説明

中性子検出器構体

【課題】 高放射線環境下及び高温度環境下で長期間に亘りケーブルと案内管との絶縁が維持されると共に、据え付け及び交換が簡単に実施可能である中性子検出器構体を得る。
【解決手段】 外壁が導電性を有した円柱状の中性子検出器と、この中性子検出器に接続され内導体と外導体とで構成される同軸構造を有したケーブルと、前記中性子検出器の外壁を覆う中性子減速材と、この中性子減速材の長手方向外周を覆う導電性の外筒と、この外筒の開放された一方の端部を密閉し、前記ケーブルを外部に引き出す穴部を設けた導電性の第1の蓋と、前記外筒の前記一方の端部に対向した他方の端部を密閉する導電性の第2の蓋と、前記第1の蓋から外部に引き出された前記ケーブルの外導体の表面に周設した無機絶縁体とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉から放出される高速中性子を検出し電気信号として出力する中性子検出器構体に関する。
【背景技術】
【0002】
中性子を計測する中性子検出器構体においては、中性子検出器に接続されたケーブルは同軸構造とし、外導体を電気的に一点接地する処置を行うことで、設置環境下に存在する電磁波によってS/N比が悪化することを抑えている。
【0003】
原子炉の運転及び安全保護に使用する中性子検出器構体は、原子炉容器の外部に設けられた案内管に納められ、中性子検出器構体は案内管と電気的に絶縁され、中性子検出器に接続されたケーブルの他方が接続される計測系で一点接地される構成としている。
【0004】
中性子検出器構体においては、ケーブルの絶縁体は例えばポリイミドテープで形成された伸縮性のある有機絶縁物を使用することで、ケーブルの柔軟性を維持し、設置環境に併せたケーブル整形を可能にしていた。
【0005】
しかしながら、中性子検出器構体が設置される環境においては、計測系から中性子検出器に近づくにつれて放射線が高くなるため、無機絶縁物に比べて放射線耐性が低い有機絶縁物(例えばポリイミドの放射線耐性はおおよそセラミックスの1/100以下)をケーブルの絶縁体として使用している限り、高放射線環境下で長期間に亘り使用することは困難であった。
【0006】
さらに、高速増殖炉などの新型の原子炉では、例えば最高650度の高温度で安定に動作する中性子検出器構体が求められている。しかしながら有機絶縁物の耐熱温度が最高250度であるため、有機絶縁物が絶縁劣化を起こしケーブルの絶縁性が損なわれてしまう。
【0007】
上記課題を解決するため、特開平4−235396号公報(特許文献1参照)では、原子炉容器の近傍に配置した案内管内に設置された中性子検出器と、該中性子検出器を上記案内管内に支持し、該中性子検出器に接続されたケーブルを案内するチャネル部とを備えた中性子検出器のアッセンブリ構造において、上記チャネル部を構成する鋼材からなるチャネル構造材と、該チャネル構造材に取り付けられて、上記ケーブルを絶縁支持するセラミックのケーブル支持材とを設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−235396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の中性子検出器のアッセンブリ構造では、高放射線環境下及び高温度環境下におけるケーブルの絶縁性は維持される。しかしながら、ケーブルがチャネル構造材に取り付けられたセラミックのケーブル支持材で支持されているため、中性子検出器を交換するときは、セラミックのケーブル支持材を除去しなければ中性子検出器の案内管からの取り出し及び案内管への据え付けができず、保守性が劣る問題があった。
【0010】
本発明は、上述のような問題を解決するためになされたもので、高放射線環境下及び高温度環境下で長期間に亘りケーブルと案内管との絶縁性が維持されると共に、据え付け及び交換が簡単に実施可能である中性子検出器構体を得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る中性子検出器構体は、外壁が導電性を有し、長手方向に延在した円柱状の中性子検出器と、この中性子検出器に接続され、内導体と外導体とで構成される同軸構造を有し、電圧を印加して検出信号を取り出すケーブルと、誘電体で構成され、前記中性子検出器の外壁を覆うことにより周囲から入射する中性子を減速させる中性子減速材と、この中性子減速材の長手方向外周を覆う導電性の外筒と、この外筒の開放された一方の端部を密閉し、前記ケーブルを外部に引き出す穴部を設けた導電性の第1の蓋と、前記外筒の前記一方の端部に対向した他方の端部を密閉する導電性の第2の蓋と、前記第1の蓋から外部に引き出された前記ケーブルの外導体の表面に周設した無機絶縁体とを備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、中性子検出器構体が高放射線環境及び高温度環境の下において長期間に亘りケーブルと案内管との絶縁性が維持されて使用されると共に、ケーブルと案内管との絶縁性を損なうことなく中性子検出器構体の据付および取り出しが簡単に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1における中性子検出器構体の断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1における中性子検出器構体において、図1のA部で示されるセラミックス紡織体で覆われたケーブルの断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1における中性子検出器構体において、図1のB部で示されるケーブル固定部の断面図である。
【図4】中性子検出器構体の原子炉近傍への据え付け状態を示す断面図である。
【図5】この発明の実施の形態2における中性子検出器構体の断面図である。
【図6】この発明の実施の形態2における中性子検出器構体において、図5のC部で示されるセラミックス紡織体が巻き付けられたケーブルの断面図である。
【図7】この発明の実施の形態2における中性子検出器構体において、図5のD部で示されるケーブル固定部の断面図である。
【図8】この発明の実施の形態3における中性子検出器構体の断面図である。
【図9】この発明の実施の形態3における中性子検出器構体において、図8のE部で示されるセラミックスが同心円状に積層されたケーブルの断面図である。
【図10】この発明の実施の形態3における中性子検出器構体において、図8のF部で示されるケーブル固定部の断面図である。
【図11】この発明の実施の形態3における中性子検出器構体において、ケーブル固定部の他の実施例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1における中性子検出器構体100の断面図である。図1において、中性子検出器構体100は、中性子有感物質として例えばボロン(10B)が使用され、例えばアルミニウム製の外壁を有した円柱形状の中性子検出器1に、例えばステンレス製の内導体と外導体とで構成される同軸構造を有し、電圧を印加して中性子が検出されたことの検出信号を取り出すケーブル2が接続されている。また、ケーブル2の他方には、計測器などと接続するコネクタ3が設けられている。
【0015】
中性子検出器1の全ての外壁は、周囲から入射する中性子を減速させる例えばポリエチレン製の誘電体で構成された中性子減速材4で覆われており、中性子減速材4の長手方向外周は例えばアルミニウム製の外筒5で覆われ、外筒5はケーブル2が穴部を通り外部へ引き出される例えばアルミニウム製の上蓋6と、例えばアルミニウム製の下蓋7とをそれぞれねじ8及びねじ9で外筒5に固定することで、密閉している。
【0016】
上蓋6の穴部を通り外筒5の外部へ引き出されたケーブル2の外導体の表面は細い糸状のセラミックスで薄い筒状に織られたセラミックス紡織体10で覆われている。
【0017】
中性子検出器構体100において、外筒5の長手方向の長さは約2m、直径は約17cmである。また、ケーブル2の上蓋6からコネクタ3までの長さは約6mである。
【0018】
図2は、この発明の実施の形態1における中性子検出器構体において、図1のA部で示されるセラミックス紡織体10で覆われたケーブル2の断面図である。図2において、ケーブル2は、内導体21と、第1の絶縁体22と、第1の外導体23と、第2の絶縁体24と、第2の外導体25を備えた同軸構造となっている。内導体21、第1の外導体23、及び第2の外導体25は例えばステンレスで構成され、第1の絶縁体22及び第2の絶縁体24は例えば酸化マグネシウムで構成されている。さらに、ケーブル2の第2の外導体25の表面は細い糸状のセラミックスで薄い筒状に織られた厚さが約0.5mmのセラミックス紡織体10で覆われている。
【0019】
図3は、この発明の実施の形態1における中性子検出器構体において、図1のB部で示されるケーブル固定部の断面図である。図3において、ケーブル2が例えばアルミニウム製の中空円筒を軸方向に半分に切断した形状のケーブル固定具61で挟持され、ケーブル2と共にセラミックス紡織体10が例えばアルミニウム製の中空円筒を軸方向に半分に切断した形状のセラミックス紡織体固定具62で挟持された状態で、上蓋6の穴部に挿入され、ねじ63にてケーブル固定具61及びセラミックス紡織体固定具62を上蓋6に固定することにより、ケーブル2及びセラミックス紡織体10が上蓋6に固定される。
【0020】
セラミックス紡織体10の上蓋6との固定部に対する他の一方は、ケーブル2とコネクタ3との接続部において、セラミックス紡織体10を接着剤にてケーブル2に接着することにより固定される。
【0021】
この発明の中性子検出器構体の設置方法について、図4を用いて説明する。図4(a)は、中性子検出器構体の原子炉近傍への据え付け状態を示す断面図である。図4(b)は、図4(a)におけるG部の拡大図である。図4において、原子炉容器101の近傍に中性子検出器構体100を設置する案内管102が設けられる。案内管102は開口部102aの直径が約20cmで、深さは約7mである。
【0022】
中性子検出器構体100は案内管102の開口部102aから案内管102の内部へと挿入され、中性子検出器構体100の下蓋7が案内管102の管底に着床する。案内管102の管底と中性子検出器構体100の下蓋7とはセラミックス103にて絶縁されている。
【0023】
中性子検出器構体100のケーブル2は、セラミックス紡織体10で外導体25の表面が覆われているため、ケーブル2の第2の外導体25と案内管102との間は絶縁される。このようにして、中性子検出器構体100は案内管102から絶縁される。
【0024】
なお、図1においては、セラミックス紡織体10は上蓋6とコネクタ3との間のケーブル2の全長を覆っているが、ケーブル2が案内管102の内部に挿入されている区間の長さを覆うものでも良い。
【0025】
案内管102が屈曲している場合においては、セラミックス紡織体10は細い糸状のセラミックスで薄い筒状に織られているため柔軟性があるので、ケーブル2の柔軟性は阻害されることはなく、設置環境に併せたケーブル2及びセラミックス紡織体10の整形が実施される。
【0026】
また、セラミックス紡織体10は耐摩耗性がよいため、絶縁の維持を目的としたケーブル支持機構も不要である。そのため、中性子検出器構体100の交換は案内管102の内部への挿抜作業のみとなり簡単に実施できるため、保守性が向上する。
【0027】
さらに、セラミックス紡織体10は、耐熱温度が1000度以上であるので、高速増殖炉などの高温度環境下においても絶縁性が維持できる。加えて、無機絶縁体であるセラミックス紡織体10は、放射線耐性がポリイミドなどの有機絶縁体の100倍であるので、ケーブル2の絶縁性の長寿命化が可能となる。
【0028】
実施の形態2.
図5は、この発明の実施の形態2における中性子検出器構体200の断面図である。図5において、図1と同一の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。図5において、細い糸状のセラミックスで薄い帯状に織られたセラミックス紡織体210がケーブル2に螺旋状に巻き付けられている。
【0029】
図6は、この発明の実施の形態2における中性子検出器構体200において、図5のC部で示されるセラミックス紡織体210が巻き付けられたケーブル2の断面図である。図6において、図2と同一の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。図6において、ケーブル2の第2の外導体25の表面は、細い糸状のセラミックスで薄い帯状に織られた厚さが約0.5mmのセラミックス紡織体210が螺旋状に巻き付けられている。
【0030】
図7は、この発明の実施の形態2における中性子検出器構体200において、図5のD部で示されるケーブル固定部の断面図である。図7において、図3と同一の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。図7において、ケーブル2が例えばアルミニウム製の中空円筒を軸方向に半分に切断した形状のケーブル固定具61で挟持され、ケーブル2と共にセラミックス紡織体210が例えばアルミニウム製の中空円筒を軸方向に半分に切断した形状のセラミックス紡織体固定具62で挟持された状態で、上蓋6の穴部に挿入され、ねじ63にてケーブル固定具61及びセラミックス紡織体固定具62を上蓋6に固定することにより、ケーブル2及びセラミックス紡織体210が上蓋6に固定される。
【0031】
セラミックス紡織体210の上蓋6との固定部に対する他の一方は、ケーブル2とコネクタ3との接続部において、セラミックス紡織体210を接着剤にてケーブル2に接着することにより固定される。なお、図5においては、セラミックス紡織体210は上蓋6とコネクタ3との間のケーブル2の全長に巻き付けられているが、ケーブル2が案内管102の内部に挿入されている区間の長さに巻き付けられているものでも良い。
【0032】
このように構成された中性子検出器構体200において、セラミックス紡織体210は、細い糸状のセラミックスで薄い帯状に織られているため柔軟性は維持されており、この発明の実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0033】
さらに、このように構成することにより、セラミックス紡織体210のケーブル2への巻き付けは、コネクタ3をケーブル2に装着した後でも作業可能であるので、中性子検出器構体200の製造時の自由度が増す。
【0034】
実施の形態3.
図8は、この発明の実施の形態3における中性子検出器構体300の断面図である。図8において、図1と同一の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。図8において、セラミックス310がケーブル2を中心に同心円状に積層されている。なお、セラミックス310は、上蓋6とコネクタ3とで抜け落ちないように保持される。
【0035】
図9は、この発明の実施の形態3における中性子検出器構体300において、図8のE部で示されるセラミックス310が同心円状に積層されたケーブルの断面図である。図9において、図2と同一の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。図9において、ケーブル2の第2の外導体25の表面は、厚さが約1cmのセラミックス310がケーブル2を中心に同心円状に積層されている。
【0036】
図10は、この発明の実施の形態3における中性子検出器構体において、図8のF部で示されるケーブル固定部の断面図である。図10において、図3と同一の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。図10において、ケーブル2が例えばアルミニウム製の中空円筒を軸方向に半分に切断した形状のケーブル固定具61で挟持された状態で、上蓋6の穴部に挿入され、ねじ63にてケーブル固定具61を上蓋6に固定することにより、ケーブル2は上蓋6に固定される。
【0037】
セラミックス310は、お互いに独立しているので、ケーブル2は任意形状に曲げることが出来るため柔軟性が維持されており、この発明の実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0038】
さらに、セラミックス310はセラミックス紡織体10及びセラミックス紡織体210に比較して、断面が厚いことから、耐摩耗性が向上する。
【0039】
なお、ケーブル固定部は図11のように構成しても良い。図11において、図3と同一の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。図11において、ケーブル2が例えばアルミニウム製の中空円筒を軸方向に半分に切断した形状のケーブル固定具61で挟持され、ケーブル2と共にセラミックス310が例えばアルミニウム製の中空円筒を軸方向に半分に切断した形状のセラミックス固定具62で挟持された状態で、上蓋6の穴部に挿入され、ねじ63にてケーブル固定具61及びセラミックス紡織体固定具62を上蓋6に固定することにより、ケーブル2及びセラミックス310が上蓋6に固定される。
【0040】
図11のように構成した場合、セラミックス310が上蓋6内に固定されたセラミックス310に重なって積層されるので、地震などの振動によりケーブル固定具61との摺動でセラミックス310が削られることもない。
【符号の説明】
【0041】
1 中性子検出器
2 ケーブル
4 中性子減速材
5 外筒
6 上蓋
7 下蓋
10 セラミックス紡織体
21 内導体
23 第1の外導体
25 第2の外導体
100 中性子検出器構体
200 中性子検出器構体
210 セラミックス紡織体
300 中性子検出器構体
310 セラミックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外壁が導電性を有し、長手方向に延在した円柱状の中性子検出器と、この中性子検出器に接続され、内導体と外導体とで構成される同軸構造を有し、電圧を印加して検出信号を取り出すケーブルと、誘電体で構成され、前記中性子検出器の外壁を覆うことにより周囲から入射する中性子を減速させる中性子減速材と、この中性子減速材の長手方向外周を覆う導電性の外筒と、この外筒の開放された一方の端部を密閉し、前記ケーブルを外部に引き出す穴部を設けた導電性の第1の蓋と、前記外筒の前記一方の端部に対向した他方の端部を密閉する導電性の第2の蓋と、前記第1の蓋から外部に引き出された前記ケーブルの外導体の表面に周設した無機絶縁体とを備えた中性子検出器構体。
【請求項2】
前記無機絶縁体は、細い糸状のセラミックスで薄い筒状に織られ筒状にケーブルに覆い被せられたセラミックス紡織体である請求項1に記載の中性子検出器構体。
【請求項3】
前記無機絶縁体は、細い糸状のセラミックスで薄い帯状に織られ螺旋状にケーブルに巻き付けられたセラミックス紡織体である請求項1に記載の中性子検出器構体。
【請求項4】
前記無機絶縁体は、ケーブルを中心に同心円状に積層されたセラミックスである請求項1に記載の中性子検出器構体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−117900(P2011−117900A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277548(P2009−277548)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】