説明

不織布

【課題】液に濡れると厚みが減少して該液を効率良く透過させると共に、液の透過後には該液を表面に戻しにくい不織布、及び液戻り量の少ない吸収性物品を提供すること。
【解決手段】本発明の不織布10は、融点が相互に異なる第1及び第2の成分を有する複合繊維を含み、該複合繊維どうしの交点が熱融着した熱融着点が多数形成されている。本発明の不織布10は、乾燥状態から湿潤状態に変化したときの厚み変化率が15%以上である。また、本発明の吸収性物品は、表面シート、裏面シート及び両シート間に位置する吸収体を具備し、該表面シートが、本発明の不織布10からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布に関し、詳しくは吸収性物品の表面シート等として好ましく用い得る不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生理用ナプキンや使い捨ておむつ等の吸収性物品の表面シートとして、不織布が広く用いられている。斯かる不織布には、表面に供給された液を素早く吸収体に移行させ、表面に液を残さない性質(液残り)と、一旦移行させた液を不織布の表面に液戻り(逆戻りまたはウエットバック)させない性質とが要求される。
不織布の厚みを小さくすると、一般的に、液残りは少なくなるが、液戻りが多くなり、厚みを大きくすると、液戻りは防げるが、そもそも液が吸収体に移行しにくくなり、液残りが多くなり、単純な厚みの制御では、高い次元で両者を実現させることはできなかった。
その要求に応える方法として、連続フィラメントの厚み方向に親水性や繊維密度の勾配を持たせる方法(特許文献1参照)や不織布の厚み方向に親水性の勾配を持たせる方法(特許文献2参照)が知られている。
しかし、前記方法には、勾配を持たせる処理に手間が掛かる、装置の制約がある、要求される性能が得られない場合がある等の欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−314825号公報
【特許文献2】特開2005−87659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
表面シート等として用いたときの液残り量と液戻り量を低減できる新規な方法があれば、その単独使用あるいは従来の方法との併用により、幅広い条件下において、液残りと液戻りを効率的に防止ないし軽減できる。
【0005】
従って、本発明の課題は、液に濡れると厚みが減少して該液を効率良く透過させると共に、液の透過後には該液を表面に残しにくい不織布、及び液戻り量の少ない吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、融点が相互に異なる第1及び第2の成分を有する複合繊維を含み、該複合繊維どうしの交点が熱融着した熱融着点が多数形成されている不織布であって、乾燥状態から湿潤状態にしたときの厚み変化率が15%以上である不織布を提供することにより前記課題を解決したものである。
本発明の一実施形態である不織布においては、前記の複合繊維として、第1の成分がポリプロピレン樹脂又はポリエチレンテレフタレート樹脂であり、第2の成分が第1の成分よりも融点の低い樹脂であり、ヤング率が0.2〜1.0GPaの繊維を含んでいる(以下、この不織布を、不織布Aともいう)。
また、本発明は、表面シート、裏面シート及び両シート間に位置する吸収体を具備する吸収性物品において、前記表面シートが前記不織布Aからなり、少なくとも該吸収体側に向けられる面側がヤング率0.2〜1.0GPaの繊維を含んでいる吸収性物品を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の不織布は、液に濡れると厚みが減少して該液を効率良く透過させると共に、液の透過後には該液を表面に残しにくいものである。
本発明の吸収性物品によれば、液戻り量の少ない吸収性物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、低ヤング率繊維の製造に用い得る紡糸装置を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の不織布の一実施形態を示す斜視図である。
【図3】図3は、図2に示す不織布の厚み方向に沿う断面の一部拡大図である。
【図4】図4は、低ヤング率繊維を用いて不織布を製造する工程を示す模式図である。
【図5】図5は、本発明の不織布の他の実施形態を示す図(図3相当図)である。
【図6】図6は、本発明の不織布の実施形態の作用効果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の不織布は、融点が相互に異なる第1及び第2の成分を有する複合繊維を含み、該複合繊維どうしの交点が熱融着した熱融着点が多数形成されている不織布であり、乾燥状態から湿潤状態に変化したときの厚み変化率が15%以上である。
【0010】
本発明の一実施形態である不織布は、ヤング率0.2〜1.0GPaの繊維(以下、低ヤング率繊維ともいう)を構成繊維として含むものである。
不織布が液に濡れたり、浸された状態になると、液の表面張力が不織布に作用する。その結果、不織布の厚みを減少させようとする力がかかり、低ヤング率繊維を含むことで、該不織布の厚みと不織布中の繊維間距離が狭まる。このことにより、吸収体からの液を引きこもうとする力が不織布肌面側に、より効率的に伝わり、不織布の表面側の液が、不織布の一面側から他面側へとスムーズに移行するようになる。本発明の不織布を、生理用ナプキン等の吸収性物品の表面シートとして用いたときには、着用者の肌側に向けられる面側に供給された液が、その面側から吸収体側の面側へとスムーズに液が移行するようになる。
【0011】
低ヤング率繊維のヤング率は1.0GPa以下であり、より好ましくは0.8GPa以下でさらに好ましくは0.65GPa以下である。ヤング率1.0GPa以下である場合、液吸収時における不織布の繊維間距離および厚みの減少が生じ易くなり、液の移行性の向上効果が得られ易くなる。
また、低ヤング率繊維のヤング率は0.2GPa以上が好ましく、より好ましくは0.4GPa、さらにより好ましくは0.5GPa以上である。ヤング率が0.2GPa以上である場合は、乾燥状態の厚みが維持され、液戻りが起こりにくくなる。
【0012】
また、本発明の不織布においては、繊維どうしの交点が熱融着した熱融着点が多数形成されている(図示略)。斯かる熱融着点は、熱接着性合成繊維からなるウエブや不織布に熱処理を施すことにより形成することができる。熱処理の方法としては、熱風処理が好ましく、特にエアースルー方式の熱風処理が好ましい。構成繊維どうしの熱融着点は、少なくとも低ヤング率繊維どうしが互いの交点において熱融着した熱融着点を含むことが好ましい。また、熱融着点は、通常、不織布内に3次元的に分散していることが好ましい。
不織布が、構成繊維どうしの熱融着点を有することで、繊維間距離を縮めていた液が不織布外に抜けた後の厚み復元性に優れたものとなる。本発明の不織布を、生理用ナプキン等の吸収性物品の表面シートとして用いた場合、不織布が厚み復元性に優れることで、吸収体に移行した液が表面シート表面に逆戻りする液戻り現象(ウエットバック)が生じにくくなる。
【0013】
本発明の不織布は、単層の不織布であっても良いし、多層構造の不織布であっても良い。何れの場合も少なくとも片面側が、低ヤング率繊維を主体として構成されていることが好ましい。
例えば、単層構造の不織布の場合、不織布の全構成繊維中における低ヤング率繊維の割合が、50質量%〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは80質量%〜100質量%であり、更に好ましくは90質量%〜100質量%である。
一方、多層構造の不織布の場合、不織布の片面を構成する層の全繊維中における低ヤング率繊維の割合が、50質量%〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは80質量%〜100質量%であり、更に好ましくは90質量%〜100質量%である。
多層構造の不織布の全構成繊維中における低ヤング率繊維の割合は、50質量%〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは80質量%〜100質量%であり、更に好ましくは90質量%〜100質量%である。
【0014】
不織布の構成繊維のヤング率は、以下のようにして測定することができる。
〔ヤング率の測定方法〕
セイコーインスツルメンツ(株)製の熱機械的分析装置TMA/SS6000を用いる。測定環境温度は25℃とする。試料としては、繊維長さが10mm以上の繊維を繊維長さ10mmあたりの合計重量が0.5mgとなるように複数本採取したものを用意し、その複数本の繊維を平行に並べた後、チャック間距離10mmで装着し、0.73mN/dtexの一定荷重を負荷する。その後、240mN/minの条件下で応力−歪み曲線を得た後、歪みが0.1%時における曲線の接線の傾きをヤング率とする。
【0015】
低ヤング率繊維としては、ヤング率が0.2〜1.0GPaであり、熱風処理等の熱処理により繊維どうしが熱融着した熱融着点を形成し得る繊維であれば、特に制限なく使用することができる。
低ヤング率繊維として好ましい繊維としては、鞘部がポリエチレン樹脂(PE)、芯部がポリプロピレン樹脂(PP)からなり、該ポリプロピレン樹脂(PP)の結晶化度が低い芯鞘型の熱接着性複合繊維等が挙げられる。
別の低ヤング率繊維として好ましい繊維としては、鞘部がポリエチレン樹脂(PE)、芯部がポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)からなり、該ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)の結晶化度が低い芯鞘型の熱接着性複合繊維等が挙げられる。
これらのPPやPETを芯に用いる理由としては、他の樹脂に比べてコストが安いこと、鞘に用いると風合いの良く、ヒートシール性の良いPEと融点差が適度であるため、繊維の製造上や不織布の製造上有利な点が上げられる。
【0016】
従来、この種の熱接着性複合繊維は、一般に、低融点樹脂が熱接着性を発現し、高融点樹脂が繊維として強度を維持する役割を担うものである。一方、繊維を溶融状態から細化させながら紡糸する際には、高融点成分は、先に固化することで優先的にテンションがかかり、その結果、高融点樹脂の配向結晶化が促進され、強度(ヤング率)を維持するのに好都合であった。
しかし、ヤング率の低い繊維を作ろうとすると、高融点の樹脂が溶けた状態のまま、テンションを低く設定することが必要となり、そういう条件での安定製造条件は不可能であった。また、無理に、高融点の樹脂を溶けたまま、紡糸をしようとすると、紡糸中のわずかなテンションでも、糸が切れたり、不安定な太さの糸ができてしまうなどの課題が生じ、紡糸を安定的に行うということは困難であった。また、折角ヤング率の低い繊維を使用しても不織布にするときに、従来の条件で不織布化してしまうと、不織布の厚みがなくなり、液戻りの多い不織布となるために、ヤング率が低いという物性は、繊維にとって、好ましくない物性であるとの既成概念があった。その結果、1.5〜6.0GPa程度のヤング率を持つ繊維が一般的であった。
しかし、われわれは、後述する方法により、ヤング率の低い繊維の製造方法とそれを嵩高く不織布化し、有効に利用する方法を見出した。
【0017】
ヤング率が低い複合繊維においては、繊維の強度の大部分を担う、高融点樹脂は、その結晶化度が低いことが好ましい。高融点樹脂の種類により、上述のヤング率を達成する結晶化度は自ずと異なるが、ポリプロピレン樹脂(PP)の場合には、結晶化度が60%以下であることが好ましく、さらに好ましくは50%以下、ことさらに好ましくは45%以下である。
芯部を構成する樹脂がポリエチレンテレフタレート(PET)の場合には、結晶化度は45%以下が好ましく、さらに好ましくは、30%以下、さらに好ましくは15%以下である。
また、芯部を構成する樹脂は、配向指数が低いことが好ましい。例えば、ポリプロピレン樹脂の場合は、配向指数が60%以下、特に40%以下、さらには25%以下であることが好ましい。ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)の場合は、配向指数が50%以下、特に20%以下、さらには10%以下であることが好ましい。
【0018】
芯部を構成する樹脂の前記結晶化度は、以下の方法により求める。
〔繊維の結晶化度の測定方法〕
結晶化度χは、式(1)から求めた。
χ=(1−(ρc−ρ)/(ρc−ρa)) ×100 (1)
ただし、ρcは樹脂の結晶の密度であり、PPでは0.936[g/cm3]、PETでは1.457[g/cm3](文献3)である。ρaは樹脂の非晶の密度であり、PPでは0.850[g/cm3]、PETでは1.335[g/cm3](文献3)である。
また、ρ=ρc−(ρc−ρa)×(Lorentz密度B−Lorentz密度A)/(Lorentz密度B−Lorentz密度C) (2)である。
ここで、Lorentz密度Aは、次式(3)から求めた。
【数1】

また、Lorentz密度Bは、それぞれの樹脂種の結晶の屈折率をnとして式(3)に代入して求められ、PP樹脂では、n=1.52、PET樹脂では、n=1.64(それぞれ文献2、文献1)を使用した。また、Lorentz密度Cは、それぞれの樹脂種の非晶の屈折率をnとして式(3)に代入して求められ、PP樹脂では、n=1.47、PET樹脂では、n=1.58(それぞれ文献2、文献1)を使用した。
【0019】
〔参考文献1〕「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」(発行所:日刊工業新聞社、初版、1989年)
〔参考文献2〕「POLYMER HANDBOOK」(A WILEY−INTERSCIENCE PUBLICATION、1999年)
なお、結晶化度は、その測定方法や条件により、結晶とみなされる構造が異なるため、異なる測定方法、条件間での絶対値の議論はできないことが一般的である。
【0020】
芯部を構成する樹脂の前記配向指数は、以下の方法により測定することができる。
〔配向指数の測定方法〕
配向指数は、繊維における樹脂の複屈折の値をCとし、樹脂の固有複屈折の値をDとしたとき、以下の式(5)で表される。
配向指数(%)=(C/D)×100 (5)
【0021】
固有複屈折とは、樹脂の高分子鎖が完全に配向した状態での複屈折をいい、その値は例えば「成形加工におけるプラスチック材料」初版、付表 成形加工に用いられる代表的なプラスチック材料(プラスチック成形加工学会編、シグマ出版、1998年2月10日発行)に記載されている。
【0022】
複合繊維における複屈折は、干渉顕微鏡に偏光板を装着し、繊維軸に対して平行方向及び垂直方向の偏光下で測定する。浸漬液としてはCargille社製の標準屈折液を使用する。浸漬液の屈折率はアッベ屈折計によって測定する。干渉顕微鏡により得られる複合繊維の干渉縞像から、以下の参考文献3に記載の算出方法で繊維軸に対し
【数2】

を求め、両者の差である複屈折を算出する。
〔参考文献3〕「プラスチック成形品の高次構造解析入門」(編者(社)プラスチック成形加工学会、初版、2006年)
【0023】
低ヤング率繊維として好ましく用いうる熱接着性複合繊維は、例えば、エチレン樹脂(PE)とポリプロピレン樹脂(PP)を原料とし、鞘部がPE、芯部がPPの芯鞘型複合繊維を製造するに際し、芯部のポリプロプロピレン樹脂の結晶化を抑制することによって製造できる。
また、低ヤング率繊維として好ましく用いうる熱接着性複合繊維は、例えば、エチレン樹脂(PE)とポリエチレントレフタレート樹脂(PET)を原料とし、鞘部がPE、芯部がPETの芯鞘型複合繊維を製造するに際し、芯部のポリエチレンテレフタレート樹脂の結晶化を抑制することによっても製造できる。
【0024】
高融点樹脂の結晶化度もしくは配向度を抑制させながら紡糸中のテンションを維持あるいはあげる為には、相対的に低融点樹脂の固化を高融点樹脂の固化よりも早めて、鞘樹脂にテンションを担わせてやればよい。ここで、固化とは、紡糸線上で、急激に粘度が上昇する状態を意味する。その方法として、高融点樹脂の紡糸温度を低融点樹脂の紡糸温度よりも上げる、紡糸速度を上げてせん断速度を大きくすることにより低融点樹脂の結晶化速度を大きくして固化を早める方法、鞘部に低融点樹脂を用いている場合における紡糸温度全体を上げて鞘を先に冷やす方法、鞘樹脂に核剤を配合して結晶化を促進する方法等が挙げられる。
【0025】
低融点の樹脂成分の押出温度(紡糸温度)は、該樹脂の融点に対して、80℃〜250℃高い温度とすることが好ましく、130℃〜170℃高い温度とすることがより好ましい。
また、高融点樹脂は低融点樹脂の紡糸温度と同程度の温度以上、好ましくは30℃以上、さらに好ましくは50℃以上高い温度で紡糸することが好ましい。
【0026】
鞘樹脂の結晶化を促進する核剤としては、1,3:2,4−ジベンジリデンソルビトール、1,3:2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール等のジアセタール系化合物系核剤、テトラヒドロフタル酸やヘキサヒドロフタル酸等の脂環式多塩基酸のアルキルエステル(好ましくは炭素数8〜22アルキルエステル)系核剤、アジピン酸、セバシン酸やアゼライン酸等の脂肪族多塩基酸のアルキルエステル(好ましくは炭素数8〜22アルキルエステル)系核剤、トリカルバリル酸のトリス(2−メチルシクロヘキシルアミド)等を好ましく用いることができる。無機系の顔料を入れることも同様の効果を及ぼす。
【0027】
前記方法は、何れか一つを単独で使用することもできるが、複数の方法を組み合わせて使用することもできる。また、紡出糸の引き取り速度を従来の一般的な速度より高める方法等を組み合わせることもできる。
尚、紡出糸の引き取り速度は、500m/分以上であることが好ましく、1000m/分以上、さらに好ましくは1500m/分以上である。
【0028】
図1に示す紡糸装置は、押出機1A,2Aとギアポンプ1B,2Bとからなる二系統の押出装置1,2、及び紡糸口金3を備えている。紡糸口金3は、押出機1A,2A及びギアポンプ1B,2Bによって溶融され且つ計量された各樹脂成分は、紡糸口金3内で合流しノズルから吐出される。紡糸口金3の形状は、目的とする複合繊維の形態に応じて適切なものが選択される。好ましい実施形態においては、芯部を形成する樹脂の周囲を鞘部を形成する樹脂が取り囲んだ状態となって両樹脂成分がノズルから吐出されるようになされており、そのようなノズルが円形の領域内に分散した状態に多数形成されている。紡糸口金3の直下には引取装置4が設置されており、ノズルから吐出された溶融樹脂が所定の速度で下に引き取られる。図1に示す実施形態においては、引き取った低ヤング率繊維の束を、適宜の収容部6に収容している。
【0029】
上記の方法により製造した低ヤング率繊維は、紡糸後に捲縮処理及び加熱処理が行われたものであり、且つ実質的に延伸処理は行なわないことが好ましい。つまり、低ヤング率繊維は、未延伸繊維であることが好ましい。なお、捲縮処理は、例えば、捲縮装置(図示せず)で施され、次いで、乾燥処理(図示せず)を経て、切断装置(図示せず)で所定の長さにカットされて短繊維とされる。
【0030】
低ヤング率繊維として用いる芯鞘型複合繊維の鞘部を構成する樹脂成分は、繊維どうしが熱融着した熱接着点を形成させる観点からポリエチレン樹脂であることが好ましい。ポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等を使用できるが、密度0.941g/cm3以上である高密度ポリエチレンであることが好ましい。本願でいうポリエチレン
樹脂とは、ポリエチレン樹脂単独である場合の他、他の樹脂をブレンドすることも含まれる。ブレンドする他の樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等が挙げられる。但し、鞘部を構成する樹脂成分は、鞘部の樹脂成分中の50質量%以上が、特に70〜100質量%がポリエチレン樹脂であることが好ましい。
【0031】
低ヤング率繊維として用いる芯鞘型複合繊維の芯部を構成する樹脂成分としての好ましい例としては、ポリプロピレン樹脂が挙げられる。ポリプロピレン樹脂は、上述したように結晶化度が低いことが好ましく、また配向指数が低いことが好ましい。本願でいうポリプロピレン樹脂とは、ポリプロピレン樹脂単独である場合の他、この他の樹脂をブレンドすることも含まれる。ブレンドする他の樹脂としては、ポリエチレン樹脂等が挙げられる。但し、芯部を構成する樹脂成分は、芯部の樹脂成分中の70質量%以上が、特に80〜100質量%がポリプロピレン樹脂であることが好ましい。
低ヤング率繊維として用いる芯鞘型複合繊維の芯部を構成する樹脂成分としての別の好ましい例としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂が挙げられる。ポリエチレンテレフタレート樹脂は、上述したように結晶化度が低いことが好ましく、また配向指数が低いことが好ましい。本願でいうポリエチレンテレフタレート樹脂とは、ポリエチレンテレフタレート樹脂単独である場合の他、この他の樹脂をブレンドすることも含まれる。ブレンドする他の樹脂としては、ポリエチレン樹脂等が挙げられる。但し、芯部を構成する樹脂成分は、芯部の樹脂成分中の70質量%以上が、特に80〜100質量%がポリエチレンテレフタレート樹脂であることが好ましい。
【0032】
また、低ヤング率繊維として用いる芯鞘型複合繊維は、芯部と鞘部の断面積比(芯:鞘)が2:8〜8:2であることが好ましく、4:6〜7:3であることがより好ましい。
また、低ヤング率繊維の太さ(繊度)は、例えば不織布等の具体的な用途に応じて適切な範囲が選択されるが、ヤング率の低さ及びそれによる効果を確実に得る観点から、1.0〜10.0dtexが好ましく、2.0〜8.0dtexであることがより好ましい。
【0033】
図2及び図3は、本発明の不織布の第1実施形態である不織布10を示す図である。第1実施形態の不織布10は、例えば、図4に示すように、低ヤング率繊維の短繊維を原材料として、カード機11を用いてウエブ12を形成した後、該ウエブ12を一対のロール14,15を備えたヒートエンボス装置13に導入してエンボス加工を行い、更にエンボス加工後のウエブ16に、エアースルー方式による熱風処理装置17により熱処理を施して得られる。
エンボス加工に用いた一対のロールは、一方は、格子状パターンのエンボス用凸部が周面に形成されたエンボスロール14であり、他方は、平滑な周面を有し、該エンボスロールに対向配置されたフラットロール15である。エンボス加工は、ウエブを、エンボスロール14の凸部とフラットロール15の平滑な周面との間で加圧し圧縮することにより行う。これにより、エンボス加工により形成された厚みの薄い部分(エンボス部)18と、それ以外の厚みの厚い部分19とを有する不織布が得られる。
【0034】
不織布10は、その片面が凹凸形状を有する凹凸面10bとなっており、他面が、平坦であるか又は前記凹凸面に比して凹凸の程度が小さい平坦面10aとなっている。
不織布10における厚みの厚い部分19と厚みの薄い部分18とは、不織布10の凹凸面10bに、凸部119と凹部118を形成している。凹部118は、互いに平行に延びる第1の線状部118aと、互いに平行に延びる第2の線状部118bとを有しており、第1の線状部118aと第2の線状部118bとが所定の角度をなして交差している。凸部119は、凹部118に囲まれた菱形状の閉鎖領域内に形成されている。
【0035】
(低ヤング率の不織布を嵩高く製造する方法)
従来エアースルー方法では、0.8m/sec以上の風速が一般的であるが、低ヤング率の不織布を嵩高くするためには、特に風速が重要で、0.1〜0.8m/sec、好ましくは、0.1〜0.5m/secの風速で行うことが好ましい。低風速にすることで、風速で不織布が潰れることなく、融着点を形成することができる。
熱風処理の温度は、低ヤング率繊維の鞘部を構成する樹脂成分の融点以上、特に該融点に対して5℃〜15℃高い温度とすることが、繊維どうしの熱融着点を形成させる観点から好ましい。
【0036】
図5は、本発明の不織布の第2実施形態である不織布10Aを示す図である。第2実施形態について特に説明しない点は、第1実施形態の不織布10と同様である。
第2実施形態の不織布10Aは、従来、不織布製造用の繊維として市販されている、ヤング率が1.0GPa超6.0GPa以下の熱接着性複合繊維からなるウエブに、低ヤング率繊維の短繊維100%からなるウエブを積層し、それらに一体的にヒートエンボス加工を施し、更にエアースルー方式による熱風処理を施して得られる。
第2実施形態の不織布10Aは、市販の汎用繊維からなる第1層100と低ヤング率繊維からなる第2層101とを有している。第1層及び第2層は、それぞれを構成する繊維が、繊維同どうしの熱融着点を有することが好ましく、また、第1層の構成繊維と第2層の構成繊維とが熱融着された熱融着点を有することが好ましい。不織布10Aを、生理用ナプキン等の吸収性物品の表面シートとして用いる場合、低ヤング率繊維を含む第2層101側を吸収体側に向けて用いる。
【0037】
第1及び第2実施形態の不織布10,10Aを、図6(a)に示すように、低ヤング率繊維からなる面側を吸収体7側に向けて、生理用ナプキン等の吸収性物品の表面シートとして用いた場合、着用者の肌側に向けられる面側に経血等の液20が供給され、不織布が液に濡れる(または浸される)と、図6(b)に示すように、該液20の表面張力が不織布肌面側表面に作用する。表面張力は液体の表面で内向きに働くため、この状態では、不織布の厚みを減らそうと作用する。該不織布中の低ヤング率繊維が変形しやすいことにより、この力を受けて、不織布の厚み、特にエンボス部以外の厚みの大きい部分19の厚みが小さくなる。毛管の片端面に、ある大きさで圧力がかかったとき、もう片方の端面に作用する圧力は毛管の長さつまり不織布の厚みが小さいほど元の圧力に近い(損失が少ない)。この原理により、不織布の厚みが小さくなっていることにより、吸収体からの液を引きこもうとする力があまり減じることなく不織布肌面側表面に作用し、吸収体の強い毛管力が不織布の厚み方向の全体あるいは広い範囲において効率よく働くようになる。また繊維間距離が狭くなることにより、不織布自体の毛管力も大きくなる効果もある。これらの結果、図6(c)及び図6(d)に示すように、液20が不織布をスムーズに透過して吸収体7へと吸収される。これらの厚みや繊維間距離の減少は、液が通過する際の一時的なものである。液20が吸収体に移行していくに従い、不織布表面に作用する液の量が少なくなるため、液の表面張力が不織布におよぼす力が減って行く。その結果、図6(d)に示すように、不織布の厚みが、復元する。表面の液が無くなるに従い、厚みが復元するので、液を表面材にほとんど残すことなく、厚みが復元する。液を通過したあとは、元の厚みにほぼ戻っている。結果、液20が、吸収体から表面シートの表面に逆戻りする液戻り現象(ウエットバック)も生じにくい。
本発明の不織布は、乾燥状態と湿潤状態の不織布厚みの変化率が15%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上であり、更に好ましくは25%以上である。厚みや不織布厚みの変化率の測定方法は、実施例において後述する。
【0038】
また、本発明の不織布は、湿潤状態から再び乾燥状態に変化したときの不織布厚みの回復率が70%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。回復率の測定方法は、実施例において後述する。
【0039】
本発明に係る不織布は、吸液時に低ヤング率繊維同士間の距離が減少し通液性が向上することや、熱融着点を有することによる液抜け後の厚み復元性等の特性を活かして、種々の分野に適用できる。
例えば生理用ナプキン、パンティライナー、使い捨ておむつ、失禁パッドなどの身体から排出される液の吸収に用いられる吸収性物品における表面シート、セカンドシート(表面シートと吸収体との間に配されるシート)、裏面シート、防漏シート、あるいは対人用清拭シート、スキンケア用シート、さらには対物用のワイパーなどとして好適に用いられ、特に身体から排出される液の吸収に用いられる吸収性物品の表面シートとして好ましく用いられる。
【0040】
不織布の坪量は、目的とする不織布の具体的な用途に応じて適切な範囲が選択される。吸収性物品の表面シートとして用いる場合の不織布の坪量は、10〜80g/m2、特に15〜60g/m2であることが好ましい。
【0041】
不織布10,10Aは、これを例えば吸収性物品の表面シートとして用いる場合には、乾燥状態の厚みが0.5〜3mm、特に0.7〜3mmであることが好ましい。
【0042】
不織布10,10Aにおける凹部118と凸部119との面積比は、エンボス化率(エンボス面積率、すなわち不織布全体に対する凹部118の面積の合計の比率)で表され、不織布の嵩高感や強度に影響を与える。これらの観点から、不織布におけるエンボス化率は、5〜35%、特に10〜25%であることが好ましい。前述のエンボス化率は、以下の方法によって測定される。まず、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VHX−900)を用いて不織布表面の拡大写真を得、この不織布表面の拡大写真にスケールを合わせ、凹部118(すなわちエンボス部分)の寸法を測定し、測定部位の全体面積Qにおける、凹部118の面積の合計Pを算出する。エンボス化率は、計算式(P/Q)×100によって算出することができる。
【0043】
身体から排出される液の吸収に用いられる吸収性物品は、典型的には、表面シート、裏面シート及び両シート間に介在配置された液保持性の吸収体を具備している。本発明に係る不織布を表面シートとして用いた場合の吸収体及び裏面シートとしては、当該技術分野において通常用いられている材料を特に制限無く用いることができる。
例えば吸収体としては、パルプ繊維等の繊維材料からなる繊維集合体又はこれに吸収性ポリマーを保持させたものを、ティッシュペーパーや不織布等の被覆シートで被覆してなるものを用いることができる。裏面シートとしては、熱可塑性樹脂のフィルムや、該フィルムと不織布とのラミネート等の液不透過性ないし撥水性のシートを用いることができる。裏面シートは水蒸気透過性を有していてもよい。吸収性物品は更に、該吸収性物品の具体的な用途に応じた各種部材を具備していてもよい。そのような部材は当業者に公知である。例えば吸収性物品を使い捨ておむつや生理用ナプキンに適用する場合には、表面シート上の左右両側部に一対又は二対以上の立体ガードを配置することができる。
【0044】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は、上述した実施形態に制限されない。
例えば、ヤング率0.2〜1.0GPaの繊維を構成繊維として含む例を示したが、それに代えて、鞘部の樹脂がエラストマー等の弾性樹脂である繊維を用いることもできる。また、融着点強度を低減させた不織布を用いることもできる。
また、例えば、図4には、不織布の製造方法として、エンボス加工後に熱風処理を施す例を示したが、それに代えて、熱風処理後にエンボス加工を施すこともできる。また、不織布にエンボス部を形成する場合のエンボス部の形成パターンは、格子状に代えて、多列のストライプ状、ドット状、市松模様状、スパイラル状等任意のパターンとすることができる。ドット状とする場合の個々の点の形状としては、円形、楕円形、三角形、四角形、六角形、ハート型、任意の形状とすることができる。また正方形若しくは長方形の格子状や、亀甲模様をなす形状を採用してもよい。
また、エンボス加工は、ヒートエンボスに代えて、超音波エンボス、高周波エンボス、圧縮のみで熱融着を生じさせないエンボス等を用いることもできる。
【0045】
また、本発明によれば、融点が相互に異なる第1及び第2の成分を有する複合繊維であって、その第1成分がポリプロピレン樹脂又はポリエチレンテレフタレート樹脂から構成され、第2の成分が第1の成分よりも融点の低い樹脂からなる、ヤング率が0.2〜1.0GPaの複合繊維を含み、該複合繊維どうしの交点が熱融着した熱融着点が多数形成されている不織布(厚み変化率の限定なし)も提供される。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0047】
〔実施例1〕
(1)第1層の製造
芯部用の樹脂にポリプロピレン、鞘部用の樹脂にポリエチレンを用いて、芯部の溶融温度325度、鞘部280℃で、溶融紡糸法により、紡糸速度1500mにて、繊度3.5dtex、ヤング率が0.58GPaの同芯の芯鞘型複合繊維を製造した。捲縮加工は行ったが、とくに、延伸処理は行わなかった。捲縮後に、高温乾燥を行い、得られた繊維を切断して繊維長51mmの短繊維を得た。得られた短繊維を用いて、カード機により目付20g/m2のウエブを形成した。
(2)第2層の製造
第1層に用いた芯鞘型複合繊維を用いて、第1層用のウエブと同様にして第2層用のウエブを製造した。
(3)不織布化加工
上述のようにして製造した2種類のウエブを積層し、この積層体に一体的に超音波エンボス加工を施した。エンボス加工は、第1層側にエンボスロール、第2層側にフラットロールが当接するように実施した。エンボスパターンは、ひし形(斜め格子)が連続的に繰り返され、その非エンボス部の対角線の長い方が、機械の流れ方向、短い方が前記流れ方向と垂直であり、対角線長さがそれぞれ、13mm、8mm、エンボス部は線状で、0.5mm幅を用いた。
次いで、エンボス加工後の積層体に対して、エアースルー加工を行った。エアースルー加工の熱処理温度は、136℃とした。熱風の風速は、0.4m/sec、処理時間4secで行った。
得られた不織布は、厚みの薄い部分(エンボス部)とそれ以外の厚みの厚い部分とを有していた。また、坪量は40g/m2であった。
【0048】
〔実施例2〕
実施例1と同様に芯部用の樹脂にポリプロピレン、鞘部用の樹脂にポリエチレンを用いて、溶融紡糸法により得られた、繊度3.5dtex、ヤング率が0.64GPa、繊維長51mmの同芯の芯鞘型複合繊維を、第1及び第2層用のウエブの製造に用いる以外は、実施例1と同様にして不織布を製造した。
【0049】
〔実施例3〕
芯部用の樹脂にポリエチレンテレフタレート、鞘部用の樹脂にポリエチレンを用いて、溶融紡糸法により、繊度4.3dtex、ヤング率が0.68GPa、繊維長45mmの同芯の芯鞘型複合繊維を、第1及び第2層のウエブの製造に用いる以外は、実施例1と同様にして不織布を製造した。
【0050】
〔実施例4〕
芯部がポリエチレンテレフタレート、鞘部がポリエチレンである、市販されている芯鞘型複合繊維を用いて、カード機法により目付20g/m2のウエブを製造した。
製造したウエブを第2層用のウエブとして用いて、合計40g/m2にすると共に、実施例1の第1層用のウエブと同様にして製造したウエブを第1層用のウエブとして用いる以外は、実施例1と同様にして不織布を製造した。
【0051】
〔実施例5〕
実施例1の第1層用のウエブと同様にして製造したウエブを2枚重ね、次いで、積層体に対して、エアスルー加工を行った後、超音波エンボス加工を施した。エアースルー加工の熱処理温度は、136℃とした。エンボス加工は、第1層側にエンボスロール、第2層側にフラットロールが当接するように実施し、エンボスパターンは、ひし形(斜め格子)が連続的に繰り返され、その非エンボス部の対角線の長い方が、機械の流れ方向、短い方が前記流れ方向と垂直であり、対角線長さがそれぞれ、13mm、8mm、エンボス部は線状で、0.5mm幅を用いた。
【0052】
〔比較例1,2,3〕
第1層用のウエブ及び第2層用のウエブとして、表1に示すものを用いる以外は、実施例1と同様にして不織布を製造した。第1層用のウエブ及び第2層用のウエブは、市販されている公知の一般的な製造条件で作られた何れも鞘部がポリエチレンの芯鞘型複合繊維からなる。
【0053】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた各不織布について、乾燥状態及び湿潤状態における、厚み及び繊維間距離を測定した。また、液残り量及び液戻り量を測定した。それらの結果を表1に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
厚み及び繊維間距離の測定方法並びに液残り量、液戻り量の測定方法は以下の通りである。
〔厚み及び繊維間距離の測定方法〕
〔乾燥状態の厚み及び繊維間距離〕
市販の生理用ナプキン(花王株式会社製、商品名「ロリエ(登録商標)さらさらクッション 肌キレイ吸収 羽つき」)から、表面シートを取り除いた後、吸収体をナプキンの長手方向50mm×幅方向(ナプキンの長手方向と直行する方向)50mmに切断し、ナプキン吸収体を得る(ナプキン中央部の吸収体を用いる)。測定対象の不織布を長手方向50mm×幅方向50mmに切断し、該不織布の切断片を作製する。この切断片を、前記ナプキン吸収体上に載せ、測定対象の不織布を表面シートとして用いた生理用ナプキンを作成した。
前記不織布厚みは前記ナプキン吸収体上に載せられた状態下、無加圧で測定される。測定環境は温度20±2℃、相対湿度65±5%、測定機器にはマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VHX−900)を用いた。まず、前記不織布断面の拡大写真を得る。拡大写真には、既知の寸法のものを同時に写しこむ。前記不織布断面の拡大写真にスケールを合わせ、不織布の厚みを測定する。以上の操作を3回行い、3回の平均値を乾燥状態の不織布の厚み[mm]とする。
測定対象の不織布を構成する繊維の繊維間距離は、以下に示す、Wrotnowskiの仮定に基づく式により求められる。Wrotnowskiの仮定に基づく式は、一般に、不織布を構成する繊維の繊維間距離を求める際に用いられる。Wrotnowskiの仮定に基づく式によれば、繊維間距離A(μm)は、不織布の厚みh(mm)、坪量e(g/m2)、不織布を構成する繊維の繊維径d(μm)、繊維密度ρ(g/cm3)によって、以下の式(6)で求められる。
【0056】
【数3】

【0057】
〔湿潤状態の厚み及び繊維間距離〕
測定対象物が液に濡れた時(湿潤状態)の不織布である以外は、乾燥状態の不織布厚み評価と同様にして評価を行う。なお、液に濡れた時の不織布の厚みは、測定対象の不織布の上部(第1層側)から脱繊維馬血3.0gを一気に滴下し、前記馬血を流し込んでから60秒後の不織布の厚みを測定する。以上の操作を3回行い、3回の平均値を湿潤状態の不織布の厚み(mm)とする。
繊維間距離(μm)は、乾燥状態の不織布の繊維間距離を算出するために用いた前述の式で同様に得られる。
【0058】
〔湿潤状態から再び乾燥状態に変化したときの厚み及び繊維間距離〕
湿潤状態から再び乾燥状態に変化したときの厚みは、測定対象物に液を滴下してから3分後、すなわち、前記湿潤状態の測定から2分後、の厚みを湿潤状態から再び乾燥状態に変化したときの厚みとする。
測定対象物が液を滴下してから3分後の不織布である以外は、乾燥状態の不織布厚み評価と同様にして評価を行う。なお、乾燥状態に変化したときの厚みは、測定対象の不織布の上部(第1層側)から脱繊維馬血3.0gを一気に滴下し、前記馬血を流し込んでから3分後の不織布の厚みを測定する。以上の操作を3回行い、3回の平均値を湿潤状態から再び乾燥状態に変化したときの不織布の厚み[mm]とする。
繊維間距離(μm)は、乾燥状態の不織布の繊維間距離を算出するために用いた前述の式で同様に得られる。
【0059】
〔不織布厚みの変化率〕
前記方法で測定した、乾燥状態の厚みA(mm)と湿潤状態の厚みB(mm)用いて、乾燥状態から湿潤状態に変化したときの厚み変化率(不織布厚みの変化率)を、以下の式で計算する。
不織布厚みの変化率(%)={(A−B)/A}×100 (7)
この値が、15%以上、特に20%以上であれば、良好な結果が得られる。
【0060】
〔不織布厚みの回復率〕
前記方法で測定した、乾燥状態の厚みA(mm)、湿潤状態の厚みB(mm)及び湿潤状態から再び乾燥状態に変化したときの厚みC(mm)用いて、湿潤状態から再び乾燥状態に変化したときの厚み回復率(不織布厚みの回復率)を、以下の式で計算する。
不織布厚みの回復率(%)=(C/A)×100 (8)
この回復率は、70%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。
前記厚み変化率が15%以上で且つ前記回復率が70%以上であると、吸収体等に液が移行した後、不織布内に残る液量を少なくすることができ、該吸収体等の液が不織布内や不織布の表面に戻る液戻りをより一層効果的に防止することができる。
【0061】
〔液残り量〕
市販の生理用ナプキン(花王株式会社製、商品名「ロリエ(登録商標)さらさらクッション 肌キレイ吸収 羽つき」)から、表面シートを取り除いて、ナプキン吸収体を得る。また、測定対象の不織布をMD50mm×CD50mmに切断し、切断片を作製する。この切断片を、前記ナプキン吸収体における前記表面シートが存していた箇所(ナプキン吸収体の肌当接面上)に、第2層側を吸収体側に向けて配置し、測定対象の不織布を表面シートとして用いた生理用ナプキンを作成した。
前記測定対象の不織布を用いた生理用ナプキンの表面上に、直径10mmの円筒状の透過孔を有するアクリル板を重ねて、該ナプキンに100Paの一定荷重を掛ける。斯かる荷重下において、該アクリル板の透過孔から脱繊維馬血3.0gを流し込む。前記馬血を流し込んでから60秒後にアクリル板を取り除き、次いで、該不織布の重量(W2)を測定し、予め測定しておいた、馬血を流し込む前の不織布の重量(W1)との差(W2−W1)を算出する。以上の操作を3回行い、3回の平均値を液残り量(mg)とし、液残り量が少ないほど高評価となる。
【0062】
〔液戻り量〕
前記〔液残り量〕の測定方法と同様にして、測定対象の不織布をMD150mm×CD50mmに切断し、該不織布を表面シートとして用いた生理用ナプキンを得る。
前記ナプキンにおける前記不織布(表面シート)の表面上に、円筒状の通過孔を有するアクリル板を重ねて、該ナプキンに1.1g/cm2の荷重を掛ける。斯かる荷重下において、該アクリル板の通過孔から脱繊維馬血3.0gを流し込む。脱繊維馬血を流し込んでから60秒後にアクリル板を取り除き、次いで、ティッシュペーパーを前記不織布の表面上に重ね、更に、該ティッシュペーパーの上に重石を重ねて、該ナプキンに400Paの荷重を掛ける。重石を重ねてから5秒後に該重石及びティッシュペーパーを取り除き、該ティッシュペーパーの重量(W2)を測定し、予め測定しておいた、前記不織布の表面上に重ねる前のティッシュペーパーの重量(W1)との差(W2−W1)を算出する。以上の操作を3回行い、3回の平均値を液戻り量(mg)とし、液戻り量が少ないほど高評価となる。
【0063】
表1に示す結果から、実施例の不織布は、液残り量及び液戻り量が少なく、吸液性、液戻り防止性の点で優れていることが判る。
【符号の説明】
【0064】
1,2 押出装置
1A,2A 押出機
1B,2B ギアポンプ
3 紡糸口金
4 引取装置
7 吸収体
10、10A 不織布
11 カード機
12 ウエブ
13 エンボス装置
14 エンボスロール
15 フラットロール
17 熱風処理装置
18 厚みの薄い部分(エンボス部)
19 厚みの厚い部分
20 液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が相互に異なる第1及び第2の成分を有する複合繊維を含み、該複合繊維どうしの交点が熱融着した熱融着点が多数形成されている不織布であって、
乾燥状態から湿潤状態に変化したときの厚み変化率が15%以上である不織布。
【請求項2】
湿潤状態から再び乾燥状態に変化したときの厚み回復率が70%以上である、請求項1記載の不織布。
【請求項3】
前記複合繊維として、第1の成分がポリプロピレン樹脂又はポリエチレンテレフタレート樹脂であり、第2の成分が第1の成分よりも融点の低い樹脂であり、ヤング率が0.2〜1.0GPaの繊維を含む、請求項1又は2記載の不織布。
【請求項4】
エンボス加工により形成された厚みの薄い部分と、該部分より厚みの厚い部分とが存在しており、少なくとも、前記厚みの厚い部分の一面側の構成繊維が、ヤング率0.2〜1.0GPaの前記繊維である、請求項1〜3の何れかに記載の不織布。
【請求項5】
前記厚みの厚い部分の他面側の構成繊維が、ヤング率1.0GPa超6.0GPa以下の繊維である、請求項4記載の不織布。
【請求項6】
ヤング率0.2〜1.0GPaの前記繊維は、第1の成分がポリプロピレン樹脂であり、結晶化度が60%以下である、請求項3〜5の何れかに記載の不織布。
【請求項7】
ヤング率0.2〜1.0GPaの前記繊維は、第1の成分がポリエチレンテレフタレート樹脂であり、結晶化度が45%以下である、請求項3〜5の何れかに記載の不織布。
【請求項8】
表面シート、裏面シート及び両シート間に位置する吸収体を具備する吸収性物品であって、前記表面シートが、請求項1〜7の何れかに記載の不織布である、吸収性物品。
【請求項9】
表面シート、裏面シート及び両シート間に位置する吸収体を具備する吸収性物品であって、
前記表面シートが、請求項3〜7の何れかに記載の不織布からなり、該不織布は、少なくとも該吸収体側に向けられる面側が、ヤング率0.2〜1.0GPaの前記繊維を含んでいる、吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−168721(P2010−168721A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293025(P2009−293025)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】