説明

中性子発生用電極対、中性子発生装置並びにこれらを用いた中性子発生方法及び荷物検査装置

【課題】効率、制御性及び再現性よく中性子を発生させることができる中性子発生用電極並びに中性子発生装置を提供すること、更に、これら中性子発生用電極及び中性子発生装置を用いることにより、中性子発生の効率が高いことから装置規模を抑制することができ、中性子発生の制御性及び再現性に優れる荷物検査装置を提供すること。
【解決手段】導電体及び前記導電体に螺旋状に捲回された水素吸蔵合金線を含む第一の電極と、前記第一の電極の周囲に配置された円筒状でかつ網状の第二の電極と、を含む中性子発生用電極対を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子発生用電極対、中性子発生装置並びにこれらを用いた中性子発生方法及び荷物検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2001年9月11日の同時多発テロ以降、米国では民間航空保安を担当する専門機関として国土安全保障省にTSA(運輸保安庁)が設置されるとともに、全空港の保安検査員を連邦職員(国家公務員)とし、保安検査の責任が国にあることを明確にしている。また、米国以外の国においても、米国同時多発テロ事件以降新たな航空保安対策が進められている。
【0003】
我が国においては、国際民間航空条約第17付属書への対応もあって、2005年4月から「国家民間航空保安プログラム」が実施されており、このプログラムでは、フェーズEの常態化、コックピットドアの強化,インライン検査システムや液体物検査装置の導入等が実施され、2006年1月からは空港関係者や乗務員に対する保安検査が実施され、航空保安体制の強化が図られている。
【0004】
このような保安体制の強化は喫緊の課題であり、「航空保安法」の制定に向けた取り組みと同時に、現在行われている保安体制の点検・強化も並行して求められており、特に危険物が含まれているか否か、航空利用者の荷物の検査が重要な位置を占めている。
【0005】
ここで、従来、荷物検査装置にはエックス線検査法が主として用いられており、当該エックス線検査法は金属の探知には優れているものの、それ以外の有機物や化学物質等の探知にはあまり優れていないという問題があり、今後懸念される核テロを考慮して、金属以外の有機物や化学物質を更に正確かつ効率的に探知することのできる荷物検査装置が望まれているところである。
【0006】
かかる荷物検査装置としては、例えば特許文献1において、X線撮像装置と中性子撮像装置とを含む荷物検査装置が提案されており、また、特許文献2及び3においては、それぞれ中性子を発生させ得る低温プラズマ核融合方法及び核融合装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−108994号公報
【特許文献2】特開平3−41391号公報
【特許文献3】特開平3−105284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1における荷物検査装置における中性子発生装置は、中性子発生の効率が必ずしも高くはなく、装置構成が大規模になる等の問題があり、未だ改善の余地があった。
【0009】
また、上記特許文献2記載の低温プラズマ核融合方法においては、平行平板型の電極を用い、直流バイアスを−100V〜−1000Vまで変化させ、プラズマ発生圧力を0.001〜10Torrにして中性子を発生させるとの記載があるが、その他の具体的な条件が明確には記載されておらず中性子発生の効率、制御性及び再現性にも劣る。
【0010】
さらに、上記特許文献3に記載の核融合装置においては、平行平板型の電極を用い、排気して10−4Torr以下にし、重水素含有ガス供給口から重水素ガスを流入して760Torr(1気圧)の圧力で10時間放置し、その後ガス流量100sccm及び高周波周波数13.56MHzとして重水素プラズマを発生させたとの記載があるが、ここでも中性子発生の効率、制御性及び再現性にも劣るという問題がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、効率、制御性及び再現性よく中性子を発生させることができる中性子発生用電極並びに中性子発生装置を提供すること、更に、これら中性子発生用電極及び中性子発生装置を用いることにより、中性子発生の効率が高いことから装置規模を抑制することができ、中性子発生の制御性及び再現性に優れる荷物検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決すべく、膨大な実験を重ねて電極の構成や前記電極対間で放電させる条件について鋭意検討をした結果、本発明者は、導電体及び前記導電体に螺旋状に捲回された水素吸蔵合金線を含む第一の電極と、前記第一の電極の周囲に配置された円筒状でかつ網状の第二の電極と、を含む電極対を用いれば、効率、制御性及び再現性よく中性子を発生させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、第一に、
導電体及び前記導電体に螺旋状に捲回された水素吸蔵合金線を含む第一の電極と、
前記第一の電極の周囲に配置された円筒状でかつ網状の第二の電極と、
を含む中性子発生用電極対を提供する。
重水素ガス雰囲気下においてこのような構成を有する電極対間に放電を起こさせれば、効率、制御性及び再現性よく中性子を発生させることができる。
【0014】
また、本発明は、第二に、
真空チャンバ、
前記真空チャンバ内を排気するための排気装置、
前記真空チャンバ内に重水素ガスを供給するための重水素ガス供給装置、
前記真空チャンバ内に配置され、導電体と、前記導電体に螺旋状に巻回された水素吸蔵合金線と、を含む第一の電極、及び前記第一の電極の周囲に配置された円筒状でかつ網状の第二の電極を含む中性子発生用電極対、
前記電極対間に電圧を印加するための電源装置、
を含む中性子発生装置を提供する。
【0015】
また、本発明は、第三に、
(1)真空チャンバ内を真空に排気する工程、
(2)前記真空チャンバ内において、導電体と、前記導電体に螺旋状に巻回された水素吸蔵合金線と、を含む第一の電極、及び前記第一の電極の周囲に配置された円筒状でかつ網状の第二の電極を含む中性子発生用電極対間に電圧を印加して放電させる工程、
(3)前記中性子発生用電極対間への電圧印加を維持して放電をさせながら前記真空チャンバ内に重水素ガスを一定時間供給する工程、
を含む中性子発生方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、第四に、
真空チャンバ、
前記真空チャンバ内を排気するための排気装置、
前記真空チャンバ内に重水素ガスを供給するための重水素ガス供給装置、
前記真空チャンバ内に配置され、導電体と、前記導電体に螺旋状に巻回された水素吸蔵合金線と、を含む第一の電極、及び前記第一の電極の周囲に配置された円筒状でかつ網状の第二の電極を含む中性子発生用電極対、
前記電極対間に電圧を印加するための電源装置、を含む中性子発生装置と、
中性子検出装置と、
を含む荷物検査装置を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、効率、制御性及び再現性よく中性子を発生させることができる中性子発生用電極対及び中性子発生装置を提供すること、更に、これら中性子発生用電極及び中性子発生装置を用いることにより、中性子発生の効率が高いことから装置規模を抑制することができ、中性子発生の制御性及び再現性に優れる荷物検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の中性子発生用電極対の一実施形態を示す上面図である。
【図2】図2は、図1に示す実施形態における第一の電極(陰極)の側面図である。
【図3】図3は、本発明の中性子発生装置の一実施形態の主要部を示す図である。
【図4】図4は、図3に示す実施形態の中性子発生装置の全体構成を示す図である。
【図5】図5は、本発明の荷物検査装置の一実施形態を示す上面図である。
【図6】図6は、本発明の実施例における中性子測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の中性子発生用電極対、中性子発生装置並びにこれらを用いた中性子発生方法及び荷物検査装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、以下の説明では、図面においては、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0021】
図1は、本発明の中性子発生用電極対10の一実施形態を示す上面図(即ち、後述する真空チャンバ内に設置される中性子発生電極対の第一の電極(陰極)と第二の電極(陽極)との位置関係を略鉛直方向上側からみた図)であり、図2は、図1に示す実施形態における第一の電極1の側面図(即ち、後述する真空チャンバ内に設置される中性子発生電極対のうちの第一の電極を略水平方向からみた図)である。
【0022】
図3は、本発明の中性子発生装置20の一実施形態の主要部20aを示す図であり、図4は、図3に示す実施形態の中性子発生装置20の全体構成を示す図である。また、図5は、本発明の荷物検査装置の一実施形態を示す上面図であり、図6は、本発明の実施例における中性子測定結果を示すグラフである。
【0023】
[中性子発生用電極対]
図1に示すように、本実施形態の中性子発生用電極対10は、第一の電極1と第二の電極2との組合せで構成されている。第一の電極1は、図2に示すように、導電体である銅棒1a及び銅棒1aに螺旋状にほぼ隙間無く密に捲回された水素吸蔵合金線であるパラジウム(Pd)線1bで構成されており、第二の電極2は、図1に示すように、第一の電極1の周囲に配置されており、上部及び下部が開口している円筒状の白金(Pt)網(2)で構成されている。放電の電界を均一にでき、下側の金属とイオンの反応を起こさないようにするという観点から、パラジウム線1bは銅棒1aに螺旋状に隙間無く密に捲回するのが好ましいが、少し隙間があっても構わない。
【0024】
即ち、図2に示すように、中性子発生用電極対1においては、中性子を発生させる真空チャンバ内に設置された状態において略鉛直方向上側からみて、同心円状に内側から銅棒1a、パラジウム線1b及び白金網(2)の順に位置しており、中性子発生用電極対1はこの位置関係を維持した状態で、後述する中性子発生装置、中性子発生方法及び荷物検査装置に用いられる。
【0025】
より具体的には、第一の電極1における銅棒1aの長さ方向と、銅棒1aに対するパラジウム線1bの捲回方向に垂直な方向と、第二の電極2を構成する円筒状のPt網の円筒中心軸の方向と、が、図2中矢印Xで示される方向において略一致している。
【0026】
ここで、本実施形態の第一の電極1を構成する銅棒としては、種々の寸法を有する銅棒を用いることができるが、例えば直径3mm、長さ50mmのものを用いるのが好ましい。銅の組成としては、特に制限はないが、不純物ガスの放出を最小限にするという観点から、例えば高純度の無酸素銅を用いるのが好ましい。
【0027】
また、本実施形態の第一の電極1を構成するパラジウム線としても、種々の寸法を有するパラジウム線を用いることができるが、例えば太さ1.0〜1.5mmのものを用いるのが好ましい。パラジウム線の組成としては、特に制限はないが、中性子を発生させる真空チャンバ内のガス中不純物(例えば酸素、HO、CO、S化合物等)をできるだけ少なくするのが好ましいという観点から、高純度の99.99重量%以上のものを用いるのが好ましい。
【0028】
本実施形態の中性子発生用電極対10において、第一の電極1と第二の電極2との距離(電極間距離)は、後述する中性子発生装置を用いた中性子発生方法の各種条件によって適宜調整すればよい。後述する中性子発生装置における重水素ガス雰囲気の圧力が、例えば10−4〜10−2気圧の場合、電極間距離は50〜60mmとすればよい。なお、前記圧力及び電極間距離は放電に使用する電圧によっても変化し得る。また、中性子発生用電極対10のうちの第一の電極1又は第二の電極2には、それぞれ、電源装置に接続するためのリード部が設けられていてもよい。
【0029】
詳細は後述するが、このような構成を有する中性子発生用電極対10を重水素ガス雰囲気下におき、第一の電極1と第二の電極2との間で放電を起こさせれば、第一の電極1のうちのパラジウム線1bの表面付近から中性子を効率的に発生させることができる。特に、上記のような構成を有する中性子発生用電極対10を真空雰囲気下におき、第一の電極1と第二の電極2との間で放電を起こさせ、当該真空雰囲気に重水素ガスを供給すれば、第一の電極1のうちのパラジウム線1bの表面付近から中性子を効率的に発生させることができる。
【0030】
[中性子発生装置]
本実施形態の中性子発生装置20は、中性子発生用電極対として本実施形態の中性子発生用電極対10を用いる以外は、従来公知の構成を採用することができる。図3に示すように、本実施形態の中性子発生装置20は、本実施形態の中性子発生用電極対10と、中性子発生用電極対10を収容する、例えばステンレス鋼製の真空チャンバ22と、で構成されている。
【0031】
この真空チャンバ22は、中性子発生用電極対10を覆って収容する有底円筒状のシリンダー22aと、シリンダー22aに一体的に設けられたフランジ部22bに例えば銅製のガスケット(図示せず)を介して配置され、シリンダー22aの上部開口部をボルト24及びナット26で気密的に閉じる蓋体22bと、で構成されている。
【0032】
真空チャンバ22の容積は、中性子発生用電極対10の第一の電極1と第二の電極2との距離(電極間距離)や圧力等の中性子反応方法の各種条件に応じて本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択すればよい。
【0033】
また、図3に示すように、真空チャンバ22には、排気装置及び重水素ガス供給装置(図4参照)に接続するためのガス出入口28、それぞれ中性子反応用電極対10の第一の電極1及び第二の電極2を電源に接続するためのリード部30a及び30b(リード部30aが高圧電圧供給側であり、リード部30bが高圧電源の接地電位側である。)が設けられ、真空チャンバ22の外周面には、冷却水を供給及び排出するための冷却水入口32及び冷却水出口34と、冷却水入口32及び冷却水出口34に接続され螺旋状に隙間を介して捲回された冷却パイプ36が設けられている。
【0034】
そして、図4に示すように、ガス出入口28には、真空チャンバ22内を排気する排気装置40、真空チャンバ22内に重水素ガスを供給するためのガスボンベからなる重水素ガス供給装置(例えば30atm)42、中性子発生用電極対10の第一の電極1と第二の電極との間に電圧を印加するための電源装置44が接続されており、第一の電極1はリード部30aを介して電源装置44の高圧電圧供給側に接続され、第二の電極2はリード部30bを介して電源装置44の接地電位側に接続されている。排気装置40及び電源装置44等としても従来公知のものを使用することができる。なお、ガス出入口28の一方は予備的に使用すればよく、場合によっては省略してもよい。
【0035】
また、図4に示すように、真空チャンバ22のガス出入口28から延びる流路には、調整弁46aが設けられ、その後2つに分岐され、一方の分岐流路には、調整弁46bを介して排気装置40が接続され、他方の分岐流路には、圧力変換機としての圧力ゲージ48、予備タンクとしてのガスリザーバ50及び調整弁46cを介して重水素ガスタンクからなる重水素ガス供給装置42が接続されている。ガスボンベからなる重水素ガス供給装置42は高圧で調整が難しいため、図4に示すような構成を採用し、いったん予備タンクとしてのガスリザーバ50に重水素ガスを1気圧くらいで貯め、その後、調整弁46Cのバルブを閉めて、圧力ゲージ48の圧力変換機で圧力を連続測定し、反応系を一定圧力に保つのが好ましい。
【0036】
本実施形態の中性子発生装置20においては、中性子発生用電極対10について上述したのと同様に、第一の電極1と第二の電極2との距離(電極間距離)は、中性子発生装置20を用いた後述する中性子発生方法の各種条件によって適宜調整すればよい。重水素ガス雰囲気の圧力が、例えば10−4〜10−2気圧の場合、電極間距離は50〜60mmとすればよい。なお、前記圧力及び電極間距離は放電に使用する電圧によっても変化し得る。
【0037】
詳細は後述するが、このような構成を有する中性子発生装置20において、中空チャンバ22内において中性子発生用電極対10を重水素ガス雰囲気下におき、第一の電極1と第二の電極2との間で放電を起こさせれば、第一の電極1のうちのパラジウム線1bの表面付近から中性子を効率的に発生させることができる。特に、中性子発生用電極対10を真空雰囲気下におき、第一の電極1と第二の電極2との間で放電を起こさせ、当該真空雰囲気に重水素ガスを供給すれば、第一の電極1のうちのパラジウム線1bの表面付近から中性子を効率的に発生させることができる。
【0038】
特に、上記のような構成を有する本実施形態の中性子発生装置20においては、重水素ガスを連続的に供給することができ、真空チャンバ22内、即ち、反応系を一定圧力に保ち、反応を加速させ、効率よく中性子を発生させることができる。
【0039】
[中性子発生方法]
本実施形態の中性子発生方法は、上記中性子発生用電極対及び中性子発生装置を用いたものであり、必須の工程として下記の工程(1)〜(3)を含むものである。
(1)真空チャンバ22内を真空に排気する工程、
(2)前記真空チャンバ22内において、本実施形態の中性子発生用電極対10間(即ち、中性子発生用電極対10のうちの第一の電極1と第二の電極2との間)に電圧を印加して放電させる工程、及び
(3)前記中性子発生用電極対10間(即ち、中性子発生用電極対10のうちの第一の電極1と第二の電極2との間)への電圧印加を維持して放電をさせながら前記真空チャンバ22内に重水素ガスを一定時間供給する工程。
【0040】
さらに、本実施形態の中性子発生方法は、任意の工程として下記の工程(4)〜(6)を含むものである。
(4)前記中性子発生用電極対10間(即ち、中性子発生用電極対10のうちの第一の電極1と第二の電極2との間)への電圧印加を停止することによって放電を停止させる工程、
(5)前記真空チャンバ22内に重水素ガスを一定時間再供給する工程、及び
(6)前記中性子発生用電極対10間(即ち、中性子発生用電極対10のうちの第一の電極1と第二の電極2との間)に電圧を再印加して再放電させる工程。
【0041】
以下、これらの工程ごとに本実施形態の中性子発生方法を説明する。
まず、工程(1)においては、排気装置40を用いて真空チャンバ22内を真空に排気する。排気後の真空チャンバ22内の圧力は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されることはないが、例えば10−8〜10−6気圧が好ましく、例えば10−6気圧程度でよい。
【0042】
次に、工程(2)で、前記真空チャンバ22内において、本実施形態の中性子発生用電極対10間(即ち、中性子発生用電極対10のうちの第一の電極1と第二の電極2との間)に電圧を印加して放電させる。印加する電圧としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されることはないが、例えば1〜5kVが好ましく、例えば3kV程度でよい。また、周波数は50〜2000Hzであればよい。
【0043】
このとき、冷却水入口32及び冷却水出口34を用いて真空チャンバ22内に冷却水を流したり、真空チャンバ22外面に設けたヒータ36で加温したりすることにより、第一の電極1のパラジウム線1b部分の温度は25〜600℃に制御するのが好ましい。本実施形態の中性子発生方法においては、パラジウム線1bに重水素ガスを保存するが、その放出温度の範囲は圧力、電力及び重水素量等に依存するため、25〜600℃の範囲で変える必要がある。
【0044】
次に、上記工程(2)における中性子発生用電極対10間(即ち、中性子発生用電極対10のうちの第一の電極1と第二の電極2との間)への電圧印加による放電を維持しながら、工程(3)として、真空チャンバ22内に重水素ガスを供給する。このときの重水素ガス供給量としては、真空チャンバ22内の気圧が、例えば10−4〜10−2気圧の範囲で、例えば10−2気圧程度になるまでの量であればよい。このような工程(1)〜(3)を行うと、一定時間経過後(例えば1〜2分経過後)に中性子が発生する。
【0045】
また、上記工程(1)〜(3)の後、工程(4)として、中性子発生用電極対10間(即ち、中性子発生用電極対10のうちの第一の電極1と第二の電極2との間)への電圧印加を停止することによって放電を停止させる。
【0046】
そして、工程(5)として、真空チャンバ22内に重水素ガスを一定時間再供給する。このときの供給時間は、例えば1〜20分間の範囲で、例えば1分間でよい。即ち、重水素ガスを真空チャンバ22内に一定期間供給して停止する。
【0047】
その後、工程(6)として、中性子発生用電極対10間(即ち、中性子発生用電極対10のうちの第一の電極1と第二の電極2との間)に電圧を再印加して再放電させる。再印加する電圧は、上記工程(2)と同等の電圧(例えば1〜5kVの範囲で、例えば3kV)であればよい。
【0048】
また、電圧の再印加は、第一の電極1及び第二の電極2が十分に冷却させた後であるのが好ましい。これは、放電によってパラジウム線1bが過熱されて重水素が放出されるが、放電を止めてパラジウム線1bが冷却すると、再び反応系内の重水素ガスが吸収されていく(重水素吸収能が回復する。)という理由からである。第一の電極1及び第二の電極2の冷却は、冷却水入口32及び冷却水出口34に冷却水を通すことによって行えばよい。
【0049】
このように電圧を再印加して放電を開始させることにより、再び中性子を発生させることができる。この後、中性子の発生が数時間は継続可能であることを本発明者は確認している。なお、発生する中性子数は、放電の電圧によって制御することができる。電圧が高くなると発生する中性子数は指数関数的に増加する。
【0050】
ここで、上記のような本実施形態の中性子発生方法において中性子が発生する機構について、本発明者は、以下のように考えている。即ち、真空チャンバ22内に供給された重水素原子は、まず中性子発生用電極対10の第一の電極1のうちのパラジウム線1bに吸収される。その後、放電によってパラジウム線1bの表面から重水素ガスが放出され、その一部が重水素イオンとなる。この重水素イオンのエネルギーは数keVに達する。
【0051】
この重水素イオンの一部は、反応体ともいえるパラジウム線1bに衝突し、パラジウム線1bから放出される重水素ガス中の重水素核に衝突する。その後、核融合反応が生じすることによって分裂が生ずるようになるのである。そして、この際に発生したエネルギーによってさらに重水素が励起され、核反応が起こる確率が増加する。このことによってわずか一部の原子同士の衝突であっても、起こった核反応から生ずる中性子は極めて多いと考えられる。
【0052】
上記の機構の反応は以下の反応式で表すことができる。
D+D → p(3.02MeV)+T(1.01MeV) (1)
→ n(2.45MeV)+3He(0.82MeV) (2)
【0053】
反応式(1)の反応においては、陽子とトリチウムが発生する。また、反応式(2)の反応においては、中性子とヘリウムの同位体が発生する。中性子はさらに他の原子と衝突し、核反応を発生する可能性がある。これらの反応によって中性子が得られる。また、いったん反応が開始するとその後は反応熱によって重水素がパラジウム線1bの内部から連続的に補給されることになる。
【0054】
[荷物検査装置]
本実施形態の荷物検査装置100は、中性子発生用電極対及び中性子発生装置として本実施形態の中性子発生用電極対10及び中性子発生装置20を用いる以外は、従来公知の構成を採用することができる。
【0055】
図5示すように、本実施形態の荷物検査装置100は、少なくとも本実施形態の中性子発生装置20及び中性子検出装置52を具備し、中性子発生装置20を囲む中性子減速材54、中性子反射体56及び中性子吸収材58の構造体を有する。この構造体の全体の形状は回転双曲線体又は回転放物線体であり、中性子は中性子発生装置20から前方(図5中矢印Yで示す方向)に照射される。
【0056】
また、荷物検査装置100には、2台の中性子検出装置(例えばNE213中性子エネルギー測定装置)52を具備しており、測定対象物60である荷物の後方と90度方向に反射する中性子のエネルギースペクトルを検出し、検出したスペクトルから荷物に含まれる特定物質の組成及び元素等を分析する。
【0057】
ここで、中性子減速材54としては、水素原子を豊富に含む熱可塑性樹脂等のプラスチック類を用いることができ、その厚さは例えば15cm程度であるのが好ましい。また、中性子反射材56としては、例えばBi又はBiPb合金を用いることができ、その厚さは例えば3cm程度であるのが好ましい。
【0058】
また、中性子吸収材58としては、ホウ素を含有するパラフイン又はホウ素を含有する熱可塑性樹脂等のプラスチック類を用いることができ、その厚さは例えば3cm程度であるのが好ましい。さらに完全に中性子を遮蔽するためには、Cd金属製で厚さ0.3mm程度のもので覆ってもよい。
【0059】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、導電体として銅棒を用いる場合について説明したが、種々の材質からなる種々の形状の導電体を用いることができる。また、水素吸蔵合金線としてパラジウム線を用いる場合について説明したが、種々の材質からなる水素吸蔵合金線を用いることができる。
以下において、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0060】
図1及び図2を用いて上記において説明した本発明の中性子発生用電極対10と、図3及び図4を用いて上記において説明した本発明の中性子発生装置20と、を用いて、上記において説明した中性子発生方法を実施した。銅棒1aとしては直径3mm、長さ50mmのものを用い、パラジウム線1bとしては太さ1.0mm、長さ100mmのものを用いた。また、第一の電極1と第二の電極2との間の距離は50mmとした。
【0061】
工程(1)として、排気装置40を用いて真空チャンバ22内を10−6気圧の真空に排気した。次に、工程(2)として、真空チャンバ22内において、中性子発生用電極対10のうちの第一の電極1と第二の電極2との間(50mm)に3kVの電圧を印加して放電させた。電圧印加による放電を維持しつつ、工程(3)として、真空チャンバ22内の気圧が10−2気圧になるまで、真空チャンバ22内に重水素ガスを供給して停止した。停止後1〜2分経過して中性子が発生した。
【0062】
ここで、工程(4)として、中性子発生用電極対10のうちの第一の電極1と第二の電極2との間への電圧印加を停止して放電を停止させた。そして、工程(5)として、真空チャンバ22内に重水素ガスを1分間再供給した。その後、工程(6)として、中性子発生用電極対10のうちの第一の電極1と第二の電極2との間に、100秒間毎に3kVの電圧を再印加して再放電させた。これにより中性子発生反応が生じたが、ここでは200秒間継続させた。
【0063】
この再放電による中性子発生を、富士電機(株)製の中性子レムカウンター、品番:NSN10014型と、ALOKA社製の中性子線量計を用いて同時測定を行うという方法で測定した。その結果を図6に示した。図6のグラフにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は電圧と中性発生数を示した。
【0064】
図6からわかるように、電圧の供給によって急激な中性子の発生が認められる。電圧の供給によって中性子が安定的に発生しており、10個の中性子が得られている。理論値では、反応体であるパラジウム線の単位面積当たりの中性子発生量は10個となる。また、第一の電極1と第二の電極2との間に流れた電流は20mAであり、発生した電力は60Wであった。これから中性子の発生量は2.5×10/Wであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る導電体及び前記導電体に螺旋状に捲回された水素吸蔵合金線を含む第一の電極と、前記第一の電極の周囲に配置された円筒状でかつ網状の第二の電極と、を含む中性子反応用電極対は、効率、制御性及び再現性よく中性子を発生させることができる中性子発生装置、中性子発生方法及びに荷物検査装置に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0066】
1・・・第一の電極、
1a・・・銅棒、
1b・・・パラジウム線、
2・・・第二の電極、
10・・・中性子発生用電極対、
20・・・中性子発生装置、
20a・・・中性子発生装置の要部、
22・・・真空チャンバ、
22a・・・シリンダー、
22b・・・フランジ部、
22c・・・蓋部、
24・・・ボルト、
26・・・ナット、
28・・・ガス出入口、
30a、30b・・・リード部、
32・・・冷却水入口、
34・・・冷却水出口、
36・・・ヒータ、
40・・・排気装置、
42・・・重水素供給装置、
44・・・電源装置、
46a、46b、46c・・・調整弁、
48・・・圧力ゲージ、
50・・・ガスリザーバ、
52・・・中性子検出装置、
54・・・中性子減速材、
56・・・中性子反射材、
58・・・中性子吸収材、
60・・・測定対象物、
100・・・荷物検査装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体及び前記導電体に螺旋状に捲回された水素吸蔵合金線を含む第一の電極と、
前記第一の電極の周囲に配置された円筒状でかつ網状の第二の電極と、
を含む中性子発生用電極対。
【請求項2】
真空チャンバ、
前記真空チャンバ内を排気するための排気装置、
前記真空チャンバ内に重水素ガスを供給するための重水素ガス供給装置、
前記真空チャンバ内に配置され、導電体と、前記導電体に螺旋状に巻回された水素吸蔵合金線と、を含む第一の電極、及び前記第一の電極の周囲に配置された円筒状でかつ網状の第二の電極を含む中性子発生用電極対、
前記電極対間に電圧を印加するための電源装置、
を含む中性子発生装置。
【請求項3】
(1)真空チャンバ内を真空に排気する工程、
(2)前記真空チャンバ内において、導電体と、前記導電体に螺旋状に巻回された水素吸蔵合金線と、を含む第一の電極、及び前記第一の電極の周囲に配置された円筒状でかつ網状の第二の電極を含む中性子発生用電極対間に電圧を印加して放電させる工程、
(3)前記中性子発生用電極対間への電圧印加を維持して放電をさせながら前記真空チャンバ内に重水素ガスを一定時間供給する工程、
を含む中性子発生方法。
【請求項4】
真空チャンバ、
前記真空チャンバ内を排気するための排気装置、
前記真空チャンバ内に重水素ガスを供給するための重水素ガス供給装置、
前記真空チャンバ内に配置され、導電体と、前記導電体に螺旋状に巻回された水素吸蔵合金線と、を含む第一の電極、及び前記第一の電極の周囲に配置された円筒状でかつ網状の第二の電極を含む中性子発生用電極対、
前記電極対間に電圧を印加するための電源装置、を含む中性子発生装置と、
中性子検出装置と、
を含む荷物検査装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−197256(P2010−197256A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43285(P2009−43285)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(593073207)
【Fターム(参考)】