説明

不整地用四輪走行車のエンジンルーム冷却構造

【課題】 エンジンルームを泥等から保護すると共に、新鮮な空気を効率良くエンジンルーム内に取り入れられる不整地用四輪走行車のエンジンルーム冷却構造を提供する。
【解決手段】左右一対の前車輪1と左右一対の後車輪2との間に、操作部17及びシート15,16を収納するキャビン5を備え、該キャビン5内又は該キャビン5より後方位置に、少なくともエンジン20の前方及び上方を覆うエンジンルーム21を設けている不整地用四輪走行車のエンジンルーム冷却構造である。エンジンルーム21から前方に延び、該エンジンルーム21内に冷却用空気を導入する空気ダクト32を設けている。好ましくは、前記空気ダクト32は、前記キャビン5よりも前方に延びている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不整地用四輪走行車のエンジンルーム冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は従来の不整地用四輪走行車の一例を示しており、左右一対の前車輪101と左右一対の後車輪102との間にキャビン110を設け、キャビン110内に設置されたシート104の下側又は下側後方にエンジンルーム103を形成し、該エンジンルーム103内にエンジン105を収納している。エンジンルーム103は、一般に、エンジン105の前方を覆う前壁111と、エンジン105の上方を覆う上壁112と、エンジンの下方を覆うアンダーガード106により囲まれている。なお、図8のエンジンルーム103は断面で示しているので、エンジンルームの側壁は図示していないが、エンジンルーム103の左右側方も側壁により囲まれている。
【0003】
上記不整地用四輪走行車において、エンジンルーム103を冷却するためにアンダーガード106に開口部107を形成しており、矢印W0で示すように、前記開口部107を介して、車体の下側の空気をエンジンルーム103内に導入し、エンジン105等の冷却に利用している。
【0004】
トラック等のエンジンルームの冷却構造として、エンジンルームの側壁に開口を形成し、該側壁開口からエンジンルーム内に冷却用空気を導入する構造は、たとえば特許文献1等に記載されている。
【特許文献1】特開2000−280762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図8の従来例のように、エンジンルーム103の下側のアンダーガード106に開口部107を形成し、車体の下側から冷却用空気を取り入れる構造では、前車輪101が跳ね上げる泥や小石が開口部107からエンジンルーム103内に侵入し、泥がエンジンルーム103内に堆積したり、エンジン自体に付着したりする。また、高出力エンジンを搭載している場合には、下方から取り入れる空気だけでは十分に冷却出来ず、エンジンルーム103が高温になる。
【0006】
また、トラックのエンジンルームの側壁に開口を形成する冷却構造を、不整地用四輪走行車のエンジンルームに適用するとしても、不整地用四輪走行車のエンジンは、車体左右幅の中央部に配置され、エンジンの左右側方には、たとえば燃料タンクやバッテリ等の各種装備品が収納されていることが多く、左右側壁の開口から取り入れた空気を、中央のエンジンの冷却に効率良く利用することは困難である。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、冷却用空気を、前方から効率良くエンジンルーム内に導入できる不整地用四輪走行車のエンジンルーム冷却構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、左右一対の前車輪と左右一対の後車輪との間に、操作部及びシートを収納するキャビンを備え、該キャビン内又は該キャビンより後方位置に、少なくともエンジンの前方及び上方を覆うエンジンルームを設けている不整地用四輪走行車のエンジンルーム冷却構造において、前記エンジンルームから前方に延び、該エンジンルーム内にエンジンルーム冷却用空気を導入する空気ダクトを設けている。
【0009】
上記構成によると、エンジンルームから前方に延びる空気ダクトにより、前方からの空気を取り入れるので、走行中、エンジンルーム内に効率よく新鮮な空気を取り入れることができ、エンジンの冷却効果が向上し、また、キャビン内へエンジンの振動音又は機械音が漏れるのを防ぐことができる。
【0010】
さらに、エンジンルームの下側に、図8の従来例のように開口部を形成する必要が無くなるので、走行中、泥や小石がエンジンルーム内に侵入するのを防ぐことができる。
【0011】
上記不整地用四輪走行車のエンジン冷却構造において、前記空気ダクトは前記キャビンよりも前方位置まで延ばすことができる。
【0012】
上記構成によると、走行中、走行風を一層効率良くエンジンルーム内に導入でき、また、キャビン内へエンジンの振動音又は機械音が漏れるのを一層抑制することができる。
【0013】
上記不整地用四輪走行車のエンジンルーム冷却構造において、前記空気ダクトを、キャビンよりも前方位置で立ち上げることができる。
【0014】
上記構成によると、空気ダクトの空気入口を高い位置に設定できるので、空気入口から泥や水が侵入するのを、効果的に防ぐことができる。
【0015】
上記不整地用四輪走行車のエンジンルーム冷却構造において、前記空気ダクトは、前記キャビンより前方位置に配置されたラジエターより上方位置に、空気入口を開口させることができる。
【0016】
上記構成によると、空気入口から泥や水が侵入するのを防ぐと共に、ラジエターからの暖かい空気を吸い込むことがなく、エンジンルームに新鮮な空気を送り込むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1〜図6は、本発明にかかるエンジンルーム冷却構造を備えた不整地用四輪走行車のであり、これらの図面に基づいて本発明の一実施の形態を説明する。
【0018】
[不整地用四輪走行車の全体の構成]
図2は、不整地用四輪走行車の簡略斜視図であり、車輌の前部に左右一対の前車輪1を備え、車輌の後部に左右一対の後車輪2を備え、前車輪1と後車輪2との間に保護フレーム3で囲まれたキャビン5を備え、キャビン5の後方に荷台6を備え、キャビン5の前方に、ボンネット8、左右一対の前フェンダー9及びバンパー10等を備えている。
【0019】
左右の前フェンダー9はボンネット8と一体に形成されており、ボンネット8の前端部には第1の空気取入口11が形成され、バンパー10の前端部には第2の空気取入口13が形成されている。また、各前フェンダー9の前端部にはヘッドライド12が備えられている。
【0020】
図3は保護フレーム3(図1及び図2)を取り外して示す不整地用四輪走行車の平面図であり、キャビン5内には、左側に運転シート15が設置され、右側に助手シート16が設置され、前部にはダッシュボード(操作部)17が設けられ、該ダッシュボード17の左側部分には、運転シート15の前方に位置するハンドル18が設けられている。
【0021】
運転シート15と助手シート16との間には、各シート15、16よりも下方位置にエンジンルーム21が設けられ、該エンジンルーム21内にエンジン20が搭載されている。エンジンルーム21は、左右のシート15,16の下側空間まで拡張しており、運転シート15の下側のルーム拡張部分には、たとえばバッテリ(図示せず)及び電装部品等が収納され、補助シート16の下側のルーム拡張部分には、たとえば燃料タンク(図示せず)が収納されている。
【0022】
図1は不整地用四輪走行車の左側面図であり、前記エンジンルーム21は、前壁23により前方が覆われると共に上壁24により上方が覆われており、前壁23と上壁24は、それぞれシート15,16の下側のルーム拡張部分まで左右に延びている。エンジンルーム21の左右側方はそれぞれ側壁25により覆われ、エンジンルーム21の下側はアンダーガード26により覆われている。
【0023】
エンジンルーム21の車幅中央部、すなわちエンジン20を収納している部分の後側は開放しており、左右のシート15,16の下側のルーム拡張部分の後側は、後フェンダー(図示せず)により覆われている。また、エンジンルーム21の車幅中央部の上壁24の上側には、左右のシート15,16間に位置するコンソールボックス45が設けられている。
【0024】
キャビン5の下端部には、エンジンルーム21の前壁23の下端から略水平に前方に延びるフロアープレート28が設けられており、このフロアープレート28の前端には、ダッシュボード17の略下方位置から立ち上がる立ち上がり壁28aが形成され、この立ち上がり壁28aにより、キャビン5を、キャビン前方のボンネット8及び前フェンダー9内の空間から仕切っている。また、ボンネット8内の空間にはラジエター30が設けられている。
【0025】
[エンジンルーム冷却構造]
図4は図3のIV-IV断面略図であり、エンジンルーム21の前壁23にはダクト取付孔31が形成され、該取付孔31に、トリムシールを介してエンジンルーム冷却用の空気ダクト32の後端部が固定されており、該空気ダクト32の後端はエンジンルーム21内に開口している。
【0026】
空気ダクト32はフロアープレート28と略平行に前方に延び、前記フロアープレート28の立ち上がり壁28aに形成された貫通孔33を通過してキャビン5内からボンネット8内に突出している。そしてボンネット8内において、立ち上がり壁28aの前面に沿って立ち上がり、上端部がボンネット8の下面近傍位置で前方に折れ曲がり、該折れ曲がり状の上端部に、前方に向いて開口する空気入口34が形成されている。
【0027】
空気ダクト32の空気入口34は、ラジエター30の上端よりも上方に位置しており、空気ダクト32の上端部は、ボンネット8内に左右方向に架設されたフレーム40に、ブラケット41を介して支持されている。
【0028】
前記空気ダクト32は、後部ダクト部材32aと、前部ダクト部材32bの二つの部材から構成されており、後部ダクト部材32aは、エンジンルーム21の前壁23から立ち上がり壁28aの前方位置まで略水平に延びる部材であり、前部ダクト部材32bは、後部ダクト部材32aの前端部に嵌合継手構造32cにより接続され、上方に立ち上がる部材である。
【0029】
図5は図1のV-V断面図であり、フロアープレート28の車幅中央線O1より僅かに右側に偏った位置に、上方に突出する下開きの逆U字部28bが形成されており、この逆U字部28b内に空気ダクト32の後部ダクト部材32aが収納されている。すなわち、空気ダクト32の後部ダクト部材32aも、車幅中央線O1より僅かに右側に偏って位置している。
【0030】
図6は図1のVI-VI断面図であり、前述のように空気ダクト32の後部ダクト部材32aは車幅中心線O1よりも弱冠右側に変位した位置に配置されているが、空気ダクト32の前部ダクト部材32bは、立ち上がり途中で左側に傾いており、それにより、上端部の空気入口34は略車幅中心線O1上に位置している。
【0031】
[作用]
図2において、前進走行中、ボンネット8の第1の空気取入口11と、バンパー10の第2の空気取入口1と、ボンネット8及び前フェンダー9の前下端とバンパー10の上端とのすき間50とから、それぞれ新鮮な空気がボンネット8内に取り入れられる。
【0032】
図4において、ボンネット8の第1の空気取入口11から流入する空気は、矢印W1に示すように、主としてボンネット8の下面に沿って後方に流れ、空気入口34から空気ダクト32内に取り入れられる。空気ダクト32に取り入れられた空気は、空気ダクト32内を流れ、エンジンルーム21の前壁23を通過し、エンジンルーム21に導かれ、エンジン20並びに左右の燃料タンク及びバッテリ等を冷却する。冷却後の空気は、エンジンルーム21の車幅中央部の開放部分から後方に排出される。
【0033】
バンパー10の第2の空気取入口13及び前記すき間50から取り入れられた空気は、矢印W2、W3に示すように、主としてラジエター30に供給され、ラジエター30内の冷却液を冷却した後、ラジエター30の後方に排出される。
【0034】
[実施の形態の効果]
(1)図4において、走行中、車輌の前方から取り入れた新鮮な空気を、エンジンルーム21内に継続的に供給できるので、エンジンルーム21内に収納されているエンジン20及び燃料タンク等を効率良く冷却することができる。
【0035】
(2)図4において、エンジンルーム21は、前壁23及び上壁24によりキャビン5から隔離されているので、エンジン20の振動音又は機械音がキャビン5内に漏れるのを防ぐことができ、しかも、エンジンルーム21の下側は、アンダーガード26により覆われており、かつ、アンダーガード26には、従来のように空気取入用の開口部が形成されていないので、走行中、泥や小石が車体の下側からエンジンルーム21内に飛散することはなく、エンジン20を泥や小石から保護することができる。
【0036】
(3)図4において、キャビン5の下端部を通過する空気ダクト32の後部ダクト部材32aは、フロアープレート28の逆U字部28bにより覆われているので、乗員が直接踏みつける恐れがない。
【0037】
(4)図4において、空気ダクト32の前部ダクト部材32bを立ち上げ、ボンネット8内の高い位置で空気入口34を前方に向けて開口しているので、走行風を効率良く取り入れることができるのは勿論のこと、前車輪1で跳ね上げられる泥や水が空気入口34から侵入することもない。
【0038】
(5)図4において、空気ダクト32の上端の空気入口34を、ラジエター30の上端よりも上方位置で開口しているので、ラジエター30を通過後の暖かい空気を取り込む恐れがない。
【0039】
[その他の実施の形態]
(1)図7は別の実施の形態の水平断面略図であり、空気ダクト32の前部ダクト部材32bは、立ち上がらせることなく、左右に分岐させ、ラジエター30の左右側方位置で前方に向いて開口させている。この構成によっても、ラジエター30を通過後の暖かい空気が空気ダクト32によって吸い込まれる恐れはない。なお、図7において、上記空気ダクト32以外の構造は前記図1〜図6の実施の形態と同じであり、同じ部品には同じ符号を付してある。
【0040】
(2)図1に示す構造では、空気ダクト32は、立ち上がり壁28aを前方に貫通し、キャビン5よりも前方位置で開口する構造であるが、本発明は、このような構造には限定されず、たとえば、図1において、空気ダクト32をエンジンルーム21の前壁23からキャビン5内の位置P1まで延ばし、該位置P1で前向きに開口する構造とすることもできる。
【0041】
(3)図1及び図5の構造では、空気ダクト32の空気入口34は前向きに開口しているが、上向きに開口する構造とすることも可能である。この場合は、たとえば、ボンネット8の下面にガイド面等を形成して、前方からの空気を前記ガイド面により上向きの空気入口に導く構造とすることができる。
【0042】
(4)図1の不整地用四輪走行車では、エンジン20の前後方向の位置は、シート15,16の略下方であるが、シート15,16よりも後方にエンジンルーム21を形成してエンジン20を配置する構造の不整地用四輪走行車にも、本発明を適用することは可能である。
【0043】
(5)本発明は、前記各実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲において、各種変形例を採用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、各種不整地用四輪走行車に適用可能であり、たとえば、図1及び図3において、運転シート15と助手シート16との2つのシートの代わりに、一体的なベンチシートを備えた不整地用四輪走行車に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明にかかるエンジンルーム冷却構造を備えた不整地用四輪走行車の一実施の形態を示す左側面図である。
【図2】図1の不整地用四輪走行車の簡略斜視図である。
【図3】図1の不整地用四輪走行車の平面図である。
【図4】図1の不整地用四輪走行車の図3のIV-IV断面図である。
【図5】図1の不整地用四輪走行車のV-V断面図である。
【図6】図1の不整地用四輪走行車のVI-V断面図である。
【図7】本発明にかかるエンジンルーム冷却構造を備えた不整地用四輪走行車の別の実施の形態を示す水平断面図である。
【図8】従来例の左側面略図である。
【符号の説明】
【0046】
1 前車輪
2 後車輪
5 キャビン
8 ボンネット
9 前フェンダー
11 空気取り入れ口
15 運転シート
16 助手シート
20 エンジン
21 エンジンルーム
23 エンジンルームの前壁
24 エンジンルームの上壁
25 エンジンルームの側壁
28 フロアープレート
28a フロアープレートの立ち上がり壁
30 ラジエター
32 空気ダクト
32a 後部ダクト部材
32b 前部ダクト部材
34 空気入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の前車輪と左右一対の後車輪との間に、操作部及びシートを収納するキャビンを備え、該キャビン内又は該キャビンより後方位置に、少なくともエンジンの前方及び上方を覆うエンジンルームを設けている不整地用四輪走行車のエンジンルーム冷却構造において、
前記エンジンルームから前方に延び、該エンジンルーム内にエンジンルーム冷却用空気を導入する空気ダクトを設けていることを特徴とする不整地用四輪走行車のエンジンルーム冷却構造。
【請求項2】
前記空気ダクトは、前記キャビンよりも前方位置まで延びていることを特徴とする請求項1記載の不整地用四輪走行車のエンジンルーム冷却構造。
【請求項3】
前記空気ダクトを、前記キャビンよりも前方位置で立ち上げていることを特徴とする請求項2記載の不整地用四輪走行車のエンジンルーム冷却構造。
【請求項4】
前記空気ダクトは、前記キャビンより前方位置に配置されたラジエターより上方位置で、空気入口が開口していることを特徴とする請求項3記載の不整地用四輪走行車のエンジンルーム冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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