説明

不純物濃縮装置

【課題】電気化学的水素ポンプを利用して水素ガスに含まれる不純物を濃縮する不純物濃縮装置に関し、電気化学的水素ポンプを構成するセルを複数積層した場合において、セル間の不純物の濃縮速度の差を緩和する。
【解決手段】電気化学的水素ポンプを構成する複数のセル22A,22Bのうちの一部のセル22Bは、他のセル22Aよりもアノード流路内の圧損が低い低圧損セルとする。そして、各セル22A,22Bのアノード流路の出口を出口マニホールド26によって相互に連通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的水素ポンプを利用して水素ガスに含まれる不純物を濃縮する不純物濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムにおいては、燃料電池で使用された水素ガスのオフガスを系外に排出させずに再び燃料電池に循環させることにより、水素の節約を図る場合がある。しかし、ただ単に水素ガスを循環させたのでは、水素ガス中の不純物濃度の上昇によって燃料電池の性能が低下する。そこで、特開2005−268056号公報や特開2006−019123号公報に開示された燃料電池システムでは、水素ガスの循環系に電気化学的水素ポンプを配置し、その電気化学的水素ポンプによって水素ガス中の不純物を取り除くようにしている。
【0003】
電気化学的水素ポンプの構成は、固体高分子型燃料電池とほぼ同一であり、固体高分子電解質膜を挟んでアノードとカソードとが対設されている。固体高分子電解質膜に電流が流されることで、電気化学的水素ポンプに供給された水素はアノードでプロトンに変換され、固体高分子電解質膜をカソードに向かって移動する。そして、カソードで電子の供給を受けて再び水素に戻る。これにより、電気化学的水素ポンプのカソード流路からは、不純物が取り除かれた純粋な水素が導出されることになる。一方、電気化学的水素ポンプのアノード流路では、取り除かれた不純物が蓄積されて濃縮されていく。そこで、特開2006−019123号公報に開示された電気化学的水素ポンプでは、濃縮された不純物を外部に排気するための排気弁がアノード流路に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−293847号公報
【特許文献2】特開2005−268056号公報
【特許文献3】特開2008−177101号公報
【特許文献4】特開2006−019123号公報
【特許文献5】特開2008−305636号公報
【特許文献6】特開2007−226987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電気化学的水素ポンプを燃料電池システムに搭載する場合、処理すべき水素ガスの量に見合った固体高分子電解質膜の面積が必要とされる。その場合、一枚で必要な面積を確保するか、或いは、複数枚を積層することで全体として必要面積を確保するかという選択がある。複数枚を積層する場合、すなわち、複数枚を直列に接続する場合は、枚数に比例して電流量を低減できるため、電気部品の低コスト化をはかることができる。また、保持荷重が低減できるため、締結部品の小型軽量化も可能になる。したがって、少なくとも燃料電池システムに搭載する上では、電気化学的水素ポンプの構成は複数枚のセルが積層されたものとするのが好ましい。
【0006】
しかしながら、そのような複数セル積層型の電気化学的水素ポンプにおいて実験を行った結果、図8に示すように、積層されたセル間で電圧のばらつきが発生することが確認された。これは、各セルのアノード流路内の圧損にばらつきがあることが原因と考えられる。圧損のばらつきに応じて各セルへ流入するガス流量が不均一になり、圧損の高いセルでは、ガス流入が抑制されることによりアノード流路内で
の不純物の濃縮が進む。不純物の濃縮が進むにつれて当該セルの印加電圧は上昇するため、それがセル間での電圧のばらつきとなって現れるのである。
【0007】
また、実験によれば、圧損が高いセルほど早期に電圧が低下することが確認された。これは、水素と不純物の窒素とでは窒素のほうが粘度が高いため、不純物濃度が高くなるほどアノード流路内の圧損はより高くなり、不純物の濃縮が加速的に進むことになるからである。特定のセルにおいて不純物の濃縮が進みすぎると、当該セルでの印加電圧の急激な上昇によって消費電力が増加するだけでなく、水素が欠乏する不純物濃縮領域では固体高分子電解質膜の分解によって穴が開いてしまうおそれもある。
【0008】
本発明は、上述のような課題に鑑みてなされたもので、電気化学的水素ポンプを利用して水素ガスに含まれる不純物を濃縮する不純物濃縮装置に関し、電気化学的水素ポンプを構成するセルを複数積層した場合において、セル間の不純物の濃縮速度の差を緩和することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成するため、複数枚のセルを積層してなる電気化学的水素ポンプを備え、前記電気化学的水素ポンプを利用して水素ガスに含まれる不純物を濃縮する不純物濃縮装置において、
前記電気化学的水素ポンプに供給された水素ガスを各セルのアノード流路に分配する分配手段と、
各セルのアノード流路の出口を相互に連通させるマニホールドと、
前記マニホールドに接続された排気手段と、
を備え、
前記電気化学的水素ポンプを構成するセルのうちの一部のセルは、他のセルよりもアノード流路内の圧損が低い低圧損セルであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
アノード流路内の圧損が高いセルは圧損が低いセルに比較して水素ガスの流入が抑制されるために不純物の濃縮が進みやすい。しかし、本発明によれば、複数のセルのうちの一部を意図的にアノード流路内の圧損を低くした低圧損セルとし、各セルのアノード流路の出口をマニホールドによって連通させているので、低圧損セルを吹き抜けた水素を圧損が高いセルの不純物濃縮領域へマニホールド側から積極的に拡散させることができる。これにより、電気化学的水素ポンプを構成するセル間の不純物の濃縮速度の差を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1の不純物濃縮装置が搭載された燃料電池システムの概要を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1の不純物濃縮装置にかかるセルの概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1の不純物濃縮装置の概略構成とその内部における不純物濃縮領域の分布とを示す図である。
【図4】本発明の実施の形態2の不純物濃縮装置の概略構成とその内部における不純物濃縮領域の分布とを示す図である。
【図5】本発明の実施の形態3の不純物濃縮装置にかかるセルの概略構成を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態3の不純物濃縮装置の概略構成とその内部における不純物濃縮領域の分布とを示す図である。
【図7】本発明の実施の形態3の不純物濃縮装置による各セルの電圧の挙動を従来のものと比較して示すグラフである。
【図8】複数セル積層型の電気化学的水素ポンプにおける各セルの電圧の挙動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態について図1乃至図3の各図を参照して説明する。
【0013】
図1は、本実施の形態の不純物濃縮装置が搭載された燃料電池システムの概要を示す図である。図1には、燃料電池システムの構成、特に、燃料電池2に水素ガスを供給するための水素供給システムの構成が示されている。この水素供給システムは水素ガスを循環させる循環型のシステムであって、燃料電池2に水素ガスを供給する水素タンク4と、燃料電池2から排出された水素ガスのオフガスを再び燃料電池2に循環させるための循環ポンプ6とを備えている。循環ポンプ6の上流には気液分離ユニット8が配置されている。気液分離ユニット8には回収した水を系外に排出するための排水バルブ10が備えられている。
【0014】
図1に示す水素供給システムにおいて、不純物濃縮装置20は気液分離ユニット8から循環ポンプ6に至るガス流路に並行して配置されている。不純物濃縮装置20は複数セル積層型の電気化学的水素ポンプであって、セル22が複数枚直列に積層されてなる。不純物濃縮装置20の入口側、すなわち、アノード側には気液分離ユニット8から至るガス流路が接続され、不純物濃縮装置20の出口側、すなわち、カソード側には循環ポンプ6に至るガス流路が接続されている。また、不純物濃縮装置20には、その内部で蓄積して濃縮した不純物を系外に排出するための排気バルブ24が備えられている。
【0015】
次に、不純物濃縮装置20の各セル22の概略構成について図2を用いて説明する。図2は、セル22の断面を模式的に示している。セル22は夫々が電気化学的水素ポンプであり、アノード流路32とカソード流路34との間に固体高分子電解質膜30が挟まれた構造になっている。燃料電池から排出された水素ガス(水素と窒素の混合ガス)はアノード流路32に導入される。水素ガス中の水素分子(H)は、アノード極でプロトンに変換され、固体高分子電解質膜30をカソード極に向かって移動する。そして、カソードで電子の供給を受けて再び水素分子(H)に戻る。これにより、水素ガス中の不純物である窒素(N)はアノード流路32に残されてカソード流路34からは純粋な水素が導出される。
【0016】
図2に示すセル22の構造上の特徴は、アノード流路32の構造にある。本実施の形態では、アノード流路32の入り口部32aの圧損を意図的に高くしている。より詳しく説明すると、入り口部32aの圧損を“ΔP入り口”と表記し、アノード流路32の水素交換面における圧損を“ΔP面内”と表記すると、ΔP面内<<ΔP入り口、という関係が成り立つように入り口部32aは作られている。“ΔP面内”は窒素の濃縮度の違いによってセル間で大きくばらつくが、“ΔP入り口”のセル間でのばらつきは小さい。“ΔP入り口”は入り口部32aを通過する水素ガスの窒素濃度によって決まることころ、各セルに分配される水素ガスの窒素濃度はセル間で一定だからである。ΔP面内<<ΔP入り口という関係であれば、アノード流路32全体の圧損(ΔP全体)は“ΔP入り口”によって代表されることになるので、窒素濃縮が進んで“ΔP面内”が変化してもアノード流路32全体の圧損には影響しなくなる。したがって、本実施の形態のアノード流路32の構造によれば、セル間での圧損のばらつきを小さくすることができる。
【0017】
以上のような構成のセル22を直列に積層することによって不純物濃縮装置20が構成される。ただし、本実施の形態の不純物濃縮装置20は、ただ単にセル22積層したものではなく、さらなる構造上の工夫がなされている。図3は、本実施の形態の不純物濃縮装置の概略構成とその内部における不純物濃縮領域の分布とを示す図である。
【0018】
図3に示すように、本実施の形態の不純物濃縮装置20を構成するセルには、符号22Aで示すセルと符号22Bで示すセルの2種類が存在することがわかる。符号22Aで示すセルは比較的圧損の高い高圧損セルであり、符号22Bで示すセルは比較的圧損の低い低圧損セルである。ただし、圧損の高低はあくまでも相対的なものであるので、符号22Aで示すセルを基準として、符号22Bで示すセルを低圧損セルと呼んでも良い。圧損に差を生じさせる手段や方法には限定はない。図3に示す不純物濃縮装置20の構造上の特徴の一つは、これら高圧損セル22Aと低圧損セル22Bとが交互に積層されていることである。なお、積層方向の両端のセルには、直流電流28が接続されている。
【0019】
図3に示す不純物濃縮装置20の構造上のもう一つの特徴は、各セル22A,22Bのアノード流路の出口が出口マニホールド26によって相互に連通されていることである。前述の排気弁24は出口マニホールド26に接続されている。排気弁24は通常は閉じられていて、図示しないコントローラからの指令信号を受けた場合のみ極短時間だけ開かれるようになっている。コントローラは各セル22A,22Bの印加電圧を監視していて、何れかのセル22A,22Bにおいて印加電圧が閾値を超えて上昇した場合に、指令信号を出して排気弁24を開かせる。排気弁24が開くことで、内部に蓄積されて濃縮された不純物を系外に排出することができる。
【0020】
本実施の形態の不純物濃縮装置20には次のようなメリットがある。不純物濃縮装置20に供給された水素ガスは図示しない入口マニホールドによって各セル22A,22Bに分配されるが、高圧損セル22Aは低圧損セル22Bに比較して水素ガスの流入が抑制されるために不純物の濃縮が進みやすい。高圧損セル22Aの符号40で示す領域は、不純物が蓄積されて濃縮された不純物濃縮領域の面積を表している。不純物濃縮領域40はアノード流路の出口に近い側に生じやすい。しかし、図3に示す構成によれば、高圧損セル22Aと低圧損セル22Bとを交互に配置し、各セル22A,22Bのアノード流路の出口を出口マニホールド26によって連通させているので、低圧損セル22Bを吹き抜けた水素を隣接する高圧損セル22Aの不純物濃縮領域40へ出口マニホールド26側から積極的に拡散させることができる。これにより、セル22A,22B間の不純物の濃縮速度の差を緩和することができ、高圧損セル22Aの印加電圧の大幅な上昇を抑制することができる。
【0021】
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2について図4を参照して説明する。
【0022】
図4は、本実施の形態の不純物濃縮装置の概略構成とその内部における不純物濃縮領域の分布とを示す図である。図4において、実施の形態1と同一の要素には同一の符号を付している。
【0023】
本実施の形態の不純物濃縮装置20は、実施の形態1と同様に、高圧損セル22Aと低圧損セル22Bとが積層されてなる。ただし、本実施の形態で低圧損セル22Bが配置されるのは積層方向の一端のみであって、他のセルは全て高圧損セル22A、すなわち、普通のセルとされている。低圧損セル22Bが配置されるのは、水素ガスを各セルに分配する入口マニホールドの入口から遠い側の端であって、これは、出口マニホールド26の出口からも遠い側の端でもある。
【0024】
本実施の形態では、排気弁24は常に一定の微小開度で開いておく。排気弁24を微小開度で開いておけば、出口マニホールド26内に図中に矢印で示すような水素ガスの流れを作り出すことができる。このような水素ガスの流れが存在することで、低圧損セル22Bを吹き抜けた水素を各高圧損セル22Aの不純物濃縮領域40へ出口マニホールド26の側から積極的に拡散させることができる。
【0025】
実施の形態3.
最後に、本発明の実施の形態3について図5乃至図7の各図を参照して説明する。
【0026】
図5は、本実施の形態の不純物濃縮装置にかかるセルの概略構成を示す図である。図5に示すセルは高圧損セル(通常セル)22Aであり、そのアノード流路32の構成に特徴がある。アノード流路32は、入口マニホールド28から出口マニホールド26まで延びているが、本実施の形態ではその途中にデッドボリューム32bが設けられている。このようなデッドボリューム32bを設けることにより、アノード流路32内での不純物の濃縮速度を緩和することができる。
【0027】
図6は、本実施の形態の不純物濃縮装置の概略構成とその内部における不純物濃縮領域の分布とを示す図である。図6において、実施の形態1と同一の要素には同一の符号を付している。また、図7は、本実施の形態の不純物濃縮装置による各セルの電圧の挙動を従来のものと比較して示すグラフである。
【0028】
本実施の形態によれば、高圧損セル22Aのうち最も圧損が高く濃縮が速いセル(最弱セル)において不純物濃縮領域の面積が一定値に達してから、最も圧損が低く濃縮が遅いセルにおいて不純物濃縮領域の面積が一定値に達するまでの時間遅れをデッドボリューム32bによって吸収することができる。その結果、図6に示すように不純物濃縮領域40の面積を各高圧損セル22Aの間で一定にすることが可能となり、図7に示すようにセル間の電圧のばらつきは抑制されることになる。
【0029】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0030】
2 燃料電池
4 水素タンク
6 循環ポンプ
8 気液分離ユニット
10 排水バルブ
20 不純物濃縮装置
22 電気化学的水素ポンプを構成するセル
22B 低圧損セル
22A 高圧損セル(通常セル)
24 排気バルブ
26 出口マニホールド
28 入口マニホールド
28 直流電源
30 固体高分子電解質膜
32 アノード流路
32a 高圧損部
32b デッドボリューム
34 カソード流路
40 不純物濃縮領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のセルを積層してなる電気化学的水素ポンプを備え、前記電気化学的水素ポンプを利用して水素ガスに含まれる不純物を濃縮する不純物濃縮装置において、
前記電気化学的水素ポンプに供給された水素ガスを各セルのアノード流路に分配する分配手段と、
各セルのアノード流路の出口を相互に連通させるマニホールドと、
前記マニホールドに接続された排気手段と、
を備え、
前記電気化学的水素ポンプを構成するセルのうちの一部のセルは、他のセルよりもアノード流路内の圧損が低い低圧損セルであることを特徴とする不純物濃縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−241660(P2010−241660A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95065(P2009−95065)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】