説明

不快味を改善した被覆製剤の製造方法

医薬化合物及びワックス状物質を含む素粒剤に加熱処理を施し、該ワックス状物質が表面を湿潤する温度下で粉末状ワックス状物質を加え、該素粒剤表面に熱溶融コーティングを施すことによって、不快味を改善した被覆製剤を製造することができる。さらに、甘味剤と結合剤を溶解又は分散させた結合液を用いて、湿式法により造粒して得られた甘味細粒を該被覆製剤と混合し、服用性をさらに改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被覆製剤の製造方法、特に不快味を有する医薬化合物を含む被覆製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品が苦味等の不快味を伴う場合、患者が経口剤(特に、散剤や粒剤)として服用することは著しく困難である。そこで服用時の口中での不快味をマスキングするために被覆等の加工を施すことが考えられる。表面に白糖等のフィルムを形成させて苦味をマスキングするフィルムコーティング法が公知であるが、この糖衣工程は非常に煩雑である。また、これらの場合、薬物を粒子、錠剤等に成形後被覆するのが普通であるが、粒子径が小さくなるほど粉化しやすく不快味の漏出防止も困難である。矯味剤を添加する方法(特許文献1参照)もあるが、薬物の種類によっては効果が不充分である。
【0003】
一般に最も多く用いられる被覆製剤の製造方法としては、ワックス状物質や水不溶性高分子等、口中で溶解しないコーティング剤を粒状物表面にコーティングする方法(特許文献2又は3参照)がある。従来は、特にコーティング剤として水不溶性高分子を用いる場合(特許文献3参照)、コーティング剤を有機溶媒に溶解させてスプレーコーティングを施す方法等が用いられてきた。しかしながら、有機溶媒を使用することは作業者への衛生上の悪影響、環境汚染及び製剤中への残留等、問題点が多い。コーティング前の造粒時に結合剤として、メタアクリル酸メチル−メタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウム等の水不溶性高分子物質を用いる場合(特許文献4参照)も、造粒において大量の有機溶媒を使用しなければならない。そのため、スプレーコーティングと同様に、造粒操作時及び乾燥時の爆発や服用時の残留有機溶媒等、安全性に関する問題が残る。
【0004】
有機溶媒を用いることの無い被覆製剤の製造方法としては、固形薬剤にワックス類をワックス類の融点以上の温度で熱処理することを特徴とする被覆薬剤の製造方法が開示されている(特許文献2参照)。また、ワックス状物質を含む混合物を、水を用いて湿式法により造粒し、ワックス状物質の融点以上の温度で加熱処理する方法(特許文献5参照)も開示されている。これらの方法により、マスキング効果は高まるが、ワックス状物質を完全に溶融することにより、顆粒が完全に被覆されやすくなる。特に溶解性の低い、脂溶性の薬物は溶出性が低下し、体内での薬物の吸収時に障害となる。他に、ワックス状物質を含む混合物をワックス状物質の融点以上で加熱処理して造粒し、水不溶性高分子化合物の粉末をコーティング剤としてワックス状物質の融点以上で溶融コーティングを行う方法がある(特許文献6参照)。しかし、粉末状水不溶性高分子化合物をコーティング剤とする場合、粒状物に均一に付着させることが困難である。
【0005】
ワックス状物質を原薬等と共に混合し、乾式法により造粒後、ワックス状物質が少なくとも表面を覆うように加熱処理して得られる被覆製剤も開示されている(特許文献7参照)。しかし、この被覆製剤はマスキングが不完全であるため、粒子表面に原薬が表出し、苦みが感じられることが指摘されている。
【0006】
【特許文献1】特開平2−56416号公報
【特許文献2】特開平1−287021号公報
【特許文献3】特開平3−83922号公報
【特許文献4】特開平2−96516号公報
【特許文献5】特開平7−188058号公報
【特許文献6】特再平9−506543号公報
【特許文献7】特開平4−300821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、有効成分の薬効の発現や治療効果の減弱を伴うことなく、不快味を改善した被覆製剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の製剤上の要望を充たす目的で、鋭意研究、検討を行った。その結果、医薬化合物及びワックス状物質を含む素粒剤に加熱処理を施し、該ワックス状物質が表面を湿潤する温度下で粉末状ワックス状物質を加え、該素粒剤表面に熱溶融コーティングを施すことにより、溶出性が確保され、不快味が抑制された被覆製剤を得ることができることを見出した。すなわち、本発明の製造方法による被覆製剤は、ワックス状物質で外部から適度に被覆することによって、不快味が抑制され、なおかつ溶出性が確保されている。
【0009】
また、該被覆製剤と共に服用する甘味細粒を製造する際に、甘味剤と結合剤を水溶液中に溶解又は分散させた結合液を用いて造粒することにより、得られる甘味細粒の甘味が増強することを見出した。この方法により甘味細粒を製造すると、口腔内での甘味剤の溶出が容易になるため、甘味が増強される。この甘味細粒を上記の被覆製剤と混合して服用することにより、さらに不快味を改善することができる。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)医薬化合物及びワックス状物質を含む素粒剤に加熱処理を施し、該ワックス状物質が表面を湿潤する温度下で粉末状ワックス状物質を加え、該素粒剤表面に熱溶融コーティングを施すことを特徴とする被覆製剤の製造方法、
(2)該粉末状ワックス状物質の平均粒子径が、該素粒剤の平均粒子径よりも小さいことを特徴とする(1)記載の被覆製剤の製造方法、
(3)該粉末状ワックス状物質が、硬化油、ステアリルアルコール、ステアリン酸及びポリエチレングリコールよりなる群から選ばれる少なくとも1種の粉末状ワックス状物質である(2)記載の被覆製剤の製造方法、
(4)被覆製剤の重量に対し、医薬化合物が約40重量%以下、ワックス状物質が約5〜25重量%、水膨潤性物質が約5〜約35重量%、粉末状ワックス状物質が約5〜25重量%である(3)記載の被覆製剤の製造方法、
(5)医薬化合物が不快味を有するものである、(1)〜(4)のいずれかに記載の被覆製剤の製造方法、
(6)医薬化合物が(+)−(6R、7R)−7−[(Z)−2−(2−アミノ−4−チアゾリル)−2−ペンテンアミド]−3−カルバモイルオキシメチル−8−オキソ−5−チア−1−アザビシクロ[4.2.0]オクト−2−エン−2−カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステル塩酸塩・1水和物である、(1)〜(4)のいずれかに記載の被覆製剤の製造方法、
(7)60秒後の医薬化合物の漏出濃度が70μg/mL以下であり、30分後の医薬化合物の溶出率が75%以上である(6)記載の被覆製剤の製造方法、
(8)(1)〜(7)いずれかに記載の製造方法により製造される被覆製剤、
(9)甘味剤と結合剤を溶解または分散させた結合液を用いて、湿式法により造粒して得られた甘味細粒をさらに配合した、(8)記載の被覆製剤、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の被覆製剤は、主薬である医薬化合物の溶出を一時的に遅延させ、口中での不快味の抑制を可能にするものである。該被覆製剤は、溶出速度の遅延がほとんど認められない。また、溶出速度を促進させた甘味細粒を該被覆製剤と混合して服用することにより、さらに不快味を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例と参考例の医薬化合物の漏出濃度
【図2】実施例と参考例の医薬化合物の溶出率
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本明細書において、「不快味」とは服用者が口中に含んだとき味覚・嗅覚で不快に感じるものをいい、例えば苦味、辛味、渋味、さらに不快臭をも含む。
【0014】
「医薬化合物」とは、製薬上許容される化合物、その塩又はそれらの水和物である。本発明による被覆製剤に適用し得る医薬化合物、特に不快味を有する医薬化合物として、例えば、ペニシリン系のフルクロキサシリンナトリウム、塩酸タランピシリン、トシル酸スルタミシリン及び塩酸バカンピシリン、セフェム系のセファクロル、セフポドキシムプロキセチル、セフチアムヘキセチル、セフロキシムアキセチル、塩酸セフカペンピボキシル及びセフテラムピボキシル、又はマクロライド系のエリスロマイシン等の抗生物質;ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、エノキサシン、ピペミド酸等のキノロン系抗菌剤;臭化水素酸デキストロメトルファン、クエン酸イソアミニル及びリン酸ジメモルファン等の鎮咳去痰薬;アセトアミノフェン、ケトプロフェン及びトルフェナム酸等の解熱鎮痛消炎薬;塩酸ジフェンヒドラミン及び塩酸プロメタジン等の抗ヒスタミン剤;その他に塩酸ジセチアミンを挙げることができる。特に、溶解性の低い医薬化合物を用いる場合、溶出性を確保しながら、不快味を抑制するという、優れた効果を得ることができる。従って、溶解性の低い医薬化合物、例えば、(+)−(6R、7R)−7−[(Z)−2−(2−アミノ−4−チアゾリル)−2−ペンテンアミド]−3−カルバモイルオキシメチル−8−オキソ−5−チア−1−アザビシクロ[4.2.0]オクト−2−エン−2−カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステル塩酸塩・1水和物が好ましい。
【0015】
ワックス状物質は、室温付近で固体状であるが、加熱により容易に軟化及び溶融するものであれば製薬上許容されるものを幅広く使用することができる。例えば、硬化油(硬化ヒマシ油、硬化大豆油、硬化ナタネ油等)、高級アルコ−ル(ステアリルアルコ−ル、セタノ−ル等)、高級脂肪酸(ステアリン酸、パルミチン酸等)、植物性又は動物性脂肪(牛脂、カルナウバロウ)、ロウ、ポリエチレングリコ−ル(PEG:マクロゴ−ル4000、マクロゴ−ル6000等)等が例示される。工業的実施の面からは、その融点が約40℃〜約100℃の範囲内のものが好ましい。特に好ましくは硬化油である。参考までに各ワックス状物質の融点(℃)を例示すると、ステアリルアルコ−ル(約59)、セタノ−ル(約49)、ステアリン酸(約71)、パルミチン酸(約63)、カルナウバロウ(約78〜84)、硬化油(ヤシ油:約43〜45、パ−ム油:約56〜58、綿実油:約62〜63、大豆油:約69〜71、ヒマシ油:約86〜90)、PEG6000(約58〜65)である。
【0016】
素粒剤を製造する前に使用されるワックス状物質(以下、「内添加ワックス状物質」と称することもある。)としては、加熱により容易に溶融することができるものが好ましい。硬化油、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0017】
得られた素粒剤の外部コーティングに使用される粉末状ワックス状物質(以下、「外添加ワックス状物質」と称することもある。)としては、不快味を抑制するために、疎水性のものが好ましい。硬化油、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ポリエチレングリコール等が挙げられる。粒子径の大きなワックス状物質を使用した場合、溶融したワックス状物質が核となり、粗大粒子が生成されるため、外添加ワックス状物質の形状は、被覆しようとする素粒剤より小さな粉末状が好ましい。該粉末状ワックス状物質の平均粒子径が、該素粒剤の平均粒子径よりも小さいものが好ましい。粉末状ワックス状物質の平均粒子径については、通常約100μm以下のものが使用され、好ましくは約50μm以下である。
【0018】
これまでは、流動層を用いてワックス状物質でコーティング処理する際、ワックス粒子が流動中に飛散してしまうため、ワックス状物質の形状が被覆処理しようとする粒子よりも大きくなければならないとされてきた(特開平1−287021号公報参照)。しかし、本法では素粒剤にもワックス状物質を配合し、熱溶融コーティングの際に内部のワックス状物質が溶融した状態で、素粒剤と外部の粉末状ワックス状物質との結合剤として働くことによって、ワックス粒子が流動中に飛散する問題を解消することができる。
【0019】
内添加ワックス状物質と外添加ワックス状物質は、同じワックス状物質を用いてもよく、異なるワックス状物質を用いてもよい。
【0020】
異なるワックス状物質を用いる場合、内添加ワックス状物質としては、外添加ワックス状物質と比べて融点が同等あるいは低いものが好ましい。この場合、素粒剤の加熱処理は内添加ワックス状物質の融点付近で行い、外添加ワックス状物質を加えた後、熱溶融コーティング工程中に温度を上昇させ、終了時には外添加ワックス状物質の融点付近に調節する。異なるワックス状物質の組み合わせとしては、内添加ワックス状物質が親水性かつ粉末状のもの、かつ外添加ワックス状物質が疎水性かつ粉末状のものである組み合わせが好ましい。特に、内添加ワックス状物質にポリエチレングリコール(PEG6000粉末)かつ外添加ワックス状物質に硬化ヒマシ油の組み合わせが好ましい。
【0021】
「該ワックス状物質が表面を湿潤する温度下」の「表面を湿潤する」とは、内添加ワックス状物質が加熱により軟化し、素粒剤の表面に表出している状態を示す。このような状態の内添加ワックス状物質が素粒剤と外部の粉末状ワックス状物質の結合剤として働き得る。
【0022】
また、水膨潤性物質は、水にはほとんど溶解しないが、形状を保ちながら吸水しつつ膨張し、マトリックス構造を形成するものである。水膨潤性物質の例としては、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム(架橋CMC−Na)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC)等のセルロース誘導体;部分アルファ化スターチ(PCS)、カルボキシメチルスターチナトリウム(CMS−Na)等の各種デンプン類;クロスポピドン等の合成高分子化合物が挙げられる。
【0023】
ワックス状物質として、硬化油、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ポリエチレングリコールを使用する場合、本発明において使用される素粒剤は、本発明を適用し得る医薬化合物約40重量%以下、好ましくは約25重量%以下、ワックス状物質約5〜約25重量%、好ましくは約5〜約15重量%、水膨潤性物質約5〜約35重量%、好ましくは約20〜約35重量%を含む混合物を、造粒することにより得られる。また、本発明の被覆製剤は、上記素粒剤を加熱処理した後、粉末状ワックス状物質約5〜約25重量%、好ましくは約5〜約15重量%を加え、熱溶融コーティングすることにより得られる。なお、各重量%は、被覆製剤の総重量に対する割合を意味する。
【0024】
ワックス状物質の内添加量と外添加量を合計した総添加量が過多であると、体内で顆粒が崩壊しにくくなり内包成分の溶出性が低下する。逆に、過少であると口腔内での漏出の抑制が不充分となる。なお、ここで、ワックス状物質の内添加量、外添加量とは、それぞれ、内添加ワックス状物質、外添加ワックス状物質の量を意味する。ワックス状物質の総添加量は被覆製剤の総重量に対し、約10〜約50重量%が好ましい。
【0025】
ワックス状物質の総添加量に対する外添加量(外添率)は、ワックス状物質の種類により変動する。
【0026】
疎水性の低いワックス状物質を使用する場合、外添率が高くても溶出性を維持しながら、漏出を抑制することができるが、外添率が低いと口腔内での漏出の抑制が不充分となる。従って、疎水性の低いワックス状物質を使用する場合、外添加量が多い場合が好ましい。例えば、ポリエチレングリコールの場合、外添加率は50〜80%、特に70%が好ましい。また、疎水性の低いワックス状物質を使用する場合、ワックス状物質の総添加量は、多い方が好ましい。例えば、ワックス状物質の総添加量が、被覆製剤の総重量に対し、約20〜50重量%である場合が好ましい。このようなワックス状物質としては、例えば、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0027】
逆に、疎水性の高いワックス状物質を使用する場合、外添率が高いと体内で顆粒が崩壊しにくくなり内包成分の溶出性が低下するが、外添率が低くても漏出を抑制しながら、溶出性を維持することができる。従って、疎水性の高いワックス状物質を使用する場合、外添加量が少ない場合が好ましい。例えば、硬化ヒマシ油の場合、外添加率は約20〜60%、特に50%が好ましい。また、疎水性の高いワックス状物質を使用する場合、ワックス状物質の総添加量は、少ない方が好ましい。例えば、ワックス状物質の総添加量が、被覆製剤の総重量に対し、約10〜30重量%である場合が好ましい。このようなワックス状物質としては、例えば、硬化油等が挙げられる。
【0028】
また、水膨潤性崩壊剤が過少であると、体内で顆粒が崩壊しにくくなり内包成分の溶出性が低下する。逆に、水膨潤性崩壊剤が過多であると、口腔内での漏出の抑制が不充分となる。
【0029】
本発明の被覆製剤には、被覆顆粒剤、被覆細粒剤及び該細粒剤に白糖等の甘味細粒を加えた製剤、例えば、小児用ドライシロップ、さらに本発明の被覆顆粒剤を用いて打錠した錠剤等が含まれる。
【0030】
顆粒又は錠剤を製造する方法には湿式法と乾式法がある。湿式法とは、水又は/及び有機溶媒を加え、結合剤を使用することにより製造する方法をいう。乾式法とは、水や有機溶剤を使用せず、粉末を圧縮することにより製造する方法をいう。造粒物の乾燥、整粒、分級操作等は常法に従って行えばよい。本発明の被覆製剤の製造方法には、ワックス状物質によりマスキングする工程が含まれていれば、湿式法及び乾式法のいずれの方法を用いてもよい。本発明の被覆製剤の製造方法を、水に不安定な医薬化合物を含む製剤を製造する際に利用する場合、乾式法を用いることが好ましい。
【0031】
湿式法を用いる場合、溶媒としては水を用いることが好ましい。また、水溶性結合剤としては、セルロ−ス類(ヒドロキシプロピルセルロ−ス(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロ−ス(HPMC)、メチルセルロ−ス)、澱粉類(馬鈴薯澱粉、α化澱粉、コーンスタ−チ)、ポリビニルピロリドン(PVP)等が例示される。使用割合は、造粒用混合物に対して、約1〜約5重量%である。
【0032】
本発明の被覆製剤は、例えば、医薬化合物、特に不快味を有する医薬化合物約40重量%以下、ワックス状物質約5〜約25重量%及び水膨潤性物質約5〜約35重量%、必要とあれば、結合剤、滑沢剤、嬌味剤、着色剤等のその他添加剤からなる混合粉末を、湿式法又は乾式法により造粒、整粒して、任意の粒子径に調整し、ついでワックス状物質が結合剤として働くように加熱処理し、さらに粉末状ワックス状物質約5〜約25重量%を加えて、熱溶融コーティングすることを特徴とする製造方法により容易に製造し得る。
【0033】
各粉末成分の混合、造粒、整粒は、常法に従って行うことができる。例えば乾式法を用いる場合、粉末の造粒は、打錠機、ロール圧縮機等のプレス機で50〜100MPaの圧力でスラッグ状、フレーク状に圧縮成形し、次いで架砕方式の整粒機で350〜1410μm(顆粒剤)、75〜500μm(細粒剤)等、任意の粒度に調整して行う。本製法で得られる素粒剤(加熱処理前の粒剤をいう。以下同じ。)は、構成成分のワックス状物質、水膨潤性物質が均一に分散し、かつ圧縮によりワックス状物質の一部が展延しているものと推定される。
【0034】
ついで、この素粒剤を加熱処理した後、粉末状ワックス状物質を加えることにより、熱溶融コーティング粒剤(加熱しながらワックスコーティング処理した後の粒剤をいう。以下同じ。)を調製する。
【0035】
熱溶融コーティング工程において、粉末状ワックス状物質の添加前及び添加時の加熱は、内添加ワックス状物質が軟化するに十分な温度で十分な時間行われる。加熱温度は、通常約40℃以上で、内添加ワックス状物質の融点以下が好ましい。すなわち、加熱温度は、該工程間に内添加ワックス状物質が素粒剤表面を湿潤し得る温度以上であればよい。この処理により溶融された内添加ワックス状物質は、素粒剤表面で外添加ワックス状物質の結合剤として作用する。従って、加熱温度は内添加ワックス状物質の融点により変動する。内添加ワックス状物質は、好ましくは約40〜約90℃、特に好ましくは約50〜約85℃で軟化するものがよい。
【0036】
粉末状ワックス状物質の添加後の加熱は、外添加ワックス状物質が軟化するに十分な温度で十分な時間行われる。加熱温度は、通常約40℃以上で、外添加ワックス状物質の融点以下が好ましい。従って、加熱温度は外添加ワックス状物質の融点により変動する。外添加ワックス状物質は、好ましくは約40〜約90℃、特に好ましくは約50〜約85℃で軟化するものがよい。
【0037】
熱溶融コーティング工程において、加熱温度が高すぎる場合、内添加ワックス状物質及び外添加ワックス状物質が完全融解し、ワックス状物質による顆粒の被覆が完全となるため、体内で顆粒が崩壊しにくくなり、内包成分の溶出性が低下する。逆に、加熱温度が低すぎる場合、内添加ワックス状物質が外添加ワックス状物質の結合剤として働かず、また、外添加ワックス状物質が素粒剤表面で十分に展延しないため、顆粒の被覆が過少となり、口腔内での漏出の抑制が不充分となる。
【0038】
加熱温度が適温に達した時点で、粉末状ワックス状物質を加え、素粒剤表面に熱溶融コーティングを施す。コーティング時間は、好ましくは約10〜約90分間、特に好ましくは約20〜約60分間である。熱溶融コーティングに適した装置として、流動層乾燥装置が挙げられる。
【0039】
通常、流動層で粉末コーティングを行う場合、均一にコーティングすることが非常に困難である。しかし、本法を用いることにより、粉末状ワックス状物質を添加した際に不均一であっても、流動層乾燥装置(フローコーター FLO−5型;大河原製作所)により加熱しながら流動させることによりワックス状物質は軟化し、素粒剤表面で展延し、均一化されていく。このことから、本法は非常に簡易な外部コーティング方法を提供する。
【0040】
以下に本発明に関わる被覆製剤の製造方法について詳細に説明する。本明細書において、特に指示のない限り、当該分野で公知である製剤工程が採用される。
【0041】
まず、医薬化合物、特に不快味を有する医薬化合物約40重量%以下、ワックス状物質約5〜約25重量%及び水膨潤性物質約5〜約35重量%、必要とあれば、結合剤、滑沢剤、嬌味剤、着色剤等のその他添加剤を混合する。この混合粉末を、圧縮してフレーク状に成形後、破砕する。その後、ふるい機で分級し、任意の粒子径に調整することにより、素粒剤を得る。(造粒工程)
【0042】
次に、ワックス状物質が表面を湿潤するように素粒剤を加熱し、その状態下で粉末状ワックス状物質(約5〜約25重量%)を加える。その後、加熱状態下で、一定時間、流動させることにより熱溶融コーティング粒剤を得る。(熱溶融コーティング工程)
【0043】
また、口腔内において不快味を改善するために、甘味剤を含む該被覆製剤を造粒することができる。又は、甘味細粒を造粒して該被覆製剤と混合することができる。甘味剤としては、例えば、乳糖、白糖、粉末還元麦芽糖水あめ、ブドウ糖、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、マルト−ス、エリスリトール、アスパルテーム、サッカリン、サッカリンナトリウム、アセスルファムカリウム又はグリチルリチン酸二カリウム等が用いられる。
【0044】
甘味細粒を該被覆製剤と混合する場合、通常の方法で製した甘味細粒を使用することができる。例えば、甘味剤を混合し、適量の水を加え練合し、練合物を押出し造粒で製し、乾燥することにより得ることができる。
【0045】
本発明は、上記の甘味細粒より、甘味が増した甘味細粒を提供する。すなわち、本発明における甘味細粒は、甘味剤の溶出性を改善するために、甘味剤を造粒する際、一部の甘味剤を可溶化作用のある結合剤と共に水に溶解又は分散させたものを結合液として、残りの甘味剤に加え、練合し、練合物を造粒し、乾燥することによって得ることができる。
【0046】
この甘味細粒を上記の被覆製剤と混合して服用することにより、さらに不快味を改善することができる。
【0047】
本発明における甘味細粒は、甘味剤と、甘味剤を結合剤と共に水に溶解又は分散させた結合液を用いて、湿式法で造粒される。甘味剤としては、上記の甘味剤を使用することができる。結合剤としては、上記記載の水溶性結合剤を使用することができる。特に、界面活性作用を持つ結合剤、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)等が好ましい。
試験例1
【0048】
予備試験
本発明の目的を達成し得る粒剤の製造方法を追求するために、まず、官能試験により苦味の閾値を求めた。
【0049】
塩酸セフカペンピボキシルの味の官能試験
塩酸セフカペンピボキシルの粉末を溶解し、8水準の濃度の試験液100mL(液温36〜38℃)を6人分用意した。まずパネリストは最も濃度の低い試験液10mLを口に約30秒含んだのち、吐き出し官能評価を行った。この約30秒間は口中での最大予想滞留時間である。
ついで水で口をゆすぎ順次高濃度の液について同様に官能評価を行った。
【0050】
【表1】

【0051】
上記の試験の結果から、口内での溶出濃度を全てのパネリストが苦味を感じる濃度である70μg/mL未満に抑制できればよいことが判明した。
【実施例1】
【0052】
(1)素粒剤(造粒工程)
下記の表に示された2種の組成の素粒剤成分をV型混合機(50L)で15分間混合する。この混合末をローラー圧縮機(ローラーコンパクター・ターボ工業(株))でフレーク状に成形後、ロールグラニュレーター(日本グラニュレーター(株))で架砕調粒し、振動ふるい機で篩別し、30〜100メッシュの素粒剤を得る。
【0053】
(2)熱溶融コーティング工程
素粒剤を流動層乾燥装置(フローコーター FLO−5型;大河原製作所)に仕込み、品温80〜85℃に加熱した後、下記の表の組成に従って、硬化ヒマシ油を流動層中に投入する。品温80〜85℃において10〜30分流動させた後、30メッシュ網を通過させて熱溶融コーティング粒剤を得る。
【実施例2】
【0054】
実施例1と同様に行った。実施例1及び2の組成を表2に示す。
【0055】
【表2】

参考例1
【0056】
【表3】

【0057】
(1)素粒剤(造粒工程)
表3に記載の成分をV型混合機(50L)で15分間混合する。この混合末をローラー圧縮機でフレーク状に成形後、ロールグラニュレーターで架砕調粒し、振動ふるい機で篩別し、30〜100メッシュの素粒剤を得る。
【0058】
(2)熱溶融(加熱)工程
素粒剤を流動層乾燥装置に仕込み、品温80〜85℃において30〜40分流動させた後、30メッシュ網を通過させて熱溶融粒剤を得る。
参考例2
【0059】
実施例1の素粒剤と表2の硬化ヒマシ油とをV型混合機(50L)で5分間混合し、混合物を流動層乾燥装置(フローコーター FLO−5型;大河原製作所)に投入する。品温80〜85℃に加熱し、10〜30分流動させた後、30メッシュ網を通過させて熱溶融粒剤を得る。
試験例2
【0060】
漏出試験
実施例1、2で得られた熱溶融コーティング粒剤、参考例1で得られた素粒剤及び熱溶融粒剤につき漏出試験を行った。共栓試験管に一定量の試料を秤取後、水30mLを添加したのち、振とう機(50回転/分)で30秒間振とうした検体をろ過し、ろ液の塩酸セフカペンピボキシル濃度を吸光度法で測定した。結果を図1に示す。参考例1及び2の熱溶融粒剤の漏出濃度は素粒剤よりも低いが、試験開始から60秒後では官能試験において全てのパネリストが苦味を感知する70μg/mLを超えていた。これに対し、実施例1及び2の熱溶融コーティング粒剤の60秒後の漏出濃度は46及び39μg/mLであり、全てのパネリストがほとんど苦味を感知しない濃度に抑えられていることが判った。
試験例3
【0061】
溶出試験
実施例1、2で得られた熱溶融コーティング粒剤(被覆製剤)、参考例1で得られた熱溶融粒剤につき日局第2液を用い、パドル法(100rpm)で溶出試験を行った。結果を図2に示す。実施例1及び2は参考例1よりも薬物の不快味のマスキング効果を高めたものであるが、溶出速度の遅延はほとんど認められなかった。実施例1及び2の被覆製剤は、被覆したにも関わらず、30分後の医薬化合物の溶出率はそれぞれ77.1%及び75.4%であり、参考例1で得られた熱溶融粒剤(80.0%)と同様に、75%以上であった。
【実施例3】
【0062】
(1)甘味粒剤
表4に記載のアスパルテーム、キシリトール、D−マンニトール、ヒドロキシプロピルセルロース、アルファー化デンプンの5種の成分を攪拌造粒機(25L)で2分間混合した後、アスパルテーム、ヒドロキシプロピルセルロースを溶解又は分散させた結合液(水420g)を加えて練合した。練合物を円筒製粒機で押出し造粒し、流動層乾燥装置(フローコーター FLO−5型;大河原製作所)で乾燥した。乾燥顆粒をロールグラニュレーター(日本グラニュレーター(株))で架砕調粒し、振動ふるい機で篩別し、30〜100メッシュの粒剤5000gを得た。
【0063】
【表4】

参考例3
【0064】
(1)甘味粒剤
表5に記載の5種の成分を攪拌造粒機(25L)で2分間混合したのち、水420gを加えて練合した。練合物を円筒製粒機で押出し造粒し、流動層乾燥装置(フローコーター FLO−5型;大河原製作所)で乾燥した。乾燥顆粒をロールグラニュレーター(日本グラニュレーター(株))で架砕調粒し、振動ふるい機で篩別し、30〜100メッシュの粒剤5000gを得た。
【0065】
【表5】

試験例4
【0066】
味覚官能試験
実施例3および参考例3の甘味粒剤を、それぞれ実施例1の熱溶融コーティング粒剤と1:1の比率で混合し、味覚官能試験を行った。
それぞれの複合粒剤1gを6人分用意した。6名のパネリストのうち、半数の3名はA(実施例3の甘味粒剤と実施例1の熱溶融コーティング粒剤の複合粒剤)を服用したのち、水で口をゆすぎB(参考例3の甘味粒剤と実施例1の熱溶融コーティング粒剤の複合粒剤)を服用した。残りの3名はB、Aの順に服用した。パネリストはどちらの粒剤の苦味を強く感じたか、官能評価を行った。
【0067】
【表6】

【0068】
A、Bの粒剤は組成が同一であるにも関わらず、上記に示すように、6名のパネリスト全員がBの苦味を強く感じた。これは、甘味剤であるアスパルテームを少量のヒドロキシプロピルセルロースとともに結合液中に分散させたため、甘味が増強された結果である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明により、不快味を改善した被覆製剤の製造方法が提供される。詳しくは、不快味を有する薬物を含む経口投与用の製剤において、口腔内における漏出を抑制して、服用時の不快感を減らした、飲みやすい製剤の製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬化合物及びワックス状物質を含む素粒剤に加熱処理を施し、該ワックス状物質が表面を湿潤する温度下で粉末状ワックス状物質を加え、該素粒剤表面に熱溶融コーティングを施すことを特徴とする被覆製剤の製造方法。
【請求項2】
該粉末状ワックス状物質の平均粒子径が、該素粒剤の平均粒子径よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の被覆製剤の製造方法。
【請求項3】
該粉末状ワックス状物質が、硬化油、ステアリルアルコール、ステアリン酸及びポリエチレングリコールよりなる群から選ばれる少なくとも1種の粉末状ワックス状物質である請求項2記載の被覆製剤の製造方法。
【請求項4】
被覆製剤の重量に対し、医薬化合物が約40重量%以下、ワックス状物質が約5〜25重量%、水膨潤性物質が約5〜約35重量%、粉末状ワックス状物質が約5〜25重量%である請求項3記載の被覆製剤の製造方法。
【請求項5】
医薬化合物が不快味を有するものである、請求項1〜4のいずれかに記載の被覆製剤の製造方法。
【請求項6】
医薬化合物が(+)−(6R、7R)−7−[(Z)−2−(2−アミノ−4−チアゾリル)−2−ペンテンアミド]−3−カルバモイルオキシメチル−8−オキソ−5−チア−1−アザビシクロ[4.2.0]オクト−2−エン−2−カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステル塩酸塩・1水和物である、請求項1〜4のいずれかに記載の被覆製剤の製造方法。
【請求項7】
60秒後の医薬化合物の漏出濃度が70μg/mL以下であり、30分後の医薬化合物の溶出率が75%以上である請求項6記載の被覆製剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載の製造方法により製造される被覆製剤。
【請求項9】
甘味剤と結合剤を溶解または分散させた結合液を用いて、湿式法により造粒して得られた甘味細粒をさらに配合した、請求項8記載の被覆製剤。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/039538
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515009(P2005−515009)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015884
【国際出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【特許番号】特許第3981134号(P3981134)
【特許公報発行日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】