説明

不織布

【課題】吸収性物品の表面シートとして用いた場合に、クッション性等の柔軟性が高く、かつ液の透過性が良好な不織布を提供すること。
【解決手段】不織布10は、一方向Yに畝状に延びる多数の畝部20と、隣り合う畝部20間に位置し、かつ畝部20と同方向Yに延びる多数の溝部30と有する。溝部30には開孔31が形成されている。畝部20は、畝部本体部22と、畝部本体部22の厚み方向における一方の側に隣接し、かつ畝部本体部22よりも繊維密度の低い低密度部23とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畝溝構造を有し、溝部に開孔を有する不織布に関するものである。この不織布は、特に吸収性物品の表面シートとして好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
本出願人は先に、全体に分散する凸状部と凹状部とを有し、凹状部の繊維密度が凸状部の繊維密度よりも低い不織布を提案した(特許文献1参照)。この不織布における凹状部は開孔していてもよいものである。この不織布は、吸収性物品の表面材として好適に用いられる。この不織布は、次の方法で製造される。先ず、凹凸を有する通気性コンベアに繊維ウエブを載置する。次に、この繊維ウエブに対して気体を噴射する。気体の噴射によって、通気性コンベアの凹状部に繊維ウエブを追従させて、該繊維ウエブに凹凸状部を形成する。最後に、繊維ウエブを加熱し、繊維を融着し一体化させる。この不織布は、その平面方向にわたってみたときには繊維密度が異なる部位を有している。しかし厚み方向において繊維密度が異なることについては、同文献には何らの記載もない。また、同文献に記載の方法に従い不織布を製造する場合、厚み方向において繊維密度を異ならせるためには、使用繊維を層ごとに異ならせる必要がある。
【0003】
特許文献1とは別に、本出願人は、不織布からなる吸収性物品の表面材を提案した(特許文献2参照)。この不織布は、繊維が分配されることによって形成された開孔を有している。不織布の非開孔領域は、孔と孔が最も近接している第1領域、第1領域以外の孔周囲領域である第2領域、並びに第1及び第2領域以外の第3領域の三領域からなる構造を有している。そしてこれら三領域の繊維密度は、第1領域>第2領域>第3領域の関係にある。この不織布はウオータジェット方式やサクションヒートボンド方式の不織布製造方法によって製造される。この不織布は、先に述べた特許文献1に記載の不織布と同様に、その平面方向にわたってみたときには繊維密度が異なっている。しかし厚み方向において繊維密度が異なることについては、特許文献2には何らの記載もない。また、厚み方向において繊維密度が異ならせるためには、使用繊維を層ごとに異ならせる必要があることについても特許文献1と同様である。
【0004】
【特許文献1】特開平4−24261号公報
【特許文献2】特開平4−221556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、前述した従来技術の不織布よりも更に性能が向上した不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一方向に畝状に延びる多数の畝部と、隣り合う畝部間に位置し、かつ畝部と同方向に延びる多数の溝部と有し、溝部に開孔が形成された不織布であって、
畝部は、畝部本体部と、該畝部本体部の厚み方向における一方の側に隣接し、かつ該畝部本体部よりも繊維密度の低い低密度部とを有している不織布を提供するものである。
【0007】
また本発明は、前記の不織布の好適な製造方法として、凹凸賦形パターン部材上に載置されたウエブを、押し込み部材によって該凹凸賦形パターン部材内に押し込む工程と、
凹凸賦形パターン部材内に押し込まれた状態のウエブに気体流を吹き付けて、該ウエブを該凹凸賦形パターン部材内に更に押し込む工程と、
凹凸賦形パターン部材内に更に押し込まれた状態のウエブに熱風を吹き付けて、該ウエブの構成繊維の交点を融着させる工程とを具備する不織布の製造方法を提供するものである。
【0008】
更に本発明は、前記の不織布の別の好適な製造方法として、凹凸賦形パターン部材内に載置されたウエブに気体流を吹き付けて、該ウエブを該凹凸賦形パターン部材内に押し込む工程と、
凹凸賦形パターン部材内に押し込まれた状態のウエブを、押し込み部材によって該凹凸賦形パターン部材内に更に押し込む工程と、
賦形パターン部材内に更に押し込まれた状態のウエブに熱風を吹き付けて、該ウエブの構成繊維の交点を融着させる工程とを具備する不織布の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の不織布によれば、これを例えば吸収性物品の表面シートとして用いると、畝部と溝部との厚み差に起因して、該表面シートが着用者の肌と接触する面積が低減し、蒸れの発生等が効果的に防止される。特に、畝部が繊維密度の低い低密度部を有していることに起因して、クッション性等の柔軟性が高いものとなる。また、低密度部の働きによって、液の透過性が良好になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の不織布の第1の実施形態の要部を拡大した斜視図が示されている。本実施形態の不織布は、主に吸収性物品の表面シートとしての使用を想定したものである。したがって、以下の説明では、本実施形態の不織布を「表面シート」とも言う。
【0011】
図1に示す表面シート10は、第1の面10aと、これに対向する第2の面10bとを有する。第1の面10aは、表面シート10が、生理用ナプキンや使い捨ておむつ等の吸収性物品に組み込まれたときに、着用者の肌側を向く面である。第2の面10bは、吸収性物品の吸収体側を向く面である。表面シート10は、一方向Yに延びる多数の畝部20を有する。また表面シート10は、隣り合う畝部20の間に、畝部20と同方向Yに延びる多数の溝部30を有する。畝部20及び溝部30は、それらの延びる方向Yと直交する方向Xにわたって交互に配列されている。畝部20は、表面シート10における相対的に厚みの大きな部位から構成されており、溝部30は、表面シート10における相対的に厚みの小さな部位から構成されている。その結果、畝部20の実質厚みは、溝部30の厚みよりも大きい。ここで実質厚みとは、表面シート10の裏面から各々の最上部までの長さ(見掛け厚み)ではなく、表面シート10の繊維が存在する部分の長さを意味する。
【0012】
図1に示すように、畝部20は、その延びる方向と直交する方向(同図中、Xで示す方向)に沿う断面形状が略楕円形ないし略長円形になっている。この断面形状においては、楕円形ないし長円形の長軸がX方向と一致し、かつ短軸が表面シート10の厚み方向に一致している。したがって、表面シート10は、X方向での断面が、第1の面10aの側において、上に凸の滑らかな曲線を描く輪郭となっている。第2の面10bの側においては、下に凸の滑らかな曲線を描く輪郭となっている。これによって表面シート10における第1の面10a及び第2の面10bの側はいずれもX方向に沿って波形形状になっている。したがって、表面シート10の第1の面10a側が着用者の肌と接する場合には、畝部20の頂部21及びその近傍の領域が部分的に接触することになり、全面接触に起因する蒸れによるべたつき感や、こすれに起因する刺激感が低減される。また、着用者から排泄された液が、着用者の肌に付着しづらくなる。
【0013】
畝部20は、表面シート10の構成繊維で満たされている。つまり畝部20内には空洞は存在していない。同様に、溝部30のうち、後述する開孔31が形成されていない部位は、表面シート10の構成繊維で満たされている。
【0014】
図1に示すように、畝部20は、X方向での断面において、第1の面10a側に頂部21を有し、この部位において実質厚みが最も大きくなっている。そして、X方向に関し、頂部21から離れるに連れ実質厚みが漸減している。したがって、表面シート10は、畝部20において、X方向に沿ってみたときに、実質厚みが周期的に変化したものとなっている。本実施形態の表面シート10において、畝部20と溝部30との間に明確な境界部は存在せず、一般に、X方向に関して隣り合う2つの頂部21間に位置する最も実質厚みの小さい部位及びその近傍の部位が溝部30となる。畝部20と溝部30との境界を明確に定義する場合には、畝部20の頂部21における見掛け厚みの1/2の厚みの位置を、畝部20と溝部30との境界部とする。
【0015】
畝部20の見掛け厚みD(図1参照)は、表面シート10の肌触りを良好にする観点から、好ましくは0.3〜5mmであり、更に好ましくは0.5〜2.5mmである。畝部20の厚みDは、マイクロスコープVH‐8000(キーエンス製)を用い、表面シート10の断面を50倍〜200倍に拡大観察して測定する。断面は、フェザー剃刀(品番FAS‐10、フェザー安全剃刀(株)製)を用い、表面シート10を切断して得る。
【0016】
表面シート10のX方向における畝部20の幅は、肌触りと吸収性の観点から、1〜10mmが好ましく、2〜5mmがより好ましい。同様の観点から、表面シート10のX方向における溝部30の幅は、0.5〜7mmが好ましく、1〜3mmが好ましい。本実施形態においては、畝部20と溝部30は概ね同じ幅で形成されているが、これに限られず例えば表面シート10のX方向の中央域における畝部20の幅を、側部域における畝部20の幅よりも広くしてもよい。あるいは、畝部20及び溝部30の幅をランダムにするなど、所望の形態とすることができる。
【0017】
畝部20における実質厚みは、見掛け厚みの60〜100%、特に70〜100%であることが好ましい。畝部20における実質厚みそれ自体は、最も大きい部位(頂部21)において0.2〜4mm、特に0.3〜3mmであることが好ましい。畝部20がこのような厚みであると、畝部20が倒れにくくなり、表面シート10のクッション性が良くなり、更に液の吸収性(液通過性)が良好となる。また、畝部20の実質厚みが、見掛け厚みより薄い場合、具体的には90%以下の場合には、表面シート10を有する吸収性物品の使用時に、該吸収性物品が湾曲形状に変形しても、表面シート10と吸収体との間に生じる隙間が大きくなることが防止される。また表面シート10が着用者の肌に柔軟にフィットする。なお、溝部30の実質厚みは、0.1〜1mmであることが好ましい。
【0018】
図1に示すように、畝部20は、X方向の断面形状において該畝部20の大部分を占める畝部本体部22と、畝部本体部22の厚み方向における一方の側に隣接し、かつ畝部本体部22よりも繊維密度の低い低密度部23とを有している。本発明において畝部本体部22は、畝部20のX方向の断面形状において、面積率で表して30〜80%の領域を占める部位である。畝部本体部22は、表面シート10における第1の面10a側に位置しており、第1の面10aの一部をなしている。一方、低密度部23は、表面シート10における第2の面10b側に位置している。畝部20のX方向の断面において、低密度部23は、該X方向に延びる細長い形状をしている。また低密度部23の表面は露出しており、表面シート10における第2の面10bの一部をなしている。
【0019】
表面シート10の製造条件に応じ、畝部本体部22と低密度部23とは、それらの繊維密度が両者の境界部において明確に相違している場合もあれば、明確な境界部が存在せずに、繊維密度が漸次変化して一方の部位から他方の部位に移り変わる場合もある。いずれの場合においても、一般に、畝部本体部22の繊維密度は0.02〜0.12g/cm3、特に0.03〜0.08g/cm3であることが好ましく、低密度部23の繊維密度は、畝部本体部22の繊維密度よりも低いことを条件として、0.005〜0.1g/cm3、特に0.01〜0.06g/cm3であることが好ましい。畝部本体部22及び低密度部23は、表面シート10のX方向の縦断面の顕微鏡観察から目視によってそれらの位置を判断することができる。
【0020】
本発明において、上述の繊維密度は次の方法で測定される。すなわち、重量が計測されたサンプルにおける開孔部を有しない畝部と直交する断面の畝部本体部22、低密度部23及び溝部30の各部の面積(以下、断面面積という)を画像解析装置等により計測して各部の体積を算出し、それぞれ各部の繊維密度係数を用いることより求めることができる。具体的には、表面シートの重量εを測定したサンプルの開孔率を画像解析装置等により計測した後、サンプルの上述した断面面積を畝部本体部22、低密度部23及び溝部30において計測する。得られた各断面面積にサンプルの元の畝部方向長さを乗じて体積を算出する。各々の体積は、畝部本体部22をV1、低密度部23をV2及び溝部30をV3とする。この場合、溝部30には開孔があるので、開孔面積に溝部の実質厚みを乗じた値を差し引いて溝部体積V3とする。次いで、電子顕微鏡等により300〜500倍程度に拡大した断面写真を各々10枚使用し、10本の繊維により作られる面積(以下密度面積と呼ぶ、繊維と繊維の間が最短となるよう繊維の中心を結び、なるべく多くの繊維を線で結ぶ)から、繊維密度係数を得る。繊維密度係数は、畝部本体部22の繊維密度係数αを基準として説明すると、畝部本体部22の密度面積を低密度部23の密度面積で除すると低密度部23の繊維密度係数が得られ、同様に溝部30の繊維密度係数も算出できる。
(V1+低密度部23の繊維密度係数×V2+溝部30の繊維密度係数×V3)×α=ε
から畝部本体部22の繊維密度αを求め、畝部本体部22の繊維密度に各々の繊維密度係数を乗ずることによって低密度部23及び溝部30の繊維密度が算出できる。画像解析装置としては、後述する開孔の大きさの計測に使用する画像解析装置と同様のものを用いることができる。
【0021】
畝部本体部22と低密度部23とは、これら両者が一体的に形成されている。しかし、畝部本体部22と低密度部23とはエンボス加工等の圧密化手段によっては一体化されていない。畝部本体部22の構成繊維と低密度部23の構成繊維とは互いに交絡しており、両者が容易に剥離が生じない程度に結合していることで両者の一体化が達成されている。容易に剥離が生じないとは、畝部本体部22と低密度部23とを指でつまみ、180度剥離の動作を行ったときに、両者がそれらの境界で分離しないことを言う。
【0022】
畝部本体部22の構成繊維と低密度部23の構成繊維とは、同種のものでもよく、あるいは異種のものでもよい。同種の繊維とは、繊維を構成する材料の種類、繊維の長さ、繊維の断面形状や太さ等がすべて同じである繊維を言う。これらのうちのどれか一つでも異なる場合には異種の繊維であると言う。畝部本体部22と低密度部23とで構成繊維が異なっている表面シートを製造することは比較的容易であるが、畝部本体部22と低密度部23とが一体化しており、畝部20の全体がすべて、実質的に同種の繊維から構成されている表面シートは、後述する本発明に係る製造方法によって初めて製造されるものである。
【0023】
畝部20が以上の構成を有することによって、本実施形態の表面シート10はクッション性等の柔軟性が良好なものとなる。特に、畝部本体部22と低密度部23とを同じ繊維径の繊維から構成することで、クッション性等の柔軟性が一層良好なものとなる。また、畝部本体部22と低密度部23とが、圧密化手段によって一体化されていないことで、畝部20には液の通過抵抗となる部位が存在しないため、畝部20における液の通過性が良好になる。また、畝部20における低密度部23の繊維密度は、カード法で積繊されたウエブを原料として製造されたエアスルー不織布と同程度に低く、かつ表面シート10の構成繊維としては、エアレイド不織布に一般的に用いられる繊維よりも長い繊維を用いることができるので、表面シート10は、柔軟であるにもかかわらず、強度が高いという二律背反の条件を満たすものとなる。更に、表面シート10における第2の面10b側に低密度部23が存在していることで、該表面シート10を吸収性物品に組み込んだ場合に、低密度部23が吸収体と安定して接触するようになる。その結果、表面シート10から吸収体への液の移行性が良好になる。
【0024】
図1に示すように、溝部30には開孔31が多数形成されている。開孔31は、表面シート10の構成繊維がより分けられて形成されている。開孔31は溝部30の長手方向に沿って一定の間隔をおいて規則的に、かつ間欠的に形成されている。したがって、表面シート10には、そのY方向に沿って一定の間隔をおいて配置された多数の開孔31からなる開孔列が、表面シート10のX方向にわたって多列に形成された状態になっている。Y方向に沿う開孔列における前後隣り合う開孔31の配置のピッチは、すべての開孔列において同じになっている。隣り合う2つの開孔列においては、表面シート10のX方向に関して開孔31が同位置に位置している。そして、表面シート10のX方向に沿ってシート全域を見たときに、必ず開孔31が形成されていない部位が存在するように該開孔31は配置されている。更に表面シート10全体で見ると、開孔31は、シート10のX方向において多列の列をなし、かつY方向においても多列の列をなすように分散配置されている。開孔31がこのように配置されていることで、開孔31が例えば千鳥格子状に配置されている場合に比較して、繊維の寄り分けによる開孔31の形成を効率的に行うことができる。
【0025】
開孔31は、表面シート10の平面視において種々の形状をとり得る。例えば円形、長円形、楕円形、三角形、四角形、六角形等の形状、又はこれらの組み合わせの形状が挙げられる。開孔31の形状や大きさは、表面シート10の具体的な用途に応じて適宜決定すればよい。一例として、開孔31の大きさは、表面シート10の平面視における投影面積で表して、0.5〜5mm2程度であることが、液の透過性及び表面シート10の強度維持の観点から好ましい。開孔31の大きさは、画像解析システムを使用して計測する。具体的には、光源〔サンライト SL−230K2;LPL(株)社製〕、スタンド〔コピースタンドCS−5;LPL(株)社製〕、レンズ〔24mm/F2.8Dニッコールレンズ〕、CCDカメラ〔(HV−37;日立電子(株)社製)Fマウントによるレンズとの接続〕及びビデオボード〔スペクトラ3200;カノープス(株)社製〕を用いて、表面シート10の第2の面10b側の画像を取り込む。取り込まれた画像をNEXUS社製の画像解析ソフトNEW QUBE(ver.4.20)によって開孔31の部分を二値化処理する。二値化処理された画像から得られる個々の面積の平均値を開孔の大きさとする。
【0026】
開孔31はその端部が、表面シート10の第2の面10b側に突出して、突出部からなる導液管を形成していてもよい。かかる突出部を形成することで、表面シート10のクッション性が一層高くなる。また、突出部を形成することで、表面シート10の下側に位置する吸収体の構造によらず、表面シート10と吸収体との接触を維持できることから、着用者から排泄された液が、表面シート10から吸収体へ効率よく伝達される。
【0027】
表面シート10を構成する繊維としては、天然繊維、半天然繊維、合成繊維等、当該技術分野において従来用いられている繊維を特に制限なく用いることができる。繊維間の詰まりすぎを起こさず、表面シート10に柔軟性を付与する観点から、合成繊維を用いることが好ましい。合成繊維の配合量は、表面シート全体の50重量%以上が好ましく、70%重量以上がより好ましい。もちろん、合成繊維100%から表面シート10を構成してもよい。表面シート10が合成繊維100%からなる場合、着用者の体圧が加わった状態下でも畝溝構造が潰れ難くなるので、表面シート10の第1の面10a側における平面方向の通気性が良好となる。
【0028】
使用する合成繊維としては、例えば自己融着性繊維である芯鞘構造繊維やサイドバイサイド型繊維が挙げられる。この他に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の単繊維や複合繊維を用いることができる。畝溝構造及び開孔形状の成形性や、橋渡しの結合形の成による柔軟性の向上の観点から、ポリエチレンを鞘成分に有する芯鞘構造繊維や、ポリエチレン部分を有するサイドバイサイド型繊維を用いることが好ましい。繊維の(平均)繊度は、1〜6dtexの範囲が好ましい。
【0029】
合成繊維として捲縮繊維を用いると、表面シート10のクッション性が一層向上するので好ましい。捲縮繊維としては、二次元に捲縮した繊維及びコイル状の三次元に捲縮した繊維のいずれも用いることができる。特に熱の付与によってコイル状に三次元捲縮した繊維を表面シート10に含まれていることが好ましい。このような繊維は、潜在捲縮繊維を原料として用いることで、表面シート10に含ませることができる。潜在捲縮繊維は、例えば収縮率の異なる2種類の熱可塑性樹脂を成分とする偏心芯鞘型複合繊維又はサイドバイサイド型複合繊維からなる。その例としては、特開平9−296325号公報や特許2759331号明細書に記載のものが挙げられる。
【0030】
合成繊維として、熱の付与によって伸長する繊維を用いても表面シート10のクッション性が一層高まるので好ましい。この理由は、表面シート10の製造中に付与された熱に起因する繊維間の詰まりが防止されるからである。そのような繊維としては、例えば本出願人の先の出願に係るWO2007/66599が挙げられる。
【0031】
上述の捲縮繊維及び熱伸長性繊維のいずれを用いる場合にも、それらの繊維は、表面シート10中に合計で30〜70重量%配合されていることが好ましい。
【0032】
表面シート10の構成繊維は、その繊維長に特に制限はなく、表面シート10の製造方法に応じてステープルファイバ及び連続フィラメントのいずれも用いることができる。2種以上の繊維を用いる場合、それらの繊維の繊維長は同じでもよく、又は異なっていてもよい。
【0033】
表面シート10は親水化されていることが好ましい。親水化の方法としては、例えば疎水性不織布を親水化剤で処理する方法が挙げられる。また、親水化剤を練り込んだ繊維から不織布を製造する方法が挙げられる。更に、本来的に親水性を有する繊維、例えば天然系や半天然系の繊維を使用する方法が挙げられる。不織布の製造後に、界面活性剤を塗工することでも親水化を行うことができる。
【0034】
図1に示す表面シート10は、単層の構造のものであったが、これに代えて表面シート10を2層以上の多層構造とすることもできる。
【0035】
次に、本実施形態の表面シート10の好適な製造方法について図2を参照しながら説明する。同図には表面シート10の製造に好適に用いられる装置の一例が模式的に示されている。同図に示す装置100は、第1立体賦形部120、第2立体賦形部130及び熱風吹き出し部140を備えている。
【0036】
第1立体賦形部120は押し込み部材121を備えている。押し込み部材121は、後述する凹凸賦形パターン部材110上に載置されたウエブ10’を、該凹凸賦形パターン部材110内に押し込むために用いられる。図2に示す押し込み部材121はロール状のものである。ロール状の押し込み部材121の周面は平滑になっている。この周面は、例えば金属、樹脂、ゴム等から構成されている。押し込み部材121は通常加熱されない状態で使用されるが、必要に応じ加熱して使用してもよい。
【0037】
ロール状の押し込み部材121は、ウエブ10’の搬送方向(図2中、矢印Aで示す方向)と直交する方向に軸線が向くように配置されている。押し込み部材121は、その軸線方向の幅がウエブ10’の幅と概ね同じになっている。押し込み部材121は、その周面がウエブ10’と当接し、かつ該ウエブ10’が凹凸賦形パターン部材110内に押し込まれるような位置に設置されている。押し込み部材121は、ウエブ10’の搬送方向と同方向に回転している。かつ、押し込み部材121は、ウエブ10’の搬送速度と同速度で回転している。
【0038】
第2立体賦形部130は、気体の吹き出しノズル131を備えている。ノズル131は、ウエブ10’の幅方向の全域にわたって気体を吹き付けることが可能な構造になっている。気体としては、空気を用いることが経済的であるが、これに限られるものではなく、例えば窒素等の不活性ガスや希ガスを用いることも可能である。また水蒸気を用いることも可能である。空気や窒素、希ガス等を用いる場合、これらは通常加熱されない状態で使用されるが、必要に応じ加熱して使用してもよい。ノズル131からの気体の噴射は、第1立体賦形部120において立体賦形されたウエブ10’を更に立体賦形するためのものである。ノズル131は、ウエブ10’の直上に設置されている。ウエブ10’を挟んでノズル131と対向する位置には、サクションボックス132が設置されている。サクションボックス132は、ノズル131から噴射された気体を吸引するために用いられる。
【0039】
熱風吹き出し部140は、ウエブ10’を覆うフード141を備えている。フード141内には熱風の吹き出しノズル(図示せず)が備えられている。該ノズルは、ウエブ10’の幅の全域にわたって熱風を吹き付けることが可能な構造になっている。ウエブ10’を挟んでフード141と対向する位置には、サクションボックス142が設置されている。サクションボックス142は、フード141内に設置されたノズルから吹き出された熱風を吸引するために用いられる。
【0040】
図3には、図2に示す装置100に備えられている凹凸賦形パターン部材110の要部を拡大した斜視図が示されている。同図において矢印Aで示す方向は、図2における矢印Aで示す方向と一致しており、ウエブ10’及び凹凸賦形パターン部材110の走行方向を示している。凹凸賦形パターン部材110は、図3中、矢印Aで示す方向を長手方向とするベルト状の部材からなる。凹凸賦形パターン部材110は、その長手方向Aに沿って連続して延びる多数の凹状部111を有している。凹状部111は、凹凸賦形パターン部材110の幅方向Bにおける断面形状が、下に凸の半円形ないし半楕円形となっている。凹凸賦形パターン部材110の幅方向Bにおいて隣り合う凹状部111間には、該凹状部111と同方向Aに延びる凸状部112が位置している。凸状部112は、凹凸賦形パターン部材110の幅方向Bにおける断面形状は、2つの斜辺が下に凸の曲線となっている二等辺三角形の形状となっている。凸状部112は、その延びる方向Aに沿って、断続的に配置された頂部113を有している。頂部113は、凸状部112の延びる方向Aに沿って高さが一定している。また、凸状部112は、該凸状部112の延びる方向Aに沿って前後隣り合う頂部113の間に凹陥部114を有している。凹陥部114は、凹凸賦形パターン部材110の幅方向Bを、視線の軸方向としてみたときに、凸状部112がその頂部113から、下に凸の半円形状ないし半楕円形状にくり抜かれて形成されている。凹陥部114の最底部は、凹状部111の最底部よりも高い位置となっている。
【0041】
図3に示すように、凹凸賦形パターン部材110には、多数の貫通孔115が形成されている。貫通孔115は、凹凸賦形パターン部材110に通気性を賦与する目的で形成されている。凹凸賦形パターン部材110は、例えば合成樹脂、ゴム、金属等から構成されている。
【0042】
凹凸賦形パターン部材110における凹状部111や頂部113、凹陥部114の寸法は、目的とする表面シート10に応じて適切な値が選択される。一般的には、凹状部111におけるB方向の最大幅は1〜10mmであることが好ましい。凹状部111の深さ、すなわち凹状部111の最底部と凸状部112の頂部113との距離は2〜8mmであることが好ましい。凸状部112に関しては、頂部113のA方向に沿う長さは5〜20mmであることが好ましい。凹陥部114のA方向に沿う長さは3〜15であることが好ましい。凹陥部114の深さ、すなわち凹陥部114の最底部と頂部113との距離は0.5〜3mmであることが好ましい。また凹陥部114の最底部と凹状部111の最底部との距離は1〜5mmであることが好ましい。
【0043】
以上の構成を有する装置100を用いた表面シート10の製造方法を、図2及び図4(a)ないし(d)を参照しながら説明する。なお、図4(a)ないし(d)は、繊維ウエブ10’及び凹凸賦形パターン部材110の搬送方向を、視線の軸方向としてみたときの状態を示している。したがって、図4(a)ないし(d)における紙面の左右方向は、図3におけるB方向と一致する。
【0044】
本製造方法においては、先ず熱接着性繊維を含む繊維材料を原料として、繊維ウエブ10’を製造する。繊維ウエブ10’は、例えば原料である繊維材料をカード機によって開繊することで製造される。繊維ウエブ10’の坪量は、目的とする表面シート10の坪量と同じである。したがって繊維ウエブ10’の坪量は、目的とする表面シート10の具体的な用途に応じて適切な値が選択される。繊維ウエブ10’は単層のものでもよく、あるいは多層のものでもよい。本実施形態においては、凹凸賦形パターン部材110における凹状部111の深さよりも厚みの小さい繊維ウエブ10’を用いている。具体的には、凹状部111の深さは、繊維ウエブ10’の厚みの1.1〜2倍であることが好ましい。
【0045】
図4(a)に示すように、繊維ウエブ10’は、凹凸賦形パターン部材110上に載置され、該凹凸賦形パターン部材110とともに搬送される。搬送された繊維ウエブ10’は、図2に示す第1立体賦形部120に導入され、この位置において初回の凹凸賦形加工に付される。この状態を図4(b)に示す。凹凸賦形加工は、第1立体賦形部120に設置された押し込み部材121によって、繊維ウエブ10’を凹凸賦形パターン部材110の凹部111内に押し込むことで達成される。繊維ウエブ10’のうち、凹部111内に押し込まれた部位は、目的とする表面シート10における畝部20となる。また、この押し込みによって、繊維ウエブ10’のうち、凹凸賦形パターン部材110の凸状部112の頂部113上に位置する部位の繊維が、該頂部113によってより分けられる。頂部113によって繊維がより分けられた部位は、目的とする表面シート10における開孔31となる。ところで、繊維ウエブ10’のうち、凸状部112における凹陥部114上に位置する部位の繊維にはより分けが起こらない。したがって、該部位は、凹陥部114内に押し込まれる。この押し込まれた部位は、目的とする表面シート10における溝部30となる。
【0046】
第1立体賦形部120による初回の凹凸賦形加工においては、図4(b)に示すように、繊維ウエブ10’は、凹凸賦形パターン部材110の凹状部111における最底部までは押し込まれない。その結果、繊維ウエブ10’と凹状部111の最底部との間には空間Sが存在している。この空間Sが存在するように繊維ウエブ10’が押し込まれることで、押し込まれた繊維ウエブ10’は、押し込み前の繊維密度をほぼ維持することになる。
【0047】
第1立体賦形部120において初回の凹凸賦形加工に付された繊維ウエブ10’は、凹凸賦形パターン部材内に押し込まれた状態のまま、図2に示す第2立体賦形部130に導入され、この位置において二回目の凹凸賦形加工に付される。この状態を図4(c)に示す。二回目の凹凸賦形加工は、第2立体賦形部130に設置されたノズル131から、繊維ウエブ10’に向けて気体を噴射して、繊維ウエブ10’を凹凸賦形パターン部材110の凹部111内に押し込むことで達成される。押し込みの様子は、初回の凹凸賦形加工と同様である。本凹凸賦形加工で特に留意すべき点は、押し込みの前後において繊維ウエブ10’の繊維密度が実質的に変化しないことである。この理由は、二回目の凹凸賦形加工に付される前の繊維ウエブ10’と凹状部111の最底部との間に空間S(図4(b)参照)が存在しているからである。詳細には、この空間Sが存在することで、気体の吹き付けによって繊維ウエブ10’が凹状部111内に押し込まれても、押し込まれた繊維ウエブ10’は空間Sに向けて移動するのみであり、繊維ウエブ10’の圧縮は実質的に生じない。その結果、押し込みの前後において繊維ウエブ10’の繊維密度が実質的に変化しないことになる。
【0048】
第2立体賦形部130において二回目の凹凸賦形加工に付された繊維ウエブ10’は、凹凸賦形パターン部材内に押し込まれた状態のまま、図2に示す熱風吹き出し部140に導入され、この位置において不織布化及び嵩増加が行われる。詳細には、熱風吹き出し部140から繊維ウエブ10’に向けて吹き付けられた熱風は、エアスルー方式で繊維ウエブ10’を貫通する。それによって繊維ウエブ10’の構成繊維どうしの交点が融着して不織布化が行われる。これとともに、熱風の吹き付けによって、繊維ウエブ10’の構成繊維の嵩が増加する。嵩の増加は、凹凸賦形パターン部材110の凹状部111内に存在している繊維よりも、熱風の吹き付け面及びその近傍に存在している繊維の方が顕著である。この理由は、熱風の吹き付け面及びその近傍に存在している繊維は、嵩の増加に対する抵抗ないし拘束が、凹状部111内に存在している繊維よりも少ないからである。この嵩の増加によって、図4(d)に示すように、繊維ウエブ10’における熱風の吹き付け面が隆起して繊維間距離が大きくなり、該吹き付け面を含む低密度部23が形成される。また、凹状部111内に存在している繊維によって、低密度部23よりも繊維密度の高い部位である畝部本体部22が形成される。このようにして製造された表面シート10は、凹凸賦形パターン部材110から剥離された後、表裏反転されて図1に示す状態となる。
【0049】
吹き付ける熱風の温度は、繊維ウエブ10’に含まれる熱融着性繊維の融着開始温度に応じて適切な値が選択される。一般に、熱融着性繊維の融着開始温度T以上で、かつT+30℃以下、特にT+5℃以上で、かつT+20℃以下の温度の熱風を用いることが、熱融着性繊維の繊維構造を保ちつつ、融着を確実に行う観点、及び繊維の嵩が効果的に増加する観点から好ましい。
【0050】
このようにして、目的とする不織布(表面シート)が得られる。この表面シートは、典型的には液不透過性又は撥水性の裏面シートとともに用いられ、両シート間に液保持性の吸収体を挟持して吸収性物品となされる。そのような吸収性物品としては、例えば生理用ナプキンや使い捨ておむつなど当該技術分野において知られている種々の製品が挙げられる。また、上述の方法で製造された不織布は、吸収性物品の表面シート以外の用途にももちろん使用することができる。そのような用途としては、例えば清掃用シート等が挙げられる。
【0051】
次に、本発明の第2及び第3の実施形態を、図5〜図9を参照しながら説明する。第2及び第3の実施形態に関しては、先に説明した第1の実施形態と異なる点について説明し、特に説明しない点については、先に述べた実施形態に関する説明が適宜適用される。また図5〜図9において、図1〜図4と同じ部材に同じ符号を付してある。
【0052】
図5に示す第2の実施形態の表面シート10は、畝部20の形状が、第1の実施形態と相違している。詳細には、本実施形態においては、X方向における畝部20の断面形状が、第1の面10a側においては、上に凸の緩やかな曲線部分を有する山形の形状を有し、第2の面10b側においては平坦になっている。そして畝部20は、X方向の断面形状において該畝部20の大部分を占める畝部本体部22と、畝部本体部22の厚み方向における一方の側に隣接し、かつ畝部本体部22よりも繊維密度の低い低密度部23とを有している。畝部本体部22は、表面シート10における第2の面10b側に位置しており、第2の面10bの一部をなしている。一方、低密度部23は、表面シート10における第1の面10a側に位置しており、第1の面10aの一部をなしている。畝部20のX方向の断面において、低密度部23は、該X方向に延びる細長い形状をしている。
【0053】
本実施形態における畝部20の低密度部23は、先に説明した第1の実施形態における低密度部よりも更に繊維密度が低いことが好ましい。このようにするためには、例えば後述する本実施形態の表面シート10の製造において、細繊維径の繊維を用い、繊維間距離を大きくすればよい。
【0054】
本実施形態の表面シート10によれば、着用者の肌に対向する面である第1の面10a側に低密度部23が位置しているので、表面シート10の風合いが良好なものとなる。また低密度部23は、畝部本体部22に比べて毛管力が小さいので、該低密度部23に液が滞留しづらい。その結果、表面シート10の第1の面10a側は湿潤感の低いさらっとしたものとなる。
【0055】
本実施形態の表面シート10は、第1の実施形態に関連して説明した図2に示す装置を用いて製造できる。ただし、本実施形態においては、凹凸賦形パターン部材110として、凹状部111の深さが第1の実施形態のものよりも深い凹凸賦形パターン部材110を用いる。かかる凹凸賦形パターン部材110を用いた本実施形態の表面シート10の製造方法を、図6(a)ないし(d)を参照しながら説明する。図6(a)ないし(d)においては、紙面の左右方向は、図5におけるX方向と一致する。
【0056】
図6(a)に示すように、繊維ウエブ10’は、凹凸賦形パターン部材110上に載置され、該凹凸賦形パターン部材110とともに搬送される。凹凸賦形パターン部材110における凹部111の深さは、繊維ウエブ10’の厚みよりも十分に大きい。具体的には、凹部111の深さは、繊維ウエブ10’の厚みの1.2〜3倍であることが好ましい。搬送された繊維ウエブ10’は、図2に示す第1立体賦形部120に導入され、この位置において図6(b)に示すように、初回の凹凸賦形加工に付される。この凹凸賦形加工によって、繊維ウエブ10’は、凹凸賦形パターン部材110の凹部111内に押し込まれる。これによって、繊維ウエブ10’には、目的とする表面シート10における畝部20、溝部30及び開孔31の原形となる部位が形成される。
【0057】
第1立体賦形部120による初回の凹凸賦形加工においては、凹凸賦形パターン部材110における凹部111の深さが、繊維ウエブ10’の厚みよりも十分に大きいので、図6(b)に示すように、繊維ウエブ10’は凹状部111における最底部までは押し込まれない。その結果、繊維ウエブ10’と凹状部111の最底部との間には空間Sが存在している。この空間Sが存在するように繊維ウエブ10’が押し込まれることで、押し込まれた繊維ウエブ10’は、押し込み前の繊維密度をほぼ維持することになる。
【0058】
初回の凹凸賦形加工に付された繊維ウエブ10’は、凹凸賦形パターン部材内に押し込まれた状態のまま、図2に示す第2立体賦形部130に導入され、図6(c)に示すように二回目の凹凸賦形加工に付される。二回目の凹凸賦形加工は、第2立体賦形部130に設置されたノズル131から、繊維ウエブ10’に向けて気体を噴射して、繊維ウエブ10’を凹凸賦形パターン部材110の凹部111内に押し込むことで達成される。この押し込みは、繊維ウエブ10’の繊維密度が、押し込み前よりも高くなるような条件で行うことが好ましい。具体的には、70〜110℃に加熱された、空気や水蒸気のような気体を、高圧で繊維ウエブに吹き付けるとともに、凹凸賦型パターンにおける繊維ウエブとの反対面側から吸引するという操作によって、押し込み後の繊維ウエブ10’の繊維密度が、押し込み前よりも高くなる。二回目の凹凸賦形加工において特に留意すべき点は、押し込みの後においても、繊維ウエブ10’と凹状部111の最底部との間には空間S’が存在していることである。空間S’が存在していることは、次に述べる繊維ウエブ10’の嵩増加のために重要な要素である。
【0059】
二回目の凹凸賦形加工に付された繊維ウエブ10’は、凹凸賦形パターン部材内に押し込まれた状態のまま、図2に示す熱風吹き出し部140に導入され、この位置において不織布化及び嵩増加が行われる。繊維ウエブ10’の不織布化は第1の実施形態の場合と同様である。一方、嵩の増加は、第1の実施形態の場合と異なり、熱風の吹き付け面ではなく、上述した空間S’において優先的に生じる。この理由は、繊維ウエブ10’における熱風の吹き付け面は、熱風の吹き付け圧によって嵩の増加が抑制された状態になっているのに対し、空間S’に臨む繊維ウエブ10’の下面では、そのような抑制がないからである。その結果、図6(d)に示すように、空間S’に臨む繊維ウエブ10’の下面及びその近傍の部位が、該空間S’内に向けて下方に隆起して繊維間距離が大きくなり、低密度部23が形成される。繊維ウエブ10’における熱風の吹き付け面は、吹き付け圧によって平坦になる。また、低密度部23の上側に畝部本体部22が形成される。このようにして製造された表面シート10は、凹凸賦形パターン部材110から剥離された後、表裏反転されて図5に示す状態となる。
【0060】
図7に示す第3の実施形態の表面シート10は、畝部20の形状が、第1及び第2の実施形態と相違している。詳細には、本実施形態においては、X方向における畝部20の断面形状が、第1の面10a側においては、上に凸の緩やかな曲線部分を有する山形の形状を有し、第2の面10b側においては第1の面10a側よりも更に緩やかな上に凸の曲線部分を有する山形の形状を有している。そして畝部20は、X方向の断面形状において該畝部20の大部分を占める畝部本体部22と、畝部本体部22の厚み方向における一方の側に隣接し、かつ畝部本体部22よりも繊維密度の低い低密度部23とを有している。畝部本体部22は、表面シート10における第2の面10b側に位置しており、第2の面10bの一部をなしている。一方、低密度部23は、表面シート10における第1の面10a側に位置しており、第1の面10aの一部をなしている。畝部20のX方向の断面において、低密度部23は、該X方向に延びる細長い形状をしている。
【0061】
更に本実施形態においては、畝部20は、低密度部23が形成されている側と反対側に、畝部本体部22よりも繊維密度の高い高密度部24を有している。高密度部24は、畝部20の長手方向Yに沿う両側部に形成されている。高密度部24は、畝部20の長手方向Yに沿って連続して延びている。更に、高密度部24の外側には、第2の低密度部25が形成されている。第2の低密度部25は、高密度部24と概ね等幅で、畝部20の長手方向Yに沿って連続して延びている。高密度部24や第2の低密度部25は、表面シート10のX方向の縦断面の顕微鏡観察から目視によってそれらの位置を判断することができる。
【0062】
高密度部24の繊維密度は、畝部本体部22の繊維密度よりも高いことを条件として、0.03〜0.15g/cm3、特に0.04〜0.1g/cm3であることが好ましい。第2の低密度部25の繊維密度は、低密度部24の繊維密度と同程度とすることができる。
【0063】
高密度部24及び第2の低密度部25の繊維密度は第1の実施形態と同様の方法で測定される。
【0064】
本実施形態によれば、第2の実施形態の表面シートと同様の効果が奏される。これに加え、本実施形態によれば、第2の面10b側に形成された高密度部24の毛管力の作用によって、第1の面10a側から第2の面10b側への液の移動が促進され、表面シート10の第1の面10a側の湿潤感が第2の実施形態よりも一層低減する。
【0065】
本実施形態の表面シート10は、図8に示す装置100を用いて好適に製造される。同図に示す装置100は、第1の実施形態の表面シートの製造に関連して説明した図2に示す装置と比較して、第1立体賦形部120と第2立体賦形部130の配置の順序が逆になっている。つまり、図8に示す装置100では、繊維ウエブ10’の搬送方向Aに関して、第2立体賦形部130が上流側に配置され、第1立体賦形部120が下流側に配置されている。同図に示す装置100と図2に示す装置とが更に異なる点は、押し込み部材121の形状である。図2に示す装置においては、押し込み部材の周面は平滑であったが、本実施形態で用いる押し込み部材121の周面には、凹凸賦形パターン部材110の凹凸と噛み合う形状の凹凸が形成されている。
【0066】
以上の構成を有する装置100を用いた本実施形態の表面シート10の製造方法を、図8及び図9(a)ないし(c)を参照しながら説明する。なお、図9(a)ないし(c)における紙面の左右方向は、図7におけるX方向と一致する。
【0067】
本製造方法に用いられる凹凸賦形パターン部材110における凹部111の深さは、繊維ウエブ10’の厚みよりも十分に大きい。具体的には、凹部111の深さは、繊維ウエブ10’の厚みの1.2〜3倍であることが好ましい。繊維ウエブ10’は、図8に示す第2立体賦形部130に導入され、この位置において図9(a)に示すように、初回の凹凸賦形加工に付される。この凹凸賦形加工によって、繊維ウエブ10’は、凹凸賦形パターン部材110の凹部111内に押し込まれる。これによって、繊維ウエブ10’には、目的とする表面シート10における畝部20、溝部30及び開孔31の原形となる部位が形成される。この場合、第2立体賦形部130における気体の吹き付けの程度を大きくすることで、繊維ウエブ10’の変形の程度を大きくすることができる。変形の程度が大きくなることで繊維間距離が増大するので、押し込まれた状態の繊維ウエブ10’の繊維密度は、押し込み前の繊維密度よりも小さくなる。また、図9(a)に示すように、繊維ウエブ10’は、凹凸賦形パターン部材110の凹状部111における最底部までは押し込まれない。その結果、繊維ウエブ10’と凹状部111の最底部との間には空間Sが存在している。
【0068】
初回の凹凸賦形加工に付された繊維ウエブ10’は、凹凸賦形パターン部材内に押し込まれた状態のまま、図8に示す第1立体賦形部120に導入され、図9(b)に示すように二回目の凹凸賦形加工に付される。二回目の凹凸賦形加工では、押し込み部材121によって繊維ウエブ10’を凹凸賦形パターン部材110の凹部111内に更に押し込む。先に述べたとおり、押し込み部材121の周面は、凹凸賦形パターン部材110の凹凸と噛み合う形状になっているので、押し込み部材121は、凹凸賦形パターン部材110の凹部111内にまで進入する。この場合、凹部111の壁面と押し込み部材121との間に位置する繊維には、圧縮力に加えて強い剪断力が加わる。その結果、繊維ウエブ10’においては、凹部111の壁面と押し込み部材121との間に位置する部位での繊維密度が増加する。繊維密度が増加した部位は、上述した高圧縮部24に相当する。二回目の凹凸賦形加工においては、第2の実施形態と同様に、押し込みの後においても、繊維ウエブ10’と凹状部111の最底部との間に空間S’が存在している。
【0069】
二回目の凹凸賦形加工に付された繊維ウエブ10’は、凹凸賦形パターン部材内に押し込まれた状態のまま、図8に示す熱風吹き出し部140に導入され、この位置において不織布化及び嵩増加が行われる。繊維ウエブ10’の不織布化は第1及び第2の実施形態の場合と同様である。一方、嵩の増加は、上述した空間S’において優先的に生じる。この理由は第2の実施形態の説明で述べたとおりである。この嵩の増加によって、低密度部23が形成される。
【0070】
更に本実施形態においては、二回目の凹凸賦形加工において形成された高密度部24の一部が、熱風の吹き付けによって圧密化状態から解放されて、嵩の増加を生じる。このようにして、高密度部24に重なる状態で第2の低密度部25が形成される。このようにして製造された表面シート10は、凹凸賦形パターン部材110から剥離された後、表裏反転されて図7に示す状態となる。
【0071】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記の各実施形態を適宜組み合わせて他の実施形態を構成してもよい。
【0072】
また、前記の各実施形態の表面シートには、エンボス加工等の圧密化手段は施されていないことが好ましいが、必要に応じ、圧密化手段を施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、本発明の不織布の第1の実施形態の要部を拡大して示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す実施形態の不織布の製造に好適に用いられる装置を示す模式図である。
【図3】図3は、図2に示す装置に備えられている凹凸賦形パターン部材の要部を拡大して示す斜視図である。
【図4】図4(a)ないし(d)は、図2に示す装置を用いて不織布を製造する様子を順次示す工程図である。
【図5】図5は、本発明の不織布の第2の実施形態の要部を拡大して示す斜視図(図1相当図)である。
【図6】図6(a)ないし(d)は、図5に示す不織布を製造する様子を順次示す工程図である。
【図7】図7は、本発明の不織布の第3の実施形態の要部を拡大して示す斜視図(図1相当図)である。
【図8】図8は、図7に示す実施形態の不織布の製造に好適に用いられる装置を示す模式図(図2相当図である。
【図9】図9(a)ないし(c)は、図7に示す不織布を製造する様子を順次示す工程図である。
【符号の説明】
【0074】
10 不織布(表面シート)
20 畝部
21 頂部
22 畝部本体部
23 低密度部
24 高密度部
25 第2の低密度部
30 溝部
31 開孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に畝状に延びる多数の畝部と、隣り合う畝部間に位置し、かつ畝部と同方向に延びる多数の溝部と有し、溝部に開孔が形成された不織布であって、
畝部は、畝部本体部と、該畝部本体部の厚み方向における一方の側に隣接し、かつ該畝部本体部よりも繊維密度の低い低密度部とを有している不織布。
【請求項2】
畝部全体が、実質的に同種の繊維から構成されている請求項1記載の不織布。
【請求項3】
畝部本体部における低密度部が形成されている側の反対側に、該畝部本体部よりも繊維密度の高い高密度部を更に有し、
高密度部は、畝部の長手方向に沿う両側部に形成されている請求項1又は2記載の不織布。
【請求項4】
低密度部が、畝部の頂部に位置している請求項1又は2記載の不織布。
【請求項5】
請求項1記載の不織布の製造方法であって、
凹凸賦形パターン部材上に載置されたウエブを、押し込み部材によって該凹凸賦形パターン部材内に押し込む工程と、
凹凸賦形パターン部材内に押し込まれた状態のウエブに気体流を吹き付けて、該ウエブを該凹凸賦形パターン部材内に更に押し込む工程と、
凹凸賦形パターン部材内に更に押し込まれた状態のウエブに熱風を吹き付けて、該ウエブの構成繊維の交点を融着させる工程とを具備する不織布の製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の不織布の製造方法であって、
凹凸賦形パターン部材内に載置されたウエブに気体流を吹き付けて、該ウエブを該凹凸賦形パターン部材内に押し込む工程と、
凹凸賦形パターン部材内に押し込まれた状態のウエブを、押し込み部材によって該凹凸賦形パターン部材内に更に押し込む工程と、
賦形パターン部材内に更に押し込まれた状態のウエブに熱風を吹き付けて、該ウエブの構成繊維の交点を融着させる工程とを具備する不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−299227(P2009−299227A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156030(P2008−156030)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】