説明

不揮発性記憶装置

【課題】低コストで量産性に優れた不揮発性記憶装置を提供する。
【解決手段】実施形態の不揮発性記憶装置は、下側電極膜と、前記下側電極膜の上に設けられ、第1酸化物を含有する第1記憶素子膜と、前記第1記憶素子膜の上に設けられた上側電極膜と、を有する第1状態と、もしくは、前記下側電極膜と、前記下側電極膜の上に設けられた前記第1記憶素子膜と、前記第1記憶素子膜の上に設けられ、第2酸化物を含有する第2記憶素子膜と、前記第2記憶素子膜の上に設けられた前記上側電極膜と、を有する第2状態と、を維持することが可能である。前記第2記憶素子膜に含まれる酸素濃度は、前記第1記憶素子膜に含まれる酸素濃度よりも高い。前記第2状態における前記下側電極膜と前記上側電極膜との間の抵抗は、前記第1状態における前記下側電極膜と前記上側電極膜との間の抵抗よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、不揮発性記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
不揮発性記憶装置の集積度を上げるために、三次元の記憶セルが注目されている。その一つに、抵抗可変型の記憶セルが検討されている。抵抗可変型の記憶セルの例として記憶セル内の抵抗可変膜にフィラメントを形成するものがある。この種の記憶セルでは、陽極と陰極との間に抵抗可変膜(例えば、金属酸化膜)を介設する。そして、細い導電領域となるフィラメントを金属酸化膜内に形成する。フィラメントは、陽極と陰極との間に、金属酸化膜の耐圧が破壊する程度の電圧を印加して形成される。すなわち、所定の電圧を印加すると、金属酸化膜の一部に電界集中が生じて、金属酸化膜内にフィラメント状の導電パスが形成される。これにより、記憶セルは、高抵抗状態から低抵抗状態へと変化する。このとき、導電パスは、金属酸化物の酸素結合が切れた状態にあると推測される。導電パスでは、導電パス以外の部分よりも電子が移動し易くなっており、その結果、低抵抗な状態が維持されると推測される。
【0003】
その後、電圧を再び印加して酸素を、陽極側へ移動させて、陽極と金属酸化膜との界面近傍の金属酸化膜に対し酸素の再結合を施す。これにより、記憶セルを低抵抗状態から高抵抗状態へ再度移行させることができる。続いて、陽極と陰極との間に逆電圧を印加することで、移動した酸素イオンをもとの位置に戻すことにより、記憶セルは、高抵抗状態から低抵抗状態へ移行する。これにより、記憶セルは、低抵抗状態と高抵抗状態とを繰り返すことができる。
【0004】
しかしながら、フィラメントの形成は、金属酸化膜の一部を破壊するという確率的な手法に依っている。このため、金属酸化膜の破壊電圧は一定になり難い。従って、記憶セルごとにフィラメント形成の程度がばらつく場合がある。これを回避する手法として、どのような金属酸化膜でもフィラメントが形成するような高電圧を印加して、一度に全記憶セルにフィラメントを形成する手法も考えられる。しかし、この手法では一部の記憶セルが破壊されるか、あるいはフィラメント自体が大きくなりすぎて、消費電力が著しく増加する場合がある。フィラメントが徐々に形成するように、耐圧破壊の発生する電圧まで徐々に昇圧しながらフィラメントを形成する手法も考えられるが、この手法では、多大な製造時間を要する。このように、フィラメントを利用した不揮発性記憶装置では、低コストにならず、さらに量産性に優れないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−135541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、低コストで量産性に優れた不揮発性記憶装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の不揮発性記憶装置は、積層膜構造を含む記憶セルを備える。前記積層膜構造は、下側電極膜と、前記下側電極膜の上に設けられ、第1酸化物を含有する第1記憶素子膜と、前記第1記憶素子膜の上に設けられた上側電極膜と、を有する第1状態と、もしくは、前記下側電極膜と、前記下側電極膜の上に設けられた前記第1記憶素子膜と、前記第1記憶素子膜の上に設けられ、第2酸化物を含有する第2記憶素子膜と、前記第2記憶素子膜の上に設けられた前記上側電極膜と、を有する第2状態と、を維持することが可能である。
【0008】
前記下側電極膜もしくは前記上側電極膜が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、前記第1記憶素子膜に含まれる前記第1酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも小さい。前記第2記憶素子膜に含まれる前記第2酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、前記上側電極膜が前記酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも大きい。前記第2記憶素子膜に含まれる酸素濃度は、前記第1記憶素子膜に含まれる酸素濃度よりも高い。前記第2状態における前記下側電極膜と前記上側電極膜との間の抵抗は、前記第1状態における前記下側電極膜と前記上側電極膜との間の抵抗よりも高い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態に係る不揮発性記憶装置の記憶セルの断面模式図である。
【図2】複数の金属酸化物のそれぞれの酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値を表すグラフである。
【図3】第2実施形態に係る不揮発性記憶装置の記憶セルの断面模式図である。
【図4】電界制御膜が設けられていない記憶セルの動作の一例を説明するための断面模式図である。
【図5】第2実施形態に係る記憶セルのエネルギーバンド構造の模式図である。
【図6】第2実施形態に係る記憶セルの動作中のエネルギーバンド構造の模式図である。
【図7】記憶セルの電流電圧特性のシミュレーション結果である。
【図8】複数の金属酸化物のそれぞれの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値、酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値、およびエネルギーギャップを表す一覧表である。
【図9】第3実施形態に係る不揮発性記憶装置の記憶セルの断面模式図である。
【図10】第4実施形態に係る不揮発性記憶装置の記憶セルの断面模式図である。
【図11】第2記憶素子膜の形成不良を説明するための断面模式図である。
【図12】第5実施形態に係る不揮発性記憶装置の記憶セルの断面模式図である。
【図13】記憶セルの電流電圧特性を説明するための図である。
【図14】第6実施形態に係る不揮発性記憶装置の記憶セルの断面模式図である。
【図15】第6実施形態に係る記憶セルの動作を説明するための断面模式図である(その1)。
【図16】第6実施形態に係る記憶セルの動作を説明するための断面模式図である(その2)。
【図17】セルアレイの第1構造を説明する図である。
【図18】セルアレイの第2構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。また、以下に示すそれぞれの実施形態は、それぞれが独立であるとは限らず、適宜複合させてもよい。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る不揮発性記憶装置の記憶セルの断面模式図である。
【0012】
第1実施形態に係る不揮発性記憶装置の記憶セル100は、抵抗可変型の記憶セルであり、積層膜構造を含む。記憶セル100は、図1(a)に示す第1状態と、もしくは、図1(b)に示す第2状態と、を維持することが可能である。図1(a)には、記憶セル100のセット後の状態が示され、図1(b)には、記憶セル100のリセット後の状態が示されている。
【0013】
図1(a)に示す第1状態では、記憶セル100は、下側電極膜10と、下側電極膜10の上に設けられ、酸化物(第1酸化物)を含有する第1記憶素子膜20と、第1記憶素子膜20の上に設けられた上側電極膜11と、を有する。第1記憶素子膜20は、1種類以上の金属元素の酸化物を含む。
【0014】
図1(b)に示す第2状態では、記憶セル100は、下側電極膜10と、下側電極膜10の上に設けられた第1記憶素子膜20と、第1記憶素子膜20の上に設けられ、酸化物(第2酸化物)を含有する第2記憶素子膜(高抵抗層)30と、第2記憶素子膜30の上に設けられた上側電極膜11と、を有する。なお、第2状態での第1記憶素子膜20は、第1状態と同じ符号で示されているが、実際には、第1状態から第2状態に移行させると、第1記憶素子膜20から第2記憶素子膜に酸素が移動する(後述)。従って、第2状態での第1記憶素子膜20の酸素濃度は、第1状態の第1記憶素子膜20の酸素濃度よりも低くなっている。
【0015】
なお、第1実施形態での第1記憶素子膜20もしくは第2記憶素子膜30に含まれる酸化物は、一種類の金属の酸化物である。
【0016】
第2記憶素子膜30は、第1記憶素子膜20に含まれる金属元素の酸化物を含む。第2記憶素子膜30は、上側電極膜11の下側の一部もしくは上側電極膜11の下側の全域に設けられている。
【0017】
下側電極膜10もしくは上側電極膜11が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス(Gibbs)自由エネルギーΔG(kJ/mol,298.15K)の絶対値は、第1記憶素子膜20に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも小さい。
【0018】
第2記憶素子膜30に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、上側電極膜11が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも大きい。
【0019】
第2記憶素子膜30に含まれる酸素濃度(mol/cm)は、第1記憶素子膜20に含まれる酸素濃度よりも高い。図1(b)に示す第2状態における下側電極膜10と上側電極膜11との間の抵抗は、図1(a)に示す第1状態における下側電極膜10と上側電極膜11との間の抵抗よりも高い。
【0020】
記憶セル100の動作について説明する。
記憶セル100には、下側電極膜10と上側電極膜11との間の電流パスになるフィラメントを形成せずに、情報を書き込んだり、読み込んだりすることができる。
【0021】
例えば、図1(a)に示す第1状態(セット状態)では、記憶セル100の下側電極膜10と上側電極膜11との間の抵抗は、低抵抗な状態にある。これは、セット状態では、下側電極膜10と上側電極膜11との間に、酸素欠損の金属酸化膜(金属リッチな金属酸化膜)を含む第1記憶素子膜20が挟まれた状態にあるからである。酸素欠損の金属酸化膜は、完全な絶縁体ではなく、所定の電流値の電流が下側電極膜10と上側電極膜11との間に通電する。
【0022】
また、図1(b)に示す第2状態(リセット状態)では、記憶セル100の下側電極膜10と上側電極膜11との間の抵抗は、高抵抗な状態にある。これは、リセット状態では、上側電極膜11と第1記憶素子膜20との間に、陽極酸化により形成された第2記憶素子膜30が存在するからである。第2記憶素子膜30は、第1記憶素子膜20よりも酸素濃度が高い金属酸化膜を含む。
【0023】
記憶セル100は、予め第1状態(セット状態)で準備される(図1(a)参照)。第1状態では、第1記憶素子膜20が酸素濃度の低い金属酸化膜を含んでいる。第1状態では、電子が酸素欠損によるトラップを介して第1記憶素子膜20内を移動する。これにより、第1状態では、下側電極膜10と上側電極膜11との間の抵抗が低くなる。
【0024】
上側電極膜11を陽極、下側電極膜10を陰極とし、下側電極膜10と上側電極膜11との間に電圧を印加すると、電界によって陽極である上側電極膜11側近傍に負の酸素イオンが移動する(図1(b)参照)。酸素イオンの移動のメカニズムとしては、イオンの電界による移動と電子との衝突によるエレクトロマイグレーションによるものがある。電極膜間が高抵抗になると、その移動は、電界による移動が優先になり、低消費電力が必要とされる素子に適している。一方、電極膜間が低抵抗になると、その移動は、エレクトロマイグレーションによる移動が優先になり、消費電力が大きくなるものの高速動作が必要とされる素子に適している。これらの素子の要求によって使い分ければよい。また、下側電極膜10と上側電極膜11との間に電流が流れることにより、第1記憶素子膜20内にジュール熱が発生する。上側電極膜11側近傍に移動した酸素イオンがジュール熱によって上側電極膜11側近傍の第1記憶素子膜20の酸化を促進する。
【0025】
この後、上側電極膜11に酸素イオンの電子が排出され、陽極付近に第1記憶素子膜20よりも酸化が進行した、厚みが均一な第2記憶素子膜30が形成される。第2記憶素子膜30は、第1記憶素子膜20に比べて、化学量論比またはそれに近い組成比を有する。第2記憶素子膜30に含まれる酸素濃度は、第1記憶素子膜20に含まれる酸素濃度よりも高くなっている。また、酸素濃度がより高い第2記憶素子膜30が形成された後においては、第1記憶素子膜20中の酸素が第2記憶素子膜30中に移動したので、第1記憶素子膜20の酸素濃度は、図1(a)に示す状態よりも低くなっている。
【0026】
従って、第2記憶素子膜30の絶縁性は、第1記憶素子膜20の絶縁性よりも高くなる。これにより、下側電極膜10と上側電極膜11との間の抵抗は、低抵抗から高抵抗へと移行する。すなわち、記憶セル100は、低抵抗状態である第1状態から高抵抗状態である第2状態に移行する。
【0027】
第2状態では、第2記憶素子膜30の膜厚が下側電極膜10と上側電極膜11との間に印加される電圧、あるいは下側電極膜10と上側電極膜11との間の電流値によって制御される。第2記憶素子膜30の膜厚をより厚くするには、より高電圧化、あるいは大電流化を行う。
【0028】
しかし、高電圧化が過剰になると、その電圧によって第2記憶素子膜30自体が破壊されてしまう。従って、下側電極膜10と上側電極膜11との間に印加される電圧を適宜調整して、第2記憶素子膜30の厚みが、例えば、3nm(ナノメートル)以下になるように制御する。
【0029】
さらに、記憶セル100が第2状態に移行した後に、下側電極膜10を陽極、上側電極膜11を陰極とすることにより、上側電極膜11側の金属酸化膜中の酸素が逆方向、つまり上側電極膜11と第1記憶素子膜20との界面から離れ、上側電極膜11側から下側電極膜10側へ移動する(図1(a)参照)。すなわち、陽極酸化による金属酸化膜が消失して、高抵抗状態である第2状態から低抵抗状態である第1状態に戻る。第2状態から低第1状態に戻るときには、より高抵抗である第2記憶素子膜30に電界が集中する。従って、集中電界によって第2記憶素子膜30中の酸素イオンが第1記憶素子膜20中に移動する。第2記憶素子膜30中の酸素イオンが第1記憶素子膜20中に移動すると、第2記憶素子膜30が消失して、上側電極膜11と下側電極膜10との間には、第1記憶素子膜20が形成される。この段階での第1記憶素子膜20の酸素濃度は、図1(a)に示す状態と同じになる。
【0030】
このように、記憶セル100では、第2記憶素子膜30が生成したり、消失したりして、低抵抗状態と高抵抗状態とが繰り返される。これにより、記憶セル100にデータを書き込んだり、消去したりすることができる。
【0031】
ここで、上側電極膜11が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギー△Gの絶対値と、第1記憶素子膜20に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギー△Gの絶対値と、の関係を説明する。
【0032】
例えば、マンガン(Mn)の酸化物を第1記憶素子膜20の材料もしくは第2記憶素子膜30の材料とする。第2記憶素子膜30は、第1記憶素子膜20よりも酸化が進行している。すなわち、酸素に対するマンガンの比(Mn/O)が第2記憶素子膜30では、より小さくなっている。さらに、ニッケル(Ni)を上側電極膜11の材料とする。
【0033】
下記の式は、マンガン酸化物とニッケルとの間で、ニッケルがマンガン酸化物から酸素を奪って、ニッケルが自ら酸化物になる反応が示されている。
(1/4)Mn + Ni → (3/4)Mn + NiO
左辺の△Gは、△G=(1/4)×(−1435(kJ/mol,298.15K))=−359(kJ/mol,298.15K)であり、右辺の△Gは、△G=−211(kJ/mol,298.15K)である。
【0034】
すなわち、左辺の△Gは、右辺の△Gより小さい。従って、上式で表される反応は、右辺に進み難くなる。この結果から、酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーがより小さい金属ほど、酸素を奪い易い金属であることが分かる。
【0035】
記憶セル100では、酸素欠損の第1記憶素子膜20を陽極酸化して、陽極近傍に第2記憶素子膜30を形成する。これにより、記憶セル100は、低抵抗状態から高抵抗状態に移行する。しかし、陽極の材料が第1記憶素子膜20もしくは第2記憶素子膜30に含まれる金属材よりも酸素を奪い易い材料だとすると、陽極自体が記憶セル100の動作中に酸化されてしまう。
【0036】
従って、陽極となる上側電極膜11と、第1記憶素子膜20もしくは第2記憶素子膜30と、には、
(第1記憶素子膜20もしくは第2記憶素子膜30に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値)>(上側電極膜11が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値)
の関係が成り立っている。
【0037】
なお、記憶セル100の動作中に、下側電極膜10自体も酸化されないように、下側電極膜10が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、第1記憶素子膜20に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも小さくなるように設計してもよい。例えば、下側電極膜10の材質は、上側電極膜11の材質と同じであってもよい。
【0038】
図2は、複数の金属酸化物のそれぞれの酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値を表すグラフである。
【0039】
図2の横軸には、複数の金属酸化物のそれぞれが示され、縦軸には、複数の金属酸化物のそれぞれの酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値が示されている。縦軸の絶対値が大きい酸化物ほど、より安定な酸化物であることを意味している。金属の具体例は、図2のグラフ中に示され、酸化物の具体例は、図2の横軸に示されている。
【0040】
例えば、上側電極膜11の材質がルテニウム(Ru)である場合は、上述した関係が成り立つために、第1記憶素子膜20の材質もしくは第2記憶素子膜30の材質として、銅(Cu)、レニウム(Re)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、マンガン(Mn)、タンタル(Ta)等の群から選択されるいずれかの金属の酸化物を選択することができる。
【0041】
上側電極膜11の材質がタンタル(Ta)である場合は、上述した関係が成り立つために、第1記憶素子膜20の材質もしくは第2記憶素子膜30の材質として、バナジウム(V)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、ハフニウム(Hf)等の群から選択されるいずれかの元素の酸化物を選択することができる。
【0042】
このように第1実施形態では、フィラメントを形成せず、記憶セル100に情報を書き込んだり、読み込んだりする。第1実施形態では、第1記憶素子膜20の一部もしくは第2記憶素子膜30の一部を破壊するという確率的な手法に依らない。従って、第1実施形態では、フィラメントを形成する例のように、金属酸化膜の破壊電圧がばらついたり、記憶セルごとにフィラメント形成程度がばらつくことがない。
【0043】
また、第2記憶素子膜30の厚みは、例えば、3nm程度以下に制御しているので、記憶セルが絶縁破壊したり、記憶セル100の消費電力が著しく増加したりしない。さらに、第2記憶素子膜30を形成する場合には、フィラメントを形成する例のように、耐圧破壊の発生する電圧まで徐々に電圧を昇圧する必要がない。このため、多大な製造時間を要しない。従って、記憶セル100を有する不揮発性記憶装置は、低コストで製造することができ、量産性にも優れる。
【0044】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態に係る不揮発性記憶装置の記憶セルの断面模式図である。
図3には、図1と同様に第1状態(図3(a))と、第2状態(図3(b))と、が示されている。図3(a)には、セット後の状態が示され、図3(b)には、リセット後の状態が示されている。
【0045】
第2実施形態に係る不揮発性記憶装置の記憶セル101は、下側電極膜10と、第1記憶素子膜20と、の間に、酸化物(第3酸化物)を含有する電界制御膜21をさらに有する。電界制御膜21の膜厚は、10nm以下である。
【0046】
第1記憶素子膜20の誘電率は、電界制御膜21の誘電率よりも高い。一例として、第1記憶素子膜20は、high−k材であり、電界制御膜21は、low−k材である。電界制御膜21のバンドギャップは、第1記憶素子膜20のバンドギャップよりも広い。
【0047】
第1記憶素子膜20に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、電界制御膜21に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも小さい。
【0048】
電界制御膜21に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、下側電極膜10が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも大きい。電界制御膜21は、第1記憶素子膜20から酸素を奪ないように、化学量論比の組成であること望ましい。例えば、化学量論比にある金属酸化物の酸素濃度を基準にした場合、電界制御膜21は、この濃度から±10%以内の金属酸化物である。
【0049】
電界制御膜21が記憶セル101内に設けられたことにより、記憶セル101は整流特性を示す。
【0050】
記憶セル101の動作について説明する前に、電界制御膜21が設けられていない記憶セル100の動作の一例を説明する。
【0051】
図4は、電界制御膜が設けられていない記憶セルの動作の一例を説明するための断面模式図である。
この記憶セル100では、下側電極膜10の材質と上側電極膜11の材質とが同じであると仮定する。
【0052】
例えば、図4(a)の状態は、上述した第1状態(セット状態)である。図4(b)の状態は、上述した第2状態(リセット状態)である。記憶セル100が第1状態から第2状態に移行した後に、下側電極膜10を陽極、上側電極膜11を陰極とすると、上側電極膜11側の金属酸化膜中の酸素が逆方向、つまり上側電極膜11と第1記憶素子膜20との界面から離れ、上側電極膜11側から下側電極膜10側へ移動する。すなわち、陽極酸化による金属酸化膜が消失して、高抵抗状態である第2状態から低抵抗状態である第3状態に戻る。第3状態は、第1状態と同じである。
【0053】
しかし、下側電極膜10の材質と上側電極膜11の材質とが同じである場合には、第3状態を継続し過ぎると、図4(d)に示すように、下側電極膜10側にも第2記憶素子膜30が形成される虞がある。すなわち、図4(d)では、図4(b)の積層膜構造が180度反転した構造と同じになってしまう。従って、記憶セル100では、書き込み、読み込みにおいて誤動作を引き起こす可能性がある。
【0054】
次に、第2実施形態に係る記憶セル101の動作について説明する。
図5は、第2実施形態に係る記憶セルのエネルギーバンド構造の模式図である。
図5(a)には、第1状態のエネルギーバンドが示され、図5(b)には、第2状態のエネルギーバンドが示されている。
【0055】
図5(a)では、左側から右側に、下側電極膜10/電界制御膜21/第1記憶素子膜20/上側電極膜11の順に、それぞれのエネルギーバンドが示されている。
【0056】
図5(b)では、左側から右側に、下側電極膜10/電界制御膜21/第1記憶素子膜20/第2記憶素子膜30/上側電極膜11の順に、それぞれのエネルギーバンドが示されている。
【0057】
上述したように、電界制御膜21のバンドギャップは、第1記憶素子膜20のバンドギャップよりも広い。電界制御膜21の誘電率は、第1記憶素子膜20の誘電率よりも低い。
【0058】
また、電界制御膜21に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、第1記憶素子膜20に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも大きい。
【0059】
電界制御膜21に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、下側電極膜1が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも大きい。
【0060】
第1記憶素子膜20に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、上側電極膜11が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも大きい。
【0061】
第2記憶素子膜30に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、上側電極膜11が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも大きい。
【0062】
記憶セル101では、下側電極膜10と上側電極膜11との間に印加された電圧は、下側電極膜10と上側電極膜11との間の酸化物の誘電率の比率に従って、分圧される。酸化物の誘電率が低くなるほど、その酸化物に印加される分圧が高くなる。従って、第1記憶素子膜20の膜厚と電界制御膜21の膜厚とが同じであると仮定すると、第1記憶素子膜20より電界制御膜21に高い電圧が印加される。
【0063】
さらに、第2実施形態では、電界制御膜21の膜厚を電界制御膜21にトンネル電流が流れるほどに調整する。具体的には、電界制御膜21の膜厚を10nm以下にする。電界制御膜21の膜厚が10nm以上になると、トンネル電流が流れ難くなり好ましくない。
【0064】
図6は、第2実施形態に係る記憶セルの動作中のエネルギーバンド構造の模式図である。
【0065】
図6(a)に示すように、下側電極膜10が負であり、上側電極膜11が正の場合には、下側電極膜10から供給された電子は、電界制御膜21をトンネル通過し、第1記憶素子膜20のポテンシャル障壁の影響を受けることなく、上側電極膜11へ到達する。すなわち、図6(a)の状態では、トンネル通過のみで電子が下側電極膜10から上側電極膜11に通過する。
【0066】
ところが、図6(b)に示すように、下側電極膜10が正であり、上側電極膜11が負の場合には、上側電極膜11から供給された電子は、第1記憶素子膜20のポテンシャル障壁を乗り越えて、電界制御膜21をトンネル通過し、下側電極膜10へ到達しなければならない。すなわち、図6(b)の状態では、第1記憶素子膜20のポテンシャル障壁を乗り越える電子励起が必要になる。従って、図6(b)の状態は、図6(a)の状態よりも抵抗が高くなってしまう。従って、記憶セル101では、整流特性が生じる。
【0067】
図7は、記憶セルの電流電圧特性のシミュレーション結果である。
図7の横軸は、横軸中央の0(MV/cm)を中心に右側が図6(a)の状態、左側が図6(b)の状態に対応している。縦軸は、記憶セルの電流値(単位は、a.u.:arbitrary unit)である。図7中には、第2記憶素子膜30がない場合の第1状態(1)の電流電圧曲線と、第2記憶素子膜30がある場合の第2状態(2)の電流電圧曲線と、の結果が示されている。
【0068】
シミュレーションでは、以下に示す具体例を用いている。
例えば、電界制御膜21の材質は、酸化シリコン(SiO)であり、そのエネルギーギャップ(Eg)は、9.65(eV)であり、その誘電率(ε)は、4.0であり、その膜厚は、5nmとしている。
【0069】
第1記憶素子膜20の材質は、酸素欠損の酸化タンタル(TaO)であり、そのエネルギーギャップ(Eg)は、1.0(eV)であり、その誘電率(ε)は、21であり、その膜厚は、第1状態では、13nm、第2状態では、15nmとしている。
【0070】
第2記憶素子膜30の材質は、化学量論比を有する酸化タンタル(Ta)であり、そのエネルギーギャップ(Eg)は、4.6(eV)であり、その誘電率(ε)は、21であり、その膜厚は、2nmとしている。
【0071】
下側電極膜10および上側電極膜11の仕事関数は、電界制御膜21、第1記憶素子膜20、および第2記憶素子膜30の中点とする。電界制御膜21、第1記憶素子膜20、および第2記憶素子膜30のそれぞれの下側電極膜10および上側電極膜11のフェルミレベル(Ef)から伝導バンドまでの高さは、各Egの半分とする。
【0072】
図7に示すように、第1状態(1)、第2状態(2)に係わらず、上側電極膜11を正、下側電極膜10を負とした場合(グラフの右側)は、上側電極膜11を負、下側電極膜10を正とした場合(グラフの左側)に比べ、3桁以上の電流値が高くなることが分かった。 このように、記憶セル101は整流特性を示す。従って、上述したような書き込み、読み込みにおける誤動作が抑制されて、信頼性がより高くなる。
【0073】
図8は、複数の金属酸化物のそれぞれの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値、酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値、およびエネルギーギャップを表す一覧表である。
【0074】
図8に例示された金属酸化物のそれぞれの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値、酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値、およびエネルギーギャップを鑑みると、例えば、記憶セル101の下側電極膜10、電界制御膜21、第1記憶素子膜20、第2記憶素子膜30、および上側電極膜11の具体的な材質は、以下の通りである。
【0075】
第1記憶素子膜20としては、例えば、Nb、Ta、Cr、V等が挙げられる。但し、第1記憶素子膜20の酸化物は、上述した化学式の化学量論比に限らず、酸素欠損の酸化物である。
【0076】
第2記憶素子膜30としては、例えば、Nb、Ta、Cr、V等が挙げられる。
【0077】
電界制御膜21としては、CaO、BeO、MgO、La、HfO、ZrO、Al、SiO等が挙げられる。
【0078】
上側電極膜11としては、例えば、白金(Pt)、銀(Ag)、Ru、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、Re、Ni、Co、鉄(Fe)、Mo、W、V、亜鉛(Zn)等が挙げられる。
【0079】
下側電極膜10としては、例えば、Pt、Ag、Ru、Pd、Ir、Os、Re、Ni、Co、Fe、Mo、W、V、Zn、Cr、Nb、Ta、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化タンタル(TaN)等が挙げられる。
【0080】
(第3実施形態)
図9は、第3実施形態に係る不揮発性記憶装置の記憶セルの断面模式図である。
図9には、図1と同様に第1状態(図9(a))と、第2状態(図9(b))と、が示されている。図9(a)には、セット後の状態が示され、図9(b)には、リセット後の状態が示されている。
【0081】
第2実施形態に係る記憶セル102においては、図9(a)に示す第1記憶素子膜20が2元素以上の金属元素の酸化膜によって構成されている。この場合、図9(b)に示す第2記憶素子膜30は、前記2元素以上の金属の中で、酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値が最も大きくなる金属元素の酸化膜によって構成されている。
【0082】
第1実施形態では、第1記憶素子膜20が一種類の金属の酸化物であったが、第3実施形態では、第1記憶素子膜20が二種類以上の金属を含む金属酸化膜になっている。例えば、第1記憶素子膜20がNbがドープされたTiO(NTO)であって、第2記憶素子膜30がTiOがその例である。
【0083】
また、第1記憶素子膜20の材質がTi、Ta、Nb、W、Fe、Cuの少なくとも2つ以上の金属の酸化膜である場合、第2記憶素子膜30は、酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値が比較的大きいTiO、TaもしくはNb5等である。
【0084】
このように、記憶セル102においては、図9(a)に示す低抵抗状態を実現するために、第1記憶素子膜20に、ある金属元素からなる金属酸化膜に、別の金属元素を1種類以上混在させている。そして、第1記憶素子膜20に含まれる金属元素の中で、最も酸化され易い金属の酸化物(最もΔGの大きい酸化物)が図9(b)に示す第2記憶素子膜30になる。
【0085】
このような記憶セル102でも、低抵抗状態の第1状態と、高抵抗状態の第2状態と、を維持することが可能である。
【0086】
(第4実施形態)
図10は、第4実施形態に係る不揮発性記憶装置の記憶セルの断面模式図である。
図10には、図1と同様に第1状態(図10(a))と、第2状態(図10(b))と、が示されている。図10(c)は、図10(b)の一部を拡大したものである。図10(a)には、セット後の状態が示され、図10(b)には、リセット後の状態が示されている。
【0087】
第4実施形態に係る記憶セル103においては、上側電極膜11と第1記憶素子膜20との間もしくは上側電極膜11と第2記憶素子膜30との間に、導電性酸化物を含む酸素供給層22をさらに有している。酸素供給層22の抵抗率は、室温で100(μΩ・cm)以下である。記憶セル103には、セルの両側に側壁90が設けられている。側壁90は、第1記憶素子膜20、第2記憶素子膜30、および酸素供給層22の側面を被覆している。
【0088】
酸素供給層22に含まれる導電性酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、第1記憶素子膜20に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも小さい。
【0089】
記憶セル103の動作を以下に説明する。
記憶セル103においては、第1記憶素子膜20の酸素濃度が低下した場合においても、酸素供給層22から酸素が第1記憶素子膜20内に補給される。これよりに、第1記憶素子膜20酸素濃度が一定に保持される。
【0090】
導電性酸化物を含む酸素供給層22は、第1記憶素子膜20に比べて比抵抗が小さい。そのため、図10(a)の第1状態から図10(b)の第2状態に記憶セル103を変化させるリセット時には、下側電極膜10と上側電極膜11との間に印加された電圧のほとんどが第1記憶素子膜20で降下する。従って、酸素供給層22には、電界がほとんど発生しない。さらに、酸素供給層22に接する第1記憶素子膜20には、下側電極膜10と上側電極膜11との間に流れる電流によってジュール熱が発生する。
【0091】
このジュール熱は、酸素供給層22内にも伝導する。これにより、酸素供給層22中の酸素の熱拡散が促進される(図10(c)参照)。また、クーロン力によって、第1記憶素子膜20中の酸素イオンが上側電極膜11側に向かって移動する。これにより、上側電極膜11に向かった酸素イオンが第1記憶素子膜20の陽極側の酸化を促進して、第2記憶素子膜30が形成される。
【0092】
また、酸素供給層22に含まれる導電性酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、第1記憶素子膜20に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも小さい。このため、第1記憶素子膜20内に熱拡散した酸素が酸素供給層22内に還元され難くなっている。従って、記憶セル103においては、第1記憶素子膜20の酸素濃度を一定に保持することができる。
【0093】
さらに、記憶セル103が第2状態に移行した後に、下側電極膜10を陽極、上側電極膜11を陰極とすることにより、上側電極膜11側の第2記憶素子膜30中の酸素が第1記憶素子膜20へ移動する。すなわち、陽極酸化による第2記憶素子膜30が消失して、高抵抗状態である第2状態から低抵抗状態である第1状態に戻る。
【0094】
第1記憶素子膜20に含まれる酸化物は、上述した材質のほかに、例えば、Ti、Si、V、Ta、Mn、Nb、Cr、W、Mo、Fe、Co、Ni,Re、Cu、Ru、Os、Ir、Pd、Ag等のいずれかの酸化物が選択される。
【0095】
第1記憶素子膜20として、これらの酸化物を選択した場合、酸素供給層22には、Mo、Re、Ru、Os、Ir等のいずれかの酸化物のうち、上述した標準生成ギブス自由エネルギーの大小関係を満たす条件のもの選択すればよい。また、第1記憶素子膜20として、複数の金属元素、半導体元素を含む多元系材料を選択する場合は、そのうちの1元素が上述した標準生成ギブス自由エネルギーの大小関係を満たす条件であればよい。
【0096】
例えば、第1記憶素子膜20と酸素供給層22との組み合わせとしては、第1記憶素子膜20がNbO(x<2.5)、酸素供給層22がRuO(x<2)の組が挙げられる。あるいは、別の組み合わせとして、第1記憶素子膜20がTaO(x<2.5)、酸素供給層22がRuO(x<2)の組が挙げられる。
【0097】
仮に、酸素供給層22を設けないと、記憶セルの動作中に、第1記憶素子膜20中の酸素濃度が低下して、第2記憶素子膜30の形成不良が生じる場合がある。
【0098】
図11は、第2記憶素子膜の形成不良を説明するための断面模式図である。
ここで、図11(a)は、正常な酸素濃度での第1状態を示す図であり、図11(b)は、正常な酸素濃度での第2状態を示す図であり、図11(c)は、酸素濃度の低下を示す図であり、図11(d)は、低酸素濃度での第1状態であり、図11(e)は、低酸素濃度での第2状態を示す図である。
【0099】
酸素供給層22を設けないと、図11(c)に示すように、記憶セルの動作中に第1記憶素子膜20中の酸素が記憶セル外に拡散して、第1記憶素子膜20中の酸素濃度が低下する場合がある。また、RIE(Reactive Ion Etching)によるセル加工時に第1記憶素子膜20へのイオンの衝突により第1記憶素子膜20の酸素が抜けるなど素子作製工程においても、第1記憶素子膜20の酸素濃度が低下する場合がある。
【0100】
このような状態で、図11(a)に示す第1状態と、図11(b)に示す第2状態と、を繰り返すと、第1記憶素子膜20中の酸素濃度が足りなくなった分、高抵抗化層である第2記憶素子膜30が上側電極膜11の下側全面に形成されなかったり、第2記憶素子膜30の膜厚が減少する。これにより、高抵抗状態での抵抗値(Roff)が低下してしまう。
【0101】
図11(d)に、低酸素濃度における第1状態を示す。図11(e)に低酸素濃度における第2状態を示す。低酸素濃度において形成される第2記憶素子膜30は、正常な酸素濃度において形成される第2記憶素子膜30に比べて膜厚が薄くなる。このため、高抵抗状態での抵抗値(Roff)と、低抵抗状態での抵抗値(Ron)と、を充分に識別でなくなるという不具合が生じる。
【0102】
第4実施形態によれは、第2状態の抵抗値低下が抑制され、記憶セル103の動作がより安定する。また、第4実施形態によれば、記憶セル103の動作だけではなく、記憶セル103の製造プロセス中の酸素欠損(いわゆる、酸素抜け)が抑制される。例えば、RIE加工時のイオン衝撃による酸素抜けなどを防止できる。
【0103】
(第5実施形態)
図12は、第5実施形態に係る不揮発性記憶装置の記憶セルの断面模式図である。
図12には、図1と同様に第1状態(図12(a))と、第2状態(図12(b))と、が示されている。図12(a)には、セット後の状態が示され、図12(b)には、リセット後の状態が示されている。
【0104】
第5実施形態に係る記憶セル104においては、上側電極膜11と第1記憶素子膜20との間もしくは上側電極膜11と第2記憶素子膜30との間に、酸化物(第4酸化物)を含有する絶縁層25を有している。絶縁層25の厚みは、0.5nm以上、2.0nm以下である。絶縁層25に含まれる酸化物の化学組成は、第1記憶素子膜20に含まれる酸化物の化学組成に比べて化学量論比に近い。絶縁層25の比抵抗は、第1記憶素子膜20の比抵抗もしくは第2記憶素子膜30の比抵抗よりも高い。
【0105】
絶縁層25に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、第1記憶素子膜20に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも大きい。
【0106】
絶縁層25に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、上側電極膜11が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも大きい。
【0107】
絶縁層25のバンドギャップは、第1記憶素子膜20のバンドギャップよりも広く、電界制御膜21のバンドギャップよりも狭い。
【0108】
第1記憶素子膜20と絶縁層25とは、遷移元素等の酸化物を含む。絶縁層25に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、第1記憶素子膜20に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも大きく調整される。すなわち、第1記憶素子膜20としては、絶縁層25から酸素を還元し難い材料が選択される。
【0109】
記憶セル104においては、絶縁層25が第1記憶素子膜20を還元しないように、絶縁層25に含まれる酸化物の組成がストイキオメトリック組成(化学量論比)に調整される。また、絶縁層25の膜厚は、トンネリング電流が流れる程度に調整される。例えば、絶縁層25の膜厚は、0.5nm以上、2.0nm以下の範囲にある。絶縁層25の膜厚が0.5nmよりも薄くなると、絶縁層25自体が絶縁性を失うので好ましくない。絶縁層25の膜厚が2.0nmより厚くなるとトンネリング電流が流れ難くなり好ましくない。
【0110】
また、絶縁層25に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、上側電極膜11が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも大きい。このため、上側電極膜11は、絶縁層25の酸素を還元し難い。
【0111】
第1記憶素子膜20として、Ti、Si、V、Ta、Mn、Nb、Cr、W、Mo、Fe等のいずれかの酸化物が選択される。絶縁層25としては、Hf、Al、Zr、Ti、Si、V、Ta、Mn、Nb等のいずれかの酸化物が選択される。例えば、絶縁層25としては、TiOが選択される。
【0112】
上側電極膜11としては、Al、Ti、Si、Ta、Mn、Nb、Cr、W、Mo、Fe、Co、Ni、Re、Cu、Ru、セリウム(Ce)、Ir、Pd、Ag等が選択される。第1記憶素子膜20、絶縁層25、および上側電極膜11を選択する際は、第1記憶素子膜20、絶縁層25、および上側電極膜11のそれぞれの間において、上述した酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの大小関係が満たされるように、それぞれが組み合わされる。
【0113】
また、第1記憶素子膜20、絶縁層25、および上側電極膜11のそれぞれが複数の金属元素、半導体元素を含む多元系材料でも、そのうちの1元素につき、その酸化物の標準生成ギブス自由エネルギーを考慮して、第1記憶素子膜20、絶縁層25、および上側電極膜11のそれぞれの間において、上述した酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの大小関係が満たされるように、それぞれが組み合わされる。
【0114】
例えば、組み合わせの例として、第1記憶素子膜20がNbO(x<2.5)、絶縁層25がAl、上側電極膜11がTiNである例が選択される。また、別の組み合わせとして、第1記憶素子膜20がTaO(x<2.5)、絶縁層25がTiO、上側電極膜11がTiNである例が選択される。また、別の組み合わせとして、第1記憶素子膜20がWAlO、絶縁層25がTiO、上側電極膜11がTiNである例が選択される。
【0115】
記憶セル104の動作について説明する。
記憶セル104は、予め第1状態(セット状態)で準備される(図12(a)参照)。第1状態では、第1記憶素子膜20と絶縁層25との間に、第1記憶素子膜20とは組成が異なる第2記憶素子膜30が形成されていない。第1状態は、低抵抗状態にある。
【0116】
図12(b)に示すように、下側電極膜10を陰極、上側電極膜11を陽極として、下側電極膜10と上側電極膜11との間に電界を印加すると、絶縁層25の比抵抗が第1記憶素子膜20の比抵抗よりも高いので、第1記憶素子膜20に優先的に電界がかかる。この電界によって、第1記憶素子膜20中の酸素がイオン化し、酸素イオンが第1記憶素子膜20中の酸素空孔(酸素の格子空孔)を介して陽極側に電界拡散する。
【0117】
第1記憶素子膜20中の酸素イオンは、絶縁層25と第1記憶素子膜20との界面近傍の第1記憶素子膜20の酸素空孔に入り込み、絶縁層25と第1記憶素子膜20との界面近傍の第1記憶素子膜20の酸化を促進する。
【0118】
記憶セル104では、絶縁層25をトンネリング電流が流れる程度の膜厚に調整している。このため、酸素イオンの電子は、絶縁層25をトンネリングして陽極へ流れる。これにより、絶縁層25と第1記憶素子膜20との間には、第1記憶素子膜20よりも比抵抗が高い第2記憶素子膜30が形成される。第2記憶素子膜30は、第1記憶素子膜20に比べて化学量論比に近い状態にある。これにより、記憶セル104は、リセット状態に移行する。
【0119】
再び、下側電極膜10を陽極、上側電極膜11を陰極として、下側電極膜10と上側電極膜11との間に電界を印加する。絶縁層25の比抵抗は、第2記憶素子膜30の比抵抗よりも高いので、第2記憶素子膜30に優先的に電界がかかる。その結果、第2記憶素子膜30中の酸素がイオン化して、酸素イオンが陽極である下側電極膜10の方向に電界拡散する。これにより、第2記憶素子膜30の酸素濃度は低くなり、図12(a)に示す低抵抗状態に戻る。
【0120】
記憶セル104では、下側電極膜10を陰極、もしくは下側電極膜10を陽極にしたりするバイポーラの電圧制御を行うことで、第2記憶素子膜30の形成と消滅とを繰り返すことができる。これにより、記憶セル104への書き込み、読み込みが可能となる。また、絶縁層25の比抵抗を、第1記憶素子膜20の比抵抗もしくは第2記憶素子膜30の比抵抗よりも低く設定されているので、記憶セル104の動作中には、第1記憶素子膜20もしくは第2記憶素子膜30に優先的に電界が印加される。
【0121】
また、記憶セル104では、上側電極膜11と第1記憶素子膜20との間に、酸素原子1個あたりの標準ギブス生成自由エネルギーの絶対値が高く、ストイキオメトリック組成の絶縁層25を設けている。このため、記憶セル104では、リセット時に、絶縁層25が第1記憶素子膜20から酸素を奪うことがない。また、セット時にも、絶縁層25が第1記憶素子膜20に酸素を与えることもない。このため、記憶セル104の繰り返し動作が安定する。
【0122】
また、記憶セル104では、膜厚をトンネル電流が流れる程度の膜厚に調整しているため、上側電極膜11が陽極のときには、絶縁層25も陽極として機能し、絶縁層25と第1記憶素子膜20との間に、第2記憶素子膜30が形成される。
【0123】
また、記憶セル104では、絶縁層25に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値が上側電極膜11が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも大きい、という条件が満たされるように、上側電極膜11の材質が選択される。上側電極膜11の材質は、絶縁層25から酸素を奪い難い材料であればよい。このため、上側電極膜11の材質としては、Pt以外の材質を用いることができる。
【0124】
また、記憶セル104では、絶縁層25の膜厚を電子がトンネリングできるほど薄く設定している。このため、絶縁層25を設けても、電界制御膜21で生じた整流特性に比べて、整流特性が生じ難い。従って、絶縁層25を設けたとしても、整流特性が生じにくい。
【0125】
ところで、図1に示す記憶セル100の構造でも、上側電極膜11が第1記憶素子膜20から酸素を奪うことなく、第2記憶素子膜30が形成される。また、第2状態から第1状態に戻す時には、第2記憶素子膜30の酸素が分解されて、第2記憶素子膜30が消滅する。
【0126】
しかし、一旦、第2記憶素子膜30が形成されると、電圧は、より抵抗の高い第2記憶素子膜30に優先的に印加されてしまう。これにより、記憶セル100では、その動作中に、第1記憶素子膜20内で酸素イオンの電界拡散が起こり難くなる可能性がある。その結果、第1記憶素子膜20中の一部の酸素のみが第2記憶素子膜30の形成に寄与し、第2記憶素子膜30の成長が飽和する可能性がある。
【0127】
図13は、記憶セルの電流電圧特性を説明するための図である。
図13(a)および図13(b)には、第1状態である低抵抗状態と、第2状態である高抵抗状態と、の電流電圧特性の例が示されている。
【0128】
図13(a)に、第2記憶素子膜30の成長が飽和した場合の電流電圧特性の例を示す。第2記憶素子膜30の成長が飽和すると、第2記憶素子膜30自体が薄くなり、第2記憶素子膜30内にトンネリング電流が流れる場合がある。このため、図13(a)に示すように、第1状態である低抵抗状態と、第2状態である高抵抗状態と、の電流電圧特性には顕著な差が生じ難くなる。
【0129】
これに対し、図13(b)に、記憶セル104の電流電圧特性の例を示す。記憶セル104では、絶縁層25が上側電極膜11と第1記憶素子膜20との間もしくは上側電極膜11と第2記憶素子膜30との間に設けられている。このため、第2状態は、上側電極膜11と第1記憶素子膜20との間に、絶縁層25/第2記憶素子膜30の積層膜が形成された構造になる。
【0130】
この積層膜の厚みは、第2記憶素子膜30の厚みよりも厚い。従って、積層膜内を流れるトンネリング電流は、図13(a)に比べて小さくなり、第1状態である低抵抗状態と、第2状態である高抵抗状態と、の電流電圧特性に顕著な差が生じる。
【0131】
また、記憶セル104においては、電極材料の制約が少なく、安価な材料を選択することができる。これにより、記憶メモリの大容量化と製造コストの低減とが可能になる。
【0132】
(第6実施形態)
図14は、第6実施形態に係る不揮発性記憶装置の記憶セルの断面模式図である。
図14には、第1状態の記憶セルが示されている。その他の状態については、後述する。
【0133】
第6実施形態に係る記憶セル105においては、第1記憶素子膜20は、下側電極膜10側の第1記憶素子部20Aと、上側電極膜11側の第2記憶素子部20Bと、を有する。第1状態における記憶セル105では、下側電極膜10の上に、第1記憶素子部20Aが設けられている。さらに、第1状態における記憶セル105では、第1記憶素子部20Aの上に、第2記憶素子部20Bが設けられ、第2記憶素子部20Bの上に、上側電極膜11が設けられている。
【0134】
下側電極膜10が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、第1記憶素子部20Aに含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも小さい。
【0135】
上側電極膜11が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、第2記憶素子部20Bに含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも小さい。
【0136】
第1記憶素子部20Aおよび第2記憶素子部20Bに含まれる金属酸化物は、酸素欠損になっている。
【0137】
下側電極膜10および上側電極膜11の材質は、例えば、W、Mo、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Ir等のいずれかから選択される金属もしくはこれらの合金である。また、第1記憶素子部20Aおよび第2記憶素子部20Bの材質は、Hf、Al、Zr、Ti、Si、V、Ta、Mn、Nb、Cr、W、Mo、Co、Ni、Cu等のいずれかから選択される金属が少なくとも1種類以上含まれる酸化物である。
【0138】
このように、第1記憶素子膜20が多層構造になると、記憶セル105は、複数の抵抗値状態を確保することができ、多値動作(多値書き込み、多値読み込み)が可能になる。
【0139】
記憶セル105の動作を以下に説明する。
図15および図16は、第6実施形態に係る記憶セルの動作を説明するための断面模式図である。
【0140】
先ず、上述した記憶セル105を準備する(図14)。この状態での下側電極膜10と上側電極膜11との間の抵抗を抵抗状態1とする。その後、図15(a)のように、下側電極膜10を陽極、上側電極膜11を陰極にすると、第1記憶素子部20A中の酸素イオンは、酸素空孔を介して電界により移動し、陽極である下側電極膜10に電子が排出される。これにより、記憶セル105は、一旦、安定する。
【0141】
下側電極膜10が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、第1記憶素子部20Aに含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも小さい。
【0142】
このため、下側電極膜10は酸化されず、図15(b)に示すように、下側電極膜10近傍の第1記憶素子部20Aの酸素空孔に酸素が入る。これにより、記憶セル105は、一旦、安定する。つまり、下側電極膜10と第1記憶素子部20Aとの界面近傍の第1記憶素子部20Aの絶縁性が増して、下側電極膜10と第1記憶素子部20Aとの間に、第1記憶素子部20Aより抵抗が高い第3記憶素子部30Aが形成される。この状態では、下側電極膜10と上側電極膜11との間の抵抗が図15(a)の状態よりも高くなる。この状態での下側電極膜10と上側電極膜11との間の抵抗を抵抗状態2とする。
【0143】
次に、図15(c)に示すように、下側電極膜10を陰極、上側電極膜11を陽極にした場合、第2記憶素子部20B中の酸素イオンは、酸素空孔を介して電界により移動する。この際、上側電極膜11に電子が排出される。これにより、記憶セル105は、一旦、安定する。
【0144】
上側電極膜11が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、第2記憶素子部20Bに含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも小さい。
【0145】
このため、上側電極膜11は酸化されず、図15(c)に示すように、上側電極膜11近傍の第2記憶素子部20Bの酸素空孔に酸素が入る。これにより、記憶セル105は、一旦、安定する。つまり、上側電極膜11と第2記憶素子部20Bとの界面近傍の第2記憶素子部20Bの絶縁性が増して、上側電極膜11と第2記憶素子部20Bとの間に、第2記憶素子部20Bより抵抗が高い第4記憶素子部30Bが形成される。
【0146】
この状態では、第3記憶素子部30Aと第4記憶素子部30Bとが記憶セル105内に形成されているので、下側電極膜10と上側電極膜11との間の抵抗が図15(b)の状態よりも高くなる。この状態での下側電極膜10と上側電極膜11との間の抵抗を抵抗状態3とする。
【0147】
次に、図16(a)に示すように、下側電極膜10を陰極、上側電極膜11を陽極とする状態を継続する。あるいは、図15(c)の状態よりもより大きな電圧を下側電極膜10と上側電極膜11との間に印加する。すると、図16(b)に示すように、下側電極膜10と第1記憶素子部20Aとの間に形成された第3記憶素子部30A中の酸素がイオン化し、電界によって酸素イオンが第1記憶素子部20A中に移動する。
【0148】
これにより、第3記憶素子部30Aが消滅する。その結果、下側電極膜10と上側電極膜11との間の抵抗が図16(a)の状態よりも低くなる。この状態での下側電極膜10と上側電極膜11との間の抵抗を抵抗状態4とする。
【0149】
次に、図16(c)のように、下側電極膜10を陽極、上側電極膜11を陰極とすると、第4記憶素子部30B中の酸素がイオン化し、電界によって第2記憶素子部20B中に移動する。これにより、第4記憶素子部30Bが消滅する(図16(d)参照)。その結果、下側電極膜10と上側電極膜11との間の抵抗が図16(c)の状態よりも低くなる。この状態では、第3記憶素子部30Aと第4記憶素子部30Bとが存在せず、下側電極膜10と上側電極膜11との間の抵抗が抵抗状態1になる。すなわち、記憶セル105は、最初の状態に戻る。
【0150】
このように、記憶セル105は、抵抗状態1〜4を確保することができ、多値動作が可能になる。
【0151】
記憶セル105では、下側電極膜10、上側電極膜11、第1記憶素子部20A、および第2記憶素子部20Bの材質の組み合わせを適宜変えることによって、記憶セル105の動作に幅を持たせることができる。
【0152】
例えば、抵抗状態1にある記憶セル105の下側電極膜10を陽極、上側電極膜11を陰極にし、これら電極に電圧を印加した場合、下側電極膜10と第1記憶素子部20Aの界面には、第3記憶素子部30Aが形成される。これにより、記憶セル105は、抵抗状態1から抵抗状態2になる(図15(b)参照)。
【0153】
次に、下側電極膜10を陰極、上側電極膜11を陽極にし、これら電極に電圧を印加した場合、先に形成された第3記憶素子部30A中の酸素がイオン化し、電界により酸素イオンが第3記憶素子部30Aから第1記憶素子部20Aに移動して第3記憶素子部30Aが消滅する。すなわち、記憶セル105は、もとの第1記憶素子部20Aに戻り、抵抗状態1に戻る(図14参照)。
【0154】
次に、下側電極膜10を陰極、上側電極膜11を陽極にする時間を継続するか、あるいは下側電極膜10と上側電極膜11との間により大きな電圧を印加する。すると、上側電極膜11と第2記憶素子部20Bとの間には、第4記憶素子部30Bが形成される。すなわち、抵抗セル105は、抵抗状態1から抵抗状態4になる(図16(b)参照)。
【0155】
次に、下側電極膜10を陽極、上側電極膜11を陰極にし、上側電極膜11と第2記憶素子部20Bとの間の第4記憶素子部30B中の酸素イオンが移動しない程度の電圧にすることで、下側電極膜10と第1記憶素子部20Aの界面に、さらに第3記憶素子部30Aが形成される。すなわち、記憶セル105は、抵抗状態4から抵抗状態3になる(図15(c)参照)。以上のように、記憶セル105の材料の組み合せによって、記憶セル105の抵抗状態の制御に幅が生まれる。
【0156】
なお、第1記憶素子膜20を単層にする構造も第6実施形態に含まれる。この場合、記憶セル105は、3つの抵抗状態を取ることができる。
【0157】
以上説明した記憶セル100〜105を組み込んだ、不揮発性記憶装置のメモリセルアレイの構造を、図17に示す。
図17(a)は、メモリセルアレイの斜視模式図であり、図17(b)には、その等価回路が示されている。
【0158】
図17に示すように、記憶セル100〜105のいずれかのそれぞれは、下部配線であるビット線80と、上部配線であるワード線81と、がそれぞれクロスした位置に設置されている。ビット線80は、記憶セル100〜105の下側電極膜10に電気的に接続されている。ワード線81は、記憶セル100〜105の上側電極膜11に電気的に接続されている。ビット線80と、記憶セル100〜105と、の間には、整流素子82が介設されている。
【0159】
記憶セル100〜105のなか、記憶セル101においては、記憶セル101自体が整流特性を示す。図17に示すように、記憶セル101の整流特性をより確実にするために、外付け用の整流素子82をビット線80と、記憶セル100〜105の下側電極膜10と、の間、もしくは、ワード線81と、記憶セル100〜105の上側電極膜11と、の間に介設してもよい。
【0160】
記憶セル101を組み込んだメモリセルアレイの別の構造を、図18に示す。
図18(a)は、メモリセルアレイの斜視模式図であり、図18(b)には、その等価回路が示されている。
【0161】
図18に示すように、記憶セル101のそれぞれは、ビット線80とワード線81とがそれぞれクロスした位置に設置されている。このメモリセルアレイには、整流素子82が設けられていない。これは、記憶セル101自体が整流特性を示すからである。この場合、記憶セル101の下側電極膜10は、ビット線80に直接的に接続されている。
【0162】
本実施形態の不揮発性記憶装置によれば、下側電極膜10と上側電極膜11との間に電圧を印加することによって、電極膜と記憶素子膜との間に、厚みが均一な高抵抗層を形成することができる。本実施形態の不揮発性記憶装置では、記憶素子膜中に、電流パスであるフィラメントを形成する必要がない。これにより、いわゆるフォーミングと呼ばれる作業が省略される。フォーミングと呼ばれる作業は、比較的長時間に渡る。フォーミング作業が省略される分、本実施形態は、低コストで、量産性に優れる。
【0163】
また、本実施形態では、外付けの整流素子を設けずとも、整流特性を示す記憶セルが提供される。これは、フィラメント型抵抗可変素子では、自ら整流特性を持てなかった問題を解決している。また、記憶セル外に外付け用の整流素子を設けずとも、記憶セルが整流特性を有するので、さらに不揮発記憶装置の低コスト化が実現する。また、外付け用の整流素子を設けない分、ビット線80とワード線81とのクロスポイントにおける積層膜構造のアスペクト比がより小さくなる。また、記憶セルの製造プロセスは、より簡略化される。さらに、記憶セルの機械的強度が増す。
【0164】
また、本実施形態では、記憶素子膜中の酸素濃度を安定化させ、記憶セルの高抵抗状態の抵抗値を安定化させる。これにより、記憶セルが高抵抗状態にあるときと、低抵抗状態にあるときの電流値が顕著な差が生じ、記憶セルを安定して駆動(書き込み、読み込み)させることができる。
【0165】
また、本実施形態では、単一の記憶セルが複数の抵抗状態を形成することができ、多値動作を可能にしている。従って、記憶メモリのさらなる大容量化が可能になる。
【0166】
以上、具体例を参照しつつ実施形態について説明した。しかし、実施形態はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、実施形態の特徴を備えている限り、実施形態の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0167】
また、前述した各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて複合させることができ、これらを組み合わせたものも実施形態の特徴を含む限り実施形態の範囲に包含される。その他、実施形態の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても実施形態の範囲に属するものと了解される。
【0168】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0169】
10 下側電極膜
11 上側電極膜
20 第1記憶素子膜
20A 第1記憶素子部
20B 第2記憶素子部
21 電界制御膜
22 酸素供給層
25 絶縁層
30 第2記憶素子膜
30A 第3記憶素子部
30B 第4記憶素子部
80 ビット線
81 ワード線
82 整流素子
90 側壁
100、101、102、103、104、105 記憶セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層膜構造を含む記憶セルを備え、
前記積層膜構造は、
下側電極膜と、
前記下側電極膜の上に設けられ、第1酸化物を含有する第1記憶素子膜と、
前記第1記憶素子膜の上に設けられた上側電極膜と、
を有する第1状態と、
もしくは、
前記下側電極膜と、
前記下側電極膜の上に設けられた前記第1記憶素子膜と、
前記第1記憶素子膜の上に設けられ、第2酸化物を含有する第2記憶素子膜と、
前記第2記憶素子膜の上に設けられた前記上側電極膜と、
を有する第2状態と、
を維持することが可能であり、
前記下側電極膜もしくは前記上側電極膜が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、前記第1記憶素子膜に含まれる前記第1酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも小さく、
前記第2記憶素子膜に含まれる前記第2酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、前記上側電極膜が前記酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも大きく、
前記第2記憶素子膜に含まれる酸素濃度は、前記第1記憶素子膜に含まれる酸素濃度よりも高く、
前記第2状態における前記下側電極膜と前記上側電極膜との間の抵抗は、前記第1状態における前記下側電極膜と前記上側電極膜との間の抵抗よりも高いことを特徴とする不揮発性記憶装置。
【請求項2】
前記積層膜構造は、前記下側電極膜と、前記第1記憶素子膜と、の間に、第3酸化物を含有する電界制御膜をさらに有し、
前記第1記憶素子膜の誘電率は、前記電界制御膜の誘電率よりも高く、
前記電界制御膜のバンドギャップは、前記第1記憶素子膜のバンドギャップよりも広く、
前記第1記憶素子膜に含まれる前記第1酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、前記電界制御膜に含まれる前記第3酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも小さく、
前記電界制御膜に含まれる前記第3酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、前記下側電極膜が前記酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の不揮発性記憶装置。
【請求項3】
前記上側電極膜と前記第1記憶素子膜との間もしくは前記上側電極膜と前記第2記憶素子膜との間に、導電性酸化物を含む酸素供給層をさらに有し、
前記酸素供給層に含まれる前記導電性酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、前記第1記憶素子膜に含まれる前記第1酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の不揮発性記憶装置。
【請求項4】
前記上側電極膜と前記第1記憶素子膜との間もしくは前記上側電極膜と前記第2記憶素子膜との間に、第4酸化物を含有する絶縁層をさらに有し、
前記第4酸化物の化学組成は、前記第1酸化物の化学組成に比べて化学量論比に近く、
前記絶縁層に含まれる前記第4酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、前記第1記憶素子膜に含まれる前記第1酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも大きく、
前記絶縁層に含まれる前記第4酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、前記上側電極膜が前記酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の不揮発性記憶装置。
【請求項5】
前記第1記憶素子膜は、
前記下側電極膜側の第1記憶素子部と、
前記上側電極膜側の第2記憶素子部と、
を有し、
前記下側電極膜が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、前記第1記憶素子部に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも小さく、
前記上側電極膜が酸化膜に変化する場合の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値は、前記第2記憶素子部に含まれる酸化物の酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値よりも小さいことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の不揮発性記憶装置。
【請求項6】
前記記憶セルの前記上側電極膜に接続された上部配線と、
前記記憶セルの前記下側電極膜に接続された下部配線と、
をさらに備え、
前記下側電極膜は、前記下部配線に直接的に接続されていることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1つに記載の不揮発性記憶装置。
【請求項7】
前記記憶セルと前記上部配線との間、もしくは前記記憶セルと前記下部配線との間に整流素子をさらに備えたことを特徴とする請求項6記載の不揮発性記憶装置。
【請求項8】
前記第1記憶素子膜は、2元素以上の金属元素の酸化膜によって構成され、
前記第2記憶素子膜は、前記2元素以上の金属の中で、酸素原子1個あたりの標準生成ギブス自由エネルギーの絶対値が最も大きくなる金属元素の酸化膜によって構成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の不揮発性記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−243826(P2012−243826A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109936(P2011−109936)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】