説明

不快呈味成分を含有する被覆造粒物及び固形の経口摂取用組成物

【課題】ガジュツ等の不快な風味が特に強い成分を含有する、不快な風味が抑制された経口摂取用組成物の提供。
【解決手段】不快呈味成分及び矯味物質を含有する造粒物(C)と、造粒物(C)を被覆する、常温において水難溶性を示す物質を含有する層とを備えることを特徴とする被覆造粒物(F)。経口摂取時における不快呈味成分の風味が十分に抑制される。被覆造粒物(F)は更に速溶解性の顆粒(G)に製剤化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不快な風味が抑制された、不快呈味成分を含有する被覆造粒物、及び、該被覆造粒物を含有する、速溶解性顆粒等の固形の経口摂取用組成物、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品、飼料、医薬品、医薬部外品等の形態で経口摂取される成分には、苦味、辛味、酸味、渋味等の不快な味を呈する成分(不快呈味成分)が含まれることがある。口内において、不快呈味成分の不快な味を感じさせないようにするための種々の技術が開発されている。
【0003】
例えば特許文献1では、不快呈味成分の直径50μm以下の微粉末を含む芯材を、ツェイン等の、常温において水難溶性を示す物質により被覆、造粒する工程と、得られた造粒物を油脂により被覆する工程とを含む方法により製造される、前記芯材の全周囲表面が、前記物質の層と、その外側の油脂層とを備える被覆粒状組成物が記載されている。特許文献1によれば、この組成物では不快呈味成分の溶出が防止され、味がマスキングされるという効果が奏される。
【0004】
特許文献2では、不快な味を有する成分と、メントールと、ステビア抽出物等の甘味剤とを含有する経口用固形製剤が開示されている。この発明は苦味等の不快な味がメントール及び特定の甘味剤の配合により著しく減殺されることに着目した発明である。
【0005】
特許文献3では、不快な味を有する医薬有効成分と、2種以上の高甘味剤(甘味度150以上)と、酸味を呈する物質を含有する経口用医薬組成物が記載されている。
【0006】
特許文献4では、不快な風味を有する水溶性ビタミンおよびアセスルファムカリウムを含有する組成物が開示されている。この発明でもまた、アセスルファムカリウムの併用経口摂取により水溶性ビタミンの風味を矯味する。
【0007】
特許文献5では、苦味を有する薬物及び親水性高分子を含有する組成物を水の存在下に造粒し、次いで水分量7.5質量%以下になるまで乾燥することにより得られる経口固形製剤が記載されている。特許文献5によればこの経口固形製剤により服用時の薬物の苦味が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4147620号公報
【特許文献2】特開2000−159691号公報
【特許文献3】特開2000−290199号公報
【特許文献4】特開2002−60339号公報
【特許文献5】特開2008−156258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来提供されている不快呈味成分の風味の抑制手段は、不快な風味が特に強い成分(例えばガジュツ(紫ウコン)等)の風味の抑制のためには満足できるものではなかった。不快呈味成分の微粉末の外層を水難溶性物質により被覆する特許文献1等の技術では、被覆層から不快呈味成分が溶出した場合に、不快な風味が直接感じられるという問題がある。甘味料等を併用することにより不快呈味成分の味を矯正する特許文献2〜5等の技術は、不快な風味が特に強い成分のマスキングには有効ではないという問題がある。
【0010】
つまり、水で服用する(すぐに飲み込む)医薬品等の場合に特許文献1等の被覆技術は有効であるが、水を飲まずに口腔内において溶解して服用する速溶解性の顆粒、咀嚼して服用するチュアブル剤や口腔内で溶解して服用するトローチ剤等では、服用中口腔内で被覆層から不快呈味成分が溶出した場合に、不快呈味成分の不快な風味が劇的に感じられる。
【0011】
そこで本発明は、ガジュツ等の不快な風味が特に強い成分を含有する場合にも、不快な風味が抑制された経口摂取用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、不快呈味成分(A)及び矯味物質(B)を含有する造粒物(C)と、造粒物(C)を被覆する、常温において水難溶性を示す物質を含有する層とを備えることを特徴とする被覆造粒物(F)では、経口摂取時における不快呈味成分(A)の風味が十分に抑制されることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の発明を包含する。
(1) 不快呈味成分(A)及び矯味物質(B)を含有する造粒物(C)と、造粒物(C)を被覆する、常温において水難溶性を示す物質を含有する層とを備えることを特徴とする、被覆造粒物(F)。
(2) 常温において水難溶性を示す物質を含有する層が、含水アルコール可溶性蛋白質、油脂、プルラン、キサンタンガム、寒天、多孔質デンプン、ゼラチン、ジェランタンガム及びカラギーナンからなる群から選ばれた1以上である物質1を含有する層(D)と、油脂、シェラック(貝殻虫抽出物)及びビール酵母細胞壁からなる群から選ばれた1以上である物質2を含有する層(E)とを含み、層(D)及び層(E)の一方が内層を形成し、他方が外層を形成することを特徴とする、(1)に記載の被覆造粒物(F)。
(3) 層(D)が内層を形成し、層(E)が外層を形成する、(2) に記載の被覆造粒物(F)。
(4) 不快呈味成分(A)が、ガジュツ、秋ウコン及び春ウコンからなる群から選ばれた1以上である(1)〜(3)の何れかに記載の被覆造粒物(F)。
(5) 矯味物質(B)が、糖類、水溶性高分子、高感度甘味料及び香料からなる群から選ばれた1以上である(1)〜(4)の何れかに記載の被覆造粒物(F)。
(6) 矯味物質(B)が、糖転移ステビア及び/又はサイクロデキストリンである(5)記載の被覆造粒物(F)。
(7) 造粒物(C)が噴霧造粒物である(1)〜(6)の何れかに記載の被覆造粒物(F)。
(8) 被覆造粒物(F)が平均粒径10〜2000μmである(1)〜(7)の何れか一項に記載の被覆造粒物(F)。
(9) 以下の工程を含むことを特徴とする、(2)に記載の被覆造粒物(F)の製造方法。
(I) 不快呈味成分(A)及び矯味物質(B)を含有する造粒物(C)を調製する工程、
(II) 造粒物(C)を、物質1及び物質2の一方により被覆、造粒する工程、
(III) 得られた造粒物を、物質1及び物質2の他方により被覆、造粒する工程。
(10) 工程(II)において造粒物(C)を物質1により被覆、造粒し、工程(III)において造粒物を物質2により被覆、造粒する、(9)記載の被覆造粒物(F)の製造方法。
(11) 工程(I)において造粒物(C)の調製を噴霧造粒により行う(9)又(10)に記載の被覆造粒物(F)の製造方法。
(12) (1)〜(8)の何れかに記載の被覆造粒物(F)を含有する速溶解性の顆粒(G)。
(13) 噴霧造粒、押出造粒、撹拌造粒、流動層造粒、転動造粒及び圧縮造粒のいずれかの造粒処理により形成される、(12)に記載の顆粒(G)。
(14) 造粒処理が押出造粒である、(13)に記載の顆粒(G)。
(15) 被覆造粒物(F)以外の部分に矯味物質(B’)を更に含有する、(12)〜(14)の何れかに記載の顆粒(G)。
(16) 矯味物質(B’)が、糖類、水溶性高分子、高感度甘味料及び香料からなる群から選ばれた1以上である、(15)に記載の顆粒(G)。
(17) 矯味物質(B)及び矯味物質(B’)が、糖転移ステビア、サイクロデキストリン及び高感度甘味料からなる群から選ばれた1以上である(16)に記載の顆粒(G)。
(18) 顆粒(G)が平均粒径100〜3000μmである、(12)〜(17)の何れかに記載の顆粒(G)。
(19) (1)〜(8)の何れかに記載の被覆造粒物(F)と水とを含有する原料混合物に、押出造粒、撹拌造粒、流動層造粒、転動造粒および圧縮造粒のいずれかの造粒処理を施すことを特徴とする、顆粒(G)の製造方法。
(20) 原料混合物が矯味物質(B’)を更に含有する、(19)に記載の方法。
(21) (1)〜(8)の何れかに記載の被覆造粒物(F)を含有する固形の経口摂取用組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、経口摂取時における不快呈味成分の風味を十分に抑制することが可能である。
【0014】
被覆造粒物(F)を喫食した場合、不快呈味成分(A)の溶出が水難溶性物質の被覆層の作用により抑制され、更に、溶出した不快呈味成分(A)が矯味物質(B)とともに舌に触れるために不快な味が感じられ難い。すなわち、被覆造粒物(F)は、水難溶性物質の被覆層と矯味物質(B)との作用の組み合わせにより、不快呈味成分(A)の不快な風味を効果的にマスキングすることができる。
【0015】
なお、本発明において経口摂取あるいは喫食とは、被覆造粒物(F)を水で服用する場合、速溶解性の顆粒のように水を飲まずに口腔内において溶解して服用する場合、チュアブル剤のように咀嚼して服用する場合及びトローチ剤のように口腔内で溶解して服用する場合等を含む概念である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1(a)は、常温における水難溶性物質による被覆層が1層である本発明の被覆造粒物(F)の断面構造を模式的に示す。図1(b)は、前記被覆層が内層及び外層からなる本発明の被覆造粒物(F)の断面構造を模式的に示す。
【図2】図2は被覆造粒物(F)を含有する速溶解性の顆粒(G)の内部構造を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
被覆造粒物
不快呈味成分(A)及び矯味物質(B)を含有する造粒物(C)と、造粒物(C)を被覆する、常温において水難溶性を示す物質を含有する層とを備えることを特徴とする、本発明の被覆造粒物(F)の構造の典型的な形態を図1(a)及び(b)に示す。
【0018】
図1(a)及び(b)に示すように、常温において水難溶性を示す物質を含有する層(以下「被覆層」という)は、複数の造粒物(C)の外表面を被覆するとともに相互に結着させて被覆造粒物(F)を形成する。複数の造粒物(C)は、被覆層の連続相中に分散して存在する。図示していないが、被覆造粒物(F)は、単数の造粒物(C)と、その外表面を被覆する被覆層とにより形成されていてもよい。
【0019】
図1(b)に示すように、被覆層は内層及び1層以上の外層からなるものであってよい。この場合、複数の造粒物(C)が被覆層内層の連続相中に分散して存在しており、その外表面を外層が被覆する構造を有する。図示していないが、被覆造粒物(F)は、単数の造粒物(C)が被覆層内層中に存在しており、その外表面を外層が被覆する構造を有していてもよい。
【0020】
図示していないが、被覆層は3層以上の多層構造を有していてもよい。その場合、例えば図1(b)の外層の外表面に1層以上の更なる層が配置される構造を有する。
【0021】
次に被覆造粒物(F)の組成について説明する。
【0022】
不快呈味成分(A)は苦味成分、辛味成分、酸味成分、渋味成分等の、経口摂取時に不快な味を呈する成分を指す。
【0023】
苦味成分としてはガジュツ(主な苦味原因物質はセスキテルペン類。以下、同様に主な不快味の原因物質をカッコ内に示す)、秋ウコン(クルクミン)、春ウコン(セスキテルペン類)、センブリ(スウェルチアマリン)、ゲンチアナ(ゲンチオピクロシド)、グレープフルーツ(ナリンジン)、茶(カテキン)、タマネギ(ケルセチン)、ソバ(ルチン)、柿(タンニン)、大豆(サポニン)、コーヒー(クロロゲン酸及びカフェイン)、イチゴ(エラグ酸)、ゴマ(リグナン)、パセリ(クマリン)、クララ(マトリン)、キハダ(ベルベリン)、ニガキ(クァシン)、ダイダイ(リモニン)、ホップ(イソアルファー苦味酸)、カカオ(テオブロミン)等の植物が挙げられる。
【0024】
これらの植物は、食品、医薬品等の用途で通常摂取される部位の乾燥粉末等の形態で使用されてもよいし、水又は有機溶媒による抽出物の形態で使用されてもよい。抽出溶媒としては、アルコールやヘキサン、アセトン等の有機溶媒を用いることが好ましい。アルコール等の親水性有機溶媒と水との混合溶媒による抽出物も用いることができる。親水性有機溶媒と水との混合比は特に限定されないが、例えば重量比で10:90〜90:10の範囲が好ましく、20:80〜50:50の範囲がより好ましい。アルコールとしてはエタノールが好ましい。アセトン等の有機溶媒による植物抽出物も用いることができる。
【0025】
これらの植物の苦味原因物質もまた、苦味成分として使用することができる。苦味原因物質は植物体から濃縮又は単離されたものであってもよいし、人工的に合成されたものであってもよい。苦味成分としては更にフェニルチオ尿素、硫酸キニーネ、硫酸ストリキニーネ、ニコチン、イポメアマロン、ククルビタチンA、フムロン、ルプロン、苦味をもつペプチド(例えばGly-Leu、Leu-Phe、Leu-Lys、Arg-Leu、Arg-Leu-Leu、Ser-Lys-Gly-Leu等の大豆タンパク質のペプシン加水分解により得られるペプチド、Phe-Ala-Leu-Pro-Glu-Tyr-Leu-Lys、Arg-Gly-Pro-Pro-Phe-Ile-Val等のカゼインを加水分解して得られるペプチド)等が挙げられる。これらもまた天然物から濃縮又は単離されたものであってもよいし、人工的に合成されたものであってもよい。
【0026】
本発明の技術は、ガジュツが有する強い苦味をマスキングするために特に適している。ガジュツは抽出物の形態で用いられることが好ましい。
【0027】
辛味成分の例は、ショウガ(ショウガオール、ジンゲロール)、サンショウ(サンショオール)、トウガラシ(カプサイシン)、コショウ(ピペリン)、ワサビ・カラシ(硫化アリル・アリルイソチオシアネート)が挙げられる。
【0028】
酸味成分の例は、クエン酸、DL-リンゴ酸、L−酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸、乳酸、フィチン酸が挙げられる。
【0029】
渋味成分の例は、ワイン(タンニン)、茶(タンニン、カテキン、シュウ酸)、かき(シブオール、ロイコデルフィニジン3グルコシド)が挙げられる。
【0030】
辛味成分、酸味成分、渋味成分として例示した上記の材料は、食品、医薬品等の用途で通常摂取される部位の乾燥粉末等の形態で使用されてもよいし、水又は有機溶媒による抽出物の形態で使用されてもよい。辛味、酸味、渋味の原因物質として例示した上記の化合物は、天然物から濃縮又は単離されたものであってもよいし、人工的に合成されたものであってもよい。
【0031】
被覆造粒物(F)中の不快呈味成分(A)の含有量は特に限定されないが、好ましくは被覆造粒物(F)全量中に、不快呈味成分(A)の固形分として10%以上、より好ましくは20〜65%となる量である。なお、固形分とは、不快呈味成分(A)から水分を除いた部分を指す。例えば不快呈味成分(A)がガジュツ抽出液等の植物抽出液である場合は、植物抽出液から水分を除いた部分を固形分とする。
【0032】
不快呈味成分(A)が植物抽出物である場合、生の植物原料100〜200質量部から、植物抽出物の固形分1質量部が得られることが通常である。
【0033】
不快呈味成分(A)がガジュツである場合、被覆造粒物(F)は、1g当たり生原料換算でガジュツ10〜150g、好ましくは20〜100gに相当する量のガジュツ抽出物(固形分換算)を含有することが望ましい。従来、以上のように高濃度のガジュツ等の不快呈味成分(A)を含有する経口摂取用製剤は提供されていない。
【0034】
矯味物質(B)としては、糖類、水溶性高分子、高感度甘味料及び香料(香料製剤を含む)からなる群から選ばれた1以上を用いることができる。
【0035】
糖類としてはサイクロデキストリン、単糖類(グルコース、フルクトース、ガラクトース)、二糖類(マルトース、ラクトース、スクロース、セロビオース、トレハロース、イソマルトース、メルビオース、ゲンチオビオース、バラチノース)、多糖類(グリコーゲン、デンプン、セルロース、ペクチン、グルコマンナン、ガラクタン)、オリゴ糖類(フラクトオリゴ糖、パラチノースオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラフィノース、スタキオース)、糖アルコール(マルチトース、エリスリトース、キシリトール、マルトトライトール、オリゴ糖アルコール、ソルビトール)、カップリングシュガー(グリコシルスクロース)が挙げられ、サイクロデキストリンが好ましい。サイクロデキストリンは環状構造を有する多糖類であり、環状構造の内部は他の比較的小さな分子を包接できる程度の大きさの空孔となっている。空孔の内径はα体で 0.45-0.6 nm、β体で 0.6-0.8 nm、γ体で 0.8-0.95 nm 程度である。本発明では空孔の大きいγ体(γサイクロデキストリン)が特に好ましい。
【0036】
水溶性高分子としては、加工澱粉を含むβ-澱粉、加工澱粉を含むα-化澱粉、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、コンニャクマンナン、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、タラガム、寒天、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。
【0037】
高感度甘味料としては糖転移ステビア、スクラロース、アセスルファムK、アスパルテーム、ソーマチン、ネオテーム、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、ジヒドロカルコン、ステビオサイド、レバウディオサイドA,チクロ、羅漢果、カンゾウが挙げられ、糖転移ステビアが好ましい。
【0038】
特に好ましい矯味物質(B)は、サイクロデキストリン及び糖転移ステビアの一方、又は両者である。
【0039】
造粒物(C)は不快呈味成分(A)及び矯味物質(B)を含有する。造粒物(C)は不快呈味成分(A)及び矯味物質(B)のみからなってもよい。造粒物(C)における不快呈味成分(A)及び矯味物質(B)の配合量は特に限定されないが、好ましくは、造粒物(C)全量に対して不快呈味成分(A)が50〜90質量%、矯味物質(B)が10〜50質量%である。
【0040】
造粒物(C)は、噴霧造粒、押出造粒、撹拌造粒、流動層造粒、転動造粒及び圧縮造粒等の通常の造粒方法により得られたものであり、造粒物(C)は好ましくは噴霧造粒物である。噴霧造粒は、不快呈味成分(A)と矯味物質(B)とを含む液状の混合物を、通常の噴霧造粒装置を用いて噴霧造粒することにより行う。不快呈味成分(A)が植物抽出液等の液状物の形態の場合は液状の混合物を調整する際に別途水等の液体媒体を添加する必要はないが、必要に応じて液体媒体を添加してもよい。矯味物質(B)は賦形剤又はバインダー等としての役割も果たすことができ、必要に応じて他の賦形剤又はバインダー等を混合物に添加してもよい。
造粒物(C)の粒子径は特に限定されないが10〜2000μmであることが好ましい。
【0041】
被覆層を構成する「常温において水難溶性を示す物質」としては、含水アルコール可溶性蛋白質、油脂、プルラン、キサンタンガム、寒天、多孔質デンプン、ゼラチン、ジェランタンガム、カラギーナン、シェラック(貝殻虫抽出物)、ビール酵母細胞壁、等が挙げられる。含水アルコール可溶性蛋白質としては、トウモロコシに由来する蛋白質であるツェイン(Zein)が挙げられる。
【0042】
被覆層を構成する水難溶性を示す物質の量は特に限定されず、不快呈味成分(A)の固形分の含有量が上述の範囲となるように適宜決定することができる。
【0043】
造粒物(C)を、常温において水難溶性を示す物質を含有する被覆層により被覆する操作は、噴霧造粒、押出造粒、撹拌造粒、流動層造粒、転動造粒及び圧縮造粒等の通常の造粒方法により行う。被覆層により単数又は複数の造粒物(C)の外表面を被覆して被覆造粒物(F)を形成する。複数の造粒物(C)が被覆される場合は、被覆層は複数の造粒物(C)を相互に結合する。
【0044】
被覆層は単層構造であってもよいし、2層以上の多層構造であってもよい。
多層構造は、好ましくは、複数の造粒物(C)の外表面を被覆するとともに相互に結着させる内層と、内層の外表面を被覆する1層以上の外層とからなる。この場合、上記の造粒手段により造粒物(C)を内層により被覆、造粒し、得られた造粒物を更に外層により被覆、造粒する。外層の被覆は、噴霧造粒、押出造粒、撹拌造粒、流動層造粒、転動造粒及び圧縮造粒等の通常の造粒方法により行う。
【0045】
内層及び外層の一方が、含水アルコール可溶性蛋白質、油脂、プルラン、キサンタンガム、寒天、多孔質デンプン、ゼラチン、ジェランタンガム及びカラギーナンからなる群から選ばれた1以上である物質1の層であり、他方が油脂、シェラック(貝殻虫抽出物)及びビール酵母細胞壁からなる群から選ばれた1以上である物質2の層であることが好ましく、内層が物質1の層、外層が物質2の層であることが特に好ましい。外層は2層以上に多層化することができる。この場合、各外層は物質2の層であることが好ましい。
【0046】
被覆造粒物(F)の平均粒径は10〜2000μmであることが好ましい。本発明において「平均粒径」とは、篩い分け法によって求められる篩下積算分布における積算50%粒子径を指し、明細書及び特許請求の範囲において用語「平均粒径」をこの意味で用いる。
【0047】
被覆造粒物(F)はそれ自体が直接経口摂取される用途に用いてもよいし、被覆造粒物(F)を、製剤化に必要な賦形剤等の補助成分ともに製剤化し、経口摂取用組成物を調製してもよい。経口摂取用組成物には必要に応じて他の有効成分が含まれてもよい。固形の経口摂取用組成物としては、顆粒、錠剤、粉末、散剤が挙げられ、口腔内速溶解性(速溶解性)の顆粒、速溶解性錠、チュアブル錠、トローチ剤、ドロップ剤が好ましく、速溶解性の顆粒が特に好ましい。
【0048】
速溶解性の顆粒
本発明に係る速溶解性の顆粒(G)は図2に模式的に示すように1粒の顆粒に複数の被覆造粒物(F)を含有する。速溶解性の顆粒とは、水を飲まずに経口摂取される、口腔内において溶解する顆粒である。
【0049】
速溶解性の顆粒(G)は、被覆造粒物(F)と、速溶解性顆粒の製造に用いられる通常の成分、例えば乳糖、コーンスターチ、結晶セルロース、糖アルコール、澱粉、α化澱粉及びデキストリン等(これらは基材又は賦形剤として作用する)等とを組合せて含有する。速溶解性の顆粒(G)の製造方法は特に限定されないが、通常は、被覆造粒物(F)と水とを少なくとも含む原料混合物に、噴霧造粒、押出造粒、撹拌造粒、流動層造粒、転動造粒及び圧縮造粒等のいずれかの造粒処理を施して製造することができる。前記通常の成分(及び、任意に、後述する矯味物質(B’))を原料混合物中に添加し造粒することができる。造粒処理としては押出造粒が特に好ましい。
【0050】
速溶解性の顆粒は口腔内に留まり溶解するため、被覆造粒物(F)中の不快呈味成分(A)の風味が特に強い場合(例えば不快呈味成分(A)がガジュツの場合)等には、顆粒(G)は、被覆造粒物(F)以外の部分に更に矯味物質(B’)を含有することが好ましい。矯味物質(B’)が含まれる実施形態では、喫食の間に顆粒(G)は口腔内で除々に溶解し、はじめは主に矯味物質(B’)の作用で不快な風味がマスキングされ、加えて、水難溶性物質の被覆層の作用により不快呈味成分(A)の溶出が抑制される。しかも、除々に溶出した不快呈味成分(A)は矯味物質(B)とともに舌に触れるために、不快な味が感じられ難い。更に、矯味物質(B’)は持続的に作用する。このように、矯味物質(B’)を含有する速溶解性の顆粒(G)は、矯味物質(B’)と、水難溶性物質の被覆層と、矯味物質(B)との作用の組み合わせにより、不快呈味成分(A)の不快な風味を飛躍的に有効にマスキングすることができ、かつ良好な風味を持続することができる。
【0051】
矯味物質(B’)は、被覆造粒物(F)中の矯味物質(B)について上述した成分のなかから選択することができる。
速溶解性の顆粒(G)の平均粒径は100〜3000μmであることが好ましい。
【0052】
不快呈味成分(A)がガジュツである場合、顆粒(G)は、1g当たり生原料換算でガジュツ1〜15g、好ましくは2〜10gに相当する量のガジュツ抽出物(固形分換算)を含有することが望ましい。従来、このように高濃度のガジュツを含有する経口摂取用製剤は提供されていない。
【0053】
なお、以上速溶解性の顆粒(G)について説明したように、本発明は口腔内において継時的に溶解する形態の経口摂取用製剤において好適であり、他の剤型の製剤についても顆粒(G)と同様の設計思想に基づいて適宜設計することが可能である。
【実施例】
【0054】
<被覆造粒物(F)>
実施例1
(I) 以下の原料を噴霧造粒装置を用いて造粒した。得られた造粒物は求める被覆造粒物(F)の芯材となるもので、平均粒径約100μmのものであった。
【0055】
【表1】

【0056】
(II) 工程(I)で得られた造粒物(C)を、傾斜回転パン型転動造粒装置を用いて水分を加えながら以下の被覆材により覆材、造粒した。
【0057】
【表2】

【0058】
(III) 工程(II)で得られた造粒物を、噴霧造粒装置を用いて以下の被覆材により覆材、造粒し、平均粒径約200μmの、ツェイン及び油脂の2層で被覆された被覆造粒物(F)を調製した。
【0059】
【表3】

【0060】
以上で得られた被覆造粒物(F)は、口腔内において溶解した場合にガジュツエキスの苦味が非常に良くマスキングされており、良好な風味のものであった。また、前記の製造過程で吸湿等により造粒装置にかかりにくい等の製造上の問題もなく、造粒適性に優れていた。なお、被覆造粒物(F)のガジュツ固形分の含有量は49質量%となる。
【0061】
実施例2
前記工程(I)において、γサイクロデキストリン粉末を使用せず、糖転移ステビア粉末21質量部を用いて噴霧造粒した以外は実施例1と同様にしてツェイン及び油脂の2層で被覆された被覆造粒物(F)を調製した。得られた被覆造粒物の風味品質と製造適性は、実施例1の造粒物とほぼ同等であった。
【0062】
実施例3
前記工程(I)において、糖転移ステビア粉末を使用せず、γサイクロデキストリン粉末21質量部を用いて噴霧造粒した以外は実施例1と同様にしてツェイン及び油脂の2層で被覆された被覆造粒物(F)を調製した。得られた被覆造粒物の風味品質と製造適性は、実施例1の造粒物とほぼ同等であった。
【0063】
実施例4
前記工程(I)において、糖転移ステビア粉末及びγサイクロデキストリン粉末に代えて、βサイクロデキストリン粉末21質量部を用いて噴霧造粒した以外は実施例1と同様にしてツェイン及び油脂の2層で被覆された被覆造粒物(F)を調製した。得られた被覆造粒物は苦味が良くマスキングされていた。一方実施例1〜3の場合と比べて造粒が難しい傾向があった。
【0064】
実施例5(3層被覆)
前記工程(III)で得られた造粒物を、さらに噴霧造粒装置を用いて以下の被覆材により覆材、造粒し、平均粒径約300μmの、ツェイン、油脂及びシェラックの3層で被覆された被覆造粒物(F)を調製した。
【0065】
【表4】

【0066】
得られた被覆造粒物は、実施例1のものと比べてガジュツエキスの苦味がさらにマスキングされており、良好な風味のものであった。
【0067】
比較例1
前記工程(I)において、糖転移ステビア粉末及びγサイクロデキストリン粉末に代えて、平均粒径約100μmのコーンスターチを用いて噴霧造粒した以外は実施例1と同様にしてツェイン及び油脂の2層で被覆された被覆造粒物を調製した。
【0068】
得られた被覆造粒物は、ツェイン及び油脂の2層で被覆された造粒物に拘らず、喫食すると直ぐにガジュツエキスの苦味が強く感じられるものであった。苦味が強く感じられる程度は喫食に耐えがたいもので、これと比べて、実施例1の造粒物は、喫食の間を通じて飛躍的に苦味が低減され、良好な風味を有していた。
【0069】
実施例6
<顆粒(G)>
以下の原料を用いて、其々粉粒状の実施例1で得られた被覆造粒物(F)、乳糖及びコーンスターチと、糖転移ステビア、アセスルファムカリウム及び水を水溶液としたものとを押出造粒装置を用いて造粒した。造粒物を乾燥し、目開き355μmの篩にて微粉を篩過して平均粒径約500μmの顆粒(G)を調製した。
【0070】
【表5】

【0071】
以上で得られた顆粒(G)は、速溶解性のもので、口腔内において溶解する喫食の間を通じてガジュツエキスの苦味が非常に良くマスキングされていた。さらに、喫食の間を通じて苦味がなく適度な甘味を感じ、良好な風味が持続するものであった。顆粒(G)は1g当たりガジュツエキスの固形分49mg、すなわち生換算でガジュツ約9gに相当する量のガジュツエキスの固形分を含有するものであった(造粒物を乾燥することで水20質量部が喪失した)。
【0072】
比較例2
実施例1で得られた被覆造粒物(F)に代えて、比較例1で得られた被覆造粒物を用いた以外は実施例6と同様にして顆粒を調製した。
【0073】
得られた顆粒は、口腔内において溶解する際喫食直後は苦味が弱かったが、その後直ぐにガジュツエキスの苦味が強く感じられるものであった。喫食途中から感じられる苦味の程度は喫食に耐えがたいほど強く、喫食の間における風味のバラつきが激しいものであった。これと比べて、実施例6の顆粒は、喫食の間を通じて飛躍的に苦味が低減され、良好な風味を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不快呈味成分(A)及び矯味物質(B)を含有する造粒物(C)と、造粒物(C)を被覆する、常温において水難溶性を示す物質を含有する層とを備えることを特徴とする、被覆造粒物(F)。
【請求項2】
常温において水難溶性を示す物質を含有する層が、含水アルコール可溶性蛋白質、油脂、プルラン、キサンタンガム、寒天、多孔質デンプン、ゼラチン、ジェランタンガム及びカラギーナンからなる群から選ばれた1以上である物質1を含有する層(D)と、油脂、シェラック(貝殻虫抽出物)及びビール酵母細胞壁からなる群から選ばれた1以上である物質2を含有する層(E)とを含み、層(D)及び層(E)の一方が内層を形成し、他方が外層を形成することを特徴とする、請求項1に記載の被覆造粒物(F)。
【請求項3】
矯味物質(B)が、糖類、水溶性高分子、高感度甘味料及び香料からなる群から選ばれた1以上である請求項1又は2に記載の被覆造粒物(F)。
【請求項4】
矯味物質(B)が、糖転移ステビア及び/又はサイクロデキストリンである請求項3記載の被覆造粒物(F)。
【請求項5】
以下の工程を含むことを特徴とする、請求項2に記載の被覆造粒物(F)の製造方法。
(I) 不快呈味成分(A)及び矯味物質(B)を含有する造粒物(C)を調製する工程、
(II) 造粒物(C)を、物質1及び物質2の一方により被覆、造粒する工程、
(III) 得られた造粒物を、物質1及び物質2の他方により被覆、造粒する工程。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか一項に記載の被覆造粒物(F)を含有する速溶解性の顆粒(G)。
【請求項7】
被覆造粒物(F)以外の部分に矯味物質(B’)を更に含有する、請求項6に記載の顆粒(G)。
【請求項8】
矯味物質(B’)が、糖類、水溶性高分子、高感度甘味料及び香料からなる群から選ばれた1以上である、請求項7に記載の顆粒(G)。
【請求項9】
矯味物質(B)及び矯味物質(B’)が、糖転移ステビア、サイクロデキストリン及び高感度甘味料からなる群から選ばれた1以上である請求項8に記載の顆粒(G)。
【請求項10】
請求項1〜4の何れか一項に記載の被覆造粒物(F)と水とを含有する原料混合物に、押出造粒、撹拌造粒、流動層造粒、転動造粒および圧縮造粒のいずれかの造粒処理を施すことを特徴とする、顆粒(G)の製造方法。
【請求項11】
原料混合物が矯味物質(B’)を更に含有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜4の何れか一項に記載の被覆造粒物(F)を含有する固形の経口摂取用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−87064(P2012−87064A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232331(P2010−232331)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】