説明

中断粒子源

シンクロサイクロトロンが、空洞に磁界を与える磁気構造物と、空洞にプラズマカラムを与える粒子源であって、プラズマカラムを保持するハウジングを有し、ハウジングが、プラズマカラムを露出するように加速領域で中断されている粒子源と、加速領域でプラズマカラムからの粒子を加速するために空洞に高周波(RF)電圧を与える電圧源とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、加速領域で中断された粒子源を有する粒子加速器を記載する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子を高エネルギーに加速するために、多くの種類の粒子加速器が開発されてきた。粒子加速器の種類の1つはサイクロトロンである。サイクロトロンでは、真空チャンバ内の1つまたは複数のディーに交流電圧を印加することによって軸方向磁界内で荷電粒子を加速する。ディーという名称は、初期のサイクロトロンの電極の形状を描写したものであるが、サイクロトロンによっては電極がDの文字に似ていないこともある。加速する粒子によって作り出されるらせん軌道は磁界に対して垂直である。粒子がらせん状に外側へ動くときに、加速電界がディー間のギャップに印加されている。高周波(RF)電圧がディー間のギャップ両端間に交流電界を生成する。RF電圧、ひいては電界は、磁界内の荷電粒子の軌道周期と同期しており、そのため粒子は、高周波波形によってギャップを何度も横切りながら加速される。粒子のエネルギーは、印加されたRF電圧のピーク電圧を大きく超えるエネルギーレベルにまで増大する。荷電粒子が加速するにつれて、その質量は相対論的効果により増加する。したがって、粒子が加速するとギャップでの位相整合が変化する。
【0003】
現在使用されているイソクロナスサイクロトロンおよびシンクロサイクロトロンの2種類のサイクロトロンは、加速粒子の相対論的質量の増加の課題を別々の方法で克服している。イソクロナスサイクロトロンでは、適正な加速を維持するために半径に伴って増大する磁界と共に一定周波数の電圧を使用する。シンクロサイクロトロンでは、軸方向の集束を可能にするために、半径が増大するに伴い減少する磁界を使用し、荷電粒子の相対論的速度によって生じる質量増加に対応するために加速電圧の周波数を変える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願第11/948,359号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一般に、本特許出願は、磁界を空洞に与えるための磁気構造物と、プラズマカラムを空洞に与えるための粒子源とを含むシンクロサイクロトロンを記載する。粒子源は、プラズマカラムを保持するためのハウジングを有する。ハウジングは、プラズマカラムを露出するように加速領域で中断される。加速領域でプラズマカラムからの粒子を加速するために、電圧源が、高周波(RF)電圧を空洞に与えるように構成される。上記のシンクロサイクロトロンは、以下の1つまたは複数の特徴を単独で、または組み合わせて含むことができる。
【0006】
磁界は2テスラ(T)を上回ることができ、粒子は、累進的に半径が増大するらせんの形でプラズマカラムから外に向かって加速する。ハウジングは、プラズマカラムを露出するように加速領域で完全に分離された2つの部分を含むことができる。電圧源は、交流電圧に電気的に接続された第1のディーと、グランドに電気的に接続された第2のディーとを含むことができる。粒子源の少なくとも一部が第2のディーを貫通することができる。シンクロサイクロトロンは、加速領域内に阻止物を含むことができる。阻止物は、プラズマカラムからの粒子のうちの少なくとも一部の加速を阻止するものとすることができる。阻止物は、加速領域とほぼ直交し、プラズマカラムからの特定の位相の粒子を阻止するように構成することができる。
【0007】
シンクロサイクロトロンは、プラズマカラムを生成する際に使用するための複数の陰極を含むことができる。陰極は、ガスをイオン化してプラズマカラムを生成するために電圧をパルス化するように動作可能とすることができる。陰極は、約1kVから約4kVの間の電圧でパルス動作するように構成することができる。陰極は、外部熱源によって加熱する必要がない。シンクロサイクロトロンは、RF電圧からの電圧を陰極の少なくとも1つに結合する回路を含むことができる。この回路は容量性回路を含むことができる。
【0008】
磁気構造物は磁気ヨークを含むことができる。その電圧源は、交流電圧に電気的に接続された第1のディーと、グランドに電気的に接続された第2のディーとを含むことができる。第1のディーと第2のディーは、調整可能共振回路を形成することができる。磁界が印加される空洞は、調整可能共振回路を収容する共振空洞を含むことができる。
【0009】
一般に、本特許出願はまた、ガスを収容する管と、管の第1の端部に隣接する第1の陰極と、管の第2の端部に隣接する第2の陰極とを含む粒子加速器も記載する。第1および第2の陰極は、管に電圧を印加してガスからプラズマカラムを形成するものである。粒子が、加速させるためにプラズマカラムから引き出されて得られる。回路が、外部高周波(RF)電界からエネルギーを陰極の少なくとも1つに結合するように構成される。上記の粒子加速器は、以下の1つまたは複数の特徴を単独で、または組み合わせて含むことができる。
【0010】
管は、プラズマカラムから粒子が引き出される加速領域で中断することができる。第1の陰極および第2の陰極は、外部熱源によって加熱される必要がない。第1の陰極は、加速領域の、第2の陰極とは異なる側にあってよい。
【0011】
粒子加速器は、RF電界を与えるための電圧源を含むことができる。RF電界は、プラズマカラムからの粒子を加速領域で加速するものとすることができる。そのエネルギーは、電圧源によって与えられるRF電界の一部分を含むことができる。回路は、外部電界からエネルギーを第1の陰極および第2の陰極の少なくとも1つに結合するコンデンサを含むことができる。
【0012】
管は、加速領域の中断箇所で完全に分離されている第1の部分および第2の部分を含むことができる。粒子加速器は、加速領域に阻止物を含むことができる。阻止物は、少なくとも1つの位相の粒子がさらに加速しないようにするために使用することができる。
【0013】
粒子加速器は、RF電界をプラズマカラムに与える電圧源を含むことができる。RF電界は、プラズマカラムからの粒子を加速領域で加速するものとすることができる。RF電界は、15kV未満の電圧を含むことができる。加速領域と交差する磁界を形成するために、磁気ヨークを使用することができる。磁界は、約2テスラ(T)より大きくすることができる。
【0014】
一般に、本特許出願はまた、加速領域で少なくとも部分的に分離されている第1の管部分および第2の管部分を含むペニングイオンゲージ(PIG)源を備える粒子加速器も記載する。第1の管部分および第2の管部分は、加速領域を横切って延びるプラズマカラムを保持するものである。加速領域の電圧を与えるために電圧源が使用される。その電圧は、加速領域でプラズマカラムからの粒子を加速するものである。上記の粒子加速器は、以下の1つまたは複数の特徴を単独で、または組み合わせて含むことができる。
【0015】
第1の管部分と第2の管部分は、互いに完全に分離することができる。あるいは、第1の管部分の1つまたは複数の部分だけを、第2の管部分の対応する部分から分離することもできる。この後者の構成では、PIG源は、第1の管部分の一部と第2の管部分との間に物理的接続部を含むことができる。この物理的接続部は、プラズマカラムから出て加速する粒子が物理的接続部にぶつかることなくプラズマカラムから脱出して最初の旋回を完了することを可能にすることができる。
【0016】
PIG源は、グランドに電気的に接続された第1のディーを貫通することができる。交流電圧源に電気的に接続された第2のディーが、加速領域の電圧を与えることができる。
【0017】
粒子加速器は、PIG源を実質的に取り囲む構造物を含むことができる。粒子加速器は磁気ヨークを含むことができ、この磁気ヨークは、加速領域を収容する空洞を画定する。磁気ヨークは、加速領域全体にわたって磁界を発生するものとすることができる。磁界は、少なくとも2テスラ(T)とすることができる。例えば、磁界は少なくとも10.5Tとすることができる。電圧は、15kV未満の高周波(RF)電圧を含むことができる。
【0018】
粒子加速器は、粒子加速器から出る粒子を加速する際に使用するための1つまたは複数の電極を含むことができる。プラズマカラムを生成する際に少なくとも1つの陰極を使用することができる。プラズマカラムを生成する際に使用される少なくとも1つの陰極は、冷陰極(例えば、外部熱源によって加熱されないもの)を含むことができる。容量性回路が、電圧の少なくとも一部を冷陰極に結合することができる。冷陰極は、第1の管部分内および第2の管部分内でガスからプラズマカラムを生成するために、電圧をパルス化するように構成することができる。
【0019】
上記の特徴のどれでも、本明細書に具体的に記載されていない実施を形成するように組み合わせることができる。
【0020】
1つまたは複数の例の詳細を、添付の図面および以下の説明で示す。さらなる特徴、態様および利点は、これらの説明、図面、および特許請求の範囲により明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】シンクロサイクロトロンの断面図である。
【図1B】図1Aに示されたシンクロサイクロトロンの側面断面図である。
【図2】図1Aおよび図1Bのシンクロサイクロトロンにおいて荷電粒子を加速するために使用できる理想的な波形の図である。
【図3A】ペニングイオンゲージ源などの粒子源の側面図である。
【図3B】図3Aの粒子源の、ダミーディーを貫通しRFディーに隣接する部分の詳細側面図である。
【図4】図3の粒子源の、粒子源によって生成されたプラズマカラムからの粒子のらせん加速を示す側面図である。
【図5】図4の粒子源の斜視図である。
【図6】図4の粒子源の、1つまたは複数の位相の粒子を阻止するための阻止物を含む斜視図である。
【図7】イオン源のかなりの部分が除去された一代替実施形態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書ではシンクロサイクロトロンをベースとするシステムを記載する。しかし、本明細書に記載の回路および方法は、あらゆる種類のサイクロトロンまたは粒子加速器で使用することができる。
【0023】
図1Aおよび図1Bを参照すると、シンクロサイクロトロン1は、間隔をあけて配置された2つの強磁性体の磁極4aおよび4bの周りに電気コイル2aおよび2bを含み、これらは磁界を発生するように構成されている。磁極4aおよび4bは、対向する2つのヨークの部分6aおよび6b(断面で示されている)によって画定される。磁極4aと4bの間の空間で真空チャンバ8を画定し、あるいは別個の真空チャンバを磁極4aと4bの間に取り付けることができる。磁界強度は一般に、真空チャンバ8の中心からの距離の関数になり、コイル2aおよび2bの形状と、磁極4aおよび4bの形および材料との選択によってだいたい決まる。
【0024】
加速電極は、ディー10およびディー12として画定され、それらの間にギャップ13がある。ディー10は、ある交流電圧電位に接続され、その周波数は、荷電粒子の相対論的質量が増大すること、ならびにコイル2aおよび2bと磁極部分4aおよび4bによって発生する磁界が半径方向に減少すること(真空チャンバ8の中心から測定して)に対応するために、1つの加速周期中に高い周波数から低い周波数に変えられる。したがって、ディー10は高周波(RF)ディーと呼ばれる。ディー10および12の交流電圧の理想的なプロファイルが図2に示されており、以下で詳細に論じる。この例では、RFディー10は、内側が中空の半円筒構造である。ディー12は、「ダミーディー」とも呼ばれ、真空チャンバ壁14で接地されているので中空円筒構造である必要がない。図1Aおよび図1Bに示されるようにディー12は、金属、例えば銅の、スロットを有する細片を含み、このスロットは、RFディー10のほぼ同様のスロットに適合するように形づくられている。ディー12は、RFディー10の面16の鏡像を形成するように形づくることができる。
【0025】
イオン源18は、真空チャンバ8の中心の周りに配置され、以下で説明するように、シンクロサイクロトロンの中心に加速するための粒子(例えば陽子)を供給するように構成される。抽出電極22は、荷電粒子を加速領域から抽出チャネル24の中に導き、それによって荷電粒子ビーム26を形成する。ここで、イオン源18は、加速領域の中に軸方向に挿入されている。
【0026】
ディー10および12、ならびにシンクロサイクロトロン内に含まれる他のハードウェアの部品は、ギャップ13の両端間に振動電界を生成する振動電圧入力のもとで調整可能共振回路を画定する。結果として真空チャンバ8内に共振空洞が得られる。この共振空洞の共振周波数は、掃引されるその周波数を同期させることによって、そのQ値を高く保持するように調整することができる。一例では、共振空洞の共振周波数は、ある時間にわたって、例えば1ミリ秒(ms)にわたって約30メガヘルツ(MHz)から約135MHzの範囲(VHF領域)内を移動、または「掃引」する。別の例では、共振空洞の共振周波数は、約1ms内に約95MHzと約135MHzの間で移動、または掃引する。空洞の共振は、「Matching A Resonant Frequency Of A Resonant Cavity To A Frequency Of An Input Voltage」という名称の米国特許出願第11/948,359号(整理番号17970-011001)に記載されている方法で制御することができる。同出願の内容を参照により全部を記載されたものとして本明細書に組み込む。
【0027】
Q値は、共振周波数に近い周波数に対する共振系の応答に関する共振系の「特性」の尺度である。この例では、Q値は次式で定義される。
【0028】
【数1】

【0029】
ここで、Rは共振回路の能動抵抗、Lはインダクタンス、Cは共振回路の静電容量である。
【0030】
調整機構は、例えば可変インダクタンスコイルまたは可変静電容量とすることができる。可変静電容量デバイスは、振動片リードまたは回転コンデンサとすることができる。図1Aおよび図1Bに示された例では、調整機構は回転コンデンサ28を含む。回転コンデンサ28は、モータ31によって駆動される回転ブレード30を含む。モータ31の各周期中、ブレード30がブレード32と噛み合うにつれて、ディー10および12と回転コンデンサ28を含む共振回路の静電容量が増加し、共振周波数が低下する。この過程は、ブレードが噛み合わなくなるにつれ逆になる。すなわち、共振周波数は、共振回路の静電容量を変化させることによって変わる。こうすることは、粒子ビームを加速するのに必要な周波数でディー/ダミーディーのギャップに印加される高電圧を発生させるために必要な電力を大きな率で低減するという目的に役立つ。ブレード30および32の形状は、必要な共振周波数の時間依存性を生じさせるように機械加工することができる。
【0031】
ブレードの回転は、RF周波数発生と同期させることができるので、シンクロサイクロトロンによって画定される共振回路の周波数は、共振空洞に印加される交流電圧電位の周波数の近くに保持される。このことは、RFディーにかかるRF電圧への印加RF電力の効率的な変換を促進する。
【0032】
真空ポンプシステム40は、加速ビームを散乱させなくするために(あるいは相対的に散乱をほとんどなくするために)、またRFディーからの放電を実質的に防止するために、真空チャンバ8を非常に低圧に維持する。
【0033】
シンクロサイクロトロンにおいて実質的に均一な加速を実現するために、ディーギャップの両端間の電界の周波数および振幅を変化させて相対論的質量増加、および磁界の半径方向変化に対応すると共に、粒子ビームの集束を維持する。磁界の半径方向変化は、荷電粒子の外に向かうらせん軌道の中心からの距離に従って測定される。
【0034】
図2は、シンクロサイクロトロンにおいて荷電粒子を加速するために必要になりうる理想的な波形を示すものである。これは数周期の波形だけを示し、理想的な周波数変調および振幅変調のプロファイルを必ずしも表していない。図2は、シンクロサイクロトロンで使用される波形の、時間で変化する振幅および周波数の特性を示す。周波数は、粒子速度が光速のかなりの割合に近づくと同時に粒子の相対論的質量が増大するにつれ、高い周波数から低い周波数に変化する。
【0035】
イオン源18は、RF電界(電圧)によって粒子をその上で活動化できるシンクロサイクロトロン中央平面に粒子が存在するように、シンクロサイクロトロン1の磁気中心の近くに配置される。このイオン源は、ペニングイオンゲージ(PIG)形状を有することができる。PIG形状では、2つの高電圧陰極が互いにほぼ向かい合わせで配置される。例えば、1つの陰極が加速領域の一方の側にあり、1つの陰極が加速領域の他方の側に磁力線に沿ってあってよい。イオン源アセンブリのダミーディーハウジング12は接地電位とすることができる。アノードは、加速領域に向かって延びる管を含む。比較的少量のガス(例えば、水素/H2)が陰極間の管の中の領域を占める場合、ある電圧を陰極に印加することによって、そのガスからプラズマカラムを形成することができる。印加された電圧により電子が磁力線に沿って管壁に本質的に平行に流れ、管の内部に集められるガス分子をイオン化し、それによってプラズマカラムが生成される。
【0036】
シンクロサイクロトロン1で使用するためのPIG形状イオン源が、図3Aおよび図3Bに示されている。図3Aを参照すると、イオン源18は、ガスを受け取るためのガス供給器39を収容するエミッタ側38a、および反射器側38bを含む。ハウジングまたは管44は、後述のようにガスを保持する。図3Bは、ダミーディー12を貫通しRFディー10に隣接するイオン源18を示す。動作の際、RFディー10とダミーディー12の間の磁界により、粒子(例えば陽子)が外に向かって加速する。加速は、プラズマカラムの周りでらせん状になり、粒子〜プラズマカラムの半径が累進的に増大する。このらせん状加速は、図5および図6で43と表示されている。らせんの曲率半径は、粒子の質量、RF電界によって粒子に与えられたエネルギー、および磁界の強さによって決まる。
【0037】
高い磁界の場合、加速中に粒子がその初期の旋回でイオン源の物理的ハウジングを通過するのに十分な大きい曲率半径を有するように、粒子に十分なエネルギーを与えることが困難になりうる。磁界は、イオン源の領域では相対的に高く、例えば2テスラ(T)以上の程度(例えば、8T、8.8T、8.9T、9T、10.5T、またはそれ以上)である。この相対的に高い磁界のために、粒子〜イオン源の初期の半径は、低エネルギー粒子では相対的に小さい。ここで低エネルギー粒子には、プラズマカラムから最初に引き出される粒子が含まれる。例えば、このような半径は1mm程度でありうる。半径が少なくとも初期ではそれほど小さいので、一部の粒子はイオン源のハウジング部分と接触することがあり、それによって、このような粒子がさらに外に向かって加速することが妨げられる。それゆえに、イオン源18のハウジングは、図3Bに示されるように、2つの部分を形成するように中断すなわち分離される。すなわち、イオン源のハウジングの一部分が、加速領域41で、例えば粒子がイオン源から引き出されるべき箇所の近くで除去される。この中断部は、図3Bで45と表示されている。ハウジングはまた、加速領域の上または下で、ある長さにわたって除去することもできる。ダミーディー12の加速領域のところのすべてまたは一部もまた、除去されることもあり除去されないこともある。
【0038】
図3Aおよび図3Bの例では、ハウジング44は、加速されるべき粒子を含むプラズマカラムが保持される管を含む。図示のように、管は異なる箇所で異なる直径を有することができる。管は、ダミーディー12の内側に存在することができるが、これが必要ということではない。シンクロサイクロトロンの中央面の近くで管の一部分が完全に除去され、その結果、別個の2つの部分からなり、これらの部分の間に中断部45があるハウジングが得られる。この例では、中断部は1ミリメートル(mm)から3mmである(すなわち、管のうち約1mmから3mmが除去される)。除去される管の分量は、プラズマカラムからの粒子の加速を可能にするには十分に大きいが、中断部分でのプラズマカラムの著しい消散を妨げるには十分に小さいものとすることができる。
【0039】
粒子加速領域の物理的構造物、ここでは管、を除去することによって、粒子は相対的に小さな半径で、例えば相対的に高い磁界の存在下で、さらなる加速を妨げる物理的構造物と接触することなく、初期の旋回を行うことができる。初期の旋回は、磁界およびRF電界の強さに応じて、プラズマカラムを通って後ろで交差することさえありうる。
【0040】
管は、相対的に小さな、例えば約2mmの内径を有することができる。このことが、やはり相対的に細いプラズマカラムをもたらし、したがって、粒子が加速を開始できる当初の半径方向位置の相対的に小さな組を与える。管はまた、プラズマカラムを生成するために使用される陰極46から十分に遠く離れており、この例では、各陰極から約10mm離れている。これら2つの特徴は組み合わされて、シンクロサイクロトロン内への水素(H2)ガスの流量を1標準立方センチメートル/分(SCCM)未満に低減し、それによって、シンクロサイクロトロンRF/ビーム空洞の中への相対的に小さな真空コンダクタンスアパーチャと、相対的に小さな容量、例えば約500リットル/秒の真空ポンプシステムとを用いてシンクロサイクロトロンを動作させることが可能になる。
【0041】
管を中断することはまた、プラズマカラム中へのRF電界の透過増大も助ける。すなわち、中断部に存在する物理的構造物がないので、RF電界は容易にプラズマカラムに達することができる。さらに、管の中断部により、別々のRF電界を用いてプラズマカラムから粒子を加速することが可能になる。例えば、より低いRF電界を用いて粒子を加速することができる。これにより、RF電界を発生させるために使用されるシステムの電力要件を軽減することができる。一例では、20キロワット(kW)のRFシステムでは、プラズマカラムから粒子を加速するために15キロボルト(kV)のRF電界を発生させる。より低いRF電界を使用すると、RFシステム冷却要件およびRF電圧隔離要件が軽減される。
【0042】
本明細書に記載のシンクロサイクロトロンでは、粒子ビームは、共振抽出システムを使用して抽出される。すなわち、ビームの半径方向振動の振幅は、これらの振動と共振している加速器内部の磁気摂動によって増大される。共振抽出システムが使用される場合、内部ビームの位相空間範囲を制限することによって抽出効率が改善される。磁界およびRF電界の発生構造物の設計に注目すると、抽出時のビームの位相空間範囲は、加速の開始時(例えば、イオン源から出現時)の位相空間範囲によって決まる。その結果、抽出チャネルの入口で失われる可能性があるビームは相対的にほとんどなく、加速器からの背景放射を低減することができる。
【0043】
物理的な構造物、すなわち阻止物を設けて、シンクロサイクロトロンの中央領域から流出することが可能な粒子の位相を制御することができる。このような阻止物51の一例が図6に示されている。阻止物51は、特定の位相を有する粒子を阻止する障害物として機能する。すなわち、障害物に当たった粒子はさらに加速することが妨げられるのに対して、阻止物を通過した粒子は、シンクロサイクロトロンから出て加速を続ける。粒子エネルギーが例えば50kV未満と低い場合に、粒子の初期の旋回中に位相を選択するために、阻止物は、図6に示されるようにプラズマカラムの近くにあってよい。あるいは、阻止物は、プラズマカラムに対して他の任意の箇所に配置されてもよい。図6に示された例では、単一の阻止物がダミーディー12上に配置されている。しかし、1つのディー当たりに複数の阻止物(図示せず)があってもよい。
【0044】
陰極46は、「冷」陰極とすることができる。冷陰極は、外部熱源によって加熱されない陰極とすることができる。また、陰極はパルス動作させることもでき、これは、陰極が連続的ではなく周期的に信号バーストを出力するということである。陰極が冷陰極であり、パルス動作される場合、陰極は損耗しにくくなり、したがって相対的に長持ちしうる。さらに、陰極をパルス動作させると陰極を水冷する必要をなくすることができる。一実施では、陰極46は、相対的に高い例えば約1kV〜約4kVの電圧と、約0.1%と約1%または2%の間のデューティサイクルで約200Hz〜約1kHzの間の繰返し周波数の、約50mA〜約200mAの中程度のピーク陰極放電電流とでパルス動作する。
【0045】
冷陰極は、場合によりタイミングジッタおよび点火遅れを引き起こしうる。すなわち、陰極に十分な熱がないことが、印加電圧に応じて電子が放電する時間に影響を及ぼしうる。例えば、陰極が十分に加熱されていない場合、放電は予想よりも数マイクロ秒以上遅れて、あるいは長く起こりうる。これはプラズマカラムの形成に影響を及ぼし、したがってまた、粒子加速器の動作に影響を及ぼしうる。これらの影響を打ち消すために、空洞8内のRF電界からの電圧を陰極に結合することができる。そうしない場合には陰極46は、ファラデー遮蔽を形成してRF電界から陰極を実質的に遮蔽する金属の中に入れられる。一実施では、RFエネルギーの一部をRF電界から陰極に結合することができ、例えば約100VをRF電界から陰極に結合することができる。図3Bは、ここではコンデンサである容量性回路54がRF電界によって充電されて陰極46に電圧を供給する一実施を示す。RFチョークおよび直流給電を用いてコンデンサを充電することができる。別の陰極46では、相当する構成(図示せず)を実施することができる。結合されるRF電圧によりタイミングジッタを低減し、実施によっては放電遅れを約100ナノ秒(ns)以下にまで低減することができる。
【0046】
一代替実施形態が図7に示されている。この実施形態では、PIG源ハウジングの全部ではないがかなりの部分が除去され、それによってプラズマビームが部分的に露出したままになる。すなわち、PIGハウジングの一部分がその相手側部分から分離されるが、上記の場合のような完全な分離はない。残っている部分61は、PIG源の第1の管部分62と第2の管部分63を物理的に接続している。この実施形態では、粒子が、ハウジングが残っている部分61に当たらずに、少なくとも1回の旋回(軌道周回)を行うことが可能になるのに十分なだけのハウジングが除去される。一例では、最初の旋回半径は1mmとすることができるが、他の旋回半径を実施することもできる。図7に示された実施形態は、本明細書に記載の他のどの特徴とも組み合わせることができる。
【0047】
本明細書に記載の粒子源および付随の特徴は、シンクロサイクロトロンでの使用に限定されるのではなく、任意の種類の粒子加速器またはサイクロトロンで使用することができる。さらに、PIG形状を有するもの以外のイオン源が、任意の種類の粒子加速器で使用されてもよく、また、中断部分、冷陰極、阻止物、および/または本明細書に記載の他の任意の特徴を有することもできる。
【0048】
本明細書に記載のそれぞれ異なる実施の構成要素は、上記に具体的に示されていない他の実施形態を形成するように組み合わせることができる。本明細書に具体的に記載されていない他の実施もまた、以下の特許請求の範囲の中にある。
【符号の説明】
【0049】
2a 電気コイル
2b 電気コイル
4a 磁極
4b 磁極
6a ヨークの部分
6b ヨークの部分
8 真空チャンバ
10 ディー
12 ディー、ダミーディー
13 ギャップ
14 真空チャンバ壁
16 ディーの面
18 イオン源
22 抽出電極
24 抽出チャネル
26 荷電粒子ビーム
28 回転コンデンサ
30 ブレード
31 モータ
32 ブレード
38a エミッタ側
38b 反射器側
39 ガス供給器
40 真空ポンプシステム
41 加速領域
43 らせん状加速
44 ハウジング
45 中断部
46 陰極
51 阻止物
54 容量性回路
61 ハウジングが残っている部分
62 PIG源の第1の管部分
63 PIG源の第2の管部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞に磁界を与える磁気構造物と、
前記空洞にプラズマカラムを与える粒子源であって、前記プラズマカラムを保持するハウジングを有し、前記ハウジングが、前記プラズマカラムを露出するように加速領域で中断されている、粒子源と、
前記加速領域で前記プラズマカラムからの粒子を加速するために前記空洞に高周波(RF)電圧を与える電圧源とを含むシンクロサイクロトロン。
【請求項2】
前記磁界が2テスラ(T)を上回り、前記粒子が、累進的に半径が増大するらせんの形で前記プラズマカラムから外に向かって加速する、請求項1に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項3】
前記ハウジングが、前記プラズマカラムを露出するように前記加速領域で完全に分離された2つの部分を含む、請求項1に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項4】
前記電圧源が、交流電圧に電気的に接続された第1のディーと、グランドに電気的に接続された第2のディーとを含み、
前記粒子源の少なくとも一部が前記第2のディーを貫通する、請求項1に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項5】
前記プラズマカラムからの前記粒子のうちの少なくとも一部の加速を阻止するための阻止物を前記加速領域にさらに含む、請求項1に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項6】
前記阻止物が前記加速領域とほぼ直交し、前記プラズマカラムからの特定の位相の粒子を阻止するように構成される、請求項5に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項7】
前記プラズマカラムを生成する際に使用するための陰極であって、ガスをイオン化して前記プラズマカラムを生成するために電圧をパルス化するように動作可能な陰極をさらに含み、
前記陰極が外部熱源によって加熱されない、請求項1に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項8】
前記陰極が約1kVから約4kVの間の電圧でパルス動作するように構成される、請求項7に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項9】
前記RF電圧からの電圧を前記陰極の少なくとも1つに結合する回路をさらに含む、請求項7に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項10】
前記回路が容量性回路を含む、請求項9に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項11】
前記磁気構造物が磁気ヨークを含み、前記電圧源が、交流電圧に電気的に接続された第1のディーと、グランドに電気的に接続された第2のディーとを含み、前記第1のディーと前記第2のディーが調整可能共振回路を形成し、前記空洞が、前記調整可能共振回路を収容する共振空洞を含む、請求項1に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項12】
ガスを収容する管と、
前記管の第1の端部に隣接する第1の陰極と、
前記管の第2の端部に隣接する第2の陰極とを含み、前記第1および第2の陰極が前記管に電圧を印加して前記ガスからプラズマカラムを形成し、
粒子が、加速させるために前記プラズマカラムから引き出されて得られ、さらに
外部高周波(RF)電界からエネルギーを前記陰極の少なくとも1つに結合する回路を含む粒子加速器。
【請求項13】
前記管が、前記プラズマカラムから前記粒子が引き出される加速領域で中断され、
前記第1の陰極および前記第2の陰極が外部熱源によって加熱されない、請求項12に記載の粒子加速器。
【請求項14】
前記第1の陰極が前記加速領域の、前記第2の陰極とは異なる側にある、請求項12に記載の粒子加速器。
【請求項15】
前記プラズマカラムからの前記粒子を前記加速領域で加速するための前記RF電界を与える電圧源をさらに含む、請求項13に記載の粒子加速器。
【請求項16】
前記エネルギーが、前記電圧源によって与えられる前記RF電界の一部分を含む、請求項15に記載の粒子加速器。
【請求項17】
前記回路が、前記外部電界から前記エネルギーを前記第1の陰極および前記第2の陰極の少なくとも1つに結合するコンデンサを含む、請求項13に記載の粒子加速器。
【請求項18】
前記管が、前記加速領域の中断箇所で完全に分離されている第1の部分および第2の部分を含む、請求項13に記載の粒子加速器。
【請求項19】
前記加速領域に、少なくとも1つの位相の前記粒子がさらに加速しないように阻止するための阻止物をさらに含む、請求項13に記載の粒子加速器。
【請求項20】
前記プラズマカラムからの前記粒子を前記加速領域で加速するためのRF電界を前記プラズマカラムに与える電圧源であって、前記RF電界が15kV未満の電圧を含む電圧源と、
前記加速領域と交差する約2テスラ(T)より大きい磁界を形成するための磁気ヨークとをさらに含む、請求項13に記載の粒子加速器。
【請求項21】
加速領域で少なくとも部分的に分離されている第1の管部分および第2の管部分を含むペニングイオンゲージ(PIG)源であって、前記第1の管部分および前記第2の管部分が、前記加速領域を横切って延びるプラズマカラムを保持する、ペニングイオンゲージ(PIG)源と、
前記加速領域でプラズマカラムからの粒子を加速する前記加速領域の電圧を与える電圧源とを含む粒子加速器。
【請求項22】
前記第1の管部分と前記第2の管部分が互いに完全に分離される、請求項21に記載の粒子加速器。
【請求項23】
前記第1の管部分の一部分が前記第2の管部分の対応する部分から分離され、
前記PIG源が、前記第1の管部分の一部と前記第2の管部分との間に物理的接続部を含み、前記物理的接続部が、前記プラズマカラムから出て加速する粒子が前記物理的接続部にぶつかることなく前記プラズマカラムから脱出して最初の旋回を完了できるようにする、請求項21に記載の粒子加速器。
【請求項24】
前記PIG源が、グランドに電気的に接続された第1のディーを貫通し、交流電圧源に電気的に接続された第2のディーが前記加速領域の前記電圧を与える、請求項21に記載の粒子加速器。
【請求項25】
前記加速領域を収容する空洞を画定する磁気ヨークであって、前記加速領域全体にわたって磁界を発生する磁気ヨークをさらに含む、請求項21に記載の粒子加速器。
【請求項26】
前記磁界が少なくとも2テスラ(T)である、請求項25に記載の粒子加速器。
【請求項27】
前記磁界が少なくとも10.5Tである、請求項26に記載の粒子加速器。
【請求項28】
前記電圧が、15kV未満の高周波(RF)電圧を含む、請求項27に記載の粒子加速器。
【請求項29】
前記粒子加速器から出る粒子を加速する際に使用するための1つまたは複数の電極をさらに含む、請求項21に記載の粒子加速器。
【請求項30】
前記プラズマカラムを生成する際に使用するための、冷陰極を含む少なくとも1つの陰極と、
前記電圧の少なくとも一部を前記少なくとも1つの陰極に結合する容量性回路とをさらに含む、請求項21に記載の粒子加速器。
【請求項31】
前記少なくとも1つの陰極が、前記第1の管部分内および前記第2の管部分内でガスから前記プラズマカラムを生成するために、電圧をパルス化するように構成される、請求項30に記載の粒子加速器。
【請求項32】
前記PIG源を実質的に取り囲む構造物をさらに含む、請求項31に記載の粒子加速器。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−505670(P2011−505670A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536130(P2010−536130)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【国際出願番号】PCT/US2008/084695
【国際公開番号】WO2009/070588
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(508147706)スティル・リバー・システムズ・インコーポレーテッド (7)
【Fターム(参考)】