示す。特に、急性ラット社会性相互作用研究は、式(I)の化合物について不安活性の欠失があるという点で、SSRIsのものとは異なる特性を示す。以下に記載の3つの研究全てからの抗不安活性の証拠は、不安活性の不在と共に、式(I)の化合物が有利な抗不安特性を有するかもしれないことを示す。
【0026】
(調製)
式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物は、WO 99/37305、US2003−0064988、US2003−0032643およびUS2003−0027827(全て、Glaxo Group Limited)またはWO 00/51546およびWO 01/62257(共に、Sepracor Inc.)に記載の手順に従って、単離形態および好ましくはエナンチオマー的に純粋な形態にて調製されてもよく、該文献の手順は、出典明示により本明細書の一部となる。
【0027】
(用量および処方)
式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物は、単離形態および好ましくはエナンチオマー的に純粋な形態にて投与される。
【0028】
もちろん、所望の治療効果を達成するために必要な式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物の量は、多数の因子、例えば、投与方法および処置されるレシピエントに依存するだろう。一般的に、1日用量は、0.02ないし5.0mg/kg、より詳細には、0.1ないし1.5mg/kgおよび0.15ないし1.2mg/kgおよび0.3ないし1.2mg/kgおよび0.3ないし2.4mg/kgである。1日1回の単一用量としてか、または1日を通しての単一または分割用量として考えると、より詳細な範囲は、0.02ないし2.5mg/kg、0.02ないし1.0mg/kgおよび0.1ないし1.5mg/kg、0.02ないし0.25mg/kg、0.02ないし0.15mg/kgおよび0.02ないし0.07mg/kgを含む。
【0029】
式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物は、不安障害の処置または混合性不安抑うつ障害の処置において、化合物それ自体として用いられてもよいが、好ましくは、1またはそれ以上の医薬上許容される担体、希釈剤または賦形剤と一緒に医薬処方形態中に配合される。もちろん、担体、希釈剤および賦形剤は、処方の他の成分に適合するという意味で許容される必要があり、およびレシピエントに有害でない必要がある。担体は、固体または液体またはその両方であってもよく、そして好ましくは、単位投与処方、例えば、1mg、2mg、5mg、10mg、20mg、40mg、60mg、80mg、100mg、120mg、150mgおよび200mgの式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物、より好ましくは、10−80mgまたは20−160mgの式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を含有する錠剤として剤と一緒に処方される。本発明における使用に適する処方は、徐放性固形投与処方、所望によりフィルムコーティングされている固形投与処方、および特に、式(I)の化合物をとりわけ1日1回経口投与するための錠剤およびキャップレッツ処方、例えば以下の実施例1ないし5に例示するものを含む。
【0030】
該処方は、経口、直腸、局所、頬側(例えば、舌下)および非経口(例えば、皮下、筋内、皮内または静脈内)投与に適するものを含む。
【0031】
頬側(舌下)投与に適する処方は、風味のある基剤、通常はスクロースおよびアカシアまたはトラガカントゴム中に式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を含有するロゼンジ、ならびに不活性基剤、例えば、ゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアカシア中に剤を含有するパステルを含む。
【0032】
非経口投与に適する本発明の処方は、有利には、式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物の滅菌水性調製物を含み、該調製物は、好ましくは、対象レシピエントの血液と等張である。好ましくは、これらの調製物は静脈内投与されるが、投与は、皮下、筋内または皮内注入により実施されてもよい。かかる調製物は、有利には、剤と水を混合し、次いで、得られた溶液を滅菌し、血液と等張にすることにより、調製されてもよい。
【0033】
直腸投与に適する処方は、好ましくは、単位投与坐剤として提供される。これらは、式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物と1またはそれ以上の慣用的な固形担体、例えば、カカオ脂と混合し、次いで、得られた混合物を形成することにより、調製されてもよい。
【0034】
皮膚への局所適用に適する処方は、好ましくは、軟膏、クリーム、ローション、ペースト、ゲル、スプレー、経皮パッチ、エアロゾルまたはオイルの形態をとる。用いられてもよい担体は、ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、アルコールおよびそれらの2またはそれ以上の組み合わせを含む。
【0035】
特に上記した成分に加えて、該処方は、問題となっている処方の型を考慮した当該分野において慣用的な他の剤を含んでもよいことが理解されるはずである。
【0036】
(処方実施例)
以下の実施例は、本発明における使用、特に1日1回投与に適する処方を例示するが、これらに限定されない。
【0037】
実施例1
【表1】

)20mgの式(I)の化合物に対応する
【0038】
実施例2
【表2】

)40mgの式(I)の化合物に対応する
【0039】
実施例3
【表3】

)60mgの式(I)の化合物に対応する
【0040】
実施例4
【表4】

)80mgの式(I)の化合物に対応する
【0041】
実施例5
【表5】

)10mgの式(I)の化合物に対応する
【0042】
以下の一般的な方法と類似する方法により、上の実施例1ないし5を調製した:薬剤物質を、速度制御ポリマーとしてHPMCを含む、記載した医薬上許容される賦形剤と共に混合し、次いで、造粒した。初めに、酸性安定剤(重硫酸ナトリウム)を精製水中に溶解し、造粒溶液を作成し、次いで、慣用的な加工技法、例えば、高剪断または流動床法のいずれかにより、乾燥、粉砕、混合、打錠、次いで最後に水性フィルムコーティングを行うことで、顆粒を形成する。
【0043】
(生物学的データ)
インビトロシナプトソーム取り込み
以前報告されているように、輸送基質としてそれぞれ[H]−ドーパミン、[H]−NAおよび[H]−セロトニンを用いてラット尾状核被殻(ドーパミン取り込みのために)および視床下部(NAおよびセロトニン取り込みのために)から調製したシナプトソームを用いて、インビトロ取り込みを測定した。Eckhardt,S.B.,R.A.MaxwellおよびR.M.Ferris,A Structure−Activity Study of the Transport Sites for the Hypothalamic and Striatal Catecholamine Uptake Systems.Similarities and differences.Molecular Pharmacology,21:p.374−9,1982を参照のこと。
【0044】
モノアミンオキシダーゼを阻害するためにリン酸イプロニアジドを含有する0.3Mのスクロース/25mMのトリス、pH7.4バッファー中に組織を穏やかにホモジナイズすることにより、インビトロ取り込みデータを得る際に用いるシナプトソームを視床下部または線条体から調製した。そのホモジネートを1100×g、4℃で10分間遠心し、次いで、上清を取り込み研究のために用いた。上清(約1mgの組織蛋白質)を、Km濃度の[H]−ノルアドレナリン、[H]−ドーパミンまたは[H]−セロトニンと一緒に、薬剤の不在および存在下、Krebs−Henseleit変法バッファー(118mMのNaCl,5mMのKCl,25mMのNaHCO,1.2mMのNaHPO,1.2mMのMgSO,11mMのブドウ糖,2.5mMのCaCl)中、37℃で5分間、インキュベーションした。これらの条件下、取り込みは、基質および組織の両方に関して直線的であった(輸送された全基質<5%)。非特異的取り込みを0℃での取り込みとして定義した。GF/Bフィルターを通して濾過し、次いで、冷Krebs−Henseleitバッファーを用いて洗浄することにより、シナプトソームに輸送された[H]−基質を遊離[H]−基質から分離した。そのフィルターを、液体シンチレーションスペクトロメーターにてトリチウムについて計測した。
【0045】
インビトロシナプトソーム取り込みについてのデータを以下の表1に示す。ノルアドレナリン(NA)取り込みを阻害した式(I)の化合物は、1.1μMのIC50を有した。ドーパミン(DA)取り込みの際に、式(I)の化合物は、約10μMのIC50を有した。式(I)の化合物は、30μMで、セロトニン取り込みの阻害を全く示さなかった。
【0046】
表1
【表6】


取り込み値は、3つの別々の実験の平均±SEMである。IC50値は、取り込みの50%阻害に必要な濃度(μM)である。
【0047】
ヒトモノアミントランスポーターでの再取り込み阻害機能
ドーパミン(hDAT)、ノルアドレナリン(hNET)およびセロトニン(hSERT)についてのヒトモノアミントランスポーターを発現する3つの別々の細胞株を用いて、式(I)の化合物(その塩酸塩として)の再取り込み阻害機能特性を測定した。以下の方法を利用した。
【0048】
ヒトノルアドレナリントランスポーター(hNET):アッセイ1日前に、ヒトノルエピネフリントランスポーターを発現するMDCK/hNET(イヌ腎臓)細胞(4×10細胞/ウェル)を、96−ウェルフォーマット上にセットした。細胞が80%集密になったら、細胞単層を洗浄し、次いで、試験化合物および/またはビヒクルと一緒に、トリス−HEPES変法バッファー、pH7.1中、25℃で20分間プレインキュベーションした。次いで、25nMの[H]ノルエピネフリンを加えて、全量を200μlにし、次いで、細胞をさらに10分間インキュベーションした。次いで、ウェル中の細胞を2回リンスし、1%のSDS溶解バッファーを用いて溶解し、次いで、溶解物をカウントして、[H]ノルエピネフリン取り込みを測定した。10μMのデシプラミンの存在下、非特異的シグナルを測定した。ビヒクル対照に比べて50%またはそれ以上(≧50%)だけ[H]ノルエピネフリン取り込みが減少することにより、有意な阻害活性が示された。
【0049】
ヒトドーパミントランスポーター(hDAT):アッセイ1日前に、ヒトドーパミントランスポーター(hDAT)を発現するCHO−K1/hDAT細胞(8×10細胞/ウェル)を、96−ウェルフォーマット上にセットした。試験化合物および/またはビヒクルと一緒に、トリス−HEPES変法バッファー、pH7.1中、25℃で20分間、細胞をプレインキュベーションし、次いで、50nMの[H]ドーパミンを加え、全量を200μlにし、次いで、さらに10分間インキュベーションした。次いで、ウェル中の細胞を2回リンスし、1%のSDS溶解バッファーを用いて溶解し、溶解物をカウントし、[H]ドーパミン取り込みを測定した。10μMのノミフェンシンの存在下、非特異的シグナルを測定した。ビヒクル対照に比べて50%またはそれ以上(≧50%)だけ[H]ドーパミン取り込みが減少することにより、有意な阻害活性が示された。
【0050】
ヒトセロトニントランスポーター(hSERT):アッセイ前に、ヒトセロトニントランスポーター(hSERT)を発現するHEK−293/hSERT細胞(5×10細胞/チューブ)を、96−チューブホルダーにセットしたミニチューブへ加えた。試験化合物またはビヒクルと一緒に、トリス−HEPES変法バッファー、pH7.1中、25℃で20分間、細胞をプレインキュベーションし、次いで、65nMの[H]セロトニンを加え、全量を200μlにし、次いで、さらに10分間インキュベーションした。次いで、0.1%のBSAを含有するPBSバッファーを用いてセルハーベスターを通して濾過することにより細胞を4回洗浄し、次いで、GF/Bフィルターをカウントし、[H]セロトニン取り込みを測定した。10μMのフルオキセチンの存在下、非特異的シグナルを測定した。ビヒクル対照に比べて50%またはそれ以上(≧50%)だけ[H]セロトニン取り込みが減少することにより、有意な阻害活性が示された。
【0051】
化合物を、10、1、0.1、0.01および0.001μMでスクリーニングした。同時に、未処理細胞からなる別の群にこれらと同濃度を適用し、そして、取り込みの有意な阻害が観察される場合にのみ、化合物誘発の細胞毒性の可能性について評価した。Packardシンチレーションカウンターを用いて、一晩、シンチレーション計測することにより、フィルター上に保持された放射能を測定した。
【0052】
式(I)の化合物の塩酸塩についてのモノアミン再取り込み阻害効力を、その各々を2回ずつ行う(n=3)、3つの別々の実験に従って得られたIC50(μM;平均±SEM)として以下の表2に示す。化合物は、hDAT(pIC50=6.36)およびhNET(pIC50=6.70)の両方で再取り込み阻害を示したが、試験した最高濃度(10μM)では、hSERT(pIC50<5)において再取り込み阻害は観察されなかった。再取り込み阻害を惹起するいずれの濃度においても、細胞毒性は全く観察されなかった。
【0053】
表2
【表7】


式(I)の化合物を、十分に特徴付けられた不安の動物実験においても試験し、そして、以下の通り活性のあることを見出した。
【0054】
ラットにおける社会性相互作用試験
[Animal models for predicting clinical efficacy of anxiolytic drugs:social behaviour.Neuropsychobiology.13(1−2)55−62,1985]
【0055】
試験開始までの5日間、雄のスプレーグ・ドーリーラット(試験日において350−400g,Charles River,Italy)を一匹ずつ収容した。9:00から14:00の間に、15分間の社会性相互作用試験を行った。体重および処置を適合させた一対のラットを強光条件下の試験場にセットした。活発な社会性相互作用(臭いをかぐ、後を追う、毛繕いをする、噛みつく、なぐり合う、這い上がるおよび潜り込む)およびラインを横切るという観点からの運動活動を、薬剤処置対象を知らない観察者により評点付けを行った。試験(急性試験)の45分前か、或いは、20日間、1日2回、そして21日目に最終の処置を行い、その最後の処置を試験(慢性試験)の45分前に行うものとして、ビヒクル(2ml/kg)または3、10および30mg/kgの式(I)の化合物の塩酸塩を用いて、動物を経口的に処置した。試験1時間前に、さらなるラット群(正対照群)へ、単一用量のクロルジアゼポキシド(CDP)4mg/kgを経口投与した。
【0056】
慢性試験の結果を以下の表3(平均±s.e.として与えられる値)に示す。社会性相互作用についてのデータは図1にも示す。
【0057】
表3
【表8】

p<0.05**p<0.01;ANOVA,Dunnett’s試験
【0058】
この試験において、式(I)の化合物の塩酸塩は、3および10mg/kgで、自発運動活性に有意な効果を与えることなく、抗不安薬と同様の効果を誘導することができた;30mg/kgで、ビヒクル処置動物に比べて自発運動活性において有意な減少が観察された。このことは、この用量において社会性相互作用への効果が欠失していることを説明し得る。
急性研究における社会性相互作用についての結果を図2に示す。
【0059】
マウスにおける明暗箱試験
[Costall B.Jones BJ.Kelly ME.Naylor RJ.およびTomkins DM.Exploration of mice in a black and white test box:validation as a model of anxiety.Pharmacology,Biochemistry&Behavior.32(3):777−85,1989]
【0060】
明暗箱試験は、3分の2が白く塗られ、残りの3分の1が黒く塗られている、2つのコンパートメントに分かれたPerspexの箱から構成される。2つのコンパートメントを隔てる壁にあいた小さな穴を利用して、マウスは2つのコンパートメントの間を自由に動くことができる。床にラインで印を付ける。これは、動物の運動活動の指標(ラインを横切った数)を提供する。箱の白色コンパートメントの上に白色光(60W)をセットし、動物が嫌悪を感じる、明るく照らされた領域を供給する。マウスはこの領域から逃避する傾向があり、むしろ黒色領域内にとどまることを好み、ただ一時的に戻ってきては白色領域を探索する。抗不安性化合物は、用量依存的に、動物が嫌悪性の白色領域内で費やす時間を増大させる。
【0061】
5分の試験期間の間、CD−1マウス(25−30g,Charles River,Italy)を、黒色/白色試験箱の白色側の中心に1匹ずつセットし、次いで、遠隔ビデオ録画によりマウスの行動を記録した。続いて、動物処置対象を知らない観察者により、テープ録画からのマウスの行動を評価した。異なるパラメーターを評価して、試験した化合物の抗不安性および鎮静効果の両方を推定した。これらは、白色コンパートメント内で費やす時間、初めに動くまでの時間、白色および黒色コンパートメント内でラインを横切った数、白色および黒色コンパートメント内での飼育数ならびに2つのコンパートメント間の移行数を含む。
【0062】
試験30分前に、1、3および10mg/kgの式(I)の化合物の塩酸塩を用いて、動物を経口的に処置(10ml/kg)した。試験1時間前に、さらなるラット群(正対照群)へジアゼパム(DZP)1mg/kgを経口投与した。結果を図3に示す。これは、この試験において、式(I)の化合物の塩酸塩が3mg/kgで抗不安薬と同様の効果を誘導し得ることを実証した。
【0063】
本発明はこのように記載されているが、本発明は多くの点で変更されてもよいことが明かであろう。かかるバリエーションは、本発明の精神および範囲から逸脱するものとは見なされず、そして当業者には明らかなように、全てのかかる変更は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1.ラット社会性相互作用への化合物の効果(雄のスプレーグ・ドーリーラット,350−400g,n=10−14);慢性試験
【図2】図2.ラット社会性相互作用への化合物の効果(雄のスプレーグ・ドーリーラット,350−400g,n=10−14);急性試験
【図3】図3.明暗箱中のマウスへの化合物の効果(CD−1マウス,25−30g,n=8−10)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不安障害の処置のための医薬の製造における、(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールまたはその塩もしくは溶媒和物またはそれらの医薬組成物の使用。
【請求項2】
混合性不安抑うつ障害の処置のための医薬の製造における、(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールまたはその塩もしくは溶媒和物またはそれらの医薬組成物の使用。
【請求項3】
(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールまたはその塩もしくは溶媒和物がエナンチオマー的に純粋である、請求項1または請求項2記載の使用。
【請求項4】
塩が(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノール・塩酸塩である、請求項1ないし3いずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
哺乳類対象において不安障害を処置する方法であって、該対象へ有効量の(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールまたはその塩もしくは溶媒和物またはそれらの医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項6】
哺乳類対象において混合性不安抑うつ障害を処置する方法であって、該対象へ有効量の(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールまたはその塩もしくは溶媒和物またはそれらの医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項7】
(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノールまたはその塩もしくは溶媒和物がエナンチオマー的に純粋である、請求項5または請求項6記載の方法。
【請求項8】
塩が(+)−(2S,3S)−2−(3−クロロフェニル)−3,5,5−トリメチル−2−モルホリノール・塩酸塩である、請求項5ないし7いずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−512289(P2007−512289A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540402(P2006−540402)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013499
【国際公開番号】WO2005/051395
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(591002957)スミスクライン・ビーチャム・コーポレイション (341)
【氏名又は名称原語表記】SMITHKLINE BEECHAM CORPORATION
【Fターム(参考)】