説明

不揮発性メモリ及び不揮発性メモリの製造方法

【課題】商業的に有用であるとともに、安価な不揮発性メモリ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】不揮発性メモリ10は、下部電極14と、金属酸化物膜15と、上部電極16とがこの順に積層されて形成されており、下部電極14と上部電極16とに電気的パルスを印加すると、金属酸化物膜15の抵抗が変化する。金属酸化物膜15は、周期表第4族から第6族の金属元素のうち少なくとも一種の金属元素と、周期表第2族のうち少なくとも一種の添加金属元素と、を含んでおり、金属酸化物膜15に含まれる全金属元素に対する添加金属元素の原子百分率は、0%よりも多く10%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変抵抗特性を有する金属酸化物膜を用いた不揮発性メモリとその製造方法に関するものであり、特にゾル−ゲル法による金属酸化物膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化社会の急激な進展により、高速、大容量のデータを扱う必要性が増大している。そのデータを保存するために、高速で不揮発性のメモリの実現が期待されている。
【0003】
不揮発性メモリとして、フラッシュメモリや強誘電体メモリが既に市場に投入され、携帯電話機やデジタルカメラ等で使うメモリ・カードが急進している。しかも、1Mバイト当りの単価は既に0.15米ドルを切り、年率2倍の大容量化と半分の低コスト化を実現してきた。これまでメモリ・カードは、MP3プレーヤ等の携帯型オーディオ機器やデジタルカメラ向けのデータ格納用の記録媒体として市場が拡大してきた。
【0004】
最近では、例えば、DVDレコーダやテレビで録画した番組をメモリ・カード経由で携帯電話機や携帯型情報機器等に取り込み再生する、というような機器間でのデータ交換に用いるブリッジ媒体としての用途が出てきた。これは、有線や無線のネットワークを代替するもので、ネットワークを使う場合と比較して、ユーザがより直感的な操作で扱え、携帯電話機など有料のネットワークを使う場合と比べて安価である。
【0005】
更に、データ格納用メモリだけではなく、アプリケーション・ソフトウェアや大半のハードウェアの機能を搭載したメモリ・カードの開発も検討され始めた。こうなると、メモリやソフトウェアばかりか、大半のハードウェアすらセット機器に搭載しておく必要がなく、機器の小型、軽量、薄型化が可能になる。
【0006】
このような背景から、不揮発性メモリには、更なる、ビットコストの低減化(大容量化、低コスト化)、及び高速化が求められている。
【0007】
例えば、非特許文献1に記載されたような、金属が添加されたバルク単結晶の金属酸化物強誘電体材料に於いて、自発分極の方向に、自発分極の反転電界以上の電界を印加することにより、電気伝導度を変化させることが出来、この分極反転に伴う抵抗変化を利用して、この強誘電体材料のバルク単結晶でメモリ・セルを形成する記憶素子が提案されている。
【0008】
しかしながら、バルク単結晶でメモリ・セルを形成した場合、高密度高集積化が困難であり、又、分極反転時の印加電圧は、数kV/mmの高電圧を必要とする。そして、低電圧駆動の大容量不揮発性メモリを実現する為には、この金属酸化物から成る強誘電体材料を薄膜化する必要がある。
【0009】
機能性金属酸化物の単結晶薄膜は、パルスレーザ堆積法(Pulsed Laser Deposition Method)等で作製することは可能であるが、量産に不向きな成膜方法であるため、作製した不揮発性メモリの生産コストが高くなるという課題を有する。また、一般に、機能性金属酸化物膜は、多結晶体であり、粒界等の影響でバルク単結晶と物性が異なることが知られている。
【0010】
金属酸化物膜は、従来より、スパッタリング法や蒸着法等の真空中で行う物理堆積法(Physical Vapor Deposition Method;PVD法と称す)やゾル−ゲル法等による作製が検討されている。スパッタリング法等の物理堆積法は、製造系全体を10-2Pa以下の高真空に保つため減圧する必要があり、真空引きに時間を要し、その上、高価で大型の特殊な真空設備を必要とする。しかし、ゾル−ゲル法は、上述したPVD法のように制約の多い特殊な真空設備を必要とすることなく、大気中で簡単に薄膜を形成することができるため、経済的である。また、スピンコータ等の小型で安価な簡便な装置を用いて、比較的低温において、大面積にわたって、均一で良質の金属酸化物膜を短時間で形成することができる。
【非特許文献1】発行名 エレクトロニクスレター、発行年 2004年,第40巻、記載箇所 第819頁から第820頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、ゾル−ゲル法は、有機金属化合物、有機酸塩、または金属アルコキシドを用いて、ゾル−ゲル転移を起こさせて金属酸化物を作製する一般的な手法である。
【0012】
しかしながら、ゾル−ゲル法を用いて、目的とする不揮発性メモリに使用可能な可変抵抗特性を有する金属酸化物膜を作製するためには、有機金属化合物、有機酸塩、または金属アルコキシドの種類、溶媒の種類と量、水の量、反応、乾燥(温度、時間)、熱処理(昇温速度、温度、時間)等の多くのパラメータを制御する必要があり、最適な条件を見出すのは困難である。そのため、電圧パルス印加により、所望の抵抗変化を示す不揮発性メモリを製造することは、困難である。
【0013】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、所望の抵抗変化を示す不揮発性メモリ及びその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者は、ゾル−ゲル法等により、各種金属を用いて鋭意研究を行った結果、所望の可変抵抗特性を有する金属酸化物膜の製造方法とそれを用いた安価な不揮発性メモリを製造し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
具体的には、第1、第2及び第3の不揮発性メモリは、第1電極と、該第1電極に対向して配置された第2電極と、該第1電極と該第2電極との間に形成された可変抵抗特性を有する金属酸化物膜と、を備えている。
【0016】
ここで、「可変抵抗特性」は、所定の条件(極性、振幅、パルス幅など)の電気的パルスを印加することにより、抵抗値が変化するという特性である。
【0017】
第1の不揮発性メモリの前記金属酸化物膜は、周期表第4族から第6族の金属元素のうち少なくとも一種以上の金属元素と、周期表第2族の金属元素のうち少なくとも一種以上の添加金属元素と、を含み、前記金属酸化物膜に含まれる全金属元素に対する前記添加金属元素の原子百分率が、0%よりも多く10%以下である。
【0018】
第2の不揮発性メモリの前記金属酸化物膜は、周期表第4族から第6族の金属元素のうち少なくとも一種以上の金属元素と、周期表第1族の金属元素のうち少なくとも一種以上の金属元素と、周期表第2族の金属元素のうち少なくとも一種以上の添加金属元素と、を含み、前記金属酸化物膜に含まれる全金属元素に対する前記添加金属元素の原子百分率が、0%よりも多く10%以下である。
【0019】
ここで、「周期表第1族の金属元素」とは、周期表第1族の元素のうち水素元素以外の元素を意味する。
【0020】
第3の不揮発性メモリの前記金属酸化物膜は、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo及びWのうち少なくとも一種以上の金属元素と、Liと、Mgと、を含み、前記金属酸化物膜に含まれる全金属元素に対するMgの原子百分率が、0%よりも多く10%以下である。
【0021】
第1、第2及び第3の不揮発性メモリの製造方法は、第1電極と、該第1電極に対向して配置された第2電極と、該第1電極と該第2電極との間に形成された可変抵抗特性を有する金属酸化物膜と、を備えた不揮発性メモリの製造方法であり、溶媒と、金属カルボン酸塩または金属アルコキシドを含む前駆体と、を含有するゾル溶液を調製する調製工程と、前記ゾル溶液からなる膜を前記第1電極の表面に形成する膜形成工程と、前記ゾル溶液からなる膜をゲル化させるゲル化工程と、前記ゲルを熱処理して酸化させる熱処理工程と、を備えている。
【0022】
第1の製造方法では、前記前駆体は、周期表第4族から第6族の金属元素のうち少なくとも一種の金属元素の金属カルボン酸塩または金属アルコキシドと、周期表第2族の金属元素のうち少なくとも一種の添加金属元素の金属カルボン酸塩または金属アルコキシドと、を含み、前記金属酸化物膜に含まれる全金属元素に対する前記添加金属元素の原子百分率が、0%よりも多く10%以下となるように、調製されている。
【0023】
第2の製造方法では、前記前駆体は、周期表第4族から第6族の金属元素のうち少なくとも一種の金属元素の金属カルボン酸塩または金属アルコキシドと、周期表第1族の金属元素のうち少なくとも一種の金属元素の金属カルボン酸または金属アルコキシドと、周期表第2族の金属元素のうち少なくとも一種の添加金属元素の金属カルボン酸塩または金属アルコキシドと、を含み、前記金属酸化物膜に含まれる全金属元素に対する前記添加金属元素の原子百分率が、0%よりも多く10%以下となるように、調製されている。
【0024】
ここで、「周期表第1族の金属元素」とは、周期表第1族の元素のうち水素元素以外の元素を意味する。
【0025】
第3の製造方法では、前記前駆体は、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wのうち少なくとも一種の金属元素の金属カルボン酸塩または金属アルコキシドと、Liカルボン酸塩またはLiアルコキシドと、Mgカルボン酸塩またはMgアルコキシドと、を含み、前記金属酸化物膜に含まれる全金属元素に対するMgの原子百分率が、0%よりも多く10%以下となるように、調製されている。
【0026】
また、第3の製造方法では、前記前駆体は、メトキシリチウムと、ジ1−メトキシ−2−プロポキシマグネシウムと、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wのうち少なくとも一種の金属元素のエトキシドとを含んでいることが好ましい。
【0027】
また、第1、第2及び第3の製造方法では、前記溶媒は、アルコールであることが好ましく、そのアルコールは、1−メトキシ−2−プロパノールであることが好ましい。
【0028】
また、第1、第2及び第3の製造方法では、前記膜形成工程では、スピンコーティング法またはディップコーティング法により該膜が形成されることが好ましい。
【0029】
また、第1、第2及び第3の製造方法では、前記熱処理工程では、熱反応により、前記ゲルが酸化されることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る不揮発性メモリとその製造方法によれば、ゾル−ゲル法により、不揮発性メモリに使用され得る可変抵抗特性を有する金属酸化物薄膜を安価に製造することが出来る。
【0031】
また、本発明に係る不揮発性メモリは、多結晶の金属酸化物薄膜を使用するため、バルク単結晶の強誘電体材料のように、分極反転に伴う抵抗変化を利用する必要がなく、自発分極の方向に、自発分極の反転電界以上の高電界の印加を必要としないので、低電圧駆動が可能である。
【0032】
また、本発明に係る不揮発性メモリは、可変抵抗特性が分極反転に依存するものではないので、単結晶の強誘電体材料に限定されず、生産コストが安価で、低ビットコストの大容量不揮発性メモリの提供が可能になるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。
【0034】
《発明の実施形態1》
本実施形態では、図1及び図2を用いて、不揮発性メモリ10の構成と不揮発性メモリ10の製造方法とを示す。図1は、不揮発性メモリ10の製造方法を示すフローチャート図であり、図2は、不揮発性メモリ10の構成を示す図である。
【0035】
まず、不揮発性メモリ10の製造方法を示す。
【0036】
図1に示すように、まず、ゾル溶液を調製する。具体的には、アルコール主成分の溶媒に、複数種の金属カルボン酸塩または金属アルコキシドからなる前駆体を溶解させ、得られた溶液を還流する。
【0037】
このとき、溶媒は、2種以上のアルコールが混合された混合液であってもよいし、アセチルアセトンやマロン酸ジメチルなどの溶液がアルコールに混合された混合液であってもよい。
【0038】
また、前駆体は、周期表第4族から第6族の金属元素の金属カルボン酸塩または金属アルコキシドと、周期表第2族の金属元素の金属カルボン酸塩または金属アルコキシドと、を含んでいる。そして、前駆体は、金属酸化物膜に含まれる全金属元素に対する周期表第2族の金属元素の原子百分率(以下、単に「周期表第2族の金属元素の原子百分率」という)が0%よりも多く10%以下となるように、調製されている。
【0039】
次に、不図示であるが、ゾル溶液を濾過する。このとき、濾過は、公知の方法を用いて行うことができ、複数回行うことが好ましい。
【0040】
続いて、不図示であるが、下部電極14を形成する。具体的には、Siなどの基板11の上にSiO2などの酸化物薄膜12を形成し、酸化物薄膜12の上にチタン,タンタル,チタン酸化物,タンタル酸化物,チタン窒化物またはタンタル窒化物などからなる密着層13を形成し、密着層13の上に下部電極14を形成する。下部電極14は、少なくともその表面がAg, Au, Pt, Cu, Al, W, Ru, RuO2, IrまたはIrO2で形成されていることが好ましい。また、各層の層厚は、酸化物薄膜12が約50nm〜1μmであり、密着層13が約10〜100nmであり、下部電極14が約100nm〜1μmであることが好ましい。
【0041】
続いて、下部電極14表面上に、金属酸化物膜15となるゾル溶液からなる膜を形成する。成膜方法としては、スピンコーティング法またはディップコーティング法を用いることができる。スピンコーティング法を用いて金属酸化物膜15を形成する場合には、500rpm以上7000rpm以下の回転速度で行われることが好ましく、1500rpm以上3000rpm以下の回転速度で行えばさらに好ましい。また、ディップコーティング法を用いて金属酸化物膜15を形成する場合には、2cm/分以上30cm/分以下の引き上げ速度で行われることが好ましい。
【0042】
続いて、ゾル溶液からなる膜を乾燥させて、ゲル化させる(ゲル化工程)。このとき、乾燥温度は、溶媒の沸点以上であるため、溶媒に依存する。乾燥時間は、溶媒が完全に蒸発されるのに要する時間であるため、溶媒に依存するが、概ね、10分以下程度である。
【0043】
続いて、ゲルを熱処理する(熱処理工程)。このとき、熱処理の温度は、金属アルコキシドや金属カルボン酸塩などの金属塩が完全に分解されて、酸化される温度であり、後述の実施形態3に示すように、示差熱分析法などにより求められた温度以上の温度であれば確実に酸化反応が終了するため好ましい。これにより、周期表第4族から第6族の金属元素のうちのいずれか一つの金属元素と、周期表第2族の金属元素のうちのいずれか一つの金属元素とを含む金属酸化物膜を下部電極14の表面に形成することができる。そして、形成された金属酸化物膜の膜厚は、約20nm〜100nmである。それよりも分厚い金属酸化物膜を形成するには、膜形成工程から熱処理工程までを繰り返せばよい。
【0044】
所望の厚さの金属酸化物膜15を形成した後、金属酸化物膜15の表面に、下部電極14と対向するように上部電極(第2電極)16を形成する。このとき、上部電極16は、少なくともその表面がAg, Au, Pt, Cu, Al, W, Ru, RuO2, IrまたはIrO2で形成されていることが好ましく、その厚みは、約100nm〜1μmであることが好ましい。これにより、図2に示す不揮発性メモリ10を製造することができる。
【0045】
すなわち、不揮発性メモリ10は、図2に示すように、基板11と、酸化物薄膜12と、密着層13と、下部電極14と、金属酸化物膜15と、上部電極16とが、この順に積層されて形成されている。そして、金属酸化物膜15における周期表第2族の金属元素の原子百分率は、0%よりも多く10%以下である。
【0046】
続いて、不揮発性メモリ10における動作を示す。
【0047】
上部電極16及び下部電極14に、各々、端子を接続する。そして、その端子間に所定の条件(極性、パルス幅または振幅など)の電気的パルスを印加する。すると、金属酸化物膜15における抵抗値は、増加または減少するという可変抵抗特性を示す。また、周期表第2族の金属元素の原子百分率は、0%よりも多く10%以下である。そのため、その抵抗値は、上述の電気的パルスの印加により、商業的に有用な程度に大きく、且つ安定に変化する。そのため、不揮発性メモリ10は、抵抗値が減少した状態(低抵抗状態)をリセット状態、抵抗値が増加した状態(高抵抗状態)を書き込み状態とする不揮発性メモリ、又は高抵抗状態をリセット状態、低抵抗状態を書き込み状態とする不揮発性メモリとして利用可能である。
【0048】
なお、周期表第2族の含有量は、後述の実施形態3及び4に記載のように、ICP発光分析法(inductively coupled plasma発光分析法,誘導結合プラズマ発光分析法)やX線回折法などによる元素分析を行うことにより、求めることができる。
【0049】
また、金属酸化物膜15における抵抗値が安定に変化するとは、複数回に亘って電気的パルスを印加しても、低抵抗状態の抵抗値及び高抵抗状態の抵抗値が、各々の状態で、ほとんど変化しないことを意味する。換言すると、低抵抗状態及び高抵抗状態、各々の状態の抵抗値が、誤差範囲程度でしか変化しないことを意味する。
【0050】
以上より、不揮発性メモリ10では、周期表第2族の金属元素の原子百分率が0%よりも多く10%以下であるため、金属酸化物膜における抵抗は、商業的に有用な程度に、且つ、安定に変化する。従来、周期表第4族から第6族の金属元素を含有する不揮発性メモリにおいて、周期表第2族の金属元素の原子百分率が0%であったり非常に大きすぎたりすると、金属酸化物膜における抵抗変化が無かったり、小さすぎたり、不安定であったり、又、低電圧駆動が困難であるという不具合が生じる恐れがあった。しかし、本実施形態では、その原子百分率が0%よりも多く10%以下であるため、上述の不具合が生じることはなく、商業的に利用可能である。
【0051】
また、不揮発性メモリ10では、基板11の上に密着層13が形成されているため、密着層を備えていない不揮発性メモリに比べて、基板11と下部電極14との密着性が向上する。そのため、不揮発性メモリ10は、信頼性が高く、安定性に優れている。
【0052】
また、不揮発性メモリ10では、可変抵抗材料が多結晶金属酸化物膜であるため、バルク単結晶を用いる強誘電体材料と異なり、分極反転に伴う抵抗変化を利用する必要はない。よって、不揮発性メモリ10では、自発分極の方向に自発分極の反転電界以上の高電界の印加を必要としないため、低電圧駆動が可能である。
【0053】
また、不揮発性メモリ10では、可変抵抗特性が分極反転に依存しないため、単結晶の強誘電体材料に限定されない。そのため、生産コストが安価で、低ビットコストの大容量不揮発性メモリの提供が可能である。
【0054】
本実施形態における不揮発性メモリの製造方法では、前駆体は、周期表第2族の金属元素の原子百分率が0%よりも多く10%以下となるように、調製されている。そのため、この製造方法を用いて製造された不揮発性メモリでは、金属酸化物膜における抵抗が、商業的に有用な程度に、且つ安定に変化する。
【0055】
また、本実施形態における不揮発性メモリの製造方法では、溶媒として比較的安価なアルコールを主成分とする溶媒を用いるため、低廉に、不揮発性メモリを製造することができる。
【0056】
また、酸化工程を大気中(大気圧下)で行うことができるため、酸素ガスの導入やガス置換のための減圧を行う必要がなく、簡便且つ安全に酸化工程を行うことができる。
【0057】
《発明の実施形態2》
実施形態2における不揮発性メモリ20では、金属酸化物膜25は、周期表第4族から第6族の少なくとも一種の金属元素と、周期表第2族の少なくとも一種の金属元素と、に加えて、周期表第1族の少なくとも一種の金属元素を含んでいる。そして、周期表第2族の金属元素の原子百分率は、0%よりも多く10%以下である。それ以外の構成要素などについては、上記実施形態1における不揮発性メモリ10と略同一である。
【0058】
不揮発性メモリ20を製造するさいには、前駆体として、周期表第4族から第6族の少なくとも一種の金属元素と、周期表第2族の少なくとも一種の金属元素と、周期表第1族の少なくとも一種の金属元素とを含有する混合物を用いる。そして、周期表第2族の金属元素の原子百分率が0%よりも多く10%以下となるよう、前駆体を調製する。その後の製造方法は、上記実施形態1に記載の方法と略同一である。
【0059】
以上より、本実施形態における不揮発性メモリ20及びその製造方法は、各々、上記実施形態1における不揮発性メモリ10及びその製造方法と略同一の効果を奏する。
【0060】
《発明の実施形態3》
実施形態3では、上記実施形態2における不揮発性メモリの具体例とその製造方法の具体例とを示す。具体的には、本実施形態における不揮発性メモリ30の金属酸化物膜35は、NbとMgとLiとを含有している。
【0061】
不揮発性メモリ30の製造方法を示す。
【0062】
まず、融点が−97℃の(CH3O)CH2CH(OH) CH3(1−メトキシ−2−プロパノール)を主成分とする溶媒に、Li(OCH3)(メトキシリチウム)と、Mg(OCH(CH3) CH2OCH3)2(ジ1−メトキシ−2−プロポキシマグネシウム)と、Nb(OC25) 5(ペンタエトキシニオブ)を1:0.1:1のモル比で混合し、それを還流してゾル溶液を調整した。
【0063】
次に、孔径0.2μmのフィルタに、このゾル溶液を通して濾過した。
【0064】
続いて、Pt等の下部電極14上に、1000〜5000rpmの回転速度でスピンコーティング法により塗膜形成し、溶媒の沸点以上の温度(120〜300℃)で5分間乾燥し、溶媒を蒸発させてゲル化させた。
【0065】
続いて、ゲルを酸化させて、下部電極14上に金属酸化物膜35を形成した。具体的には、大気中において、ゲルを350℃から800℃の温度範囲で10分間、10℃/秒の昇温速度で高速熱処理を行った。これにより、下部電極14上に、層厚が50nm〜100nmの金属酸化物膜35を形成することができた。
【0066】
そして、膜形成工程、ゲル化工程、熱処理工程を繰り返して行うことにより、下部電極14上に所望厚さ(約10nm〜500nm)の金属酸化物膜35を作製した。
【0067】
続いて、金属酸化物膜層35の上にAg等からなる上部電極16を形成し、図2に示す不揮発性メモリ30を作製した。
【0068】
なお、熱処理工程における熱処理の温度は、ゾル溶液の示差熱分析の結果を基にして決定した。本実施形態におけるゾル溶液には、341.8℃に発熱反応に由来する大きなピークが観測された(不図示)。これにより、約350℃で酸化反応が略完了していることがわかった。よって、ゲルを350℃から800℃の温度範囲で10分間、10℃/秒の昇温速度で高速熱処理を行った。
【0069】
また、金属酸化物膜35を成膜後、ICP発光分析法及びX線回折法を行って、金属酸化物膜35の元素組成分析を行った。その結果、金属酸化物膜35は、多結晶体であることがわかり、その膜中の金属元素の組成は、Mgの原子百分率が4.1%であり、Liの原子百分率が47.7%であり、Nbの原子百分率が48.2%であることがわかった。
【0070】
次に、作製した不揮発性メモリ30の特性を評価した。
【0071】
本実施形態では、ゲル化工程における乾燥温度を200℃とし、熱処理工程における熱処理の温度を600℃として作製された厚さ250nmの金属酸化物膜35を用いた場合の不揮発性メモリ30の評価結果を説明する。
【0072】
不揮発性メモリ30に対して、パルス幅が100nsでありパルス振幅が+1.5Vである正極性電圧パルスと、パルス幅が100nsでありパルス振幅が−1.5Vである負極性電圧パルスを交互に連続印加して抵抗値を測定した。
【0073】
抵抗値は、正極性のパルスを印加すると3kΩに低減し、その後、負極性のパルスを印加すると123kΩに増加した。よって、約40倍の抵抗値の増大を図ることができた。
【0074】
又、その後、更に正極性のパルスを印加すると、抵抗値は、再び3kΩに低減し、可逆的な変化を示した。これにより、正極性パルスを印加した時をリセット状態、負極性パルスを印加した時を書き込み状態、又は負極性パルスを印加した時をリセット状態、正極性パルスを印加した時を書き込み状態とする不揮発性メモリが実現可能であることを示唆している。
【0075】
なお、本不揮発性メモリの可変抵抗変化特性が分極反転によるものでなかったことは言うまでもない。
【0076】
以上より、本実施形態における不揮発性メモリ30及びその製造方法は、上記実施形態1における不揮発性メモリ10及びその製造方法と略同一の効果を奏する。
【0077】
《発明の実施形態4》
実施形態4では、上記実施形態1における不揮発性メモリの具体例と製造方法の具体例とを示す。具体的には、本実施形態における不揮発性メモリ40の金属酸化物膜45は、WとCaとを含有している。
【0078】
不揮発性メモリ40の製造方法を示す。
【0079】
まず、(CH3O)CH2CH(OH) CH3(1−メトキシ−2−プロパノール)を主成分とする溶媒に、Ca[OCOCH(C25)C49)]2(2-エチルヘキサン酸カルシウム)とW(OC25) 5(ペンタエトキシタングステン)を0.03:1のモル比で混合し、それを還流してゾル溶液を調整した。その後は、上記実施形態3に記載の方法と略同一の方法により、下部電極14表面に金属酸化物膜45を形成し、膜表面に上部電極16を形成した。
【0080】
なお、金属酸化物膜45を成膜後、ICP発光分析法及びX線回折法を行って、金属酸化物膜45の元素分析を行った。その結果、金属酸化物膜45は、多結晶体であることがわかり、その薄膜中の金属元素の組成は、Caの原子百分率が2.5%であり、Wの原子百分率が97.5%であることがわかった。
【0081】
次に、作製した不揮発性メモリ40の特性を評価した。
【0082】
本実施形態では、上記実施形態3と同様、乾燥温度を200℃とし、熱処理温度を600℃として作製された厚さ250nmの金属酸化物45膜を用いた場合の不揮発性メモリ40の評価結果を説明する。
【0083】
不揮発性メモリ40に対して、パルス幅が100nsでありパルス振幅が+4Vである正極性電圧パルスと、パルス幅が100nsでありパルス振幅が−4Vである負極性パルスを交互に連続印加して抵抗値を測定した。
【0084】
抵抗値は、正極性のパルスを印加すると1kΩに低減し、その後、負極性のパルスを印加すると102kΩに増加した。よって、約2桁の抵抗値の増大を図ることができた。また、その後、更に正極性のパルスを印加すると、抵抗値は、再び1kΩに低減し、可逆的な変化を示した。これにより、正極性パルスを印加した時をリセット状態、負極性パルスを印加した時を書き込み状態、又は負極性パルスを印加した時をリセット状態、正極性パルスを印加した時を書き込み状態とする不揮発性メモリが実現可能であることを示唆している。
【0085】
《その他の実施形態》
上記実施形態1から4は、以下に示す構成であってもよい。
【0086】
金属酸化物膜は、可変抵抗特性を悪化させない元素であれば、各実施形態に記載した元素以外の元素を含有していてもよい。
【0087】
また、下部電極14の表面に、絶縁層などの中間層が形成され、その中間層の表面に、金属酸化物膜15,25,35,45が形成されてもよく、下部電極14の表面に、金属酸化物膜15,25,35,45が形成され、その金属酸化物膜15,25,35,45の表面に、絶縁層などの中間層が形成されてもよい。また、金属酸化物膜15,25,35,45の表面に、絶縁層などの中間層が形成され、その中間層の表面に上部電極16が形成されてもよく、絶縁層などの中間層の表面に、金属酸化物膜15,25,35,45が形成され、その金属酸化物膜15,25,35,45の表面に上部電極16が形成されてもよい。さらに、中間層は、1層に限定されず、複数の層が積層されて形成されてもよい。
【0088】
不揮発性メモリの製造方法において、前駆体として、金属アルコキシドや金属カルボン酸塩以外の金属塩を用いても同様の効果を奏する。なお、金属酢酸塩などのように、前処理工程が必要な金属塩を用いれば、前処理工程を経てからゾル溶液を調製することとなり、製造コスト及び製造時間がかかってしまうため、あまり好ましくない。
【0089】
また、膜形成工程では、スピンコーティング法により作製した場合について述べたが、ディップコーティング法により作製した場合であっても同様の効果を奏する。さらに、ゾル−ゲル法に限らず、スパッタリング法等の真空中で行うPVD法であっても同様の効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上説明したように、本発明は、低コストで大容量の不揮発性メモリを実現することができ、この不揮発性メモリを用いればセット機器の小型、軽量、薄型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施形態1乃至4に係る金属酸化物膜の製造方法の手順を示すブロック図。
【図2】本発明の実施形態1乃至4に係る不揮発性メモリの構成を示す断面図。
【符号の説明】
【0092】
10,20,30,40 不揮発性メモリ
14 下部電極(第1電極)
15,25,35,45 金属酸化物膜
16 上部電極(第2電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、該第1電極に対向して配置された第2電極と、該第1電極と該第2電極との間に形成された可変抵抗特性を有する金属酸化物膜と、を備えた不揮発性メモリであって、
前記金属酸化物膜は、
周期表第4族から第6族の金属元素のうち少なくとも一種以上の金属元素と、
周期表第2族の金属元素のうち少なくとも一種以上の添加金属元素と、
を含み、
前記金属酸化物膜に含まれる全金属元素に対する前記添加金属元素の原子百分率が、0%よりも多く10%以下であることを特徴とする不揮発性メモリ。
【請求項2】
第1電極と、該第1電極に対向して配置された第2電極と、該第1電極と該第2電極との間に形成された可変抵抗特性を有する金属酸化物膜と、を備えた不揮発性メモリであって、
前記金属酸化物膜は、
周期表第4族から第6族の金属元素のうち少なくとも一種以上の金属元素と、
周期表第1族の金属元素のうち少なくとも一種以上の金属元素と、
周期表第2族の金属元素のうち少なくとも一種以上の添加金属元素と、
を含み、
前記金属酸化物膜に含まれる全金属元素に対する前記添加金属元素の原子百分率が、0%よりも多く10%以下であることを特徴とする不揮発性メモリ。
【請求項3】
第1電極と、該第1電極に対向して配置された第2電極と、該第1電極と該第2電極との間に形成された可変抵抗特性を有する金属酸化物膜と、を備えた不揮発性メモリであって、
前記金属酸化物膜は、
Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo及びWのうち少なくとも一種以上の金属元素と、
Liと、
Mgと、
を含み、
前記金属酸化物膜に含まれる全金属元素に対するMgの原子百分率が、0%よりも多く10%以下であることを特徴とする不揮発性メモリ。
【請求項4】
第1電極と、該第1電極に対向して配置された第2電極と、該第1電極と該第2電極との間に形成された可変抵抗特性を有する金属酸化物膜と、を備えた不揮発性メモリの製造方法であって、
溶媒と、金属カルボン酸塩または金属アルコキシドを含む前駆体と、を含有するゾル溶液を調製する調製工程と、
前記ゾル溶液からなる膜を前記第1電極の表面に形成する膜形成工程と、
前記ゾル溶液からなる膜をゲル化させるゲル化工程と、
前記ゲルを熱処理して酸化させる熱処理工程と、
を備え、
前記前駆体は、
周期表第4族から第6族の金属元素のうち少なくとも一種の金属元素の金属カルボン酸塩または金属アルコキシドと、周期表第2族の金属元素のうち少なくとも一種の添加金属元素の金属カルボン酸塩または金属アルコキシドと、を含み、
前記金属酸化物膜に含まれる全金属元素に対する前記添加金属元素の原子百分率が、0%よりも多く10%以下となるように、調製されていることを特徴とする不揮発性メモリの製造方法。
【請求項5】
第1電極と、該第1電極に対向して配置された第2電極と、該第1電極と該第2電極との間に形成された可変抵抗特性を有する金属酸化物膜と、を備えた不揮発性メモリの製造方法であって、
溶媒と、金属カルボン酸塩または金属アルコキシドを含む前駆体と、を含有するゾル溶液を調製する調製工程と、
前記ゾル溶液からなる膜を前記第1電極の表面に形成する膜形成工程と、
前記ゾル溶液からなる膜をゲル化させるゲル化工程と、
前記ゲルを熱処理して酸化させる熱処理工程と、
を備え、
前記前駆体は、
周期表第4族から第6族の金属元素のうち少なくとも一種の金属元素の金属カルボン酸塩または金属アルコキシドと、周期表第1族の金属元素のうち少なくとも一種の金属元素の金属カルボン酸塩または金属アルコキシドと、周期表第2族の金属元素のうち少なくとも一種の添加金属元素の金属カルボン酸塩または金属アルコキシドと、を含み、
前記金属酸化物膜に含まれる全金属元素に対する前記添加金属元素の原子百分率が、0%よりも多く10%以下となるように、調製されていることを特徴とする不揮発性メモリの製造方法。
【請求項6】
第1電極と、該第1電極に対向して配置された第2電極と、該第1電極と該第2電極との間に形成された可変抵抗特性を有する金属酸化物膜と、を備えた不揮発性メモリの製造方法であって、
溶媒と、金属カルボン酸塩または金属アルコキシドを含む前駆体と、を含有するゾル溶液を調製する工程と、
前記ゾル溶液からなる膜を前記第1電極の表面に形成する膜形成工程と、
前記ゾル溶液からなる膜をゲル化させるゲル化工程と、
前記ゲルを熱処理して酸化させる熱処理工程と、
を備え、
前記前駆体は、
Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wのうち少なくとも一種の金属元素の金属カルボン酸塩または金属アルコキシドと、Liカルボン酸塩またはLiアルコキシドと、Mgカルボン酸塩またはMgアルコキシドと、を含み、
前記金属酸化物膜に含まれる全金属元素に対するMgの原子百分率が、0%よりも多く10%以下であるように、調製されていることを特徴とする不揮発性メモリの製造方法。
【請求項7】
前記前駆体は、メトキシリチウムと、ジ1−メトキシ−2−プロポキシマグネシウムと、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo及びWのうち少なくとも一種の金属元素のエトキシドとを含んでいることを特徴とする請求項6に記載の不揮発性メモリの製造方法。
【請求項8】
前記溶媒は、アルコールであることを特徴とする請求項4から6の何れか一つに記載の不揮発性メモリの製造方法。
【請求項9】
前記溶媒は、1−メトキシ−2−プロパノールであることを特徴とする請求項8に記載の不揮発性メモリの製造方法。
【請求項10】
前記膜形成工程では、スピンコーティング法またはディップコーティング法により該膜が形成されることを特徴とする請求項4から6の何れか一つに記載の不揮発性メモリの製造方法。
【請求項11】
前記熱処理工程では、熱反応により、前記ゲルが酸化されることを特徴とする請求項4から6の何れか一つに記載の不揮発性メモリの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−19164(P2007−19164A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197621(P2005−197621)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】