説明

中空ポリマー粒子の製造方法

【課題】本発明の目的は、新規な中空ポリマー粒子の調製方法に関するものである。更に詳しくは重合性ベシクルを水溶性重合開始剤で重合することにより中空のポリマー微粒子を調製する方法を提供するものである。
【解決手段】下記一般式(1)で示される重合性基を有するカチオン界面活性剤、下記一般式(2)で示されるアニオン界面活性剤、および下記一般式(3)で示される架橋剤の三成分を、該カチオン界面活性剤と該アニオン界面活性剤のモル比が3対7から7対3、また該カチオン界面活性剤と該アニオン界面活性剤の総モルを10とした場合の該架橋剤のモル比が1から5の範囲で用いて水溶液中で重合性ベシクルを調製し、更に該重合性ベシクルを水溶性重合開始剤で重合することを特徴とする中空ポリマー粒子の調製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な中空ポリマー粒子の製造方法に関するものである。更に詳しくは重合性ベシクルを水溶性重合開始剤で重合することにより中空のポリマー微粒子を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リン脂質を水に分散することにより、二分子膜から構成されるリポゾームと呼ばれる閉鎖小胞体が形成される。また、リン脂質以外の界面活性剤でこれが形成される場合は、ベシクルと呼ばれる。ベシクルが中空形状などであることから担体として利用したり、膜状に固定して支持体として利用したりする報告がなされているが、ベシクル自体を空気中及び溶媒中で安定的に存在できる粒子として容易に製造する方法についての報告はない。(例えば、特許文献1〜6参照)。
【特許文献1】特許第2796613号公報
【特許文献2】特開平9−278770号公報
【特許文献3】特開平10−76594号公報
【特許文献4】特開2004−75592号公報
【特許文献5】特開2004−130300号公報
【特許文献6】特開2004−323382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、空隙率が高い中空粒子を容易に製造することができる新規な中空ポリマー粒子の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記に鑑み鋭意研究した結果、本発明の中空ポリマー粒子の製造方法を発明するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で示される重合性基を有するカチオン界面活性剤、下記一般式(2)で示されるアニオン界面活性剤、および下記一般式(3)で示される架橋剤の三成分を、該カチオン界面活性剤と該アニオン界面活性剤のモル比が3対7から7対3、また該カチオン界面活性剤と該アニオン界面活性剤の総モルを10とした場合の該架橋剤のモル比が1から5の範囲で用いて水溶液中で重合性ベシクルを調製し、更に該重合性ベシクルを水溶性重合開始剤で重合することを特徴とする中空ポリマー粒子の製造方法である。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
【化3】

【0009】
上記一般式(1)において、mは分子式の繰り返しを示すもので、mは1から3の整数である。また、上記一般式(2)において、nは分子式の繰り返しを示すもので、nは7から11の整数である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の中空ポリマー粒子の製造方法により、容易に空隙率が高い中空粒子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の中空ポリマー粒子の調製方法について、詳細に説明する。本発明の中空ポリマー粒子の製造方法は、下記一般式(1)で示される重合性基を有するカチオン界面活性剤、下記一般式(2)で示されるアニオン界面活性剤、および下記一般式(3)で示される架橋剤の三成分を、該カチオン界面活性剤と該アニオン界面活性剤のモル比が3対7から7対3、また該カチオン界面活性剤と該アニオン界面活性剤の総モルを10とした場合の該架橋剤のモル比が1から5の範囲で用いて水溶液中で重合性ベシクルを調製し、更に該重合性ベシクルを水溶性重合開始剤で重合することを特徴とする中空ポリマー粒子の製造方法である。
【0012】
【化4】

【0013】
【化5】

【0014】
【化6】

【0015】
ここで、mとnは分子式の繰り返しを示すもので、mは1から3の整数であり、nは7から11の整数である。mもnもこの範囲外であるとベシクルの形成が困難となる。
【0016】
該カチオン界面活性剤、該アニオン界面活性剤、および該架橋剤の三成分混合系が水溶液中で安定な重合性ベシクルを形成するには、その混合比率が重要となる。該カチオン界面活性剤と該アニオン界面活性剤のモル比は3対7から7対3の範囲である。また、該カチオン界面活性剤と該アニオン界面活性剤の総モルを10とした場合の該架橋剤のモル比は1から5の範囲である。これらの比率の範囲外では安定的な重合性ベシクルを形成できず、ベシクルとは異なるミセルを形成したり、水層および油層に分離したりしてしまう。
【0017】
該カチオン界面活性剤と該アニオン界面活性剤の総モル濃度は1×10-6から10mol/lが望ましい。
【0018】
該三成分混合系の水溶液に水溶性重合開始剤を加え、重合開始剤に有効な条件下に置くと、容易に重合反応が進む。重合反応が終了すると、中空のポリマー粒子を得ることができる。重合反応の長さは選択する重合開始剤によって異なるが、有効な重合開始剤を使用した場合、10分から1時間程度で安定的なポリマー粒子が得られる。必要に応じて窒素またはアルゴンなどの不活性ガスによる脱気を行っても良い。反応圧力は特に限定されない。
【0019】
調製された中空ポリマー粒子は、水溶液のままでも利用できるが、濾過や乾燥などにより固体として取り出し利用することができる。また、固体化した中空ポリマーを再び溶媒へ分散して利用することもできる。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0021】
(試験例1)
重合性基を有するカチオン界面活性剤であるビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド(VBTAC)5×10-4molを水25mlに溶解した。また、アニオン界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)5×10-4molを水25mlに溶解した。これら二つの溶液を混合し、ボルテックスミキサーにて10秒間攪拌した後、架橋剤であるジビニルベンゼン(DVB)を3×10-4mol加えて更に10秒攪拌した。
【0022】
(試験例2)
重合性基を有するカチオン界面活性剤であるビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド(VBTAC)3×10-4molを水25mlに溶解した。また、アニオン界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)7×10-4molを水25mlに溶解した。これら二つの溶液を混合し、ボルテックスミキサーにて10秒間攪拌した後、架橋剤であるジビニルベンゼン(DVB)を3×10-4mol加えて更に10秒攪拌した。
【0023】
(試験例3)
重合性基を有するカチオン界面活性剤であるビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド(VBTAC)7×10-4molを水25mlに溶解した。また、アニオン界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)3×10-4molを水25mlに溶解した。これら二つの溶液を混合し、ボルテックスミキサーにて10秒間攪拌した後、架橋剤であるジビニルベンゼン(DVB)を3×10-4mol加えて更に10秒攪拌した。
【0024】
(試験例4)
重合性基を有するカチオン界面活性剤であるビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド(VBTAC)5×10-4molを水25mlに溶解した。また、アニオン界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)5×10-4molを水25mlに溶解した。これら二つの溶液を混合し、ボルテックスミキサーにて10秒間攪拌した後、架橋剤であるジビニルベンゼン(DVB)を1×10-4mol加えて更に10秒攪拌した。
【0025】
(試験例5)
重合性基を有するカチオン界面活性剤であるビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド(VBTAC)5×10-4molを水25mlに溶解した。また、アニオン界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)5×10-4molを水25mlに溶解した。これら二つの溶液を混合し、ボルテックスミキサーにて10秒間攪拌した後、架橋剤であるジビニルベンゼン(DVB)を5×10-4mol加えて更に10秒攪拌した。
【0026】
(比較例1)
重合性基を有するカチオン界面活性剤であるビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド(VBTAC)2×10-4molを水25mlに溶解した。また、アニオン界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)8×10-4molを水25mlに溶解した。これら二つの溶液を混合し、ボルテックスミキサーにて10秒間攪拌した後、架橋剤であるジビニルベンゼン(DVB)を3×10-4mol加えて更に10秒攪拌した。
【0027】
(比較例2)
重合性基を有するカチオン界面活性剤であるビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド(VBTAC)8×10-4molを水25mlに溶解した。また、アニオン界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)2×10-4molを水25mlに溶解した。これら二つの溶液を混合し、ボルテックスミキサーにて10秒間攪拌した後、架橋剤であるジビニルベンゼン(DVB)を3×10-4mol加えて更に10秒攪拌した。
【0028】
(比較例3)
重合性基を有するカチオン界面活性剤であるビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド(VBTAC)3×10-4molを水25mlに溶解した。また、アニオン界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)7×10-4molを水25mlに溶解した。これら二つの溶液を混合し、ボルテックスミキサーにて10秒間攪拌した。
【0029】
上記により作製した実施例1、比較例1〜3について、目視、TEM映像、および動的光散乱によるDLS粒度分布測定によって重合性ベシクルの生成を確認した。その結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
(実施例1)
試験例1で得られた重合性ベシクルの溶液に対して、5mol%の濃度になるように水溶性アゾ重合開始剤(2,2′−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素)を加えて、アルゴン脱気下、50℃にて1時間、攪拌した。
【0032】
(実施例2)
試験例2で得られた重合性ベシクルの溶液に対して、5mol%の濃度になるように水溶性アゾ重合開始剤(2,2′−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素)を加えて、アルゴン脱気下、50℃にて1時間、攪拌した。
【0033】
(実施例3)
試験例3で得られた重合性ベシクルの溶液に対して、5mol%の濃度になるように水溶性アゾ重合開始剤(2,2′−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素)を加えて、アルゴン脱気下、50℃にて1時間、攪拌した。
【0034】
(実施例4)
試験例4で得られた重合性ベシクルの溶液に対して、5mol%の濃度になるように水溶性アゾ重合開始剤(2,2′−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素)を加えて、アルゴン脱気下、50℃にて1時間、攪拌した。
【0035】
(実施例5)
試験例5で得られた重合性ベシクルの溶液に対して、5mol%の濃度になるように水溶性アゾ重合開始剤(2,2′−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素)を加えて、アルゴン脱気下、50℃にて1時間、攪拌した。
【0036】
(比較例4)
比較例3で得られたベシクル及びミセルの溶液に対して、5mol%の濃度になるように水溶性アゾ重合開始剤(2,2′−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素)を加えて、アルゴン脱気下、50℃にて1時間、攪拌した。
【0037】
上記により得られた物質について下記に示す評価を実施した。その結果を表2に示す。
【0038】
(重合反応の確認)
重合反応前後の13C−NMRスペクトルを比較して、ビニル基に基づくピーク(δ112.8、δ135.3)が消失していることから重合反応の有無を確認した。
【0039】
(重合したポリマー微粒子の観察)
重合反応後にDLSによる粒度分布測定を行った。また、乾燥した後にSEM写真観察を行い中空形状を維持しているか確認した。
【0040】
(溶媒への再分散性)
乾燥して得られたポリマー微粒子を10質量%の水分散体となるようにボルテックスミキサーによって調製し、水への再分散性を確認した。
【0041】
【表2】

【0042】
比較例1および2はカチオン界面活性剤であるVBTACとアニオン界面活性剤であるSDSとの混合比が適切でない為、中空形状のベシクルを形成することができなかった。また、比較例3についてはDVBを含む三成分系でないため、中空形状のベシクルを形成してもその粒子粒子系は比較的小さく、紐状の粒子も含まれていた。試験例1から5については、重合性ベシクルが生成している。比較例3の生成物を重合しようとした比較例4では有効な重合物は得られなかった。また、実施例1から5においては、試験例1から5で得られた重合性ベシクルが重合反応によって安定なポリマー粒子を形成しており、更に水への再分散性も容易であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
水などの溶媒に容易に分散し、また乾燥しても安定に存在する中空形状のポリマー粒子として、空隙の大きさに起因する、断熱性、光の屈折性、嵩高さを有する素材としての応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される重合性基を有するカチオン界面活性剤、下記一般式(2)で示されるアニオン界面活性剤、および下記一般式(3)で示される架橋剤の三成分を、該カチオン界面活性剤と該アニオン界面活性剤のモル比が3対7から7対3、また該カチオン界面活性剤と該アニオン界面活性剤の総モルを10とした場合の該架橋剤のモル比が1から5の範囲で用いて水溶液中で重合性ベシクルを調製し、更に該重合性ベシクルを水溶性重合開始剤で重合することを特徴とする中空ポリマー粒子の製造方法。
【化1】

【化2】

【化3】

(但し、mとnは分子式の繰り返しを示すもので、mは1から3の整数、nは7から11の整数である。)

【公開番号】特開2006−257300(P2006−257300A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77841(P2005−77841)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】