説明

中和抗体

本発明は、GM−CSFまたはそのフラグメント、部分もしくは一部に結合、相互作用またはそうでなければ会合し、そしてGM−CSF活性をアンタゴナイズまたは中和する抗体を提供する。本発明の実施形態に従えば、高い親和性でヒトGM−CSFに結合し、そしてGM−CSFの活性を阻害するヒト化モノクローナル抗体が作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)に結合する抗体に関する。より詳細には、本発明は、GM−CSFに特異的な高親和性中和ヒト化モノクローナル抗体に関する。本発明はまた、GM−CSF仲介およびGM−CSF関連疾患または病態の処置または防止におけるそのような抗体の使用に関する。本発明はさらに、本発明の抗体の投与によってGM−CSF仲介およびGM−CSF関連疾患または病態をモジュレートするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)は、顆粒球ならびにマクロファージのファージのような単球の分化、増殖および機能を調節する造血成長因子である。
【0003】
GM−CSFはまた、炎症性サイトカインであり、その活性または過剰発現は、重要な有害な影響を及ぼし得る。GM−CSFは、関節リウマチ、喘息、多発性硬化症および特発性血小板減少性紫斑病を含む多様な自己免疫および炎症性疾患に関与する。喘息および関節リウマチでは、上昇したレベルのGM−CSFが検出されており、そして炎症性プロセスと相関する一方、実験的自己免疫性脳脊髄炎、多発性硬化症の動物モデルでは、GM−CSFノックアウトマウスは、疾患の発症に対して保護される。
【0004】
従って、GM−CSFを標的とし、そしてGM−CSF活性を阻止または中和するのに有効なアプローチの開発が明らかに必要である。GM−CSFに対する抗体は、自己免疫もしくは炎症性病態の処置または防止のような明らかな治療用途によるGM−CSFのアンタゴニストとして1つの特に適切な代替物を付与する。
【0005】
GM−CSFに対する抗体は当該技術分野において公知である一方、例えば、増強された親和性を伴う改善された抗体の開発の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書および以降の特許請求の範囲の全体を通じ、本文中で断らない限り、語句「含んでなる(comprise)」、ならびに「含んでなる(comprises)」および「含んでなっている(comprising)」のような変体は、陳述した完全体もしくは工程または完全体もしくは工程の群の包含を意味するものであって、他の完全体もしくは工程または完全体もしくは工程の群のいずれかの除外を意味するものではないことが理解されよう。
【0007】
本発明は、一般的に、GM−CSFまたはそのフラグメント、部分もしくは一部に結合、相互作用またはそうでなければ会合し、そしてGM−CSF活性をアンタゴナイズまたは中和する抗体に関する。抗体は、好ましくは、モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントである。典型的に、抗体は、単離された、均質なまたは完全もしくは部分的に精製された形態である。最も典型的には、抗体は、ヒトへの投与に適切なヒト化またはヒト抗体である。これらは、例えば、マウスモノクローナル抗体から調製されたヒト化抗体、および例えば、トランスジェニックマウスまたはファージディスプレイを使用して調製され得るヒトモノクローナル抗体を含む。
【0008】
本発明の特定の実施形態に従えば、高い親和性でヒトGM−CSFに結合し、そしてGM−CSFの活性を阻害するヒト化モノクローナル抗体が作製される。
【0009】
一態様では、本発明は、ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体は、配列番号1に記載の配列を含んでなる可変軽鎖領域またはそのフラグメントもしくは変異体を含んでなる、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0010】
別の態様では、本発明は、ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体は、配列番号2に記載の可変重鎖配列またはそのフラグメントもしくは変異体を含んでなる、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0011】
別の態様では、本発明は、ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体は、配列番号1に記載の配列を含んでなる可変軽鎖領域またはそのフラグメントもしくは変異体、および配列番号2に記載の可変重鎖配列またはそのフラグメントもしくは変異体を含んでなる、モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0012】
実施形態では、抗体は、GM−CSFの活性を阻害するマウス抗体またはそのヒト化誘導体である。抗体は、2007年5月17日に受託番号07051601で、European Collection of Cell Cultures (ECACC)(Centre for Applied Microbiology and Research,Porton Down, Salisbury, United Kingdom)に寄託されたマウスモノクローナル抗体4K21であってもよい。
【0013】
マウスモノクローナル抗体4K21のヒト化誘導体の可変軽鎖領域は、配列番号9〜11のいずれか1つに記載の配列またはそのフラグメントもしくは変異体を含んでなり得る。マウスモノクローナル抗体4K21のヒト化誘導体の可変重鎖領域は、配列番号13〜15、17もしくは18〜27のいずれか1つに記載の配列またはそのフラグメントもしくは変異体を含んでなり得る。
【0014】
別の態様では、本発明は、ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体は、軽鎖可変領域内に、配列番号3〜5のいずれか1つに記載の配列を含んでなる少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含んでなり、ここで、抗体またはその抗原結合フラグメントは、GM−CSFの活性を阻害する、ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0015】
ある実施形態では、抗体はヒト化抗体である。
【0016】
別の態様では、本発明は、ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体は、重鎖可変領域内に、配列番号6〜8のいずれか1つに記載の配列を含んでなる少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含んでなり、ここで、抗体またはその抗原結合フラグメントは、GM−CSFの活性を阻害する、ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0017】
ある実施形態では、抗体はヒト化抗体である。
【0018】
さらなる態様では、本発明は、ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体は、軽鎖可変領域内に、配列番号3〜5のいずれか1つに記載の配列を含んでなる少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)、および重鎖可変領域内に、配列番号6〜8のいずれか1つに記載の配列を含んでなる少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含んでなる、ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0019】
ある実施形態では、抗体はヒト化抗体である。ヒト化抗体は、配列番号9、配列番号10もしくは配列番号11に記載の配列を含んでなる可変軽鎖領域またはそのフラグメントもしくは変異体を含んでなり得る。ヒト化抗体は、配列番号13、配列番号14、配列番号15もしくは配列番号17に記載の配列を含んでなる可変重鎖領域またはそのフラグメントもしくは変異体を含んでなり得る。
【0020】
ある実施形態では、ヒト化抗体またはその抗原結合フラグメントの可変重鎖領域は、配列番号13に記載の配列またはそのフラグメントもしくは変異体を含んでなる。
【0021】
変種可変重鎖領域は、配列番号13、配列番号14、配列番号15または配列番号17に記載の配列のアミノ酸残基を、対応するマウス可変重鎖領域の対応する位置でアミノ酸残基と置き換える1つ以上アミノ酸置換を含んでなり得る。一実施形態では1つ以上のアミノ酸置換は、配列番号13に記載の配列を含んでなる可変重鎖領域に対して行われる。ある実施形態では、変種可変重鎖領域は、配列番号18〜27のいずれか1つに記載の配列を含んでなる。ある実施形態では、変種可変重鎖領域は、配列番号27に記載の配列を含んでなる。
【0022】
一実施形態では、ヒト化抗体は、以下の表に示す可変軽鎖および可変重鎖配列を含んでなる群から選択される:
【0023】
【表1】

【0024】
本発明はまた、配列番号1〜27のいずれか1つに記載のアミノ酸配列に少なくとも約70%配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる、モノクローナル抗体を提供する。
【0025】
本発明はまた、本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを提供する。
【0026】
さらなる態様では、本発明は、GM−CSF仲介疾患または病態、あるいはそれ以外の上昇したもしくは異常なGM−CSF発現および/もしくは活性に関連する疾患または病態の処置または防止のための方法であって、それを必要とする被験体に、本発明の少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントの有効量を投与することを含んでなる、方法を提供する。
【0027】
典型的に、疾患または病態は、自己免疫または炎症性疾患または病態である。疾患または病態は、例えば、喘息、関節リウマチ、慢性閉塞性肺疾患、特発性血小板減少性紫斑病、急性呼吸窮迫症候群、多発性硬化症、アルツハイマー病、クローン病、過敏性腸症候群、大腸炎、乾癬、黄班編成、ぶどう膜炎、ワーラー変性、抗リン脂質抗体、再狭窄、アテローム硬化症、特発性肺線維症、再発性多発性軟骨炎、肝炎、糸球体腎炎、狼瘡および他の代謝疾患から選択され得る。
【0028】
さらなる態様では、本発明は、GM−CSF仲介疾患または病態あるいはそれ以外の上昇したもしくは異常なGM−CSF発現および/もしくは活性に関連する疾患または病態を処置または防止するための医薬品の製造のための本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントの使用を提供する。
【0029】
本発明はさらに、場合により、適切な薬学的に許容可能なキャリアおよび/または希釈剤と共に、本発明の1つ以上の抗体またはその抗原結合フラグメントを含んでなる医薬組成物を提供する。
【0030】
添付の図面を参考にして、非制限的な例のみによって、本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】市販の抗GM−CSF抗体(BD)と比較した、ヒトGM−CSFの細胞増殖促進活性を中和する13のマウス抗GM−CSFモノクローナル抗体の能力。
【図2】市販の抗GM−CSF抗体(BD)と比較した、マウス抗GM−CSFモノクローナル抗体の存在下でのマウスFDC−P1細胞の増殖。
【図3】4K21モノクローナル抗体および4つのヒト化変異体の可変軽鎖配列のアラインメント。CDR L1、L2およびL3を示す。フレームワーク4における変異G105QおよびV109Lを示す。
【図4】4K21モノクローナル抗体および5つのヒト化変異体の可変重鎖配列のアラインメント。CDR H1、H2およびH3を示す。
【図5】マウス4K21モノクローナル抗体および市販の抗GM−CSF抗体(BD)と比較した、BIAcore分析によって決定されるヒトGM−CSFに対する15のヒト化4K21モノクローナル抗体の結合親和性(RU)。簡単のため、1つおきにヒト化モノクローナル抗体に番号付けする(4K21−1、4K21−3など)。
【図6】ヒト化4K21抗体のBIACore結合分析。抗体を、2倍系列希釈の66.7nM〜4.17nMの濃度で注入した。GM−CSFヒト化抗体の結合親和性(A)、会合速度(B)および解離速度(C)を示す。
【図7】4K21モノクローナル抗体および5つのヒト化変異体の可変重鎖配列のアラインメントであって、4K21マウスフレームワークおよびヒト化h4Vh/10フレームワーク間の8アミノ酸残基の差異の位置および同一性(枠内)を示す。枠内の残基の上の数字(19〜25)は、復帰変異によって構築されたヒト化抗体の同一性を示す。また、CDR H1、H2およびH3も示す。
【図8】ヒト化抗体は、ヒトGM−CSFの細胞増殖促進活性を中和する。抗体を、3倍系列希釈の400nM〜28fMの濃度で調製し、そして細胞の添加の前に1時間、GM−CSFと混合した。細胞を、72時間、増殖させ、次いで、細胞増殖を、Hチミジンの組み入れによって定量した。各ポイントを、3回反復で計算した。
【図9】4K21およびヒト化4K21抗体hGM4/11、hGM4/21、hGM4/22およびhGM4/34のBIACore結合分析。抗マウスIgGまたは抗ヒトIgG抗体を介して、抗体をCM5チップに結合した。GM−CSFを、2倍系列希釈の1000nM〜15.63nMの濃度で注入した。GM−CSF抗体の結合親和性(A)、会合速度(B)および解離速度(C)を示す。
【0032】
ヌクレオチドおよびアミノ酸配列を、配列番号(SEQ ID NO:)によって呼称する。配列番号は、配列番号<400>1(配列番号1)、<400>2(配列番号2)などの番号に対応する。配列表は、本明細書の最後に提供する。具体的には、本発明に従う抗体の可変軽鎖および可変重鎖ならびにCDRのアミノ酸配列は、配列番号1〜27に示される。
【発明を実施するための形態】
【0033】
冠詞「a」および「an」は、冠詞の1つもしくは1を超える(即ち、少なくとも1つ)の文法的対象物を指すために本明細書において使用される。例えば、「あるエレメント(an element)」とは、1つのエレメントまたは1を超えるエレメントを意味する。
【0034】
用語「ポリペプチド」は、ペプチド結合によって共に連結されたアミノ酸からなるポリマーを意味する。用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、本明細書において交換可能に用いられるが、本発明の目的のため、「ポリペプチド」は、全長タンパク質の一部を構成し得る。
【0035】
本明細書に関して、「抗体」または「抗体」への言及は、抗体全体、例えば、Fv、Fab、Fab’およびF(ab’)フラグメントを含む抗体フラグメント、ヒト化抗体、ヒト抗体ならびに遺伝子操作技術を介して産生される免疫グロブリン由来のポリペプチドを含むがこれらに限定されないすべての多様な形態の抗体への言及を含む。
【0036】
本明細書に関して、抗体の「結合」への言及は、GM−CSFのような標的抗原への結合、相互作用または会合を意味する。「GM−CSF」への言及は、抗体が結合するエピトープを含んでなるフラグメントまたはその部分を含む。結果として、GM−CSFに結合する抗体への言及は、その範囲内において、抗体またはその抗原結合部分のGM−CSFの部分、フラグメントまたはエピトープ含有領域への結合、相互作用または会合を含む。一般的に、「結合」、「相互作用」または「会合」は、抗体のGM−CSFもしくはその一部への特異的結合、相互作用または会合を意味するかまたは含む。
【0037】
本明細書において使用する用語「阻害する」および「阻害すること」は、それらがGM−CSFの活性に関する場合、活性を完全に阻害することを意味する必要はない。むしろ、活性は、所望される効果を生じるのに十分な程度、および/または時間だけ阻害してもよい。それ故、GM−CSF活性の阻害は、GM−CSFの1つ以上の生物学的効果の部分的または完全な減衰であり得、そしてそのような阻害は、時間的および/または空間的に限定され得る。時間的および/または空間的に限定されるとは、阻害が、特定の生理学的条件もしくは環境および/または身体の特定の領域に限定され得ることを意味する。
【0038】
本明細書に関して、用語「活性」は、それがGM−CSFに関する場合、タンパク質もしくはポリペプチド自体またはその任意のフラグメントもしくは部分のいずれかによって、GM−CSFによって及ぼされる任意の細胞機能、作用、効果または影響を意味する。
【0039】
本明細書において使用する用語「処置すること」、「処置」、「防止すること」および「防止」は、病態もしくは症状を治すか、病態もしくは疾患の確立を防止するか、あるいはそうでなければ、病態もしくは疾患または他の所望されない症状の進行をあらゆる任意の方法で防止、妨害、遅延、または反転する任意およびすべての使用を指す。それ故、用語「処置すること」および「防止すること」などは、それらの最も広範な意味で考えられるべきである。例えば、処置は、完全な回復まで患者が処置されることを必ずしも意味しない。
【0040】
本明細書において使用する用語「有効量」は、その意味の範囲内において、非毒性であるが、所望される効果を提供するのに十分な薬剤の量を含む。要求される正確な量または用量は、処置する種、被験体の年齢および全身症状、処置している病態の重症度、投与している特定の薬剤および投与形態などのような要因に依存して、被験体によってばらつきがある。それ故、正確な「有効量」を特定することは不可能である。しかし、任意の所与の場合について、およその「有効量」は、日常的な実験のみを使用して、当業者によって決定され得る。
【0041】
本明細書において使用する用語「被験体」は、典型的に、ヒト、霊長類、家畜動物(例えば、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット)、愛玩用動物(例えば、イヌ、ネコ)および捕獲下野生動物(例えば、キツネ、カンガルー、シカ)を含む哺乳動物を指す。好ましくは、哺乳動物は、ヒトまたは実験動物である。さらにより好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0042】
本発明は、GM−CSFアンタゴニストとして機能する抗体を提供し、そして上昇したレベルおよび/または活性のGM−CSFによって誘導されるか、またはそうでなければ関連する所定の病態を処置するために、使用され得る。本発明はまた、そのような病態を罹患した患者に本発明の抗GM−CSF抗体を投与することを含んでなる、これらの病態を処置するための方法を提供する。また、そのような方法に使用するための組成物も提供され、組成物は、1つ以上の抗GM−CSF抗体を含んでなる。
【0043】
本発明の抗体は、GM−CSFまたはその一部に結合、相互作用またはそれでなければ会合する。抗体は、典型的に、ヒトGM−CSFのような特定の種由来のGM−CSFに特異的であるか、または異なる種GM−CSF間の配列類似性のレベルを考慮して、抗体は、2つ以上の種由来のGM−CSFといくつかの交差反応性を示し得る。ヒトGM−CSFに対して指向される抗体の場合、GM−CSFの他の哺乳動物形態とのいくつかのレベルの交差反応性が、例えば、特定の疾患の動物モデルにおいて抗体を試験するため、および毒物学、安全および用量研究を行うためのような所定の環境において所望され得る。
【0044】
典型的に、本発明の抗体は、モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントである。最も好ましくは、抗体は、ヒトへの投与に適切なヒト化またはヒト抗体である。これらは、例えば、マウスモノクローナル抗体から調製されたヒト化抗体、および例えば、トランスジェニックマウスまたはファージディスプレイを使用して調製され得るヒトモノクローナル抗体を含む。
【0045】
本発明の抗体は、当業者に周知の多様な手順によって調製してもよい。例えば、Monoclonal Antibodies, Hybridomas: A New Dimension in Biological Analyses, Kennet et al. (eds.), Plenum Press, New York (1980);Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow and Land (eds.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., (1988);およびMonoclonal Antibodies: Principles and Practice, Goding, 3rd Edition, Academic Press (1996)が参考になり得る。それらの開示内容は、それらの全体が本明細書において参考として援用される。同様に、ハイブリドーマ細胞系統によって分泌されるモノクローナル抗体を、従来の技術によって精製してもよい。
【0046】
例えば、本発明の抗体を産生させるための1つの方法は、マウスまたはトランスジェニックマウスのような非ヒト動物を、GM−CSFポリペプチド、またはその免疫原性もしくはフラグメントで免疫し、それによって、GM−CSFポリペプチドに対して指向された抗体が前記動物において作製されることを含んでなる。動物を免疫するために使用され得るGM−CSFポリペプチドまたはその免疫原性部分もしくはフラグメントは、いずれの哺乳動物供給源由来であってもよい。典型的に、GM−CSFポリペプチドまたはそのフラグメントの免疫原性部分はGM−CSFである。
【0047】
本発明の抗体の抗原結合フラグメントは、従来の技術によって産生させてもよい。そのようなフラグメントの例として、Fab、Fab’、F(ab’)2および一本鎖Fvフラグメント(sFvまたはscFvと呼ばれる)を含むFvフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。ジスルフィド安定化Fvフラグメント(dsFv)、一本鎖可変領域ドメイン(Ab)分子およびミニボディ(minibodies)のような遺伝子操作技術によって産生される抗体フラグメントおよび誘導体もまた、使用のために考慮される。他で特定しない限り、本明細書において使用する用語「抗体」および「モノクローナル抗体」は、抗体全体およびその抗原結合フラグメントの両方を包含する。
【0048】
GM−CSFに対して指向されるモノクローナル抗体のそのような誘導体を、既知の技術によって、所望される特性について調製およびスクリーニングしてもよい。技術は、例えば、目的のモノクローナル抗体のポリペプチド鎖(またはその一部)をコードするDNAを単離し、そして組み換えDNA技術を介してDNAを操作することをに関与し得る。DNAを使用して、目的の別のDNAを作製するか、あるいは(例えば、変異誘発もしくは他の従来の技術によって)変更して、例えば、1つ以上のアミノ酸残基を付加、欠失、または置換してもよい。抗体ポリペプチド(例えば、重鎖もしくは軽鎖、可変領域のみまたは全長)をコードするDNAは、GM−CSFで免疫したマウスのB細胞から単離してもよい。DNAは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含む従来の手順によって単離してもよい。
【0049】
ファージディスプレイは、適切な技術のその他の例であり、それによって、本発明の抗体の誘導体を調製することができる。1つのアプローチでは、目的の抗体の成分であるポリペプチドが、任意の適切な組み換え発現系において発現され、そして発現されるポリペプチドを集成させて、抗体分子を形成する。
【0050】
一本鎖抗体は、アミノ酸架橋(短いペプチドリンカー)を介して重鎖および軽鎖可変領域(Fv領域)フラグメントを連結することによって形成してもよく、単一のポリペプチド鎖が生じる。そのような一本鎖Fv(scFv)は、2つの可変領域ポリペプチド(VLおよびVH)をコードするDNAの間に、ペプチドリンカーをコードするDNAを融合することによって、調製してもよい。得られる抗体フラグメントは、2つの可変ドメインの間の可撓性リンカーの長さに依存して、二量体または三量体を形成することができる(Kortt et al., Protein Engineering 10: 423, 1997を参照のこと)。一本鎖抗体の産生のために開発された技術として、U.S. Pat. No. 4,946,778;Bird (Science 242: 423, 1988)、Huston et al. (Proc. Natl. Acad Sci USA 85: 5879, 1988)およびWard et al. (Nature 334: 544, 1989)に記載のものが挙げられる。それらの開示内容は、それらの全体が本明細書において参考として援用される。本明細書において提供される抗体から誘導される一本鎖抗体も、本発明に包含される。
【0051】
本発明によって考慮されるモノクローナル抗体の例は、マウスモノクローナル抗体4K21であり、その作製は、本明細書に記載されている。マウスモノクローナル抗体4K21は、配列番号1に記載の可変軽鎖配列および配列番号2に記載の可変重鎖配列を含んでなる。4K21の軽鎖CDRの配列を、配列番号3〜5に記載する。4K21の重鎖CDRの配列を、配列番号6〜8に記載する。
【0052】
マウスモノクローナル抗体4K21を産生するハイブリドーマは、2007年5月17日に受託番号07051601でEuropean Collection of Cell Cultures (ECACC)(Centre for Applied Microbiology and Research、Porton Down, Salisbury, United Kingdom)に寄託された。
【0053】
ポリペプチドの一次配列が変更されるが、抗体がGM−CSFに結合する能力および抗体の活性は保持されるように、本発明のモノクローナル抗体のアミノ酸配列は、1つ以上のアミノ酸置換を含み得ることが理解されよう。置換は、保存的置換であってもよい。本明細書において使用する用語「保存的アミノ酸置換」は、ポリペプチド鎖(タンパク質の一次構造)内の類似の特性を伴う別のアミノ酸に対する1つのアミノ酸の置換または置き換えを指す。例えば、類似の荷電アミノ酸アスパラギン酸(Asp)に対する荷電アミノ酸グルタミン酸(Glu)の置換は保存的アミノ酸置換である。
【0054】
本発明は、本明細書において開示する軽鎖および重鎖配列の変異体を考慮し、そしてそのような変異体は、本発明の範囲内に包含される。本明細書において使用する用語「変異体」は、実質的に類似の配列を指す。一般的に、ポリペプチド配列変異体は、共同の定性的生物活性を所有する。変異体ポリペプチド配列は、本明細書において開示する配列の誘導体であってもよく、この誘導体は、1つ以上のアミノ酸の付加、欠失、または置換を含んでなる。変異体は、フレームワーク領域、または軽鎖もしくは重鎖配列のいずれかのCDR内の開示された配列とは異なっていてもよい。例えば、配列番号1〜27に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも約70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントが考慮される。モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号1〜27に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなり得る。用語「変異体」は、任意の適切な手段によって、本明細書において開示する配列から改変された抗体配列を包含する。例えば、マウス配列に関して使用する場合、用語「変異体」は、その範囲内において、そのような配列のヒト化形態を含む。本明細書において開示するヒト化配列に関して使用する場合、用語「変異体」は、その範囲内において、1つ以上のマウス復帰変異を含んでなる改変された配列を含む。
【0055】
非ヒト動物、例えば、マウスから誘導される抗体は、それらが免疫応答を生じ、そして抗マウス抗体の作製(いわゆるHAMA応答)をもたらし得る場合、一般的に、ヒトへの投与には不適切である。HAMA応答は、血液からマウス抗体を迅速に浄化することによってマウス抗体を中和することができ、それによって、マウス抗体がその標的に結合するのを妨害する。
【0056】
HAMA応答の発達を回避するための1つのストラテジーは、非エピトープ結合領域における同じ数の「外来性」残基をヒト配列で置き換えることによって、マウス抗体を「ヒト化」することである。抗体と抗原との間の相互作用の特異性は、可変ドメインにおける超可変または相補性決定領域(CDR)に関与する。これらの残基は、一般的に、ヒト化プロセスにおいて変化しない。フレームワーク(FW)と称される可変ドメインの残留する残基、および抗体の定常領域は、重鎖および軽鎖の両方において、通常、ヒト配列によって置き換えられる。抗体結合ポケットの構造および抗体の特異性または親和性を崩壊することを改廃するために、フレームワーク領域における所定のマウス残基は、保存する必要があり得る。CDRグラフティングのような適切なヒト化プロセスは、当業者に周知である。特に適切なアプローチを、本明細書において例示する。また、キメラおよびヒト化モノクローナル抗体の産生のための手順として、例えば、Riechmann et al., Nature 332: 323, 1988, Liu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84: 3439, 1987、Larrick et al., Bio/Technology 7: 934, 1989およびWinter and Harris, TIPS 14: 139, 1993に記載のものが挙げられる。所与の抗体の相補性決定領域(CDR)は、Kabat et al. in Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed., US Dept. of Health and Human Services, PHS, NIH, NIH Publication No. 91-3242, 1991)に記載のシステムを使用して、同定してもよい。
【0057】
例えば、本明細書において記載のように、マウスモノクローナル抗体4K21は、抗体の免疫原性を減少するために、ヒト化に供されている。本明細書において例示するように、ヒトGM−CSFに対する高い結合親和性(ピコモル範囲)を保持し、そして適切なGM−CSF阻害活性を保持する22のヒト化抗体を同定した。
【0058】
特定の実施形態では、本発明のヒト化抗体は、それらの軽鎖の可変領域内に、配列番号3〜5に記載のマウス抗体4K21の軽鎖において見出される少なくとも1つのCDRを含んでなる。それ故、本発明によって考慮される抗体には、マウス抗体4K21の軽鎖可変領域由来のCDR配列のうち1〜3つのすべてを含んでなる抗体がある。
【0059】
さらに、本発明によって考慮される抗体には、それらの重鎖の可変領域内に、配列番号6〜8に記載のマウス抗体4K21の重鎖において見出される少なくとも1つのCDRを含んでなる抗体がある。それ故、本発明によって考慮される抗体には、マウス抗体4K21の重鎖可変領域由来のCDR配列のうち1〜3つのすべてを含んでなる抗体がある。
【0060】
好適な実施形態では、本発明の抗体は、マウス抗体4K21の重鎖および軽鎖可変領域由来の1〜6つのすべてのCDR配列を含んでなる。
【0061】
本発明の特定の実施形態に従うヒト化抗体を、以下の表2に記載する。
【0062】
【表2】

【0063】
非ヒト動物においてヒト抗体を作製するための手順もまた開発されており、そして当業者に周知である。抗体は、部分的にヒト由来であってもよく、または完全にヒト由来であってもよい。例えば、1つ以上のヒト免疫グロブリン鎖をコードする遺伝子材料が導入されているトランスジェニックマウスを使用して、抗体を産生させてもよい。トランスジェニックマウスは、内因性免疫グロブリン鎖を置き換えるヒト免疫グロブリンポリペプチド鎖が、免疫時に動物によって産生される少なくともいくつかの抗体に存在するようなものであり得る。
【0064】
ヒト抗体を作製するための別の方法は、ファージディスプレイである。ヒト抗体を作製するためのファージディスプレイ技術は、当業者に周知であり、そしてCambridge Antibody Technology and MorphoSysによって使用される方法を含み、そしてこれらは、International Patent Publication Nos. WO 92/01047、WO 92/20791、WO 93/06213およびWO 93/11236(それらの開示内容は本明細書において参考として援用される)に記載されている。
【0065】
本発明の抗体またはそのような抗体を含んでなるハイブリドーマをスクリーニングおよび操作して、GM−CSFに対して増加した結合親和性、減少した免疫原性および/または増加した阻害活性のような特に所望される特性を伴うモノクローナル抗体をさらに同定してもよい。
【0066】
本発明は、GM−CSF仲介疾患または病態、それ以外の上昇したレベルおよび/または活性のGM−CSFに関連する疾患または病態、ならびに本発明の抗体の投与によりGM−CSF活性を阻害または中和することによって、有益に処置され得る他の疾患または病態を処置あるいは防止するための方法を提供する。本発明に従って処置され得る疾患および病態として、自己免疫および炎症性疾患が挙げられる。そのような疾患として、喘息、関節リウマチ、慢性閉塞性肺疾患、特発性血小板減少性紫斑病、急性呼吸窮迫症候群、多発性硬化症、アルツハイマー病、クローン病、過敏性腸症候群、大腸炎、乾癬、黄班編成、ぶどう膜炎、ワーラー変性、抗リン脂質抗体、再狭窄、アテローム硬化症、特発性肺線維症、再発性多発性軟骨炎、肝炎、糸球体腎炎、狼瘡および他の代謝疾患が挙げられるが、これらに限定されない。本発明に従って処置され得るさらなる自己免疫疾患として、全身性硬化症、強皮症、シェーグレン症候群、脊椎関節炎、Sapho症候群、若年性特発性関節炎、ライム病、多発性筋炎、皮膚筋炎、自己免疫性甲状腺炎、グレーブス病、1型糖尿病、副腎炎、自己免疫性アジソン病、多内分泌症候群、胃炎、悪性貧血、下垂体炎、溶血性貧血、好中球減少、再生不良性貧血、後天性フォン・ウィルレブランド症候群を含む凝固異常、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、重症筋無力症、ランバート・イートン筋無力症候群、後天性神経性筋強直症、スティッフパーソン症候群、小脳失調、ラスムッセン脳炎、モルバン症候群、辺縁系脳炎、眼疾患、内耳疾患、セリアック病、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、膵炎、天疱瘡、類天疱瘡、円形脱毛症、白斑、慢性蕁麻疹、グッドパスチャー病、ANCA関連糸球体腎炎、精巣炎、卵巣炎、リウマチ性心疾患、心筋炎、拡張型心筋症、結節性多発動脈炎、川崎病、ウェゲナー肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎、チャーグ・ストラウス症候群、クリオグロブリン血症性血管炎、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、ベーチェット病、巨細胞性動脈炎、高安動脈炎、特発性閉塞性細気管支炎、特発性肺線維症、肺の自己免疫障害およびオプソウローヌス・ミオクローヌス症候群が挙げられる。
【0067】
本明細書において開示する抗体はまた、失敗したまたは拒絶されたインプラントおよび補綴、ならびに例えば、肺、腎臓、心臓および肝臓のような失敗したまたは拒絶された臓器移植の処置における用途が見出される。
【0068】
本発明の抗体のさらなる用途が、インビボおよびインビトロの両方において考慮される。例えば、本発明の抗体は、GM−CSFの存在を検出する、および/またはGM−CSFを精製するように設計されたアッセイにおいて用いてもよい。抗体は、特定の疾患の動物モデルにおいて、および毒物学、安全性および用量研究を行うために、試験してもよい。
【0069】
治療および予防的用途のために、本発明の抗体は、それを必要とする被験体に、所望される治療または予防効果を得るのに有効な量で投与される。任意の特定の被験体の特定の有効量または用量は、例えば、用いられる特異的抗体の活性、年齢、体重、一般的健康、および処置しようとする個体の食事、投与時間、排泄速度、および他の任意の処置または治療との組み合わせを含む多様な因子に依存することが理解されよう。単回または複数回の投与は、処置する医師によって選択される用量レベルおよびパターンによって行うことができる。
【0070】
自己免疫および炎症状態の処置または防止において、本発明は、必要または所望であれば、複数の抗体の投与を考慮する。1つ以上の抗体を投与することが適切または所望であるかどうかは、その場で個別に、当業者によって決定することができる。
【0071】
本発明はまた、併用療法を考慮し、ここで、本明細書に記載の抗体は、所望される治療または予防結果を容易にし得る他の適切な薬剤と共投与される。例えば、喘息に関して、本発明の実施形態に従って薬剤を用いる一方、炎症の発症を制御するために、進行中の抗炎症療法を維持することを求めることができる。「共投与される」とは、同じもしくは異なる経路を介する同じ処方または異なる2つの処方における同時投与、あるいは同じもしくは異なる経路による連続投与を意味する。「連続」投与とは、2つの薬剤の投与間の秒、分、時間、日、週、月または年の時間的差異を意味する。これらの薬剤は、任意の順序で投与し得る。
【0072】
本発明の実施形態に従えば、抗体は、任意の適切な形態で投与することができる。本発明に従えば、抗体は、典型的に、医薬組成物の形態で投与され、この組成物は、1つ以上の薬学的に許容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤を含んでなり得る。そのような組成物は、全身的、領域的または局所的に、ならびに非経口(静脈内、動脈内もしくは筋肉内を含む)、経口、経鼻、局所および皮下経路のような任意の適切な経路を介して投与することができる。
【0073】
薬学的に許容可能なキャリアまたは希釈剤の例には、脱塩水または蒸留水;塩類溶液;ピーナツ油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、落花生油もしくはヤシ油のような植物油;メチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサンおよびメチルフェニルポリシロキサンのようなポリシロキサンを含むシリコーン油;揮発性シリコーン;流動パラフィン、ソフトパラフィンまたはスクアランのような鉱油;メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースのようなセルロース誘導体;低級アルカノール、例えば、エタノールまたはイソ−プロパノール;低級アラルカノール;低級ポリアルキレングリコールまたは低級アルキレングリコール、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールまたはグリセリン;パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピルまたはオレイン酸エチルのような脂肪酸エステル;ポリビニルピリドン;寒天;カラギーナン;トラガントガムまたはアラビアガム、およびペトロリュームジェリーがある。典型的に、キャリアは、組成物の10重量%〜99.9重量%を形成する。
【0074】
経口用途のための適切なキャリア、希釈剤、賦形剤およびアジュバントのいくつかの例として、ピーナツ油、流動パラフィン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム、トラガントガム、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、ゼラチンおよびレシチンが挙げられる。加えて、これらの経口処方は、適切な風味付けおよび着色剤を含有してもよい。カプセル形態で使用する場合、カプセルを、崩壊を遅延するモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルのような化合物で被覆してもよい。アジュバントは、典型的に、エモリエント、乳化剤、増粘剤、保存剤、殺菌剤および緩衝剤を含む。
【0075】
注入可能な溶液または懸濁液としての投与のために、非毒性の非経口的に許容可能な希釈剤またはキャリアは、リンゲル液、中鎖トリグリセリド(MCT)、等張食塩水、リン酸緩衝食塩水、エタノールおよび1,2プロピレングリコールを含むことができる。非経口的に投与可能な組成物を調製するための方法は、当業者に公知であり、そして例えば、Remington's Pharmaceutical Science, 15th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa.(その全体が本明細書において参考として援用される)により詳細に記載されている。
【0076】
本明細書において任意の先行する公開(もしくはそれらか誘導される情報)、または公知である任意の事柄について言及したことは、先行する公開(もしくはそれから誘導される情報)、または公知の事柄が、本明細書が関わる試みの分野において、任意の国における共通一般知識の部分を形成するという確認または承認または任意の形態の示唆として見なされず、およびそのように見なされるべきでない。
【0077】
これから、以下の具体例を参考にして、本発明を説明するが、これらは、いずれの方法においても本発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0078】
実施例1−マウスモノクローナル抗体4K21の作製
抗ヒトGM−CSF抗体を、CFA(完全フロイントアジュバント)中50μgの組み換えヒトGM−CSF(Peprotech)のBALB/cマウスへの腹腔内注入によって、作製した。これに続いて、2週間後および4週間後に、IFA(不完全フロイントアジュバント)中25μgの組み換えヒトGM−CSFのさらなる2回の注入を行った。
【0079】
最初の注入の6ヵ月後、IFA中組み換えヒトGM−CSFの25μgブースターを、腹腔内に投与した。最後に、ブースターの2週間後、リン酸緩衝食塩水中50μgの組み換えヒトGM−CSFを、静脈内に投与した。5日後、マウス脾臓を回収し、そしてSP2/0細胞と融合させた。
【0080】
抗体を発現するハイブリドーマの上清を、組み換えヒトGM−CSFに対する特異的結合について、ELISA(酵素免疫測定法)によってスクリーニングした。抗ヒトGM−CSF抗体を、中和活性について、TF−1およびFDC−P1バイオアッセイによってさらにスクリーニングした(実施例2を参照のこと)。
【0081】
作製された1つのそのようなマウス抗ヒトGM−CSFモノクローナル抗体を、4K21−O11−E14(以後、4K21)と命名した。
【0082】
mAb 4K21の可変領域アミノ酸配列は以下のとおりである:
軽鎖
DVVMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSSQSLVNSNGNTYLHWFLQKPGQSPKLLIYKVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYFCSQSTHVPPTFGGGTKLEIK(配列番号1)
重鎖
EVQLVESGGGLVKSGGSLKLSCAASGFAFSAYDMSWVRQTPEKRLELVAYISSGGSSFYYPDTVKGRFTISRDNAKNTLYLQMSSLKSEDTAMYYCTRHLGFDYWGQGTTLTVSS(配列番号2)
【0083】
4K21を含有するハイブリドーマは、2007年5月17日に受託番号07051601でEuropean Collection of Cell Cultures (ECACC)(Centre for Applied Microbiology and Research、Porton Down, Salisbury, United Kingdom)に寄託された。
【0084】
実施例2−マウスモノクローナル抗体4K21の生物学的特性
マウス抗ヒトGM−CSFモノクローナル抗体4K21は、TF−1細胞増殖バイオアッセイにおいて、ヒトGM−CSFの増殖触診機能を中和することが可能であることを実証した(図1)。TF−1細胞は、それらの増殖についてGM−CSFの存在に依存し、そして2ng/ml組み換えGM−CSF(Peprotech)によって維持される。中和アッセイを実施するために、抗体濃度の範囲(10ng/ml〜10,000ng/ml)を、0.25ng/mlのGM−CSFを伴うTF−1培養培地において調製した。抗体およびGM−CSFを各濃度で混合し、そして96ウェルプレートにおいて、1時間、37℃でインキュベートした。次いで、洗浄したTF−1細胞(1×10個)を各ウェルに添加し、そして37℃で72時間、インキュベートした。各ウェルを4時間、0.5μCiのH−チミジンでパルスラベルすることによって、細胞増殖を定量した。
【0085】
対照的に、4K21の抗ヒトGM−CSF特異性が実証され、この抗体は、FDC−P1細胞のマウスGM−CSF仲介増殖を中和することができなかった(図2)。中和アッセイを実施するために、抗体濃度の範囲(10ng/ml〜10,000ng/ml)を、5ng/mlのGM−CSFを伴うFDC−P1培養培地において調製した。抗体およびGM−CSFを各濃度で混合し、そして96ウェルプレートにおいて、1時間、37℃でインキュベートした。次いで、洗浄したFDC−P1細胞(1×10個)を各ウェルに添加し、そして37℃で72時間、インキュベートした。各ウェルを4時間、0.5μCiのH−チミジンでパルスラベルすることによって、細胞増殖を定量した。
【0086】
4K21モノクローナル抗体の結合動態を、Biacoreを使用して決定し、そしてBD Biosciences(BD;Cat No. 554501)から市販のラット抗ヒトGM−CSF抗体の結合動態と比較した(以下の表1を参照のこと)。組み換えヒトGM−CSFをCM5チップ上に被覆して、4K21抗体の結合動態を決定した。被覆されていないフローセルを対照として使用した。2倍系列希釈の66.7nM〜4.17nMの濃度でHBS−EPにおいて調製された抗体を、10分間の安定化時間および15分間の解離時間を伴って、2分間、注入した。BIACore動態解析ウィザードを稼動させて、GM−CSFに対する各抗体の会合(ka[1/Ms])、解離(kd[1/s])および親和性(KD[nM])を決定した。表3に示されるように、4K21は、ヒトGM−CSFに対して極度に高い結合親和性を示し、低いピコモル濃度で結合する。
【0087】
【表3】

【0088】
実施例3−4K21のヒト化
CDRおよびフレームワーク残基の定義。
抗体のCDRおよびフレームワーク領域は、通常、Kabat、ChothiaまたはIMGT(ImMunoGeneTics information system(登録商標)http://imgt.cines.fr)のような様々な番号付けスキームに従って、定義される。Kabat定義は配列可変性に基づき、そして最も一般的に使用される。しかし、Kabatによって定義される所与の抗体のCDRは、他の番号付けシステムによって定義されるCDRと必ずしも同一である必要はない。2つの番号付けシステムによって定義されるCDRは重複していてもよく、または他のいずれかの側において数残基を伸長し得る。
【0089】
KabatおよびIMGT番号付けシステムの組み合わせを使用して、可変(V)ドメインにおけるCDRおよびフレームワーク領域を定義した。目的は、抗原結合ポケットの構造を保存するために、ヒトフレームワークにグラフト化されるマウスCDR配列の程度を最大にすることであった。従って、GM−CSF抗体CDRは、KabatおよびIMGT番号付けシステムの両方によってCDRとして分類されるすべての残基を含んだ。残りの配列は、Vドメインフレームワークを含んでなった。
【0090】
適切なヒト抗体フレームワーク配列の選択
マウスCDRがグラフト化される適切なヒト抗体フレームワーク配列を選択するために、多くのストラテジーを使用した:
・BlastP、ならびにGM−CSF抗体のマウス可変領域に最も高い相同性を伴う同定されたヒトIgV領域軽鎖および重鎖配列を使用して、配列データベースを検索した。
・ヒトIgV領域重鎖および軽鎖配列を、3つの基準に基づいて格付けした:
a)完全なマウス可変領域配列に対する全体的な類似性および同一性
b)正準構造の比較
c)フレームワーク類似性スコア
・マウスGM−CSF抗体に対して最も高い相同性を伴う既知のヒト抗体を選択し、そしてそれらのヒト可変領域フレームワークを使用して、マウスGM−CSF抗体CDRをグラフト化した。
【0091】
配列データベースからの相同抗体の選択
マウス4K21可変領域アミノ酸配列(重鎖および軽鎖の両方)を、NCBI非冗長データベースのBlastP検索における問い合わせ配列として個々に使用した。次いで、ヒト供給源由来の配列を選択した。対照を確認し、そしてクローンがヒト供給源から正しく単離されたことが明確でなかった場合、配列を無視した。軽鎖の正準構造を、Tomlinson et al., EMBO J 14:4628-4638, 1995の定義に基づいて決定した。同様に、重鎖の正準構造を、Chothia et al., J. Mol. Biol. 227:799-817, 1992の定義に基づいて決定した。
【0092】
問い合わせ配列に対して最も高い相同性を伴う配列のリストを、各検索から作製し、そして以下の表4および5にまとめた。
【0093】
ヒト軽鎖フレームワークの選択
【0094】
【表4−1】

【表4−2】

【0095】
4K21軽鎖可変領域に対して最も高い相同性を伴うフレームワークは、hIgVL GMCSF01、02、04、05、06、07、19、15、09および08であった。これらのすべての抗体は、hIgVL GMCSF06(4−1−3)を除いて、4K21軽鎖(4−1−1)と同じ正準構造を有する。これらの多くの抗体の供給源は明確ではなかったため、それらを無視した。
【0096】
比較のために選択した抗体は、hIgVL GMCSF02、05、06、19および09であった。抗体02および05は、同じフレームワークを有するため、合計で4つの異なるフレームワークが定義された。定義されたフレームワークはかなり類似しており、そして事実、フレームワークの2つの部分は、フレームワーク4における2つの変異を除いて同一である。変異は、両方の対−G105QおよびV109L−において同じである(図3を参照のこと)。このデータに基づいて、フレームワーク4における変異が軽鎖のこの組み合わせに含まれる場合、それらが重要であれば、h4a、h4bおよびh4cのみを合成することを決定した。
【0097】
ヒト重鎖フレームワークの選択
【0098】
【表5−1】

【表5−2】

【0099】
4K21重鎖可変領域に対して最も高い相同性を伴うフレームワークは、hIgVH GMCSF01、02、05、および26であった。これらのすべての抗体は、4K21重鎖(1−3)と同じ正準構造を有する。抗体の次の大きなグループは、それらの同一性および類似性スコアが極めて類似したが、2つの抗体を、それらのフレームワーク類似性に基づいて選択した。フレームワーク類似性は、フレームワーク領域の各残基を分析することによって計算したが、スコアは非同一性の数字である。これらの2つの抗体はhIgVH GMCSF11および20であった。すべての抗体の供給源を確認し、そしてすべては、無視されたhIgVH GMCSF02を除いて、ヒト供給源由来であった。従って、4K21の可変重鎖領域に対して最も高い相同性を伴う選択された抗体は、hIgVH GMCSF01、05、11、20および26であった。
【0100】
CDRのフレームワーク配列へのグラフト化、ならびにヒト化軽鎖および重鎖配列の作製
ヒト化4K21軽鎖
ヒト化4K21軽鎖可変領域の4つのバージョンを作製した。図3は、4K21軽鎖抗体のこれらのヒト化バージョンのアラインメントを示す。これらのうち3つ、h4a、h4bおよびh4cを、本明細書に記載のヒト化抗体において利用した。
【0101】
ヒト化抗GM−CSF軽鎖、h4a(配列番号9)は、hIgVL GMCSF02および05フレームワークに基づく−これらの2つの抗体軽鎖は、同一のフレームワークを有する。両方の抗体とも、治療用ヒト抗体のライブラリーから単離した。ライブラリーは、ヒト扁桃、臍帯、末梢血液および骨髄の混合物から開発した。
【0102】
ヒト化抗GM−CSF軽鎖、h4b(配列番号10)は、hIgVL GMCSF06フレームワークに基づく。この抗体は、慢性リンパ性白血病を伴う患者の末梢血液から単離した(Stamatopoulos et al. Blood 106(10):3575-3583, 2005)。
【0103】
ヒト化抗GM−CSF軽鎖、h4c(配列番号11)は、hIgVL GMCSF09フレームワークに基づく。抗体は、治療用ヒト抗体のライブラリーから単離した。ライブラリーは、ヒト扁桃、臍帯、末梢血液および骨髄の混合物から開発した。
【0104】
ヒト化4K21重鎖
ヒト化4K21重鎖可変領域の5つのバージョンを作製した。図4は、4K21重鎖抗体のこれらの5つのヒト化バージョンのアラインメントを示す。
【0105】
ヒト化抗GM−CSF重鎖、h4/10(配列番号13)は、hIgVH GMCSF01に基づく。抗体は、マラリア感染に耐性である患者から単離した(Lundquist et al., Infect. Immun. 74 (6): 3222-3231, 2006)。
【0106】
ヒト化抗GM−CSF重鎖、h4/20(配列番号14)は、hIgVH GMCSF05に基づく。抗体は、治療用ヒト抗体のライブラリーから単離した。ライブラリーは、ヒト扁桃、臍帯、末梢血液および骨髄の混合物から開発した。
【0107】
ヒト化抗GM−CSF重鎖、h4/30(配列番号15)は、hIgVH GMCSF11に基づく。抗体は、2名の健康な成人から単離した(Wang and Stollar, Clin. Immunol. 93 (2): 132-142, 1999)。
【0108】
ヒト化抗GM−CSF重鎖、h4/40(配列番号16)は、hIgVH GMCSF20に基づく。この抗体は、CD5+B細胞集団から単離した。
【0109】
ヒト化抗GM−CSF重鎖、h4/50(配列番号17)は、hIgVH GMCSF26に基づく。このヒト抗体は、有毛細胞白血病を伴う患者から単離した。データベースへの入力は、フレームワーク1の完全な配列を有さなかったことに留意すること。(最初の16アミノ酸が欠落している。)フレームワークを1つの領域に完了するために、マウス重鎖の等価な残基を挿入した。マウス抗体由来のこれらのすべての残基は、アミノ酸14のセリンを除いて、ヒトデータベースに存在する。アミノ酸14のセリンは、マウスに独特であるようである。従って、アミノ酸14にセリンが含まれると、4K21重鎖のヒト化バージョンのマウス残基に復帰するフレームワーク変異として認識される。
【0110】
実施例4−ヒト化抗体の発現
抗体可変領域遺伝子の定常領域遺伝子を伴うベクターへのクローニング
重鎖および軽鎖可変アミノ酸配列を、上記のように設計した。これらのドメインを含有する抗体を産生させるために、各可変領域をコードするDNA配列を最適化し、そしてGeneart GmbH(Germany)によって合成した。軽鎖可変遺伝子は、各末端において独特なBsmB1制限部位を有した。重鎖遺伝子は、5’末端においてBsmB1部位および3’末端においてNhe1部位を有した。他のベクターへのサブクローニングを簡単にするために、EcoRIおよびHindIII部位を5’または3’末端に付加した。
【0111】
全長抗体遺伝子を構築するために、可変領域遺伝子を、分泌シグナルおよび定常ドメインをコードするベクターにサブクローニングした。軽鎖については、このベクターは、2つの独特なBsmB1部位によって分離される分泌シグナル配列およびヒト定常κ(Cκ)領域遺伝子を含有した。重鎖ベクターは、BsmB1およびNhe1部位によって分離される分泌シグナルおよびヒト定常γ(Cγ1)領域遺伝子を含有した。
【0112】
クローニングプロセスは、標準的な方法、製造者(NEB)によって推奨されるようなBsmB1(軽鎖ベクターおよびVk領域遺伝子)またはBsmB1およびNhe1(重鎖ベクターおよびVh領域遺伝子)によるプラスミドDNAの消化、アガロースゲル電気泳動によるDNAフラグメントの分離、ゲル抽出キット(JetQuick、Genomed)を使用するゲルからのDNAフラグメントの回収、可変遺伝子フラグメントのベクターフラグメント(T4 DNAリガーゼ、NEB)へのライゲーション、DNAのコンピテント大腸菌(E.coli)細胞(TOP10、Invitrogen)への形質転換によるプラスミドDNAの調製に関与した。形質転換細胞由来のプラスミドDNAを制限消化によって分析し、そしてプラスミド中の抗体遺伝子を配列決定して、可変領域が正確なリーディングフレームにサブクローニングされていることを確認した。
【0113】
抗体遺伝子の発現ベクターへのサブクローニング
全長抗体遺伝子が正確な配列を有することを確認した後、それを発現ベクターにサブクローニングした。使用し得る発現ベクターの例として、pcDNA−、pLENTI−、pT−REX−、pAd−、pREP−またはpCEP−哺乳動物発現ベクター(Invitrogen)、pTriEx1またはpBacベクター(Novagen)、ZAPおよびpCMV発現ベクター(Stratagene)、GS発現系ベクター(Lonza)、pCMV5 cumate発現系ベクター(Qbiogene)、UCOE発現系プラスミド(ML Laboratories)またはMARtech発現プラスミド(Selexis)のいずれかが挙げられる。この場合、重鎖遺伝子(5’末端においてHindIII部位および3’部位においてEcoRI部位を伴う)を、pEE6.4ベクター(Lonza Biologics、GB)のCMVプロモーターより下流のHindIII−EcoRI部位にサブクローニングした。軽鎖遺伝子(5’末端においてHindIIIおよび3’末端においてEcoRI部位を伴う)を、pEE12.4(Lonza Biologics、GB)のHindIII−EcoR1部位にサブクローニングした。重鎖発現カセット(プロモーター、重鎖コーディング配列およびポリアデニル化シグナルを伴う、ならびに5’末端にNotIおよび3’末端にBamHIを伴う)を、軽鎖発現カセットより下流のNotI−BamHI部位にサブクローニングして、重鎖および軽鎖の両方を発現する単一のベクターを作製した。
【0114】
哺乳動物細胞におけるヒト化抗体の発現
ヒト化抗体を発現させるために、場合によって、lipofectamine(Invitrogen)を使用して、重鎖および軽鎖ベクターをCHO細胞に同時トランスフェクトした。あるいは、ベクターDNAは、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、直接注入、遺伝子銃または当業者に公知の別の方法によって、トランスフェクトし得る。ほとんどの場合、重鎖および軽鎖の両方をコードする単一のベクターを、エレクトロポレーションによって、CHO細胞にトランスフェクトした。
【0115】
一過性抗体トランスフェクションおよび発現。
トランスフェクションの当日に、150μgのDNAを、lipofectamineで1.5×10個のCHO細胞(少なくとも90%生存、Lonza Biologics、GB)にトランスフェクトした。3〜4日後、ELISAによって抗体発現をモニターした。
【0116】
ヒト化抗体の精製
トランスフェクト細胞は、抗体を増殖培地に分泌する。抗体を、プロテインGアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。SDS−PAGEまたはヒトIgG特異的ELISAによって同定される抗体を含有する画分をプールした。ヒトIgG特異的ELISAを使用して、回収された抗体の量およびその濃度を決定した。抗体の純度は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって見積もった。
【0117】
産生およびアッセイしたヒト化抗体のリスト
以下の表6は、産生された異なる抗体を列挙し、抗体に存在する重鎖および軽鎖配列を示す。
【0118】
【表6】

【0119】
実施例5−ヒト化抗体の生物学的特性
ヒト化抗GM−CSF抗体の結合親和性分析
ヒト化抗体の結合親和性を、BIACore分析によって決定した。100μg/mlの組み換えGM−CSF(Peprotech)を、酢酸ナトリウム、pH5において調製し、そしてアミンカップリングによってCM5センサーチップに固定化した。約1200RUがチップに結合した。第1の実験は、15のヒト化抗体の結合活性を決定するためのものであった。これらの抗体を、HBS−EP中1μg/mlで調製し、3分間、注入し、そしてマウス4K21および市販の抗GM−CSF抗体(BD)を比較した。図5は、15の抗体のうち12が等価であり、そしていくつかの場合において、マウス4K21より3.5倍まで良好なGM−CSFへの結合を示したことを示す。
【0120】
第2の実験は、これらの抗体がヒトGM−CSFに結合する動態を決定するために実施した。66.7nM〜4.17nMの範囲の抗体濃度を、HBS−EPにおいて、2倍系列希釈で調製した。さらに、直接結合を、CM5チップに結合した組み換えGM−CSFを使用して定量した−被覆されていないフローセルを対照として使用した。各濃度における抗体を、10分間の安定化時間および15分間の解離時間を伴って、2分間、注入した。BIACore動態解析ウィザードを稼動させて、GM−CSFに対する各抗体の会合(ka[1/Ms])、解離(kd[1/s])および親和性(KD[nM])を決定した。表7および図6は、hGM4/1が最も高い会合速度を有すること、およびhGM4/6が最も高い親和性を有することを示す。
【0121】
【表7】

【0122】
ヒト化抗体は、GM−CSF仲介細胞増殖を阻止する。
各抗体の活性を中和するGM−CSFを、TF−1細胞増殖バイオアッセイによって決定した。TF−1細胞は、それらの増殖についてGM−CSFの存在に依存し、そして2ng/ml組み換えGM−CSF(Peprotech)によって維持される。中和アッセイを実施するために、抗体濃度の範囲を、0.25ng/mlのGM−CSFを伴うTF−1培養培地において調製した。抗体およびGM−CSFを各濃度で混合し、そして96ウェルプレートにおいて、1時間、37℃でインキュベートした。次いで、洗浄したTF−1細胞(1×10個)を各ウェルに添加し、そして37℃で72時間、インキュベートした。各ウェルを4時間、0.5μCiのH−チミジンでパルスラベルすることによって、細胞増殖を定量し、そしてEC50を計算した。抗体を、3倍系列希釈の400nM〜28fMの濃度で試験した。表8に示すように、抗体hGM4/1、hGM4/6およびhGM4/11は、良好な中和活性を示す。
【0123】
【表8】

【0124】
実施例6−ヒト化抗体の重鎖配列における復帰変異および作製した抗体の特性
上記の実施例5に記載のTF−1バイオアッセイに例示されるような最も良好な中和活性を示す抗体(hGM4/1、hGM4/6およびhGM4/11)はすべて、同じ重鎖配列(h4/10;配列番号13)を共有する。理論に束縛されるつもりはないが、抗体の結合活性の少なくとも重要な部分が、この重鎖を起源とすることが推測された。図7から認められ得るように、h4/10重鎖フレームワークのアミノ酸配列は、マウスフレームワークと比較して、8つの位置で異なる(図7の枠内)。一連の点復帰変異および2つの二重復帰変異(対応するマウス配列への復帰変異)を、これらの部位においてh4/10配列に導入して、ヒト化抗GM−CSF抗体の結合親和性を増加した。「復帰」変異を伴う重鎖配列を、部位特異的変異誘発(Stratagene;製造者の指示に従う)を使用して、作製した。これらの変更された重鎖を、抗体発現ベクターにクローニングし、CHO細胞にトランスフェクトし、発現させ、プロテインGアフィニティークロマトグラフィーによって精製し、そして上記のように定量した。表9は、変更されたフレームワークおよび作製された「復帰」変異を伴う抗体のリストを示す。
【0125】
【表9】

【0126】
表9に列挙した抗体のそれぞれの中和活性を、実施例5において上述のような手順を使用して、TF−1バイオアッセイによって決定した。3つの抗体は、hGM4/11より改善された結合親和性を示した;hGM4/19、hGM4/21およびhGM4/22。hGM4/21およびhGM4/22における復帰変異は、それぞれCDR2およびCDR3隣接して局在するため、二重復帰変異(W47L、A97T)を作製した(hGM4/34)。この抗体はまた、本来の4K21抗体より改善された中和能力を示した(図8を参照のこと)。
【0127】
表9に列挙した抗体の結合動態を、BIAcore分析によって決定した。これらの動態アッセイは、実施例5において上述したプロトコルを改変したプロトコルを使用して行った。本動態解析では、CM5チップを、抗マウスIgGまたはおよび抗ヒトIgGのいずれかを固定化することによって、調製した。次いで、4K21またはヒト化変異体を、それぞれ抗マウスIgGまたは抗ヒトIgGを介して、チップに固定化した。1000nM〜15.63nMの範囲のGM−CSF濃度を、HBS−EPにおいて、2倍系列希釈で調製した。各濃度のGM−CSFを2分間注入し、次いで、次の10分間で解離を測定した(流速30μl/分)。BIAcore動態解析ウィザードを稼動させて、各抗体の会合(ka[1/Ms])、解離(kd[1/s])および親和性(KD[nM])を決定した。図9は、hGM4/21およびhGM4/34の親和性が、4K21に対して同じであったことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体が、配列番号1に記載の配列を含んでなる可変軽鎖領域またはそのフラグメントもしくは変異体を含んでなる、抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体が、配列番号2に記載の可変重鎖配列またはそのフラグメントもしくは変異体を含んでなる、抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体が、配列番号1に記載の配列を含んでなる可変軽鎖領域またはそのフラグメントもしくは変異体、および配列番号2に記載の可変重鎖配列またはそのフラグメントもしくは変異体を含んでなる、抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
抗体が、GM−CSFの活性を阻害するマウスモノクローナル抗体またはそのヒト化誘導体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項5】
抗体が、2007年5月17日に受託番号07051601で、European Collection of Cell Cultures(ECACC)(Centre for Applied Microbiology and Research,Porton Down, Salisbury, United Kingdom)に寄託されたマウスモノクローナル抗体4K21である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
2007年5月17日に受託番号07051601で、European Collection of Cell Cultures(ECACC)(Centre for Applied Microbiology and Research,Porton Down, Salisbury, United Kingdom)に寄託されたマウスモノクローナル抗体4K21のヒト化形態。
【請求項7】
可変軽鎖領域が、配列番号9〜11のいずれか1つに記載の配列またはそのフラグメントもしくは変異体を含んでなる、請求項6に記載のマウスモノクローナル抗体4K21のヒト化形態。
【請求項8】
可変重鎖領域が、配列番号13〜15、17または18〜27のいずれか1つに記載の配列またはそのフラグメントもしくは変異体を含んでなる、請求項6または7に記載のマウスモノクローナル抗体4K21のヒト化形態。
【請求項9】
ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体が、軽鎖可変領域内に、配列番号3〜5のいずれか1つに記載の配列を含んでなる少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含んでなり、ここで、抗体またはその抗原結合フラグメントが、GM−CSFの活性を阻害する、ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合する抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項10】
抗体がヒト化抗体である、請求項9に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項11】
ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体が、重鎖可変領域に、配列番号6〜8のいずれか1つに記載の配列を含んでなる少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含んでなり、ここで、抗体またはその抗原結合フラグメントが、GM−CSFの活性を阻害する、ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合する抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項12】
抗体がヒト化抗体である、請求項11に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項13】
ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体が、軽鎖可変領域内に、配列番号3〜5のいずれか1つに記載の配列を含んでなる少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)、および重鎖可変領域内に、配列番号6〜8のいずれか1つに記載の配列を含んでなる少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含んでなる、ヒトGM−CSFもしくはそのフラグメントに結合する抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項14】
抗体がヒト化抗体である、請求項13に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項15】
配列番号9、配列番号10もしくは配列番号11に記載の配列を含んでなる可変軽鎖領域またはそのフラグメントもしくは変異体を含んでなる請求項14に記載のヒト化抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項16】
配列番号13、配列番号14、配列番号15もしくは配列番号17に記載の配列を含んでなる可変重鎖領域またはそのフラグメントもしくは変異体を含んでなる請求項14または15に記載のヒト化抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項17】
可変重鎖領域が、配列番号13に記載の配列またはそのフラグメントもしくは変異体を含んでなる、請求項16に記載のヒト化抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項18】
変種可変重鎖領域が、配列番号13、配列番号14、配列番号15または配列番号17に記載の配列のアミノ酸残基を、対応するマウス可変重鎖領域の対応する位置でアミノ酸残基と置き換える1つ以上のアミノ酸置換を含んでなる、請求項16に記載のヒト化抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項19】
1つ以上のアミノ酸置換が、配列番号13に記載の配列を含んでなる可変重鎖領域に対して行われる、請求項18に記載のヒト化抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項20】
変種可変重鎖領域が、配列番号18〜27に記載の配列を含んでなる、請求項19に記載のヒト化抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項21】
変種可変重鎖領域が、配列番号27に記載の配列を含んでなる、請求項20に記載のヒト化抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項22】
ヒト化抗体が:配列番号9および配列番号13;配列番号9および配列番号14;配列番号9および配列番号15;配列番号9および配列番号17;配列番号10および配列番号13;配列番号10および配列番号14;配列番号10および配列番号15;配列番号10および配列番号17;配列番号11および配列番号13;配列番号11および配列番号14;配列番号11および配列番号15;配列番号11および配列番号17;ならびに配列番号11および配列番号18〜27のいずれか1つから選択される可変軽鎖および重鎖配列を含んでなる、請求項14〜21のいずれか一項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項23】
配列番号1〜27のいずれか1つに記載のアミノ酸配列に少なくとも約70%配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる、抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項24】
GM−CSF仲介疾患または病態、あるいはそれ以外の上昇したもしくは異常なGM−CSF発現および/もしくは活性に関連する疾患または病態の処置または防止のための方法であって、それを必要とする被験体に、請求項1〜23のいずれか一項に記載の少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントの有効量を投与することを含んでなる、方法。
【請求項25】
請求項1〜23のいずれか一項に記載の1つ以上の抗体またはその抗原結合フラグメントを、場合により、適切な薬学的に許容可能なキャリアおよび/または希釈剤と共に含んでなる、医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−527939(P2010−527939A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508671(P2010−508671)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【国際出願番号】PCT/AU2008/000728
【国際公開番号】WO2008/141391
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(509323244)シーアールシー・フォー・アズマ・アンド・エアウェイズ・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】CRC for Asthma and Airways Ltd
【Fターム(参考)】