説明

不斉カルボニル−エン反応による光学活性コンボルタミジン誘導体の製造方法

【課題】種々の生理活性を有することが期待される光学活性コンボルタミジン誘導体の実用的な製造方法を提供する。
【解決手段】イサチン類とシリルエノールエーテルを「光学活性な配位子を有する遷移金属錯体」の存在下に反応させることにより光学活性カルボニル−エン生成物を製造し、得られた光学活性カルボニル−エン生成物をさらに求電子剤(E)と反応させる。本発明において、イサチン類とシリルエノールエーテルの不斉触媒によるカルボニル−エン反応が良好に進行する。また目的物が特に収率良く高い光学純度で得られる、好適な不斉触媒および反応条件を明らかにした。本発明によれば、分離の難しい不純物が含まれず、化学純度の高い生成物を得ることができる。本発明で得られる光学活性カルボニル−エン生成物は、種々の求電子剤との反応が可能であり、構造活性相関に必要な多種の誘導化に好適に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の生理活性を有することが期待される光学活性コンボルタミジン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明で対象とする光学活性コンボルタミジン誘導体は、種々の生理活性を有することが期待される。本発明に関連する従来技術として、イサチン類と炭素求核剤を不斉触媒の存在下に反応させる方法が報告されている。炭素求核剤として、アリールホウ素またはアルケニルホウ素を反応させる方法(非特許文献1)、アルキル亜鉛を反応させる方法(非特許文献2)およびアセトンを反応させる方法(非特許文献3)等がある。しかしながら、本発明で対象とするシリルエノールエーテルを炭素求核剤とする反応(特に、光学活性カルボニル−エン生成物の実用的な製造方法が提供できる好適な不斉触媒および反応条件)は未だ報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Angew.Chem.Int.Ed.(ドイツ),2003年,第42号,p.5489−5492
【非特許文献2】Angew.Chem.Int.Ed.(ドイツ),2006年,第45号,p.3353−3356
【非特許文献3】J.Org.Chem.(米国),2005年,第70巻,p.7418−7421
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、種々の生理活性を有することが期待される光学活性コンボルタミジン誘導体の実用的な製造方法を提供することにある。非特許文献1、非特許文献2および非特許文献3で導入された炭素求核部位は、その後の官能基変換反応が限られており、構造活性相関における構造の最適化に好適な(多種の誘導体が製造可能な)製造方法とは言えなかった。
【0005】
一方、シリルエノールエーテルを炭素求核剤とする反応で得られる光学活性カルボニル−エン生成物は、再び求核剤と成り得るシリルエノールエーテル部位を有するため、種々の求電子剤と反応させることができ、これらの反応を連続的に行うことにより多種の光学活性コンボルタミジン誘導体を製造することができる。しかしながら、背景技術に記載した通り、所望の不斉カルボニル−エン反応は未だ報告されておらず、特に、目的とする光学活性カルボニル−エン生成物が収率および光学純度において実用的なレベルで製造できる不斉触媒および反応条件を明らかにする必要があった。さらに、引き続く光学活性カルボニル−エン生成物と求電子剤の反応も全く明らかにされていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、一般式[1]で示されるイサチン類と、一般式[2]で示されるシリルエノールエーテルを「光学活性な配位子を有する遷移金属錯体」の存在下に反応させることにより、一般式[3]で示される光学活性カルボニル−エン生成物が製造できることを見出した。さらに、得られた一般式[3]で示される光学活性カルボニル−エン生成物と求電子剤(E)を反応させることにより、一般式[4]で示される光学活性コンボルタミジン誘導体が製造できることも見出した。
【0007】
一般式[1]で示されるイサチン類としては、芳香環上のRとRが共に水素原子であり、RとRがそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基またはヒドロキシル基の保護体であり、窒素原子上のRが水素原子またはアミノ基の保護基であるものが好ましく、大量規模での入手が容易である。一般式[2]で示されるシリルエノールエーテルとしては、sp炭素原子上のRとRが共に水素原子であり、sp炭素原子上のRとRがそれぞれ独立に水素原子、アルキル基または置換アルキル基であり、ケイ素原子上のR10、R11とR12がそれぞれ独立に炭素数が1から4のアルキル基であるものが好ましく、大量規模での入手が安価である。「光学活性な配位子を有する遷移金属錯体」としては、「光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体」が好ましく、「光学活性な配位子を有する2価カチオン性のパラジウム錯体」が特に好ましく、所望の反応が良好に進行する。
【0008】
本発明の製造方法で得られる一般式[3]で示される光学活性カルボニル−エン生成物は新規化合物であり、種々の生理活性を有することが強く期待される光学活性コンボルタミジン誘導体の前駆体に成り得る。該エン生成物の中でもRとRが共に水素原子であり、RとRがそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基またはヒドロキシル基の保護体であり、Rが水素原子またはアミノ基の保護基であり、RとRが共に水素原子であり、RとRがそれぞれ独立に水素原子、アルキル基または置換アルキル基であり、R10、R11とR12がそれぞれ独立に炭素数が1から4のアルキル基であるものが好ましく、大量規模での製造が可能で、種々の生理活性を有することが極めて強く期待される光学活性コンボルタミジン誘導体の前駆体に成り得る。
【0009】
この様に、光学活性コンボルタミジン誘導体の有用な製造方法を見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は[発明1]から[発明7]を含み、種々の生理活性を有することが期待される光学活性コンボルタミジン誘導体の実用的な製造方法を提供する。
【0011】
[発明1]
一般式[1]
【0012】
【化1】

【0013】
[式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アジド基、ニトロ基、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、チオール基、チオール基の保護体、アルデヒド基、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基またはカルボキシル基の保護体を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換アルキル基またはアミノ基の保護基を表す]で示されるイサチン類と、一般式[2]
【0014】
【化2】

【0015】
[式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、R10、R11およびR12はそれぞれ独立に低級アルキル基またはフェニル基を表す]で示されるシリルエノールエーテルを「光学活性な配位子を有する遷移金属錯体」の存在下に反応させることにより、一般式[3]
【0016】
【化3】

【0017】
[式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11およびR12は上記と同じ置換基を表し、*はそれぞれ不斉炭素を表し(但し、RとRが同一の置換基の場合、これらが結合する炭素原子は不斉炭素でない)、波線は、R基の立体化学がヒドロキシル基に対してシン、アンチ、またはシンとアンチの混合物であること、またはR基の立体化学がシリルオキシ基に対してE、Z、またはEとZの混合物であることを表す]で示される光学活性カルボニル−エン生成物を製造する方法。
【0018】
[発明2]
発明1において得られた、一般式[3]
【0019】
【化4】

【0020】
[式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アジド基、ニトロ基、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、チオール基、チオール基の保護体、アルデヒド基、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基またはカルボキシル基の保護体を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換アルキル基またはアミノ基の保護基を表し、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、R10、R11およびR12はそれぞれ独立に低級アルキル基またはフェニル基を表し、*はそれぞれ不斉炭素を表し(但し、RとRが同一の置換基の場合、これらが結合する炭素原子は不斉炭素でない)、波線は、R基の立体化学がヒドロキシル基に対してシン、アンチ、またはシンとアンチの混合物であること、またはR基の立体化学がシリルオキシ基に対してE、Z、またはEとZの混合物であることを表す]で示される光学活性カルボニル−エン生成物と求電子剤(E)を反応させることにより、一般式[4]
【0021】
【化5】

【0022】
[式中、R、R、R、R、R、R、R、R、RおよびE(求電子剤からの導入部位)は上記と同じ置換基を表し、*はそれぞれ不斉炭素を表し(但し、RとRが同一の置換基の場合、またはR、RとEの内に同一の置換基がある場合、これらが結合する炭素原子は不斉炭素でない)、波線は、R基の立体化学がヒドロキシル基に対してシン、アンチ、またはシンとアンチの混合物であること、またはE基が結合する不斉炭素の立体化学が、ヒドロキシル基が結合する不斉炭素の各絶対配置(RまたはS)に対してそれぞれR、S、またはRとSの混合物であることを表す]で示される光学活性コンボルタミジン誘導体を製造する方法。
【0023】
[発明3]
一般式[5]
【0024】
【化6】

【0025】
[式中、R13およびR14はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基またはヒドロキシル基の保護体を表し、R15は水素原子またはアミノ基の保護基を表す]で示されるイサチン類と、一般式[6]
【0026】
【化7】

【0027】
[式中、R16およびR17はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基または置換アルキル基を表し、R18、R19およびR20はそれぞれ独立に炭素数が1から4のアルキル基を表す]で示されるシリルエノールエーテルを「光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体」の存在下に反応させることにより、一般式[7]
【0028】
【化8】

【0029】
[式中、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19およびR20は上記と同じ置換基を表し、*は不斉炭素を表し、波線は、R16基の立体化学がシリルオキシ基に対してE、Z、またはEとZの混合物であることを表す]で示される光学活性カルボニル−エン生成物を製造する方法。
【0030】
[発明4]
発明3において得られた、一般式[7]
【0031】
【化9】

【0032】
[式中、R13およびR14はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基またはヒドロキシル基の保護体を表し、R15は水素原子またはアミノ基の保護基を表し、R16およびR17はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基または置換アルキル基を表し、R18、R19およびR20はそれぞれ独立に炭素数が1から4のアルキル基を表し、*は不斉炭素を表し、波線は、R16基の立体化学がシリルオキシ基に対してE、Z、またはEとZの混合物であることを表す]で示される光学活性カルボニル−エン生成物と求電子剤(E)を反応させることにより、一般式[8]
【0033】
【化10】

【0034】
[式中、R13、R14、R15、R16、R17およびE(求電子剤からの導入部位)は上記と同じ置換基を表し、*はそれぞれ不斉炭素を表し(但し、R16、R17とEの内に同一の置換基がある場合、これらが結合する炭素原子は不斉炭素でない)、波線は、E基が結合する不斉炭素の立体化学が、ヒドロキシル基が結合する不斉炭素の各絶対配置(RまたはS)に対してそれぞれR、S、またはRとSの混合物であることを表す]で示される光学活性コンボルタミジン誘導体を製造する方法。
【0035】
[発明5]
発明3または発明4において、「光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体」が「光学活性な配位子を有する2価カチオン性のパラジウム錯体」であることを特徴とする、発明3または発明4に記載の光学活性カルボニル−エン生成物または光学活性コンボルタミジン誘導体の製造方法。
【0036】
[発明6]
一般式[3]
【0037】
【化11】

【0038】
[式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アジド基、ニトロ基、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、チオール基、チオール基の保護体、アルデヒド基、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基またはカルボキシル基の保護体を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換アルキル基またはアミノ基の保護基を表し、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、R10、R11およびR12はそれぞれ独立に低級アルキル基またはフェニル基を表し、*はそれぞれ不斉炭素を表し(但し、RとRが同一の置換基の場合、これらが結合する炭素原子は不斉炭素でない)、波線は、R基の立体化学がヒドロキシル基に対してシン、アンチ、またはシンとアンチの混合物であること、またはR基の立体化学がシリルオキシ基に対してE、Z、またはEとZの混合物であることを表す]で示される光学活性カルボニル−エン生成物。
【0039】
[発明7]
一般式[7]
【0040】
【化12】

【0041】
[式中、R13およびR14はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基またはヒドロキシル基の保護体を表し、R15は水素原子またはアミノ基の保護基を表し、R16およびR17はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基または置換アルキル基を表し、R18、R19およびR20はそれぞれ独立に炭素数が1から4のアルキル基を表し、*は不斉炭素を表し、波線は、R16基の立体化学がシリルオキシ基に対してE、Z、またはEとZの混合物であることを表す]で示される光学活性カルボニル−エン生成物。
【発明の効果】
【0042】
本発明において、イサチン類とシリルエノールエーテルの不斉触媒によるカルボニル−エン反応が良好に進行することを見出した。さらに、目的とする光学活性カルボニル−エン生成物が収率良く高い光学純度で得られる、好適な不斉触媒および反応条件を明らかにした。また、分離の難しい不純物が含まれず、化学純度の高い生成物を得ることができる。本発明で得られる光学活性カルボニル−エン生成物は、引き続く種々の求電子剤との反応が可能であり、構造活性相関に必要な多種の誘導化に好適に利用できる。
【0043】
この様に、本発明は、種々の生理活性を有することが期待される光学活性コンボルタミジン誘導体の実用的な製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の光学活性コンボルタミジン誘導体の製造方法について詳細に説明する。
【0045】
先ずは、光学活性カルボニル−エン生成物の製造方法について詳細に説明する。一般式[1]で示されるイサチン類のR、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アジド基、ニトロ基、低級アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基等)、低級ハロアルキル基(フルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基等)、低級アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等)、低級ハロアルコキシ基(フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基等)、低級アルキルアミノ基(ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基等)、低級アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基等)、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基等)、アミノカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基(ジメチルアミノカルボニル基、ジエチルアミノカルボニル基、ジプロピルアミノカルボニル基等)、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、チオール基、チオール基の保護体、アルデヒド基、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基またはカルボキシル基の保護体を表す。“低級”とは、炭素数が1から6の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)を意味する。“ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、アルデヒド基およびカルボキシル基の保護基”としては、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.に記載された保護基等を用いることができる(2つ以上の官能基を1つの保護基で同時に保護することもできる)。
【0046】
一般式[1]で示されるイサチン類のRは、水素原子、アルキル基、置換アルキル基またはアミノ基の保護基を表す。アルキル基は、炭素数が1から12のものが挙げられ、炭素数が3以上のものは直鎖、分枝または環式を採ることができる。置換アルキル基は、アルキル基の任意の炭素原子上に、任意の数でさらに任意の組み合わせで、置換基を有することができる。係る置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のハロゲン原子、アジド基、ニトロ基、メチル基、エチル基、プロピル基等の低級アルキル基、フルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基等の低級ハロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の低級アルコキシ基、フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基等の低級ハロアルコキシ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基等の低級アルキルアミノ基、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基等の低級アルキルチオ基、シアノ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基等の低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ジエチルアミノカルボニル基、ジプロピルアミノカルボニル基等の低級アルキルアミノカルボニル基、低級アルケニル基、低級アルキニル基等の不飽和基、フェニル基、ナフチル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基等の芳香環基、フェノキシ基、ナフトキシ基、ピロリルオキシ基、フリルオキシ基、チエニルオキシ基等の芳香環オキシ基、ピペリジル基、ピペリジノ基、モルホリニル基等の脂肪族複素環基、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基(アミノ酸またはペプチド残基も含む)、アミノ基の保護体、チオール基、チオール基の保護体、アルデヒド基、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体等が挙げられる。“低級”と“ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、アルデヒド基およびカルボキシル基の保護基”は、一般式[1]で示されるイサチン類のR、R、RおよびRに記載したものと同じである。“不飽和基”が二重結合の場合(アルケニル基)は、E体またはZ体の両方の幾何異性を採ることができる。また、“不飽和基”、“芳香環基”、“芳香環オキシ基”および“脂肪族複素環基”には、ハロゲン原子、アジド基、ニトロ基、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、チオール基、チオール基の保護体、アルデヒド基、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体等が置換することもできる。これらの置換基の中には、副反応に関与するものもあるが、好適な反応条件を採用することにより所望の反応を良好に行うことができる。アミノ基の保護基は、一般式[1]で示されるイサチン類のR、R、RおよびRに記載したものと同じである。
【0047】
一般式[1]で示されるイサチン類の中でも容易に製造でき工業的な利用も可能な、RとRが共に水素原子で、RとRがそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基またはヒドロキシル基の保護体で、且つRが水素原子またはアミノ基の保護基のものが好ましく、光学活性カルボニル−エン生成物の製造に好適である。
【0048】
一般式[2]で示されるシリルエノールエーテルのR、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。アルキル基および置換アルキル基は、一般式[1]で示されるイサチン類のRに記載したものと同じである。芳香環基は、炭素数が1から18の、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等の芳香族炭化水素基、またはピロリル基、フリル基、チエニル基、インドリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基等の窒素原子、酸素原子または硫黄原子等のヘテロ原子を含む芳香族複素環基を採ることができる。置換芳香環基は、芳香環基の任意の炭素原子上に、任意の数でさらに任意の組み合わせで、置換基を有することができる。係る置換基は、一般式[1]で示されるイサチン類のRに記載したものと同じである。
【0049】
一般式[2]で示されるシリルエノールエーテルのR10、R11およびR12は、それぞれ独立に低級アルキル基またはフェニル基を表す。低級アルキル基は、一般式[1]で示されるイサチン類のR、R、RおよびRに記載したものと同じである。
【0050】
一般式[2]で示されるシリルエノールエーテルの中でも安価に製造でき工業的な利用も可能な、RとRが共に水素原子で、RとRがそれぞれ独立に水素原子、アルキル基または置換アルキル基で、且つR10、R11とR12がそれぞれ独立に炭素数が1から4のアルキル基(SiR101112としては、tert−ブチルジメチルシリル基およびトリイソプロピルシリル基が好ましく、トリイソプロピルシリル基が特に好ましい)のものが好ましく、光学活性カルボニル−エン生成物の製造に好適である。
【0051】
一般式[2]で示されるシリルエノールエーテルの使用量は、一般式[1]で示されるイサチン類1モルに対して0.7モル以上を用いれば良く、0.8から7モルが好ましく、0.9から5モルが特に好ましい。
【0052】
「光学活性な配位子を有する遷移金属錯体」としては、一般式[9]
【0053】
【化13】

【0054】
[式中、X−*−Xは光学活性SEGPHOS誘導体(図A)、光学活性BINAP誘導体(図B)、光学活性BIPHEP誘導体(図C)、光学活性P−Phos誘導体(図D)、光学活性PhanePhos誘導体(図E)、光学活性1,4−Et−cyclo−C−NUPHOS(図F)または光学活性BOX誘導体(図G)等を表し、YはNi、Pd、PtまたはCuを表し、ZはSbF、ClO、BF、OTf(Tf;CFSO)、AsF、PFまたはB(3,5−(CFを表す]で示される「光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体」
【0055】
【化14】

【0056】
【化15】

【0057】
【化16】

【0058】
【化17】

【0059】
【化18】

【0060】
【化19】

【0061】
【化20】

【0062】
または、一般式[10]
【0063】
【化21】

【0064】
[式中、Rは水素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子またはトリフルオロメチル基を表し、Meはメチル基を表す]で示されるBINOL−Ti錯体等が挙げられる。
【0065】
その中でも「光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体」が好ましく、「光学活性な配位子を有する2価カチオン性のパラジウム錯体」が特に好ましい(光学活性な配位子としては代表的なものを挙げており、CATALYTIC ASYMMETRIC SYNTHESIS,Second Edition,2000,Wiley−VCH,Inc.に記載されたものを適宜使用することができる。また、Zとしては、SbF、BF、OTfおよびB(3,5−(CFが好ましく、SbF、OTfおよびB(3,5−(CFが特に好ましい)。
【0066】
これらの錯体は公知の方法により調製することができ(例えば、Tetrahedron Letters(英国),2004年,第45巻,p.183−185、Tetrahedron:Asymmetry(英国),2004年,第15巻,p.3885−3889、Angew.Chem.Int.Ed.(ドイツ国),2005年,第44巻,p.7257−7260、J.Org.Chem.(米国),2006年,第71巻,p.9751−9764、J.Am.Chem.Soc.(米国),1999年,第121巻,p.686−699、nature(英国),1997年,第385巻,p.613−615等)、単離した錯体は当然、それ以外に、反応系中で予め調製し単離せずに用いることもできる。これらの錯体には水やアセトニトリル等の有機溶媒が配位(溶媒和)したものを用いることもできる。
【0067】
また、一般式[11]
【0068】
【化22】

【0069】
[式中、X−*−X、YおよびZは一般式[9]と同じものを表す]で示される「光学活性な配位子を有するカチオン性2核の遷移金属錯体」も、一般式[9]で示される「光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体」と同様に用いることができる場合がある。
【0070】
光学活性な配位子の立体化学[(R)、(S)、(R,R)、(S,S)等]としては、目的とする光学活性カルボニル−エン生成物の立体化学に応じて適宜使い分けることができる。光学活性な配位子の光学純度としては、目標とする光学活性カルボニル−エン生成物の光学純度に応じて適宜設定すれば良く、通常は95%ee(エナンチオマー過剰率)以上を用いれば良く、97%ee以上が好ましく、99%ee以上が特に好ましい。これらの光学活性な配位子の中でも、SEGPHOS誘導体およびBINAP誘導体が両エナンチオマーを比較的安価に入手することができ、かつ不斉触媒に誘導した時の活性も極めて高いため好適であり、SEGPHOS、BINAPおよびTol−BINAPが好ましく、SEGPHOSおよびTol−BINAPが特に好ましい。
【0071】
「光学活性な配位子を有する遷移金属錯体」の使用量は、一般式[1]で示されるイサチン類1モルに対して0.4モル以下を用いれば良く、0.3から0.00001モルが好ましく、0.2から0.0001モルが特に好ましい。
【0072】
反応溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル系等が挙げられる。その中でも芳香族炭化水素系、ハロゲン化炭化水素系およびエーテル系が好ましく、芳香族炭化水素系およびハロゲン化炭化水素系が特に好ましい。これらの反応溶媒は単独または組み合わせて用いることができる。また、本工程の製造方法は反応溶媒の非存在下に行うこともできる。
【0073】
反応溶媒を用いる場合、反応溶媒の使用量は、一般式[1]で示されるイサチン類1モルに対して0.3L以上を用いれば良く、0.4から100Lが好ましく、0.5から75Lが特に好ましい。
【0074】
反応温度は、−150から+150℃の範囲で行えば良く、−125から+125℃が好ましく、−100から+100℃が特に好ましい。
【0075】
反応時間は、24時間以内の範囲で行えば良く、原料基質、不斉触媒および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴(NMR)等の分析手段により反応の進行状況をモニターし、原料基質が殆ど消失した時点を終点とすることが好ましい。
【0076】
後処理は、反応終了液に対して有機合成における一般的な操作を行うことにより、目的とする一般式[3]で示される光学活性カルボニル−エン生成物を得ることができる。粗生成物は必要に応じて活性炭処理、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の操作により、高い純度に精製することができる。反応終了液に含まれる不斉触媒を直接、ショートカラムで取り除き、濾洗液を濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィーで精製することにより、比較的簡便な操作で高純度品を得ることができる。
【0077】
一般式[3]で示される光学活性カルボニル−エン生成物の*は、それぞれ不斉炭素を表す(但し、RとRが同一の置換基の場合、これらが結合する炭素原子は不斉炭素でない)。
【0078】
一般式[3]で示される光学活性カルボニル−エン生成物の波線は、R基の立体化学がヒドロキシル基に対してシン、アンチ、またはシンとアンチの混合物であること、またはR基の立体化学がシリルオキシ基に対してE、Z、またはEとZの混合物であることを表す。
【0079】
一般式[3]で示される光学活性カルボニル−エン生成物は新規化合物であり、該エン生成物の中でも一般式[7]で示される光学活性カルボニル−エン生成物が好ましい。
【0080】
次に、光学活性カルボニル−エン生成物と求電子剤(E)の反応による光学活性コンボルタミジン誘導体の製造方法について詳細に説明する。
【0081】
求電子剤(E)としては、特に制限はないが、ブレンステッド酸、カルボニル化合物、イミン化合物、求電子的ハロゲン化剤、求電子的酸素原子導入剤等が挙げられる。図−1には、代表的な求電子剤(代表的なものを挙げており、“第5版 実験化学講座、日本化学会、丸善”に記載されたものを適宜使用することができる)と、光学活性カルボニル−エン生成物との反応により得られる目的生成物の構造式を示した。後者の構造式は、一般式[4]で示される光学活性コンボルタミジン誘導体のE(求電子剤からの導入部位)のみを示した。
【0082】
【化23】

【0083】
カルボニル化合物のR21およびR22は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基または低級アルコキシカルボニル基を表す。アルキル基および置換アルキル基は、一般式[1]で示されるイサチン類のRに記載したものと同じである。芳香環基および置換芳香環基は、一般式[2]で示されるシリルエノールエーテルのR、R、RおよびRに記載したものと同じである。低級アルコキシカルボニル基は、一般式[1]で示されるイサチン類のR、R、RおよびRに記載したものと同じである。目的生成物のR23は、水素原子またはSiR101112を表す。*は不斉炭素を表し(但し、R21とR22が同一の置換基の場合、これらが結合する炭素原子は不斉炭素でない)、波線は、R21基が結合する不斉炭素の立体化学が、ヒドロキシル基が結合する不斉炭素(インドリン骨格の3位)の各絶対配置(RまたはS)に対してそれぞれR、S、またはRとSの混合物であることを表す。
【0084】
イミン化合物のR24およびR25は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基または低級アルコキシカルボニル基を表す。アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基および低級アルコキシカルボニル基は、上記のカルボニル化合物のR21およびR22に記載したものと同じである。R26は水素原子、アルキル基、置換アルキル基またはアミノ基の保護基を表す。アルキル基、置換アルキル基およびアミノ基の保護基は、一般式[1]で示されるイサチン類のRに記載したものと同じである。目的生成物のR27は、水素原子またはSiR101112を表す。*は不斉炭素を表し(但し、R24とR25が同一の置換基の場合、これらが結合する炭素原子は不斉炭素でない)、波線は、R24基が結合する不斉炭素の立体化学が、ヒドロキシル基が結合する不斉炭素(インドリン骨格の3位)の各絶対配置(RまたはS)に対してそれぞれR、S、またはRとSの混合物であることを表す。
【0085】
求電子剤(E)の中でも、ブレンステッド酸、カルボニル化合物、求電子的ハロゲン化剤および求電子的酸素原子導入剤が好ましく、カルボニル化合物、求電子的ハロゲン化剤および求電子的酸素原子導入剤が特に好ましい。これらの求電子剤と光学活性カルボニル−エン生成物の反応は、ルイス酸やルイス塩基等の反応促進剤の存在下に行うこともでき、効果的な場合がある。また、求電子的酸素原子導入剤との反応においては、中間体であるエポキシド体が得られる場合もある(図−1の括弧内構造式を参照)。
【0086】
求電子剤(E)の使用量は、一般式[3]で示される光学活性カルボニル−エン生成物1モルに対して0.7モル以上を用いれば良く、0.8から100モルが好ましく、0.9から75モルが特に好ましい。
【0087】
反応溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸系、ジメチルスルホキシド、水等が挙げられる。その中でもn−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸、ジメチルスルホキシドおよび水が好ましく、n−ヘキサン、トルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、酢酸および水が特に好ましい。これらの反応溶媒は単独または組み合わせて用いることができる。また、本工程の製造方法は反応溶媒の非存在下に行うこともできる。
【0088】
反応溶媒を用いる場合、反応溶媒の使用量は、一般式[3]で示される光学活性カルボニル−エン生成物1モルに対して0.3L以上を用いれば良く、0.4から100Lが好ましく、0.5から75Lが特に好ましい。
【0089】
反応温度は、−100から+150℃の範囲で行えば良く、−90から+125℃が好ましく、−80から+100℃が特に好ましい。
【0090】
反応時間は、24時間以内の範囲で行えば良く、原料基質、求電子剤(E)、反応促進剤の有無および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴(NMR)等の分析手段により反応の進行状況をモニターし、原料基質が殆ど消失した時点を終点とすることが好ましい。
【0091】
後処理は、反応終了液に対して有機合成における一般的な操作を行うことにより、目的とする一般式[4]で示される光学活性コンボルタミジン誘導体を得ることができる。粗生成物は必要に応じて活性炭処理、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の操作により、高い純度に精製することができる。反応終了液を直接、(または、必要に応じて濃縮し、残渣を)カラムクロマトグラフィーで精製することにより、比較的簡便な操作で高純度品を得ることができる。
【0092】
一般式[4]で示される光学活性コンボルタミジン誘導体の中には新規化合物も数多く含まれるが、特に求電子的ハロゲン化剤または求電子的酸素原子導入剤との反応で得られる該誘導体は、種々の有用な生理活性を有するだけでなく、求電子剤からの導入部位がさらなる脱離基としても利用できるため、極めて重要な化合物である(本発明の好適な態様の1つである)。
【0093】
[実施例]
実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。[実施例2]および[実施例3]は[実施例1]と同様に行い、[実施例1]から[実施例3]の結果を表−1に纏めた。基質濃度の表示については、基準となる原料基質1モルに対して反応溶媒を0.5L、1L、2L用いた場合、それぞれ2M、1M、0.5Mと表示した。略記号は以下の通りとする。TIPS;トリイソプロピルシリル基、Bn;ベンジル基。
【0094】
[実施例1]
塩化メチレン2mLに、下記式
【0095】
【化24】

【0096】
で示される(R)−BINAP−PdCl8.0mg(0.01mmol)とAgSbF7.6mg(0.022mmol)を窒素雰囲気下で加え、室温で30分間攪拌した(一般式[9]で示される「光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体(X−*−X;(R)−BINAP、Y;Pd、Z;SbF)」が反応系中で生成)。下記式
【0097】
【化25】

【0098】
で示されるイサチン類30.5mg(0.1mmol)の塩化メチレン溶液(溶媒使用量3mL)と、下記式
【0099】
【化26】

【0100】
で示されるシリルエノールエーテル42.9mg(0.2mmol)を−78℃で加え、−40℃で4時間攪拌した。反応終了液を直接、ショートカラム(シリカゲル/酢酸エチル:n−ヘキサン=1:1)に付し、「光学活性な配位子を有する2価カチオン性のパラジウム錯体」を取り除き、濾洗液を減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【0101】
【化27】

【0102】
で示される光学活性カルボニル−エン生成物を得た。H−NMRを下に示す。
H−NMR(300MHz,CDCl,(CHSi)δ0.99(d,J=6.0Hz,18H),1.03−1.12(m,3H),2.96(d,J=13.2Hz,1H),3.12(d,J=13.2Hz,1H),3.15(s,1H),3.98(s,1H),4.09(s,1H),6.93(d,J=1.5Hz,1H),7.33(d,J=1.5Hz,1H),7.70(br s,1H).
上記で得られた光学活性カルボニル−エン生成物全量(0.1mmolとする)に、塩化メチレン1mLと10%塩酸エタノール溶液2滴を加え、室温で5分間攪拌した。反応終了液を直接、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル/酢酸エチル:n−ヘキサン=1:2)で精製することにより、下記式
【0103】
【化28】

【0104】
で示される光学活性コンボルタミジン誘導体を29.4mg得た。トータル収率は81%であった。光学純度はキラル液体クロマトグラフィー(DAICEL CHIRALPAK AD−H)により97%eeであった。H−NMRおよびHRMSを下に示す。
H−NMR(300MHz,CDOD,(CHSi)δ2.10(s,3H),3.28(d,J=17.7Hz,1H),3.97(d,J=17.7Hz,1H),7.04(d,J=1.8Hz,1H),7.31(d,J=1.8Hz,1H).
HRMS(ESI−TOF)Calcd for C11BrNa[M+Na]:383.8847,Found:383.8830.
[実施例3]の99%ee品の比旋光度は[α]24+64.2(c=0.41 in CHOH)であった。
【0105】
【表1】

【0106】
[実施例4]
[実施例1]から[実施例3]と同様に行うことにより得られた、下記式
【0107】
【化29】

【0108】
で示される光学活性カルボニル−エン生成物26.0mg(0.05mmol)の塩化メチレン溶液(溶媒使用量1mL)に、m−クロロ過安息香酸22.4mg(純度77%とする、0.1mmol)を加え、室温で30分間攪拌した。反応終了液を直接、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル/酢酸エチル:n−ヘキサン=1:2)で精製することにより、下記式
【0109】
【化30】

【0110】
で示される光学活性コンボルタミジン誘導体を含むフラクションを分取した。HRMSを下に示す。
HRMS(ESI−TOF)Calcd for C2029BrNaSi[M+Na]:556.0130,Found:556.0155.
[実施例5]
塩化メチレン2mLに、下記式
【0111】
【化31】

【0112】
で示される(R)−SEGPHOS−PdCl7.9mg(0.01mmol)とAgSbF7.6mg(0.022mmol)を窒素雰囲気下で加え、室温で30分間攪拌した(一般式[9]で示される「光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体(X−*−X;(R)−SEGPHOS、Y;Pd、Z;SbF)」が反応系中で生成)。下記式
【0113】
【化32】

【0114】
で示されるイサチン類39.5mg(0.1mmol)の塩化メチレン溶液(溶媒使用量1mL)と、下記式
【0115】
【化33】

【0116】
で示されるシリルエノールエーテル42.9mg(0.2mmol)を−78℃で加え、同温度で3時間攪拌した。反応終了液を直接、ショートカラム(シリカゲル/酢酸エチル:n−ヘキサン=1:1)に付し、「光学活性な配位子を有する2価カチオン性のパラジウム錯体」を取り除き、濾洗液を減圧濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル/酢酸エチル:n−ヘキサン=1:6)で精製することにより、下記式
【0117】
【化34】

【0118】
で示される光学活性カルボニル−エン生成物を59.1mg得た。収率は97%であった。比旋光度は[α]24 −6.35(c=5.90 in CHCl)であった。H−NMRおよびHRMSを下に示す。
H−NMR(300MHz,CDCl,(CHSi)δ0.98(d,J=5.4Hz,18H),1.03−1.11(m,3H),3.03(d,J=12.9Hz,1H),3.12(d,J=12.9Hz,1H),3.47(s,1H),4.01(s,1H),4.09(s,1H),4.70(d,J=15.9Hz,1H),4.89(d,J=15.9Hz,1H),6.75(d,J=1.5Hz,1H),7.24−7.33(m,6H).
HRMS(ESI−TOF)Calcd for C2735BrNaSi[M+Na]:630.0651,Found630.0676.
上記で得られた光学活性カルボニル−エン生成物全量(0.097mmol)に、エタノール2mLと10%塩酸エタノール溶液2滴を加え、室温で5分間攪拌した。反応終了液を減圧濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル/酢酸エチル:n−ヘキサン=1:3)で精製することにより、下記式
【0119】
【化35】

【0120】
で示される光学活性コンボルタミジン誘導体を44.0mg得た。収率は100%であった。光学純度はキラル液体クロマトグラフィー(DAICEL CHIRALPAK AD−H)により>99%eeであった。比旋光度は[α]24 +38.6(c=4.39 in CHCl)であった。H−NMRおよびHRMSを下に示す。
H−NMR(300MHz,CDCl,(CHSi)δ2.15(s,3H),3.41(d,J=17.4Hz,1H),3.76(s,1H),3.86(d,J=17.4Hz,1H),4.79(d,J=15.9Hz,1H),4.92(d,J=15.9Hz,1H),6.75(d,J=1.5Hz,1H),7.25−7.36(m,6H).
HRMS(ESI−TOF)Calcd for C1815BrNa[M+Na]:473.9316,Found:473.9309.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]
【化1】

[式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アジド基、ニトロ基、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、チオール基、チオール基の保護体、アルデヒド基、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基またはカルボキシル基の保護体を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換アルキル基またはアミノ基の保護基を表す]で示されるイサチン類と、一般式[2]
【化2】

[式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、R10、R11およびR12はそれぞれ独立に低級アルキル基またはフェニル基を表す]で示されるシリルエノールエーテルを「光学活性な配位子を有する遷移金属錯体」の存在下に反応させることにより、一般式[3]
【化3】

[式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11およびR12は上記と同じ置換基を表し、*はそれぞれ不斉炭素を表し(但し、RとRが同一の置換基の場合、これらが結合する炭素原子は不斉炭素でない)、波線は、R基の立体化学がヒドロキシル基に対してシン、アンチ、またはシンとアンチの混合物であること、またはR基の立体化学がシリルオキシ基に対してE、Z、またはEとZの混合物であることを表す]で示される光学活性カルボニル−エン生成物を製造する方法。
【請求項2】
請求項1において得られた、一般式[3]
【化4】

[式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アジド基、ニトロ基、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、チオール基、チオール基の保護体、アルデヒド基、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基またはカルボキシル基の保護体を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換アルキル基またはアミノ基の保護基を表し、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、R10、R11およびR12はそれぞれ独立に低級アルキル基またはフェニル基を表し、*はそれぞれ不斉炭素を表し(但し、RとRが同一の置換基の場合、これらが結合する炭素原子は不斉炭素でない)、波線は、R基の立体化学がヒドロキシル基に対してシン、アンチ、またはシンとアンチの混合物であること、またはR基の立体化学がシリルオキシ基に対してE、Z、またはEとZの混合物であることを表す]で示される光学活性カルボニル−エン生成物と求電子剤(E)を反応させることにより、一般式[4]
【化5】

[式中、R、R、R、R、R、R、R、R、RおよびE(求電子剤からの導入部位)は上記と同じ置換基を表し、*はそれぞれ不斉炭素を表し(但し、RとRが同一の置換基の場合、またはR、RとEの内に同一の置換基がある場合、これらが結合する炭素原子は不斉炭素でない)、波線は、R基の立体化学がヒドロキシル基に対してシン、アンチ、またはシンとアンチの混合物であること、またはE基が結合する不斉炭素の立体化学が、ヒドロキシル基が結合する不斉炭素の各絶対配置(RまたはS)に対してそれぞれR、S、またはRとSの混合物であることを表す]で示される光学活性コンボルタミジン誘導体を製造する方法。
【請求項3】
一般式[5]
【化6】

[式中、R13およびR14はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基またはヒドロキシル基の保護体を表し、R15は水素原子またはアミノ基の保護基を表す]で示されるイサチン類と、一般式[6]
【化7】

[式中、R16およびR17はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基または置換アルキル基を表し、R18、R19およびR20はそれぞれ独立に炭素数が1から4のアルキル基を表す]で示されるシリルエノールエーテルを「光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体」の存在下に反応させることにより、一般式[7]
【化8】

[式中、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19およびR20は上記と同じ置換基を表し、*は不斉炭素を表し、波線は、R16基の立体化学がシリルオキシ基に対してE、Z、またはEとZの混合物であることを表す]で示される光学活性カルボニル−エン生成物を製造する方法。
【請求項4】
請求項3において得られた、一般式[7]
【化9】

[式中、R13およびR14はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基またはヒドロキシル基の保護体を表し、R15は水素原子またはアミノ基の保護基を表し、R16およびR17はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基または置換アルキル基を表し、R18、R19およびR20はそれぞれ独立に炭素数が1から4のアルキル基を表し、*は不斉炭素を表し、波線は、R16基の立体化学がシリルオキシ基に対してE、Z、またはEとZの混合物であることを表す]で示される光学活性カルボニル−エン生成物と求電子剤(E)を反応させることにより、一般式[8]
【化10】

[式中、R13、R14、R15、R16、R17およびE(求電子剤からの導入部位)は上記と同じ置換基を表し、*はそれぞれ不斉炭素を表し(但し、R16、R17とEの内に同一の置換基がある場合、これらが結合する炭素原子は不斉炭素でない)、波線は、E基が結合する不斉炭素の立体化学が、ヒドロキシル基が結合する不斉炭素の各絶対配置(RまたはS)に対してそれぞれR、S、またはRとSの混合物であることを表す]で示される光学活性コンボルタミジン誘導体を製造する方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4において、「光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体」が「光学活性な配位子を有する2価カチオン性のパラジウム錯体」であることを特徴とする、請求項3または請求項4に記載の光学活性カルボニル−エン生成物または光学活性コンボルタミジン誘導体の製造方法。
【請求項6】
一般式[3]
【化11】

[式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アジド基、ニトロ基、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、チオール基、チオール基の保護体、アルデヒド基、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基またはカルボキシル基の保護体を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換アルキル基またはアミノ基の保護基を表し、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、R10、R11およびR12はそれぞれ独立に低級アルキル基またはフェニル基を表し、*はそれぞれ不斉炭素を表し(但し、RとRが同一の置換基の場合、これらが結合する炭素原子は不斉炭素でない)、波線は、R基の立体化学がヒドロキシル基に対してシン、アンチ、またはシンとアンチの混合物であること、またはR基の立体化学がシリルオキシ基に対してE、Z、またはEとZの混合物であることを表す]で示される光学活性カルボニル−エン生成物。
【請求項7】
一般式[7]
【化12】

[式中、R13およびR14はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基またはヒドロキシル基の保護体を表し、R15は水素原子またはアミノ基の保護基を表し、R16およびR17はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基または置換アルキル基を表し、R18、R19およびR20はそれぞれ独立に炭素数が1から4のアルキル基を表し、*は不斉炭素を表し、波線は、R16基の立体化学がシリルオキシ基に対してE、Z、またはEとZの混合物であることを表す]で示される光学活性カルボニル−エン生成物。

【公開番号】特開2010−208975(P2010−208975A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55361(P2009−55361)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構、産学共同シーズイノベーション化事業、育成ステージにおける「東京工業大学大学院理工学研究科教授 三上幸一」を研究リーダーとする研究課題「光学活性含フッ素化合物の工業的製造法の開発」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】