説明

不織布

【課題】一方向へ互いに並行して延びる山部と谷部とが表面に形成されている不織布の山部に体液が滞留することを防ぐ。
【解決手段】熱可塑性合成繊維の短繊維11が互いに溶着して不織布1を形成する。不織布の表面2には互いに並行して延びる山部6と谷部7とが形成される。山部6には、不織布1の裏面3からの高さが高い第1山部6aと、高さの低い第2山部6bとが含まれる。不織布1の密度は、第1山部6a、第2山部6b、谷部7の順に高くなっている。第1山部6aは、第1山部6aが裏面3に向かって圧縮されて第2山部6bの高さと同じになったときの第1山部6aにおける密度が第2山部6bの密度よりも低くなるように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱可塑性合成樹脂の短繊維で形成された不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性合成樹脂の短繊維どうしが互いに溶着している不織布は周知である。また、そのような不織布であって、機械方向に互いに並行して延びる凸条部と凹条部とを有し、機械方向に直交する交差方向においてこれら凸条部と凹条部とが交互に並んでいるものが特開2008−25080号公報(特許文献1)に開示されている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−25080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された不織布における凸条部には、不織布の厚さ方向の寸法である高さの高いものと低いものとが含まれている。高さの高い凸条部と高さの低い凸条部とは、坪量が同じであって、これら凸条部の幅方向における中央部分はその坪量が凹条部の坪量よりも高くなるように形成されている。このような不織布は、それが使い捨ておむつや生理用ナプキン等の着用物品における透液性の表面シートとして使用されて着用物品の着用者の肌に強く密着すると、凸条部のうちでも高さの高い凸条部が最初に圧縮される。そのときの表面シートでは、圧縮された凸条部の密度がさらに高くなって、その凸条部に体液が滞留し易いという傾向が強くなる一方、体液は周囲の密度の低い部位へ移行し難くなる。また、圧縮された凸条部は、例えばその高さの低い凸条部と同じ高さになったときには、その圧縮された凸条部が肌に強く当たって肌を局部的に圧迫するから、表面シートはその全体がソフトな感じで肌に密着するというものにならず、肌触りの好ましくないものになることがある。
【0005】
そこで、この発明は、不織布がその表面に凸条部と凹条部とを有していても、その表面を肌に密着させたときに凸条部に体液が滞留することを防ぐことができるように、前記不織布に改良を施すことを課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明が対象とするのは、熱可塑性合成樹脂で形成された短繊維どうしが溶着しており、互いに直交する長さ方向と幅方向と厚さ方向とを有していて前記厚さ方向には表面とその反対面である裏面とを有し、前記表面には前記幅方向において起伏を繰り返し前記長さ方向へ互いに並行して延びる山部と谷部とが形成されており、前記山部には前記裏面からの高さの高い第1山部と前記高さの低い第2山部とが含まれている不織布である。
【0007】
かかる不織布において、この発明が特徴とするところは、以下のとおりである。前記不織布における密度は前記第1山部、前記第2山部、前記谷部の順に高くなっているとともに、前記第1山部が前記表面から前記裏面に向かって圧縮されて前記第1山部と前記第2山部との前記高さが同じになったときの前記第1山部における前記密度は前記第2山部における前記密度よりも低くなっている。
【0008】
この発明の実施形態の一つにおいて、前記不織布は、18〜100g/mの坪量を有するものであり、前記短繊維は1〜8dtexの繊度と20〜80mmの繊維長とを有する親水化処理されたものである。
【0009】
この発明の実施形態の他の一つにおいて、前記短繊維は、溶融温度の異なる二種類の前記熱可塑性合成樹脂で形成された複合繊維であって、前記二種類のうちで前記溶融温度の低い方の前記熱可塑性合成樹脂を介して互いに溶着している。
【0010】
この発明の実施形態の他の一つにおいて、前記第1山部の前記高さが1〜5mmの範囲にあり、前記第2山部の前記高さが前記第1山部のそれよりも0.5〜2mm低い。
【0011】
この発明の実施形態のさらに他の一つにおいて、前記幅方向において、前記第1山部と前記第2山部とが交互に形成され、前記第1山部と前記第2山部との間に前記谷部が介在している。
【0012】
かかる発明において使用される「不織布における密度」の測定方法は、後記図5〜7に基づいて説明される。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る不織布は互いに並行して長さ方向へ延びる山部と谷部とを有するものであって、山部には不織布の厚さ方向の寸法である高さの高い第1山部と低い第2山部とが含まれていて、これら山部と谷部とによって不織布の表面には凸条部と凹条部とが形成されている。不織布の密度は、第1山部、第2山部、谷部の順に高くなっており、第1山部はまたそれが圧縮されて第2山部と同じ高さになったときでも第2山部の密度よりも低い密度を有している。かような不織布は、それが着用物品の表面シートとして使用されて不織布の表面が着用物品の着用者の肌に密着して第1山部が第2山部の高さと同じになるところまで圧縮されても、不織布の密度は第1山部、第2山部、谷部の順に高くなる傾向に変化がないから、表面シート上の体液は不織布の密度の高くなる方向へ、すなわち第1山部から谷部へ向かう方向や第2山部から谷部へ向かう方向へ移行する傾向にあって、第1山部に滞留することがなく、高さの高い第1山部は肌に接触していても肌に湿潤感を与えるということがない。また、圧縮されている第1山部の密度は第2山部の密度よりも低いので、第1山部は肌を局部的に圧迫するということがなく、この発明に係る不織布は肌触りにむらのないものになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】不織布の部分斜視図。
【図2】不織布の交差方向の断面を示す写真。
【図3】不織布の製造工程の一部を示す図。
【図4】第1エア・ジェット・ノズル部の正面図。
【図5】不織布の断面が変化する様子を示す図。
【図6】不織布の表面の輪郭を観察した記録。
【図7】繊維断面を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付の図面を参照して、この発明に係る不織布の詳細を説明すると、以下のとおりである。
【0016】
図1,2は、不織布1の一部分を模式的に示す斜視図と、不織布1の断面の一例を50倍に拡大して示す写真である。ただし、図2の写真は、複数枚の写真を横方向へつなぎ合わせたものである。50倍に拡大した不織布1は、その幅方向を広い範囲にわたって1枚の写真に収めることができないからである。不織布1は、その長さ方向と幅方向と厚さ方向とが互いに直交する双頭矢印A,B,Cで示されていて、厚さ方向Cには表面2とその反対面である裏面3とを有する。表面2には、長さ方向Aへ互いに並行して延びる山部6と谷部7とが形成されていて、幅方向Bにおいてこれら山部6と谷部7とが起伏を画いている。また山部6には厚さ方向Cに高さHを有する第1山部6aと高さHを有する第2山部6bとが含まれている。第1山部6aはその高さHが第2山部6bの高さHよりも高いもので、これら第1山部6aと第2山部6bとは、幅方向Bにおいて交互に並んでいて、第1山部6aと第2山部6bとの間には谷部7が介在している。
【0017】
かような不織布1は、熱可塑性合成樹脂で形成された短繊維11、好ましくは1〜8dtexの繊度と20〜80mmの繊維長とを有する短繊維11がそれに熱風を吹き付けられて互いに溶着しているものである。不織布1はまた使い捨ておむつや生理用ナプキンを一例とする体液吸収性着用物品の透液性表面シートとして使用するのに好適なものであって、そのように使用するときの不織布1は18〜100g/mの坪量を有することが好ましく、短繊維11は親水化処理されたものであることが好ましい。表面シートとして使用するときの不織布1はまた、裏面3がほぼ平坦であって、表面2は凹条部を形成している谷部7の幅方向Bの寸法Wcが0.4〜2mmの範囲にあり、凸条部を形成している第1山部6aの幅方向Bの寸法Wが第2山部6bの幅方向の寸法Wよりも大きくて2〜5mmの範囲にある。第1山部6aの高さHは1〜5mmの範囲にあり、第2山部6bの高さHbは高さHよりも0.5〜2mm低く、谷部7は高さHaよりも0.7〜2.5mm低いところにあることが好ましい。短繊維11は、短繊維11どうしの溶着を容易にするとともに不織布1を厚さ方向Cにおいて弾性的に圧縮可能なものにするために、溶融温度の異なる二種類の合成樹脂を組み合わせることによって形成された複合繊維であることが好ましい。そのような複合繊維は、溶融温度の低い方の合成樹脂を溶融させることによって互いに溶着することが可能である。合成樹脂の組合せとしては、例えばポリエチレンとポリエステル、ポリエチレンとポリプロピレン等がある。複合繊維はシース・アンド・コア型のものでもよいし、サイド・バイ・サイド型のものであってもよい。シース・アンド・コア型の複合繊維は、同芯型のものであっても、偏芯型のものであってもよい。
【0018】
図3,4は、図1、2の不織布1を製造するのに使用する工程の部分図と、その部分図における第1エア・ジェット・ノズル部910の正面図である。図3において、厚さ方向に通気性を有する走行ベルト200には短繊維11によって形成されたカードウエブ100が載せられて、機械方向MDへ進む。カードウエブ100には、第2エア・ジェット・ノズル部920から加熱されたジェットエア921が吹き付けられ、そのジェットエア921がベルト200を通過してサクションボックス922に吸引される。ジェットエア921は、その温度が短繊維11を軟化させる程度であって、カードウエブ100をその厚さが2/3〜1/4となるように圧縮してカードウエブ100の地合いを安定させるために使用される。続いて、そのカードウエブ100に対して第1エア・ジェット・ノズル部910から複数条の加熱されたジェットエア911が吹き付けられる。ジェットエア911は、短繊維11を機械方向MDに対する交差方向CDへ移動させながら短繊維11どうしを溶着することができるように、風量と圧力と温度とが調整されている。
【0019】
第1エア・ジェット・ノズル部910では、図4に示されているように交差方向CDに所定の間隔a,bをあけて設けられたノズル(図示せず)からジェットエア911がカードウエブ100に向かって吹き付けられる。そのジェットエア911はベルト200を通過して、サクションボックス915に吸引される。間隔a,bをあけて吹き付けられるジェットエア911の交差方向CDにおける位置は、図1の不織布1における谷部7の位置に一致している。カードウエブ100では、ジェットエア911の直下に位置していた短繊維11の一部が交差方向CDの両側へ等分に振り分けられて第1山部6aと第2山部6bとの形成に加わるが、ジェットエア911の直下に残ったものは谷部7を形成する。短繊維11はまた、隣り合うジェットエア911の間にあるものが第1山部6aまたは第2山部6bを形成するように交差方向CDへ移動して、寸法の大きい間隔aにおいて第1山部6aを形成し、寸法の小さい間隔bにおいて第2山部6bを形成する。このようにして谷部7とともに形成される第1山部6aは、第2山部6bよりも高さが高くなる一方、第2山部6bよりも密度が低くなる。ジェットエア911の直下に形成される谷部7では、短繊維11が厚さ方向Cにおいて圧縮されて高密度化する。
【0020】
図3,4の工程によって不織布1を製造するときに、カードウエブ100の機械方向MDへの搬送速度を高くする必要がない場合には、例えば坪量が30〜50g/mのカードウエブ100を10m/min程度の速度で搬送しようとするときには、第1エア・ジェット・ノズル部910におけるジェットエア911の噴射量を低くする一方、第2エア・ジェット・ノズル部920を省くことが可能である。また、そのカードウエブ100を30〜40m/minの速度で搬送しようとするときには、図示例の如く第2エア・ジェット・ノズル部920を併用して、カードウエブ100の地合いを予め安定させておくことが好ましい。
【0021】
このようにして得られる図1の不織布1では、第1山部6aの密度が第2山部6bの密度よりも低く、第2山部6bの密度が谷部7の密度よりも低く形成されていることによって、不織布1を体液吸収性着用物品の透液性表面シートとして使用すると、不織布1の表面2における体液は、不織布1の密度の高い部位から低い部位に向かって、すなわち密度勾配に従って第1山部6aから谷部7へと移動したり、第2山部6bから谷部7へ移動したりし、また不織布1が屈曲して第1山部6aと第2山部6bとが接近しているときには、第1山部6aから第2山部6bへ移動したりする。したがって、不織布1では、肌に触れ易い第1山部6aに体液が滞留するということがなく、第1山部6aは肌に湿潤感を与えることがない。さらに、不織布1が圧縮されて第1山部6aと第2山部6bとが同じ高さになったときでも、第1山部6aはその密度が第2山部6bの密度よりも低い状態を維持するように形成されていることによって、第1山部6aは依然として肌に湿潤感を与えることがない。しかも、圧縮されても密度の低い第1山部6aは、それが第2山部6bとともに肌に圧接したときに、圧縮の度合いの高い第1山部6aだけが肌に強く当たることによって不織布1の肌触りをむらのあるものにして着用者に不快な着用感を与える、ということがない。
【0022】
表1は、不織布1の実施例についての主要な製造条件と評価結果とを示すものであるが、その実施例と対比すべき比較例の製造条件と評価結果も併せて示してある。
【0023】
表1における実施例の不織布は、図3,4に例示の装置において第2エア・ジェット・ノズル部920を使用することなく製造されたものであって、主要な製造条件は次のとおりである。なお、この実施例では、カードウエブ100の走行速度が遅いので、第2エア・ジェット・ノズル部920を使用する必要がないのである。
(1)短繊維: 繊度2.6〜3.3dtex、繊維長38〜51mmを有し芯成分がポリエステルで鞘成分がポリエチレンで形成された芯鞘型の複合繊維
(2)カードウエブ: 坪量35g/m、機械方向への走行速度 10m/min
(3)第1エア・ジェット・ノズル部: ノズル径1mm、ノズル間隔a=4mm、b=2.5mm、ノズルとコンベアベルトとの距離5mm、ジェットエア圧力0.06MPa、エア温度140℃
【0024】
表1における比較例1の不織布は、実施例の製造条件のうちでノズル間隔のみを変更し、a=4mm、b=4mmに設定して得られたものである。この不織布は、交差方向CDにおいて山部と谷部とが交互に形成されているものであるが、山部は全て高さが同じもので、第1山部と第2山部との区別がない。
【0025】
表1における比較例2の不織布は、実施例の製造条件のうちでノズル間隔のみを変更し、a=3.5mm、b=3mmに設定して得られたものである。この不織布は、交差方向CDにおいて山部と谷部とが交互に形成されているもので、山部には高さの高い第1山部と、高さの低い第2山部とが含まれているが、第1山部と第2山部との高さに大きな差がないものである。
【0026】
【表1】

【0027】
図5の(a),(b)は、実施例の不織布の交差方向CDにおける断面形状を模式的に示す図であり、図5の(c)は図5の(b)で使用されている加圧用プレート22の平面図である。図5の(a)では、例えば不織布1が水平面21(図2を併せて参照)に置かれて自然状態、すなわち非圧縮状態にあって、その不織布1には第1山部6aと第2山部6bと谷部7とが形成されている。図5の(b)では、不織布1が加圧用プレート22によって上方から押圧されて圧縮状態にあり、第1山部6aが第2山部6bとほぼ同じ高さになるところまで変形している。その加圧用プレート22は、第2山部6bの高さとほぼ同じ高さを有する一対のサポータ25によって支えられている。実施例において、第1山部6aの高さは2.43mmであり、第2山部6bの高さは1.45mmであって、第1山部6aは高さが1.45mmとなるように圧縮される。第1山部6a、第2山部6bおよび谷部7のそれぞれは、幅W,W,Wのそれぞれと、斜線で示された面積S,S,Sのそれぞれとを有している。面積S,S,Sの測定方法は後記図6を参照して説明されており、測定結果は表1に示されている。
【0028】
比較例1の不織布においては、図5におけるプレート22を使用して非圧縮状態にある山部の高さが1.52mmになるところまで押圧されて圧縮状態となる。比較例1の不織布についても、非圧縮状態と圧縮状態とにおける山部と谷部との面積が測定され、その結果が表1に示されている。
【0029】
比較例2の不織布においては、プレート22を使用して非圧縮状態にあって高さの高い第1山部が高さの低い第2山部の高さと同じになるところまで、すなわち高さ1.53mmになるところまで押圧されて圧縮状態となる。比較例2の不織布についても、非圧縮状態と圧縮状態とにおける第1山部と第2山部との面積が測定され,その結果が表1に示されている。
【0030】
図6は、図5に示された第1山部6a、第2山部6b、谷部7の断面積S,S,Sを測定するために使用した3次元測定器による不織布1の断面測定記録であるが、第1山部6aはその一部分のみが示されている。測定対象の不織布1は、裏面3が水平面21に置かれた状態にあって、そのときの交差方向CDの断面における表面2の起伏の状態が輪郭Pとして記録されている。3次元測定器には、(株)キーエンス社製高精度形状測定システム(高精度ステージ:KS−1100を含む)と高速・高精度CCDレーザー変位計(コントローラ:LK−G3000Vセット、センサヘッド:LK−G30を含む)とを使用し、これらの条件を次のとおりに設定した。
(ステージ:KS−1100)
測定範囲:3000μm×30000μm
測定ピッチ:20μm
移動速度:7500μm/sec
(測定ヘッド:LK−G3000V)
測定モード:測定体
設置モード:拡散反射
フィルタ:平均4回
サンプリング周期:200μs
【0031】
3次元測定器による測定記録は、形状解析ソフトKS−H1A(キーエンス社製)で処理することによって、山部の高さ、山部と谷部との幅、山部と谷部との断面積を求めた。なお、図6において、第1山部6a、第2山部6bおよび谷部7の幅W,W,Wは、次のようにして求めた。すなわち、図6において水平面21に平行する任意の水平線Hと水平線Hの下方から上方へ向かう輪郭Pとの交点Xを求め、隣り合う交点XとXとの間における輪郭Pが水平線Hよりも下にあって、それら交点XとXとの間の距離が0.4〜2mmの間にあるときに、その交点XとXとの間を谷部7と定義する。また、谷部7と7との間は山部6であって、隣り合う山部6のうちで、輪郭Pの最高位置の高い方の山部6が第1山部6aであり、もう一方の山部が第2山部6bである。なお、谷部7を求めるときに、隣り合う交点XとXとの間の距離が0.4mmに満たないときの交点Xは、それを無視して距離が0.4mm以上となる交点Xを求める。0.4〜2mmの距離をあけて隣り合う交点XとXとの間の距離は、谷部7の幅Wである。カードウエブ100を使用してこの発明に係る不織布を製造する方法においては、谷部7の幅Wが0.4mmよりも狭くなると、第1山部6aと第2山部6bとを作ることが難しくなるので、そのように幅の狭い谷部7をこの発明において採用することは好ましいことではない。また、幅Wが2mmを超える場合もまた、この発明における不織布1の製造が難しくなるばかりでなく、その不織布1を体液吸収性物品の表面シートとして使用したときには、山部6どうしの間隔が大きすぎて、肌触りの悪いものになることがあるから、そのように幅の広い谷部7をこの発明において採用することは好ましいことではない。
【0032】
不織布1が加圧用プレート22によって圧縮されて第1山部6aが図5の(b)の状態にある不織布1についても輪郭Pを図6と同様の方法によって記録し、圧縮状態にある不織布1についての高さH,H、幅W,W、W、断面積S,S,Sを測定する。加圧用プレート22は、図5の(c)に示されているように、幅方向の中央に、加圧用プレート22をその厚さ方向において貫通するスリット26が形成されている。それゆえ、圧縮状態にある不織布1についての高さH、Hや幅W,W,Wを測定するときには、3次元測定器におけるレーザー変位計のセンサヘッドがそのスリット26を介して不織布1の山部6や谷部7を観察するように、3次元測定器を操作することができる。このようにして測定したときの結果は表1に示されている。圧縮された比較例1,2の不織布についても、高さと幅と断面積とを不織布1と同様にして測定する。これらの測定結果も表1に示されている。
【0033】
図7は、不織布1における第2山部6bの交差方向CDにおける切断面の一例を50倍に拡大して示す写真である。切断面は、鋭利なカッター、例えばコクヨカッターナイフーHA−B(商品名)用の替刃H−100を使用して不織布1を交差方向CDへ切断して得たもので、キーエンス社製リアルサーフェイスビューVE−7800を使用し、その断面を50倍に拡大して撮影する。得られた断面写真には切断された短繊維11の断面11aが見える。この発明においては、第1山部6a、第2山部6b、谷部7それぞれにおいて断面11aの個数(繊維断面数)を求め、その個数と図6において求められる第1山部6a、第2山部6b、谷部7の断面積との比を求め、その比の値を第1山部6a、第2山部6b、谷部7それぞれの非圧縮状態および圧縮状態の繊維密度と定義する。この発明では、その繊維密度を繊維密度指数と呼ぶこともある。表1には、実施例および比較例それぞれの不織布における繊維密度指数が示されている。その表1においては、非圧縮状態にある実施例の不織布の繊維密度指数が第1山部6a、第2山部6b、谷部7の順に高くなっている。また、圧縮状態においても繊維密度指数の順序には変化がない。すなわち、不織布1では、第1山部6aが圧縮されて第2山部6bと同じ高さになっても、第1山部6aの繊維密度は第2山部6bの繊維密度よりも低く、不織布1の表面2における体液は繊維密度の低い第1山部6aから繊維密度の高い部位である谷部7や第2山部6bへ移行し易いという傾向がある。
【0034】
このような不織布1はまた、例えばそれを使い捨てのおむつにおける吸収体の表面シートとして使用したときに、表面2から裏面3に向かっての体液の速やかな移行、および不織布1から吸収体に向かって体液の速やかな移行を可能にする性能を有しているともいえるものであって、その性能は、例えばストライクスルー値やQ−Max値で示すことができる。
【0035】
この発明において使用するストライクスルー値は、10mlの人工尿が測定用試験片である不織布を透過する時間(単位:秒)であって、ストライクスルー値が小さいほど人工尿の不織布に対する透過が早いことを意味している。ストライクスルー値の測定には、Lenzing Technik社製の試験機LISTERを使用して、この試験機の測定部を不織布の上に置き、この試験機で定められているEDANA−ERT§150.3リキッドストライクスルータイム法にしたがって試験機を操作した。不織布の下にはろ紙(アドバンテック東洋(株)製定性ろ紙No.2)を20枚置いて吸収体に代えた。人工尿は、イオン交換水10リットルに対して、尿素200g、塩化ナトリウム80g、硫酸マグネシウム8g、塩化カルシウム3g、青色1号色素1gを溶解したものであって、20℃において72mN/mのものを使用した。測定の結果は、表1に示されている。表1にはまた、比較例1,2についてのストライクスルー値も示されている。
【0036】
Q−Max値は、体液で濡れている表面シートに肌が接触したときに、表面シートが肌から奪う熱量を定量化して示すものであって、単位はJ/cm・secである。表面シートは、Q−Max値が大きいほど肌から奪う熱量が多く、肌に対して急激に冷たい感じを与える傾向の強いものと考えられる。Q−Max値の測定にはカトーテック(株)製KES−F7サーモラボII型精密迅速熱物性測定装置を使用し、測定条件として測定子の温度を(室温+10℃ Q−maxの測定(冷温感測定))にセットし、測定子の面圧として10g/cmと30g/cmとの二水準を採用した。測定用不織布には10×10cmのものを使用し、定性ろ紙No.2を3枚重ねた上にこの不織布を載せた。不織布の上には内径20mmの円筒を載せ、その円筒に10ccの人工尿を約5秒かけて注入した。その後に円筒を取り除き、尿を注入してから20秒後に測定子を不織布の表面に当てて、測定子からその表面への熱移動を測定した。測定の結果は表1のとおりであり、実施例と比較例とを比較すると、表面2に体液が滞溜することのない不織布1ではQ−Max値が小さくなる傾向にある。
【符号の説明】
【0037】
1 不織布
2 表面
3 裏面
6 山部
6a 山部(第1山部)
6b 山部(第2山部)
7 谷部
11 短繊維
A 長さ方向
B 幅方向
C 厚さ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性合成樹脂で形成された短繊維どうしが溶着しており、互いに直交する長さ方向と幅方向と厚さ方向とを有していて前記厚さ方向には表面とその反対面である裏面とを有し、前記表面には前記幅方向において起伏を繰り返し前記長さ方向へ互いに並行して延びる山部と谷部とが形成されており、前記山部には前記裏面からの高さの高い第1山部と前記高さの低い第2山部とが含まれている不織布であって、
前記不織布における密度が前記第1山部、前記第2山部、前記谷部の順に高くなっているとともに、前記第1山部が前記表面から前記裏面に向かって圧縮されて前記第1山部と前記第2山部との前記高さが同じになったときの前記第1山部における前記密度が前記第2山部における前記密度よりも低いことを特徴とする前記不織布。
【請求項2】
前記不織布は、18〜100g/mの坪量を有するものであり、前記短繊維は1〜8dtexの繊度と20〜80mmの繊維長とを有する親水化処理されたものである請求項1記載の不織布。
【請求項3】
前記短繊維は、溶融温度の異なる二種類の前記熱可塑性合成樹脂で形成された複合繊維であって、前記二種類のうちで前記溶融温度の低い方の前記熱可塑性合成樹脂を介して互いに溶着している請求項1または2記載の不織布。
【請求項4】
前記第1山部の前記高さが1〜5mmの範囲にあり、前記第2山部の前記高さが前記第1山部のそれよりも0.5〜2mm低い請求項1〜3のいずれかに記載の不織布。
【請求項5】
前記幅方向において、前記第1山部と前記第2山部とが交互に形成され、前記第1山部と前記第2山部との間に前記谷部が介在している請求項1〜4のいずれかに記載の不織布。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−80178(P2011−80178A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235513(P2009−235513)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)
【Fターム(参考)】