説明

不織布シートおよびその製造方法

【課題】紙おむつ等の表面シート、または吸収体として使用される表面凹凸が形成された不織布シートにおいて、外圧等により表面凹凸形状が変形しにくい不織布シートを提供する。
【解決手段】この不織布シートは、互いに直交する長手方向と幅方向と厚さ方向とを有し、厚さ方向には上面と下面とを有し、上面には、幅方向へ連続して平行に延びる複数条の隆起部と、隣接する隆起部と隆起部の間に幅方向へ延びる複数条の谷部が形成されており、上面側の第1繊維層と下面側の第2繊維層からなり、第1繊維層は熱融着性繊維を含み、第2繊維層はコイル状の三次元捲縮繊維を含み、第2繊維層のコイル状の三次元捲縮繊維は、長手方向MDへ主に配向し、捲縮繊維どうしが互いに交差する部位において融着しておらず、コイル状の三次元捲縮繊維の絡みによってネットワークを形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布シートおよびその製造方法ならびに吸収性物品に関する。特に、本発明は、紙おむつ等の表面シート、または吸収体として使用される表面凹凸が形成された不織布シートにおいて、外圧等により表面凹凸形状が変形しにくい不織布シート、およびその製造方法、ならびにその不織布シートを表面シート、または吸収体として搭載した吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、所定の通気性支持部材により下面側から支持される繊維ウェブに、上面側から気体を噴きあてて該繊維ウェブを構成する繊維を移動させることにより、少なくとも凹凸を有し、排泄物等の所定の液体を透過させやすくした不織布を製造する方法が開示されている。そして、その不織布を生産ラインで作成する際に、ラインテンションによる凹凸形状の変形をさせにくくする方法の一つとして、長手方向(縦方向)に配向する繊維(縦配向繊維)の含有率を高く形成することを教示している(段落[0047])。
【0003】
特許文献2には、吸収層の肌面側に液透過性の表面シートを備えた吸収性物品が開示されている。その吸収性物品には支持層の上に波形を有するカバー層が設けられ、この波形より体液の漏れ防止を図ることができ、また波形の可撓性により着用快適性を増進する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−25082号公報
【特許文献2】特表平10−502000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の不織布製造ラインの高速化によるラインテンションの増大により、不織布には常に受け渡し工程の安定化のために、機械方向(長手方向)へのテンションがかかっている状態となっている。
【0006】
特許文献1に記載のように縦配向繊維の含有量を多くしたとしても、芯鞘型複合繊維(熱可塑性樹脂)を主体として繊維交点の溶融固定にて形成されているため、ラインテンションによる引っ張り負荷により機械方向MDに負荷がかかり、シートが延伸された場合、繊維ネットワークが一旦伸ばされた状態から回復する力を持っていないため、形成した隆起部が機械方向MDへ変形されることより形成した凸部を変形させてしまいかねない。凸部が変形してしまうと、凹凸形状による低接触面積による使用感の良さが損なわれ、使用中に過度な体圧がかかった場合に谷部の空隙を保つことができにくくなり、液体を谷部に一時的に保持できなくなり液体を使用者の肌に広げてしまうという課題があった。
【0007】
特許文献2に記載された衛生ナプキンの波形は中空となっている。よって、波形を有するカバー層が肌に接触したときに、着用者の体圧により波形が偏平に変形しやすい。また、装着時に体圧が変化し波形に作用する加圧力が低下したときに、偏平状態からカバー層が元の波形の形状に復元し難い。その結果、カバー層が着用中に常に最適な形状を維持できず、排泄液が吸収性物品と肌との間で必要以上に広がってモレを生じてしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件第1発明は、互いに直交する長手方向MDと幅方向CDと厚さ方向TDとを有し、厚さ方向TDには上面と下面とを有し、上面には、幅方向CDへ連続して平行に延びる複数条の隆起部と、隣接する隆起部と隆起部の間に幅方向CDへ延びる複数条の谷部が形成されている不織布シートであって、
前記不織布シートは上面側の第1繊維層と下面側の第2繊維層からなり、第1繊維層は熱融着性繊維を含み、第2繊維層はコイル状の三次元捲縮繊維を含み、
第2繊維層のコイル状の三次元捲縮繊維は、長手方向MDへ主に配向し、捲縮繊維どうしが互いに交差する部位において融着しておらず、コイル状の三次元捲縮繊維の絡みによってネットワークを形成していることを特徴とする不織布シートである。
好ましくは、第1繊維層の熱融着性繊維は、長手方向MDへ主に配向し、熱融着性繊維どうしが互いに交差する部位において融着している。
好ましくは、前記谷部には一定の間隔で透孔が存在し、前記不織布シートを長手方向MDへ引き伸ばしたときに、隆起部よりも谷部が優先的に伸長する。
好ましくは、前記不織布シートの下面には、長手方向MDへ連続して平行に延びる複数条の溝部が形成されており、前記透孔は溝部に存在する。
【0009】
本件第2発明は、
a)熱融着性繊維を含む繊維集合体をカード機に通して開繊し、熱融着性繊維を含むウェブを形成する工程、
b)潜在捲縮性繊維を含む繊維集合体をカード機に通して開繊し、潜在捲縮性繊維を含むウェブを形成する工程、
c)熱融着性繊維を含むウェブと潜在捲縮性繊維を含むウェブを重ね合わせ、積層ウェブを形成する工程、
d)積層ウェブに、長手方向MDにおいて所定の幅で、熱処理工程時に潜在捲縮性繊維の捲縮発現による長手方向MDへの収縮力の差が生じるようにする工程、
f)潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段を用い、熱融着性繊維の融着温度よりは低いが潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する温度にウェブを加熱する熱処理工程、および
g)工程fで得られたウェブを、熱融着性繊維の融着温度以上の温度に加熱して、熱融着性繊維どうしを互いに交差している部位において融着させる工程
を含む、不織布シートを製造する方法である。
好ましくは、工程dが、積層ウェブを、幅方向CDに平行に延びる流体通過部と突起した流体遮断部が長手方向MDに交互に繰り返す支持体の上に載せて搬送しながら、幅方向に並ぶ複数のノズルから流体を噴射し、繊維を再配列させる工程である。
好ましくは、前記潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段が、直前の工程に比べて遅い搬送速度で搬送する方法である。
好ましくは、前記潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段が、フローティングドライヤーである。
前記方法は、好ましくは、工程dと工程fの間に、e)工程dで得られたウェブを工程fに搬送する工程を含む。
前記方法は、好ましくは、工程gの後に、h)工程gで得られたウェブを冷却する工程を含む。
【0010】
本件第3発明は、前記不織布シートを表面シート、または吸収体として搭載した吸収性物品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の不織布シートは、外圧等により表面凹凸形状が変形しにくい。
本発明の不織布シートは、第2繊維層側にコイル状の三次元捲縮を有する繊維が含まれていることでシートが長手方向MDに負荷がかかり、シートが延伸された場合でも、コイル状の三次元捲縮が元に戻る力により伸張回復性を有するため、第1繊維層の隆起部の凸形状を変形させにくい。また、第2繊維層の繊維配向が幅方向CDへ連続して平行に延びる複数条の隆起部と直行する長手方向MDへ主に配向していることでコイル状の三次元捲縮の伸張回復性を最も発揮できる。
【0012】
また、本発明の不織布シートは、幅方向CDへ延びる複数条の谷部には一定の間隔で透孔が存在している。また、隆起部は幅方向CDへ連続して延びている。谷部は透孔が存在することで、隆起部と比較して繊維の交絡本数が少なくなるため、隆起部よりも強度が相対的に弱くなる。よって、幅方向CDへ連続して平行に延びる複数条の隆起部に直交する方向に負荷がかかった場合、幅方向CDへ連続して平行に延びる複数条の隆起部よりも、隣接する隆起部と隆起部の間に幅方向CDへ延びる複数条の谷部の方が優先的に伸張するため、隆起部の凸形状を変化させにくくなる。
【0013】
また、第1繊維層は幅方向へ平行して延びる複数条の隆起部に直交する方向に繊維が配向されている。隆起部に直交する方向に繊維が配向されていることで、隆起部内部の繊維は隆起部の凸形状に沿った「アーチ構造」をとりやすくなる。よって、不織布シートの厚み方向に圧縮応力がかかった場合、隆起部にかかる圧縮応力を分散させられるため、隆起部の凸形状を変形させにくくする。
【0014】
また、本発明の不織布シートを吸収性物品用の表面シートや吸収性物品内部の液体保持材料の一部として用いたときに、厚み方向に力が加わった際にも潰れにくいため、使用中に過度な体圧がかかった場合でも隆起部の比容積と、谷部の空隙を保つことができるため、液体を谷部に一時的に保持できる。よって、排泄液を使用者の肌に広げることなく漏れを有効に防止できる。
【0015】
本発明の不織布シートの製造方法は、不織布ラインの高速化によるラインテンションが増大した場合でも、隆起部の凸形状を変形させることなく生産を行うことができる。よって、排泄液の透過速度の速い不織布を安定して提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の不織布シートの1つの実施の形態を示す模式拡大斜視図である。
【図2】図2は、本発明の不織布シートの1つの実施の形態を示す模式拡大平面図である。
【図3】図3は、図2の切断線Y−Yでの模式拡大断面図である。
【図4】図4は、本発明の不織布シートの製造工程の一例を示す図である。
【図5】図5は、成形用プレートの一例を示す図である。
【図6】図6は、工程dで使用する幅方向に並ぶ複数のノズルの配列を示す図である。
【図7】図7は、図4とは異なる工程dの一例を示す図である。
【図8】図8は、隆起部が形成される機構を説明する模式図である。
【図9】図9は、工程dにおいて積層ウェブが流体噴射を受けた後の状態を示す図である。
【図10】図10は、工程fで使用することができるフローティングドライヤーの一例を示す。
【図11】図11は、実施例1で得られた不織布シートの平面図写真(デジタルカメラ)である。
【図12】図12は、実施例1で得られた不織布シートの隆起部の長手方向断面の顕微鏡写真(倍率30倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の不織布シートの1つの実施の形態を示す模式拡大斜視図である。
本発明の不織布シート1は、互いに直交する長手方向MDと幅方向CDと厚さ方向TDとを有し、厚さ方向TDにおける上面と下面とがAとBとで示されている。上面Aには、幅方向CDへ連続して平行に延びる複数条の隆起部2と、隣接する隆起部2と隆起部2の間に幅方向CDへ延びる複数条の谷部3が形成されている。
【0018】
図2は、本発明の不織布シートの1つの実施の形態を示す模式拡大平面図であり、本発明の不織布シートを上面Aから見た図であり、製造ラインにおけるウェブの進行方向に平行な長手方向MDと、長手方向MDに直交する幅方向CDが示されている。上面Aには幅方向へ平行して延びる複数条の隆起部2と、隣り合う隆起部2と隆起部2の間において幅方向へ延びる複数条の谷部3が形成されている。
【0019】
図3は図2の切断線Y−Yでの模式拡大断面図である。本発明の不織布シートを使い捨て紙おむつや生理用ナプキン等の吸収性物品の表面シートとして用いたときに着用者の肌側に向けて使用される面が上面Aであり、吸収体側の面が下面Bで示されている。図2および図3に示すように、不織布シート1は、上面A側に位置する第1繊維層4と、下面B側に位置する第2繊維層5とを有する多層構造になっている。第1繊維層4と第2繊維層5とは、両者が対向する面において繊維の交絡や熱融着等の方法により一体化されている。
【0020】
第2繊維層5は、不織布シートの製造過程における加熱によって捲縮が発現したコイル状の三次元捲縮を有する繊維を含む。
コイル状の三次元捲縮を有する繊維が第2繊維層に含まれていることで不織布シート1が長手方向MDに負荷がかかり、シートが延伸された場合でも、コイル状の三次元捲縮が元に戻る力により伸張回復性を有するため、第1繊維層の隆起部の形状が変形しにくくなる。
【0021】
第2繊維層5は、幅方向へ平行して延びる複数条の隆起部2に直交する方向に繊維が配向されている。このため、コイル状の三次元捲縮が元に戻る力が最も発揮されやすく、長手方向MDに対する負荷からの伸張回復性を高くすることができる。
幅方向CDへ延びる複数条の谷部3には一定の間隔で透孔6が存在している。また、隆起部2は幅方向CDへ連続して延びている。谷部3は透孔6が存在することで、隆起部2と比較して繊維の交絡本数が少なくなるため、隆起部2よりも強度が相対的に弱くなる。よって、長手方向MDへ負荷がかかった場合、幅方向CDへ連続して平行に延びる複数条の隆起部よりも、隣接する隆起部と隆起部の間に幅方向CDへ延びる複数条の谷部の方が優先的に伸張するため、隆起部の凸形状を変化させにくくなる。
【0022】
隆起部2の厚みt(図3参照)は、不織布シート1において吸収および肌触りを良好にするための観点から、好ましくは0.3〜5mmであり、より好ましくは0.5〜3mmである。この範囲を超えてしまうと、肌への使用感が増大してしまう。また、この範囲を下回ると、不織布シート全体の厚みが小さいことの影響の方を強く受け、液体の透過速度が遅くなってしまう。
【0023】
隆起部2の頂部と谷部1の底部との高低差D(図3参照)は、不織布シート1において多量の所定の液体が排泄された際にも表面に広くにじみにくくさせるのに適した谷部3を形成する観点から、好ましくは0.1〜5mmであり、より好ましくは0.3〜3mmである。この範囲を超えるような場合には、必然的に隆起部2の高さが高いものとなり、肌への使用感が増大してしまう。またこの範囲を下回る場合、谷部3への所定の液体取り込み容量が低くなり、表面で広がりやすくなってしまう。
【0024】
不織布シート1の幅方向CDにおける隆起部2の幅wは、吸収性の観点から、好ましくは1〜10mmであり、より好ましくは2〜5mmである。同様の観点から、不織布シート1の長手方向MDにおける谷部3の幅wは、好ましくは0.5〜7mmであり、より好ましくは1〜3mmである。過剰な外圧がかかった際に隆起部2が潰されたような状態となっても、谷部3による空間を維持しやすくなり、外圧がかかった状態で所定の液体が排泄された場合でも表面に広くにじみにくくすることができる。
【0025】
隆起部2と谷部3は同じ幅で形成されてもよく、あるいは異なる幅で形成されていてもよい。隆起部2および谷部3の幅は、後述する製造方法で用いる成形用プレート41の突起部45の長手方向MDにおける幅に応じ、様々に変更することができる。たとえば、成形用プレート41の突起部45の長手方向MDにおける幅を狭くすることで谷部の幅を狭くすることができる。逆に、成形用プレート41の突起部45の長手方向MDにおける幅を広くすることで谷部の幅を広くすることができる。
成形用プレート41の突起部45の取り付け間隔を狭くすることで隆起部2の高さを低くすることができる。逆に、成形用プレート41の突起部45の取り付け間隔を広くすることで隆起部2の高さを高くすることができる。さらには、成形用プレート41の突起部45の取り付け間隔を狭い間隔と広い間隔とが交互になるよう形成することで、高さの異なる隆起部2が交互に形成されるようにすることもできる。また、このように、隆起部2の高さが部分的に変化していれば、肌との接触面積が下がるために肌への負担を減らすことができるというメリットも生じる。
また、成形用プレート41の突起部45の高さを変化させることでも隆起部の高さを変化させることができる。たとえば、成形用プレート41の突起部45の高さを低くすれば、隆起部の高さは低くなる。逆に、成形用プレート41の突起部45の高さを高くすれば、隆起部の高さは高くなる。
【0026】
第1繊維層4は必須繊維として熱融着性繊維が含まれる繊維層からなり、第2繊維層5は必須繊維として潜在捲縮性繊維が含まれる繊維層から構成されるものである。
【0027】
第1繊維層4には主体繊維として熱融着性繊維が30〜100質量%含まれている。互いに交差する第1繊維層4の熱融着性繊維は、それらを形成する熱可塑性樹脂が溶融することによって接合している。第1繊維層4に前述した配合で熱融着性繊維が混入されていることで、隆起部2の凸状の立体形状の保形性を高めることができる。
【0028】
第1繊維層4に含まれる、繊維どうしの交点を熱融着可能にする繊維としては、熱可塑性樹脂からなる繊維が好適に用いられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド等が挙げられる。また、これらの熱可塑性樹脂の組み合わせからなる芯鞘型やサイドバイサイド型の複合繊維も用いることができる。第1繊維層4に含まれる熱融着性繊維の融着温度は、第2繊維層5に用いられる潜在捲縮繊維が捲縮を開始する温度よりも、10℃以上高いことが好ましく、30℃以上高いことがより好ましい。第1繊維層4に含まれる熱融着性繊維の融着温度と、第2繊維層5に用いられる潜在捲縮繊維が捲縮を開始する温度の差が上記の範囲よりも低い場合には、第2繊維層5に用いられる潜在捲縮繊維がコイル状の三次元捲縮を発現する前に、第1繊維層4に含まれる熱融着性繊維の溶融が始まり熱融着性繊維同士が融着してしまう。よって、第2繊維層5に用いられる潜在捲縮繊維がコイル状の三次元捲縮を十分に発現することなくシート化されてしまうため、長手方向MDに対する負荷からの伸張回復性が低下してしまう。
【0029】
第1繊維層4は、繊維どうしの交点を熱融着可能にする繊維の1種または2種以上から構成されていてもよく、あるいは繊維どうしの交点を熱融着可能にする繊維の他に、該繊維と熱融着しない他の繊維を含んで構成されていてもよい。たとえば、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、綿、ウール等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ビニロン等の合成繊維等の中から任意に1種以上を選択して使用することができる。また、その繊維断面形状等も限定されず、分割型複合繊維や異形断面を有する繊維等も任意に使用することができる。この場合、繊維どうしの交点を熱融着可能にする繊維の量は、好ましくは第1繊維層4の質量の30〜95質量%、より好ましくは70〜90質量%である。
【0030】
不織布シート1の肌触りと吸収性を良好にする観点から、第1繊維層4に用いる繊維の繊度は、好ましくは1〜5dtexであり、より好ましくは1.8〜3.3dtexである。この範囲を超えてしまうと繊維の太さから使用者に不快感を与えてしまい、範囲を下回ると繊維間距離が短くなりすぎ、抵抗を受けやすくなるため所定の液体の透過速度が下がってしまう。また、用いる繊維長はカード適正の観点から、好ましくは15〜65mm、より好ましくは38〜51mmである。
【0031】
第1繊維層を構成する熱融着性繊維は、好ましくは、長手方向MDへ主に配向している。ここで、繊維が長手方向MD(縦方向)へ配向するとは、繊維が長手方向MDに対して+45度から−45度の範囲内に向いていることをいい、また、長手方向へ配向している繊維を縦配向繊維という。そして、繊維が幅方向CD(横方向)へ配向するとは、繊維が幅方向に対して+45度から−45度の範囲内に向いていることをいい、また、幅方向へ配向している繊維を横配向繊維という。繊維が長手方向MDへ主に配向するとは、幅方向へ配向している繊維よりも長手方向へ配向している繊維の方が多いことをいう。好ましくは、第1繊維層における縦配向繊維の含有率は、好ましくは55〜100%、より好ましくは60〜100%である。隆起部2に直交する方向に繊維が配向されていることで、隆起部2内部の繊維は隆起部2の凸形状に沿った「アーチ構造」をとりやすくなる。よって、不織布シート1の厚み方向に圧縮応力がかかった場合、隆起部2にかかる圧縮応力を分散させられるため、隆起部の凸形状を変形させにくくする。カード機に通して開繊することにより繊維が長手方向MDへ主に配向したウェブを形成することができ、さらにそのウェブに長手方向に連続して流体を噴射することにより、繊維をより長手方向MDに配向させることができる。
【0032】
繊維配向の測定は、株式会社キーエンス製のデジタルマイクロスコープVHX−100を用いて、以下の測定方法で行なうことができる。(1)サンプルを観察台上に長手方向MDが縦方向になるようにセットし、(2)イレギュラーに手前に飛び出した繊維を除いてサンプルの最も手前の繊維にレンズのピントを合わせ、(3)撮影深度(奥行き)を設定してサンプルの3D画像をPC画面上に作成する。次に、(4)3D画像を2D画像に変換し、(5)測定範囲において長手方向を適時等分する平行線を画面上に複数引く。(6)平行線を引いて細分化した各セルにおいて、繊維配向が長手方向であるか、幅方向であるかを観察し、それぞれの方向に向いている繊維本数を測定する。そして、(7)設定範囲内における全繊維本数に対し、長手方向に向かう繊維配向の繊維本数の割合と、幅方向に向かう繊維配向の繊維本数の割合とを計算する。
【0033】
第2繊維層5は、製造過程における加熱によって捲縮が発現した捲縮繊維を含む。ここで、製造過程における加熱によって捲縮が発現した捲縮繊維とは、不織布シートの原料として使用される潜在捲縮性繊維が、不織布シートの製造過程における加熱によって捲縮が発現したものをいう。ここで、潜在捲縮性繊維とは、熱を加えることで捲縮が発現するものである。融点の異なる2つ以上の樹脂からなり、熱を加えると融点差により熱収縮率が変化しているため、3次元捲縮する繊維のことである。繊維断面の樹脂構成は、芯鞘構造の偏芯タイプ、左右成分の融点が異なるサイドバイサイドタイプが挙げられる。不織布シートの製造過程において、潜在捲縮性繊維が第2繊維層に含まれていることで、第2繊維層の潜在捲縮性繊維の捲縮発現によりウェブ全体が収縮し、隆起部を形成することができる。捲縮繊維は、コイル状の三次元捲縮繊維である。コイル状の捲縮繊維とは、コイル状に捲縮した繊維をいう。三次元捲縮繊維とは、コイル状形状のような立体的な捲縮形状を有する繊維をいう。第2繊維層にコイル状の三次元捲縮を有する繊維が含まれていることでシートが長手方向MDに負荷がかかり、シートが延伸された場合でも、コイル状の三次元捲縮が元に戻る力により伸張回復性を有するため、第1繊維層の隆起部の凸形状を変形させにくい。第2繊維層の捲縮繊維は、コイル状の三次元捲縮繊維の絡みによってネットワークを形成している。このような繊維ネットワークでは、交点において結合部分がないため、圧縮のような外力が加わっても、交点における変形が自由であり、変形後はコイル状の三次元捲縮繊維の働きによって、容易に元の状態に戻ることが可能である。ここで、ネットワークを形成するとは、繊維同士の絡みや熱融着によって互いに連結された状態になっていることである。
【0034】
第2繊維層5には、捲縮繊維が30〜100質量%含まれている。第2繊維層5を構成する潜在捲縮性繊維としては、たとえば、収縮率の異なる2種類の熱可塑性樹脂を成分とする偏芯芯鞘型複合繊維またはサイドバイサイド型複合繊維が挙げられる。また、第2繊維層5を収縮させ、隆起部を形成させるという観点から、ウェブの面積収縮率が少なくとも40%のものを用いることが好ましい。たとえば、ポリオレフィンポリプロピレン共重合体とポリプロピレンとの組み合わせが挙げられる。また、透液性を良好にする観点から、用いる繊度は好ましくは1〜11dtexであり、より好ましくは2.2〜6.6dtexである。また、用いる繊維長はカード適正の観点から、15〜65mm、より好ましくは38〜51mmである。
【0035】
なお、ウェブの面積収縮率は、次のように測定する。
(1)測定する繊維100%で200g/mのウェブを作成する。
(2)所定の長さおよび幅にカットし、面積を測定する。このとき測定の誤差を少なくするために250mm×250mm程度にカットすることが望ましい。測定された収縮前の面積をaとする。
(3)145℃に調整されたオーブン内に5分放置する。
(4)収縮後の長さおよび幅を測定し面積を算出する。測定された収縮後の面積をbとする。
(5)熱収縮前後の面積から、次式に基づき、面積収縮率を算出する。
面積収縮率(%)=(a−b)/a×100
【0036】
第2繊維層5は、潜在捲縮性繊維の1種または2種以上から構成されていてもよく、あるいは、潜在捲縮性繊維の他に、非潜在捲縮性繊維や該繊維と熱融着しない他の繊維を含んで構成されていてもよい。たとえば、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、綿、ウール等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ビニロン等の合成繊維等の中から任意に1種以上を選択して使用することができる。第2繊維層5に用いる繊維の断面形状等は限定されず、分割型複合繊維や異形断面を有する繊維等も任意に使用することができる。第2繊維層5の繊維断面形状をY型や十字型等の異型断面形状にすることで、丸形断面の繊維と比較して、繊維に溝部分が存在することと、繊維同士が面接触することで、毛管力を高めることができる。よって、第1繊維層4と第2繊維層5の毛管力差が形成されることで、第1繊維層4に一旦取り込まれた液体を第2繊維層5に移行させやすくなり、吸収性物品の表面シートや吸収体として用いた場合、排泄液を使用者の肌からよりすばやく離間することができる。第2繊維層5を構成する潜在捲縮性繊維の配合比は、十分な熱収縮を発現させる観点から、潜在捲縮性繊維を好ましくは30質量%以上、より好ましくは80質量%以上用いる。
【0037】
第2繊維層5の捲縮繊維は、捲縮繊維どうしが互いに交差する部位において融着していない。捲縮繊維どうしが互いに交差する部位において融着していると、潜在捲縮性繊維の収縮挙動が阻害される。したがって、第2繊維層5には、第2繊維層5に含まれる潜在捲縮性繊維が捲縮を発現するような温度で繊維どうしの交点を熱融着可能にする繊維は、第2繊維層5には含まれていない方が好ましい。
【0038】
第2繊維層5に用いられる潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する温度は、第1繊維層4に用いられる熱融着性繊維の繊維どうしの交点を熱融着可能にする温度よりも低いことが好ましい。第1繊維層4の繊維が熱融着により形状を固定される前に第2繊維層5を収縮することで、第1繊維層4に隆起部2を形成することができる。潜在捲縮性繊維の捲縮発現温度は、第1繊維層4に含まれる熱融着性繊維の融着温度よりも、10℃以上低いことが好ましく、30℃以上低いことがより好ましい。第1繊維層4に含まれる熱融着性繊維の融着温度と、第2繊維層5に用いられる潜在捲縮繊維が捲縮を開始する温度の差が上記の範囲よりも低い場合には、第2繊維層5に用いられる潜在捲縮繊維がコイル状の三次元捲縮を発現する前に、第1繊維層4に含まれる熱融着性繊維の溶融が始まり熱融着性繊維同士が融着してしまう。よって、第2繊維層5に用いられる潜在捲縮繊維がコイル状の三次元捲縮を十分に発現することなくシート化されてしまうため、長手方向MDに対する負荷からの伸張回復性が低下してしまう。
【0039】
本発明の不織布シートの下面Bには、好ましくは、長手方向MDへ連続して平行に延びる複数条の溝部が形成されており、前記透孔は溝部に存在する。この溝部は、後述する工程dの好ましい態様において、幅方向に並ぶ複数のノズルから流体噴射を受けた領域に形成される。この溝部が形成されていることにより、下面側でも液体を一時的に保持可能な空隙が得られるため、谷部の空隙の効果に加えて、加圧時の上面側での液体のあふれ返りを防ぐことができる。よって、排泄液を使用者の肌に広げることなく漏れをより有効に防止できる。
【0040】
不織布シート1の収縮工程後の坪量は、好ましくは25〜400g/m、より好ましくは40〜200g/mである。収縮工程後の第1繊維層4の坪量は、好ましくは15〜250g/m、より好ましくは25〜180g/mであり、収縮工程後の第2繊維層5の坪量は、好ましくは10〜150g/m、より好ましくは15〜120g/mである。
【0041】
不織布シート1は親水化されていることが好ましい。親水化の方法としては、たとえば親水化剤で処理した繊維を原料として用いる方法が挙げられる。また、親水化剤を練り込んだ繊維を原料として用いる方法が挙げられる。さらに、本来的に親水性を有する繊維、たとえば天然系や半天然系の繊維を使用する方法が挙げられる。不織布シート1の製造後にこれに界面活性剤を塗工することでも親水化を行うこともできる。
【0042】
次に、本発明の不織布シートを製造する方法について説明する。
本発明の不織布シートを製造する方法の1つの実施態様は下記の工程を含む。ただし、下記の工程のうち、工程eおよび工程hは、必須ではない。
a)熱融着性繊維を含む繊維集合体をカード機に通して開繊し、熱融着性繊維を含むウェブを形成する工程、
b)潜在捲縮性繊維を含む繊維集合体をカード機に通して開繊し、潜在捲縮性繊維を含むウェブを形成する工程、
c)熱融着性繊維を含むウェブと潜在捲縮性繊維を含むウェブを重ね合わせ、積層ウェブを形成する工程、
d)積層ウェブに、長手方向MDにおいて所定の幅で、熱処理工程時に潜在捲縮性繊維の捲縮発現による長手方向MDへの収縮力の差が生じるようにする工程、
e)工程dで得られたウェブを工程fに搬送する工程、
f)潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段を用い、熱融着性繊維の融着温度よりは低いが、潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する温度にウェブを加熱する熱処理工程、
g)工程fで得られたウェブを、熱融着性繊維の融着温度以上の温度に加熱して、熱融着性繊維どうしを互いに交差している部位において融着させる工程、および
h)工程gで得られたウェブを冷却する工程。
【0043】
図4は、本発明の不織布シートの製造工程の一例を示す。ただし、本発明は、この例に限定されるものではない。
図4において、aは工程aを、bは工程bを、cは工程cを、dは工程dを、eは工程eを、fは工程fを、gは工程gを、そしてhは工程hを示す。
【0044】
工程aにおいて、熱融着性繊維を含む繊維の集合体が、容器11からカード機12に運ばれ、カード機12に通されて開繊され、熱融着性繊維を含むウェブ13が形成される。形成された熱融着性繊維を含むウェブ13は、無端ベルト17に載せられて搬送される。カード機に通して開繊することにより、繊維を主として長手方向MDに配向させることができる。形成する熱融着性繊維を含むウェブ13の坪量は、好ましくは10〜175g/mであり、より好ましくは17〜85g/mである。
【0045】
工程bにおいて、潜在捲縮性繊維を含む繊維の集合体が、容器14からカード機15に運ばれ、カード機15に通されて開繊され、潜在捲縮性繊維を含むウェブ16が形成される。カード機に通して開繊することにより、繊維を主として長手方向MDに配向させることができる。形成する潜在捲縮性繊維を含むウェブ16の坪量は、好ましくは7〜100g/mであり、より好ましくは10〜60g/mである。工程aと工程bの順序は問わない。
【0046】
工程cにおいて、熱融着性繊維を含むウェブ13と潜在捲縮性繊維を含むウェブ16が重ねられ、積層ウェブ18が形成される。図4には、無端ベルト17の上の熱融着性繊維を含むウェブ13の上に、形成された潜在捲縮性繊維を含むウェブ16を重ねる態様が示されているが、必ずしも熱融着性繊維を含むウェブ13の上に潜在捲縮性繊維を含むウェブ16を重ねる必要はなく、潜在捲縮性繊維を含むウェブ16の上に熱融着性繊維を含むウェブ13を重ねて積層ウェブ18を形成してもよい。すなわち、工程aと工程bはどちらが先にあってもよいし、積層ウェブ搬送時は、潜在捲縮性繊維を含むウェブ16が上にあっても、熱融着性繊維を含むウェブ13が上にあってもよい。
【0047】
工程dは、積層ウェブに、長手方向MDにおいて所定の幅で、熱処理工程時に潜在捲縮性繊維の捲縮発現による長手方向MDへの収縮力の差が生じるようにする工程である。これを達成する好ましい方法としては、積層ウェブを、幅方向CDに平行に延びる流体通過部と突起した流体遮断部が長手方向MDに交互に繰り返す支持体の上に載せて搬送しながら、幅方向に並ぶ複数のノズルから流体を噴射し、繊維を再配列させる方法が挙げられる。好ましくは、潜在捲縮性繊維を含むウェブ側の面に、幅方向に並ぶ複数のノズルから流体を噴射する。
【0048】
幅方向CDに平行に延びる流体通過部と突起した流体遮断部が長手方向MDに交互に繰り返す支持体としては、たとえば、サクションドラム19の周面に成形用プレートが取り付けられたものを使用することができる。図5は、成形用プレートの一例を示す。図5(a)は成形用プレート41の平面図であり、図5(b)は成形用プレート41の周方向E(長手方向MD)に沿った断面図である。成形用プレート41は、流体通過部42と流体遮断部43とがサクションドラム19の周方向Eへ交互に形成されているもので、流体通過部42には複数の孔44が形成されており、この孔44がサクションドラム19のサクション機構(図示せず)につながっている。流体遮断部43には突起部45が取り付けられている。成形用プレート41の一例において、流体通過部42は、周方向Eの幅d42が0.5〜5mmであって、サクションドラム19の軸方向すなわち幅方向CDのほぼ全体に延びており、直径0.2〜1mmの複数の孔44が流体通過部42の面積に対して15〜30%の開口率となるように形成されている。流体遮断部43は、周方向Eの幅d43が0.5〜5mmであって、サクションドラム19の軸方向の全体に延びている。突起部45の支持体に固定している部分の周方向の幅は流体遮断部43の幅であり、高さh45は0.5〜10mmである。また、突起部45の断面形状は、隣り合う突起部45と突起部45の頂点部同士を結んで形成される空間の断面積を、突起部45の断面積よりも大きくすることができる断面形状にすることが好ましい。たとえば、円、半円、楕円、台形または三角形等である。このような形状をとることで、隣り合う突起部45と突起部45の間に繊維ウェブを効率よく埋め込めるため、隆起部内部の繊維本数を増やすことができ、隆起部の凸形状に沿った「アーチ構造」をより強固なものにすることができる。
成形用プレートが取り付けられたサクションドラム19の周速は、積層ウェブの搬送速度に同じである。
【0049】
工程dの好ましい態様において、潜在捲縮性繊維を含むウェブ側の面に、幅方向に並ぶ複数のノズルから流体が噴射される。図4において、19は長手方向MDへ回転するサクションドラムであり、20は流体噴射用の幅方向に並ぶ複数のノズルである。ノズル20は、サクションドラム19の周面に向かって流体を噴射することができるもので、サクションドラム19の周面からは所要寸法だけ離間している。ノズル20は、サクションドラム19の軸方向すなわち幅方向CDへ延びる配管(図示せず)に複数のノズル20が所要の間隔をあけて取り付けられているものである。
【0050】
幅方向に並ぶ複数のノズル20は、図6(a)に示すように、1列であってもよいが、繊維のかき分け性の観点から2列以上のノズルを並べて構成されるものが好ましい。たとえば、図6(b)に示すように、ノズル列21,22,23からなり、その取り付け状態の好ましい一例では、ノズル列21,22,23それぞれにおけるノズル20が長手方向MDにおいて同一線上に位置するように調整されている。また、ノズル列21,22,23は、たとえば、図7に示すように、サクションドラム19の周方向へ30°ずつの間隔Qをあけて配置することができ、ノズル列21,22,23それぞれにおけるノズル20は、たとえば幅方向CDにおけるピッチPが5mmとなるように配管に取り付けることができる。ノズル列21,22,23からは所要温度の流体を所要の風量で噴射することができる。複数のノズル20から噴射される流体は、その流体自体によって、またはノズル20どうしの流体が相互に干渉することによって、ウェブ18の第1繊維層4の熱融着性繊維の分布状態を乱すことがないように調整されている。そのためには、たとえば合計坪量35g/mの積層ウェブ18が直径500mmのサクションドラム19の周面を0.5秒で通過するものであって、ノズル列21,22,23それぞれのノズル20が幅方向CDに5mmのピッチPで配置してあって、サクションドラム19の周面からの離間寸法が5〜8mmに調整してある場合、積層ウェブはサクションドラム19のサクションによって厚さを2〜5mm程度に整えてから、ノズル20の下を通過させることが好ましい。そのときに使用するノズル20の口径は0.5〜1.5mm程度であり、ノズル20からの流体の噴射速度は50〜700m/secであり、サクションドラム19の吸引速度は2〜7m/secであることが好ましい。
【0051】
積層ウェブは、成形用プレート41が取り付けられたサクションドラム19の周面に載せられて、幅方向に並ぶ複数のノズル20の下を通過する。ノズル20からは積層ウェブに向かって流体を噴射する一方、サクションドラム19では、その流体を吸引するためのサクションを作用させる。
【0052】
図8は、隆起部が形成される機構を説明する模式図である。図8(a)は、積層ウェブが工程dに入った後、流体噴射を受ける前の長手方向断面図を示す。図8(b)は、工程dにおいて流体噴射を受けた後の積層ウェブの流体噴射を受けていない領域の長手方向断面図を示す。図8(c)は、工程dを出た後の積層ウェブの流体噴射を受けていない領域の長手方向断面図を示す。図8(d)は、工程fにおいて潜在捲縮性繊維が捲縮を発現した後のウェブの流体噴射を受けていない領域の長手方向断面図を示す。
【0053】
図9は、積層ウェブが工程dにおいて流体噴射を受けた後の状態を示す。図9(c)は平面図を示し、図9(a)は図9(c)のY−Y断面図を示し、図9(b)は図9(c)のY−Y断面図を示す。図9(c)において、51は成形用プレート41の流体遮断部43(突起部45)の領域を示し、52は成形用プレート41の流体通過部42の領域を示す。53は流体が噴射される領域を示し、54は流体が噴射されない領域を示す。
【0054】
流体を噴射された積層ウェブでは、ノズル20の直下にある繊維が幅方向CDへ平行移動して隣り合うノズル20とノズル20との間54に集積し、畝部を形成する。一方、ノズル20の直下53には溝部を形成する。
【0055】
長手方向MDに延びる畝部54の成形用プレート41側繊維ウェブの形状は、長手方向MDに起伏を繰り返す形状となっている(図9(a)参照)。また、隣接する隆起部2と隆起部2をつなぐブリッジ7が、成形用プレート41の流体通過部42の領域52と流体が噴射される領域53が交差する領域55に形成されている(図9(c)参照)。ブリッジは隣り合うノズル20から流体が吹き付けられた際に、突起部45と突起部45の間の空隙の部分に繊維ウェブが埋め込まれながら形成される。このとき、流体噴射用ノズル20とノズル20との間に形成される畝部の成形用プレート41側に位置する繊維も、突起部45と突起部45の間の空隙の部分に埋め込まれることで、長手方向MDに起伏を繰り返す形状となる。
【0056】
さらに、サクションドラム19の周面を形成している成形用プレート41の流体遮断部43に取り付けられた突起部45では、積層ウェブ18に向かって噴射された流体がサクションドラム19の内側へ進まずに、突起部45の表面に沿って幅方向CD、長手方向MDへ流れる。その流体によって、突起部45に載せられている繊維が幅方向CDと長手方向MDへ移動したときには、積層ウェブ18の、流体遮断部43(突起部45)の領域51と流体が噴射される領域53が交差する領域56に、透孔6が形成される(図9(c)参照)。
【0057】
また、成形用プレート41の流体通過部42に載せられている繊維は、それに向かって噴射された流体の多くが成形用プレート41の孔44を通ってサクションドラム19の内側へ進むと、繊維のうちの一部のものが幅方向CDへ移動することなくノズル20の直下に残り、隣り合う隆起部2と隆起部2をつなぐブリッジ7が、流体通過部42の領域52と流体が噴射される領域53が交差する領域55に形成される(図9(c)参照)。ブリッジは隣り合うノズル20から流体が吹き付けられるため、突起部45と突起部45の間の空隙の部分に繊維ウェブが埋め込まれながら形成される。このとき、噴出された流体の熱により、流体噴射用ノズル20直下の第1繊維層の熱融着繊維が溶融し、熱融着繊維どうしが固定される。
【0058】
ウェブの領域51は、幅方向CDに一定の間隔で透孔が存在し、第2繊維層の潜在捲縮繊維の捲縮発現による長手方向MDへのウェブの収縮を制限する要素がない部分、すなわちウェブの収縮が相対的に起こりやすい部分である。一方、ウェブの領域52は、幅方向CDに一定の間隔で第1繊維層の熱融着繊維が溶融固定されたブリッジが存在することで、第2繊維層の潜在捲縮繊維の捲縮発現による長手方向MDへのウェブの収縮が起こりにくくなる部分、すなわちウェブの収縮が相対的に起こりにくい部分である。
【0059】
工程eは、工程dで得られたウェブ24を、工程fに搬送する工程である。工程eにおいて、ウェブ24は無端ベルト25に載せて搬送される。工程eの搬送速度は、工程dの搬送速度と同一か、または工程dの搬送速度よりもわずかに速い速度である。工程eは、必ずしも必要ではなく、工程dで繊維が再配列されたウェブ24を、工程dから直接、工程fに送ってもよい。しかし、ウェブ24を安定して搬送するために、工程eを設けることが好ましい。
【0060】
工程fは、第2繊維層の潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させるための第1熱処理工程である。
工程dで得られたウェブは、必要に応じて搬送工程eを経て、第1熱処理工程fに送られる。第1熱処理工程fには、第1熱処理乾燥機26が設けられ、ウェブ24は無端ベルト27に載せられて、第1熱処理乾燥機26の中を通され、そこで熱処理が施される。第1熱処理工程fにおいては、第2繊維層の潜在捲縮性繊維は捲縮を発現するが、第1繊維層の熱融着性繊維どうしは融着固定されない範囲の温度条件で熱処理を行い、第2繊維層の潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させる。
【0061】
工程dで得られたウェブは、ウェブの収縮が相対的に起こりにくい部分52と、ウェブの収縮が相対的に起こりやすい部分51が、長手方向MDに交互に存在している。よって、長手方向MDへの第2繊維層の潜在捲縮性繊維の捲縮発現によるウェブの収縮度合いが異なる領域が所定の間隔で存在していることになる。第2繊維層の潜在捲縮性繊維が捲縮を発現した際には、ウェブの収縮が相対的に起こりにくい部分52を基点として、長手方向MD、幅方向CDの両方向からウェブが収縮し、幅方向CDへ連続して平行に延びる複数条の隆起部2と、隣接する隆起部2と隆起部2の間に幅方向CDへ延びる複数条の谷部3とが形成される。
【0062】
図8(c)は工程dを出たウェブの状態を示すが、これに対し、工程fにおいて第2繊維層5の潜在捲縮性繊維が捲縮を発現した後のウェブは、図8(d)に示すように、ウェブの収縮が相対的に起こりやすい部分が長手方向MDへ収縮して谷部3を形成し、ウェブの収縮が相対的に起こりにくい部分が隆起部2を形成する。
【0063】
ここで、第2繊維層の潜在捲縮性繊維の捲縮発現により、ウェブ全体が長手方向MDと幅方向CDの両方向に収縮する際、第1繊維層の熱融着繊維同士は接着しない。よって、第2繊維層の潜在捲縮性繊維の捲縮発現を妨げることがないため、幅方向CDへ連続して平行に延びる複数条の隆起部2を形成しやすくなる。
【0064】
第1熱処理乾燥機26の温度は、第1繊維層の熱融着性繊維の融着温度を超えない範囲であり、好ましくは、第2繊維層の潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する温度よりも0〜+50℃高い温度であり、より好ましくは+10〜+40℃高い温度である。たとえば、第2繊維層の潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する温度が80℃であり、第1繊維層の熱融着性繊維の融点が130℃である場合は、第1熱処理乾燥機26の温度は、好ましくは80〜130℃であり、より好ましくは90〜120℃である。
【0065】
第2繊維層の潜在捲縮性繊維は長さ方向MDへ主に配向されているので、第2繊維層の潜在捲縮性繊維の収縮方向も主に長さ方向MDとなる。
【0066】
また、幅方向CDへ連続して平行に延びる複数条の隆起部2を形成しやすくするために、第2繊維層の潜在捲縮性繊維の捲縮発現により、第2繊維層を積極的に長手方向MDへ収縮させる必要がある。そこで、第1熱処理工程fにおいては、潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段を用いる。換言すれば、潜在捲縮性繊維が捲縮により長さ方向に収縮しようとする力に対する抗力が小さい状態で熱処理を行なう。潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段としては、直前の工程の搬送速度に比べて第1熱処理工程fの搬送速度を小さくする方法、フローティングドライヤーを使用する方法などが挙げられる。
【0067】
直前の工程の搬送速度に比べて第1熱処理工程fの搬送速度を小さくする方法における直前の工程とは、工程eを設けたときは工程eをいい、工程eを設けないときは工程dをいう。直前の工程の搬送速度に比べ第1熱処理工程fの搬送速度を小さくしないと、第1熱処理乾燥機26内においてウェブ24に長手方向でのテンションがかかった場合、潜在捲縮性繊維の捲縮発現による第2繊維層の収縮は、相対的に自由度が高くなっている幅方向CDにのみ起こりやすくなるため、第1繊維層に十分な長手方向MDの収縮を与えることができず、隆起部2が形成されにくい。
たとえば、長手方向MDに十分な収縮が発現するとともに、シートが撓んで折れ重ならない範囲として、直前の工程の搬送速度に対して、第1熱処理工程fの搬送速度を50〜90%に減速させることが好ましい。
【0068】
潜在捲縮性繊維の捲縮発現による収縮の抵抗の1つは搬送時のラインテンションであるが、もう1つは搬送コンベアとの摩擦である。その摩擦を低減するために、図10に示すようなフローティングドライヤー60を利用することができる。フローティングドライヤー60とは、メッシュコンベア61,62が上下に離間して設置してあり、メッシュコンベア61,62の内側(ウェブ24とは逆側)に熱風吹き出し口63が複数備わっており、他方のメッシュコンベア62,61に向けて熱風を吹きつけウェブ24を他方のメッシュコンベア62,61に移動させながら熱処理を行う。図10に示すように、下側のメッシュコンベア61から熱風を吹きつけた次は上側のメッシュコンベア62から熱風を吹きつけるように交互に上下から熱風を吹きつけることでウェブ24は上下に移動することとなり、メッシュコンベア61,62と接地していない部分ができ、潜在捲縮性繊維の捲縮発現による収縮の抵抗を低減することができ、長手方向MDに収縮させるには好ましい方法である。フローティングドライヤーは、直前の工程の搬送速度に比べて第1熱処理工程fの搬送速度を小さくする方法と併用することができ、併用するとより好ましい。
【0069】
工程gは、第1繊維層の熱融着性繊維どうしを互いに交差する部位において融着させる第2熱処理工程である。第2熱処理工程gには、第2熱処理乾燥機28が設けられ、工程fで潜在捲縮性繊維が捲縮したウェブは、無端ベルト29に載せられて、第2熱処理乾燥機28の中を通され、そこで熱処理が施される。第2熱処理工程gにおいては、第1繊維層の熱融着繊維の融着温度以上の温度で熱処理を行い、熱融着繊維どうしを互いに交差する部位において融着することで、工程d〜fにおいて形成された第1繊維層の隆起部が固定される。
【0070】
第2熱処理乾燥機28の温度は、好ましくは、第1繊維層の熱融着繊維の融点よりも−10〜+40℃高い温度であり、より好ましくは0〜+20℃高い温度である。たとえば、第1繊維層の熱融着性繊維の融点が130℃である場合は、第2熱処理乾燥機28の温度は、好ましくは120〜170℃であり、より好ましくは130〜150℃である。
【0071】
工程hは、工程gで熱融着性繊維どうしが融着したウェブを冷却する工程である。工程gの第2熱処理乾燥機28を出たウェブは、無端ベルト30に載せられて搬送されながら、室温で放冷される。冷却されることによって、第1繊維層の熱融着繊維どうしの互いに交差する部位における融着が固定され、第1繊維層が固定される。冷却されたウェブは、ロール31に巻き取られる。
【実施例】
【0072】
実施例1
図4に示す製造装置を用いて、不織布シートを製造した。
工程aにおいて、第1繊維層用の繊維として、ポリエステル/ポリエチレン芯鞘型複合繊維(熱融着性繊維、2.6dtex、繊維長51mm、芯/鞘質量比=50/50、融点136℃)を使用し、坪量20g/mの熱融着性繊維を含むウェブを形成した。
工程bにおいて、第2繊維層用の繊維として、ポリプロピレン/ポリオレフィンポリプロピレン共重合体潜在捲縮性サイドバイサイド型複合繊維(2.6dtex、繊維長51mm、ポリプロピレン/ポリオレフィンポリプロピレン共重合体質量比=50/50、面積収縮率80%、捲縮発現温度90℃)を使用し、坪量15g/mの潜在捲縮性繊維を含むウェブを形成した。
工程cにおいて、熱融着性繊維を含むウェブの上に、潜在捲縮性繊維を含むウェブを積層した。
工程dにおいて、図5に示す成形用プレート(流体通過部42の周方向寸法d42=2mm、流体通過部42の孔44の直径=0.8mm、流体通過部42の孔44の開口率=22%、流体遮断部43(突起部45)の周方向寸法d43=2mm、突起部45の高さh45=2mm、プレートの厚みh=0.3mm)を使用し、口径0.5mm、ピッチ4mmのノズル2列を使用し、サクションドラム19からの離間距離(突起部45の頂点からの距離)を5.0mmとし、サクションドラム19の吸引速度を5m/sとし、噴射する流体として約140℃の空気を使用し、214m/secの流速で噴射した。
工程eにおいて、搬送速度を10m/minとした。
工程fにおいて、第1熱処理乾燥機26の温度を、潜在捲縮性繊維が捲縮を発現しかつ熱融着繊維どうしが融着固定されない約110℃とし、風速を0.7m/s、滞在時間を10秒間とした。このとき、幅方向CDおよび長手方向MDの両方向に十分な収縮力が発現し、かつシートが撓んで折れ重ならないように、搬送速度を6m/min(工程eに対して60%の搬送速度)とした。
工程gにおいて、約138℃、風速0.7m/s、滞在時間10秒間で熱処理を行い、第1繊維層の熱融着性繊維どうしを互いに交差する部位において融着させた。
工程hにおいて、ウェブを室温で放冷した。
以上の工程を経て、厚みが1.99mm、坪量が118g/m、隆起部2と谷部3との高低差Dが1.70mm、隆起部2の幅が3.0mm、谷部3の幅が1.0mmの不織布シートを得た。得られた不織布シートの平面図写真(デジタルカメラで長手方向から撮影した写真)を図11に、隆起部の長手方向断面の顕微鏡写真(倍率30倍)を図12に示す。
【0073】
比較例1
実施例1と比較して以下の点を変更して製造した。
工程cにおいて、潜在捲縮性繊維を含むウェブの上に熱融着性繊維を含むウェブを重ねあわせた。
工程dにおいて用いた成形用プレートには流体遮断部43に突起部45が存在していないものを使用した。
工程fの搬送速度は工程eに対して90%とした。
その他は実施例1と同様に、不織布シートを製造した。
【0074】
比較例2
比較例1と比較して以下の点を変更して製造した。
第2繊維層用の繊維として、潜在捲縮性サイドバイサイド型複合繊維を使用せず、その代わりに、第1繊維層に用いたものと同じ熱融着性繊維を用いた。
工程fの搬送速度は工程eに対して100%とした。
その他は比較例1と同様に、不織布シートを製造した。
【0075】
実施例および比較例で得られた不織布シートについて、厚み、坪量、長手方向伸張後の厚みの回復率、長手方向伸張後の透過時間、KES圧縮仕事量WC、および荷重下透過時間を評価した。結果を表1に示す。なお、各評価項目の評価方法は次のとおりである。
【0076】
[厚み]
厚み測定器(PEACOCK、測定面φ44mm、測定圧3g/cm)を用いる。適当な大きさ(測定子より大きいこと)の不織布シートを測定台と測定子の間に置き、測定子を一定の高さから落とし、厚みを測定する。N=10の平均値を求める。
【0077】
[坪量]
不織布シートを100mm×100mmのサイズに切断し、電子天秤にて質量を測定し、1mあたりの質量に換算する。N=10の平均を求める。
【0078】
[長手方向伸張後の厚みの回復率]
長手方向伸張後の厚み(隆起部の厚みt)の回復率の測定手順は、以下のとおりとする。
(1)不織布シートを長手方向150mm×交差方向50mmのサイズに切断する。
(2)切断したサンプルの厚みを上記の厚み測定器にて測定する。
(3)「オートグラフAG−50NI」(島津システムソリューションズ株式会社製)を使用し、チャック間距離100mmで不織布シートを挟み、固定する。
(4)伸張させる割合に応じて、引っ張る距離を設定し、不織布シートを伸張する。
たとえば、20%伸張させる場合は引っ張る距離を120mmに設定する。
(5)オートグラフから不織布シートを取り外し、1分後の厚みを測定した。測定位置は不織布シートの中心部付近を測定する。
(6)次式に基づき、厚みの回復率を計算する。
厚みの回復率(%)=伸張後の厚み/伸張前の厚み×100
【0079】
[長手方向伸張後の透過時間]
(1)市販の生理用ナプキン(ユニ・チャーム株式会社製、ソフィふわぴたスリム、25cm)の表面シートを外し、その表面シートの代わりに実施例または比較例の不織布を取り付けて試料とする。
(2)試料には、40mm×10mmの透過孔を有するアクリル板を載せ、そのアクリル板に錘を載せて試料に対する荷重が2gf/cmとなるように調整する。
(3)人工経血をアクリル板の透過孔から生理用ナプキンに向かって90mL/minの速度で4mL滴下する。人工経血は、水1000cmに対して、グリセリン80g、CMCのナトリウム塩8g、NaCl 10g、NaHCO 4g、赤色色素102号8g、赤色色素2号2g、黄色色素5号2gを混合し、溶解させたものである。
(4)人工経血滴下開始から、透過孔に滞留する人工経血が表面シート中に移行するまでの時間を計測する。透液時間が、不織布の透液性の良否を示す指標となる。
【0080】
[KES圧縮仕事量WC]
「圧縮試験機KES−F3」(カトーテック株式会社製)により計測されるものであり、シート状繊維製品の圧縮特性値を測定する装置として一般に使用されている。圧縮仕事量WC(g・cm/cm)は、試料支持台上に置いた測定試料に対し、上方から0.02mm/secの定速で加圧し、圧縮荷重が50g/cmに至る迄の試料の単位面積当たりの圧縮仕事量を示し、その数値が小さいほど圧縮変形し難いものとなる。
【0081】
[荷重下透過時間]
(1)市販の生理用ナプキン(ユニ・チャーム株式会社製、ソフィふわぴたスリム、25cm)の表面シートを外し、その表面シートの代わりに実施例または比較例の不織布を取り付けて試料とする。
(2)試料には、40mm×10mmの透過孔を有するアクリル板を載せ、そのアクリル板に錘を載せて試料に対する荷重が70gf/cmとなるように調整する。
(3)人工経血をアクリル板の透過孔から生理用ナプキンに向かって90mL/minの速度で4mL滴下する。
(4)人工経血滴下開始から、透過孔に滞留する人工経血が表面シート中に移行するまでの時間を計測する。透液時間が、荷重下における不織布の透液性の良否を示す指標となる。
【0082】
【表1】

【0083】
実施例および比較例で得られた不織布シートを、長手方向MDに所定の倍率まで延伸した後の厚みを比較すると、第2繊維層側に潜在捲縮性繊維を使用した不織布シート(実施例1、比較例1)の方が、第2繊維層側に潜在捲縮性繊維を使用していない不織布シート(比較例2)よりも、コイル状の三次元捲縮が元に戻る力が発揮されるため、厚みの回復率が高くなっている。
さらに、実施例1は比較例1よりも、厚みの回復性が高くなっている。
この理由は、次のように考えられる。実施例1は幅方向CDへ延びる複数条の谷部に一定の間隔で透孔が存在しており、隆起部2は幅方向CDへ連続して延びている。谷部3は透孔が存在することで、隆起部2と比較して繊維の交絡本数が少なくなるため、隆起部よりも強度が相対的に弱くなる。よって、長手方向MDへ負荷がかかった場合、幅方向CDへ連続して平行に延びる複数条の隆起部よりも、隣接する隆起部と隆起部の間に幅方向CDへ延びる複数条の谷部の方が優先的に伸張するため、隆起部の凸形状を変化させにくくしているためである。
伸張後のサンプルの人工経血透過時間を測定したところ、伸張前後での厚みの回復率が高いサンプルほど、伸張からの回復後でも透過時間が変化しにくくなっている。
この結果から実施例1は長手方向MDへの延伸による隆起部2の凸形状の変化が少ないため、隆起部2の比容積と谷部3の空隙を保ちやすくなる。よって、不織布ラインの高速化によるラインテンションが増大した場合でも、隆起部2の凸形状を変形させることなく生産を行うことができ、排泄液の透過速度の速い不織布を安定して提供することができる。
【0084】
実施例および比較例で得られた不織布シートについて、KES圧縮仕事量を比較すると、第1繊維層の繊維配向が隆起部に直交している不織布シート(実施例1)の方が、第1繊維層の繊維配向が隆起部と平行な不織布シート(比較例1、比較例2)よりもKES圧縮仕事量が高くなっている。
この理由は、次のように考えられる。実施例1の第1繊維層は幅方向へ平行して延びる複数条の隆起部に直交する方向に繊維が配向されている。隆起部に直交する方向に繊維が配向されていることで、隆起部内部の繊維は隆起部の凸形状に沿った「アーチ構造」をとりやすくなる。よって、実施例1の厚み方向に圧縮応力がかかった場合、隆起部にかかる圧縮応力を分散させられるためである。よって、厚み方向からの圧縮に対して強くなるため、隆起部の凸形状が変形しにくく、隆起部の比容積と、谷部の空隙を保つことができる。その結果、荷重下吸収時の透過時間を短くすることができる
この結果から、実施例1は厚み方向に力が加わった際にも潰れにくいため、使用中に過度な体圧がかかった場合でも隆起部の比容積と、谷部の空隙を保つことができ、液体を一時的に保持できる。
よって、本発明の不織布シートを吸収性物品の表面シートとして用いた場合、体圧がかかった状態であっても排泄液をすばやく取り込めるため使用者の肌に広げることなく漏れを有効に防止できる。
また、本発明の不織布シートを吸収性物品の吸収体として用いた場合でも、体圧によって吸収体中の比容積が変化しにくいため、表面シートを透過した液体をすばやく吸収体中に取り込むことができ、漏れの防止に効果的である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の不織布シートは、使い捨て紙おむつ、生理用ナプキン等の吸収性物品の表面シート、または吸収体として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 不織布シート
2 隆起部
3 谷部
4 第1繊維層
5 第2繊維層
6 透孔
7 ブリッジ
11 容器
12 カード機
13 ウェブ
14 容器
15 カード機
16 ウェブ
17 無端ベルト
18 積層ウェブ
19 サクションドラム
20 ノズル
21,22,23 ノズル列
24 ウェブ
25 無端ベルト
26 第1熱処理乾燥機
27 無端ベルト
28 第2熱処理乾燥機
29 無端ベルト
30 無端ベルト
31 ロール
41 成形用プレート
42 流体通過部
43 流体遮断部
44 孔
45 突起部
60 フローティングドライヤー
61,62 メッシュコンベア
63 熱風吹き出し口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する長手方向MDと幅方向CDと厚さ方向TDとを有し、厚さ方向TDには上面と下面とを有し、上面には、幅方向CDへ連続して平行に延びる複数条の隆起部と、隣接する隆起部と隆起部の間に幅方向CDへ延びる複数条の谷部が形成されている不織布シートであって、
前記不織布シートは上面側の第1繊維層と下面側の第2繊維層からなり、第1繊維層は熱融着性繊維を含み、第2繊維層はコイル状の三次元捲縮繊維を含み、
第2繊維層のコイル状の三次元捲縮繊維は、長手方向MDへ主に配向し、捲縮繊維どうしが互いに交差する部位において融着しておらず、コイル状の三次元捲縮繊維の絡みによってネットワークを形成していることを特徴とする不織布シート。
【請求項2】
第1繊維層の熱融着性繊維は、長手方向MDへ主に配向し、熱融着性繊維どうしが互いに交差する部位において融着していることを特徴とする請求項1に記載の不織布シート。
【請求項3】
前記谷部には一定の間隔で透孔が存在し、前記不織布シートを長手方向MDへ引き伸ばしたときに、隆起部よりも谷部が優先的に伸長することを特徴とする請求項1または2に記載の不織布シート。
【請求項4】
下面には、長手方向MDへ連続して平行に延びる複数条の溝部が形成されており、前記透孔は溝部に存在することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の不織布シート。
【請求項5】
a)熱融着性繊維を含む繊維集合体をカード機に通して開繊し、熱融着性繊維を含むウェブを形成する工程、
b)潜在捲縮性繊維を含む繊維集合体をカード機に通して開繊し、潜在捲縮性繊維を含むウェブを形成する工程、
c)熱融着性繊維を含むウェブと潜在捲縮性繊維を含むウェブを重ね合わせ、積層ウェブを形成する工程、
d)積層ウェブに、長手方向MDにおいて所定の幅で、熱処理工程時に潜在捲縮性繊維の捲縮発現による長手方向MDへの収縮力の差が生じるようにする工程、
f)潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段を用い、熱融着性繊維の融着温度よりは低いが潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する温度にウェブを加熱する熱処理工程、および
g)工程fで得られたウェブを、熱融着性繊維の融着温度以上の温度に加熱して、熱融着性繊維どうしを互いに交差している部位において融着させる工程
を含む、不織布シートを製造する方法。
【請求項6】
工程dが、積層ウェブを、幅方向CDに平行に延びる流体通過部と突起した流体遮断部が長手方向MDに交互に繰り返す支持体の上に載せて搬送しながら、幅方向に並ぶ複数のノズルから流体を噴射し、繊維を再配列させる工程であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段が、直前の工程に比べて遅い搬送速度で搬送する方法であることを特徴とする請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段が、フローティングドライヤーであることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程dと工程fの間に、
e)工程dで得られたウェブを工程fに搬送する工程
を含むことを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程gの後に、
h)工程gで得られたウェブを冷却する工程
を含むことを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の不織布シートを表面シート、または吸収体として搭載した吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−208302(P2011−208302A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75976(P2010−75976)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)
【Fターム(参考)】