説明

中枢神経系へのポリヌクレオチド薬剤の送達

【課題】哺乳動物の中枢神経系に、ポリヌクレオチド薬剤を送達する方法を提供することを本発明の課題とする。
【解決手段】上記課題は、ポリヌクレオチド薬剤、特にオリゴヌクレオチドを、鼻腔から開始する神経経路を用いてか、または、三叉神経によって神経支配される鼻腔外組織から開始する神経経路を介して、哺乳動物のCNSに送達する方法を提供することによって解決された。本発明は、ポリヌクレオチド薬剤を、哺乳動物のCNSの細胞および組織に送達するための方法を提供し、この方法は、ポリヌクレオチド薬剤を含む調製物をCNSの組織および細胞に導入する工程を包含し、ここで、このポリヌクレオチド薬剤は、標的ポリペプチドの発現を阻害するか、またはその哺乳動物に対する生物学的効果を媒介するタンパク質もしくはペプチドの発現を指向するかの、いずれかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、三叉神経により神経支配された鼻腔の嗅覚領域、または鼻内組織もしくは鼻腔外組織のいずれかに方向付けられた神経経路により、哺乳動物の中枢神経系に、ポリヌクレオチド薬剤を送達する方法に関する。開示される方法は、哺乳動物の血脳関門の障害により課された薬物送達の障害を回避する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
哺乳動物の脳は、血脳関門(BBB)と称される毛細血管内皮細胞の並びにより特徴付けられる。接着結合されている内皮細胞の単層は、血液中に存在する主要な溶質の、中枢神経系(CNS)への侵入を防ぐ解剖学的/生理学的な血液/組織の関門を提供する。BBBにより確立される解剖学的障壁および血液脳脊髄液(CNF)関門は、脳および脊髄ならびにそれらの実質組織の細胞外液(例えば、脳脊髄液)を、悪性全身性感染(例えば、感染性血液保有因子(blood−borne agent))から隔離および保護する。BBBはまた、脳の毛細血管の管腔(例えば、血液成分と接触する)原形質膜内に内因性輸送系を確立することによりCNSへの選択分子種(溶質)の侵入を促進する特殊な生理学的機能を発揮する。より詳細には、ヒトBBBは、細胞および組織(脳および脊髄の実質を含む)の維持に必要とされる低分子量の栄養物を輸送するためのキャリア媒介輸送(CMT)経路;およびCNSへの高分子量のタンパク質リガンド(例えば、神経栄養因子(例えば、成長因子))のトランスサイトーシスのためのレセプター媒介輸送(RMT)経路を提供する。接着結合による接続の効率は、ヒトBBBが、全ての薬剤(例えば、溶質)の95%より多くが循環系からCNSに入ることを排除することを可能にすることが、確立されている(Pardridge(1999)Pharmaceutical
Science & Technology Today 2:49−59)。従って、脂溶性ではなく、そしてRMT系レセプターに対する固有の親和性を欠く500Daより大きい分子量によって特徴付けられる薬剤は、BBBを通過し得ないことは周知である。
【0003】
CNSの疾患に起因する病態は、米国における主要な健康上の問題である。ポリヌクレオチド薬剤(例えば、アンチセンス薬剤、または一過性のタンパク質発現のためのコード配列を含むプラスミド)の使用は、望ましい処置様式として認められているが、それらの開発は、CNSに治療有効用量のポリヌクレオチド薬剤を送達し得る薬物送達方法に対する必要性によって、妨げられてきた。しかし、最近数年のうちに、哺乳動物のCNSにおける遺伝子発現の阻害のための、ポリヌクレオチド薬剤、またはより具体的には、アンチセンス薬剤の、首尾よい使用を示すいくつかの報告がなされた。例えば、アンチセンスにより媒介される阻害が、神経伝達物質レセプター、サイトカイン、トランスポーターおよび他のタンパク質のような、様々なタンパク質をコードする遺伝子に対して報告された。SzklerczykおよびKazzmerck(1989)Antisense Nucleic Acid Drug Dev.9:105。
【0004】
CNSへの薬物送達のための従来のアプローチとしては、以下が挙げられる:神経外科的ストラテジー(例えば、大脳内注射または脳室内注入);BBBの内因性移送経路の1つの利用を試みての、薬剤の分子操作(例えば、内皮細胞表面分子に対する親和性を有する輸送ペプチドを、それ自体がBBBと架橋不可能な薬剤と組み合わせて含む、キメラ融合タンパク質の生成);薬剤の脂溶性を増加させるように設計された、薬理学的ストラテジー(例えば、水溶性薬剤の、脂質キャリアまたはコレステロールキャリアへの結合体化
);および過剰浸透圧破壊によるBBBの一体性の一時的破壊(頸動脈へのマンニトール溶液の注入、またはアンギオテンシンペプチドのような生物学的に活性な薬剤の使用から生じる)。しかし、これらのストラテジーの各々には、制限(例えば、侵襲性外科手順に付随する固有の危険性、内因性移送系に固有の制限によって付与される、大きさの制限、CNSの外側で活性であり得るキャリアモチーフを含むキメラ分子の全身投与に付随する、潜在的に所望でない生物学的副作用、およびBBBが破壊された脳の領域での脳の損傷の可能な危険性)があり、このことにより、そのストラテジーは、最適ではない送達方法になる。
【0005】
さらに、脳の機能的/解剖学的領域の各々は、疎水性の白質によって他の領域から隔離されているので、構造体内の注射(例えば、大脳内または脳質内の注射)は、投与された薬剤(例えば、溶質)の、CNSの他の領域への非常に少ない分布を促進する。従って、CNSの組織および細胞に薬剤を送達するための、より良好な方法に対する必要性が、存在し続けている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明は、ポリヌクレオチド薬剤を、哺乳動物のCNSの細胞および組織に送達するための方法を提供し、この方法は、ポリヌクレオチド薬剤を含む調製物をCNSの組織および細胞に導入する工程を包含し、ここで、このポリヌクレオチド薬剤は、標的ポリペプチドの発現を阻害するか、またはその哺乳動物に対する生物学的効果を媒介するタンパク質もしくはペプチドの発現を指向するかの、いずれかである。
【0007】
本明細書中に開示される送達方法は、CNS(例えば、脳および/または脊髄)の細胞に、裸のポリヌクレオチドをインビボで送達または投与するための方法を提供し、この方法は、ポリヌクレオチド薬剤を含有する組成物を提供する工程、およびこの組成物を、鼻腔の嗅部、または三叉神経によって神経支配されている鼻内もしくは鼻外の組織と接触させる工程を包含し、この接触部から、ポリヌクレオチド薬剤がCNSに送達される。より具体的には、本発明は、ポリヌクレオチドを、哺乳動物のCNSに、嗅神経または三叉神経に付随する神経経路を通して、またはこの経路によって、送達するための方法を提供する。本明細書中に開示される送達/投与方法における使用に適したポリヌクレオチド薬剤は、好ましくは、ペプチド、タンパク質、またはアンチセンスオリゴヌクレオチドのいずれかをコードする、DNA配列またはmRNA配列である。
【0008】
これらの部位に投与されるポリヌクレオチド薬剤は、CNSに、保護効果または治療効果を提供するために有効な量で送達され得る。保護効果または治療効果の例としては、タンパク質またはペプチドの発現、およびタンパク質発現の阻害が挙げられる。本発明の方法によって送達される薬剤は、BBBを回避し、そしてCNSに直接送達される。従って、この方法を使用して、CNSの疾患または障害の処置のために、BBBを不十分に通過するかまたは通過し得ないポリヌクレオチド薬剤の治療有効用量を投与することが可能である。これらの疾患または障害としては、神経変性障害、悪性疾患または腫瘍、情動障害、あるいは脳血管の障害、傷害、またはCNSの感染から生じる神経損傷が挙げられるが、これらに限定されない。
【0009】
この送達方法は、外因性の薬剤をCNSに直接移送することを提供する。この様式で、ポリヌクレオチド薬剤は、神経経路、あるいは脈管周囲のチャネル、リンパ周囲の(prelymphatic)チャネル、または脳および/もしくは脊髄に付随するリンパチャネルに沿って、CNSへと移送され得る。あるいは、ポリヌクレオチド薬剤は、脳脊髄液には入り得、引き続いて、CNS(脳、および/または脊髄が挙げられる)に入り得る。
【0010】
アンチセンス薬剤は、単一の遺伝子産物の配列特異的阻害のための手段を提供することが周知である。アンチセンス薬剤は、本発明の方法に従って送達され得る、特定のクラスのポリヌクレオチド薬剤を例示する。本明細書中において使用される場合、「アンチセンス薬剤」とは、CNSの疾患または障害の病理に寄与することが既知である標的タンパク質の、発現および/または機能を阻害するように設計された、配列特異的調節因子である。この方法は、本明細書中に規定されるようにCNSの1つ以上の部分に薬剤を送達し得る。代表的に、薬剤は、CNSの障害または疾患の予防または処置のために、投与される。
【0011】
より具体的には、本発明は、裸のDNAおよびRNA(例えば、ポリヌクレオチド薬剤)を哺乳動物に導入して、ポリペプチドの制御された発現またはアンチセンスポリヌクレオチド配列のインビボでの産生のいずれかを達成することに関する。本発明の送達方法は、遺伝子治療適用、およびポリペプチドの投与または標的タンパク質の発現の阻害のいずれかが、基礎となる障害または疾患を改善および/または矯正し得る、任意の治療状況において、有用である。
【0012】
本発明の1つの実施形態の実施は、脊椎動物細胞への組み込みのためのポリペプチドを作動可能にコードする、裸のポリヌクレオチドを得ることを必要とする。ポリヌクレオチドは、標的細胞による発現のために必要な遺伝情報(例えば、プロモーターなど)の全てを有する場合に、ポリペプチドを作動可能にコードする。本明細書中において使用される場合、これらの配列は、プラスミドと称される。本発明の方法における使用に適切なポリヌクレオチドは、完全な遺伝子、遺伝子のフラグメント、またはいくつかの遺伝子含む組成物を、発現のために必要な認識配列および他の配列と一緒に含み得る。
【0013】
好ましい実施形態において、ポリヌクレオチド薬剤は、全長タンパク質、またはその機能的フラグメントもしくはペプチドをコードするために十分な長さの、ヌクレオチド配列を含む。さらに、適切なポリヌクレオチド薬剤はまた、特定の標的タンパク質をコードするmRNA分子のある領域、またはそのmRNA分子の全コード配列のいずれかに、完全に相補的であるように設計された、オリゴヌクレオチドを含む。従って、本発明の送達/投与方法における使用に適切なポリヌクレオチド薬剤またはオリゴヌクレオチド薬剤は、100ヌクレオチド長、200ヌクレオチド長、300ヌクレオチド長、400ヌクレオチド長、500ヌクレオチド長、600ヌクレオチド長、700ヌクレオチド長、800ヌクレオチド長、900ヌクレオチド長、1000ヌクレオチド長、1100ヌクレオチド長、1200ヌクレオチド長、1300ヌクレオチド長、1400ヌクレオチド長、1500ヌクレオチド長、1600ヌクレオチド長、1700ヌクレオチド長、1800ヌクレオチド長、1900ヌクレオチド長または2000ヌクレオチド長の、ヌクレオチド配列を含む。
【0014】
代替の実施形態において、本発明は、アンチセンス薬剤(例えば、ポリヌクレオチド、化学的に改変されたポリヌクレオチドアナログ、またはポリヌクレオチド模倣物)を、CNSに、鼻腔の嗅部を起源とする嗅経路を通して送達するための方法を提供する。特定の実施形態において、この方法は、生物学的活性がCNSの疾患または障害の病理に寄与する標的タンパク質をコードするmRNA分子の翻訳を阻害するように設計された、1種以上のアンチセンス薬剤を含有する組成物を投与するために有用である。
【0015】
より具体的には、本発明のこの局面における使用に適した薬剤としては、ポリヌクレオチド(例えば、一本鎖オリゴヌクレオチド)、ポリヌクレオチドアナログ(例えば、化学的に改変されたオリゴヌクレオチド)、またはポリヌクレオチド模倣物(例えば、ペプチド核酸(PNA)分子)が挙げられるが、これらに限定されない。これらの種のアンチセ
ンス薬剤の各々は、単独でか、または少なくとも1種の他のアンチセンス薬剤と組み合わせてかのいずれかで、利用され得る。一般的に言えば、アンチセンス薬剤は、標的核酸配列の独特の部分に対する配列特異性によって、特徴付けられる。あるいは、適切なアンチセンス組成物は、単一の型のアンチセンス薬剤を含有し得る。例えば、単一の種のポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、またはPNA分子を含有する組成物もまた、適切な組成物を例示する。さらに、2種以上のポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、またはPNA分子を含有する組成物は、さらに、本発明の送達方法と共に使用するために適した組成物を例示する。
【0016】
本発明は、例えば以下を提供する。
(項目1)
哺乳動物の中枢神経系にポリヌクレオチド薬剤を送達する方法であって、以下:
鼻腔の嗅覚領域または三叉神経によって神経支配される組織と該薬剤を含む組成物とを接触させる工程
を包含し、これによって、該薬剤が、該中枢神経系の該組織および細胞に送達される、方法。
(項目2)
前記嗅覚領域が、神経経路、上皮経路、リンパチャネル、脈管周囲チャネル、またはこれらの組合せを含む、請求項1に記載の方法。
(項目3)
前記ポリヌクレオチド薬剤を含む前記組成物が、該組成物を前記鼻腔の1/3より上に投与することによって、前記哺乳動物の嗅覚領域に接触される、請求項1に記載の方法。
(項目4)
前記三叉神経によって神経支配される前記組織が、口腔組織、真皮組織または結膜からなる群から選択される鼻腔内組織または鼻腔外組織である、請求項1に記載の方法。
(項目5)
前記組成物と前記口腔組織とを接触する工程が、舌下投与を包含する、請求項4に記載の方法。
(項目6)
前記ポリヌクレオチド薬剤が、骨髄、脳幹、中脳、小脳、嗅球、皮質構造、皮質下構造またはこれらの任意の組合せに送達される、請求項1に記載の方法。
(項目7)
前記ポリヌクレオチド薬剤が、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドアナログ、ポリヌクレオチド模倣物、および生物学的に活性なペプチドまたはタンパク質を作動可能にコードするプラスミドからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
(項目8)
哺乳動物の中枢神経系にポリヌクレオチド薬剤を投与する方法であって、以下:
有効量の該薬剤を含む組成物を鼻腔の嗅覚領域または三叉神経によって神経支配される組織に投与する工程
を包含し、これによって、該薬剤が、該中枢神経系の細胞に対して診断的、保護的または治療的な効果を提供するのに有効な量で、該哺乳動物の該中枢神経系に輸送される、方法。
(項目9)
前記嗅覚領域が、神経経路、上皮経路、リンパチャネル、脈管周囲チャネル、またはこれらの組合せを含む、請求項8に記載の方法。
(項目10)
前記三叉神経によって神経支配される前記組織が、口腔組織、真皮組織または結膜からなる群から選択される鼻腔内組織または鼻腔外組織である、請求項8に記載の方法。
(項目11)
前記ポリヌクレオチド薬剤が、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドアナログ、ポリヌクレオチド模倣物、および生物学的に活性なペプチドまたはタンパク質を作動可能にコードするプラスミドからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
(項目12)
前記ポリヌクレオチド薬剤が、神経学的状態、中枢神経系障害、精神障害またはこれらの組合せの処置に有効な量で前記哺乳動物の前記中枢神経系に輸送される、請求項8に記載の方法。
(項目13)
前記ポリヌクレオチド薬剤が、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドアナログ、ポリヌクレオチド模倣物、および生物学的に活性なペプチドまたはタンパク質を作動可能にコー
ドするプラスミドからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
(項目14)
前記状態または前記障害が、神経変性障害である、請求項12に記載の方法。
(項目15)
前記神経変性障害が、パーキンソン病またはアルツハイマー病である、請求項14に記載の方法。
(項目16)
請求項12に記載の方法であって、前記状態または前記障害が、レーヴィ体痴呆、多発硬化症、てんかん、無口症(asnomia)、薬物嗜癖、小脳性運動失調、進行性核上麻痺、筋萎縮側索硬化症、情動障害、精神分裂病、脳卒中、脊髄卒中、髄膜炎、中枢神経系のHIV感染、脳腫瘍、脊髄腫瘍、プリオン病、無嗅覚症、脳損傷、および脊髄損傷からなる群から選択される、方法。
(項目17)
請求項16に記載の方法であって、前記ポリヌクレオチド薬剤が、インスリン様増殖因子レセプターI(IGF−IR)、インスリン様増殖因子I(IGF−I)、インスリン様増殖因子II(IGF−II)、インスリン様増殖因子II(IGF−II)レセプター、βアミロイド前駆体タンパク質、およびアヘン剤レセプターからなる群から選択されるポリペプチドをコードするmRNA転写産物の少なくとも10ヌクレオチドに相補的であるように設計されるアンチセンス薬剤である、方法。
(項目18)
哺乳動物の中枢神経系障害の病状に寄与する標的タンパク質をコードするmRNAの翻訳を阻害する方法であって、以下:
該mRNAの領域に相補的な少なくとも1つのアンチセンス薬剤を含む組成物を提供する工程;および
該哺乳動物の鼻腔の嗅覚領域または三叉神経によって神経支配される組織と該組成物とを接触させる工程
を包含し、これによって、該アンチセンス薬剤が、該mRNAを含む該中枢神経系の細胞に送達され、ここで、該アンチセンス薬剤が、標的mRNAにハイブリダイズして翻訳を阻害する、方法。
(項目19)
前記アンチセンス薬剤が、オリゴヌクレオチド、化学的に改変したオリゴヌクレオチド、およびペプチド核酸分子からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
(項目20)
前記アンチセンス分子を含む前記組成物が、前記鼻腔の1/3より上に該組成物を投与することによって、前記哺乳動物の嗅覚領域に接触される、請求項18に記載の方法。
(項目21)
前記標的タンパク質が、インスリン様増殖因子レセプターI(IGF−IR)、インスリン様増殖因子I(IGF−I)、インスリン様増殖因子II(IGF−II)、インスリン様増殖因子II(IGF−II)レセプター、βアミロイド前駆体タンパク質、およびアヘン剤レセプターからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
(項目22)
前記三叉神経によって神経支配される前記組織が、口腔組織、真皮組織または結膜からなる群から選択される鼻腔内組織または鼻腔外組織である、請求項18に記載の方法。
(項目23)
前記組成物と前記口腔組織とを接触させる工程が、舌下投与を包含する、請求項22に記載の方法。
【0017】
(発明の詳細な説明)
本発明の送達方法は、循環系を通してよりむしろ、神経経路によって、ポリヌクレオチド薬剤を移送することを、優先して提供する。BBBを回避することによって、本発明の方法は、哺乳動物BBBによって与えられる薬物送達の問題を除き、そしてBBBを通過して十分に配送されないか、またはBBBを通過し得ないかのいずれかの薬剤の直接送達を容易にする。本発明の方法を使用する、CNSへのポリヌクレオチド薬剤の直接送達は、送達の効率を増加させ、そして同時に、投与のために必要とされる薬剤の総量を減少させる。従って、開示される方法は、治療有効用量のポリヌクレオチド薬剤の直接送達を提供し、そして同時に、全身送達に付随する望まれない副作用の可能性を最小にする。
【0018】
より具体的には、本発明は、嗅神経または三叉神経に付随する神経経路を通して、またはその経路によって、哺乳動物のCNSにポリヌクレオチド薬剤を送達(例えば、移送)するための方法を提供する。嗅部は、鼻腔内の上3分の1に位置する。本発明の代替の実施形態は、三叉神経によって神経支配される組織に、ポリヌクレオチド薬剤を投与する工程を包含する。
【0019】
神経経路を通して、または神経経路によっての移送は、嗅感覚上皮における細胞内の裂を通しての細胞内軸索移送および細胞外移送、ならびにニューロンによる流体相エンドサイトーシスを介してかまたはそのエンドサイトーシスによって、ニューロンと共に延びるリンパチャネルを通してかまたはこのチャネルによって、ニューロンまたは神経経路と共に延びる血管の血管周囲空間を通してかまたはこの空間によって、粘膜細胞層または上皮細胞層を通してかまたはこれらの細胞層によって、ニューロンまたは神経経路と共に延びる血管の外膜を通してかまたはこの外膜によって起こる移送、および血管リンパ系を通しての移送を包含する。
【0020】
本発明の方法にとって有用な、1クラスのポリヌクレオチド薬剤は、有用な治療的用途を有するポリペプチド(例えば、ペプチドおよびタンパク質)をコードするDNA配列およびRNA配列を含む。本明細書中で使用される場合、用語「裸(の)」ポリヌクレオチド薬剤は、ペプチドまたはタンパク質をコードするポリヌクレオチド薬剤または目的のアンチセンスポリヌクレオチドが、細胞への侵入を容易にするように作用し得る任意の送達ビヒクルを持たず、例えば、このポリヌクレオチド配列が、ウイルス配列(特に、遺伝情報を保持し得る任意のウイルス粒子)を有さないことを意味する。同様に、これらは、リポソーム性処方物、荷電脂質または沈澱因子(例えば、リン酸カルシウム)のような、トランスフェクションを促進する任意の物質に由来するか、またはそれらに関して「裸」である。この用語は、この因子の細胞への侵入を容易にする一過性ペプチドを含むポリヌクレオチド薬剤の使用を除外しない。
【0021】
一般的な用語において、本発明の1つの実施形態は、CNSの細胞におけるポリペプチドの一過性発現を得るための方法を提供し、この方法は、ペプチドまたはタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド薬剤を導入して、それによって、その裸のポリヌクレオチドが、数週間および可能であるならば30日、45日、または6
0日の間、この細胞内で産生され得る工程を包含する。
【0022】
従って、このポリペプチドの発現を指向する配列を取りこむポリヌクレオチド(例えば、プラスミド)はまた、本発明の範囲内に企図される。本発明の送達方法における用途に適当なポリヌクレオチド薬剤は、ペプチドまたはタンパク質をコードしていてもコードしてなくともよいDNA配列およびmRNA配列の両方を含む。例えば、アンチセンスポリヌクレオチドのインビボ産生を指向するプライスミドを含むポリヌクレオチド配列は、本発明の送達方法において使用され得る。本方法の実施形態において使用される得るDNA配列は、宿主のゲノムに組み込まれない配列であり得る。これらは、非複製DNA配列またはゲノム組み込み能を欠失するように遺伝子操作された特異的に複製する配列であり得る。あるいは、これらのヌクレオチド配列は、相補的な様式で、内因性のmRNA分子にハイブリダイズするように設計された合成配列を含み得る。
【0023】
自動核酸合成装置の有効性によって、DNAおよびRNAは、これらの核酸配列が既知である場合は直接的に、または、PCRクローニングおよび発酵の組み合わせによって合成され得る。さらに、所望のポリペプチドの配列が既知である場合、そのポリヌクレオチドにとって適切なコード配列が、推定され得る。同様に、標的タンパク質が調節について同定されている場合、適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、cDNA配列に基づいて設計され得る。
【0024】
mRNAを使用することに基づくインビボ遺伝子治療の1つの利点は、このポリヌクレオチド薬剤がタンパク質合成を指向するために核を通過する必要がないことであり;従って、これは、遺伝的な不都合を有さない。本発明に従ったmRNAの鼻腔内送達によって、一般的に少なくとも、約3時間、約6時間、8時間、または12時間は持続する効果を生じ得る。より延長された効果は、反復投与によって容易に達成され得る。
【0025】
あるいは、より延長され効果が必要な状況において、本発明の代替的な実施形態は、特定のポリペプチドをコードするDNA配列をCNSの細胞に導入する工程を提供する。目的の、ペプチド、タンパク質、またはアンチセンス薬剤をコードする非複製DNA配列は、細胞に導入され、ゲノム組み込みがなくとも、約60日間すなわち2ヶ月間までの期間の間、所望のポリペプチドの産生を提供し得る。あるいは、さらにより延長された効果が、挿入されたDNAをその中に有するベクタープラスミドを用いて細胞にこのDNA配列を導入することによって、達成され得る。好ましくは、このプラスミドは、複製開始点をさらに含み得る。このようなプラスミドは当業者にとって公知であり、例えば、プラスミドpBR322は、複製開始点pMB1を有し、また、プラスミドpMK16は、複製開始点ColE1を有する(Ausubel(1988)Current Protocols in Molecular Biology(John Wiely and Sons,New York)。
【0026】
多くの疾患状態が、治療ペプチドまたは治療タンパク質の投与によって利益を享受し得る。このようなタンパク質としては、リンホカイン(例えば、インターロイキン2、腫瘍壊死因子、インシュリン様増殖因子(例えば、IGF−1)およびそれらのインターフェロン);増殖因子(例えば、神経増殖因子、上皮増殖因子およびヒト成長ホルモン);組織プラスミノゲン活性因子;第VIII:C因子;インシュリン;カルシトニン;チミジンキナーゼなどが挙げられる。さらに、罹患の細胞または腫瘍細胞への、毒性ペプチド(例えば、リシン、ジフテリア毒素、またはコブラ毒因子)の選択的送達によって、主要な治療的利点が有される。現在のペプチド送達システムは、標的組織または標的細胞の中に、またはそれらについての、治療有効量のペプチドを送達するために、大量のペプチドを(結果的な望まない全身的な副作用を伴って)全身投与する必要性のような重大な問題に瀕している。
【0027】
代替的な実施形態において、本発明のポリヌクレオチド薬剤は、それ自体が治療剤である、DNA配列またはRNA配列を含む。このクラスの薬剤の例は、アンチセンスDNAおよびアンチセンスRNA;アンチセンスRNAをコードするDNA;または欠陥のある内因性分子もしくは欠乏している内因性分子に置き換わる、tRNAまたはrRNAをコードするDNAを含む。本発明のポリヌクレオチドはまた、治療的ポリペプチドを含む得る。ポリペプチドは、そのサイズ、およびグリコシル化されているか否かにかかわらず、ポリヌクレオチドの任意の翻訳産物であると理解される。治療的ポリペプチドとしては、動物において欠失しているかまたは欠乏している種類を補うポリペプチド、または目的の領域から有害な細胞を限定するか、またはそれらを取り除くために毒性効果を介して作用するポリペプチドが、重要な例として挙げられる。
【0028】
本発明の送達方法に従って、このポリヌクレオチド薬剤は、中央にある鼻中隔と主要な鼻経路の側壁との間の哺乳動物の鼻腔の嗅覚領域から始まる嗅覚経路を介してか、または、その嗅覚経路によって、哺乳類のCNSに導入される。好ましくは、この薬剤は鼻腔の上側3分の1に送達されるか、または嗅覚上皮に送達される。嗅覚経路を介してか、または嗅覚経路によって送達された薬剤は、細胞内経路または細胞外経路のいずれかを利用して得る。例えば、ある薬剤は、嗅覚神経、嗅覚神経経路、嗅覚上皮経路、または血管リンパチャネル(例えば、血管リンパ系のチャネル)に沿ってか、またはそれらの中を移動して、CNSに到達する。例えば、薬剤が鼻粘膜(例えば、感覚上皮)の中に、またはそれに分散されると、この薬剤は、鼻粘膜および/または嗅覚上皮を介して輸送され、嗅覚ニューロンに沿ってCNSへと移動する。
【0029】
代替的な実施形態は、三叉神経により神経支配される組織からはじまる三叉神経経路を通ってか、またはそれによって、CNSへのポリヌクレオチド薬剤の送達を提供する。適切な組織としては、鼻腔の中にある鼻内組織、および三叉神経の分岐したもの(例えば、眼神経、上顎神経、および下顎神経)のうちの1つにより神経支配される鼻外組織の両方が挙げられる。本明細書中で使用される場合、「鼻外組織」としては、口腔組織、真皮組織、または結膜組織をいうがこれらに限定されない。
【0030】
以下で議論するように、三叉神経は、その3つの主要な支流である、眼神経、上顎神経、および下顎神経を有している。本発明の方法によって、ポリヌクレオチド薬剤が、これらの三叉神経の支流のうちの1つ以上に神経支配される、鼻外組織および鼻内組織に投与され得る。例えば、この方法によって、ポリヌクレオチド薬剤が、顔面、眼、口腔、鼻腔、洞腔(sinus cavity)、または耳の、皮膚、上皮、または粘膜あるいは、顔面、眼、口腔、鼻腔、洞腔、または耳の周辺に投与され得る。
【0031】
本発明の1つの実施形態は、CNSの細胞または組織における、保護的効果または治療効果を提供するのに十分な量にてポリヌクレオチド薬剤がCNSに輸送されるような様式で、この薬剤を哺乳動物に投与することを包含する。例えば、この方法は、CNS障害の病状に寄与することが既知であるタンパク質をコードするmRNA分子の翻訳を阻害するように設計されたアンチセンス分子を送達するのに使用され得る。従って、本発明の方法は、神経学的障害および精神学的障害(例えば、神経変性疾患、悪性疾患、腫瘍、情動障害、またはCNSの脳血管障害、損傷もしくは感染に起因する
組織損傷)が挙げられる。
【0032】
このCNSにポリヌクレオチド薬剤を輸送するために神経経路を使用することによって、BBBによって提示される障害が未然に除去され、代替的なクラスの潜在的な治療剤分子(例えば、キメラアンチセンスオリゴヌクレオチド)が、哺乳動物のCNSの組織および細胞に送達される。投与された薬剤はまた、血流の中に吸収され得るが、適切なアンチ
センス薬剤の、配列特異性および分子特性は、有害な全身性の副作用効果の可能性を最小化する。さらに、開示された方法に従って投与された薬剤は循環系の血液成分の液量の中へ希釈されないので、本発明は、全身的投与方法を使用して達成するよりも、高濃度の薬剤をCNSの組織および細胞へ送達することを提供する。その結果、本発明は、CNSにこのポリヌクレオチド薬剤を送達する改善された方法を提供する。
【0033】
(神経経路)
(嗅神経)
本発明の方法は、嗅神経によって神経支配される組織へのポリヌクレオチド薬剤の投与を包含する。ポリヌクレオチド薬剤は、鼻腔への送達を介して嗅覚野へと送達され得る。好ましくは、ポリヌクレオチド薬剤を、鼻腔の上側3分の1または嗅上皮へとこの薬剤を滴注することによって、鼻腔の嗅部と接触させる。哺乳動物の鼻腔の嗅部と接触した薬剤は、嗅神経経路、嗅上皮経路、脈管周囲チャネル、もしくは嗅神経に沿って走るリンパチャネルを通して、またはこれらによって、CNSへと送達される。
【0034】
嗅神経の線維は、鼻腔と頭蓋腔とを分離する篩骨の篩状板のすぐ下の、鼻腔の非常に上(すなわち、上側3分の1)に位置する嗅覚受容器細胞の無髄軸索である。嗅上皮は、CNSの伸長部が、外部の微小環境と直接接触する、身体中の唯一の部位である。これらの感覚ニューロンの樹状突起は、伸長して鼻腔内に入り、そして軸索は集まって、嗅球に向かって突出する神経束になる。嗅覚受容器細胞は、双極ニューロンであり、隆起部は、鼻腔に向かって突出する、不動の毛様線毛によって覆われる。他方の末端において、これらの細胞由来の軸索は、集まって凝集体となり、そして鼻蓋部で頭蓋腔に入る。軟膜の細いチューブによって取り囲まれると、嗅神経は、脳脊髄液(CSF)を含むくも膜下腔を横切り、そして嗅球の下側に入る。一旦、ポリヌクレオチド薬剤が鼻腔(特に、鼻腔の上側3分の1)中に分配されると/鼻腔(特に、鼻腔の上側3分の1)と接触すると、この薬剤は、鼻粘膜を通って嗅球内へと輸送され得る。嗅球は、前嗅核(anterior olfactory nucleus)、前頭皮質、海馬形成、扁桃核、マイネルト核および視床下部を含むがこれらに限定されない、脳の種々の解剖学的領域と広範に連結している。
【0035】
(嗅神経経路)
従って、いくつかの実施形態では、本発明の送達方法は、この薬剤が、鼻腔の嗅部内で始まる嗅経路(例えば、嗅神経経路、嗅上皮経路、嗅部リンパチャネル)に沿ってCNSへと輸送されるような様式での、哺乳動物へのポリヌクレオチド薬剤の投与を包含する。嗅経路を通した送達は、脳への、そして脳からCNSの種々の解剖学的領域に関連した髄膜リンパ管内への、粘膜(例えば、上皮)内もしくは粘膜(例えば、上皮)を横切った、嗅神経を通すかもしくは嗅神経による、リンパチャネルを通すかもしくはリンパチャネルによる、または嗅神経に沿って走る血管を取り囲む脈管周囲腔による、薬剤の動きを用い得る。
【0036】
嗅ニューロンは、嗅覚におけるそれらの役割に起因する(と考えられる)、CNS、脳、および/または脊髄への直接連結を提供する。嗅神経を通したまたは嗅神経によるCNS送達は、鼻粘膜下組織およびくも膜下腔の解剖学的連結に依存する。受容器細胞に入る、本発明の方法によって投与されるポリヌクレオチド薬剤は、嗅神経の束によって、鼻脳(rhinoencephalon)へと輸送され得る。鼻脳は、脳のうちの、嗅球および大脳辺縁系の構造ならびに前脳の大部分を含む部分である。より詳細には、本発明の方法による投与は、前向性(細胞本体から離れて軸索末端に向かう)輸送および逆行性(軸索末端から細胞本体への)輸送を含め、細胞外または細胞内の(例えば、経ニューロン)軸索輸送を用い得る。
【0037】
嗅粘膜(上皮)は、3つの主な細胞型(受容器細胞、支持細胞および基底細胞)から構成される偽重層円柱状上皮を含む。Mathisonら(1998)J.Drug Target 6(6):415。受容器細胞はまた、嗅細胞または一次嗅ニューロンといわれる。この方法の1つの実施形態では、ポリヌクレオチド薬剤は、鼻中隔中心と各主な鼻通路の側壁との間に位置する領域において、鼻腔の上側3分の1に投与される。嗅神経によって神経支配される組織へのこの薬剤の適用は、CNS、脳、および/または脊髄の、損傷を受けたかまたは罹病した、ニューロンまたは細胞へと、この薬剤を送達し得る。例えば、嗅神経によって神経支配される鼻腔組織と接触した薬剤は、組織を通して吸収または輸送され得、そしてCNSの解剖学的領域(例えば、脳幹、小脳、脊髄、嗅球、および皮質構造または皮質下構造)へと送達され得る。
【0038】
本発明の方法に従って投与される薬剤はまた、受容器媒介トランスサイトーシスまたは傍細胞輸送によって、嗅粘膜(上皮)経路を通してまたは嗅粘膜(上皮)経路によって、CNSへと送達され得る。あるいは、本発明の方法に従って投与されるポリヌクレオチド薬剤は、ピノサイトーシスまたは拡散によって、支持細胞を通してまたは支持細胞によって、CNSへと送達され得る。代替の実施形態では、ポリヌクレオチド薬剤は、細胞間液への接近を可能にする傍細胞機構を介して粘膜固有層(lamina propia)へと入り得る。さらに、大脳血管の外膜内を走る脈管周囲経路および/または血管リンパ(hemangiolymphatic)経路(例えば、リンパチャネル)は、嗅神経によって神経支配された組織から脳および脊髄へのポリヌクレオチド薬剤の輸送に関する別の可能な経路を提供する。
【0039】
(三叉神経)
本発明の送達方法の代替実施形態は、ポリヌクレオチド薬剤を、三叉神経によって神経支配された組織へと投与する。本発明の方法は、この薬剤を、鼻腔内または鼻腔外に位置し、かつ三叉神経の1以上の枝によって神経支配される組織へと投与し得る。鼻腔の外側の組織を神経支配する三叉神経枝としては、眼神経、上顎神経、および下顎神経が挙げられる。より詳細には、(鼻腔の下側3分の2に主に位置する)鼻腔の神経支配組織に加えて、三叉神経は、顔および頭皮の皮膚、口腔組織、ならびに眼の組織および眼の周囲の組織を含む、哺乳動物(例えば、ヒトの)の頭部の組織を神経支配する。三叉神経によって神経支配される、鼻腔外側に位置する組織としては、三叉神経によって神経支配される鼻腔外組織および三叉神経の周囲の鼻腔外組織が挙げられる。同様に、鼻腔外側の上皮は、本明細書中で、鼻腔外上皮と呼ばれ、鼻腔外側の粘膜は、本明細書中で、鼻外粘膜と呼ばれ、そして鼻腔外側の皮膚組織または真皮組織は、本明細書中で、鼻腔外皮膚組織または鼻腔外真皮組織と呼ばれる。
【0040】
(眼神経およびその枝)
本発明の方法は、三叉神経の眼神経枝によって神経支配される組織にポリヌクレオチド薬剤を投与し得る。眼神経は、顔の上方領域(例えば、眼、涙腺、結膜、ならびに頭皮の皮膚、前頭、上眼瞼、および鼻)の表層部分および深層部分を含む組織を神経支配する。
【0041】
眼神経は、鼻毛様体神経、前頭神経、および涙腺神経として公知の3つの枝を有する。本発明の方法は、眼神経の1つ以上の枝により神経支配される組織にこの薬剤を投与し得る。前頭神経およびその枝は、上眼瞼、頭皮、特に頭皮の前方、および前頭、特に前頭の中央部分を含む組織を神経支配する。鼻毛様体神経は、長い毛様体神経、神経節枝、篩骨神経、および滑車下神経を含むいくつかの枝を形成する。長い毛様体神経は、眼を含む組織を神経支配する。後篩骨神経および前篩骨神経は、篩骨洞および鼻腔の下側3分の2を含む組織を神経支配する。滑車下神経は、上眼瞼および涙嚢を含む組織を神経支配する。涙腺神経は、涙腺、結膜、および上眼瞼を含む組織を神経支配する。好ましくは、本発明の方法は、篩骨神経にこの薬剤を投与する。
【0042】
(上顎神経およびその枝)
本発明の方法は、三叉神経の上顎神経枝により神経支配される組織にポリヌクレオチド薬剤を投与し得る。上顎神経は、いくつかの歯の根および顔の皮膚(例えば、鼻における皮膚、上唇における皮膚、下眼瞼における皮膚、頬骨上の皮膚、および側頭領域上の皮膚)を含む組織を神経支配する。上顎神経は、眼窩下神経、頬骨顔面神経、頬骨側頭神経、鼻口蓋神経、大口蓋神経、後上歯槽神経、中上歯槽神経、および内(interior)上歯槽神経を含む枝を有する。本発明の方法は、上顎神経の1つ以上の枝により神経支配される組織にこの薬剤を投与し得る。
【0043】
眼窩下神経は、鼻の外側、上唇、および下眼瞼の皮膚を含む組織を神経支配する。頬骨顔面神経は、頬骨(zygomatic bone/cheekbone)にわたる顔面の皮膚を含む組織を神経支配する。頬骨側頭神経は、側頭部上の皮膚を含む組織を神経支配する。後上歯槽神経は、上顎洞および上顎の大臼歯の歯根を含む組織を神経支配する。中上歯槽神経は、上顎洞の粘膜、上顎の小臼歯の歯根、および第一臼歯の近心面頬面の歯根を含む組織を神経支配する。前上歯槽神経は、上顎洞、鼻中隔、ならびに上顎の中切歯および側切歯ならびに犬歯の歯根を含む組織を神経支配する。鼻口蓋(nasopalantine)神経は、鼻中隔を含む組織を神経支配する。大口蓋神経は、鼻腔の側壁を含む組織を神経支配する。好ましくは、本方法は、鼻口蓋神経および/または大口蓋神経にこの薬剤を投与する。
【0044】
(下顎神経およびその枝)
本発明の方法は、三叉神経の下顎神経枝によって神経支配される組織にこの薬剤を投与し得る。下顎神経は、歯、歯肉、口腔底、舌、頬、顎、下唇、耳の内側および耳の周囲の組織、咀嚼筋、および皮膚(側頭領域、頭皮の側頭部、および顔面の下部のほとんどを含む)を含む組織を神経支配する。
【0045】
下顎神経は、頬神経、耳介側頭神経、下歯槽神経、および舌神経を含む枝を有する。本発明の方法は、下顎神経の1つ以上の枝にこの薬剤を投与し得る。頬神経は、頬(特に頬筋の上の頬の皮膚および頬内側の粘膜)、ならびに下顎の頬の歯肉(gingiva;gum)(特に、歯肉の頬表面の後部)を含む組織を神経支配する。耳介側頭神経は、耳介、外耳道、鼓膜(tympanic membrane;eardrum)、および側頭部の皮膚(特に、こめかみおよび頭皮の外側部の皮膚)を含む組織を神経支配する。下歯槽神経は、下顎骨(特に、切歯、歯肉隣接切歯)、下唇の粘膜、顎の皮膚、下唇の皮膚、および口唇下顎歯肉を含む組織を神経支配する。舌神経は、舌(特に舌の前側3分の2)、口腔底、および下顎歯の歯肉を含む組織を神経支配する。好ましくは、本発明の方法は、下歯槽神経、頬神経、および/または舌神経のうちの1以上にこの薬剤を投与する。
【0046】
(三叉神経によって神経支配される組織)
本発明の方法は、三叉神経によって神経支配される種々の組織のいずれかにポリヌクレオチド薬剤を投与し得る。例えば、本方法は、皮膚、上皮、あるいは顔面、眼、口腔、鼻腔、洞腔もしくは耳の粘膜または顔面、眼、口腔、鼻腔、洞腔もしくは耳の周囲の粘膜にこの薬剤を投与し得る。
【0047】
従って、1つの実施形態では、本発明の方法は、三叉神経によって神経支配される皮膚にポリヌクレオチド薬剤を投与する。例えば、本発明の方法は、顔面、頭皮、または側頭部の皮膚にこの薬剤を投与し得る。顔面の適切な皮膚として、以下が挙げられる:顎の皮膚;上唇、下唇;前頭、特に、前頭の中央部;鼻(鼻尖、鼻背、および鼻の外側面を含む);頬、特に、頬筋上の頬の皮膚または頬骨上の皮膚;眼の周囲の皮膚、特に、上眼瞼および下眼瞼;またはこれらの組合せ。頭皮の適切な皮膚としては、頭皮の前方、側頭部上
の頭皮、頭皮の外側、またはこれらの組み合わせが挙げられる。側頭部の適切な皮膚としては、側頭および側頭部上の頭皮が挙げられる。
【0048】
別の実施形態において、本発明の方法は、三叉神経によって神経支配される粘膜または上皮にポリヌクレオチド薬剤を投与する。例えば、本発明の方法は、眼の粘膜または上皮または眼を囲む粘膜または上皮(例えば、上眼瞼、下眼瞼、結膜、涙腺系の粘膜もしくは上皮、またはこれらの組合せ)にポリヌクレオチド薬剤を投与し得る。本発明の方法はまた、洞腔および/または鼻腔の粘膜または上皮(例えば、鼻腔の下側2/3および鼻中隔)にポリヌクレオチド薬剤を投与し得る。本発明の方法はまた、口腔の粘膜または上皮(例えば、舌の粘膜または上皮;特に、舌の前方2/3および舌下;頬;下唇;上唇;口腔の床;歯肉(gingivae;gum)(特に、切歯に隣接する歯肉、唇下顎歯肉、および下顎歯の歯肉);またはこれらの組合せ)にこの薬剤を投与し得る。
【0049】
なお別の実施形態において、本発明の方法は、鼻腔の粘膜または上皮にポリヌクレオチド薬剤を投与する。ポリヌクレオチド薬剤を投与するための粘膜または上皮の他の好ましい領域としては、舌(特に舌下の粘膜または上皮)、結膜、涙腺系(特に、涙腺眼瞼部および鼻涙管)、下眼瞼(lower yield)の粘膜、頬の粘膜またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0050】
他の実施形態において、本発明の方法は、三叉神経により神経支配される鼻組織にポリヌクレオチド薬剤を投与する。例えば、本発明の方法は、洞、鼻腔の下側2/3および鼻中隔を含む鼻組織に薬剤を投与するために使用され得る。好ましくは、この薬剤の投与のための鼻組織は、鼻腔の下側2/3および鼻中隔を含む。
【0051】
本発明の方法は、三叉神経によって神経支配される口腔組織へのポリヌクレオチド薬剤の投与を包含する。例えば、本方法はまた、口腔組織(例えば、歯、歯肉、口腔の床、頬、唇、舌(特に、舌の前方2/3)、またはこれらの組合せ)にこの薬剤を投与し得る。適切な歯としては、下顎歯(例えば、切歯)が挙げられる。歯の適切な部分としては、様々な歯の歯根(例えば、上顎の大臼歯の歯根、上顎の小臼歯の歯根、上顎の中央および側方の切歯の歯根、犬歯の歯根、および第1大臼歯の近心面頬面歯根またはこれらの組合せ)が挙げられる。唇の適切な部分としては、上唇および下唇の皮膚および粘膜が挙げられる。適切な歯肉としては、切歯に隣接する歯肉、下顎歯の歯肉(例えば、唇下顎歯肉)またはこれらの組合せが挙げられる。頬の適切な部分としては、頬筋上の頬の皮膚、頬を覆う粘膜、および下顎頬歯肉(gingivae;gum)(特に、歯肉の頬表面の後部分)またはこれらの組合せが挙げられる。ポリヌクレオチド薬剤の投与のための好ましい口腔組織としては、舌(特に、舌下粘膜または舌下上皮)、下唇内側の粘膜、頬の粘膜またはこれらの組合せが挙げられる。
【0052】
別の実施形態において、本発明の方法は、三叉神経によって神経支配される眼の組織または眼の周囲の組織にポリヌクレオチド薬剤を投与する。例えば、本方法は、組織(眼、結膜、涙嚢(lacrimal sack)を含む涙腺、上眼瞼もしくは下眼瞼の皮膚もしくは粘膜、またはこれらの組合せを含む)にこの薬剤を投与し得る。この薬剤を投与するための眼の好ましい組織または眼の周りの好ましい組織としては、結膜、涙腺系、眼瞼の皮膚もしくは粘膜、またはこれらの組合せが挙げられる。結膜的に投与されるが結膜粘膜を介して吸収されないポリヌクレオチド薬剤は、鼻涙管を通って鼻に排出され得、ここで、この薬剤は、鼻腔内に投与されたが、CNS、脳、および/または脊髄に輸送され得る。
【0053】
本発明の方法はまた、三叉神経によって神経支配される耳の組織または耳の周りの組織へのポリヌクレオチド薬剤の投与を包含する。例えば、本方法は、耳介、外耳道、鼓膜(
tympanic membrane;eardrum)、および側頭部の皮膚(特に、頭皮の側頭部および外側部の皮膚)またはこれらの組合せを含む組織に、この薬剤を投与し得る。ポリヌクレオチド薬剤を投与するための耳の周りの好ましい組織としては、側頭の皮膚が挙げられる。
【0054】
(三叉神経経路)
従って、いくつかの実施形態において、本発明の送達方法は、鼻腔内かまたは鼻腔の外側のいずれかに位置し得る組織中で始まる三叉神経経路にそっての、ポリヌクレオチド薬剤がCNS(脳を含む)および/または脊髄に輸送されるような様式での、哺乳動物へのこの薬剤の投与を含む。代表的に、このような実施形態は、鼻腔の外側(すなわち、鼻外組織(extranasal tissue))に位置する組織にこの薬剤を投与する工程を包含し、この組織は、三叉神経によって神経支配される。三叉神経経路は、上記のとおりに、頭部および顔面の様々な組織を神経支配する。特に、三叉神経は、鼻、洞様毛細血管、口腔および結膜の粘膜または上皮、ならびに顔面の皮膚を神経支配する。三叉神経によって神経支配される組織へのこの薬剤の適用は、CNS(脳を含む)および/または脊髄の損傷または罹患したニューロンまたは細胞にこの薬剤を送達し得る。三叉ニューロンは、これらの組織を神経支配して、そして、その共通の化学感覚(機械的感覚、熱感覚および侵害受容(例えば、辛いスパイスおよび有毒化学物質の検出)を含む)におけるその役割に起因して(そのように信じられている)、CNS、脳および/または脊髄への直接的な接続を提供し得る。
【0055】
三叉神経経路を介した送達は、脳橋、嗅覚領域および他の脳領域に向かって、そして、そこからCNSの一部に関連する硬膜リンパ管(例えば、脊髄)内に、三叉神経に沿って走るリンパチャネルを使用し得る。脈管周囲経路および/または血管リンパ経路(例えば、大脳血管の外膜内を走るリンパチャネル)は、三叉神経によって神経支配される組織から脊髄に治療剤を輸送するためのさらなる機構を提供する。
【0056】
三叉神経は、直径の大きな軸索(これは、機械的感覚(例えば、触覚)を媒介する)および直径の小さな軸索(これは、痛感および熱感覚を媒介する)を含み、これらの細胞体の両方は、半月神経節(または、三叉神経節)、または、中脳における中脳三叉核中に位置する。三叉神経の特定の部分は、鼻腔、口腔および結膜の粘膜および/または上皮へ延びる。三叉神経の他の部分は、顔面、額、上眼瞼、下眼瞼、鼻背、鼻側面、上唇、頬、おとがい、頭皮および歯の皮膚へ延びる。三叉神経の個々の線維は、巨大な束に収集され、脳の下側を走って、脳橋の腹側面に入る。三叉神経の別の部分は、脳の嗅覚領域中のCNSに入る。
【0057】
ポリヌクレオチド薬剤は、例えば、鼻腔、口腔、舌および/もしくは結膜の粘膜および/もしくは上皮を介して;または顔面、額、上眼瞼、下眼瞼、鼻背、鼻側面、上唇、頬、おとがい、頭皮および歯の皮膚を介して、三叉神経に投与され得る。このような投与は、三叉神経を介して脳およびその髄膜、脳の嗅覚領域、脳幹、または脊髄に入る薬剤の、細胞外または細胞内(例えば、経ニューロン)の前向輸送および逆向輸送を使用し得る。一旦薬剤が三叉神経によって神経支配される組織中に、またはその組織上に分配されると、この薬剤は、組織を通って輸送され得、そして、三叉ニューロンに沿って、CNS領域へ移動し得る。
【0058】
三叉神経経路を介した送達は、この薬剤の、皮膚、粘膜、または上皮を横切った三叉神経または脳および/または脳橋の嗅覚領域に向かって、そして、そこからCNSの一部(例えば、骨髄)に関連する髄膜リンパ管内へと、三叉神経に沿って走るリンパ管、血管脈管周囲空間、血管外膜、または血管リンパ管への移動を使用し得る。血管リンパは、血管の外側上の血管の周囲にあるリンパチャネルを含む。上記したとおり、これはまた、血管
リンパ系といわれる。
【0059】
(投与経路)
本発明の送達方法において、嗅覚神経または三叉神経に関連する神経経路を含む組織を、ポリヌクレオチド薬剤(例えば、キメラ骨格オリゴヌクレオチドまたは混合骨格オリゴヌクレオチド)を含む組成物と接触させる。本発明との関連で、用語組成物と組織を「接触すること(to contact)」または「接触すること(contacting)」は、その薬剤が適用されるインビボ組織の型に適切な形態で、その組成物を物理学的に適用することを意味する。治療的使用のために、標的タンパク質をコードするmRNA(その発現が、CNS障害またはCNS疾患の病状に寄与することが知られている)の細胞利用性を阻害する方法、および標的タンパク質の生物学的活性を調節する方法が、提供される。一般に、治療的使用のために、このような治療が必要であることが知られている患者は、本発明の送達方法に従ってポリヌクレオチド薬剤が投与され、できる限り、薬学的に受容可能なキャリア中で、特定の疾患の性質、その重篤度および患者の全体的状態に依存して変化する量および期間で投与される。本発明の方法に従う特定の組織または部位への投与のための治療的組成物の処方は、本開示内容を利用した当該分野の技術範囲内であると思われる。
【0060】
(鼻腔投与)
1つの実施形態において、本発明は、神経経路(例えば、三叉神経経路または嗅覚神経経路)で鼻腔内投与に続いて、CNSへポリヌクレオチド薬剤を送達する方法を提供する。本発明のこの実施形態は、脳幹、小脳、脊髄、および皮質構造および皮質下構造への薬剤の送達を達成し得る。この薬剤は、単独でCNS、脳、および/または脊髄への移動を容易にし得る。あるいは、キャリアまたは他の移動促進因子は、薬剤の三叉神経経路および/または嗅覚神経経路中への輸送およびこれらに沿った輸送を補助し得る。鼻腔への治療剤の投与は、この薬剤がBBBをバイパスして鼻の粘膜および/または上皮から脳および脊髄へ直接移動することを可能にする。
【0061】
鼻腔投与の際、嗅覚神経経路または三叉神経経路のいずれかを介する送達が、神経または神経と共に移動する脈管周囲および/またはリンパチャネルに到達する鼻の粘膜および/もしくは上皮を介した薬剤の移動を用い得る。神経経路による送達は、神経または神経と共に移動する脈管周囲および/またはリンパチャネルに到達する鼻の粘膜および/または感覚上皮を介する薬剤の移動を用い得る。
【0062】
例えば、ポリヌクレオチド薬剤は、脳、脳幹、または脊髄に到達させるために嗅覚神経および/または三叉神経中およびこれらに沿って細胞外もしくは細胞内(例えば、経ニューロン)順行輸送または逆行輸送を用いる様式で、鼻腔に投与され得る。一旦薬剤が、嗅覚神経および/または三叉神経によって神経支配された鼻の粘膜および/もしくは上皮内またはその上に分散されると、この薬剤は、鼻の粘膜および/もしくは上皮を介して輸送され得、そしてニューロンに沿って、脳幹、小脳、脊髄、嗅球、ならびに皮質構造および皮質下構造を含むCNSの領域内に移動する。
【0063】
あるいは、鼻腔への投与は、ポリヌクレオチド薬剤の血管周囲の空間中への送達、または三叉神経および/または嗅覚神経と共に橋、嗅球、および他の脳の領域に移動し、そしてそれから脊髄のようなCNSの部分と一緒に髄膜のリンパ中に移動するリンパの送達を生じ得る。三叉神経および/または嗅覚神経に沿った輸送はまた、薬剤を鼻腔に投与して嗅球、中脳、間脳、髄質、皮質構造および皮質下構造並びに脊髄および小脳に送達し得る。鼻腔に投与される薬剤は、脳の腹側硬膜に侵入し得、そして硬膜内のリンパチャンネルに移動し得る。
【0064】
さらに、本発明の方法は、脈管周囲経路および/または血管リンパ経路(例えば、大脳血管の外膜内をリンパチャンネル)を用いる方法で実行され得、ポリヌクレオチド薬剤を鼻粘膜および/または上皮から脳および/または脊髄へと輸送するさらなる機構を提供する。血管リンパ経路によって輸送される薬剤は、循環に入る必要はない。
【0065】
(経皮投与および舌下投与)
他の実施形態において、本発明の方法は、経皮(すなわち、皮膚を介するか、皮膚による)投与、または舌下(舌の下側に適用される)投与後、神経経路(例えば、三叉神経経路)でのポリヌクレオチド薬剤の送達を利用し得る。経皮投与または舌下投与の際、三叉神経経路を介する送達は、皮膚を介するか、または舌下からの薬剤の移動を利用し得、そして舌下上皮を横切って三叉神経または神経と共に移動する脈管周囲および/またはリンパチャンネルに到達する。
【0066】
例えば、ポリヌクレオチド薬剤は、脳、脳幹または脊髄に到達する三叉神経経路中およびこれに沿って細胞外または細胞内(例えば、経ニューロン)順行輸送および逆行輸送を用いる様式で、経皮的または舌下で投与され得る。一旦三叉神経によって、侵襲された皮膚中または皮膚上、あるいは舌下に分散される(すなわち、接触される)と、この薬剤は、それぞれ皮膚を介するかまたは舌下で舌下上皮を横切って輸送され得、そして三叉神経に沿ってCNS(脳幹、小脳、脊髄、ならびに皮質構造および皮質下構造を含む)に移動する。あるいは、経皮投与または舌下投与は、血管脈管周囲の空間または三叉神経と共に嗅球、橋、および他の脳領域へ、およびそこから脊髄のようなCNSの一部と関連する髄膜のリンパへと移動するリンパへの薬剤の送達を生じ得る。三叉神経に沿った輸送はまた、経皮投与または舌下投与された薬剤を中脳、間脳、髄質、および小脳に送達し得る。三叉神経の篩骨枝は、篩状領域に侵入する。経皮投与または舌下投与された薬剤は、脳の腹側硬膜に侵入し得、そして硬膜内のリンパチャンネル中を移動し得る。
【0067】
さらに、本発明の方法は、脈管周囲経路および/または血管リンパ経路(例えば、大脳血管の外膜内を走るリンパチャンネル)を用いる方法で実行され得、皮膚または舌の下から脊髄へのポリヌクレオチド薬剤の輸送についてのさらなる機構を提供する。血管リンパ経路によって輸送されるポリヌクレオチド薬剤は、循環に入る必要はない。Willisおよび三叉神経を伴う血管の循環と関連する血管リンパはまた、薬剤の輸送に関連し得る。
【0068】
神経経路を用いる経皮投与または舌下投与は、ポリヌクレオチド薬剤を脳幹、小脳、脊髄ならびに皮質構造および皮質下構造に送達し得る。この薬剤は単独で、CNS、脳および/または脊髄への移動を容易にし得る。あるいは、キャリアまたは他の転移促進因子は、三叉神経経路中およびこれに沿った薬剤の輸送を補助し得る。治療剤の経皮投与または舌下投与は、輸送系を介して皮膚から脳および脊髄へBBBをバイパスし得る。
【0069】
(中枢神経系の障害)
本発明の方法は、CNS(脳および/または脊髄を含む)の障害または疾患を処置または予防するために脳にポリヌクレオチド薬剤を送達するため用いられ得る。本明細書中で使用される場合、用語「処置」は、被験体における病状を減少または軽減すること、病状の悪化または進行を予防すること、原因物質の阻害または除去、あるいは罹患していない被験体における感染または障害を予防することをいう。従って、例えば、癌患者の治療は、腫瘍サイズの減少、悪性細胞の除去、転移の予防、または治療されている患者における再発の予防を生じ得る。感染の処置としては、感染因子の破壊、その増殖または成熟の阻害または干渉、その病理学的効果の中和などが挙げられる。
【0070】
本明細書中で使用される場合、用語「中枢神経系障害」は、脳および/または脊髄の障
害および疾患を包含し、そして神経学的または精神医学的いずれかの障害を含む。例えば、この用語は以下を含むがそれらに限定されない:ニューロンに関する障害、および膠(例えば、星状細胞、稀突起膠細胞、上衣細胞、および.小膠細胞)に関する障害;脳水腫;頭蓋内圧の増加、およびヘルニア形成;感染(例えば、急性髄膜炎(急性化膿性(細菌性)髄膜炎および急性無菌性(ウイルス性)髄膜炎を含む)、急性病巣化膿性感染(脳膿瘍、硬膜下蓄膿、および硬膜外化膿を含む)、慢性細菌性髄膜脳炎(結核、およびミコバクテリア症、神経梅毒、および神経ボレリア症(ライム病)を含む)、ウイルス性髄膜脳炎(HIV−1髄膜脳炎(亜急性脳炎)を含む)、真菌性髄膜脳炎、ならびに他の神経系の感染性疾患);伝播性海綿状脳障害(プリオン病);脱髄疾患(多発性硬化症、多発性硬化症改変体、急性播種性脳脊髄炎および急性壊死出血性脳脊髄炎を含む)ならびに髄鞘脱落を伴う他の疾患;変性疾患(例えば、大脳皮質に影響する変性疾患(アルツハイマー病、ローリー体を有する痴呆およびピック病を含む)基底神経節および脳幹の神経変性疾患(振せん麻痺、特発性パーキンソン病(振せん麻痺(paralysis agitans))、進行性核上麻痺、皮質変性を含む)、多発系萎縮症(線条体黒質変性、シャイ−ドレーガー症候群、およびオリーブ橋小脳萎縮を含む)ならびにハンチングトン病);脊髄小脳変性(フリートライヒ運動失調、および運動失調−末梢血管拡張を含む脊髄小脳性運動失調を含む)、運動神経に影響する変性疾患(筋萎縮性側索硬化症(運動神経疾患)、延髄脊髄萎縮症(ケネディー症候群)、および棘筋萎縮症を含む);加齢に関連する疾患(例えば、嗅覚脱失);発作障害(例えば、癲癇);腫瘍(例えば、神経膠腫(筋原線維(散在)星状細胞種および神経膠芽細胞種多形を含む星状細胞腫を含む)飲細胞星状細胞種、多形性黄色星状膠細胞腫、および脳幹神経膠腫、乏突起神経膠腫および脳室上衣細胞腫、および関連の水晶体周囲塊病変、神経腫瘍、殆ど分化していない新生物(髄芽細胞腫を含む)、他の実質腫瘍(原発性脳リンパ種、細菌細胞腫瘍および松果体実質腫瘍を含む)、髄膜腫、転移性腫瘍、新生物随伴症候群、末梢神経鞘腫瘍(神経鞘腫、神経線維腫、および悪性末梢神経鞘腫瘍、(悪性神経鞘腫)を含む)、ならびに神経皮膚症候群(母斑症)(1型神経線維腫症(NF1)および2型神経線維腫症(NF2)を含む神経線維腫症を含む);情動障害(例えば、鬱病および躁病)不安障害、強迫性障害、人格障害、注意欠陥障害、注意欠陥過活動性障害、ツレット症候群、テイ−サックス病、ニーマンピック病、および他の脂質貯蓄および遺伝的脳疾患精神分裂病および/またはプリオン病。
【0071】
代替の実施形態において、この方法はまた、脳血管障害からの神経損傷(例えば、髄膜炎およびHIVを含むCNS感染から、ならびに/または脳および脊髄の腫瘍からの脳または脊髄における発作)に罹患しているか、あるいはこれらの危険性がある被験体において用いられ得る。この方法はまた、通常の加齢(例えば、嗅覚脱失または一般的な化学的感覚の損失)、脳損傷、または脊髄損傷から生じるCNS障害に対してポリヌクレオチド薬剤を送達するために用いられ得る。
【0072】
病理学的変化(例えば、変性)は、嗅覚粘膜および嗅球ならびにアルツハイマー病(AD)に罹患した個体の嗅球と連結している他の脳領域において観察されている。故に、本発明の方法は、特にADの処置について有効であり得る。
【0073】
(標的配列)
細胞増殖因子、細胞増殖因子レセプター、サイトカイン、サイトカインレセプター、7回膜貫通ドメインレセプター(例えば、GCPR)、酵素、転写因子、またはCNS障害もしくは疾患において役割を果たすことが公知の他のタンパク質に特異的な標的配列のヌクレオチド(DNAもしくはRNA)配列に相補的なアンチセンス薬剤は、本発明の方法に従ってCNSに送達され得る。従って、アンチセンス薬剤は、以下から選択されるタンパク質をコードする標的遺伝子の核酸配列に相補的であるように設計され得る:腫瘍サプレッサー(例えば、p53);転写因子(例えば、c−jun、c−fos、jun−B
);レセプターチロシンキナーゼ;アミロイド前駆体タンパク質;プロテインキナーゼ(例えば、tauプロテインキナーゼI);細胞周期調節因子(例えば、cdc−25);プロテアーゼ(例えば、CHM−1のようなシステインプロテアーゼ);セルピン;酵素(例えば、ステロイドヒドロキシラーゼ、アセチルコリン加水分解酵素);RNA編集酵素;増殖因子(例えば、神経増殖因子、IGF−1);G−タンパク質連結レセプターまたはサイトカインレセプター(例えば、インスリン様増殖因子レセプターI(IGF−IR)(ただし、これらに限定されない)。
【0074】
例えば、固形腫瘍の増殖を妨げるための適切なアンチセンス薬剤は、細胞増殖因子遺伝子、G−タンパク質連結レセプター遺伝子、または細胞増殖因子レセプター遺伝子のヌクレオチド配列に特異的にハイブリダイズするように設計された配列を含み得る。従って、インスリン様増殖因子レセプターI(IGF−IR)遺伝子、インスリン様増殖因子−I(IGF−I)遺伝子、インスリン様増殖因子II(IGF−II)遺伝子、または血小板由来増殖因子(PDGF)遺伝子に相補的なアンチセンス配列は、本発明の方法に従って送達され得る。1つ以上のこれらの因子またはレセプターについて遺伝子配列に相補的なアンチセンス配列は、単独または組み合わせのいずれかで使用され得る。あるいは、本発明の方法における使用のためのアンチセンス組成物は、同じ外来標的配列について配列特異性を有する1つよりも多くのアンチセンス薬剤を含み得る。例えば、組成物は、それぞれ標的配列の異なる領域に相補的であるように設計された2つ以上のキメラオリゴヌクレオチドまたは混合されたバックボーン(backbone)オリゴヌクレオチドを含み得る。
【0075】
腫瘍細胞増殖を妨げるために投与され得る増殖因子レセプター遺伝子について特異的なアンチセンス薬剤の場合において、IGF−IR遺伝子に特異的なアンチセンス薬剤が、投与され得る。ラット受精卵細胞における外来IGF−IR mRNAに対するアンチセンスRNAのインビトロ発現は、同系のラットにおいて確立された野生型腫瘍の腫瘍形成を抑止および退行の媒介することが実証されている。Resnicoffら、(1984)Cancer Res.54:2218〜2222;Resnicoffら、(1994)Cancer Research 54:4848〜4850。より詳細には、IGF−IRに対して有用なアンチセンス配列の場合において、適切な薬剤が、以下の非制限的な哺乳動物IGF−IR標的配列から選択される配列に相補的であるように設計され得る:米国特許第5,714,170号に示されるIGF−IR配列のオープンリーディングフレームのコドン1〜309を含むポリヌクレオチド(この教示は、本明細書中で参考として援用される);哺乳動物IGF−IR遺伝子のオープンリーディングフレームを含むヌクレオチド配列の連続部分(フラグメント);および哺乳動物IGF−IR遺伝子のヌクレオチド配列の非コード領域。オリゴヌクレオチドが、外来標的配列(本発明の方法を達成する)に関するオリゴヌクレオチド配列内にミスマッチを含み、その結果ミスマッチした配列が、標的配列に対して十分に相補的であり、特異的なハイブリダイゼーションが、アンチセンス薬剤のこの定義によって企図されることが、理解される。
【0076】
(コード配列を含むポリヌクレオチド薬剤)
CNSの細胞および組織に送達/投与されるポリヌクレオチド薬剤は、多数の形態をとり得、そして本発明は、アンチセンス媒介阻害について選択された任意の特定のポリペプチドまたは任意の特定の標的タンパク質をコードする任意の特定のポリヌクレオチドに制限されない。CNSの疾患および障害の病理学に関する多数の生理学的に活性なペプチドまたはタンパク質をコードする遺伝子を含むプラスミドが、文献中で報告されており、そして当業者に容易に入手可能である。例えば、コードされたポリペプチドは、タンパク質の生物学的に活性な部分またはフラグメントをコードするペプチドを含み得る。本発明の好ましい実施形態において、ポリペプチドは、酵素、ホルモン、増殖因子または調節タンパク質であり得る。
【0077】
本発明の1つの実施形態において、本発明の送達方法における使用について適切なポリヌクレオチド薬剤は、治療用ポリペプチドをコードし得、そしてこれらの配列は、これらのポリペプチドの発現を制御する調節タンパク質をコードする他のポリヌクレオチド配列と一緒に使用され得る。調節タンパク質は、その転写を調節するようにゲノムDNAと結合することによって作用し得;あるいは、その安定性または翻訳効率を増加または減少するためにメッセンジャーRNAに結合することによって作用し得る。
【0078】
哺乳動物において機能的ポリペプチドが欠損または存在しないことによって媒介されるCNSの疾患または障害を処置するための方法もまた、本発明によって提供され、この方法は以下の工程を包含する:ポリペプチドを作動可能にコードする裸ポリヌクレオチド配列を含む組成物をレシピエント中に導入する工程、およびポリヌクレオチドをCNSの細胞に組み込むことを可能にする工程、ここで、ポリペプチドは、ポリヌクレオチドの翻訳産物として形成され、そしてポリペプチドの欠損またはこれが存在しないことが、効果的に処置される。
【0079】
重要なタンパク質の欠損から生じる疾患は、これらのタンパク質をコードするDNAまたはmRNAを特定の細胞中に導入することによって、大抵処置され得る。種々の増殖因子(例えば、神経増殖因子および繊維芽細胞増殖因子)は、アルツハイマー病の動物モデル中で生存する神経細胞に影響することが示されている。例えば、コリン作用活性は、アルツハイマー病を有する患者において減少され、そして罹患した患者の脳組織において増殖因子を発現する形質導入遺伝子の発現は、特異的な神経群の機能の喪失を回復し得る。
【0080】
さらに、他の神経伝達物質の合成に関する重要な酵素(例えば、ドーパミン、ノルエピネフリン、およびGABA)は、クローン化され、そして利用可能である。重要な酵素は、脳の局在化領域中への遺伝子移動によって局所的に増加される。本発明の送達方法は、神経伝達物質合成について応答性の酵素の発現を容易にするポリヌクレオチド配列を提供するために利用され得る。例えば、コリンアセチルトランスフェラーゼについての遺伝子は、アセチルコリンレベルを増加し、そして脳機能を向上するように作用する特異的領域の脳細胞(ニューロンまたはグリア)内で発現され得る。これらの神経伝達物質および他の神経伝達物質の生成の増加は、局在化した神経伝達物質機能の操作に広く関連し、従って広範囲の脳疾患に関連し、ここで阻害された神経伝達物質機能は重要な役割を果たす。
【0081】
DNAベースの遺伝子移入プロトコルが、mRNA転写物の転写転写(プロモーター、エンハンサー)およびプロセシング(スプライシングシグナル、ポリアデニル化シグナル)について適切なシグナルを含むように操作されたポリヌクレオチド配列の使用を必要とすることが、周知である。例えば、T7ポリメラーゼ遺伝子は、より長い持続効果を得るために目的の遺伝子と合わせて使用され得る。エプスタイン−バーウイルスの複製起点領域から得られるようなエピソームDNAは、哺乳動物細胞において機能的に活性である他の複製起点由来のDNAと同様に使用され得、そしてこれらは好ましくはヒト細胞において活性である。例えば、エピソームDNAは、数週間および数ヶ月間活性であり得、そして周期的な投与は、患者の著しい後退にのみしか必要でない。
【0082】
ポリヌクレオチド薬剤がDNA分子である場合、種々の哺乳動物種における使用に適したプロモーターが、周知である。例えば、ヒトにおいて、CMV IEPのようなプロモーターが、有利に使用され得る。あるいは、細胞特異的プロモーターがまた、使用され、標的細胞においてのみ遺伝子の発現を可能にし得る。複製するか、または複製しない全ての形態のDNAは、ゲノムに組み込まれず、発現可能であり、本発明によって企図される方法の範囲内である。本発明の局面の特定の実施形態において、このDNA配列は、プロモーター、なおより好ましくはニューロン特異的プロモーターを含む調節エレメントを含
む。
【0083】
本発明の送達方法に従って送達されるポリヌクレオチド薬剤が、mRNAである場合、これは、インビトロで対応するDNAから容易に調製され得る。例えば、従来技術は、ファージRNAポリメラーゼSP6、T3、またはT7を利用して個々のリボヌクレオシド三リン酸の存在下でDNAテンプレートからmRNAを調製する。適切なファージプロモーター(例えば、T7複製起点部位)は、転写される遺伝子のすぐ上流に位置するテンプレートDNAに配置される。
【0084】
当業者は、mRNA分子を含むポリヌクレオチド薬剤の使用を企図する本発明の実施形態がまた、効果的かつ正確な翻訳のために適切な構造および配列エレメントを必要とし、これらのエレメントとともにトランスフェクトされたmRNAの安定性を増強することを認識する。一般に、翻訳効率は、RNAの5’非コード領域または非翻訳領域(5’UTR)中の特異的配列エレメントによって調節されることが見出されている。ポジティブ配列モチーフとしては、翻訳開始コンセンサス配列(GCC)GCCA/GCCATGG(Kozak(1987)Nucleic Acids Res.15:8125)およびG7−メチルGpppGキャップ構造(Drummondら、(1985)Nucleic Acids Res.13:7375)が挙げられる。ネガティブエレメントとしては、安定な分子内5’UTRステムループ構造(Muesingら、(1987)Cell 48:691(1987))およびAUG配列または5’UTRにおいて適切なAUGによって前置されるショートオープンリーディングフレーム(Kozak、前出;Raoら、(1988)Mol.Cell.Biol.8:284)が挙げられる。本明細書中で開示される本発明の送達方法における使用に適切なmRNAベースのポリヌクレオチド薬剤は、目的のタンパク質のコード配列に隣接する5’UTR翻訳エレメントを含むべきである。
【0085】
翻訳の観点に加えて、mRNAの安定性はまた、mRNAベースのポリヌクレオチド薬剤の設計および調節中に考察されるべきである。キャッピングおよび3’ポリアデニル化は、真核生物のmRNA安定性の主なポジティブな決定法(Drummond、前出;Ross(1988)Mol.Biol.Med.5:1)および分解からmRNAの5’末端および3’末端を保護する機能が周知である。しかし、真核生物mRNAの安定性に影響する調節エレメントもまた、規定され、故にRNAベースのポリヌクレオチド薬剤の開発が考えられなければならない。これらの最も顕著かつ明らかな定義は、多くの短い半減期のmRNAにおいて見出されるウリジンリッチ3’非翻訳領域(3’UTR)不安定化配列(ShawおよびKamen(1986)Cell 46:659)であるが、これらはmRNAの不安定化を生じる配列モチーフのみでないという証拠が存在する(KabnickおよびHousman(1988)Mol.and Cell Biol.8:3244)。ウイルスRNA配列が正常な真核生物mRNA翻訳制御をバイパスすることを展開することに加えて、同様にいくつかのウイルスRNA配列が、3’ポリアデニル化が存在しない状態で安定性を付与し得ると考えられる(McGraeおよびWoodland(1981)Eur.J.Biochem.116:467)。
【0086】
さらに、本発明は、RNaseによる接触を防ぐため5’および/または3’末端で化学的に改変または遮断されるmRNAポリヌクレオチド薬剤の使用を含む。この酵素は、エキソヌクレアーゼであり、故に鎖の中間でRNAを切断しない。十分なかさを有する群が添加される場合、RNaseによる化学的に改変されたRNAへの接触が妨げられ得ることは、周知である。このような化学的遮断は、インビボでのRNAの半減期を実質的に長くし得る。RNAを改変するために使用され得る2つの薬剤が、Clontech Laboratories,Inc.,Palo Alto,Calif.:C2 AminoModifier(カタログ番号5204−1)およびAmino−7−dUTP(
カタログ番号K1022−1)から入手可能である。これらの材料は反応基をRNAに付加する。これらの薬剤を目的のRNA分子上に導入した後、適切な反応置換基が、製造者の指示に従ってRNAに連結され得る。
【0087】
本発明の送達方法における使用に適切なRNAポリヌクレオチド薬剤の調製について利用可能な多数の方法が存在することが、当業者に理解される。例えば、Ausubel(1988)Current Protocols in Molecular Bioloogy,Vol.1(John Wiley and Sons,New York)における方法を参照のこと。例えば、mRNAは、市販のヌクレオチド合成装置で調製され得る。あるいは、環状型のmRNAが調製され得る。そのインビボでの半減期を長くするために、エキソヌクレアーゼ耐性RNA(例えば、環状mRNA、化学的に遮断されたmRNA、および5’キャップを有するmRNA)が好ましい。特に、1つの好ましいmRNAは、ポリオウイルスの5’非翻訳領域によって前置される目的の遺伝子を有する自己環化mRNAである。環状mRNAは、非常に長い半減期を有すること(Harland and Misher(1988)Development 102:837〜852)およびポリオウイルス5’非翻訳領域が、通常の5’キャップなしでmRNAの翻訳を促進し得ること(Pelletier and Sonnenberg(1988)Nature 334:320〜325、本明細書中で参考として援用される)が実証されている。
【0088】
(アンチセンス薬剤)
本明細書中で使用される場合、用語「アンチセンス薬剤」とは、遺伝子発現および標的タンパク質機能の配列特異的調節因子(例えば、神経調節性)をいう。本発明の方法で使用するための適切なアンチセンス薬剤としては、単離されたポリヌクレオチド、合成アンチセンスオリゴヌクレオチド、発現ベクターからインビボで生成されたアンチセンスポリヌクレオチド、およびアンチセンスペプチド核酸(PNA)が挙げられるが、こららに限定されない。アンチセンス薬剤の有効性は、多くの要因に依存し、これら要因としては、標的mRNAまたは標的タンパク質を含む細胞の型、内因性標的mRNAまたは標的タンパク質での薬剤の局所的濃度、標的mRNAおよびこれによりコードされるタンパク質の合成および分解の速度、標的配列の接近可能性(accessibility)、アンチセンス薬剤の特異性、ならびに作用機構の性質(例えば、mRNA翻訳の阻害、RNAスプライシングの影響、または標的mRNAのRNase H媒介性分解の誘導)が挙げられる。さらに、薬剤の型はまた、その特徴および細胞取り込みの機構に影響を及ぼす。1つの実施形態において、ポリヌクレオチド薬剤は、短い合成オリゴヌクレオチドまたは核酸利用の配列特異的調節因子であるオリゴヌクレオチド模倣物(例えば、PNA分子)を含む。
【0089】
本発明のアンチセンス薬剤の送達および活性は、標準的なプロトコルを使用してアッセイされ得る。例えば、薬剤のCNSへの送達を実証するために、本発明の方法に従って、以下の実施例に示されるプロトコルが使用され得る。レセプターへの強い結合を示す薬剤は、アンタゴニスト活性を発揮することが予測され、この活性は、当該分野で公知の適切な細胞ベースのアッセイまたはインビボアッセイにより決定され得る。
【0090】
本明細書中で使用される場合、用語「アンチセンス分子」および「アンチセンス薬剤」は、交換可能に使用され、ワトソン−クリック塩基対合の規則に従って、生理学的条件下で標的配列に水素結合し得、それによりこの標的とされた核酸の細胞利用を阻害し得る、内因性核酸(例えば、DNAまたはRNA)標的に相補的であるように設計されたヌクレオチド配列を含む分子をいうために使用される。アンチセンス薬剤の投与が、最終的に、標的タンパク質の量を調節する(regulate)(例えば、調整する(modulate))ことが理解されるべきである。このことは、標的とされた内因性ポリヌクレオチ
ド分子と「特異的にハイブリダイズ」するアンチセンス薬剤を提供することにより達成される。一般に、標的核酸は、内因性mRNA分子である。
【0091】
アンチセンス分子(例えば、オリゴヌクレオチド)と、その相補的な内因性核酸標的分子(これに対してアンチセンス分子がハイブリダイズする)との間の関係は、「アンチセンス」と一般にいわれる。従って、この用語は、ネイティブアンチセンスポリヌクレオチド、合成アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド、インビボで発現ベクターから生成されたアンチセンス核酸配列、およびアンチセンスペプチド核酸を含む。例えば、本発明の方法において使用するための適切なアンチセンス分子は、mRNA分子に相補的であるように設計された合成アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド、またはインビボでアンチセンスヌクレオチド配列の生成を方向付け得るベクターを含み得る。より具体的には、本発明は、CNS障害またはCNS疾患の病理と関連することが公知の標的タンパク質の発現および/または機能を調節(阻害)するためにアンチセンス薬剤を使用する。
【0092】
概して、アンチセンス分子は、それらの調節活性に対する高度な特異性を提供するためにアンチセンス薬剤と相補的な標的核酸鎖との間のワトソン−クリック水素結合の形成による。本明細書中で使用される場合、用語「アンチセンス分子」は、モノマーとモノマーとの相互作用(例えば、ヌクレオシドとヌクレオシド)の通常のパターンによって、(デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、ポリアミド核酸などを含む)天然モノマーもしくは改変モノマーの直鎖状オリゴマーまたは標的ポリヌクレオチドへの特異的に結合し得る連結を含む。一般に、モノマーは、ホスホジエステル結合またはそのアナログにより連結されて、数モノマー単位(例えば、4〜8個のモノマー)から数百のモノマー単位の大きさの範囲のオリゴヌクレオチドが形成される。理想的には、そのアンチセンス分子は、標的配列をのぞく細胞中の他の核酸配列のいずれともハイブリダイズせず、タンパク質のような他の細胞構成成分に対しても非特異的に結合しないはずである。
【0093】
本発明の状況において、用語「ハイブリダイゼーション」とは、通常は、対向する核酸鎖上の相補的な塩基間の水素結合(ワトソン−クリック塩基対合としても公知)を意味する。グアニンとシトシンは、3つの水素結合の形成によりワトソン−クリック塩基対合に関与することが公知の相補的な塩基の例である。アデニンとチミンもまた、それらの間で2つの水素結合を形成するように相互作用する例示的な相補的塩基である。「特異的にハイブリダイズする」および「相補的な」は、安定かつ特異的な結合が、内因性核酸標的とアンチセンス薬剤との間で生じるような十分な程度の相補性を示すために使用される用語である。オリゴヌクレオチドは、特異的ハイブリダイゼーションに関与するその標的核酸配列に対して100%相補的である必要はないことが理解される。
【0094】
1つの実施形態において、本発明の方法における使用に適切なアンチセンス核酸分子は、標的とされるmRNAのコード領域の一部を含むリボヌクレオチド配列の連続する領域に相補的であり得る。用語「コード領域」は、ポリペプチドのアミノ酸配列へと翻訳されるコドンからなるmRNA配列の一部をいうと理解される。代替的実施形態において、アンチセンス核酸分子は、標的とされるmRNAの「非コード配列」に対してアンチセンス(すなわち、相補的)である。用語「非コード配列」とは、アミノ酸配列へと翻訳されないヌクレオチド配列をいう。本発明の状況において使用される場合、用語「mRNA」は、コード領域のみならず、コード領域の上流または下流に位置する連続するリボヌクレオチドの隣接非コード配列もまた含むことが理解されるべきである。これらの領域が、5’−非翻訳領域、3’−非翻訳領域、5’キャップ領域、イントロン領域、およびイントロン/エキソンまたはスプライス接合リボヌクレオチドを含むことは、当業者に公知である。従って、本発明に従って設計されたオリゴヌクレオチドは、完全にまたは部分的にこれらの隣接リボヌクレオチド配列ならびにコードリボヌクレオチドの配列を標的とし得る。
【0095】
1つの実施形態において、オリゴヌクレオチドは、翻訳開始部位または「開始コドン領域」またはmRNA分子の5’−非翻訳領域もしくは3’−非翻訳領域中の配列に標的化される。用語「開始コドン領域」、「AUG領域」、および「翻訳開始コドン領域」は、本明細書中で同義に使用され、翻訳開始コドンからいずれかの方向に(すなわち、5’側または3’側に)約25〜約50の連続するヌクレオチドを含むmRNAもしくは遺伝子の一部をいう。この領域は、アンチセンス薬剤の設計のための好ましいRNA結合部位である。標的とされ得る他の領域としては、5’−非翻訳領域のヌクレオチド配列、イントロン−エキソン接合部位に位置する潜在的スプライス部位、エキソン領域内に位置する配列、または3’−非翻訳領域中に位置する配列が挙げられる。
【0096】
アンチセンス調節性薬剤の設計および同定のための文献中には実質的な手引きがあり、好ましいアンチセンス薬剤が、以下の特徴を有することは当業者に周知である:接近可能な標的RNA結合部位に特異的な独特な相補的配列;効率的な細胞取り込み;インビボでの生物学的安定性;ならびにmRNAおよび/または標的タンパク質レベルを首尾よく減少させるアンチセンス作用機構(例えば、Sezakielら(2000)Frontiers in Bioscience 5:d194を参照のこと)。大部分の所望のアンチセンス配列を予測するための先験的な規則はないので、当業者は、有効なアンチセンス薬剤を経験的に設計する必要性を認識する。従って、標的とされるヌクレオチド配列中に含まれる配列に相補的な少なくとも10の異なるアンチセンス配列を設計することは合理的である。当業者は、潜在的に強いヘアピン構造を形成し得るポリグアノシンまたはG−Cアームの領域を有する配列を避けながら、ハイブリダイゼーションを最大化するオリゴヌクレオチドを設計するために、ワトソン−クリック塩基対合の原理を容易に使用し得る。例えば、www.trilink.comにて入手可能な、Richard I.HogreteによるAn Antisense Oligonucleotide Primerを参照のこと。
【0097】
一般的用語においては、本発明の方法における使用に適切なアンチセンス薬剤の調製は、以下の工程を包含する:(1)CNSの障害の病理に寄与するタンパク質をコードする核酸分子中の標的配列を同定する工程;(2)特定の終始機構と一致するRNA結合部位(例えば、開始コドン領域)を選択する工程;および(3)アンチセンス薬剤の骨格を改変して、所望の親和性および/またはインビボ安定性を付与する工程。合成オリゴデオキシリボヌクレオチドをアンチセンス薬剤として選択する利点は、それらの合成および精製が単純であること、およびそれらが標的配列に特異的にハイブリダイズし得る薬剤を同定するためのハイスループットスクリーニングに扱いやすいことである。
【0098】
標的細胞内でアンチセンス薬剤を生成または産生することは、外因性アンチセンス薬剤をCNSへ送達するための別の方法である。内因的に生成することが、アンチセンスRNAをコードするヌクレオチド配列(例えば、DNA)を含む、発現プラスミドまたは発現ベクターの使用により達成され得ることは周知である。従って、代替的実施形態において、ウイルスベクター媒介性または非ウイルスベクター媒介性の送達方法が、アンチセンス薬剤(例えば、オリゴヌクレオチド)の内因的な生成を方向付け得る配列をコードするヌクレオチド配列の送達のために使用され得る。LuoおよびSaltzman(2000)Nature Biotechnology 18:33を参照のこと。
【0099】
アンチセンス薬剤を細胞内で(例えば、内因的に)生成するために発現ベクターまたは真核生物発現プラスミドを使用することは、アンチセンス薬剤の外因的な投与を超えるいくつかの潜在的利点を提供する。例えば、インビボで生成されるアンチセンスRNAは、特に、ネイティブオリゴヌクレオチドの酵素的分解が、インビボで非常に顕著であるという事実を考慮して、外因的な送達プロトコルの有効性に対して、CNSの特定の細胞または組織に、より有効に送達(例えば、より高いコピー数を達成)され得る。従って、アン
チセンス薬剤の持続時間および滞留時間は、内因的な生成を容易にする送達方法の状況において送達された場合に、特に、配列のベクター媒介性移入が、レシピエントのゲノム中に組み込まれる配列を生じるが、またインビボ生成が、エピソーム発現の結果として生じると、より長いようである。さらに、特定の発現制御エレメント(例えば、プロモーター配列)を選択する機会は、アンチセンス薬剤の組織特異的(例えば、神経細胞またはグリア細胞)、部位特異的(例えば、核または細胞質)、または誘導性(例えば、転写アクチベーターの投与により)の生成を達成する機会を提供する。
【0100】
真核生物発現プラスミドまたはウイルスベクターは、本発明のアンチセンス適用による使用に適切なビヒクルを示す。本発明のこの実施形態による使用に適切なプラスミドとしては、上記で議論した非組み込み性のプラスミドおよびポリヌクレオチド配列をレシピエント細胞のゲノムに組み込むように設計されたプラスミドが挙げられる。適切なベクターの選択は、送達のために標的とされる組織または細胞の正体により決定される。例えば、成熟ニューロンは分裂しないので、分裂中の細胞にのみ組み込まれ得るレトロウイルスベクターは、適切な選択ではない。しかし、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターは、本明細書中に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、ポリヌクレオチド)の送達のために使用され得る。インビトロ研究により、ニューロンおよびグリア細胞が、特に、複製欠損アデノウイルスに非常に感染しやすいことが明らかに確立された。Caillaudら(1993)Eur.J.Neurosci.5:1287−1291。さらに、複製欠損アデノウイルスベクターの直接的な大脳内注入または脳室内注入は、ニューロン、グリア細胞、および上衣細胞の感染を生じることもまた実証された。Davidsonら(1993)Nature Genetics 3:219−223;Akliら(1993)Nature Genetics 3:224−228。Draghiaらは、鼻点滴の後にE.coli lacZ遺伝子をラットのCNSへ送達するためのアデノウイルスベクターを首尾よく利用した(Draghiaら(1995)Gene Therapy 2:418−423)。
【0101】
これらの観察と一致して、ウイルスベクターは、アンチセンス薬剤をコードするDNA配列を含む複製欠損アデノウイルスの局所的送達に使用され得る。1つの実施形態において、アンチセンスオリゴヌクレオチド薬剤をコードするヌクレオチド(例えば、DNA)配列を含むウイルスベクターは、本発明の方法に従って送達される。第2の実施形態において、アンチセンスオリゴヌクレオチドを含むウイルスベクターは、本発明の方法に従って送達される。
【0102】
本発明の方法における使用に適切なアンチセンス薬剤の調製は、機能が調節されるタンパク質をコードする核酸配列の同定により始まる複数工程プロセスである。適切なアンチセンス配列の選択は、標的mRNA、またはmRNAが転写される遺伝子のヌクレオチド配列の知見に依存する。例えば、哺乳動物IGF−IRに対して特異的なアンチセンス配列の状況において上記で議論したように、シグナル配列に存在する連続する配列に相補的であるように設計されたオリゴヌクレオチドは、本発明の方法における使用に適切なアンチセンス薬剤を具体化する。
【0103】
そのプロセスはまた、所望の効果、遺伝子発現の調整(例えば、mRNAプロセシングまたは翻訳の阻害)が生じるように、オリゴヌクレオチド相互作用が生じる核酸配列内の標的RNA結合部位の選択を要する。一旦RNA結合部位が同定されると、相補的なオリゴヌクレオチド(またはオリゴヌクレオチド模倣物)は、生理学的な条件下で内因性核酸配列に特異的にハイブリダイズするように設計される。有効な治療剤であるために、アンチセンス薬剤のその標的配列への結合は、標的タンパク質の細胞内レベルを阻害するに十分な様式にて、標的とされたDNAまたはmRNAの転写または翻訳を妨害しなければならない。一般に、開始配列、終止配列、およびスプライス領域をコードする標的配列は、
最も有効な阻害をもたらす潜在能力を有すると考えられる。アンチセンス薬剤の型に依存して、外因的な投与に適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドの調製に必要な最終工程はまた、オリゴヌクレオチドの骨格へ改変を導入して、ポリヌクレオチドアナログを生成することを含み得る。一般に、化学的に改変されたアンチセンス薬剤(例えば、ホスホチオエートまたはモルホリノポリヌクレオチドアナログ)は、非改変配列と比較して、核による分解に対して増大した安定性を示す。結果として、化学的に改変されたオリゴヌクレオチドは、インビトロおよびインビボの両方でより有効である。mRNAに標的化することは好ましく、以下の説明において例示されるが、核酸の他の形態(例えば、プレmRNAまたはゲノムDNA)もまた標的とされ得ることは、当業者により認識される。
【0104】
本発明の目的のために、用語「ポリヌクレオチドアナログ」および「オリゴヌクレオチド」は、本明細書中で交換可能に使用され、モノマーとモノマー(例えば、ヌクレオチドとヌクレオチド)との相互作用の通常のパターンによって、デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、ポリアミド核酸などを含む、天然(例えば、ネイティブ)モノマーもしくは改変モノマーのオリゴマー(ポリマー)、または標的ポリヌクレオチド配列に特異的に結合し、それにより、mRNAの中間代謝を改変し得る連結を含む。得られた複合体は、水素結合により安定化され、この水素結合は、ワトソン−クリック塩基対合、フーグスティーン結合、または任意の他の配列特異的結合様式により媒介され得る。通常、モノマーは、ホスホジエステル結合またはそのアナログにより連結されて、サイズが数モノマー単位(例えば、3〜4)〜数百のモノマー単位の範囲にわたるオリゴヌクレオチドが形成される。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分により中断され得る。より具体的には、本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、天然に存在する核塩基、糖、および共有結合性の糖間(intersugar)(骨格)の連結から構成される一本鎖オリゴヌクレオチド、ならびに同様に機能する天然には存在しない(例えば、改変された)骨格を有するオリゴヌクレオチドをから構成される。従って、本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、天然のオリゴマーおよび化学的アナログおよび以下のキメラ分子を含む。
【0105】
本発明に従う改変または置換されたオリゴヌクレオチドの送達は、ネイティブオリゴマーの送達に好ましくあり得る。なぜなら、改変は、所望の特性(例えば、標的とされたポリヌクレオチドへの増強した結合またはヌクレアーゼ分解に対する耐性)を付与し得るからである。Agrawalら(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94(6):2620およびProc.Natl.Acad.Sci.USA 94(6):2620。あるとすれば、ヌクレオチドに対する改変は、ポリマーのアセンブリの前または後のいずれかに導入され得る。例えば、本発明の方法における使用に適切なアンチセンス薬剤(アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、天然に存在するヌクレオチドまたは種々の改変ヌクレオチドまたはモノマーを使用して化学的に合成され得る。
【0106】
本発明の送達方法における使用に適切なオリゴヌクレオチドは、それらの標的ヌクレオチド配列に特異的にハイブリダイズし、遺伝子からタンパク質への情報伝達を調整(例えば、翻訳の阻害またはスプライシング)するために十分な長さでなければならない。オリゴデオキシヌクレオチドのその標的核酸配列への結合は、核酸とmRNA転写物の細胞内利用に必要な他の核酸またはタンパク質との相互作用を阻害し得る。適切なオリゴヌクレオチドは、好ましくは、約8〜約50のモノマー(例えば、核塩基)を含む。ヌクレオシドが、塩基−糖の組み合わせであり、この組み合わせにおいて、ヘテロ環式塩基(例えば、プリンまたはピリミジン)が、通常は、この組み合わせの塩基成分を含むことは、当該分野で公知である。約10〜約30核塩基(すなわち、約10〜約30の連結したヌクレオシド)を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドが、特に好ましい。ヌクレオチドは、ヌクレオシドの糖部分に共有結合したリン酸基をさらに含むヌクレオシドである。天然には存在しないモノマー単位を含むアンチセンス分子の状況において、適切なアンチセンス薬
剤は、8〜50のモノマーを含むことが理解されるべきである。従って、適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、任意の適切な長さ(例えば、約10〜50のヌクレオチドの長さ(例えば、10、12、14、15、17、20、25、30、35、40、45または50の核塩基またはモノマー))であり得、ホスホロチオエート、ホスホトリエステル、メチルホスホネート、短鎖アルキルもしくはシクロアルキルの糖間の結合、または短鎖ヘテロ原子もしくはヘテロ環式の糖間(「骨格」)の結合を含み得る。しかし、アンチセンス薬剤のインビボでのより高い細胞内濃度が、インビボでの細胞取り込みの効率がより高いことに起因して、比較的小さな(例えば、12核塩基未満)オリゴヌクレオチドの使用により達成される可能性がより高いことは、注意すべきである。13〜15の相補的なヌクレオチドを含むアンチセンスオリゴヌクレオチドが、単一の配列に結合すると統計学的に推定されることは、周知である。好ましくは、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、適切な特異性を達成するために、少なくとも15ヌクレオチド長でなければならない。好ましい実施形態において、20ヌクレオチドのアンチセンス分子が利用される。
【0107】
オリゴヌクレオチドについての多くの潜在的な細胞表面レセプターが、記載されている(MAC−1インテグリン、スカベンジャーレセプター、およびオリゴヌクレオチド輸送体として作用し得るタンパク質が挙げられる)が、オリゴヌクレオチドの大部分は、エンドサイトーシスにより取り込まれ、結果として、エンドソームのリソソーム区画に最初に蓄積される傾向があるかのように見える。より具体的には、オリゴヌクレオチドの内部移行(internalization)は、主に、吸着性エンドサイトーシスおよびピノサイトーシス(流体相のエンドサイトーシス)に依存すると考えられる。吸着性エンドサイトーシスの活性プロセスの役割は、細胞表面に吸着することが公知の荷電したオリゴヌクレオチド(すなわち、ホスホロジエステルおよびホスホロチオエート)が、荷電していないオリゴヌクレオチド(例えば、ペプチド核酸またはメチルホスホネート)よりはるかに高いレベルで内部移行されるという観察により示唆される。ピノサイトーシスは、構成的な細胞プロセスであり、ここで、細胞は、水およびこれに溶解した溶質を取り込み、比較的高い局所的オリゴヌクレオチド濃度の状況では、内部移行の別の方法を提供する。
【0108】
アンチセンスオリゴヌクレオチドが、どのようにその標的mRNAの活性を調節するかを説明するための多くの機構(一次RNA転写物のプロセシング(例えば、キャッピング、メチル化、スプライシング、3’ポリアデニル化)の阻害、核外のmRNA転写物の阻害、およびハイブリダイゼーション停止による翻訳(例えば、細胞利用)の阻害が挙げられる)が提唱されてきた。あるいは、オリゴデオキシヌクレオチドは、RNase H依存性機構により、標的mRNAの破壊を活性化し得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドの作用機構は、細胞型の間で異なり得、結合の標的とされる内因性ヌクレオチド配列の性質に依存して変化し得るが、インビトロでの主な作用機構は、標的RNAのRNase Hによる酵素的切断により媒介されるという強い証拠がある。Dashら(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7896−7900;WalderおよびWalder(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5011−5015。RNase Hは、遍在性酵素であり、これは、RNA−DNAヘテロ二重鎖(すなわち、ハイブリッド)のRNA鎖を特異的に分解する。RNase
H酵素が、基質としての長いハイブリッド領域を必要としないことは周知である;従って、オリゴヌクレオチドの長さを増大させることにより、アンチセンス薬剤の特異性を増大させることは不可能である。10程度の少ない塩基対が、ヒト細胞において十分であるようであることが予測されている。Branch(1998)Trends Biochem Sci.23(2):45−50。
【0109】
細胞が、種々のエンドヌクレアーゼおよびエキソヌクレアーゼを含み、それらの天然の形態のオリゴヌクレオチドが、インビボにて迅速な酵素的消化に供されることは周知である。従って、インビボでのオリゴヌクレオチド排除の主要な経路は、それらの酵素的分解
によるようである。1つの実施形態において、このアンチセンス薬剤は、ネイティブホスホジエステルオリゴヌクレオチドの生物物理学的、生化学的、薬物動態学的、または安全性のプロフィールを改善するために改変されたアンチセンスオリゴヌクレオチドである。多くのヌクレオチドおよびヌクレオシドの改変が、オリゴヌクレオチドを作製するために示されてきた。このオリゴヌクレオチドの中で、改変は、ヌクレアーゼ分解に比較的より耐性であるように組み込まれる。ホスホジエステルヌクレオチドは、無細胞系およびインビトロ細胞培養物において最初に研究されたが、あるクラスの分子としてそれらは、ヌクレアーゼに対してあまり安定ではないので、インビボ薬剤としての能力は制限されていた。代替的な実施形態において、オリゴヌクレオチドは、その本質的なヌクレアーゼ耐性を増強するために改変される。改善されたヌクレアーゼ安定性は、ポリヌクレオチドアナログのインビボ安定性および生体分布(biodistribution)における有利な変化を付与する。従って、本発明の方法に従う使用に適切な化学的なアナログとしては、例えば、ホスホジエステル結合が、オリゴヌクレオチドをインビボでより安定にするように(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートまたはホスホルアミデートに)改変されたアナログが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、オリゴデオキシリボヌクレオチドホスホロチオエート(例えば、リン酸架橋に関与しないリン酸の酸素原子のうちの1つが、硫黄原子に置換される)またはオリゴデオキシリボヌクレオチドメチルホスホネート(例えば、ここでリンの非架橋酸素原子が、メチル基で置換される)は、ヌクレアーゼ分解に関して改善した安定性を与える一般的な化学アナログを包含する。Cohen編(1989)Oligodeoxnucleotides:Antisense Inhibitors of Gene Expression(CRC Press,Inc.,Boca Raton,Florida)を参照のこと。マウスの末梢循環中に導入されたホスホジエステルオリゴマーの半減期は、約1分であるのに対して、ホスホチオエートオリゴマーの半減期は、約48時間である。Agrawalら(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:7595。
【0110】
しかし、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドのインビボでの使用に関しては、いくつかの問題があることに注意すべきである。例えば、その骨格は、キラルであり、結果として、単一の化合物の代わりに、2種類のオリゴヌクレオチドのラセミ混合物を生じる(ここで、n=ホスホロチオエートヌクレオチド間連結の数)。さらに、ホスホチオエートオリゴマーの結合親和性は、その対応するホスホジエステルオリゴヌクレオチドの親和性より低い(Agrawalら(1998)Antisense&Nucleic Acid Drug Dev.8:135;LaPlancheら(1986)Nucleic Acids Res.14:9081−9093)。さらに、ホスホチオエートが負に荷電しているので、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドは、細胞タンパク質、脂質、および糖質に非特異的に結合することが知られている(これらは、結果として、毒性を生じ得る非アンチセンス効果を媒介し得るか、または間違ってアンチセンス効果に帰する可能性がある)。ホスホロチオエートはまた、配列特異的現象であり得るか、または初期にオリゴヌクレオチド調製における汚染に起因し得るが、毒性であるといわれている(SrinivasanおよびIverson(1995)J.Lab.Anal.9:129−137)。さらに、特定の配列モチーフおよび構造モチーフを含むホスホロチオエートオリゴヌクレオチドの投与は、所望でない免疫刺激効果を有すると報告されている。
【0111】
その中にリン原子を含まない好ましい改変されたオリゴヌクレオチド骨格(例えば、ポリヌクレオチドアナログ)は、短鎖アルキルヌクレオシド間結合またはシクロアルキルヌクレオシド間結合か、混合されたアルキルヌクレオシド間結合またはシクロアルキルヌクレオシド間結合か、または1つ以上の短鎖へテロ原子ヌクレオシド間結合もしくはヘテロ環ヌクレオシド間結合によって形成される骨格を有する。これらの骨格としては、モルホリノ骨格(ヌクレオシドの糖部分から部分的に形成される);シロキサン骨格;スルフィ
ド骨格、スルホキシド骨格およびスルホン骨格;アルケン含有骨格;スルファメート骨格;メチレンイミノ骨格およびメチレンヒドラジノ骨格;スルホナート骨格およびスルホンアミド骨格;アミド骨格;ならびに混合されたN、O、およびS成分部分を有する他の骨格が挙げられる。例えば、モルホリノオリゴマーは、化学的に改変されたオリゴヌクレオチドの1つのクラスであり、このオリゴヌクレオチドにおいて、リボース部分は、モルホリノ基で置換される(米国特許第5,185,444号(その教示は、本明細書中に参考として援用される))。モルホリノ改変は、オリゴマー耐性を酵素分解物に付与し、モルホリノアンチセンスヌクレオチドは、首尾よく使用され、インビボでの標的タンパク質(例えば、TNF−α)の産生を阻害する。Qinら、(2000)Antisense&Nucleic Acid Drug Dev.10:11を参照のこと。ヌクレアーゼ耐性を、単離されたヌクレアーゼ溶液または細胞抽出物とオリゴヌクレオチドをインキュベートし、そして経時的に、残存するインタクトなオリゴヌクレオチドの量を(例えば、ゲル電気泳動によって)決定することによって、慣用的に測定した。ヌクレアーゼ耐性を強化するように改変されたオリゴヌクレオチドは、ネイティブなオリゴヌクレオチドに比べてより長い時間インタクトで残る。
【0112】
本発明の方法を用いた使用に関して適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、「キメラのオリゴヌクレオチド」を含む。本明細書中で使用される場合、用語「キメラのオリゴヌクレオチド」は、異なる糖の化学および/または骨格の化学の混合物を含む混合骨格のポリヌクレオチドアナログを包含する。これらのオリゴヌクレオチドは、代表的には、1つ以上の有益な特徴を付与する改変されたヌクレオチドの少なくとも1つの領域およびRNaseH切断の基質である領域を包含する。最も一般的なキメラのオリゴヌクレオチドは、「第2世代」オリゴヌクレオチドともいわれる。この命名法は、ホスホロチオエートが、通常、第1世代のアンチセンス薬剤として考えられるという事実に由来する。
【0113】
キメラの骨格のオリゴヌクレオチドまたは混合骨格のオリゴヌクレオチドは、これらの特異的な構築物においてかなり変化するが、一般的に、これらの全てが、同じ基本設計の特徴(ヌクレアーゼ耐性のアームによって囲まれたホスホチオエステル中心領域またはホスホロチオエート中心領域)を有する。より具体的には、本発明の送達方法における使用に適したキメラの骨格または混合骨格は、5’末端および3’末端にホスホロチオエートセグメントを含み、オリゴマーの中心部分に位置する改変されたオリゴデオキシヌクレオチドセグメントまたはオリゴリボヌクレオチドセグメントを有し得る。Agrawalら、(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94(6):2620を参照のこと。この技術は、良好な開始点が、5’末端および3’末端両方で6個の2’−OMeヌクレオチドを有し、18ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドを使用し、このオリゴヌクレオチドが、ホスホロチオエートヌクレオチド間結合を有する6個の2’−デオキシリボースヌクレオシドの核を残すことを教示する(Moniaら、(1996)Nat.Med.2:668−675)。このアームは、ホスホロチオエート結合を含んでも含まなくても良い。ホスホロチオエート結合の除去は、それが毒性を減少するという観点からは好ましいが、この除去はまた、ヌクレアーゼ耐性も減少する。適当なキメラのオリゴヌクレオチドの設計を推進する、本発明の方法における使用に適切な基礎をなす原理は、RNaseHの安定性および保持の2倍の増加である。文献中に報告される多くのキメラのオリゴヌクレオチドは、ホスホロチオエートオリゴマーの特徴に比べて、RNAに対する親和性、RNaseHの活性化、および薬物動態学的プロフィールという点で、改善された特徴を有する。
【0114】
あるいは、2’−MOE(Monia(1997)Ciba Found.Symp.209:107−123)、N3’→P5’ホスホルアミダイト(GryaznovおよびChen(1994)J.Amer.Chem.Soc.116:3143−3144;MignetおよびGryaznov(1998)、Nucleic Acids R
es.26:431−438)、PNA(Hanveyら、(1992)Science
258:1481−1485)、光学的に純粋なメチルホスホネート(Reynoldsら、(1996)Nucleic Acids Res.24:4584−4591)、およびMMI(Morvanら、(1996)J.Amer.Chem.Soc.118:255;Swayze(1997)Nucleosides Nucleotides 16:971−972)に依存する他の分子設計は、ハイブリッド捕捉によるタンパク質発現の阻害について特に有用であり得る、代替的な実施形態を示す。1つの実施形態において、本発明の方法における使用に適したキメラのオリゴヌクレオチドは、標的の結合親和性を増加するために改変された少なくとも1つの領域を含み、そして通常は、RNaseHに対する基質として作用する領域を含む。共通の設計は、ホスホジエステル改変中間核領域またはホスホルアミダイト改変中間核領域を囲むヌクレアーゼ耐性アーム(例えば、2’−O−メチル(Ome)ヌクレオシド)を有するはずである(AgrawalおよびGoodchild(1987)J.Tetrahedran Letters 28:3539−3542;GilesおよびTidds(1992)Nucleic Acid Res.20:753−770)。
【0115】
本発明の1つの実施形態において、本発明の送達方法における使用に関するアンチセンスオリゴヌクレオチドがキメラのアンチセンスオリゴヌクレオチドであり、このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、効率的かつ長期間効果がある、標的mRNAのノックアウトによって証明されるように、エンドヌクレアーゼおよびエキソヌクレアーゼに対する高い耐性、高い配列特異性、およびRNaseHを活性化する能力を示す。本明細書中に開示される実施例に記載されるアンチセンス構築物を参照のこと。国際公報第WO01/16306 A2号;ならびに1999年8月27日に出願された米国特許第60/151,246号、および2000年8月25日に出願された同第09/648,254号(両者は、「キメラのアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびその細胞トランスフェクト調合物」と題され、その内容は、本明細書中に参考として援用される)。
【0116】
本発明のアンチセンス分子は、生物学的等価物である化合物を含み、これは、薬学的に受容可能な塩を含むがこれに限定されない。「薬学的に受容可能な塩」は、本発明の生理学的および薬学的に受容可能な塩であり、すなわち、親化合物の所望の生物学的活性を保持し、それに所望でない毒物学的効果を付与しない塩である(例えば、Bergeら、(1977)J.Pharma.Sci.66:1−19を参照のこと)。本明細書中に記載されるポリヌクレオチドの薬学的に受容可能な塩の投与は、本発明の範囲内に含まれる。このような塩は、有機塩および無機塩を含む薬学的に受容可能な非毒性の塩から調製され得る。無機塩基に由来する塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。薬学的に受容可能な有機非毒性塩基に由来する塩としては、一級アミン、二級アミン、および三級アミン、塩基性アミノ酸などが挙げられる。薬学的な塩の有用な考察については、Bergeら、(1977)J.Pharma.Sci.66:1−19(その開示は、参考として本明細書中に援用される)を参照のこと。
【0117】
オリゴヌクレオチドに関して、薬学的に受容可能な塩の例としては、(a)ナトリウム、カリウム、アンモニウム、マグネシウム、およびカルシウムで形成される塩;(b)例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、アルコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パルミチン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、ナフタレンスルホン酸、メタンスルホン酸などのような有機酸で形成される塩;(c)無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硝酸など)で形成される酸付加塩;ならびに(d)塩素および臭素のような元素アニオンから形成される塩が挙げられるがこれらに限定されない。
【0118】
標的ポリヌクレオチドの配列および結合部位の表面露出度の知識を与える相補的なオリゴヌクレオチドに対する特定の配列を選択することに関する文献中に実質的なガイダンスが存在する。例えば、Ulmannら、(1990)Chem.Rev.90:543−584;Crooke(1992)Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.32:329−376;ならびにZamecnikおよびStephenson(1974)Proc.Natl.Acad.Sci.USA75:280−284を参照のこと。好ましくは、合成オリゴヌクレオチド配列は、G−C含量が、少なくとも60%であるように設計される。本発明の方法における使用に適したオリゴヌクレオチドは、当該分野で周知である化学合成、酵素連結反応および精製手順を使用して、都合よく慣用的に産生され、生成され得る。そのような合成のための装置は、Applied Biosystemsを含むいくつかの販売業者によって販売されている。
【0119】
一般的には、アンチセンス薬剤は、約10〜約50ヌクレオチド(またはモノマー)、好ましくは、約14〜約25ヌクレオチド、そしてより好ましくは、約17〜約20ヌクレオチドを含み得る、例えば、適切なIGF−IRアンチセンスオリゴヌクレオチドは、以下から選択された配列に基づいて、改変されたキメラのオリゴヌクレオチドまたはPNAオリゴヌクレオチドを含むが、これら限定されない。
【0120】
【化1】

本明細書に開示される実施例および国際公報第WO01/16306 A2号を参照のこと。米国特許第5,714,170号;ならびに1999年8月27日に出願された米国特許第60/151,246号、および2000年8月25日に出願された同第09/648,254号(両者は、「キメラのアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびその細胞トランスフェクト調合物」と題され、その内容は、本明細書中に参考として援用される)。
【0121】
本発明の方法は、外因性の単鎖ヌクレオチド配列(またはペプチド核酸オリゴマー)および、標的遺伝子mRNAの連続的な領域に相補的である配列をコードする翻訳ユニットを含む発現ベクターからインビボで生成されるアンチセンスオリゴヌクレオチドの両方を投与することを企図し、この標的遺伝子mRNAは、本発明の方法に従って、CNSに送達される。
【0122】
(ペプチド核酸(PNA)薬剤)
本明細書中で使用される場合、用語「ペプチド核酸」または「PNA」は、デオキシリボースリン酸骨格が、4つのネイティブな核酸塩基が連結される偽ペプチド骨格によって置換されるポリヌクレオチド模倣物をいう。より具体的には、DNAまたはRNAのホスホジエステル骨格は、メチレンカルボニルリンカーを介して、結合される核酸塩基を有する(N−2アミノエチル)グリシン単位からなる類似の骨格によって代えられる(Nielsenら、(1991)Science 254:1497;Larsenら、(1999)Biochem.Et Biophysica Acta 1489:159−166)。この核酸塩基は、標的された内因性核酸標的分子との配列特異的ハイブリダイゼーションを媒介するために維持される。化学的には、PNA薬剤は、比較的可撓性である、類似で電荷が中性なポリアミド骨格を有する(Larsenら、(1999)Bioc
hem.Et Biophysica Acta 1489:159−166)。PNAオリゴマーの非荷電性特性は、ハイブリッドPNA/DNA(mRNA)二重鎖の安定性を強化する。従って、PNA薬剤は、化学的にほんのわずかにDNAと関連するDNA模倣物を示す。PNA薬剤は、実際、核酸よりタンパク質(ペプチド)により密接に関連するにも関わらず、これらPNA薬剤は、核酸機能の代替的な配列特異的レギュレーターを提供する。本発明の方法は、これらのポリヌクレオチド模倣物の評価およびそれらの開発を容易にし得る効率的な送達方法を提供する。
【0123】
上に考察されるように、従来のオリゴヌクレオチドおよびこれらの化学的アナログのアンチセンス効果は、RNase Hの活性化に起因する。しかし、モルホリノ−mRNA複合体およびPNA−mRNA複合体が、RNase H活性についての基質であることは周知である。従って、モルホリノオリゴマーおよびPNA分子の提唱された作用機構は、翻訳機構のアセンブリまたは発達を立体的に干渉することに起因する翻訳阻止であると考えられる。PNAオリゴマーは、転写レベルおよびトランスロケーションレベルの両方で標的タンパク質の発現を阻害するために首尾よく使用されてきた。より具体的には、標的されたmRNA配列の5’非翻訳領域の翻訳開始部位に存在するヌクレオチド配列に相補的なPNAオリゴマーは、インビトロおよびインビボの両方で翻訳を効率的に阻害することが示されてきた(Poogaら、(1998)Nature Biotechnology 16:857)。PNAに対する適切な標的領域は、AUG領域の内部および外部の両方に存在し、しかも適切なPNA標的の同定は、mRNAウォーク(walk)(例えば、標的化されたmRNA配列の異なる領域に相補的であるように設計された一連のオリゴヌクレオチドを試験すること)から得られた結果に基づいた最適な標的の経験的な同定を要求するかなり広範囲の実験が要求される可能性がある。Nielsen(1999)Current Opinion in Structural Bio.9:353−357;Moniaら、(1996)Nat.Med.2:668−675を参照のこと。PNA/mRNAハイブリッドは、インビトロではRNase Hの基質ではないという観察が、インビボでのPNA結合が、代替的な作用の触媒機構による、標的化されたmRNAの分解を媒介し得るという可能性を排除しないということには留意するべきである。しかし、PNAアンチセンス薬剤のアンチセンス活性の効率は、得られたPNA/mRNAハイブリッドの安定性に関連する機構に起因し得る。
【0124】
PNA分子は、相補的なDNAオリゴマー配列、RNAオリゴマー配列またはPNAオリゴマー配列と非常に安定な二重鎖ハイブリッドを形成し得る、非常に望ましい核酸のハイブリダイゼーション特性(例えば、高い親和性および高い特異性)によって、特徴付けられる。実際には、PNA/DNA結合の配列識別(すなわち、特異性)は、DNAの配列識別と同等であるかまたはそれよりもさらに高い配列識別であるかが全体的に決定される(Larsenら、(1999)Biochem.Et Biophysica Acta 1489:159−166)。さらに、PNA中のペプチド(すなわち、アミド)結合は、ペプチド核酸分子にプロテアーゼ耐性およびペプチダーゼ耐性を付与するために、タンパク質中に存在するαアミノ酸ペプチド結合から十分離れている。従って、PNAオリゴマーは、生物学的環境で高度に安定である。
【0125】
これらの固有の特徴(例えば、高親和性、特異性、および生物学的安定性)は、PNA分子を、標的mRNAおよびそのコードされるタンパク質の配列特異的(すなわち、特異的なハイブリダイゼーションに基づいた)制御のためのアンチセンス薬剤としての使用のための代替的な薬剤にする。しかし、他の核酸アナログとは違って、PNA分子は、全ての細胞型によって自発的に取り込まれないこの制限は、細胞貫通性輸送ペプチド(例えば、トランスポータン(transportan)またはアンティナペディア(antennapedia)(pAntp))の使用によって取り除かれる。例えば、Poogaら、(1998)Nature Biotechnology 16:877を参照のこと
。PNA−ペプチド結合体が、インビトロで特定の真核生物細胞によって効率的に取り込まれ(Aldrian−Herradaら、(1998)Nucleic Acids Res.26(21):4910)、そしてそのような薬剤が、神経細胞培養物中で標的遺伝子のダウンレギュレーションを媒介するために使用され得ることは、最近示された(Nielsen(1999)Current Opin.Structural Bio.9:353−357)。
【0126】
研究者らはまた、神経レセプターに対して標的化されるアンチセンスPNAおよびPNAペプチド結合体のインビボでの生物学的活性を最近報告した(Poogaら、(1998)Natl.Biotechnol 16:857;Tylerら、(1998)FEBS Lett 421:280−284)。より具体的には、Poogaらは、ガラニン(galanin)レセプターに対して特異的なPNAアンチセンスオリゴマーが、細胞貫通性ペプチドアンティナペディアに結合し、髄腔内注射によって送達され、ラット脊髄においてインビボでガラチン(galatin)レセプターの発現を阻害し、そして減少したレセプターレベルが改変された疼痛応答に寄与することを示したことを報告する。Tylerらは、「裸のPNA」(例えば、輸送ペプチドに結合されていないPNA分子)が、インビボで神経細胞によって取り込まれることを報告する(Tylerら、(1998)FEBS Lett.421:280−284)。より特異的には、Tylerらは、短い(例えば、12〜14マー)PNA分子を使用し、ラットの脳におけるニューロテンシンレセプター(NTR−1)およびμオピオイドレセプターを標的化した。従って、本発明の方法を使用し、アンチセンスPNA分子を、哺乳動物CNSに直接送達し、その中のタンパク質の発現を効率的に阻害することが可能であり得る。一緒にして考察すると、これらのデータは、PNAがインビボで容易に神経細胞に入ることを示し、CNSに送達されたアンチセンスPNA薬剤が、制御因子として効率的かつ特異的に機能し得ることを示唆する。
【0127】
本発明の方法における使用のために企図されるポリヌクレオチド模倣物の合成は、従来の固相ペプチド技術に従って、Boc−モノマー、Fmoc−モノマー、または保護モノマーのいずれかを使用して実施され得、当業者に周知である技術を使用して逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)によって精製される。さらに、PNAオリゴマーが従来のペプチド化学プロトコルによって合成されるので、ペプチドを特定のPNAオリゴマーに結合し、それによってPNAペプチド結合体を生成することは、比較的容易である。例えば、キャリア部分を具体化するペプチドは、PNAオリゴマーに結合され、オリゴマーの細胞内取り込みまたは膜輸送を容易にし得る。あるいは、標的RNAの制御のために設計されたPNAモノマーおよび/またはオリゴマーは、市販業者によって調製され得る。
【0128】
(ポリヌクレオチド薬剤の投与)
本発明の治療実施形態のために、用量単位で投与されたポリヌクレオチド薬剤の総量は、生物学的に適切な量の薬剤を送達するために十分な範囲であるべきである。例えば、用量単位で投与された薬剤の総量は、約1μM〜約100μMの範囲(例えば、約1μM、約5μM、約10μM、約20μM、約25μM、約30μM、約40μM、約50μM、約65μM、約75μM、約80μM、約90μMまたは約100μM)であり得る。単位用量の薬剤を有する薬学的組成物は、溶液、懸濁物、エマルジョン、散剤、微粒子、または徐放性処方物の形態であり得る。処方された薬学的組成物の総量は、約10μl〜約1000μlの範囲であり得る。例えば、鼻腔の嗅覚領域に投与される単一用量の水溶液は、約10μl〜約200μlの範囲であり得る。適切な容量が、薬剤が投与される組織の大きさおよび組成物中の薬剤の溶解度のような因子で変化し得る。鼻投与は、単一用量より多い投与が要求され得、例えば、2回以上の用量が、投与され得る。
【0129】
単一用量として特定の組織へ投与される薬剤の総量は、投与された薬学的組成物の型に、つまり、この組成物が、例えば、液体、懸濁物、エマルジョン、散剤、微粒子、または徐放性処方物の形態であるかどうかに依存することが理解される。三叉神経によって神経支配される鼻外組織への無針皮下投与は、散剤または微粒子として皮膚内に処方された薬剤を加速するための動力源として超音波ガスジェットを使用するデバイスの使用によって達成され得る。そのような送達方法の特徴は、粒子の特性、薬剤の処方、および送達デバイスのガスの力によって決定される。同様に、水性組成物の皮下送達は、空気バネ動力のハンドヘルドデバイスを使用することによって無針様式で達成され得、皮膚を貫き得る流体の強力なジェットを生成する。あるいは、組成物の徐放を媒介する皮膚パッチ処方物は、三叉神経によって神経支配される組織への薬剤の経皮的送達について使用され得る。薬学的組成物が、治療有効量の薬剤または徐放性処方物で薬剤の組合せを含む場合、この薬剤は、より高い濃度で投与される。
【0130】
標的遺伝子の連続的な抑制を得るために、アンチセンス薬剤の長期間送達または反復的送達が要求され得ることは、遺伝子増幅が一過性の性質であることに起因して、当業者に明らかであるはずである。例えば、長い半減期を有する遺伝子産物(例えば、膜レセプター)のアンチセンス阻害は、種々の投与を要求し得るのに対して、迅速な代謝回転を有するタンパク質の産生を阻害するために必要な薬剤の量が、単一投与のみまたは周期的投与を必要とし得る。従って、本発明のこの実施形態におけるアンチセンス薬剤の治療有効量および投与の頻度の点でのバリエーションが、受容可能であり得る。投与される薬剤の量は、投与の頻度に反比例する。従って、単一投薬量における薬剤の濃度の増加または徐放性の薬剤の場合における中間残存時間の増加は、一般的に投与の頻度の減少と関連する。
【0131】
本発明の実施において、さらなる因子が、薬剤の治療有効量および投与の頻度を決定する場合、考慮されるべきである。例えば、そのような因子としては、組織の大きさ、組織の表面積、疾患または障害の重篤度、ならびに処置される個体の、年齢、身長、体重、健康状態、および身体条件が挙げられる。一般的に、組織がより大きいか、または疾患または障害がより重篤である場合、より高い容量が好ましい。
【0132】
実験のいくつかのわずかな自由度が、最も有効な用量および投薬の頻度を決定するために要求され得、このことは、十分に、本開示を通告された当業者の能力の範囲内にある。
【0133】
(薬学的組成物)
本発明の送達方法は、CNS、脳、および/または脊髄へのポリヌクレオチド薬剤を含む有効量の薬学的組成物を投与するために使用され得る。特に、本発明は、タンパク質もしくはペプチドのいずれかをコードするかまたは内因性mRNA配列のCNSへの配列に相補的であることが示されるポリヌクレオチド薬剤を含む組成物の直接の送達のために使用され得る方法に関する。本明細書中で使用される場合、用語「有効量」および「治療有効用量」は、本明細書中の他の箇所に記載される任意の障害または疾患の症状および根本的な原因を予防、処置、軽減、および/または回復するのに十分なレベル(ペプチドもしくはタンパク質の濃度またはタンパク質発現の阻害)を達成することをいう。いくつかの例において、「有効量」は、これらの障害の症状を削減および、おそらく、疾患それ自体を克服するのに十分である。本発明の文脈において、用語「処置」および「治療」などは、存在する疾患の緩和、進行の減速、予防、弱毒化、または治療をいう。本明細書中で使用される場合、予防は、そのようなCNS疾患または障害の開始を遅らせること、減速すること、遅延すること、阻害すること、またはそうでなければ停止すること、減少すること、または改善することをいう。十分な量の薬剤が、疾患に対して神経系内で有効なレベルの活性を提供するために。毒性のないレベルで適用されるのが好ましい。本発明の方法は、任意の動物を用いて使用され得る。例示的な動物としては、ラット、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、およびより好ましくはヒトが挙げられるがこれらに限定されな
い。
【0134】
鼻腔内経路を通って投与されるポリヌクレオチド薬剤について、この薬剤は、感覚上皮細胞の嗅覚レセプターの線毛に囲まれた粘膜によって分泌される流体内に少なくとも部分的に溶解され得ることが好ましい。この組成物は、例えば、薬剤の溶解または輸送を容易で、嗅覚神経および/または三叉神経によって神経支配される組織への投与に適した薬学的に受容可能な任意の添加剤、キャリア、またはアジュバントを含み得る。好ましくは、この薬学的組成物は、CNS、脳、および/または脊髄の障害、悪性疾患(例えば、固形腫瘍)、疾患または損傷の予防または処置に対して使用され得る。好ましくは、この組成物は、嗅覚神経および/または三叉神経によって神経支配される組織内でまたはそれを介して薬剤の移動を促進し得る、薬学的なキャリア、添加剤、および/またはアジュバントと組み合わせた薬剤を含む。あるいは、この薬剤は、神経細胞傷害の部位への薬剤の輸送を補助し得る物質と組み合わせられ得る。この組成物は、1つまたはいくつかのアンチセンス薬剤を含み得る。
【0135】
代表的には、この組成物は、薬学的組成物中でポリヌクレオチドおよび他の構成成分と混合された薬学的に受容可能なキャリアを含む。「薬学的に受容可能なキャリア」によって、技術分野で、薬剤の貯蔵、薬剤の投与、および/または薬剤の回復硬化を容易にするために従来使用されるキャリアが意図される。キャリアはまた、薬剤の任意の望ましくない副作用を減少し得る。適切なキャリアは、安定(すなわち処方物中の他の構成成分と反応不可能)であるべきである。処置に使用される用量および濃度でのレシピエントにおける、局所的なまたは全体的な有意な有害な効果を生じるべきではない。そのようなキャリアは、一般的に技術分野で公知である。本発明に適切なキャリアとしては、例えば、アルブミン、ゼラチン、コラーゲン、ポリサッカライド、モノサッカライド、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、高分子アミノ酸、不揮発性油、オレイン酸エチル、リポソーム、グルコース、スクロース、ラクトース、マンノース、デキストロース、デキストラン、セルロース、マンニトール、ソルビトール、ポリエチレングリコール(PEG)などのような、巨大で安定な高分子に対して従来使用されるキャリアが挙げられる。
【0136】
水、生理食塩水、水性デキストロース、およびグリコールは、特に(等張である場合)溶液に対して好ましい液体キャリアである。このキャリアは、石油、動物、野菜または合成起源(例えば、ピーナツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油など)の油を含む、種々の油から選択され得る。適切な薬学的な賦形剤としては、スターチ、セルロース、タルク、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、イネ、フラワー、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、グリセリンモノステアラート、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが挙げられる。この組成物は、滅菌のような従来薬学的な手段に供され得、そして保存料、安定化剤、湿潤剤、または乳化剤、浸透圧調整用の塩、緩衝液などのような従来の薬学的な添加物を含み得る。
【0137】
鼻腔内送達のために処方される組成物は、必要に応じて臭気剤を含み得る。臭気剤は神経学的薬剤と組み合わせて、オードリフェラス感覚を提供し、そして/または鼻腔内の調製物の吸引を助長して嗅覚上皮に対して活性な神経学的薬剤の送達を増強させる。臭気剤によって提供されるオードリフェラス感覚は、心地良いか、不快であるか、またはそれ以外に悪臭であり得る。嗅覚レセプターニューロンは、嗅覚上皮に局在し、これはヒトにおいて鼻腔の上側部分において僅かに数平方センチメートルを占める。レセプターを備える嗅覚ニューロン樹状突起の繊毛は、かなり長い(約30〜200μm)。粘膜の10〜30μmの層はその突起を覆っており、これを臭気剤は透過してレセプターに到達しなければならない。Snyderら(1988)J Biol.Chem.263:13972−13974を参照のこと。臭気結合タンパク質(OBP)に対する中程度〜高いアフィ
ニティーを有する親油性臭気剤の使用が好ましい。OBPは鼻の分泌液中に見出される親油性低分子に対するアフィニティーを有し、そして、親油性臭気物質および活性な神経学的薬剤の、嗅覚レセプターニューロンへの輸送を増強するためのキャリアとして作用し得る。臭気剤が、OBPによる神経学的薬剤の嗅覚神経上皮への送達をさらに増強するような調製物の中で、リポソームおよびミセルのような親油性添加剤と会合し得ることもまた好ましい。OBPはまた、親油性薬剤と直接結合して、神経学的薬剤の嗅覚神経レセプターへの輸送を増強し得る。
【0138】
OBPに対する高いアフィニティーを有する適切な臭気剤としては、セトラルバ(cetralva)およびシトロネロールのようなテルパノイド(terpanoid)、アミルシンナムアルデヒドおよびヘキシルシンナムアルデヒドのようなアルデヒド、オクチルイソバレラートのようなエステル、CIS−ジャスミンおよびジャスマル(jasmal)のようなジャスミン、ならびにジャコウ89が挙げられる。他の適切な臭気剤薬剤としては、アデリレートシスラーゼおよびグアニレートシスラーゼのような臭気剤感受性酵素を刺激し得る臭気剤薬剤、または嗅覚系内のイオンチャンネルを変更し得、神経学的薬剤の吸収を増強させ得る臭気剤薬剤が挙げられる。
【0139】
この組成物中の他の受容可能な成分としては、等張性を改変する薬学的に受容可能な薬剤(水、塩分、糖類、ポリオール、アミノ酸および緩衝剤を含む)が挙げられるが、これに限定されない。適切な緩衝剤の例としては、リン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸、および他の有機酸またはその塩が挙げられる。代表的に、薬学的に受容可能なキャリアはまた、1つ以上の安定化剤、還元剤、抗酸化剤、および/または抗酸化剤キレート剤を含有する。タンパク質ベースの組成物(特に、治療用組成物)の調製の際の、緩衝液、安定化剤、還元剤、抗酸化剤、およびキレート剤の使用は、当該分野において周知である。Wangら(1980)J.Parent.Drug Assn.34(6):452〜462(1980);Wangら(1988)J.Parent.Sci.and Tech.42:S4〜S26;Lachmanら(1968)Drug and Cosmetic Industry 102(1):36〜38、40および146〜148;ならびにAkers(1988)J.Parent.Sci.and Tech.36(5):222〜228を参照のこと。
【0140】
適切な緩衝剤としては、酢酸塩、アジピン酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、リン酸塩、酒石酸塩、ホウ酸塩、トリ(ヒドロキシメチルアミノメタン)、コハク酸塩、グリシン、ヒスチジン、種々のアミノ酸の塩など、またはこれらの組み合わせが挙げられる。Wang(1980)上述、455頁を参照のこと。適切な塩および等張化剤(isotonicifier)としては、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、スクロース、トレハロースなどが挙げられる。キャリアが液体である場合には、このキャリアは、口、粘膜、または皮膚の流体と低張性または等張性であり、そして4.5〜8.5の範囲内のpHを有することが、好ましい。キャリアが粉末形態である場合には、このキャリアはまた、受容可能な非毒性のpH範囲内であることが好ましい。
【0141】
還元システインの還元を維持する、適切な還元剤としては、0.01%〜0.1%wt/wtのジチオトレイトール(クリランド試薬としても公知のDTT)またはジチオエリトリトール;0.1%〜0.5%(pH2〜3)のアセチルシステインまたはシステイン;ならびに0.1%〜0.5%(pH3.5〜7.0)のチオグリセロールおよびグルタチオンが挙げられる。Akers(1988)上述、225〜226頁を参照のこと。適切な抗酸化剤としては、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、メタ重硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、およびアスコルビン酸が挙げられる。Akers(1988)上述、225頁を参照のこと。微量金属により触媒される還元システインの酸化を防止するために、微量金属をキレートする、適切な
キレート剤としては、クエン酸塩、酒石酸塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(二ナトリウム塩、四ナトリウム塩、およびカルシウム二ナトリウム塩の形態)、ならびにジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が挙げられる。例えば、Wang(1980)上述、457〜458頁および460〜461頁、ならびにAkers(1998)上述、224〜227頁を参照のこと。
【0142】
この組成物は、例えばフェノール、クレゾール、p−アミノ安息香酸、BDSA、ソルビトレート(sorbitrate)、クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウムなどの、1種以上の防腐剤を含有し得る。適切な安定化剤としては、トレロース(threlose)またはグリセロールのような、炭水化物が挙げられる。この組成物は、例えばこの組成物の物理的形態を安定化させるための、1つ以上の微晶性セルロース、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール、スクロース;および例えばこの組成物の化学構造を安定化させるための、1つ以上のグリシン、アルギニン、加水分解されたコラーゲン、またはプロテアーゼインヒビターのような、安定化剤を含有し得る。適切な懸濁剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒアルロン酸、アルギニン酸塩、コンドロイチン硫酸(chonodroitin sulfate)、デキストラン、マルトデキストリン、硫酸デキストランなどが挙げられる。この組成物は、ポリソルベート20、ポリソルベート80、プルロニック、トリオレイン、大豆油、レシチン、スクアレン、ソルビタントレイオレエート(sorbitan treioleate)などが挙げられる。この組成物は、フェニルエチルアルコール、フェノール、クレゾール、塩化ベンザルコニウム、フェノキシエタノール、クロルヘキシジン、チメロサール(thimerosol)などのような抗菌剤を含有し得る。適切な増粘剤としては、マンナン、アラビナン、アルギネート、ヒアルロン酸、デキストロースなどのような天然多糖類;ならびに低分子量のPEGヒドロゲルおよび上述の懸濁剤のような合成多糖類が挙げられる。
【0143】
この組成物は、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、BDSA、コレート、デオキシコレート、ポリソルベート20および80、フシジン酸などのようなアジュバントを含み得、そしてDNA送達の場合は、好ましくは、カチオン性脂質を含み得る。適切な糖としては、グリセロール、トレオース、グルコース、ガラクトース、マンニトール、およびソルビトールが挙げられる。適切なタンパク質は、ヒト血清アルブミンである。
【0144】
好ましい組成物は、以下の1以上を含み得る:可溶性増強添加剤(好ましくは、シクロデキストリン);親水性添加剤(好ましくは、モノサッカリド(succhamide)またはオリゴサッカリド);吸収促進添加剤(好ましくは、コレート、デオキシコレート、フシジン酸またはキトサン);カチオン性界面活性剤(好ましくは、セチルトリメチルアンモニウムブロミド);粘性増強添加剤(好ましくは、投与部位で組成物の滞留時間を促進するための)(好ましくは、カルボキシメチルセルロース、マルトデキストリン、アルギン酸、ヒアルロン酸またはコンドロイチン硫酸塩);あるいは持続放出マトリクス(好ましくは、ポリ無水物、ポリオルソエステル、ヒドロゲル、粒子徐放デポーシステム(好ましくは、ポリラクチドコ−グリコリド(PLG)、デポーフォーム、デンプンミクロスフェアまたはセルロース誘導性口腔システム);脂質ベースのキャリア(好ましくは、エマルジョン、リポソーム、ニオソーム(niosome)またはミセル)。この組成物は、二重層脱安定化添加剤(好ましくは、ホスファチジルエタノールアミン);紡錘性(fusogenic)添加剤(好ましくは、コレステロールヘミスクシネート)を含み得る。
【0145】
舌下投与のための他の好ましい組成物は、例えば、薬剤を舌下に保持するための生体接着剤の使用;舌に適用されるスプレー、塗布剤またはスワブ;舌下での徐溶解性(slow dissolving)の丸剤またはロゼンジの保持、などを含む。経皮投与のため
の他の好ましい組成物は、皮膚上または皮膚中に薬剤を保持するための生体接着剤;皮膚に塗布されるスプレー、塗布剤、化粧品またはスワブ、などを含む。
【0146】
キャリアおよび添加剤のこれらのリストは、決して完全ではなく、そして当業者は、薬学的調製物中に許容される化学物質ならびに局所処方物および経口処方物中に現在許容される化学物質のGRAS(一般に安全とみなされる)リスト、から、賦形剤を選択し得る。
【0147】
本発明の目的のために、薬剤を含む薬学的組成物は、単位投薬量および液剤、懸濁剤またはエマルジョンのような形態で処方され得る。この薬剤は、散剤、顆粒剤、液剤、クリーム剤、スプレー剤(例えば、エアロゾル)、ゲル剤、軟膏剤、注入剤、注射剤、ドロップ剤または持続放出組成物(例えば、ポリマーディスク)として、三叉神経および/または嗅覚ニューロンにより刺激される組織に投与され得る。口腔投与のために、組成物は、従来の様式で処方された錠剤またはロゼンジの形態をとり得る。眼または他の外部組織(例えば、口および皮膚)への投与のために、組成物は、局所的軟膏剤またはクリーム剤として患者の身体の感染部分に塗布され得る。これらの組成物は、軟膏剤(例えば、水溶性軟膏基剤を用いて)で存在し得るか、またはクリーム剤(例えば、水中油クリーム基剤を用いて)で存在し得る。角膜適用のために、薬剤が、生分解性または非分解性の眼用挿入物中で投与され得る。この薬物は、マトリクス侵食によって放出され得るか、またはエチレン−ビニルアセテートポリマー挿入物中のような細孔を通して受動的に送達され得る。他の粘膜投与(例えば、舌下)のために、粉末ディスクが、舌下に配置され得、そして能動的な送達系は、乾燥脂質混合物またはプロリポソーム(pro−liposome)由来のリポソームの調製物中でのように、インサイチュでの緩やかな水和による。
【0148】
投与のための組成物の他の好ましい形態としては、粒子の懸濁剤(例えば、エマルジョン)、リポソーム、薬剤を緩やかに放出する挿入物などが挙げられる。この薬学的組成物の粉末形態または顆粒形態は、溶液および希釈剤、分散剤または界面活性剤と共に組み合わせられ得る。投与のためのさらなる好ましい組成物は、薬剤を投与部位に保持するための生体接着剤;粘膜または上皮に塗布されるスプレー、塗布剤またはスワブ;徐溶解性の丸剤またはロゼンジ、などを含む。この組成物はまた、凍結乾燥粉末形態であり得る。これは、投与前に、液剤、懸濁剤またはエマルジョンに変換され得る。薬剤を有する薬学的組成物は、好ましくは、膜濾過によって滅菌され、そして単位用量または複数回用量の容器(例えば、密封されたバイアルまたはアンプル)で保存される。
【0149】
薬学的組成物を処方するための方法は、一般に、当該分野で公知である。薬学的に受容可能なキャリア、安定化剤および同型物質(isomolyte)の処方および選択の全体の議論は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(第18版;Mack Publishing Company,Eaton,Pennsylvannia,1990)(本明細書中に参考として援用される)に見出され得る。
【0150】
本発明のポリヌクレオチド薬剤はまた、持続放出形態で処方され、処置された哺乳動物中での薬学的に活性な薬剤の存在を延長(一般的に、1日より長い)し得る。持続放出処方物調製の多くの方法は、当該分野で公知であり、そしてRemington’s Pharmaceutical Sciences(第18版;Mack Publishing Company,Eaton,Pennsylvannia,1990)(本明細書中に参考として援用される)に開示される。
【0151】
一般的に、薬剤は、固体の疎水性ポリマーの半透性マトリクスに包理され得る。このマトリクスは、フィルムまたはマイクロカプセルへ形付けられ得る。このようなマトリクス
の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:ポリエステル、L−グルタミン酸とγエチル−L−グルタメートとのコポリマー(Sidmanら(1983)Biopolymers 22:547−556)、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号およびEP58,481)、ポリラクテートポリグリコレート(PLGA)(例えば、ポリラクチド−コ−グリコリド(例えば、米国特許第4,767,628号および同第5,654,008号を参照のこと))、ヒドロゲル(例えば、Langerら(1981)J.Biomed.Mater.Res.15:167−277;Langer(1982)Chem.Tech.12:98−105を参照のこと)、非分解性エチレン−ビニルアセテート(例えば、エチレンビニルアセテートディスクおよびポリ(エチレン−コ−ビニルアセテート))、分解性乳酸−グリコール酸コポリマー(例えば、Lupron DepotTM)、ポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸(EP133,988)、ヒアルロン酸ゲル(例えば、米国特許第4,636,524号を参照のこと)、アルギン酸懸濁液など。
【0152】
適切なマイクロカプセルとしてはまた、コアセルベーション技術によってまたは界面重合化によって調製される、ヒドロキシメチルセルロース−マイクロカプセルまたはゼラチン−マイクロカプセルおよびポリメチルメタクリレートマイクロカプセルが挙げられ得る。「Method for producing Sustained−release
Formulations」という表題の、国際公開番号WO 99/24061、本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。ここでは、薬剤は、PLGAミクロスフェエア中にカプセル化される。さらに、リポソームおよびアルブミンミクロスフェアのような、マイクロエマルジョンまたはコロイド性の薬物送達系もまた、使用され得る。Remington’s Pharmaceutical Sciences(第18版;Mack Publishing Company Co.,Eaton,Pennsylvannia,1990)を参照のこと。他の好ましい持続放出組成物は、投与部位で薬剤を保持するために生体接着剤を使用する。
【0153】
薬学的組成物中の薬剤と組み合わせられ得る任意の物質としては、鼻腔の粘膜または上皮を介するか、あるいはCNS中の損傷された神経細胞への神経経路、リンパ経路または脈管周囲経路に沿った、薬剤の吸収を増強し得る脂溶性物質が挙げられる。この薬剤は、脂溶性アジュバント単独、またはキャリアと組み合わせて混合され得るか、あるいは1つまたはいくつかの型のミセル物質またはリポソーム物質と組み合わせられ得る。以下の1以上の好ましい脂溶性物質がカチオン性リポソームに含まれる:ホスファチジルコリン、リポフェクチン、DOTAP、脂質ペプトイド結合体、合成リン脂質(例えば、ホスファチジルリジン)など。これらのリポソームは、ガングリオシドおよびホスファチジルセリン(PS)のような他の脂溶性物質を含み得る。また、GM−1ガングリオシドおよびホスファチジルセリン(PS)のようなミセル添加剤も好ましく、これらは、単独または組み合わせてのいずれかで、薬剤と組み合わせられ得る。GM−1ガングリオシドは、任意のリポソーム組成物中で1〜10モルパーセントで、またはミセル構造中でより高い量で含まれ得る。タンパク質薬剤は、特定の構造中にカプセル化され得るか、または活性薬剤の疎水性に依存して、その構造の疎水性部分の一部として組み込まれ得るかのいずれかである。好ましいリポソーム処方物は、デポーフォームを用いる。
【0154】
(間欠的投薬)
本発明の別の実施形態において、治療有効用量の薬剤を含む薬学的組成物は、間欠的に投与される。「間欠的投与」によって、治療有効用量の薬剤の投与、それに続く中断期間、次いで、それに続く治療有効用量のさらなる投与(以下同様)が意図される。治療有効用量の投与は、連続的様式で達成され得る(例えば、持続放出処方物と共に)か、または所望の日毎の投薬レジメンに従って達成され得る(例えば、1日あたり1回、2回、3回以上で)。「中断期間」によって、薬剤の連続的な持続的放出投与または日毎の投与の中
断が意図される。この中断期間は、持続的放出投与または日毎の投与の期間より、より長くてもよく、短くてもよい。中断期間の間に、関連する組織の薬剤レベルは、処置の間に得られた最大レベルより、実質的に低い。中断期間の好ましい長さは、使用される薬剤の有効用量の濃度および形態に依存する。中断期間は、少なくとも1日であり得、好ましくは、少なくとも2日であり、より好ましくは、少なくとも1週間であり、そして一般に、1週間の期間を超えない。持続放出処方物が使用される場合、中断期間は、損傷部位での薬剤のより長い滞留時間を考慮して延ばされなければならない。あるいは、この有効用量の持続放出処方物の投与頻度は、従って減少され得る。薬剤の投与の間欠的スケジュールは、所望の治療効果および最終的に疾患または障害の処置が達成されるまで、継続され得る。
【0155】
なお別の実施形態において、治療有効用量の薬剤の間欠的投与は、周期的である。「周期的」によって、約2〜約10の範囲の周期で、投与を中断することによって達成される間欠的投与が意図される。例えば、この投与スケジュールは、有効用量の薬剤の間欠的投与であり得、ここで、短期間の単回用量が2日毎に1回与えられ、その後、1週間の間、間欠的投与を中断し、その後、短期間の単回用量が2週間の間で、1日あたり2回間欠的に投与され、その後、2週間の間、間欠的投与を中断する(以下同様)。
【0156】
本発明は、以下の実施例を参照してより良好に理解され得る。これらの実施例は、本発明の特定の実施形態の例示であることが意図され、そして本発明の範囲を限定するものとしては意図されない。
【0157】
(実験)
本明細書中に提示される実施例はキメラのオリゴヌクレオチドの送達/投与に限定されるが、本発明はこの単独のクラスのポリヌクレオチド薬剤に限定されるように解釈されるべきでない。
【0158】
(緒言)
鼻腔内投与は、IGF−1レセプターに対して相補性なアンチセンスポリヌクレオチド薬剤をCNSに送達するための効果的な手段である。以下の実施例において使用されるキメラアンチセンスオリゴヌクレオチドの構造の詳細な説明については、国際公開番号WO
01/16306A2、および共に表題が「Chimeric Antisense Oligonucleotides and Cell Transfecting Formulations Thereof」である、1999年8月27日に出願された米国特許出願番号第60/151,246号、2000年8月25日に出願された同第09/648,254号(本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。
【0159】
(実施例1:鼻腔内投与による、IGF−1レセプターに対する35S アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)の、CNSへの送達)
(キメラアンチセンスオリゴヌクレオチド)
一般的に、本発明の方法を用いた使用に適切なキメラオリゴヌクレオチドは、以下に示される構造を有する:
5’−W−X−Y−X−Z−3’。
この構造において、Yで示される分子の中央または中心領域は、約5〜12のホスホロチオエートで連結されたデオキシリボヌクレオチドのブロックである。このような配列は、RNAの相補鎖または相補に近い鎖とハイブリダイズされる場合、RNAseHを活性化させることが知られており、従って、標的RNAの切断を促進する。この領域は、XおよびXで示される2つのブロックに隣接し、それぞれが約7〜12個のホスホジエステルで結合された2’−O−メチルリボヌクレオチドサブユニットを有する。これらの領域は、RNAseHを活性化させるのには効果的ではないが、相補的RNA鎖または相補に
近いRNA鎖に結合する高いアフィニティーを提供し、そして一般的に、ホスホロチオエートで連結されたサブユニットと比較して、低減された細胞毒性によって特徴付けられる。
【0160】
このRNAサブユニットの2’−O−メチル置換基の存在は、非置換(例えば、2−ヒドロキシ)のリボース部分の安定性と比較して、安定性の適度な増加を提供する;しかし、このホスホジエステル2’−O−メチルRNAサブユニットは、それにもかかわらず細胞性エンドヌクレアーゼによる攻撃に感受性である。従って、キメラアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)は、必要に応じて、それぞれ5’末端および3’末端に、上記の図示においてWおよびZで示される、保護基を含み得る。保護基は、ホスホジエステル連結によってそれぞれのXブロックに連結され得る。3’保護基のZは、好ましくは、3’と3’で連結されたヌクレオチドであるが、当業者は容易に、この末端がまた他の保護基でブロックされ得ることを認識する。この5’末端は、5’−O−アルキルチミジンサブユニット、好ましくは5’−O−メチルチミジンでブロックされる。
【0161】
35S−AON)
使用される35S標識化アンチセンスオリゴヌクレオチド(35S−AON)は、配列番号1に対応する配列を含むオリゴヌクレオチドのNa塩の形態である。より具体的には、この35S−AONは以下の構造を有する:
【0162】
【化2】

ここで、35S標識の位置を示し、そして(ps)および(po)はそれぞれ、ホスホロチオエート結合およびホスホジエステル結合を表す。この分子の中央部分(例えば、中心領域)は、上に示される一般式において領域Yとして示され、これらは上の図において太字のヌクレオチドで示される。このコア領域は、配列番号1のヌクレオチド9〜17に対応する。上の表示で領域X1に対応する、ホスホジエステルで連結された2’−O−メチルリボヌクレオチドの5’隣接領域は、配列番号1のヌクレオチド1〜8に対応する。上の表示で領域X2に対応する、ホスホジエステルで連結された2’−O−メチルリボヌクレオチドの3’隣接領域は、配列番号1のヌクレオチド18〜25に対応する。配列番号1に示されるアンチセンスオリゴヌクレオチドによって標的化される、特定のIGF−Iレセプター配列は、ヒトインスリン様増殖因子1レセプター(GenBank登録番号X04434 M24599/HSIGFIRRの位置)のヌクレオチド1025〜1049に対応する。特定のIGF−Iレセプター標的配列の同定の後、放射標識されたアンチセンス薬剤としての調製のために、オリゴヌクレオチド配列情報をTriLink Biotechnologies,Inc.に提供した。35S−AONは、当業者に周知の確立された方法論に従い、固体相合成を使用して、TriLink Biotechnologies Inc.によって調製された。放射活性のタグを付けた薬剤の使用は、これが、分子にトレーサーを付加する最低限の侵入(intrusive)手段として受容されるので、インビボの薬理動態学的研究のために好ましい分子である。インビボ研究のために放射標識されたオリゴヌクレオチドの使用に関して重要な考察は、この放射標識が交換不能であることを確認することである。TriLinksは、合成中のオリゴマーへの放射標識の組み込みによるこの関係を論じている。
【0163】
(CNSへの鼻腔内送達)
体重162g(ラット#3)、321g(ラット#8)および336g(ラット#2)の雄性Sprague−Dawleyラットを、ナトリウムペントバルビタール(50m
g/kg)で腹腔内麻酔した。リン酸緩衝化生理食塩水(pH7.4)中に未標識のAONと組み合わせた35S−AONを含む組成物の、鼻腔内投与の後、CNSへのAON送達を評価した。ラットを仰向けに配置して、そして約100マイクロリットルの35S−AONを、20〜30分間の期間に渡って左右の鼻孔の間で2〜3分毎に交互に滴下して、各々の鼻孔に投与する。この薬剤の鼻腔投与の間、鼻の一方および口を閉じたままにさせる。この薬剤の投与方法により、圧力および重力の両方が鼻腔の上部1/3にこの薬剤を送達させ得る。続いて、ラットは35S−AON投与の完了後数分以内に、灌流固定を受けた。脊髄解剖の前に、50〜100mlの生理食塩水、次いで500mlの固定剤(0.1MのSorensonリン酸緩衝液(pH7.4)中に1.25% グルタルアルデヒドおよび1% パラホルムアルデヒドを含む)を用いて、灌流固定を実施し、そして35Sの量を決定した。解剖した領域は、脊髄、嗅球、前頭葉、前方嗅覚細胞核、海馬構成、間脳、髄質、脳橋および小脳を含んだ。
【0164】
(IGF−1レセプターについてのアンチセンスオリゴヌクレオチド(35S−AON)のCNSへの鼻腔内(I.N.)送達のデータ)。
【0165】
ラットAON #3(35S−AON+rhAON)重量=162.2グラム。
【0166】
133.45nmole送達された。
【0167】
麻酔薬:I.P.投与されたペントバルビタール(ネンブタール(Nembutal))ナトリウム(50mg/kg)。
【0168】
I.N.投与時間=30分。
【0169】
【表1】

投与された放射能=52.24μCi。
【0170】
72.38dpmを、オリジナルdpmからバックグラウンドとして減算した。
【0171】
(IGF−1レセプターについてのアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)のCNSへの鼻腔内(I.N.)送達のデータ)
ラットAON #2(35S−AON+rhAON)重量=336.0グラム。
【0172】
68.218nmole送達された。
【0173】
麻酔薬:I.P.投与されたペントバルビタール(ネンブタール)ナトリウム(50mg/kg)。
【0174】
I.N.投与時間=13分。
【0175】
【表2】

放射能=1.0μCi/μl 35S−AON(72.1μCi)。
【0176】
70dpmバックグラウンドを、オリジナルdpmリーディングから減算した。
【0177】
(IGF−1レセプターについてのアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)のCNSへの鼻腔内(I.N.)送達のデータ)
ラットAON #8(35S−AON+rhAON)重量=321.9グラム。
【0178】
133.45nmole送達された。
【0179】
麻酔薬:I.P.投与されたペントバルビタール(ネンブタール)ナトリウム(50m
g/kg)。
【0180】
I.N.投与時間=25分。
【0181】
【表3】

投与された放射能=49.5μCi(1.575nmole/μl;84μlの全量投与した)。
【0182】
70dpmバックグラウンドを、オリジナルdpmから減算した。
【0183】
(実施例2:IGF−1レセプターについてのH AONのCNSへの鼻腔内投与による送達)
H−AONの調製)
使用したH標識化アンチセンスオリゴヌクレオチド(H−AON)は、配列番号1に対応して、以下の構造:
【0184】
【化3】

を有する配列を含むオリゴヌクレオチドのNa塩形態であり、ここで、は、交換不可能なトリチウム標識の位置を示し、そして、(ps)および(po)は、各々、ホスホロチオエート結合およびホスホジエステル結合を示す。分子のコア領域は、35S−AONのコア領域について上記したように、同じ9つのホスホロチオネート結合コアヌクレオチドを含む。35S−AONについて上記したように、このコアヌクレオチド(これは、上
記の表示において太字のヌクレオチドによって示される)は、配列番号1の9〜17のヌクレオチドに対応する;Xは、配列番号1の1〜8のヌクレオチドに対応する;そして、Xは、配列番号1の18〜25のヌクレオチドに対応する。H−AONを、当業者に周知の確立された方法に従って、固相合成を使用して、TriLink Biotechnologies Inc.により調製した。
【0185】
(CNSへの鼻腔内送達)
雄性Sprague−Dawleyラット(重量463.5g)(ラット#1)を、腹腔内ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)を用いて麻酔した。CNSへのAON送達を、リン酸緩衝化生理食塩水(pH7.4)中の非標識AONと組合せたH−AONを含む組成物143nmoleの鼻腔内投与の後に評価した。ラットを引っくり返して、20〜30分間にわたり、右鼻孔と左鼻孔との間で2〜3分ごとに滴量を変更しながら、各鼻孔に約100マイクロリットルの35S−AONを投与した。H−AON投与の完了後、ラットを、引き続いて、数分の間、灌流−固定した。灌流−固定を、50〜100mlの生理的食塩水、その後、骨髄解剖の前に、0.1Mのセーレンソンリン酸緩衝液(pH7.4)中に1.25%のグルタルアルデヒドおよび1%のパラホルムアルデヒドを含む固定液500mlを用いて実施して、H量を決定した。骨髄、嗅球、前頭皮質、前方嗅核、海馬形成、脈絡叢、間脳、髄質、脳橋および小脳を含む領域を解剖した。
【0186】
(IGF−1レセプターについてのアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)のCNSへの鼻腔内(I.N.)送達のデータ)
ラットAON #1重量=463.5グラム。
【0187】
143.75nmole送達された。(23.7nmoleのH−AON、120nmoleのAON)
麻酔薬:I.P.投与されたペントバルビタール(ネンブタール)ナトリウム(50mg/kg)。
【0188】
I.N.投与時間=26分。
【0189】
【表4】

放射能=0.5μCi/μl。
【0190】
30μlのH−AON(15μCi総計)を60μl(120nmole)のAONに添加した。
【0191】
実際投与した混合物の全容量=68μl
オリジナルdpmから減算した19.28dpmのバックグラウンド。
【0192】
(結果)
示されたデータは、明確に、アンチセンスオリゴヌクレオチドが鼻腔投与後30分以内に脳および脊髄に迅速に送達されることを実証する。嗅球および前方嗅核への迅速な送達は、鼻腔の上側1/3から脳への嗅覚神経経路に沿う送達についての証明を提供する。三叉神経、脳橋、中脳、髄質、間脳、小脳および骨髄への迅速な送達は、鼻腔から脳および骨髄への三叉神経経路に沿う送達についての証明を提供する。アンチセンスオリゴヌクレオチドの有意な濃度は、CNS領域の上だけではなく、海馬および尾状核/被殻においても得られる。
【0193】
送達は、[H]アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON#1)および[35S]アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON#1)の両方で実証される。68.2nmoleの送達後に見られた平均嗅球濃度が、133nmoleの送達後の57nM(AON#1)と比較して、27nM(AON#1)であったので、送達は、用量依存的でありそうである。
【0194】
アンチセンスオリゴヌクレオチドのCNSへの非侵襲性送達の実証により、これが、CNSを標的化して、循環系に侵入する薬物の量を減少することで体系的副作用を減少して、そして、BBBを通過しないアンチセンス薬剤の送達を可能にするので、CNS障害の
処置および予防が改善される。
【0195】
本明細書中で試用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、内容が明らかに他を指示しない限り、複数の対象を含むことに注意するべきである。従って、例えば、「化合物(a compound)」を含む組成物の言及は、2つ以上の化合物の混合を含む。
【0196】
本明細書中の全ての出版物および特許出願は、本発明に関する当業者のレベルを示す。全ての出版物および特許出願は、あたかも各個々の出版物または特許出願が、詳細にかつ個々に、その全体が参考として援用されることが示されるような程度で、本明細書中でその全体が参考として援用される。
【0197】
本発明を、様々な特定のかつ好ましい実施形態および技術に関して記載した。しかし、多くのバリエーションおよび改変が、添付の特許請求の範囲の意図および範囲内に留まりながらなされ得ることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヌクレオチド薬剤を哺乳動物の中枢神経系に送達する方法。

【公開番号】特開2009−67805(P2009−67805A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282272(P2008−282272)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【分割の表示】特願2002−583620(P2002−583620)の分割
【原出願日】平成14年4月19日(2002.4.19)
【出願人】(591076811)ノバルティス バクシンズ アンド ダイアグノスティックス,インコーポレーテッド (265)
【Fターム(参考)】